(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006622
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240110BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107698
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】パンナワデイー スイームーン
(72)【発明者】
【氏名】スラデット ノーシャイ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
5E070BA12
5E070CB02
5E070CB13
5E070CB17
(57)【要約】
【課題】積層体に発生する内部応力が低減され、クラック等の欠陥が発生しにくい積層コイル部品を提供する。
【解決手段】積層コイル部品1Aは、複数の絶縁層31が積層方向に積層され、内部にコイル30Aを内蔵する積層体10Aと、積層体10Aの外表面に設けられ、コイル30Aに電気的に接続された外部電極21及び22と、を備える。コイル30Aは、絶縁層31とともに上記積層方向に積層された複数のコイル導体32が電気的に接続されることにより構成される。コイル30Aには、ビア導体33を介して電気的に並列に接続された2層以上のコイル導体32から構成される並列部P1が含まれる。並列部P1において、線幅の異なるコイル導体32が積層されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁層が積層方向に積層され、内部にコイルを内蔵する積層体と、
前記積層体の外表面に設けられ、前記コイルに電気的に接続された外部電極と、を備え、
前記コイルは、前記絶縁層とともに前記積層方向に積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより構成され、
前記コイルには、ビア導体を介して電気的に並列に接続された2層以上の前記コイル導体から構成される並列部が含まれ、
前記並列部において、線幅の異なる前記コイル導体が積層されている、積層コイル部品。
【請求項2】
前記並列部に含まれる前記コイル導体の間での線幅の比は、1.05倍以上、1.2倍以下である、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記並列部は、3層以上の前記コイル導体から構成される、請求項1又は2に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記並列部において、前記積層方向の内側に位置する前記コイル導体の線幅が、前記積層方向の外側に位置する前記コイル導体の線幅より大きい、請求項3に記載の積層コイル部品。
【請求項5】
前記並列部は、3層又は4層の前記コイル導体から構成される、請求項4に記載の積層コイル部品。
【請求項6】
前記並列部において、線幅の小さいコイル導体と線幅の大きいコイル導体とが交互に積層されている、請求項3に記載の積層コイル部品。
【請求項7】
前記並列部は、3層又は4層の前記コイル導体から構成される、請求項6に記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の絶縁層が積層されてなる積層体と、上記積層体の積層方向に延在し、かつ、互いに対向している該積層体の側面に設けられている2つの外部電極と、上記絶縁層と共に積層されてコイルを形成している複数のコイル導体と、を備え、上記外部電極に接続されていない上記コイル導体はそれぞれ、同じ形状を有する上記コイル導体と互いに並列に接続されており、上記外部電極に接続されている上記コイル導体の少なくとも一方は、同じ形状を有する上記コイル導体に並列に接続されていないこと、を特徴とする電子部品が開示されている。特許文献1に記載された発明によれば、大きな電流容量を確保しつつ、共振周波数の低下を抑制することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、積層コイル部品では、コイル導体と絶縁層との収縮率の差から、コイル導体間の絶縁層に応力が集中しやすい構造となっている。特に、特許文献1に記載されているように、複数のコイル導体がビア導体を介して並列に積層されている構造では、積層方向に重なり合うビア導体の体積が大きくなる分、積層体に発生する内部応力が大きくなる。この内部応力が絶縁層の破壊靭性を上回るとクラック等の欠陥が発生し、その結果、積層コイル部品の強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、積層体に発生する内部応力が低減され、クラック等の欠陥が発生しにくい積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層コイル部品は、複数の絶縁層が積層方向に積層され、内部にコイルを内蔵する積層体と、上記積層体の外表面に設けられ、上記コイルに電気的に接続された外部電極と、を備える。上記コイルは、上記絶縁層とともに上記積層方向に積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより構成される。上記コイルには、ビア導体を介して電気的に並列に接続された2層以上の上記コイル導体から構成される並列部が含まれる。上記並列部において、線幅の異なる上記コイル導体が積層されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、積層体に発生する内部応力が低減され、クラック等の欠陥が発生しにくい積層コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の積層コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す積層コイル部品を構成する積層体の一例を模式的に示す分解平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第4実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、応力を求める箇所を説明するための拡大図である。
【
図8】
図8は、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比と応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の積層コイル部品について説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0010】
本明細書において、要素間の関係性を示す用語(例えば「垂直」、「平行」、「直交」等)及び要素の形状を示す用語は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0011】
本発明の積層コイル部品では、並列部において、線幅(コイル幅ともいう)の異なるコイル導体が積層されている。これにより、積層体に発生する内部応力が低減される。その結果、クラック等の欠陥の発生が抑制される。
【0012】
並列部に含まれるコイル導体の間で線幅が同等である従来の構造では、特にコイル導体の端部(角部)に応力が集中する。一方、並列部に含まれるコイル導体の間で線幅が異なる本発明の構造では、並列部において積層されるコイル導体の端部(角部)の位置がずれるため、応力の集中を防ぐことができる。そのため、本発明の積層コイル部品では、積層体に発生する内部応力が低減されると考えられる。
【0013】
本発明の積層コイル部品では、2つ以上の並列部がコイルに含まれる場合、少なくとも1つの並列部において、線幅の異なるコイル導体が積層されていればよい。したがって、線幅の同等なコイル導体のみが積層されている並列部がコイルに含まれていてもよい。積層体に発生する内部応力を低減する観点からは、全ての並列部において、線幅の異なるコイル導体が積層されていることが好ましい。
【0014】
なお、2つ以上の並列部において、線幅の異なるコイル導体が積層されている場合、並列部の間でコイル導体の線幅の関係は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0015】
本発明の積層コイル部品において、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比は、1.05倍以上、1.2倍以下であることが好ましい。線幅の比が上記の範囲である場合、積層体に発生する内部応力を効果的に低減することができる。
【0016】
本明細書において、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比とは、並列部に含まれるコイル導体のうち、線幅の小さいコイル導体の線幅をW1、線幅の大きいコイル導体の線幅をW2としたとき、W2/W1の比を意味する。
【0017】
本発明の積層コイル部品において、並列部は、2層のコイル導体から構成されてもよく、3層以上のコイル導体から構成されてもよい。一方、並列部は、5層以下のコイル導体から構成されることが好ましい。例えば、並列部は、3層又は4層のコイル導体から構成される。
【0018】
本発明の積層コイル部品において、並列部が3層以上の前記コイル導体から構成される場合、線幅の小さいコイル導体と線幅の大きいコイル導体とが積層される順序は特に限定されない。例えば、積層方向の内側に位置するコイル導体の線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体の線幅より大きくてもよい。あるいは、線幅の小さいコイル導体と線幅の大きいコイル導体とが交互に積層されていてもよい。
【0019】
本発明の積層コイル部品では、並列部が3層以上のコイル導体から構成される場合、並列部において、線幅の異なる2種類のコイル導体が積層されていてもよく、線幅の異なる3種類以上のコイル導体が積層されていてもよい。
【0020】
以下に示す図面は模式図であり、その寸法、縦横比の縮尺等は実際の製品と異なる場合がある。
【0021】
図1は、本発明の積層コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
【0022】
図1に示す積層コイル部品1は、積層体10と、外部電極21及び22と、を備える。積層体10は、例えば、6面を有する直方体状又は略直方体形状を有する。
図1には示されていないが、積層体10は、複数の絶縁層が積層方向に積層されてなり、内部にコイルを内蔵している。外部電極21及び22は、各々、コイルに電気的に接続されている。
【0023】
積層コイル部品1及び積層体10では、長さ方向、高さ方向及び幅方向を
図1におけるL方向、T方向及びW方向とする。ここで、長さ方向Lと高さ方向Tと幅方向Wとは互いに直交する。
【0024】
図1に示す例では、積層体10は、長さ方向Lに相対する第1の端面11及び第2の端面12と、高さ方向Tに相対する第1の主面13及び第2の主面14と、幅方向Wに相対する第1の側面15及び第2の側面16と、を有する。
【0025】
図1には示されていないが、積層体10は、角部及び稜線部に丸みが付けられていることが好ましい。積層体10の角部は、積層体10の3面が交わる部分であり、積層体10の稜線部は、積層体10の2面が交わる部分である。
【0026】
外部電極21及び22のうち、一方の外部電極21は、例えば、
図1に示すように、積層体10の第1の端面11の全部を覆い、かつ、第1の端面11から延伸して第1の主面13の一部、第2の主面14の一部、第1の側面15の一部、及び、第2の側面16の一部を覆っている。
【0027】
外部電極21及び22のうち、他方の外部電極22は、例えば、
図1に示すように、積層体10の第2の端面12の全部を覆い、かつ、第2の端面12から延伸して第1の主面13の一部、第2の主面14の一部、第1の側面15の一部、及び、第2の側面16の一部を覆っている。
【0028】
以上のように外部電極21及び22が配置されている積層コイル部品1を基板上に実装する場合には、積層体10の第1の主面13、第2の主面14、第1の側面15及び第2の側面16のいずれかが実装面となる。
【0029】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【0031】
図2に示す積層コイル部品1Aは、
図1に示す積層コイル部品1と同様、積層体10Aと、外部電極21及び22と、を備える。
【0032】
積層体10Aは、複数の絶縁層31が積層方向に積層されることにより構成されている。
図2に示す例では、複数の絶縁層31が長さ方向Lに積層されているため、長さ方向Lが積層方向である。
【0033】
積層体10Aは、コイル30Aを内蔵している。コイル30Aは、絶縁層31とともに積層方向(ここでは長さ方向L)に積層された複数のコイル導体32が電気的に接続されることにより構成されている。
【0034】
外部電極21及び22は、各々、コイル30Aに電気的に接続されている。
【0035】
図3は、
図2に示す積層コイル部品を構成する積層体の一例を模式的に示す分解平面図である。
【0036】
図3に示すように、積層体10Aは、
図2中の絶縁層31として、複数の絶縁層31m、31m・・・31m、31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i、31j、31k、31l、31n・・・31n及び31nが、積層体10Aの第1の端面11側から第2の端面12側に向かって、長さ方向Lに積層されることにより構成されている。絶縁層31mは、1層でもよく、2層以上でもよい。同様に、絶縁層31nは、1層でもよく、2層以上でもよい。以下、絶縁層31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i、31j、31k、31l、31m及び31nをまとめて絶縁層31とも記載する。
【0037】
図3においては、絶縁層31mが積層方向の下側(積層体10Aの第1の端面11側)、絶縁層31nが積層方向の上側(積層体10Aの第2の端面12側)に配置され、かつ、各々の絶縁層31の主面のうち、長さ方向Lの負方向側(
図3では紙面奥側)の主面が積層方向の下側、長さ方向Lの正方向側(
図3では紙面手前側)の主面が積層方向の上側に配置される。
【0038】
各々の絶縁層31の構成材料としては、例えば、フェライト材料等の磁性材料が挙げられる。
【0039】
図3に示すように、絶縁層31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i、31j、31k及び31lには、
図2中のコイル導体32として、それぞれ、コイル導体32a、32b、32c、32d、32e、32f、32g、32h、32i、32j、32k及び32lが設けられている。以下、コイル導体32a、32b、32c、32d、32e、32f、32g、32h、32i、32j、32k及び32lをまとめてコイル導体32とも記載する。
【0040】
コイル導体32a、32b、32c、32d、32e、32f、32g、32h、32i、32j、32k及び32lは、それぞれ、絶縁層31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i、31j、31k及び31lの主面上、具体的には、長さ方向Lの正方向側(
図3では紙面手前側)の主面上に設けられている。
【0041】
図3に示す例では、各コイル導体32の長さが、コイル30Aの3/4ターンの長さである。つまり、コイル30Aの3ターンを構成するためのコイル導体32の積層数は4である。
【0042】
絶縁層31aには、コイル導体32aの一端にビア導体33a1が設けられている。絶縁層31bには、コイル導体32bの両端にビア導体33b1及び33b2が設けられている。絶縁層31cには、コイル導体32cの両端にビア導体33c1及び33c2が設けられている。絶縁層31dには、コイル導体32dの一端にビア導体33d2が設けられている。絶縁層31eには、コイル導体32eの両端にビア導体33e1及び33e2が設けられている。絶縁層31fには、コイル導体32fの両端にビア導体33f1及び33f2が設けられている。絶縁層31gには、コイル導体32gの一端にビア導体33g1が設けられている。絶縁層31hには、コイル導体32hの両端にビア導体33h1及び33h2が設けられている。絶縁層31iには、コイル導体32iの両端にビア導体33i1及び33i2が設けられている。絶縁層31jには、コイル導体32jの一端にビア導体33j2が設けられている。絶縁層31kには、コイル導体32kの両端にビア導体33k1及び33k2が設けられている。絶縁層31lには、コイル導体32lの両端にビア導体33l1及び33l2が設けられている。絶縁層31mには、ビア導体33m1が設けられている。絶縁層31nには、ビア導体33n1が設けられている。以下、ビア導体33a1、33b1、33b2、33c1、33c2、33d2、33e1、33e2、33f1、33f2、33g1、33h1、33h2、33i1、33i2、33j2、33k1、33k2、33l1、33l2、33m1及び33n1をまとめてビア導体33とも記載する。
【0043】
ビア導体33は、絶縁層31を積層方向(
図2では長さ方向L)に貫通するように設けられている。
【0044】
絶縁層31の主面上には、ビア導体33と接続されるランドが設けられていることが好ましい。その場合、ランドのサイズは、コイル導体32の線幅よりも若干大きいことが好ましい。
【0045】
各々のコイル導体32(ランドを含む)及び各々のビア導体33の構成材料としては、例えば、Ag、Au、Cu、Pd、Ni、Al、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等が挙げられる。
【0046】
図3に示すように構成された絶縁層31が長さ方向Lに積層されると、ビア導体33を介してコイル導体32が電気的に接続される。その結果、
図2に示すように、積層体10A内において、長さ方向Lに延在するコイル軸を有するソレノイド状のコイル30Aが構成される。
【0047】
また、
図3に示す絶縁層31aに設けられたビア導体33a1及び絶縁層31mに設けられたビア導体33m1は、
図2に示すように、積層体10A内で引き出し導体41となって、積層体10Aの第1の端面11に露出する。引き出し導体41は、積層体10A内において、外部電極21とコイル導体32aとを接続する。
【0048】
同様に、
図3に示す絶縁層31lに設けられたビア導体33l1及び絶縁層31nに設けられたビア導体33n1は、
図2に示すように、積層体10A内で引き出し導体42となって、積層体10Aの第2の端面12に露出する。引き出し導体42は、積層体10A内において、外部電極22とコイル導体32lとを接続する。
【0049】
長さ方向Lから見たとき、コイル30Aは、
図3に示すような直線部で構成される形状(例えば多角形状)であってもよく、曲線部で構成される形状(例えば円形状)であってもよく、直線部及び曲線部で構成される形状であってもよい。
【0050】
図2及び
図3に示す例では、絶縁層31の積層方向とコイル30Aのコイル軸の方向とは、積層体10Aの実装面(例えば第1の主面13)に平行であるが、絶縁層31の積層方向とコイル30Aのコイル軸の方向とは、積層体10Aの実装面(例えば第1の主面13)に直交してもよい。
【0051】
図2及び
図3に示すように、コイル30Aには、ビア導体33を介して電気的に並列に接続された3層のコイル導体32から構成される4つの並列部P1、P2、P3及びP4が含まれている。なお、コイル30Aに含まれる並列部の数は特に限定されない。
【0052】
具体的には、
図3において、3層のコイル導体32a、32b及び32cは、ビア導体33b1、33b2、33c1及び33c2を介して電気的に並列に接続されることにより、並列部P1を構成する。3層のコイル導体32d、32e及び32fは、ビア導体33e1、33e2、33f1及び33f2を介して電気的に並列に接続されることにより、並列部P2を構成する。並列部P1及び並列部P2は、ビア導体33d2を介して電気的に直列に接続されている。3層のコイル導体32g、32h及び32iは、ビア導体33h1、33h2、33i1及び33i2を介して電気的に並列に接続されることにより、並列部P3を構成する。並列部P2及び並列部P3は、ビア導体33g1を介して電気的に直列に接続されている。3層のコイル導体32j、32k及び32lは、ビア導体33k1、33k2、33l1及び33l2を介して電気的に並列に接続されることにより、並列部P4を構成する。並列部P3及び並列部P4は、ビア導体33j2を介して電気的に直列に接続されている。
【0053】
並列部P1、P2、P3及びP4においては、各々、コイル導体32のパターン形状は同じである。一方、並列部P1、P2、P3及びP4においては、各々、線幅の異なるコイル導体32が積層されている。
【0054】
並列部P1においては、積層方向の内側に位置するコイル導体32bの線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32a及び32cの線幅より大きい。コイル導体32aの線幅は、コイル導体32cの線幅と同じでもよく、異なってもよい。
【0055】
並列部P2においては、積層方向の内側に位置するコイル導体32eの線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32d及び32fの線幅より大きい。コイル導体32dの線幅は、コイル導体32fの線幅と同じでもよく、異なってもよい。
【0056】
並列部P3においては、積層方向の内側に位置するコイル導体32hの線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32g及び32iの線幅より大きい。コイル導体32gの線幅は、コイル導体32iの線幅と同じでもよく、異なってもよい。
【0057】
並列部P4においては、積層方向の内側に位置するコイル導体32kの線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32j及び32lの線幅より大きい。コイル導体32jの線幅は、コイル導体32lの線幅と同じでもよく、異なってもよい。
【0058】
並列部P1、P2、P3及びP4において、コイル導体32b、32e、32h及び32kの線幅は、全て同じでもよく、一部又は全部が異なってもよい。
【0059】
並列部P1、P2、P3及びP4において、コイル導体32a、32c、32d、32f、32g、32i、32j及び32lの線幅は、全て同じでもよく、一部又は全部が異なってもよい。
【0060】
上記のとおり、並列部P1、P2、P3及びP4においては、いずれも、積層方向の内側に位置するコイル導体32の線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32の線幅より大きい。また、並列部P1、P2、P3及びP4においては、いずれも、線幅の小さいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32とが交互に積層されている。
【0061】
図2及び
図3に示す例では、並列部P1、P2、P3及びP4において、いずれも、線幅の小さいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32と線幅の小さいコイル導体32とが順に積層されているが、コイル導体32の積層構造は特に限定されない、例えば、線幅の大きいコイル導体32と線幅の小さいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32とが順に積層されていてもよく、線幅の大きいコイル導体32と線幅の小さいコイル導体32と線幅の小さいコイル導体32とが順に積層されていてもよく、線幅の大きいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32と線幅の小さいコイル導体32とが順に積層されていてもよい。また、コイル導体32の積層構造が異なる並列部が混在してもよい。
【0062】
図4は、本発明の第2実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【0063】
図4に示す積層コイル部品1Bでは、並列部P1、P2、P3及びP4が4層のコイル導体32から構成される。なお、積層体10B内のコイル30Bに含まれる並列部の数は特に限定されない。
【0064】
並列部P1、P2、P3及びP4においては、いずれも、積層方向(ここでは長さ方向L)の内側に位置するコイル導体32の線幅が、積層方向の外側に位置するコイル導体32の線幅より大きい。
【0065】
積層方向の内側に位置するコイル導体32の線幅は、互いに同じでもよく、異なってもよい。同様に、積層方向の外側に位置するコイル導体32の線幅は、互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0066】
図5は、本発明の第3実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【0067】
図5に示す積層コイル部品1Cでは、並列部P1、P2、P3及びP4が4層のコイル導体32から構成される。なお、積層体10C内のコイル30Cに含まれる並列部の数は特に限定されない。
【0068】
並列部P1、P2、P3及びP4においては、いずれも、線幅の小さいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32とが交互に積層されている。
【0069】
線幅の小さいコイル導体32の線幅は、互いに同じでもよく、異なってもよい。同様に、線幅の大きいコイル導体32の線幅は、互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0070】
図6は、本発明の第4実施形態に係る積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
【0071】
図6に示す積層コイル部品1Dでは、並列部P1、P2、P3及びP4が2層のコイル導体32から構成される。なお、積層体10D内のコイル30Dに含まれる並列部の数は特に限定されない。
【0072】
並列部P1、P2、P3及びP4においては、いずれも、線幅の小さいコイル導体32と線幅の大きいコイル導体32とが積層されている。
【0073】
図2、
図4、
図5及び
図6に示す例では、コイル導体32の断面形状は、積層方向(ここでは長さ方向L)に相対する1対の辺の長さが同じ長方形状であるが、コイル導体32の断面形状は特に限定されず、例えば、積層方向に相対する1対の辺の長さが異なる台形状等の形状であってもよい。
【0074】
以下、本発明の積層コイル部品の製造方法の一例について説明する。
【0075】
<磁性材料の作製工程>
まず、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOを所定の比率になるように秤量する。
【0076】
次に、これらの秤量物、純水等を、PSZ(部分安定化ジルコニア)メディアとともにボールミルに入れて混合した後、粉砕する。混合・粉砕時間については、例えば、4時間以上、8時間以下とする。
【0077】
そして、得られた粉砕物を乾燥させた後、仮焼する。仮焼温度については、例えば、700℃以上、800℃以下とする。仮焼時間については、例えば、2時間以上、5時間以下とする。
【0078】
このようにして、粉末状の磁性材料、より具体的には、粉末状の磁性フェライト材料を作製する。
【0079】
フェライト材料は、Ni-Cu-Zn系フェライト材料であることが好ましい。
【0080】
Ni-Cu-Zn系フェライト材料は、全量を100mоl%としたとき、FeをFe2O3換算で40mol%以上、49.5mol%以下、ZnをZnO換算で2mol%以上、35mol%以下、CuをCuO換算で6mol%以上、13mol%以下、NiをNiO換算で10mol%以上、45mol%以下含むことが好ましい。
【0081】
Ni-Cu-Zn系フェライト材料は、Co、Bi、Sn、Mn等の添加物を更に含んでいてもよい。
【0082】
Ni-Cu-Zn系フェライト材料は、不可避不純物を更に含んでいてもよい。
【0083】
<グリーンシートの作製工程>
まず、磁性材料と、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤と、等を、PSZメディアとともにボールミルに入れて混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製する。
【0084】
次に、スラリーを、ドクターブレード法等で、所定の厚みのシート状に成形した後、所定の形状に打ち抜くことにより、グリーンシートを作製する。グリーンシートの厚みについては、例えば、20μm以上、30μm以下とする。グリーンシートの形状については、例えば、矩形状とする。
【0085】
グリーンシートの材料としては、磁性材料に代えて、ホウケイ酸ガラス材料等の非磁性材料を用いてもよいし、磁性材料及び非磁性材料の混合材料を用いてもよい。
【0086】
<導体パターンの形成工程>
まず、グリーンシートの所定の箇所にレーザー照射を行うことにより、ビアホールを形成する。
【0087】
次に、Agペースト等の導電性ペーストを、スクリーン印刷法等で、ビアホールに充填しつつグリーンシートの表面に塗工する。これにより、グリーンシートに対して、ビア導体用導体パターンをビアホールに形成しつつ、ビア導体用導体パターンに接続されたコイル導体用導体パターンを表面上に形成する。このようにして、グリーンシートにコイル導体用導体パターン及びビア導体用導体パターンが形成されたコイルシートを作製する。コイルシートには、
図3に示すコイル導体32に相当するコイル導体用導体パターンと、
図3に示すビア導体33(ビア導体33m1及び33n1を除く)に相当するビア導体用導体パターンとが形成される。また、コイルシートとは別に、
図3に示すビア導体33m1及び33n1に相当するビア導体用導体パターンが形成されたビアシートを作製する。
【0088】
<積層体ブロックの作製工程>
コイルシート及びビアシートを、
図3に相当する順序で積層方向(
図3では長さ方向L)に積層した後、熱圧着することにより、積層体ブロックを作製する。
【0089】
<積層体及びコイルの作製工程>
まず、積層体ブロックをダイサー等で所定の大きさに切断することにより、個片化されたチップを作製する。
【0090】
次に、個片化されたチップを焼成する。焼成温度については、例えば、900℃以上、920℃以下とする。焼成時間については、例えば、2時間以上、4時間以下とする。
【0091】
個片化されたチップを焼成すると、コイルシート及びビアシートのグリーンシートは、絶縁層となる。
【0092】
また、個片化されたチップを焼成すると、コイル導体用導体パターン及びビア導体用導体パターンは、各々、コイル導体及びビア導体となる。その結果、絶縁層とともに積層された複数のコイル導体がビア導体を介して電気的に接続されたコイルが作製される。
【0093】
以上により、複数の絶縁層が積層方向に積層され、内部にコイルを内蔵する積層体が作製される。
【0094】
積層体に対しては、例えば、バレル研磨を施すことにより、角部及び稜線部に丸みを付けてもよい。
【0095】
<外部電極の形成工程>
まず、積層体の外表面のうち、コイルが引き出された端面に、Ag及びガラスフリットを含むペースト等の導電性ペーストを塗工することにより、導電性ペースト層を形成する。
【0096】
次に、導電性ペースト層を焼き付けることにより、外部電極の下地電極を形成する。焼き付け温度については、例えば、800℃以上、820℃以下とする。下地電極の厚みについては、例えば、5μmとする。
【0097】
そして、下地電極の表面上に、電解めっき等で、Niめっき電極及びSnめっき電極を順に形成する。これにより、下地電極、Niめっき電極、及び、Snめっき電極を順に有する外部電極が形成される。
【0098】
以上により、積層コイル部品が製造される。
【0099】
本明細書には、以下の内容が開示されている。
【0100】
<1>
複数の絶縁層が積層方向に積層され、内部にコイルを内蔵する積層体と、
上記積層体の外表面に設けられ、上記コイルに電気的に接続された外部電極と、を備え、
上記コイルは、上記絶縁層とともに上記積層方向に積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより構成され、
上記コイルには、ビア導体を介して電気的に並列に接続された2層以上の上記コイル導体から構成される並列部が含まれ、
上記並列部において、線幅の異なる上記コイル導体が積層されている、積層コイル部品。
【0101】
<2>
上記並列部に含まれる上記コイル導体の間での線幅の比は、1.05倍以上、1.2倍以下である、<1>に記載の積層コイル部品。
【0102】
<3>
上記並列部は、3層以上の上記コイル導体から構成される、<1>又は<2>に記載の積層コイル部品。
【0103】
<4>
上記並列部において、上記積層方向の内側に位置する上記コイル導体の線幅が、上記積層方向の外側に位置する上記コイル導体の線幅より大きい、<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層コイル部品。
【0104】
<5>
上記並列部は、3層又は4層の上記コイル導体から構成される、<4>に記載の積層コイル部品。
【0105】
<6>
上記並列部において、線幅の小さいコイル導体と線幅の大きいコイル導体とが交互に積層されている、<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層コイル部品。
【0106】
<7>
上記並列部は、3層又は4層の上記コイル導体から構成される、<6>に記載の積層コイル部品。
【実施例0107】
以下、本発明の積層コイル部品をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
以下の方法により、
図2に示す構造を有する積層コイル部品を作製した。
【0109】
(1)フェライト材料を粉砕し、有機バインダ及び湿潤剤と混合した後、PETフィルム上に薄膜を形成し、フェライトシートを得た。
【0110】
(2)フェライトシート上に印刷パターンを用いてAgペーストを印刷し、コイルパターンを形成した。
【0111】
(3)線幅の異なるコイル導体を形成するため、線幅の異なる2種の印刷パターン(線幅:72μm及び60μm)を使用した。
【0112】
(4)導電性ペーストが印刷されたシートを、並列部が3層のコイル導体から構成される3重巻きのコイル構造が形成されるよう積層し、積層体ブロックを得た。
【0113】
(5)積層体ブロックをチップ形状に切断し、積層チップを得た。
【0114】
(6)積層チップを焼成炉にて920℃で焼成し、内部にコイルを内蔵する積層体を得た。
【0115】
(7)積層体の外表面に下地電極を形成した後、めっき処理を行い、実施例1に係る積層コイル部品を得た。
【0116】
実施例1に係る積層コイル部品を中央部にて断面研磨し、並列部に含まれるコイル導体の線幅を測定したところ、積層方向の外側の線幅が90μm、内側の線幅が108μmであった。すなわち、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比は1.2倍であった。
【0117】
[実施例2]
以下の方法により、
図4又は
図5に示す構造を有する積層コイル部品を作製した。
【0118】
(1)フェライト材料を粉砕し、有機バインダ及び湿潤剤と混合した後、PETフィルム上に薄膜を形成し、フェライトシートを得た。
【0119】
(2)フェライトシート上に印刷パターンを用いてAgペーストを印刷し、コイルパターンを形成した。
【0120】
(3)線幅の異なるコイル導体を形成するため、線幅の異なる2種の印刷パターン(線幅:72μm及び60μm)を使用した。
【0121】
(4)導電性ペーストが印刷されたシートを、並列部が4層のコイル導体から構成される4重巻きのコイル構造が形成されるよう積層し、積層体ブロックを得た。
【0122】
(5)積層体ブロックをチップ形状に切断し、積層チップを得た。
【0123】
(6)積層チップを焼成炉にて920℃で焼成し、内部にコイルを内蔵する積層体を得た。
【0124】
(7)積層体の外表面に下地電極を形成した後、めっき処理を行い、実施例2に係る積層コイル部品を得た。
【0125】
実施例2に係る積層コイル部品を中央部にて断面研磨し、並列部に含まれるコイル導体の線幅を測定したところ、積層方向の外側の線幅が90μm、内側の線幅が108μmであった。すなわち、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比は1.2倍であった。
【0126】
[実施例3]
図2に示す構造を有する積層コイル部品について、ムラタソフトウェア株式会社の解析シミュレーションソフトFemtet(登録商標)を用いて、コイル導体(Ag)間の絶縁層(フェライト)に発生する応力をシミュレーションにより求めた。
【0127】
図7は、応力を求める箇所を説明するための拡大図である。
【0128】
シミュレーションでは、並列部において積層方向の外側に位置するコイル導体の線幅を1とし、内側に位置するコイル導体の線幅を1~1.9まで変化させたときの、
図7中の×印で示す箇所で発生する応力を求めた。外側に位置するコイル導体の線幅に対する内側に位置するコイル導体の線幅の比が1のときの応力を1として、応力の変化を
図8に示した。
【0129】
図8は、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比と応力との関係を示すグラフである。
【0130】
図8より、並列部に含まれるコイル導体の間での線幅の比が1.05倍以上、1.2倍以下であると、応力が効果的に低減されることが分かる。