(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066297
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】真珠の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/57 20170101AFI20240508BHJP
A44C 17/00 20060101ALI20240508BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A01K61/57
A44C17/00
A44C27/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175784
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】519434097
【氏名又は名称】株式会社サンブンノナナ
(74)【代理人】
【識別番号】100063842
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118119
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 大典
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 ななみ
【テーマコード(参考)】
2B104
3B114
【Fターム(参考)】
2B104AA23
2B104BA11
2B104DA16
3B114AA23
3B114BB07
3B114BB10
(57)【要約】
【課題】真珠に色を付けるに際して、真珠の表面に直接処理を施すことなく色を付けること、又、真珠が持っている自然な色合いや風合いを損ねることなく、真珠に色を付けることを目的とする。
【解決手段】真珠の養殖用の核を、母貝に挿入する形状に成形した後に着色し、前記着色した核を母貝に挿入する真珠の養殖方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠の養殖用の核を、母貝に挿入する前に、着色することを特徴とする真珠の養殖用の核の生産方法。
【請求項2】
前記核を、母貝に挿入する形状に成形した後に、着色することを特徴とする請求項1に記載の真珠の養殖用の核の生産方法。
【請求項3】
前記核は真珠質で構成され、前記核を塩基性染料を用いて着色することを特徴とする請求項1又は2に記載の真珠の養殖用の核の生産方法。
【請求項4】
前記塩基性染料は、ローダミンBであることを特徴とする請求項3に記載の真珠の養殖用の核の生産方法。
【請求項5】
真珠の養殖用の核の着色方法であって、核を、母貝に挿入する前に、着色することを特徴とする真珠の養殖用の核の着色方法。
【請求項6】
真珠の養殖用の核を着色し、前記着色した核を母貝に挿入することを特徴とする真珠の養殖方法。
【請求項7】
前記核は真珠質で構成され、前記核を塩基性染料を用いて着色することを特徴とする請求項6に記載の真珠の養殖方法。
【請求項8】
前記塩基性染料は、ローダミンBであることを特徴とする請求項7に記載の真珠の養殖方法。
【請求項9】
核を着色する工程と、母貝に前記着色された核を挿入する工程とを備えることを特徴とする真珠の生産方法。
【請求項10】
真珠の養殖用の核であって、着色されていることを特徴とする真珠の養殖用の核。
【請求項11】
前記核は真珠質で構成され、前記核は塩基性染料を用いて着色されていることを特徴とする請求項10に記載の真珠の養殖用の核。
【請求項12】
前記塩基性染料は、ローダミンBであることを特徴とする請求項11に記載の真珠の養殖用の核。
【請求項13】
請求項10から12のうちいずれか1項に記載の前記核に真珠層が積層されて構成されていることを特徴とする真珠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真珠の生産方法に関し、特に色付きの真珠の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠は、生きた母貝の体内の真珠袋内で形成される生鉱物であり、その表面全体が母貝貝殻の真珠層と等質な層で覆われているものである。そして、真珠には、いかなる人為的な介在要因も含まずに形成された天然真珠と、人為的な介在要因により母貝の体内に構築された真珠袋の中で形成された養殖真珠がある。
【0003】
そして、養殖真珠には、球形の核を母貝の体内に挿入する有核養殖真珠と核を用いない無核養殖真珠があり、有核養殖真珠に用いる核として、淡水産二枚貝の貝殻真珠層を切断した後に研磨して球形に形成したものを初めとして、様々なものが用いられるようになっている(非特許文献1)。
【0004】
又、真珠の品質要素としては、形、マキ、キズ、テリ、色がある。そして、真珠の色には、自然そのままの自然色と処理を施した色がある。真珠に後発的に色を付けるための処理としては、物理的、化学的方法での研磨、可視光線の照射等による漂白、色素を添加して色調を軽度に改変する調色、染料を用いて色を改変する染色、化学薬品等染料以外の物質により真珠の色を改変する着色等がある。このように、真珠の色の調整は、真珠に対して何らかの処理を施すこと、真珠の表面に対して処理を施すことにより行われていた。
【0005】
例えば、真珠を着色する方法として、水系溶媒中に染料を含有する染料溶液に、真珠を所定時間浸漬した後に取り出し、酸化処理を行い、これらの工程を複数回行う処理方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】令和3年3月一般社団法人日本真珠振興会発行「真珠指針2020」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の真珠に色を付ける方法は、真珠に対して直接処理を施すため、又、真珠の表面に対して処理を施すため、過度に加工された真珠は劣化が早いという問題点、又、真珠が有している、真珠が自然に作り出す自然な色合いや風合を損ねてしまうという問題点があった。
【0009】
しかし、真珠は、養殖を含め自然のままでは、多くの色は誕生せず、例えばあこや真珠の場合には、白色、青色又は黄色の真珠は生まれるが、それ以外の例えばピンク等の色は自然には発生することはない。一方で、白色又は青色以外のピンク等の色の真珠は、真珠をより綺麗に見せることや人の肌との親和性がよいことからも需要が高い。又、様々なシーンで、よりいっそう真珠を楽しむために、様々な色の真珠があることが望まれている。そのため、真珠に色を付けることへの要求は高かった。
【0010】
そこで、本発明は、真珠に色を付けるに際して、真珠の表面に直接処理を施すことなく色を付けることを目的の一つとする。又、劣化し難い色付きの真珠を得ることを目的の一つとする。又、真珠が持っている自然な色合や風合いを損ねることなく、真珠に色を付けることを目的一つとする。又、真珠の表面に直接処理を施していない色付きの真珠を得ることを目的の一つとする。又、真珠が持っている、真珠が自然に作り出す自然な色合いや風合を保った、色付きの真珠を得ることを目的の一つとする。又、自然には誕生しない色の真珠を自然養殖で得ることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するための手段としての本発明は、真珠の養殖用の核を、母貝に挿入する前に、着色することを特徴とする真珠の養殖用の核の生産方法である。
【0012】
又、上記の真珠の養殖用の核の生産方法において、前記核を、母貝に挿入する形状に成形した後に、着色する真珠の養殖用の核の生産方法である。
【0013】
又、上記の真珠の養殖用の核の生産方法において、前記核は真珠質で構成され、前記核を塩基性染料を用いて着色する真珠の養殖用の核の生産方法である。
【0014】
又、上記の真珠の養殖用の核の生産方法において、前記塩基性染料は、ローダミンBである養殖用の核の生産方法である。
【0015】
又、真珠の養殖用の核の着色方法であって、核を、母貝に挿入する前に、着色する真珠の養殖用の核の着色方法である。
【0016】
又、真珠の養殖用の核を着色し、前記着色した核を母貝に挿入する真珠の養殖方法である。
【0017】
又、上記の真珠の養殖方法において、前記核は真珠質で構成され、前記核を塩基性染料を用いて着色する真珠の養殖方法である。
【0018】
又、上記の真珠の養殖方法において、前記塩基性染料は、ローダミンBである真珠の養殖方法である。
【0019】
又、核を着色する工程と、母貝に前記着色された核を挿入する工程とを備える真珠の生産方法である。
【0020】
又、真珠の養殖用の核であって、着色されている真珠の養殖用の核である。
【0021】
又、上記の真珠の養殖用の核において、前記核は真珠質で構成され、前記核は塩基性染料を用いて着色されている真珠の養殖用の核である。
【0022】
又、上記の真珠の養殖用の核において、前記塩基性染料は、ローダミンBである真珠の養殖用の核である。
【0023】
又、上記の真珠の養殖用の核に真珠層が積層されて構成されている真珠である。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明よれば、真珠に色を付けるに際して、真珠の表面に直接処理を施すことなく色を付けることが可能となった。又、劣化し難い色付きの真珠を得ることが可能となった。又、真珠が持っている、真珠が自然に作り出す自然な色合いや風合いを損ねることなく、真珠に色を付けることが可能となった。又、真珠の表面に直接処理を施していない色付きの真珠を得ることが可能となった。又、真珠が持っている、真珠が自然に作り出す自然な色合いや風合を保った、色付きの真珠を得ることが可能となった。又、自然には誕生しない色の真珠を自然養殖で得ることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、真珠の生産方法であり、又、真珠の養殖方法であって、真珠の養殖において、真珠に色を付ける方法である。そして、真珠の養殖用の核を着色する工程と、母貝に着色された核を挿入する工程とを備え、核を着色した後に、着色した核を母貝に挿入する方法である。
【0026】
本発明に用いる真珠の養殖方法は、真珠の養殖用の核を母貝の体内に挿入する有核養殖であり、本発明により生産される真珠は、有核養殖真珠であり、養殖ブリスター真珠(養殖半形真珠)も含まれる。又、真珠の養殖は、海水又は淡水で行うことが出来、本発明で生産される真珠には海水産真珠及び淡水産真珠が含まれる。
【0027】
本発明に用いる母貝は特に限定されず、海水産真珠の場合、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ等を用いることが出来、淡水産真珠の場合には、イケチョウガイ、ヒレイケチョウガイ、カラスガイ等を用いることが出来る。海水産真珠の場合、品質の高い真珠を生産することが出来るので、母貝はアコヤガイが好ましい。
【0028】
本発明に用いる真珠の養殖用の核は、特に限定されないが、真珠質で構成された核を用いることが好ましい。歴史的にみても、パリの裁判において、真珠質で構成された核を使用していたことから本物の真珠と認められた経緯があること、又、真珠質でできた核は、真珠と同様の真珠層からなる生体鉱物であり、生体とのなじみが良く、比重及び熱膨張係数や乾燥収縮率等の物理的性質が、真珠の真珠層が本来持っている性質に近く、品質の高い真珠を生産することが出来るからである。
【0029】
核は、ブラウンシェル等の海水産巻貝や、シャコガイやシロチョウガイ等の海水産二枚貝を用いて構成することができるが、特に、歴史的経緯や、より品質の高い真珠を生産することが出来るので、淡水産二枚貝の貝殻真珠層を用いて構成することが好ましい。核に用いる淡水産二枚貝としては、これらに限定されないが、イシガイ目に属する貝、イシガイ科に属する貝、カワボタンガイ科に属する貝、カワボタンガイ亜科に属する貝、いわゆるドブガイと総称されている貝、ヒレイケチョウガイ、ガマノセ等を挙げることが出来るが、特に、ピグトゥ、ウォッシュボード、メープルリーフ、スリーリッジ、エボニーシェルが好ましい。
【0030】
又、貼合せや練核等の貝殻合成の核も使用することが出来るが、接着剤等の異物の混入がなく、耐久性が高い、貝殻を切断又は/及び研磨のみの物理的にのみ加工して、整形した核を用いることが好ましい。核を物理的にのみ加工する方法としては、これに限定されないが、貝を短冊状やアラレ状に切断し、更にサイコロ状に切断した後に、荒丸め機、円盤、艶出し機等により研磨する方法を用いることが出来る。
【0031】
尚、核の形状は特に限定されず、球状の他、3/4形状も含む半球状の核を使用することが出来る。
【0032】
そして、色付きの真珠の生産方法は、上記の母貝及び核を用いて行い、先ず真珠の養殖用の核を、母貝に挿入する形状に成形した後に、母貝の体内に挿入する前に着色し、着色されている核を生産する。核の着色方法は、母貝に挿入する形状に成形した核を母貝に挿入する前に着色する方法であり、詳しくは、以下のとおりである。先ず、核の着色に用いる色材として、染料又は顔料を用いることが出来る。染料は天然染料でも合成染料でもよい。天然染料は、植物性染料でも、動物性染料でも、鉱物性染料でもよい。又、合成染料は、酸性染料、直接染料、含金染料等を含むアニオニック染料でもよく、塩基性染料でもよい。顔料は天然顔料でも合成顔料でもよく、又、無機顔料でも有機顔料でもよい。
【0033】
染料を用いて核の着色を行う場合には、染料を溶媒に溶かした溶液である染色液を用いることが出来、母貝に挿入する前に、核に染色液を塗布したり、核を染色液に浸漬して行うことが出来る。核の表面のみに着色してもよいが、内部まで染色液を浸透させて、核の内部に染料をしみこませて着色することが好ましい。顔料を用いて核の着色を行う場合には、顔料をバインダーや溶剤と混合して、核に塗布して行うことが出来る。
【0034】
染料又は顔料の色は特に限定されず、所望の真珠の色に応じた染料又は顔料を用いることが出来る。
【0035】
このように、用いる染料は特に限定されず、使用する核の材質に応じた染料を適宜選択することが出来るが、真珠質でできた核を着色する場合には塩基性染料を好適に使用することが出来る。
【0036】
ピンク色の真珠を生産するために、核を赤色又はピンク色に着色すればよく、核を赤色又はピンク色に着色するためには、染料は、これに限定されないが、ローダミンBを用いることが出来る。そして、ローダミンBを水に溶解した水溶液を染色液として使用することが出来る。ローダミンBは緑色結晶であるが水に溶けて赤色を示す。ローダミンBの水溶液中のローダミンBの濃度は、核の着色の程度や着色時間等に応じて所定の濃度とすることが出来、これに限定されないが、質量パーセント濃度は0.1~20%とすることが出来、好ましくは、1~10%とすることが出来る。
【0037】
又、核を染色液に浸漬して核を着色する場合、核を染色液に浸漬する時間は、核の大きさ、所望の真珠の色、色の濃淡等に応じて適宜所定の時間とするが、1~120時間程度とすることが出来る。
【0038】
更に、真珠の養殖は以下のように公知の方法で行うことが出来る。先ず、着色した核及び外套膜小片(ピース)を生きた母貝の体内、詳しくは生殖巣に挿入する挿核を行う。そして、体内に核及び外套膜小片を挿入された母貝を海又は湖の水中内に入れて養生した後に本養殖をし、生育することで、母貝内で、着色した核の周囲に真珠袋(パールサック)が構築され、その真珠袋内で、着色された核の表面に真珠層が形成、積層され、着色した核の表面全体が真珠層で覆われて、色つきの真珠が形成される。又、有核真珠又は無核真珠の浜揚時に、母貝の真珠袋から真珠を取り出した後に、空になった真珠袋内に着色した核のみを挿入して養殖を行うことも出来る。
【0039】
又、真珠は、真珠袋で形成されるが、形成途中の真珠が真珠袋を破って貝殻内面真珠層に付着したまま真珠層で覆われ、貝殻内面真珠層に瘤状に形成されて形成されることもある。
【0040】
母貝の体内に着色した核を挿入した後に、少なくとも6~7ヶ月は水中で生育することが望ましい。詳しくは、約1ヶ月養生した後、ネット籠へ並べて水の流れのよい漁場の筏で5ヶ月から1年程度吊るす。又、更にもう1年海に置いて養殖することとしてもよい。又、浜揚げは、真珠層が最もきめ細かく、もっと美しいテリを呈するので、水温が低い時期、日本においては冬に行うことが好ましい。
【0041】
浜揚げを行った真珠は、そのままで既に色つきの真珠であり、別途、調色、染色又は着色をしなくてもよい。尚、浜揚げを行った真珠は、調色、染色又は着色を含む公知の方法で、処理、加工を施すこととしてもよい。
【実施例0042】
淡水産二枚貝であるピグトゥの貝殻真珠層を方形に切断した後に研磨して球形に成形した真珠の養殖用の核を用いた。10mLの水に対してローダミンB0.5gの割合で溶解して染色液を1L調製した。成形した核を染色液に72時間浸漬させて、核に着色した。着色された核はピンク色となった。そして、着色した核及び外套膜小片(ピース)を生きた母貝としてのアコヤガイの体内に挿入し、1ヶ月海で養生し、7~12ヶ月本養殖をした後に、真珠を母貝から取り出した。何れの真珠もピンク色であった。
以上のような本発明は、真珠が持っている自然な色合いや風合いを損ねることなく、様々な色の真珠を養殖、生産することが出来るので、真珠の生産業を初めとする、宝飾に関係する産業に大いに利用される。