(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066486
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】二軸配向ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240508BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240508BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240508BHJP
B65H 18/28 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/10
B29C55/12
B65H18/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183718
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2022174182
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 佑典
(72)【発明者】
【氏名】横田 衛
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伸之
【テーマコード(参考)】
3F055
4F071
4F210
4J002
【Fターム(参考)】
3F055AA05
3F055FA17
4F071AA20
4F071AF53
4F071AF61Y
4F071AG17
4F071AG28
4F071AH04
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
4F210AA11
4F210AC03
4F210AG01
4F210AG03
4F210AR20
4F210QA02
4F210QC06
4F210QG01
4F210QG18
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB152
4J002FD070
4J002GF00
4J002GH00
4J002GJ00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】
本発明は、熱収縮性と平面性に優れ、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に用いることのできる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】
フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、前記X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であり、前記X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下である、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、前記X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であり、前記X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下である、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記X方向にフィルム面内で直交する方向をY方向、140℃における前記X方向の熱収縮率をΔ140X%、140℃における前記Y方向の熱収縮率をΔ140Y%、160℃における前記X方向の熱収縮率をΔ160X%、160℃における前記Y方向の熱収縮率をΔ160Y%としたときに、式1を満たす、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
式1:0.10<(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)<0.40
【請求項3】
前記Δ140Xが6.0以上12.0以下であり、前記Δ160Xが30.0以上50.0以下である、請求項2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
少なくとも一方の面において、フィルム表面粗さSRaが10nm以上100nm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
少なくとも2層以上の積層構成を有し、厚みが40μm以上80μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムがコアに巻回された、フィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温環境下において熱収縮性、平面性に優れ、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に用いることのできる二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性フィルムは、食品の包装用途、意匠性の付与や内容物の保護を目的としたラベル包装用途、機能層の配向制御を目的とした機能層塗工用の工程基材用途、電子部材のカバーフィルムや保護フィルムなど、さまざまな用途に利用される。中でもポリプロピレン製の熱収縮性フィルムは強度、離型性に優れることから、これら用途において特に好ましく用いられる。
【0003】
さらに近年、電子機器の小型化や精密化に伴い、カバーフィルム、保護フィルム、工程フィルムの表面平滑性への要求が高まりつつある。上記状況を踏まえ、これまでにα-オレフィン系コポリマーを使用した熱収縮フィルム(例えば特許文献1、2、3)や、結晶性が低いポリプロピレン樹脂を使用した熱収縮フィルム(例えば特許文献4、5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/080483号
【特許文献2】特開2021-178974号公報
【特許文献3】特開2019-007006号公報
【特許文献4】特開2022-122963号公報
【特許文献5】国際公開第2014/148547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5の熱収縮フィルムには、加熱して相手部材に貼り合わせる際にシワや気泡が発生して相手部材に表面欠陥が生じるという課題があり、平面性にも改善の余地があった。そこで本発明は、上記した問題点を解決し、熱収縮性と平面性に優れ、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に用いることのできる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、以下の構成よりなる。すなわち、フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、前記X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であり、前記X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下である、二軸配向ポリプロピレンフィルムである。
【0007】
なお、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上記課題を解決するために以下の構成とすることもでき、また、これをコアに巻回してフィルムロールとすることもできる。
(1) フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、前記X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であり、前記X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下である、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(2) 前記X方向にフィルム面内で直交する方向をY方向、140℃における前記X方向の熱収縮率をΔ140X%、140℃における前記Y方向の熱収縮率をΔ140Y%、160℃における前記X方向の熱収縮率をΔ160X%、160℃における前記Y方向の熱収縮率をΔ160Y%としたときに、式1を満たす、(1)に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
式1:0.10<(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)<0.40
(3) 前記Δ140Xが6.0以上12.0以下であり、前記Δ160Xが30.0以上50.0以下である、(2)に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(4) 少なくとも一方の面において、フィルム表面粗さSRaが10nm以上100nm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(5) 少なくとも2層以上の積層構成を有し、厚みが40μm以上80μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムがコアに巻回された、フィルムロール。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高温環境下でフィルム面内の特定の方向に高い熱収縮性を持つにも関わらず、平面性が良好である二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することができる。本発明のポリプロピレンフィルムは上記特性を備えることから、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、前記X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であり、前記X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下であることを特徴とする。以下、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムについて具体的に説明する。
【0010】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分とするキャストシート(未延伸シート)をその面内で直交する二方向に延伸した二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。すなわち、ここでいう二軸配向とは、面内で直交する二方向(例えば、長手方向と幅方向)に延伸したという意味である。フィルムを二軸配向フィルムとすることで、特に表面平滑性に優れ、かつ後述する熱収縮特性にも優れたものとなる。なお、長手方向(MD)とは、製膜時にフィルムが走行する方向(フィルムロールの場合は巻き方向)をいい、幅方向(TD)とは、フィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。また、主成分とはフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいい(主成分については、以下同様に解釈することができる。)、ポリプロピレンフィルムとはポリプロピレン樹脂を主成分とするフィルムをいう。ポリプロピレン樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100質量%としたときに、プロピレン単位を50質量%より多く100質量%以下含む樹脂をいう。
【0011】
本発明における主収縮方向(X方向)とは、フィルム面内において、MDを0°方向とした場合に、MD、及びMDと15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°の角度をなす各々の方向において、160℃で15分間処理した後の熱収縮率を測定したときに、最も高い値を示す方向をいう。フィルムの外観からMDを特定できない場合は、任意の方向を0°として同様に熱収縮率を測定し、熱収縮率が最も高い方向を主収縮方向(X方向)とする。なお、熱収縮率の測定方法は後述する。
【0012】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、例えば、配線基板等に用いられる基材のように、140℃を超える温度での加熱により収縮する基材(以下、このような基材を熱収縮基材ということがある。)と貼り合わせて使用するにあたり好ましい熱収縮特性を実現する観点から、フィルムの主収縮方向をX方向としたときに、X方向の150℃での熱収縮応力値が0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下であることが重要である。上記観点から、X方向の150℃での熱収縮応力値は好ましくは0.50N/2mm以上0.70N/2mm以下、より好ましくは0.53N/2mm以上0.57N/2mm以下である。
【0013】
熱収縮基材としては、例えばフェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、ガラスエポキシ樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする基材があり、これらを硬化させる過程では140℃を超える温度での加熱を伴うことが多い。そのため、このような熱収縮基材の硬化工程で硬化前の基材と貼り合わせて使用する工程フィルムには、熱収縮基材との密着性や硬化後の熱収縮基材のシワ発生防止等の観点から、硬化時の加熱温度において、硬化に伴う熱収縮基材の収縮に追従する程度の熱収縮性が求められる。
【0014】
二軸配向ポリプロピレンフィルムのX方向の150℃での熱収縮応力値が0.4N/2mm以上であることにより、硬化前の熱収縮基材と重ね合わせて加熱した際に、適切な熱収縮応力がかかることにより高い密着性が得られ、歩留まりの低下やシワの発生等が抑えられる。一方、主収縮方向の150℃での熱収縮応力値が0.80N/2mm以下であることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムの常温収縮が抑えられるため製品ロールとしての品位の低下が軽減される。また、主収縮方向の150℃での熱収縮応力値が0.80N/2mm以下であると、加熱時に硬化前の熱収縮基材に急激な応力が加わることによる変形や破損も軽減されるため、歩留まりの低下も抑えられる。
【0015】
主収縮方向の150℃での熱収縮応力値を0.40N/2mm以上0.80N/2mm以下、または上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば、二軸配向ポリプロピレンフィルムにMFRが0.1g/10分以上2.0g/10分以下であるポリプロピレン樹脂を用いる方法が挙げられる。また、このようなポリプロピレン樹脂を用いた上で、製膜条件に関しては、横延伸(幅方向への延伸)工程における延伸温度を145℃~180℃、好ましくは151℃~175℃、熱処理工程における弛緩率を1.0%~20%、好ましくは1.0~14%、冷却工程の温度を130℃~145℃とすることが効果的である。横延伸、弛緩、冷却を上記の条件とすることで、フィルム内部の応力が強化された状態で延伸や熱固定等を行うことができるため、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムは高い熱収縮応力を持つフィルムとなる。なお、これらの条件は適宜組み合わせることができる。
【0016】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、硬化前の熱収縮基材と貼り合わせて使用するにあたり好ましい熱収縮特性を実現する観点から、X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃以上90℃以下であることが重要である。X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度は、後述のTMA(Thermo Mechanical Analysis)法により測定することができる。X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が80℃未満であると、熱収縮基材と貼り合わせて使用する際に熱収縮基材の収縮開始温度よりも低温で収縮が開始するため、熱収縮性基材に追従せず密着性の低下やシワの発生の原因となる。一方、X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度が90℃以上であると、逆に熱収縮基材と貼り合わせて使用する際に熱収縮基材の収縮開始温度で収縮が起こらないため、熱収縮性基材に追従せず密着性の低下やシワの発生の原因となる。上記観点から、X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度は、83℃以上90℃以下が好ましく、83℃以上87℃以下がより好ましい。
【0017】
X方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を80℃以上90℃以下とする方法としては、例えば0.1g/10分以上2.0g/10分以下であるポリプロピレン樹脂を用いた上で、縦延伸(長手方向への延伸)において温度を140℃より高く160℃以下とし、延伸倍率を3.0倍以上5.0倍未満とする方法が挙げられる。さらに、熱処理工程における弛緩率を1.0~14%、冷却工程の温度を130℃~145℃とすることも効果的である。なお、これらの方法は適宜併用することもできる。熱処理工程における弛緩率を上記の条件とすることで、フィルム内部の高分子鎖の配向状態を好適に制御できるため、高い熱収縮応力や優れた熱寸法安定性を具備する二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることができる。また、冷却工程における温度を上記の条件とすることで、テンター外部との温度差を制御してフィルム内部の結晶化度を増大させることができるため、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムは高い熱収縮応力や優れた熱寸法安定性を具備する。
【0018】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、熱収縮基材との密着性と平面性の両立の観点から、X方向にフィルム面内で直交する方向をY方向、140℃におけるX方向の熱収縮率をΔ140X%、140℃におけるY方向の熱収縮率をΔ140Y%、160℃におけるX方向の熱収縮率をΔ160X%、160℃におけるY方向の熱収縮率をΔ160Y%としたときに、式1を満たすことが好ましい。
式1:0.10<(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)<0.40。
【0019】
ここでY方向とは、前述の方法により定めたX方向にフィルム面内で直交する方向をいう。Δ140Xとは140℃で15分間加熱したときのX方向における収縮率をいい、Δ140Y、Δ160X、Δ160Yも測定方向と測定温度が変わる以外は同様に解釈することができる。なお、Δ140X、Δ140Y、Δ160X、Δ160Yの測定方法の詳細は後述する。
【0020】
上記観点から(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)の値は、熱収縮基材との密着性と平面性の両立の観点から、より好ましくは0.15以上0.35以下、さらに好ましくは0.20以上0.30以下、特に好ましくは0.20以上0.26以下である。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムには、硬化過程における熱収縮基材への追従性の観点から、熱収縮基材が収縮する前段階の140℃では収縮率が低いことが求められる。一方、熱収縮基材との密着性の観点からは、当該基材が収縮する160℃において、シワ等の発生により平面性を損なわない範囲で高い収縮率が求められる。
【0021】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)の値を0.40未満とすることにより、熱収縮基材と貼り合わせて加熱した際に、当該基材が収縮する温度に達するまではX方向とY方向の収縮率が低く抑えられるため、製品ロールとした際の巻き姿の悪化やシワ等の発生による平面性の悪化が軽減される。また、(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)の値が0.40未満であると、熱収縮基材が収縮する温度条件(140℃を超える温度)では、二軸配向ポリプロピレンフィルムも熱収縮基材に追従して収縮するため、熱収縮基材との密着性が向上する。上記観点から(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)の値は小さいほど好ましいが、実現可能性の観点から0.10を超える。
【0022】
前記式1を満たす(あるいは、(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)を上記の好ましい範囲とする)方法としては、例えば、0.1g/10分以上2.0g/10分以下であるポリプロピレン樹脂を用いた上で、縦延伸工程における予熱温度を125℃~175℃、延伸温度を140℃より高く160℃以下にする方法がある。縦延伸における予熱温度を高くし、フィルム内部の応力を緩和した状態で延伸することにより、縦方向の熱収縮を緩和させることができる。また、横延伸工程における予熱温度を160℃~185℃、延伸温度を145℃~180℃(好ましくは151℃~180℃)、熱固定温度を140℃より高く160℃以下、冷却工程の温度を130℃~145℃、弛緩率を1.0%~20%にする方法もある。横延伸温度を140℃より高い温度、好ましくは151℃以上にすることで、140℃における内部応力を緩和しつつ160℃における内部応力を高く保つことができる。また、熱固定温度を140℃より高く160℃以下とすることで、140℃での収縮を軽減することができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、Δ140Xが6.0以上12.0以下であり、Δ160Xが30.0以上50.0以下であることが好ましい。Δ140Xが6.0以上であると、例えば、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに硬化前の熱収縮基材を貼り合せて加熱した際に、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムが熱収縮基材の収縮に追従する程度に収縮するため両者の密着性が高まり、熱収縮基材を十分に保護することができる。一方、Δ140Xが12.0%以下であることにより、140℃での収縮が大きすぎるため熱収縮基材と貼り合わせて加熱したときにシワが発生する場合や、平面性が悪化し外観不良となる場合がある。上記観点から、Δ140Xの上限は好ましくは12.0、より好ましくは11.0、さらに好ましくは10.8、特に好ましくは10.0であり、下限は好ましくは6.0、より好ましくは7.0、さらに好ましくは8.0、特に好ましくは9.6である。
【0024】
また、Δ160Xが30.0以上であると、熱収縮基材が収縮する160℃で当該基材に追従して二軸配向ポリプロピレンフィルムも収縮することとなり、二軸配向ポリプロピレンフィルムと熱収縮基材の密着性が保たれる。一方、Δ160Xが50.0以下であると、熱収縮基材が収縮する160℃の環境下において、当該基材の収縮に比べて二軸配向ポリプロピレンフィルムの収縮が過剰とならず、シワ等の発生による平面性の悪化が軽減される。上記観点からΔ160Xの上限は好ましくは50.0、より好ましくは46.0、さらに好ましくは43.5であり、下限は好ましくは30.0、より好ましくは39.5、さらに好ましくは40.5である。
【0025】
Δ140XとΔ160Xをそれぞれ6.0以上12.0以下、30.0以上50.0以下に制御する方法としては、例えば、前記式1を好ましい範囲とする方法と同様の方法を用いることができる。但し、横延伸工程の予熱温度は166℃以上がより好ましく、横延伸温度は156℃~164℃がより好ましく、弛緩処理での弛緩率は1.0%~14%が好ましい。
【0026】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルム及びこれを巻き取ったフィルムロールにおいては、長手方向がY方向、幅方向がX方向であることが好ましい。このような態様とすることにより、ロールtoロールプロセスなどの連続工程において、硬化前の熱収縮基材と貼り合わせて熱をかける際に二軸配向ポリプロピレンフィルムが適度に収縮するため、熱収縮基材と高い密着性を得られる。また、長手方向がY方向、幅方向がX方向であることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムは加熱時にフィルムの進行方向の収縮が相対的に小さいものとなるため、ロールtoロールプロセスにおいてフィルムを搬送する力と収縮の干渉によるシワや気泡等の発生が軽減され、結果として熱収縮基材との密着性を維持しやすくなる。
【0027】
長手方向がY方向、幅方向がX方向である二軸配向ポリプロピレンフィルム及びこれを巻き取ったフィルムロールを得る方法としては、例えば長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率を大きくする方法が挙げられ、さらに前記式1を好ましい範囲とする方法と同様の方法も用いることができる。なお、これらの方法は適宜併用してもよい。
【0028】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも一方の面において、フィルム表面粗さSRaが10nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは25nm以上50nm以下である。二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも一方の面において、フィルム表面粗さSRaが10nm以上100nm以下である場合、フィルム表面の粗さが適切となるため、熱収縮基材との貼り合わせが良好となり、また熱収縮基材の形状変化や欠損を軽減することができる。また、少なくとも一方の面において、二軸配向ポリプロピレンフィルムのフィルム表面粗さSRaを100nm以下とすることで、熱収縮基材との積層体としてロール状に巻き取った際に当該基材に突起による打痕や欠損が発生しにくくなり、これらによる歩留まりの低下を軽減できる。一方、表面粗さSRaが10nm以上であることにより、過度に平滑性が高いことによる巻きズレ等を軽減することができる。上記観点からは、両面のフィルム表面粗さSRaが10nm以上100nm以下又は上記の好ましい範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
少なくとも一方の面において、フィルム表面粗さSRaを10nm以上100nm以下または上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば、キャスト時の冷却工程でキャストドラムの表面温度を20℃以上80℃以下に制御する方法を用いることができる。キャストドラムの表面温度を上記範囲にすることで、フィルム表面に形成される結晶形を制御し、表面粗さSRaを低くすることができる。また、SRaの調整に最も効果的な方法はキャストドラムの表面温度を調整する方法であるが、SRaは延伸前の予熱温度の影響も受け、例えば横延伸前の予熱温度を後述する好ましい範囲で高くすることによっても大きくすることができる。
【0030】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、熱収縮基材と貼り合わせて用いる観点から、その厚みが40μm以上80μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以上70μm以下、さらに好ましくは55μm以上65μm以下である。二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みが40μm以上80μm以下である場合、二軸配向ポリプロピレンフィルムにコシが生まれ、硬化前の収縮性基材と貼り合わせる時のハンドリングが向上する。また、厚みが40μm以上であることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムが加熱により収縮してもシワが発生しにくくなるため、これに起因する熱収縮基材の欠陥を低減できる。二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みを上記の範囲内とするためには、キャストシートを形成する際の樹脂の吐出量、キャスティングドラムの回転速度、口金のスリットの幅を調整することや、延伸倍率を調整することが効果的である。
【0031】
本発明のフィルムロールは、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムがコアに巻回されたものである。かかるコアの材質としては、変形の少ないプラスチック製、繊維強化プラスチック製、金属製が好ましく、強度の観点から繊維強化プラスチック製を用いることがより好ましい。繊維強化プラスチック製コアとしては、例えば、炭素繊維あるいはガラス繊維を巻回して円筒形とし、これに不飽和ポリエステル樹脂のような熱可塑性樹脂を含浸せしめて硬化させた樹脂含浸タイプのコアなどが挙げられる。
【0032】
本発明のフィルムロールでは、フィルムロールから長手方向に二軸配向ポリプロピレンフィルムを巻き出して加工する工程における二軸配向ポリプロピレンフィルムの走行性の観点から、片伸び量を適正な範囲に制御することが好ましい。より具体的には、片伸び量を10.0mm/10m長以下とすることが好ましく、より好ましくは7.0mm/10m長以下、さらに好ましくは5.0mm/10m長以下である。
【0033】
片伸びとは、フィルムロールより二軸配向ポリプロピレンフィルムを長手方向に巻き出した際に、二軸配向ポリプロピレンフィルムが円弧状に湾曲する現象をいう。本発明でいう片伸び量は、以下の手順で測定することができる。まず、フィルムロールから二軸配向ポリプロピレンフィルムを長手方向に10m長巻き出して切り取り、10m(長手方向)×フィルムロール幅(幅方向)サイズの矩形の測定サンプルを得る。得られたサンプルの頂点同士を結ぶように長手方向と平行に糸を貼り(頂点で固定、辺は対向して2本存在するので糸も2本貼る。)、糸の中間点(各頂点から5mの位置)において糸と二軸配向ポリプロピレンフィルムとの距離を測定する。2本の糸について同様の測定を行い、その平均値を片伸び量(単位:mm/10m長)とする。
【0034】
片伸び量が大きいことは、フィルムロールから巻き出された二軸配向ポリプロピレンフィルムが円弧状に湾曲している状態にあることを意味する。片伸び量を上記範囲内とすることで、ロールtoロールプロセスで貼り合わせ加工等をする際に、走行性に加え、巻き取り性が向上する。さらに片伸び量を10.0mm/10m長以下とすることにより、巻き出し時や搬送時における二軸配向ポリプロピレンフィルムの蛇行を軽減することができる。そのため、EPC(エッジポジションコントロール装置)やクロスガイダーを使用して走行状態を調整することにより、加工ムラやシワ、巻き取り時における耳不揃いなどの不具合の発生を軽減し、さらに生産性を改善することができる。長手方向の片伸び量を上記の範囲内とするためには、後述する通り横延伸工程におけるクリップ離間時の搬送フィルム走行速度と基準としたときの搬送ロールの速度を調整して、クリップ離間直後の搬送フィルムの張りを調整することが効果的である。
【0035】
本発明のフィルムロールは、巻き取り性と平面性を両立する観点から、フィルムロール内のエア噛み込み率が5.0%以下であることが好ましく、好ましくは3.0%以下である。フィルムロール内のエア噛み込み率が5.0%以下であることにより、エア溜まりに伴う二軸配向ポリプロピレンフィルムのシワの発生を軽減できる。なお、フィルムロール内のエア噛み込み率の下限は、巻き取られたフィルムロールの常温収縮によるブロッキングを軽減する観点から1.0%となる。
【0036】
フィルムロール内のエア噛み込み率は、ロールに巻き取った二軸配向ポリプロピレンフィルムの長さ、厚み、フィルムロールとコアの直径より求めることができ、その詳細は後述する。フィルムロール内のエア噛み込み率を5.0%以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば後述するスリット工程において、巻き取り張力や巻き取り面圧等の巻き取り条件を好適な範囲に制御する方法が挙げられる。
【0037】
続いて、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの層構成や原料について説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、単層構成であっても2層以上の積層構成であってもよいが、様々な効果を付与する観点から2層以上の積層構成を有することが好ましい。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムが2層以上の積層構成である場合、ポリプロピレン樹脂Aを主成分とする基層(以下、A層ということがある。)と、ポリプロピレン樹脂Bを主成分とし、少なくとも一方の表面に位置する表層(以下、B層ということがある。)の積層構成からなることが好ましく、A層の両側にB層を有することがより好ましい。ここで主成分とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。なお、ポリプロピレン樹脂A、Bの区別については、後述する条件で測定したMFRの小さい方をポリプロピレン樹脂A、大きい方をポリプロピレン樹脂Bとするものとする。
【0038】
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを積層構成とする場合において用いることができる積層方法としては、例えば、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式による共押出法や、ラミネートによってフィルム同士を貼り合わせる方法等を用いることができる。
【0039】
ポリプロピレン樹脂A、ポリプロピレン樹脂Bは、本発明の目的を損なわない限りプロピレンの単独重合体であっても、他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有する共重合体であってもよい。共重合成分としては例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテン-1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。また、A層やB層にはポリプロピレン樹脂以外の樹脂がブレンドされていてもよく、ブレンドできる樹脂としては、例えば上記モノマー由来の構成単位を主たる構成単位とする樹脂(共重合単位としてプロピレンを含んでもよい。)が挙げられる。
【0040】
但し、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性や耐熱性の観点から、フィルムを構成する全樹脂成分を構成する構成単位に占めるポリプロピレン単位の含有量が95質量%以上100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは96質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは97質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは98質量%以上100質量%以下である。
【0041】
ポリプロピレン樹脂Aやポリプロピレン樹脂Bがエチレン単位を含む場合、含まれるエチレン単位の含有量は、全構成単位中10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。エチレン単位が多いほど、ポリプロピレン樹脂の結晶性が低下して透明性を向上させやすい。一方、エチレン単位の量を10質量%以下に留めることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムの強度や耐熱性の低下による熱収縮率が悪化を軽減することができる。
【0042】
また、ポリプロピレン樹脂AやBとポリエチレン樹脂をブレンドする場合、表面がより粗くなることや押出工程中で樹脂が劣化することがある。そのため、ポリエチレン樹脂起因のフィッシュアイの増加や、表面が削れることによる異物の増加により、平面性が悪化する場合がある。このようなメカニズムによる平面性悪化を軽減する観点から、ポリプロピレン樹脂AやBとポリエチレン樹脂をブレンドする場合、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の合計を100質量%としたときに10質量%以下に留めることが好ましい。
【0043】
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で上記樹脂以外の成分として、種々の添加剤、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、易滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有することもできる。これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は酸化防止剤のブリードアウト軽減の観点から重要である。かかる酸化防止剤としては、立体障害性を有するフェノール系のものが好ましく、複数種類の酸化防止剤を併用する場合、少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。
【0044】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに用いることができる酸化防止剤の具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)、またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量は、二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、0.03質量%~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると押出工程でポリマーが劣化してフィルムが着色する場合や、長期耐熱性に劣る場合がある。一方、酸化防止剤が多すぎると、これら酸化防止剤のブリードアウトにより透明性が低下する場合がある。上記観点から、酸化防止剤のより好ましい含有量は、二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、0.05質量%~0.90質量%であり、さらに好ましくは0.10質量%~0.80質量%である。
【0045】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂AのMFRはJIS K 7210-2:2014の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した場合において、0.1g/10分以上2.0g/10分以下であることが好ましく、0.5g/10分以上2.0g/10分以下であることがより好ましく、1.0g/10分以上2.0g/10分以下であるとさらに好ましい。同様に測定したポリプロピレン樹脂BのMFRは、ポリプロピレン樹脂AのMFRよりも大きく、かつ1.0g/10分以上10g/10分以下であることが好ましく、2.0g/10分以上8.0g/10分以下であることがより好ましく、3.0g/10分以上5.0g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0046】
一般的に、ポリプロピレン樹脂AのMFRが0.1g/10分以上である場合、製膜性が安定し、かつ厚み斑が抑えられるため、硬化前の熱収縮基材と貼り合わせて加熱する際に両者の密着性が向上する。ポリプロピレン樹脂AやBのMFRを上記の範囲内とするためには、ポリプロピレンの重合触媒の選定や、重合促進剤の添加、プロピレンモノマーの添加量により平均分子量や分子量分布を制御する方法などが好ましく採用される。ポリプロピレン樹脂A、Bとしては、上記MFRを満たすポリプロピレン樹脂から適宜選択することができ、ポリプロピレン樹脂Aとして好適に用いることができるポリプロピレン樹脂としては、例えば住友化学製“ノーブレン”(登録商標)S131等が例示される。また、ポリプロピレン樹脂Bとしてとして好適に用いることができるポリプロピレン樹脂としては、例えば日本ポリプロ製“ノバテック”(登録商標)(FL203D等)や住友化学製“ノーブレン”(登録商標)(AH561等)等が例示される。
【0047】
次に、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを製造する方法について、一態様を例に挙げて具体的に説明するが、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは必ずしも以下の方法により得られるものに限定されない。
【0048】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸することが好ましい。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0049】
まず、ポリプロピレン樹脂Aを基層(A層)用の単軸押出機に、ポリプロピレン樹脂Bを表層(B層)用の単軸押出機にそれぞれ供給し、200~280℃、より好ましくは220~280℃、さらに好ましくは240~270℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、240℃~270℃に温度を調節したマルチマニホールド型の複合TダイによりB層/A層/B層の2種3層構成となるように溶融樹脂を積層し、キャストドラム上に吐出して冷却固化することでB層/A層/B層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。この際、積層厚み比は、B層/A層/B層が1/38/1~1/78/1の範囲とすることが好ましい。積層厚み比を上記範囲とすることで、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムにコシが生まれ、熱収縮基材への貼り合わせの際にハンドリングが向上する。
【0050】
また、キャストドラムの表面温度は、二軸配向ポリプロピレンフィルムの表面粗さSRaを適切な範囲に制御する観点から、好ましくは20℃~80℃、より好ましくは25℃~60℃、さらに好ましくは30℃~50℃である。キャストドラムへの溶融樹脂の密着方法としては、静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの平面性が良好であり、かつ表面粗さSRaの制御が容易である観点から、エアナイフ法が好ましい。このとき、エアナイフのエア温度は20℃~80℃であることが好ましく、吹き出しエア圧力は0.01MPa~0.1MPaが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために、製膜下流側にエアが流れるようにエアナイフの位置を適宜調整することも好ましい。
【0051】
こうして得られた未延伸シートは、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程では、まず125℃以上175℃以下、好ましくは135℃以上165℃以下、さらに好ましくは150℃以上160℃以下に保たれたオーブン内に未延伸シートを通して加熱し、周速差を設けたロール間でこれを長手方向に延伸した後、室温まで冷却する。熱収縮特性を好適に制御する観点から、延伸温度は140℃を超え160℃以下、好ましくは140℃を超え155℃以下、さらに好ましくは140℃を超え150℃以下である。また、延伸時のフィルムの破断を抑えつつ強度を高める観点から、延伸倍率は3.0倍以上5.0倍未満が好ましく、3.0倍以上5.0倍未満がより好ましく、4.0倍以上5.0倍未満がさらに好ましい。
【0052】
縦延伸(長手方向への延伸)の予熱工程は、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの表面平滑化の観点から、全体を均一に加熱することで未延伸シートの温度ムラを抑制することが重要となる。また、予熱温度と延伸温度が大きく異なる場合、フィルムが高温の延伸ロールに触れた際に幅方向に不均一に収縮することがあり、それに伴いシワが入る場合がある。その対策として、延伸ロールにセラミックロールを用いることができる。セラミックロール上ではフィルムが滑りやすく、フィルムの収縮がより均一となるため、上記メカニズムで生じるシワの発生を抑えて延伸することができる。
【0053】
次いで、縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持し、テンターに導いて予熱した後、幅方向に5.0倍~12.0倍に横延伸する。横延伸時の延伸温度、熱固定温度、熱固定における弛緩率を調整することで、熱収縮応力や熱収縮率を制御することが可能である。上記観点から、予熱温度は好ましくは160℃~185℃であり、より好ましくは165℃~180℃、さらに好ましくは166℃~175℃である。また、同様の観点から、延伸温度は好ましくは145℃~180℃であり、より好ましくは150℃~175℃、さらに好ましくは151℃~175℃、特に好ましくは155℃~170℃、最も好ましくは156℃~164℃である。予熱・延伸温度がポリプロピレンの融点に近づくと、ポリプロピレンの結晶が非晶へと転移して高分子の運動性が向上し、熱収縮率や熱収縮応力が低下する。そのため、上記観点からは予熱・延伸温度は低い方が好ましいが、予熱・延伸温度が低すぎると高分子の運動性が乏しいまま一軸配向フィルムが延伸されて延伸時の破れや厚みムラが発生するため、上記予熱・延伸温度の範囲が好ましい。
【0054】
続く熱処理工程ではクリップで幅方向両端部を緊張把持したまま幅方向に1.0%~20%の弛緩率で弛緩を与えつつ、140℃より高く160℃以下、好ましくは145℃より高く160℃以下、さらに好ましくは150℃以上160℃以下の温度で熱処理する。熱処理工程でフィルム幅を固定したまま熱処理温度をかけることにより熱処理温度以上の温度で収縮しにくくなるため、熱収縮基材と貼り合わせた加工を好適に行う観点から、140℃を超える温度で熱処理することが好ましい。また、非結晶分子鎖の配向性が高く、フィルムロールをして巻き取った後の熱寸法率が悪くなるため、弛緩率を与えフィルムを緩めることによりに配向性を緩和する方が好ましい。但し、弛緩率が高くなるにつれて横延伸後のフィルムが弛み、テンター内部に接触してフィルム破れを引き起こす可能性が高くなるため、弛緩率の上限は好ましくは20%、より好ましくは14%、さらに好ましくは5.0%である。一方、熱収縮応力の立ち上がり温度や(Δ140X+Δ140Y)/(Δ160X+Δ160Y)の値を好適な範囲に制御する観点から、弛緩率の下限は2.0%がより好ましい。その後、クリップで幅方向を緊張把持したまま130℃~145℃の冷却工程を経てテンターの外側へ導き、幅方向両端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットして二軸配向ポリプロピレンフィルムを得る。
【0055】
最後に、このようにして得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムをスリット工程にて所定の幅、長さにスリットし、フィルムロールとしてコアに巻き取る。本発明においては生産性の観点から、フィルムロール幅(二軸配向ポリプロピレンフィルムの幅方向の長さ)は、1000mm以上2000mm以下が好ましく、1300mm以上1700mm以下がより好ましい。フィルム長さは、1000m以上3000m以下が好ましく、1500m以上3000m以下がさらに好ましい。生産性と巻き取り技術の難易度を考慮すると、さらに好ましくは、2000m以上3000m以下である。
【0056】
スリット工程でのスリット速度は、フィルムロールのエア噛み込み率や表層硬度を好適に制御する観点、及び生産性の観点から、100m/分~200m/分であることが好ましく、より好ましくは100m/分~190m/分である。スリット速度を200m/分以下とすることにより、走行する二軸配向ポリプロピレンフィルム(以下、搬送フィルムということがある。)によって生じる随伴気流が少なくなるため、搬送時におけるシワの発生が抑えられる。そのため、フィルムロールとするときにシワを巻き込むことや、シワが折れることによる平面性の悪化を軽減できる。
【0057】
スリット工程での巻出張力は、搬送時のシワを抑制する観点で600N~800Nであることが好ましい。巻出張力が600N未満の場合、張力不足により搬送フィルムが弛むためシワが発生し易くなる。一方、巻出張力が800Nを超える場合、搬送フィルムに厚みムラがあれば、搬送フィルムが強く引っ張られることにより幅方向の応力差が大きくなるためシワが発生しやすくなる。また、巻出張力が800Nを超える場合においては、搬送フィルムが強く引っ張られて変形したまま巻き取られるため、フィルムロール中で変形が戻ることによってもシワが発生し易くなる。
【0058】
スリット工程での初期巻取張力は、エア噛み込み率や巻き硬度の観点で60N/m~100N/mであることが好ましく、70N/m~90N/mであるとより好ましい。初期巻取張力が60N/m未満の場合、張力不足により搬送フィルムが弛むため巻き取り時にシワが発生し易くなり、それに伴い巻きズレも発生しやすくなる。一方、初期巻取張力が100N/mを超える場合、搬送フィルムに厚みムラがあれば、搬送フィルムが強く引っ張られることにより幅方向の応力差が大きくなるためシワや巻きズレが発生しやすくなる。また、初期巻取張力が100N/mを超える場合においては、搬送フィルムが強く引っ張られて変形したまま巻き取られるため、フィルムロール中で変形が戻ることによってもシワが発生し易くなる。なお、初期巻取張力とは、スリット工程でスリットされた二軸配向ポリプロピレンフィルムをコアに巻き取る際の最初のタイミングにおける巻取張力をいう。
【0059】
搬送時の二軸配向ポリプロピレンフィルムやフィルムロールにおけるシワの発生軽減、エア噛み込み率の制御、及び巻きズレ軽減等の観点から、スリット工程での巻取張力テーパー(フィルムロール巻き上がり時の巻取張力/初期巻取張力×100)は70%~100%であることが好ましい。巻取張力テーパーを70%以上とすることにより、フィルムロール表層の硬度が保たれ、座屈や巻きズレを軽減することができる。また、急激に巻取張力が変化することに伴って発生する搬送時の二軸配向ポリプロピレンフィルムのシワも軽減することができる。一方、巻取張力テーパーを100%以下とすることにより、特にフィルムロール表層付近におけるシワや凹凸の発生を軽減することができる。
【0060】
スリット工程での初期巻取面圧は、フィルムロールの表層硬度を制御する観点から、200N/m~400N/mであることが好ましく、より好ましくは210N/m~340N/mである。初期巻取面圧を200N/m以上とすることにより、フィルムロールの表層硬度が保たれ、座屈や巻きズレを軽減することができる。一方、初期巻取面圧を400N/m以下とすることにより、フィルムロールの表層硬度の過度な上昇が抑えられ、フィルム層間でのブロッキングや、コンタクトロールのベンディングに伴うフィルムロール中央部におけるシワの発生、これに伴う巻きズレ等を軽減することができる。なお、初期巻取面圧とは、スリット工程でスリットされた二軸配向ポリプロピレンフィルムをコアに巻き取る際の最初のタイミングにおける面圧をいう。
【0061】
スリット工程での巻取面圧テーパー(フィルムロール巻き上がり時の巻取面圧/初期巻取面圧×100)は、表層硬度を制御する観点から、80%~120%であることが好ましく、より好ましくは90%~120%である。巻取面圧テーパーを80%以上とすることにより、フィルムロールの表層硬度が保たれ、座屈や巻きズレを軽減することができる。一方、巻取面圧テーパーを120%以下とすることにより、フィルムロールの表層硬度の過度な上昇が抑えられ、フィルム層間でのブロッキングや、コンタクトロールのベンディングによるフィルムロール中央部におけるシワの発生を軽減することができる。
【0062】
スリット工程において、二軸配向ポリプロピレンフィルムに厚み斑が存在する場合、巻き取ったフィルムロールに厚み斑起因の凹凸が生じ易くなることがある。この問題を解消するために、巻き出す側のフィルムロールもしくは巻き取り側のフィルムロールを幅方向に反復移動させて厚み斑の影響を分散させる、所謂オシレーションを実施することが好ましい。スリット工程でのオシレーション幅は、厚み斑を分散させ、巻きズレを軽減する観点で5mm以上50mm以下であることが好ましく、10mm以上30mm以下であるとより好ましい。オシレーション速度は5mm/分~30mm/分であることが好ましい。
【0063】
以上のようにして得られた本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高温熱収縮性に加え、高温での平面性に優れ、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムについて詳細に説明するが、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは以下に示す態様に限定されない。なお、樹脂や二軸配向ポリプロピレンフィルムの特性は、以下の方法により測定、評価した。
【0065】
(1)メルトフローレート(MFR、g/10分)
JIS K 7210-2:2014の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した。
【0066】
(2)二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて任意に選択した5点での厚みを測定し、その平均値を二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みとした。
【0067】
(3)140℃、160℃における熱収縮率、主収縮方向の特定
長手方向と幅方向が測定方向となるように、200mm(測定方向)×10mmサイズの二軸配向ポリプロピレンフィルムを5本ずつ(合計10本)切り出し、試料とした。得られた試料の両端から50mmの位置にそれぞれ印を付けて試長l0を100mmとした。次に、試料を140℃に保温されたオーブン内に吊して15分間加熱した後に取り出し、室温で冷却後、寸法(l1)を測定して下記式2にて熱収縮率を求めた。長手方向、幅方向それぞれについて、5本の測定値の平均値を算出し、得られた値を140℃における二軸配向ポリプロピレンフィルムの熱収縮率(%)とした。160℃における熱収縮率についても、オーブンの温度を160℃とした以外は同様に測定した。なお、各実施例及び各比較例においては延伸方向が長手方向と幅方向であることから、これらの方向のうち160℃における収縮率の高い方を主収縮方向とした。
式2:収縮率(%)={(l0-l1)/l0}×100。
【0068】
(4)TMA測定
TMA(Thermo Mechanical Analysis)法にて、各温度における試料の変化率を測定して横軸を温度、縦軸を試料の長さの変化量としてプロットした曲線(TMA曲線)を描き、TMA曲線からX方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を読み取り、各温度における熱収縮応力を測定した。なお、測定装置と測定条件は以下の通りとした。
<測定装置、測定条件>
応力負荷装置:セイコーインスツル(株)製の「TMA/SS 6100」
データ処理装置:セイコーインスツル(株)製の「EXSTAR 6000」
測定モード:10℃/分の等速昇温
装置載置雰囲気:室温の大気中
サンプル:15mm×2mmの矩形(測定方向である主収縮方向(X方向)が15mm)。
【0069】
(5)算術平均高さ(SRa)
株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0(型式:R3300GL-Lite-AC)を用いて測定した。キャストドラムとの接触面を測定面とし、スリット後のフィルムロールの幅方向の中心位置より、長手方向に無作為に抽出した3箇所を測定箇所として定め、各測定箇所における測定値の平均値を当該フィルムロールにおける二軸配向ポリプロピレンフィルムの算術平均高さ(SRa)とした。1回の測定の詳細条件については下記の通りとした。なお、1回の測定に対して1視野(視野面積1,252μm×939μm=1,175,628μm2)の観察を行った。
【0070】
(6)エア噛み込み率
二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚み、フィルムロールに巻かれた二軸配向ポリプロピレンフィルムの長さ、フィルムロールの直径、コアの直径より、下記式3によりエア噛み込み率を算出した。なお、フィルムロールの直径は以下の手順により測定、算出した。まず、任意に選択した一方の幅方向端部から5mmの箇所において、フィルムロールの外周長さを寸法精度10μmの巻き尺を用いて測定し、外周の長さよりフィルムロールの直径を求めた。次いで、測定箇所を50mm幅方向中央部側にずらして同様の測定を行い、これを全幅にわたって繰り返した。
式3:α= {1-t1L/((d12-d22)π/4)}×100
ここで、αはエア噛み込み率(%)、t1はフィルム厚み(μm、(2)の方法で測定した値を使用)、Lはフィルムロールに巻かれた二軸配向ポリプロピレンフィルムの長さ(m)、d1はフィルムロールの直径(mm)、d2はコアの直径(mm)を表す。
【0071】
(7)片伸び量
まず、フィルムロールから二軸配向ポリプロピレンフィルムを長手方向に10m長巻き出して切り取り、10m(長手方向)×フィルムロール幅(幅方向)サイズの矩形の測定サンプルを取得した。次いで、得られたサンプルの頂点同士を結ぶように長手方向と平行に糸を貼り(頂点で固定、辺は対向して2本存在するので糸も2本貼った。)、糸の中間点(各頂点から5mの位置)において糸と二軸配向ポリプロピレンフィルムとの距離を測定した。2本の糸について同様の測定を行い、その平均値を二軸配向ポリプロピレンフィルムの片伸び量(単位:mm/10m)とした。
【0072】
(8)平面性評価
スリット工程で巻き取ったフィルムロールの外観を確認し、シワの状態を確認した。次にフィルムロールより二軸配向ポリプロピレンフィルムを1m引き出し、両端を指で支え、10Nの力で引っ張った際のシワの状態を確認した。なお、評価は○△×の順に優れており、×は実用に耐えられないものである。
○:フィルムロールの外観でシワが確認されなかった。
△:フィルムロールの外観でシワが確認されたが、フィルムを引き出して10Nの力で引っ張った際にはシワが消滅した。
×:フィルムロールの外観でシワが確認され、フィルムを引き出して10Nの力で引っ張ってもシワが消滅しなかった。
【0073】
(9)走行性評価
スリット工程で巻き取った二軸配向ポリプロピレンフィルムを1000m巻き出して、幅方向において、搬送ロールの中心とフィルムの中心の偏りの最大値を測定し以下の基準で評価した。なお、評価は○△×の順に優れており、×は実用に耐えられないものである。
○:幅方向において、搬送ロールの中心とフィルムの中心の偏りの最大値が5mm未満であった。
△:幅方向において、搬送ロールの中心とフィルムの中心の偏りの最大値が5mm以上10mm未満であった。
×:幅方向において、搬送ロールの中心とフィルムの中心の偏りの最大値が10mm以上であった。
【0074】
(10)加工適性の総合評価
フィルムロールより二軸配向ポリプロピレンフィルムを巻き出して貼り合わせ等の加工をする際には、「平面性」と「走行性」の両立が必要であり、どちらか一方でも欠くと、加工の際にフィルムにシワが発生するなどの不具合が発生する。そのため、(8)(9)の評価結果を基に、以下の基準で加工適性の総合評価を行った。加工適性に及ぼす影響は走行性よりも平面性が大きいため、評価に及ぼすウェイトは平面性をより大きくした。なお、評価においては◎○△を合格とした。
◎:平面性評価、走行性評価の両方が〇であった。
〇:平面性評価が〇であり、走行性評価が△であった。
△:平面性評価が△であり、走行性評価が〇又は△であった。
×:平面性評価、走行性評価の少なくとも一方が×であった。
【0075】
(11)熱収縮基材との密着性評価
フィルムロールより二軸配向ポリプロピレンフィルムを巻き出して、エポキシ樹脂板(PCBマテリアルズ製 G-10 厚み:2.0μm)と重ね合わせ、160℃に加熱された金属鏡面ロールで線圧60kg/cm、速度40m/minの条件で処理して二軸配向ポリプロピレンフィルムとエポキシ樹脂板の積層体のサンプルを得た。得られたサンプルを、温度25℃、50%RHの雰囲気下にて3時間エージングした。その後、引張試験機にて荷重400g/15mm、速度300mm/minの条件で両者を剥離した。両者を貼り合わせた際のシワ・ヨレや、剥離の容易性より以下の基準で密着性を評価した。
◎:二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材共にシワ、ヨレ、気泡がなく、上記引張試験の条件で二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の剥離ができなかった。
〇:二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材共にシワ、ヨレ、気泡がなかったが、上記引張試験の条件で二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の剥離が可能であった。
△:上記引張試験の条件で二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の剥離ができなかったが、二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の少なくとも一方にシワ、ヨレ、気泡のいずれかが確認された。
×:二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の少なくとも一方にシワ、ヨレ、気泡のいずれかが確認され、かつ上記引張試験の条件で二軸配向ポリプロピレンフィルムと基材の剥離が可能であった。
【0076】
(12)巻きズレ・端面評価
裁断後のフィルムロールにおいて、端面(中心軸と垂直な面)からフィルムが飛び出している状態を巻きズレとし、その有無を確認するとともに、その長さをノギスで測定して巻きズレ量とした。加えて、フィルムロールの端面を観察し、キズやスポーキングシワと呼ばれる花模様や車輪の形状のシワの有無を目視で確認した。評価は得られた結果より以下の基準で行い、評価結果は◎〇△×の順で優れており、×は実用に耐えられないものであると判断した。なお、評価にあたり、端面の観察は両側の端面で行い、評価結果が異なる場合は悪い方の評価結果を採用した。
◎:巻きズレ量が5mm未満(巻きズレがない場合も含む。)であり、フィルムロール端面の目視検査でキズ、シワがいずれも観察されなかった。
○:巻きズレ量が5mm以上10mm未満であり、フィルムロール端面の目視検査でキズ、シワがいずれも観察されなかった。
△:巻きズレ量が10mm以上であるが、フィルムロール端面の目視検査でキズ、シワがいずれも観察されなかった。
×:フィルムロール端面の目視検査でキズ、シワの少なくとも一方が観察された。
【0077】
[実施例1]
第1の押出機にてホモポリプロピレン樹脂(MFR=1.3g/10分 以下、樹脂Aということがある。)を、第2の押出機にてエチレン・プロピレンランダム共重合体(MFR=4.0g/10分 以下、樹脂Bということがある。)を溶融押出し、ダイス内にて樹脂B/樹脂A/樹脂Bの順にTダイ方式にて265℃でシート状に共押出後、35℃の冷却ロールにて冷却して未延伸フィルムを得た(以下、樹脂Aからなる層をA層、樹脂Bからなる層をB層ということがある。)。なお、このときの積層厚み比は、樹脂B/樹脂A/樹脂B=1/58/1とした。次いで、得られた未延伸フィルムを150℃で予熱し、145℃で長手方向に倍率4.6倍で延伸して一軸配向フィルムを得た。その後、一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導いて、170℃で予熱を行い、160℃にて幅方向に倍率7.7倍で延伸し、さらに150℃で幅方向に2.7%のリラックスをかけながら熱処理を行った。その後、145℃の冷却工程を経て熱処理後の二軸配向ポリプロピレンフィルムをテンター外へ導きクリップを解放した。その後、得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムの両面にコロナ処理を行い、ワインダでフィルムエッジ部をスリットして二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。最後に下記条件によりスリットで1500mm幅に裁断して巻き取りフィルムロールを得た。評価結果を表1に示す。
<スリットでの巻き取り条件>
スリット速度:180m/min
巻出張力:650N
初期巻取張力:80N/m
巻取張力テーパー:90%
初期巻取面圧:300N/m
巻取面圧テーパー:100%。
【0078】
[実施例2~14、比較例1~8]
樹脂A(MFR)、縦方向及び幅方向への延伸・熱処理条件、及びスリット条件を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0079】
本発明により、高温環境下でフィルム面内の特定の方向に高い熱収縮性を持つにも関わらず、平面性が良好である二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することができる。本発明のポリプロピレンフィルムは上記特性を備えることから、精密部材用のカバーフィルム、保護フィルム、工程フィルム等の離型用フィルムとして好適に使用することができる。