(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066491
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】酸味抑制方法、酸味が抑制された食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240508BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20240508BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20240508BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20240508BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L29/10
A23L35/00
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184120
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2022174951
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢木 一弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大輝
【テーマコード(参考)】
4B035
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE02
4B035LE03
4B035LG06
4B035LG18
4B035LG51
4B035LK13
4B035LK19
4B035LP01
4B035LP21
4B036LC01
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4B047LB08
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4B047LB10
4B047LG09
4B047LG31
4B047LG36
4B047LG57
(57)【要約】
【課題】食品への風味への影響を抑えつつ、酢酸及び/又はその塩の酸味を抑制するための新たな手段を提供する。
【解決手段】
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムの酸味抑制方法であって、ショ糖脂肪酸エステルを酢酸及び/又は酢酸ナトリウムを含有する組成物に対して添加することを含む、方法、並びに、酢酸及び/又は酢酸ナトリウムとショ糖脂肪酸エステルを含有する、酸味が抑制された食品組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムの酸味抑制方法であって、ショ糖脂肪酸エステルを酢酸及び/又は酢酸ナトリウムを含有する組成物に対して添加することを含む、方法。
【請求項2】
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムの含有量が10~10,000ppm、ショ糖脂肪酸エステルの添加量が10~500ppmである、請求項1に記載の酸味抑制方法。
【請求項3】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値が5~16である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらにリゾチームを添加することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムとショ糖脂肪酸エステルを含有する、酸味が抑制された食品組成物。
【請求項6】
さらにリゾチームを含有する、請求項5に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取可能な組成物の酸味抑制方法及び酸味が抑制された食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品において、強すぎる酸味は好ましくない風味として知覚される。また、通常酸味を感じない食品などにおいては、酸味は腐敗を思わせるなどの理由により特に忌避される傾向にある。そのため、食品の酸味を抑制するための工夫が検討されてきた。
【0003】
とりわけ酢酸又はその塩は、特有の酸臭を有するため、味覚と嗅覚の両面から酸味を強く知覚させる。そのため、酢酸又はその塩に対して効果を奏する酸味抑制手段の開発が特に求められている。
【0004】
例えば、酸味を抑制するために、特許文献1には、香料成分としてリナロールオキシド、ベンジルアルコール、エチルピルベート、イソブチルアルコール、マルトールイソブチレート、及びネオヘスペリジンジヒドロカルコンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を使用する手段が記載されている。また、特許文献2には、ラカンカ抽出物及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、特許文献3にはアドバンテームを、特許文献4にはスクラロース又はアスパルテーム等の甘味料を閾値以下で使用する手段が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-124142号公報
【特許文献2】特開平10-215793号公報
【特許文献3】特開2020-14457号公報
【特許文献4】特開2016-93176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば特許文献1、2のように香料成分又は甘味成分を加える手段は、食品の種類によっては風味が適合しない可能性が推察される。また、特許文献3又は4のように閾値以下の甘味料を添加するには微量の添加量のコントロールが必要である点で、なお改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、食品への風味への影響を抑えつつ、酢酸又はその塩の酸味を抑制可能な新たな酸味抑制手段の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、酢酸及び/又はその塩の酸味抑制方法であって、酢酸及び/又はその塩に対してショ糖脂肪酸エステルを添加することを含む、方法が、酢酸及び/又はその塩による酸味を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の態様を含む。
[1]
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムの酸味抑制方法であって、ショ糖脂肪酸エステルを酢酸又は酢酸ナトリウムを含有する組成物に対して添加することを含む、方法。
[2]
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムの含有量が10~10,000ppm、ショ糖脂肪酸エステルの添加量が10~500ppmである、[1]に記載の酸味抑制方法。
[3]
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値が5~16である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
さらにリゾチームを添加することを含む、[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
[5]
酢酸及び/又は酢酸ナトリウムとショ糖脂肪酸エステルを含有する、酸味が抑制された食品組成物。
[6]
さらにリゾチームを含有する、[5]に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸味抑制方法又は酸味が抑制された食品組成物によれば、食品への風味への影響を抑えつつ、酢酸又はその塩(例えば、酢酸ナトリウム)による酸味を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[酸味抑制方法]
本発明の酸味抑制方法は、酢酸及び/又はその塩の酸味抑制方法であって、(A)ショ糖脂肪酸エステルを(B)酢酸又はその塩を含有する組成物に対して添加することを含むことを特徴とする。
【0012】
本明細書中において、上記の(A)成分と(B)成分が添加等により併用される組成物を「併用組成物」と呼ぶ場合がある。
【0013】
本明細書中において、酸味の抑制とは、一般的な摂取態様で併用組成物を摂取した場合に組成物中の(B)成分により知覚される酸味の強度が低下することを表す。
【0014】
(A)成分のショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の水酸基の少なくとも1つに脂肪酸がエステル結合したものであって、経口摂取可能なものであれば特に限定されないが、モノエステルが好ましく、ショ糖のグルコースユニットの6位の水酸基と脂肪酸のモノエステルがより好ましい。そのようなショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、第9版食品添加物公定書の成分規格の「ショ糖脂肪酸エステル」の項に記載された規格に合致するものを好適に使用することができる。(A)成分のショ糖脂肪酸エステルとして、特定の化合物を1種単独で、又は異なる2種以上の化合物を組み合わせて使用することができる。
【0015】
メカニズムは不明であるが、ショ糖脂肪酸エステルは酢酸及び/又はその塩による酸味を抑制することができる。さらに、ショ糖脂肪酸エステルの酸味抑制効果は、グリセリン脂肪酸エステルに比べても顕著に高いうえ、ショ糖脂肪酸エステルのほうがグリセリン脂肪酸エステルに比べてより高濃度域まで収斂味を生じずに添加が可能であるため、風味への影響を抑えつつ酸味抑制に有効な量を添加しやすいという利点がある。
【0016】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB(Hydrophile-lipophile balance)値は、例えば1以上、2以上又は3以上とすることができるが、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、5以上が好ましく、9以上がより好ましく、15以上が更に好ましい。そして、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、例えば20以下、18以下又は16以下とすることができる。
【0017】
本明細書において、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、その製造者又は販売者のカタログ、品質規格書等に記載された値であり、非売品の場合はGriffinの式により求められる値とする。
【0018】
ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は、好ましくは10~22、より好ましくは12~18である。ショ糖脂肪酸エステルの好ましい具体例は、例えば、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、併用組成物の保存中の風味への影響を抑える観点から飽和脂肪酸エステルが好ましく、中でもショ糖パルミチン酸エステル又はショ糖ステアリン酸エステルがより好ましい。
【0019】
併用後の併用組成物中の(A)成分の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、組成物の全量に対して、好ましくは10ppm以上、より好ましくは50ppm以上、更に好ましくは100ppm以上、更により好ましくは150ppm以上であり、併用組成物の風味への影響を抑える観点から、500ppm以下が好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。ショ糖脂肪酸エステルの濃度が200ppmを超える場合は、ショ糖脂肪酸エステル特有の収斂味が生じる場合がある。
【0020】
(B)成分の酢酸及び/又はその塩において、酢酸の塩としては、特に限定されず、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム等の多価金属塩などの各種の金属塩;又はアンモニウム塩等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。(B)成分の酢酸及び/又はその塩は、酢酸及びこれらの塩のいずれか1種単独又は2種以上の組み合わせであり得る。
【0021】
併用後の併用組成物中の(B)成分の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、組成物の全量に対して、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上であり、更に好ましくは100ppm以上、更により好ましくは1,000ppm以上、特に好ましくは1,500ppm以上、特により好ましくは2,000ppm以上である。そして、併用組成物中の(B)成分の含有量はその形態に応じて適宜設定し得るが、併用組成物の酸味を抑える観点から、組成物の全量に対して、例えば30,000ppm以下、20,000ppm以下、15,000ppm以下、10,000ppm以下又は5000ppm以下であり得る。
【0022】
(B)成分として酢酸及び酢酸ナトリウムを含有する場合、酢酸1質量部に対する酢酸ナトリウムの含有量は、(A)及び(B)成分の量、pH、対象とする併用組成物の種類等によって適宜設定し得るが、例えば、0.01~100質量部、0.02~50質量部、0.05~20質量部、0.1~10質量部、0.2~5質量部、0.5~2質量部又は1~2質量部であり得る。
【0023】
併用後の併用組成物中の(A)成分の含有量は、(B)成分1質量部に対して、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは0.0001~5質量部、より好ましくは0.0005~1質量部、更に好ましくは0.002~0.1質量部、更により好ましくは0.002~0.04質量部、特に好ましくは0.005~0.04、特により好ましくは0.01~0.04である。これらの数値範囲内においては、(B)成分に由来する酸味を抑制しつつ、併用組成物本来の風味への影響を抑えることができる。
【0024】
併用組成物は、本発明の効果をさらに高める観点から、リゾチームがさらに併用されていることが好ましい。リゾチームは(A)成分による(B)成分の酸味抑制効果を顕著に増強することができる。
【0025】
リゾチームは経口摂取可能なものであれば特に限定されないが、例えば、第9版食品添加物公定書の成分規格の「リゾチーム」の項に記載された卵白リゾチームが好適に使用される。
【0026】
併用後の併用組成物中のリゾチームの含有量は、本発明の効果をさらに高める観点から、組成物の全量に対して、好ましくは10ppm以上であり、より好ましくは50ppm以上であり、さらに好ましくは150ppm以上であり、リゾチーム特有の後を引く甘味が組成物の風味に与える影響を抑える観点から、好ましくは500ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは200ppm以下である。
【0027】
さらに、摂取時の併用組成物の(A)成分の含有量が組成物全量に対して10ppm~500ppmの範囲において、リゾチームを10~200ppm、好ましくは10~150ppm含有する場合、(A)成分とリゾチームの相乗効果によって、使用量を抑えつつ高い酸味抑制効果が発揮される点で好ましい。
【0028】
併用組成物中のリゾチームの含有量は、(A)成分1質量部に対して、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは0.0001~100質量部、より好ましくは0.001~50質量部、更に好ましくは0.02~20質量部である。併用組成物中のリゾチームの含有量は、(A)成分1質量部に対して、例えば、10質量部以下、5質量部以下、2質量部以下、1質量部以下、0.5質量部以下、0.2質量部以下、0.1質量部以下又は0.04質量部以下とすることができる。
【0029】
併用組成物は、経口摂取されるものであれば特に限定されず、例えば、食品組成物(例えば、飲食品若しくはその添加物(食品衛生法に規定される食品添加物、食品扱いの添加物を含む))、又は、医薬品、医薬部外品、飼料若しくはそれらの調製に使用される製剤、添加剤等が挙げられるが、好ましくは食品組成物であり、より好ましくは飲食品又は飲食品用添加物である。
【0030】
飲食品としては、洋菓子・パティスリー類(ゼリー、プリン、ムース、ババロア、ケーキ、クッキー、マカロン等);;乳製品(ヨーグルト、チーズ、バター等);;和菓子類(団子、もち、カステラ等);、中華まん(あんまん、肉まん等);ベーカリー製品(パン、調理パン、サンドイッチ等);卵製品(卵焼き、茶わん蒸し、卵豆腐等);豆腐加工製品(豆腐、厚揚げ、いなり、ゆば等);米飯製品(おにぎり、寿司、米飯(炊き込みご飯、白飯、赤飯、おこわ等)、炒飯、ピラフ等);麺類(うどん、そば、ラーメン、焼きそば等);揚げ物類(フライ、天ぷら、コロッケ等)、焼き物類(オムレツ、焼き魚等)、惣菜類(煮物、きんぴらごぼう、胡麻味噌和え、おひたし等の和惣菜;餃子、中華丼、ロールキャベツ等);畜産加工品(ソーセージ、ハム、焼豚、豚カツ、から揚げ、ミートボール、ハンバーグ、シュウマイ、餃子等);水産練り製品(魚肉ソーセージ、かまぼこ、はんぺん、竹輪等);水産加工品(塩辛、一夜干し、みりん干し等の加熱殺菌を伴わないもの);スープ類(コンソメスープ、コーンスープ、中華スープ、ミネストローネ等)、ソース類(カレーソース、ホワイトソース、ミートソース等);佃煮類;漬物類(しば漬け、梅干し、たくあん、浅漬け、キムチ等);野菜・果物類加工品(ピューレ、野菜ソース、ケチャップ、ペースト、カット野菜、ボイル野菜、サラダ類(卵サラダ、ポテトサラダ、野菜サラダ等)、ジャム、フルーツソース、カットフルーツ、フルーツプレパレーション等);調味料(ドレッシング、食用油、醤油、味噌、スパイス、食用酢等);シロップ;ホイップクリーム;餡類(原料として小豆、インゲン豆等)等が挙げられる。
【0031】
飲食品用添加物は、例えば、エキス類、甘味料、高甘味度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、食物繊維、pH調整剤、保存料、日持向上剤、抗菌剤、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤、賦形剤、乳化剤等が挙げられる。それらの添加物は、例えば、粉末状、顆粒状、タブレット状及びカプセル剤状などの固体の形態、並びに、シロップ状、乳液状、液状及びジェル状などの半固体又は液体の形態を有することができる。
【0032】
併用組成物のナトリウム含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、併用組成物全量に対して3質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましく、1.5質量%以下が更により好ましく、1.2質量%以下が特に好ましい。ナトリウム含有量が小さいほど、塩味に比べて酸味の風味への寄与が強くなるため、本発明の併用組成物の(B)成分による酸味抑制効果がより顕著となり得る。
【0033】
中でも併用組成物は、通常酸味を有しない、又は酸味が少ないものが好ましい。そのような組成物では、(B)成分による酸味によって嗜好性が低下しやすいが、本発明の構成によれば、(B)成分による酸味が抑制されるため、嗜好性が改善され得る。
そのような併用組成物の例として、飲食品としては、例えば、洋菓子・パティスリー類、和菓子類、中華まん、ベーカリー製品、卵製品、豆腐加工製品、米飯製品、麺類、揚げ物類、焼き物類、惣菜類、畜産加工品、水産加工品、ソース類、佃煮類等が挙げられる。中でも酸味及び塩味が少ないものである点で、米飯製品が好ましく、米飯がより好ましく、白飯が更に好ましい。
【0034】
上記の通常酸味を有しない、又は酸味が少ない併用組成物のpHとしては、好ましくは4以上、より好ましくは4.3以上、更に好ましくは4.5以上、更により好ましくは4.7以上が挙げられる。また、併用組成物のpHは、嗜好性を良好とする観点から、例えば9以下、8以下又は7以下とすることができる。
【0035】
併用組成物には、(A)成分、(B)成分及びリゾチーム以外に、その形態に応じて、その他成分として、さらに公知の栄養成分、油脂類、アルコール、酒類、塩類、調味料、野菜類加工品、畜肉類加工品、魚介類加工品、海産物加工品、穀物加工品、果物類加工品、飲食品類の添加物、医薬品、医薬部外品又は飼料に使用可能な製剤又は添加剤等を、1種又は2種以上含有してもよい。
【0036】
併用組成物には、乳化剤として、例えば、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、有機酸モノグリセリド等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート(例、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)等を1種単独又は2種以上を組み合わせて含有してもよいが、それらを含有しないものとすることもできる。
【0037】
併用組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する場合、グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが好ましく、モノグリセリン脂肪酸エステルがより好ましく、中鎖脂肪酸とグリセリンのモノエステルが更に好ましい。中でも、モノカプリル酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル及びモノカプロン酸グリセリルからなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0038】
本明細書において、(A)成分と(B)成分を「併用する」ことは、組成物中で有効量の(A)成分と(B)成分を共存させることと同義である。(A)成分と(B)成分を併用する態様は、最終的に有効量の(A)成分と(B)成分が併用組成物において共存していれば特に限定されず、(A)成分が存在している中間品に(B)成分を添加する、(B)成分が存在する中間品に(A)成分を添加する、(A)成分及び(B)成分を同時に添加すること等を包含する。
【0039】
併用組成物は、常法によって製造することができる。例えば、上記製造方法には、さらに(A)成分、(B)成分の添加工程、混合工程のほか、適宜併用組成物の形態に応じて、pH調整工程、加熱工程、混練工程、乳化工程、殺菌工程、乾燥工程、容器充填工程、包装工程等を含んでもよい。
【0040】
[酸味が抑制された食品組成物]
本発明は、酢酸及び/又はその塩(例えば、酢酸ナトリウム)とショ糖脂肪酸エステルを含有する、酸味が抑制された食品組成物を含む。当該食品組成物の具体的な実施形態は、上記[酸味抑制方法]の項に記載した併用組成物の記載に準じる。
【実施例0041】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。
【0042】
[試験例1~3の官能評価法]
以下の試験例1~3では、酢酸及び酢酸塩による酸味の抑制効果の評価を官能評価法により行った。官能評価パネルは食品研究に従事し、官能評価に熟練したパネリスト4名からなる。各パネリストは、サンプルの水溶液約2mL程度口に入れ、各サンプルを以下の手順によりVisual analog scale(VAS)法により酸味抑制の強度を評価した。
(1)まず各パネリストはまず酢酸ナトリウム0.3質量%-氷酢酸0.2質量%水溶液(酢酸Na-氷酢酸水溶液)と、リゾチーム200ppmとショ糖脂肪酸エステル500ppmを含有する酢酸Na-氷酢酸水溶液の酢酸及び酢酸塩による酸味の強度を評価した。そして、酢酸Na-氷酢酸水溶液の評価値を0(全く酸味抑制されていない)、前記水溶液にリゾチーム200ppmとショ糖脂肪酸エステル500ppmを加えた溶液の評価値を5(十分酸味抑制されている)とし、左端0、右端5として各試験例のサンプルの酸味抑制の強度を評価した。これにより、酸味抑制の強度を0~5まで定量的に評価することができる。
(2)各パネリストの評点について、試験例1ではその単純平均の小数点2位以下を四捨五入した値を、試験例2及び3では小数点1位以下を四捨五入した値を各サンプルの酸味抑制効果の評価値とした。3点以上の場合、特に優れた酸味抑制効果を有すると判断される。
【0043】
[試験例1.ショ糖脂肪酸エステル単独及びリゾチームとの併用による酸味抑制効果の比較試験]
酢酸ナトリウム0.3質量%と、氷酢酸0.2質量%と、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP-1670、三菱ケミカル(株)製)及び卵白リゾチームを表1記載の種々の濃度で添加した水溶液(pH4.7)を調製した。官能評価により、得られた水溶液の酸味抑制効果を評価した。
【0044】
各サンプルの酸味抑制効果の評価値を表1に示した。ショ糖脂肪酸エステルにより、濃度依存的に酢酸塩に対する酸味抑制効果がもたらされることが明らかとなった。そして、ショ糖脂肪酸エステルをリゾチームと併用した場合は、それぞれ単独で使用した場合と比較して、顕著に高い酸味抑制効果を示した。ショ糖脂肪酸エステルを10~500ppmで使用した場合には、10~200ppmのリゾチームと併用することにより、酸味抑制効果が相乗的に増強された。
【0045】
【0046】
[試験例2.ショ糖脂肪酸エステルのHLB値の違いによる効果の比較試験]
酢酸ナトリウム0.3質量%、氷酢酸0.2質量%及び卵白リゾチーム150ppmに加え、表2に記載の種々のHLB値のショ糖脂肪酸エステルを0~500ppmを含有する水溶液を調製し、官能評価によって各水溶液の酸味の強度を比較した。また、各乳化剤特有の好ましくない風味(収斂味などと表現されるもの)の有無を同じ官能評価パネルで評価し、パネルの合意で特有の風味の有無を判定した。
【0047】
各サンプルの酸味抑制効果の評価値を表2に示した。HLB5~16のショ糖脂肪酸エステルにおいて、いずれも濃度が高いほど強い酸味抑制効果を示した。HLB値が高いほど、酸味抑制効果が高いことが判明した。
【0048】
また、いずれのショ糖脂肪酸エステルを使用した場合も、卵白リゾチームを添加することにより、ショ糖脂肪酸エステル単独と比較して顕著に酸味抑制効果が増強された。
【0049】
一方で、表2のショ糖脂肪酸エステルを250ppm又は500ppmの濃度で添加した場合は、いずれもショ糖脂肪酸エステル特有の好ましくない風味(収斂味などと表現されるもの)が生じるが、200ppm以下では生じないことが判明した。したがって、高いHLB値のショ糖脂肪酸エステルを使用すれば、ショ糖脂肪酸エステルの好ましくない風味を感じない濃度に調整しても高い酸味抑制効果が得られ、風味も損なわないことが明らかとなった。
【0050】
【0051】
[試験例3.ショ糖脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの効果の比較試験]
酢酸ナトリウム0.3質量%、氷酢酸0.2質量%及び卵白リゾチーム150ppmに加え、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP-1670、三菱ケミカル(株)製)又はグリセリン脂肪酸エステルであるモノカプリル酸グリセリル(サンソフトNO.700P-2、太陽化学(株)製)を0~500ppmを含有する水溶液を調製し、官能評価によって各水溶液の酸味の強度を比較した。また、各乳化剤特有の好ましくない風味(収斂味などと表現されるもの)の有無を同じ官能評価パネルで評価し、パネルの合意で風味を感じる場合を「+」、風味を感じない場合を「-」と評価した。
【0052】
官能評価で得られた評価値の平均値及び、各乳化剤特有の好ましくない風味の有無を表3に示した。ショ糖脂肪酸エステルを使用した場合のほうが、同濃度のグリセリン脂肪酸エステルよりも高い酸味抑制効果を示した。また、ショ糖脂肪酸エステルはグリセリン脂肪酸エステルよりも特有の風味が抑えられている結果、10~200ppmにおいて特に高い酸味抑制効果を維持しつつ、特有の好ましくない風味を抑えられることが判明した。
【0053】
一方、グリセリン脂肪酸エステルを使用した場合も酸味抑制効果は見られた。しかし、高い酸味抑制効果をもたらす濃度域(100ppm以上)では特有の好ましくない風味が感じられることから、風味に影響を与えずに酸味を抑制することは困難であることが判明した。
【0054】
【0055】
[試験例4.種々の処方における酸味抑制効果の比較試験]
表4~6に記載の種々の濃度の酢酸ナトリウム、氷酢酸、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP-1670、三菱ケミカル(株)製)及びリゾチームを含有する水溶液を調製し、官能評価に熟練したパネリスト5名(A~E)からなる官能評価パネルにより、酸味抑制の強度を官能評価した。評価値の設定において、評価値0の基準溶液を各表の比較例、評価値5の基準溶液を各表右端の実施例(実施例4-5、実施例5-5、実施例6-5)とする以外は、試験例1~3と同様の方法でVAS法及び各パネリストの評点の処理を行い、0~5点の6段階で官能評価を行った。
【0056】
各パネリストA~Eの評価値と5名の評価値の平均値を表4~6に示した。種々の酢酸ナトリウム及び氷酢酸の濃度において、実施例は比較例に比べて高い評価値を示した。よって、種々の酢酸ナトリウム及び氷酢酸の濃度において、ショ糖脂肪酸エステル及びリゾチームによって酸味が抑制されること、それぞれの量が増加するほど酸味抑制効果が高いことが確認された。ショ糖脂肪酸エステルの濃度が200ppmを超える実施例5-5、実施例6-3、6-4及び6-5では、ショ糖脂肪酸エステル特有の収斂味が感じられた。
【0057】
また、各パネリスト全員が、実施例4-5<実施例5-5<実施例6-5の順で、右にいくほど顕著に酸味が抑制されていることを確認した。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
[試験例5.食品組成物の酸味抑制効果の確認試験]
以下の表7~11の処方及び製法に従ってホワイトソース、卵サラダ、白飯、コンソメスープ及びゆであずきを調製した。いずれの食品組成物の調製においても、ショ糖脂肪酸エステルは、リョートーシュガーエステルP-1670(三菱ケミカル(株)製)を使用した。
ホワイトソース、卵サラダ及びコンソメスープについては、表の処方に加えて、食品組成物全量に対して(1)酢酸ナトリウムを0.30質量%、氷酢酸を0.20質量%含有する比較例と、(2)酢酸ナトリウムを0.30質量%、氷酢酸を0.20質量%、ショ糖脂肪酸エステルを50ppm、リゾチームを50ppm含有する実施例を調製した。
ゆであずきについては、表の処方に加えて、食品組成物全量に対して(1)酢酸ナトリウムを0.24質量%、氷酢酸を0.16質量%含有する比較例と、(2)酢酸ナトリウムを0.24質量%、氷酢酸を0.16質量%、ショ糖脂肪酸エステルを40ppm、リゾチームを40ppm含有する実施例を調製した。
白飯については、表の処方に加えて、使用した無洗米(浸漬前)の質量に対して(1)酢酸ナトリウムを0.30質量%、氷酢酸を0.20質量%含有する比較例と、(2)酢酸ナトリウムを0.30質量%、氷酢酸を0.20質量%、ショ糖脂肪酸エステルを50ppm、リゾチームを50ppm含有する実施例を調製した。
それぞれの食品組成物の比較例及び実施例を喫食して酸味を評価した。評価は食品の研究開発に従事し、官能評価に熟練する者5名が行った。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
官能評価の結果、ホワイトソース、卵サラダ、白飯、コンソメスープ及びゆであずきのいずれの食品組成物においても、ショ糖脂肪酸エステル及びリゾチームを含有する実施例が、それらを含有しない比較例に比べて酸味が抑制されていた。元々酸味や塩味が弱い食品組成物である白飯では、比較例は酢酸ナトリウム及び氷酢酸の添加による酸味による違和感が特に強く感じられるが、実施例では酸味が大幅に抑制され、効果が特に顕著に認められた。