(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066207
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240508BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240508BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175622
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長野 彩香
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ13
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制する非水二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、電極体に含まれるナトリウム塩のナトリウム量を非水電解液の注入前に測定する測定工程S2と、測定したナトリウム量に基づいて決定した浸透温度で非水電解液を正極シート及び負極シートに浸透させる浸透工程S6と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、
電極体に含まれるナトリウム塩のナトリウム量を前記非水電解液の注入前に測定する測定工程と、
測定した前記ナトリウム量に基づいて決定した浸透温度で前記非水電解液を前記正極シート及び前記負極シートに浸透させる浸透工程と、を含む
非水二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記浸透工程の前に、測定した前記ナトリウム量に基づいて決定した注入温度で前記非水電解液を注入する注入工程を含む
請求項1に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記浸透工程において決定される前記浸透温度は、前記ナトリウム量と負の相関である
請求項1に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記注入工程において決定される前記注入温度は、前記ナトリウム量と負の相関である
請求項2に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記被膜形成材は、LiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)である
請求項1~4のいずれか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の非水二次電池の製造方法では、電池ケースに電極体を収容した後、電池ケース内に添加材を添加した電解液を注入する前に、電極体を収容した電池ケースを、電極体の厚さ方向に荷重をかけて拘束しつつ加熱する加熱プレス工程を行う。加熱プレス工程は、電極体温度が80~110℃になるように行う。また、注液時の電解液温度は20~30℃の範囲内、電極体の温度は35~50℃の範囲内としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の非水二次電池の製造方法では、非水電解液にリチウムを含む被膜形成材が添加されている。被膜形成材は、リチウム塩の一例であるリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)である。非水二次電池に用いられる電極体は、ナトリウム塩を含む。そして、電極体にNaが多く含まれる場合には、LiBOBから電離したBOBイオンがナトリウム塩から電離したNaイオンと結合してNaBOB被膜を形成することで、Li析出が発生する。NaBOB被膜の形成によるLi析出の抑制が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及びリチウム塩を含む被膜形成材を含有する非水電解液を有する非水二次電池の製造方法であって、電極体に含まれるナトリウム塩のナトリウム量を前記非水電解液の注入前に測定する測定工程と、測定した前記ナトリウム量に基づいて決定した浸透温度で前記非水電解液を前記正極シート及び前記負極シートに浸透させる浸透工程と、を含む。
【0006】
上記構成によれば、測定したナトリウム量に基づいて非水電解液を正極シート及び負極シートに浸透させる浸透温度を決定する。例えば、ナトリウム量が多い場合には浸透温度を低くすることで局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、ナトリウム量が少ない場合には浸透温度を高くすることで、非水電解液の浸透性が良くなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。浸透温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0007】
上記非水二次電池の製造方法について、前記浸透工程の前に、測定した前記ナトリウム量に基づいて決定した注入温度で前記非水電解液を注入する注入工程を含むことが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、測定したナトリウム量に基づいて非水電解液を注入する注入温度を決定する。例えば、ナトリウム量が多い場合には注入温度を低くすることで局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、ナトリウム量が少ない場合には注入温度を高くすることで、非水電解液の浸透性が良くなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。注入温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0009】
上記非水二次電池の製造方法について、前記浸透工程において決定される前記浸透温度は、前記ナトリウム量と負の相関であることが好ましい。
上記構成によれば、浸透工程における浸透温度をナトリウム量と負の相関となるように決定することで、NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制することができる。
【0010】
上記非水二次電池の製造方法について、前記注入工程において決定される前記注入温度は、前記ナトリウム量と負の相関であることが好ましい。
上記構成によれば、注入工程における注入温度をナトリウム量と負の相関となるように決定することで、NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制することができる。
【0011】
上記非水二次電池の製造方法について、前記被膜形成材は、LiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)であることが好ましい。
上記構成によれば、被膜形成材がLiBOBである。このため、LiBOBが電池寿命を延ばすことができる比較的安定性が高い被膜を負極シートに形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】非水二次電池のセル電池の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】非水二次電池の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】非水二次電池の浸透工程におけるNaとBOBとの拡散を示す図である。
【
図5】非水二次電池の浸透工程におけるNaとBOBとの拡散を示す図である。
【
図6】非水二次電池の浸透工程におけるNaとBOBとの拡散を示す図である。
【
図7】非水二次電池の浸透工程におけるNaとBOBとの拡散を示す図である。
【
図8】非水二次電池の製造方法の実施例及び比較例の実施条件を示す表である。
【
図9】非水二次電池の製造方法の実施例及び比較例を示すグラフである。
【
図10】非水二次電池の製造方法の実施例及び比較例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1~
図10を参照して、非水二次電池の製造方法の一実施形態について説明する。非水二次電池の一例としてリチウムイオン二次電池について説明する。
[リチウムイオン二次電池10]
【0015】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、複数のリチウムイオン二次電池10と組み合わされた状態で、樹脂製又は金属製のケースに封入されて電池パックを構成するセル電池である。電池パックは、ハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる。
【0016】
リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11と、蓋体12と、を備える。電池ケース11は、上側に開口部を有した直方体形状である。蓋体12は、電池ケース11の開口部を封止する。電池ケース11及び蓋体12は、アルミニウム、若しくはアルミニウム合金等の金属で構成される。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。
【0017】
蓋体12には、2つの正極外部端子13A及び負極外部端子13Bが設けられる。正極外部端子13A及び負極外部端子13Bは、電力の充放電に用いられる。電池ケース11の内部には、電極体20が収容される。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極外部端子13Bに電気的に接続される。また、電池ケース11内には、図示しない注液孔から非水電解液が注入される。なお、正極外部端子13A及び負極外部端子13Bの形状は、
図1に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0018】
[電極体20]
図2に示すように、電極体20は、長尺の正極シート21と負極シート24とがセパレータ27を介して積層した積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極シート21、負極シート24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極シート21、セパレータ27、負極シート24、セパレータ27の順に積層される。
【0019】
[正極シート21]
正極シート21は、正極集電体22と、正極合材層23と、を備える。正極集電体22は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。正極合材層23は、正極集電体22の相対する2つの面の各々に設けられる。正極集電体22は、幅方向D2の一端に、正極合材層23が形成されずに正極集電体22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0020】
正極集電体22は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極集電体22は、正極における集電体として機能する。正極集電体22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0021】
正極合材層23は、液状体の正極合材ペーストの硬化体である。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。正極合材層23は、正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合材層23は、正極活物質、正極導電材、及び、正極結着材を含む。
【0022】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0023】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0024】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着材は、正極合材ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。
【0025】
なお、正極シート21は、正極側未塗工部22Aと正極合材層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0026】
[負極シート24]
負極シート24は、負極集電体25と、負極合材層26と、を備える。負極集電体25は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。負極合材層26は、負極集電体25の相対する2つの面の各々に設けられる。負極集電体25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合材層26が形成されずに負極集電体25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0027】
負極集電体25は、銅又は銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極集電体25は、負極における集電体として機能する。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0028】
負極合材層26は、液状体の負極合材ペーストの硬化体である。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘材、及び、負極結着材を含む。負極合材層26は、負極合材ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合材層26は、負極活物質、さらに、添加材として、負極増粘材及び負極結着材を含む。なお、負極合材層26は、導電材のような添加材をさらに含んでもよい。
【0029】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極溶媒は、一例として、水である。負極増粘材は、一例として、ナトリウム塩を含む増粘材として、CMC(カルボキシメチルセルロース)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてナトリウム塩を含む結着材として、SBR(スチレンブタジエン共重合体)を用いることができる。
【0030】
[セパレータ27]
セパレータ27は、正極シート21と負極シート24との接触を防ぐとともに、正極シート21及び負極シート24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0031】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及び、イオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0032】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等からなる群から選択された一種又は二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種又は二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0033】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、添加材としてのリチウム塩としてのLiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)が添加される。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0034】
[製造方法]
次に、
図3を参照して、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。本製造方法では、非水電解液を注入するまでに電極体20に含まれるナトリウム量を見積り、ナトリウム量に基づいて非水電解液の温度及び浸透時の浸透温度を変更する。
【0035】
ステップS1の極板作成工程において、正極板としての正極シート21及び負極板としての負極シート24が作成される。
正極シート21は、正極集電体22と、正極合材層23と、を備える。正極集電体22は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。正極合材層23は、正極集電体22の相対する2つの面の各々に設けられる。正極合材層23は、液状体の正極合材ペーストの硬化体である。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。正極合材層23は、正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。
【0036】
負極シート24は、負極集電体25と、負極合材層26と、を備える。負極集電体25は、長尺状に形成された箔状の電極基材である。負極合材層26は、負極集電体25の相対する2つの面の各々に設けられる。負極合材層26は、液状体の負極合材ペーストの硬化体である。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘材、及び、負極結着材を含む。負極合材層26は、負極合材ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。
【0037】
ステップS2の測定工程において、電極体20に含まれるナトリウム塩のナトリウム量が測定される。電極体20に含まれるナトリウム量は、正極シート21、負極シート24、セパレータ27のナトリウム量をそれぞれ測定することで求める。測定頻度は、材料のロット毎に行うことが望ましい。
【0038】
材料に含まれるナトリウム量の測定は、例えば発光分光分析法の一つの手法である高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)によって測定してもよい。なお、材料に含まれるナトリウム量を測定することができれば、測定方法は問わない。
【0039】
ステップS3の巻回工程において、正極シート21と負極シート24とは、セパレータ27を介して積層される。セパレータ27を介して積層された正極シート21と負極シート24との積層体は、捲回される。続いて、正極シート21、負極シート24、及びセパレータ27が積層され、且つ捲回された捲回体は偏平に押圧される。よって、正極シート21、負極シート24、及びセパレータ27から構成される捲回体に電極体20としての外形形状が形成される。
【0040】
ステップS4の挿入工程において、電極体20は、電池ケース11に挿入される。電池ケース11に電極体20が挿入されると、蓋体12によって電池ケース11の開口部が封止される。
【0041】
ステップS5の注入工程において、電極体20が収容された電池ケース11内に注液孔から非水電解液が注入される。このとき、測定工程においてナトリウム量が多いほど注入温度を低くすることを含むように、測定されたナトリウム量に基づいて決定した注入温度で非水電解液を電池ケース11内に注入される。非水電解液の温度を注入温度にしてから注入する。注入工程において決定される注入温度は、ナトリウム量と負の相関である。すなわち、電極体20に含まれるナトリウム量が多い場合には注入温度を低くすることで、局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、電極体20に含まれるナトリウム量が少ない場合には注入温度を高くすることで、非水電解液の浸透性が良くなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。注入温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0042】
ステップS6の浸透工程において、非水電解液を正極シート21及び負極シート24に浸透させる。このとき、測定工程においてナトリウム量が多いほど浸透温度を低くすることを含むように、測定されたナトリウム量に基づいて決定した浸透温度で非水電解液を正極シート21及び負極シート24に浸透させる。浸透工程が行われる部屋の環境温度を浸透温度に設定して浸透工程を行う。浸透工程において決定される浸透温度は、ナトリウム量と負の相関である。すなわち、電極体20に含まれるナトリウム量が多い場合には浸透温度を低くすることで局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、電極体20に含まれるナトリウム量が少ない場合には浸透温度を高くすることで、非水電解液の浸透性が良くなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。浸透温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0043】
ステップS7の活性化工程において、リチウムイオン二次電池10を複数回充放電させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が所定の容量をスムーズに放電させるようにする。以上により、リチウムイオン二次電池10が製造される。
【0044】
[拡散]
次に、
図4~
図7を参照して、上記浸透工程におけるNaイオンとBOBイオンとの拡散について説明する。非水電解液に添加材としてLiBOBが添加されており、且つ電極体20にナトリウムが含まれている。
図4~
図7では、Naイオンを実線で示し、BOBイオンを破線で示している。
【0045】
まず、
図4に示すように、Naイオンは、非水電解液中の拡散速度が速い。一方、BOBイオンは、非水電解液中の拡散速度が遅い。よって、浸透の初期において、NaイオンとBOBイオンとに速度差が生じる。
【0046】
続いて、
図5に示すように、Naイオンは、一度中心部に濃縮してから、電極体20中に一定に浸透しようとする。この時、非水電解液の温度が高いと非水電解液の粘度が低くなり、NaイオンとBOBイオンとの拡散速度の差が大きくなる。よって、Naイオンがより速く中央部に濃縮することとなる。
【0047】
続いて、
図6に示すように、BOBイオンは、Naイオンの濃度が高いところを超えることができず、Naイオンの濃度が高い部分でNaBOBが生成する(局所NaBOB生成)。従来技術では温度が高いので、この局所NaBOB生成が多いと推測される。
【0048】
一方、
図7に示すように、非水電解液の温度が低いと非水電解液の粘度が高くなり、NaイオンとBOBイオンの拡散速度の差が小さくなる。よって、Naイオンが中央部に濃縮するよりも先にBOBイオンを追いつかせて、局所NaBOB生成を抑制することができる。このように、NaBOB生成の抑制により、Li析出耐性の向上が見込まれる。なお、Na量が少なくNaBOB生成の懸念がない場合には、生産性を向上することもでき、電極体20に含まれるナトリウム量によって性能と生産性とを両立することができる。
【0049】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)測定したナトリウム量に基づいて非水電解液を正極シート及び負極シートに浸透させる浸透温度を決定する。例えば、ナトリウム量が多い場合には浸透温度を低くさせることで局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、ナトリウム量が少ない場合には浸透温度を高くすることで、非水電解液の浸透性がよくなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。浸透温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0050】
(2)測定したナトリウム量に基づいて非水電解液を注入する注入温度を決定する。例えば、ナトリウム量が多い場合には注入温度を低くさせることで局所的なNaBOBの生成を抑制することができるので、析出耐性を向上させることができる。また、ナトリウム量が少ない場合には注入温度を高くすることで、非水電解液の浸透性がよくなり被膜の均一化により析出耐性を向上させることができる。注入温度を高めた場合には、浸透時間が短くなるため生産性を向上させることができる。
【0051】
(3)浸透工程における浸透温度をナトリウム量と負の相関となるように決定することで、NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制することができる。
(4)注入工程における注入温度をナトリウム量と負の相関となるように決定することで、NaBOB被膜の形成によるLi析出を抑制することができる。
【0052】
(5)被膜形成材がLiBOBである。このため、LiBOBが電池寿命を延ばすことができる比較的安定性が高い被膜を負極シートに形成することができる。
【0053】
[他の実施形態]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・上記実施形態では、測定したナトリウム量に基づいて注入工程における注入温度及び浸透工程の浸透温度を変更した。しかしながら、測定したナトリウム量に基づいて浸透工程の浸透温度のみを変更してもよい。
【0055】
・上記実施形態において、負極合材に添加される負極増粘材としては、ナトリウム塩を含むものであればCMCに限定されるものではない。
・上記実施形態において、非水電解液に添加される被膜形成材としてのLiBOBは、リチウム塩を含むものであれば特に限定されるものではない。
【0056】
・上記実施形態において、負極合材に添加される負極結着材としては、ナトリウム塩を含むものであればSBRに限定されるものではない。
・上記実施形態では、セパレータ27を介して正極シート21と負極シート24とを積層した積層体を捲回した捲回体を電極体20とした。しかしながら、複数の正極シート21及び複数の負極シート24を、セパレータ27を介して交互に積層した積層体を電極体としてもよい。
【0057】
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0058】
[実施例]
次に、
図8~
図10を参照して、リチウムイオン二次電池10の実施例及び比較例について説明する。なお、これらの実施例及び比較例は非水二次電池の製造方法を限定するものではない。
【0059】
以下では、
図8及び
図9に示すように、電極体20に含まれるナトリウム量と浸透温度との組み合わせを変更した実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池10を準備した。そして、各実施例及び各比較例について、抵抗の均一度、Li析出耐性、AC-IRによる抵抗が一定になるまでの時間を評価した。
【0060】
[実施例1]
電極体20に含まれるナトリウム量を0.02mgとした。浸透温度を25℃とした。なお、注入温度も25℃とする。
【0061】
[実施例2]
電極体20に含まれるナトリウム量を0.05mgとした。浸透温度を13℃とした。なお、注入温度も13℃とする。実施例2は、実施例1よりもナトリウム量が多いため、浸透温度及び注入温度を実施例1よりも低く設定する。
【0062】
[実施例3]
電極体20に含まれるナトリウム量を0.1mgとした。浸透温度を2℃とした。なお、注入温度も2℃とする。実施例3は、実施例1,2よりもナトリウム量が多いため、浸透温度及び注入温度を実施例1,2よりも低く設定する。
【0063】
[比較例1]
電極体20に含まれるナトリウム量を0.02mgとした。浸透温度を2℃とした。なお、注入温度も2℃とする。
【0064】
[比較例2]
電極体20に含まれるナトリウム量を0.1mgとした。浸透温度を25℃とした。なお、注入温度も25℃とする。
【0065】
[評価]
図10に示すように、上記の各実施例及び各比較例について、抵抗の均一度、Li析出耐性、AC-IRによる抵抗が一定になるまでの時間を評価した。抵抗の均一度は、抵抗分布測定を行い、ベース部分と抵抗が最も高くなった値を算出する。Li析出耐性は、既定のプログラムを回して、300サイクル後の容量維持率を測定した。AC-IRは、非水電解液を注入した後から測定を始め、抵抗が一定になった時間を測定した。
【0066】
抵抗の均一度が5mΩ未満であるものを「◎」、5mΩよりも大きく10mΩ未満であるものを「○」、10mΩよりも大きく20mΩ未満であるものを「△」、20mΩよりも大きいものを「×」とした。
【0067】
Li析出耐性を示す容量維持率が98%より大きいものを「◎」、96%よりも大きく98%未満であるものを「〇」、94%よりも大きく96%未満であるものを「△」、94%未満であるものを「×」とした。
【0068】
抵抗の均一度は、実施例1,2が「◎」であり、実施例3が「○」であり、比較例1が「△」であり、比較例2が「×」であった。
Li析出耐性は、実施例1,2が「◎」であり、実施例3が「○」であり、比較例1,2が「△」であった。
【0069】
AC-IRは、実施例1が2時間であり、実施例2が2.5時間であり、実施例3及び比較例1が3.5時間であり、比較例2が2時間であった。
図9に示すように、測定したナトリウム量に基づいて決定した非水電解液の浸透温度で浸透工程を行った実施例1~3が抵抗の均一度及びLi析出耐性も優れた結果が得られた。また、AC-IRについては、実施例1~3及び比較例1,2のいずれにおいても問題のない範囲の結果が得られた。
【符号の説明】
【0070】
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13A…正極外部端子
13B…負極外部端子
14A…正極側集電部材
14B…負極側集電部材
20…電極体
20A…正極側集電部
20B…負極側集電部
21…正極シート
22…正極集電体
22A…正極側未塗工部
23…正極合材層
24…負極シート
25…負極集電体
25A…負極側未塗工部
26…負極合材層
27…セパレータ