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  • 特開-流動浸漬装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066178
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】流動浸漬装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/09 20060101AFI20240508BHJP
   B05C 19/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B05C3/09
B05C19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175574
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】592001403
【氏名又は名称】株式会社IEC
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】弁理士法人石黒国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕行
(72)【発明者】
【氏名】坂内 康明
【テーマコード(参考)】
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
4F040AA01
4F040AA12
4F040AA13
4F040AB15
4F040BA42
4F040CC03
4F042AA06
4F042AA09
4F042AB03
4F042CA01
4F042EC02
4F042EC05
(57)【要約】
【課題】流動浸漬装置1に関し、煩雑なデータ収集を要することなく、塗装境界のばらつきを抑制する。
【解決手段】装置1は、次の動作体7を備える。すなわち、動作体7は、流動層4に浸かり、多孔壁3の上側表面3aを掃くように駆動される。そして、装置1は、動作体7を駆動しながら、ワーク2を、一部が空中に露出するように流動層4に浸漬させて塗装する。これにより、流動層4の上面4aではじける泡を小さくすることができるので、上面4aの変動を低減して塗装境界のばらつきを抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を貯留する貯留空間を有し、この貯留空間の底側を、多孔質の材料からなる多孔壁により区画される貯留容器と、
前記多孔壁から気体を上向きに噴出することにより、前記貯留空間に粉体塗料の流動層を形成する流動手段とを備え、
被塗物としてのワークを前記流動層に浸漬させて塗装する流動浸漬装置において、
前記流動層に浸かり、前記多孔壁の上側表面を掃くように駆動される動作体を備え、
この動作体を駆動しながら、前記ワークを、一部が空中に露出するように前記流動層に浸漬させて塗装する流動浸漬装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流動浸漬装置において、
前記動作体が取り付けられ、前記多孔壁の上側表面に垂直な軸を中心軸として回転駆動される被駆動体を備え、
前記動作体は、前記中心軸の周囲を回転することで、前記多孔壁の上側表面を掃くことを特徴とする流動浸漬装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流動浸漬装置において、
前記被駆動体は円環状に設けられており、
前記動作体は、前記被駆動体の内周側かつ下側に伸びるように取り付けられて前記流動層に浸かることを特徴とする流動浸漬装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流動浸漬装置において、
前記貯留空間は円筒形であり、
前記動作体は、前記多孔壁の上側表面と対向する対向部と、この対向部から、前記貯留空間を形成する内周面に沿って上側に伸びる沿壁部とを有し、
前記ワークは、前記対向部および前記沿壁部が回転することにより形成される回転体の内周に、上側から差し入れられて前記流動層に浸かることを特徴とする流動浸漬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流動浸漬法により、被塗物としてのワークを塗装する流動浸漬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質の材料からなる多孔壁から上向きに気体を噴出することにより粉体塗料の流動層を形成するとともに、予熱したワークを粉体塗料の流動層に浸漬させて塗装する流動浸漬法が公知であり、例えば、自動車用モータのロータやステータの塗装に用いられている。
【0003】
また、このような用途では、ワーク表面において特定の境界線の一方側のみを塗装する要請がある(以下、上記の境界線を塗装境界と呼ぶことがある。)。そして、塗装境界を設けるには、ワークの一部が空中に露出するようにワークを流動層に浸漬させ、流動層上面、つまり、固気界面よりも下側に浸かった部分を塗装する方法が考えられる。
しかし、流動層上面は、気体の泡がはじけることにより、常に変動している。このため、単純に、ワークの一部が空中に露出するようにワークを流動層に浸漬させても、ワークごとの塗装境界の位置のばらつきが大きくなってしまう。
【0004】
そこで、このようなばらつきを低減するため、様々な方法が考えられている(例えば、特許文献1、2参照。)。
まず、特許文献1によれば、流動浸漬装置に、流動層を振動させる振動機構を装備する。そして、流動層を形成する粉体の粒径を推定するとともに、推定した粒径に基づき、振動機構から流動層に与える振動の振動数を求め、求めた振動数で流動層を振動させる。これにより、流動層上面の変動を抑制することができる、としている。
【0005】
また、特許文献2によれば、流動浸漬装置に、次のような内筒を装備する。すなわち、この内筒は、自身の内周の固気界面が流動層上面から上側に持ち上がるように保持され、この内筒の上側開口から粉体をオーバーフローさせる。これにより、上側開口には、流動層上面よりも変動が抑制された固気界面を形成できる、としている。
【0006】
しかし、特許文献1の流動浸漬装置によれば、粉体の粒径ごとに、流動層上面が安定する振動数を測定してデータを収集する必要があり、このようなデータ収集を、粉体の種類、流動層を形成する内壁の形状など様々な要素ごとに行う必要がある。
また、特許文献2の流動浸漬装置によれば、内筒の上側開口に形成される固気界面は、流動層上面から持ち上がるほど、変動が抑制される。
【0007】
しかし、持ち上がるほど流動状態が悪くなると考えられるので、内筒の内周に向かって、より積極的に気体が噴出しやすくなる仕掛けを設ける必要がある。また、このような仕掛けを導入することにより、内筒の内周における固気界面の変動が大きくなってしまうので、実質的に塗装境界のばらつき抑制効果を得ることは難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-084514号公報
【特許文献2】特開2019-093338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本開示は、流動浸漬装置に関し、煩雑なデータ収集を要することなく、塗装境界のばらつきを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の流動浸漬装置は、以下の貯留容器と流動手段とを備える。
まず、貯留容器は、粉体塗料を貯留する貯留空間を有し、貯留空間の底側を、多孔質の材料からなる多孔壁により区画される。次に、流動手段は、多孔壁から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間に粉体塗料の流動層を形成する。そして、流動浸漬装置は、被塗物としてのワークを流動層に浸漬させて塗装する。
【0011】
また、流動浸漬装置は、次の動作体を備える。すなわち、動作体は、流動層に浸かり、多孔壁の上側表面を掃くように駆動される。そして、流動浸漬装置は、動作体を駆動しながら、ワークを、一部が空中に露出するように流動層に浸漬させて塗装する。
以上により、本開示の流動浸漬装置によれば、煩雑なデータ収集を要することなく、塗装境界のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】流動浸漬装置の全体構成を示す説明図である。
図2】流動浸漬装置の平面図である。
図3】動作体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明する。なお、実施例は具体例を開示するものであり、本願発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例0014】
〔実施例の構成〕
実施例の流動浸漬装置1を、図面を用いて説明する(以下、流動浸漬装置1を装置1と略して呼ぶことがある。)。
まず、装置1は、被塗物としてのワーク2を流動浸漬法により塗装するために用いられるものである。すなわち、装置1では、多孔質の材料からなる多孔壁3から上向きに気体を噴出することにより粉体塗料の流動層4を形成するとともに、予熱したワーク2を流動層4に浸漬させて塗装する。また、ワーク2は、例えば、自動車用モータのロータやステータである。
以下、装置1を詳述する。
【0015】
装置1は、以下の貯留容器5、流動手段6、動作体7、被駆動体8を備える。
まず、貯留容器5は、粉体塗料を貯留する貯留空間5aを有し、貯留空間5aの底側を多孔壁3により区画される(以下、貯留容器5をタンク5と呼ぶことがある。)。ここで、タンク5は、円筒形の内周空間を有する筒状部5b、および、筒状部5bの下端に設けられるフランジ部5cを有し、筒状部5bの内周空間が貯留空間5aをなす。
【0016】
有底容器9は、筒状部5bの内周空間と同径の円筒状の内周空間を有し、上端にフランジ部9aを有する。そして、フランジ部5c、9a同士により多孔壁3を挟んで所定の締結具10を締め付けることで、タンク5と有底容器9とが多孔壁3を挟んで強固に締結される。
また、多孔壁3は、多孔板や、グラスウールの織布等で設けられており、粉体塗料を下側に通過させずに気体を上下に通過させることができるものであり、粉体塗料の質量によって弛まないように支持されている。
【0017】
これにより、多孔壁3と有底容器9とにより形成される空間は主に気体が流動する気体室11を形成する。
なお、筒状部5bの内周空間と有底容器9の内周空間とは同軸に配置されており、多孔壁3の上側、下側表面は、それぞれ貯留空間5a、気体室11に対して円形の露出面をなす(以下、多孔壁3の上側表面を上側表面3aと呼ぶことがある。)。
【0018】
次に、流動手段6は、多孔壁3から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間5aに粉体塗料の流動層4を形成し、装置1は、予熱したワーク2を流動層4に浸漬させて塗装する。
具体的には、流動手段6は、エアコンプレッサ、エアフィルタおよびバルブ等から構成される周知の空気供給部6a、空気供給部6aと気体室11とを接続する配管6b、ならびに、上記の気体室11等からなる。
【0019】
次に、動作体7は、流動層4に浸かり、多孔壁3の上側表面3aを掃くように駆動される。そして、装置1は、動作体7を駆動しながら、ワーク2を、一部が空中に露出するように流動層4に浸漬させて塗装する。
さらに、被駆動体8は、動作体7が取り付けられ、多孔壁3の上側表面3aに垂直な軸を中心軸αとして回転駆動される(以下、被駆動体8を回転台8と呼ぶことがある。)。そして、動作体7は、中心軸αの周囲を回転することで、多孔壁3の上側表面3aを掃く。また、回転台8は円環状に設けられており、動作体7は、回転台8の下側かつ内周側に伸びるように取り付けられて流動層4に浸かる。
【0020】
以下、動作体7および回転台8について詳述する。
まず、動作体7は、次の対向部7aおよび沿壁部7bを有する。すなわち、対向部7aは、多孔壁3の上側表面3aと対向する部分であり、沿壁部7bは、対向部7aから、筒状部5bの内周面に沿って上側に伸びる。そして、ワーク2は、対向部7aおよび沿壁部7bが回転することにより形成される回転体の内周に、上側から差し入れられて流動層4に浸かる。なお、沿壁部7bの上端には、回転台8にねじ締結される締結片7cが設けられている。
【0021】
より具体的には、動作体7の内、対向部7aおよび沿壁部7bは、例えば、面一の金属板からなり、面に垂直に見たときにL字形に視え、さらに、上方から視たときに、対向部7aおよび沿壁部7bの面方向は径方向を指向している。また、対向部7aの下端縁、沿壁部7bの外周縁は、それぞれ、多孔壁3の上側表面3a、筒状部5bの内周面との間に所定のクリアランスを形成している。
【0022】
そして、対向部7aおよび沿壁部7bが回転することにより形成される回転体の内周は、円筒形になる。さらに、対向部7aの長さは、筒状部5bの内周空間の半径、つまり、上側表面3aの半径よりも僅かに長い。さらに、回転台8の回転の中心軸αは、筒状部5bの内周空間、および、有底容器9の内周空間の中心軸に略一致している。
【0023】
また、回転台8は、締結片7cがねじ締結される台部8aと、駆動ベルト8bが架け渡されるプーリー8cとを有し、回転台8の外周側に配置された駆動部12により、駆動ベルト8bを介して回転駆動される。
ここで、台部8aの下端とタンク5の上端との間には、軸受け13が設けられており、回転台8はタンク5により回転自在に支持されている。
【0024】
また、駆動部12は、駆動ベルト8bが架け渡されるプーリー12a、および、プーリー12aを回転駆動するモータ12b等により構成されている。また、軸受け13は、台部8aの下端、タンク5の上端、それぞれに、中心軸αを包囲するように円周状の溝を設けて球体を配置し、この球体の周方向への移動を規制するように溝の形状を設定したものである。さらに、台部8aには、締結片7cとの締結に利用することができるねじ穴8dが、複数、等角度間隔で設けられている。
【0025】
〔実施例の動作〕
実施例の装置1の動作を説明する。
タンク5に粉体塗料を貯留した状態で空気供給部6aを動作させて粉体塗料の流動層4を形成する。この状態で駆動部12を動作させて回転台8および動作体7を回転させる。その後、対向部7aおよび沿壁部7bが回転することにより形成される回転体の内周の流動層4に、予熱したワーク2を降下させてワーク2の一部が空中に露出するように浸漬させる。
【0026】
〔実施例の効果〕
実施例の装置1は、以下のタンク5と流動手段6とを備える。
まず、タンク5は、粉体塗料を貯留する貯留空間5aを有し、貯留空間5aの底側を多孔壁3により区画される。次に、流動手段6は、多孔壁3から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間5aに粉体塗料の流動層4を形成する。そして、装置1は、ワーク2を流動層4に浸漬させて塗装する。
【0027】
また、装置1は、次の動作体7を備える。すなわち、動作体7は、流動層4に浸かり、多孔壁3の上側表面3aを掃くように駆動される。そして、装置1は、動作体7を駆動しながら、ワーク2を、一部が空中に露出するように流動層4に浸漬させて塗装する。
これにより、実施例の装置1によれば、煩雑なデータ収集を要することなく、流動層4の上面4aの変動を低減して塗装境界のばらつきを抑制することができる。
【0028】
ここで、上面4aの変動を低減できる理由は定かではないが、以下のように推定する。すなわち、上面4aは、気体の泡がはじけることにより変動する。上面4aにおいて泡がはじけることに対し、装置1では、動作体7により多孔壁3の上側表面3aを掃くことで泡を微細にしたり、泡同士の合体による泡の巨大化を抑制したりすることができる、と考える。この結果、上面4aではじける泡を小さくすることができるので、上面4aの変動を低減して塗装境界のばらつきを抑制することができる。
【0029】
また、装置1は、次の回転台8を備える。すなわち、回転台8は、動作体7が取り付けられ、多孔壁3の上側表面3aに垂直な軸を中心軸αとして回転駆動される。そして、動作体7は、中心軸αの周囲を回転することで、多孔壁3の上側表面3aを掃く。
これにより、動作体7の回転により多孔壁3の上側表面3aを掃くことができる。
【0030】
また、回転台8は円環状に設けられており、動作体7は、回転台8の下側かつ内周側に伸びるように取り付けられて流動層4に浸かる。
これにより、回転台8を回転駆動して動作体7により多孔壁3の上側表面3aを掃きながら、回転台8の内周側かつ下側の領域に、ワーク2を上側から浸漬させることができる。
【0031】
さらに、貯留空間5aは円筒形であり、動作体7は、次の対向部7aおよび沿壁部7bを有する。すなわち、対向部7aは、多孔壁3の上側表面3aと対向する部分であり、沿壁部7bは、対向部7aから、貯留空間5aを形成する内周面に沿って上側に伸びる部分である。そして、ワーク2は、対向部7aおよび沿壁部7bが回転することにより形成される回転体の内周に、上側から差し入れられて流動層4に浸かる。
これにより、対向部7aおよび沿壁部7bの回転に伴う通過領域の内周を広くとることができるので、流動層4においてワーク2を漬けることが可能な領域を拡大することができる。
【0032】
〔変形例〕
本願発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形例を考えることができる。
例えば、実施例の装置1によれば、駆動ベルト8bを介してモータ12bにより回転台8を回転させていたが、回転台8を回転させる態様は、このような態様に限定されない。例えば、回転台8に外歯状のギヤを設け、ギヤ同士のかみ合いにより回転台8を回転させてもよい。
【0033】
また、実施例の装置1によれば、台部8aには、動作体7が1つだけねじ締結されていたが、複数の動作体7を台部8aにねじ締結してもよい。
さらに、実施例の装置1によれば、動作体7を回転させることで多孔壁3の上側表面3aを掃いていたが、例えば、上側表面3aが矩形である場合に、動作体7を直線移動させて上側表面3aを掃いてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 装置(流動浸漬装置) 2 ワーク 5a 貯留空間 3 多孔壁 3a 上側表面 4 流動層 5 タンク(貯留容器) 6 流動手段 7 動作体
図1
図2
図3