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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066309
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】気管挿管装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/267 20060101AFI20240508BHJP
   A61M 16/04 20060101ALI20240508BHJP
   A61B 1/01 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61B1/267
A61M16/04
A61B1/01 511
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175812
(22)【出願日】2022-11-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】598005579
【氏名又は名称】株式会社 協栄テクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】赤津 賢彦
(72)【発明者】
【氏名】本多 つよし
(72)【発明者】
【氏名】高島 敏之
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161FF28
4C161JJ02
4C161JJ03
(57)【要約】
【課題】簡便かつ迅速で安全な気管挿管を可能とする気管挿管装置を提供する。
【解決手段】気管挿管装置1は、気管内に挿管される気管チューブ2と、気管チューブ2に挿入される挿入部3とを備える。挿入部3は、気管チューブ2の先端部近傍の映像を取得する観察部4を有し、スタイレットとしての機能を備える。挿入部3が挿入された気管チューブ2は、喉頭部まで挿入されるまでは、整形された形状を保持する剛性を有し、声門17以深に挿入されて気管19の内壁20からの力を受けた場合には、内壁20に沿った形状となる柔軟性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管内に挿管される気管チューブと、
前記気管チューブに挿入される挿入部とを備え、
前記挿入部は、該挿入部が前記気管チューブに挿入された状態において、該気管チューブの先端部近傍の映像を取得するための観察部を有するとともに、該気管チューブを気管に導くスタイレットとしての機能を備え、
前記挿入部が挿入された前記気管チューブは、
喉頭部まで挿入されるまでは、前記装着挿入部が整形されたことにより形状を保持する剛性を有し、
声門以深に挿入されて気管の内壁からの力を受けた場合には、該内壁に沿った形状となる柔軟性を有することを特徴とする気管挿管装置。
【請求項2】
前記挿入部は、可撓性を有するフッ素樹脂製又はフッ素樹脂被膜を施した外被部と、前記外被部に挿入され、屈曲可能な金属シース部と、前記金属シース部に挿入され該挿入部の整形による屈曲を維持する芯金部と、前記金属シース部内に設けられ前記観察部に通じた伝送路とを備えることを特徴とする請求項1に記載の気管挿管装置。
【請求項3】
前記金属シース部は、一部又は全部が、形状記憶合金又は超弾性合金で形成した螺旋管で構成されることを特徴とする請求項2に記載の気管挿管装置。
【請求項4】
前記金属シース部は、一部又は全部が、ニチノール合金、チタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成したパイプ材に、螺旋状若しくはばね状とする加工、又はフレキシブル性をもたせる加工を施した円筒状部材で構成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の気管挿管装置。
【請求項5】
前記芯金部は、加工熱処理工程を用いて調質されたチタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成され、かつフッ素系樹脂で被覆されることを特徴とする請求項2に記載の気管挿管装置。
【請求項6】
前記外被部は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂で構成され、又は該フッ素系樹脂で表面皮膜が施された素材で構成されることを特徴とする請求項2に記載の気管挿管装置。
【請求項7】
前記観察部は、前記気管チューブの先端部の近傍を照明する照明手段と、該先端部の近傍の映像を取得するための撮像素子とを備えることを特徴とする請求項1に記載の気管挿管装置。
【請求項8】
前記観察部は、照明光伝送用及び画像伝送用の光ファイバを用いて構成されることを特徴とする請求項1に記載の気管挿管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管挿管に適した気管挿管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術等の際、全身麻酔を施す場合が生じる。この場合、麻酔された患者は自発呼吸を停止させられるため、外部から強制的に換気を行い、呼吸状態を擬似的に作り、維持する必要がある。一般的には、気管チューブ(気管内チューブ)と呼称される軟質の樹脂チューブを口腔又は鼻腔から挿入し、気管に設置せしめ、反対部の口腔外端部を通じ人工呼吸器に接続せしめる。
【0003】
この全身麻酔術における気管挿管の時間的猶予は、麻酔効果発現後の1~2分であり、この時間内で人工呼吸器への接続が必要となる。また、上記に限らず、事故や疾病等を原因として緊急に人工呼吸器に接続しなければならない事態も多く発生する。この場合も上記と同様に迅速な気管挿管と人工呼吸器への接続が必要となる。
【0004】
気管挿管手技は、心肺蘇生や長期人工呼吸器管理、全身麻酔等において必須の手技であるが、解剖学的に経路に個人差があったり、疾病により挿入が困難な場合があったりするので、熟練者や高額な設備を用いないと迅速な気管挿管が容易に行えない場合がある。
【0005】
挿管に際しては、気管チューブは、口腔、咽頭及び声門を介し気管に挿入設置される。挿管が確実に行える状態としては、口腔、咽頭、喉頭の軸が一致した直線上に声門が観察できることが理想であるが、通常の縦臥位では解剖学的に軸が一致することは無いため、スニッフィングポジション(Sniffing position)と呼称される丁度枕を用いた就寝体位のような状態から、頭頂部を肩側に反らせ、軸を一致させる。
【0006】
咽頭をこの状態で観察しても、喉頭蓋の背面に隠れ、声門は見えない。このため、実際の観察にあたっては,喉頭鏡と呼ばれる器具を用いて喉頭蓋谷にブレードの先端を当て、喉頭蓋を間接的に持ち上げ、喉頭展開を図り、声門を確認する(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この手順を経た後に、スタイレットと呼ばれる治具を気管チューブに挿入し、スタイレットの先端側に任意の曲がりを付与した後に喉頭鏡ブレードをガイドとしながら声門内に気管チューブを送り進めていく。声門突入後、スタイレットを気管チューブから引き抜き、気管チューブを送り、挿管を完了する。この後、人工呼吸用のバックを装着し送気を行い、聴診で食道挿管や片肺への換気となっていないか確認する。
【0008】
さらに、シリンジを用いて所定の空気量を気管チューブのカフに送り、膨らませ、これにより逆流等を防止する。最後に気管チューブの破損防止のため、バイトブロックを噛ませ、両者を専用のテープを用いて固定した後、患者の口角に気管チューブを専用のテープで固定する。
【0009】
このような手技には、迅速性と精密性が要求されるため、従来より様々な専用治具・機器が提案され実用化されている。一般的に多用されているものの一例であるビデオ喉頭鏡(例えば、特許文献2参照)は、喉頭鏡の先端にCCDカメラを取り付け、直接の目視なしに咽頭の展開状態を観察するものであり、様々な機種が販売され、普及しているが、視野は咽頭部迄であり、声門通過後の食道誤挿管等の事象は瞬時に判断し難い欠点がある。また、硬質喉頭鏡は歯牙に硬質ブレードを接触させ使用する形態となるため、患者の歯牙の状態や欠損状態によっては損傷を与えたり、使用が困難な場合があった。
【0010】
もう1つの例は、ファイバースコープと呼称される内視鏡型の機器である(例えば、特許文献3参照)。気管チューブ内に挿入し、声門通過後の患部観察まで可能であるが、スタイレットのような形状記憶性がなく、内視鏡と同等の操作で形状を維持しながら施術する必要があり、施術者の熟練性が求められ、汎用にできない欠点がある。いずれにしても、既存の機器は高額であり、必要とされる医療現場や救急設備に潤沢に装備し難い問題がある。
【0011】
[既存技術が抱える問題]
気管挿管手技は生命に直結するものであり、施術の容易化と安全性の向上が強く望まれる。この背景から様々な技法や治具が開発され改善が図られてきたが、現代においても最も手技の成否を分けるのは、事前の情報確認と術者の技能、経験値によるものが大きい。様々な治具機器が考案され活用されているが、用途の重大さに比べ効用の範囲が限定的であり、総合的に手技の効率や安全性を向上させるデバイスが存在しない。
【0012】
たとえば、硬性喉頭鏡はビデオカメラとモニタの具備により声門部の確認を容易とさせ、挿管開始時の視認性を高めたが、声門部通過後の内視鏡的確認は不可能であり、誤挿管等は防げない。軟性内視鏡においては、必要に応じ特定の部位を変形させることが可能であることに加え、挿管困難時の患部確認も可能ではあるものの施術には熟練した操作技術が必要である。
【0013】
かかる手技でのインシデントや事故は医療統計等に現れにくいものであることが推察されるが、かかる手技が必要とされる場合に必ずしも熟練者が臨場できない事案も考慮すると、一定の頻度で悲劇が生じている可能性も考えられる。臨床医療の現場からは既存の機器を凌駕した、操作が容易で熟達の要がなく安全で簡潔な気管挿管手技治具の登場が望まれている。
【0014】
病院内での医療行為としては、看護師の気管挿管手技の是非が長年議論されている。基本として外科病院内での気管挿管行為は、全身麻酔を必要とする手術を目的としていることが多く、基本的に計画が策定され準備された行為となる。予定され準備された気管挿管行為は主麻酔薬とともに鎮痛剤や筋弛緩薬等を併用し患者の状態管理と術後の回復等を見据えて行われる。
【0015】
この行為には非常に専門的な知見と技術が要されるため、挿管・抜管についても同様に慎重な配慮がなされている。また、有資格者たる医師であっても、実状は全ての医師が自身を持って実施しうる手技ではなく、的確な実技技能を有するのは麻酔科医師と救急外来医師等の一部程度に限定される傾向がある。
【0016】
このため、物理的には侵襲度の低い医療行為であるが、手技の速度と精度が生死に直結し、予後にも影響をもたらすため看護師の気管挿管手技は好ましくないと判断されている場合が多い。挿管行為は、緊急蘇生時を除き、厳密に計画され管理された許で行われるべき手技である。病院内での医療行為において実技技能を十二分に有する麻酔科医師であっても、現状の気管挿管手技治具に満足し全幅の信頼を寄せている訳ではなく、多くの医師が更に確実で情報量が多く安全度と迅速性がより優れた気管挿管手技治具の登場を望んでいる。
【0017】
救急救命の現場においては、従来は気管挿管手技の専門性から気管挿管を伴う換気は医師に限定されていたが、現在では救命率の向上と搬送時の様態の改善・維持に期待が生じるため、「医師による実施が不可能な病院前救護に於いて心肺機能停止状態という限定的な状況でのみ可能な蘇生行為」として認められるようになり、平成16年7月からは「事前及び事後のメディカルコントロール体制の整備を条件に、一定の講習及び病院実習を修了し、認定を受けた救急救命士」に正式に認められることとなった。
【0018】
医師不在の非熟練者の手技実施は片肺挿管や食道挿管等の瑕疵発生等の頻度を高めるが、緊急の蘇生行為として非常に有用である。緊急蘇生行為における挿管手技の制限緩和は蘇生救命率を引き上げるが、救急救命の現場においても既存の機器を凌駕した操作が容易で熟達の要がなく安全で簡潔な気管挿管手技治具の登場が望まれている。
【0019】
一部の救命救急車両に人工呼吸器や気管挿管用具が装備され、認定を受けた救急救命士が気管挿管行為を実行できる体制となったが、特に既存のビデオ喉頭鏡等の価格が高額で潤沢に配備ができず、急速な広がりを見せていない現実がある。救急現場での挿管は非常に困難である場合が想定され、たとえ麻酔科医が行っていても挿管困難な症例は少なくないと推定される。
【0020】
多くの場合、このような状況での挿管手技は、(直視型)喉頭鏡よりもビデオ喉頭鏡を用いたほうが容易で迅速であると思料されるが、現実としては、(直視型)喉頭鏡が救急救命士の認定仕様品となっており、逆にビデオ喉頭鏡の使用には追加の講習と実習が必要となっている。この事例は、ビデオ喉頭鏡の価格が過剰に高額であり潤沢に配備ができないことから生じているものとも推察され、デバイスの機能向上の他に価格も充分に低減する必要があることを示している。
【0021】
救急救命士の挿管資格認定においては、ダミー人形による訓練の他、医師立ち会い且つ患者承諾の上での実習訓練が行われているが、多くの場合資格取得後に手技を煩雑に行う機会がないため、習熟度を持続する事は困難である。この点でも既存の機器を凌駕した操作が容易で熟達の要がなく安全で簡潔な気管挿管手技治具の登場が望まれており、且つその利用の認可が望まれる。
【0022】
市民における救急救命(心肺蘇生=CPR)現場においては、器具や医薬品を用いずに行う一次救命処置(Basic Life Support;BLS)は、胸骨圧迫が基本となっており、気道確保やマウス・トゥ・マウスによる換気補助は「救助者が人工呼吸の訓練を受けており、それを行う技術と意思がある場合」とされている。医師や救命救急士が到着し、BLSの効果がない場合に行う気管挿管や酸素吸入・人工呼吸器接続等は二次救命処置(Advanced Life Support;ALS)と分類されるが、現代の都市部では自動体外式除細動器(AED)が普及しており、BLSのステージで市民がAEDを試行しているケースも増えている。
【0023】
ヒトの脳は常に酸素を必要としており、呼吸停止から4~6分程度で致命的な低酸素状況に陥る。一般に2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度であるが、4分では50%、5分では25%程度となるとされている。気道確保やマウス・トゥ・マウスによる換気実施は訓練を要する上に長時間の換気継続は困難である。また、現実に場面に直面した場合に感染症の懸念や毒物等による罹災懸念及び施術形態の心理的抵抗感からCPRを躊躇する傾向があると考えられるため、本来有用である換気の実施は努力義務に格下げされている側面もある。
【0024】
市民による挿管行為の是非は慎重に議論されるべき事象であるが、BLSの定義範疇を超えるAEDまでもが活用される中で有効な換気行為対策が行われないことは片手落ちとも考えられる。特に災害発生時や大規模事故の発生時若しくは郊外地域、離島地域等では市民のCPR行為時間と搬送時間が長くなることが想定され、せめて自己膨張式蘇生バック(バッグバルブマスク)等による用手換気併用が好ましいと想定される。究極は医師の指示に基づく訓練済み市民による挿管換気であり、これは最善の換気実施策となりうる。無換気による酸素欠乏の結果生じていた蘇生困難が改善され、救命後に脳の酸素欠乏の結果生じていた後遺症発現の低減にも有用であると思われる。この実現には、既存の機器を凌駕した、操作が容易で熟達の要がなく安全で簡潔な気管挿管手技治具の登場が不可欠となる。
【0025】
硬性喉頭鏡を用いた施術において歯牙の破折や脱臼、口腔内損傷等の傷害発生が一定の頻度で生じている。硬性喉頭鏡の使用においては、硬質ブレードが上顎前歯に接触し支点として作用させ得る構造的、物理的な欠点があり、たとえ健康な歯牙状態であっても、過大な荷重を受け脱臼や亜脱臼を生じさせたり、破折を生じさせたりするリスクを排除できない。
【0026】
これとは別に、現代では全身麻酔等が必要とされ、その手術に緊急性が伴わない場合は事前に歯科による検診と治療が準備的に行われ、術中並びに予後の感染症・合併症の低減が図られる。手術の迅速性が優先される場合はスプリントと称される個人専用のマウスピースを作成し装着させるか操作難易度の高い軟性喉頭鏡を用いた挿管手技となる。術後の免疫低下を考慮すれば歯牙や口腔状態の改善は好適であるが、改善や治療に時間がかかりスプリント制作においても即時性が叶わない場合がある。
【0027】
次善策として、気管挿管用としての前歯プロテクターが上市されているが、一般的な成人の歯牙構成に基づいてデザインされたものであり、必ずしも汎用的に適用できない欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2022-093553号公報
【特許文献2】特開2015-166019号公報
【特許文献3】特開2003-033318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
上述のように、硬性喉頭鏡(例えば、特許文献1参照)を用いた気管挿管は声門通過後の視覚的な確認ができないため、片肺挿管や食道挿管等の致命的な事故が防止できない。一方で気管挿管と同等の経口挿管行為ともみなすことができる胃等の内視鏡観察は、一般的な定期健康診断でも多用されるまで安全な検査行為となっている。いわゆる胃カメラの診療での気管への誤挿管事例はまず無く、この差異は声門通過後の内視が可能かどうかによって、極端な安全性の格差を生じさせているともみなせる。これを用途とした軟性喉頭鏡としてファイバースコープ製品が存在するが(例えば、特許文献2参照)、非常に高額であるとともに、操作に高度な技術が要求されるため、特に困難が予想される症例に限定された使用がなされている。
【0030】
いずれにおいても、硬性喉頭鏡は硬性ブレードにより歯牙や唇、舌、口腔内を傷つけるリスクがあるうえに、上顎前突にさえも対応が慎重にならざる得ない欠点がある。不慣れな者ほど固定屈曲したブレードを挿入する際に心理的な誤解が生じ頭部後屈を強めてしまう事象もあり、この場合頚椎の損傷や、歯牙の損傷に繋がりやすい傾向がある。さらに前歯が欠損している場合は、硬性喉頭鏡では当該部に喉頭鏡が埋没し位置関係が移動するため喉頭展開等に支障をきたしたり、歯茎を傷つけたりする懸念がもたれる。
【0031】
救急心肺蘇生時の現場では施術の容易さから、ラリンゲルチューブや食道閉鎖式エアウエイが優先的に試行される傾向があるが、場合により気道確保が困難で再挿管の時間を要したり、気管挿管に比べて胃内容物の逆流・誤嚥から気道を完全には保護できないことから誤嚥を生じさせたり、食道気管に後遺症を与える事例が散見される。気管挿管は最も確実な気道確保手法であり、簡便かつ迅速で安全な気管挿管を可能とする製品の使用で気管挿管の施術の難易度が低減すれば、最速で最も確実で効果の高い救急心肺蘇生の試行が実現される。
【0032】
市民での救急心肺蘇生時の現場ではAED(自動体外式除細動器)の普及と使用法受講経験者の増大とともに活用されている。反面で換気(人工呼吸)は自動機器が存在していないため放置されている。都市部に関しては、救急隊の到着は数分程度と想定されるためAEDと胸骨圧迫(心臓マッサージ)を主とした心肺蘇生の試行が妥当と思われるが、農山漁村地域や山間部離島等の非都市部においては救急隊の到着と搬送に相当の時間を要することが想像され院前時間が長時間に及ぶことが懸念される。
【0033】
この場合は特にAEDと胸骨圧迫に加え気道確保、換気の併用が望まれる。この状況は大規模な災害や戦乱時にも同様であり、簡便且つ迅速で安全に気管挿管行為を可能とする製品の普及と救急心肺蘇生時を限定とした資格市民での活用が図られれば人命の救済の機会が増大し、血中酸素濃度低下により失われていく人命の救済に寄与する。
【0034】
以上の点に鑑み、本発明の目的は、簡便かつ迅速で安全な気管挿管を可能とする気管挿管装置を提供することにより、臨床医療での事故を防止しつつ器官挿管に迅速性と検査性を付与し、もって予後の改善をもたらすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明の気管挿管装置は、
気管内に挿管される気管チューブと、
前記気管チューブに挿入される挿入部とを備え、
前記挿入部は、該挿入部が前記気管チューブに挿入された状態において、該気管チューブの先端部近傍の映像を取得するための観察部を有するとともに、該気管チューブを気管に導くスタイレットとしての機能を備え、
前記挿入部が挿入された前記気管チューブは、
喉頭部まで挿入されるまでは、前記挿入部が整形されたことにより形状を保持する剛性を有し、
声門以深に挿入されて気管の直線状の内壁からの力を受けた場合には、該内壁に沿った形状となる柔軟性を有することを特徴とする。
【0036】
本発明において、気管挿管を行う場合には、無負荷状態でやや湾曲した状態を有しかつ容易に変形可能な気管チューブに、スタイレット機能を有する挿入部が挿入される。このとき、気管チューブは、挿入部の挿入によってほぼ直線状に形状保持され、かつ先端部が、施術者の多様な意図に応じ任意の角度・形状に整形されその形状が維持される。
【0037】
この状態において、気管チューブの弾性・形状回復力と挿入部の剛性が拮抗しているので、この拮抗状態を崩すほどの外力が加わらない限り、該任意形状は維持される。そして、挿入部が挿入された気管チューブは、この整形形状が維持された状態で、先端部が、喉頭の声門部に到達し、挿入される。
【0038】
この段階までは、挿入部は、その剛性により気管チューブを声門部まで術者が導くのを補助する点では従来のスタイレットと同様の機能を果たす。また、このとき、挿入部先端の観察部により得られる映像は、気管チューブを、その先端が、気管の声門を経由する方向に術者が挿入してゆくのを補助する。
【0039】
その後、挿入部が挿入された気管チューブは、声門以深に挿入されて気管の直線状の内壁から力を受けると、挿入部の柔軟性により、気管チューブの弾性力と挿入部の内部応力との拮抗が崩れ、該内壁に沿った形状となる。さらに内壁に沿って所定位置まで挿入されると、カフの膨張や、気管チューブの固定などの所定の措置とともに、挿入部の気管チューブからの引き抜きが行われ、気管チューブの挿管が完了する。
【0040】
この間、挿入部先端の観察部で得られる映像により、食道誤挿管及び片肺挿管の防止や、気管チューブの正しい位置への留置が図られる。また、挿入部の気管チューブからの引き抜きは、挿入部が柔軟性を有するので、支障なく行われる。
【0041】
したがって、本発明によれば、観察部で得られる映像により気管チューブの挿管状況をモニタしながら、特に熟練を要することなく、確実かつ容易に気管チューブの挿管を行うことができる。これにより、簡便かつ迅速で安全な気管挿管を可能とする気管挿管装置を提供し、臨床医療での事故を防止しつつ器官挿管に迅速性と検査性を付与し、もって良好な予後をもたらすことができる。
【0042】
本発明において、前記挿入部は、可撓性を有するフッ素樹脂製又はフッ素樹脂被膜を施した外被部と、前記外被部に挿入され、屈曲可能な金属シース部と、前記金属シース部に挿入され、該挿入部の変形による屈曲を許容する芯金部と、前記金属シース部内に設けられ、前記観察部に通じる伝送路とを備えてもよい。
【0043】
これによれば、外被部がフッ素樹脂の表面を有するため、気管チューブに対する挿入部の潤滑性が高いので、気管チューブに対する挿入部の挿入や、気管チューブからの挿入部の抜去を、スムーズに行うことができる。また、観察部に通じる伝送路を、金属シース部により保護することができる。また、主として芯金部により、スタイレットとしての機能を挿入部に付与することができる。
【0044】
この場合、前記金属シース部は、一部又は全部が、形状記憶合金又は超弾性合金で形成した螺旋管で構成されてもよい。
【0045】
これによれば、螺旋管が形状記憶合金で形成される場合には、使用により塑性変形を生じ屈曲してしまった螺旋管の部分を、再生消毒時等の加熱行為による形状記憶機能の発揮により、製品の初期形状に復帰させることができる。
【0046】
また、一般の金属材料で螺旋管が形成される場合には、施術時に螺旋管に付与される形状変形により、螺旋管が断面方向に容易に潰れて伝送路の断裂等を引き起こすことが憂慮されるが、螺旋管を超弾性合金で形成することにより、螺旋管の断面方向の変形を低減させ、断裂を防止することができる。
【0047】
また、前記金属シース部は、一部又は全部が、ニチノール合金、チタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成したパイプ材に、螺旋状若しくはばね状とする加工、又はフレキシブル性をもたせる加工を施した円筒状部材で構成されてもよい。
【0048】
これによれば、可撓性を付与しつつ、構造として横断面方向への座屈や変形を防止した金属シース部を構成することができる。また、挿入部が挿入された気管チューブに要求される上述の任意形状を保持する剛性と気管内壁に沿った形状となる柔軟性とを容易に達成することができる。
【0049】
また、前記芯金部は、加工熱処理工程を用いて調質されたチタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成され、かつフッ素系樹脂で被覆されてもよい。これによれば、これら金属の硬度と形状保持特性を適切に選択することにより、上記剛性及び柔軟性を、さらに容易に達成することができる。
【0050】
また、前記外被部は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂で構成され、又は該フッ素系樹脂で表面皮膜が施された素材で構成されてもよい。
【0051】
これによれば、上述の気管チューブとの潤滑性を確実に高めることができる。すなわち、上述の気管チューブからの挿入部の引き抜き時に、総じてやや粘着性と摩擦性を有するシリコン系樹脂が多用される気管チューブに対して最良の潤滑性を有用に発揮させ、抜去を容易化することができる。他の素材を用いる場合には、抵抗を生じ、気管チューブの留置場所の移動を引き起こしたり、引き抜きに不要な時間を要したりすることが想定される。
【0052】
また、前記観察部は、前記気管チューブの先端部の近傍を照明する照明手段と、該先端部の近傍の映像を取得するための撮像素子とを備え、あるいは照明光伝送用及び画像伝送用の光ファイバを用いて構成されてもよい。これによれば、観察部を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の一実施形態に係る気管挿管装置を模式的に示す斜視図である。
図2図1の気管挿管装置の横断面図である。
図3図1の気管挿管装置における挿入部が挿入された気管チューブが、スニッフィングポジションにある挿管対象者の喉頭の声門部まで挿入されたときの状態を説明するための説明図である。
図4図1の気管挿管装置による挿管手技が完了したときの状態を示す模式図である。
図5】硬性喉頭鏡では、硬質ブレードが上顎前歯に接触し、これを支点として作用し得る構造的、物理的な欠点を有することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る気管挿管装置の斜視図である。図1に示すように、この気管挿管装置1は、挿管対象者の気管内に挿管される気管チューブ2と、気管チューブ2に挿入される挿入部3とを備える。
【0055】
気管チューブ2は、挿入部3が挿入されていない無負荷状態では、円の1/3程度の部分で構成される円弧状の形状を有する。気管チューブ2は、変形された場合には、その巻き癖と素材の弾性により、無負荷時は円弧状の形状に復帰する形状復帰応力を有する。
【0056】
挿入部3は、気管チューブ2に挿入された状態において気管チューブ2の先端部近傍の映像を取得するための観察部4を備えるとともに、気管チューブ2を気管に導くためのスタイレットとしての機能を有する。このスタイレットの能は、挿管手技時には、気管チューブ2の形状は先端側の一部を除き、直線状であることが好ましいことから、気管チューブ2に挿入されて気管チューブ2をこの形状に成形する機能である。
【0057】
挿入部3が挿入された気管チューブ2は、喉頭部まで挿入されるまでは、整形された形状を保持する剛性を有する。すなわち、この場合、挿入部3は、本来のスタイレットとしての機能を果たす。図1では、気管チューブ2が、挿入部3が挿入されて、上記の任意形状を呈している状態が示されている。
【0058】
一方、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、声門以深に挿入されて気管の直線状の内壁からの力を受けた場合には、該内壁に沿った形状となる柔軟性を有する。すなわち、この場合、挿入部3は、気管チューブ2が上記の任意形状を維持することなく、内壁に沿った形状となるように機能する。
【0059】
図2は、挿入部3の断面を示す。図2に示すように、挿入部3は、可撓性を有するフッ素樹脂製の又はフッ素樹脂被膜を有する外被部5と、外被部5に挿入され、屈曲可能な金属シース部6と、金属シース部6に挿入され、挿入部3の塑性変形による屈曲を許容する芯金部7と、金属シース部6内に設けられ、観察部4に通じた伝送路8とを備える。
【0060】
金属シース部6は、一部又は全部が、形状記憶合金又は超弾性合金で形成した螺旋管で構成される。具体的には、金属シース部6は、一部又は全部が、ニチノール合金、チタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成したパイプ材に、螺旋状若しくはばね状とする加工、又はフレキシブル性をもたせる加工を施した円筒状部材で構成される。
【0061】
本実施形態では、金属シース部6は、その先端側と後端側に、かかる円筒状部材で構成された先端側螺旋管部9及び後端側螺旋管部10を有する。
【0062】
外被部5は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂で構成され、又は該フッ素系樹脂で表面皮膜が施された素材で構成される。観察部4は、気管チューブ2の先端部の近傍を照明する照明手段と、該先端部の近傍の映像を取得するための撮像素子とを備える。
【0063】
挿入部3の後端部には、気管チューブ2の先端から挿入部3が挿管対象者の体内に露出するのを防止するストッパ11が設けられる。ストッパ11には、挿入部3の後端部が最適位置に位置するようにストッパ11を固定するための手動ネジ12が設けられる。また、挿入部3の後端には、該後端を閉塞するエンドキャップ13が設けられる。観察部4に通じた伝送路8は、エンドキャップ13を介して外部に導出される。
【0064】
この構成において、気管チューブ2を挿管対象者の気管内に挿管する際には、まず、無負荷状態で円弧形状を有しかつ容易に弾性変形可能な気管チューブ2に、スタイレット機能を有する挿入部3が、気管チューブ2後端部のコネクタ14がストッパ11に当接するまで挿入される。挿入部3は、気管チューブ2に対して、その先端から突出しない最適な挿入位置に位置決めされ、手動ネジ12で固定される。
【0065】
このとき、気管チューブ2は、挿入部3の挿入によってほぼ直線状に整形保持される。そして、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、その先端部が、スニッフィングポジションにある挿管対象者の喉頭部までの挿入に適した任意形状となるように、挿入部3が気管チューブ2の形状回復力に抗して整形される。この任意形状は、例えば、先端部が35°~90°程度曲がった図1に示すような形状である。
【0066】
この状態において、気管チューブ2の形状回復力と挿入部3の整形後の剛性が拮抗しているので、この拮抗状態を崩すほどの外力が加わらない限り、気管チューブ2の該任意形状は維持される。そして、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、この任意形状が維持された状態で、先端部が、スニッフィングポジションにある挿管対象者15の喉頭の声門部16まで挿入される。
【0067】
図3は、挿入部3が挿入された気管チューブ2が、スニッフィングポジションにある挿管対象者15の喉頭の声門部16まで挿入されたときの状態を示す。この状態では、気管チューブ2が上記任意形状に維持されており、気管チューブ2の先端部は、術者(手技者)の意図に応じた整形状態となっている。
【0068】
すなわち、この段階までは、挿入部3は、その剛性により気管チューブ2を声門部16まで術者(手技者)が導くのを補助する点では、従来のスタイレットと同様の機能を果たす。次に術者は、気管チューブ2の先端を、声門17を経由する方向に挿入してゆく。このとき、挿入部3先端の観察部4により得られる映像により、食道18への誤挿管及び片肺挿管の防止が図られる。
【0069】
挿入部3が挿入された気管チューブ2は、その後、声門17以深に挿入されて気管19の直線状の内壁20から力を受けると、柔軟性により、整形形状を維持していた拮抗関係が崩れ、内壁20に沿った形状となる。
【0070】
さらに、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、内壁20に沿って、図4に示すような所定位置まで挿入され、カフ21の膨張や、気管チューブ2の挿管対象者15への固定などの所定の処置がなされた後、挿入部3の気管チューブ2からの引き抜きが行われる。
【0071】
この挿入部3の引き抜きは、挿入部3の外被部5が、可撓性を有するフッ素樹脂製若しくはフッ素樹脂被膜を有するため潤滑が好適であり、容易に行われる。この挿入部3の引き抜きにより、気管チューブ2の先端部が気管19内に留置される。そして、挿管対象者15は通常の仰臥位とされて、挿管が完了する。図4には、この挿管が完了したときの状態が示されている。
【0072】
以上のように、本実施形態の気管挿管装置1によれば、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、喉頭部(声門部16)まで挿入する際には整形による任意形状を保持する剛性を有し、その後の声門17以深に挿入する際には気管19の内壁20に沿った形状となる柔軟性を有するので、簡便かつ迅速で安全な気管挿管を実現することができる。
【0073】
すなわち、挿入部3が挿入された気管チューブ2は、自由に任意の屈曲形状に整形して術者の意図する挿管ルートに沿った挿管を容易に実現できるとともに、過大な力を受けると容易に変形して未然に傷害の発生を防止することができる。
【0074】
また、図5に示すように、従来の硬性喉頭鏡22は、硬質ブレード23が、上顎前歯24に接触し、上顎前歯24を支点として作用し得るという構造的、物理的な欠点があるとともに硬質ブレード23が歯牙や口腔内組織と接触し易いのに対し、気管挿管装置1によれば、上記の意図する挿管ルートに沿った挿管と変形容易性(柔軟性)により、歯牙欠損や揺動歯等を有する挿管対象者15に対しても容易に挿管手技を遂行することができる。
【0075】
また、蘇生時等で緊急に挿管を要するが歯牙状態が悪い場合であっても、適用条件が広範囲であるため、躊躇することなく挿管手技を実行することができる。特に、高齢化が進む諸国では、歯牙欠損や歯牙状態の悪い要救護者が増加するため、有用であると思料される。
【0076】
また、挿入部3は、上述の外被部5、金属シース部6、芯金部7、及び伝送路8とを備えるので、気管チューブ2に対する挿入部3の挿入や、挿入部3が気管チューブ2に挿入された状態での挿入部3及び気管チューブ2の塑性変形、気管チューブ2からの挿入部3の引き抜きを、スムーズに行うことができる。
【0077】
また、観察部4に通じる伝送路8を、金属シース部6により保護することができる。また、主として芯金部7により、スタイレットとしての機能を挿入部3に付与することができる。
【0078】
また、金属シース部6の一部又は全部が、形状記憶合金で形成した螺旋管で構成される場合には、使用により塑性変形が生じて屈曲した螺旋管の部分を、挿入部3の消毒時等の加熱による形状記憶合金の形状記憶機能の発揮により、初期の形状に復帰させることができる。
【0079】
また、金属シース部6の一部又は全部の螺旋管が、一般の金属材料で形成される場合には、施術時に螺旋管に付与される形状変形により、螺旋管が断面方向に容易に潰れて伝送路8の断裂等を引き起こすことが憂慮されるところであるが、螺旋管が超弾性合金で形成される場合には、螺旋管の断面方向の変形を低減させ、伝送路8の断裂を防止することができる。
【0080】
また、金属シース部6の一部又は全部について、ニチノール合金等で構成したパイプ材に、螺旋状等とする加工を施した円筒形状の部材で構成されるので、可撓性を有しつつ、構造的に横断面方向への座屈や変形を防止することができる。また、挿入部3が挿入された気管チューブ2に要求される上述の任意形状を保持する剛性と、気管19の内壁20に沿った形状となる柔軟性とを容易に達成することができる。
【0081】
また、芯金部7は、加工熱処理工程を用いて調質されたチタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成され、かつフッ素系樹脂で被覆されるので、これらの金属の硬度と形状保持特性を適切に選定・調整することにより、上述の剛性及び柔軟性を極めて広範囲な選択肢から選択可能であり、術者の嗜好や使用する気管チューブ2の特性に応じて提供できるため、特に実用に好適である。
【0082】
また、外被部5は、フッ素系樹脂若しくは該フッ素系樹脂で表面皮膜が施された素材で構成されるので、気管チューブ2との潤滑性を確実に高めることができる。これにより、挿入部3の気管チューブ2からの引き抜きに際し、総じてやや粘着性と摩擦性を有するシリコン系樹脂が多用される気管チューブ2に対して最良の潤滑性を有用に発揮させ、抜去を容易とすることができる。
【0083】
また、観察部4は、気管チューブ2の先端部の近傍を照明する照明手段と、該先端部の近傍の映像を取得するための撮像素子とを具備するため、明瞭な観察を提供する。
【0084】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、観察部4は、照明光伝送用及び画像伝送用の光ファイバを用いて構成してもよい。この場合、観察部4が照明手段や撮像素子で構成される場合と異なり、発熱が無いという利点を有する。また、気管挿管装置1は、経鼻気管挿管を行う場合にも、経口気管挿管の場合と同様の利点を享受しつつ利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1…気管挿管装置、2…気管チューブ、3…挿入部、4…観察部、5…外被部、6…金属シース部、7…芯金部、8…伝送路、9…先端側螺旋管部、10…後端側螺旋管部、11…ストッパ、12…手動ネジ、13…エンドキャップ、14…コネクタ、15…挿管対象者、16…声門部、17…声門、18…食道、19…気管、20…内壁、21…カフ、22…硬性喉頭鏡、23…硬質ブレード、24…上顎前歯。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-06-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管内に挿管される気管チューブと、
前記気管チューブに挿入される挿入部とを備え、
前記挿入部は、該挿入部が前記気管チューブに挿入された状態において、該気管チューブの先端部近傍の映像を取得するための観察部を有するとともに、該気管チューブを気管に導くスタイレットとしての機能を備え、
前記挿入部が挿入された前記気管チューブは、
喉頭部まで挿入されるまでは、前記挿入部が整形されたことにより形状を保持する剛性を有し、
声門以深に挿入されて気管の内壁からの力を受けた場合には、該内壁に沿った形状となる柔軟性を有し、
前記挿入部は、可撓性を有するフッ素樹脂製又はフッ素樹脂被膜を施した外被部と、前記外被部に挿入され、屈曲可能な金属シース部と、前記金属シース部に挿入され該挿入部の整形による屈曲を維持する芯金部と、前記金属シース部内に設けられ前記観察部に通じた伝送路とを備えることを特徴とする気管挿管装置。
【請求項2】
前記金属シース部は、一部又は全部が、形状記憶合金又は超弾性合金で形成した螺旋管で構成されることを特徴とする請求項に記載の気管挿管装置。
【請求項3】
前記金属シース部は、一部又は全部が、ニチノール合金、チタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成したパイプ材に、螺旋状若しくはばね状とする加工、又はフレキシブル性をもたせる加工を施した円筒状部材で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の気管挿管装置。
【請求項4】
前記芯金部は、加工熱処理工程を用いて調質されたチタン若しくはチタン合金、又はステンレス鋼で構成され、かつフッ素系樹脂で被覆されることを特徴とする請求項に記載の気管挿管装置。
【請求項5】
前記外被部は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂で構成され、又は該フッ素系樹脂で表面皮膜が施された素材で構成されることを特徴とする請求項に記載の気管挿管装置。
【請求項6】
前記観察部は、前記気管チューブの先端部の近傍を照明する照明手段と、該先端部の近傍の映像を取得するための撮像素子とを備えることを特徴とする請求項1に記載の気管挿管装置。
【請求項7】
前記観察部は、照明光伝送用及び画像伝送用の光ファイバを用いて構成されることを特徴とする請求項1に記載の気管挿管装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
本発明の気管挿管装置は、
気管内に挿管される気管チューブと、
前記気管チューブに挿入される挿入部とを備え、
前記挿入部は、該挿入部が前記気管チューブに挿入された状態において、該気管チューブの先端部近傍の映像を取得するための観察部を有するとともに、該気管チューブを気管に導くスタイレットとしての機能を備え、
前記挿入部が挿入された前記気管チューブは、
喉頭部まで挿入されるまでは、前記挿入部が整形されたことにより形状を保持する剛性を有し、
声門以深に挿入されて気管の内壁からの力を受けた場合には、該内壁に沿った形状となる柔軟性を有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
本発明において、前記挿入部は、可撓性を有するフッ素樹脂製又はフッ素樹脂被膜を施した外被部と、前記外被部に挿入され、屈曲可能な金属シース部と、前記金属シース部に挿入され該挿入部の整形による屈曲を維持する芯金部と、前記金属シース部内に設けられ前記観察部に通じた伝送路とを備える。