(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066195
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】拡散器
(51)【国際特許分類】
A61L 9/12 20060101AFI20240508BHJP
B65D 83/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61L9/12
B65D83/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175605
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】520277829
【氏名又は名称】金指 博文
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金指 博文
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA13
4C180CA08
4C180CA09
4C180MM10
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で心地よい動きを実現できる拡散器を提供する。
【解決手段】拡散器1は、円筒胴21を有する摺動部材2と、摺動部材2が挿し込まれる円筒穴31を有するケース部材3とを備えている。拡散器1は、ケース内空間3Sに気化した香料Pを収容するとともに、円筒胴21と円筒穴31との隙間を通じてケース部材3のケース内空間3Sの気体が抜け出すことで、摺動部材2が自重でケース部材3内にゆっくりと沈み込むように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒胴を有する摺動部材と、前記摺動部材が挿し込まれる円筒穴を有するケース部材とを備え、
前記ケース部材のケース内空間に気化した香料を収容するとともに、
前記円筒胴と前記円筒穴との隙間を通じて前記ケース内空間の気体が抜け出すことで前記摺動部材が自重で前記ケース部材内にゆっくりと沈み込むように構成されている、
拡散器。
【請求項2】
前記ケース部材の前記円筒穴とは異なる箇所に、前記ケース部材内のケース内空間への気体の流入を許容する一方、前記ケース内空間からの気体の流出を抑制する弁部材が設けられるとともに、
香料を収容する香料収容器内の香料収容空間が前記弁部材を通じて前記ケース内空間に連通される、
請求項1に記載の拡散器。
【請求項3】
前記ケース部材は、上下方向に延びる筒形であって、上端に前記円筒穴が設けられるとともに下端に前記弁部材が設けられており、前記香料収容器の口部に、前記弁部材が前記香料収容空間に位置するように着脱可能に保持される構成であって、
前記ケース部材の外周面に、該外周面と前記香料収容器の口部の内周面との間に介在する固定部材と、前記香料収容空間を前記香料収容器の外部雰囲気と連通させる連通用溝が設けられている、
請求項2に記載の拡散器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料を拡散させる拡散器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、緊張を和らげてリラックスしたり、集中力を増したり、気分転換したりするために、エッセンシャルオイルや香水等の香料を拡散して芳香を楽しむことは広く行われている。気化した香料を拡散させる拡散器として、香料の拡散機能に揺動等の運動機能を加えて視覚的にも楽しめる電動式の拡散器が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された拡散器は、視覚的な動きを実現するためにモータやギヤ機構を使用した複雑な構成を必要とするという問題があった。
【0005】
本発明は、簡素な構成で心地よい動きを実現できる拡散器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る拡散器の一実施態様は、円筒胴を有する摺動部材と、前記摺動部材が挿し込まれる円筒穴を有するケース部材とを備え、前記ケース部材のケース内空間に気化した香料を収容するとともに、前記円筒胴と前記円筒穴との隙間を通じて前記ケース内空間の気体が抜け出すことで前記摺動部材が自重で前記ケース部材内にゆっくりと沈み込むように構成されているものである。
【0007】
本発明の一実施態様によれば、ケース内空間の気化した香料を、摺動部材をケース部材に収容する際に円筒胴と円筒穴との隙間を通じてケース部材の外部雰囲気に拡散できる。また、摺動部材をケース部材に収容する際、摺動部材の円筒胴がケース部材の円筒穴に摺接しながら、摺動部材がケース部材にゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きを簡素な構成で実現できる。
【0008】
摺動部材がケース部材にゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きは、拡散器の操作者のみならず、周囲にいてその動きを見つめる者にも暫しの安らぎを与えることができる。そして、摺動部材がゆっくり沈み込んでいく動きは、コミュニケーションツールとしてビジネスシーンや団欒の場にて会話のきっかけにもなり得る。
【0009】
さて、本発明の拡散器において、摺動部材がケース部材に収容された状態でケース内空間において摺動部材が占める体積が極端に小さいと、摺動部材をケース部材に挿し込む際に、摺動部材はケース内空間の気体を十分に圧縮できずに一気に沈み込む。このようなことから、ケース内空間で摺動部材が占める体積に対してケース内空間全体の体積をあまり大きくできず、ケース内空間に香料の発生源を収容する空間を十分に確保できない場合があった。
【0010】
そこで、本発明の拡散器の上記実施態様において、前記ケース部材の前記円筒穴とは異なる箇所に、前記ケース部材内のケース内空間への気体の流入を許容する一方、前記ケース内空間からの気体の流出を抑制する弁部材が設けられるとともに、香料を収容する香料収容器内の香料収容空間が前記弁部材を通じて前記ケース内空間に連通されるようにしてもよい。
【0011】
このような態様によれば、摺動部材をケース部材から引き抜く際に弁部材を通じて香料収容空間からケース内空間に気化した香料を流入させることができるから、摺動部材をケース部材から引き抜くたびにケース内空間に香料を補充できる。また、摺動部材をケース部材に挿し込む際には、弁部材がケース内空間からの気体の流出を抑制する。したがって、香料収容空間の体積の大きさにかかわらず、ケース内空間の体積を、円筒胴と円筒穴との隙間を通じてケース内空間の香料を含む気体が抜け出すことで摺動部材が自重でケース部材内にゆっくりと沈み込む大きさに設定できる。換言すれば、香料を収容する香料収容器の大きさや材質などに関わらず、摺動部材が自重でケース部材内にゆっくりと沈み込む構成を実現できる。したがって、拡散器の設計の自由度が向上し、例えば香料収容器の自由度や選択性が向上する。
【0012】
なお、香料を収容する香料収容器を採用した上記態様は、香料を収容する空間がケース部材の内部に設けられる態様を排除するものではない。すなわち、本発明の拡散器において、香料を収容する香料収容空間がケース部材のケース内空間に設けられていても構わない。
【0013】
また、上記香料収容器を有する態様において、さらに、前記ケース部材は、上下方向に延びる筒形であって、上端に前記円筒穴が設けられるとともに下端に前記弁部材が設けられており、前記香料収容器の口部に、前記弁部材が前記香料収容空間に位置するように着脱可能に保持されるようにしてもよい。
【0014】
このような態様によれば、ケース部材と香料収容器とを一体化させて拡散器の見栄えを向上できる。また、香料収容器からケース部材を取り外して、香料収容器内の香料を取り換えたり、既成品又は専用の別の香料収容器に取り付けたりできるので、気分や環境に応じて香料や香料収容器を交換できる汎用性および自由度の高い拡散器を提供できる。
【0015】
このような態様において、さらに、前記ケース部材の外周面に、該外周面と前記香料収容器の口部の内周面との間に介在する固定部材と、前記香料収容空間を前記香料収容器の外部雰囲気と連通させる連通用溝が設けられているようにしてもよい。
【0016】
このような態様によれば、摺動部材をケース部材から引き抜く際に、ケース内空間の減圧に起因して、香料収容空間の気化した香料が弁部材を通じてケース内空間に流入するとともに、連通用溝を通じて香料収容器の外気が香料収容空間に流入する。これにより、固定部材の弾性力によってケース部材が香料収容器にしっかり固定される構成でありながら、摺動部材をケース部材から引き抜く際に香料収容空間の内圧の低下を低減できる。したがって、摺動部材をケース部材から引き抜く際に円筒胴と円筒穴との隙間を通じたケース内空間への外気の流入を抑制でき、より多くの香料を香料収容空間からケース内空間に流入させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、簡素な構成で心地よい動きを実現できる拡散器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】拡散器の一実施形態を示す概略的な斜視図である。
【
図3】同実施形態の摺動部材及びケース部材を示す図であり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図である。
【
図5】摺動部材をケース部材から引き抜く動作を説明するための断面図である。
【
図6】摺動部材をケース部材から引き抜いた状態を説明するための断面図である。
【
図7】摺動部材をケース部材に挿し込む動作を説明するための断面図である。
【
図8】拡散器の他の実施形態の摺動部材及びケース部材を示す図であり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図である。
【
図10】摺動部材をケース部材から引き抜く動作を説明するための断面図である。
【
図11】拡散器のさらに他の実施形態を示す概略的な縦断面図である。
【
図12】拡散器のさらに他の実施形態を示す図であり、(A)はペン先収納状態の正面図、(B)は同平面図、(C)はペン先露出状態の正面図、(D)は同平面図である。
【
図14】ペン本体を示す図であり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図である。
【
図15】ケース部材を示す図であり、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は側面図である。
【
図16】クリップの連結部を分離して示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【
図17】ペン本体をペン先側からケース部材に収容する工程を説明するための断面図である。
【
図18】ペン本体をペン尻側からケース部材に収容する工程を説明するための断面図である。
【
図19】(A)はケース部材を振ってペン本体を抜き出す様子を説明するための図、(B)はペン本体の変形例を示す側面図である。
【
図20】筆記具型の拡散器を胸ポケットに挿し込んだ状態を説明するための図である。
【
図21】筆記具型の拡散器の変形例を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、拡散器の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~
図7に示すように、拡散器1は、円筒胴21を有する摺動部材2と、摺動部材2を収容する有底筒状のケース部材3とを備えている。摺動部材2は金属製の丸棒部材で形成されている。
【0020】
ケース部材3は、摺動部材2が挿し込まれる円筒穴31を有している。拡散器1は、摺動部材2が円筒穴31を摺動してケース部材3内に挿入されるように構成している。具体的には、拡散器1は、摺動部材2の円筒胴21とケース部材3の円筒穴31との隙間を通じてケース部材3の内部の香料を含む気体が抜け出すことで、摺動部材2が自重でケース部材3内にゆっくりと沈み込むように構成されている。
【0021】
図3~
図7に示すように、ケース部材3の下端に弁部材4が設けられている。弁部材4は、ケース部材3内のケース内空間3Sへの気体の流入を許容する一方、前記ケース内空間からの気体の流出を抑制するように構成されている。
【0022】
本実施形態では、香料Pを収容する香料収容器5の口部51にケース部材3を差し込んで使用する。ケース部材3は上下方向に延びる筒形であって、上端に円筒穴31が設けられるとともに下端に弁部材4が設けられている。ケース部材3は、香料収容器5の口部51に、弁部材4が香料収容器5の香料収容空間5Sに位置するように着脱可能に保持される。上述のように、弁部材4はケース内空間3Sへの気体の流入を許容するように構成されており、香料Pを収容する香料収容空間5Sが弁部材4を通じてケース内空間3Sに連通可能に構成されている。
【0023】
拡散器1は、摺動部材2をケース部材3から引き抜く際に弁部材4を通じて香料収容空間5Sからケース内空間3Sに流入した気化した香料Pを、摺動部材2をケース部材3に収容する際に円筒胴21と円筒穴31との隙間を通じてケース部材3の外部雰囲気に拡散できる。また、摺動部材2をケース部材3に収容する際、摺動部材2の円筒胴21がケース部材3の円筒穴31に摺接しながら、摺動部材2がケース部材3に自重でゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きを簡素な構成で、しかも電気モータ等の動力源やギヤ機構などを使用することなく実現できる。
【0024】
本実形態では、ケース部材3は、上下方向に延びる筒形であって、上端に円筒穴31が設けられるとともに下端に弁部材4が設けられており、香料収容器5の口部51に、弁部材4が香料収容空間5Sに位置するように着脱可能に保持される。これにより、ケース部材3と香料収容器5とを一体化させて拡散器1の見栄えを向上できる。また、香料収容器5からケース部材3を取り外して、香料収容器5内の香料Pを取り換えたり、既成品又は専用の別の香料収容器5に取り付けたりできるので、気分や環境に応じて香料Pや香料収容器5を交換できる汎用性および自由度の高い拡散器を提供できる。
【0025】
次に、拡散器1の各部の詳細について説明する。本実施形態では、ガラス製の香料収容器5の香料収容空間5Sに液体の香料Pを吸収した香料保持体を収容することで、香料収容器5内に香料Pを収容している。なお、香料収容器5内に、液体の香料を直接収容してもよいし、固体の香料を収容してもよく、香料収容器5内への香料の収容方法は特に限定されない。また、香料収容器5は、例えば樹脂製や金属製、木製であってもよく、香料収容器5の素材は特に限定されない。
【0026】
摺動部材2は、例えばステンレス製の中実の丸棒で形成されている。摺動部材2の外周面からなる円筒胴21は、例えば研磨仕上げ処理によって平滑に形成されている。摺動部材2の下端部22は略砲弾形の形態を有している。摺動部材2の外周面の上端部23寄り部位に、上下方向に間隔をあけて設けられた複数本の保持溝24が周方向に沿って凹設されている。これにより、操作者が指先で上端部23を挟持しやすくなっている。
【0027】
図3及び
図4等に示すように、ケース部材3は、略円筒形のケース胴体34と、ケース胴体34の一端に取り付けられた略円筒形のケースヘッド35と、ケース胴体34の他端に取り付けられた略円錐台形の弁本体41とを備えている。ケース胴体34、ケースヘッド35及び弁本体41は例えばアルミニウム合金製である。ケースヘッド35及び弁本体41のそれぞれは、ケース胴体34にねじ連結にて固着されている。ケースヘッド35及び弁本体41のそれぞれとケース胴体34との間にはエア漏れ防止用のOリング等のシール部材35a,41aが設けられている。
【0028】
円筒状のケースヘッド35は、その内周面の上部寄り部位に、摺動部材2の円筒胴21よりも僅か(例えば20~50μm程度)に大径の円筒穴31を有している。円筒穴31の表面(ケースヘッド35の内周面の上部寄り部位)は、例えば切削加工によって平滑に形成されている。なお、ケースヘッド35の内周面の上下方向中途部位及び下部寄り部位の内径は、円筒穴31の内径よりも大きく形成されている。また、ケース胴体34の内径は、ケースヘッド35の内周面の上下方向中途部位及び下部寄り部位の内径よりも大きく形成されている。
【0029】
ケースヘッド35の外周面の上下方向略中央部に、外向きに突出したケースフランジ部36が周方向に沿って環状に設けられている。ケースフランジ部36の外径は、香料収容器5の口部51の内径よりも大きく設けられている。ケースヘッド35の外周面の下半部は、香料収容器5の口部51の内径よりも小径で上下方向に均等な外径に設けられている。また、ケース胴体34及び弁本体41の外径は香料収容器5の口部51の内径よりも小径に設けられている。これにより、ケース部材3はケースフランジ部36よりも下方側の部分が香料収容器5の口部51に挿し込み可能に構成されている。
【0030】
ケース部材3の外周面には、ケースフランジ部36の直下の部分に、ケースフランジ部36と香料収容器5との接触を防止する緩衝部材36aが外嵌している。緩衝部材36aは、例えば、フェルトや不織布などの通気性繊維シートを使用できる。ただし、緩衝部材36aの素材は、プラスチック樹脂やゴムなど、香料収容器5の損傷を防止できるものであれば特に限定されない。なお、緩衝部材36aは設けられていなくても構わない。
【0031】
ケースヘッド35の外周面の上半部は上端側ほど拡径するテーパ状に設けられている。そして、ケースヘッド35の上端部の外径は、香料収容器5の口部51の内径よりも大径に設けられている。これにより、ケースヘッド35の上端側を香料収容器5の口部51に挿し込み不能に構成しており、香料収容器5へのケース部材3の挿し込み向きの間違いを防止している。
【0032】
図3及び
図4等に示すように、ケースヘッド35の外周面の下半部(香料収容器5の口部51に挿し込まれる部分)に、上下方向に間隔をあけて設けられた複数本のシール部材保持溝37が周方向に沿って凹設されている。本実施形態では、上下2本のシール部材保持溝37が設けられている。シール部材保持溝37には、ケース部材3を香料収容器5の口部51に固定するための固定部材37aが保持されている。固定部材37aは弾性を有する素材で形成され、例えばOリング等のシール部材で形成されている。
【0033】
ケース部材3を香料収容器5の口部51に弁部材4側から挿し込んで固定部材37aを口部51の上端部に接触させた後、ケース部材3をさらに下向きに押し込み、固定部材37aを押しつぶして変形させながらケース部材3を口部51に圧入する。これにより、固定部材37aは、ケース部材3と香料収容器5との隙間の気密性を確保するとともにケース部材3を香料収容器5に固定する。具体的には、押しつぶされて圧縮した固定部材37aは、ケース部材3のケースヘッド35の外周面と香料収容器5の口部51の内周面との隙間を密閉する。
【0034】
上側のシール部材保持溝37の溝深さは、下側のシール部材保持溝37の溝深さに比べて浅く設けられている。本実施形態では、上側のシール部材保持溝37に保持される固定部材37aの外径は、下側のシール部材保持溝37に保持される固定部材37aの外径よりも大径に設けられている。つまり、ケース部材3の外周面に、外径の異なる複数の固定部材37aが設けられている。これにより、香料収容器5の口部51の内径の製造誤差を外径の異なる上下の固定部材37aで吸収できるので、ケース部材3を香料収容器5に気密性を確保しながらしっかり固定できる。また、外径の異なる上下の固定部材37aを備えていることで、口部51の内径が異なる複数種類の香料収容器5へのケース部材3の固定にも対応できる。
【0035】
なお、ケース部材3の軸方向に配列される固定部材37aの本数は3本以上であってもよい。また、ケース部材3に設けられる固定部材37aの本数は1本であっても構わない。また、拡散器1は、ケース部材3が香料収容器5に気密性を確保して取り付く構成に限定されない。例えばシール部材保持溝37及び固定部材37aが設けられていない構成など、香料収容器5の香料収容空間5Sが口部51とケース部材3との隙間を通じて外部雰囲気と連通している構成であっても構わない。
【0036】
図3及び
図4等に示すように、弁本体41は、ケース胴体34の下端側の開口を塞ぐ有底の略円筒形に設けられている。弁本体41の内部に上向き開口で有底円筒形の弁体収容凹部41cが形成されている。弁体収容凹部41cの内径は、摺動部材2の円筒胴21の外径よりも大きく設けられている。なお、弁体収容凹部41cの内径は、ケース胴体34の内径よりも小さく設けられている。内部に弁本体41の外形は、下向き略砲弾形に形成されており、香料収容器5の口部51に挿し込みやすい形状になっている。弁本体41の下端部に、外部に露出する円形の先端凹部41bが形成されている。
【0037】
弁本体41の底部には、上下方向に貫通する断面円形の弁通路42が形成されている。弁通路42の上端に、すり鉢状(円錐台側面形状)の弁座43が設けられている。弁体収容凹部41cの内部に弁体44が配置されている。弁体44は、例えば金属製又は樹脂製であり、側面視で略T字形の形態を有している。弁体44は、弁体収容凹部41cに配設される円盤状の大径部44aの下面に、弁座43に接触する円錐台形状の弁座接触部44bを備えている。弁座接触部44bの下面から下向きに延びる円筒形の軸部44cが弁通路42を挿通している。
【0038】
大径部44aの外径は、弁体収容凹部41cの内径よりも少し小さく設けられている。大径部44aの上面に、摺動部材2の下端部22が接触するすり鉢状の凹部が形成されている。軸部44cの外径は、弁通路42の内径よりも少し小径に設けられている。
【0039】
軸部44cは弁通路42の下端から下向きに突出し、先端凹部41bを挿通している。軸部44cの先端部(下端部)は、弁座接触部44bが弁座43に接触した状態で弁本体41の下端よりも下方に位置している。軸部44cの先端部に錘部材45が例えばねじ連結にて固着している。錘部材45は、弁通路42が開口する先端凹部41bの上面とは間隔をあけて設けられるとともに、弁通路42よりも大径に設けられている。これにより、弁体44は、弁本体41に上下摺動可能かつ抜け不能に保持されている。なお、弁体44が下がった状態において先端凹部41b内に錘部材45が収容されるように構成しても構わない。
【0040】
次に、拡散器1の動作について説明する。
図1及び
図4等に示すように、香料収容器5に香料Pを吸収した香料保持体を収容する。香料収容器5の口部51にケース部材3を挿し込んで固定する。香料収容器5に取り付けられたケース部材3の弁部材4は弁体44及び錘部材45の自重で閉状態になっている。
【0041】
摺動部材2の上端部23側を指で掴み、摺動部材2の下端部22をケース部材3の円筒穴31に挿し込み、円筒胴21を円筒穴31に到達させた後、手を離す。摺動部材2をケース部材3に挿し込むと、摺動部材2の重量によってケース内空間3Sの気体が圧縮され、挿入した摺動部材2はこの位置で一瞬停止する(
図7参照)。そして、摺動部材2の円筒胴21の外周面とケース部材3の円筒穴31の内周面との隙間を通じてケース内空間3Sの気体が抜け出し、摺動部材2がケース部材3内に静かにゆっくりと沈み込んでいく。
【0042】
摺動部材2は、円筒胴21がケース部材3の円筒穴31に摺接しながら、ケース部材3に自重でゆっくり沈み込んでいく。ケース部材3内に摺動部材2の円筒胴21の大部分(又は全部)がケース部材3内に収容される。これにより、摺動部材2の摺動ストロークを長くでき、摺動部材2がケース部材3にゆっくり沈み込む時間を長くして心地よい動作を堪能できる。なお、ケース部材3を香料収容器5に取り付けた後、最初に摺動部材2をケース部材3に挿し込む際には、ケース内空間3Sに香料Pが流入していないので、ケース部材3の外部への香料Pの拡散はない。
【0043】
香料Pを拡散させるにあたり、
図5に示すように、操作者は摺動部材2の上端部23側を指でつまんで、摺動部材2を上方へ引き抜く。摺動部材2の上昇によって、ケース内空間3Sで占める摺動部材2の体積が減少し、ケース内空間3Sの内圧が下がる。ケース内空間3Sの内圧低下にともなって、気化した香料Pを含む香料収容空間5Sの気体が弁部材4の弁通路42と軸部44cとの隙間を通じて弁座接触部44bを押し上げる。弁座接触部44bが弁座43から上向きに離れて弁体44及び錘部材45が持ち上がり、弁部材4が開状態になり、香料収容空間5Sの気化した香料Pが弁部材4の弁通路42を通じてケース内空間3Sに流入する。
【0044】
図6に示すように、摺動部材2が円筒穴31から完全に引き抜かれて円筒穴31が外部雰囲気に開放されると、ケース内空間3Sの内圧が外部雰囲気と同じになり、香料収容空間5Sからケース内空間3Sへの香料Pの流入が停止する。そして、弁本体41及び錘部材45は自重で下方へ下がり、弁座接触部44bが弁通路42に接触して弁部材4が閉状態になる。このとき、ケース内空間3Sには香料収容空間5Sから流入した香料Pが存在している。ケース内空間3Sの香料Pの一部は開放された円筒穴31からケース部材3外部へ拡散する。
【0045】
図7に示すように、操作者が摺動部材2の下端部22をケース部材3の円筒穴31に挿し込んで手を離すと、摺動部材2は自重でケース部材3にゆっくり沈み込んでいく。このとき、弁部材4は閉状態であるから、ケース内空間3Sの内圧が上昇し、ケース内空間3Sの香料Pが円筒胴21と円筒穴31との隙間を通じてケース部材3外部へ拡散する。香料Pの拡散は、摺動部材2の下端部22が弁体44の大径部44a上面の凹部に到達して摺動部材2の沈み込み動作が停止するまで継続する。
【0046】
このように、拡散器1は、摺動部材2をケース部材3から引き抜く際に弁部材4を通じて香料収容空間5Sからケース内空間3Sに流入した香料Pを、摺動部材2をケース部材3に挿し込む際に円筒胴21と円筒穴31との隙間を通じてケース部材3の外部雰囲気に拡散できる。また、摺動部材2をケース部材3に挿し込む際、摺動部材2の円筒胴21がケース部材3の円筒穴31に摺接しながら、摺動部材2がケース部材3に自重でゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きを簡素な構成で、しかも電気モータ等の動力源を使用することなく実現できる。
【0047】
次に、
図8~
図10を参照しながら、拡散器1の他の実施形態ついて説明する。なお、本実施形態の説明において、これまでに説明した上記実施形態と同様の構成要素については同一符号を付しており、その説明を省略する。この実施形態よりも後で説明する実施形態および参考形態についても同様である。
【0048】
本実施形態の拡散器1は、ケース部材3の外周面に、香料収容空間5Sを香料収容器5の外部雰囲気と連通させる連通用溝38が設けられている。本実施形態では、周方向に等間隔に配置された4本の連通用溝38が、ケースヘッド35の外周面の下半部に上下方向に延びて形成されている。連通用溝38は、シール部材保持溝37よりも深く形成されている。ケース部材3を香料収容器5に取り付けた状態で、連通用溝38は口部51の円筒部に対向する。なお、連通用溝38の本数や形状、大きさ等は特に限定されない。
【0049】
図10に示すように、操作者が摺動部材2を上方へ引き抜く動作を行ってケース内空間3Sの内圧が下がると、上記実施形態と同様に、弁部材4が開状態になる。そして、弁部材4を通じてケース内空間3Sと香料収容空間5Sとが連通し、香料Pがケース内空間3Sに流れ込む。
【0050】
このとき、香料収容空間5Sが密閉状態であると、ケース内空間3Sの減圧にともなって香料収容空間5Sの内圧も下がる。これにより、円筒胴21と円筒穴31との隙間を通じたケース内空間3Sへの外気の流入量が多くなって、香料収容空間5Sからケース内空間3Sへの香料Pの流入量が少なくなる。そして、摺動部材2を円筒穴31に挿し込んで降下させても、ケース部材3の外部に十分な量の香料Pが拡散されない可能性があった。このような問題は、香料収容空間5Sの体積が小さいと特に顕著になる。
【0051】
本実施形態では、
図10に示すように、操作者が摺動部材2を上方へ引き抜く動作を行ってケース内空間3S及び香料収容空間5Sの内圧が下がると、連通用溝38を通じて香料収容器5の外気が香料収容空間5Sに流入する。これにより、香料収容空間5Sの内圧変化を低減できるから、香料収容空間5Sからケース内空間3Sへの香料Pの流入量を多くでき、ひいてはケース部材3外部に十分な量の香料Pを拡散できる。このように、本実施形態の拡散器1は、弾性部材からなる固定部材37aによってケース部材3を香料収容器5に簡素な構成で固定しながら、香料収容空間5Sの内圧変化を低減できる。
【0052】
なお、ケース部材3のケースフランジ部36と香料収容器5の口部51との間の緩衝部材36aは、口部51を封止しておらず、例えばフェルト等の通気性を有する素材で形成することで、連通用溝38を通じた香料収容空間5Sへの外気の流入を実現できる。また、緩衝部材36aの一部に切欠き部やスリットを形成するなど、ケース部材3が香料収容器5に取り付けられた状態で香料収容器5の口部51と外部雰囲気とを連通させる構成はどのような構成であっても構わない。
【0053】
また、香料収容器5に香料収容空間5Sと外部雰囲気とを連通する連通用通路を設けるようにしても構わない。この場合、当該連通用通路に、香料収容器5内の香料収容空間5Sへの気体の流入を許容する一方、香料収容空間5Sからの気体の流出を抑制する弁部材をさらに設けてもよい。これにより、当該連通用通路を通じた香料Pの拡散を防止できる。
【0054】
上記実施形態では、摺動部材2はケース部材3から完全に引き抜き可能に構成しているが、摺動部材2をケース部材3に対して摺動可能かつ抜け不能に保持しても構わない。例えば、
図11に示すように、摺動部材2の下部に円筒胴21の外周面よりも外側へ突出するストッパー部25を設けてもよい。摺動部材2をケース部材3から引き抜く(引き上げる)際に、ストッパー部25がケース部材3内で円筒穴31の下端側開口の周囲部に接触することで、摺動部材2の抜けを不能にできる。これにより、摺動部材2の紛失を防止できる。
【0055】
さて、本願発明者は、ペン本体がケース部材にゆっくりと沈み込む機能を有するとともに持ち運び可能な筆記具を発明した(特開2022-023505号公報参照)。当該筆記具の発明は、ペン本体の円筒胴とケース部材の円筒穴との隙間を通じてケース部材内の空気が抜け出すことでペン本体が自重でケース部材内にゆっくりと沈み込むように構成したものである。本願発明者は、簡素な構成で心地よい動きを実現できる当該筆記具の構成を香料の拡散器に適用できることを見出した。
【0056】
図12~
図20を参照しながら、筆記具として使用できる拡散器の実施形態を説明する。
図12~
図20に示すように、拡散器101は、円筒胴121を有するペン本体102と、ペン本体102を収容する有底筒状のケース部材103とを備えている。ペン本体102は、ケース部材103の円筒穴131に挿し込まれる円筒胴121を有する摺動部材を構成している。
【0057】
ケース部材103は、一端にペン本体102が挿し込まれる円筒穴131を有し、他端に閉塞した底部132を有している。ケース部材103内に香料Pを収容する香料収容部104を備えている。拡散器101は、ペン本体102が円筒穴131を摺動してケース部材103内に挿入されるように構成している。具体的には、拡散器101は、ペン本体102の円筒胴121とケース部材103の円筒穴131との隙間を通じてケース部材103の内部の香料Pを含む気体が抜け出すことでペン本体102が自重でケース部材103内にゆっくりと沈み込むように構成されている。
【0058】
ケース部材103のケース内空間103Sの気体には、気化した香料Pが香料収容部104の香料収容空間104Sから拡散している。ペン本体102がケース部材103に沈み込む過程で、ケース部材103内部のケース内空間103Sの香料Pが円筒胴121と円筒穴131との隙間を通じてケース部材103の外部に拡散する。
【0059】
円筒胴121を有するペン本体102は、先端側(ペン先側)に先端磁性部材122を備え、後端側(ペン尻側)に後端磁性部材123を備えており、先端側と後端側のどちらからでもケース部材103内に抜き差し可能に構成されている。ケース部材103の底部132には、ケース部材103内に収容されたペン本体102の先端磁性部材122又は後端磁性部材123を吸引する永久磁石133が設けられている。
【0060】
図17(A)に示すように、ケース部材103の円筒穴131側を上向きにした状態で、ペン本体102を先端側(先端磁性部材122側)からケース部材103に挿し込むと、ペン本体102の重量によりケース部材103内部の気体が圧縮され、挿入したペン本体102はこの位置で一瞬停止する(
図17(B)参照)。そして、ペン本体102の円筒胴121の外周面と円筒穴131の内周面との隙間を通じてケース部材103内部の香料Pを含む気体が抜け出し、ペン本体102がケース部材103内に静かにゆっくりと沈み込んでいき、
図12(A)及び
図13(A)に示した状態となる。この状態で、ペン本体102の先端磁性部材122が永久磁石133に吸引され、ペン本体102はケース部材103内に固定される。
【0061】
また、
図18(A)に示すように、ペン本体102を後端側(後端磁性部材123側)からケース部材103に挿し込むと、ペン本体102を上端側から挿し込んだときと同様にしてペン本体102がケース部材103内に静かにゆっくりと下降していき、
図12(C)及び
図13(B)に示した状態となる。この状態で、ペン本体102の後端磁性部材123が永久磁石133に吸引され、ペン本体102はケース部材103内に固定される。
【0062】
拡散器101によれば、ペン本体102をケース部材103に収容する際、ペン本体102の円筒胴121がケース部材103の円筒穴131に摺接しながら、ペン本体102がケース部材103にゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きを実現できる。そして、ケース部材103の底部132に、ペン本体102の先端磁性部材122又は後端磁性部材123を吸引する永久磁石133を設けることで、ケース部材103の円筒穴131側を下向きにしても、ペン本体102がケース部材103から抜け出すことを防止できるので、持ち運びに適した筆記具機能を有する拡散器101を提供できる。
【0063】
次に、拡散器101の各部の詳細について説明する。
図14に示すように、ペン本体102は、例えばボールペンであり、円筒形の円筒胴121を有している。円筒胴121は、非磁性体のステンレス製であり、外周面が例えば研磨仕上げ処理によって平滑に形成されている。
【0064】
円筒胴121の一端(前端側)に略砲弾形筒状の口金からなるペン先部材124がねじ連結にて固着されている。ペン先部材124は、非磁性体のステンレス製であり、強磁性体材料からなるチップを抜け不能に固定している。本実施形態では、当該チップが先端磁性部材122を構成している。先端磁性部材122(チップ)の先端にはボールが回転可能に保持されている。
【0065】
円筒胴121の他端(後端側)に栓部材125がねじ連結にて取り付けられている。栓部材125は非磁性体のアルミニウム合金製である。栓部材125の後端側は、略円柱形状で外周面の軸方向中央部が凹んだ鼓状に形成されて、摘み部125aを構成している。本実施形態では、栓部材125の後端側は、円筒胴121に連結される略円柱形の前端側に比べて小径に形成されている。
【0066】
非磁性体材料からなる栓部材125の後端に、強磁性体材料からなる後端磁性部材123が設けられている。本実施形態では、後端磁性部材123は、栓部材125の後端面に穿設された穴に挿し込まれた鉄ピンで構成され、例えば接着剤にて栓部材125に固着されている。栓部材125の後端面に露出する後端磁性部材123の面積は、栓部材125の後端面の面積よりも小さい。
【0067】
ペン本体102のペン先部材124及び栓部材125は、最大径が円筒胴121の外径と同じか、又はそれよりも小さくなっており、ケース部材103の円筒穴131を挿通可能に形成されている。
【0068】
図15に示すように、ケース部材103は、略円筒形のケース胴体134と、ケース胴体134の一端に取り付けられた略円筒形のケースブッシュ135と、ケース胴体134の他端に取り付けられた略円錐台形のケース栓136とを備えている。ケース胴体134、ケースブッシュ135及びケース栓136は非磁性体のアルミニウム合金製である。ケースブッシュ135及びケース栓136のそれぞれは、ケース胴体134にねじ連結にて固着されている。ケース胴体134の外形は、外周面の軸方向中央部が凹んだ鼓状に形成されている。
【0069】
ケース部材103の一端側に、他端側へ向かって延びるクリップ137が設けられている。
図16に示すように、ケース胴体134の一端側(ケースブッシュ135側)の端面に、クリップ137のY字状の基端部137aを保持するクリップ保持溝134aが形成されている。クリップ137の基端部137aをクリップ保持溝134aに配置してケース胴体134とケースブッシュ135とで挟み込むことで、ケース部材103にクリップ137が脱落不能に保持される。なお、従来のクリップ保持方法と同様に、クリップ137の基端部を円環状に設け、円環状基端部をケース胴体134端面とケースブッシュ135端面とで挟み込むことで、クリップ137を保持することも可能である。
【0070】
ケースブッシュ135は、ペン本体102の円筒胴121よりも僅か(例えば20~50μm程度)に大径の円筒穴131を有している。円筒穴131の表面(ケースブッシュ135の内周面)は、例えば切削加工によって平滑に形成されている。ケースブッシュ135の外形は、略砲弾形であり、ケース胴体134との継ぎ目部分から湾曲しながら先端側ほど小径に形成されている。なお、ケース胴体134の内径は、円筒穴131の内径よりも大きく形成されている。
【0071】
ケース栓136は、ケース胴体134の他端側の開口を塞いでおり、底部132を形成している。底部132には、磁石収容凹部136aが形成されている。磁石収容凹部136a内にドーナツ型の永久磁石133が例えば接着剤にて固定されている。ケース栓136の外形は、略砲弾形であり、ケース胴体134との継ぎ目部分から湾曲しながら先端側ほど小径に形成されている。
【0072】
ケース栓136の先端部に、外部に露出する先端凹部136bが形成されている。先端凹部136bには、例えばロゴプレートや導電性部材136cなどを取り付けることができる。先端凹部136bに導電性ゴムや導電性繊維などの導電性部材136cを固着することで、拡散器101を、タブレットやスマートフォンなどを操作するタッチペンとして使用できる。
【0073】
ケース栓136の内部に、香料Pを収容する香料収容部104が形成されている。香料収容部104は、磁石収容凹部136aと先端凹部136bとの間に形成された略円柱形の香料収容空間104Sを有している。香料収容空間104Sは小径通路138を通じて磁石収容凹部136aと連通している。すなわち、香料収容部104の香料収容空間104Sはケース部材103のケース内空間103Sの一部分を構成している。香料収容部104には、例えば液体の香料Pを吸収した香料保持体を収容している。気化した香料Pは、香料収容部104から小径通路138を通じて磁石収容凹部136a内に拡散し、さらに、先端磁性部材122の穴を通じてケース胴体134内部に拡散する。
【0074】
また、香料収容部104の小径通路138とは反対側の面は先端凹部136bの底面に開口している。先端凹部136bには、香料収容部104の開口を閉塞するキャップ部材139が着脱可能に取り付けられている。キャップ部材139は、例えばねじ込み式であり、Oリング等のシール部材(図示省略)によって先端凹部136bに気密性を確保して取り付けられる。キャップ部材139を取り外すことで、香料収容部104に収容する香料Pの補充又は交換を行える。なお、キャップ部材139は、先端凹部136bから突出してケース栓136の先端部に取り付けられていても構わない。この場合、キャップ部材139を指で摘んで回転させることでケース栓136に着脱可能に構成しても構わない。
【0075】
図12(A)及び
図13(A)に示すように、ペン本体102のペン先(ペン先部材124側)をケース部材103内に挿し込んだ状態では、円筒胴121の全体がケース部材103内部に位置し、ケース部材103から栓部材125の摘み部125aが露出している。これにより、栓部材125がケース部材103から露出する長さ寸法を短くしても、ユーザは摘み部125aを指先で掴んでペン本体102をケース部材103から容易に引き出すことができる。
【0076】
また、
図12(C)及び
図13(B)に示すように、ペン本体102のペン尻(栓部材125側)をケース部材103内に挿し込んだ状態では、ペン本体102の円筒胴121のほぼ全体がケース部材103内部に位置し、ケース部材103から先端磁性部材122(チップ)及びペン先部材124が露出している。このように、ペン本体102のペン先側がケース部材103から露出する長さ寸法が短くなっており、ケース部材103をペン軸として使用する際の使い勝手が良くなっている。
【0077】
また、ケース部材103のケース胴体134は、軸方向中央部が凹んだ鼓状に形成されており、ユーザがケース部材103をペン軸として使用する際、親指、人差し指及び中指の指先でケース部材103の先端側(円筒穴131側)を把持したときにケース胴体134の凹んだ部分が親指と人差し指の付け根部分にフィットするので、ケース部材103を使い心地のよいペン軸として使用できる。なお、ユーザがケース部材103をペン軸として使用する際、ケース部材103の先端側に設けたクリップ137は、滑り止めや指先の位置決めとして使用できる。
【0078】
図12及び
図13に示したように、ペン本体102をペン先側又はペン尻側のどちらからケース部材103に挿し込んでも、円筒胴121の大部分(又は全部)がケース部材103内に収容されるので、ペン本体102の摺動ストロークを長くでき、ペン本体102がケース部材103にゆっくり沈み込む時間を長くして心地よい動作を堪能できる。また、ケース部材103に収容されるペン本体102の体積が大きいと、ケース内空間103Sの香料Pを含む気体が円筒胴121と円筒穴131との隙間を通じて押し出される量が多くなるので、ケース部材103外部への香料Pの拡散量を多くできる。
【0079】
図13(A)に示すように、ペン本体102が先端側(先端磁性部材122側)からケース部材103に挿入されたとき、先端磁性部材122(チップ)は円環状の永久磁石133の内側に位置して永久磁石133に吸引される。ペン本体102のペン先を構成する先端磁性部材122の先端に保持したボールは、ドーナツ型の永久磁石133の穴に位置し、永久磁石133及び香料Pを保持する香料保持体を含めケース部材103を構成する部材には接触しないようにすることで保護されている。また、香料収容空間104Sにおいて香料Pを保持する香料保持体には、ペン本体102のいずれの箇所も接触しないように構成されている。これにより、例えば液体の香料Pがペン本体102に直接付着するのを防止できる。
【0080】
一方、
図13(B)に示すように、ペン本体102が後端側(後端磁性部材123側)からケース部材103に挿入されたとき、後端磁性部材123は永久磁石133の上面に接触して永久磁石133に吸引される。後端磁性部材123と永久磁石133との吸引力は、先端磁性部材122と永久磁石133との吸引力に比べて小さい。
【0081】
このように、後端磁性部材123と永久磁石との吸引力を先端磁性部材122と永久磁石133との吸引力に比べて小さくすることで、ペン本体102のペン先側(後端磁性部材123)がケース部材103内に挿し込まれた状態ではケース部材103を振ってもペン本体102が飛び出しにくいが、
図19(A)に示すように、ペン本体102がペン尻側(先端磁性部材122)から挿し込まれた状態ではケース部材103を下向きに振ることで、ペン本体102をケース部材103から取り出す(後端磁性部材123を永久磁石133から脱離させる)ことができる。
【0082】
これにより、ユーザは、ケース部材103から露出したペン先に触れることなくペン本体102をケース部材103から取り出すことができ、ユーザの指先へのインク付着を防止できる。なお、ケース部材103を下向きに振って後端磁性部材123を永久磁石133から脱離させるときに、円筒胴121と円筒穴131との隙間からケース部材103内に流入する空気量が制限されるので、ペン本体102が一気に抜け出すことはない。
【0083】
なお、ケース部材103から露出したペン先部材124を摘んでペン本体102をケース部材103から引き抜くことも可能である。例えば
図19(B)に示すように、ペン本体102のペン先部材124に周方向に沿った溝124aを形成してもよい。このような態様によれば、ペン先部材124を摘んだ際に溝124aが滑り止めとなってペン本体102を引き抜きやすくなるので、利便性が向上する。
【0084】
図20に示すように、例えば衣服の胸ポケットに、円筒穴131を上側にした状態でケース部材103を挿し込み、胸ポケット上部にクリップ137を挿し込むことで、ケース部材103を胸ポケットにしっかり固定できる。これにより、ユーザは片手でペン本体102を抜き差し可能になり、利便性が向上する。また、円筒穴131を上側にして胸ポケットに挿し込んだケース部材103にペン本体102を上方から挿し込むことで、ユーザの胸ポケットにてペン本体102がケース部材103にゆっくり沈み込んでいく心地のいい動きを実現でき、コミュニケーションツールとしての機能が向上する。
【0085】
なお、ペン本体102のペン先部材124を強磁性体材料で形成して先端磁性部材としてもよい。また、ペン本体102の先端側(ペン先側)に強磁性体からなる部材を別途設けて、先端磁性部材としてもよい。また、栓部材125自体を強磁性体材料で形成して後端磁性部材としてもよい。また、ペン本体102の先端側又は後端側もしくはそれらの両側に非磁性体からなるスペーサ部材を設けて先端磁性部材又は後端磁性部材もしくは両磁性部材と永久磁石133との吸引力を調節することも可能である。
【0086】
次に、
図21を参照しながら、拡散器101の変形例を説明する。本実施形態の拡散器101は、ケース部材103に、ケース部材103内のケース内空間103Sへの気体の流入を許容する一方、該ケース内空間103Sからの気体の流出を抑制する弁部材4を備えている。本実施形態では、弁部材4は、
図1~
図7を参照して説明した上記実施形態の拡散器1の弁部材4(
図4等参照)と同じ構造を有している。本実施形態の拡散器101では、弁部材4は、ケース栓136の先端凹部136bにOリング等のシール部材(図示省略)によって気密性を確保しながらねじ連結している。
【0087】
弁部材4の弁体収容凹部41cは香料収容部104と連通している。弁体収容凹部41cと香料収容部104との間に、香料Pを吸収した香料保持体の弁体収容凹部41c側への移動を防止する保持体規制部材46が介設している。本実施形態では、保持体規制部材46は、例えば樹脂製又は金属製のドーナツ型部材で形成されている。弁部材4の弁体収容凹部41cは保持体規制部材46の穴を通じて香料収容部104の香料収容空間104Sと連通している。
【0088】
弁部材4は、弁体44を弁座43に向けて付勢する弾性部材47を備えている。弾性部材47は、拡散器101が姿勢変更されても、例えば弁部材4が上側になる姿勢になっても、弁部材4を閉状態に保持する。本実施形態では、弾性部材47は、先端凹部41bの底面と錘部材45との間に位置するように弁体44の軸部44c(
図4等参照)に外嵌した圧縮ばねで形成されている。
【0089】
なお、弾性部材47は、弁体44を弁座43に向けて付勢して拡散器101が姿勢変更されても弁部材4を閉状態に維持できるものであればよい。例えば、弾性部材47は弁体収容凹部41cに内設される圧縮ばねで構成されても構わない。
【0090】
先端凹部41bは、弁体44とともに摺動する錘部材45の移動範囲が先端凹部41b内に収まる深さに設けられている。これにより、錘部材45に手などの異物が接触することによる弁部材4の開動作が防止されている。
【0091】
本実施形態の拡散器101では、ペン本体102をケース部材103から引き抜かれるときにケース部材103のケース内空間103Sが減圧することで、弁部材4の弁体44が弾性部材47の弾性力に抗して弁座43から離れ、弁部材4が開状態になる。そして、ケース部材103の外部の空気が弁部材4を通じて香料収容部104の香料収容空間104Sに流入し、流入した空気が気化した香料Pともに永久磁石133の穴を介してケース内空間103Sの円筒穴131側の空間に流入する。ペン本体102がケース部材103から完全に引き抜かれると、ケース内空間103Sが円筒穴131を通じて大気に開放され、弁体44が弾性部材47の弾性力によって弁座43に接触して弁部材4が閉状態になる。
【0092】
ペン本体102がケース部材103に挿し込まれるときには、弁部材4は閉状態を維持し、ペン本体102はケース部材103にゆっくりと沈み込む。そして、香料Pを含むケース内空間103S内の気体が円筒胴121と円筒穴131との隙間を通じてケース部材103外部へ拡散する。
【0093】
本実施形態の拡散器101は、ペン本体102をケース部材103から引き抜く際に、弁部材4が開状態になることで香料収容空間104Sの香料Pをケース内空間103Sの円筒穴31側の空間により多く流入させる(強制的に拡散させる)ことができる。そして、ペン本体102をケース部材103に挿し込むときに、より多くの香料Pを拡散できる。
【0094】
上記実施形態の拡散器101は、ペン本体102に替えて、円筒穴131に摺接する円筒胴121を有する摺動部材を採用すれば、持ち運び可能な拡散器として使用できる。この場合、摺動部材の一端側及び他端側の少なくとも一方に、永久磁石133に磁着する磁性部材を設けることで、拡散器101の姿勢変更による摺動部材の脱落を防止できる。
【0095】
また、拡散器101を据置きタイプの拡散器として使用する場合には、永久磁石133を設けなくてもよいし、永久磁石133に磁着する磁性部材をペン本体102に設けなくてもよい。この場合、ケース部材103の形状を安定して自立可能な形状などに適宜変更可能である。また、拡散器101が据置き型である場合にはクリップ137を設けなくてもよい。
【0096】
このように、拡散器101の構成は据置きタイプの拡散器にも適用可能である。すなわち、
図21を参照して説明した拡散器101は、拡散器101は、円筒胴121を有する摺動部材102と、前記摺動部材102が挿し込まれる円筒穴131を有するケース部材103とを備え、前記円筒胴121と前記円筒穴131との隙間を通じて前記ケース内空間103Sの気体が抜け出すことで前記摺動部材102が自重で前記ケース部材103内にゆっくりと沈み込むように構成されており、前記ケース内空間103Sに香料を収容する香料収容空間104Sを有するとともに、前記ケース部材103の前記円筒穴131とは異なる箇所に、前記香料収容空間104Sへの気体の流入を許容する一方、前記香料収容空間104Sからケース部材103外部への気体の流出を抑制する弁部材4が設けられる。
【0097】
また、
図12~
図20に示した拡散器101は、円筒胴121を有する摺動部材102と、前記摺動部材102が挿し込まれる円筒穴131を有するケース部材103とを備え、前記円筒胴121と前記円筒穴131との隙間を通じて前記ケース部材103のケース内空間103Sの気体が抜け出すことで前記摺動部材102が自重で前記ケース部材103内にゆっくりと沈み込むように構成されており、前記ケース内空間103Sに香料を収容する香料収容空間104Sを備えている。
【0098】
このような態様において、ケース内空間103Sで香料収容空間104Sを設ける位置や、ケース部材103に弁部材4を設ける位置は適宜変更可能である。例えば、香料収容空間104S及び弁部材4は、摺動部材102の軸線から横方向へ離れた位置に配設されても構わない。また、摺動部材102は筆記具機能を有していなくてもよい。
【0099】
以上、実施形態を説明したが、本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば、前述した実施形態及び変形例(尚書き等)で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。
【0100】
例えば、
図1~
図11を参照して説明した各実施形態において、摺動部材2は円筒胴21を有するボールペン等の筆記具であっても構わない。このような態様によれば、拡散器1をペン立てとして使用できる。また、弁部材4は、ケース部材3の円筒穴31とは異なる箇所に、ケース部材3内のケース内空間3Sへの気体の流入を許容する一方、ケース内空間3Sからの気体の流出を抑制できるものであれば、どのような構成であっても構わない。弁部材4が香料収容空間104Sへの気体の流入及び流出を制御する場合も同様である。
【符号の説明】
【0101】
1,101 拡散器
2 摺動部材
3,103 ケース部材
3S,103S ケース内空間
4 弁部材
5 香料収容器
5S,104S 香料収容空間
21,121 円筒胴
31,131 円筒穴
38 連通用溝
102 ペン本体(摺動部材)
P 香料