(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066236
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】新規酸化ヨウ素組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 11/22 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
C01B11/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175688
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】菅 誠治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英祐
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
(57)【要約】
【課題】安価な原料から産業的に有効利用できるヨウ素源を見出し、提供すること。
【解決手段】
式(1)及び(2):
I-O …(1)及びI=O …(2)
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む酸化ヨウ素組成物であって、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークが500℃以上600℃未満である組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
及び
式(2):
【化2】
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む酸化ヨウ素組成物であって、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークが500℃以上600℃未満である組成物。
【請求項2】
次亜塩素酸ナトリウム・五水和物とアルカリ金属ヨウ化物とを反応させる工程を含む、請求項1に記載の酸化ヨウ素組成物の製造方法。
【請求項3】
次亜塩素酸ナトリウム・五水和物とアルカリ金属ヨウ化物とを反応させて得られる
式(1):
【化3】
及び
式(2):
【化4】
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む、酸化ヨウ素組成物。
【請求項4】
アルカリ金属ヨウ化物が、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムである、請求項2又は3に記載の酸化ヨウ素組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウム五水和物とアルカリ金属ヨウ化物によって調製された酸化ヨウ素組成物に関する。
【0002】
酸化ヨウ素化合物は、ヨウ素の酸化物に対する総称であり、一般的に五酸化二ヨウ素(V)、四酸化二ヨウ素(III、V)、九酸化四ヨウ素(III、V)などが主なものとして挙げられる。また、一酸化ヨウ素、一酸化二ヨウ素、三酸化二ヨウ素、四酸化ヨウ素、七酸化二ヨウ素は、いずれも存在が確実ではないとされており、スペクトル研究や分解の過程から推測されている構造又は付加化合物としてのみ知られている化合物である。代表的なヨウ素の酸化物である五酸化二ヨウ素は、試薬として販売されており、例えば、ヨウ素を二酸化塩素、硝酸又は五酸化二窒素で酸化することで調製される合成法が知られている。
【0003】
また、酸化ヨウ素化合物は、I-O結合及びI=O結合を有する化合物であり、例えば、五酸化二ヨウ素の水和物であるヨウ素酸、七酸化二ヨウ素の水和物である過ヨウ素酸又はその塩なども含まれる。
【0004】
酸化ヨウ素化合物は、酸化剤として産業的に広く利用されている。例えば、五酸化二ヨウ素は、一酸化炭素を定量的に酸化する反応性を有しており、一酸化炭素の酸化、一酸化炭素の検出及び定量に用いられている(例えば、特許文献1参照)。ヨウ素酸は、ヨウ素と組み合わせることにより、強いヨウ素化能力を示す反応系となることが知られている。例えば、5′-ブロモ-2′-ヒドロキシプロピオフェノンをエタノール、水溶媒下でヨウ素、ヨウ素酸と反応させて、5′-ブロモ-2′-ヒドロキシ-3′-ヨードプロピオフェノンを収率82%で調製する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ヨウ素化反応としては、前述したヨウ素源と酸化剤にさらに酸触媒を添加する方法などがある。しかし、反応基質の物性によっては、ヨウ素源と酸化剤を適宜選択する必要がしばしば発生する。例えば、ハロゲン化N-アリールピラゾールの製造方法では、ピラゾールのヨウ素化反応に際して、ヨウ素源及び無機ヨウ素塩の選択が、必要とする反応温度、反応時間、及び収率に大きな変動を及ぼし、製法が工業的用途として不適当である旨が課題であると報告されている。この課題は、N-ヨードスクシンイミド(NIS)や1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン(DIDMH)といった反応性の異なるヨウ素化試薬の使用により解決されており、工業的に多様なヨウ素化試薬又はヨウ素源が求められていると言える(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters, Volume 46, Issue 42, Pages 7179-7181
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-003050号公報
【特許文献2】特表2021-524459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安価な原料から産業的に有効利用できるヨウ素源を見出し、提供することである。本発明者らは、安価な原料として次亜塩素酸ナトリウム成分に着目し、アルカリ金属ヨウ化物と反応させることで産業的に利用可能な新規ヨウ素化剤又はヨウ素源の開発に取り組んだ。しかし、一般的に次亜塩素酸ナトリウム成分から派生するハロゲン化試薬又はハロゲン源は不安定であることが知られている。そのため、安定的に取り扱うことができることも課題として挙げられた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、保存安定性が高く、求電子置換反応に利用できる新規なヨウ素源となる酸化ヨウ素組成物を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1>
式(1):
【化1】
及び
式(2):
【化2】
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む酸化ヨウ素組成物であって、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークが500℃以上600℃未満である組成物。
<2>
上記酸化ヨウ素組成物の製造方法であって、次亜塩素酸ナトリウム・五水和物とアルカリ金属ヨウ化物とを反応させる工程を含む、酸化ヨウ素組成物の製造方法。
<3>
次亜塩素酸ナトリウム・五水和物とアルカリ金属ヨウ化物とを反応させて得られる
式(1):
【化3】
及び
式(2):
【化4】
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む、酸化ヨウ素組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸化ヨウ素組成物は保存安定性が高く、求電子置換反応に用いることのできる新規なヨウ素源として利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果である。
【
図2】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物のラマン分析結果である。
【
図3】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物のXRD分析結果である。
【
図4】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物のXPS分析結果である。
【
図5】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物のパイロライザー質量分析結果である。
【
図6】実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物の2700時間保管後のTG-DTA分析結果である
【
図7】実施例2で得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果である。
【
図8】実施例3で得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果である。
【
図9】実施例3で得られた酸化ヨウ素組成物のラマン分析結果である。
【
図10】実施例3で得られた酸化ヨウ素組成物のXRD分析結果である 。
【
図11】実施例3で得られた酸化ヨウ素組成物のXPS分析結果である。
【
図12】比較分析例1として記載した各化合物のTG分析結果である
【
図13】比較分析例1として記載した各化合物のDTA分析結果である。
【
図14】比較分析例2として記載した各化合物のラマン分光測定結果である。
【
図15】
図14のラマン分光測定結果の600~1000cm
-1拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。先ず、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる用語について説明する。各用語は、他に断りのない限り、以下の意義を有する。
【0013】
本発明の製造方法について詳しく述べる。
【0014】
本発明は、式(1):
【化5】
及び
式(2):
【化6】
からなる群より選択される結合を2個以上持つ化合物を含む酸化ヨウ素組成物に関する。本発明の酸化ヨウ素組成物は、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークが500℃以上600℃未満であることを特徴とする。なお、本発明の酸化ヨウ素組成物は、その安定性やヨウ素源としての活性に影響を与えない範囲で、原料由来の又は吸湿の結果としての、少量の水を(例えば、不純物として、又は水和物の形態で)含むものであってよいが、示差走査熱量分析による吸熱ピークは、脱水後の組成物の測定値を基準とするものである(後述の実施例参照)。
【0015】
本発明の酸化ヨウ素組成物に含まれる化合物は、酸化ヨウ素化合物又はその塩(水和物を含む)であると考えられ、上記式(1)及び(2)からなる群から選択される結合を2個以上持つことを特徴とする。なお化合物が有する2個以上の結合におけるヨウ素原子は、同一又は異なるヨウ素原子であってもよい。
【0016】
前記酸化ヨウ素組成物は、次亜塩素酸ナトリウム五水和物とアルカリ金属ヨウ化物を有機溶媒又は無溶媒下で反応させる工程、及び得られた反応物(以下、スラリー液ともいう)から組成物を取り出す後処理工程が含まれる。以下、工程ごとに好ましい実施形態を記載するが、本発明の実施においては、下記実施形態に限られるものではない 。
【0017】
本発明の製造方法においては、アルカリ金属ヨウ化物として、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを用いることができる。
【0018】
前記アルカリ金属ヨウ化物は、次亜塩素酸ナトリウム五水和物に対して0.5~2.0モル倍量の範囲で用いることができる。調製される酸化ヨウ素組成物中に次亜塩素酸ナトリウム五水和物が残留すると潮解性が発現したり、次亜塩素酸ナトリウム五水和物に由来した熱安定性の低下が懸念される点から、0.9~2.0モル倍量の範囲で用いることが好ましく、0.9~1.2モル倍量の範囲で用いることがより好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、溶媒は用いても用いてなくてもよい。本発明における酸化ヨウ素組成物は水中で変質するため、溶媒を用いる場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。そのような有機溶媒の例としては、非水系有機溶媒、特に、無極性又は低極性の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0020】
中でも好ましい有機溶媒として、ハロゲン化炭化水素系溶媒が挙げられる。具体的に例示すると、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジブロモメタン(臭化メチレン)、ブロモホルム、ジブロモエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素化合物が挙げられる。より具体的に例示すると、除去性の観点からジクロロメタンが挙げられるが、これに限られない。上記有機溶媒は単独で又は2種類以上を混合した状態で用いてもよい。有機溶媒中の水分が多い場合には、適宜に有機溶媒を市販の脱水剤(モレキュラーシーブス、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムなど)を用いた脱水操作に付して水分を除去した後に、用いることができる。
【0021】
本発明の製造方法においては、無溶媒下でも所望の酸化ヨウ素組成物が得られる。無溶媒下における次亜塩素酸ナトリウム五水和物とアルカリ金属ヨウ化物の混合方法は、振とう、擦り合わせ、押圧、分散、混錬、解砕等の混合可能ないずれの方法を用いてもよい。
【0022】
本発明の製造方法においては、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気下のどちらの条件下でも調製ができる。アルカリ金属ヨウ化物が一般的に吸湿性を有していること、得られた酸化ヨウ素組成物が水分により変質する観点から不活性ガス雰囲気下で調製されることが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法における反応温度は、-40℃~100℃から適宜選択された温度にて実施することができる。原料となる次亜塩素酸ナトリウム五水和物の熱安定性の観点から-40℃~40℃から選択される温度にて実施することが好ましく、操作性が簡便な点から0℃~30℃から選択される温度にて実施することがさらに好ましい。
【0024】
反応終了後、得られた反応物(スラリー液)は通常の方法で後処理を行うことができる。後処理の方法としては、固液分離、精製、又は乾燥などが挙げられるが、特に限定されない。一般的な後処理方法であればよいが、水を使用すると変質する点に注意し、後処理を行うことが好ましい。例えば、反応工程を有機溶媒の存在下で行った場合、得られた反応物(スラリー液)を固液分離し、得られた固形分を乾燥などの後処理に付し、組成物を取り出してもよい。
【0025】
本発明の酸化ヨウ素組成物は、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークが500℃以上600℃未満である。組成物の脱水は、上記の後処理の一環として行ってもよいが、後述の実施例で示すように、示差走査熱量分析に供することで行ってもよい。すなわち、一度示差走査熱量分析を行った試料を再分析することで、脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークを測定してもよい。
【0026】
また本発明の酸化ヨウ素組成物の脱水後の示差走査熱量分析による吸熱ピークは、通常、500℃以上600℃未満に観察される。該吸熱ピークは、ヨウ化ナトリウム由来である場合、好ましくは550℃以上600℃未満に観察され、ヨウ化カリウム由来である場合、好ましくは500℃以上550℃未満に観察される。
また本発明の酸化ヨウ素組成物は、ラマン分析におけるピークが、770-800cm-1付近に、好ましくは780-790cm-1付近に観察される。
【0027】
本発明の酸化ヨウ素組成物は、ヨウ素源又はヨウ素化剤として芳香族化合物への求電子置換ヨウ素化反応に用いることができる。以下の実施例で本発明の酸化ヨウ素組成物を用いた反応例の一部を示すが、これに限定されるものではない。
【実施例0028】
以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例で得られた酸化組成物の解析は、TG-DTA(熱重量-示差熱分析)測定、XRD(X線回折)測定、XPS測定、ラマン分光測定、パイロライザーを用いた熱分解GC-MS装置を用いて測定した。また本発明の酸化ヨウ素組成物を用いた応用例の反応生成物を評価する分析方法には、核磁気共鳴装置を用いた。
【0030】
(1)TG-DTA分析
実施例で得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析は、以下の測定条件により測定した。
装置:差動型示差熱天秤(リガク社製、TG-DTA8122)
雰囲気:窒素
昇温速度:20℃/min
セル材質:Al2O3
測定温度範囲:40-800℃
【0031】
(2)XRD分析
実施例で得られた酸化ヨウ素組成物のXRD分析は、以下の測定条件により測定した。
装置:試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製、Ultima IV)
ターゲット:Cu
走査範囲:2―70°
X線出力:40kV-40mA
ステップ幅:0.020°
試料幅:10.00mm
測定温度:25.0℃
【0032】
(3)XPS分析
実施例で得られた酸化ヨウ素組成物のXPS分析は、以下の測定条件により測定した。
装置:光電子分光装置(日本電子社製、JPS-9030)
X線源:X線(MgKα)[1253.6eV]
X線スポット(アパーチャー径):6mm
【0033】
(4)ラマン分光分析
実施例で得られた酸化ヨウ素組成物のラマン分光分析は、以下の測定条件により測定した。
装置:レーザラマン分光光度計(日本分光社製、NRS-5100)
レーザー:532.21nm
レーザー強度:5.0mW(減光器オープン)
レーザー偏光:平行
グレーティング:1800Lines/mm
分光器アパーチャー:φ4000μm
測定範囲:63-1177cm-1
露光時間:60sec
積算回数:2回
測定回数:1回
【0034】
(5)パイロライザー質量分析
実施例で得られた酸化ヨウ素組成物のパイロライザー質量分析は、以下の測定条件により測定した。
分析装置:パイロライザー(EGA/PY-3030D、フロンティアラボ社製)
GCシステム(7890B、アジレントテクノロジー社製)
熱分解温度条件:140℃、0.4min
注入口温度:300℃
スプリット比:10.0
カラムオーブン温度:200℃(10min)→50℃/min→320℃(1.5min)
カラム:UltraALLOY-5(フロンティアラボ社製)
(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
イオン源温度:230℃
イオン化エネルギー:70eV
【0035】
(6)NMR分析
本発明の酸化ヨウ素組成物を用いた応用例の生成物のNMR分析は、以下の測定条件により測定した。
装置:核磁気共鳴装置(日本電子社製、ECS-400)
測定核:1H(400MHz)、13C(100MHz)
内部標準物質:1,1,2,2-テトラクロロエタン
【0036】
<実施例1>
30mLナス型フラスコへ次亜塩素酸ナトリウム五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)98.7mg(0.6mmol)とヨウ化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)89.9mg(0.6mmol)と塩化メチレン1mLを仕込み、20~30℃で30分間反応させた。次いで、スラリー液を固液分離した。得られた湿結晶を、20~30℃で減圧下乾燥させることで酸化ヨウ素組成物を154.6mg得た。得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果を
図1、ラマン分光分析結果を
図2、XRD分析結果を
図3、XPS分析結果を
図4、パイロライザー質量分析結果を
図5に示した。
【0037】
図1に示すTG-DTAによる分析では、脱水後の測定2回目に観測される吸熱ピークが約575℃であった。
【0038】
図2に示すラマン分光分析では、ラマンシフト787cm
-1付近に特徴的なピークが検出された。
【0039】
図3に示すXRDによる分析では、2°≦2θ(回折角)≦70°の範囲において、最も強度が大きかった2θ=26.8°の強度を100とした時の換算強度値30以上の強度を示したピークは下表1の通りである。
【0040】
【0041】
さらに同じ基準で1以上30未満を示したピークは下表2の通りである。
【0042】
【0043】
図4に示すXPS分析では、ヨウ素の電子軌道帯である3d5/2より、ヨウ化ナトリウムと推定される618.73eVのピークとI-O結合及びI=O結合を支持する623.44eVが確認された。623.44eVに相当する酸化ヨウ素化合物は、五酸化二ヨウ素、ヨウ素酸ナトリウムなどが挙げられ、これらと酷似した構造を有する酸化ヨウ素組成物であると考えられた。
【0044】
図5に示すパイロライザー質量分析では、熱分解測定条件にて
図1のTG-DTA分析結果が示す約140℃未満の分解成分を検出し、特定するため実施したものである。測定結果より、m/z=18.0を示す水成分が顕著に検出されており、水和物の形態を有していることが確認された。
【0045】
実施例1で得られた酸化ヨウ素組成物を20~30℃で約2700時間保管した後に測定したTG-DTA分析結果を
図6に示した。
図6に示すTG-DTAによる分析では、脱水後となる測定2回目に観測される吸熱ピークが約575℃であった。
【0046】
<実施例2>
塩化メチレンを用いず無溶媒に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施することで酸化ヨウ素組成物を153.8mg得た。得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果を
図7に示した。
図7に示すTG-DTAによる分析では、脱水後となる測定2回目に観測される吸熱ピークが約577℃であった。
【0047】
<実施例3>
ヨウ化ナトリウムをヨウ化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)(0.6mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施することで酸化ヨウ素組成物を156.6mg得た。得られた酸化ヨウ素組成物のTG-DTA分析結果を
図8、ラマン分光分析結果を
図9、XRD分析結果を
図10、XPS分析結果を
図11に示した。
【0048】
図8に示すTG-DTAによる分析では、脱水後となる測定2回目に観測される吸熱ピークが約515℃であった。
【0049】
図9に示すラマン分光分析結果では、786cm
-1付近に特徴的なピークが検出された。
【0050】
図10に示すXRDによる分析では、2°≦2θ(回折角)≦70°の範囲において、最も強度が大きかった2θ=28.9°の強度を100とした時の換算強度値30以上の強度を示したピークは下表3の通りである。
【0051】
【0052】
さらに同じ基準で1以上30未満を示したピークは下表4の通りである。
【0053】
【0054】
図11に示すXPS分析では、ヨウ素の電子軌道帯である3d5/2より、619.1eVのピークとI-O結合及びI=O結合を支持する623.7eVが確認された。ピーク位置及び強度は、実施例1の
図4が示すXPS分析と酷似しており、同様のI-O結合及びI=O結合を有する構造を持つ酸化ヨウ素組成物であると考えられた。
【0055】
<比較分析例1>
実施例1にて得られた酸化ヨウ素組成物と原料成分及び既存の酸化ヨウ素化合物とを、TG-DTA分析を用いて、比較検証した。TG分析結果を
図12、DTA分析結果を
図13に示す。比較化合物は、原料となるヨウ化ナトリウム、XPS分析結果が酷似するヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、五酸化二ヨウ素を採用した。その結果、原料成分及び既存の酸化ヨウ素化合物ともTG-DTA挙動は一致せず、本発明の酸化ヨウ素組成物中の化合物は、新規な酸化ヨウ素化合物であると言える。
【0056】
<比較分析例2>
比較分析例1と同様にラマン分光分析を用いて、実施例1にて得られた酸化ヨウ素組成物と原料成分及び既存の酸化ヨウ素化合物とを比較検証した。ラマン分光分析結果を
図14、特徴的なピークが検出される600~1000cm
-1付近の拡大チャートを
図15に示した。比較化合物は、原料となるヨウ化ナトリウム(図中表記NaI)、次亜塩素酸ナトリウム五水和物(図中表記NaOCl・5H
2O)、XPS分析結果が酷似するヨウ素酸ナトリウム(図中表記NaIO
3)、過ヨウ素ナトリウム(図中表記NaIO
4)、ラマン分光分析結果にて110cm
-1にピークを有するTBAI
3を採用した。その結果、特徴的なピークとなる786cm
-1付近にピークの検出を認めるものの、検出挙動及び化合物として一致するものはなく、本発明の酸化ヨウ素組成物中の化合物は、新規の酸化ヨウ素化合物であると言える。
【0057】
<応用例1>
実施例1と同様の製造方法により調製した酸化ヨウ素組成物に、硫酸(2.4mmol)、m-キシレン(0.3mmol)を加えて、25℃で2時間攪拌して反応させた。反応液について1HNMRを用いて評価したところ、反応収率75%の4-ヨード-m-キシレン(4,6-ジヨード-m-キシレン8%、2,4-ジヨード-m-キシレン4%)が得られた。
本発明の酸化ヨウ素組成物は、前述に示す反応例の通り、求電子置換反応のヨウ素源及びヨウ素化剤として用いることができるだけではなく、添加剤によって、過反応体を低減できるといった反応性を調製可能となる有用なヨウ素源且つヨウ素化剤であることを見出している。