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  • 特開-昆布醤油及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066415
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】昆布醤油及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20240508BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
A23L27/50 E
A23L27/00 D
A23L27/50 A
A23L27/50 106
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095130
(22)【出願日】2023-06-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022175786
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522428933
【氏名又は名称】株式会社茜坂大沼
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 光治
【テーマコード(参考)】
4B039
4B047
【Fターム(参考)】
4B039LB14
4B039LC06
4B039LC20
4B039LR30
4B047LB07
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG42
4B047LG60
4B047LP19
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】香りや風味が良好で、塩カドのない円やかな味わいで、塩分を落としてもコク、旨味のバランスに優れるペースト状の昆布醤油とその製造方法を提供する。
【解決手段】昆布と醤油の混合物であり、昆布は水で膨潤され、水を切った状態で細断されており、昆布と醤油の混合物は熟成発酵されていて、昆布と醤油の重量比が10:1~5:1の範囲で、性状がペースト状の昆布醤油である。
昆布を常温の水に浸漬して膨潤させる昆布膨潤段階と、昆布膨潤段階で膨潤させた昆布の水気を切る昆布水切り段階と、昆布膨潤段階で膨潤した後、昆布水切り段階で水気を切った昆布に醤油を投入し、昆布と醤油の重量比が10:1~5:1の範囲とした混合物を、45℃~70℃の範囲に温度を調整し、ペースト状になるまで計6~8時間、ミキサーを用いて細断・攪拌しながら、熟成発酵をさせる攪拌・熟成発酵段階とからなる昆布醤油の製造方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲で、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲で、性状が保形性を有するペースト状の昆布醤油であって、
前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬することによって膨潤させた後、前記水を切った状態の前記昆布と前記醤油の混合物を、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、計6~8時間、細断・攪拌しながら熟成発酵して得られることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項2】
前記水を切った状態の前記昆布に、前記醤油の一部を投入してなる前記昆布と前記醤油の一部との混合物を、
45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵させる醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と、
該醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程後、20~40分間の前記ミキサーの停止によって、前記細断・攪拌しながら熟成発酵された前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませることで熟成発酵を促進する馴染ませ熟成発酵工程を行い、
次に、前記馴染ませることで熟成発酵を促進された前記昆布と前記醤油の一部との混合物に、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、前記温度範囲、回転数、細断・攪拌時間、及びミキサー停止時間で、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と前記馴染ませ熟成発酵工程を、順次5回~10回繰り返して、前記昆布と前記醤油の全量の重量比が10:1~5:1の範囲として得られ、前記粘度並びに前記性状を有する、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項3】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項4】
前記昆布と前記醤油の混合物の、
前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、前記昆布と前記醤油の混合物を-20~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温熟成を行って得られることを特徴とする、請求項3に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項5】
アミノ酸分析計により測定して得られる総アミノ酸量に対する各アミノ酸の含有比率において、前記醤油の前記アミノ酸含有比率に比較して、グルタミン酸とアスパラギン酸の前記アミノ含有比率が増加すると共に、アルギニンとメチオニンの前記アミノ酸含有比が減少したことを特徴とする、請求項3に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項6】
前記昆布は利尻昆布であることを特徴とする、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項7】
前記醤油は土佐醤油であることを特徴とする、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項8】
一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、
前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬して前記昆布を膨潤させる昆布膨潤段階と、
前記昆布膨潤段階で膨潤させた前記昆布の水気を切る昆布水切り段階と、
前記昆布膨潤段階後に、前記昆布水切り段階を行った前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲とした混合物を、45℃~70℃の範囲に温度を調整し、
常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲で、性状が保形性を有するペースト状になるまで計6~8時間、ミキサーを用いて5,000~15,000回転/分の回転数で細断・攪拌しながら、熟成発酵をさせる細断・攪拌・熟成発酵段階とからなることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項9】
前記細断・攪拌・熟成発酵段階は、
前記昆布水切り段階後の水気を切った前記昆布に対して、
前記醤油の一部を投入して、前記温度範囲、細断・攪拌時間、回転数で、細断・攪拌しながら熟成発酵を行う醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階に続けて、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階後に、細断・攪拌を20~40分間停止して、前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませて熟成発酵を促進する、馴染ませ熟成発酵段階とを行い、次に、前記馴染ませて熟成発酵した前記昆布と前記醤油の一部との混合物に対して、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、前記温度範囲、細断・攪拌時間、回転数、及びミキサー停止時間で、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階と前記馴染ませ熟成発酵段階を順次行い、前記昆布と前記醤油の合計量の重量比が10:1~5:1の範囲になるまで、合計で5回~10回繰り返して、前記粘度並びに前記性状を有する昆布醤油を得ることを特徴とする請求項8に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項10】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに馴染ませ熟成発酵段階の調整温度が50℃~65℃の範囲であることを特徴とする、請求項8又は請求項9に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項11】
前記昆布と前記醤油の混合物に対する、
前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに前記馴染ませ熟成発酵段階を50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、
前記昆布と前記醤油の混合物を-20℃~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温で熟成させる低温熟成段階を行うことを特徴とする、請求項10に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項12】
前記昆布として利尻昆布を用いることを特徴とする、請求項10に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項13】
前記醤油として土佐醤油を用いることを特徴とする、請求項10に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油と昆布を原料にして旨味を強化した昆布醤油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油には通常15~18%程度という高い濃度で食塩が含まれるため、醤油の多用による食塩の過剰摂取が、高血圧や動脈硬化をはじめとする生活習慣病のリスクを高めるとの認識が広まり、食塩の摂取量を減らして生活習慣病を予防したいという消費者のニーズが高まっている。
【0003】
このような健康志向の高まりを受けて、いわゆる「減塩醤油」が販売されているが、食塩含有量を減らすと、単に塩辛さが減少するだけでなく、醤油本来の旨味がなくなり、味にもの足りなさを感じたり、風味や美味しさが失われるといった問題があった。また、液体状の醤油を、従来のように「かける」「漬ける」などの方法で使用するのでは、必要以上に醤油を摂取してしまうため、塩分の過剰摂取を避けることがなかなかできなかった。
【0004】
一方、醤油に昆布だしや鰹節だしなどをブレンドして旨味を強化した「だし入り醤油」として多様な商品が開発されており、その需要が拡大している。例えば、上品で優しい味わいの昆布だしを加えることで、醤油が持つ塩味のトゲトゲしさが和らぎ、円やかな味わいになるといった優れた特徴が生じる。さらに、だしの旨味が付与されることによって、醤油の食塩濃度を下げても調味料としての味わいが失われないという効果が得られる。しかしながら、昆布だしを常温の水で抽出しようとしても有効成分が効率良く抽出できないため、昆布特有の香りや風味が乏しくなったり、だしを抽出した後の大量の昆布が無駄になるというSDGs(持続可能な開発目標)上の問題があった。また、昆布エキスを醤油と混合することで昆布醤油を作る試みもなされているが(特許文献1)、単に醤油と直接混合してもこれら調味料間の味なれやなじみは簡単には得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-149771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、昆布だしと醤油の味なれやなじみを改善し、香りや風味が良好で、塩カドのない円やかな味わいで、コク、旨味のバランスに優れた昆布醤油とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲で、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲で、性状が保形性を有するペースト状の昆布醤油であって、前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬することによって膨潤させた後、前記水を切った状態の前記昆布と前記醤油の混合物を、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、計6~8時間、細断・攪拌しながら熟成発酵して得られることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0008】
前記水を切った状態の前記昆布に、前記醤油の一部を投入してなる前記昆布と前記醤油の一部との混合物を、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵させる醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と、該醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程後、20~40分間の前記ミキサーの停止によって、前記細断・攪拌しながら熟成発酵された前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませることで熟成発酵を促進する馴染ませ熟成発酵工程を行い、
次に、前記馴染ませることで熟成発酵を促進された前記昆布と前記醤油の一部との混合物に、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、前記温度範囲、回転数、細断・攪拌時間、及びミキサー停止時間で、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と前記馴染ませ熟成発酵工程を、順次5回~10回繰り返して、前記昆布と前記醤油の全量の重量比が10:1~5:1の範囲として得られ、前記粘度並びに前記性状を有する保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0009】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行うことを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0010】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、前記昆布と前記醤油の混合物を-20~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温熟成を行って得られることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0011】
呈味成分を明らかにするため、アミノ酸分析計により測定して得られた総アミノ酸量に対する各アミノ酸の含有比率において、前記醤油の前記アミノ酸含有比率に比較して、グルタミン酸とアスパラギン酸の前記アミノ含有比率が増加すると共に、アルギニンとメチオニンの前記アミノ酸含有比率が減少したことを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0012】
前記昆布醤油において、前記昆布は利尻昆布であることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0013】
前記昆布醤油において、前記醤油は土佐醤油であることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油に関する。
【0014】
一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬して前記昆布を膨潤させる昆布膨潤段階と、前記昆布膨潤段階で膨潤させた前記昆布の水気を切る昆布水切り段階と、前記昆布膨潤段階後に、前記昆布水切り段階を行った前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲とした混合物を、45℃~70℃の範囲に温度を調整し、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲で、性状が保形性を有するペースト状になるまで計6~8時間、ミキサーを用いて5,000~15,000回転/分の回転数で細断・攪拌しながら、熟成発酵をさせる細断・攪拌・熟成発酵段階とからなることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【0015】
前記細断・攪拌・熟成発酵段階は、前記昆布水切り段階後の水気を切った前記昆布に対して、前記醤油の一部を投入して、前記温度範囲、細断・攪拌時間、回転数で、細断・攪拌しながら熟成発酵を行う醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階に続けて、
前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階後に、細断・攪拌を20~40分間停止して、前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませて熟成発酵を促進する、馴染ませ熟成発酵段階とを行い、次に、前記馴染ませて熟成発酵した前記昆布と前記醤油の一部との混合物に対して、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、前記温度範囲、細断・攪拌時間、回転数、及びミキサー停止時間で、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階と前記馴染ませ熟成発酵段階を順次行い、前記昆布と前記醤油の合計量の重量比が10:1~5:1の範囲になるまで、合計で5回~10回繰り返して、前記粘度並びに前記性状を有する昆布醤油を得ることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【0016】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに馴染ませ熟成発酵段階の調整温度が50℃~65℃の範囲であることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【0017】
前記昆布と前記醤油の混合物に対する、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに前記馴染ませ熟成発酵段階を50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、前記昆布と前記醤油の混合物を-20℃~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温で熟成させる低温熟成段階を行うことを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【0018】
前記昆布として利尻昆布を用いることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【0019】
前記醤油として土佐醤油を用いることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、昆布だしの香りや旨味が増強されることで、醤油の塩分を低減することによって、塩カドのない円やかな味わいで、コク、旨味のバランスに優れた、昆布醤油を提供することが可能になる。さらに、性状をペースト状に仕上げることで、適度な保形性によって、必要量だけを箸で摘まんで料理に乗せ、塩分量を加減して食することができるため、健康に優しい昆布醤油を提供することが可能になる。
さらに、本発明に係る昆布醤油に多く含まれるアミノ酸には、疲労回復効果、体調を整える効果、脳を活性化する効果、血圧を下げる効果、美肌効果などがあるため、種々の健康効果を有する食品としての提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明に係る昆布醤油の製造フローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、昆布醤油の製造フローチャートを示す図1に従って詳細に説明する。
【0023】
第1段階は、昆布膨潤段階である。
【0024】
昆布膨潤段階においては、昆布を常温の水に浸して膨潤させる。昆布と水の分量は、昆布10gに対して水160g~200gの重量比が好適である。また、膨潤の時間としては、常温の水に対して6~24時間が必要となるが、より好ましくは6~8時間が好適である。これは、膨潤の時間が6時間以下では昆布の十分な膨潤が得られず、また24時間以上では過度の膨潤により、昆布の細胞間隙充填物質であるアルギン酸やフコイダンなど、昆布特有のぬめり成分やその他の雑味成分の溶出が顕著となりえぐみが出てしまうためである。
【0025】
昆布を膨潤させた後の水を昆布だし汁として使用する場合は、軟水の使用が好適である。硬水を使用すると、硬水に含まれる多量のミネラルが昆布中のアルギン酸と結合して不溶化し、水分吸収を妨げるためで、昆布だし汁への硬水の利用は適さないとの研究報告もある。日本では通常、硬度100mg/Lを軟水に分類し、WHO基準では硬度60mg/Lを軟水に分類しているが、いずれか適合する軟水を使用するのが好適である。
【0026】
第2段階は、昆布水切り段階である。
【0027】
昆布水切り段階においては、水で膨潤させた昆布の十分な水切りを行い、その後の第3段階の攪拌・熟成発酵段階に移る。昆布の水気を除去する際には、ステンレス製、プラスチック製、シリコン製、竹製等のざるを使用する水切りも可能ではあるが、水分をしっかりと除去するためには、キッチンペーパー、クッキングペーパー等の料理用ペーパー類で包んで水気を吸い取る方法が好ましく、特にエンボス加工したパルプ製のキッチンペーパーやフェルト状不織布タイプのクッキングペーパーが、吸水性の点で優れており好適である。
【0028】
第3段階は、攪拌・熟成発酵段階である。
【0029】
攪拌・熟成発酵段階では、膨潤した昆布をミキサーに投入し、温度を45℃~70℃の範囲に調整し、水で膨潤した昆布と醤油の重量比が10:1~5:1の範囲になるまで醤油を加え、一例として回転数約10,000回転/分で、合計6~8時間、細断・攪拌しながら熟成発酵させる。熟成とは昆布自らが持つ酵素の働きでアミノ酸に分解されること、発酵とは乳酸菌や酵母菌などの微生物の働きでアミノ酸に分解されることであり、時間をかけて熟成発酵することによって旨味の素となるアミノ酸が増えて旨味が増強する。温度の調整範囲は、昆布の旨味成分を効率よく抽出し、余分な抽出成分を避けるためには45℃~70℃の温度範囲が好適であるが、昆布の熟成発酵をより適切に促進するためには50℃~65℃の温度範囲がより好適である。
【0030】
また、攪拌・熟成発酵段階における昆布の熟成発酵をより促進するためには、前記昆布水切り段階後の水気を切った昆布に対して、醤油の一部を投入して、45℃~70℃の範囲に温度を調整し、0.6~1.6時間、ミキサーを用いて細断・攪拌を行う醤油投入・攪拌段階に続けて、前記細断・攪拌を20~40分間停止して、前記細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階とを行い、以降、45℃~70℃の範囲に温度を調整した前記細断・攪拌した昆布と醤油の一部の混合物に対して、前記醤油投入・攪拌段階と前記熟成発酵段階を交互に繰り返し、前記昆布水切り段階で水気を切った昆布と投入した醤油の合計量の重量比が10:1~5:1の範囲になるまで、合計で5回~10回繰り返すことによって、熟成発酵を逐次的に促進させることが、昆布醤油としてより好適な結果をもたらすことを見出した。
【0031】
温度の調整方法に関しては、加熱源として外部ヒーターあるいはミキサー内臓のヒーターを用いてもよいし、またミキサー自身のモーターから生じる熱を利用することも可能である。温度測定については、ミキサーに内蔵される温度センサーや、外部から熱電対センサー、赤外線センサーを用いて測定してもよい。温度の制御方法に関しては、前記好適な温度範囲内できるだけ速やかに到達し、また前記好適な温度範囲を逸脱しないように維持することが好ましい。前記好適な温度範囲内であれば、温度を一定に維持することも、或いは昇温・降温を繰り返してもよい。特に、常温から最初に昇温を行う醤油投入・熟成発酵段階においては、設定温度への到達時間は、初回の設定温度維持時間の半分の時間以内に設定温度に達していることが好ましく、以降の醤油投入・攪拌段階と熟成発酵段階の繰り返しにおいては、前記好適な温度範囲に収まっていることが好ましい。
【0032】
微生物によって、昆布に含まれるグルタミン酸はGABA(γ-アミノ酪酸;Gamma Amino Butyric Acid)に転換され、海藻多糖類(例えばフコイダン)は単糖類とオリゴ糖に分解されることが知られている(特許第5281101号公報)ことを鑑みて、低温熟成を検討した。食材を、その食材が凍る直前の温度帯で低温熟成させると、食材の鮮度を落とさずに旨味を引き出すことができる。醤油は、種類によっても異なるが、-40℃くらいまでは凍らないとされているが、本発明の昆布醤油においては、-20℃~10℃の温度範囲、さらに好適には適度な期間で十分な熟成風味が得られ、好ましくない菌の増殖を抑制するため-5℃~5℃の温度範囲において、1日以上30日以内の低温熟成を行うことが好適である。
【0033】
ミキサーに関しては、ペースト状の仕上がりを求める場合には一般に高速回転タイプが適している。商品によって回転数はさまざまであり、可変速タイプのものが出ているが、回転数1,000~30,000回転/分のものが普通であり、本発明の目的の場合は5,000~15,000回転/分のものが好適である。
【0034】
攪拌・熟成発酵段階における醤油の投入方法については、醤油投入・攪拌段階を一度しか行わない場合、醤油の投入は、所定量の全量を最初に一度に投入してもよいし、合計6~8時間行う細断・攪拌の時間全体に亘って、少量ずつ、一定の割合で投入することも、投入量を最初は少なく次第に増やす方法も、投入量を最初に多く次第に減らす方法なども可能である。また、醤油投入・攪拌段階と熟成発酵段階を交互に複数回繰り返す場合には、各繰り返しにおける醤油投入・攪拌段階において、少量ずつ一定の割合で投入することも、投入量を最初は少なく次第に増やす方法も、投入量を最初に多く次第に減らす方法なども可能である。
【0035】
本発明の昆布醤油の仕上がりの性状については、箸でつまんで適量を料理に乗せることができる程度の保形性を有する練りからし様のペースト状であることが好適であるが、粘度としては、B型(ブルックフィールド型)粘度計を用いて測定した常温における粘度が、10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲であることが好適である。粘度が10,000mPa・s(cP)に満たないと、昆布醤油に流動性が生じて調味対象物に浸み込んでしまうため、当初の目的である塩分の過剰摂取を避けられなくなる。また、粘度が500,000mPa・s(cP)より大きくなると、食した際の食感が適切ではなくなるとともに、例えばチューブ状の製品容器に入れた場合に押し出しにくくなり、使いづらいものになってしまう問題がある。そのため、10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲が好適である。
【0036】
本発明に使用される昆布には、真昆布、日高昆布(三石昆布)、羅臼昆布、利尻昆布など、北海道産の代表的なだし用昆布を中心に挙げることができるが、特に好ましい昆布は、くせのない上品で風味の良い高級だしが取れ、京料理などで好んで使われることが知られている利尻昆布であり、なかでも礼文島香深浜産の天然「島もの」一等検ないし二等検の昆布、また最低1年以上寝かせることでうまみが増した「熟成もの」が好適である。昆布は、本発明の昆布醤油を使用する料理に応じて、単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0037】
本発明に用いる醤油としては、JAS法(日本農林規格等に関する法律)に定められた、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、さいしこみしょうゆ、しろしょうゆのいずれの種類の醤油も使用可能であり、その製法も本醸造方式、混合醸造方式、混合方式のいずれによるものであっても使用は可能である。さらに、上記の5種類、3製造方式の「しょうゆ」製品に限らず、醤油に各種のだしや味醂、酒、他の調味料を加えて旨味を強化した「しょうゆ加工品」を使用することも可能である。しょうゆ加工品の中でも、特に土佐醤油を用いた場合には、土佐醤油に含まれる鰹節だしのうま味成分であるイノシン酸と昆布だしのうま味成分であるグルタミン酸の相乗効果によりうま味が飛躍的に向上するため(混合比が1:1のとき、それぞれ単独のうまみの約8倍に増強されることが知られている)、本発明の昆布醤油の製造においてより好適な結果が得られる。
【0038】
土佐醤油とは、基本的にはこいくちしょうゆに鰹節のだしを合わせて作る合わせ醤油のことで、香味をさらに引き立たせるために、みりんや旨味調味料を配合しているものが多く、数多くの市販品が出ている。また、インターネット上にも数多くのレシピが紹介されているが、代表的なものの一例として、こいくちしょうゆ8、たまりしょうゆ2、本みりん(煮切り)1、清酒(煮切り)1の配合比で合わせて火にかけ、途中アクが出たら丁寧に掬い取り、沸く寸前に火を止め、鰹節(削り節)を加えて布ごしをして作る。各調味料の配合比はこれに限定されるものではなく、料理に合わせて適宜調整が可能である。
【実施例0039】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
(昆布醤油の製造)
【実施例0041】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を45℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は45℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この45℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約300,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0042】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油10gを最初に一度に投入し、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約390,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0043】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、温度を60℃に調整して、土佐醤油を最初に1.25g、その後1時間ごとに1.25gを繰り返し投入しながら、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断・攪拌し、全体で8時間かけて土佐醤油10gの醤油投入・攪拌段階を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約420,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0044】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油2gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して96分間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、32分間かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む96分間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して32分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計5回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約400,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0045】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0046】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約5、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約370,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0047】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度制御を止めて、20分かけてゆっくりとなじませた。20分休止後の温度は50℃であった。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌と温度制御を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約460,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0048】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.66gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計6回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計6時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約430,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0049】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油2.5gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計20gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約100,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0050】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を70℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は70℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この70℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約500,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0051】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、こいくちしょうゆ1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約440,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0052】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、うすくちしょうゆ1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約410,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0053】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、たまりしょうゆ1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約470,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0054】
表面の汚れを軽く拭き取った真昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約440,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0055】
表面の汚れを軽く拭き取った日高昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約430,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0056】
表面の汚れを軽く拭き取った羅臼昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0057】
実施例5で作製した昆布醤油を、さらに-5℃において1週間、低温熟成を行い、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0058】
実施例5で作製した昆布醤油を、さらに-5℃において30日間、低温熟成を行い、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0059】
実施例5で作製した昆布醤油を、さらに0℃において30日間、低温熟成を行い、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【実施例0060】
実施例5で作製した昆布醤油を、さらに5℃において30日間、低温熟成を行い、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約460,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例1】
【0061】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を25℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は25℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この25℃における1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約200,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例2】
【0062】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを加えて、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を80℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は80℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この80℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約600,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例3】
【0063】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油2.5gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計4回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計4時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約350,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例4】
【0064】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油0.83gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計12回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計12時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約480,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例5】
【0065】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油1.25gを投入して、回転数約500回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計10gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約450,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【比較例6】
【0066】
表面の汚れを軽く拭き取った利尻昆布100gを適当な大きさに切り、常温の軟水1800gに投入し、8時間、そのまま浸漬して膨潤させた。膨潤した昆布を水から取り出し、クッキングペーパーに包んで丁寧に水切りを行った。この膨潤し、水切りをした昆布100gをミキサーに入れ、土佐醤油0.625gを投入して、回転数約10、000回転/分で、昆布を細断しながら攪拌し、温度を60℃に調整して1時間攪拌した。その後、攪拌を停止し、温度は60℃のまま、20分かけてゆっくりとなじませた。この60℃までの昇温を含む1時間の醤油投入・攪拌段階と、攪拌を停止して20分間、細断・攪拌した昆布と醤油を馴染ませる熟成発酵段階を、交互に計8回繰り返すことによって合計5gの土佐醤油を投入し、計8時間の細断・攪拌を行うことによって、本発明のペースト状の昆布醤油を完成させた。完成したペースト状昆布醤油の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定したところ、約650,000mPa・s(cP)の粘度を示した。
【0067】
(官能評価試験)
官能評価は、実施例1~20及び比較例1~6を対象にして行った。パネラー5名により、「香り」、「旨味」、「塩カド」、「コク」、「だし感」、「味なれ」の6項目に対して、5段階評価で行い、平均値を取った。能評価の結果を、粘度測定の結果とともに表1に示す。なお、「塩カド」の項目は、塩カドがない方が「高評価」である。
【0068】
【表1】
【0069】
官能評価の結果から、熟成発酵段階の温度を本発明の45~70℃に調整した場合(実施例1(45℃)、実施例2~9(60℃)、実施例10(70℃))には、それ以外温度設定条件である、比較例1(25℃)、比較例2(80℃)と比べて、官能試験の結果は好結果を得た。また、熟成発酵段階の醤油投入・攪拌段階の合計時間を本発明の6~8時間に設定した場合(実施例2~7、9(8時間)、実施例8(6時間))には、その他の時間設定条件である、比較例3(4時間)、比較例4(12時間)と比べて、官能試験の結果は好結果であった。また、膨潤し、水切りした昆布と醤油合計量の重量比を本発明の10:1~5:1に設定した場合(実施例1~8、10(10:1)、実施例9(5:1))には、それ以外の重量比の場合(比較例6(20:1))に比べて官能試験の結果は良好であった。また、熟成発酵段階の醤油投入・攪拌段階のミキサーの回転数を本発明の1,000~30,000回転/分に設定した場合(実施例5(10,000回転/分)、実施例6(5,000回転/分))には、その他の回転数条件である、比較例5(500回転/分)と比べて、官能試験の結果は好結果であった。また、熟成発酵段階において、他の条件が同一であれば、醤油投入・攪拌段階と熟成発酵段階に分けて、交互に繰り返し実施した場合(実施例5)が、醤油を一度に投入した場合(実施例2、3)よりも、官能試験の結果は良好であり、さらに、攪拌・熟成発酵段階において、攪拌を停止する熟成発酵段階の間、温度制御を止め多少温度が下がる場合(実施例7)に、連続して温度制御をした場合(実施例5)と比べてむしろいい官能評価結果を示した。粘度に関しても、膨潤し、水切りした昆布と醤油の重量比が、5:1の場合(実施例9)には粘度が多少下がるが、保形性の点からは問題ないが、20:1の場合(比較例6)の粘度の上昇が著しく、取り扱いや食感の点で問題があった。
【0070】
さらに、製造条件を同じに揃えて、投入する醤油を替えた場合、土佐醤油を用いる場合(実施例5)が、他のこいくちしょうゆ(実施例11)や、うすくちしょうゆ(実施例12)、たまりしょうゆ(実施例13)を用いた場合よりも、官能試験の結果は好結果であった。また、同様に製造条件を同じに揃えて、使用する昆布の種類を替えた場合、利尻昆布を用いる場合(実施例5)が、他の日高昆布(実施例14)、真昆布(実施例15)、羅臼昆布(実施例16)を用いた場合よりも、官能試験の結果は良好であった。
【0071】
さらに、製造した昆布醤油の低温熟成工程の効果については、低温熟成工程を加えない場合(実施例5)に比べて、-5℃で1週間の低温熟成を行った場合(実施例17)と-5℃で30日間の低温熟成を行った場合(実施例18)とを比較すると、低温熟成の期間が長くなるほど、官能試験の結果は好結果が得られた。また、低温熟成工程の温度について比較すると、-5℃で30日間の低温熟成を行った場合(実施例18)に加え、0℃で30日間の低温熟成を行った場合(実施例19)、5℃で30日間の低温熟成を行った場合(実施例20)の比較では、5℃で低温熟成を行った場合がもっとも良い結果が得られた。これは、低温熟成を行う低温領域においても、温度が高い方が熟成が進むためと考えられる。
【0072】
本発明の実施例5に記載の昆布醤油を、アミノ酸分析計による遊離アミノ酸分析(20種)にかけて総アミノ酸量に対する各アミノ酸の割合を比較した結果を表2に示す。表2の結果からわかるように、総アミノ酸量に対する各アミノ酸の割合は、原料の醤油に比べて、旨味の呈味成分であるアスパラギン酸とグルタミン酸は10%以上の顕著な増加が確認された。また、定量できた19種類のアミノ酸のうち13種類のアミノ酸で5%以上の減少が見られ、その中でも典型的な苦味の呈味成分であるアルギニンとメチオニンが10%以上の顕著な減少が見られた。さらに、甘味の呈味成分であるプロリンは変化が見られず、苦味の呈味成分が顕著に減少することにより、相対的に甘味が増加した。さらに、疲労感軽減に効果があるとされているヒスチジンで増加がみられた。この結果は、本発明の昆布醤油が、その製造過程における熟成発酵の工程を経て旨味を増強していることを示している。
【0073】
【表2】
【0074】
また、表2のアミノ酸分析の結果から、グルタミン酸、アスパラギン酸のように主として旨味に強くかかわるアミノ酸以外にも、健康効果を有するアミノ酸が含まれていることが分かった。総アミノ酸量に対して5%以上含まれるアミノ酸として、セリン(美肌効果、アルツハイマー病予防効果等)、プロリン(関節痛改善、美肌効果等)、アラニン(肝機能改善、長時間の運動支持効果等)、リジン(疲労回復、脱毛予防効果等)、バリン(筋肉修復、美肌効果等)、イソロイシン(疲労回復、集中力高揚効果等)、ロイシン(ストレス緩和効果、育毛効果等)、フェニルアラニン(脳機能向上効果、鎮痛効果等)、アルギニン(免疫力アップ効果、血流改善効果等)が含まれていることが判明し、種々の健康効果を有することが分かった。
【0075】
以上の結果から、本発明に係る条件で製造することにより、香りや旨味に優れ風味が豊かであり、醤油特有の塩カドが取れた円やかな味わいで、熟成した昆布だしの醤油の味なれに優れた昆布醤油が得られることが分かった。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲で、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲であり、
アミノ酸分析計により測定して得られる総アミノ酸量に対する各アミノ酸の含有比率において、前記醤油の前記アミノ酸含有比率に比較して、うま味の呈味成分であるグルタミン酸とアスパラギン酸の前記アミノ含有比率が増加すると共に、苦味の呈味成分であるアルギニンとメチオニンの前記アミノ酸含有比率が減少し、性状が保形性を有するペースト状の昆布醤油であって、
前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬することによって膨潤させた後、前記水を切った状態の前記昆布と前記醤油の混合物を、
45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、計6~8時間、細断・攪拌しながら熟成発酵して得られることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項2】
前記水を切った状態の前記昆布に、前記醤油の一部を投入してなる前記昆布と前記醤油の一部との混合物を、
45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵させる醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と、
該醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程後、20~40分間の前記ミキサーの停止によって、前記細断・攪拌しながら熟成発酵された前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませることで熟成発酵を促進する馴染ませ熟成発酵工程を行い、
次に、前記馴染ませることで熟成発酵を促進された前記昆布と前記醤油の一部との混合物に、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵させる前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程と、該醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程後、20~40分間の前記ミキサーの停止によって、前記細断・攪拌しながら熟成発酵された前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませることで熟成発酵を促進する前記馴染ませ熟成発酵工程を、順次5回~10回繰り返して、前記昆布と前記醤油の全量の重量比が10:1~5:1の範囲として得られ、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲である、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項3】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項2に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項4】
前記昆布と前記醤油の混合物の、
前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵工程、並びに前記馴染ませ熟成発酵工程を、50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、前記昆布と前記醤油の混合物を-20~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温熟成を行って得られることを特徴とする、請求項3に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項5】
前記昆布は利尻昆布であることを特徴とする、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項6】
前記醤油は土佐醤油であることを特徴とする、請求項1に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油。
【請求項7】
一種類以上の昆布と醤油の混合物からなり、
前記昆布を適当な大きさに切り、常温の水に6~24時間浸漬して前記昆布を膨潤させる昆布膨潤段階と、
前記昆布膨潤段階で膨潤させた前記昆布の水気を切る昆布水切り段階と、
前記昆布膨潤段階後に、前記昆布水切り段階を行った前記昆布と前記醤油の重量比が10:1~5:1の範囲とした混合物を、45℃~70℃の範囲に温度を調整し、
常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲で、性状が保形性を有するペースト状になるまで計6~8時間、ミキサーを用いて5,000~15,000回転/分の回転数で細断・攪拌しながら、熟成発酵をさせる細断・攪拌・熟成発酵段階とからなることを特徴とする保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項8】
前記細断・攪拌・熟成発酵段階は、
前記昆布水切り段階後の水気を切った前記昆布に対して、
前記醤油の一部を投入して、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵を行う醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階に続けて、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階後に、細断・攪拌を20~40分間停止して、前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませて熟成発酵を促進する、馴染ませ熟成発酵段階とを行い、次に、前記馴染ませて熟成発酵した前記昆布と前記醤油の一部との混合物に対して、新たに前記醤油の残りの一部を投入し、45℃~70℃の温度範囲で、回転数が5,000~15,000回転/分のミキサーで、0.6~1.6時間、細断・攪拌しながら熟成発酵を行う前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階と、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階後に、細断・攪拌を20~40分間停止して、前記昆布と前記醤油の一部を馴染ませて熟成発酵を促進する前記馴染ませ熟成発酵段階を順次行い、前記昆布と前記醤油の合計量の重量比が10:1~5:1の範囲になるまで、合計で5回~10回繰り返して、常温における粘度が10,000~500,000mPa・s(cP)の範囲である昆布醤油を得ることを特徴とする請求項に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項9】
前記昆布と前記醤油の混合物の、前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに馴染ませ熟成発酵段階の調整温度が50℃~65℃の範囲であることを特徴とする、請求項に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項10】
前記昆布と前記醤油の混合物に対する、
前記醤油投入・細断・攪拌・熟成発酵段階、並びに前記馴染ませ熟成発酵段階を50℃~65℃の温度範囲で行って終了した後、
前記昆布と前記醤油の混合物を-20℃~10℃の間の温度範囲において、1日~30日間、低温で熟成させる低温熟成段階を行うことを特徴とする、請求項に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項11】
前記昆布として利尻昆布を用いることを特徴とする、請求項に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。
【請求項12】
前記醤油として土佐醤油を用いることを特徴とする、請求項に記載の保形性を有するペースト状の昆布醤油の製造方法。