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特開2024-6646磁性合金材料、熱電変換素子、および熱電変換モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006646
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】磁性合金材料、熱電変換素子、および熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/10 20230101AFI20240110BHJP
   H01F 1/053 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L37/02
H01F1/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107733
(22)【出願日】2022-07-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ERATO齊藤スピン量子整流プロジェクト/スピンゼーベック効果応用に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】大森 康智
(72)【発明者】
【氏名】石田 真彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 浩子
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA11
5E040CA20
5E040NN01
(57)【要約】
【課題】一般的な磁性合金材料よりも熱電変換効率の大きな磁性合金材料を提供する。
【解決手段】鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料。
【請求項2】
鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、アルミニウムの組成比が15原子パーセント以上30原子パーセント以下である、
請求項1に記載の磁性合金材料。
【請求項3】
鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、ジスプロシウムの組成比が4原子パーセント以上12原子パーセント以下である、
請求項1または2に記載の磁性合金材料。
【請求項4】
鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの組成比が6対2対1である、
請求項1に記載の磁性合金材料。
【請求項5】
請求項1記載の磁性合金材料を含む発電体を有し、
前記発電体は、
対向する二つの主面を含む板状の形状を有し、前記磁性合金材料が前記主面の面内方向に磁化している、
熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1記載の磁性合金材料を含む第1磁性体層と、
温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果の発現する第2磁性体層と、
を積層させた構造の発電体を有する、
熱電変換素子。
【請求項7】
請求項1記載の磁性合金材料を含む磁性体ネットワークと、
前記磁性体ネットワークの内部に分散され、温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果の発現する磁性体粒子と、
によって構成される発電体を有する、
熱電変換素子。
【請求項8】
請求項1記載の磁性合金材料を含む管構造の発電体を有する、
熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記管構造の発電体は、
管軸を中心とする周方向に磁化している、
請求項8に記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記管構造の発電体の外側面に、管軸方向に沿って間隔を開けて配置された少なくとも二つの電極端子を含む、
請求項8または9に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換に用いられる磁性合金材料に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会に向けた熱マネジメント技術の一つとして、熱電変換への期待が高まっている。熱は、体温や太陽熱、工業排熱など様々な場面で回収できるエネルギーである。そのため、エネルギー利用の高効率化や、携帯端末やセンサ等への給電、熱流センシングによる熱の流れの可視化といった様々な用途において、熱電変換が適用されることが予想される。
【0003】
特許文献1には、ホイスラー構造を有する鉄-バナジウム-アルミニウム(FeVAl)系化合物を含む熱電変換素子が開示されている。特許文献1の熱電変換素子では、両主面間に温度差を与えることによって正孔および電子が温度差の方向に沿って移動し、両端子間に起電力が発生するゼーベック効果が発現する。
【0004】
近年、印加された温度勾配を電流に変換する磁性材料を含む熱電変換素子の開発が行われている。そのような熱電変換素子には、温度勾配によって異常ネルンスト効果やスピンゼーベック効果の発現する磁性材料が用いられる。
【0005】
異常ネルンスト効果の発現する熱電変換素子は、一方向に磁化する磁性金属を含む。異常ネルンスト効果が発現する磁性材料に温度勾配を印加すると、温度勾配によって生成される熱流が磁性金属内で電流に変換される。このとき、異常ネルンスト効果によって発生する電流の向きは、磁化の方向と温度勾配方向の両方に直交する。この特性によって、異常ネルンスト効果を用いた熱電変換素子は、ゼーベック効果を用いた素子に比べて素子構造がシンプルとなるため、様々な用途への応用が期待できる。
【0006】
非特許文献1には、異常ネルンスト効果の発現する磁性材料として、スピン軌道相互作用の大きい白金を含む鉄-白金(FePt)合金が開示されている。また、非特許文献2には、異常ネルンスト効果の発現する磁性材料として、窒化鉄(γ’-Fe4N)系材料や鉄-アルミニウム(Fe80Al20)系合金材料が開示されている。非特許文献1~2の磁性材料を非磁性基板上に成膜すれば、強磁性材料の薄膜結晶を含む薄膜型素子を形成できる。
【0007】
スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子は、一方向に磁化を有する磁性絶縁体層と、導電性を持つ起電体層の2層構造によって構成される。スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子の面外方向に温度勾配を印加すると、スピンゼーベック効果によって磁性絶縁体中にスピン流というスピン角運動量の流れが誘起される。磁性絶縁体中に誘起されたスピン流が起電体層に注入されると、逆スピンホール効果によって起電膜中の面内方向に電流が流れる。スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子は、熱伝導率が比較的小さい磁性絶縁体を用いて構成されることから、効果的な熱電変換を行うための温度差保持が可能となる。
【0008】
特許文献2および非特許文献3には、スピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子について開示されている。特許文献2には、単結晶のイットリウムガリウム鉄ガーネット(以下、YIGと記載)を磁性絶縁層とし、白金ワイヤを起電体層とする熱電変換素子が開示されている。非特許文献3には、多結晶マンガン-亜鉛(MnZn)フェライトの焼結体を磁性絶縁層とし、白金薄膜を起電体層とする熱電変換素子が開示されている。
【0009】
非特許文献4には、スピンゼーベック効果と異常ネルンスト効果とを併用するハイブリッド型のスピン熱電素子が開示されている。スピンゼーベック効果と異常ネルンスト効果とは、いずれも面外方向の温度勾配によって面内方向の起電力を誘起するという同様の対称性を持つため、二つの効果を組み合わせることによって熱電変換効率を向上できる。
【0010】
特許文献3には、第1磁性層、第2磁性層、および第3磁性層を順番に積層させた多層膜について開示されている。特許文献3の多層膜においては、第1磁性層および第3磁性層のキュリー温度よりも第2磁性層のキュリー温度を低くし、第3磁性層を垂直磁化膜とする。第2磁性層のキュリー温度未満の温度域においては、第1磁性層が第2磁性層との交換結合により垂直に磁化され、交換結合を介して第3磁性層の磁化が第2磁性層を介して第1磁性層へと転写される。第2磁性層は、室温では面内磁化膜であって、室温よりも高い臨界温度と第2磁性層のキュリー温度との間の温度域において垂直磁化膜となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004-119647号公報
【特許文献2】国際公開第2009/151000号
【特許文献3】特開2002-190145号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. Mizuguchi, S. Ohata, K. Uchida, E. Saitoh, and K. Takanashi, “Anomalous Nernst Effect in an L10-Ordered Epitaxial FePt Thin Film”, Appl. Phys. Express 5 093002 (2012)
【非特許文献2】S. Isogami, T. Takanashi, and M. Mizuguchi, “Dependence of anomalous Nernst effect on crystal orientation in highly ordered γ'-Fe4N films with anti-perovskite structure”, Appl. Phys. Express 10, 073005 (2017)
【非特許文献3】K. Uchida, T. Nonaka, T. Ota, and E. Saitoh, “Longitudinal spin-Seebeck effect in sintered polycrystalline (Mn, Zn)Fe2O4”, Appl. Phys. Lett. 97, 262504 (2010)
【非特許文献4】B. Miao, S. Huang, D. QU, and C. Chien, “Inverse Spin Hall Effect in a Ferromagnetic Metal”, Phys. Rev. Lett. 111, 066602 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2や非特許文献1~4のように、異常ネルンスト効果やスピンゼーベック効果を用いた熱電変換素子は、ゼーベック効果を用いた一般的な熱電変換素子に比べて熱電変換効率が低いため、実用化のためには更なる熱電変換効率の向上が求められる。例えば、非特許文献2には、鉄とアルミニウムの原子組成比が8:2である場合に比較的大きな異常ネルンスト効果を得られることについて記載されている。
【0014】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、一般的な磁性合金材料よりも熱電変換効率の大きな磁性合金材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様の磁性合金材料は、鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一般的な磁性合金材料よりも熱電変換効率の大きな磁性合金材料を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る熱電変換素子の一例を示す概念図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る熱電変換素子の一例を示す概念図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る熱電変換素子の一例を示す概念図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る熱電変換素子に含まれる鉄-アルミニウム-ジスプロシウム合金ネットワーク体の構造の一例を示す概念図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係る熱電変換モジュールの一例を示す概念図である。
図6】本発明の第4の実施形態に係る熱電変換モジュールにおける熱流、起電力、および磁化の方向の一例を示す概念図である。
図7】本発明の実施例1に係る熱電変換素子の一例を示す概念図である。
図8】本発明の実施例1に係る熱電変換素子を用いて計測された磁性合金材料(鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系合金)の規格化熱電係数の材料組成依存性を示すグラフである。
図9】本発明の実施例2に係る熱電変換素子の一例を示す概念図である。
図10】本発明の実施例2に係る熱電変換素子に用いた磁性合金材料(鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系合金)の熱起電力の磁場依存性を示すグラフである。
図11】本発明の実施例2に係る熱電変換素子に用いた鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系合金の熱起電力を、鉄-アルミニウム系合金の熱起電力と比較したグラフである。
図12】本発明の実施例3に係る熱電変換モジュールの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0019】
以下の実施形態においては、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、およびジスプロシウム(Dy)を主成分とする鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系(FeAlDy系)合金材料を発電体に用いる熱電変換素子について説明する。以下の実施形態で示すFeAlDy系合金材料は、アルミニウムを用いない鉄‐ジスプロシウム系(FeDy系)合金材料や、ジスプロシウムを用いない鉄-アルミニウム系(FeAl系)合金材料よりも高い熱電変換効率を実現する。また、以下の実施形態で示すFeAlDy系合金材料は、白金(Pt)を含む鉄-白金系(FePt系)合金材料や、コバルト-白金系(CoPt系)合金材料などよりも高い熱電変換効率を実現する。
【0020】
また、ジスプロシウムは、希土類元素およびランタノイド元素に属するレアアースの一種である。ジスプロシウムと同様に熱電変換を実現する希土類元素の一例は、テルビウム(Tb)である。ジスプロシウムは、テルビウムよりも安価であり、さらに、酸化しにくいという特性を持つ。
【0021】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る熱電変換素子について図面を参照しながら説明する。本実施形態の熱電変換素子は、磁性合金材料を含む発電体を有する。磁性合金材料は、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)とジスプロシウム(Dy)を主成分とする鉄-アルミニウム-ジスプロシウム合金(以下、FeAlDy合金と呼ぶ)である。
【0022】
図1は、本実施形態の熱電変換素子1の一例を示す概念図である。熱電変換素子1は、磁性合金材料を含む発電体を有する。磁性合金材料は、FeAlDy合金を含む発電体10である。図1には、発電体10の一方の主面上に電極端子14aと電極端子14bとを設置し、電極端子14aと電極端子14bとの間に電圧計15を設置する例を示す。なお、電圧計15は、本実施形態の熱電変換素子1の構成には含まれない。以下において、発電体10の主面に対して平行な方向を面内方向と呼び、発電体10の主面に対して垂直な方向を面外方向と呼ぶ。
【0023】
熱電変換素子1は、Fe、Al、およびDyを主成分とするFeAlDy合金を含む発電体10を有する。FeAlDy合金は、強磁性体であり、面内方向(図1のy方向)の磁化Mを有する。
【0024】
発電体10の面外方向(図1のz方向)に温度勾配dTが印加されると、異常ネルンスト効果によって、磁化Mと温度勾配dTのそれぞれの方向に垂直な面内方向(図1のx方向)に起電力Eが生じる。磁化Mと温度勾配dTのそれぞれの方向に垂直な面内方向(図1のx方向)の起電力Eを電極端子14aと電極端子14bの間から電気として取り出すことによって熱電変換が可能となる。
【0025】
発電体10は、Fe元素の含有量が50原子パーセント(at%)以上であるFeAlDy合金を含む。例えば、Fe、Al、およびDyの3元素において、Alの組成比が15at%以上30at%以下、Dyの組成比が4at%以上12at%以下であることが好ましい。なお、発電体10のFeAlDy合金は、Fe、Al、およびDyの組成が上述の範囲内に収まる限りにおいては、Fe、Al、およびDy以外の不純物を30at%以下含んでいてもよい。
【0026】
発電体10は、FeAlDy合金に由来する熱電変換機能を備える。発電体10のFeAlDy合金は、Fe、Al、およびDyで100%になることが望ましい。しかしながら、実際には、発電体10のFeAlDy合金には、製造過程や保存方法によって、Fe、Al、およびDy以外の物質が不純物として混入し得る。例えば、FeAlDy合金には、酸素や、炭素、銅などの不純物が混入し得る。また、FeAlDy合金には、FeAlDy合金を製造する装置で用いられる他の元素も不純物として混入し得る。なお、FeAlDy合金には、耐腐食性などの機能を向上させるために、意図的に何らかの混合物が添加されていてもよい。FeAlDy合金は、少なくともFeを50at%以上含有していれば、発電体10の熱電変換機能を実現するために必要な磁性を保つことができる。
【0027】
以上のように、本実施形態の熱電変換素子は、鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料を含む発電体を有する。発電体は、温度勾配が印加された際に、磁性合金材料に発現する異常ネルンスト効果によって、磁性合金材料の磁化の方向と、印加された温度勾配の方向とのそれぞれに対して略垂直な方向に起電力を生成する。
【0028】
以上のように、本実施形態の磁性合金材料は、鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料である。
【0029】
本実施形態の一態様の磁性合金材料は、鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、アルミニウムの組成比が15原子パーセント以上30原子パーセント以下である。また、本実施形態の一態様の磁性合金材料は、鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、Dyの組成比が4原子パーセント以上12原子パーセント以下である。また、本実施形態の一態様の磁性合金材料は、鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの3元素において、鉄、アルミニウム、およびジスプロシウムの組成比が6対2対1である。
【0030】
本実施形態の熱電変換素子の発電体に含まれるFeAlDy合金によれば、FePt合金やCoPt合金の数倍程度、FeAl合金よりも10数%程度大きな起電力が得られる。すなわち、本実施形態によれば、一般的な磁性合金材料よりも異常ネルンスト効果が大きく、熱電変換効率の大きな磁性合金材料を提供できる。
【0031】
また、本実施形態の一態様の熱電変換素子は、鉄を50原子パーセント以上含有する鉄-アルミニウム-ジスプロシウム系の磁性合金材料を含む発電体を有する。発電体は、対向する二つの主面を含む板状の形状を有し、前記磁性合金材料が主面の面内方向に磁化している。発電体には、主面の面外方向に温度勾配が印加された際に、磁性合金材料の磁化の方向と、印加された温度勾配の方向とのそれぞれに対して略垂直な方向に起電力が発生する。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱電変換素子について図面を参照しながら説明する。本実施形態の熱電変換素子は、異常ネルンスト効果の発現する導電性の磁性体層(第1磁性体層とも呼ぶ)と、スピンゼーベック効果の発現する絶縁性の磁性体層(第2磁性体層とも呼ぶ)とを積層させた構造の発電体を含む。第1磁性体層には、第1の実施形態のFeAlDy合金が含まれる。
【0033】
図2は、本実施形態の熱電変換素子2の一例を示す概念図である。熱電変換素子2は、第1磁性体層21と第2磁性体層22とを積層させた構造の発電体20を有する。図2には、第1磁性体層21の主面上に電極端子24aと電極端子24bとを設置し、電極端子24aと電極端子24bとの間に電圧計25を設置する例を示す。なお、電圧計25は、本実施形態の熱電変換素子2の構成には含まれない。以下において、発電体20の主面に対して平行な方向を面内方向と呼び、発電体20の主面に対して垂直な方向を面外方向と呼ぶ。
【0034】
第1磁性体層21は、異常ネルンスト効果の大きい磁性材料の層である。第1磁性体層21は、一方向(図2のy方向)の磁化M1を有する。第1磁性体層21には、第1の実施形態のFeAlDy合金を適用する。
【0035】
例えば、第1磁性体層21は、スパッタ法やめっき法、真空蒸着法などを用いて形成できる。
【0036】
第1磁性体層21は、二つの役割を兼ね備える。一つ目は、第2磁性体層22のスピンゼーベック効果によって流入するスピン流を、逆スピンホール効果によって起電力(電場ESSE)に変換するスピン流-電流変換の役割である(SSE:Spin Seebeck Effect)。二つ目は、異常ネルンスト効果によって温度勾配dTから直に起電力(電場EANE)を生成する役割である(ANE:Anomalous Nernst Effect)。
【0037】
異常ネルンスト効果によって生成される電場EANEの向きは、以下の式1に示すように、第1磁性体層21の磁化M1と温度勾配dTとの外積で規定される。
ANE∝M1×dT・・・(1)
なお、式1において、「∝」は、異常ネルンスト効果によって生成される電場EANEの向きが、第1磁性体層21の磁化M1と温度勾配dTとの外積で規定されることを示す。
【0038】
第2磁性体層22は、スピンゼーベック効果の発現する磁性材料の層である。第2磁性体層22は、第1磁性体層21と同様に、一方向(図3のy方向)の磁化M2を有する。第2磁性体層22は、イットリウム鉄ガーネット(YIG:Yttrium Iron Garnet)や、Biが添加されたYIG(Bi:YIG)、ニッケル亜鉛フェライト(NiZnフェライト)などの磁性材料を含む。例えば、イットリウム鉄ガーネットとしては、Y3Fe512や、Biが添加されたBiY2Fe512を一例として挙げられる。例えば、NiZnフェライトとしては、(Ni,Zn)xFe3-x4を一例として挙げられる(xは1以下の正数)。
【0039】
熱電変換素子2が何らかの基体上に成膜される場合、第2磁性体層22は、例えば、スパッタ法や有機金属分解法、パルスレーザー堆積法、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション法、フェライトめっき法、液相エピタキシー法などを用いて成膜できる。
【0040】
第2磁性体層22には、主面に対して面外方向(図2のz方向)の温度勾配dTが印加された際に、スピンゼーベック効果によってスピン流Jsが生成する。スピン流Jsの方向は、温度勾配dTの方向(図2のz方向)と平行あるいは反平行の方向(図2のz方向)である。図2の例では、第2磁性体層22に-z方向の温度勾配dTが印加されると、+z方向あるいは-z方向に沿ったスピン流Jsが生成される。第1磁性体層21と第2磁性体層22との界面においてスピン流Jsが生成すると、逆スピンホール効果によって第1磁性体層21に面内方向の起電力が発生する。
【0041】
第2磁性体層22は、熱電変換効率の観点から熱伝導率が小さいことが望ましい。そのため、第2磁性体層22には、導電性の無い磁性絶縁体や、電気抵抗の比較的大きな磁性半導体を用いることが望ましい。
【0042】
スピンゼーベック効果によって生成される電場ESSEの向きは、以下の式2に示すように、第2磁性体層22の磁化M2と温度勾配dTとの外積で規定される。
SSE∝M2×dT・・・(2)
なお、式2において、「∝」は、スピンゼーベック効果によって生成される電場ESSEの向きが、第2磁性体層22の磁化M2と温度勾配dTとの外積で規定されることを示す。
【0043】
実際の電場の符号は材料にも依存するが、図2に示す熱電変換素子2の構成の場合、磁化Mと磁化M2の方向が同一であれば、ある温度勾配dTに対して、電場ESSE、と電場EANEとはいずれも同一方向に生成される。したがって、このような条件下では、異常ネルンスト効果とスピンゼーベック効果とがお互いを強め合い、生成される電場の絶対値は、以下の式3で示すように、2つの効果による起電力が加算された値(EHybrid)になる。
|EHybrid|=|ESSE|+|EANE|・・・(3)
なお、式3は、電場ESSEと電場EANEとが同一方向に生成する場合に適用される。
【0044】
図2の例では、第1磁性体層21の磁化Mおよび第2磁性体層22の磁化M2の方向が+y方向であるため、温度勾配dTの方向が-z方向であれば、第1磁性体層21には+x方向の起電力が発生する。
【0045】
発電体20における熱電変換を効果的に行うためには、温度勾配dTを保持することが求められる。温度勾配dTを保持するために、第2磁性体層22の厚さは、1マイクロメートル(μm)以上であることが望ましい。また、スピンゼーベック効果を効果的に発現させるためには、膜内でのスピン流の散逸の影響を避けることが求められる。膜内でのスピン流の散逸の影響を避けるために、第1磁性体層21の膜厚は、100ナノメートル(nm)以下であることが望ましい。また、熱電変換素子2を支えるために、第2磁性体層22の下部に基板を設けてもよい。
【0046】
以上のように、本実施形態の熱電変換素子は、第1の実施形態の磁性合金材料を含む第1磁性体層と、温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果の発現する第2磁性体層と、を積層させた構造の発電体を有する。すなわち、本実施形態の熱電変換素子は、磁性合金材料を含む第1磁性体層と、温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果の発現する第2磁性体層とを積層させた構造の発電体を有する。例えば、第1磁性体層の厚さが100ナノメートル以下であることが好適である。
【0047】
本実施形態の熱電変換素子においては、磁性合金材料を含む第1磁性体層と、温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果の発現する第2磁性体層とを積層させた構造により、異常ネルンスト効果とスピンゼーベック効果とを併用できる。そのため、本実施形態の熱電変換素子によれば、第1の実施形態の熱電変換素子よりも大きな熱起電力を生成することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る熱電変換素子について図面を参照しながら説明する。本実施形態の熱電変換素子は、異常ネルンスト効果の発現する導電性の磁性体ネットワークと、スピンゼーベック効果の発現する絶縁性の磁性体粒子とをコンポジットさせた構造の発電体を含む。磁性体ネットワークには、第1の実施形態のFeAlDy合金が含まれる。
【0049】
図3は、本実施形態の熱電変換素子3の一例を示す概念図である。熱電変換素子3は、第1支持層33aと第2支持層33bとの間に発電体30を挟み込んだ構造を有する。図3には、発電体30の対面し合う2つの側端面上に電極端子34aと電極端子34bとを設置し、電極端子34aと電極端子34bとの間に電圧計35を設置する例を示す。なお、電圧計35は、本実施形態の熱電変換素子3の構成には含まれない。以下において、発電体30の主面に対して平行な方向を面内方向と呼び、発電体30の主面に対して垂直な方向を面外方向と呼ぶ。
【0050】
図4は、発電体30の構造の一例を示す概念図である。図4は、zy平面に対して平行な平面で切断された発電体30の断面を+x方向の視座から見た図である。発電体30は、磁性体ネットワーク301と、磁性体ネットワーク301の内部に分散された粒状の磁性体粒子302とを含む。言い換えると、発電体30においては、粒状の磁性体粒子302が互いに隔離して配置され、磁性体粒子302の粒と粒の間の隙間を埋めるように磁性体ネットワーク301が網状に広がっている。
【0051】
磁性体ネットワーク301は、異常ネルンスト効果の大きい磁性材料を含む。磁性体ネットワーク301には、第1の実施形態のFeAlDy合金を適用する。
【0052】
発電体30の内部で磁性体ネットワーク301が3次元的なネットワーク構造を有することにより、電極端子34aと電極端子34bとの間は電気的に接続される。
【0053】
磁性体粒子302は、スピンゼーベック効果の発現する磁性材料を含む。磁性体粒子302は、イットリウム鉄ガーネット(YIG:Yttrium Iron Garnet)やニッケル亜鉛フェライト(NiZnフェライト)などの磁性材料を含む。例えば、イットリウム鉄ガーネットとしてはY3Fe512を一例として挙げられる。例えば、NiZnフェライトとしては、(Ni,ZnFe)34を一例として挙げられる。
【0054】
磁性体粒子302は、面内方向(図4のx方向)の磁化を有する。なお、発電効率を最大化するために、個々の磁性体粒子302の粒径は、スピンゼーベック効果で誘起されるスピン流(マグノン流)の緩和長程度であることが望ましい。具体的には、磁性体粒子302の平均粒径は、300nm以上10μm以下であることが望ましい。
【0055】
発電体30の両主面上には、第1支持層33aと第2支持層33bとが配置される。第1支持層33aは、発電体30の上面(第1面とも呼ぶ)に配置される。第2支持層33bは、発電体30の下面(第2面とも呼ぶ)に配置される。熱電変換素子3は、第1支持層33aと第2支持層33bとによって発電体30が支持されることによって、素子全体の強度が高められている。
【0056】
第1支持層33aおよび第2支持層33bには、発電体30で発生する起電力をロスなく外部に取り出すために、電気を通さない絶縁体材料、もしくは抵抗率が1オームメートル(Ωm)以上の半導体材料を用いることが望ましい。
【0057】
第1支持層33aおよび第2支持層33bを構成する材料は、熱電変換素子3の作製の都合上、発電体30を構成する金属材料や磁性絶縁体材料よりも融点が低いことが望ましい。スピンゼーベック効果の発現する磁性体粒子302は、磁性体粒子302に含まれる磁性体のキュリー温度以下の温度域で用いられる。そのため、磁性体粒子302に含まれる磁性体のキュリー温度以下の温度域で融けないように、第1支持層33aおよび第2支持層33bの材料の融点は、磁性体粒子302のキュリー温度より高いことが好ましい。
【0058】
すなわち、熱電変換素子3を作製する際には、第1支持層33aおよび第2支持層33bの最低焼結温度と、発電体30の最低焼結温度との間に熱電変換素子3の焼結温度を設定する。このように、融点(および焼結温度)の低い材料を第1支持層33aおよび第2支持層33bとして用いれば、発電体30の本来の焼結温度よりも低温の熱処理で熱電変換素子3を高い強度で一体に固形化できる。
【0059】
例えば、磁性体粒子302として、キュリー温度が300~400℃、融点が1200~1700℃のフェライト系の材料を用いることを想定する。この場合、第1支持層33aおよび第2支持層33bを構成する材料の融点は、400℃以上1200℃以下であることが望ましい。具体的には、第1支持層33aおよび第2支持層33bを構成する材料には、酸化ビスマスBi23や、酸化モリブデンMoO3、酸化ゲルマニウムGeO2などが好適である。
【0060】
電極端子34aおよび電極端子34bは、発電体30の対向する2つの側端面上に設置される。図3において、電極端子34aは-y側の側端面(第3面とも呼ぶ)に設置され、電極端子34bは+y側の側端面(第4面とも呼ぶ)に設置される。電極端子34aおよび電極端子34bは、-z方向に印加された温度勾配dTによってy方向に発生する熱起電力を取り出すための端子である。電極端子34aおよび電極端子34bは、導電性を有する材料によって構成される。
【0061】
熱電変換素子3に面外方向(図3のz方向)の温度勾配dTを印加すると、磁性体粒子302にはスピンゼーベック効果が発現する。磁性体粒子302にスピンゼーベック効果が発現すると、図4のように、磁性体ネットワーク301と磁性体粒子302との界面においてスピン流jsが発生する。磁性体ネットワーク301と磁性体粒子302との界面においてスピン流jsが発生すると、逆スピンホール効果によって磁性体ネットワーク301に面内方向の起電力が発生する。図4には、逆スピンホール効果によって磁性体ネットワーク301の内部に電流jISHEが流れる様子を概念化して図示する(ISHE:Inverse Spin Hall Effect)。磁性体ネットワーク301は、発電体30の中でネットワーク状に広がって分散しているため、コンポジット体各部において生成された起電力は全体として加算され、電極端子34aと電極端子34bとを介して面内方向(図3のy方向)の起電力が得られる。
【0062】
以上のように、本実施形態の熱電変換素子は、第1の実施形態の磁性合金材料を含む磁性体ネットワークと、その磁性体ネットワークの内部に分散される磁性体粒子と、によって構成される発電体を有する。磁性体粒子は、温度勾配の印加によってスピンゼーベック効果が発現する。言い換えると、本実施形態の熱電変換素子は、異常ネルンスト効果の発現する磁性体ネットワークで、スピンゼーベック効果の発現する磁性体粒子を分散保持させた構造を有する。
【0063】
第2の実施形態の熱電変換素子の構造では、第2磁性体層におけるスピン流の緩和のため、発電体を厚くしても発電効率が効率的には大きくならない。それに対し、本実施形態の熱電変換素子において、異常ネルンスト効果の発現する磁性体ネットワークと、スピンゼーベック効果の発現する磁性体粒子とによって構成されるコンポジット構造により、発電体を厚くすることによって発電効率が効率的に大きくなる。
【0064】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る熱電変換モジュールについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の熱電変換モジュールは、異常ネルンスト効果の発現する導電性の磁性体によって構成される管構造の発電体を含む。
【0065】
図5は、本実施形態の熱電変換モジュール4の一例を示す概念図である。熱電変換モジュール4は、管構造の発電体40を有する。図5には、発電体40の外側面上に電極端子44aと電極端子44bとを設置し、電極端子44aと電極端子44bとの間に電圧計45を設置する例を示す。なお、電圧計45は、本実施形態の熱電変換モジュール4の構成には含まれない。以下において、管構造の発電体40の管軸方向に対して平行な方向を面内方向と呼び、管構造の発電体40の管軸方向に対して垂直な方向を面外方向と呼ぶ。
【0066】
本実施形態においては、管構造の発電体40の内側に熱媒体を流す例を示す。管構造の発電体40の外側は、管構造の発電体40の内側を流れる熱媒体とは異なる温度の熱媒体と熱的に接続される。
【0067】
発電体40は、第1~第3の実施形態の発電体10~30のいずれかを管状に形成した構造を有する。発電体40は、第1の実施形態のFeAlDy合金を熱電変換材料として含む。
【0068】
図6は、管構造の発電体40と、温度勾配dT、磁化Mの方向、起電力Eの方向の関係性を示す概念図である。管構造の発電体40の内側を流れる熱媒体と、管構造の発電体40の外側と熱的に接続される熱媒体のうち、いずれか一方を温熱源もしくは冷熱源とし、もう一方を熱浴として用いる。温度勾配dTは、管構造の発電体40を構成する熱電変換材料の厚み方向に発生し、その量や方向は管の内外温度の状態に依存する。
【0069】
図6のように、管構造の発電体40を構成する熱電変換材料の磁化は、温度勾配dTと直交しながら、管の周方向に沿うように規定される。磁化を規定する方法は、形状磁気異方性や結晶磁気異方性を用いる方法や、直流電流が作る磁場を利用した着磁手法など、工業的に用いられる一般的な手法を用いることができる。
【0070】
図6のように、管構造の発電体40が管の周方向に沿って磁化していると、異常ネルンスト効果によって、温度勾配dTと磁化Mの各々の方向に対して垂直な面内方向に起電力Eが発生する。磁化Mと温度勾配dTのそれぞれの方向に垂直な面内方向の起電力Eを電極端子44aと電極端子44bの間から取り出すことによって熱電変換が可能となる。
【0071】
以上のように、本実施形態の熱電変換モジュールは、第1の実施形態の磁性合金材料を含む管構造の発電体を有する。本実施形態の一態様の熱電変換モジュールは、管構造の発電体が、管軸を中心とする周方向に磁化している。また、本実施形態の一態様の熱電変換モジュールは、管構造の発電体の外側面に、管軸方向に沿って間隔を開けて配置された少なくとも二つの電極端子を含む。
【0072】
本実施形態の熱電変換モジュールは、管構造の発電体の周方向に沿って磁化している。そのため、管の内部を流れる熱媒体と、管の外部の熱媒体との温度差に起因する温度勾配によって、管構造の発電体の管軸方向に沿った起電力が発生する。本実施形態の熱電変換モジュールにおいて発生した起電力は、管の外側面に二つの端子を設置することによって取り出すことができる。本実施形態の熱電変換モジュールによれば、管の外側面に設置された二つの端子の間隔を大きくするほど電圧を大きくすることができる。
【0073】
実際には、管構造の発電体の管軸方向に沿った温度差に起因して、異常ネルンスト起電力と同等以上の大きさでのゼーベック効果による起電力が発生しうる。本実施形態の熱電変換モジュールを電源として活用する場合には、ゼーベック効果による熱起電力と異常ネルンスト効果による熱起電力とを区別することなく、一つの熱起電力として活用することが好ましい。そのため、試用する熱源や熱浴の温度差や、流体が管の内部を流れる向きに応じて決まるゼーベック起電力の符号に併せて、熱電変換モジュールの磁化の方向を適切に設定することが好ましい。熱電変換モジュールの磁化の方向を適切に設定できれば、ゼーベック起電力と異常ネルンスト起電力とを互いに打ち消すことなく足し合すことができる。
【0074】
本実施形態の熱電変換モジュールを配管部品に適用すれば、管の内部と外部との間に温度勾配を印加することによって、管軸方向に起電力を発生させることができる。例えば、本実施形態の熱電変換モジュールは、水道管や下水管などのように、内部に液体が流れる配管部品に適用できる。また、例えば、本実施形態の熱電変換モジュールは、ヒートパイプなどの機構にも適用できる。なお、本実施形態の熱電変換モジュールは、管の内部と外部の温度差を利用できさえすれば、上記の適用例に限定されず、任意の用途に適用できる。例えば、本実施形態の熱電変換モジュールの内部に電線を収めれば、電線を流れる電流によって発生するジュール熱に起因する熱流が管の外部に向かって流れることを利用して、管軸方向に起電力を発生させることもできる。
【0075】
(実施例1)
次に、第1の実施形態の熱電変換素子1に係る実施例1について図面を参照しながら説明する。本実施例の熱電変換素子は、FeAlDy合金を発電体として備える。なお、本実施例の熱電変換素子の発電体に用いられるFeAlDy合金は、作製の都合上、酸素を主とする不純物として含み得る。不純物として含まれる酸素等の割合は、例えば、5~15原子パーセント(at%)程度である。
【0076】
図7は、本実施例の熱電変換素子100の一例を示す概念図である。熱電変換素子100は、FeAlDy合金を含む発電体110を有する。発電体110は、x方向の長さを8ミリメートル(mm)、y方向の長さを2mmとし、z方向の厚さを100~300ナノメートル(nm)に形成した。
【0077】
本実施例では、Fe、Al、およびDyを同時スパッタ法により基板上に100~300nm程度堆積させた。
【0078】
本実施例では、FeAlDy合金の異常ネルンスト効果の組成依存性を調べるために、Fe、Al、およびDyの各々の含有比を変えた複数の熱電変換素子100を作製し、それぞれの熱電変換素子100の熱起電力Vを測定した。熱電変換素子100の熱起電力Vを測定するために、図7のように、発電体110の一方の主面上に電極端子140aと電極端子140bとを設置し、電極端子140aと電極端子140bとの間に電圧計150を設置した。電極端子140aと電極端子140bとの間隔は約8mmに設定した。
【0079】
図8は、複数の熱電変換素子100の熱起電力Vから算出された規格化熱電係数のFe-Al-Dy組成依存性(原子比)を示すグラフである。図8は、不純物を除くFe、Al、およびDyの3元素系における組成比のバランスを示す。規格化熱電係数とは、z方向に温度勾配dTがあり、x方向の熱起電力Vが発生した状態で、z方向の長さLzおよびx方向の長さLxにより規格化した材料固有の熱電性能を示す値である。規格化熱電係数は、以下の式4によって計算される。
(規格化熱電係数)=V/dT×(Lz/Lx)・・・(4)
本実施例で算出される規格化熱電係数の単位は、マイクロボルト毎ケルビン(μV/K)である。
【0080】
図8には、規格化熱電係数が1.0、2.0、3.0、および3.5となった組成比を実線で示した。図8のように、規格化熱電係数は、Alの組成比が15~30at%、Dyの組成比が4~12at%の組成範囲において、Fe-Al二元合金よりも大きく、Fe-Dy二元合金よりも大きくなった。すなわち、Alの組成比が15~30at%、Dyの組成比が4~12at%、残部がFeのFeAlDy合金は、FeAl合金やFeDy合金よりも熱電変換効率が大きくなった。また、Fe:Al:Dy=65:25:10(at%)程度において、FeAlDy合金の規格化熱電係数は、最大になった。すなわち、Feの組成比が65at%、Alの組成比が25at%、Dyの組成比が10at%であるFeAlDy合金は、熱電変換効率が最大となる。なお、FeAlDy合金の規格化熱電係数が最大となる組成比の誤差範囲は、数%程度である。
【0081】
以上のように、本実施例では、Alの組成比が15~30at%、Dyの組成比が4~12at%、残部がFeのFeAlDy合金は、FeAl合金やFeDy合金よりも熱電変換効率が大きくなることを確認できた。
【0082】
(実施例2)
次に、第1の実施形態の熱電変換素子1に係る実施例2について図面を参照しながら説明する。実施例1ではスパッタ法によって発電体を薄膜状に形成したが、本実施例では発電体を焼結体として形成させた例を示す。本実施例の熱電変換素子は、Fe6Al2Dy1合金を発電体として備える。なお、本実施例の熱電変換素子の発電体に用いられるFe6Al2Dy1合金は、作製の都合上、炭素や酸素を主とする不純物として含み得る。
【0083】
図9は、本実施例の熱電変換素子200の一例を示す概念図である。熱電変換素子200は、Fe6Al2Dy1合金を含む発電体210を有する。発電体210は、x方向の長さを8mm、y方向の長さを2mmとし、z方向の厚さを1.3mmに形成した。
【0084】
本実施例では、放電プラズマ焼結装置を用いた粉末冶金法によって発電体210を作製した。まず、平均粒径が4μmのFe粉末と、平均粒径が3μmのAl粉末と、平均粒径が800μm程度のDyの粗粉末とを原子組成比6:2:1で調合し、均一に混和するように乳鉢で40分間混合することによって混合粉末を調整した。次に、調整した混合粉末を黒鉛の型に詰め、50メガパスカル(MPa)の圧力を印加した状態で、真空中950℃で1時間30分焼結することによってFe6Al2Dy1合金を作製した。
【0085】
図9には、発電体210の一主面上に電極端子240aと電極端子240bとを設置し、電極端子240aと電極端子240bとの間の電圧を測定する電圧計250を示す。
【0086】
熱電変換による起電力の測定時には、熱電変換素子200の両主面の中心部に幅5mmの銅ブロックを上下から押し当て、一方の主面を加熱、もう一方の主面を冷却することで温度勾配dTを印加した。したがって、電極端子間距離は約8mmだが、実際に温度差が印加されて熱起電力が発生する領域の面積は、銅ブロックの幅(5mm)と、熱電変換素子200の幅(2mm)との積(10ミリ平方メートルmm2)である。
【0087】
図10は、熱電変換素子200の両主面間に2.8ケルビン(K)の温度勾配dTが印加されたときに発生する熱起電力Vの外部磁場H依存性を示すグラフである。熱電変換素子200には、温度勾配dTと外部磁場H(磁化M)のそれぞれの方向に対して垂直な方向に熱起電力が生じ、電極端子240aと電極端子240bとの間には熱起電力Vが発生した。
【0088】
図11は、本実施例のFe6Al2Dy1合金を含む熱電変換素子200と、Dyを含まないFe3Al合金を含む熱電変換素子の規格化熱電係数V/dT(Lz/Lx)を比較したグラフである。図11のように、本実施例のFe6Al2Dy1合金を含む熱電変換素子200は、Dyを含まないFe3Al合金を含む熱電変換素子と比べて、規格化熱電係数が大きくなった。
【0089】
以上のように、本実施例では、Fe6Al2Dy1合金を含む熱電変換素子は、Dyを含まないFe3Al合金を含む熱電変換素子と比べて熱電変換効率が大きくなることを確認できた。
【0090】
一般に、数10~数100nm程度の厚さの薄膜系と、10μm以上の厚さのバルク系とでは、熱電性能が異なる可能性がある。実施例1~2によって、Fe-Al合金系にDyを加えることによる熱電性能の向上効果は、薄膜系およびバルク系のいずれでも得られることを確認できた。
【0091】
(実施例3)
次に、第4の実施形態の熱電変換モジュール4に係る実施例3について図面を参照しながら説明する。本実施例では、管状に形成されたFe6Al2Dy1合金を発電体として備える熱電変換モジュールを作製した例を示す。なお、本実施例の熱電変換モジュールの発電体に用いられるFe6Al2Dy1合金は、作製の都合上、炭素や酸素を主とする不純物として含み得る。
【0092】
図12は、本実施例の熱電変換モジュール300の一例を示す概念図である。熱電変換モジュール300は、Fe6Al2Dy1合金を含む管構造の発電体310を有する。
【0093】
本実施例では、まず、Fe6Al2Dy1合金のバルクの溶融体から圧延手法を用いて丸棒材を作製した後、同じく圧延を用いて中空管構造の発電体310を作製した。発電体310の形状は、外径8mm、内径6mm、厚さ1mm、長さ100mmの管状である。
【0094】
続いて、発電体310を熱電変換モジュール300として用いるために着磁を行った。着磁は、中空管構造の発電体310の内部を貫くように着磁用の銅線を配し、直流パルス電流を流すことで行った。続いて、発電体310を真空中でパリレン蒸気にさらすことによってポリマー膜を蒸着し、中空管構造の発電体310の内外壁に絶縁用の被覆膜を形成させた。ポリマー膜は、中空管構造の発電体310の表面全体に形成され、その厚さは約1μmであった。そして、中空管構造の発電体310の外側面の両端の一部のポリマー膜を除去し、ポリマー膜を除去した箇所に電極端子340aおよび電極端子340bを形成した。電極端子340aおよび電極端子340bにおいては、Fe6Al2Dy1合金と電極端子(電極端子340aおよび電極端子340b)とが電気的に接続されていることを確認した。以上の工程で作製された熱電変換モジュール300は、熱電変換係数が5mV/K、熱伝導率が15W/mKと推測された。
【0095】
続いて、熱電変換モジュール300の起電力を測定した。まず、熱電変換モジュール300の外側を25℃の十分な量の冷却用水浴に入れた。そして、熱電変換モジュール300の内側に約100℃の熱水を毎分5リットル(5L/min)の流量で導入した。このとき、1mmの厚さの熱電変換モジュール300には、約4ケルビン(K)の温度差が生じ、異常ネルンスト効果による約20ミリボルト(mV)の熱起電力が発生した。また、熱電変換モジュール300の外部では、最大で約10ミリワット(mW)の取出し電力を得ることができた。
【0096】
以上のように、本実施例では、管状に形成されたFe6Al2Dy1合金を発電体とする熱電変換モジュールは、管構造の発電体の内側に流れる熱媒体と外側の熱媒体との温度勾配によって発電できることを確認できた。
【0097】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0098】
1、2、3 熱電変換素子
10、20、30 発電体
14a、24a、34a、44a 電極端子
14b、24b、34b、44b 電極端子
21 第1磁性体層
22 第2磁性体層
33a 第1支持層
33b 第2支持層
100、200 熱電変換素子
110、210 発電体
140a、240a、340a 電極端子
140b、240b、340b 電極端子
300 熱電変換モジュール
310 発電体
340a、340b 電極端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12