(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066243
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】水素検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/18 20060101AFI20240508BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G01N27/18
G01N27/416 311J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175702
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 俊輔
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB02
2G060AB03
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA05
2G060BB02
2G060BD02
2G060BD04
2G060HB06
2G060HC02
2G060HC04
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】広範囲の水素濃度を好適に検出可能な熱伝導式水素センサを用いた水素検出システムを提供する。
【解決手段】水素検出システム1は、水素濃度を検出する熱伝導式水素センサ10と、湿度を検出する湿度センサ12と、制御装置100と、を備える。制御装置100は、熱伝導式水素センサ10が検出した第1検出値を湿度センサ12が検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素濃度を検出する熱伝導式水素センサと、
湿度を検出する湿度センサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記熱伝導式水素センサが検出した第1検出値を前記湿度センサが検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する、水素検出システム。
【請求項2】
情報を記憶する記憶装置をさらに備え、
前記記憶装置は、前記第1検出値を湿度に応じて前記第2検出値へ変換する変換テーブルを含み、
前記制御装置は、前記変換テーブルを用いて前記第1検出値を前記第2検出値へ変換して水素濃度を出力する、請求項1に記載の水素検出システム。
【請求項3】
温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記記憶装置は、温度に応じた複数のテーブルを前記変換テーブルとして記憶しており、
前記制御装置は、前記温度センサが検出した温度に対応するテーブルを用いて前記第1検出値を前記第2検出値へ変換して水素濃度を出力する、請求項2に記載の水素検出システム。
【請求項4】
前記熱伝導式水素センサは、少なくとも0.1%以上4%以下の範囲の水素濃度を検出可能である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素検出システム。
【請求項5】
前記湿度センサは、YSZ式湿度センサである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素検出システム。
【請求項6】
前記湿度センサの表面は、多孔質保護層で覆われている、請求項5に記載の水素検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素濃度を検出するための水素センサが開発されている。水素センサとしては、半導体式、接触燃焼式、熱伝導式等の各種方式の水素センサが知られている。特開2017-198541号公報(特許文献1)には、半導体式水素センサにおいて結露を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような水素センサは、水素を燃焼させて電力を発生する燃料電池において用いられることがある。燃料電池向けの水素センサにおいては、0.1%~4%程度の水素濃度を検出する技術が求められる。一方で、燃料電池にはパッキン、シール材等にシリコンを含む部材が用いられることがあり、このシリコンから発生する揮発性のシロキサンが水素センサに付着することで、水素センサの検出感度が低下してしまうことが懸念される。
【0005】
燃料電池向けの水素センサを検討する場合、低濃度の水素を検出することのできる半導体式水素センサあるいは接触燃焼式水素センサを用いることが考えられる。しかしながら、半導体式水素センサあるいは接触燃焼式水素センサは、シロキサン耐性が悪いことが知られている。それに対し、熱伝導式水素センサは、シロキサン耐性が良いものの湿度の影響によって低濃度の水素を十分に検出できないことがある。
【0006】
そこで、燃料電池向けの水素センサは、半導体式水素センサと熱伝導式水素センサとを組合せて使用する場合があった。しかしながら、製造コスト、半導体式水素センサのシロキサン耐性によるセンサの寿命等を考慮すると燃料電池向けの水素センサにおいて、熱伝導式水素センサを用いて低濃度の水素も検出できることが望ましい。
【0007】
本開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、広範囲の水素濃度を好適に検出可能な熱伝導式水素センサを用いた水素検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の水素検出システムは、水素濃度を検出する熱伝導式水素センサと、湿度を検出する湿度センサと、制御装置と、を備える。制御装置は、熱伝導式水素センサが検出した第1検出値を湿度センサが検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の水素検出システムによれば、制御装置は、シロキサン耐性が良い熱伝導式水素センサが検出した第1検出値を湿度センサが検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する。これにより、本開示の水素検出システムは、シロキサン耐性が高いとともに、湿度による検出誤差を考慮して広範囲の水素濃度を好適に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水素検出システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】大気中の温度が20℃の場合において、熱伝導式水素センサで読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
【
図4】大気中の温度が40℃の場合において、熱伝導式水素センサで読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
【
図5】大気中の温度が60℃の場合において、熱伝導式水素センサで読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
【
図6】水素濃度を補正する処理を示すフローチャートである。
【
図7】多孔質保護層の図示を省略した湿度センサの平面図である。
【
図8】絶縁層および多孔質金属層の図示を省略した湿度センサの平面図である。
【
図10】変形例における湿度センサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
図1は、水素検出システム1の構成を示すブロック図である。本開示の水素検出システム1は、熱伝導式水素センサ10と、温度センサ11と、湿度センサ12と、制御装置100と、を備える。
【0013】
熱伝導式水素センサ10は、水素濃度を検出するためのセンサである。温度センサ11は、温度を検出するためのセンサである。湿度センサ12は、湿度を検出するためのセンサである。湿度センサ12には、例えば絶対湿度を検出するYSZ(yttria-stabilized zirconia)湿度センサが用いられる。各センサにより検出された検出値に関する情報は、所定のタイミングで制御装置100へ送信される。
【0014】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ102(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))と、入出力バッファ(図示せず)等を含んで構成される。CPU101は、ROMに格納されているプログラムをRAM等に展開して実行する。ROMに格納されるプログラムは、制御装置100の処理手順が記されたプログラムである。制御装置100は、これらのプログラムに従って、水素検出システム1における各機器から受信した情報を処理する。この制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0015】
図2は、熱伝導式水素センサ10の回路図である。水素の熱伝導率は、空気の熱伝導率の約7倍である。熱伝導式水素センサ10は、水素と空気との熱伝導率の差を利用して水素を検知する。熱伝導式水素センサ10は、検知素子10Aと、補償素子10Bと、抵抗10Cと、抵抗10Dと、出力部10Eとを含むブリッジ回路を構成する。検知素子10Aは、測定環境にさらされており、水素ガスに接触する構造である。補償素子10Bは、空気が封入されて密閉されており、水素ガスに接触しない構造である。
【0016】
検知素子10Aおよび補償素子10Bは、電源13から所定の電圧を印加することにより約300℃に加熱される。熱伝導式水素センサ10では、水素ガスが存在する場合、水素ガス固有の熱伝導率により検知素子10Aの熱放散の状態が変化し、検知素子10Aの温度が変化する。この温度変化に伴い、検知素子10Aを構成する白金線コイルの抵抗値が変化する。抵抗値の変化は、水素ガスの濃度にほぼ比例する。熱伝導式水素センサ10では、抵抗値の変化量をブリッジ回路によって電圧として取出し、出力部10Eから出力することによりガス濃度が検出される。
【0017】
熱伝導式水素センサ10は、化学反応を伴わない物理センサである。よって、熱伝導式水素センサ10は、半導体式、接触燃焼式等の化学センサと比べ燃料電池に使われるパッキン、シール材等に含まれるシリコンから発生する揮発性のシロキサンへの耐性が良い。しかしながら、熱伝導式水素センサ10は、湿度の影響によって低濃度の水素を十分に検出できないことがある。例えば、熱伝導式水素センサ10は、高湿度の場合にセンサで読取った水素濃度が実際の水素濃度よりも低く検出されてしまう。これは、水素が低濃度であり大気中に水蒸気が多くの水蒸気が含まれるような状態において、熱伝導式水素センサ10が水蒸気の検出量を水素の検出量として抽出してしまうためである。
【0018】
本実施の形態における水素検出システム1は、湿度の影響を考慮して熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度を実際の水素濃度へ補正している。
図3は、大気中の温度が20℃の場合において、熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
図4は、大気中の温度が40℃の場合において、熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
図5は、大気中の温度が60℃の場合において、熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度と実際の水素濃度とが露点の違いによりどのように変化するかを説明するための図である。
【0019】
図3~
図5のデータは、制御装置100における記憶装置であるメモリ102に変換テーブルとして予め記憶されている。なお、ここでは、大気中の温度が20℃,40℃、60℃の場合の変換テーブルについて説明するが、他の温度に対応する変換テーブルもメモリ102に記憶されている。
【0020】
大気中の温度が同じ場合、露点が高い程(空気が含んでいる水蒸気量が多い程)、湿度は高いという関係がある。熱伝導式水素センサ10は、低濃度の水素の検知に関して湿度の影響を受けやすい。このため、
図3~
図5に示すように、各温度において露点が高くなるほど熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度と実際の水素濃度とが、理想とする破線で示す直線からずれてしまう。熱伝導式水素センサ10は、特に露点が40℃、50℃、60℃になるに連れてずれ幅が大きくなってしまう。
【0021】
水素検出システム1では、制御装置100が温度センサ11により検出される温度と、湿度センサ12により検出される絶対湿度とから、換算係数を用いて演算により露点温度を算出する。なお、絶対湿度から露点温度に換算するための換算係数は、湿度センサ12の電流値と湿度との相関関係から事前に計算しておく。水素検出システム1では、制御装置100が温度センサ11が検出した温度に対応する
図3~
図5に示すようなデータを選択し、熱伝導式水素センサ10で読取った水素濃度と露点温度とから実際の水素濃度を求める。
【0022】
以下に制御装置100が実行する水素濃度を補正する処理について説明する。
図6は、水素濃度を補正する処理を示すフローチャートである。
図6の処理は、制御装置100の制御におけるメインルーチンから、サブルーチンとして繰返し呼び出されて実行される。制御装置100は、まずステップS(以下、単に「S」と示す)1において、熱伝導式水素センサ10が読取った検出値を受信したか否かを判定する。
【0023】
制御装置100は、熱伝導式水素センサ10が読取った検出値を受信していないと判定した場合(S1のNO)、処理をサブルーチンからメインルーチンに戻す。制御装置100は、熱伝導式水素センサ10が読取った検出値を受信していると判定した場合(S1のYES)、温度センサ11からの検出値を受信したか否かを判定する(S2)。
【0024】
制御装置100は、温度センサ11からの検出値を受信していないと判定した場合(S2のNO)、処理をサブルーチンからメインルーチンに戻す。制御装置100は、温度センサ11からの検出値を受信していると判定した場合(S2のYES)、
図3~
図5に示すデータから温度センサ11の検出値に対応するデータを選択する(S3)。次いで、制御装置100は、湿度センサ12からの検出値を受信したか否かを判定する(S4)。
【0025】
制御装置100は、湿度センサ12からの検出値を受信していないと判定した場合(S4のNO)、処理をサブルーチンからメインルーチンに戻す。制御装置100は、湿度センサ12からの検出値を受信していると判定した場合(S4のYES)、湿度センサ12の検出値から演算により露点を算出し、S3で選択したデータにおいて、算出した露点に対応するデータを選択する(S5)。
【0026】
次いで、制御装置100は、選択したデータに基づいて、熱伝導式水素センサ10から検出した水素濃度を実際の水素濃度に補正する(S6)。次いで、制御装置100は、補正した水素濃度を実際の水素濃度として出力し(S7)、処理をサブルーチンからメインルーチンに戻す。
【0027】
水素検出システム1は、上述のように、熱伝導式水素センサ10から検出した水素濃度を実際の水素濃度に補正する処理を実行する。この処理により、熱伝導式水素センサ10は、少なくとも0.1%以上4%以下の範囲の低濃度の水素濃度を検出可能である。なお、熱伝導式水素センサ10は、4%より大きく100%以下の濃度の水素濃度についても検出可能である。これにより、本開示の水素検出システム1は、熱伝導式水素センサ10の湿度による検出誤差を考慮して広範囲の水素濃度を好適に検出することが可能となる。
【0028】
次に、湿度センサ12の構造について説明する。湿度センサ12は、複数の層から形成されている。
図7~
図9に示されるように、湿度センサ12は、基板15と、絶縁層20と、配線30と、多孔質酸化物層40と、多孔質金属層50と、固体電解質層60と、絶縁層70と、多孔質金属層80と、多孔質保護層90とを有している。
図7は、多孔質保護層90の図示を省略した湿度センサ12の平面図である。
図8は、絶縁層70および多孔質金属層80の図示を省略した湿度センサ12の平面図である。
図9は、
図7のIX-IXにおける断面図である。
図7中では、配線30が点線により示されている。
【0029】
基板15は、第1主面15aと、第2主面15bとを有している。第1主面15aおよび第2主面15bは、基板15の厚さ方向における端面である。第2主面15bは、第1主面15aの反対面である。基板15には、キャビティCが形成されている。キャビティCは、基板15の厚さ方向に沿って基板15を貫通している。キャビティCは、平面視において(第1主面15a側から基板15の厚さ方向に沿って見た際に)、矩形状になっている。基板15は、例えば、単結晶シリコンにより形成されている。
【0030】
絶縁層20は、基板15上に配置されている。より具体的には、絶縁層20は、第1主面15a上に配置されている。絶縁層20は、例えば、第1層21と、第2層22と、第3層23と、第4層24とを有している。
【0031】
第1層21は、基板15(第1主面15a)上に配置されている。第1層21は、例えば、シリコン酸化物により形成されている。第2層22は、第1層21上に配置されている。第2層22は、例えば、シリコン窒化物により形成されている。第3層23は、第2層22上に配置されている。第3層23は、例えば、シリコン酸化物により形成されている。第4層24は、第3層23上に配置されている。第4層24は、例えば、シリコン酸化物により形成されている。
【0032】
絶縁層20のうちのキャビティCの周囲にある基板15上に配置されている部分を、周辺部20aとする。絶縁層20のうちのキャビティC上にある部分を、メンブレン部20bとする。メンブレン部20bは、周辺部20aと一体的に形成されている。これにより、メンブレン部20bは、キャビティC上において支持されている。
【0033】
配線30は、絶縁層20中に配置されている。より具体的には、配線30は、第3層23上に配置されており、かつ第4層24により覆われている。配線30の周囲は、バリア層31により覆われている。バリア層31により、絶縁層20と配線30との密着性が確保されている。配線30は、例えば、白金により形成されている。バリア層31は、例えば、チタン酸化物により形成されている。なお、バリア層31のうちの第3層23上に配置されている部分を第1部分31aとし、バリア層31のうちの配線30を覆っている部分を第2部分31bとする。
【0034】
配線30は、ヒータ部30aと、端部30bと、接続部30cとを有している。ヒータ部30aは、配線30を蛇行させることにより構成されている。ヒータ部30aは、メンブレン部20b中に配置されている。端部30bは、周辺部20a中に配置されている。接続部30cは、ヒータ部30aと端部30bとを接続するように一体的に形成されている。
【0035】
多孔質酸化物層40は、絶縁層20上に配置されている。多孔質酸化物層40は、例えば、タンタル酸化物により形成されている。多孔質酸化物層40は、多孔質であるため、湿度センサ12により検知されるガス(被検知ガス)の流路となる。
【0036】
多孔質金属層50は、多孔質酸化物層40上に配置されている。多孔質金属層50は、例えば、白金により形成されている。多孔質金属層50は、電極部50aと、端部50bと、接続部50cとを有している。電極部50aは、平面視において同形状の多孔質酸化物層40を介在させてメンブレン部20b上にある。端部50bは、多孔質酸化物層40を介在させて周辺部20a上にある。接続部50cは、電極部50aと端部50bとを接続するように一体的に形成されている。多孔質金属層50は、カソードである。
【0037】
固体電解質層60は、多孔質金属層50上に配置されている。より具体的には、固体電解質層60は、電極部50a上に配置されている。固体電解質層60は、イオン伝導性を有している。固体電解質層60は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(yttria-stabilized zirconia:YSZとも称される)により形成されている。
【0038】
絶縁層70は、多孔質酸化物層40、多孔質金属層50および固体電解質層60を覆うように、絶縁層20上に配置されている。但し、絶縁層70には、固体電解質層60の上面を少なくとも部分的に露出させる開口部が形成されている。絶縁層70は、例えば、シリコン酸化物により形成されている層とタンタル酸化物により形成されている層とがスタックされている層である。
【0039】
絶縁層70上には、パッド部30dおよびパッド部50dが配置されている。パッド部30dは、端部30bを露出させるように絶縁層20(第4層24)および絶縁層70に形成されている開口部(図示せず)に配置され、端部30bと電気的に接続されている。パッド部50dは、端部50bを露出させるように絶縁層70に形成されている開口部(図示せず)に配置され、端部50bと電気的に接続されている。
【0040】
多孔質金属層80は、電極部80aと、パッド部80bと、接続部80cとを有している。電極部80aは、固体電解質層60上に配置されている。パッド部80bは、絶縁層70を介在させて絶縁層20上にある。接続部80cは、電極部80aとパッド部80bとを接続するように一体的に形成されている。多孔質金属層80は、アノードである。
【0041】
多孔質保護層90は、多孔質金属層80および絶縁層70の一部を覆うように、配置される。多孔質保護層90は、多孔質金属層80を少なくとも覆っていればよく、絶縁層70を覆っていなくてもよい。多孔質保護層90は、多孔部分がシロキサンよりも小さいため、表面でシロキサンを捕集することができる。これにより、多孔質保護層90は、多孔質金属層80にシロキサンを付着することを防止する。多孔質保護層90は、例えば、二酸化ケイ素あるいはアルミナにより形成される。多孔質保護層90は、例えば、斜め蒸着法あるいはスクリーン印刷により接着される。
【0042】
メンブレン部20bおよびメンブレン部20b上にある絶縁層70には、貫通穴THが形成されている。貫通穴THは、例えば、基板15の法線方向から平面視した場合にU字形に形成されており、基板15の厚さ方向に沿って、メンブレン部20bおよび絶縁層70を貫通している。メンブレン部20bは、可動部20cを有している。可動部20cの周囲には、貫通穴THがある。これにより、可動部20cは、可動部20cの基端側を支点として、基板15の厚さ方向に沿って変位可能になっている。ヒータ部30a、電極部50a、固体電解質層60および電極部80aは、可動部20c上にある。
【0043】
接続部30cを構成している配線30の可動部20cの基端における幅は、ヒータ部30aを構成している配線30の幅よりも大きくなっている。
【0044】
以下に、湿度センサ12の動作を説明する。ここでは、被検知ガス中の酸素ガスを検知する場合を例に、湿度センサ12の動作を説明する。
【0045】
配線30に電流を流すことにより、ヒータ部30aが抵抗発熱する。これにより、固体電解質層60が加熱され、イオン伝導性を発現する。なお、固体電解質層60がイットリア安定化ジルコニアである場合には、固体電解質層60がヒータ部30aにより500℃程度まで加熱される。
【0046】
パッド部50dおよびパッド部80bは、それぞれ、電源の負極および正極に接続される。被検知ガスは、多孔質酸化物層40および電極部50aを通って、電極部50aと固体電解質層60との界面に到達する。電極部50aと固体電解質層60との界面に到達した被検知ガス中の酸素ガスは、電極部50aから電子を受け取ることにより酸素イオンになる。
【0047】
この酸素イオンは、固体電解質層60を通って、固体電解質層60と電極部80aとの界面に到達する。固体電解質層60と電極部80aとの界面に到達した酸素イオンは、電極部80aに対して電子を放出し、酸素ガスになる。これにより、パッド部50dとパッド部80bとの間に電流が流れる。この電流は、被検知ガス中の酸素ガスの濃度に比例する。そのため、この電流を検知することにより、被検知ガス中の酸素ガスの濃度を測定することができる。
【0048】
同様の方法で大気中の水に含まれる酸素ガスの濃度を測定することができる。例えば、酸素ガスは、0.8Vで電気分解し、水は、1.2Vで電気分解する。湿度センサ12は、例えば、1.5Vを印加することにより、酸素および水の両方を電気分解することが可能となる。そこで、酸素および水の両方を電気分解したときの酸素濃度と、酸素ガスのみを電気分解したときの酸素濃度との差分を取ることにより水蒸気量を求めることができる。この水蒸気量を乾き空気の質量で割ることにより絶対湿度が算出される。
【0049】
制御装置100は、湿度センサ12から検出される検出値から絶対湿度を算出し、絶対湿度と露点温度との関係を示す予めメモリ102に記憶されている変換テーブルから露点を算出する。これにより、制御装置100は、
図6のS5で示した処理を実行することができる。
【0050】
湿度センサ12は、固体電解質層60にイットリア安定化ジルコニアを用いるYSZ式湿度センサである。YSZ式湿度センサは、絶対湿度を検出可能なセンサであるため、相対湿度を検出するセンサに比べ温度補正が不要である。湿度センサ12は、多孔質保護層90により表面が覆われている。多孔質保護層90は、多孔部分がシロキサンよりも小さいため、表面でシロキサンを捕集することができる。これにより、湿度センサ12は、多孔質保護層90により内側の層にシロキサンが付着することを防止することができるため、シロキサン耐性が良い。
【0051】
<湿度センサの変形例>
図10は、変形例における湿度センサ12Aの断面図である。以下では、上記の実施の形態で説明した湿度センサ12と異なる部分を中心に説明し、湿度センサ12と同様の構成については説明を省略する。湿度センサ12Aは、湿度センサ12と比較し、絶縁層20、および配線41の構成が異なる。なお、
図7~
図9においては、貫通穴THが設けられる構成を説明した。しかし、
図10に示すように、貫通穴THは無くともよいし、複数設けられる構造であってもよい。また、
図10に示すように、絶縁層70は、絶縁層20の全面に配置されていない構成であってもよい。
【0052】
湿度センサ12Aは、湿度センサ12と比較し、絶縁層20において第5層25および第6層26が追加されている。第5層25は、例えばシリコン窒化物により形成されている。第5層25は、第4層24上に配置されている。第6層26は、例えばシリコン酸化物により形成されている。第6層26は、第5層25上に配置されている。
【0053】
図10に示すように、湿度センサ12Aの配線30は、
図9とは異なる位置の断面図のため複数本示されているが、構造は湿度センサ12と同じである。湿度センサ12Aは、絶縁層20内に配線41が配置されている。より具体的には、配線41は、第5層25上に配置されており、かつ第6層26により覆われている。配線41は、例えば、白金により形成されている。配線41の周囲は、密着層42により覆われている。密着層42は、例えば、チタン酸化物により形成されている。密着層42により、絶縁層20と配線41との間の密着性が確保されている。
【0054】
配線41は、温度センサ部43を有している。温度センサ部43は、メンブレン部20b内に配置されており、かつ平面視において蛇行している配線41の部分である。温度センサ部43は、平面視において、ヒータ部30aと重なっている。温度センサ部43は、測温抵抗体として機能する。すなわち、温度センサ部43を構成している配線41の電気抵抗値の変化を測定することにより、温度センサ部43近傍の温度が測定される。このように、温度センサ11に対応する温度センサ部43が一体的に形成されるようにしてもよい。
【0055】
(まとめ)
(1)本開示の水素検出システム1は、水素濃度を検出する熱伝導式水素センサ10と、湿度を検出する湿度センサ12と、制御装置100と、を備える。制御装置100は、熱伝導式水素センサ10が検出した第1検出値を湿度センサ12が検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する。
【0056】
(2)(1)に記載の水素検出システム1であって、情報を記憶する記憶装置としてのメモリ102をさらに備える。記憶装置は、第1検出値を湿度に応じて第2検出値へ変換する変換テーブルを含む。制御装置100は、変換テーブルを用いて第1検出値を第2検出値へ変換して水素濃度を出力する。
【0057】
(3)(1)または(2)に記載の水素検出システム1であって、温度を検出する温度センサ11をさらに備える。メモリ102は、温度に応じた複数のテーブルを変換テーブルとして記憶している。制御装置100は、温度センサ11が検出した温度に対応するテーブルを用いて第1検出値を第2検出値へ変換して水素濃度を出力する。
【0058】
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の水素検出システム1であって、熱伝導式水素センサ10は、少なくとも0.1%以上4%以下の範囲の水素濃度を検出可能である。
【0059】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の水素検出システム1であって、湿度センサ12は、YSZ式湿度センサである。
【0060】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の水素検出システム1であって、湿度センサ12の表面は、多孔質保護層90で覆われている。
【0061】
本開示の水素検出システム1によれば、水素濃度を検出する熱伝導式水素センサ10と、湿度を検出する湿度センサと11、制御装置100と、を備える。制御装置100は、熱伝導式水素センサ10が検出した第1検出値を湿度センサ12が検出した湿度に基づいて補正した上で、第2検出値として水素濃度を出力する。これにより、本開示の水素検出システム1は、シロキサン耐性が高いとともに、湿度による検出誤差を考慮して広範囲の水素濃度を好適に検出することが可能となる。
【0062】
以上のように本開示の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本開示の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 水素検出システム、10 熱伝導式水素センサ、10A 検知素子、10B 補償素子、10C,10D 抵抗、10E 出力部、11 温度センサ、12 湿度センサ、13 電源、15 基板、15a 第1主面、15b 第2主面、20,70 絶縁層、20a 周辺部、20b メンブレン部、20c 可動部、21 第1層、22 第2層、23 第3層、24 第4層、30 配線、30a ヒータ部、30b,50b 端部、30c,50c,80c 接続部、30d,50d,80b パッド部、31 バリア層、31a 第1部分、31b 第2部分、40 多孔質酸化物層、50,80 多孔質金属層、50a,80a 電極部、60 固体電解質層、90 多孔質保護層、100 制御装置、102 メモリ、C キャビティ、TH 貫通穴。