(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066470
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】吸収拡散不織布および該不織布を含む吸収性物品
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4374 20120101AFI20240508BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20240508BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20240508BHJP
D04H 1/46 20120101ALI20240508BHJP
【FI】
D04H1/4374
A61F13/53 300
A61F13/534 100
D04H1/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179466
(22)【出願日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022175426
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安川 真一
(72)【発明者】
【氏名】中村 正治
(72)【発明者】
【氏名】藤本 克也
(72)【発明者】
【氏名】溝部 穣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 謙太
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA01
3B200BA04
3B200BB03
3B200DB02
3B200DB12
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA17
4L047AA21
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB10
4L047BA03
4L047CA01
4L047CA05
4L047CB07
4L047CB10
4L047CC03
4L047EA02
(57)【要約】
【課題】従来から、紙おむつ、生理用品、吸水ショーツ、介護用シーツ、ヘルメットや汗ジミ防止用の汗吸収体、ペット用シートなどの吸収性物品に用いられる吸収体には、体液を素早く吸収し、加圧などにより逆戻りをしないという機能が求められている。かかる要望に対して、これまでにも様々な提案がなされており一定程度効果を挙げているが、高度な要求に応えるにはさらなる改良が必要である。本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、従来よりも吸収速度が速く、逆戻りが抑制された不織布を提供することにある。
【解決手段】表側に透過層を有し、裏側に吸収拡散層を有する積層不織布であって、前記積層不織布の比容積に対する吸収拡散層の比容積の比が0.1~0.8であり、透過層の拡散面積に対する吸収拡散層の拡散面積の比が4.0~15.0であることを特徴とする吸収拡散不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側に透過層を有し、裏側に吸収拡散層を有する積層不織布であって、前記積層不織布の比容積に対する吸収拡散層の比容積の比が0.1~0.8であり、透過層の拡散面積に対する吸収拡散層の拡散面積の比が4.0~15.0であることを特徴とする吸収拡散不織布。
【請求項2】
透過層がニードルパンチ不織布またはカードウェブであり、吸収拡散層がニードルパンチ不織布であって、これらをニードルパンチ法によって一体化させたものであることを特徴とする請求項1に記載の吸収拡散不織布。
【請求項3】
透過層の総ペネ数が、吸収拡散層の総ペネ数の1/6~1/2であることを特徴とする請求項2に記載の吸収拡散不織布。
【請求項4】
透過層が50~100質量%の疎水性繊維を含有し、吸収拡散層が50~100質量%の親水性繊維を含有していることを特徴とする請求項1に記載の吸収拡散不織布。
【請求項5】
吸収拡散層が消臭性繊維および抗菌性繊維の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1に記載の吸収拡散不織布。
【請求項6】
吸収拡散層がアクリレート系繊維を5~50質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の吸収拡散不織布。
【請求項7】
吸収拡散層が抗菌性アクリル繊維を5~50質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の吸収拡散不織布。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の吸収拡散不織布が該不織布の表側から液体を吸収するように組み込まれている吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水透過性、拡散性、乾燥性が高い吸収拡散不織布および該不織布を含む吸収性物品に関する。特に、紙おむつ、生理用品、吸水ショーツ、介護用シーツ、ベッドパッド、ヘルメットや衣服に用いる吸汗用のパッド、ペット用シートなどの吸収性物品の吸収体に用いた際に、体液を素早く吸収し、逆戻りの抑制できる吸収拡散不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙おむつ、生理用品、吸水ショーツなどの吸収性物品に用いられる吸収体には、体液を素早く吸収し、加圧などにより逆戻りをしないという機能が求められており、様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、体液透過性表面材と体液不透過性裏面材との間に吸収体を介在させた吸収性物品において、前記吸収体は、前記表面材側から順に上層及び下層を有するとともに、前記下層の密度が、前記上層の密度よりも高くなっていることを特徴とする体液吸収性物品が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、吸収性物品に用いる吸収体であって、前記吸収体は、第2不織布と、前記第2不織布の表面上に積層されている第1不織布を含み、前記第1不織布は、繊度が前記第2不織布の構成繊維の平均繊度より大きく、且つ3.0dtex以下の第1のセルロース繊維を70質量%以上含み、前記第2不織布は、繊度が前記第1不織布の構成繊維の平均繊度より小さく、且つ0.2~1.0dtexの第2の再生セルロース繊維を70質量%以上含むことを特徴とする吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-121382号公報
【特許文献2】特開2016-022173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2の各技術は、素早い体液吸収および逆戻り抑制という課題に対して一定程度効果を挙げているが、高度な要求に対しては十分に応えられるものではない。本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、吸収速度が速く、逆戻りが抑制された不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、透過層と吸収拡散層を有する積層不織布において、積層不織布の比容積に対して吸収拡散層の比容積を半分以下にする、すなわち、透過層の比容積よりも吸収拡散層の比容積をかなり小さくすることにより、透過層側から浸入した液体が透過層を速やかに通過し、透過層と吸収拡散層の境界面で広面積に拡散された上で吸収され、逆戻りが大きく抑制されるという特性が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、上記の比容積の制御に加え、透過層と吸収拡散層の境界面における両層間の繊維の絡み合いを抑制することにより、上記の特性が増強されることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1) 表側に透過層を有し、裏側に吸収拡散層を有する積層不織布であって、前記積層不織布の比容積に対する吸収拡散層の比容積の比が0.1~0.8であり、透過層の拡散面積に対する吸収拡散層の拡散面積の比が4.0~15.0であることを特徴とする吸収拡散不織布。
(2) 透過層がニードルパンチ不織布またはカードウェブであり、吸収拡散層がニードルパンチ不織布であって、これらをニードルパンチ法によって一体化させたものであることを特徴とする(1)に記載の吸収拡散不織布。
(3) 透過層の総ペネ数が、吸収拡散層の総ペネ数の1/6~1/2であることを特徴とする(2)に記載の吸収拡散不織布。
(4) 透過層が50~100質量%の疎水性繊維を含有し、吸収拡散層が50~100質量%の親水性繊維を含有していることを特徴とする(1)に記載の吸収拡散不織布。
(5) 吸収拡散層が消臭性繊維および抗菌性繊維の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする(1)に記載の吸収拡散不織布。
(6) 吸収拡散層がアクリレート系繊維を5~50質量%含有することを特徴とする(1)に記載の吸収拡散不織布。
(7) 吸収拡散層が抗菌性アクリル繊維を5~50質量%含有することを特徴とする(1)に記載の吸収拡散不織布。
(8)(1)から(7)のいずれかに記載の吸収拡散不織布が該不織布の表側から液体を吸収するように組み込まれている吸収性物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸収拡散不織布は、経血や尿などの体液の吸収速度が速く、逆戻りが抑制されたものである。かかる性能を有する本発明の吸収拡散不織布は、例えば、生理用ナプキン、紙おむつ、失禁ライナー、サニタリーショーツ、介護用シーツ、ベッドパッド、ヘルメットや衣服に用いる吸汗用のパッド、ペット用シートなどの吸収体として、好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の吸収拡散不織布は、表側に透過層を有し、裏側に吸収拡散層を有する積層不織布である。かかる不織布においては、吸収拡散層の比容積を透過層の比容積よりもかなり小さくする。具体的には、前記積層不織布の全体の比容積に対する吸収拡散層の比容積の比を0.1~0.8、好ましくは0.1~0.7、より好ましくは0.1~0.6とする。
【0011】
ここで、積層不織布の全体の比容積(すなわち、透過層と吸収拡散層を一体化させたものの比容積)に対する吸収拡散層の比容積の比が1である場合には透過層と吸収拡散層の比容積が同じであり、かかる比容積の比が1よりも大きい場合には透過層よりも吸収拡散層の比容積が大きく、かかる比容積の比が1よりも小さい場合には透過層よりも吸収拡散層の比容積が小さいということになる。
【0012】
かかる比容積の比が0.1に満たない場合には、吸収拡散層の作製時のカレンダー加工で高い圧力をかけて比容積をごく小さくすることになるため、かかる加工時に吸収拡散層に破れや穴あきが発生したり、その後の透過層と積層するためのニードルパンチ加工時にも破れや穴あきが発生したりする恐れがある。一方、前記の比が0.8を超える場合には、吸収拡散層の構造が疎になりすぎて、体液の拡散性が劣ることとなるため、吸収性物品などに採用した際に、吸収拡散層を透過して一旦吸収した体液の漏れが発生したり、逆戻り量が多くなったりする恐れがある。
【0013】
前記積層不織布の比容積は、好ましくは10~25cm3/gであり、より好ましくは14~20cm3/gである。積層不織布の比容積が10cm3/gに満たない場合には、透過層が薄くなるため、透過層の表面から吸収拡散層までの距離が近くなり、液漏れや逆戻りの問題が発生しやすくなる。一方、積層不織布の比容積が25cm3/gを超える場合には嵩高くなりすぎて、吸収性物品などに採用した際に、着用時の不快感が発生する恐れがある。
【0014】
また、前記吸収拡散層の比容積は、好ましくは3~15cm3/gであり、好ましくは5~13cm3/gである。吸収拡散層の比容積が3cm3に満たない場合には、吸収拡散層の作製時のカレンダー加工で高い圧力をかけることになるため、かかる加工時に吸収拡散層に破れや穴あきが発生したり、その後の透過層と積層するためのニードルパンチ加工時にも破れや穴あきが発生したりする恐れがある。一方、吸収拡散層の比容積が15cm3/gを超える場合には、構造が疎になりすぎて体液が十分に拡散されず、吸収拡散層の構成繊維との相互作用の小さい体液の量が多くなるため、逆戻りや漏れを発生させる恐れがある。
【0015】
さらに、前記吸収拡散層の厚さは、好ましくは0.4~1.5mmであり、より好ましくは0.5~1.0mmである。吸収拡散層の厚さが1.5mmを超える場合には、構造が疎になりすぎて体液が十分に拡散されず、吸収拡散層の構成繊維との相互作用の小さい体液の量が多くなるため、逆戻りや漏れを発生させる恐れがある。一方、吸収拡散層の厚さを0.4mmより小さくするには、カレンダー加工で高い圧力をかける以外に、吸収拡散層において熱融着繊維を多く併用する方法もあるが、風合いが硬くなり、吸収性物品などの用途には不適合なものとなる。
【0016】
また、本発明の吸収拡散不織布においては、後述する方法によって求めた透過層の拡散面積に対する吸収拡散層の拡散面積の比が4.0~15.0であり、好ましくは5.0~15.0である。かかる拡散面積の比が4.0に満たない場合には、吸収拡散層における体液の拡散が不十分となり、吸収拡散層中に局所的に体液が保持されることになるため、逆戻りや漏れを発生させる恐れがある。一方、拡散面積の比が15.0を超える場合には積層不織布側面から横漏れが発生する恐れがある。
【0017】
また、本発明に採用する透過層および吸収拡散層には、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、カードウェブなどを採用することができる。透過層については、ふんわりした触感を形成する観点から、ニードルパンチ不織布またはカードウェブであることが好ましく、さらに比容積を大きくしやすく製造コストも抑えられることからカードウェブであることがより好ましい。また、吸収拡散層としては、比容積をある程度小さくするとともに硬くなりすぎないようにするという観点からニードルパンチ不織布であることが好ましい。なお、「カードウェブ」とは、綿状繊維をカード機に通過させただけの薄膜状の繊維シートのことである。
【0018】
また、本発明の吸収拡散不織布においては、透過層および吸収拡散層がニードルパンチ法によって一体化されていることが好ましい。また、透過層の総ペネ数が、吸収拡散層の総ペネ数の1/6~1/2であることが好ましく、1/4~1/2であることがより好ましい。ここで、ペネ数とは、ニードルパンチ法における1cm2当たりの針の打ち込み本数のことであり、総ペネ数とは、各層を作製する段階でのペネ数とこれらの層を一体化する段階でのペネ数の合計数のことである。従って、後述する製造方法においては透過層の総ペネ数と吸収拡散層の総ペネ数の比率が小さいほど、一体化する段階でのペネ数が少ないことになる。上記の総ペネ数の比率が1/6を下回る場合には、一体化する段階でのペネ数が少なすぎて、製品への加工時や使用時に透過層と吸収拡散層が分離してしまう恐れがある。一方、上記総ペネ数の比率が1/2を超える場合には、一体化する段階でのペネ数が多すぎ、吸収拡散層の表面が毛羽立って平滑性が低下し、透過層と吸収拡散層の境界がぼやけてしまうため、吸収拡散層における体液の拡散性が不十分となる恐れがある。
【0019】
さらに、透過層および吸収拡散層のニードルパンチ法による一体化に際しては、打ち込みの針深度を一体化が可能な範囲でできるだけ浅くすることが望ましい。針深度が深いほど、吸収拡散層の表面が毛羽立って平滑性が低下し、透過層と吸収拡散層の境界がぼやけてしまうため、吸収拡散層における体液の拡散性が不十分となる恐れがある。
【0020】
また、上述した透過層においては、体液を拡散させずに速やかに通過させる観点から、その構成繊維として、疎水性繊維を好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%含有させる。かかる繊維としては、一般的な疎水性繊維を採用することができる。例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維またはアクリル繊維などを挙げることができ、形状維持の観点から低融点ポリエステル繊維やポリプロピレン/ポリエチレンの芯鞘型繊維などの熱融着性繊維を5~20質量%併用してもよい。なお、透過層は疎水性繊維のみから構成してもよいが、機能付与や風合い向上などの観点から、十分な透過性を得られる範囲で疎水性繊維以外の繊維を併用してもよい。
【0021】
上記の透過層に用いる疎水性繊維の繊度としては、ふんわりした触感を発現させる観点から、好ましくは2~11dtexであり、より好ましくは3~8dtexである。中でも、繊度高めの中空繊維を使用すると、繰り返しの加圧によってもふんわり感を維持できる透過層とすることができるのでより好ましい。
【0022】
また、上述した吸収拡散層においては、吸収性と拡散性を良好にする観点から、その構成繊維として、親水性繊維を好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~90質量%含有させる。かかる繊維としては、綿、レーヨンなどのセルロース系繊維、アクリレート系繊維、吸水性アクリル繊維などを挙げることができる。なお、アクリレート系繊維とは、繊維状のカルボキシル基含有重合体であって、例えば、アクリル繊維にヒドラジンなどの架橋剤による架橋処理及び水酸化ナトリウムなどのアルカリ性金属化合物による加水分解処理を施して得ることができる。具体例としては、東洋紡社製「エクス(登録商標)」・「モイスケア(登録商標)」、帝人フロンティア社製「サンバーナー(登録商標)」や、特開平05-132858号公報、特開2000-314082号公報に開示されている吸湿性繊維などを挙げることができる。
【0023】
上記の吸収拡散層に用いる親水性繊維の繊度としては、ニードルパンチでの高密度形状を保持する観点から、好ましくは1~5dtexであり、より好ましくは1~4dtexである。
【0024】
また、吸収拡散層においては、体液が保持されることから、消臭性繊維や抗菌性繊維を併用することが好ましい。かかる繊維としては、アクリレート系繊維、抗菌性アクリル繊維、キトサンを練り込んだレーヨンなどを挙げることができる。特に、アクリレート系繊維は親水性も高いため好適である。吸収拡散層において消臭性繊維や抗菌性繊維を併用する場合におけるこれらの繊維の含有量としては、目的の性能を十分に得る観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。
【0025】
さらに、吸収拡散層については、比容積を小さくするためにカレンダー加工を行うことがある。この際、吸収拡散層において熱融着性繊維を5質量%以上併用しておくとカレンダー加工時に熱融着されて比容積を小さくしやすい。ただし、熱融着性繊維を20質量%を超えて用いると、風合いが硬くなりすぎて吸収性物品などに採用した際に着用感を悪化させることがある。
【0026】
なお、熱融着性繊維としては、低融点ポリエステル繊維やポリプロピレン/ポリエチレンの芯鞘型繊維を挙げることができる。また、吸収拡散層における体液吸収を阻害しないようにする観点から親水性を有するものが好適である。
【0027】
かかる本発明の吸収拡散不織布は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、吸収拡散層については、吸収拡散層を構成する繊維からなるカードウェブの作製、ニードルパンチ加工、カレンダー加工を経て、比容積を小さくしたニードルパンチ不織布を得る。次に、かかるニードルパンチ不織布に透過層を構成する繊維を混合したカードウェブを重ね、再度ニードルパンチ加工を行うことにより、本発明の吸収拡散不織布を得ることができる。
【0028】
上述してきた本発明の吸収拡散不織布は、生理用ナプキン、紙おむつ、失禁ライナー、サニタリーショーツ、介護用シーツ、ベッドパッド、ヘルメットや衣服に用いる吸汗用のパッド、ペット用シートなどの吸収性物品の吸収体として、好適に利用することができる。かかる用途に用いる場合には、該不織布をその表側から液体を吸収するように吸収性物品に組み込むことが望ましい。
【0029】
また、吸収性物品の吸収体として利用する際には、吸収性物品に求められる特性を考慮して、本発明の吸収拡散不織布の表面にさらに別の層を設けたり、機能性を有する剤をコーティングしたり、担持したりしてもよい。
【実施例0030】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。また、各特性の評価方法は以下のとおりである。
【0031】
<比容積の比>
一体化前の吸収拡散層と積層後の不織布(吸収拡散不織布)について、JIS L 1913:2010の「6.1 厚さ」および「6.2 単位面積当たりの質量」の各試験方法に準拠して厚さと単位面積当たりの質量を求め、かかる厚さと単位面積当たりの質量から比容積を算出し、下式により比容積比を算出する。
(式) 比容積比=吸収拡散層の比容積/積層不織布の比容積
【0032】
<拡散面積の比>
試料の表側(透過層側)に赤色水性液(日成化成社製Cathilon Red K-GRLの0.1質量%水溶液)0.2mlを滴下し、1分間放置後に試料と同形状のアクリル板とおもりを載せて12.5g/cm2の圧力を1分間加える。次いで、試料の裏側(吸収拡散層側)の画像を撮影し、該画像の印刷物から拡散領域を切り抜き、その質量(M1)を測定する。一方、当該試料の透過層と構成繊維が同じである不織布、すなわち透過層のみの不織布(参考例1または参考例2の不織布)について、上記と同様にして拡散領域の質量(M0)を測定する。得られた測定値から下式により、拡散面積比[倍]を算出する。
(式) 拡散面積比[倍]=M1/M0
【0033】
<逆戻り率>
アクリル板に載せた6.5cm×7cmの長方形状の試料の表側(透過層側)に水2mlを滴下し、1分間放置後に試料の上に該試料と同形状のアクリル板とおもりを載せて25g/cm2の圧力を1分間加える。次に、試料に載せたアクリル板とおもりを取り除き、試料の上に該試料と同形状のろ紙5枚(ろ紙の合計質量M2)を重ねて載せ、さらに前述のアクリル板とおもりを載せて25g/cm2の圧力を1分間加える。次に、吸水後のろ紙5枚の合計質量(M3)を測定する。得られた測定値から下式により、逆戻り率[%]を算出する。吸収性物品に採用する場合、かかる逆戻り率が好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満、さらに好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満であることが望ましい。
(式) 逆戻り率[%]=(M3-M2)/2×100
【0034】
<逆戻り性>
アクリル板に載せた6.5cm×7cmの長方形状の試料の表側(透過層側)に水2mlを滴下し、1分間放置後に試料の上に該試料と同形状のアクリル板とおもりを載せて25g/cm2の圧力を1分間加える。次に、試料に載せたアクリル板とおもりを取り除き、試料の表側を手で軽く触れた時の触感を以下の基準で評価する。かかる評価を5人のパネラーによって実施し、評価の平均値を求める。かかる平均値が1を超える場合には逆戻りの抑制効果があると言え、特に逆戻りの不快感が強く感じられる紙おむつ、生理用品、吸水ショーツなどの着用する吸収性物品に採用する場合には、かかる平均値が少なくとも2以上、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.6以上であることが望ましい。
3点:湿り気を感じない
2点:湿り気を感じる
1点:濡れ感がある
0点:濡れる
【0035】
<消臭性>
SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301)(一般社団法人繊維評価技術協議会)の消臭性試験(検知管法)に従い、アンモニア消臭性試験を行い、2時間後の臭気成分減少率を測定した。
【0036】
<抗菌性>
JIS L 1902の菌液吸収法に従い、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値を測定した。なお、SEKマークの抗菌防臭加工の認証基準は、抗菌活性値2.2以上とされている。
【0037】
[実施例1]
<吸収拡散層の作製>
レーヨン繊維(ダイワボウ社製コロナ、繊度1.45dtex、繊維長51mm)60質量部、消臭性を有するアクリレート系繊維(東洋紡社製「モイスケア(登録商標)」、繊度4.4dtex、繊維長50mm)25質量部および抗菌性アクリル繊維(東洋紡社製「銀世界(登録商標)」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)15質量部を混合して目付80g/m2目標でカードウェブを作製し、これをペネ数50としてニードルパンチで絡合させることにより、ニードルパンチ不織布を作製した。次に該不織布を、スチール/スチールのカレンダー加工機を用い、条件を圧力7MPa、温度140℃、速度3.0m/分としてカレンダー加工することにより、表1に示す厚さ、目付、比容積を有する吸収拡散層を作製した。
【0038】
<透過層および吸収拡散不織布の作製>
ポリエステル繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm)90質量部および低融点ポリエステル繊維(ヒュービス社製、芯がレギュラーポリエステル、鞘が低融点ポリエステルの芯鞘構造、繊度4.4dtex、繊維長51mm)10質量部を混合して目付50g/m2目標でカードウェブ(透過層)を作製する。該カードウェブを上記の吸収拡散層を重ね、カードウェブ側からペネ数50としてニードルパンチで絡合させたのち、140℃で5分間の熱処理をすることにより、実施例1の吸収拡散不織布を作製した。得られた吸収拡散不織布の評価結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
<吸収拡散層の作製>
レーヨン繊維(レンチング社製、繊度1.7dtex、繊維長51mm)50質量部、消臭性を有するアクリレート系繊維(東洋紡社製「モイスケア(登録商標)」、繊度4.4dtex、繊維長50mm)25質量部、抗菌性アクリル繊維(東洋紡社製「銀世界(登録商標)」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)15質量部およびポリエチレン/ポリプロピレン芯鞘型熱融着性繊維(JNCファイバー社製ESC012、繊度1.7dtex、繊維長51mm)10質量部を混合して目付80g/m2目標でカードウェブを作製し、これをペネ数160としてニードルパンチで絡合させることにより、ニードルパンチ不織布を作製した。次に該不織布を、スチール/ゴムロールのカレンダー加工機を用い、条件を圧力4MPa、温度160℃、速度4.0m/分としてカレンダー加工することにより、表1に示す厚さ、目付、比容積を有する吸収拡散層を作製した。
【0040】
<透過層および吸収拡散不織布の作製>
中空ポリエステル繊維(帝人フロンティア社製RA94F、繊度6.6dtex、繊維長51mm)90質量部および低融点ポリエステル繊維(遠東新世紀社製SN3450CM、繊度4.0dtex、繊維長51mm)10質量部を混合して目付40g/m2目標でカードウェブ(透過層)を作製する。該カードウェブと上記の吸収拡散層を重ね、カードウェブ側からペネ数60としてニードルパンチで絡合させる。次にスチール/ゴムロールのカレンダー加工機を用い、条件を圧力0MPa(開放状態)、温度160℃、速度4.0m/分として吸収拡散層側から加熱することにより、実施例2の吸収拡散不織布を作製した。得られた吸収拡散不織布の評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例3]
実施例1において、吸収拡散層の作製時のカレンダー加工における圧力条件を1MPaとすること以外は同様にして、実施例3の吸収拡散不織布を作成した。得られた吸収拡散不織布の評価結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、吸収拡散層の作製時のカレンダー加工における圧力条件を0MPa(開放状態)とすること以外は同様にして、比較例1の吸収拡散不織布を作成した。得られた吸収拡散不織布の評価結果を表1に示す。
【0043】
[参考例1]
実施例1の<透過層および吸収拡散不織布の作製>において、吸収拡散層を重ねることなく作製を行うこと以外は同様にして、実施例1における透過層と構成繊維が同じである参考例1の不織布を作製した。
【0044】
[参考例2]
実施例2の<透過層および吸収拡散不織布の作製>において、吸収拡散層を重ねることなく作製を行うこと以外は同様にして、実施例2における透過層と構成繊維が同じである参考例2の不織布を作製した。
【0045】
【0046】
表1からわかるように、本発明である実施例1~3の吸収拡散不織布では逆戻りが抑制されており、特に実施例1および2の吸収拡散不織布は、逆戻りが大きく抑制されるという特性を有するものである。また、実施例1の抗菌活性値および臭気成分減少率に示されているように、優れた抗菌性、消臭性も有するものである。これに対して、比容積比、拡散面積比が本発明の範囲から外れる比較例1においては、逆戻りが発生し、吸収性物品への使用に適さないものであった。