(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066308
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】圧力容器のためのプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240508BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240508BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20240508BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240508BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240508BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240508BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20240508BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
B29C70/16
B29C70/32
C08L63/00 Z
C08K5/17
C08K7/02
D01F9/22
F16J12/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175811
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅尚
【テーマコード(参考)】
3J046
4F072
4F205
4J002
4L037
【Fターム(参考)】
3J046AA01
3J046CA04
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3J046EA02
4F072AA04
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4F205HT22
4J002CD011
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4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037FA03
4L037FA05
4L037PA53
4L037PC05
4L037PS02
4L037UA12
(57)【要約】
【課題】向上した機械的特性を有する繊維強化複合材料をもたらすことができるプリプレグを提供する。
【解決手段】強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含み、強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ、熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
プリプレグ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含み、
前記強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
前記熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
前記熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
プリプレグ。
【請求項2】
前記圧縮弾性率が、10GPa~20GPaである、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物が、下記の成分(A)~(D)を含有する、請求項1又は2に記載のプリプレグ:
(A)二官能のエポキシ樹脂
(B)三官能以上の脂肪族エポキシ樹脂
(C)アミン系硬化剤
(D)硬化促進剤。
【請求項4】
プリプレグ全体に対する前記強化繊維の繊維体積含有率が、45~80体積%である、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項5】
圧力容器のための、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記強化繊維が、炭素繊維である、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記プリプレグが、トウプリプレグである、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のトウプリプレグを基材に巻き付けて、中間体を形成すること、及び、
前記中間体を熱硬化処理すること
を含む、
圧力容器の製造方法。
【請求項9】
プリプレグを製造する方法であって、
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを提供すること、及び、
前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させること
を含み、
前記強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
前記熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
前記熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維及び熱硬化性樹脂組成物を含むプリプレグに関する。特に、本発明は、圧力容器のためのプリプレグ(特にはトウプリプレグ)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れ、軽量であるため、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の強化繊維として、航空機、自動車、土木建築およびスポーツ用品等の幅広い用途に利用される。例えば、強化繊維としての炭素繊維にエポキシ樹脂などの樹脂を含浸させることによって得られるプリプレグを用いて、繊維強化複合材料を製造することができる。
【0003】
繊維強化複合材料の用途の1つとして、圧力容器が挙げられる。圧力容器は、大気圧とは異なる特定の圧力で気体や液体を貯蔵するように設計された容器である。近年、燃料電池自動車の普及に伴って、車載用及び水素ステーション用などの目的のために十分な性能を有する圧力容器の開発が進められている。
【0004】
圧力容器は、例えば、金属又は樹脂製の内枠(ライナー)と、強化繊維としての炭素繊維と樹脂とを含む炭素繊維強化複合材料の外層と、を有する。
【0005】
このような圧力容器を製造する方法としては、炭素繊維に樹脂を付着させながらライナーに巻き付ける方法の他に、予め樹脂を付着させた炭素繊維(特にはトウプリプレグ)をライナーに巻き付け、その後に熱硬化処理する方法がある。
【0006】
特許文献1は、特定の組成を有するエポキシ樹脂組成物と、強化繊維とを含有するトウプリプレグを開示している。この文献は、トウプリプレグを用いて繊維強化複合材料を製造することを記載しており、この繊維強化複合材料を、燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器に好適に使用することができるとしている。
【0007】
特許文献2は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物を記載している。この文献は、当該硬化性樹脂組成物に強化繊維を配合してなるトウプリプレグを記載している。
【0008】
特許文献3は、特定のエポキシ樹脂組成物が強化繊維束に含浸させてなるトウプリプレグを開示している。このエポキシ樹脂組成物は、主成分の化学構造中にヒドロキシ基を有さないエポキシ樹脂、液状芳香族アミン及び強靭化剤を含む。このトウプリプレグは、繊維強化複合材料で構成された中空の容器や円筒の製造に好適に用いられるとしている。
【0009】
特許文献4に係る発明は、特にフィラメントワインディング法において好適な繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化方法を提供することを目的としている。この文献は、エポキシ樹脂、特定のウレタン変性エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、及び特定の硬化促進剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物と、強化繊維とを含む繊維強化複合材料を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2020/250957号
【特許文献2】特開2021-161242号公報
【特許文献3】特開2021-116403号公報
【特許文献4】特開2021-161239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のプリプレグ(特にはトウプリプレグ)を用いて製造される繊維強化複合材料は、機械的特性(特には耐圧性)が十分でない場合があった。特に、従来のプリプレグ(特にはトウプリプレグ)から製造される繊維強化複合材料を圧力容器に用いた場合に、圧力容器に対する高い要件(特に大型化や耐圧力性の向上)を満たせない場合があった。
【0012】
本発明は、向上した機械的特性を有する繊維強化複合材料をもたらすことができるプリプレグ(特にはトウプリプレグ)を提供することを目的とする。特に、本発明は、向上した耐圧性を示す圧力容器をもたらすことができるプリプレグ(特にはトウプリプレグ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、本発明に係る下記の態様によって解決することができる。
<態様1>
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含み、
前記強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
前記熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
前記熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
プリプレグ。
<態様2>
前記圧縮弾性率が、10GPa~20GPaである、態様1に記載のプリプレグ。
<態様3>
前記熱硬化性樹脂組成物が、下記の成分(A)~(D)を含有する、態様1又は2に記載のプリプレグ:
(A)二官能のエポキシ樹脂
(B)三官能以上の脂肪族エポキシ樹脂
(C)アミン系硬化剤
(D)硬化促進剤。
<態様4>
プリプレグ全体に対する前記強化繊維の繊維体積含有率が、45~80体積%である、態様1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
<態様5>
圧力容器のための、態様1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
<態様6>
前記強化繊維が、炭素繊維である、態様1~5のいずれかに記載のプリプレグ。
<態様7>
前記プリプレグがトウプリプレグである、態様1~6のいずれかに記載のプリプレグ。
<態様8>
態様7に記載のトウプリプレグを基材に巻き付けて、中間体を形成すること、及び、
前記中間体を熱硬化処理すること
を含む、
圧力容器の製造方法。
<態様9>
プリプレグを製造する方法であって、
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを提供すること、及び、
前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させること
を含み、
前記強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
前記熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
前記熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、向上した機械的特性を有する繊維強化複合材料をもたらすことができるプリプレグ(特にはトウプリプレグ)を提供することができる。特に、本発明によれば、向上した耐圧性を示す圧力容器をもたらすことができるプリプレグ(特にはトウプリプレグ)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪プリプレグ≫
本発明に係るプリプレグは、
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含み、
強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す。
【0016】
上述のとおり、近年、圧力容器に要求される条件が高まっており、例えば大型化や耐圧性のさらなる向上が求められている。
【0017】
繊維強化複合材料を含む圧力容器では、容器の内部から付与される圧力(膨張圧)に耐える観点から、圧力容器に用いられる繊維強化複合材料(例えばCFRP)の引張方向の強度が重要となる。繊維強化複合材料の引張強度が向上すると、より多くのガスを圧力容器中に貯蔵することが可能になり、また、一定量のガスを貯蔵するために必要な複合材料の量を低減することも可能になる。
【0018】
繊維強化複合材料の引張強度を向上させるために、従来、強化繊維の引張方向の強度を向上させる検討が主になされてきた。しかしながら、従来のプリプレグを用いた場合に十分な耐圧性を有する圧力容器を提供できないことがあった。
【0019】
これに対して、本発明では、繊維強化複合材料の強度を改善できる樹脂の特性を検討するとともに、そのような特性を有する樹脂と組み合わせた場合に繊維強化複合材料の強度を向上させることができる強化繊維の物性を検討した。その結果、樹脂の物性と強化繊維の物性との最適な組み合わせを見出した。
【0020】
具体的には、本発明では、熱硬化性樹脂組成物の機械特性が特定されており、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す。理論によって限定する意図はないが、熱硬化性樹脂組成物がこのような特定範囲の物性を有する場合には、繊維強化複合材料に適度な柔軟性が付与されることによって、応力が良好に分散されるので、繊維強化複合材料の耐圧性が向上すると考えられる。
【0021】
本発明では、さらに、強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有している。理論によって限定する意図はないが、強化繊維がこのような特性を有している場合には、高圧下で繊維強化複合材料(特にはマトリクス樹脂)が変形して圧力を分散する際の強化繊維の追従性が向上し、その結果として、複合材料の耐圧性が向上すると考えられる。
【0022】
<プリプレグ>
本開示に係るプリプレグは、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含む。プリプレグにおいて、熱硬化性樹脂組成物は、強化繊維に含浸していてよい。
【0023】
プリプレグ(特にはトウプリプレグ)を製造する方法は、特に限定されない。例えば、本発明に係る特性を有する強化繊維に、本発明に係る特性を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させることによって、プリプレグ(特にはトウプリプレグ)を製造することができる。
【0024】
強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、熱硬化性樹脂組成物を含む溶液を強化繊維に漬浸したのちに溶媒を除去する方法、加熱によって低粘度化した熱硬化性樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法、フィルム状の熱硬化性樹脂組成物を強化繊維の層に重ね合わせて加熱加圧することによって含浸させる方法、が挙げられる。
【0025】
特に、本発明に係るプリプレグを製造する方法として、下記の製造方法を挙げることができる。
【0026】
プリプレグを製造する方法であって、
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを提供すること、及び、
強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させること
を含み、
強化繊維が、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率を有し、
熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含み、かつ
熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率、及び15%超の曲げ破断伸度を示す、
方法。
【0027】
この方法における強化繊維などの構成成分の詳細については、プリプレグに関する本開示の記載を参照できる。この方法において、強化繊維の形態は、特に限定されないが、強化繊維のフィラメントが束状になった形態(いわゆる「トウ」)であってよく、又は、シート状であってよく、特には強化繊維束が一方向に引き揃えられたシート状の形態であってよい。強化繊維は、織物の形態であってもよく、例えば平織り、綾織り、朱子織などであってもよい。
【0028】
プリプレグを、随意に積層し、又は、随意に基材に巻き付けた後で、熱硬化処理することによって、繊維強化複合材料の成形品を得ることができる。
【0029】
プリプレグにおける強化繊維の繊維体積含有率は、プリプレグ全体に対して、45~80体積%であってよい。この体積含有率は、50体積%以上、55体積%以上、60体積%以上、若しくは65体積%以上であってよく、かつ/又は、75体積%以下、若しくは70体積%以下であってよい。
【0030】
<トウプリプレグ>
プリプレグは、特にはトウプリプレグである。トウプリプレグは、強化繊維束と熱硬化性樹脂組成物とを含むことができる。強化繊維束は、強化繊維フィラメントが一方向に引き揃えられた形態を有することができる。トウプリプレグは、公知の方法で製造することができる。
【0031】
トウプリプレグを金属製又は樹脂製の基材(特にはライナー)に巻き付けることによって中間体を形成し、この中間体を熱硬化処理することによって、繊維強化複合材料を有する圧力容器を製造することができる。この圧力容器では、基材(特にはライナー)を被覆するように、繊維強化複合材料の外層が形成されている。
【0032】
<強化繊維>
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維が挙げられる。
【0033】
強化繊維は、特には炭素繊維である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維が挙げられる。
【0034】
<炭素繊維>
本発明に用いられる炭素繊維は、高い複合材料特性を得るために、ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が200GPa以上400GPa以下、かつフィラメント数が6000~75000が好ましい。より好ましい範囲は、ストランド引張強度が5000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上400GPa以下、フィラメント数が12000~60000である。弾性率を225GPa以上とすることによって、複合材料の剛性を確保でき、400GPa以下とすることによって、複合材料の非繊維方向の特性を良好に保つことができる。このような観点から炭素繊維はポリアクリロニトリルベースであることが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系重合体の紡糸溶液を紡糸して炭素繊維前駆体プリカーサーを得ることができる。かかる、プリカーサーを焼成して炭素繊維束を得ることができる。ここで焼成とは耐炎化工程、予備炭素化工程および炭素化工程を含むことが通常である。
【0036】
ポリアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルのみから得られる単独重合体だけではなく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を用いたポリアクリロニトリル系共重合体を用いても良い。具体的に、ポリアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを90~100質量%、共重合可能な単量体を10質量%未満、含有することが好ましい。
【0037】
アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
【0038】
前記ポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、硝酸、塩化亜鉛水溶液、ロダンソーダ水溶液などポリアクリロニトリル系重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。
【0039】
前記紡糸溶液を湿式、または乾湿式紡糸法により紡糸することにより、炭素繊維前駆体繊維束を製造することができる。なかでも特に、乾湿式紡糸法は、ポリアクリロニトリル系重合体の特性を発揮させるため、好ましく用いられる。
【0040】
紡糸溶液を凝固浴中に導入して凝固させ、得られた凝固糸を、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を通過させることにより、炭素繊維前駆体繊維束が得られる。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えても良い。凝固糸は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30~98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。
【0041】
炭素繊維前駆繊維束が含む単繊維の平均繊度は、0.5dtex以上であることが好ましく、0.8dtex以上であることがより好ましい。前駆体繊維束の単繊維繊度が高いほど、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生を抑え、製糸工程および炭素繊維の焼成工程のプロセス安定性を維持しやすい。前駆体繊維束の単繊維繊度が0.5dtex以上であれば、プロセス安定性を維持しやすく、0.8dtex以上であればこれに加えて生産性も高めやすくなり、両者を高いレベルにすることができる。前駆体繊維束の単繊維繊度は、口金からの原液吐出量や延伸比など、公知の方法により制御できる。
【0042】
得られる炭素繊維前駆体繊維束は、通常、連続繊維の形態である。また、その1糸条あたりのフィラメント数は、好ましくは1,000~36,000本である。
【0043】
上記のようにして得た炭素繊維前駆体繊維束は、耐炎化工程に供される。本発明において、耐炎化工程とは、炭素繊維前駆体繊維束を200~300℃の温度の酸素含有雰囲気下において熱処理することを言う。耐炎化工程で得られた繊維束を予備炭素化する工程においては、得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度500~1000℃において、比重が1.5~1.8になるまで熱処理することが好ましい。予備炭素化する工程の延伸倍率は1.03~1.15であるのがよく、好ましくは1.05~1.10である。かかる温度領域では、延伸処理による繊維の欠陥が生じにくく、予備炭素化する工程の延伸倍率が1.03以上であれば繊維内部の分子間の炭素化初期構造の形成反応を促進し、緻密な繊維構造を形成することができるため、結果として炭素繊維束の引張強度を高めることができる。予備炭素化する工程の延伸倍率が1.15超であると予備炭素化した繊維束に高い張力がかかるため糸切れを起こす場合があるため、1.15以下と設定するのが好ましい。
【0044】
前記の予備炭素化する工程で得られた繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1000~3000℃において炭素化すること(炭素化工程という。)が好ましい。炭素化工程の最高温度は、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると高強度領域の強度が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのがよい。より好ましい最高温度は1200~2000℃であり、さらに好ましくは、1200~1600℃である。
【0045】
以上の炭素化工程で得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、表面処理が施され、酸素原子を含む官能基が導入される。表面処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。本発明において、液相電解酸化の方法については特に制約はなく、公知の方法で行えばよい。
【0046】
かかる表面処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
【0047】
プリプレグにおける強化繊維の形態は、特に限定されないが、強化繊維のフィラメントが束状になった形態(いわゆる「トウ」)であってよく、又は、シート状であってよく、特には強化繊維束が一方向に引き揃えられたシート状の形態であってよい。強化繊維は、織物の形態であってもよく、例えば平織り、綾織り、朱子織などであってもよい。
【0048】
(圧縮弾性率)
強化繊維は、繊維軸に対して垂直方向で計測したときに、20GPa以下の圧縮弾性率(ヨコ弾性率)を有する。
【0049】
この圧縮弾性率は、19GPa以下、18GPa以下、17GPa以下、若しくは16GPa以下であってよく、かつ/又は、10GPa以上、11GPa以上、12GPa以上、13GPa以上、若しくは14GPa以上であってよい。好ましい1つの実施態様では、この圧縮弾性率が、10GPa~20GPaである。この好ましい範囲内であれば、特に良好な機械的特性を有する繊維強化複合材料をもたらすことができるプリプレグを提供できる。
【0050】
圧縮弾性率(ヨコ弾性率)は、微小圧縮試験機を用いて計測することができる。具体的には、70mm程度の強化繊維の単繊維を試験機の試料台に設置し、繊維方向が試験機の圧子の正方形の各辺に対して平行(もしくは垂直)になるように固定する。試験には1辺が50μmの正方形であるダイヤモンド製フラット圧子を用い、過重負荷速度0.7mN/secで試験を行う。試験により得られた荷重(P)-変位(δ)曲線を以下の式wを用いた最小二乗近似法でフィッティングすることにより、圧縮弾性率(ヨコ弾性率)を得る。
【数1】
δ:圧縮変位、P:試験荷重、L:圧子長さ、E
T:圧縮弾性率(ヨコ弾性率)、E
L:繊維軸方向弾性率、d:繊維直径。
【0051】
強化繊維がサイジング剤で処理されている場合には、アセトンに浸漬するなどして、強化繊維に付着したサイジング剤を除去した後に、上記の測定を行うことができる。
【0052】
(繊維方向弾性率)
強化繊維(特には炭素繊維)は、200GPa~400GPa、又はさらには225GPa~400GPaの繊維方向弾性率を有することができる。強化繊維(特には炭素繊維)の繊維方向弾性率は、JIS R 7608に従って計測できる。
【0053】
(繊維強度)
強化繊維(特には炭素繊維)は、4000MPa~8000MPa、4500MPa~7000MPa、又はさらには5000MPa~6500MPaの繊維強度(引張強度)を有することができる。強化繊維(特には炭素繊維)の繊維強度(引張強度)は、JIS R 7608に従って計測できる。
【0054】
本発明に係る特性を有する強化繊維を得る方法は、特に限定されず、公知の方法によって製造することができる。
【0055】
(単繊維径)
強化繊維の単繊維径(単繊維の直径)は、特に限定されないが、例えば10μm以下であってよい。好ましくは、強化繊維は、8.0μm未満の単繊維径を有する。
【0056】
この単繊維径は、特には、4.5μm以上、4.6μm以上、4.7μm以上、4.8μm以上、4.9μm以上、若しくは5.0μm以上であってよく、かつ/又は7.8μm以下、7.7μm以下、7.6μm以下、7.5μm以下、7.4μm以下、7.3μm以下、若しくは7.2μm以下であってよい。
【0057】
強化繊維(特には炭素繊維)の直径は、電子顕微鏡等を用いて取得した画像を用いて計測した30以上の強化繊維(特には炭素繊維)の直径を平均することによって得ることができる。
【0058】
(O/C比)
好ましくは、本開示に係る強化繊維では、強化繊維の繊維表面における酸素原子と炭素原子との比(O/C比)が0.16以上である。
【0059】
このO/C比は、0.17以上、0.18以上、0.19以上、若しくは0.20以上であってよく、かつ/又は、0.40以下、0.35以下、0.32以下、0.30以下、0.25以下、若しくは0.24以下であってよい。
【0060】
繊維表面における酸素原子と炭素原子との比(O/C比)は、X線光電子分光法を用いて計測することができる。具体的には、繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10-6[Pa]の真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギ値B.E.を284.6[eV]に合わせる。O1sピーク面積を、527~540[eV]の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。また、C1sピーク面積を、281~297[eV]の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。C1sピークに対するO1sピークの感度補正係数として2.6865を用いる。上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比を計算することによって、強化繊維(特には炭素繊維)の表面酸素濃度の比を求めることができる。なお、強化繊維がサイジング処理される場合、O/C比の測定は、サイジング剤を強化繊維に適用する前、又は、アセトンに浸漬するなどして強化繊維に付着したサイジング剤を除去した後に、行うことができる。
【0061】
なお、強化繊維の上記物性は、熱硬化性樹脂組成物に含浸させる前の強化繊維の物性として評価できる。したがって、プリプレグ中に含有される強化繊維の上記物性を測定する際には、プリプレグを構成するその他の成分(特に熱硬化樹脂組成物)を除去して、強化繊維を単離することができる。この除去のための方法としては、アセトンなどの熱硬化性樹脂が可溶な溶剤を用いて熱硬化性樹脂を溶解、除去する方法が挙げられる。
【0062】
<熱硬化性樹脂組成物>
(曲げ弾性率)
熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、2.9GPa~3.1GPaの曲げ弾性率を示す。
【0063】
この曲げ弾性率は、2.90GPa以上、2.91GPa以上、2.92GPa以上、若しくは2.93GPa以上であってよく、かつ/又は、3.10GPa以下、3.09GPa以下、3.08GPa以下、若しくは3.07GPa以下であってよい。
【0064】
曲げ弾性率は、JIS K7171に従って計測することができる。
【0065】
(曲げ破断伸度)
また、熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、15%超の曲げ破断伸度を示す。
【0066】
この曲げ破断伸度は、22%以下、21%以下、20%以下、又は19%以下であってよい。この場合には、特に良好な機械的特性を有する繊維強化複合材料をもたらすことができるプリプレグを提供できる。
【0067】
曲げ破断伸度は、JIS K7171法に準じて計測することができる。より具体的には、130℃の温度で1時間硬化させた樹脂板を試験片として、JIS K7171法に従って曲げ試験を実施した際に、樹脂試料が破断した際の歪を破断伸度とすることができる。
【0068】
(曲げ強度)
熱硬化性樹脂組成物は、130℃で1時間にわたって硬化させて計測したときに、100MPa~140MPa、又はさらには110MPa~130MPaの曲げ強度を示してよい。熱硬化性樹脂組成物の曲げ強度は、JIS K7171に従って計測することができる。
【0069】
(エポキシ樹脂)
熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。
【0070】
本発明に係る物性を有する熱硬化性樹脂組成物は、含有されるエポキシ樹脂の組成や硬化剤の種類及び量などを適宜調節することによって、得ることができる。樹脂組成物の弾性率を向上したい場合、三官能以上の脂肪族エポキシ樹脂のような多官能エポキシ樹脂の割合を増加する、あるいは多官能のアミン硬化剤を使用し、樹脂全体の架橋密度を高める方法が考えられる。一方、樹脂の伸度を向上させる場合、樹脂組成物中に脂肪族骨格のような柔軟な構造を有するエポキシ樹脂を添加することで、樹脂骨格の柔軟性を向上する方法が考えられる。以上の観点から、柔軟な骨格を有するエポキシ樹脂を高密度に架橋することにより、本発明における高い弾性率および破断伸度を両立するエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0071】
エポキシ樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤の合計100重量部に対して、75~99重量部、85~98重量部、又はさらには90~95重量部であってよい。
【0072】
エポキシ樹脂は、特に限定されない。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、オキサゾリドン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、リン原子含有エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0074】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、グリセロールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ブチルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、(ポリ)プロピレングリコールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジグリセロールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、アクリルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールペンタエチレングリコールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、p-(tert-ブチル)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ドデシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリデシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
好ましくは、熱硬化性樹脂組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む。
【0076】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、70~99重量部、80~98重量部、又はさらには85~96重量部であることが好ましい。
【0077】
また、好ましくは、熱硬化性樹脂組成物は、エチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1つを含む。より好ましくは、熱硬化性樹脂組成物は、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1つを含む。
【0078】
熱硬化性樹脂組成物が、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、2~20重量部、3~15重量部、又はさらには4~10重量部であることが好ましい。
【0079】
熱硬化性樹脂組成物が、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、2~20重量部、3~18重量部、又はさらには4~15重量部であることが好ましい。
【0080】
(硬化剤)
熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤を含むことができる。硬化剤は、特には、エポキシ樹脂のための硬化剤である。
【0081】
硬化剤としては、アミン系硬化剤が挙げられる。
【0082】
アミン系硬化剤としては、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステル、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジド、メンセンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、N-アミノエチルピペラジン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノジエチルジフェニルメタン等の分子中に第1級アミンを有するアミン化合物;1,2-プロパンジアミンや、1,3-ブタンジアミンなどの鎖状式ポリアミン化合物、N-メチルピペラジン、モルホリン、ピペリジン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-エチルトルイジン、ジフェニルアミン、ヒドロキシフェニルグリシン、N-メチルアミノフェノールサルフェート等の分子中に第2級アミンを有するアミン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
硬化剤は、好ましくは、ジシアンジアミドである。
【0084】
硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、1~15重量部、又はさらには3~10重量部であってよい。
【0085】
また、硬化剤(特にはアミン系硬化剤)の活性水素当量は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計のエポキシ当量に対して、0.2~0.7であることが好ましい。
【0086】
(硬化促進剤)
熱硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤を含むことができる。
【0087】
硬化促進剤としては、ウレア化合物、特には芳香族ウレア化合物(芳香族尿素化合物)が挙げられる。その具体例としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、N-フェニル-N’,N’-ジメチル尿素、N-(4-クロロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3,4-ジクロロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-エチルフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(4-メチル-3-ニトロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、2,4-ビス(N’,N’-ジメチルウレイド)トルエン、メチレン-ビス(p-N’,N’-ジメチルウレイドフェニル)等を挙げることができる。このうち、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
熱硬化性樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、1~10重量部、又はさらには4~8重量部であってよい。
【0089】
(その他の成分)
本開示に係る熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂、消泡剤、レベリング剤、難燃剤、難燃助剤、顔料などのその他の成分を含有することができる。その他の成分は、熱硬化性樹脂組成物に対して、10重量%以下で含有されることが好ましい。
【0090】
(成分組成)
本開示に係る1つの実施態様では、熱硬化性樹脂組成物が、下記の成分(A)~(D)を含有する:
(A)二官能のエポキシ樹脂
(B)三官能以上の脂肪族エポキシ樹脂
(C)アミン系硬化剤
(D)硬化促進剤。
【0091】
二官能のエポキシ樹脂(成分A)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
三官能以上の脂肪族エポキシ樹脂(成分B)としては、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
成分(A)~(D)の詳細については、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤に関する上記の記載を参照することができる。
【0094】
熱硬化性樹脂組成物が、成分(A)~(D)を有する場合、成分(A)の含有量は、成分(A)~(D)の合計100重量%に対して、
75~95重量%であることが好ましく、
80~90重量%であることがより好ましく、
82~89重量部であることがさらに好ましい。
【0095】
熱硬化性樹脂組成物が、成分(A)~(D)を有する場合、成分(B)の含有量は、成分(A)~(D)の合計100重量%に対して、
2~20重量%であることが好ましく、
3~15重量%であることがより好ましく、
4~12重量部であることがさらに好ましい。
【0096】
熱硬化性樹脂組成物が、成分(A)~(D)を有する場合、成分(C)の含有量は、成分(A)~(D)の合計100重量%に対して、
1~15重量%、又はさらには3~10重量%であることが好ましく、
2~6重量%であることがより好ましく、
2~5重量%であることがさらに好ましい。
【0097】
熱硬化性樹脂組成物が、成分(A)~(D)を有する場合、成分(D)の含有量は、成分(A)~(D)の合計100重量%に対して、
1~10重量%であることが好ましく、
2~8重量%であることがより好ましく、
3~6重量%であることがさらに好ましい。
【0098】
好ましくは、熱硬化性樹脂組成物における成分(A)~(D)以外の成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物に対して、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、又は0.1重量%以下である。
【0099】
(混練)
熱硬化性樹脂組成物を得る方法は特に限定されず、公知の方法によって製造することができる。熱硬化性樹脂組成物は、例えば、上記の1又は複数のエポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤、並びに必要に応じてその他の成分を、所定の含有量で均一に混練することによって得ることができる。
【0100】
混練のための装置としては、例えば、プラネタリミキサー、三本ロール、万能攪拌機、ホモジナイザー、ホモディスペンサー、ボールミル、ビーズミル、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等を用いることができる。
【0101】
≪繊維強化複合材料≫
本開示に係るプリプレグを熱硬化処理することによって、繊維強化複合材料、特には繊維強化複合材料を有する成形品を、製造することができる。
【0102】
(圧力容器の製造方法)
例えば、本開示に係るトウプリプレグを、基材としての金属製又は樹脂製のライナー(又は芯材)に巻き付けることによって、中間体を形成し、この中間体を熱硬化処理することによって、圧力容器を製造することができる。この圧力容器は、内殻としてのライナーが繊維強化樹脂複合材料の層で被覆された構造を有する。
【0103】
好ましくは、この圧力容器は、実施例に記載されている測定方法で測定したときに、150~190MPaの破裂圧力を示し、かつ/又は94%以上の引張強度発現率を示す。この引張強度発現率は、より好ましくは、95~98%である。
【0104】
熱硬化処理の温度は、好ましくは80℃~250℃、より好ましくは110℃~200℃、さらに好ましくは120℃~150℃である。熱硬化処理の時間は、30分~30時間であってよく、さらには、10~20時間でもよい。
【0105】
繊維強化複合材料における強化繊維の繊維体積含有率は、繊維強化複合材料全体に対して、45~80体積%であってよい。この体積含有率は、50体積%以上、55体積%以上、60体積%以上、若しくは65体積%以上であってよく、かつ/又は、75体積%以下、若しくは70体積%以下であってよい。
【実施例0106】
以下で、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。実施例は、本願を限定するものではない。
【0107】
≪測定方法≫
下記の実施例及び比較例では、下記のとおりにして物性の計測を行った。
【0108】
<炭素繊維の単繊維径>
炭素繊維の単繊維径は、電子顕微鏡等を用いて取得した画像を用いて計測した30以上の炭素繊維の直径を平均することによって得た。
【0109】
<炭素繊維の繊維軸方向弾性率>
炭素繊維の繊維軸方向弾性率は、JIS R 7608に従って計測した。
【0110】
<炭素繊維の圧縮弾性率>
炭素繊維の圧縮弾性率(ヨコ弾性率)は、以下に示す手順で計測した:
試験機には、島津製作所製微小圧縮試験機を用いた。70mm程度の長さに切断した炭素繊維束をアセトンに浸漬して炭素繊維束に付着したサイジング剤を除去し、単繊維を取り出した。取り出した単繊維を試験機の試料台に設置し、繊維方向が試験機の圧子の正方形の各辺に対して平行(もしくは垂直)になるように固定した。試験には1辺が50μmの正方形であるダイヤモンド製フラット圧子を用い、過重負荷速度0.7mN/secで試験を行った。試験により得られた荷重(P)-変位(δ)曲線を以下の式wを用いた最小二乗近似法でフィッティングすることにより、圧縮弾性率(ヨコ弾性率)を得た。
【数2】
δ:圧縮変位、P:試験荷重、L:圧子長さ、E
T:圧縮弾性率(ヨコ弾性率)、E
L:繊維軸方向弾性率、d:炭素繊維直径。
【0111】
<炭素繊維の繊維強度>
炭素繊維の繊維強度(引張強度)は、JIS R 7608に従って計測した。
【0112】
<樹脂板(試験片)の調製方法>
実施例に記載のエポキシ樹脂原料(熱硬化性樹脂組成物)を混合し、真空中で脱泡後、4mm厚のSUS製スペーサーにより厚み4mmになるように設定したステンレス製モールド中に注入した。130℃の温度で1時間(参考例1では130℃で2時間)硬化させ、厚さ4mmの樹脂硬化物を得て、これを、所定のサイズに切り出し、熱硬化性樹脂組成物の曲げ弾性率、曲げ強度、及び曲げ破断伸度を測定するための樹脂板(試験片)とした。
<樹脂組成物の曲げ弾性率>
樹脂組成物の曲げ弾性率は、JIS K7171法に準じて、試験を実施した。
【0113】
<樹脂組成物の曲げ強度>
樹脂組成物の曲げ強度は、JIS K7171法に準じて、試験を実施した。
【0114】
<樹脂組成物の曲げ破断伸度>
樹脂組成物の曲げ破断伸度は、JIS K7171法に従って曲げ試験を実施した際に、樹脂板が破断した際の歪を破断伸度とした。
【0115】
≪材料≫
実施例及び比較例では、下記の材料を用いた。
【0116】
<炭素繊維>
強化繊維として、下記の炭素繊維材料A~Eを用いた:
・炭素繊維材料A:アクリロニトリル98.0モル%とメタクリル酸2.0モル%からなる共重合体をアンモニアで変性し、ポリマーの濃度が20質量%のジメチルスルホキシド溶液を作製した。この溶液をステンレス繊維フィルター(繊維径:4μm)およびガラス繊維フィルター(繊維径:0.1~3μm)を用いて2段濾過した後、温度35℃に調整し、直径0.15mm、孔数3000の紡糸口金を通して一旦空気中に吐出して約3mmの空間を走らせた後、温度5℃、濃度30%のDMSO水溶液中で凝固させた。凝固糸条を水洗後、5段の延伸浴で4倍に延伸しシリコーン系油剤を付与した後、130~160℃に加熱されたローラー表面に接触させて乾燥緻密化し、さらに0.39MPaの加圧スチーム中で3倍に延伸して単繊維繊度0.72dtex、総繊度2160dtexの繊維束を得た。それらの繊維束を4本合糸し、炭素繊維前駆体繊維束を得た。それらの炭素繊維前駆体繊維束を240~260℃の空気中で、比重1.25までに8%の延伸を行いそれ以降の領域で収縮させてトータル延伸比1.04で加熱し、比重が1.36の耐炎化繊維に転換した。ついで350~450℃の温度領域での昇温速度を300℃/分とし、この温度領域で7%の延伸を施した後、徐々に昇温速度を上げながら600℃で予備炭素化を行い、ついで、最高温度が1350℃の窒素雰囲気中で延伸率0.98で炭化して炭素繊維を得た。炭素化の昇温速度は1100℃/分であった。得られた炭素繊維を、30℃の硫酸アンモニウム水溶液中を通過させながら、トータルでの電気量が25C/gとなる条件で電解処理し、エポキシ系サイジング処理を行い、最終的な炭素繊維束(炭素繊維材料A)とした(繊維径5.2μm、繊維軸方向弾性率273GPa、ヨコ弾性率15GPa、繊維強度5660MPa)。
【0117】
・炭素繊維材料B:アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体をアンモニアで変性し、ポリマーの濃度が20質量%のジメチルスルホキシド溶液を作製した。この溶液をステンレス繊維フィルター(繊維径:4μm)およびガラス繊維フィルター(繊維径:0.1~3μm)を用いて2段濾過した後、温度35℃に調整し、直径0.15mm、孔数3000の紡糸口金を通して一旦空気中に吐出して約3mmの空間を走らせた後、温度5℃、濃度30%のDMSO水溶液中で凝固させた。凝固糸条を水洗後、5段の延伸浴で4倍に延伸しシリコーン系油剤を付与した後、130~160℃に加熱されたローラー表面に接触させて乾燥緻密化し、さらに0.39MPaの加圧スチーム中で3倍に延伸して単繊維繊度1.2dtex、総繊度3600dtexの繊維束を得た。それらの繊維束を8本合糸し、炭素繊維前駆体繊維束を得た。それらの炭素繊維前駆体繊維束を240~260℃の空気中で、比重1.25までに4%の延伸を行いそれ以降の領域で収縮させてトータル延伸比1.00で加熱し、比重が1.36の耐炎化繊維に転換した。ついで350~450℃の温度領域での昇温速度を300℃/分とし、この温度領域で5%の延伸を施した後、徐々に昇温速度を上げながら600℃で予備炭素化を行い、ついで、最高温度が1200℃の窒素雰囲気中で延伸率0.98で炭化して炭素繊維を得た。炭素化の昇温速度は1100℃/分であった。得られた炭素繊維を、30℃の硫酸アンモニウム水溶液中を通過させながら、トータルでの電気量が25C/gとなる条件で電解処理し、エポキシ系サイジング処理を行い、最終的な炭素繊維束(炭素繊維材料B)とした(繊維径7.0μm、繊維軸方向弾性率230GPa、ヨコ弾性率16GPa、繊維強度4960MPa)。
【0118】
・炭素繊維材料C:アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体をアンモニアで変性し、ポリマーの濃度が20質量%のジメチルスルホキシド溶液を作製した。この溶液をステンレス繊維フィルター(繊維径:4μm)およびガラス繊維フィルター(繊維径:0.1~3μm)を用いて2段濾過した後、温度35℃に調整し、直径0.15mm、孔数3000の紡糸口金を通して一旦空気中に吐出して約3mmの空間を走らせた後、温度5℃、濃度30%のDMSO水溶液中で凝固させた。凝固糸条を水洗後、5段の延伸浴で4倍に延伸しシリコーン系油剤を付与した後、130~160℃に加熱されたローラー表面に接触させて乾燥緻密化し、さらに0.39MPaの加圧スチーム中で3倍に延伸して単繊維繊度1.2dtex、総繊度3600dtexの繊維束を得た。それらの繊維束を8本合糸し、炭素繊維前駆体繊維束を得た。それらの炭素繊維前駆体繊維束を240~260℃の空気中で、比重1.25までに6%の延伸を行いそれ以降の領域で収縮させてトータル延伸比1.02で加熱し、比重が1.36の耐炎化繊維に転換した。ついで350~450℃の温度領域での昇温速度を300℃/分とし、この温度領域で7%の延伸を施した後、徐々に昇温速度を上げながら600℃で予備炭素化を行い、ついで、最高温度が1320℃の窒素雰囲気中で延伸率0.98で炭化して炭素繊維を得た。炭素化の昇温速度は1100℃/分であった。得られた炭素繊維を、30℃の硫酸アンモニウム水溶液中を通過させながら、トータルでの電気量が30C/gとなる条件で電解処理し、エポキシ系サイジング処理を行い、最終的な炭素繊維束(炭素繊維材料C)とした(繊維径7.0μm、繊維軸方向弾性率250GPa、ヨコ弾性率18GPa、繊維強度5450MPa)。
【0119】
・炭素繊維材料D:アクリロニトリル98.0モル%とアクリル酸1.0モル%とイタコン酸1.0モル%からなる共重合体をアンモニアで変性し、ポリマーの濃度が6質量%の塩化亜鉛水溶液を作製した。この溶液をステンレス繊維フィルター(繊維径:4μm)およびガラス繊維フィルター(繊維径:0.1~3μm)を用いて2段濾過した後、温度45℃に調整し、直径0.070mm、孔数24000の紡糸口金を通して温度5℃、濃度20%の塩化亜鉛水溶液中で凝固させた。凝固糸条を水洗後、5段の延伸浴で4倍に延伸しシリコーン系油剤を付与した後、130~160℃に加熱されたローラー表面に接触させて乾燥緻密化し、さらに0.06MPaの加圧スチーム中で3倍に延伸して単繊維繊度1.2dtex、総繊度28800dtexの、炭素繊維前駆体繊維束を得た。それらの炭素繊維前駆体繊維束を240~260℃の空気中で、比重1.25までに6%の延伸を行いそれ以降の領域で収縮させてトータル延伸比1.02で加熱し、比重が1.36の耐炎化繊維に転換した。ついで350~450℃の温度領域での昇温速度を300℃/分とし、この温度領域で7%の延伸を施した後、徐々に昇温速度を上げながら600℃で予備炭素化を行い、ついで、最高温度が1320℃の窒素雰囲気中で延伸率0.98で炭化して炭素繊維を得た。炭素化の昇温速度は1100℃/分であった。得られた炭素繊維を、30℃の硫酸アンモニウム水溶液中を通過させながら、トータルでの電気量が30C/gとなる条件で電解処理し、エポキシ系サイジング処理を行い、最終的な炭素繊維束(炭素繊維材料D)とした(繊維径7.0μm、繊維軸方向弾性率245GPa、ヨコ弾性率23GPa、繊維強度5150MPa)。
【0120】
・炭素繊維材料E:アクリロニトリル98.0モル%とアクリル酸1.0モル%とイタコン酸1.0モル%からなる共重合体をアンモニアで変性し、ポリマーの濃度が6質量%の塩化亜鉛水溶液を作製した。この溶液をステンレス繊維フィルター(繊維径:4μm)およびガラス繊維フィルター(繊維径:0.1~3μm)を用いて2段濾過した後、温度45℃に調整し、直径0.070mm、孔数24000の紡糸口金を通して温度5℃、濃度20%の塩化亜鉛水溶液中で凝固させた。凝固糸条を水洗後、5段の延伸浴で4倍に延伸しシリコーン系油剤を付与した後、130~160℃に加熱されたローラー表面に接触させて乾燥緻密化し、さらに0.06MPaの加圧スチーム中で3倍に延伸して単繊維繊度1.2dtex、総繊度28800dtexの炭素繊維前駆体繊維束を得た。それらの炭素繊維前駆体繊維束を240~260℃の空気中で、比重1.25までに6%の延伸を行いそれ以降の領域で収縮させてトータル延伸比1.02で加熱し、比重が1.36の耐炎化繊維に転換した。ついで350~450℃の温度領域での昇温速度を300℃/分とし、この温度領域で7%の延伸を施した後、徐々に昇温速度を上げながら600℃で予備炭素化を行い、ついで、最高温度が1550℃の窒素雰囲気中で延伸率0.96で炭化して炭素繊維を得た。炭素化の昇温速度は1100℃/分であった。得られた炭素繊維を、30℃の硫酸アンモニウム水溶液中を通過させながら、トータルでの電気量が30C/gとなる条件で電解処理し、エポキシ系サイジング処理を行い、最終的な炭素繊維束(炭素繊維材料E)とした(繊維径7.0μm、繊維軸方向弾性率270GPa、ヨコ弾性率25GPa、繊維強度4910MPa)。
【0121】
<熱硬化性樹脂組成物>
熱硬化性樹脂組成物のために、下記の材料を用いた:
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、JER828)
・エチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(共栄社化学株式会社、エポライト40E)
・トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(共栄社化学株式会社、エポライト100MF)
・ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(昭和電工株式会社、ショウフリーPETG)
・GAN:(日本化薬株式会社製 GAN(製品名))
・DICY:ジシアンジアミド(三菱化学(株)製、Dicy7)
・TDU:1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)(ピイ・ティ・アイ・ジャパン(株)製、オミキュア24)
【0122】
≪実施例1~4、比較例1~4、参考例1≫
実施例1~4、比較例1~4及び参考例1に係るトウプリプレグをそれぞれ製造し、これらのトウプリプレグを用いて製造した圧力容器の物性をそれぞれ評価した。
【0123】
<実施例1>
(トウプリプレグの製造)
炭素繊維材料Aに、下記の表2で示される組成を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、実施例1に係るトウプリプレグを製造した。具体的には、炭素繊維材料Aを樹脂組成物フィルムが付着したタッチロールに接触させ、炭素繊維材料Aに樹脂組成物を付着させた。樹脂組成物が付着した炭素繊維材料Aを100℃程度に加熱された加熱炉内に設置された含浸ロールを通過させることにより、樹脂組成物を炭素繊維材料Aに含浸し、紙管に巻き取ることで、トウプリプレグを作成した。トウプリプレグの樹脂含有率は、タッチロールに設置されたドクターブレードとタッチロール間のクリアランスを調整することにより30%質量程度に調整した。
【0124】
(圧力容器の製造)
得られた実施例1に係るトウプリプレグを用いて、圧力容器を製造した。具体的には、体積4.7LのAl製のライナーの外側表面に、上記のトウプリプレグを巻き付け、最高温度130℃及び1時間の条件で熱硬化処理を行うことによって、実施例1に係る圧力容器を得た。以下に詳細を示す。フィラメントワインド成形装置に4.5LのAl製ライナーを設置し、トウプリプレグをライナーに巻き付けた。設計時の圧力容器の積層構成を表1に示す。
【0125】
【0126】
(圧力容器の評価)
<圧力容器の破裂圧力>
圧力容器の破裂圧力は、KHKS0121(2016)に従って圧力容器中に水圧を印加して破裂試験を行い計測した。
【0127】
<圧力容器の引張強度発現率>
圧力容器の引張強度発現率(発現率)は、上述した破裂試験により得られた破裂圧力および圧力容器の積層構成、材料強度から算出した計算強度を用いて、以下の式を用いて算出した。
強度発現率(%)=(破裂圧力/計算強度)×100
【0128】
<実施例2>
炭素繊維材料Bを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0129】
<実施例3>
炭素繊維材料Cを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0130】
<実施例4>
炭素繊維材料Bを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0131】
<比較例1>
炭素繊維材料Aを用い、下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0132】
<比較例2>
炭素繊維材料Bを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0133】
<比較例3>
炭素繊維材料Dを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0134】
<比較例4>
炭素繊維材料Eを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0135】
<参考例1>
炭素繊維材料Bを用い、かつ下記の表2に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物を用いたこと、及び、熱硬化処理の条件を130℃及び2時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、参考例1に係る圧力容器を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0136】
【0137】
表2で見られるとおり、15~18GPaの圧縮弾性率を示す炭素繊維を有し、かつ、130℃で1時間にわたって硬化処理して計測したときに2.94GPa~3.06GPaの曲げ弾性率及び16~18%の曲げ破断伸度を示す熱硬化性樹脂組成物を有するトウプリプレグを用いて形成された実施例1~4に係る圧力容器は、95~97%の引張強度発現率を示した。
【0138】
これに対して、熱硬化性樹脂組成物の曲げ破断伸度が比較的低い場合(比較例1)、及び、熱硬化性樹脂組成物の曲げ弾性率が比較的低い場合(比較例2)には、15~16GPaの圧縮弾性率を有する炭素繊維を用いたにも関わらず、圧力容器の引張強度発現率は、比較的低く、89~93%であった。
【0139】
また、炭素繊維の圧縮弾性率が比較的高く23~25GPaであった場合(比較例3及び4)には、130℃で1時間にわたって硬化処理して計測したときに3.00GPaの曲げ弾性率及び17%の曲げ破断伸度を示す樹脂組成物を用いたにも関わらず、圧力容器の引張強度発現率は、比較的低く、81~84%であった。
【0140】
以上のとおり、プリプレグに含有される炭素繊維及び熱硬化性樹脂組成物の物性が本発明に係る特定範囲内である場合に、向上した強度及び耐圧性を有する圧力容器が得られた。