(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066403
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】炭素材料分散液、これを用いた二次電池用負極用スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 43/40 20060101AFI20240508BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240508BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20240508BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240508BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240508BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240508BHJP
A01N 43/707 20060101ALI20240508BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A01N43/40 101L
H01M4/62 Z
H01B1/24 A
C09D17/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N43/707
A01N25/04 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069029
(22)【出願日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2022175139
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】早川 敬之
(72)【発明者】
【氏名】松島 良介
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 聡
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
【テーマコード(参考)】
4H011
4J037
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA03
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB09
4H011BC09
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA15
4H011DF04
4H011DH02
4J037AA01
4J037CB01
4J037CB11
4J037CB19
4J037CB21
4J037CB26
4J037CC02
4J037DD05
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4J037DD24
4J037DD30
4J037FF23
5G301DA18
5G301DA20
5G301DA32
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB03
5H050CB11
5H050DA03
(57)【要約】
【課題】分散液の他の配合成分に悪影響を及ぼすことなく、広範囲の細菌、カビ、酵母などの微生物に対し有効、かつ、どのような環境下であっても、長期に亘って少量で防腐・抗菌効果及びその持続性が高く、これにより分散性と保存安定性を高度に両立できる炭素材料分散液、この分散液を用いた、リチウムイオン電池などの電池・電極の製造に好適となる二次電池用負極用スラリー組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の炭素材料分散液は、少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体とを含有する炭素材料分散液であって、前記防腐剤は、トリアジン系化合物と、下記A群から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする炭素材料分散液。A群:ヨードプロパギル系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、オキシキノリン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ジチオール系化合物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体とを含有する炭素材料分散液であって、前記防腐剤は、トリアジン系化合物と、下記A群から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする炭素材料分散液。
A群:有機硫黄系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物、ハロアリルスルホン系化合物、ヨードプロパギル系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、8-オキシキノリン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ジチオール系化合物、ピリジンオキシド系化合物、ニトロプロパン系化合物、有機スズ系化合物、フェノール系化合物、第4アンモニウム塩系化合物、チアジン系化合物、アニリド系化合物、アダマンタン系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、ブロム化インダノン系化合物、ベンジルブロムアセテート系化合物、無機塩系化合物
【請求項2】
前記トリアジン系化合物の含有量が分散液全量に対して、0.001~0.2質量%であり、防腐剤の合計含有量が分散液全量に対して、0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の炭素材料分散液。
【請求項3】
前記防腐剤が、フザリウム(Fusarium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デルフチア(Delftia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、リゾビウム(Rhizobium)属(旧来Agrobacterium radiobacter)、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ストマトコッカス(Stomatococcus)属、プラノコッカス(Planococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、デイノコッカス(Deinococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ルーコノストク(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、ゲメラ(Gemella)属、ペプトコッカス(Peptococcus)属、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、コプロコッカス(Coprococcus)属、サルシナ(Sarcina)属、バチラス(Bacillus)属、スポロラクトバチラス(Sporolactobacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、デサルフォトマキュラム(Desulfotomaculum)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、オスシロスピラ(Oscillospira)属、ラクトバチラス(Lactobacillus)属、リステリア(Listeria)属から選ばれる少なくとも1種に対して防腐効果を示す請求項1又は2記載の炭素材料分散液。
【請求項4】
請求項1又は2記載の炭素材料分散液を含むことを特徴とする二次電池用負極用スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌やカビ等の繁殖等を防止して分散性、保存安定性を向上させることができる炭素材料分散液、これを用いたリチウムイオン電池などの電極・電池の製造に好適となる二次電池用負極用スラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、電力蓄電、及び情報機器などの様々な分野において、二次電池が広く用いられている。この二次電池の電極材料にカーボンナノチューブを含む分散液、これを二次電池の電極などに用いることにより、良好な導電性能、電極抵抗を低減でき少量で効率的に導電ネットワークを形成することができるので、数多くの提案がなされている。また、二次電池の電極は、カーボンナノチューブを含む分散液、導電材、活物質、バインダー等を含有している電極層形成用スラリー等を集電板に塗工することにより製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、非水電解質二次電池の負極合剤スラリーとして、活物質である表面改質天然黒鉛と、カーボンナノチューブ分散液と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを水に分散させたスラリーが開示されている。
【0004】
このような水系のスラリーの場合、時間経過や保存環境などによって、腐食したり、カビが発生したりするなど、長期保存に際して課題を有するものである。
【0005】
そのため、水系のスラリーの防腐剤や殺菌剤として、酸、塩、イソチアゾリン系防腐剤、アルコール類等を用いる提案(例えば、特許文献2参照)、アルコール類、塩素類、酸類、アルカリ類、窒素含有有機硫黄系化合物等を用いる提案(例えば、特許文献3参照)、イソチアゾリン化合物(CIT,MIT,OIT,BIT)、更にピリチオン化合物との併用の提案(例えば、特許文献4参照)などがなされている。
【0006】
しかしながら、これらの特許文献2~4に記載の防腐剤や殺菌剤などによっても、用いるカーボンナノチューブ、炭素材料種、配合成分種等によって、また、製造環境、保存環境などによってカビや菌の発生が稀にあり、分散性や保存安定性に不具合を生じるなどの課題があるのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-195143号公報(特許請求の範囲及び実施例等)
【特許文献2】国際公開第2015/16283号(特許請求の範囲及び実施例等)
【特許文献3】特開2011-181195号公報(特許請求の範囲及び実施例等)
【特許文献4】国際公開第2012/26462号(特許請求の範囲及び実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題等について解消しようとするものであり、菌やカビ等の繁殖等を防止して分散性、保存安定性を向上させることができる炭素材料分散液、これを用いたリチウムイオン電池などの電極・電池の製造に好適となる二次電池用負極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の課題等について鋭意検討した結果、少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、特定の防腐剤と、液媒体とを含む炭素材料分散液とすることなどにより、上記目的の炭素材料分散液、この分散液を用いた、リチウムイオン電池などの電池・電極製造に好適となる二次電池用負極用スラリー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明の炭素材料分散液は、少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体とを含有する炭素材料分散液であって、前記防腐剤は、トリアジン系化合物と、下記A群から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする。
A群:有機硫黄系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物、ハロアリルスルホン系化合物、ヨードプロパギル系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、8-オキシキノリン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ジチオール系化合物、ピリジンオキシド系化合物、ニトロプロパン系化合物、有機スズ系化合物、フェノール系化合物、第4アンモニウム塩系化合物、チアジン系化合物、アニリド系化合物、アダマンタン系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、ブロム化インダノン系化合物、ベンジルブロムアセテート系化合物、無機塩系化合物
前記トリアジン系化合物の含有量が分散液全量に対して、0.001~0.2質量%であり、防腐剤の合計含有量が分散液全量に対して、0.3質量%以下であることが好ましい。
前記防腐剤が、フザリウム(Fusarium)属,セルロモナス(Cellulomonas)属,デルフチア(Delftia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、リゾビウム(Rhizobium)属(旧来Agrobacterium radiobacter)、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ストマトコッカス(Stomatococcus)属、プラノコッカス(Planococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、デイノコッカス(Deinococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ルーコノストク(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、ゲメラ(Gemella)属、ペプトコッカス(Peptococcus)属、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、コプロコッカス(Coprococcus)属、サルシナ(Sarcina)属、バチラス(Bacillus)属、スポロラクトバチラス(Sporolactobacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、デサルフォトマキュラム(Desulfotomaculum)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、オスシロスピラ(Oscillospira)属、ラクトバチラス(Lactobacillus)属、リステリア(Listeria)属から選ばれる少なくとも1種に対して防腐効果を示すことが好ましい。
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、少なくとも、上記組成の炭素材料分散液を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、菌やカビ等の繁殖等を防止して分散性、保存安定性を向上させることができる炭素材料分散液、これを用いたリチウムイオン電池などの電極・電池の製造に好適となる二次電池用負極用スラリー組成物を提供することができる。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0013】
本発明の炭素材料分散液は、少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体とを含有する炭素材料分散液であって、前記防腐剤は、トリアジン系化合物と、下記A群から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とするものである。
A群:有機硫黄系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物、ハロアリルスルホン系化合物、ヨードプロパギル系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、8-オキシキノリン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ジチオール系化合物、ピリジンオキシド系化合物、ニトロプロパン系化合物、有機スズ系化合物、フェノール系化合物、第4アンモニウム塩系化合物、チアジン系化合物、アニリド系化合物、アダマンタン系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、ブロム化インダノン系化合物、ベンジルブロムアセテート系化合物、無機塩系化合物
【0014】
〈カーボンナノチューブ(CNT)〉
本発明に用いるカーボンナノチューブ(CNT)としては、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層CNT、二層又は三層以上の多層に巻いた多層CNTのいずれも用いることができる。
また、カーボンナノチューブの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されず、これらを各単独又は二種以上組み合わせ(以下、単に「少なくとも1種」という)であってもよい。
【0015】
更に、カーボンナノチューブの平均外径は、分散液の粘度、導電性、安定性の点から、1nm以上90nm以下であることが好ましく、3nm以上30nm以下であることがより好ましく、3nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。
本発明において、カーボンナノチューブの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数の外形の算術平均値をいう。
また、本発明に用いるカーボンナノチューブの純度は、90~100質量%が好ましく、特に95~100質量%が好ましい。なお、カーボンナノチューブの純度は、JIS K 1469やJIS K 6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出される。
【0016】
具体的に用いることができるカーボンナノチューブ(CNT)としては、例えば、Nanocyl社製のNC7000(平均外径10nm)、バイエル社製のBaytubesC150P(平均外径11nm)、Cnano社製のFloTube9000(平均外径19nm)、FloTube7320(平均外径9nm)、FloTube7010(平均外径9nm)、FloTube6810(平均外径8nm)、FloTube6120(平均外径8nm)、FloTube6100(平均外径8nm)、FloTube2020(平均外径4nm)、名城ナノカーボン社製のMEIJOeDIPS EC2.0(平均外径2.0nm)、KORBON社製のKORBON-A7(平均外径1.2nm)、高圧ガス工業社製のNFT-7(平均外径30nm)、高圧ガス工業社製のNFT-15(平均外径30nm)、などの少なくとも1種を用いることができる。
【0017】
これらのカーボンナノチューブ(CNT)の含有量は、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。好ましくは、高い安定性と導電性能を両立する点、好ましい塗液粘度の点から、その含有量は、分散液全量に対して、0.1~15.0質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.1~8.0質量%、0.1~6.0質量%、特に0.1~5.0質量%とすることが望ましい。
このカーボンナノチューブ(CNT)の含有量を0.1質量%以上とすることにより、充分な導電性を確保できるようになり、一方、15.0質量%以下とすることにより、塗液の安定性と良好な導電性を確保することができるものとなる。
【0018】
〈炭素材料〉
上記カーボンナノチューブ(CNT)以外の炭素材料としては、例えば、グラフェン、グラファイト(黒鉛)、並びにアセチレンブラック及びケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素粒子が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、又は組み合わせて使用してもよい。
これらの炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば、扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0019】
これらの炭素粒子の平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において採用される平均粒子径は、対象となる炭素粒子の大きさによって適宜選択され、概ね1μm未満の粒子の場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、1μm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。動的光散乱法による測定は、例えばDelsaMax CORE(ベックマン・コールター社)を用いて行うことができる。レーザー回折法による測定は、例えば粒度分布測定装置 MT3300II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行うことができる。
【0020】
これらの炭素粒子の含有量は、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。好ましくは、高い安定性と導電性能を両立する点、好ましい塗液粘度の点から、その含有量は、分散液全量に対して、0.1~15.0質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.1~8.0質量%、0.1~6.0質量%、特に0.1~5.0質量%とすることが望ましい。
【0021】
(分散剤)
本発明に用いる分散剤は、上述のカーボンナノチューブを含む炭素材料の分散性を格段に向上させる成分となるものであり、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、セルロースナノファイバー(CeNF)、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の分散剤、高分子分散剤などの少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
カルボキシメチルセルロース(CMC)としては、例えば、質量平均分子量30万以下のものと質量平均分子量100万~300万との併用型などが挙げられ、セルロースナノファイバー(CeNF)としては、例えば、X線回折法で測定した際の結晶化度が70%以下のものを適宜選択して用いることができる。
アニオン性分散剤としては、例えば、スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びエポキシ系樹脂等を用いることができる。
上記セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記式(1)により求めることができる。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 …(1)
上記式(1)中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。なお、セルロースI型とは、天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0023】
これらの分散剤の含有量は、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。例えば、二次電池用電極ペースト、二次電池用電極などに用いる場合は、高い安定性と導電性能を両立する点、分散液製造時の粘度の点から、その含有量は、分散液全量に対して、0.01~10質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは、0.05~5質量%、より好ましくは、0.1~1質量%とすることが望ましい。
【0024】
(防腐剤)
本発明に用いる防腐剤は、トリアジン系化合物と、下記A群から選ばれる少なくとも1種とを用いるものであり、この選択的組み合わせ型使用により、抗菌スペクトルが広範囲に適用でき(広範囲の細菌、カビ、酵母などの微生物に対し有効)、かつ、長期に亘って少量で防腐・抗菌効果及びその持続性が高く、カーボンナノチューブ、炭素材料種、配合成分種等の相違や、また、製造環境、保存環境などの相違、これらの組み合わせからなる環境によっても、カビや菌、酵母等の繁殖を有効に防止でき、これにより分散性と保存安定性を高度に両立できる炭素材料分散液を得ることができる。
A群:有機硫黄系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物、ハロアリルスルホン系化合物、ヨードプロパギル系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、8-オキシキノリン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ジチオール系化合物、ピリジンオキシド系化合物、ニトロプロパン系化合物、有機スズ系化合物、フェノール系化合物、第4アンモニウム塩系化合物、チアジン系化合物、アニリド系化合物、アダマンタン系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、ブロム化インダノン系化合物、ベンジルブロムアセテート系化合物、無機塩系化合物、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、sec-ブタノール、t-ブタノール、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム
【0025】
用いるトリアジン系化合物は、含窒素六員環化合物であり、例えば、2,4-ビス(N,N’-ジプロピルアミノ)-6-クロロ-1,3,5-トリアジン、2-クロロ-4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジエチル-6-オクチルアミノ-1,3,5-トリアジン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリエチル-S-トリアジンや、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-トリアジンなどのヘキサヒドロ-1,3,5-トリ置換-S-トリアジン化合物、n-カプリノグアナミン、5-エチルヘキシルアミノグアナミンなどが挙げられ、市販品などがあれば、それらを使用することができる。
【0026】
上記A群における有機ハロゲン系化合物としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライドが挙げられ、ピリチオン系化合物としては、ナトリウム=1-オキソ-1λ(5)―ピリジン-2-チオラート(ピリチオンナトリウム)、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅、ピリチオンキトサンなどが挙げられ、市販品などがあれば、それらを使用することができる。
【0027】
上記A群中で、トリアジン系化合物との効果的な組み合わせとしては、有機硫黄系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物、ピリチオン系化合物が挙げられ、更に好ましくは、トリアジン系化合物とピリチオン系化合物、トリアジン系化合物と有機窒素硫黄系化合物との組み合わせ、特に好ましくは、含窒素六員環化合物との組み合わせとなるトリアジン系化合物とピリチオン系化合物との組み合わせが望ましい。
【0028】
前記トリアジン系化合物の含有量が分散液全量に対して、好ましくは、0.001~0.2質量%、更に好ましくは、0.005~0.1質量%であり、上記A群を含めた防腐剤の合計含有量が分散液全量に対して、好ましくは、0.3質量%以下、更に好ましくは、0.005~0.2質量%とすることにより、分散液の他の配合成分に悪影響を及ぼすことなく、抗菌スペクトルが広範囲に適用でき(広範囲の細菌、カビ、酵母などの微生物に対し有効)、かつ、長期に亘って少量で防腐・抗菌効果及びその持続性が高く、分散液の配合成分種等の相違や、製造環境、保存環境などの相違、これらの組み合わせからなる環境等によっても、カビや菌、酵母等の繁殖を有効に防止でき、これにより分散性と保存安定性を高度に両立できる炭素材料分散液とすることができる。
【0029】
本発明において、上記トリアジン系化合物と上記A群から選ばれる少なくとも1種との防腐剤が対象となる細菌、カビ、酵母などの微生物種は、炭素材料分散液で繁殖することとなる広範囲のカビや菌、酵母等の繁殖を有効に防止でき、特に、フザリウム(Fusarium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デルフチア(Delftia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、リゾビウム(Rhizobium)属(旧来Agrobacterium radiobacter)、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ストマトコッカス(Stomatococcus)属、プラノコッカス(Planococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、デイノコッカス(Deinococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ルーコノストク(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、ゲメラ(Gemella)属、ペプトコッカス(Peptococcus)属、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、コプロコッカス(Coprococcus)属、サルシナ(Sarcina)属、バチラス(Bacillus)属、スポロラクトバチラス(Sporolactobacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、デサルフォトマキュラム(Desulfotomaculum)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、オスシロスピラ(Oscillospira)属、ラクトバチラス(Lactobacillus)属、リステリア(Listeria)属から選ばれる少なくとも1種の微生物に対して長期に亘って少量で防腐・抗菌効果に特に優れるものである。
【0030】
本発明に用いる液媒体は、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、超純水、水道水、イオン交換水等)であり、水の他、必要に応じて、水溶性溶媒を用いることができる。
用いることができる水溶性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン-2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,3-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール等のグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノン等の少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
その他にも、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類等の水溶性溶媒を混合することもできる。
これらの水溶性溶媒の含有量は、分散液の固形分調整により変動するが、分散液全量に対して、0.1~7質量%が好ましく、スラリーの混合性を向上させる点、乾燥性の点から、10質量%未満であることがより好ましく、0.1~5質量%であることが更に好ましい。
【0032】
本発明の炭素材料分散液には、その用途に応じた添加剤を加えてもよい。例えば、沈降防止剤、湿潤剤、乳化剤、たれ防止剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤等が挙げられる。
【0033】
本発明の炭素材料分散液の製造は、例えば、少なくとも、カーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体(水)等を投入し、撹拌・混合後、分散工程を経て得ることができる。
上記分散液の分散処理は、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することができるが、これらに限定されるものではない。
好ましい分散装置としては、安定性や分散効率の点から、薄膜旋回型高速ミキサーやビーズミルなどが好ましい。
【0034】
また、本発明の炭素材料分散液は、これを添加して調製する電極スラリーの流動性を得る点などから、E型回転粘度計〔TV-25(東機産業社製)ローター(1°34’×R24mm)〕、回転数10rpmにおける25℃の粘度値(mPa・s)が、5~700が好ましく、更に好ましくは、5~200が望ましい。
【0035】
このように構成される本発明の炭素材料分散液は、分散液の他の配合成分に悪影響を及ぼすことなく、抗菌スペクトルが広範囲に適用でき(広範囲の細菌、カビ、酵母などの微生物に対し有効、特に、上述のフザリウム(Fusarium)属~リステリア(Listeria)属等)、かつ、長期に亘って少量で防腐・抗菌効果及びその持続性が高く、分散液の配合成分種等の相違や、製造環境、保存環境などの相違、これらの組み合わせからなる環境等によっても、カビや菌、酵母等の繁殖を有効に防止でき、これにより分散性と保存安定性を高度に両立できる炭素材料分散液とすることができるので、この分散液を電極製造用等とした場合に高い安定性と導電性能を両立することができるものとなり、Li+等のイオンの出し入れや電極の抵抗値低下に悪影響を及ぼすことなく、カーボンナノチューブなどを均一に分散させ、かつ、分散安定性に優れたものとなる。
【0036】
この炭素材料分散液をリチウムイオン電池などの電池負極電極等に用いることにより、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質を均一に分布させることができ、しかも、サイクル特性、自己放電特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響が及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となる電極用組成物などが得られることとなる。
この炭素材料分散液は、従来にない優れた性能を有するので、更に各種成分を加えて電極用スラリー、リチウムイオン電池などの二次電池用に好適な正極用スラリー、負極用スラリーなどに利用することができるものとなる。
【0037】
〈本発明の二次電池用負極用スラリー組成物〉
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、少なくとも、上記組成の炭素材料分散液を含有することを特徴とするものであり、好ましくは、負極用活物質、バインダー成分の他、必要に応じて、上述の導電剤となる炭素粒子、分散剤、防腐剤(トリアジン系化合物とA群の組合わせ)、液媒体などを各適宜量用いて調製するこができる。
【0038】
用いることができる負極用活物質としては、特に制限なく用いることができ、例えば金属酸化物系活物質粒子、シリコン系活物質粒子、特に金属酸化物系負極活物質粒子を用いることができる。
金属酸化物系負極活物質粒子としては、例えば、チタン酸化物を使用できる。チタン酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、チタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))、並びにアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができる。
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi5O12(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi3O7(yは充放電反応により-1≦y≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO2(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO2(zは充放電反応により-1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
チタン含有金属複合酸化物としては、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO2-P2O5、TiO2-V2O5、TiO2-P2O5-SnO2、TiO2-P2O5-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を更に向上させることができる。
【0039】
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物において、上記負極用活物質の含有量は、負極用スラリー全量に対して、電池容量を確保する点、スラリーの流動性を確保する点から、好ましくは、30~60質量%が好ましく、更に好ましくは、35~55質量%が望ましい。
【0040】
(バインダー成分)
バインダー成分としては、例えば、種々のエマルション型のポリマーを用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系エマルション型のポリマー、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等のエラストマー系エマルション型のポリマー、アクリル系エマルション型のポリマー等を用いることができる。
かかるポリマーとしては、中でもエラストマー系エマルション型のポリマー、特にスチレン系エラストマー系エマルション型のポリマー、特にスチレン-ブタジエンゴムを用いることが、導電性の観点から好ましい。
【0041】
また、ポリマーとしては、例えば多糖類等の天然高分子、合成高分子を用いることができる。このようなポリマーは、増粘剤として用いられることがある。
多糖類としては、例えばアラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩を用いることができる。
【0042】
合成高分子としては、例えば、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩、イソブチレン無水マレイン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を用いることができる。
また、ポリマーとしては、例えばポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等の非イオン性分散剤を用いることができる。これらのポリマーは、分散助剤として用いられることがある。
【0043】
これらのバインダー成分の含有量は、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。好ましくは、好ましい塗液粘度の点、電極安定性の点から、その含有量は、スラリー組成物全量に対して、0.1~2質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは、0.2~1質量%、より好ましくは、0.2~0.8質量%とすることが望ましい。
【0044】
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、上記炭素材料分散液、負極用活物質、分散剤、バインダー成分の他、必要に応じて、上述の導電材となる炭素粒子、分散剤、防腐剤(トリアジン系化合物とA群の組合わせ、含有量は上述の範囲)、液媒体などを各適宜量以外に、更に本発明の効果を損なわない範囲で、更に、pH調整剤を含むことができ、更に、レベリング剤、固体電解質材、剥離剤などを含むことができる。
【0045】
(pH調整剤)
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、集電体腐食の点、組成安定性の点から、pHは4~9が好ましい。
用いることができるpH調整剤としては、例えば、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トリポリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の少なくとも1種を用いることができる。
【0046】
本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、少なくとも、上記炭素材料分散液、好ましくは、負極用活物質と、バインダー成分とを含有するものであり、その製造は、例えば、下記装置を用いて、炭素材料分散液の他、負極用活物質、導電材等を投入し、撹拌・混合後、分散工程を経て得ることができる。
上記製造装置としては、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することができるが、これらに限定されるものではない。
好ましい装置としては、安定性や分散効率の点から、プラネタリーミキサーやビーズミルなどが好ましい。
【0047】
また、本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、沈降安定性の点、塗工性の点から、剪断速度1000s-1における粘度が0.1~1.5Pa・sであることが好ましい。
この粘度の調製は、分散剤や沈降抑制剤、スラリー材料濃度などを好適に組み合わせることにより、調整することができる。
【0048】
このように構成される本発明の二次電池用負極用スラリー組成物は、長期に亘って少量で防腐・抗菌効果及びその持続性が高く、分散性と保存安定性を高度に両立した炭素材料分散液を含むので、または負極用スラリー組成物調製の際に上記防腐剤(トリアジン系化合物とA群の組合わせ)を含むことができるので、電極形成のため塗工する際に導電材となるカーボンナノチューブを含む炭素材料及び活物質を均一に分布させることができ、しかも、高い安定性と電極にした際に抵抗値の低い負極電極を形成することができるものとなる。
【0049】
また、本発明では、試験例3で更に詳述するが、上記防腐剤(トリアジン系化合物とA群の組合わせ)を用いると、炭素材料分散液のpHとの関係において、特に、分散性が向上し粘度の低い炭素材料分散液が得られることとなる。
【実施例0050】
以下に本発明を実施例及び比較例に相当する試験例1~3により説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0051】
(試験例1)
〔防腐剤の相違による炭素材料分散液の菌・カビの繁殖の試験及びその評価〕
下記表1に示す配合組成となる検体A~Jを用いて、下記方法にて菌・カビの繁殖の試験(バイオバーデン試験:培地浸漬法)及びその防腐効果(防菌性・防かび性)を行った。
(評価方法)
炭素材料分散液(全量100質量%:基本組成)は、カーボンナノチューブ(FT612)1.2質量%+分散剤(ポリビニルピロリドン:PVP K30、住友ファーマフード&ケミカル社製)0.6質量%+水(残部)とした。
次に、この炭素材料分散液を用いた負極用スラリー組成物を作製し、下記表1に記載の各防腐剤(質量%)を添加して検体A~Jを調製した。
この検体A~Jにさらに汚染されたスラリーを添加し定温(培養温度32.5℃、以下同様)放置し、一般生菌(培地;SCDLPA)、カビ(培地;CPPDA)とし、その経時的防腐剤効果(防菌性・防かび性)を行った。
【0052】
この防腐効果(接種後1日目、7日目、14日目の防菌性・防かび性)を下記表1に示す。最終汚染濃度は、約3E+04cfu/mlであった。上記汚染されたスラリーの一般生菌(培地;SCDLPA)、カビ(培地;CPPDA)等について、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型マススペクトロメトリー)を用いて細菌同定法により菌種を同定したところ、下記表2に示す如く、4種の菌属〔セルロモナス(Cellulomonas)属、デルフチア(Delftia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、リゾビウム(Rhizobium)属(旧来Agrobacterium radiobacter)〕を特定した。
【0053】
(試験例2)
〔防腐剤:トリアジン系化合物+ピリチオン系化合物の有無等による炭素材料分散液の菌・真菌の繁殖の試験及びその評価〕
下記表3に示す配合組成となる検体1~4を用いて、下記方法にて一般生菌・真菌の繁殖の試験及びその防腐効果(防菌性)を行った。
(評価方法)
検体1は、上記炭素材料分散液を用いた負極用スラリー組成物(基本組成)を品温70℃、60分にて殺菌した。
検体2は、検体1に一般生菌、真菌で汚染された負極用スラリー組成物を添加して、調製した。
検体3は、検体2に表1に記載のトリアジン系化合物:+ピリチオン系化合物:合計0.067質量%を添加して、調製した。
検体4は、上記炭素材料分散液を用いた負極用スラリー組成物(基本組成)を用いた。
【0054】
この検体1~4を定温放置し一般生菌(培地;SCDLPA)、真菌(培地;CPPDA)とし、その接種直後、2週間後、1カ月(30日)後の経時的防腐剤効果(防菌性・防真菌性)とその経時の剪断速度0.2s-1、剪断速度1000s-1の各粘度変化を評価した。
剪断速度0.2s-1、剪断速度1000s-1の各粘度は下記方法にて測定した。
レオメーター(MCR302、アントンパール社 コーンプレートφ50mm 2°)を用いて、25℃の各剪断速度0.2s-1、剪断速度1000s-1の各粘度値を測定した。
この防腐効果(防菌性・防真菌性)と経時の剪断速度0.2s-1、剪断速度1000s-1の各粘度変化を下記表3、下記表4、下記表5に示す。
【0055】
(試験例3)
〔防腐剤:トリアジン系化合物+ピリチオン系化合物含有とpH3.7~9.6による各炭素材料分散液を用いた場合の粘度変化等、また、負極スラリー組成物とした場合のシート抵抗等の電極特性を評価〕
下記表5示す配合組成となる試験例3-1~3-10を用いて、ビーズミル分散処理を行い、pH(分散前、分散後)、粘度(防腐剤添加直後、2時間後の粘度)、平均粒子径、L*、シート抵抗、光沢度を下記各方法により、測定し各評価を行った。
これらの結果を下記表6に示す。
【0056】
(pH測定)
pHメーター F72〔堀場製作所社製〕により、pH(25℃)を測定した。
(粘度測定)
E型回転粘度計〔TV-25(東機産業社製)ローター(1°34’×R24mm)〕、回転数10rpmにおける25℃の粘度値(mPa・s)を用いて、粘度(防腐剤添加直後、2時間後の粘度)を測定した。
(粒子径の測定)
動的光散乱法(25℃)により、キュムラント解析法によるメジアン径を測定した。
(光沢の測定)
PETフィルム(ルミラー#100-T60、東レ社)の片面に隙間が50μmのアプリケーターで塗布した後、温度80℃で乾燥し、光沢度計(スガ試験機社製)を用いて、光沢を測定した。
【0057】
(シート抵抗)
上記炭素材量分散液を更にプラネタリーミキサーに移し、SBRのバインダー材を添加し、公転回転数を10rpmに設定して、この組成物を120分間混練し、電極用スラリーを得た。
得られた電極用スラリーについて、下記測定法で、導電性の評価となるシート抵抗体を測定した。
完成した電極用スラリーを、PETフィルム(ルミラー#100-T60、東レ社)の片面に隙間が50μmのアプリケーターで塗布した後、温度80℃で乾燥し、得られた膜の抵抗値を測定した。抵抗値はシート抵抗として、探針間隔10mmの4探針プローブとミリオームハイテスタ3227(日置電機)からなる装置を用いて測定した。
シート抵抗が、1.0kΩ/□以下で、導電性に優れていることが確認できる。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上記表1~表5の各評価結果から明らかなように、本発明範囲のカーボンナノチューブを含む炭素材料と、分散剤と、防腐剤と、液媒体とを含有する炭素材料分散液にあっては、防腐剤として、防腐剤(イソプロピルアルコール、有機窒素硫黄系化合物、ピリチオン系化合物)単独よりも、検体D(表1)、検体1(表2~表5)のトリアジン系化合物とA群(ピリチオン系化合物)との併用型が4種の菌属等に対しても優れた防腐効果を示し、しかも、経時的に粘度変化も少なく、安定性と分散性に優れることが判った。
また、上記表6の結果から明らかなように、これら防腐剤の配合とpHの調整によりカーボンナノチューブを含む炭素材料分散液の分散性をコントロールすることが可能であることが判った。
炭素材料分散液は、経時的な安定性と分散性に優れ、燃料電池、各種電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレイ用部材などの材料として有用であり、特にリチウムイオン二次電池などの電極の製造に好適な負極電極用スラリー組成物、電極の製造に用いることができ、優れた電池性能を実現することができる。