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特開2024-66461樹脂組成物用の分散剤および樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066461
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物用の分散剤および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/42 20220101AFI20240508BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240508BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240508BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C09K23/42
C08L83/07
C08K3/013
C08K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175731
(22)【出願日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022175457
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 智也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直也
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AC05
4D077BA03
4D077CA03
4D077CA04
4D077DC12Y
4D077DC19X
4D077DD30Y
4D077DD32Y
4D077DD33Y
4D077DE02Y
4J002CP031
4J002CP121
4J002DE076
4J002DE106
4J002DE146
4J002ED027
4J002FD016
4J002FD206
4J002GQ00
4J002HA05
(57)【要約】
【課題】無機充填剤を多量に含ませた場合でもスラリー状態を維持でき、硬化物に優れた放熱性及び優れた絶縁破壊電圧を付与することができる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】オルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物に用いる分散剤であって、下記一般式(1)で表される化合物である樹脂組成物用の分散剤。
RO-(AO)m-H (1)
[式(1)中、Rは炭素数3~18の分岐アルキル基、AOはエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基であり、mは0~3であり、mが2以上の場合、複数のAOは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物に用いる分散剤であって、下記一般式(1)で表される化合物である樹脂組成物用の分散剤。
RO-(AO)m-H (1)
[式(1)中、Rは炭素数3~18の分岐アルキル基、AOはエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基であり、mは0~3であり、mが2以上の場合、複数のAOは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【請求項2】
前記炭素数3~18の分岐アルキル基が、1-メチルエチル基を有する基または2-エチルヘキシル基である請求項1に記載の樹脂組成物用の分散剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分散剤、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤が、アルミナ、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物用の分散剤および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の電子部品及び機械部品等の発熱体においては、駆動により熱が発生し、発生した熱が蓄積されると半導体素子の駆動や周辺機器へ悪影響が生じることから、従来から冷却手段が設けられている。半導体素子等の電子部品の冷却手段としては、当該機器の筐体内の空気を排出して冷却するファンや、冷却対象となる半導体素子に取り付けられる放熱フィン及び放熱板等のヒートシンク等が知られている。
【0003】
近年、トランジスター、IC、メモリー素子等の電子部品を登載したプリント回路基板やハイブリッドICの高密度・高集積化、二次電池(セル式)の容量の増大にともない、電子部品や電池等の機器から発生する熱を効率よく放熱させる方法が検討されている。このような方法の一つとして、オルガノポリシロキサンと、酸化アルミニウム粉末及び、酸化亜鉛粉末等の無機充填剤とを含む熱伝導性シリコーン組成物を用いることが知られている。特に、高い放熱量に対応すべく、特許文献1および2においては、多量の無機充填剤を含む熱伝導性シリコーン組成物が提案されている。
【0004】
特許文献1においては、ポリオルガノシロキサン、シラン化合物で表面処理された熱伝導微粒子(熱伝導微粒子の含有量は、ポリオルガノシロキサン100重量部に対し100~200重量部)、及び蓄熱材を含有する蓄熱性シリコーン材料が提案されている。また、特許文献2においては、オルガノポリシロキサン、硬化剤、及びケイ素原子に結合したアルコキシシリル基を有するオリゴシロキサンで表面処理された無機充填材(無機充填剤の含有量はオルガノポリシロキサン100重量部に対し500~2500重量部)を含有する熱伝導性シリコーン組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-208728号公報
【特許文献2】特開2001-139815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の熱伝導性シリコーン組成物において、無機充填剤の表面処理剤として用いられている化合物は、アルコキシシリル基等の加水分解性基を有している化合物が多い。このような加水分解性基を有する化合物で表面処理した無機充填剤を多量(例えば母材であるシリコーン樹脂100重量部に対し100重量部以上)に使用すると、未反応の加水分解性基が、シリコーン樹脂及び電子機器に対して劣化等の悪影響を与えることがある。
一方、無機充填剤の表面処理剤を少なくすると、無機充填剤の表面における処理剤の分布が不均一になる場合がある。表面処理剤の分布が不均一な無機充填材を多量に使用すると、熱伝導性シリコーン組成物を、スラリー状態で維持することが困難となることがある。
本発明は、無機充填剤を多量に含ませた場合でもスラリー状態を維持でき、硬化物に優れた放熱性及び優れた絶縁破壊電圧を付与することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物に用いる分散剤であって、下記一般式(1)で表される化合物である樹脂組成物用の分散剤、ならびに、前記分散剤、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物である。
RO-(AO)m-H (1)
[式(1)中、Rは炭素数3~18の分岐アルキル基、AOはエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基であり、mは0~3であり、mが2以上の場合、複数のAOは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機充填剤を多量に含ませた場合でもスラリー状態を維持でき、樹脂組成物に無機充填剤を多く含ませることができる。これにより、樹脂組成物の硬化物に、放熱性に優れかつ絶縁破壊電圧が高いという特性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[分散剤]
本発明の分散剤は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む樹脂組成物に用いる分散剤であって、下記一般式(1)で表される化合物である。
RO-(AO)m-H (1)
[式(1)中、Rは炭素数3~18の分岐アルキル基、AOはエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基であり、mは0~3であり、mが2以上の場合、複数のAOは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【0010】
式(1)中のRは炭素数3~18の分岐アルキル基である。
炭素数3~18の分岐アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソへプタデシル基、イソオクタデシル基等の1-メチルエチル基を有する分岐アルキル基、2-エチルヘキシル基及び3,5,5-トリメチルヘキシル基等が挙げられる。Rとしては、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(主剤)との相溶性に優れるという観点から、1-メチルエチル基を有する基及び2-エチルヘキシル基が好ましく、イソプロピル基、イソデシル基、イソオクタデシル基及び2-エチルヘキシル基がより好ましい。
【0011】
式(1)中のAOはエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基であり、mは0~3である。mが2以上の場合、複数のAOは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。
プロピレンオキシ基としては1,2-又は1,3-プロピレンオキシ基が挙げられる。2個以上のAOが相違する場合(エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基を含む場合)、その結合順は特に限定されない。
無機充填剤への湿潤に優れるという観点から、AOはエチレンオキシ基及び/又はプロピレンオキシ基を含むものが好ましい。
【0012】
分散剤の具体例としては、イソプロピルアルコールのエチレンオキサイド(EO)1~3モル付加物、イソプロピルアルコールのプロピレンオキサイド(PO)1~3モル付加物、イソプロピルアルコールのEOPO付加物(EOとPOの付加モル数は合計2~3モル)、イソデシルアルコール、イソデシルアルコールのEO1~3モル付加物、イソデシルアルコールのPO1~3モル付加物、イソデシルアルコールのEOPO付加物(EOとPOの付加モル数は合計2~3モル)、イソオクタデシルアルコール(イソステアリルアルコール)、イソオクタデシルアルコールのEO1~3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのPO1~3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのEOPO付加物(EOとPOの付加モル数は合計2~3モル)、2-エチルヘキシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールのEO1~3モル付加物、2-エチルヘキシルアルコールのPO1~3モル付加物及び2-エチルヘキシルアルコールのEOPO付加物(EOとPOの付加モル数は合計2~3モル)等が挙げられる。
これらのうち、好ましくはイソプロピルアルコールのEO1~3モル付加物、イソデシルアルコール、イソオクタデシルアルコールのEO1~3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのPO1~3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのEOPO付加物(EOとPOの付加モル数は合計2~3モル)、2-エチルヘキシルアルコールのEO1~3モル付加物及び2-エチルヘキシルアルコールのPO1~3モル付加物であり、より好ましくはイソプロピルアルコールのEO3モル付加物、イソデシルアルコール、イソオクタデシルアルコールのEO3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのPO3モル付加物、イソオクタデシルアルコールのEO1モルPO1モル付加物、2-エチルヘキシルアルコールのEO1モル付加物及び2-エチルヘキシルアルコールのPO1モル付加物である。
【0013】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、炭素数3~18の分岐アルキル基を有するアルコールに、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種のアルキレンオキサイドを付加させる方法等により得ることができる。
前記アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる反応は、140℃~180℃、圧力0.4MPa以下で行うことが好ましい。
【0014】
炭素数3~18の分岐アルキル基を有するアルコールにアルキレンオキサイドを付加させる反応の前に、前記アルコールを脱水処理してもよい。アルコールの脱水処理の方法としては、蒸留法及び脱水剤を用いた脱水等が挙げられる。
蒸留法を用いた脱水を行う場合、脱水処理の温度は、好ましくは70℃~130℃、脱水処理の時間は好ましくは30分~2時間、圧力は、好ましくは-0.2MPa~-0.1MPaである。
脱水剤を用いた脱水を行う場合、ゼオライト、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、酸化カルシウム、及びシリカゲル等の脱水剤が使用できる。脱水剤は1種単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。脱水処理の温度は、好ましくは10~50℃、脱水処理時間は好ましくは30分~2時間である。脱水処理後はろ過処理を行うことが好ましい。
【0015】
本発明の分散剤によれば、樹脂組成物をスラリー状態で維持することができる。このような効果を奏するメカニズムは以下のように推測される。
本発明の分散剤[一般式(1)の化合物]が有するRO-(AO)m-で表される基は、樹脂組成物に含まれる無機充填剤に対し優れた湿潤性を発現し、樹脂組成物に含まれる、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(主剤)との相溶性を発現する。これにより樹脂組成物において無機充填剤の分散性を高めスラリー状態を維持できる。
上述したように、本発明の分散剤によれば、樹脂組成物において無機充填剤の分散性を高めることができるので、樹脂組成物に無機充填剤を多く含ませることができる。その結果、本発明の分散剤によれば、樹脂組成物の硬化物に優れた放熱性と絶縁破壊電圧が高いという特性を付与できる。
【0016】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、本発明の分散剤、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、無機充填剤及び硬化剤を含む。以下において、「アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン」を「オルガノポリシロキサン(A)」、「硬化剤」を「硬化剤(B)」、「分散剤」を「分散剤(C)」、「無機充填剤」を「無機充填剤(D)」と呼ぶことがある。
【0017】
樹脂組成物に含まれるオルガノポリシロキサン(A)としては、例えば、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。当該アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。これらのうち、ビニル基が好ましい。
【0018】
オルガノポリシロキサン(A)中のケイ素原子にはアルケニル基以外の有機基が結合していてもよい。前記有機基としては、例えば炭素数1~10の炭化水素基等が挙げられる。炭素数1~10の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基及びフェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子またはシアノ基等で置換したもの(例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基及びシアノエチル基等)が挙げられる。
【0019】
オルガノポリシロキサン(A)の好適な一形態としては、ジオルガノシロキサンを繰り返し単位とする重合体鎖の末端がトリオルガノシロキサン基で封鎖されてなる化合物であって、重合体鎖の末端のトリオルガノシロキサン基が有する有機官能基の少なくとも1つがアルケニル基であるものが挙げられる。
【0020】
オルガノポリシロキサン(A)としては、樹脂組成物の硬化性の観点から、25℃における粘度が0.01Pa・s~1000Pa・sのものが好ましく、0.1Pa・s~100Pa・sのものがより好ましい。
【0021】
オルガノポリシロキサン(A)としては、特開2001-139815号公報に記載の硬化性オルガノポリシロキサンおよび特開2014-208728号公報においてベースポリマー成分(A成分)として例示されているオルガノポリシロキサン等を用いてもよい。
【0022】
オルガノポリシロキサン(A)としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、信越化学工業(株)製、「KE-1241」、「KE-1280A」、「KE-1012A」、旭化成ワッカーシリコーン(株)製、「LUMISIL740」、「SEMICOSIL912」、ダウ・東レ(株)製、「DOWSILEE-9000」及び「DOWSIL3140」などが挙げられる。
【0023】
硬化剤(B)は、オルガノポリシロキサン(A)を硬化させる機能を有するものであれば特に限定されない。オルガノポリシロキサン(A)が、上記のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する化合物である場合、硬化剤(B)は、SiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)を有する化合物であることが好ましい。硬化剤(B)としてSiH基を有する化合物を用い、オルガノポリシロキサン(A)としてケイ素原子に結合したアルケニル基を有する化合物を用いると、硬化剤(B)が有するSiH基と、オルガノポリシロキサン(A)が有するケイ素原子に結合したアルケニル基とが付加反応することにより硬化物が形成される。
【0024】
SiH基を有する化合物としては、一分子中にSiH基を2個以上有するものであればよく、その分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよい。水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に限定はなく、分子鎖の末端でも非末端(末端以外)でもよい。
ケイ素原子には水素原子以外の有機基が結合していてもよい。当該有機基としては、例えば炭素数1~10の炭化水素基等が挙げられる。炭素数1~10の炭化水素基としては、オルガノポリシロキサン(A)中のケイ素原子に結合しうる炭素数1~10の炭化水素基と、同様のものが挙げられる。
【0025】
SiH基を有する化合物としては、特開2014-208728号公報において架橋成分(B成分)として記載されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン等を用いてもよい。
【0026】
また本発明においては、硬化剤(B)として、特開2001-139815号公報に(B)成分として記載されているものを用いてもよい。本発明においては、使用する硬化剤(B)の種類によっては、触媒を併用してもよい。硬化剤(B)としてSiH基を有する化合物を用いる場合の触媒としては、白金系触媒(塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、および白金のカルボニル錯体)が挙げられる。
【0027】
本発明においては硬化剤(B)として市販品を用いてもよい。このような市販品としては、信越化学工業(株)製、「CLA-9」、「KE-1280B」、「KE-1012B」、旭化成ワッカーシリコーン(株)製、「LUMISIL740B」、「SEMICOSIL912B」、ダウ・東レ(株)製、「DOWSILEE-9000B」及び「DOWSIL3140B」などが挙げられる。
【0028】
樹脂組成物における、オルガノポリシロキサン(A)と硬化剤(B)との比率[(A)のアルケニル基の数に対する(B)のSiHの数の比]は、硬化物の成形性の観点から、好ましくは1:0.05~1:5、より好ましくは1:0.1~1:2である。
【0029】
樹脂組成物に含まれる分散剤(C)の含有量は樹脂組成物中の不揮発性分の重量に基づき、0.01~5重量%であるのが好ましく、0.02~1重量%であるのがより好ましい。本発明における不揮発性成分とは、試料1gをガラス製シャーレ中で蓋をせず、100℃45分間循風乾燥機で加熱乾燥した後の残渣である。
【0030】
樹脂組成物に含まれる分散剤(C)の量は、無機充填材(D)100重量部に対し、好ましくは0.01~5重量部であり、より好ましくは0.02~1重量%である。
【0031】
樹脂組成物に含まれる無機充填材(D)としては、ケイ酸塩(タルク、クレー、マイカ、及びガラス等)、金属酸化物(酸化チタン、アルミナ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛等)、金属炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びハイドロタルサイト等)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウム)、金属(亜)硫酸塩(硫酸バリウム、硫酸カルシウム、及び亜硫酸カルシウム)、金属ホウ酸塩(ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸ナトリウム)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及び窒化ケイ素等)、及び金属(金、銀、銅、及びこれらを含む合金等)等の粒子があげられる。
これらのうち、金属酸化物が好ましく、樹脂組成物を硬化させてなる硬化物の熱伝導率が優れるという観点からアルミナ(熱伝導率30W/m・K)、酸化亜鉛(熱伝導率54W/m・K)及び酸化マグネシウム(熱伝導率60W/m・K)からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。無機充填剤(D)は一種を単独で用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
無機充填剤(D)の形状としては特に制限はなく、球状、板状、針状又は破砕状の粒子等が使用できる。樹脂組成物の硬化物を成形する場合の成形性に優れるという観点から、無機充填剤の形状として好ましいのは球状である。
【0033】
無機充填剤(D)が球状の場合、無機充填剤(D)の体積平均粒子径[体積基準での粒度分布における積算粒子量が50%となる粒子径]は、樹脂組成物の硬化物を成形する場合の成形性に優れるという等の観点から好ましくは0.01~200μm、更に好ましくは0.1~150μmである。本発明においては、異なる体積平均粒子径を有する二種以上の無機充填剤を用いてもよい。
無機充填剤(D)の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置[島津製作所製SALD-2000A等]を用いて、測定することができる。
【0034】
無機充填剤(D)の含有量は、熱伝導性に優れかつスラリー状態を維持できるという観点から、オルガノポリシロキサン及び硬化剤(必要に応じて用いる触媒を含む)の合計重量100重量部に対し、好ましくは200重量部以上、より好ましくは350重量部以上である。無機充填剤(D)の含有量は、スラリー状態を維持できるという観点から、オルガノポリシロキサン(A)及び硬化剤(B)(必要に応じて用いる触媒を含む)の合計重量100重量部に対し、好ましくは800重量部以下、より好ましくは700重量部以下である。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、オルガノポリシロキサン(A)、硬化剤(B)、触媒、本発明の分散剤(C)及び無機充填剤(D)以外の他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、例えば、レベリング剤(E)、浸透剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、及び防カビ剤などが挙げられる。
【0036】
レベリング剤(E)としては、フッ素含有ノニオン界面活性剤等が挙げられる。フッ素含有ノニオン界面活性剤としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、DIC(株)製の含フッ素基・親油性気含有オリゴマー「メガファックF-557」、「メガファックF-556」、「メガファックF-554」、「メガファックR-40」、AGCセイケミカル(株)製の含フッ素基含有界面活性剤「サーフロンS-242」、「サーフロンS-386」、(株)ネオス製「フタージェント220P」及び「フタージェント228P」等が挙げられる。
【0037】
浸透剤としては、例えば炭素数8~11の脂肪族ジオール及び炭素数8~11のグリコールエーテル化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、などが挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0038】
防腐剤としては有機ハロゲン化物系防腐剤、有機カルボン酸系防腐剤及びフェノール系防腐剤等が挙げられる。
防カビ剤としては、アルコール系防カビ剤、フェノール系防カビ剤、カルボン酸系防カビ剤及びエステル系防カビ剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、オルガノポリシロキサン(A)、硬化剤(B)、分散剤(C)、無機充填剤(D)及び必要に応じ用いる成分(触媒及び他の成分)を混合することにより製造することができる。混合方法(各成分の混合の順番、混合に用いる機器及び温度条件等)については特に限定されない。
【0040】
本発明の樹脂組成物の硬化物の製造方法は特に限定されない。樹脂組成物の硬化物は、例えば、スラリー状に調製した樹脂組成物を基材(例えばポリエチレンテレフタレート製のシート)の上に塗布した後、硬化させる方法、スラリー状の樹脂組成物を成形用型に注ぎこみ、該組成物を硬化させる方法等により得ることができる。
硬化条件(硬化温度及び硬化時間等)は、樹脂組成物に含まれる成分の種類と量等を考慮し設定することができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物においては、無機充填剤を多量に含ませた場合でもスラリー状態を維持できるので、硬化物に優れた放熱性及び優れた絶縁破壊電圧を付与することができる。このような効果を奏することから本発明の樹脂組成物の硬化物は、発熱部材の放熱用途等に適している。
前記発熱部材とは、硬化物による放熱の対象となる部材であり、具体的には、半導体素子(CPU等)、LEDバックライト、バッテリー、およびこれらを備えた電気回路等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物の硬化物は、硬化物そのものを放熱材等の用途で用いてもよいし、受熱部材とともに放熱材として用いることもできる。この場合の受熱部材としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、錫、及び、これらの合金等からなるシート状の基材並びにグラファイトシート等が挙げられる。
【実施例0043】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り「部」は重量部、%は重量%を意味する。粘度は25℃における粘度である。MPaGはゲージ圧である。
【0044】
[製造例1:分散剤(c-1)の製造]
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中にイソステアリルアルコール270部(1モル部)、水酸化カリウム1.5部を加え撹拌攪拌を開始し窒素封入し130℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。その後、160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド132部(3モル部)を8時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-1)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRがイソステアリル基(イソオクタデシル基)、AOはエチレンオキシ基、m=3]ある。
【0045】
[製造例2:分散剤(c-2)の製造]
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中にイソステアリルアルコール270部(1モル部)、水酸化カリウム1.5部を加え撹拌攪拌を開始し窒素封入し130℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。その後、160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でプロピレンオキサイド174部(3モル部)を8時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-2)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRがイソステアリル基(イソオクタデシル基)、AOはプロピレンオキシ基、m=3]である。
【0046】
[製造例3:分散剤(c-3)の製造]
撹拌機、温度計、ト字管、冷却管及びナスフラスコの付いた3つ口フラスコ中にイソプロパノール100部を加えて80℃で分留して脱水を行った。
次いで、撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に脱水したイソプロパノール60部(1モル部)、水酸化カリウム1.5部を加え撹拌攪拌を開始し窒素封入し90℃に昇温し、圧力0.4MPaG以下でエチレンオキサイド132部(3モル部)を8時間かけて逐次滴下し、120℃に昇温して圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-3)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRがイソプロピル基、AOはエチレンオキシ基、m=3]である。
【0047】
[製造例4:分散剤(c-4)の製造]
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に2ーエチルヘキサノール130部(1モル部)、水酸化カリウム1.5部を加え撹拌攪拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。その後、160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド44部(1モル部)を5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-4)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRが2-エチルヘキシル基、AOはエチレンオキシ基、m=1]である。
【0048】
[製造例5:分散剤(c-5)の製造]
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に2ーエチルヘキサノール130部(1モル部)、水酸化カリウム1.5部を加え撹拌攪拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した後、160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でプロピレンオキサイド58部(1モル部)を5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-5)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRが2-エチルヘキシル基、AOはプロピレンオキシ基、m=1]である。
【0049】
[製造例6:分散剤(c-6)の製造]
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中にイソステアリルアルコール270部(1モル部)、水酸化カリウム0.5部を加え、温度130℃、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した後、160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド44部(1モル部)とプロピレンオキサイド58部(1モル部)の混合物を8時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸1.6部で中和し、化合物(c-6)を得た。当該化合物は一般式(1)で表される化合物[一般式(1)中のRがイソステアリル基(イソオクタデシル基)、AOはエチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基、m=合計2(EO及びPOはそれぞれ1モルずつ)]である。
【0050】
[実施例および比較例で用いた成分]
[オルガノポリシロキサン(A)]
(a-1)シリコーンKE-1241[信越化学工業(株)製、粘度:30Pa・s]
(a-2)シリコーンKE―1280A[信越化学工業(株)製、粘度:2Pa・s]
(a-3)シリコーンKE-1012A[信越化学工業(株)製、粘度:1Pa・s]
[硬化剤(B)]
(b-1)シリコーンCLA-9(白金触媒含有)[信越化学工業(株)製、上記シリコーンKE-1241とともに用いる硬化剤]
(b-2)シリコーンKE-1280B(白金触媒含有)[信越化学工業(株)製、上記シリコーンKE-1280Aとともに用いる硬化剤、粘度:1.3Pa・s]
(b-3)シリコーンKE-1012B(白金触媒含有)[信越化学工業(株)製、上記シリコーンKE-1012Aとともに用いる硬化剤、粘度:0.8Pa・s]
[分散剤(C)]
(c-1)製造例1で得られた分散剤
(c-2)製造例2で得られた分散剤
(c-3)製造例3で得られた分散剤
(c-4)製造例4で得られた分散剤
(c-5)製造例5で得られた分散剤
(c-6)製造例6で得られた分散剤
(c-7)イソデカノール[KHネオケム(株)製][一般式(1)中のRがイソデシル基でm=0の化合物]
[無機充填材(D)]
(d-1)球状アルミナAO-509[(株)アドマテックス製、体積平均粒子径:10μm、熱伝導率:30W/m・K]
(d-2)球状アルミナAZ35-125[日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、体積平均粒子径:37μm、熱伝導率:30W/m・K]
(d-3)酸化亜鉛UHP-S2[堺化学工業(株)製、体積平均粒子径:73μm、熱伝導率:54W/m・K]
(d-4)酸化マグネシウムSMO-50[堺化学工業(株)製、体積平均粒子径:38μm、熱伝導率:60W/m・K]
[レベリング剤(E)]
(e-1)メガファックF-557[DIC(株)製、フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親油性基含有オリゴマー)]
(e-2)メガファックF-554[DIC(株)製、フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親油性基含有オリゴマー)]
(e-3)メガファックR-40[DIC(株)製、フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親油性基含有オリゴマー)]
(e-4)サーフロンS-420[AGCセイケミカル(株)製、フッ素系界面活性剤(含フッ素基・エチレンオキサイド付加物)]
【0051】
[実施例1~17及び比較例1~3:樹脂組成物の製造]
表1に示す各成分を、表1に示す量(部)で撹拌混合し、さらに撹拌脱泡機[(株)シンキー製、あわとり練太郎AR-360M、自転600rpm、公転2000rpm]を用いて5分間撹拌することにより、実施例1~17の組成物及び比較例1~3の組成物を得た。各組成物について下記の方法により評価(スラリー状態の評価)を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[組成物の評価:スラリー状態の評価]
実施例および比較例で得られた組成物を振とう器に入れ、200rpmで30分振とうした後の組成物の状態を目視観察した。組成物が液状でかつ粉状態の部分を含まないものを〇、組成物が粉状態の部分を含むものを×とした。
【0053】
[硬化物の評価]
実施例1~17で得た組成物又は比較例1~3で得た比較用の組成物を用いて、以下の方法で各硬化物(S-1~S-17及びS-C1~S-C3)を製造し、評価した。
<熱伝導率の評価>
(熱伝導率測定用の硬化物の製造)
各組成物を500μmの間隔のスキージを用いて基材(厚さ10μm、PET製基材)上に塗工し、120℃×1時間加熱して、前記基材から剥離することで、試験用の硬化物を製造した。得られた試験用の硬化物について、下記方法により熱伝導率(W/K・m)を測定した。
【0054】
(熱伝導率の測定)
ISO/CD22007-2で規定する方法に準拠して、熱伝導率を測定した。直径7mmφのセンサーを使用し、熱物性測定装置(京都電子工業株式会社、製品:TPS-500)を用いて、ホットディスク法にて、熱伝導率(単位:W/m・K)を測定した。熱伝導率が高い程、放熱性に優れることを示す。熱伝導率は1.5W/m・K以上であることが好ましい。
【0055】
<絶縁破壊電圧の評価>
厚さ10μmのPET基材上に300μm間隙のスキージを用いてそれぞれ塗工し、120℃×1時間加熱して、PET基材から剥離することで、絶縁破壊電圧測定用のサンプルを調製した。
AC耐電圧試験機(菊水電子工業株式会社、製品:TOS5300)を用いて、昇圧速度1kV/sで絶縁破壊電圧(kV/mm)を測定した。絶縁破壊電圧は10kV/mm以上であることが好ましい。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
表1に示すように、本発明の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物は、放熱性に優れかつ絶縁破壊電圧が高いため、発熱部材(電子部品等)の放熱用途に適している。