(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066200
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】靴下及び靴下の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A41B11/00 G
A41B11/00 F
A41B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175614
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000144784
【氏名又は名称】株式会社山忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【弁理士】
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】中林 功一
(72)【発明者】
【氏名】皆川 博美
(72)【発明者】
【氏名】中林 知宏
(72)【発明者】
【氏名】亀山 貴司
【テーマコード(参考)】
3B018
【Fターム(参考)】
3B018AA01
3B018AB08
3B018AD01
3B018EA01
(57)【要約】
【課題】着用することで特定の趾の矯正を日常的に行うことができる靴下を提供する。
【解決手段】靴下は、表糸及び裏糸により編成された靴下であって、裏糸として少なくとも弾性糸が用いられ、つま先部において、特定の趾が挿入される趾袋が、他の趾が挿入される趾袋から分離して設けられ、少なくとも特定の趾が挿入される趾袋において、裏糸として、表糸の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する糸である高摩擦糸がさらに用いられ、特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表糸及び裏糸により編成された靴下であって、
裏糸として少なくとも弾性糸が用いられ、
つま先部において、特定の趾が挿入される趾袋が、他の趾が挿入される趾袋から分離して設けられ、
少なくとも前記特定の趾が挿入される趾袋において、裏糸として、表糸の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する糸である高摩擦糸がさらに用いられ、
前記特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されている、靴下。
【請求項2】
前記高摩擦糸の摩擦係数は、前記他の趾が挿入される趾袋における裏糸の摩擦係数よりも高い、請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、平編みにより編成され、1コース編成する毎に少なくとも1ピッチが目移しされている、請求項1に記載の靴下。
【請求項4】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、1コース編成する毎に1ピッチ以上4ピッチ以下目移しされている、請求項3に記載の靴下。
【請求項5】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋であり、該小趾袋が甲側から見て内側に捻じれるように編成されている、請求項1~4のいずか1項に記載の靴下。
【請求項6】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋であり、該小趾袋が甲側から見て外側に捻じれるように編成されている、請求項1~4のいずか1項に記載の靴下。
【請求項7】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、母趾が挿入される母趾袋であり、該母趾袋が甲側から見て内側に捻じれるように編成されている、請求項1~4のいずか1項に記載の靴下。
【請求項8】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、母趾が挿入される母趾袋であり、該母趾袋が甲側から見て外側に捻じれるように編成されている、請求項1~4のいずか1項に記載の靴下。
【請求項9】
前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋及び母趾が挿入される母趾袋であり、前記小趾袋及び前記母趾袋の各々が甲側から見て外側又は内側に捻じれるように編成されている、請求項1~4のいずか1項に記載の靴下。
【請求項10】
表糸及び裏糸により編成される靴下の製造方法であって、
裏糸として少なくとも弾性糸が用いられ、
前記靴下のつま先部において、特定の趾が挿入される趾袋が、他の趾が挿入される趾袋から分離して設けられ、
前記特定の趾が挿入される趾袋を編成する工程において、
前記弾性糸に加え、表糸の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する糸を裏糸として供給する工程と、
1コース編成する毎に、一方向に少なくとも1ピッチずつ目移ししながら平編みする工程と、含み、
前記特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されている、靴下の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下及び靴下の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する意識が一般市民の間でも高まっている一方、何等かの足のトラブルを抱えている人は多い。
【0003】
足の健康に関して、靴下を着用することにより足のトラブルを改善することも提案されている。例えば特許文献1には、外反母趾対策用のレッグウェアとして、靴下のフート部に、ゴム糸を用いて編成された爪先側サポートを設け、この爪先側サポートから親指部1に至るまで、ゴム糸を用いて編成されたサイドサポートを設けた靴下が開示されている。特許文献1においては、これにより、靴下の着用時、サイドサポートが非着用状態の形状に戻ろうとする力が踵側へ働き、その力を利用して、着用者の足の親指を収容する親指部の側面に対して、踵側へ引っ張る力を加えることができ、その結果、着用者の足の親指に対して人差し指(第2指から離れる側に向く方向の力)を加えることができるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、足の小指が親指方向に曲がる内反小跡を防止又は矯正する内反小跡用くつ下として、くつ下の爪先部が、足の小指が挿入される小指部、親指が挿入される親指部及び他の指が挿入される他の指部に三分割されて形成され、小指部が、他の指部から独立して形成されていると共に、その先端部がくつ下の側方に突出するように形成されているくつ下が開示されている。
【0005】
特許文献3には、親指を嵌入する親指袋と、小指を嵌入する小指袋と、人差指と中指と薬指とを嵌入する中間袋を足先に形成し、親指袋のつけ根に沿って中間袋の人差指側のつけ根端までと、小指袋のつけ根に沿って、中間袋の薬指側のつけ根端までとがタック編み目で編成されている靴下が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-34718号公報
【特許文献2】特開2002-266109号公報
【特許文献3】実用新案登録第3210355号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中林功一、ほか著「小趾の回外矯正による小趾回外角度の変化とバランス機能改善効果の検討」、日本整形靴技術協会雑誌、2021年第6巻第33~36頁、2021年12月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らが100人に対して行った調査によれば、外反母趾角度が15°以上の外反母趾を抱えている人は48.4%、内反小趾角度12°以上の内反小趾を抱えている人は67%であり(両方の該当者あり)、いずれにも該当しない者はわずか23%であった(いずれも左右の足の平均)。
【0009】
また、内反小趾に伴い、小趾回外の角度が増加していることが多く、浮趾(趾が接地していないこと)も多数見られることが明らかになった。そこで、本願発明者らは、小趾回外の矯正が身体のバランス機能に影響を与えることを明らかにする目的で研究を行い、身体のバランス機能向上のためには、小趾が回内外中間位に近づく形態となることが望ましいという知見を得た(非特許文献1参照)。
【0010】
このように、小趾回外をはじめとして、各趾が適正な位置や向きにあることは、全身の健康や生活に影響を及ぼし得る。一方、特に小趾回外などは痛みを伴うこが少ないため、放置している人は多く、症状があるにしても軽症のうちは我慢してしまう人が多い。そのため、テーピング等の手間を伴うことなく、母趾や小趾といった特定の趾の回外・回内等の症状を改善又は進行を抑制できるよう、趾の矯正を日常的に行うことができる手段が望まれる。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、着用することで特定の趾の矯正を日常的に行うことができる靴下及び靴下の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である靴下は、表糸及び裏糸により編成された靴下であって、裏糸として少なくとも弾性糸が用いられ、つま先部において、特定の趾が挿入される趾袋が、他の趾が挿入される趾袋から分離して設けられ、少なくとも前記特定の趾が挿入される趾袋において、裏糸として、表糸の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する糸である高摩擦糸がさらに用いられ、前記特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されている。
【0013】
上記靴下において、前記高摩擦糸の摩擦係数は、前記他の趾が挿入される趾袋における裏糸の摩擦係数よりも高くても良い。
【0014】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、平編みにより編成され、1コース編成する毎に少なくとも1ピッチが目移しされていても良い。
【0015】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、1コース編成する毎に1ピッチ以上4ピッチ以下目移しされていても良い。
【0016】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋であり、該小趾袋が甲側から見て内側に捻じれるように編成されていても良い。
【0017】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋であり、該小趾袋が甲側から見て外側に捻じれるように編成されていても良い。
【0018】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、母趾が挿入される母趾袋であり、該母趾袋が甲側から見て内側に捻じれるように編成されていても良い。
【0019】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、母趾が挿入される母趾袋であり、該母趾袋が甲側から見て外側に捻じれるように編成されていても良い。
【0020】
上記靴下において、前記特定の趾が挿入される趾袋は、小趾が挿入される小趾袋及び母趾が挿入される母趾袋であり、前記小趾袋及び前記母趾袋の各々が甲側から見て外側又は内側に捻じれるように編成されていても良い。
【0021】
本発明の別の態様である靴下の製造方法は、表糸及び裏糸により編成される靴下の製造方法であって、裏糸として少なくとも弾性糸が用いられ、前記靴下のつま先部において、特定の趾が挿入される趾袋が、他の趾が挿入される趾袋から分離して設けられ、前記特定の趾が挿入される趾袋を編成する工程において、前記弾性糸に加え、表糸の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する糸を裏糸として供給する工程と、1コース編成する毎に、一方向に少なくとも1ピッチずつ目移ししながら平編みする工程と、含み、前記特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、靴下のつま先部において、裏糸に高摩擦糸が用いられ、特定の趾が挿入される趾袋が特定の方向に捻じれるように編成されているので、着用者の特定の趾に、該趾を特定の方向に回転させる力を作用させることができる。従って、靴下を着用することにより、特定の趾の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図1に示す靴下をつま先側から見た模式図である。
【
図4】
図1に示す小趾袋の編成方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図1に示す小趾袋の編成方法を説明するための模式図である。
【
図6】編み機の針にかけられた編み目の状態を示す模式図である。
【
図7】小趾部における編地の表側を拡大して示す模式図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【
図9】
図8に示す靴下をつま先側から見た模式図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【
図12】本発明の第5の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る靴下及び靴下の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0025】
(第1の実施形態)
図1及び
図2は、本発明の第1の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図である。このうち
図1は、靴下の甲側を示し、
図2は、靴下の足底側を示している。また、
図3は、
図1に示す靴下をつま先側から見た模式図である。
図3の(a)及び(b)において、紙面に向かって上側が甲側であり、下側が足底側である。なお、
図1~
図3においては右足用の靴下を示しており、左足用の靴下は、
図1~
図3に示す靴下と対称の形状となる。
【0026】
本実施形態に係る靴下1は、綿、ウール、シルク、ナイロンやウレタン等の合成繊維などの糸(繊維)を材料として、編み機等によって編成することにより作製されるニットである。靴下1は、着用者のくるぶしからつま先までを覆うフット部11と、着用者のくるぶしから上方の脚部を覆うレッグ部12とを備える。レッグ部12の端部には、足を挿入するための開口が設けられ、この開口周囲に口ゴム部13が設けられている。また、
図2に示すように、フット部11の足底側には踵部14が設けられている。
【0027】
靴下1のつま先部15においては、小趾が挿入される小趾袋16が、他の趾が挿入される趾袋17から分離して設けられている。小趾袋16及び趾袋17の先端には、綴じ目16a及び17aがそれぞれ形成されている。また、小趾袋16は、甲側から見て内側(趾袋17の側)に捻じれるように編成されている。そのため、
図3の(a)に示すように、小趾袋16の綴じ目16aも、水平に対し、内側に回転するように傾斜した状態となっている。
【0028】
このような靴下1は、口ゴム部13の側から編成を開始し、つま先部15の付け根から小趾袋16及び趾袋17を分離させてそれぞれ編成することにより製造することができる。靴下1は、例えば、ホールガーメント(登録商標)横編機(株式会社島精機製作所の製品)を用いることにより、靴下1全体を連続的に、先端の綴じ目16a,17aを含めて無縫製で製造することができる。もちろん、靴下1の製造方法はホールガーメント(登録商標)横編機を用いる方法に限定されず、公知の種々の編み機を用いて製造することができる。
【0029】
また、靴下1は、2系統の糸を同時に引き込みながら表裏に編み分けるプレーティング編成により編成される。表糸(主糸)としては、例えば、綿、ウール、シルク等の天然繊維、ナイロン等の合成繊維、又はこれらの混紡が用いられる。また、裏糸(添糸)としては、例えば、天然ゴム糸、合成ゴム糸、ウレタンをナイロンでカバーリングした糸(ナイロンカバーリングウレタン糸)等の弾性糸が用いられる。表糸及び裏糸の材料は、靴下1がほどよい圧力で着用者の足にフィットするように、適宜選択することが好ましい。
【0030】
また、少なくとも小趾袋16の部分を編成する際には、裏糸として、上記弾性糸と共に、比較的高い摩擦係数を有する糸(以下、高摩擦糸ともいう)が用いられる。ここで、比較的高い摩擦係数とは、裏糸が表出する小趾袋16の内面において小趾が滑りにくくなる程度の静止摩擦係数のことである。小趾部16において裏糸として使用される高摩擦糸の摩擦係数は、少なくとも、表糸の摩擦係数よりも高い。裏糸として使用される高摩擦糸の種類は特に限定されない。高摩擦糸の一例として、帝人フロンティア株式会社製の超極細ポリエステル繊維(製品名:ナノフロント(登録商標))が挙げられる。当該製品は、繊維径が非常に細いため、当該製品を使用した糸においては表面積が大きくなる。そのため、このような糸を裏糸の1つとして使用することで、裏糸が表出する小趾袋16の内面の摩擦係数を大きくすることができる。それにより、小趾袋16内において小趾が滑りにくくなり、小趾袋16に着用者の小趾をグリップさせることができる。
【0031】
なお、小趾袋16以外の部分を編成する際にも、裏糸として、弾性糸と共に高摩擦糸を使用しても良い。例えば、靴下1の甲部や足底部の一部において、高摩擦糸を使用することで、靴下1のずれを防止し、フィット感を向上させることができる。一方、靴下1全体を編成する際に、裏糸に高摩擦糸を使用すると、靴下の内面に対する皮膚の滑りが悪くなるため、着用者に心地良くないと感じさせてしまうことも考えられる。
【0032】
靴下1の編成方法は、小趾袋16以外の部分については特に限定されない。例えば、平編みであっても良いし、リブ編み、タック編みなど、他の編成方法であっても良い。また、部位によって伸縮性が変化するように編成方法を変えても良いし、部分的に装飾を施しても良い。
【0033】
一方、小趾袋16は、裏糸として弾性糸及び高摩擦糸を用いて平編みをすると共に、1コース毎に少なくとも1ピッチを一方向に目移しすることにより編成される。ここで、目移しとは、編み目を他の針に移す動作のことである。
【0034】
図4及び
図5は、小趾袋16の編成方法を説明するための模式図であり、例えばホールガーメント(登録商標)横編機が備える1対の針床N1,N2に設けられた針の一部を示している。なお、
図4及び
図5は、編成中の靴下をつま先側から見た状態を示している。本実施形態においては、理解を容易にするため、各針床N1,N2に配置された針のうち、針Na
1~Na
20,Nb
1~Nb
20において小趾袋16の編成が行われるものとする。ただし、目移しをする際には、針Na
1~Na
20,Nb
1~Nb
20の近傍の針も使用される。
【0035】
図4に示すように、表糸S1並びに裏糸S2(弾性糸及び高摩擦糸)はそれぞれ、表糸用給糸口100及び裏糸用給糸口110からキャリッジ(図示せず)に供給される。このキャリッジを針床N1,N2間においてを往復走行させながら、各針において順次ループが形成される。
図4においては、下段の端部の針Nb
20からスタートし、キャリッジを図の右方から左方に向けて走行させることにより、針Nb
20~Nb
1において順次編み目b20~b1が形成され、続いて、キャリッジの向きを反転させて図の左方から右方に向けて走行させることにより、針Na
1~Na
20において順次編み目a1~a20が形成される。
図4は、1つのコースの編成が終了した段階を示している。
【0036】
図6は、編み機の針Na
1~Na
20及びNb
1~Nb
20にかけられた編み目の状態を示している。
図6に示す各マス目は1つの編み目を示し、各マス目において斜線を付した側が裏目側を示している。
図6の(a)に示すように、1つのコースC1の編成が終了した段階では、当該コースC1において、編地の表側に表目が現れ、編地の裏側に裏目が現れる。
【0037】
1ピッチの目移しをする場合、1コースの編成が終了した段階で(
図4参照)、各針にかかっていた編み目を隣接する針に、一方向(
図4においては時計回り)に移動させる。また、上段の一端の針Na
20にかかっていた編み目a20については、これを対向する下段の針Nb
20に移し、下段の他端の針Nb
1にかかっていた編み目b1については、これを対向する上段の他端の針Na
1に移す、というように、編み目をローテーションさせる。
図6の(b)は、1ピッチの目移しが完了した状態を示している。2ピッチの目移しをする際には、1ピッチの目移しと同じ動作をさらに繰り返す。
図5及び
図6の(c)は、トータルで2ピッチの目移しが完了した状態を示している。
【0038】
その後、通常通り、端部の針Nb
20から次のコースの編成を開始する。
図6の(d)は、次のコースC2の編成が終了した状態を示している。このように、1コース編成する毎に同じ方向(
図4~
図6においては時計回り)に目移しすることにより、縦方向の編み目が斜めに連結し、小趾袋16が捻じれた状態(
図3の(a)参照)となる
【0039】
図7は、小趾部16における編地の表側を拡大して示す模式図であり、コースC1~C6の編成が終了した状態を示している。
図7において、各マス目は1つの編み目を示し、斜線を付したマス目は裏目を示している。ここで、1つのコースの編成が終了した段階(
図6の(a)参照)では、当該コースにおいては、編地の表側に表目が表出している。しかしながら、
図6の(a)及び(b)に示すように、目移しの際、端部の編み目a20,b1は、対向する針に平行に(向きを変えずに)移されるため、当該編み目a20,b1においては、裏目が編地の表側に現れる。さらに目移しする場合も同様である(
図6の(b)及び(c)参照)。
【0040】
そのため、1コース毎に目移しすることにより、編地の表側に現れた裏目が周方向に移動するので、編地の表側において裏目が斜め方向に連なる(
図7参照)。その結果、小趾部16の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン18が見られるようになる(
図1及び
図2参照)。
【0041】
また、1コースにつき2ピッチ以上の目移しを行った場合、
図5に示すように、1コースの最後に形成された編み目a20は、1コースの編成開始時の針Nb
20よりも先の針(
図5においては針Nb
19)にかかっている。そのため、通常通り、針Nb
20に戻って次のコースの編成を開始すると、前のコースの最後に形成された編み目a20と、次のコースの最初に編成される編み目との間に、糸が架け渡されることになる。このように、編み目の間に架け渡される糸も編地の表側に現れるため、この架け渡された糸により、小趾部16の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン18が見られることもある。
【0042】
なお、いずれの要因によるライン18であっても、裏糸と表糸の色が似ている場合には、ライン18は目視しにくいことがある。
【0043】
ここで、小趾袋16を編成する際に目移しするピッチは、1コース毎に数ピッチ以内とすることが好ましい。一例として、4ピッチ以内にすることが好ましく、3ピッチであっても良く、1ピッチ又は2ピッチであっても良い。糸の素材にもよるが、1コースにつき目移しを5ピッチ以上とする場合、小趾袋16の捻じれが強くなりすぎるおそれがある。
【0044】
次に、靴下1の作用について説明する。
図3の(a)に示すように、小趾袋16は、甲側から見て内側に捻じれるように編成されている。これに対し、
図3の(b)は、
図3の(a)に示す小趾袋16を、綴じ目16aが概ね水平になる程度に、外側(図の反時計回り)に回転させた状態を示している。
【0045】
靴下1を着用する際には、
図3の(b)に示すように、小趾袋16を外側(捻じれを戻す方向)に回転させた状態で着用する。それにより、小趾袋16に、内側に回転しようとする復元力Fが発生する。また、小趾袋16においては、裏糸に高摩擦糸が使用されているため、小趾袋16の内面に対して小趾が滑りにくく、小趾は小趾袋16にグリップされた状態になっている。そのため、小趾袋16の復元力Fが、小趾袋16にグリップされた着用者の小趾を内側に回転(回内)させる力として作用する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、小趾趾16が内側に捻じれるように編成されているので、着用者の小趾に対して回内させる力を作用させることができる。従って、靴下1を着用することにより、小趾回外の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【0047】
また、本実施形態においては、小趾袋16を編成する際に、裏糸として弾性糸と共に高摩擦糸を用いるので、小趾袋16以外の部分においては靴下1の履き心地を良好に保ちつつ、小趾に対する小趾袋16のグリップ力を確保し、小趾袋16の復元力Fを小趾に確実に作用させることが可能となる。
【0048】
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図であり、靴下の甲側を示している。
図9は、
図8に示す靴下をつま先側から見た模式図である。
図8に示す靴下2は、つま先部20の構造が、上記第1の実施形態における靴下1と異なる。
【0049】
図8に示すように、靴下2のつま先部20においては、小趾が挿入される小趾袋21が、他の趾が挿入される趾袋22から分離して設けられている。小趾袋21及び趾袋22の先端には、綴じ目21a及び22aがそれぞれ形成されている。本実施形態においても、小趾袋21の部分には、裏糸として、弾性糸に加えて高摩擦糸が用いられている。一方、小趾袋21は、甲側から見て外側(趾袋22の反対側)に捻じれるように編成されている。そのため、
図9の(a)に示すように、小趾袋21の綴じ目21aも、水平に対し、外側に回転するように傾斜した状態となっている。
【0050】
このような小趾袋21は、第1の実施形態と同様に、1コース毎に少なくとも1ピッチずつ一方向に目移ししながら平編みすることにより編成することができる。ただし、目移しする方向を、第1の実施形態とは反対方向(
図4においては反時計回り)とする。この場合、小趾袋21の表面に現れるらせん状の裏糸のライン23も、第1の実施形態(
図1参照)とは反対方向に旋回する。
【0051】
次に、靴下2の作用について説明する。
図9の(a)に示すように、小趾袋21は、甲側から見て外側に捻じれるように編成されている。これに対し、
図9の(b)は、
図9の(a)に示す小趾袋21を、綴じ目21aが概ね水平になる程度に、内側(図の時計回り)に回転させた状態を示している。
【0052】
靴下2を着用する際には、
図9の(b)に示すように、小趾袋21を内側(捻じれを戻す方向)に回転させた状態で着用する。それにより、小趾袋21に、外側に回転しようとする復元力F’が発生する。また、小趾袋21においては、裏糸に高摩擦糸が使用されているため、小趾袋21の内面に対して小趾が滑りにくく、小趾は小趾袋21にグリップされた状態になっている。そのため、小趾袋21の復元力F’が、小趾袋21にグリップされた着用者の小趾を外側に回転(回外)させる力として作用する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、着用者の小趾に対して回外させる力を作用させることができる。従って、靴下2を着用することにより、小趾回内の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【0054】
(第3の実施形態)
図10は、本発明の第3の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図であり、靴下の甲側を示している。
図10に示す靴下3は、つま先部30の構造が、上記第1の実施形態における靴下1と異なる。
【0055】
図10に示すように、靴下3のつま先部30においては、母趾が挿入される母趾袋31が、他の趾が挿入される趾袋32から分離して設けられている。母趾袋31及び趾袋32の先端には、綴じ目31a及び32aがそれぞれ形成されている。本実施形態においては、少なくとも母趾袋31の部分において、裏糸として、弾性糸に加えて高摩擦糸が使用されている。また、母趾袋31は、甲側から見て外側(趾袋32の反対側)に捻じれるように編成されている。そのため、母趾袋31の綴じ目31aも、水平に対し、外側に回転するように傾斜した状態となっている。
【0056】
このような母趾袋31は、第1の実施形態と同様に、1コース毎に少なくとも1ピッチずつ一方向に目移ししながら平編みすることにより編成することができる。目移しする方向は、つま先側から見て(
図4参照)時計回りとすれば良い。このように目移しをしながら編成することにより、母趾袋31の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン33が現れる。
【0057】
靴下3においては、母趾袋31が、甲側から見て外側に捻じれるように編成されているため、母趾袋31を内側(捻じれを戻す方向)に回転させた状態で着用する。それにより、母趾袋31に、外側に回転しようとする復元力が発生する。また、母趾袋31においては、裏糸に高摩擦糸が使用されているため、母趾袋31の内面に対して母趾が滑りにくく、母趾は母趾袋31にグリップされた状態になっている。そのため、母趾袋31の復元力が、母趾袋31にグリップされた着用者の母趾を外側に回転させる力として作用する。
【0058】
本実施形態によれば、着用者の母趾に対して回外させる力を作用させることができる。従って、靴下3を着用することにより、母趾回内の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【0059】
(第4の実施形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図であり、靴下の甲側を示している。
図11に示す靴下4は、つま先部40の構造が、上記第1の実施形態における靴下1と異なる。
【0060】
図11に示すように、靴下4のつま先部40においては、母趾が挿入される母趾袋41が、他の趾が挿入される趾袋42から分離して設けられている。母趾袋41及び趾袋42の先端には、綴じ目41a及び42aがそれぞれ形成されている。本実施形態においても、少なくとも母趾袋41の部分において、裏糸として、弾性糸に加えて高摩擦糸が使用されている。また、母趾袋41は、甲側から見て内側(趾袋42の側)に捻じれるように編成されている。そのため、母趾袋41の綴じ目41aも、水平に対し、内側に回転するように傾斜した状態となっている。
【0061】
このような母趾袋41は、第1の実施形態と同様に、1コース毎に少なくとも1ピッチずつ一方向に目移ししながら平編みすることにより編成することができる。目移しする方向は、つま先側から見て(
図4参照)反時計回りとすれば良い。このように目移しをしながら編成することにより、母趾袋41の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン43が現れる。このライン43の旋回方向は、
図10に示すライン33とは反対方向となる。
【0062】
靴下4においては、母趾袋41が、甲側から見て内側に捻じれるように編成されているため、母趾袋41を外側(捻じれを戻す方向)に回転させた状態で着用する。それにより、母趾袋41に、内側に回転しようとする復元力が発生する。また、母趾袋41においては、裏糸に高摩擦糸が使用されているため、母趾袋41の内面に対して母趾が滑りにくくなっている。そのため、母趾袋41の復元力が、母趾袋41にグリップされた着用者の母趾を内側に回転させる力として作用する。
【0063】
本実施形態によれば、着用者の母趾に対して回内させる力を作用させることができる。従って、靴下4を着用することにより、母趾回外の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【0064】
(第5の実施形態)
図12は、本発明の第5の実施形態に係る靴下を模式的に示す平面図であり、靴下の甲側を示している。
図12に示す靴下5は、つま先部50の構造が、上記第1の実施形態における靴下1と異なる。
【0065】
図12に示すように、靴下5のつま先部50においては、母趾が挿入される母趾袋51及び小趾が挿入される小趾袋52が、他の趾が挿入される趾袋53から分離して設けられている。母趾袋51、小趾袋52、及び趾袋53の先端には、綴じ目51a,52a,53aがそれぞれ形成されている。本実施形態においては、少なくとも母趾袋51及び小趾袋52の部分において、裏糸として、弾性糸に加えて高摩擦糸が使用されている。
【0066】
また、母趾袋51は、甲側から見て外側(趾袋53の反対側)に捻じれるように編成されている。そのため、母趾袋51の綴じ目51aも、水平に対し、外側に回転するように傾斜した状態となっている。一方、小趾袋52は、甲側から見て内側(趾袋53の側)に捻じれるように編成されている。そのため、小趾袋52の綴じ目52aも、水平に対し、内側に回転するように傾斜した状態となっている。
【0067】
このような靴下5は、第1の実施形態と同様に、母趾袋51及び小趾袋52を編成する際に、1コース毎に少なくとも1ピッチずつ一方向に目移ししながら平編みすることにより作製することができる。この際、母趾袋51については、つま先側から見て(
図4参照)時計回りに目移しし、小趾袋52についても同じ方向に目移しする。それにより、母趾袋51の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン54が現れ、小趾袋52の表面に、らせん状に旋回した裏糸のライン55が現れる。
【0068】
靴下5は、母趾袋51を内側(捻じれを戻す方向)に回転させると共に、小趾袋52を外側(捻じれを戻す方向)に回転させた状態で着用する。それにより、母趾袋51には、外側に回転しようとする復元力が発生し、小趾袋52には、内側に回転しようとする復元力が発生する。また、母趾袋51及び小趾袋52においては、裏糸に高摩擦糸が使用されているため、母趾袋51及び小趾袋52の内面に対し、母趾及び小趾がそれぞれ滑りにくくなっている。そのため、母趾袋51の復元力が、母趾袋51にグリップされた母趾を外側に回転させる力として作用すると共に、小趾袋52の復元力が、小趾袋52にグリップされた小趾を内側に回転させる力として作用する。
【0069】
本実施形態によれば、着用者の母趾に対して回外させる力を作用させることができると共に、着用者の小趾に対して回内させる力を作用させることができる。従って、靴下5を着用することにより、母趾回内及び小趾回外の矯正を日常的に行うことが可能となる。
【0070】
本実施形態においては、靴下5の母趾袋51及び小趾袋52を編成する際の目移しの方向を変えることで、種々の趾のトラブルに対応可能な靴下を製造することができる。具体的には、
図12に示す母趾回内及び小趾回外の矯正用の靴下5の他、母趾回内及び小趾回内の矯正用の靴下、母趾回外及び小趾回外の矯正用の靴下、並びに、母趾回外及び小趾回内の矯正用の靴下が挙げられる。
【0071】
本発明は、上記第1~第5の実施形態に限定されるものではなく、上記第1~第5の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、上記第1~第5の実施形態に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記第1~第5の実施形態に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0072】
1~5…靴下、11…フット部、12…レッグ部、13…口ゴム部、14…踵部、15・20・30・40・50…つま先部、16・21・52…小趾袋、16a・17a・21a・22a・31a・32a・41a・42a・51a・52a・53a…綴じ目、17・22・32・42・53…趾袋、18・23・33・43・54・55…ライン、31・41・51…母趾袋、100…表糸用給糸口、110…裏糸用給糸口、a1~a20・b1~b20…編み目、N1・N2…針床、Na1~Na20・Nb1~Nb20…針、S1…表糸、S2…裏糸