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特開2024-66279インクジェットインクの顔料分散液及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066279
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】インクジェットインクの顔料分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20240508BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20240508BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C09D11/326
C09K23/52
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175759
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 真理
【テーマコード(参考)】
2C056
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
4J039AD09
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 顔料分散性の良好なインクジェット用有機顔料含有水系インク組成物を得ることを目的として、顔料分散液及び水系インク組成物を創出し、またその製造プロセスを構築する。
【解決手段】 平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液を、ハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン溶解球法によって決定すること;非イオン性、非反応性で、該有機顔料と吸着性のある有機基を有するモノマー1と、非イオン性、非反応性で、前記混合液と親和性のある有機基を有するモノマー2からブロック共重合体を得ること;及び前記有機顔料と、モノマー1及びモノマー2から得られたブロック共重合体と、該水溶性有機溶媒と水との混合液を混合する工程を含む、顔料分散液の製造方法、並びに同方法により得られる顔料分散液である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料を提供する工程;
(2)該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、該水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液を選択する工程であって、該混合液はハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン溶解球法によって決定される、工程;
(3)非反応性かつ該有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー1を提供する工程;
(4)非反応性かつ該水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー2を提供する工程;
(5)モノマー1及びモノマー2をブロック共重合して、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を得る工程;及び
(6)該有機顔料と、モノマー1及びモノマー2から得られたブロック共重合体と、該水溶性有機溶媒と水との混合液を混合する工程を含む、
顔料分散液の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性有機溶媒と水との混合液を選択する工程が、
(i)水と8種類以上の既知のハンセンの溶解度パラメータを有する分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒を選択する工程、
(ii)水と該水溶性有機溶媒を、有機顔料を水と該水溶性有機溶媒に分散させたときに、(A)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の1倍から3倍になるものと、(B)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の3倍より大きくなるものとに分類する工程、
(iii)ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δh及び半径rで表されるハンセン球であって、前記(A)の溶媒のハンセンの溶解度パラメータが球の内側にあり、かつ前記(B)の溶媒のハンセンの溶解度パラメータが球の外側にあるようなハンセン球を決定する工程、
(iv)沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との合計に対して該水溶性有機溶媒の量が10~50質量%であって、前記ハンセン球の内側に入るようなハンセンの溶解度パラメータを有する、該水溶性有機溶媒と水との混合液を選択する工程、を含む、
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機顔料と吸着性のある有機基、及び/又は前記水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある有機基を決定する工程であって、該有機基をその構造に含む有機化合物を有機顔料の分散体に添加したときに、該顔料の平均粒子径が1次粒子径の1~7倍の範囲となるものから選択することにより決定する工程を更に含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料、
該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、該水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液、及び
非反応性かつ前記有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー1と、非反応性かつ前記有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー2とを共重合して得られる、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を含む、顔料分散液であって、
前記水溶性有機溶媒と水との混合液は、ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを軸にとる三次元座標空間における、該混合液のハンセンの溶解度パラメータの座標が、該有機顔料を分散させたときに分散体中での粒子径が1次粒子径の1~3倍になるような水を含む8種類以上の分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒の有するハンセンの溶解度パラメータから求められるハンセン球の内側に存在するような値である、
顔料分散液。
【請求項5】
モノマー1の有する、有機顔料と親和性のある有機基が芳香族基を含むものである、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項6】
モノマー2の有する、水と親和性のある有機基がポリアルキレングリコール基である、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項7】
ブロック共重合体におけるモノマー1の割合が、1~99mol%である、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項8】
ブロック共重合体が、モノマー1に由来する構造を末端に有し、その末端に芳香族基が導入されているブロック共重合体である、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項9】
ブロック共重合体が、モノマー2に由来する構造を末端に有し、その末端にポリアルキレングリコール基が導入されているブロック共重合体である、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項10】
有機顔料が、C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、28、29、36、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Red 17、122、144、166、170、177、202、206、207、214、220、254、C.I.Pigment Yellow 1、3、12、13、14、16、17、55、81、83、74、93、94、95、97、109、110、120、128、138、147、154、155、167、185、191の顔料から選択される、請求項4記載の顔料分散液。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか一項記載の顔料分散液を含み、かつ水と水溶性有機溶媒の混合液が、請求項2記載の方法によって決定されるハンセン球の内側に入るハンセンの溶解度パラメータを有することを特徴とする、インク。
【請求項12】
インクジェットインク用の、請求項11記載のインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクの顔料分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、プロセスが単純で小型化、低コスト化に適していること、記録対象に非接触であり記録対象を広範囲に選ぶことができること等から、広範にわたり採用されている印刷方式である。近年のインクジェットプリンターは、画像信号に応じてインク滴を吐出するオンデマンド型が主流であり、極微量のインクの吐出であっても正確に制御できるようになっている。
【0003】
一般的なインクジェット用のインクには、色材としての顔料又は染料、媒体、場合により分散剤、バインダーが含まれる。色材としては薄膜で耐候性かつ高精細な色調を出すために、ナノメートルサイズの有機顔料が使用される。有機顔料は有機化合物であるがゆえに変性によるカスタマイズが可能という利点があるが、有機顔料を用いたインクは粘度が10mPa・s以下と低いため、有機顔料の分散性を長期間安定して保持することが難しい。また、環境対応への要請により、溶剤系インクから水系インクへの転換が求められているが、有機顔料は水への分散性が問題となることが多い。インクジェット用インクの場合は細いノズルを介してインクが吐出されるので、顔料の凝集はノズルの詰まりや印刷の色ムラを生じ得る。これらを防止する吐出安定性がインクジェット用インクには求められる(特許文献1、2、3)。顔料の分散性は溶剤との相性によって影響を受けるため、溶剤の有する特性をパラメータ化して溶剤が設計されている(特許文献4、5)。
また、インクの分散性を向上するために、良好な顔料分散剤の開発が必要となっている。顔料分散剤は一般に、顔料吸着基と媒体に対する相溶基とからなる共重合体が使用される。特に、精密重合を用いた顔料吸着基ブロックと相溶基ブロックとを有するブロック共重合体が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-134264号公報
【特許文献2】特開2019-189852号公報
【特許文献3】特開2021-147600号公報
【特許文献4】特開2020-186391号公報
【特許文献5】特開2021-123722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の顔料分散剤は、特に相溶基としてイオン性のものが主であるため、顔料を様々な媒体(紙・フィルム)に固着させるバインダーを共存させると、分散安定性が悪化する場合が多い。このため、バインダーに応じて顔料分散剤を変える必要がある。このような事情から、インクの製造には、顔料に適した溶媒系の決定、媒体に応じたバインダーの選択、顔料に応じた顔料分散剤の選択、これらを踏まえての最終インク配合の決定と、顔料・媒体に応じてカスタマイズされた配合をその都度試行錯誤により決定するプロセスが必要であった。
【0006】
このため、顔料分散性の良好なインクジェット用有機顔料含有水系インク組成物を得ることを目的として、顔料分散液及び水系インク組成物を創出すること、その製造プロセスを構築することに対する要求は常に存在する。特に、水の存在まで考慮して最適な溶媒系を選択することについては知られてはいなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような要求を鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、水溶性の溶媒の選定、顔料吸着基及び相溶基の選定方法を確立し、最適なブロック共重合体を含み分散安定な顔料分散液及び水系インク組成物を得ることを達成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の顔料分散体の製造方法、顔料分散体、及びインクに関する。
[1]以下の工程:
(1)平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料を提供する工程;
(2)該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、該水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液を選択する工程であって、該混合液はハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン溶解球法によって決定される、工程;
(3)非反応性かつ該有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー1を提供する工程;
(4)非反応性かつ該水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー2を提供する工程;
(5)モノマー1及びモノマー2をブロック共重合して、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を得る工程;及び
(6)該有機顔料と、モノマー1及びモノマー2から得られたブロック共重合体と、該水溶性有機溶媒と水との混合液を混合する工程を含む、
顔料分散液の製造方法。
[2]前記水溶性有機溶媒と水との混合液を選択する工程が、
(i)水と8種類以上の既知のハンセンの溶解度パラメータを有する分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒を選択する工程、
(ii)水と該水溶性有機溶媒を、有機顔料を水と該水溶性有機溶媒に分散させたときに、(A)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の1倍から3倍になるものと、(B)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の3倍より大きくなるものとに分類する工程、
(iii)ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δh及び半径rで表されるハンセン球であって、前記(A)の溶媒のハンセンの溶解度パラメータが球の内側にあり、かつ前記(B)の溶媒のハンセンの溶解度パラメータが球の外側にあるようなハンセン球を決定する工程、
(iv)沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との合計に対して該水溶性有機溶媒の量が10~50質量%であって、前記ハンセン球の内側に入るようなハンセンの溶解度パラメータを有する、該水溶性有機溶媒と水との混合液を選択する工程、を含む、前記[1]記載の製造方法。
[2]前記有機顔料と吸着性のある有機基、及び/又は前記水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある有機基を決定する工程であって、該有機基をその構造に含む有機化合物を有機顔料の分散体に添加したときに、該顔料の平均粒子径が1次粒子径の1~7倍の範囲となるものから選択することにより決定する工程を更に含む、前記[1]又は[2]の製造方法。
[4]平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料、
該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、該水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液、及び
非反応性かつ前記有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー1と、非反応性かつ前記有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー2とを共重合して得られる、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を含む、顔料分散液であって、
前記水溶性有機溶媒と水との混合液は、ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを軸にとる三次元座標空間における、該混合液のハンセンの溶解度パラメータの座標が、該有機顔料を分散させたときに分散体中での粒子径が1次粒子径の1~3倍になるような水を含む8種類以上の分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒の有するハンセンの溶解度パラメータから求められるハンセン球の内側に存在するような値である、顔料分散液。
[5]モノマー1の有する、有機顔料と親和性のある有機基が芳香族基を含むものである、前記[4]の顔料分散液。
[6]モノマー2の有する、水と親和性のある有機基がポリアルキレングリコール基である、前記[4]又は[5]の顔料分散液。
[7]ブロック共重合体におけるモノマー1の割合が、1~99mol%である、前記[4]~[6]のいずれかの顔料分散液。
[8]ブロック共重合体が、モノマー1に由来する構造を末端に有し、その末端に芳香族基が導入されているブロック共重合体である、前記[4]~[7]のいずれかの顔料分散液。
[9]ブロック共重合体が、モノマー2に由来する構造を末端に有し、その末端にポリアルキレングリコール基が導入されているブロック共重合体である、前記[4]~[8]のいずれかの顔料分散液。
[10]有機顔料が、C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、28、29、36、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Red 17、122、144、166、170、177、202、206、207、214、220、254、C.I.Pigment Yellow 1、3、12、13、14、16、17、55、81、83、74、93、94、95、97、109、110、120、128、138、147、154、155、167、185、191の顔料から選択される、前記[4]~[9]のいずれかの顔料分散液。
[11]前記[4]~[10]のいずれか一項記載の顔料分散液を含み、かつ水と水溶性有機溶媒の混合液が、前記[2]記載の方法によって決定されるハンセン球の内側に入るハンセンの溶解度パラメータを有することを特徴とする、インク。
[12]インクジェットインク用の、前記[12]のインク。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、顔料分散性の良好なインクジェット用有機顔料含有水系インク組成物を得ることができる。また、顔料分散剤は媒体に応じて選択されるバインダーに悪影響を与えないため、顔料、顔料分散剤、水溶性溶剤、水からなる顔料分散安定な分散体を得てしまえば、水系インクに必要なその他の成分(バインダー、保湿剤、浸透剤、界面活性剤、水等)を添加しても、良好な顔料分散性とインクジェット吐出性が得られるインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、上記工程を含む、顔料分散液の製造方法、並びに同方法により製造される顔料分散液に関する。以下、本発明の顔料分散液及びその製造方法について、項目ごとに具体的に説明する。
【0011】
[有機顔料]
有機顔料は、その構造中に不飽和二重結合を有する有機化合物を原料とする顔料である。有機顔料は主に多環顔料とアゾ顔料に大別され、後述の条件を満たす限り任意のものを使用することができる。また、本明細書において「有機顔料」には、有機染料を電離させて金属イオンと結合させて不溶化したレーキ顔料、樹脂に蛍光染料を固着させたものである蛍光顔料も含まれる。
【0012】
顔料分散液に用いられる有機顔料は、その平均の1次粒子径が50~200nmである。顔料を粉体として生成したときの粒子に対して公知の手段で粒子径を測定することができる。有機顔料の1次粒子径は、分散性を良好にする観点から100nm以下であることが好ましい。なお、本明細書における平均粒子径はメジアン径(D50)である。
【0013】
上記の条件を満たす限りにおいて、有機顔料の色、種類は特に制限されない。インクジェットインクに用いられる化合物を任意に用いることができる。また、用いる顔料は1種類であってもよく、2種類以上の顔料を組合せて用いてもよい。具体的な有機顔料の例としては、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ペリノン等の赤色顔料、ビスアセトアセトアリライド、イソインドリン、イソインドリノン、アゾメチン、キサンテン等の黄色顔料、フタロシアニン、アゾメチン、ペリレン等の緑色顔料、フタロシアニン銅、インジゴイド等の青色顔料、ジオキサジン等の紫色顔料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
また、有機顔料としては市販のグレードのものを用いてもよい。使用することのできる有機顔料の例としては、インクジェット用のインクとして用いられるシアン、マゼンタ、イエローの顔料として、C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、28、29、36、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Red 17、122、144、166、170、177、202、206、207、214、220、254、C.I.Pigment Yellow 1、3、12、13、14、16、17、55、81、83、74、93、94、95、97、109、110、120、128、138、147、154、155、167、185、191の顔料から選択される。
【0015】
有機顔料としては、その表面を変性したものを用いてもよい。有機顔料を変性する方法については当業者に公知の手法を採用することができる。
【0016】
[有機溶媒]
有機溶媒は、有機顔料を分散させて均一なインクを形成するための成分である。インクジェットインクにおいては水系インクが主流となっていることから、有機溶媒は水に対して任意の割合で溶解する水溶性有機溶媒であることが好ましい。以下、インクジェットインクに用いられる水と親水性有機溶媒の混合溶液を「混合液」という。
【0017】
有機溶媒としては、インクジェット用インクに用いられる公知の有機溶媒を用いることができる。混合液が下記要件を満たす限りにおいて、種類は特に制限されない。有機溶媒は、インクの乾燥が早くなり滲みを抑制することができるので、揮発性を有するものであることが好ましいが、沸点が水のそれよりも低いと保管時に揮発するなどの不具合があることから、沸点が100℃以上のものが好ましい。具体的な有機溶媒の例としては、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール(BDG、沸点=230℃)、2-(2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシ)エタノール(BTG、沸点=278℃)、2-ピロリドン(沸点=245℃)、ジエチレングリコール(DEG、沸点=244℃)、トリエチレングリコール(TEG、沸点=285℃)、プロピレングリコール(PG、沸点=188℃)、ジアセトンアルコール(DAA、沸点=168℃)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(PGBE、沸点=170℃)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(DPGBE、沸点=230度)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(DPGME、沸点=190℃)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME、121℃)、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(EGBE、沸点171℃)、エチレングリコールメチルエーテル(EGME、沸点124℃)、ヘキシレングリコール(HG、沸点=196℃)等が挙げられる。ここで、「沸点」は大気圧下での値である。
【0018】
インクジェットインク用の混合液を提供する工程は、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)と呼ばれる値を用いて系統的に決定することにより、行うことができる。HSPはある物質の溶媒に対する溶解性、分散性の予測に用いられる値である。HSPは、分子間の相互作用が似ている物質は互いに溶解しやすいという考えに基づき、溶解度パラメータ(SP)を分散項δd(分子間の分散力によるエネルギー)、極性項δp(分子間の双極子相互作用によるエネルギー)、水素結合項δh(分子間の水素結合によるエネルギー)の3つのパラメータに分割して表される。HSPは酸塩基性を考慮した4成分系で表されることもあるが、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを軸に持つ3次元空間上の座標にHSPを対応させることができ、視覚的に判断が容易であるため、本発明においては上記3つの項を参照するものとする。溶解度パラメータ(δ)と分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの間には、式:δ=δd+δp+δhで表される関係がある。
一般に、HSPの近い物質同士は溶解性が高い傾向にある。また、HSPは2種類以上の混合溶媒に対しても、各物質のHSPに混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出することができるため、水との混合溶媒が用いられるインクジェットインク用の溶媒系を選択する手段として有用である。
【0019】
一般的に使用される物質のHSPはデータベース化されているので、所望の物質のHSPに関する情報はそれらデータベースにより入手することができるものがある。HSPが未知の物質についても、例えばHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法から計算することができる。
【0020】
以下、HSPを用いた混合液選択の工程を例示する。
まず、HSPが既知である水を含む水溶性有機溶媒を複数種類選択する。
次に、ある有機顔料を水及び各々の有機溶媒に分散させ、分散体中での有機顔料の平均粒子径を測定する。ここで、(A)有機顔料の粒子径が1次粒子径の1~3倍になった溶媒と、(B)有機顔料の粒子径が1次粒子径の3倍より大きくなった溶媒とに分類する。
次に、ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを座標軸に持つ3次元座標空間に、半径rを有するハンセン球を設定する。このとき、前記(A)の群に属する有機溶媒のHSPがハンセン球の内側に、前記(B)の群に属する有機溶媒のHSPがハンセン球の外側にプロットされるように、ハンセン球の中心及び半径rを決定する。
上記ハンセン球の内部にHSPを有する水/有機溶媒の種類及びその比率を決定する。
より具体的には、混合液を選択する工程は、
(i)水と、8種類以上の既知のHSPを有する、分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒を選択する工程、
(ii)水と該水溶性有機溶媒を、有機顔料を水と該水溶性有機溶媒に分散させたときに、(A)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の1倍から3倍になるものと、(B)該有機顔料の平均粒子径が平均の1次粒子径の3倍より大きいものとに分類する工程、
(iii)HSPに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δh及び半径rで表されるハンセン球であって、前記(A)の溶媒のハンセンのHSPが球の内側にあり、かつ前記(B)の溶媒のHSPが球の外側にあるようなハンセン球を決定する工程、
(iv)沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との合計に対して該水溶性有機溶媒の量が30~50質量%であって、前記ハンセン球の内側に入るようなHSPを有する、水溶性有機溶媒と水との混合液を選択する工程、
を含む。
【0021】
混合液の選択における基準となるハンセン球を設定するために、まずHSPが既知である水溶性有機溶媒を複数種類選択する。これらの溶媒は少なくとも8種類の異なる溶媒を選択すると、ハンセン球を設定する精度が高くなるため好ましい。また、有機溶媒としては、選択されたある溶媒に対して溶解度パラメータが大きく異なる溶媒を含むように選択することが好ましい。従って、先述の水溶性インクに使用する水との混合物で使用される水溶性有機溶媒のように、沸点が100℃以上である必要はない。さらに、溶解度パラメータが水のそれに近くなるように、分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。
さらに、有機顔料を分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を有する水溶性有機溶媒に分散させてハンセン球を求める場合、有機顔料と水酸基との相互作用により、ハンセン球を2つ求めることが好ましい。
【0022】
次に、ある有機顔料を選択された水を含む各々の水溶性有機溶媒に分散させ、分散体中での有機顔料の平均粒子径を測定する。平均粒子径は、公知の手段を用いて測定される。本明細書においては、希釈濃度0.05重量%の顔料分散液に対して、大塚電子(株)製の粒径・分子量測定システムELSZ-2000Sを用いて測定している(積算回数70回)。
【0023】
平均粒子径が測定されたら、水を含む各々の水溶性有機溶媒を、(A)有機顔料の粒子径が1次粒子径の1~3倍になった溶媒と、(B)有機顔料の粒子径が1次粒子径の3倍より大きくなった溶媒とに分類する。(A)の群と(B)の群とを分ける閾値となる粒径の倍率は、特に1次粒子径が小さい場合には3倍より大きい倍率にしてもよいが、分散体中での粒子径が大きいと凝集によって分散安定性を損ないやすいので、(A)の群に属する溶媒に分散させたときの粒子径が300nm以下になるように倍率を設定することが好ましい。
【0024】
次に、選択された溶媒について、ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを、これらを軸に持つ三次元座標空間にプロットする。そして、同座標空間上に半径rのハンセン球を設定する。ここで、前記(A)の群に属する有機溶媒のHSPはハンセン球の内側に、前記(B)の群に属する有機溶媒のHSPはハンセン球の外側にくるように、ハンセン球の中心及び半径rを決定する。ハンセン球を決定するプログラムはHansenによりリリースされているソフトウェアが利用可能である。先述したように、水溶性有機溶媒は分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を用いるものが好ましいため、ハンセン球を2つ求めるように設定することが、好ましい。
【0025】
このようにして決定されたハンセン球が、ある有機顔料に対して適した混合液を決定するための基準となる。分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの軸を持つ三次元座標空間中に決定されたハンセン球の中心座標は、本プロセスで用いられている有機顔料の溶解度パラメータ(SP)を反映しているものといえる。溶解度パラメータが近い物質同士は相溶性が高いと考えられるため、ハンセン球の中心座標(有機顔料のSP)に近い溶液、換言すると中心座標からある半径rの距離以内にHSPを有する溶液は、有機顔料との相溶性が高い。有機顔料に対して良好な分散性を示した(A)群の有機溶媒は、そのHSPがハンセン球の内側に存在する。ハンセン球の半径rは(A)群の有機溶媒に基づいて決定されているため、このハンセン球の内側にHSPを有する溶媒又は混合液は、(A)群の有機溶媒と同様に、有機顔料に対して良好な分散性を示すものと考えられる。ハンセン球を2つ求める場合には、水溶性有機溶媒のHSPは、求められた2つのハンセン球のうち片方の内側に属するものであってもよく、ハンセン球に三次元座標空間中での重複がある場合は、その重複する領域内に属するものであってもよい。
【0026】
水と有機溶媒の混合液に対しては、HSPを計算により求めることができるので、上記手法により決定したハンセン球の内側にHSPが入るような混合液であれば、その有機顔料に対して分散性が良好であると判断することができる。ここで、ハンセン球の中心と座標が一致するHSPを有する溶媒系は、その有機顔料を溶解してしまうものと考えられる。そのため、溶媒系の選択においては、HSPの座標が閾値の境界線の内側であって、中心以外の位置にあるものが好ましい。
【0027】
上記工程で行われる溶媒決定の方法によれば、一度ある有機顔料に対して基準となるハンセン球が決定されれば、それ以上の過剰な試行錯誤を必要とすることなく、計算によって好ましい溶媒系を決定することができる。HSPがこれら要件を満たす限りにおいて、水溶性有機溶媒は1種類であってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。3成分以上の溶媒系であっても、HSPを同様に算出することができる。
【0028】
溶媒系における水溶性有機溶媒の含有量は、高い方が顔料の分散性が高まるが、水系インクに用いる際の環境適合性と有機顔料の分散性を高めるバランスの観点から、水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50であることが好ましく、25/75~40/60の範囲であることが好ましい。上記混合液の決定プロセスは、この範囲の混合液に対して行われる。
【0029】
[顔料分散剤]
顔料分散剤は、溶媒系に対する顔料の分散性を高めるための成分であり、有機顔料と溶媒系の両者に対して親和性を有する物質が用いられる。そのため、顔料分散剤はその分子中に顔料と親和性を有する有機基(顔料吸着基)と、有機溶媒及び水に親和性のある有機基(相溶基)を有する物質が用いられる。本発明において顔料分散剤は、ブロック共重合体である。
【0030】
<モノマー1>
ブロック共重合体は2種類以上のモノマーから構成され、同種のモノマーが長く連続した構造を有する重合体である。本発明の顔料分散剤に用いられるブロック共重合体は、少なくとも2種類のモノマーからなる。モノマーのうち一つは、重合性官能基と顔料吸着基を有する化合物である(以下、「モノマー1」という)。
【0031】
モノマー1が有する重合性官能基は、重合反応に寄与するものであれば特に制限されない。重合方法が確立されているため、炭素-炭素二重結合を官能基とすることが好ましく、より好ましくはビニル基である。
【0032】
顔料吸着基は、有機顔料と親和性のある有機基から選択される。有機顔料の種類によってより適切な顔料吸着基は異なってくることが予測されるが、本発明における顔料分散液の製造方法では、顔料吸着基を系統的に決定する工程を含むことができる。
【0033】
例えば、顔料吸着基は以下の方法によって選択、決定することができる。
(1)まず、選択された有機顔料に対して親和性を有すると一般的に予想される構造を含む有機基を有する分子を界面活性剤として選択する。
(2)溶媒系に分散させた有機顔料の分散液に対し、上記選択された界面活性剤を添加し、その溶媒系での分散性を検討する。
(3)分散性が良好と判断された界面活性剤を構造に含むモノマーを選択する。
【0034】
有機顔料は主に多環顔料とアゾ顔料に大別されるため、これらに分類される顔料であれば、二重結合を有するような基やアミンが親和性が高いと予測される。特に、芳香環を含む基はπ-πスタッキングと呼ばれる現象により多環顔料と相互作用しやすく、顔料吸着基として好ましいと予測される。そのような構造を有する芳香族カルボン酸、芳香族アミン、芳香族スルホン酸、これらの誘導体等を、界面活性剤として選択することができる。ただし、イオン性の基ではないことが好ましい。
【0035】
有機顔料の分散性は、分散体中の有機顔料の粒子径を測定することにより評価することができる。有機顔料の平均粒径、粒度分布の変化が小さければ、界面活性剤が顔料吸着基として適した有機基を有すると判断することができる。粒子径を測定する方法は、先に述べたとおりである。ここでの分散体における粒子径は、1次粒子径の1~7倍までとして評価することが好ましい。
【0036】
そのほか、分散体の安定性を視覚的に判断することもできる。例えば、界面活性剤を添加した分散体を常温で一定時間静置して、分散体が有機顔料と溶媒の相とに分離しなかったものを、好ましい顔料吸着基として選択することができる。分散体が相分離するとき、有機顔料は凝集して平均粒径が大きくなっていると考えられるので、平均粒径を直接測定する場合と同様な傾向を見出すことができる。相分離の有無は有効/非有効の区別として利用することができる。ここでの分散媒は、その種類が制限されるものではないが、上記HSPを用いた方法で決定された混合液であると、最終的な顔料分散液に近い組成によって評価することができるので好ましい。
【0037】
上記の手法により選択された顔料吸着基及び重合性官能基を有する化合物を、モノマー1として選択することができる。モノマー1は市販のものを用いてもよいし、エチレン又はα-オレフィンのような単純なモノマーに顔料吸着基を導入することで得てもよい。また、モノマー1は顔料吸着基及び重合性官能基だけで構成されている必要はなく、これらの基がスペーサーを介して連結されていてもよく、これらの基以外の基を有していてもよい。モノマー1は、分散性が良好になるように官能基が最適化されたものを選択しているので、1種類又は2種類を用いることが好ましい。1種類又は2種類を選択することで、重合工程を煩雑化することなく、ブロック共重合体を得ることができる。
【0038】
モノマー1は上記の工程を経て決定されるものであるが、モノマー1として利用することができるモノマーの例としては、非限定的に、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのモノマーは、1種類で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0039】
<モノマー2>
ブロック共重合体を構成するモノマーのうちもう一つは、重合性官能基と、溶媒系と親和性を有する官能基(相溶基)を有する化合物である(以下、「モノマー2」という)。
【0040】
モノマー2が有する重合性官能基は、モノマー1と同じものを採用することが好ましい。選択の基準はモノマー1と同様であり、重合反応に寄与するものであれば特に制限されない。炭素-炭素二重結合を官能基とすることが好ましく、より好ましくはビニル基である。
【0041】
相溶基は、溶媒系と親和性のある有機基から選択される。溶媒系によってより適切な相溶基は異なってくることが予測されるが、本発明における顔料分散液の製造方法では、相溶基を系統的に決定する工程を含むことができる。
【0042】
例えば、相溶基は以下の方法によって選択、決定することができる。
(1)まず、選択された溶媒系に対して親和性を有すると一般的に予想される構造を含む有機基を有する分子を界面活性剤として選択する。
(2)溶媒系に分散させた有機顔料の分散液に対し、上記選択された界面活性剤を添加し、その溶媒系での分散性を検討する。
(3)分散性が良好と判断された界面活性剤を構造に含むモノマーを選択する。
【0043】
溶媒系は水と有機溶媒から構成されているが、有機溶媒は水と親和性を有するものが好ましくは用いられるため、水と親和性を有する官能基であれば、相溶基の候補として適していると予測される。そのような官能基としては極性を有しているものが考えられるが、イオン性ではないことが好ましい。そのような構造を有するカルボン酸、エステル、ケトン、エーテル、ポリエーテル、これらの誘導体等を、相溶基の候補として選択することができる。より好ましい相溶基としては、アルキレングリコール基が挙げられる。
【0044】
分散性の検討方法は、モノマー1において顔料吸着基を評価する方法と同様の手法をとることができる。
【0045】
上記の手法により選択された相溶基及び重合性官能基を有する化合物を、モノマー2として選択することができる。モノマー2は市販のものを用いてもよいし、エチレン又はα-オレフィンのような単純なモノマーに相溶基を導入することで得てもよい。また、モノマー2は相溶基及び重合性官能基だけで構成されている必要はなく、これらの基がスペーサーを介して連結されていてもよく、これらの基以外の基を有していてもよい。モノマー2は、分散性が良好になるように官能基が最適化されたものを選択しているので、1種類のみを用いることが好ましい。1種類のみを選択することで、重合工程を煩雑化することなく、ブロック共重合体を得ることができる。
【0046】
モノマー2は上記の工程を経て決定されるものであるが、モノマー2として利用することができるモノマーの例としては、非限定的に、ポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート(n=4又は9)が挙げられる。これらのモノマーは、1種類で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0047】
<ブロック共重合体>
顔料分散剤であるブロック共重合体は、上記モノマー1及びモノマー2を含む、ブロック共重合体である。ブロック共重合体の製造方法は公知であり、モノマー1のみで重合反応を行った後でモノマー2を添加して重合を進めるなどの方法で、ブロック共重合体を得ることができる。重合方法は公知の重合機構であるラジカル重合、イオン重合、縮重合等で行うことができ、それぞれの方法における温度、圧力、時間のような反応条件、触媒の使用等も、公知の手段を用いることができる。
【0048】
ブロック共重合体には、上記モノマー1及びモノマー2以外の、第3のモノマーを含む3元共重合体を用いてもよい。そのようなモノマーとしては、ポリオレフィン等の官能基を有さないポリマーを形成するものが、分散性に影響を及ぼす恐れが小さいことから好ましい。第3のモノマーにより構成されるブロックは、ブロック共重合体においてモノマー1からなるブロックとモノマー2からなるブロックの間にあってもよく、ブロック共重合体鎖の端部に位置していてもよい。
【0049】
本発明において顔料分散剤として用いられるブロック共重合体の数平均分子量は、10,000以上である。分子量が10,000以上のブロック共重合体を用いることで、良好な分散性を備えることができる。分子量の上限は特に制限されないが、顔料分散剤自体の溶媒系への分散性を良好にするために、30,000以下であることが好ましく、20,000以下であることがより好ましい。
【0050】
本発明において顔料分散剤として用いられるブロック共重合体は、その分散度が1.0~1.5の範囲であることが好ましい。
【0051】
ブロック共重合体におけるモノマー1とモノマー2の比率は、モル比で99/1~1/99の範囲とすることができ、75/25~25/75の範囲とすることがより好ましく、65/35~35/45の範囲とすることがさらに好ましい。モノマー1とモノマー2の比が上記範囲であると、モノマー1が有する顔料への親和性と、モノマー2が有する溶媒系への親和性をともにバランスよく達成することができる。ブロック共重合体に第3のモノマーを用いる場合、第3のモノマーの比率は、モノマー1とモノマー2の合計に対して10mol%以下であることが好ましい。
【0052】
ブロック共重合体は、その一部が変性又は修飾されたものであってもよい。変性の位置による物性の変動が予測しやすく、調製も選択的に行いやすいため、特に、共重合体の末端を修飾することが好ましい。変性する修飾基は、通常高分子の合成において行われる修飾基を採用することができ、当業者に公知である。特に、モノマー1の顔料吸着基又はモノマー2の相溶基と共通する構造を有するか、これらと一致する構造の修飾基を採用することが好ましい。モノマー1の顔料吸着基に対しては芳香族基が、モノマー2の相溶基に対してはポリアルキレングリコール基が、修飾基として挙げられる。また、これらの修飾基を導入するときは、モノマー1の顔料吸着基と共通する構造を有する修飾基は、ブロック共重合体の末端に位置するモノマー1に由来する構造の部分に導入されることが好ましい。同様に、モノマー2の相溶基と共通する構造を有する修飾基は、ブロック共重合体の末端に位置するモノマー2に由来する構造の部分に導入されることが好ましい。
【0053】
[顔料分散液の製造方法]
本発明の顔料分散液の製造方法は、
(1)平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料を提供する工程;
(2)該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、該水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液を選択する工程であって、該混合液はハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン溶解球法によって決定される、工程;
(3)非反応性かつ該有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー1を提供する工程;
(4)非反応性かつ該水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー2を提供する工程;
(5)モノマー1及びモノマー2をブロック共重合して、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を得る工程;及び
(6)該有機顔料と、モノマー1及びモノマー2から得られたブロック共重合体と、該水溶性有機溶媒と水との混合液を混合する工程
を含む。有機顔料、有機溶媒、モノマー1及び2、ブロック共重合体の選択、製造の方法は先に述べたとおりである。また、混合液、モノマー1、モノマー2を選択する工程として、各々先に述べた方法を含むことができる。また、上記(5)の次に(3)を行う、(6)の次に(5)を行う等、互いに矛盾するものでない限り、各工程の順序は制限されない。
【0054】
上記方法により選択又は得られた有機顔料、水溶性有機溶媒及び水の混合液、モノマー1及び2、ブロック共重合体を混合することで、本発明の顔料分散液が得られる。混合方法は特に制限されず、全ての材料を一度に混合してもよいし、順次添加して混合してもよい。また、有機顔料に対して水溶性有機溶媒を添加した後で水を加えてもよい。混合方法は、マグネチックスターラーのような手段で物理的に撹拌してもよく、超音波などの手段を用いてもよい。
【0055】
したがって、本発明の顔料分散液は、
平均の1次粒子径が50~200nmの有機顔料、
該有機顔料を分散させることができる、沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液であって、水溶性有機溶媒と水の質量比が25/75~50/50である混合液、及び
非反応性かつ前記有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー1と、非反応性かつ前記有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー2とを共重合して得られる、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5のブロック共重合体を含む。
【0056】
特に、前記水溶性有機溶媒と水との混合液は、ハンセンの溶解度パラメータに基づく分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを軸にとる三次元座標空間における、該混合液のハンセンの溶解度パラメータの座標が、前記有機顔料を分散させたときに分散体中での粒子径が1次粒子径の1~3倍になるような2種類以上の有機溶媒の有するハンセンの溶解度パラメータから求められるハンセン球の内側に存在するような値であるような混合液である。
【0057】
顔料分散液に用いられる水は、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水などを用いることができるが、インクジェットインクは不純物が混入するとノズルの目詰まりの原因になるので、超純水のような不純物を含まない水を用いることが好ましい。
【0058】
本発明の顔料分散液は、分散安定であり、インクジェット用インクに好適に用いることができる。
また本発明の顔料分散液を含むインクジェット用インクもまた、本発明の一態様である。
分散安定な顔料分散液とは、上記顔料分散液の顔料平均粒子径が、平均の1次粒子径の1倍から2倍以内になるものをいう。またインクジェット用インクに好適なインクとは、インクを60℃、30日間静置した後に顔料が分離しないものが好ましい。さらに、25℃におけるインク粘度が、1.0mPa・s~50mPa・s以下であることが好ましく、2.0~30mPa・s以下であることがより好ましく、3.0mPa・s~10mPa・s以下であることが特に好ましい。また、インク組成物をインクジェット用ヘッドを用いて吐出可能であることが好ましい。
【0059】
インクジェット用インクに一般的に用いられる添加剤を、本発明の顔料分散液に加えて用いることで、インクとすることができる。添加剤として用いられるものの例としては、浸透剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤、バインダー、乾燥防止剤、キレート化剤、消泡剤、脱酸素剤、導電性付与剤、赤外線吸収剤、カール防止剤等である。
【0060】
上記添加剤のうち、バインダーは、顔料の媒体への定着性、耐擦過性、光沢特性を向上させるためによく用いられ、樹脂が添加される。従来のインクにおいては、バインダーは他の成分と同様顔料の種類などに合わせて選択され、顔料分散剤の相溶基と共存したときに分散安定性を低下させることがあり、インクジェットの吐出性に悪影響を与えることがあったが、本発明においては、上記方法により選択された相溶基を含む構造はバインダーに悪影響を与えない。そのため、本発明の顔料分散液は、水系インクに必要なバインダー等その他の成分を添加しても、良好な顔料分散性とインクジェット吐出性を保つことができる。
【実施例0061】
以下、本発明の方法及び顔料分散体をより具体的な例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
まず最初に、各種有機顔料を分散させるための100℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤と水との混合液の混合比を決定するための、水溶性有機溶剤単独及びその水との混合溶液を溶剤に用いたハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン球を決定する方法の実施例を以下に説明する。
なお後述する実施例、製造例及び比較例で得られた顔料分散体等の評価について、以下の項目に示す。
【0063】
<1.顔料分散粒径>
顔料分散粒径は、通則(JIS Z 8828(2019)、及びISO 22412(2017))に従った動的光散乱法により、以下の測定条件で測定したときの値である。
得られた各顔料分散体について、平均粒径(D50:散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)を測定した。
平均粒径の測定は、顔料分散体を各種媒体にて希釈し、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子(株)製ELSZ-2000Z)を用いて、25℃でのD50を測定した。結果を表1に示す。なお、分散直後の顔料分散体の平均粒径が小さい程、初期分散性に優れることを示す。
【0064】
<2.モノマー1/モノマー2の重合転化率及びモノマー1の重合体/モノマー2重合体の比率>
H-NMRを用いて、モノマー1特有及びモノマー2特有のスペクトル並びにモノマー1重合体特有及びモノマー2重合体特有のスペクトルから重合転化率を、モノマー1重合体特有のスペクトルとモノマー2重合体特有のスペクトルから比率を算出した。
【0065】
<3.重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)
重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、通則(JIS K 7252-1(2016))、及びISO 16014-1(2012))に従ったサイズ排除クロマトグラフィーにより、以下の測定条件で測定したときの値である。
・測定機器:日本分光(株)製EXTREMAサイズ排除クロマトグラフィー(GPC/SEC)システム
・カラム:昭和電工(株)製SHODEX、サンプル側:K-803、KF-804L、KF-806Fを3本接続、リファレンス側:KF-800RH
・溶離液:テトラヒドロフラン(以下、THFという)
・検量線標準物質:ポリメチルメタクリレート
・測定用試料の調製:溶離液(THF)に重合体組成物を溶解させて重合体の濃度が0.1重量%の溶液を調製し、その溶液をフィルターでろ過した後の濾液を使用する。
【0066】
<4.顔料分散液又はインクの静置安定性>
顔料分散液は25℃のインキュベータ内で90日間静置した後の顔料の分離状態を、インクは60℃のインキュベータ内で30日間静置した後の顔料の分離状態を目視で観察する。
〇:顔料が分離せず、均一な状態であること。
×:顔料が分離した状態であること。
【0067】
<5.25℃におけるインクの粘度>
インクの粘度は、通則(JIS K 5101-6-2(2004))に従った粘度測定法により、以下の測定条件で測定したときの値である。
すなわち、各インクの調製直後に粘度の値をE型回転粘度計(東機産業(株)製TVE-25、回転数100rpm、25℃)にて測定した。
【0068】
<6.インクジェット吐出性>
インクをインク吐出評価装置(image Xpert社製、JetXpert-2及びIJ-SCOPE)、ヘッド(Ricoh MH2420(Gen4、低~高粘度用))にて測定し、以下の評価で判断した。
〇:各周波数で吐出が安定し、目立ったミストが見られない
×:角周波数で吐出が不安定で、目立ったミストが見られる
【0069】
実施例1
第1の10mlのラボランスクリュー管に、未変性のシアン顔料(フタロシアニン銅、C.I.Pigment Blue 15、DIC(株)製FASTOGEN BLUE TGR-SD)0.4重量部と表1に示す各種水溶性有機溶剤8重量部をそれぞれ添加して、VOLTEX3(IKA製)にて2,500rpm×1分間分散させ、顔料濃度5重量%の顔料分散液を得た。第2の10mlのラボランサンプル瓶に、0.07重量部の当該顔料分散液を測り取り、そこに7重量部の同種の水溶性有機溶剤を加え、超音波洗浄機(アズワン製)にて50W(40kHz)×1分間分散させ、顔料濃度0.05重量%の青色溶剤系分散液を得た。なお顔料の電子顕微鏡(SEM)から得られた一次粒子平均径は、110nmであった。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性有機溶剤で測定し、表1に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径(110nm)の3倍(330nm)以内であるものを「A」、3倍を超えるものを「B」と区別した。
Hansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP)のソフトウェア(5th Edition Ver. 5.3.08、pirika.com LLC)を用いて、「A」を「1」、「B」を「0」と二値化して代入し、ハンセン球(Double cylinder法)を計算し、表1に示した。
【0070】
実施例2
未変性のシアン顔料を未変性のマゼンタ顔料(キナクリドン、C.I.Pigment Red 122、CLARIANT(株)製INKJET MAGENTA E02)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、顔料濃度0.05重量%の赤色溶剤系分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表1に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径(120nm)の3倍(360nm)以内であるものを「A」、3倍を超えるものを「B」と区別した。
Hansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP)のソフトウェア(5th Edition Ver. 5.3.08、pirika.com LLC)を用いて、「A」を「1」、「B」を「0」と二値化して代入し、ハンセン球(Double cylinder法)を計算し、表1に示した。
【0071】
実施例3
未変性のシアン顔料を未変性のイエロー顔料(ビスアセトアセトアリライド、C.I.Pigment Yellow 155、CLARIANT(株)製INKJET YELLOW 4GC)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、顔料濃度0.05重量%の黄色溶剤系分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表1に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径(110nm)の3倍(330nm)以内であるものを「A」、3倍を超えるものを「B」と区別した。
Hansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP)のソフトウェア(5thEdition Ver. 5.3.08、pirika.com LLC)を用いて、「A」を「1」、「B」を「0」と二値化して代入し、ハンセン球(Double cylinder法)を計算し、表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
次に、各種有機顔料を分散させるためのハンセン球を満足する沸点100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液の混合比を決定する方法の実施例を以下に説明する。
【0074】
実施例4~6
表1に示したシアン顔料、マゼンダ顔料、イエロー顔料それぞれを分散させることが可能なハンセン球2を満足する沸点が100℃以上の各種水溶液有機溶剤と水の重量比率の範囲を計算し、それぞれ表2に示した。一方で、水系インクジェットインクを構成する水溶性有機溶剤の含有率は50重量%以上であることから水溶性有機溶剤と水との重量比率は50/50以下であり、さらには表2に示す全ての水溶性有機溶剤と水との重量比率を満足する値は25/75以上であった。このことから、全ての顔料/水溶性有機溶剤の組合せについてハンセン球の要件を満たす水溶性有機溶剤/水比率を25/75~50/50と算定した。
その結果を表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
次に、各有機顔料と吸着性のある有機基、及び/又は沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある有機基を決定する方法の実施例を以下に説明する。
【0077】
実施例7
第1の10mlのラボランスクリュー管に、未変性のシアン顔料(フタロシアニン銅、C.I.Pigment Blue 15、DIC(株)製FASTOGEN BLUE TGR-SD)0.4重量部と表3に示す各種水溶性有機溶剤と水の混合液8重量部をそれぞれ添加して、VOLTEX3(IKA製)にて2,500rpm×1分間分散させ、顔料濃度5重量%の顔料分散液を得た。第2の10mlのラボランサンプル瓶に、0.07重量部の当該顔料分散液を測り取り、そこに7重量部の同種の水溶性有機溶剤と水の混合液を加え、超音波洗浄機(アズワン製)にて50W(40kHz)×1分間分散させ、顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。なお顔料の電子顕微鏡(SEM)から得られた一次粒子平均径は、110nmであった。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径(110nm)の7倍(770nm)以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0078】
実施例8~11、実施例15
実施例7において、第2の10mlのラボランサンプル瓶に、0.07重量部の当該顔料分散液を測り取り、そこに7重量部の同種の水溶性有機溶剤と水の混合液さらには界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基である安息香酸(BzA;富士フィルム和光純薬(株)製をそのまま使用)を加える以外は、実施例7と同様の方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0079】
実施例12、実施例16、実施例18
実施例8において、表3に示した界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基である安息香酸(BzA)の代わりに、同量のN.N’-ジメチルアミノ基を有する芳香族有機基であるN.N’-ジメチルアニリン(DMA;富士フィルム和光純薬(株)製をそのまま使用)を加えた以外は、実施例8と同様な方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0080】
実施例19
実施例8において、表3に示した界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基である安息香酸(BzA)の代わりに、同量のN.N’-ジメチルアミノ基を有する脂肪族有機基であるN,N-ジメチルラウリルアミン(LAM;富士フィルム和光純薬(株)製をそのまま使用)を加えた以外は、実施例8と同様な方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0081】
実施例13、実施例17、実施例20
実施例8において、表3に示した界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基である安息香酸(BzA)の代わりに、0.07重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)のポリエチレングリコール基と芳香環を有するポリエチレングリコールモノ-4-ノニルフェニルエーテル(PEGNPE;東京化成工業(株)製をそのまま使用)を加えた以外は、実施例8と同様な方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0082】
実施例14
実施例8において、表3に示した界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基である安息香酸(BzA)の代わりに、0.07重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)のポリエチレングリコール基と脂肪族を有するポリエチレングリコールモノドデシルエーテル(PEGMDE;東京化成工業(株)製をそのまま使用、n=25)を加えた以外は、実施例8と同様な方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0083】
比較例1
実施例8において、第1の10mlのラボランスクリュー管に、未変性顔料0.4重量部と表3に示す各種水溶性有機溶剤と水の混合液8重量部を、第2の10mlのラボランサンプル瓶に、0.07重量部の当該顔料分散液を測り取り、そこに7重量部の同種の水溶性有機溶剤と水の混合液さらには界面活性剤として0.35重量部(水溶性有機溶剤と水の混合液に対し、5重量%)の芳香環を有する有機基であるBzAを加える以外は、実施例7と同様の方法で顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表3に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径の7倍以内であるものを「〇」、7倍を超えるものを「×」と評価し、表3に示した。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例7~20及び比較例1との比較において、まず実施例1~3で水溶性有機溶剤単独及びその水との混合溶液を溶剤に用いたハンセンの溶解度パラメータに基づくハンセン球を決定し、次いで各種有機顔料を分散させるための100℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤と水との混合液の混合比を表2で決定(水溶性有機溶剤/水との重量混合比=25/75~50/50)したところ、その範囲内である実施例7~20は良好な顔料分散性を示すのに対し、その範囲外である比較例1は顔料分散性が良好でないことが確認された。
【0086】
次に、非反応性かつ各種有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー1(顔料吸着モノマー)と、非反応性かつ沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー2(親水性モノマー)とを共重合して、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5の共重合体を得る方法の製造例を以下に説明する。
【0087】
製造例1
30mlのシュレンク管に、重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN;富士フィルム和光純薬(株)製を常法により再結晶精製したもの)を0.031g(0.1867mmol)、溶剤としてジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME;東京化成工業(株)製をそのまま使用)を2.467g(モノマー1と同重量)をそれぞれ計量し、溶解させる。
次いで、5mlのサンプル瓶1に、RAFT化剤として2-シアノ-2-プロピルベンゾジチアノエート(CPBD、シグマアルドリッチジャパン(同)製をそのまま使用)を0.124g(0.56mmol)、モノマー1(顔料吸着モノマー)としてベンジルメタクリレート(BzMA;富士フィルム和光純薬(株)製を常法により蒸留精製したもの)を2.467mg(14mmol)をそれぞれ計量溶解し、上述のシュレンク管に投入した。なお、仕込んだ材料のモル比は、CPBD:AIBN:BzMA=3:1:75であった。上述のシュレンク管の内部空間を窒素ガスで置換後、窒素雰囲気下で、内容物を70℃で2時間攪拌した後室温に急冷し、DEGMEを13ml添加し希釈した。
得られた溶液をヘキサン(関東化学(株)製)700mlに滴下しながら再沈殿を行い、その溶液をPTFE製メンブランフィルター(細孔径:0.45μm)でろ過して得られた粉体を40℃で8時間真空乾燥を行うことにより、一方の分子末端にベンゾチアノエートを有するBzMA重合体(以下、PBzMA-CPBD)を得た(BzMAの重合転化率=79%)。得られた重合体の数平均分子量は3,900であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量、以下、Mw/Mnという)は1.14であった。
次いで、30mlのシュレンク管内に、上述のPBzMA-CPBD0.975g(0.195mmol)を計量し、そこにモノマー2(親水性モノマー)としてポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(PEGMEMA;東京化成工業(株)製を常法によりカラム精製したもの、n=9)を2.438g(4.875mmol)、AIBNを0.011g(0.065mmol)投入した。なお、仕込んだ材料のモル比は、PBzMA-CPBD:AIBN:PEGMEMA=3:1:75であった。上述のシュレンク管の内部空間を窒素ガスで置換後、窒素雰囲気下で、内容物を70℃で1.75時間攪拌した後室温に急冷し、DEGMEを13ml添加し希釈した。
得られた溶液をヘキサン(関東化学(株)製)630mlとアセトン(関東化学(株)製)70mlの混合物に滴下しながら再沈殿を行い、静置後上層を廃棄し、下層に残った溶液をクロロホルム(関東化学(株)製)200mlに溶解した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、60℃で2時間真空乾燥を行うことにより、モノマー1(顔料吸着モノマー)の重合体であるPBzMAとモノマー2(親水性モノマー)の重合体であるPPEGMEMAがブロック的に結合し、かつブロック共重合体のα位(顔料吸着モノマーの重合体)の片末端にはシアノプロピル基(脂肪族)が結合し、ブロック共重合体のγ位(親水性モノマーの重合体)の片末端にはベンゾチアノエート基(芳香族)が導入されたブロック共重合体を得た(PEGMEMAの重合転化率=79%)。得られたブロック共重合体の数平均分子量は11,400であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量、以下、Mw/Mnという)は1.14であった。
得られた重合体の数平均分子量及び重量平均分子量から、モノマー2(親水性モノマー)の重合体の数平均分子量及び重量平均分子量を減じて算出されるモノマー1(顔料吸着モノマー)の重合体の数平均分子量は7,500、分散度は1.14であった。
結果を表4に示した。
【0088】
製造例2~4、製造例7~8
製造例1において、表4に示した製造条件に変更した以外は、製造例1と同様の条件でブロック共重合体を製造し、結果を表4に示した。
【0089】
製造例5
製造例1において、RAFT化剤のCPBDを0.124g(0.56mmol)から2-フェニルプロパン-2-イルベンゾジチアノエート(PPBD、シグマアルドリッチジャパン(同)製をそのまま使用)を0.153g(0.56mmol)に変更した以外は、製造例1と同様の条件でブロック共重合体のα位(顔料吸着モノマーの重合体)の片末端にはフェニルプロピル基(芳香族)が結合し、ブロック共重合体のγ位(親水性モノマーの重合体)の片末端にはベンゾチアノエート基(芳香族)が導入されたブロック共重合体を得た。結果を表4に示した。
【0090】
製造例6
製造例1で得られたブロック共重合体のα位(顔料吸着モノマーの重合体)の片末端にシアノプロピル基(脂肪族)が結合し、ブロック共重合体のγ位(親水性モノマーの重合体)の片末端にベンゾチアノエート基(芳香族)が導入されたブロック共重合体のγ位の片末端に存在するベンゾチアノエート基(芳香族)を除去する目的で、製造例1で得られたブロック共重合体0.3gにラジカル発生剤として1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(V-40;富士フィルム和光純薬(株)製をそのまま使用)を0.002g及び水素供与剤として1-エチルピペリジン次亜リン酸塩(EPHP;東京化成工業(株)製をそのまま使用)を0.054g添加し、溶剤としてトルエンを1ml添加した。なお、仕込みモル比は、製造例1で得られたブロック共重合体:1モルに対してV-40:0.3モル、EPHP:10モルであった。
内容物を100℃×4時間反応させ、ブロック共重合体のα位(顔料吸着モノマーの重合体)の片末端にはフェニルプロピル基(芳香族)が結合し、ブロック共重合体のγ位(親水性モノマーの重合体)の片末端には水素が導入されたブロック共重合体を得た。結果を表4に示した。
【0091】
製造例9
製造例1において、モノマー2(親水性モノマー)のPEGMEMA2.438g(4.875mmol)をメタクリル酸(MAA;富士フィルム和光純薬(株)製を常法により蒸留精製したもの)14.174g(4.875mmol)に変更した以外は、製造例1と同様の条件でブロック共重合体のα位(顔料吸着モノマーの重合体)の片末端にはシアノプロピル基(脂肪族)が結合し、ブロック共重合体のγ位(親水性モノマーの重合体)の片末端にはベンゾチアノエート基(芳香族)が導入されたブロック共重合体を得た。結果を表4に示した。
【0092】
製造例10
製造例1において、モノマー1(顔料吸着モノマー)とモノマー2(親水性モノマー)を一度に添加した以外は、製造例1と同様の条件でランダム共重合体の主鎖のα位の方末端にシアノプロピル基(脂肪族)が結合し、ランダム共重合体の主鎖のγ位の片末端にはベンゾチアノエート基(芳香族)が導入されたブロック共重合体を得た。結果を表4に示した。
【0093】
【表4】
【0094】
最後に、非反応性かつ各種有機顔料と吸着性のある、非イオン性の有機基を有する、モノマー1(顔料吸着モノマー)と、非反応性かつ沸点が100℃以上の水溶性有機溶媒と水との混合液と親和性のある、非イオン性の有機基を有するモノマー2(親水性モノマー)とを共重合して、数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5の共重合体を分散剤として使用した顔料分散体及びそれを用いたインクを得る方法を以下に説明する。
【0095】
実施例21
(顔料分散液)
第1の20mlのラボランスクリュー管に、未変性のシアン顔料(フタロシアニン銅、C.I.Pigment Blue 15、DIC(株)製FASTOGEN BLUE TGR-SD)2.4重量部と表5に示す各種水溶性有機溶剤と水の混合液15.3重量部、さらには製造例1で得られた顔料分散剤としてブロック共重合体0.24重量部をそれぞれ添加して、VOLTEX3(IKA製)にて2,500rpm×3分間分散させ、さらに超音波洗浄機(アズワン製)にて50W(40kHz)×3分間分散させ、顔料濃度13.5重量%、顔料に対して顔料分散剤添加量10重量%の顔料分散液を得た。
この内容物を25℃×90日間インキュベータ内で静置し、顔料の分離状態を目視で観察し、結果を表5に示した。
さらに、第2の20mlのラボランサンプル瓶に、0.05重量部の当該顔料分散液を測り取り、そこに14重量部の同種の水溶性有機溶剤と水の混合液を加え、超音波洗浄機(アズワン製)にて50W(40kHz)×1分間分散させ、顔料濃度0.05重量%の顔料分散液を得た。なお顔料の電子顕微鏡(SEM)から得られた一次粒子平均径は、110nmであった。
得られた分散液の顔料平均粒径を各種水溶性溶剤で測定し、表5に示した。
各種水溶性有機溶剤中での顔料の平均粒径がSEMから得られた一次粒子平均径(110nm)の2倍(220nm)以内であるものを「〇」、2倍を超えるものを「×」と評価し、表1に示した。
【0096】
(インク)
250mlの蓋つきポリ瓶に、未変性のシアン顔料(フタロシアニン銅、C.I.Pigment Blue 15、DIC(株)製FASTOGEN BLUE TGR-SD)13.5重量部と表5に示す各種水溶性有機溶剤と水の混合液85.2重量部、さらには製造例1で得られた顔料分散剤としてブロック共重合体1.3重量部をそれぞれ添加し、さらに0.3mmφのジルコニアビーズ400重量部を入れ、ロッキングミル(セイワ技研製)で600rpm、2時間浸透させ、顔料濃度13.5重量%の顔料分散液を得た。
得られた内容物を目開き150μmのナイロンメッシュにてろ過をし、顔料分散液を得る。
次いで、250mlのディスポビーカーに、20重量部のプロピレングリコール、2重量部のトリエチレングリコール-n-ブチルエーテル、6.2重量部のウレタン系バインダー(タケラックW-6061T、三井化学(株)製、固形分:31重量%)、0.8重量部の非イオン界面活性剤(オルフィン1010、日信化学工業(株)製、アセチレングリコール-10%EO付加物)、26.6重量部のイオン交換水を混合した内容物にマグネチックスターラーを入れ、そこに44.4重量部の上記顔料分散液を500rpm×10分間滴下後、500rpm×30分間混合し、顔料濃度6重量%のインクを得た。
このインクを60℃×30日間インキュベータ内で静置し、顔料の分離状態を目視で観察した。また25℃における粘度を測定した。さらにインクジェットの吐出評価を行った。結果を表5に示した。
【0097】
実施例22~30、比較例2~5
実施例21において、表5に記載した原料及び配合を変更した以外は実施例21と同様の方法で顔料分散液及びインクを得た。
得られた結果を表5に示した。
【0098】
【表5】
【0099】
実施例21~30及び比較例2~5において、実施例7~19で求めた顔料吸着基及び親水性基と類似の構造を有する非イオン性モノマーをそれぞれ顔料吸着基及び親水性基として数平均分子量10,000~30,000かつ分散度1.0~1.5の範囲のブロック共重合体を顔料分散剤として用いることで、顔料分散性が良好な顔料分散剤を得ることが可能となり、それを用いたインクも良好な顔料分散性、粘度、インクジェット吐出性が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の方法は、インクジェット用インクに適した顔料分散体を効率よく設計、製造することができる。また、設計された顔料分散体は、良好な顔料分散性とインクジェット吐出性が得られるインク組成物を提供することができるため、画像印刷、捺染、金属配線の描画など、インクジェット式印刷の行われる分野において有用である。