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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066285
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】不飽和ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
C08F283/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175766
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000230364
【氏名又は名称】日本ユピカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン イン
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雄一
【テーマコード(参考)】
4J127
【Fターム(参考)】
4J127AA03
4J127BB041
4J127BB071
4J127BB251
4J127BD131
4J127BE381
4J127BE38Y
4J127BF151
4J127BF15Y
4J127BF211
4J127BF21Y
4J127BF411
4J127BF41Y
4J127BG051
4J127BG05Y
4J127BG05Z
4J127BG181
4J127BG18Z
4J127CB251
4J127CC031
4J127DA02
4J127DA06
4J127DA12
4J127DA19
4J127DA21
4J127DA64
4J127EA05
4J127FA02
4J127FA48
(57)【要約】
【課題】長期間保管しても増粘せず、優れた耐湿性及び耐熱性を有する成形体を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂、及びフタル酸ジアリルを含有する、不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂、及びフタル酸ジアリルを含有する、不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記テレフタル酸と前記フマル酸とのモル比(テレフタル酸:フマル酸)が、35:65以上80:20以下である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化ビスフェノールAと前記1,6-ヘキサンジオールとのモル比(水素化ビスフェノールA:1,6-ヘキサンジオール)が、20:80以上40:60以下である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルコール成分に対する前記カルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)が、0.9以上1.3以下である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記フタル酸ジアリルに対する前記非晶性不飽和ポリエステル樹脂の質量比(非晶性不飽和ポリエステル樹脂/フタル酸ジアリル)が、1以上5以下である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
更に、充填剤、難燃剤、離型剤、着色剤、重合開始剤、及び重合禁止剤からなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記非晶性不飽和ポリエステル樹脂及び前記フタル酸ジアリルの合計の含有量が10質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体。
【請求項9】
少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、繊維強化プラスチックの基材として広く用いられている。繊維強化プラスチックは、小型船舶の船体、自動車・鉄道の内外装、ユニットバスや浄化槽等広範に用いられ、特に炭素繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体は、炭素繊維強化プラスチックとして航空機等に用いられていることから、不飽和ポリエステル樹脂組成物には、耐熱性及び耐湿性に優れる成形体を供することが求められている。
また、一般に繊維強化プラスチックは射出成形、プレス成形、オープンモールド成形等により成形体へと加工されるため、加工性に優れる不飽和ポリエステル樹脂組成物が求められている。しかし、不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度が保管中に上昇することで、加工時における不飽和ポリエステル樹脂組成物の品質が安定しないため、その成形体の生産時に不具合が生じることがあった。
【0003】
例えば、特許文献1には、(A)多価アルコール成分として、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物およびビスフェノールA-プロピレンオキサイド付加物からなる群から選ばれた少なくとも1種、飽和多塩基酸成分として、テレフタル酸(またはそのエステル)および必要に応じてイソフタル酸(またはそのエステル)、および不飽和多塩基酸成分として、フマル酸または無水マレイン酸を重縮合して得られた数平均分子量2500以上の不飽和ポリエステル、(B)フタル酸ジアリル、および(C)重合開始剤として有機過酸化物を含有し、(A)~(C)が特定の要件を満たす熱硬化性樹脂組成物について記載されている。
また、特許文献2には、酸成分としてテレフタル酸およびフマル酸を、グリコールとして1.4-ブタンジオールを主成分とし、必要により他のジカルボン酸および/または他のジオールを併用する不飽和ポリエステルにおいて、(イ)全酸成分中のテレフタル酸が25~45モル%、フマル酸が55~75モル%であり、他のジカルボン酸が0~8モル%であること、(ロ)全グリコール成分中1,4-ブタンジオールが92~100モル%で、他のジオールが0~8モル%であること、(ハ)不飽和ポリエステルが結晶性で、融点が80~120℃であること、(ニ)不飽和ポリエステルの数平均分子量が5000~10000であることからなる不飽和ポリエステル(A)と室温液状の重合性単量体(B)とを、(ホ)不飽和ポリエステル(A)が70~90重量%に配合する不飽和ポリエステル樹脂(C)にガラス繊維、充填剤、難燃剤、離型剤、着色剤、重合開始剤、重合禁止剤などの配合物を均一に混合した熱硬化性射出成形材料であって、その配合割合が、(へ)不飽和ポリエステル樹脂(C)が15~30重量%であること、(ト)ガラス繊維が10~30重量%であることを特徴とする熱硬化性射出成形材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-80286号公報
【特許文献2】特開2003-183368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の熱硬化性樹脂組成物が含む不飽和ポリエステルは、熱硬化性樹脂組成物の保管中に粘度が上昇してしまう。また、特許文献2に記載の熱硬化性射出成形材料が含む不飽和ポリエステル(A)は、熱硬化性射出成形材料は加工性に優れるものの、成形体の耐熱性及び耐湿性に改善の余地があった。
そこで、本発明は、長期間保管しても粘度の上昇を抑制し、優れた耐湿性及び耐熱性を有する成形体を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、保管時における不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度に影響する要因が不飽和ポリエステル樹脂の結晶性にあり、そして、成形体の耐湿性及び耐熱性に影響する要因が、不飽和ポリエステル樹脂のアルコール成分にあると考えて検討を行った。その結果、少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物は、長期間保管しても粘度上昇が抑制され、かつ、その成形体が耐湿性及び耐熱性に優れることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔9〕に関する。
〔1〕 少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂、及びフタル酸ジアリルを含有する、不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔2〕 前記テレフタル酸と前記フマル酸とのモル比(テレフタル酸:フマル酸)が、35:65以上80:20以下である、〔1〕に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔3〕 前記水素化ビスフェノールAと前記1,6-ヘキサンジオールとのモル比(水素化ビスフェノールA:1,6-ヘキサンジオール)が、20:80以上40:60以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔4〕 前記アルコール成分に対する前記カルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)が、0.9以上1.3以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔5〕 前記フタル酸ジアリルに対する前記非晶性不飽和ポリエステル樹脂の質量比(非晶性不飽和ポリエステル樹脂/フタル酸ジアリル)が、1以上5以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔6〕 更に、充填剤、難燃剤、離型剤、着色剤、重合開始剤、及び重合禁止剤からなる群から選ばれる1種以上を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔7〕 前記非晶性不飽和ポリエステル樹脂及び前記フタル酸ジアリルの合計の含有量が10質量%以上30質量%以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体。
〔9〕 少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期間保管しても粘度の上昇を抑制し、優れた耐湿性及び耐熱性を有する成形体を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[不飽和ポリエステル樹脂組成物]
本発明の一実施態様に係る不飽和ポリエステル樹脂組成物は、少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である非晶性不飽和ポリエステル樹脂、及びフタル酸ジアリルを含有する。
以上の構成によれば、長期間保管しても粘度の上昇が抑制され、優れた耐湿性及び耐熱性を有する成形体を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
【0010】
本発明の効果が得られる理由は定かではないが、次のように考えられる。
不飽和ポリエステル樹脂組成物が含有する不飽和ポリエステル樹脂が結晶性であると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の保管時に不飽和ポリエステル樹脂が結晶化進行することで不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度が上昇する。一方、非晶性不飽和ポリエステル樹脂は結晶化しないため、不飽和ポリエステル樹脂組成物を長期間保管した場合でも、粘度の上昇が起こりにくいと考えられる。
また、非晶性不飽和ポリエステル樹脂を構成するアルコール由来の単位が水素化ビスフェノールA由来の単位及び1,6-ヘキサンジオール由来の単位を含むことで、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は優れた耐湿性及び耐熱性を有する成形体を与える。本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体が、1,6-ヘキサンジオール由来の単位を、1,4-ブタンジオールのような1,6-ヘキサンジオールよりも短鎖のアルカンジオールとした場合に得られる成形体よりも優れた耐湿性を有すること、及び、水素化ビスフェノールA由来の単位を、直鎖長鎖状のアルカンジオールとした場合に得られる成形体よりも優れた耐熱性を有することから、1,6-ヘキサンジオール及び水素化ビスフェノールA由来の単位に起因する非晶性不飽和ポリエステル樹脂の立体構造が、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体が有する優れた耐湿性及び耐熱性に影響を及ぼしていると考えられる。
なお、本発明の効果に関する上記のメカニズムは推定であり、これに限定されるものではない。
【0011】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
樹脂が結晶性であるか非晶性であるかについては、融点を有する樹脂を結晶性樹脂とし、融点を有さない樹脂を非晶性樹脂とした。
明細書中、ポリエステル樹脂のカルボン酸成分には、その化合物のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び各カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数1以上3以下)も含まれる。
「ビスフェノールA」とは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0012】
〔非晶性不飽和ポリエステル樹脂〕
非晶性不飽和ポリエステル樹脂は、少なくとも、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びフマル酸、並びにアルコール成分として水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む原料モノマーの重合体である。
【0013】
<カルボン酸成分>
カルボン酸成分は、テレフタル酸及びフマル酸を含む。
テレフタル酸とフマル酸とのモル比(テレフタル酸:フマル酸)は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の耐湿性観点から、好ましくは35:65以上、より好ましくは40:60以上、更に好ましくは42:58以上であり、不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化性と耐熱性の観点から、好ましくは80:20以下、より好ましくは75:25以下、更に好ましくは70:30以下である。
【0014】
カルボン酸成分は、テレフタル酸及びフマル酸にカルボン酸を含んでいてもよい。このようなカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸等が挙げられる。
【0015】
カルボン酸成分中のテレフタル酸及びフマル酸の合計の含有量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の長期間保管後の粘度の上昇を抑制する観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは100モル%である。
【0016】
<アルコール成分>
アルコール成分(A-al)は、水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールを含む。水素化ビスフェノールAは複数の立体異性体を含むが、本発明において水素化ビスフェノールAはすべての立体を含むことを意味する。
水素化ビスフェノールAと前記1,6-ヘキサンジオールとのモル比(水素化ビスフェノールA:1,6-ヘキサンジオール)は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体の耐湿性及び耐熱性の向上の観点から、好ましくは20:80以上、より好ましくは25:75以上、更に好ましくは28:72以上であり、そして、好ましくは40:60以下、より好ましくは38:62以下、さらに好ましくは35:65以下である。
【0017】
アルコール成分は、水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールの他にアルコールを含んでもよい。このようなアルコールとしては、例えば、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,8-オクタンジオール等のα,ω-アルカンジオールが挙げられる。
【0018】
アルコール成分中の、水素化ビスフェノールA及び1,6-ヘキサンジオールの合計の含有量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体の耐湿性及び耐熱性の向上の観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは100モル%である。
【0019】
原料モノマーにおけるアルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.05以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.115以下である。
【0020】
(非晶性不飽和ポリエステル樹脂の製造方法)
非晶性不飽和ポリエステル樹脂は、例えば、原料モノマーを重縮合させる方法により製造される。
重縮合反応においては、必要に応じて、シュウ酸チタニウムカリウム、チタン酸テトラ-n-ブチル、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酸化アンチモン等を用いて反応させてもよい。これら触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
なお、反応は、不活性ガス雰囲気中にて行ってもよい。
【0021】
(非晶性不飽和ポリエステル樹脂の物性)
非晶性不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-20℃以上、更に好ましくは-10℃以上であり、そして、好ましくは70℃以下、より好ましくは55℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
【0022】
非晶性不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、原料モノマーの使用量、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の非晶性不飽和ポリエステル樹脂の製造条件により適宜調整することができ、後述の実施例に記載の方法により求められる。なお、樹脂(A)を2種以上組み合わせて使用する場合は、それらの混合物として得られた樹脂(A)のガラス転移温度がそれぞれ前記範囲内であることが好ましい。
【0023】
〔重合性単量体〕
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、重合性単量体としてフタル酸ジアリルを含有する。
不飽和ポリエステル樹脂組成物において、フタル酸ジアリルに対する非晶性不飽和ポリエステル樹脂の質量比(非晶性不飽和ポリエステル樹脂/フタル酸ジアリル)は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、成形加工時の流動性の観点から、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4以下である。
【0024】
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、フタル酸ジアリルの他に重合性単量体を含んでいてもよい。このような重合性単量体としては、スチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0025】
重合性単量体中のフタル酸ジアリルの含有量は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは100モル%である。
【0026】
不飽和ポリエステル樹脂組成物中の非晶性不飽和ポリエステル樹脂及びフタル酸ジアリルの合計の含有量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体の耐湿性及び耐熱性の向上の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは14質量%以上、更に好ましくは16質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは26質量%以下、更に好ましくは24質量%以下である。
【0027】
〔その他の配合物〕
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、非晶性不飽和ポリエステル樹脂及びフタル酸ジアリルに加えて、充填剤、難燃剤、離型剤、着色剤、重合開始剤、及び重合禁止剤からなる群から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。
【0028】
<充填剤>
充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維補強材、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、珪藻土等の無機質充填剤が挙げられる。これらの充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。中でも、好ましくは、ガラス繊維、水酸化アルミニウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはガラス繊維及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
不飽和ポリエステル樹脂組成物中の充填剤の含有量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体の耐湿性、耐熱性、強度の向上の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは74質量%以上、更に好ましくは76質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは86質量%以下、更に好ましくは84質量%以下である。
【0029】
<難燃剤>
難燃剤としは、例えば、三酸化アンチモン、リン化合物、シリコーン系、ハロゲン化合物等が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
<離型剤>
離型剤としは、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級カルボン酸の多価金属塩が挙げられる。これらの離型剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0031】
<着色剤>
着色剤としては、硬化性樹脂組成物に通常用いることのできる着色剤を用いることができ、特に限定されない。
【0032】
<重合開始剤>
不飽和ポリエステル樹脂組成物の製造時には、均質な不飽和ポリエステル樹脂組成物を得る観点から、非晶性不飽和ポリエステル樹脂、フタル酸ジアリル、及び必要に応じてその他の配合物を加熱下で混合、混練を行う必要がある。そのため、不飽和ポリエステル樹脂組成物は、混合、混練条件下で分解が殆ど進まない、重合開始温度(キックオフ)が非晶性不飽和ポリエステル樹脂の軟化点以上の温度である重合開始剤を含む必要がある。このような重合開始剤としては、重合開始温度が110℃以上である重合開始剤が好ましく、例えば、クメンハイドロパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert-ブチルパーベンゾエート等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
<重合禁止剤>
不飽和ポリエステル樹脂組成物のゲル化防止又はゲル化時間の調節のために、不飽和ポリエステル樹脂組成物が含む重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、パラベンゾキノン、tert-ブチルヒドロキノン、ナフトキノン、フェノチアジン等が挙げられる。これらの重合禁止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
(不飽和ポリエステル樹脂組成物の製造方法)
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、溶融(軟化)した非晶性不飽和ポリエステル樹脂と、フタル酸ジアリルを含む重合性単量体を混練することで製造する。
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、例えば、非晶性不飽和ポリエステル樹脂及びフタル酸ジアリル、必要に応じてその他の配合物をミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一に混合した後、加熱加圧可能な混練機、押し出し機等にて混練する製造方法によって得ることが好ましい。混合及び混練の温度は、非晶性不飽和ポリエステル樹脂の軟化点以上の温度、重合開始剤の重合開始温度以下の温度であることが好ましい。
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物は、造粒、粉砕、成形し、造粒物、粒状物、粉状物等の形状とすることが好ましい。
【0035】
[成形体]
本発明の一実施態様に係る成形体は、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体である。成形体は、不飽和ポリエステル樹脂組成物を原料として、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形方法として通常用いられる方法により得ることができる。このような方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、トランスファー成形及び発泡成形法等が挙げられ、射出成形法及び射出圧縮成形法が好ましい。
【0036】
本発明の一実施態様に係る成形体は、優れた耐湿性及び耐熱性を有する。そのため、電気製品、電子機器、自動車・鉄道の内外装、小型船舶の船体、ユニットバスや浄化槽等広範な用途に好適に用いることができる。
【実施例0037】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0038】
[測定方法]
〔ガラス転移温度又は融点〕
不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度又は融点を示差走査熱量測定(DSC)法により測定した。
【0039】
[評価]
【0040】
〔増粘性〕
不飽和ポリエステル樹脂組成物を密閉容器に入れ、40℃で1週間保存し、保存前後での粘度変化を粘度変化率とした。粘度変化率が15%未満である場合の増粘性を「良」、15%以上の場合の増粘性を「不良」と判断した。
【0041】
〔吸湿率〕
成形体を温度85℃、湿度85%RHの条件に1,000時間暴露し、暴露前後での重量の変化を吸湿率とした。吸湿率が小さいと耐湿性が高い。
【0042】
〔曲げ強度保持率〕
製造直後の成形体をJIS K 6911:2006に従い曲げ強度を測定した。また、同条件で製造した別の試験片を温度85℃、湿度85%RHの条件に168時間暴露した後にJIS K 6911:2006に従い曲げ強度を測定した。暴露前の曲げ強度に対する暴露後の曲げ強度の割合を曲げ強度保持率とした。曲げ強度保持率が大きいと耐湿性が高い。
【0043】
〔ガラス転移温度〕
成形体のガラス転移温度を動的粘弾性(DMA)法により測定した。
【0044】
[非晶性不飽和ポリエステル樹脂の製造]
実施例A-1(不飽和ポリエステル樹脂A-1)
撹拌機、留出管、窒素ガス導入管および温度計を付した反応器に、表1に示すアルコール成分、フマル酸を除くカルボン酸成分、並びに触媒としてシュウ酸チタンカリウム二水和物(フマル酸を除くカルボン酸成分の合計モル数に対して、0.05モル%)を仕込んだ。内温を230℃に加熱し、酸価が10mgKOH/g以下になるまで重合反応を行った。次いで内温を160℃まで下げ、フマル酸およびハイドロキノン(フマル酸に対して127ppm)を仕込み、210℃でエステル化反応を行い、不飽和ポリエステル樹脂A-1を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂の酸価は20mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度は17.20℃であった。
【0045】
実施例A-2及び比較例A-1(不飽和ポリエステル樹脂A-2及びA-3)
アルコール成分及びカルボン酸成分、並びにそれらの配合量を表1に示すように変更した以外は、製造例A-1と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂A-2及びA-3を得た。物性を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
〔不飽和ポリエステル樹脂組成物の製造〕
実施例B-1(不飽和ポリエステル樹脂組成物B-1)
100~110℃に加熱した加熱式加圧ニーダーに、表2に示す非晶性不飽和ポリエステル樹脂A-1及び重合性単量体としてのフタル酸ジアリルを投入し、20分かけて融解した。そこへを表2に示すその他の配合剤を加え70~80℃、5kg/cmの加圧下で20分かけて混練した。次いで混練物を、カッター付き加温押出し二軸造粒機を用いてシリンダー温度60℃ノズル温度70℃で造粒し、不飽和ポリエステル樹脂組成物B-1を得た。
【0048】
実施例B-2及び比較例B-1(不飽和ポリエステル樹脂組成物B-2及びB-3)
不飽和ポリエステル樹脂及び重合性単量体を表2に示すように変更した以外は、実施例B-1と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂組成物B-2及びB-3を得た。評価結果を表2に示す。
【0049】
比較例B-2(不飽和ポリエステル樹脂組成物B-4)
不飽和ポリエステル樹脂及びその他の配合成分を表2に示すように変更した以外は、実施例B-1と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂組成物B-4を得た。評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示す通り、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、長期間保管しても粘度の上昇が抑制された。一方、結晶性不飽和ポリエステル樹脂A-3を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物B-3とB-4は、長期保管後に粘度が上昇した。
【0052】
〔成形体の製造〕
実施例C-1(成形体C-1)
300tプレスのプレス成形機を用い、プレス圧力は8MPa、金型温度160℃、硬化時間15minで不飽和ポリエステル樹脂B-1を成形し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの成形体C-1を得た。評価結果を表3に示す。
【0053】
実施例C-2、比較例C-1及び比較例C-2(成形体C-2、C-3及びC-4)
非晶性不飽和ポリエステル樹脂組成物を表3に示すように変更した以外は、実施例C-1と同様にして、成形体C-2~C-4を得た。評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示す通り、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体は、吸湿率が低く、曲げ強度保持率が高いことから、比較例C-1の成形体C-3に対し優れた耐湿性を有することが分かる。また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形体のガラス転移温度から、成形体は優れた耐熱性を有することが分かる。
比較例C-2の成形体C-4は、耐熱性に優れるものの、吸湿率が高く、曲げ保持率が低いことから、耐湿性に劣っていた。