(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066245
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】大型コンクリート部材の切断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20240508BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175707
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】川人 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堀 宗朗
(72)【発明者】
【氏名】亀田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 辰也
(72)【発明者】
【氏名】嶋根 康弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】太田 孝平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和晃
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB03
4E168DA32
4E168DA40
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】コンクリート部材の簡便かつ効率的な切断方法であって、特に、切断深さと切断幅の増加が容易で、切断コストが低い大型コンクリート部材の切断方法を提供する。
【解決手段】レーザを照射することでコンクリート部材を切断する方法であって、レーザの側面でコンクリートを溶融させて切断領域を形成し、レーザの焦点を切断領域内とし、レーザの光軸方向に沿って焦点を前後に往復移動させながら、レーザを所望の切断方向に走査すること、を特徴とする大型コンクリート部材の切断方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを照射することでコンクリート部材を切断する方法であって、
前記レーザの側面でコンクリートを溶融させて切断領域を形成し、
前記レーザの焦点を前記切断領域内とし、
前記レーザの光軸方向に沿って前記焦点を前後に往復移動させながら、前記レーザを所望の切断方向に走査すること、
を特徴とする大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項2】
前記焦点の位置を前記往復移動のストローク端において任意の時間保持すること、
を特徴とする請求項1に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項3】
前記レーザの照射方向に沿ってレーザヘッドを前後に往復移動させながら、前記レーザを所望の切断方向に走査すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項4】
前記切断領域の長さを1m以上とすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項5】
前記レーザを前記コンクリート部材の重力方向下側から重力方向上側に向かって走査することで前記切断領域を形成し、
重力によって前記切断領域から溶融コンクリートを排出すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項6】
切断開始位置において前記レーザの側面を前記コンクリート部材の外周面に当接させ、前記レーザの全周に前記コンクリートの溶融領域が形成されるまで前記レーザの位置を固定すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項7】
前記コンクリート部材の底面の少なくとも一部が前記切断開始位置に含まれること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【請求項8】
前記レーザの走査方向を略鉛直方向とすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の大型コンクリート部材の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート部材の切断方法に関し、より具体的には、大型のコンクリート部材を一度に切断することができる高効率な切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームには質量が無いため、レーザ加工は基本的に無騒音かつ無振動で行うことができ、金属材の加工及び溶接等のみならず、コンクリート材への処理についても注目され、建築分野への適用可能性についての調査が開始されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2017-25631号公報)では、切断後のコンクリート部材の姿勢を容易に維持することができる構造物の解体方法を提供することを目的として、複数のコンクリート部材が組み合わせられた構造物を解体する構造物の解体方法であって、レーザ装置からレーザを照射することによってコンクリート部材を切断する切断工程を備え、当該切断工程において、レーザ装置は、コンクリート部材を斜め上方に向かって切断すると共に、切断面における一部の領域に非切断部を形成する、構造物の解体方法、が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の構造物の解体方法においては、斜めの切断面を形成することができ、当該斜めの切断面で切断後のコンクリート部材を支持して、姿勢を維持することができる、とされている。また、切断工程において、レーザ装置は、切断面における一部の領域に非切断部を形成し、当該非切断部で切断面の隙間を支持することによって、コンクリート部材を斜め上方に切断する際に切断面の隙間が塞がれて切断が妨げられることを抑制し、容易に切断を行うことができる、とされている。更に、レーザを用いる場合、他の切断方法に比して、切断面に非切断部を容易に形成することができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2018-171628号公報)では、コンクリート構造物のレーザ切断に関して、溶融物の除去性を高めてレーザ切断を良好に行うことを目的として、対象物をレーザ切断するレーザ切断装置であって、対象物の切断部位に対してレーザ光を照射するレーザノズルと、レーザ光により切断部位の対象物が溶融することで生成される溶融物にアシストガスを吹き付けるアシストガス吹付部と、溶融物にレーザ光を照射させて溶融物を加熱するレーザ加熱部と、を備えるレーザ切断装置、が提案されている。
【0006】
上記特許文献2に記載のレーザ切断装置においては、レーザノズルから照射されたレーザ光によって溶融した溶融物は、ガス吹付部から吹き付けられるアシストガスによって温度が低下するが、当該溶融物に対してレーザ加熱部でレーザ光を照射することで、溶融物が加熱され、溶融物の流動性が低下するのを抑えることができる、とされている。また、レーザノズルを切断方向後方に移動させてレーザ光を溶融物に照射することで、溶融物を加熱して流動性の低下を抑えることができ、レーザノズルをレーザ加熱部として機能させることで、レーザ加熱部を別途設ける必要が無い、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-25631号公報
【特許文献2】特開2018-171628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構造物の解体方法は、切断後のコンクリート部材の姿勢を維持するものであり、コンクリート部材を効率的に切断することを目的としたものではない。また、コンクリート部材の切断方向も限定されてしまう。更に、上記特許文献2に記載のレーザ切断装置は、レーザ照射による溶融物の再加熱によって流動性を担保して切断を行うものであるが、再加熱した場合であっても溶融コンクリートの粘度は比較的高く、十分な切断効率や切断深さを得ることは極めて困難である。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、コンクリート部材の簡便かつ効率的な切断方法であって、特に、切断深さと切断幅の増加が容易で、切断コストが低い大型コンクリート部材の切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく、レーザを用いたコンクリート部材の切断方法について鋭意研究を重ねた結果、レーザの側面でコンクリートを溶融させて切断領域を形成する方法において、レーザの光軸方向に沿ってレーザヘッドを前後に往復移動させること等が極めて重要であるということを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
レーザを照射することでコンクリート部材を切断する方法であって、
前記レーザの側面でコンクリートを溶融させて切断領域を形成し、
前記レーザの焦点を前記切断領域内とし、
前記レーザの光軸方向に沿って前記焦点を前後に往復移動させながら、前記レーザを所望の切断方向に走査すること、
を特徴とする大型コンクリート部材の切断方法、を提供する。
【0012】
本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、レーザの光軸方向に沿ってレーザの焦点を往復移動させながら切断を行うことが最大の特徴となっている。レーザの腹を用いることで一度に長い距離の切断を行うことができるが、レーザが照射されるレーザヘッド側に配置されたコンクリート部材の溶融が顕著になる。また、レーザヘッドから遠い位置のコンクリート部材の溶融が困難になる。これに対し、鋭意実験を重ねた結果、レーザ焦点の位置を光軸方向に沿って往復移動させながら切断方向に走査することで、良好な切断領域が効率的に形成することが明らかとなった。レーザ焦点の往復移動の速度は特に限定されず、切断状況に応じて適宜調整すればよいが、例えば、1~1000mm/minとすることができる。また、往復移動のストロークも特に限定されず、切断する大型コンクリート部材の大きさ、形状及び材質等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、切断領域の長さが1mの場合、10~900mmとすることができる。
【0013】
コンクリート部材の端面にレーザの焦点を合わせてスポット状にレーザを照射した場合、当該照射領域からコンクリート部材が溶融し、溶融コンクリートが流れ出ることによって点状の凹部が形成される。その後、当該凹部を深さ方向及び/又は幅方向に拡大することでコンクリート部材を切断することができるが、粘度の高い溶融コンクリートの除去は容易ではなく、切断プロセスとしても円滑ではない。これに対し、レーザの側面を用いてコンクリート部材をスライスするように切断することで、溶融コンクリートの除去を効率的に行うことができることに加え、長い切断線を一度に形成することができる。
【0014】
また、コンクリート部材の外周面から切断を開始することで、コンクリート部材の外周面に広い開口部が形成され、当該開口部から溶融コンクリートが効率的に排除されることで円滑に切断を進めることができる。
【0015】
本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、前記焦点の位置を前記往復移動のストローク端において任意の時間保持すること、が好ましい。レーザ焦点の位置を往復移動のストローク端において一定時間保持することで、切断領域における入熱量及び温度分布を均一化すると共に、溶融コンクリートの排出を促進することができ、より効率的に大型コンクリート部材を切断することができる。ここで、ストローク端におけるレーザ焦点の保持時間は特に限定されず、切断する大型コンクリート部材の大きさ、形状及び材質や使用するレーザの種類、走査速度及び出力等に応じて適宜決定すればよい。当該保持時間は、例えば、1~60秒とすることができる。
【0016】
また、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、前記レーザの照射方向に沿ってレーザヘッドを前後に往復移動させながら、前記レーザを所望の切断方向に走査すること、が好ましい。例えば、切断する大型コンクリート部材の往復移動でも、レーザの光軸方向に沿ってレーザの焦点を往復移動させることが可能であるが、レーザヘッドを前後に往復移動させることによって、より簡便に目的を達成することができる。
【0017】
また、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、前記切断領域の長さを1m以上とすること、が好ましい。本発明の効果を損なわない限りにおいて、1回の切断工程における切断領域の長さは特に限定されないが、切断領域の長さを1m以上とすることで、大型コンクリート部材であっても極めて効率的に切断を達成することができる。
【0018】
また、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、前記レーザを前記コンクリート部材の重力方向下側から重力方向上側に向かって走査することで前記切断領域を形成し、重力によって前記切断領域から溶融コンクリートを排出すること、が好ましい。レーザをコンクリート部材の重力方向下側から重力方向上側に向かって走査して切断領域を形成することで、レーザによって溶融したコンクリートは順次重力方向下向きに排出され、極めて効率的に切断を達成することができる。特に、レーザの走査方向を略鉛直方向とすることで、溶融コンクリートを排出する観点において、重力を最大限に活用することができる。
【0019】
また、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、切断開始位置において前記レーザの側面を前記コンクリート部材の外周面に当接させ、前記レーザの全周に前記コンクリートの溶融領域が形成されるまで前記レーザの位置を固定すること、が好ましい。レーザの側面をコンクリート部材の外周面に当接させた状態で、当該レーザの全周にコンクリートの溶融領域を形成させることで、レーザのエネルギーを十分に活用することができる。
【0020】
また、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、前記コンクリート部材の底面の少なくとも一部が前記切断開始位置に含まれること、が好ましい。切断開始時において、コンクリート部材の底面の少なくとも一部に切断領域を設けることによって、重力によって溶融コンクリートを効率的に排出させることができる。
【0021】
更に、本発明の大型コンクリート部材の切断方法においては、所望の切断速度や被接合材の大きさや材質等に応じてレーザの出力やパワー密度を適宜設定すればよいが、レーザのビーム径に応じて適当な値以上のパワー密度を設定することが好ましい。また、使用するレーザの出力やパワー密度、被接合材の大きさや材質等に応じて、レーザの走査速度を適宜設定すればよいが、レーザの走査速度は1~50mm/minとすることが好ましい。レーザの走査速度を1mm/min以上とすることで、コンクリート部材の切断に関する実用的な切断速度を確保することができ、50mm/min以下とすることで、コンクリートの溶融及び溶融コンクリートの排出を促進することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンクリート部材の切断方法においては、コンクリート部材の簡便かつ効率的な切断方法であって、特に、切断深さと切断幅の増加が容易で、切断コストが低い大型コンクリート部材の切断方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の大型コンクリート部材の切断方法における切断前段階の状況を示す模式図である。
【
図2】本発明の大型コンクリート部材の切断方法におけるレーザ当接段階の状況を示す模式図である。
【
図3】本発明の大型コンクリート部材の切断方法における切断進行段階の状況を示す模式図である。
【
図4】実施例におけるレーザヘッド及び鉄筋コンクリートブロックの配置状況を示す模式図である。
【
図5】実施例1で得られた切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真である。
【
図6】実施例2で得られた切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真である。
【
図7】実施例3で得られた切断工程終了後のコンクリートブロックの外観写真である。
【
図8】比較例で得られた切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の大型コンクリート部材の切断方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0025】
本発明の大型コンクリート部材の切断方法を用いてコンクリート部材を切断する工程の一態様を模式的に
図1~
図3に示す。
図1は切断前段階、
図2はレーザ当接段階、
図3は切断進行段階をそれぞれ示している。
【0026】
被切断材はコンクリート部材2であり、コンクリートの組成は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のコンクリートを用いることができる。また、コンクリート部材2はコンクリートのみから構成されていてもよく、鉄筋等で補強されたものでもよい。また、コンクリート部材2の大きさ及び形状も本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、切断領域の長さが1mを超えるような大型のコンクリート部材であることが好ましい。
【0027】
1.切断前段階
図1に示すように、レーザヘッド4から照射されたレーザ6の腹(側面)がコンクリート部材2の被切断面の近傍に位置するように配置する。ここで、重力を用いて溶融したコンクリートを切断領域から排出するため、被切断面をコンクリート部材2の底面(重力方向下面)とすることが好ましい。
【0028】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、レーザ6の種類は特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができるが、例えば、半導体レーザやファイバレーザ等を用いることが好ましい。
【0029】
また、レーザ6の出力やパワー密度は所望の切断速度やコンクリート部材2の大きさ、形状及び組成等に応じて適宜調整すればよいが、レーザのビーム径に応じて適当な値以上のパワー密度を設定することが好ましい。より具体的には、照射領域におけるビーム形状が略円形の場合、ビーム半径が1.2mmの場合は3.5kW/mm2以上のパワー密度、ビーム半径が2.2mmの場合は1.0kW/mm2以上のパワー密度、ビーム半径が3.2mmの場合は0.5kW/mm2以上のパワー密度、ビーム半径が4.2mmの場合は0.3kW/mm2以上のパワー密度、ビーム半径が5.2mmの場合は0.2kW/mm2以上のパワー密度とすることが好ましい。パワー密度をこれらの値とすることで、コンクリートを効率的に溶融させることができる。
【0030】
また、切断方向へのレーザ6の走査速度もレーザ6の出力及びパワー密度や、コンクリート部材2の大きさ、形状及び組成等に応じて適宜調整すればよいが、レーザの走査速度は5~50mm/minとすることが好ましい。レーザの走査速度を5mm/min以上とすることで、コンクリート部材の切断に関する実用的な切断速度を確保することができ、50mm/min以下とすることで、溶融コンクリートの排出を促進することができる。
【0031】
2.レーザ当接段階
図2に示すように、レーザ6の側面をコンクリート部材2の表面に当接させる段階である。コンクリート部材2の切断開始位置において、レーザ6の側面をコンクリート部材2の外周面に当接させ、レーザ6の全周にコンクリートの溶融領域が形成されるまでレーザ6の位置を固定することが好ましい。レーザ6の側面をコンクリート部材2の外周面に当接させた状態で、レーザ6の全周にコンクリートの溶融領域を形成させることで、レーザ6のエネルギーを十分に活用することができる。また、レーザ焦点8は、コンクリート部材2の内側に配置し、コンクリート部材2の切断領域の中心近傍に配置することが好ましい。
【0032】
コンクリート部材2の外周面位に当接する位置でレーザ6を保持する時間は適宜調整すればよいが、数秒~数十秒間の保持時間で、レーザ6の全周にコンクリートの溶融領域を形成することができる。
【0033】
3.切断進行段階
図3に示すように、レーザ6を切断方向に走査する段階である。ここで、レーザ焦点8の位置をレーザ6の光軸方向に往復移動させつつ、切断方向に走査することが本発明の最大の特徴となっている。レーザ焦点8の位置をレーザ6の光軸方向に往復移動させつつ切断方向に走査することで、コンクリート部材2が大型の場合であっても、極めて効率的に切断することができる。
【0034】
レーザ焦点8の往復移動の速度は特に限定されず、切断状況に応じて適宜調整すればよいが、例えば、1~1000mm/minとすることができる。また、往復移動のストロークも特に限定されず、切断するコンクリート部材2の大きさ、形状及び材質等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、切断領域の長さが1mの場合、10~900mmとすることができる。
【0035】
レーザ焦点8の往復移動に関して、レーザ焦点8はストローク端において任意の時間保持することが好ましい。レーザ焦点8の位置を往復移動のストローク端において一定時間保持することで、切断領域における入熱量及び温度分布を均一化すると共に、溶融コンクリートの排出を促進することができ、より効率的にコンクリート部材2を切断することができる。ここで、ストローク端におけるレーザ焦点8の保持時間は特に限定されず、切断するコンクリート部材2の大きさ、形状及び材質や使用するレーザの種類、走査速度及び出力等に応じて適宜決定すればよい。当該保持時間は、例えば、1~60秒とすることができる。
【0036】
また、レーザ焦点8を往復移動させる方法について、レーザ6の照射方向に沿ってレーザヘッド4を前後に往復移動させることが好ましい。例えば、切断するコンクリート部材2の往復移動でも、レーザ6の光軸方向に沿ってレーザ焦点8を往復移動させることが可能であるが、レーザヘッド4を前後に往復移動させることによって、より簡便に目的を達成することができる。
【0037】
コンクリート部材2の外周面からレーザ6を任意の進行方向に走査することで、コンクリート部材2を切断することができる。ここで、重力を活用して溶融したコンクリートを切断領域から排出する観点では、レーザ6を重力方向上向きに操作することが好ましいが、例えば、斜め上方に走査してもよく、上方に走査した後に横方向等に走査してもよい。
【0038】
切断開始時において、コンクリート部材2の底面の少なくとも一部に切断領域を設けることによって、重力によって溶融コンクリートを効率的に排出させることができる。
【0039】
コンクリート部材2に鉄筋が含まれる場合、レーザ6からの入熱で鉄筋のセルフバーニングが進行し、当該発熱によってコンクリートの溶融が促進される。
【0040】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0041】
≪実施例1≫
半導体レーザを用い、鉄筋コンクリートブロックの切断を試みた。レーザヘッド及び鉄筋コンクリートブロックの配置状況を模式的に
図4に示す。鉄筋コンクリートブロックは100mm×150mm×500mmの直方体であり、当該鉄筋コンクリートブロックを長手方向に2個並べて、全長1mの鉄筋コンクリートブロックとした。また、当該鉄筋コンクリートブロックの長手方向側面に対抗する位置にレーザヘッドが配置されている。
【0042】
鉄筋コンクリートブロック端とレーザヘッドの距離は300mm(レンズフランジ面からの距離は380mm)とし、レーザの焦点位置は鉄筋コンクリートブロック端から奥行き方向に500mmとした。焦点位置におけるレーザのビーム半径は約0.5mmである。
【0043】
レーザの出力を50kWとし、レーザの腹を被接合面(鉄筋コンクリートブロックの底面)に当接させた位置で180秒間保持することでレーザの全周にコンクリートの溶融領域を形成させた。その後、レーザヘッドを移動させることでレーザ焦点を光軸方向に往復移動させつつ、切断方向に走査した。往復移動のストロークは500mmとし、移動速度は500mm/minとした。また、切断方向を鉛直上向き、切断距離を70mmとし、切断方向への移動速度は6mm/minとした。
【0044】
切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真を
図5に示す。溶融凝固したコンクリートの破損を防止するために、
図5においては鉄筋コンクリートブロックの表面側を下にして配置している(
図6~
図8についても同様)。端面からの写真において、切断領域が長手方向に貫通していることが確認でき、1回の切断工程で長さ1mの切断に成功したことが分かる。
【0045】
≪実施例2≫
レーザ焦点の往復移動に関して、ストローク端毎に30秒間の保持を行ったこと以外は実施例1と同様にして、鉄筋コンクリートブロックの切断を行った。切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真を
図6に示す。ストローク端での保持を伴わない実施例1と比較して、溶融コンクリートの排出量が増加しており、端面の写真において、貫通孔が大きくなっていることが確認できる。
【0046】
≪実施例3≫
鉄筋を含まないコンクリートブロックを用いたこと以外は実施例2と同様にして、コンクリートブロックの切断を行った。切断工程終了後のコンクリートブロックの外観写真を
図7に示す。鉄筋のセルフバーニングによる入熱を伴わない場合であっても、長さ1mの貫通孔が形成されており、切断に成功したことが分かる。
【0047】
≪比較例≫
レーザ焦点を往復移動させなかったこと以外は実施例1と同様にして、鉄筋コンクリートブロックの切断を行った。切断工程終了後の鉄筋コンクリートブロックの外観写真を
図8に示す。端面の写真において、レーザヘッド側(F)では僅かに切断が進行しているものの、貫通孔は形成されていない。また、溶融コンクリートの排出量も少なく、レーザ焦点の往復移動を伴わない場合は大型のコンクリート部材を効率的に切断できないことが分かる。