(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066239
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20240508BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240508BHJP
H10K 10/40 20230101ALI20240508BHJP
H10K 85/20 20230101ALI20240508BHJP
H10K 71/10 20230101ALI20240508BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240508BHJP
C01B 32/188 20170101ALN20240508BHJP
C01B 32/194 20170101ALN20240508BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 624
H01L29/28 100A
H01L29/28 250E
H01L29/28 310E
H01L29/78 617T
H01L29/78 617V
H01L21/205
C01B32/188
C01B32/194
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175693
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】舘野 泰範
(72)【発明者】
【氏名】三橋 史典
【テーマコード(参考)】
4G146
5F045
5F110
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD30
4G146BC02
4G146BC23
4G146BC34B
4G146CB15
4G146CB16
5F045AA20
5F045AB07
5F045AC16
5F045AD18
5F045AF02
5F045CA05
5F110AA30
5F110CC01
5F110DD01
5F110DD05
5F110EE02
5F110EE14
5F110EE43
5F110FF01
5F110FF29
5F110GG01
5F110GG41
5F110GG44
5F110HK02
5F110HK21
5F110HK32
(57)【要約】
【課題】過渡応答を抑制可能な半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、基板上に設けられ、グラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜と、前記グラフェン膜上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられた電極と、を備え、前記グラフェン膜と前記絶縁膜との界面において、硬X線光電子分光法により得られたスペクトルから算出される炭素のSP
2結合のガウス曲線の面積に対する前記スペクトルから算出される前記絶縁膜と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比は30%以下である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられ、グラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜と、
前記グラフェン膜上に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜上に設けられた電極と、
を備え、
前記グラフェン膜と前記絶縁膜との界面において、硬X線光電子分光法により得られたスペクトルから算出される炭素のSP2結合のガウス曲線の面積に対する前記スペクトルから算出される前記絶縁膜と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比は30%以下である半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁膜は酸化膜であり、
前記絶縁膜と炭素との共有結合は、前記酸化膜の酸素以外の元素、酸素および炭素の結合である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記絶縁膜と炭素との共有結合はAl2C2O3の結合である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電極はゲート電極であり、
前記グラフェン膜上に設けられ、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
基板上にグラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜を形成する工程と、
前記グラフェン膜上にALD法を用い、絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に電極を形成する工程と、
を含み、
前記絶縁膜を形成する工程は、
前記グラフェン膜上に酸素を含む第1原料を供給する工程と、前記グラフェン膜上に前記絶縁膜内の酸素以外の元素を含む第2原料を供給する工程と、を交互に実行し、前記第1原料を供給する工程と前記第2原料を供給する工程とのうち最初に実行される工程は、前記第1原料を供給する工程である半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記第2原料はアルミニウムを含む請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記第1原料はH2Oであり、前記第2原料はTMAである請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、例えばグラフェン膜を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素が形成する六員環をシート状にしたカーボン材料である。電子移動度が高いグラフェンをチャネルに用いたFET(Field Effect Transistor)等のトランジスタが開発されている。グラフェン膜と電極との間に酸化アルミニウム膜等の絶縁膜を設けることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラフェン膜上に絶縁膜を介し電極を設けた場合、特性の過渡応答が生じることがある。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みなされたものであり、過渡応答を抑制可能な半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、基板上に設けられ、グラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜と、前記グラフェン膜上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられた電極と、を備え、前記グラフェン膜と前記絶縁膜との界面において、硬X線光電子分光法により得られたスペクトルから算出される炭素のSP2結合のガウス曲線の面積に対する前記スペクトルから算出される前記絶縁膜と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比は30%以下である半導体装置である。
【0007】
本開示の一実施形態は、基板上にグラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜を形成する工程と、前記グラフェン膜上にALD法を用い、絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上に電極を形成する工程と、を含み、前記絶縁膜を形成する工程は、前記グラフェン膜上に酸素を含む第1原料を供給する工程と、前記グラフェン膜上に前記絶縁膜内の酸素以外の元素を含む第2原料を供給する工程と、を交互に実行し、前記第1原料を供給する工程と前記第2原料を供給する工程とのうち最初に実行される工程は、前記第1原料を供給する工程である半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、過渡応答を抑制可能な半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1に係る半導体装置の断面図ある。
【
図2A】
図2Aは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に用いるALD装置を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1におけるゲート絶縁膜を形成する方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、サンプルAにおける電圧に対する容量値を示す図である。
【
図6】
図6は、サンプルBにおける電圧に対する容量値を示す図である。
【
図7】
図7は、サンプルAにおける硬X線光電子分光法により得られたスペクトルである。
【
図8】
図8は、サンプルBにおける硬X線光電子分光法により得られたスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態は、基板上に設けられ、グラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜と、前記グラフェン膜上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられた電極と、を備え、前記グラフェン膜と前記絶縁膜との界面において、硬X線光電子分光法により得られたスペクトルから算出される炭素のSP2結合のガウス曲線の面積に対する前記スペクトルから算出される前記絶縁膜と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比は30%以下である半導体装置である。これにより、過渡応答を抑制できる。
(2)上記(1)において、前記絶縁膜は酸化膜であり、前記絶縁膜と炭素との共有結合は、前記酸化膜の酸素以外の元素、酸素および炭素の結合であってもよい。
(3)上記(1)において、前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記絶縁膜と炭素との共有結合はAl2C2O3の結合であってもよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記電極はゲート電極であり、前記グラフェン膜上に設けられ、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極を備えていてもよい。
(5)本開示の一実施形態は、基板上にグラフェンの原子層が積層されたグラフェン膜を形成する工程と、前記グラフェン膜上にALD法を用い、絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上に電極を形成する工程と、を含み、前記絶縁膜を形成する工程は、前記グラフェン膜上に酸素を含む第1原料を供給する工程と、前記グラフェン膜上に前記絶縁膜内の酸素以外の元素を含む第2原料を供給する工程と、を交互に実行し、前記第1原料を供給する工程と前記第2原料を供給する工程とのうち最初に実行される工程は、前記第1原料を供給する工程である半導体装置の製造方法である。これにより、過渡応答を抑制できる。
(6)上記(5)において、前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記第2原料はアルミニウムを含んでもよい。
(7)上記(5)において、前記絶縁膜は酸化アルミニウム膜であり、前記第1原料はH2Oであり、前記第2原料はTMAであってもよい。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかる半導体装置およびその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る半導体装置の断面図ある。
図1に示すように、基板10上に、グラフェンの原子層13が積層されたグラフェン膜12が設けられている。基板10は、例えば6H(Hexagonal)-SiC基板である。グラフェン膜12は例えば2~10原子層13である。活性領域以外の不活性領域11においてグラフェン膜12は除去されている。グラフェン膜12上にソース電極18およびドレイン電極20が設けられている。ソース電極18およびドレイン電極20は例えば基板10側からニッケル膜および金膜等の金属膜である。ソース電極18とドレイン電極20との間におけるグラフェン膜12上にゲート絶縁膜14が設けられている。ゲート絶縁膜14は、例えば酸化アルミニウム膜である。ゲート絶縁膜14上にゲート電極16が設けられている。ゲート電極16は例えばゲート絶縁膜14側からニッケル膜および金膜等の金属膜である。
【0013】
[実施例1の製造方法]
図2Aから
図2Dは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図2Aに示すように、基板10上にグラフェン膜12を形成する。例えば、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中において、単結晶SiC基板を例えば1700℃~1800℃の熱処理を行う。これにより、SiC基板上にグラフェン膜12が形成される。基板10としてシリコン基板等のSiC基板以外の基板を用い、基板10上に多結晶またはアモルファスSiCを形成し、熱処理することでグラフェン膜を形成してもよい。また、シリコン基板等の基板10上にCVD(ChemicalVapor Deposition)法を用いグラフェン膜を形成してもよい。
【0014】
図2Bに示すように、不活性領域11におけるグラフェン膜12を除去する。不活性領域11以外の領域が活性領域となる。例えば、グラフェン膜12を酸素プラズマに暴露することでグラフェン膜12が除去される。
図2Cに示すように、基板10上にグラフェン膜12を覆うようにゲート絶縁膜14を形成する。ゲート絶縁膜14の形成には、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法を用いる。
【0015】
図2Dに示すように、ゲート絶縁膜14の所望の領域を除去する。ゲート絶縁膜14を除去した領域にソース電極18およびドレイン電極20を形成する。ソース電極18およびドレイン電極20の形成には、例えば真空蒸着法およびリフトオフ法を用いる。その後、ゲート絶縁膜14上にゲート電極16を形成する。ゲート電極16の形成には、例えば真空蒸着法およびリフトオフ法を用いる。以上により、
図1の半導体装置が製造できる。
【0016】
図3は、実施例1に用いるALD装置を示す模式図である。
図3に示すように、ALD装置は、主にメインチャンバ22、導入口24、真空ポンプ26および材料導入管32を有している。メインチャンバ22内に加熱装置28およびステージ30が配置される。ステージ30は、基板10を支持する。加熱装置28は、基板10を所望の温度まで加熱する。メインチャンバ22内は矢印36のように真空ポンプ26により排気される。
【0017】
導入口24は、ロードロック室に接続されている。導入口24を介して基板10を導入する。材料導入管32は、矢印34のように第1原料および第2原料等の材料をメインチャンバ22内に導入する。材料導入管32には、第1原料用バルブおよび第2原料用バルブが設けられている。第1原料用バルブおよび第2原料用バルブの開閉により、それぞれ第1原料ガスおよび第2原料ガスのメインチャンバ22内への供給および停止を行なうことができる。
【0018】
ゲート絶縁膜14として酸化アルミニウム膜を形成する場合、酸素の原料となる第1原料として、水H2Oまたはオゾン(O3)等を用い、アルミニウムの原料となる第2原料としてTMA(Tri Methyl Aluminium)またはTEA(Tri Ethyl Aluminium)を用いる。
【0019】
図4は、実施例1におけるゲート絶縁膜14を形成する方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、導入口24からメインチャンバ22内にグラフェン膜12が形成された基板10を導入する(ステップS10)。基板10はステージ30上に配置される。加熱装置28により基板10が加熱される。真空ポンプ26を用いメインチャンバ22内のガスを排気する(ステップS12)。材料導入管32からメインチャンバ22内に第1原料を導入する。これにより、基板10の表面に第1原料が供給される(ステップS14)。真空ポンプ26を用いメインチャンバ22内のガスを排気する(ステップS16)。材料導入管32からメインチャンバ22内に第2原料を導入する。これにより、基板10の表面に第2原料が供給される(ステップS18)。真空ポンプ26を用いメインチャンバ22内のガスを排気する(ステップS20)。ステップS14~S20を1サイクル行うことでゲート絶縁膜14内の1原子層が形成される。終了か判断する(ステップS22)。例えばステップS14~S20のサイクル数が目標のサイクル数となったときYesと判断する。ステップS14~S20のサイクル数が目標のサイクル数未満のときNoと判断しステップS14に戻る。Yesのとき、導入口24からゲート絶縁膜14が形成された基板10を搬出する(ステップS24)。以上により、ゲート絶縁膜14の形成が終了する。
【0020】
[実験1]
ゲート絶縁膜14を酸化アルミニウム(Al2O3)としたサンプルAおよびBを作成した。作製条件は以下である。
ゲート電極16、ソース電極18およびドレイン電極20:基板10側からニッケル(Ni)膜および金(Au)膜
サンプルA
ゲート絶縁膜14の成膜方法:自然酸化法
グラフェン膜12上にアルミニウム(Al)膜を形成し、アルミニウム膜を自然に酸化させた。
サンプルB
ゲート絶縁膜14の成膜方法:ALD法
第1原料:H2O
第2原料:TMA
第1原料を先に供給し、その後、第1原料と第2原料とを交互に供給した。
サンプルAは比較例に相当し、サンプルBは実施例に相当する。
【0021】
ゲート電極16にソース電極18およびドレイン電極20に対し電圧を掃引し、C-V特性を測定した。
【0022】
図5および
図6は、それぞれサンプルAおよびBにおける電圧に対する容量値を示す図である。横軸はソース電極18およびドレイン電極20に対しゲート電極16に印加した電圧を示し、縦軸はソース電極18およびドレイン電極20とゲート電極16との容量値を示す。電圧の掃引方向を矢印で示している。すなわち実線は電圧をマイナスからプラスに掃引した結果であり、破線は電圧をプラスからマイナスに掃引した結果である。
【0023】
図5に示すように、サンプルAでは、電圧をマイナスからプラスに掃引した場合とプラスからマイナスに掃引した場合とでヒステリシスが大きい。容量値のボトムの電圧は掃引方向で約20V異なる。
図6に示すように、サンプルBでは、ヒステリシスが小さく、容量値のボトムの電圧は掃引方向で約2Vしか異ならない。サンプルAのようにC-V特性のヒステリシスが大きい場合、ドレイン電流-ゲート電圧特性にもヒステリシスが生じる。また、ゲートバイアス電圧を印加した後、数μ秒の範囲でカットオフ周波数が時間とともに減少する現象が生じる。
【0024】
ゲート絶縁膜14として酸化アルミニウム膜を以下のように成膜したサンプルCを作成した。サンプルCでは、ALD法を用い最初に第2原料としてTMA供給し、その後第1原料としてH2Oを供給し、以降第2原料と第1原料とを交互に供給し、酸化アルミニウム膜を形成した。サンプルCのC-V特性では、ヒステリシスが大きかった。このことから、サンプルBにおいてヒステリシスが小さいのは第1原料を第2原料より前に供給したためと考えられる。
【0025】
[実験2]
実験1のサンプルAおよびBと同じ条件でグラフェン膜12上にゲート絶縁膜14を形成し、グラフェン膜12とゲート絶縁膜14との結合状態を分析した。分析には、SPring-8(Super Photon ring-8GeV)を使用した硬X線光電子分光(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy)法を用いた。ゲート絶縁膜14上からエネルギーが8keVのX線を照射し、サンプルからの光電子を検出した。光電子脱出角は30°であり、C1sスペクトルを測定した。
【0026】
図7および
図8は、それぞれサンプルAおよびBにおける硬X線光電子分光法により得られたスペクトルである。横軸は、結合エネルギーであり、縦軸は信号強度を示す。
図7および
図8において、黒丸は測定点、実線は近似線を示し、点線は実線を各結合のガウス曲線に分離した線である。C-Oは、グラフェン膜12の表面の炭素(C)原子と酸素(O)原子との結合を示す。約284.8eVにおけるsp
2は、グラフェン膜12内の炭素原子同士のsp
2結合を示す。約284.2eVにおけるAl
2C
2O
3は、グラフェン膜12の炭素原子とAl
2O
3との共有結合を示す。約282.8eVにおけるSi-Cは、基板10内のシリコン(Si)原子と炭素原子の結合を示す。結合量は各ガウス曲線の面積に比例する。
【0027】
図7に示すように、サンプルAでは、Al
2C
2O
3のピークが高い。sp
2のピークのガウス曲線の面積に対するAl
2C
2O
3のピークのガウス曲線の面積をAl
2C
2O
3の/sp
2としたとき、サンプルAのAl
2C
2O
3の/sp
2は約0.42である。
図8に示すように、サンプルBでは、Al
2C
2O
3のピークが低い。サンプルBのAl
2C
2O
3の/sp
2は約0.12である。実験1および2の結果から、グラフェン膜12とゲート絶縁膜14との間に共有結合が形成されると、C-V特性のヒステリシスが大きくなることが分かった。これは、グラフェン膜12とゲート絶縁膜14との間の結合はファンデルワールス力により緩く結合していることが理想と考えられる。グラフェン膜12とゲート絶縁膜14との間に共有結合が形成されることにより、グラフェン膜12内のsp
2結合の一部がゲート絶縁膜14との共有結合となる。これにより、グラフェン膜12内の欠陥が増加しC-V特性等の特性の過渡応答が生じるためと考えられる。
【0028】
ゲート絶縁膜14が酸化アルミニウム膜でない場合でも、ゲート絶縁膜14とグラフェン膜12内の炭素との共有結合が増えれば特性の過渡応答が生じるものと考えられる。そこで、グラフェン膜12とゲート絶縁膜14との界面において、硬X線光電子分光法を用い得られたスペクトルから算出される炭素のsp2結合のガウス曲線の面積に対する硬X線光電子分光法を用い得られたスペクトルから算出されるゲート絶縁膜14と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比を30%以下に設定する。これにより、C-V特性のヒステリシス等の特性の過渡応答を抑制できる。sp2結合のガウス曲線の面積に対するゲート絶縁膜14と炭素との共有結合のガウス曲線の面積の比は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0029】
ゲート絶縁膜14としては、酸化アルミニウム(Ai2O3)膜以外に酸化シリコン(SiO2)膜、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)または酸化亜鉛(ZnO)等の酸化膜を用いることができる。ゲート絶縁膜14は、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜等を用いてもよい。
【0030】
ゲート絶縁膜14が酸化膜の場合、ゲート絶縁膜14内の酸素以外の元素および酸素とグラフェン膜12内の炭素との結合が形成されると、グラフェン膜12内に欠陥が形成されると考えられる。よって、sp2結合のガウス曲線の面積に対するゲート絶縁膜14の酸素以外の元素および酸素と炭素との結合のガウス曲線の面積は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。例えばゲート絶縁膜14が酸化シリコン膜の場合、ゲート絶縁膜14の酸素以外の元素および酸素と炭素との結合は、シリコンと酸素と炭素の結合である。
【0031】
実験2のように、ゲート絶縁膜14が酸化アルミニウム膜の場合、Al2C2O3の/sp2×100[%]は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0032】
実施例1では、グラフェンを用いたFETの例を説明したが、グラフェン膜12上に絶縁膜が設けられ、絶縁膜上に電極が設けられた構造であればよい。実施例1のように、グラフェン膜12上に設けられた絶縁膜がゲート絶縁膜14であり、絶縁膜上に設けられた電極がゲート電極16であり、グラフェン膜12上に設けられ、ゲート電極16を挟むソース電極18およびドレイン電極20を備える。この場合、グラフェンを用いたFETにおける特性の過渡応答を抑制できる。
【0033】
図8において、Al
2C
2O
3の/sp
2が小さくなる理由は、ゲート絶縁膜14を形成するときに、
図4のステップS14のように酸素を供給する材料であれる第1原料をグラフェン膜12に供給し、その後アルミニウムを供給する材料である第2原料を供給するため、アルミニウムと炭素との結合が生じにくくなるためと考えられる。このように考えれば、ゲート絶縁膜14が酸化膜の場合、ゲート絶縁膜14をALD法を用い以下のように形成すればよい。
図4のステップS14のように、グラフェン膜12上に酸素を含む第1原料を供給する工程と、ステップS18のように、グラフェン膜12上にゲート絶縁膜14内の酸素以外の元素を含む第2原料を供給する工程と、を交互に実行する。第1原料を供給する工程と第2原料を供給する工程とのうち最初に実行される工程は、第1原料を供給する工程とする。これにより、sp
2結合に対するゲート絶縁膜14の酸素以外の元素および酸素と炭素との結合の比を小さくできる。よって、特性の過渡応答を抑制できる。
【0034】
実験1および実験2のように、ゲート絶縁膜14が酸化アルミニウム膜の場合、第2原料はアルミニウムを含む。これにより、Al2C2O3の/sp2を小さくできる。よって、特性の過渡応答を抑制できる。
【0035】
また、第1原料はH2Oであり、第2原料はTMAである。これにより、実験1および実験2のように、Al2C2O3の/sp2を小さくできる。よって、特性の過渡応答を抑制できる。
【0036】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0037】
10 基板
11 不活性領域
12 グラフェン膜
13 原子層
14 ゲート絶縁膜
16 ゲート電極
18 ソース電極
20 ドレイン電極
22 メインチャンバ
24 導入口
26 真空ポンプ
28 加熱装置
30 ステージ
32 材料導入管
34、36 矢印