(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066264
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ヘパリン類似物質含有ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/727 20060101AFI20240508BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20240508BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240508BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240508BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240508BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240508BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240508BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K31/727
A61K8/67
A61K8/73
A61K8/81
A61K9/06
A61P17/16
A61P29/00
A61P43/00 121
A61K47/22
A61K47/32
A61K47/38
A61Q19/00
A61K31/135
A61K31/167
A61K47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175740
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 利博
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 祐子
(72)【発明者】
【氏名】山田 太志
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 靖久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋夫
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC05
4C076CC18
4C076DD44
4C076DD59Q
4C076EE09G
4C076EE32G
4C076FF35
4C076FF36
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC331
4C083AC352
4C083AC442
4C083AC542
4C083AC551
4C083AC552
4C083AC641
4C083AC642
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4C083AD092
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4C083AD282
4C083AD311
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4C086ZC75
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4C206NA05
4C206ZA89
4C206ZB11
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】 ヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下を十分に抑制すること。
【解決手段】 ヘパリン類似物質、増粘剤、粘度低下抑制剤及び水を含有するゲル組成物であって、前記増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを含有し、前記粘度低下抑制剤として酢酸トコフェロールを含有し、前記ヘパリン類似物質の含有量がゲル組成物の全量を基準として0.05~3質量%であり、前記酢酸トコフェロールの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.5~30.0であることを特徴とするヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質、増粘剤、粘度低下抑制剤及び水を含有するゲル組成物であって、前記増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを含有し、前記粘度低下抑制剤として酢酸トコフェロールを含有し、前記ヘパリン類似物質の含有量がゲル組成物の全量を基準として0.05~3質量%であり、前記酢酸トコフェロールの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.5~30.0であることを特徴とするヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項2】
前記カルボキシビニルポリマーの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(カルボキシビニルポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.1~10.0であり、前記セルロース系ポリマーの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(セルロース系ポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.2~20.0であることを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項3】
前記酢酸トコフェロールの含有量が前記増粘剤の合計含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/増粘剤の合計含有量)で0.2~9.0であることを特徴とする、請求項2に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項4】
前記酢酸トコフェロールの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.3~7質量%であり、前記カルボキシビニルポリマーの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.1~0.5質量%であり、前記セルロース系ポリマーの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.5~1質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項5】
ゲル組成物の全量を基準として0.2~0.9質量%のジフェンヒドラミンを更に含有することを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項6】
ゲル組成物の全量を基準として2~10質量%のクロタミトンを更に含有することを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項7】
ゲル組成物の全量を基準として0.1~10質量%の非イオン性界面活性剤を更に含有することを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項8】
ゲル組成物の全量を基準として1~30質量%のエステル油及びゲル組成物の全量を基準として0.5~20質量%の溶解補助剤を更に含有することを特徴とする、請求項1に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【請求項9】
密封して60℃で1週間保存した後の粘度維持率{((60℃で1週間保存後の粘度)/(初期粘度))×100}が95%以上であることを特徴とする、請求項1~8のうちのいずれか一項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパリン類似物質、増粘剤、粘度低下抑制剤及び水を含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン類似物質は皮膚に対する保湿作用、血行促進作用、抗炎症作用等の働きがあることから、乾皮症、さめ肌、角化症等の乾燥性皮膚疾患やいわゆる乾燥肌に対して優れた皮膚疾患及び皮膚症状の改善効果があることが知られており、このような効能のあるヘパリン類似物質を皮膚に投与するための外用製剤については数多く検討されている。
【0003】
例えば、特開2011-231128号公報(特許文献1)には、ヘパリン類似物質、アラントイン及び/又はアラントイン誘導体、及び、パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質を含む外用医薬組成物が記載されている。
【0004】
また、特開2017-171643号公報(特許文献2)には、(A)カルボキシビニルポリマー、(B)ヘパリン類似物質、(C)グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、これらの誘導体、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種、並びに(D)多価アルコールを含有し、前記(D)成分の含有量が3重量%以上であり、かつ、pHが4.0~6.0である外用組成物が記載されており、さらに、(E)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有してもよいことが記載されている。
【0005】
さらに、特開2019-119690号公報(特許文献3)には、0.05~0.6質量%のヘパリン類似物質、0.01~0.5質量%の疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、油剤、界面活性剤及び水を含有し、30℃におけるpHが4.5~7.0である水中油型乳化組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-231128号公報
【特許文献2】特開2017-171643号公報
【特許文献3】特開2019-119690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、ヘパリン類似物質を皮膚に投与するための外用製剤の形態としてゲル製剤、すなわちヘパリン類似物質含有ゲル組成物とする場合、保存時の粘度低下を十分に抑制することが重要であることを本発明者らは見出した。すなわち、皮膚に塗布する際のたれ落ちが十分に防止され、塗布時及び塗布後の使用感が良好で、かつ、ヘパリン類似物質による所期の効能が安定して発揮されるためには、ヘパリン類似物質含有ゲル組成物の粘度が重要であるが、必要に応じて皮膚に適用されるゲル製剤は使用者に携帯されることも多く、保存環境や使用環境が多様であるため、ヘパリン類似物質含有ゲル組成物においては保存時の粘度低下が問題となることがあるということを本発明者らは見出した。
【0008】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、ヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下を十分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヘパリン類似物質、増粘剤及び水を含有するゲル組成物において、前記ヘパリン類似物質の含有量を所定の範囲とし、前記増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと特定のセルロース系ポリマーとを組み合わせて含有させ、かつ、粘度低下抑制剤として所定量の酢酸トコフェロールを含有させることにより、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下が十分に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1]ヘパリン類似物質、増粘剤、粘度低下抑制剤及び水を含有するゲル組成物であって、前記増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを含有し、前記粘度低下抑制剤として酢酸トコフェロールを含有し、前記ヘパリン類似物質の含有量がゲル組成物の全量を基準として0.05~3質量%であり、前記酢酸トコフェロールの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.5~30.0であるヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0012】
[2]前記カルボキシビニルポリマーの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(カルボキシビニルポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.1~10.0であり、前記セルロース系ポリマーの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(セルロース系ポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.2~20.0である、[1]に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0013】
[3]前記酢酸トコフェロールの含有量が前記増粘剤の合計含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/増粘剤の合計含有量)で0.2~9.0である、[2]に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0014】
[4]前記酢酸トコフェロールの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.3~7質量%であり、前記カルボキシビニルポリマーの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.1~0.5質量%であり、前記セルロース系ポリマーの含有量がゲル組成物の全量を基準として0.5~1質量%である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0015】
[5]ゲル組成物の全量を基準として0.2~0.9質量%のジフェンヒドラミンを更に含有する、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0016】
[6]ゲル組成物の全量を基準として2~10質量%のクロタミトンを更に含有する、[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0017】
[7]ゲル組成物の全量を基準として0.1~10質量%の非イオン性界面活性剤を更に含有する、[1]~[6]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0018】
[8]ゲル組成物の全量を基準として1~30質量%のエステル油及びゲル組成物の全量を基準として0.5~20質量%の溶解補助剤を更に含有する、[1]~[7]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【0019】
[9]密封して60℃で1週間保存した後の粘度維持率{((60℃で1週間保存後の粘度)/(初期粘度))×100}が95%以上である、[1]~[8]のうちのいずれか1項に記載のヘパリン類似物質含有ゲル組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下を十分に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物は、ヘパリン類似物質、増粘剤、粘度低下抑制剤及び水を含有するゲル組成物であって、前記増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを含有し、前記粘度低下抑制剤として酢酸トコフェロールを含有し、前記ヘパリン類似物質の含有量がゲル組成物の全量を基準として0.05~3質量%であり、前記酢酸トコフェロールの含有量が前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.5~30.0であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明に用いられるヘパリン類似物質は、ムコ多糖類多硫酸エステル又はヘパリノイドとも呼ばれる物質であり、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-ガラクトサミンとの二糖の繰り返し構造のムコ多糖を硫酸化したものである。ヘパリン類似物質は、その構造中に硫酸基、カルボキシル基、水酸基等の多くの親水基を持ち、高い保湿能を有しており、皮膚に対する保湿作用、血行促進作用、抗炎症作用等の効能を有するものである。ヘパリン類似物質としては、日本薬局方外医薬品規格に収載されているものが好適に使用される。このようなヘパリン類似物質としては、市販品を用いることができ、例えば、アピ株式会社製、Yantai Dongcheng Biochemicals Co.,Ltd.製、LABORATORI DERIVATI ORGANICI S.p.A.製等が挙げられる。
【0024】
本発明のゲル組成物におけるヘパリン類似物質の含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.05~3質量%であることが必要である。前記ヘパリン類似物質の含有量が前記下限未満では前記効能が得られにくくなり、他方、前記上限を超えると得られるゲル組成物の粘度が低くなり、保存時に相分離が発生し易くなる。前記ヘパリン類似物質の含有量が低くなると前記効能が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記ヘパリン類似物質の含有量が高くなると得られるゲル組成物の粘度が低くなる傾向にあることから、前記ヘパリン類似物質の含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.1~2質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらにより好ましく、0.2~0.5質量%であることが特に好ましい。
【0025】
本発明のゲル組成物においては、増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)からなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを組み合わせて用いられる。カルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーのうちのいずれか一方では、相分離を発生することなく初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物を得ることができない。また、カルボキシビニルポリマーと、前記セルロース系ポリマー以外の水溶性高分子(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))とを組み合わせて用いても、相分離を発生することなく初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物を得ることができない。
【0026】
ヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーとを組み合わせて用いることにより、相分離を発生することなく初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られるようになる。初期粘度がより高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られる傾向にあるという観点から、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0027】
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)は、セルロースエーテル誘導体であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)に疎水性基である長鎖アルキル基を導入した化合物である。HPMCに導入される長鎖アルキル基としては、C8~C24アルキル基が好ましく、C10~C20アルキル基がより好ましく、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基がさらに好ましく、ステアリル基が特に好ましい。疎水化HPMCとしては、1種のものを単独で使用してもよく、2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。このような疎水化HPMCとしては、市販品を用いることができ、例えば、サンジェロース60L、サンジェロース60M、サンジェロース90L、サンジェロース90M(以上、大同化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
疎水化HPMCは、その質量を基準として、0~33質量%のメトキシ基を含んでもよく、10~30質量%のメトキシ基を含むことが好ましく、21.5~30質量%のメトキシ基を含むことがより好ましく、21.5~24質量%または27~30質量%のメトキシ基を含むことが更に好ましい。また、疎水化HPMCは、その質量を基準として、0~20質量%のヒドロキシプロピルオキシ基を含んでもよく、4~15質量%のヒドロキシプロピルオキシ基を含むことが好ましく、7~11質量%のヒドロキシプロピルオキシ基を含むことがより好ましい。さらに、疎水化HPMCは、ステアリルオキシ基を有するHPMC(ステアリルオキシHPMC)であってもよい。ステアリルオキシHPMCは、その質量を基準として、0.3~4.5質量%のステアリルオキシヒドロキシプロピルオキシ基を含んでもよく、0.3~2質量%のステアリルオキシヒドロキシプロピルオキシ基を含むことが好ましく、0.3~0.6質量%又は1~2質量%のステアリルオキシヒドロキシプロピルオキシ基を含むことがより好ましい。
【0029】
本発明のゲル組成物における前記セルロース系ポリマーの含有量は、前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(セルロース系ポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.2~20.0であることが好ましく、0.5~10.0であることがより好ましく、1.0~5.0であることが特に好ましい。前記セルロース系ポリマーの含有量が前記下限未満ではカルボキシビニルポリマーと組み合わせて用いても初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘度が過剰に高くなり塗布時に塗り広げにくくなったり、塗布後に垢状の塊(ヨレ)が発生する等、使用感が悪化し易くなる傾向にある。
【0030】
また、本発明のゲル組成物における前記セルロース系ポリマーの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.5~1質量%であることが好ましい。前記疎水化HPMCの含有量が前記下限未満ではカルボキシビニルポリマーと組み合わせて用いても初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘度が過剰に高くなり塗布時に塗り広げにくくなったり、塗布後に垢状の塊(ヨレ)が発生する等、使用感が悪化し易くなる傾向にある。同様の観点から、前記セルロース系ポリマーの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.6~0.9質量%であることがより好ましい。
【0031】
本発明に用いられるカルボキシビニルポリマーは、ポリアクリル酸を主鎖として部分的に架橋された架橋構造を有する高分子である。本発明に用いられるカルボキシビニルポリマーの重合度は特に制限されず、1種のものを単独で使用してもよく、2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。このようなカルボキシビニルポリマーとしては、市販品を用いることができ、例えば、カーボポール980、カーボポール981、カーボポール2984、カーボポール5984、カーボポールETD2050、カーボポールUltrez10(以上、Lubrizol社製);ハイビスワコー103、ハイビスワコー104、ハイビスワコー105、シンタレンK、シンタレンL、シンタレンM(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製);ジュンロンPW-120、ジュンロンPW-121、ジュンロンPW-312S(以上、東亞合成株式会社製)等が挙げられる。また、本発明に係るカルボキシビニルポリマーとしては、0.2質量%水溶液の25℃における粘度(B型粘度計で測定される粘度)が500~8000mPa・sであることが好ましく、1000~6000mPa・sであることがより好ましい。
【0032】
本発明のゲル組成物におけるカルボキシビニルポリマーの含有量は、前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(カルボキシビニルポリマーの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.1~10.0であることが好ましく、0.3~6.0であることがより好ましく、0.5~3.0であることが特に好ましい。前記カルボキシビニルポリマーの含有量が、前記下限未満では前記セルロース系ポリマーと組み合わせて用いても、初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると相分離が発生し易くなる傾向にある。
【0033】
また、本発明のゲル組成物におけるカルボキシビニルポリマーの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.1~0.5質量%であることが好ましい。前記カルボキシビニルポリマーの含有量が、前記下限未満では前記セルロース系ポリマーと組み合わせて用いても、初期粘度が所定の水準以上に高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると相分離が発生し易くなる傾向にある。同様の観点から、前記カルボキシビニルポリマーの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.2~0.4質量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物においては、増粘剤としての前記セルロース系ポリマー及び前記カルボキシビニルポリマーに加えて、粘度低下抑制剤として所定量の酢酸トコフェロールが更に含有される。
【0035】
酢酸トコフェロールは、トコフェロール(ビタミンE)と酢酸のエステルであり、化学構造的にdl-α-トコフェロールの6位の水酸基をアセチル化して得られる油溶性のビタミンE誘導体であり、抗酸化作用や血行促進作用といった効能を有する成分として知られている。
【0036】
本発明のゲル組成物における酢酸トコフェロールの含有量は、前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で0.5~30.0であることが必要である。前記酢酸トコフェロールの含有量が前記下限未満では、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されず、他方、前記上限を超えると、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されないだけでなく、相分離が発生し易くなる。同様の観点から、前記酢酸トコフェロールの含有量は、前記ヘパリン類似物質の含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/ヘパリン類似物質の含有量)で1.0~20.0であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明のゲル組成物における酢酸トコフェロールの含有量は、前記増粘剤の合計含有量に対する質量比(酢酸トコフェロールの含有量/増粘剤の合計含有量)で0.2~9.0であることが好ましく、0.3~7.0であることがより好ましい。前記酢酸トコフェロールの含有量が前記下限未満では、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されにくくなるとともに相分離が発生し易くなる傾向にある。
【0038】
さらに、本発明のゲル組成物における酢酸トコフェロールの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.3~7質量%であることが好ましい。前記酢酸トコフェロールの含有量が前記下限未満では、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるゲル組成物の保存時の粘度低下が十分に抑制されにくくなるとともに相分離が発生し易くなる傾向にある。同様の観点から、前記酢酸トコフェロールの含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明者らは、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に、粘度低下抑制剤として所定量の酢酸トコフェロールを更に含有させることにより、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下が十分に抑制されることを見出した。一方、前記ヘパリン類似物質含有ゲル組成物に、酢酸トコフェロール以外の血行促進成分(例えば、ノニル酸ワニリルアミド、dl-カンフル、カプサイシン、サリチル酸メチル)を含有させても、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物における保存時の粘度の低下は十分には抑制されない。このように酢酸トコフェロールに、ヘパリン類似物質含有ゲル組成物における保存時の粘度低下を顕著に抑制する作用、すなわち粘度低下抑制剤としての機能があることは、驚くべき効果であり、当業者であっても決して容易に予期できるものではない。
【0040】
以上説明した通り、本発明においては、相分離を発生することなく、保存時の粘度低下が十分に抑制されたヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られる。このようなヘパリン類似物質含有ゲル組成物の初期粘度としては、B型粘度計を用いて温度25℃、回転数10rpmの条件下で測定した粘度が15000~60000mPa・sであることが好ましく、30000~60000mPa・sであることがより好ましい。ヘパリン類似物質含有ゲル組成物の初期粘度が、前記下限未満では皮膚に塗布する際のたれ落ちが十分に抑制されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると皮膚に塗布する際に塗り広げにくくなる傾向にある。
【0041】
本発明においては、このようなヘパリン類似物質含有ゲル組成物における保存時の粘度低下が十分に抑制される。このような粘度低下が抑制される水準としては、密封して60℃で1週間保存した後の粘度維持率{((60℃で1週間保存後の粘度)/(初期粘度))×100}が95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。
【0042】
なお、本発明においてB型粘度計を用いて温度25℃、回転数10rpmの条件下で測定した粘度とは、以下の装置及び測定条件で測定した粘度である。
装置名:BROOKFIELD DIGITAL VISCOMETER(米国ブルックフィールド社製)
スピンドル回転数:10rpm
測定温度:25℃
測定時間:330sec
スピンドル:SC4-14
チャンバー:SC4-6RP。
【0043】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物は、前述のヘパリン類似物質、増粘剤及び酢酸トコフェロールに加えて水を含有している。本発明のゲル組成物において、水の含有量は特に制限されず、他の成分の組成に応じて適宜設定すればよいが、ゲル組成物の全量を基準として50~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。
【0044】
なお、本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物においては、相分離の発生をより確実に防止するという観点からは低級アルコールは含有されないことが好ましく、特にエタノールは含有されないことが好ましい。
【0045】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物においては、前述のヘパリン類似物質、水、増粘剤及び酢酸トコフェロールに加えて、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で医薬品、医薬部外品及び化粧品等に使用される有効成分を配合してもよい。このような有効成分としては、例えば、抗ヒスタミン成分、鎮痒成分、組織保護成分、抗炎症成分、抗真菌薬成分、美白成分、生薬成分、局所麻酔成分等が挙げられる。
【0046】
抗ヒスタミン成分としては、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、メキタジン、アゼラスチン、エメダスチン、ケトチフェン、又はそれらの誘導体等が挙げられ、中でもジフェンヒドラミンが好ましい。本発明のゲル組成物に抗ヒスタミン成分(好ましくはジフェンヒドラミン)が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.2~0.9質量%であることが好ましく、0.3~0.7質量%であることがより好ましい。抗ヒスタミン成分(好ましくはジフェンヒドラミン)の含有量が前記下限未満では抗ヒスタミン成分の効能が得られにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られるゲル組成物の保存時の粘度維持率が低下する傾向にある。
【0047】
鎮痒成分としては、クロタミトン、ステロイド等が挙げられ、中でもクロタミトンが好ましい。本発明のゲル組成物に鎮痒成分(好ましくはクロタミトン)が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として2~10質量%であることが好ましく、4~6質量%であることがより好ましい。鎮痒成分(好ましくはクロタミトン)の含有量が前記下限未満では鎮痒成分の効能が得られにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られるゲル組成物が保存時に相分離を発生し易くなる傾向にある。
【0048】
組織保護成分としては、パンテノール、アラントイン、酸化亜鉛等が挙げられる。本発明のゲル組成物に組織保護成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~5質量%であることが好ましい。
【0049】
抗炎症成分としては、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はその誘導体、カンゾウ抽出物、ステロイド化合物(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、クロベタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチゾン、フルメタゾン、ベクロメタゾン、フルチカゾン又はそれらの誘導体)、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、ウフェナマート、ピロキシカム、ケトプロフェン、サリチル酸又はその誘導体、ジメチルイソプロピルアズレン、トウキエキス、シコンエキス等が挙げられる。本発明のゲル組成物に抗炎症成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~1質量%であることが好ましい。
【0050】
抗真菌薬成分としては、ブテナフィン塩酸塩、テルビナフィン塩酸塩、ネチコナゾール塩酸塩、ルリコナゾール、エフィナコナゾール、ビホナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール等が挙げられる。本発明のゲル組成物に抗真菌薬成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~1質量%であることが好ましい。
【0051】
美白成分としては、L-システイン、ハイドロキノン、グルコサミン、L-アスコルビン酸、グルタチオン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出物、ユビキノン類、又はそれらの誘導体等が挙げられる。本発明のゲル組成物に美白成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~1質量%であることが好ましい。
【0052】
生薬成分としては、サイコ、ブクリョウ、ケイヒ、カンゾウ、オウゴン、オウバク、オウレン、サンシシ、ジオウ、シャクヤク、センキュウ、トウキ、ハマボウフウ、ボウフウ、オウヒ、キキョウ、ショウキョウ、ドクカツ、ケイガイ、モクツウ、ゴボウシ、チモ、センタイ、クジン、ソウジュツ、インチンコウ等が挙げられる。本発明のゲル組成物に生薬成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~1質量%であることが好ましい。
【0053】
局所麻酔成分としては、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、テトラカイン、アミノ安息香酸又はそれらの誘導体等が挙げられる。本発明のゲル組成物に局所麻酔成分が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~2質量%であることが好ましい。
【0054】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物においては、前記有効成分の他に、ゲル組成物を構成するための成分として、界面活性剤、油分、溶解補助剤、pH調整剤、高級脂肪酸、保存剤、清涼化剤等を配合してもよい。
【0055】
界面活性剤としては、皮膚への刺激性の観点から非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、モノステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラステアリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられ、中でも、得られるゲル組成物の相分離がより抑制される傾向にあるという観点から、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテルが好ましく、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとモノステアリン酸ポリエチレングリコールとの組み合わせ、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとポリオキシエチレンセチルエーテルとの組み合わせが特に好ましい。本発明のゲル組成物に界面活性剤(好ましくは非イオン性界面活性剤)が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.1~10質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることが特に好ましい。界面活性剤(好ましくは非イオン性界面活性剤)の含有量が前記下限未満では、得られるゲル組成物の相分離が発生し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるゲル組成物の粘度が低下したり、塗布時にべたつきが発生し易くなる傾向にある。
【0056】
油分としては、天然動植物油脂類、炭化水素油、エステル油、シリコーン油等が挙げられるが、得られるゲル組成物の塗布時に塗り広げ易くなり、さらに塗布後のべたつきが少なくなる傾向にあるという観点から、エステル油が好ましい。エステル油としては、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル、イソステアリン酸イソステアリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、2-エチルヘキサン酸セチル、ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、オクタン酸セチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸ブチル、セバシン酸ジイソプロピル、乳酸セチル、乳酸テトラデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オレイン酸フィトステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、パラメトキシケイ皮酸エステル、テトラロジン酸ペンタエリスリット等が挙げられ、中でも、得られるゲル組成物の塗布時により塗り広げ易くなり、さらに塗布後のべたつきがより少なくなる傾向にあるという観点から、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピルが好ましく、2-エチルヘキサン酸セチルとミリスチン酸イソプロピルとの組み合わせが特に好ましい。本発明のゲル組成物に油分(好ましくはエステル油)が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として1~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることが特に好ましい。油分(好ましくはエステル油)の含有量が前記下限未満では得られるゲル組成物の保湿性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られるゲル組成物を塗布する際の乾きが遅くなる傾向にある。
【0057】
溶解補助剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、中でも、皮膚刺激が少ないという観点から、プロピレングリコールが好ましい。本発明のゲル組成物に溶解補助剤が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.5~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、3~7質量%であることが特に好ましい。溶解補助剤の含有量が前記下限未満では十分な溶解補助効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られるゲル組成物を塗布した後のべたつきが多くなる傾向にある。
【0058】
pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸など)、有機酸(乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム等)、無機塩基(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、有機塩基(ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)等が挙げられ、中でも、常温で液体であり、潮解せず取扱いがし易いという観点から、ジエタノールアミンが好ましい。本発明のゲル組成物にpH調整剤が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~0.5質量%であることが好ましい。
【0059】
高級脂肪酸としては、イソステアリン酸、オキシステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、中でもオレイン酸が好ましい。本発明のゲル組成物に高級脂肪酸が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.1~5質量%であることが好ましい。
【0060】
保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等が挙げられ、中でも、水への溶解性に優れ、皮膚刺激が少ないという観点から、パラオキシ安息香酸メチルが好ましい。本発明のゲル組成物に保存剤が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~1質量%であることが好ましい。
【0061】
清涼化剤としては、メントール(l-メントール、dl-メントール等)、カンフル(d-カンフル、dl-カンフル等)、ボルネオール等のテルペノイド、テルペノイドを含有する精油(ハッカ油)、又はその薬理学的に許容される塩等が挙げられる。本発明のゲル組成物に清涼化剤が配合される場合、その含有量は、ゲル組成物の全量を基準として0.01~7質量%であることが好ましい。
【0062】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物のpHは、生理学的又は薬学的に許容できる範囲であればよく、特に制限されないが、皮膚に対する刺激性の観点から、pHは2~11.5が好ましく、3~10がより好ましく、5~8が特に好ましい。
【0063】
また、本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物の動的粘弾性は、特に限定されないが、皮膚に塗布する際のたれ落ちがより十分に防止され、かつ、塗布時及び塗布後の使用感がより良好となる観点から、レオメーターを用いて以下の条件下で測定した最大荷重が0.3~0.7N、弾性率が2.5~6.0N、降伏応力が0.9~2.0Paであることが好ましい。
【0064】
なお、前記の最大荷重、弾性率及び降伏応力は、ゲル組成物に以下の条件下で試験プローブを押し込んだときの反発力等をレオメータを用いて測定した動的粘弾性に関するパラメータ(物性値)であり、ゲル組成物の弾力感を示す物性値である。
装置名:SUN RHEO METER(株式会社サン科学製)
試験プローブ(アダプター):直径20mmの円板
試験台速度(プローブの押し込み速度):600mm/min
プローブを押し込んだ距離:10mm
試料部:UMサンプル瓶 100mL(アズワン株式会社製)
試料量:80g±0.5g
測定温度:25℃。
【0065】
本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物の剤型はゲル剤であり、その調製方法は特に制限されるものではなく、前述のヘパリン類似物質、水、増粘剤及び酢酸トコフェロールと、必要に応じて前述の有効成分及びゲル組成物を構成するための成分を所望の配合比率になるように秤量し、常法によって混合することによって調製することができる。
【実施例0066】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1~7及び比較例1~13)
表1~表4に記載の諸成分をそれぞれ所望の配合比率になるように秤量し、常法によって混合することによってヘパリン類似物質含有ゲル組成物を調製した。なお、表中、各成分に関する組成の数値は、得られるゲル組成物の全量を基準とした各成分の含有量(質量%)である。
【0068】
また、カルボキシビニルポリマーとしては、Lubrizol社製、商品名:Carbopol 981 NF POLYMER、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)としては、大同化成工業株式会社製、商品名:サンジェロース90L、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)としては、信越化学工業株式会社製、商品名:METOLOSE 90SH-15000SR、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)としては、Ashland社製、商品名:Klucel HF PHARM Hydroxypropylcellulose、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)としては、Ashland社製、商品名:Natrosol 250 HHX PHARM Hydroxyethylcellulose、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)としては、第一工業製薬株式会社製、商品名:セロゲン P-815C、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとしては、日本サーファクタント工業株式会社製、商品名:TS-10MV、ポリオキシエチレンセチルエーテルとしては、日本サーファクタント工業株式会社製、商品名:BC-40、モノステアリン酸ポリエチレングリコールとしては、日本サーファクタント工業株式会社製、商品名:MYS-55MVをそれぞれ用いた。
【0069】
<ゲル組成物の粘度測定>
実施例及び比較例で得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物について、先ず、前述のB型粘度計及び測定条件下で製造直後の初期粘度を測定した。次いで、各ヘパリン類似物質含有ゲル組成物を樹脂製容器中に密封し、60℃で1週間保存した後の粘度を同様に測定し、粘度維持率{((60℃で1週間保存後の粘度)/(初期粘度))×100}を求めた。得られた結果を表1~表4に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表1~表4に示した結果から明らかなとおり、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)からなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に所定量の酢酸トコフェロールを含有させることにより(実施例1~7)、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物において、相分離を発生することなく、保存時の粘度維持率は95%以上であり、保存時の粘度低下が十分に抑制されることが確認された。
【0075】
一方、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に、酢酸トコフェロール以外の血行促進成分{ノニル酸ワニリルアミド(比較例2)、dl-カンフル(比較例3)、カプサイシン(比較例4)、サリチル酸メチル(比較例5)}を含有させても、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物における保存時の粘度維持率は95%未満であり、保存時の粘度の低下は十分には抑制されないことが確認された。
【0076】
さらに、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に酢酸トコフェロールを含有させた場合であっても、酢酸トコフェロールの含有量が本発明の範囲外である場合(比較例8~11)は、得られたヘパリン類似物質含有ゲル組成物における保存時の粘度維持率は95%未満であり、保存時の粘度の低下は十分には抑制されず、比較例11においては相分離の発生が認められた。
【0077】
また、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)からなる群から選択される少なくとも一種のセルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に所定量の酢酸トコフェロールを含有させた場合(実施例1~7)、相分離を発生することなく初期粘度が15000mPa・s以上のヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られており、中でも、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)とを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物(実施例1~3、6、7)においては初期粘度が30000mPa・s以上と高いヘパリン類似物質含有ゲル組成物が得られることが確認された。
【0078】
一方、増粘剤としてルボキシビニルポリマーと、前記セルロース系ポリマー以外の水溶性高分子{HPMC(比較例6)、CMC-Na(比較例7)}とを組み合わせて用いても、相分離を発生することなく初期粘度が15000mPa・s以上のヘパリン類似物質含有ゲル組成物を得ることができないことが確認された。
【0079】
また、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと前記セルロース系ポリマーとを組み合わせて含有するヘパリン類似物質含有ゲル組成物に所定量の酢酸トコフェロールを含有させた場合であっても、ヘパリン類似物質の含有量が本発明の範囲外である場合は(比較例12)、初期粘度が低く、保存時に相分離が発生することが確認された。
【0080】
さらに、増粘剤として疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(疎水化HPMC)のみを含有する(カルボキシビニルポリマーを含有しない)ヘパリン類似物質含有ゲル組成物に所定量の酢酸トコフェロールを含有させた場合(比較例13)は、初期粘度が低く、保存時の粘度維持率も低いことが確認された。
したがって、本発明のヘパリン類似物質含有ゲル組成物によれば、多様な保存環境や使用環境の下であっても、皮膚に塗布する際のたれ落ちが十分に防止され、塗布時及び塗布後の使用感が良好で、かつ、ヘパリン類似物質による所期の効能が安定して発揮されるようになる。