(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006618
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】フォトクロミック物品およびフォトクロミック物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20240110BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20240110BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240110BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20240110BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B5/23
G02C7/02
G02B1/04
G02C7/00
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107685
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】樋口 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BD00
2H006BD03
2H006BE00
2H006BE02
2H148DA04
2H148DA09
2H148DA12
2H148DA24
(57)【要約】
【課題】フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供すること。
【解決手段】基材と、プライマー層形成用重合性組成物を硬化したプライマー層と、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化したフォトクロミック層と、をこの順に有し、 上記プライマー層形成用重合性組成物はイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、かつ上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は組成物全量を100質量%として2.0質量%以上であるフォトクロミック物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
プライマー層形成用重合性組成物を硬化したプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化したフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、かつ
前記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、該組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である、フォトクロミック物品。
【請求項2】
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートを更に含む、請求項1に記載のフォトクロミック物品。
【請求項3】
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、10質量%以上50質量%以下のイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含む、請求項2に記載のフォトクロミック物品。
【請求項4】
眼鏡レンズである、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項5】
ゴーグル用レンズである、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項6】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項7】
ヘルメットのシールド部材である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項8】
請求項4に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項9】
基材上にプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、
塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、
塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有(メタ)ウレタンアクリレートを含み、かつ、
前記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、該組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である、フォトクロミック物品の製造方法。
【請求項10】
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートを更に含む、請求項9に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項11】
前記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計量を100質量%として、10質量%以上50質量%以下のイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含む、請求項10に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項12】
前記フォトクロミック物品は眼鏡レンズである、請求項9~11のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項13】
前記フォトクロミック物品はゴーグル用レンズである、請求項9~11いずれか1項に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項14】
前記フォトクロミック物品はサンバイザーのバイザー部分である、請求項9~11のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項15】
前記フォトクロミック物品はヘルメットのシールド部材である、請求項9~11のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック物品およびフォトクロミック物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で着色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。例えば特許文献1には、フォトクロミック化合物を含む層(フォトクロミック層)を基材上に設けたフォトクロミック物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フォトクロミック物品の性能向上を目指し、フォトクロミック層と基材との密着性を高めるために検討を重ねた。
【0005】
本発明の一態様は、フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
先に示した特許文献1(特許第6346183号明細書)には、基材とフォトクロミック層との間のプライマー層を、ウレタン(メタ)アクリレートを含む光硬化性組成物から形成することが開示されている。
これに対し本発明者は鋭意検討を重ねた結果、基材とフォトクロミック層との間のプライマー層を、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、かつイソシアネート基含有率が2.0質量%以上のプライマー層形成用重合性組成物から形成することによって、基材とフォトクロミック層との密着性を高めることができることを新たに見出した。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、
基材と、
プライマー層形成用重合性組成物を硬化したプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化したフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、かつ
上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、この組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である、フォトクロミック物品、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、基材とフォトクロミック層との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、フォトクロミック物品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ウレタン(メタ)アクリレート混合比のフォトクロミック性能に対する影響に関する評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[フォトクロミック物品]
本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品は、基材と、プライマー層と、フォトクロミック層と、をこの順に有する。本発明および本明細書において、「フォトクロミック物品」とは、フォトクロミック化合物を含む物品をいうものとする。
【0011】
以下に、本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品について、更に詳細に説明する。
【0012】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、一形態では、光学物品であることができる。光学物品には、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等の各種物品が包含される。例えば、上記フォトクロミック物品は、光学物品の種類に応じて選択された基材上にプライマー層とフォトクロミック層とをこの順に有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材としては、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材を使用することができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる)を挙げることができる。上記の「(メタ)アクリル樹脂」には、アクリル樹脂とメタクリル樹脂とが包含される。上記の「(チオ)エポキシ化合物」には、エポキシ化合物とチオエポキシ化合物とが包含される。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ポリカーボネート樹脂は、通常、屈折率1.59のレンズ基材として利用される。アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂は、通常、屈折率1.50のレンズ基材として利用される。イソシアネート末端プレポリマーと芳香族ジアミンとの反応で得られたウレア樹脂は、通常、屈折率1.53のレンズ基材として利用される。フタル酸ジアリル樹脂は、通常、屈折率1.55のレンズ基材として使用される。イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂は、通常、屈折率1.60のレンズ基材として利用される。イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂は、通常、屈折率1.67の基材として利用される。ただし、レンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0013】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、通常、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0014】
<プライマー層>
(重合性化合物)
上記フォトクロミック物品に含まれるプライマー層は、プライマー層形成用重合性組成物を硬化した硬化層である。本発明および本明細書において、「重合性組成物」とは、重合性化合物を含む組成物をいうものとする。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物である。重合性基の具体例としては、後述の(メタ)アクリロイル基を挙げることができる。
【0015】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含む。更に、上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、この組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である。これらのことが、上記プライマー層形成用重合性組成物を硬化したプライマー層を基材とフォトクロミック層との間に配置することによって、基材とフォトクロミック層との密着性を向上させることを可能にすることに寄与すると推察される。
【0016】
本発明および本明細書において、「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートをいうものとする。ウレタン(メタ)アクリレートは、通常、ポリウレタン骨格の末端および/または側鎖に「(メタ)アクリロイル基」を含む構造を有する。上記プライマー層形成用重合性組成物が高極性部であるウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレートを含有することが、フォトクロミック層を形成するための重合性組成物のプライマー層に対する濡れ性を高めることに寄与し得ると、本発明者は推察している。この点からは、上記フォトクロミック物品において、プライマー層とフォトクロミック層とが隣接していることが好ましい。ここで「隣接」とは、他の層を介さずに直接接していることをいうものとする。
【0017】
また、本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0018】
上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれるイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートの官能数(1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数)は、1以上であり、例えば1~4の範囲であることができる。また、上記イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートのイソシアネート基含有率は、例えば1.0質量%以上、3質量%以上もしくは5質量%以上であることができ、また、例えば20.0質量%、18.0質量%以下、16.0質量%以下もしくは14.0質量%以下であることができる。また、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートは、合成の原理上、分子内にヒドロキシ基を含まない。分子内にヒドロキシ基を含まないことは、プライマー層形成用重合性組成物の保存安定性の観点から好ましい。イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートは、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。市販品としては、例えば、ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4141、4250、4510、4396、4397等を挙げることができる。
【0019】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、重合性化合物として、少なくともイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを1種以上含む。上記プライマー層形成用重合性組成物は、重合性化合物として、一形態ではイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートのみを含むことができ、他の一形態では、他の重合性化合物を1種以上含むことができる。かかる他の重合性化合物としては、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートを挙げることができる。イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートの官能数(1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数)は、1以上であり、例えば1~4の範囲であることができる。イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートが分子内にヒドロキシ基を含まないことが、プライマー層形成用重合性組成物の保存安定性の観点から好ましい。イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートは、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。市販品としては、例えば、ダイセル・オルネクス社製KRM9276(1官能)、KRM9335(2官能)、EBECRYL230(2官能)、共栄社化学製UA-224L(2官能)等を挙げることができる。
【0020】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを、例えば5質量%以上含むことができ、10質量%以上含むことが好ましく、15質量%以上含むことがより好ましく、20質量%以上含むことが更に好ましい。基材とフォトクロミック層との密着性向上の観点からは、上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれるイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレート量が多いことは好ましい。また、上記フォトクロミック物品の各種性能の観点からは、上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを、50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことが更に好ましい。
【0021】
(任意成分)
上記プライマー層形成用重合性組成物は、少なくともイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレート等の他の重合性化合物を含むことができ、更に1種以上の成分を含むこともできる。かかる成分としては、重合開始剤、触媒等を挙げることができる。これら成分は任意の量で使用することができ、また、これら成分としては公知の化合物を使用することができ、市販品を使用することもできる。
【0022】
例えば、重合開始剤としては、(メタ)アクリレートに対して重合開始剤として機能することができる公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。 また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。 これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。
【0023】
触媒としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド、モノメチル錫トリクロライド、トリメチル錫クロライド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫フロライド、ジメチル錫ジブロマイド等の有機錫系化合物を挙げることができる。有機錫系化合物は、イソシアネート基に対して触媒作用を発揮し得る。
【0024】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性化合物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。
【0025】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、更に、プライマー層形成のための組成物に通常添加され得る公知の添加剤を任意の量で含むことができる。添加剤としては、公知の化合物を使用することができ、市販品を使用することもできる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないイソシアネートとを合計で80.0質量%以上、85.0質量%以上、90.0質量%以上または95.0質量%以上含むことができる。また、上記プライマー層形成用重合性組成物において、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないイソシアネートとの合計含有率は、例えば、100質量%、100質量%以下、100質量%未満または99.0質量%以下であることができる。
【0026】
(プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率)
上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、この組成物の全量を100質量%として、2.0質量%以上であり、2.1質量%以上であることがより好ましく、2.2質量%以上であることが更に好ましい。上記プライマー層形成用重合性組成物から形成されたプライマー層を基材とフォトクロミック層との間に配置することによって基材とフォトクロミック層との密着性を向上できる理由は、上記プライマー層形成用重合性組成物がイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、組成物におけるイソシアネート基含有率が2.0質量%以上であることであると本発明者は推察している。イソシアネート基については、本発明者は、高温高湿環境においても基材とフォトクロミック層との高い密着性を維持することに寄与し得ると考えている。
また、上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、例えば、5.0質量%以下、4.0質量%以下または3.0質量%以下であることができる。ただし、上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率が高いことは、基材とフォトクロミック層との密着性向上の観点から好ましいため、上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率の上限については、ここに例示した値に限定されるものではない。
例えば、上記プライマー層形成用重合性組成物において、イソシアネート基を含む成分がイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートのみの場合、上記プライマー層形成用重合性組成物の組成物全量を100質量%に対するイソシアネート基含有率は、例えば以下の式によって算出できる。
プライマー層形成用重合性組成物の組成物全量を100質量%に対するイソシアネート基含有率=Y×X/T
上記式中、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートのイソシアネート基含有率を「X」質量%とし、プライマー層形成用重合性組成物におけるイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレート量を「Y」g(グラム)とし、組成物全量を「T」g(グラム)とする。
【0027】
上記プライマー層形成用組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0028】
上記プライマー層形成用重合性組成物を基材上に塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって、上記プライマー層形成用重合性組成物を硬化した硬化層であるプライマー層を基材上に形成することができる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、基材表面に直接塗布することができ、または、基材上に設けられた層の表面に塗布することもできる。即ち、上記フォトクロミック物品において、基材とプライマー層とは、一形態では隣接し、他の一形態ではプライマー層は1層以上の他の層を介して基材上に位置する。他の層としては、ハードコート層等の公知の層を例示できる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。基材表面には、基材表面の清浄化等のために、アルカリ処理、UVオゾン処理等の公知の前処理の1つ以上を任意に施すことができる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれる各種成分の種類および上記プライマー層形成用重合性組成物の組成に応じて決定すればよい。
【0029】
プライマー層の厚さは、例えば3μm以上であることができ、5μm以上であることが好ましい。また、プライマー層の厚さは、例えば15μm以下であることができ、10μm以下であることが好ましい。
【0030】
<フォトクロミック層>
<<重合性化合物>>
上記フォトクロミック物品は、上記プライマー層上にフォトクロミック層を有する。上記フォトクロミック物品に含まれるフォトクロミック層は、(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層である。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート系重合性組成物」とは、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物をいうものとする。上記プライマー層形成用重合性組成物も、先に記載したウレタン(メタ)アクリレートを含むため、(メタ)アクリレート系重合性組成物ということができる。プライマー層とフォトクロミック層とが共に(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層であることも、基材とフォトクロミック層との密着性向上に寄与し得ると本発明者は推察している。
【0031】
以下に、フォトクロミック層形成用重合性組成物の一形態である(メタ)アクリレート系重合性組成物について説明する。ただし、以下の形態は例示であって、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、一形態では、下記成分A、下記成分Bおよび下記成分Cからなる群から選ばれる1種以上の重合性化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物であることができる。
【0033】
(成分A)
成分Aは、ポリアルキレングリコール部位を含有する分子量500以上の多官能(メタ)アクリレートである。本発明および本明細書において、「ポリアルキレングリコール部位」とは、下記式2:
【化1】
で表される部分構造をいうものとする。式2中、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。*は、式2で表される部分構造が隣り合う原子と結合する結合位置を示す。Rで表されるアルキレン基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。Rで表されるアルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。一形態では、成分Aは、Rがエチレン基を表す上記部分構造、即ちポリエチレングリコール部位を有することができる。また、一形態では、成分A
は、Rがプロピレン基を表す上部分構造、即ちポリプロピレングリコール部位を有することができる。
【0034】
成分Aの分子量は、500以上である。本発明および本明細書において、多量体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用するものとする。成分Aの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Aの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0035】
成分Aは、多官能(メタ)アクリレートであって、例えば、2官能、3官能、4官能または5官能(メタ)アクリレートであることができ、2官能または3官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。成分Aは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。即ち、成分Aは、アクリレートまたはメタクリレートであることができる。
【0036】
一形態では、成分Aは、非環状の多官能(メタ)アクリレートであることができる。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状の多官能(メタ)アクリレートとは、環状構造を含まない2官能以上の(メタ)アクリレートをいうものとする。かかる成分Aの具体例としては、下記式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0037】
【0038】
式3中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rおよびnについては、式2で表される部分構造について先に記載した通りである。式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0039】
また、成分Aの具体例としては、下記式4で表されるトリ(メタ)アクリレートを挙げることもできる。式4で表されるトリ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0040】
【0041】
式4中、R40、R41、R44、R45、R47およびR48は、それぞれ独立にアルキレン基を表し、R43はアルキル基を表し、R42、R46およびR49は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。n1は、OR41で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。n2は、OR45で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。n3は、OR48で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。
【0042】
以下、式4について更に詳細に説明する。
【0043】
式4中のR41、R45およびR48については、式2中のRについて先に記載した通りである。式4中のn1、n2およびn3については、式2中のnについて先に記載した通りである。式4中、R41、R45およびR48は、同一であってもよく、2つまたは3つが異なってもよい。この点は、n1、n2およびn3についても同様である。
【0044】
R42、R46およびR49は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。式4で表されるトリ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0045】
R43で表されるアルキル基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。R43で表されるアルキル基は、直鎖アルキル基または分岐アルキル基であることができる。R43で表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0046】
R40、R44およびR47は、それぞれ独立にアルキレン基を表す。かかるアルキレン基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。その具体例としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0047】
式4で表されるトリ(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパンポリオキシエチレンエーテルトリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0048】
単官能(メタ)アクリレート
(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量を高める観点からは、分子中に占める(メタ)アクリロイル基の割合が高い(メタ)アクリレートが好ましい。この点からは、低分子量の単官能(メタ)アクリレートが好ましく、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートがより好ましい。分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートは、環状の単官能(メタ)アクリレートでもよく、非環状の単官能(メタ)アクリレートでもよい。分子量150以下の環状の単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。分子量150以下の非環状の単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば100以上であることができるが、これに限定されるものではない。
【0049】
多官能(メタ)アクリレート
先に記載したように、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量を高める観点からは、分子中に占める(メタ)アクリロイル基の割合が高い(メタ)アクリレートが好ましい。この点からは、成分Aより分子量が小さい多官能(メタ)アクリレートも好ましい。かかる多官能(メタ)アクリレートとしては、成分Aとして使用される多官能(メタ)アクリレートより官能数が大きい多官能(メタ)アクリレートも好ましい。かかる多官能(メタ)アクリレートの分子量は、500未満、400以下、300以下または200以下であることが好ましい。その分子量は、例えば100以上であることができるが、これに限定されるものではない。また、かかる多官能(メタ)アクリレートは、例えば10官能以上(例えば10官能以上15官能以下)の多官能(メタ)アクリレートであることができる。具体例としては、後述の実施例の欄に記載のポリ[(3-メタクリロイルオキシプロピル)シルセスキオキサン]誘導体等を挙げることができる。
【0050】
フォトクロミック層形成用重合性組成物である(メタ)アクリレート系重合性組成物に含まれ得る(メタ)アクリレートとしては、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレート(以下、「成分B」とも記載する。)および下記式5で表される2官能(メタ)アクリレート(以下、「成分C」とも記載する。)を挙げることもできる。一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートおよび下記式5で表される2官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物であることができる。他の一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートおよび下記式5で表される2官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレートを含まない重合性組成物であることができる。一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートとして、成分Bを含むこともできる。
【0051】
(成分B)
成分Bは、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートである。
【0052】
【0053】
以下、式1について更に詳細に説明する。
【0054】
式1中、R10は水素原子またはメチル基を表す。式1で表される単官能(メタ)アクリレートは、アクリレートであってもよく、メタクリレートであってもよい。
【0055】
R11は、炭素数3以上の直鎖アルキル基または炭素数3以上の分岐アルキル基を表す。R11で表される直鎖または分岐のアルキル基の炭素数は、3以上であり、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上の順に更に好ましい。一方、上記組成物中のフォトクロミック化合物の溶解性の観点からは、上記炭素数は、15以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、13以下、12以下の順に更に好ましい。
【0056】
式1で表される単官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば100以上であることができ、また、例えば300以下であることができる。ただし、上記範囲に限定されるものではない。先に記載したように、一形態では、式1で表される単官能(メタ)アクリレートが、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートであることができる。式1で表される単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0057】
(成分C)
成分Cは、下記式5:
【化5】
で表される(メタ)アクリレートである。
【0058】
式5中、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0059】
成分Cの分子量は、例えば400以下であることができ、フォトクロミック層の着色濃度をより高める観点からは、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが更に好ましい。また、成分Cの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0060】
成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。成分Cの具体例としては、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0061】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物において、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。成分Aは、一形態では、組成物に含まれる複数の重合性化合物の中で、最も多くを占める成分であることができる。また、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、90質量%以下、85質量%以下または80質量%以下であることができる。上記組成物は、成分Aを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の成分Aが含まれる場合、上記の成分Aの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、本発明および本明細書において、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0062】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、上記の各種(メタ)アクリレートを、例えば、組成物の(メタ)アクリロイル基含有量が3.50mmol/g以上になる量で含むことができる。例えば、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートを、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量は、フォト層の耐候性向上の観点から、3.50mmol/g以上であることが好ましく、3.55mmol/g以上であることがより好ましく、3.60mmol/g以上であることが更に好ましく、3.65mmol/g以上であることが一層好ましく、3.70mmol/g以上であることがより一層好ましく、3.75mmol/g以上であることが更により一層好ましい。上記(メタ)アクリレート系重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量は、例えば、5.00mmol/g以下、4.50mmol/g以下もしくは4.00mmol/g以下であることができ、または、ここに例示した値を上回ってもよい。
【0064】
(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の「(メタ)アクリロイル基含有量」は、以下のように算出するものとする。
質量基準で、重合性組成物に含まれる(メタ)アクリレートの合計量を「1」として、各(メタ)アクリレートの含有率を算出する。
各(メタ)アクリレートについて、「(メタ)アクリロイル基含有量×上記含有率」を求める。こうして重合性組成物に含まれるすべての(メタ)アクリレートについて算出された値の合計を、その重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量とする。
【0065】
フォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、構造変化する。光照射を経て構造変化した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。なお、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合が包含される。光照射により着色体に構造変化して着色した後、着色体から無色体への構造変化の速度が速いほど、退色速度は速くなる。フォトクロミック層において、重合性化合物の重合反応によって形成されたマトリックス中でフォトクロミック化合物が分子運動し易いほど、上記構造変化の速度は速くなると考えられる。かかる速度を速くする観点からは、柔軟なマトリックスが望ましいと考えられる。以上の点に関して、成分Aはマトリックスを柔軟にすることに寄与できると推察される。詳しくは、成分Aの分子量が500以上であることと、成分Aがポリアルキレングリコール部位を有することが、成分Aによって柔軟なマトリックスを形成可能な理由と考えられる。
また、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における(メタ)アクリロイル基含有量が3.50mmol/g以上であることは、かかる組成物から形成されたマトリックスにおいて、分子間に剛直なポリマーネットワークを形成することに寄与すると考えられる。剛直なポリマーネットワークを有するマトリックス中では、耐候性の低下をもたらし得る活性種の拡散が抑制できることが、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物によって耐候性に優れるフォトクロミック層を形成可能な理由と推察される。
【0066】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における重合性化合物の含有率(複数の重合性化合物が含まれる場合には、それらの合計含有率)は、組成物の全量を100質量%として、例えば80質量%以上、85質量%以上または90質量%以上であることができる。また、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下または85質量%以下であることができる。上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0067】
<<フォトクロミック化合物>>
上記組成物は、上記重合性化合物とともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0068】
<<他の成分>>
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、重合性化合物およびフォトクロミック化合物に加えて、重合性組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。フォトクロミック層形成用重合性組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤については、先の記載を参照できる。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0069】
フォトクロミック層形成用重合性組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0070】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0071】
フォトクロミック層は、プライマー層上にフォトクロミック層形成用重合性組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法については、先の記載を参照できる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、フォトクロミック層形成用重合性組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類および上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0072】
上記のフォトクロミック層を有するフォトクロミック物品は、上記した各種の層に加えて一層以上の機能性層を更に有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、耐久性向上のための保護層、ハードコート層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。例えば、保護層については、特開2021-107909号公報の段落0009~0021、0026および同公報の実施例の記載等を参照できる。
【0073】
上記フォトクロミック物品は光学物品であることができ、光学物品の一形態は眼鏡レンズである。また、光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上にプライマー層を介してフォトクロミック形成用重合性組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0074】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記フォトクロミック物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色すること(coloring)でサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【0075】
[フォトクロミック物品の製造方法]
本発明の一態様は、
基材上に先に記載したプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、
塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、
塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、
を含む、フォトクロミック物品の製造方法、
に関する。
【0076】
上記製造方法によれば、基材とフォトクロミック層との密着性に優れるフォトクロミック物品を製造することができる。上記製造方法の詳細については、先の記載を参照できる。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0078】
<基材>
後述の各種基材は、以下に記載のプラスチックレンズ基材である。いずれの基材も、物体側表面が凸面であり、眼球側表面が凹面である。基材4(屈折率1.59)は、両面ハードコート層付きの基材であり、後述のプライマー層形成用重合性組成物の塗布はハードコート層表面に対して行った。
基材1:屈折率1.50(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39))
基材2:屈折率1.53(ウレア樹脂)
基材3:屈折率1.55(フタル酸ジアリル樹脂)
基材4:屈折率1.59(ポリカーボネート樹脂)
基材5:屈折率1.60(ウレタン樹脂)
基材6:屈折率1.67(チオウレタン樹脂)
【0079】
[実施例1]
<眼鏡レンズ(フォトクロミック物品)の作製>
プラスチックレンズ基材を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、プラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、イソシアネート基を含まないウレタンアクリレートとしてダイセル・オルネクス社製KRM 9276を使用し、イソシアネート基含有ウレタンアクリレートとして、ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4141(イソシアネート基含有率:12.0質量%)を使用し、これら2種のウレタンアクリレート(合計20g、KRM 9276:EBECRYL 4141(質量比)=8:2)を混合した。こうして得られた混合物に、混合物の全量100質量%に対して、0.02質量%の有機錫系化合物(東京化成工業社製ジブチル錫ジラウレート)、0.005質量%ので光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))および0.25質量%のレベリング剤(共栄社化学社製LE-605)を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして得られたプライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、組成物全量を100質量%として、2.4質量%である。
上記プライマー層形成用重合性組成物を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、プラスチックレンズ基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてプライマー層を形成した。形成されたプライマー層の厚さは6μmであった。
上記プライマー層の上に、以下のように調製したフォトクロミック層形成用重合性組成物((メタ)アクリロイル基含有量:3.61mmol/g)をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プライマー層上に塗布された上記フォトクロミック層形成用重合性組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは40μmであった。
こうして形成したフォトクロミック層上に、特開2021-107909号公報の実施例1に記載の方法で保護層を形成した。形成された保護層の厚さは15μmであった。
こうして、基材、プライマー層およびフォトクロミック層をこの順に有し、更にフォトクロミック層上に保護層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0080】
(フォトクロミック層形成用重合性組成物の調製)
プラスチック製容器内で、表1に示す量の表1に示す成分を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、フォトクロミック層形成用重合性組成物を調製した。組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は94.9質量%、フォトクロミック化合物は3質量%、光ラジカル重合開始剤は0.3質量%、酸化防止剤は0.9質量%、光安定化剤は0.9質量%である。
【0081】
【0082】
[比較例1]
ウレタンアクリレート20g全量をイソシアネート基を含まないウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製KRM 9276)とした点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。
【0083】
[比較例2]
イソシアネート基を含まないウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製KRM 9276)とイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4141)との混合比を、KRM 9276:EBECRYL 4141(質量比)=9:1に変更した点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。比較例2において調製されたプライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、組成物全量を100質量%として、1.2質量%である。
【0084】
[実施例2]
イソシアネート基含有ウレタンアクリレートとして、ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4396(イソシアネート基含有率:7.5質量%)を使用し、イソシアネート基を含まないウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製KRM 9276)とイソシアネート基含有ウレタンアクリレートとの混合比を、KRM 9276:EBECRYL 4396(質量比)=7:3に変更した点以外、実施例1について記載したように眼鏡レンズを作製した。実施例2において調製されたプライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、組成物全量を100質量%として、2.2質量%である。
【0085】
[比較例3]
イソシアネート基を含まないウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製KRM 9276)とイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4396)との混合比を、KRM 9276:EBECRYL 4396(質量比)=8:2に変更した点以外、実施例2について記載したように眼鏡レンズを作製した。比較例3において調製されたプライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、組成物全量を100質量%として、1.5質量%である。
【0086】
[密着性評価]
実施例および比較例において、それぞれ表2に示す基材を用いて作製した眼鏡レンズを2つ作製した。
2つ作製した眼鏡レンズの一方を初期密着性の評価に付し、他方を高温高湿時密着性の評価に付した。
初期密着性については、JIS K5600-5-6:1999にしたがい、クロスカット法によって密着性を評価した。
高温高湿時密着性については、沸騰している温水中に眼鏡レンズを1時間浸漬した後、温水から取り出した眼鏡レンズの密着性を、JIS K5600-5-6:1999にしたがい、クロスカット法によって評価した。
表2に、下記評価基準による評価結果を示し、括弧内に残存マス目数を示す。マス目の剥離が生じた眼鏡レンズについては、剥離箇所を観察し、基材表面上で膜の剥がれが生じていること、即ち基材とプライマー層との間で剥離が生じていることを確認した。
表2に示す結果から、実施例1の眼鏡レンズおよび実施例2の眼鏡レンズが、比較例1~3の眼鏡レンズと比べて、基材とフォトクロミック層との密着性に優れることが確認できる。
(評価基準)
A:総マス目数100に対して残存マス目数100(剥離なし)
B:総マス目数100に対して残存マス目数96以上99以下
C:総マス目数100に対して残存マス目数90以上95以下
D:総マス目数100に対して残存マス目数89以下
【0087】
【0088】
実施例1については、基材3~6を使用した眼鏡レンズについても、上記密着性評価を行った。その結果、実施例1では、基材3~6を使用した眼鏡レンズにおいても、初期密着性および高温高湿時密着性のいずれについても評価結果が「A」であることが確認された。
一方、比較例2については、基材4を使用した眼鏡レンズについて初期密着性の評価結果が「C」(残存離マス目数:95)、基材5を使用した眼鏡レンズについて高温高湿時密着性の評価結果が「D」(残存マス目数:2)であることを確認した。比較例3については、基材6を使用した眼鏡レンズについて初期密着性および高温高湿時密着性とも、評価結果が「C」(残存マス目数:95)であることを確認した。
なお、基材4を使用した眼鏡レンズについては、高温高湿時密着性は、温度50℃の温水に1時間浸漬した後に評価した。
【0089】
[ウレタン(メタ)アクリレート混合比のフォトクロミック性能に対する影響の検討]
図1は、ウレタン(メタ)アクリレート混合比のフォトクロミック性能に対する影響に関する評価結果を示す。
図1に示す評価結果は、以下のように取得した。
実施例1では、プライマー層形成用組成物において、イソシアネート基を含まないウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製KRM 9276)とイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4141)との混合比は、KRM 9276:EBECRYL 4141(質量比)=8:2とした。この混合比を変更した点以外は実施例1について記載した方法で、基材として基材1を使用して眼鏡レンズを作製した。作製した眼鏡レンズについて、以下の方法で各種性能を評価した(プライマー層を含まない参照レンズ(reference)との差分で相対評価)。
図1中、横軸は、ウレタン(メタ)アクリレートの合計100質量%に対するイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EBECRYL 4141)の含有率(単位:質量%)を示す。
【0090】
<透過率>
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって視感透過率を求めた。
以下の着色濃度の測定を行う前の各眼鏡レンズの透過率を、大塚電子製分光光度計により測定した。波長範囲380nmから780nmの範囲での測定結果から求めた視感透過率(「初期透過率」と記載する。)の相対評価結果を、
図1に示す。こうして求められる初期透過率の値が大きいほど、非照射下での可視光透過性に優れることを意味する。
【0091】
<着色濃度>
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって視感透過率を求めた。
各眼鏡レンズの凸面に向けて、キセノンランプを光源に用いてエアロマスフィルターを介した光を15分間照射し、フォトクロミック層を着色させた。この照射光はJIS T7333:2005に規定されているように放射照度及び放射照度の許容差が表3に示す値となるように行った。この着色時の透過率を大塚電子製分光光度計により測定した。波長範囲380nmから780nmの範囲での測定結果から求めた視感透過率(「着色時透過率」と記載する。)の相対評価結果を、
図1に示す。こうして求められる着色時透過率の値が小さいほど、フォトクロミック層が高濃度に着色していることを意味する。
【0092】
【0093】
<退色速度>
キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、各眼鏡レンズの凸面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を着色させた。この着色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表3に示す値となるように行った。こうして測定された透過率を、「着色時透過率」と呼ぶ。
上記の着色時透過率の測定後、光照射を止めた時間から60秒後の透過率を測定した(以下、「退色60s透過率」と記載する)。 退色速度(単位:%/秒)は、退色速度=[(退色60s透過率-着色時透過率)/60]の計算式によって算出し、相対評価結果を
図1に示す。こうして求められる退色速度の値が大きいほど、退色速度が速いということができる。
【0094】
<70%透過率到達時間>
上記の着色時透過率測定のための光照射を停止した後、初期透過率を100%として、レンズの透過率が70%まで回復(レンズが退色)するまでに要した時間を求めた。こうして求められた時間を、「70%透過率到達時間」とし、相対評価結果を
図1に示す。こうして求められる70%透過率到達時間の値が小さいほど、退色速度が速いということができる。
【0095】
図1に示す結果から、フォトクロミック物品の各種性能を考慮すると、プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを、50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことが更に好ましいということができる。一方、基材とフォトクロミック層との密着性向上の観点からは、プライマー層形成用重合性組成物に含まれるイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレート量が多いことは好ましい。この点から、プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを、例えば5質量%以上含むことができ、10質量%以上含むことが好ましく、15質量%以上含むことがより好ましく、20質量%以上含むことが更に好ましい。
【0096】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0097】
[1]基材と、
プライマー層形成用重合性組成物を硬化したプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化したフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含み、かつ
上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、該組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である、フォトクロミック物品。
[2]上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートを更に含む、[1]に記載のフォトクロミック物品。
[3]上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計を100質量%として、10質量%以上50質量%以下のイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含む、[2]に記載のフォトクロミック物品。
[4]眼鏡レンズである、[1]~[3]のいずれかに記載のフォトクロミック物品。
[5]ゴーグル用レンズである、[1]~[3]のいずれかに記載のフォトクロミック物品。
[6]サンバイザーのバイザー部分である、[1]~[3]のいずれかに記載のフォトクロミック物品。
[7]ヘルメットのシールド部材である、[1]~[3]のいずれかに記載のフォトクロミック物品。
[8][4]に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
[9]基材上にプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、
塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、
塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有(メタ)ウレタンアクリレートを含み、かつ、
上記プライマー層形成用重合性組成物のイソシアネート基含有率は、該組成物全量を100質量%として、2.0質量%以上である、フォトクロミック物品の製造方法。
[10]上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートを更に含む、[9]に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[11]上記プライマー層形成用重合性組成物は、イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートとイソシアネート基を含まないウレタン(メタ)アクリレートとの合計量を100質量%として、10質量%以上50質量%以下のイソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含む、[10]に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[12]上記フォトクロミック物品は眼鏡レンズである、[9]~[11]のいずれかに記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[13]上記フォトクロミック物品はゴーグル用レンズである、[9]~[11]いずれかに記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[14]上記フォトクロミック物品はサンバイザーのバイザー部分である、[9]~[11]のいずれかに記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[15]上記フォトクロミック物品はヘルメットのシールド部材である、[9]~[11]のいずれかに記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【0098】
本明細書に記載の各種態様および各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0099】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。