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特開2024-66299ナノシート積層体膜、燃料電池用固体電解質膜、水電解装置用固体電解質膜、燃料電池、水電解装置及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066299
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ナノシート積層体膜、燃料電池用固体電解質膜、水電解装置用固体電解質膜、燃料電池、水電解装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1016 20160101AFI20240508BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240508BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M8/1016
H01M8/00 Z
B32B18/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175793
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】伊田 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 一翔
【テーマコード(参考)】
4F100
5H126
【Fターム(参考)】
4F100AC03A
4F100AC03B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100GB32
4F100GB41
4F100JM02
4F100YY00A
4F100YY00B
5H126AA03
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高出力の燃料電池を製造可能とする燃料電池用固体電解質膜を提供することである。
【解決手段】本発明の燃料電池用固体電解質膜は、ナノシート積層体膜10は、Si-Mg-Al-O系のモンモリロナイトからなり、Naの含有率が2at%以下であるナノシート1が複数積層された自立膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si-Mg-Al-O系のモンモリロナイトからなり、Naの含有率が2at%以下であるナノシートが複数積層された自立膜である、ナノシート積層体膜。
【請求項2】
Caの含有率が1at%以下である、請求項1に記載のナノシート積層体膜。
【請求項3】
Feの含有率が0at%以上5at%以下である、請求項1に記載のナノシート積層体膜。
【請求項4】
さらに、有機高分子からなる群から選択された1種以上を補強材として含む、請求項1に記載のナノシート積層体膜。
【請求項5】
前記補強材の含有量は、0重量%以上10重量%以下である、請求項4に記載のナノシート積層体膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノシート積層体膜からなる、燃料電池用固体電解質膜。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノシート積層体膜からなる、水電解装置用固体電解質膜。
【請求項8】
請求項6に記載の燃料電池用固体電解質膜を備える、燃料電池。
【請求項9】
請求項7に記載の水電解装置用固体電解質膜を備える、水電解装置。
【請求項10】
請求項8に記載の燃料電池を駆動用電源として備える、車両。
【請求項11】
天然又は人工のモンモリロナイトから酸洗浄によってナトリウム及びカルシウムを除去する工程と、
ナトリウム及びカルシウムが除去されたモンモリロナイトのナノシートが単層で分散したナノシート分散液を作製する工程と、
前記ナノシート分散液からモンモリロナイトのナノシート積層体膜を得る工程と、を有する、ナノシート積層体膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシート積層体膜、燃料電池用固体電解質膜、水電解装置用固体電解質膜、燃料電池、水電解装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料電極に供給された水素ガスが触媒電極で水素イオンと電子に分かれ、水素イオン(プロトン)が電解質中を移動し、電子が外部回路を通って空気極に移動して酸素と反応して水が生成され、このときに外部回路に移動する電子がエネルギーとして取り出されるものである。燃料電池の出力および安定性向上のために様々な電解質膜が検討されている。
【0003】
例えば、高プロトン伝導性及び安定性を得るためにスルホン酸基を持つフッ素系ポリマーを固体電解質膜として用いる高分子電解質膜が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-81320号公報
【特許文献2】特開2018-106957号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., 160 F1175 (2013)
【非特許文献2】Chem. Mater., 33,15, 6068 (2021)
【非特許文献3】K. Awaya, et al., Chem. Commun., 57,15, 6304 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる高分子電解質膜には、1)水素透過による発電効率の低下、2)高分子の特徴から高温での使用制限、3)フッ素を使用していることによる環境へ影響、4)価格の問題、など解決しなければならない問題がある。
【0007】
一方、無機材料からなるナノシート(以下、「無機ナノシート」という。)は原子層数層程度の厚みしか持たない2次元材料で、完全ガス遮蔽性、高機械的強度、高耐久性などの特徴を有する。また、無機ナノシートを積層させた無機ナノシート積層体は、層間に様々な物質を保持することができ、無機ナノシート層(ホスト層)と層間物質(ゲスト層)が連続的に相互作用することで、特異的な特徴が発現する。その特徴の中には、1)高ガス遮蔽性、2)高速プロトン伝導性、3)高機械的強度、4)高温耐久性、があり、これは上記のフッ素系ポリマー電解質の問題を解決できる可能性を秘めている。
【0008】
非特許文献1に酸化グラフェン積層膜を固体電解質膜として適用した燃料電池について報告されている。この燃料電池では最大出力は13mW/cmであった。その後、2021年には、酸化グラフェン積層膜を固体電解質膜として適用した燃料電池の最大出力が60mW/cmを得たという報告がなされた。
【0009】
一方、同じく2021年に、非特許文献2に酸窒化物ナノシートの積層膜を固体電解質膜として適用した燃料電池について報告されている。この燃料電池では最大出力は9mW/cmであった。また、同じく2021年に、非特許文献3にシリケートナノシートの積層膜を固体電解質膜として適用した燃料電池について報告されている。この燃料電池では最大出力は60μW/cmであった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高出力の燃料電池を製造可能とするナノシート積層体膜、燃料電池用固体電解質膜、水電解装置用固体電解質膜、燃料電池、水電解装置及び車両を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
本発明の態様1は、Si-Mg-Al-O系のモンモリロナイトからなり、Naの含有率が2at%以下であるナノシートが複数積層された自立膜のナノシート積層体膜である。
【0013】
本発明の態様2は、態様1のナノシート積層体膜において、Caの含有率が1at%以下である。
【0014】
本発明の態様3は、態様1又は態様2のナノシート積層体膜において、Feの含有率が0at%以上5at%以下である。
【0015】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つのナノシート積層体膜において、さらに、有機高分子からなる群から選択された1種以上を補強材として含む。
【0016】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つのナノシート積層体膜において、前記補強材の含有量は、0重量%以上10重量%以下である。
【0017】
本発明の態様6は、態様1から態様5のいずれか一つのナノシート積層体膜からなる、燃料電池用固体電解質膜である。
【0018】
本発明の態様7は、態様1から態様5のいずれか一つのナノシート積層体膜からなる、水電解装置用固体電解質膜である。
【0019】
本発明の態様8は、態様6の燃料電池用固体電解質膜を備える、燃料電池である。
【0020】
本発明の態様9は、態様7の水電解装置用固体電解質膜を備える、水電解装置である。
【0021】
本発明の態様10は、態様8の燃料電池を駆動用電源として備える、車両である。
【0022】
本発明の態様11は、天然又は人工のモンモリロナイトから酸洗浄によってナトリウム及びカルシウムを除去する工程と、ナトリウム及びカルシウムが除去されたモンモリロナイトのナノシートが単層で分散したナノシート分散液を作製する工程と、前記ナノシート分散液をろ過して、モンモリロナイトのナノシート積層体膜を得る工程と、を有する、ナノシート積層体膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のナノシート積層体膜によれば、高出力の燃料電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のナノシート積層体膜の概念を示す斜視模式図である。
図2】(a)は本発明のナノシート積層体膜の写真であり、(b)は(a)のナノシート積層体膜の一部をピンセットで持ち上げた状態の写真である。
図3】本発明のナノシート積層体膜を構成するナノシートの単位層の結晶構造を示す図である。
図4】本発明のナノシート積層体膜の製造方法の一例の主な工程の模式図であり、(a)は天然又は人工のモンモリロナイトを準備する工程を示す図であり、(b)はモンモリロナイトのナノシート単層のナノシート分散液を得る工程を示す図であり、(c)はナノシート分散液からナノシート積層体膜を得る工程を示す図である。
図5】本発明の燃料電池が備える膜/電極接合体(MEA)の一部の断面模式図である。
図6】本発明のナノシート積層体膜を燃料電池用固体電解質膜とした燃料電池MEAの断面SEM像である。
図7】燃料電池トラックを例とした車両の駆動システムの概略平面図である。
図8】単層剥離及び酸洗浄によって得たナノシート分散液に含まれるモンモリロナイトナノシートが含有する元素分析結果である。
図9】単層剥離及び酸洗浄によって得たナノシート分散液をマイカ基板上に滴下し、原子間力顕微鏡(AFM)で測定して得られたAFM像、及び、像中の中央よりやや上側の位置の走査による凹凸プロファイルである。
図10】本発明のナノシート積層体膜を燃料電池用固体電解質膜とした燃料電池の性能評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(ナノシート積層体膜)
図1に本発明のナノシート積層体膜の概念図を示す。図2に本発明のナノシート積層体膜の写真を示す。
図1に示す本発明のナノシート積層体膜10は、Si-Mg-Al-O系のモンモリロナイトからなり、Naの含有率が2at%以下であるナノシート1が複数積層された自立膜である。
【0027】
<モンモリロナイト>
モンモリロナイトはケイ酸塩鉱物の一種で、スメクタイトグループに属する。
スメクタイトは、シリカを主成分とする一対の四面体シートと、その間に挟まれるアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、又は鉄(Fe)などを主成分とする一つの八面体シートとからなる層を単位としてこの単位層を複数有する層状鉱物の総称である。スメクタイトは、四面体シート又は八面体シートを構成する元素の他に、これらのシートに生ずる負の層電荷を補償するために、通常、二つの単位層の間にナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)などの交換性陽イオンを含有する。
【0028】
八面体シートがAl、Feなどの3価の陽イオンを主成分として構成されるスメクタイトは2八面体型スメクタイトと言われ、代表的な2八面体型スメクタイトがモンモリロナイトである。
モンモリロナイトは、一対のシリカ四面体シートと、その間に挟まれる1枚のアルミナ八面体シートとからなる単位層を形成する。八面体シートの中心原子である3価のAlの一部が2価のMgに置換されているため、八面体シートは負に帯電している。この負電荷を中和するために、二つの単位層の間にNa+、Ca2+などの陽イオンが取り込まれている。この陽イオンはイオン交換性であるため、モンモリロナイトは陽イオン交換性を示す。
【0029】
また、天然産モンモリロナイトには通常、3価のFeイオンが不純物として含まれており、八面体シート中のAl3+サイトの0.3~22.8at%がFe3+に置換されている。また、天然産モンモリロナイトは、通常、Fe3+の他に、単位層間に取り込まれる交換性陽イオンとして、Na+、K、Ca2+、Mg2+などを含有している。
【0030】
本発明のナノシート積層体膜を構成するナノシートは、原材料としての天然産モンモリロナイトや市販のモンモリロナイトを酸洗浄してNa+やCa2+をプロトン(H)と交換しているため、天然産モンモリロナイトや市販のモンモリロナイトよりもNaやCaの含有率が低く調整されている。
【0031】
本発明のナノシート積層体膜10は、Si-Mg-Al-O系のモンモリロナイトからなるナノシート、すなわち、Si、Mg及びAlを主要な組成として含むモンモリロナイトナノシートが積層された構造を有する。
【0032】
<Naの含有率>
本発明のナノシート積層体膜を構成するナノシートに含まれるNaの含有率は2at%以下であり、好ましくは1at%以下であり、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.1at%以下である。
ナノシート積層体膜を燃料電池用の固体電解質層(プロトン伝導層)として用いた場合、Naは燃料電池の出力を低下させる元素として好ましくないため、含有量が少ないことが好ましい。後述するように、本発明のナノシート積層体膜の製造方法にあたっては、原料としてのモンモリロナイトから酸洗浄によってNaを除去している。
【0033】
<Caの含有率>
本発明のナノシート積層体膜を構成するナノシートに含まれるCaの含有率は1at%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.1at%以下である。
ナノシート積層体膜を燃料電池用の固体電解質層(プロトン伝導層)として用いた場合、Caは燃料電池の出力を低下させる元素として好ましくないため、含有量が少ないことが好ましい。後述するように、本発明のナノシート積層体膜の製造方法にあたっては、原料としてのモンモリロナイトから酸洗浄によってCaを除去している。
【0034】
<Feの含有率>
本発明のナノシート積層体膜を構成するナノシートに含まれるFeの含有率は0%以上5at%以下であることが好ましい。下限は1at%以上、あるいは、3at%以上であってもよい。
【0035】
<ナノシート>
図3に示すように、本発明のナノシート積層体膜を構成する各ナノシート1は、一対のシリカ四面体シート1aa、1abと、その間に挟まれる1枚のアルミナ八面体シート1bとからなる単位層で構成されている。
各ナノシートの厚みは1nm程度であり、後述する実施例では面方向の広がり(最大長サイズ)は50nm~2μm程度である。各ナノシートの厚みは原子間力顕微鏡(AFM)測定で1.1nmであった。
ナノシート積層体膜を構成するナノシートは最大長サイズが500nm以上のものが50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
<ナノシート積層体膜>
本発明のナノシート積層体膜10は、ナノシート1が厚み方向に積層された構造を有する。ナノシート積層体膜はナノシートが構成要素であることにより、ナノ粒子を構成要素とする膜に比べて機械的強度が高い。ナノ粒子を構成要素とする膜は機械的強度が弱く、破損等しやすい。一方、ナノシートを構成要素とするナノシート積層体膜は構成要素がシートであることで機械的負荷が加わってもシートが滑ることで機械的強度が高くなっている。従って、ナノシート積層体膜を燃料電池の固体電解質膜として用いる場合、機械的負荷がかかっても破れにくい。また、ナノシート積層体膜はガスバリア性が高い。
【0037】
また、本発明のナノシート積層体膜10は、積層方向のナノシート1とナノシート1の間すなわち、単位層間S(図3参照)を有する構造である。かかる層間Sが上述したように高分子電解質膜の問題を解消し得る特徴である。
【0038】
本発明のナノシート積層体膜10は、自立膜である。
本明細書において、「自立膜」とは、他の支持体が存在しなくとも膜としての形状を保つことができる膜のことをいう。
図2(a)に示す写真は平坦な面に載置した本発明のナノシート積層体膜を示すものである。図2(b)に示す写真はピンセットを使ってナノシート積層体膜の一端を持ち上げた状態を示すものである。膜としての形状を保持できていることがわかる。
【0039】
本発明のナノシート積層体膜の厚みd(図1参照)は自立膜にする観点で下限は200nm程度であり、上限は特にないが、コストの観点では例えば100μm程度である。後述する実施例では、吸引ろ過によって上述したナノシートを集めて積層体膜にし、この積層体膜の厚みが50μm程度であった。
【0040】
<補強材>
本発明のナノシート積層体膜10は、機械的強度を高めるために、有機高分子からなる群から選択された1種以上を補強材として含んでもよい。
補強材の含有量は、ナノシート積層体膜全体の0重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0重量%以上5重量%以下であることがより好ましく、0重量%以上1重量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
補強材としての有機高分子は耐熱性を有することが好ましい。耐熱性を有する有機高分子とは、高温環境下において軟化、融解または熱分解しない有機高分子を指す。ここで「高温環境」とは100℃以上の環境を指す。
耐熱性を有する有機高分子としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素系樹脂などを例示できる。
ナノシート積層体膜に有機高分子を含有させる方法としては、溶液混合法、塗布法を例示することができる。溶液混合法は、ナノシート分散液に高分子を分散させ、そのまま自立膜にする方法である。この方法では高分子が溶媒に溶解する必要がある。塗布法は、自立膜の表面に高分子を塗布する方法である。塗布の仕方としては、高分子が溶解した有機溶媒を表面に塗り、乾かすのが一般的である。
【0042】
(ナノシート積層体膜の製造方法)
図4に、ナノシート積層体膜の製造方法の一例の主な工程の模式図を示す。図4(a)は天然又は人工のモンモリロナイトを準備する工程を示す図であり、(b)はモンモリロナイトのナノシート単層のナノシート分散液を得る工程を示す図であり、(c)はナノシート分散液からナノシート積層体膜を得る工程を示す図である。
【0043】
本発明のナノシート積層体膜の製造方法は、天然又は人工のモンモリロナイトから酸洗浄によってナトリウム及びカルシウムを除去する酸洗浄工程と、ナトリウム及びカルシウムが除去されたモンモリロナイトのナノシートが単層で分散したナノシート分散液を作製する工程と、前記ナノシート分散液からナノシート積層体膜を得る工程と、を少なくとも有する。
本発明のナノシート積層体膜の製造方法では、天然又は人工のモンモリロナイトから酸洗浄によってナトリウム及びカルシウムを除去する工程を有するので、天然又は人工のモンモリロナイトに比べてナトリウム及びカルシウムの含有量が低減されたモンモリロナイトのナノシートを得ることができる。
【0044】
天然又は人工のモンモリロナイトから酸洗浄によってナトリウム及びカルシウムを除去する酸洗浄工程の前に、モンモリロナイトに水を加えて超音波処理を行う超音波処理工程を行うことが好ましい。
超音波処理は、0.5~5時間程度、行うことが好ましい。
【0045】
超音波処理工程によって得られた懸濁液を遠心分離し、上澄み液を回収する上澄み液回収工程を行うことが好ましい。
この遠心分離は、1000~5000rpm程度で行うことが好ましい。また、この遠心分離は、10~30分程度、行うことが好ましい。
【0046】
上澄み液回収工程で回収した溶液を遠心分離し、沈殿物を回収する沈殿物回収工程を行うことが好ましい。
この遠心分離は、10000~20000rpm程度で行うことが好ましい。また、この遠心分離は、30~120分程度、行うことが好ましい。
【0047】
沈殿物回収工程で回収した沈殿物に純水を加えて撹拌し、最下層の不透明部分以外を回収し、これに酸を加えよく撹拌した溶液を遠心分離し、上澄みを捨てて残りを回収する酸洗浄工程を行うことができる。この酸洗浄工程を複数回行ってもよい。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができる。酸の濃度は例えば、0.1~3M程度にすることができる。
【0048】
酸洗浄工程によって最終的に得られた沈殿物に純水を加え、遠心分離する工程を行うことが好ましい。この工程を複数回行ってもよい。
この工程によって最終的に得られた沈殿物に水を加え、撹拌して、最下層の不透明部分以外を回収する。
こうして、ナトリウム及びカルシウムが除去されたモンモリロナイトのナノシートが単層で分散したナノシート分散液を作製することができる。
【0049】
ナノシート分散液からナノシート積層体膜を得る工程は、ナノシート分散液の吸引ろ過、スピンコート、滴下乾燥、凍結乾燥などによって行うことができる。これらの方法のうち、良好な積層状態が得られる吸引ろ過が好ましい。
ろ過膜としては例えば、酸化アルミニウム製のアノディスク(商品名、ワットマン社)を用いることができる。
大きなアスペクト比を持つナノシートは、自発的に配向性を持って積層し、図1に示されるような構造が形成される。
【0050】
(燃料電池用固体電解質膜)
本発明の燃料電池用固体電解質膜は、本発明のナノシート積層体膜からなるものである。
【0051】
(水電解装置用固体電解質膜)
本発明の水電解装置用固体電解質膜は、本発明のナノシート積層体膜からなるものである。
【0052】
(燃料電池)
本発明の燃料電池は、本発明のナノシート積層体膜を燃料電池用固体電解質膜として備えている。
図5は、本発明の燃料電池の膜/電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assemblies)の一部の断面模式図である。図6は、本発明のナノシート積層体膜を燃料電池用固体電解質膜とした燃料電池MEAの断面SEM像である。
【0053】
図5に示す燃料電池の膜/電極接合体100は、アノード触媒層20Aおよびガス拡散層30を有するアノード40と、カソード触媒層20Bおよびガス拡散層30を有するカソード50と、アノード40とカソード50との間に、アノード触媒層20Aおよびカソード触媒層20Bに接した状態で配置する、燃料電池用固体電解質膜としてのナノシート積層体膜10とを備える。
【0054】
アノード触媒層20A及びカソード触媒層20Bは、触媒を含む層である。
触媒としては公知のものを用いることができる。例えば、カーボン担体に白金または白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
【0055】
ガス拡散層30は、アノード触媒層20A及びカソード触媒層20Bに均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。
ガス拡散層としては公知のものを用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0056】
本発明の燃料電池はさらに、通常の燃料電池に使用される公知の部材を用いることができる。
本発明の燃料電池は単セルでもよいし、単セルにセパレータを設けて単セルを直列あるいは並列につないだ構成としてもよい。単セルをスタックの方法としては公知の方法を用いることができる。
セパレータとしては通常の燃料電池に使用されるものを用いることができる。例えば、カーボンタイプのセパレータ、金属タイプのセパレータ等が挙げられる。
【0057】
(水電解装置)
本発明の水電解装置は、本発明のナノシート積層体膜を水電解装置用固体電解質膜として備えている。
本発明の水電解装置が有する水電解セルは、アノード触媒層、本発明のナノシート積層体膜およびカソード触媒層がこの順で積層された積層体を含む。
アノード触媒層及びカソード触媒層としては、公知のものを用いることができる。例えば、上述の燃料電池MEAの触媒層と同様の層などが挙げられる。
【0058】
(車両)
本発明の車両は、本発明の燃料電池を駆動用電源として備えている。
本発明の燃料電池を駆動用電源として備える車両の例としては、軽自動車、一般車両および、トラックやバスなどの高い運転負荷が求められる大型モビリティ・商用モビリティ(HDV:Heavy Duty Vehicle)などが挙げられる。
【0059】
図7に燃料電池トラックを例とした車両の駆動システムの概略平面図を示す。
本発明の燃料電池トラック200は、本発明の燃料電池100と、インバータ201と、モーター202と、制御部203と、車輪204とを備える。
トラック1000は、燃料電池100から、インバータ201を介して、モーター202に電力が供給されて車輪204が駆動される。
【実施例0060】
(実施例1)
市販のモンモリロナイト(クニミネ工業株式会社)2gに500mLの水を加え、超音波を2時間かけた。得られた懸濁液を4000rpmで20分遠心し、上澄み液のみをパスツールピペットを用いて慎重に回収した。回収した溶液を14000rpmで30分遠心し、上澄みを捨てた。得られた沈殿に、約10mLの純水を加え少し振り混ぜることで、最下層の不透明部分以外を回収した。この10mLに1.5Mの希塩酸を40mL加え、よく振り混ぜた。これを4000rpmで30分遠心し、上澄みを捨てた。この遠心を用いた塩酸での洗浄を4回繰り返した。最終的に得られた沈殿に純水を加え、14000rpmで60分遠心した。この水での洗浄を10回繰り返した。最終的に得られた沈殿に、約10mLの純水を加え少し振り混ぜることで、最下層の不透明部分以外を回収した。この単層剥離及び酸洗浄により、モンモリロナイトナノシートが単層で分散したナノシート分散液を得た。
【0061】
得られたモンモリロナイトナノシート分散液4mLをアノディスク(ポアサイズ:0.2μm、商品名)を用いて吸引ろ過することで、直径25mmのモンモリロナイトナノシートが積層した自立膜(モンモリロナイトのナノシート積層体膜)を作製した(図2参照)。
【0062】
(実施例2)
実施例1との違いは酸洗浄時に用いた酸の種類と濃度だけである。実施例2では、1Mの希硫酸を用いた。
【0063】
(モンモリロナイトの元素含有率)
図8に、実施例2において、単層剥離及び酸洗浄によって得たナノシート分散液に含まれるモンモリロナイトナノシートが含有する元素分析をエネルギー分散型X線分析装置(EDS)にて行った結果を示す。
図8からわかる通り、単層剥離及び酸洗浄前には含有されていたNa及びCaは、単層剥離及び酸洗浄後はいずれも、0.1at%未満となり、十分に除去されていた。また、使用したモンモリロナイトは入手時にFeを0.8原子%含有していた。
【0064】
(原子間力顕微鏡測定)
図9は、単層剥離及び酸洗浄によって得たナノシート分散液をマイカ基板上に滴下し、原子間力顕微鏡(AFM)で測定して得られたAFM像、及び、像中の中央よりやや上側の位置の走査による凹凸プロファイルである。
凹凸プロファイルにおいて、各ナノシートの厚み(高さ)に相当する1nm程度の凹凸が得られており、マイカ基板上に配置しているのが単層のナノシートであることがわかる。この結果は、ナノシート分散液において単層ナノシートの状態になって分散していたことを示すものである。
また、マイカ基板上に配置するナノシートは最大長サイズ(各ナノシートで最大方向の長さ)が500nm以上のナノシートがマイカ基板上に配置するナノシートの5割程度である。マイカ基板上に配置する第1層目のナノシート上に配置するナノシートの多くはサブミクロン程度であるが、それらのナノシートも単層のナノシートであることがわかる。
【0065】
(燃料電池の発電特性評価)
実施例1で得たモンモリロナイトのナノシート積層体膜を固体電解質膜とし、燃料電池セルを株式会社ケミックス製の燃料電池組立キットを用いて、組み上げた。ガス拡散層および触媒層は、株式会社ケミックス製の拡散層付電極(TGP-H-060+Pt、Pt2.0mg/cm)を用いた(図6参照)。
燃料電池評価は、80℃で水素100mL/min、酸素100mL/minの条件で行った。結果として、サンプル1では起電力0.98V、220mA/cmの最大電流密度、62.3mW/cmの最大出力が得られた。
【0066】
一方、実施例2で得たモンモリロナイトのナノシート積層体膜を固体電解質膜としでは起電力0.99V,434mA/cmの最大電流密度,103.3mW/cmの最大出力が得られた。図10は、実施例2の発電特性の測定結果である。
【符号の説明】
【0067】
1 ナノシート
10 ナノシート積層体膜
100 膜/電極接合体
200 車両
S ナノシート間のスペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10