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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066203
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】乗客コンベアの異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B66B29/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175617
(22)【出願日】2022-11-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野末 紗海人
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321EA14
3F321EB01
3F321EC01
(57)【要約】
【課題】乗客コンベアの伝動ベルトの異常要因を切り分けて、適切な保全とその時期を遠隔で判断する上で有利な技術を提供する。
【解決手段】乗客コンベアは、複数の踏段を駆動する駆動モータに連結された駆動回転体と、減速機に連結された従動回転体と、駆動回転体と従動回転体とに巻き掛けられた伝動無端帯と、伝動無端帯の張力調整を行うアイドラーと、を有する。乗客コンベアの異常検出装置は、アイドラーの回転速度から伝動無端帯の走行速度である第一速度を検出し、伝動無端帯の周回時間から伝動無端帯の周回速度である第二速度を検出し、第一速度と第二速度とを比較することにより、伝動無端帯の伸び量を演算する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて循環移動する複数の踏段と、前記複数の踏段を駆動する駆動モータと、前記駆動モータに連結された駆動回転体と、減速機と、前記減速機に連結された従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体とに巻き掛けられた伝動無端帯と、前記伝動無端帯の張力調整を行うアイドラーと、を有する乗客コンベアの異常検出装置であって、
前記アイドラーの回転速度から前記伝動無端帯の走行速度である第一速度を検出する第一速度検出部と、
前記伝動無端帯の周回時間から前記伝動無端帯の周回速度である第二速度を検出する第二速度検出部と、
前記伝動無端帯の異常有無を判定するための状態量を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第二速度とを比較することにより、前記伝動無端帯の伸び量を演算する
ように構成される乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項2】
前記駆動回転体の回転速度から前記伝動無端帯の公称速度である第三速度を検出する第三速度検出部を更に備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第三速度とを比較することにより、前記伝動無端帯と前記駆動回転体との間のスリップ量又は前記伝動無端帯の摩耗量を演算する
ように構成される請求項1に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項3】
前記従動回転体の回転速度から前記伝動無端帯の公称速度である第四速度を検出する第四速度検出部を更に備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第四速度とを比較することにより、前記伝動無端帯と前記従動回転体との間のスリップ量又は前記伝動無端帯の摩耗量を検出する
ように構成される請求項1に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項4】
前記演算部において演算された前記状態量と状態閾値とを比較することにより、前記伝動無端帯の異常有無を判定する判定部を更に備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項5】
前記判定部において前記伝動無端帯に異常があると判定された場合、判定された異常の情報を報知する報知部をさらに備える請求項4に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項6】
前記駆動回転体は駆動プーリであり、
前記従動回転体は従動プーリであり、
前記伝動無端帯は伝動ベルトである
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項7】
前記駆動回転体は駆動スプロケットであり、
前記従動回転体は従動スプロケットであり、
前記伝動無端帯は伝動チェーンである
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアの異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、乗客コンベアの異常検出装置に関する技術が開示されている。この技術の演算装置は、駆動プーリの周回速度と、動力伝達ベルトの周回速度とを演算し、これらの周回速度を比較することによって、動力伝達ベルトのスリップ率を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-99252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動プーリの周回速度に対して動力伝達ベルトの周回速度に遅れが生じた場合、遅れ要素には層間スリップの影響の他、伝動ベルトの伸び及び摩耗の影響も含む。このため、これらの要因の切り分けて適切な保全及びその時期を判断することが困難という課題がある。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、乗客コンベアの伝動ベルトの異常要因を切り分けて、適切な保全とその時期を遠隔で判断する上で有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、無端状に連結されて循環移動する複数の踏段と、複数の踏段を駆動する駆動モータと、駆動モータに連結された駆動回転体と、減速機と、減速機に連結された従動回転体と、駆動回転体と従動回転体とに巻き掛けられた伝動無端帯と、伝動無端帯の張力調整を行うアイドラーと、を有する乗客コンベアの異常検出装置であって、アイドラーの回転速度から伝動無端帯の走行速度である第一速度を検出する第一速度検出部と、伝動無端帯の周回時間から伝動無端帯の周回速度である第二速度を検出する第二速度検出部と、伝動無端帯の異常有無を判定するための状態量を演算する演算部と、を備え、演算部は、第一速度と第二速度とを比較することにより、伝動無端帯の伸び量を演算するように構成されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の乗客コンベアの異常検出装置によれば、乗客コンベアの伝動ベルトの異常要因を切り分けて、適切な保全とその時期を遠隔で判断する上で有利な技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】異常検出装置が適用されるエスカレーターの例を示す断面図である。
図2】駆動ユニットの構成を説明するための図である。
図3】異常検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】制御装置のプロセッサがプログラムを実行することによって実現される機能を示す機能ブロック図である。
図5】演算部において実行される伸び量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。
図6】演算部において実行される摩耗量演算処理の第一実施例のルーチンを示すフローチャートである。
図7】演算部において実行される摩耗量演算処理の第二実施例のルーチンを示すフローチャートである。
図8】演算部において実行される第一スリップ量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。
図9】演算部において実行される第二スリップ量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。
図10】異常検出装置の制御装置が伝動ベルトの伸び量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。
図11】異常検出装置の制御装置が伝動ベルトの摩耗量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。
図12】異常検出装置の制御装置が伝動ベルトと駆動プーリとのスリップ量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。
図13】異常検出装置の制御装置が伝動ベルトと従動プーリとのスリップ量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。
図14】制御装置のハードウェア資源の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0010】
実施の形態.
1.異常検出装置が適用されるエスカレーターの構成
図1は、異常検出装置が適用されるエスカレーターの例を示す断面図である。エスカレーターは、異常検出装置が適用される乗客コンベアの一例である。乗客コンベアは、エスカレーターの他歩く歩道等の装置を含むが、ここでは説明を省略する。
【0011】
エスカレーターは、トラス1、及び踏段2を備えている。トラス1は、上下の階に架け渡される。乗客は、踏段2に乗って図示しない乗り口から降り口3に移動する。即ち、図1は、上りのエスカレーターを示す。図1に示すエスカレーターは、下りのエスカレーターでも良い。
【0012】
降り口3の下方に、機械室4が設けられている。機械室4は、トラス1の内部に形成された空間である。機械室4は、床板5によって塞がれている。床板5は、降り口3の床を形成している。機械室4に、スプロケット8を駆動するための駆動ユニット20が設けられている。駆動ユニット20の構成については、詳細を後述する。
【0013】
スプロケット8が設けられた軸9に、スプロケット10及び11が設けられている。スプロケット10及び11は、スプロケット8と共に回転する。スプロケット10に、ステップチェーン12が巻き掛けられている。ステップチェーン12に複数のステップ軸13が設けられている。各ステップ軸13に踏段2が固定されている。これにより、ステップチェーン12に複数の踏段2が無端状に連結される。ステップチェーン12に牽引されることにより、踏段2は循環移動する。
【0014】
スプロケット11とスプロケット18との間に、手摺チェーン14が巻き掛けられている。手摺チェーン14は、後述する駆動モータ22の駆動力を駆動装置15に伝達する。駆動装置15は、移動手摺16を駆動する。
【0015】
ステップチェーン12及び手摺チェーン14は、エスカレーターで使用されるチェーンの一例である。エスカレーターにおいて他のチェーンが使用されても良い。例えば、駆動装置15に、移動手摺16に接触するローラを回転させるためのチェーンが備えられる。
【0016】
図2は、駆動ユニットの構成を説明するための図である。駆動ユニット20は、主要な構成として、駆動モータ22と、減速機24と、駆動回転体としての駆動プーリ26と、従動回転体としての従動プーリ28と、伝動無端帯としての伝動ベルト30と、アイドラー32と、制御装置40と、を備える。駆動モータ22には駆動プーリ26が連結されている。減速機24には、従動プーリが連結されている。伝動ベルト30は、駆動プーリ26と従動プーリ28との間に巻き架けられている。これにより、駆動モータ22の動力は、伝動ベルト30を介して減速機24に伝達される。駆動モータ22から減速機24に入力された動力は、減速されて他端の駆動スプロケット6から駆動チェーン7を介してスプロケット8へ伝達される。
【0017】
アイドラー32は、伝動ベルト30を外周面側から押圧することによって伝動ベルト30の張力を調整するプーリである。
【0018】
駆動ユニット20には、状態量を検出するための各種センサが設けられている。駆動側回転速度センサ42は、駆動プーリ26の回転速度を検出するためのセンサである。従動側回転速度センサ44とは、従動プーリ28の回転速度を検出するためのセンサである。アイドラー回転速度センサ46は、アイドラー32の回転速度を検出するためのセンサである。周回速度センサ48は、伝動ベルト30の周回時間から回転速度を検出するためのセンサである。各種センサによって検出された信号は、制御装置40に送られる。制御装置40は、各種センサによって検出された信号に基づいて、後述する各種処理を実行する。
【0019】
2.異常検出装置100の構成例
伝動ベルト30は、経年劣化によって塑性伸び又は摩耗による擦り減り等が発生することがある。このような劣化が伝動ベルト30に発生すると、伝動ベルト30の内周長が長くなるためベルト張力が低下し、スリップの増大又はベルト切れの要因になり得る。このため、伝動ベルト30は、定期的な点検を行い必要に応じてベルト張力調整又はベルト交換を行う必要がある。
【0020】
本実施の形態の異常検出装置は、伝動ベルト30の状態を遠隔から定量的に監視することができる点に特徴を有している。以下に、エスカレーターの伝動ベルト30の状態として、塑性伸び、摩耗、及びスリップを監視する場合を例に、異常検出装置の動作について詳しく説明する。
【0021】
図3は、異常検出装置100の構成の一例を示すブロック図である。異常検出装置100は、上述した駆動側回転速度センサ42と、従動側回転速度センサ44と、アイドラー回転速度センサ46と、周回速度センサ48と、制御装置40と、を含む。
【0022】
制御装置40は、コンピュータとしての処理装置の機能を備える。典型的には、制御装置40は、少なくとも1つのプロセッサ400と、少なくとも1つの記憶装置410とを備えている。記憶装置410としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。記憶装置410には、プロセッサ400実行可能な少なくとも1つのプログラムとそれに関連する種々のデータとが記憶されている。プロセッサ400は、プログラムを実行する。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。
【0023】
プロセッサ400がプログラムを実行することにより、プロセッサ400による各種処理が実現される。図4は、制御装置のプロセッサがプログラムを実行することによって実現される機能を示す機能ブロック図である。図4に示すように、プロセッサ400は、第一速度検出部50と、第二速度検出部52と、第三速度検出部54と、第四速度検出部56と、演算部60と、判定部62と、報知部64と、を備える。以下、図2も参照しながら、制御装置40がエスカレーターの伝動ベルト30の状態を監視する場合を例に、プロセッサ400の機能について説明する。
【0024】
2-1.第一速度検出部50
第一速度検出部50は、アイドラー回転速度センサ46の検出信号に基づいて、伝動ベルト30の走行速度V1を検出するための機能ブロックである。伝動ベルト30の走行速度V1は、以下「第一速度V1」とも呼ばれる。第一速度検出部50は、アイドラー32の周速度を第一速度V1として演算する。第一速度V1は、伝動ベルト30の伸び及び摩耗の影響を受けない実速度である。
【0025】
2-2.第二速度検出部52
第二速度検出部52は、周回速度センサ48の検出信号に基づいて、伝動ベルト30の周回速度V2を検出するための機能ブロックである。伝動ベルト30の周回速度V2は、以下「第二速度V2」とも呼ばれる。第二速度検出部52は、伝動ベルト30の周回時間に基づき第二速度V2を演算する。このため、伝動ベルト30の伸びが発生すると、第二速度V2は、実速度よりも低速に演算される。
【0026】
2-3.第三速度検出部54
第三速度検出部54は、駆動側回転速度センサ42の検出信号に基づいて、伝動ベルト30の公称速度V3を検出するための機能ブロックである。伝動ベルト30の公称速度V3は、以下「第三速度V3」とも呼ばれる。第三速度検出部54は、駆動プーリ26の周速度を第三速度V3として演算する。このため、駆動プーリ26と伝動ベルト30との間にスリップが発生すると、第三速度V3は、伝動ベルト30の実速度よりも高速となる。また、伝動ベルト30に摩耗が発生すると、摩耗前よりも内周長が長くなるため、第三速度V3は、伝動ベルト30の実速度よりも高速となる。
【0027】
2-4.第四速度検出部56
第四速度検出部56は、従動側回転速度センサ44の検出信号に基づいて、伝動ベルト30の公称速度V4を検出するための機能ブロックである。伝動ベルト30の公称速度V4は、以下「第四速度V4」とも呼ばれる。第四速度検出部56は、従動プーリ28の周速度を第四速度V4として演算する。このため、従動プーリ28と伝動ベルト30との間にスリップが発生すると、第四速度V4は、伝動ベルト30の実速度よりも低速となる。また、伝動ベルト30に摩耗が発生すると、摩耗前よりも内周長が長くなるため、第三速度V3は、伝動ベルト30の実速度よりも高速となる。
【0028】
2-5.演算部60
演算部60は、第一速度V1、第二速度V2、第三速度V3、又は第四速度V4に基づいて、伝動ベルト30の状態量を演算するための機能ブロックである。ここでの伝動ベルト30の状態量は、例えば、伝動ベルト30の伸び量L、摩耗量W、駆動プーリ26との間のスリップ量S1、及び従動プーリ28との間のスリップ量S2が例示される。ここでのスリップ量S1,S2は、例えば、プーリの単位回転角度に対するスリップ量を示している。演算部60は、伝動ベルト30の伸び量Lを演算する伸び量演算処理を実行する。或いは、演算部60は、伝動ベルト30の摩耗量Wを演算する摩耗量演算処理を実行する。或いは、演算部60は、伝動ベルト30のスリップ量S1を演算する第一スリップ量演算処理を実行する。或いは、演算部60は、伝動ベルト30のスリップ量S2を演算する第二スリップ量演算処理を実行する。以下、演算部60において実行されるこれらの処理についてそれぞれ詳細に説明する。
【0029】
2-5-1.伸び量演算処理
演算部60は、伝動ベルト30の状態量として、伝動ベルト30の伸び量Lを演算する伸び量演算処理を実行する。図5は、演算部60において実行される伸び量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。図5に示すルーチンのステップS100では、演算部60は、第一速度検出部50において検出された第一速度V1を取得する。ステップS102では、演算部60は、第二速度検出部52において検出された第二速度V2を取得する。
【0030】
上述したように、伝動ベルト30に伸びが発生すると、第二速度V2は実速度である第一速度V1よりも低速になる。つまり、第一速度V1と第二速度V2の差分値は、伝動ベルト30の伸び量Lの関数で表すことができる。ステップS104では、演算部60は、取得した第一速度V1と第二速度V2を関数に代入することにより、伸び量Lを演算する。
【0031】
2-5-2.摩耗量演算処理
演算部60は、伝動ベルト30の状態量として、伝動ベルト30の摩耗量Wを演算する摩耗量演算処理を実行する。図6は、演算部60において実行される摩耗量演算処理の第一実施例のルーチンを示すフローチャートである。図6に示すルーチンのステップS110では、演算部60は、第一速度検出部50において検出された第一速度V1を取得する。ステップS112では、演算部60は、第三速度検出部54において検出された第三速度V3を取得する。
【0032】
伝動ベルト30が摩耗すると、内周長が初期状態よりも長くなるため、伝動ベルト30の外周長に対する内周長の割合が大きくなる。このため、伝動ベルト30の摩耗が大きくなるほど第一速度V1に対する第三速度V3の相対速度差が大きくなる。つまり、第三速度V3と第一速度V1の差分値は、伝動ベルト30と駆動プーリ26との間のスリップ量S1が既知の値であるとして、伝動ベルト30が摩耗量Wの関数で表すことができる。ステップS114では、演算部60は、例えばスリップ量S1が0として、取得した第一速度V1と第三速度V3を関数に代入することにより、摩耗量Wを演算する。
【0033】
なお、摩耗量Wの演算において用いるスリップ量S1の値は、例えば後述する第一スリップ量演算処理の演算値でもよいし、他の既知の値を用いてもよい。仮にスリップ量S1を0として摩耗量Wを演算すると、想定される最大摩耗量が演算されるため、より安全側の異常判断を行うことできる。
【0034】
図7は、演算部60において実行される摩耗量演算処理の第二実施例のルーチンを示すフローチャートである。図7に示すルーチンのステップS120では、演算部60は、第一速度検出部50において検出された第一速度V1を取得する。ステップS122では、演算部60は、第四速度検出部56において検出された第四速度V4を取得する。
【0035】
伝動ベルト30の摩耗が大きくなるほど第一速度V1に対する第四速度V4の相対速度差が大きくなる。つまり、第四速度V4と第一速度V1の差分値は、伝動ベルト30が摩耗量Wの関数で表すことができる。ステップS124では、演算部60は、取得した第一速度V1と第四速度V4を関数に代入することにより、摩耗量Wを演算する。
【0036】
2-5-3.第一スリップ量演算処理
演算部60は、伝動ベルト30の状態量として、伝動ベルト30と駆動プーリ26との間のスリップ量S1を演算する第一スリップ量演算処理を実行する。図8は、演算部60において実行される第一スリップ量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。図8に示すルーチンのステップS130では、演算部60は、第一速度検出部50において検出された第一速度V1を取得する。ステップS132では、演算部60は、第三速度検出部54において検出された第三速度V3を取得する。
【0037】
伝動ベルト30と駆動プーリ26との間にスリップが発生すると、駆動プーリ26の周速度から演算した第三速度V3は、実速度である第一速度V1よりも高速になる。つまり、第三速度V3と第一速度V1の差分値は、伝動ベルト30の摩耗量Wが既知の値であるとして、伝動ベルト30のスリップ量S1の関数で表すことができる。ステップS134では、演算部60は、例えば伝動ベルト30の摩耗量Wが0として、検出した第一速度V1と第三速度V3を関数に代入することにより、スリップ量S1を演算する。
【0038】
なお、スリップ量S1の演算において用いる摩耗量Wの値は、例えば実測値でもよいし、摩耗量演算処理による演算値でもよい。仮に摩耗量Wを0としてスリップ量S1を演算すると、想定される最大スリップ量が演算されるため、より安全側の異常判断を行うことできる。
【0039】
2-5-4.第二スリップ量演算処理
演算部60は、伝動ベルト30の状態量として、伝動ベルト30と従動プーリ28との間のスリップ量S2を演算する第二スリップ量演算処理を実行する。図9は、演算部60において実行される第二スリップ量演算処理のルーチンを示すフローチャートである。図9に示すルーチンのステップS140では、演算部60は、第一速度検出部50において検出された第一速度V1を取得する。ステップS142では、演算部60は、第四速度検出部56において検出された第四速度V4を取得する。
【0040】
伝動ベルト30と従動プーリ28との間にスリップが発生すると、従動プーリ28の周速度から演算した第四速度V4は、実速度である第一速度V1よりも低速になる。つまり、第四速度V4と第一速度V1の差分値は、伝動ベルト30の摩耗量Wが既知の値であるとして、伝動ベルト30のスリップ量S2の関数で表すことができる。ステップS144では、演算部60は、例えば摩耗量Wが0として、検出した第一速度V1と第四速度V4を関数に代入することにより、スリップ量S2を演算する。
【0041】
なお、スリップ量S2の演算において用いる摩耗量Wの値は、例えば実測値でもよいし、摩耗量演算処理による演算値でもよい。仮に摩耗量Wを0としてスリップ量S2を演算すると、想定される最大スリップ量が演算されるため、より安全側の異常判断を行うことできる。
【0042】
2-6.判定部62
再び図4に戻り、判定部62は、演算部60において演算された伝動ベルト30の状態量と状態閾値との比較を行うことにより、伝動ベルト30の異常を判定するための機能ブロックである。典型的には、判定部62は、伝動ベルト30の伸び量Lが閾値L0よりも大きい場合に、伝動ベルト30に交換すべき異常が発生していると判定する。また、判定部62は、伝動ベルト30の伸び量Lがさらに閾値L1(L1>L0)よりも大きい場合に、伝動ベルト30に交換すべき異常が発生していると判定する。
【0043】
或いは、判定部62は、伝動ベルト30の摩耗量Wが閾値W0よりも大きい場合に、伝動ベルト30に交換すべき異常が発生していると判定する。また、判定部62は、伝動ベルト30の摩耗量Wがさらに閾値W1(W1>W0)よりも大きい場合に、伝動ベルト30に交換すべき異常が発生していると判定する。
【0044】
或いは、判定部62は、伝動ベルト30のスリップ量S1又はスリップ量S2が閾値S0よりも大きい場合に、伝動ベルト30に交換すべき異常が発生していると判定する。判定部62での判定結果は、報知部64に送られる
【0045】
2-7.報知部64
報知部64は、判定部62から送られた異常の情報を管理者に報知するための機能ブロックである。異常の情報は、例えば、伝動ベルト30の異常有無、又はその異常の内容を含む。報知部64は、例えば異常の情報を出力装置に出力することにより管理者への報知を行う。出力形態に限定はない。すなわち、報知部64は、出力装置としての表示装置に報知内容を表示する形態でもよいし、また、出力装置としてのスピーカーから異常の情報を音声出力する形態でもよい。報知内容は、例えば、伝動ベルト30の張力調整の喚起、伝動ベルト30の交換喚起、等が例示される。
【0046】
3.異常検出装置による伝動ベルトの監視制御の具体的な運用例
次に、異常検出装置100によるエスカレーターの伝動ベルト30の監視制御について、フローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0047】
3-1.伝動ベルト30の伸び量の監視制御
図10は、異常検出装置の制御装置が伝動ベルト30の伸び量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。図10に示すルーチンは、例えばエスカレーターの伝動ベルト30の監視制御を実行するタイミングで制御装置40によって実行される。
【0048】
図10に示すルーチンのステップS200では、図5に示すルーチンの伸び量演算処理が実行される。ステップS202では、判定部62は、ステップS200において演算された伝動ベルト30の伸び量Lが閾値L0よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値L0は、伝動ベルト30のベルト張力調整を必要とする伸び量の閾値であって、予め設定された値が使用される。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整は不要と判断されて、本ルーチンは終了される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS204に進む。
【0049】
ステップS204では、判定部62は、ステップS200において演算された伝動ベルト30の伸び量Lが閾値L1よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値L1は、伝動ベルト30のベルト交換を必要とする伸び量の閾値であって、閾値L0よりも大きい値である。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整が必要と判断されて処理はステップS206に進む。一方、判定の成立が認められた場合、ベルト交換が必要と判断されて処理はステップS208に進む。
【0050】
ステップS206では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト張力調整を喚起する報知内容を出力装置に出力する。ステップS208では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト交換を喚起する報知内容を出力装置に出力する。
【0051】
3-2.伝動ベルト30の摩耗量の監視制御
図11は、異常検出装置の制御装置が伝動ベルト30の摩耗量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。図11に示すルーチンは、例えばエスカレーターの伝動ベルト30の監視制御を実行するタイミングで制御装置40によって実行される。
【0052】
図11に示すルーチンのステップS210では、図6又は図7に示すルーチンの摩耗量演算処理が実行される。ステップS212では、判定部62は、ステップS210において演算された伝動ベルト30の摩耗量Wが閾値W0よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値W0は、伝動ベルト30のベルト張力調整を必要とする摩耗量の閾値であって、予め設定された値が使用される。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整は不要と判断されて、本ルーチンは終了される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS214に進む。
【0053】
ステップS214では、判定部62は、ステップS210において演算された伝動ベルト30の摩耗量Wが閾値W1よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値W1は、伝動ベルト30のベルト交換を必要とする摩耗量の閾値であって、閾値W0よりも大きい値である。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整が必要と判断されて処理はステップS216に進む。一方、判定の成立が認められた場合、ベルト交換が必要と判断されて処理はステップS218に進む。
【0054】
ステップS216では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト張力調整を喚起する報知内容を出力装置に出力する。ステップS218では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト交換を喚起する報知内容を出力装置に出力する。
【0055】
3-3.伝動ベルト30のスリップ量の監視制御
図12は、異常検出装置の制御装置が伝動ベルト30と駆動プーリ26とのスリップ量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。図12に示すルーチンは、例えばエスカレーターの伝動ベルト30の監視制御を実行するタイミングで制御装置40によって実行される。
【0056】
図12に示すルーチンのステップS220では、図8に示すルーチンの第一スリップ量演算処理が実行される。ステップS222では、判定部62は、ステップS220において演算された伝動ベルト30のスリップ量S1が閾値S0よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値S0は、伝動ベルト30のベルト張力調整を必要とするスリップ量の閾値であって、予め設定された値が使用される。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整は不要と判断されて、本ルーチンは終了される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS224に進む。
【0057】
ステップS224では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト張力調整を喚起する報知内容を出力装置に出力する。
【0058】
図13は、異常検出装置の制御装置が伝動ベルト30と従動プーリ28とのスリップ量を監視する際に実行されるルーチンのフローチャートである。図13に示すルーチンは、例えばエスカレーターの伝動ベルト30の監視制御を実行するタイミングで制御装置40によって実行される。
【0059】
図13に示すルーチンのステップS230では、図9に示すルーチンの第二スリップ量演算処理が実行される。ステップS232では、判定部62は、ステップS230において演算された伝動ベルト30のスリップ量S2が閾値S0よりも大きいか否かを判定する。ここでの閾値S0は、伝動ベルト30のベルト張力調整を必要とするスリップ量の閾値であって、予め設定された値が使用される。閾値S0は、スリップ量S1の閾値S0と同値でもよいし、スリップ量S2の閾値として別途設定された値でもよい。その結果、判定の成立が認められない場合、ベルト張力調整は不要と判断されて、本ルーチンは終了される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS234に進む。
【0060】
ステップS234では、報知部64は、管理者に伝動ベルト30の異常を発報するとともに、ベルト張力調整を喚起する報知内容を出力装置に出力する。
【0061】
以上のような異常検出装置100の動作によれば、伝動ベルト30の状態を遠隔で定量監視することにより、伝動ベルト30の異常要因を切り分けて、適切な保全とその時期を判断することができる。これにより、これにより、作業員による点検作業の負担を軽減するとともに、異常を早期に発見することが可能となる。
【0062】
4.変形例
実施の形態の異常検出装置100は、以下のように変形した態様を適用してもよい。
【0063】
4-1.駆動ユニット20
駆動ユニット20は、伝動ベルト30に替えて、伝動無端帯としてのチェーンを用いてもよい。この場合、駆動プーリ26及び従動プーリ28は、駆動回転体としての駆動スプロケット及び従動回転体としての従動スプロケットをそれぞれ用いればよい。
【0064】
4-2.制御装置40の機能配置
制御装置40のプロセッサ400によって実行される機能の一部は又は全部は、制御装置40と通信ネットワークで接続された遠隔地のサーバに配置されていてもよい。
【0065】
4-3.制御装置40のハードウェア資源
図14は、制御装置40のハードウェア資源の変形例を示す図である。図14に示す例では、制御装置40は、例えばプロセッサ400、記憶装置410、及び専用ハードウェア420を含む処理回路430を備える。図14は、制御装置40が有する機能の一部を専用ハードウェア420によって実現する例を示す。制御装置40が有する機能の全部を専用ハードウェア420によって実現しても良い。専用ハードウェア420として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。
【0066】
5.その他
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、本開示は上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0067】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0068】
(付記1)
無端状に連結されて循環移動する複数の踏段と、前記複数の踏段を駆動する駆動モータと、前記駆動モータに連結された駆動回転体と、減速機と、前記減速機に連結された従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体とに巻き掛けられた伝動無端帯と、前記伝動無端帯の張力調整を行うアイドラーと、を有する乗客コンベアの異常検出装置であって、
前記アイドラーの回転速度から前記伝動無端帯の走行速度である第一速度を検出する第一速度検出部と、
前記伝動無端帯の周回時間から前記伝動無端帯の周回速度である第二速度を検出する第二速度検出部と、
前記伝動無端帯の異常有無を判定するための状態量を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第二速度とを比較することにより、前記伝動無端帯の伸び量を演算する
ように構成される乗客コンベアの異常検出装置。
(付記2)
前記駆動回転体の回転速度から前記伝動無端帯の公称速度である第三速度を検出する第三速度検出部を更に備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第三速度とを比較することにより、前記伝動無端帯と前記駆動回転体との間のスリップ量又は前記伝動無端帯の摩耗量を演算する
ように構成される付記1に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
(付記3)
前記従動回転体の回転速度から前記伝動無端帯の公称速度である第四速度を検出する第四速度検出部を更に備え、
前記演算部は、前記第一速度と前記第四速度とを比較することにより、前記伝動無端帯と前記従動回転体との間のスリップ量又は前記伝動無端帯の摩耗量を検出する
ように構成される付記1に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
(付記4)
前記演算部において演算された前記状態量と状態閾値とを比較することにより、前記伝動無端帯の異常有無を判定する判定部を更に備える付記1から付記3の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
(付記5)
前記判定部において前記伝動無端帯に異常があると判定された場合、判定された異常の情報を報知する報知部をさらに備える付記4に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
(付記6)
前記駆動回転体は駆動プーリであり、
前記従動回転体は従動プーリであり、
前記伝動無端帯は伝動ベルトである
付記1から付記5の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
(付記7)
前記駆動回転体は駆動スプロケットであり、
前記従動回転体は従動スプロケットであり、
前記伝動無端帯は伝動チェーンである
付記1から付記5の何れか1項に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【符号の説明】
【0069】
1 トラス、 2 踏段、 3 降り口、 4 機械室、 5 床板、 8 スプロケット、 9 軸、 10 スプロケット、 11 スプロケット、 12 ステップチェーン、 13 ステップ軸、 14 手摺チェーン、 15 駆動装置、 16 移動手摺、 18 スプロケット、 20 駆動ユニット、 22 駆動モータ、 24 減速機、 26 駆動プーリ、 28 従動プーリ、 30 伝動ベルト、 32 アイドラー、 40 制御装置、 42 駆動側回転速度センサ、 44 従動側回転速度センサ、 46 アイドラー回転速度センサ、 48 周回速度センサ、 50 第一速度検出部、 52 第二速度検出部、 54 第三速度検出部、 56 第四速度検出部、60 演算部、 62 判定部、 64 報知部、 100 異常検出装置、 400 プロセッサ、 410 記憶装置、 420 専用ハードウェア、 430 処理回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14