(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066171
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】中空床版橋の補修型枠及び補修方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240508BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175547
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000161817
【氏名又は名称】ケイコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100221855
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 康造
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳顕
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG02
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】中空床版橋の床版としての機能を回復できる補修として、床版厚を確保して、補修対象範囲を限定し、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものを提供する。
【解決手段】中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4を、円筒型枠3内に内装される補修型枠6にて補修するものであり、床版補修部5は、損傷上部床版51と隣接上部床版52として設定し、該床版補修部は、正規位置の円筒型枠の上端位置31Hまで撤去されて、床版補修部水平面53が形成され、内装部61・61と支持部62からなる鼓形状の中空袋形状の補修型枠は、床版補修部水平面53の円筒型枠の切断開口部32Sから円筒型枠内に内装されて膨張され、円筒型枠と補修型枠との空隙7には充填材8が充填されて、床版補修部水平面上部には、正規の床版厚さのコンクリート9が打設される、中空床版橋の補修型枠及び補修工法である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空床版橋の浮き上がった円筒型枠により床版厚が不足して発生した床版破損部を補修する補修型枠であって、
前記床版損傷部は、前記円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版で、
床版補修部は、前記損傷上部床版及び前記損傷上部床版に隣接する浮き上がりの無い正規位置にある前記円筒型枠の上部に位置する隣接上部床版から構成され、前記床版補修部は、正規位置にある前記円筒型枠の上端位置まで撤去され、その際前記円筒型枠の浮き上り部分は前記上端位置で切断撤去されて、床版補修部水平面を形成されており、
前記補修型枠は、中空袋形状であり、
両端部には、前記円筒型枠の内径と同等な外径からなる内装部が形成され、
中央部には、橋軸方向中央に向って対称に縮径部を有し、前記橋軸方向中央に前記円筒型枠の内径から前記円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上がり高さを減じた外径の最小縮径部を有してなる支持部が形成され、
前記補修型枠の前記各部は、前記円筒型枠内に内装されて、前記床版補修部水平面には、正規の床版厚さのコンクリートが打設されることを特徴とする、中空床版橋の補修型枠。
【請求項2】
前記補修型枠の前記各部は、前記円筒型枠内に内装された際、前記各部外径まで膨張して前記円筒型枠に内接し、前記円筒型枠と前記補修型枠との空隙には、充填材が充填されて前記床版補修部水平面に一致した水平面が形成されることを特徴とする、請求項1に記載の中空床版橋の補修型枠。
【請求項3】
前記補修型枠の前記各部は、ターポリンで形成されたことを特徴とする、請求項2に記載の中空床版橋の補修型枠。
【請求項4】
前記補修型枠の前記支持部には、前記補修型枠を膨張させるための外部空気圧縮機とつながる送気管が形成され、前記外部空気圧縮機により、前記各部は前記各部外径まで膨張することを特徴とする、請求項3に記載の中空床版橋の補修型枠。
【請求項5】
中空床版橋の浮き上がった円筒型枠により床版厚が不足して発生した床版破損部を補修する補修方法であって、
前記床版破損部である前記円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版の事前調査を実施し、前記円筒型枠の前記浮き上り部分の浮き上がり高さと浮き上がり範囲を把握して損傷上部床版を設定し、
床版補修部の範囲を、前記損傷上部床版及び前記損傷上部床版に隣接する正規位置にある前記円筒型枠の上部に位置する隣接上部床版とし、
前記床版補修部の範囲を、正規位置にある前記円筒型枠の上端位置まで撤去し、その際前記円筒型枠の浮き上り部分は前記上端位置で切断撤去して、床版補修部水平面を形成し、
前記補修型枠は、中空袋形状であり、
両端部には、前記円筒型枠の内径と同等な外径からなる内装部が形成され、
中央部には、橋軸方向中央に向って対称に縮径部を有し、前記橋軸方向中央に前記円筒型枠の内径から前記円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上がり高さを減じた外径の最小縮径部を有してなる支持部が形成されており、
前記補修型枠の前記各部を、前記円筒型枠内に内装した後、前記各部外径まで膨張させて前記円筒型枠に内接し、
前記円筒型枠と前記補修型枠との空隙に、充填材が充填されて前記床版補修部水平面に一致した水平面を形成し、
前記床版補修部水平面の上部に、正規の床版厚さのコンクリートを打設することを特徴とする、中空床版橋の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
円筒型枠を上部工型枠の中に固定してコンクリートを打設して橋げたと床版を一体施工した中空床版橋において、円筒型枠の固定が不十分でコンクリートの浮力で円筒型枠が、橋軸方向に沿って鉛直方向上方向に浮き上がり、床版の厚さが不足して床版が陥没する事例が多発している。本発明は、浮き上がった円筒型枠の浮き上がり部分を含む床版を切断撤去し、補修型枠を円筒型枠内に内装し、膨張させて、撤去した部分にコンクリートを打設することにより、当初の床版厚を確保して補修する、中空床版橋の補修に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空床版橋は、中小橋の橋げたと床版の施工を合理化するため、メッキ鋼板製の円筒型枠を上部工型枠の中に固定して、コンクリートを打設して橋げたと床版を一体施工するものである。全国の国道や高速道路で大量に施工されているが、円筒型枠の固定が不十分で、コンクリートの浮力で円筒型枠が浮き上がり、床版の厚さが不足して、通過台数の累加により床版が陥没する事例が多発している。この事例は2005年に円筒型枠の固定方法が改善されてからは見られないとのことであるが、それまでの建設件数が多く、供用後の経過年数も長くなり、道路維持管理上の課題となっている。
【0003】
特許文献1の中空床版1の補強は、中空床版1の中空部内面を長尺の補強材で補強することにより、クラックなどが上面から中空部に貫通することを防止し、床版の上面からの荷重に対する耐久性を上げるものである。中空床版1の底壁2に、底表面3で開口しボイド管10に達する孔4を設け、スペーサ20を、孔4からボイド管10に搬入し、ボイド管10の内面に沿って設置する。続いて、スペーサ20の内側の空間に、硬質塩化ビニール管の外周面に炭素繊維シートを張り付けた、オメガ状補強材30を挿入する。続いて、補強材30の管内部に加熱蒸気を注入し、補強材30を膨張させる。膨張した状態の補強材30は、横断面形状が円形となり、スペーサ20の内側に密着し、スペーサ20もボイド管10の内面に密着した状態となる。最後に、補強材30の外周面の炭素繊維シートと、ボイド管10の内面との、スペーサ20により形成された隙間に、モルタル40を充填する。補強作業は、中空床版の底表面に開口し中空部に達する孔を介して行うことができるため、作業に伴う通行規制が不要である。
【0004】
特許文献2は、ボイド管12を埋め込んだ状態で成形されたコンクリート中空床版10を長手方向の所定範囲に亘って部分的に補修・補強するに際し、予定した施工範囲の端部においてコンクリート中空床版10の中空部14にアルミ風船36を膨張させて成る堰止め部26を形成し、しかる後に予定した施工範囲の中空部14に発泡ポリウレタン24-1、24-2を充填するものである。そして、予定した施工範囲のみに部分的に中空部に発泡ポリウレタンを充填し得て、部分的な補修施工を効率的に行い得て、従って低コスト且つ短時間で施工を終えることができる。
【0005】
特許文献3の中空型枠上に発生した舗装の陥没や穴の補修には、プレキャストコンクリート板32が用いられる。まず、損傷を生じた箇所およびその周囲の舗装、ならびに鉄筋12上のコンクリートを除去し、穴を生じていない箇所の上面にプライマーを塗布し、モルタルを打ち込み、その上にプレキャストコンクリート板32を敷設する。プレキャストコンクリート板32には、格子状の鉄筋12或いはPC鋼材36で補強されると共に両端付近には貫通孔33が設けられ、貫通孔33を利用して治具やアンカーでプレキャストコンクリート板32とコンクリート床版を一体化させる。そのため従来の施工方法で補修を行う場合に比べて施工時間が大幅に短縮できる。さらにプレキャストコンクリート板32の厚さは、必要な耐荷性に合わせて調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-117475号公報
【特許文献2】特開2005-220629号公報
【特許文献3】特開2016-141991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の補修方法は、浮き上がった円筒型枠の上端部分の位置は現状のまま、劣化した床版部分を撤去して、床版厚を厚くする、又は床版厚を薄く高強度のものとする等の補修方法が試行されていた。
【0008】
本発明は、浮き上がった円筒型枠の浮き上がり部分を含む床版を切断撤去し、補修型枠を円筒型枠内に内装及び膨張させて、切断撤去した部分にコンクリートを打設することにより、所定の床版厚を確保して補修する、中空床版橋の補修に関するものである。
【0009】
特許文献1は、中空床版の中空部内面を長尺の補強材で補強することにより、クラックなどが上面から中空部に貫通することを防止し、床版の上面からの荷重に対する耐久性を上げるものである。このため、円筒型枠が浮き上たり、クラックなどが上面から中空部に貫通した床版への採用は困難である。
【0010】
特許文献2は、ボイド管12が埋め込まれたコンクリート中空床版10の長手方向所定範囲に亘って、ボイド管12の中空部14に発泡ポリウレタンを充填して部分的に補修・補強するものである。このため、円筒型枠が浮き上たり、クラックなどが上面から中空部に貫通した床版への採用は困難である。
【0011】
特許文献3は、中空型枠上に発生した舗装の陥没や穴の補修に、プレキャストコンクリート板32が用いられ、陥没や穴を生じていない箇所の上面に固定されるものである。このため、陥没を生じた箇所の上面では、コンクリート厚や舗装厚が薄い場合が多く、床版として必要なコンクリートの厚さが不足するため、高耐荷性で厚さの薄いプレキャストコンクリート板32を使用する必要があり、当初の床版厚に修復することはできない。
【0012】
このような先行技術の問題点等に鑑みて、本発明は、当初の床版としての機能を回復できる補修補強として、
(a)所定の床版厚を確保できるもので、
(b)円筒型枠の浮き上り部分近傍を補修対象範囲とし、
(c)床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないもの、
を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1に係る発明は、中空床版橋の浮き上がった円筒型枠により床版厚が不足して発生した床版破損部を補修する補修型枠であって、前記床版損傷部は、前記円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版で、床版補修部は、前記損傷上部床版及び前記損傷上部床版に隣接する浮き上がりの無い正規位置にある前記円筒型枠の上部に位置する隣接上部床版から構成され、前記床版補修部は、正規位置にある前記円筒型枠の上端位置まで撤去され、その際前記円筒型枠の浮き上り部分は前記上端位置で切断撤去されて、床版補修部水平面を形成されており、前記補修型枠は、中空袋形状であり、両端部には、前記円筒型枠の内径と同等な外径からなる内装部が形成され、中央部には、橋軸方向中央に向って対称に縮径部を有し、前記橋軸方向中央に前記円筒型枠の内径から前記円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上がり高さを減じた外径の最小縮径部を有してなる支持部が形成され、前記補修型枠の前記各部は、前記円筒型枠内に内装されて、前記床版補修部水平面には、正規の床版厚さのコンクリートが打設されることを特徴とする、中空床版橋の補修型枠である。
【0014】
本願請求項2に係る発明は、前記補修型枠の前記各部は、前記円筒型枠内に内装された際、前記各部外径まで膨張して前記円筒型枠に内接し、前記円筒型枠と前記補修型枠との空隙には、充填材が充填されて前記床版補修部水平面に一致した水平面が形成されることを特徴とする、請求項1に記載の中空床版橋の補修型枠である。
【0015】
本願請求項3に係る発明は、前記補修型枠の前記各部は、ターポリンで形成されたことを特徴とする、請求項2に記載の中空床版橋の補修型枠である。
【0016】
本願請求項4に係る発明は、前記補修型枠の前記支持部には、前記補修型枠を膨張させるための外部空気圧縮機とつながる送気管が形成され、前記外部空気圧縮機により、前記各部は前記各部外径まで膨張することを特徴とする、請求項3に記載の中空床版橋の補修型枠である。
【0017】
本願請求項5に係る発明は、中空床版橋の浮き上がった円筒型枠により床版厚が不足して発生した床版破損部を補修する補修方法であって、前記床版破損部である前記円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版の事前調査を実施し、前記円筒型枠の前記浮き上り部分の浮き上がり高さと浮き上がり範囲を把握して損傷上部床版を設定し、床版補修部の範囲を、前記損傷上部床版及び前記損傷上部床版に隣接する正規位置にある前記円筒型枠の上部に位置する隣接上部床版とし、前記床版補修部の範囲を、正規位置にある前記円筒型枠の上端位置まで撤去し、その際前記円筒型枠の浮き上り部分は前記上端位置で切断撤去して、床版補修部水平面を形成し、前記補修型枠は、中空袋形状であり、両端部には、前記円筒型枠の内径と同等な外径からなる内装部が形成され、中央部には、橋軸方向中央に向って対称に縮径部を有し、前記橋軸方向中央に前記円筒型枠の内径から前記円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上がり高さを減じた外径の最小縮径部を有してなる支持部が形成されており、前記補修型枠の前記各部を、前記円筒型枠内に内装した後、前記各部外径まで膨張させて前記円筒型枠に内接し、前記円筒型枠と前記補修型枠との空隙に、充填材が充填されて前記床版補修部水平面に一致した水平面を形成し、前記床版補修部水平面の上部に、正規の床版厚さのコンクリートを打設することを特徴とする、中空床版橋の補修方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、損傷上部床版及び隣接上部床版は、正規位置にある円筒型枠の上端位置まで切断撤去されて床版補修部水平面が形成され、中空袋形状の補修型枠の各部は、円筒型枠内に内装されて床版補修部水平面で支持部を形成し、正規の床版厚さのコンクリートが打設されることにより当初の床版厚を確保できる。また、床版補修部を、円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版及び隣接上部床版とすることで、補修対象範囲を円筒型枠の浮き上り部分近傍に限定している。そして、補修型枠の各部を円筒型枠内に内装することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【0019】
加えて、補修型枠の各部は、各部外径まで膨張して円筒型枠に内接し、円筒型枠と補修型枠との空隙には充填材が充填されることで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【0020】
加えて、補修型枠の各部は、ターポリンで形成されることにより、円筒型枠に容易に内接し、かつ各部外径まで膨張することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【0021】
加えて、補修型枠の支持部には送気管が形成され、外部空気圧縮機により各部外径まで容易に膨張することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【0022】
本発明によれば、床版破損部である円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版の事前調査を実施し、床版補修部の範囲として損傷上部床版及び隣接上部床版までとして、床版補修部水平面を形成し、中空袋形状の補修型枠の各部を円筒型枠内に内装して支持部を形成し、床版補修部水平面の上部に、正規の床版厚さのコンクリートを打設することにより当初の床版厚を確保できる。また、床版補修部を、円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版及び隣接上部床版とすることで、補修対象範囲を円筒型枠の浮き上り部分近傍に限定している。そして、補修型枠の各部を円筒型枠内に内装することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】浮き上がった円筒型枠による床版破損部を発生した中空床版橋の斜視図である。
【
図2】浮き上がった円筒型枠による床版破損部の断面図である。(a)は橋軸方向断面図、(b)は橋軸直角方向断面図である。
【
図3】正規位置にある円筒型枠の上端位置まで上部床版が撤去され、床版補修部水平面が形成された図である。(a)は橋軸方向の床版補修部の断面図、(b)は橋軸直角方向の隣接上部床版の断面図、(c)は橋軸直角方向の損傷上部床版の断面図である。
【
図4】両端部には内装部を、中央部には縮径部を有する支持部を、形成した中空袋形状の補修型枠の斜視図である。
【
図5】床版補修部水平面から、補修型枠の内装部及び支持部が、円筒型枠内に内装されて内接し、円筒型枠と支持部との空隙に充填材が充填された図である。(a)は橋軸方向の床版補修部に補修型枠が内装された断面図、(b)は橋軸直角方向の隣接上部床版に補修型枠の内装部が内装された断面図、(c)は橋軸直角方向の損傷上部床版に補修型枠の支持部が内装された断面図である。
【
図6】床版補修部水平面に、正規の床版厚さのコンクリートが打設された図である。(a)は橋軸方向の床版補修部にコンクリートが打設された断面図、(b)は橋軸直角方向の隣接上部床版にコンクリートが打設された断面図、(c)は橋軸直角方向の損傷上部床版にコンクリートが打設された断面図である。
【
図7】補修型枠の施工手順図である。(a)事前調査により、床版損傷部を含む床版補修部の範囲を決定し、(b)床版補修部を撤去し、床版補修部水平面を形成、(c)補修型枠を円筒型枠内に内装し、円筒型枠と補修型枠との空隙に充填材を充填、(d)床版補修部水平面に、コンクリートを打設する、各手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照する等して説明する。本発明は、円筒型枠を床版と一体施工した中空床版橋において、浮き上がった円筒型枠による床版破損部を補修する、補修型枠及び補修工法の実施形態に関するものである。
【0025】
<用語の定義>
橋軸方向:橋の道路進行方向を橋軸とする方向で、Y軸で表示。
橋軸直角方向:橋の道路横断方向を橋軸直角とする方向で、X軸で表示。
鉛直方向:橋の道路面上下方向を鉛直とする方向で、Z軸で表示し、Z軸の上方向が正、下方向が負である。
円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上り高さ:正規位置にある円筒型枠の上端位置31Hから、浮き上がった円筒型枠32の円筒型枠の浮き上り部分上端位置32HPとの、鉛直方向の差32PS。
水平面:X軸とY軸で形成される面に平行な面。
【0026】
図1は、浮き上がった円筒型枠による床版破損部を発生した中空床版橋の斜視図であり、
図2は、実施形態に係る床版破損部の断面図であり、
図3は、上部床版が撤去された床版補修部水平面の断面図、
図4は、中空袋形状の補修型枠の斜視図、
図5は、補修型枠が円筒型枠内に内装されて空隙に充填材が充填された断面図、
図6は、床版補修部水平面に正規の床版厚さのコンクリートが打設された断面図、
図7は、補修型枠による補修工法の施工手順図、である。
【0027】
図1に示す中空床版橋1は、橋軸方向に円筒型枠3を上部工型枠の中に固定してコンクリートを打設して橋げたと床版を一体施工したものである。しかしながら、円筒型枠3の固定が不十分でコンクリートの浮力で正規位置の円筒型枠31が、橋軸方向に沿って鉛直方向上方向に浮き上がり、浮き上がった円筒型枠32により床版の厚さが不足する。その結果、床版に交通荷重による亀裂が発生し、さらに亀裂への雨水等の侵入による床版劣化を生じ、床版損傷部4を発生したことを示す斜視図である。当該斜視図に示されるように、床版損傷部4は、コンクリートの浮力で円筒型枠が橋軸方向に沿って鉛直方向上方向に浮き上がり床版の厚さが不足したことによるため、橋軸方向に沿った浮き上がった範囲でかつ浮き上がった鉛直方向の範囲が主体であり、橋軸直角方向の範囲は円筒型枠の直上部の幅とする。座標軸は、X軸が橋軸直角方向、Y軸が橋軸方向、及びZ軸が鉛直方向を示す。
【0028】
床版破損部4の補修に際し、床版厚が不足して発生した床版破損部4のある損傷上部床版51の事前調査を実施し、円筒型枠3の上端位置である被り厚さの計測を実施する。
図2(a)、(b)に示すように、正規位置にある円筒型枠31の上端部は、上端位置31Hである。事前調査は、公知の地中探査レーダ等を使用して実施される。より詳細なデータが必要な場合は、コアーサンプリング調査を実施する。計測した円筒型枠3の上端位置である被り厚さから、円筒型枠の浮き上り部分32Pの形状及び浮き上り部分上端位置32PHが求められる(
図2(a)、(b)参照)。そして、円筒型枠の浮き上り部分の鉛直方向の最大浮き上り高さ32PSと橋軸方向の浮き上がり範囲32Lを把握する。次に、円筒型枠の浮き上り部分32Pの浮き上がり範囲32Lの上部に位置する損傷上部床版51を設定し、損傷上部床版51の補修範囲51L(=32L)とする。また、損傷上部床版51の境界から、一例として円筒型枠3の外径3D1に相当する範囲の、浮き上がりの無い正規位置にある円筒型枠31の上部に位置する上部床版21を隣接上部床版52として設定し、隣接上部床版52の補修範囲52Lとする。そして、床版補修部5は、損傷上部床版51及び隣接上部床版52とし、床版補修部の範囲5Lは、損傷上部床版の補修範囲51Lと隣接上部床版の補修範囲52Lとを合わせた範囲とする。床板補修部5の橋軸直角方向の範囲は、円筒型枠31・32の直上部の幅とする。
上記のように、円筒型枠の浮き上り部分近傍だけを補修対象範囲とする。
【0029】
図3(a)は、床版補修部の範囲5Lの損傷上部床版51及び隣接上部床版52を、正規位置にある円筒型枠の上端位置31Hまで、公知のコンクリートのはつり方法又は切断方法等で撤去した橋軸方向の床版補修部5の断面図である。撤去に際し、円筒型枠の浮き上り部分32Pは、正規位置にある円筒型枠の上端位置31Hで、公知の切断手段等を使用して切断撤去され、円筒型枠の浮き上り部分の切断開口部32Sが形成される。そして、円筒型枠の上端位置31Hで床版補修部水平面53が形成される。橋軸直角方向の切断撤去された損傷上部床版51の断面図である
図3(c)を参照。
上記のようにすることで、所定の床版厚を確保できる。
【0030】
図4は、中空袋形状の補修型枠6の斜視図である。補修型枠6は、折りたたんだ形状から膨張可能な中空袋形状(以下、袋状という)である。補修型枠6の両端部には内装部61・61を有し、該両端部の端面は袋状に閉塞されている。内装部61の外径61Dは、円筒型枠3内に内装可能なように円筒型枠3の内径と同等な外径となっている。また、円筒型枠3の内径と同等な外径として、内装部61が外径61Dまでの膨張により、円筒型枠3の内径に内接して安定して固定される、円筒型枠3の内径より若干大きな外径でも良い。内装部61の橋軸方向長さ6L1は、一例として外径61Dの2倍とする。内装部61の橋軸方向長さ6L1が内装される円筒型枠は、損傷を受けていない正規位置の円筒型枠31である。このため、内装部61は外径61Dまでの膨張により、円筒型枠3の内径に内接して安定して固定される。当該安定した固定が、補修型枠6の両端部の内装部61・61で行われることにより、補修型枠6は確実に両端部で、正規位置の円筒型枠31に固定される。
【0031】
補修型枠6の中央部分には、内装部61・61に中空が連通した支持部62を有している。支持部62の橋軸方向長さ6L2は、円筒型枠の浮き上り部分の浮き上り範囲32Lとする。支持部62は、橋軸方向両側の内装部61・61から、橋軸方向中央に向って対称に縮径部620を形成し、中央には最小縮径部621を有する、いわゆる鼓状の形状に形成されている。そして、支持部62を構成する左右対称な縮径部620は、浮き上り部分32Pを切断撤去された円筒型枠32に内装可能となっており、後述する床版補修部水平面53に打設されるコンクリート9を支持するものである。最小縮径部621の外径は、損傷上部床版51の円筒型枠3の被り厚さの計測を実施して、計測した円筒型枠3の被り厚さから、円筒型枠の浮き上り部分32Pの最大浮き上がり高さ32PSを把握して決定される。そして、円筒型枠の内径3D2から円筒型枠の最大浮き上がり高さ32PSを減じたものを、最小縮径部外径621Dとする。
図5(a)、(b)、(c)を参照。
両端部の内装部61・61から橋軸方向中央に向って対称に支持部62の縮径部620を形成することで、円筒型枠の上端位置31Hで形成された床版補修部水平面53に収まるように円筒型枠32内に内装され、所定の床版厚を確保した後述するコンクリート9を支持することができる。
【0032】
補修型枠6の支持部62には、袋状の補修型枠6を膨張させるための外部空気圧縮機とつながる送気管(図示省略)が形成されている。送気管は後述するコンクリート9に埋め込まれ、コンクリート9が硬化後に送気管の外部突出部(図示省略)が切断撤去される。なお、補修型枠6は円筒型枠31・32内に存置される。
【0033】
補修型枠6の材質には、袋状の外径が縮小して折りたたんだ状態から所定外径まで容易に膨張する、一例としてターポリン(塩化ビニール系多層材)が使用される。
上記の補修型枠6を使用することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなる。
【0034】
図5(a)は、補修型枠6の内装部61・61及び支持部62が、円筒型枠31・32内に内装され内接した状態を示している。補修型枠6は、袋状の外径が縮小した状態で、円筒型枠の浮き上り部分32Pに床版補修部水平面53により形成された、円筒型枠の浮き上り部分の切断開口部32Sから、円筒型枠3内に内装される。その後、膨張可能な中空形状の支持部62に形成された送気管(図示省略)を使用して、送気管に接続されている外部空気圧縮機の圧縮空気により、袋状の補修型枠6を各部の所定外径に膨張されて、円筒型枠31・32内に内接される。なお、補修型枠6を膨張させる手段は、圧縮空気に限定されず、公知の手段から適宜選択できる。
【0035】
図5(c)は、橋軸直角方向X断面の損傷上部床版51において、浮き上り部分32Pを切断撤去された円筒型枠32(内径3D2)内に、袋状の補修型枠6の支持部62の最小縮径部621(外径621D=3D2-32PS)が内装された断面図である。円筒型枠32の内径3D2と、支持部の最小縮径部621を含む縮径部の外径との空隙7には、充填材8が充填されて、床版補修部水平面53に一致した充填材8の水平面8Pが形成される。充填材8としては、一例として軽量充填材であるエアーミルク等が使用される。
円筒型枠32と補修型枠6との空隙7には充填材8が充填されことで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
【0036】
図6は、床版補修部水平面53に、正規の床版厚さのコンクリート9が打設された図である。補修型枠6は円筒型枠31・32内に存置され、支持部62によりコンクリート9が支持されている。コンクリートには、一例として超早強セメントが使用される。送気管はコンクリート9に埋め込まれ、コンクリート9が硬化後に外部突出部(図示省略)が切断撤去される。充填材8の水平面8Pが形成された床版補修部水平面53上面の床版補修部5には、正規の床版厚さのコンクリート9が打設され、中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4の補修が完了する。
中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4を補修する袋状の補修型枠6を使用することで、所定の床版厚を確保でき、円筒型枠の浮き上り部分近傍を補修対象範囲として、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなっている。
補修型枠6のようないわゆる鼓状の縮径部を持たない均一径(円筒型枠の内径と同一)の補修型枠では、円筒型枠に内装して膨張させた場合には床版補修部水平面から浮き上がった円筒型枠と同様の浮き上がりを示し所定の床板厚を確保することができない。これを避けるため膨張の程度を下げ補修型枠が床版補修部水平面以下となるようにすると補修型枠の両端部が円筒型枠の内側に密着することができず打設したコンクリートが補修型枠外の円筒型枠内に漏洩することになる。
【0037】
図7(a)、(b)、(c)、(d)は、中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4を、袋状の補修型枠6で補修する補修工法の施工手順を示すものである。
【0038】
図7(a)は、事前調査による浮き上がった円筒型枠32の変位形状から、床版損傷部4の床版補修部5の範囲5Lを決定したものである。始めに床版破損部4である円筒型枠の浮き上り部分32Pの上部に位置する損傷上部床版51の事前調査を実施する。次に円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上がり高さ32PSと浮き上がり範囲32Lを把握して、損傷上部床版51を設定する。そして、床版補修部5の範囲として、損傷上部床版51及び損傷上部床版51に隣接する正規位置にある円筒型枠31の上部に位置する隣接上部床版52としたものである。
上記のように、円筒型枠の浮き上り部分近傍だけを補修対象範囲とする。
【0039】
図7(b)は、床版補修部の範囲5Lである、損傷上部床版51及び隣接上部床版52を、正規位置にある円筒型枠31の上端位置31Hまで撤去し、床版補修部水平面53及び円筒型枠の浮き上り部分の切断開口部32Sを形成したものである。
上記のようにすることで、所定の床版厚を確保できる。
【0040】
図7(c)は、内装部61と支持部62が形成されている補修型枠6を、円筒型枠の浮き上り部分の切断開口部32Sから、円筒型枠31・32内に内装したものである。袋状の補修型枠6の各部を、円筒型枠31・32内に内装後、支持部62に形成されている外部空気圧縮機とつながる送気管(図示省略)より、各部の所定外径まで圧縮空気により膨張させる。そして、円筒型枠31・32と補修型枠6との空隙7には、充填材8が充填される。
図5(c)を参照。
上記の補修型枠6を使用することで、床版復旧作業が短期間で、交通規制が少ないものとなる。
【0041】
図7(d)は、床版補修部水平面53に、コンクリート9を打設したものである。送気管はコンクリート9に埋め込まれ、コンクリート9が硬化後に外部突出部(図示省略)が切断撤去される。そして、中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4の補修が完了する。
中空床版橋1の浮き上がった円筒型枠32による床版破損部4を補修する補修工法により、所定の床版厚を確保し、円筒型枠の浮き上り部分32P近傍を補修対象範囲として、床版復旧作業が短期間で、交通規制を少なく実施できる。
【符号の説明】
【0042】
1 中空床版橋
X 橋軸直角方向
Y 橋軸方向
Z 鉛直方向
2 床版
21 上部床版
22 下部床版
3 円筒型枠
3D1 円筒型枠外径
3D2 円筒型枠内径
31 正規位置の円筒型枠
31H 正規位置にある円筒型枠の上端位置
32 浮き上がった円筒型枠
32P 円筒型枠の浮き上り部分
32PH 円筒型枠の浮き上り部分上端位置
32PS 円筒型枠の浮き上り部分の最大浮き上り高さ
32L 円筒型枠の浮き上り部分の浮き上り範囲
32S 円筒型枠の浮き上り部分の切断開口部
4 床版損傷部
5 床版補修部
5L 床版補修部の範囲
51 円筒型枠の浮き上り部分の上部に位置する損傷上部床版
51L 損傷上部床版の補修範囲(=32L)
52 損傷上部床版に隣接する正規位置の円筒型枠上部に位置する隣接上部床版
52L 隣接上部床版の補修範囲
53 床版補修部水平面
6 補修型枠
61 正規位置の円筒型枠に内装される内装部
61D 内装部外径
62 浮き上がった円筒型枠に内装される支持部
620 支持部の縮径部
621 支持部の最小縮径部
621D 支持部の最小縮径部外径
6L1 内装部の橋軸方向長さ
6L2 支持部の橋軸方向長さ
7 空隙
8 充填材
8P 床版補修部水平面に一致した水平面
9 コンクリート