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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066538
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】塊成化状高炉用原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/243 20060101AFI20240509BHJP
   C21B 5/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C22B1/243
C21B5/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175925
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】大田 晃久
(72)【発明者】
【氏名】大久保 聡彦
(72)【発明者】
【氏名】壱岐 良輔
(72)【発明者】
【氏名】大根 公一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊明
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA05
4K001BA23
4K001CA26
4K001CA30
4K001CA31
4K012BA01
4K012BA03
(57)【要約】
【課題】金属鉄の含有率が低い原料を用いた場合でも、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料を製造することができる、塊成化状高炉用原料の製造方法を提供する。
【解決手段】塊成化状高炉用原料(19)の製造方法は、準備工程(#5)と、水分調整工程(#10)と、塊成工程(#15)と、水浸工程(#20)と、静置工程(#25)と、を備える。準備工程(#5)では、粉粒状物質(12)を準備する。粉粒状物質(12)の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bが、下記の式(1)を満足する。塊成工程(#15)では、粉粒状物質(12)を冷間で圧縮塊成化して塊成化物(14)を形成する。水浸工程(#20)では、塊成化物(14)に水浸処理を施す。静置工程(#25)では、塊成化物(14)に静置処理を施す。
400≦2340×a+3400×b-400 (1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鉄及び酸化カルシウム含有化合物を含む粉粒状物質を準備する準備工程であって、前記粉粒状物質は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する前記金属鉄の質量比が0.35未満であり、前記金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bが、下記の式(1)を満足する、前記準備工程と、
前記粉粒状物質に含まれる水分を0.5質量%以上6.0質量%以下に調整する水分調整工程と、
前記水分調整工程の後、前記粉粒状物質を冷間で圧縮塊成化して塊成化物を形成する塊成工程と、
前記塊成化物に水浸処理を施す水浸工程と、
前記水浸工程の後、前記塊成化物に静置処理を施す静置工程と、を備える、塊成化状高炉用原料の製造方法。
400≦2340×a+3400×b-400 (1)
【請求項2】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記粉粒状物質は、カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートの少なくとも一方を含む、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記粉粒状物質の前記金属鉄の含有率aが10質量%以上である、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記粉粒状物質の酸化カルシウムの含有率bが10質量%以上40質量%以下である、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、鉄系廃材を含む原料に還元焙焼処理を施すことにより、前記粉粒状物質を製造する、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記原料は、前記鉄系廃材、炭材及びカルシウム含有物質を含み、
前記鉄系廃材又は前記炭材は、珪素含有物質を含み、
前記原料に含まれるカルシウムと珪素との比が質量比で2.9以上6.1以下である、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、還元炉によって前記還元焙焼処理を実施し、前記還元炉としてロータリキルンを用いる、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記原料に含まれる前記カルシウム含有物質は、石灰粉が水に懸濁したスラリー状である、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記準備工程において、前記還元焙焼処理を1300℃未満で実施する、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記静置工程において、炭酸ガスを含む雰囲気で静置処理を行う、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記静置工程において、5℃以上50℃未満の雰囲気で静置処理を行う、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の塊成化状高炉用原料の製造方法であって、
前記塊成工程において、ダブルロール型ブリケット成型機を用いて前記粉粒状物質を圧縮塊成化する、塊成化状高炉用原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塊成化状高炉用原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄の多くは、高炉法により生産されている。高炉は、鉄原料から銑鉄を製造する設備である。高炉の炉頂から、鉄原料であり酸化鉄である鉄鉱石、及び還元材であるコークスが装入される。炉内では鉄鉱石が還元材により還元され、銑鉄が生成される。
【0003】
高炉に装入される原料は、炉内通気性を確保できる粒度を有することが要求される。炉内通気性の確保のため、鉄原料及び還元材は、一定以上の強度を有する必要がある。そのため、還元材として使用する炭材は、強粘結炭を多く配合して乾留した塊状のコークスに依存し、鉄原料は、塊状化された焼結鉱に多くを依存している。すなわち、原料には高い品質が要求されるため原料コストが高い。また、コークス製造設備、焼結設備等の高炉以外の付帯設備を設置する必要があり、設備コストも高い。さらには、高炉の内部では、酸化物である鉄鉱石を還元するために、膨大なエネルギー及び炭材を消費しており、日本における温室効果ガスである炭酸ガスの排出量の15~20%を鉄鋼業が占めている。コークス製造設備や焼結設備の運転においても、膨大なエネルギーが必要であり、炭酸ガスが大量に排出される。
【0004】
このような問題に鑑み、安価な鉄原料として、製鉄プロセスにおいて副生される製鉄ダストやスラッジ等を原料として製造した還元鉄を利用することが提案されている。この還元鉄を鉄原料として用いれば、原料のコスト及び高炉での還元材比が低減される。還元材比の低減は炭酸ガス排出量の抑制にもつながる。特に、近年では鉄鉱石の価格が不安定化しており、安価な鉄原料の利用促進は重要である。以下、高炉に装入される鉄原料を「高炉用原料」と言い、高炉用原料を製造するための原料を単に「原料」と言う。
【0005】
上述した製鉄ダストやスラッジ等の原料は、高濃度の亜鉛を含む場合がある。亜鉛を含む高炉用原料が高炉に装入されると、高炉上部で付着トラブルが発生しやすい。そのため、亜鉛を含む原料を用いて高炉用原料を製造する場合、亜鉛を除去するため、原料は脱亜鉛処理を施される必要がある。脱亜鉛処理の方法は、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている。特許文献1及び特許文献2では、ロータリキルンを用いて原料に還元焙焼処理を施す。還元焙焼処理において、ロータリキルンに投入される原料に含まれるカルシウム含有物質と二酸化珪素との比を調整することで、低融点物質の生成が抑制され、ロータリキルンの内壁への付着物の成長が抑制される。これとともに、原料の脱亜鉛処理及び部分還元が進行し、金属鉄を含む還元鉄が製造される。還元焙焼処理で使用される原料は、高炉で使用するような強度の大きい塊状の原料でなくてもよい。炭材としては、強粘結炭を多く配合して乾留した塊状のコークス以外も使用可能である。鉄原料は、塊状の焼結鉱ではなく、製鉄ダストやスラッジである。このため、還元焙焼処理での原料コストや設備コストは高炉と比べ安価で、還元にともない消費されるエネルギー量や排出される炭酸ガス量も高炉よりも抑制できると期待される。
【0006】
ただし、製造される還元鉄には粉粒状品も含まれる。粉粒状の高炉用原料が高炉に装入されても、トラブルが発生しやすい。そのため、粉粒状の原料は、高炉に投入される前に塊成化される必要がある。還元鉄を塊成化する方法として、ダブルロール型成型機を用いて還元鉄原料を熱間ブリケット化する方法が知られている(例えば、特許文献3)。還元鉄原料を熱間ブリケット化する際、原料の温度は例えば700℃程度とされる。また、高炉用原料を塊成化する他の方法として、原料にバインダーを添加する方法も知られている(例えば、特許文献4)。典型的なバインダーとしては、強度を発現させやすいポルトランドセメント等が用いられる。
【0007】
さらに、上述した製鉄ダストやスラッジ等の安価な原料を用いて、強度の高い高炉用原料を製造する技術が知られている(例えば、特許文献5)。特許文献5には、鉄分の総含有率が50質量%以上であり、かつ含有する鉄分に対する金属鉄の質量比(鉄の金属化率)が0.35以上である原料から、塊成化物(高炉用原料)を製造することが記載されている。鉄の金属化率とは、鉄分の総含有率(質量%)に対する金属鉄の含有率(質量%)である。特許文献5には、金属鉄を含む原料(粉粒状物質)を冷間で塊成化した後、水浸・静置処理を行うことにより粉粒状物質中の金属鉄の一部が酸化結合し、得られる塊成化状高炉用原料の強度が高くなる、と記載されている。特許文献5では静置処理により一部の金属鉄が酸化した後の金属鉄の質量比が0.35以上と記載されている。したがって、特許文献5において、静置処理前、すなわち金属鉄の一部が酸化される前の粉粒状物質の金属化率が0.35以上であることは必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2-47529号公報
【特許文献2】特許第5770118号公報
【特許文献3】特開2008-127580号公報
【特許文献4】特開2003-342646号公報
【特許文献5】特許第5512205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献5では、原料である粉粒状物質中の金属鉄が酸化結合して強度を発現する。そのため、特許文献5では、粉粒状物質の金属鉄の含有率が低い場合、得られる高炉用原料は、高炉装入物として使用できる強度を有するとは言えない。具体的には、上述した通り、鉄分の総含有率が50質量%以上であり、かつ鉄の金属化率が0.35以上という条件を満たす原料を用いないと、高炉用原料の強度が高炉操業上必要な値に達しない。しかしながら、安価な原料(粉粒状物質)の中には、特許文献5で規定する条件を満たさないものが多く存在する。そのため、そのような条件を満たさない原料、具体的には金属鉄の含有率が低い原料を用いた場合であっても、高炉で使用可能な程度に高強度な高炉用原料を製造することが求められている。
【0010】
本開示の目的は、金属鉄の含有率が低い原料を用いた場合でも、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料を製造することができる、塊成化状高炉用原料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る塊成化状高炉用原料の製造方法は、準備工程と、水分調整工程と、塊成工程と、水浸工程と、静置工程と、を備える。準備工程では、金属鉄及び酸化カルシウム含有化合物を含む粉粒状物質を準備する。粉粒状物質は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。さらに、粉粒状物質の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bが、下記の式(1)を満足する。水分調整工程では、粉粒状物質に含まれる水分を0.5質量%以上6.0質量%以下に調整する。塊成工程では、水分調整工程の後、粉粒状物質を冷間で圧縮塊成化して塊成化物を形成する。水浸工程では、塊成化物に水浸処理を施す。静置工程では、水浸工程の後、塊成化物に静置処理を施す。
400≦2340×a+3400×b-400 (1)
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る製造方法によれば、金属鉄の含有率が低い原料を用いた場合でも、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、サンプルA~Eを用いて製造した各塊成化状高炉用原料の圧壊強度を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る製造方法のフロー図である。
図3図3は、製造プロセスフローの一例を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態の製造方法で用いられる塊成化装置の断面図である。
図5図5は、製造プロセスフローの一例を示す模式図である。
図6図6は、タブレッティングの様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、塊成化状高炉用原料の製造条件について鋭意検討した。その結果、本発明者らは、金属鉄に加えて酸化カルシウム含有化合物を含む粉粒状物質を原料として用いた場合、粉粒状物質中の酸化カルシウム含有化合物の一部又は全てが炭酸化すること等により、製造される高炉用原料の強度が高まることを見出した。そして、酸化カルシウム含有化合物の炭酸化と、上述した金属鉄の酸化結合とを組み合わせることで、金属鉄の含有率が低い原料を用いた場合であっても、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料を製造できることが分かった。ここで、「酸化カルシウム含有化合物」とは、純粋な酸化カルシウム(フリーライム、CaO)に加えて、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)、トリカルシウムシリケート(3CaO・SiO)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al)、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸カルシウム(CaCO)等のカルシウムを含む化合物を総称するものである。本明細書では、ダイカルシウムシリケート及びトリカルシウムシリケートを総称してカルシウムシリケートと言う場合がある。
【0015】
酸化カルシウム含有化合物を含む粉粒状物質は、純粋な酸化カルシウムだけでなく、ダイカルシウムシリケート等のカルシウムを含む化合物を含んでいる場合がある。本明細書において、このような粉粒状物質における「酸化カルシウムの含有率」とは、当該化合物に含まれるカルシウムが全て酸化カルシウムとして存在すると仮定した場合の、酸化カルシウムの含有率を意味する。粉粒状物質の酸化カルシウムの含有率は、以下の通り算出される。まず、純粋な酸化カルシウム以外の化合物のカルシウムの含有率を、当該カルシウムが酸化カルシウムとして存在していた場合の含有率に換算する。そして、純粋な酸化カルシウムの含有率に、換算して得られた含有率を加える。これにより、粉粒状物質の酸化カルシウムの含有率が得られる。
【0016】
例えば、粉粒状物質が純粋な酸化カルシウムの他にダイカルシウムシリケートを含んでおり、純粋な酸化カルシウムの含有率が10質量%(0.10)、ダイカルシウムシリケートに含まれるカルシウムの含有率が5質量%(0.05)であるとする。この場合の粉粒状物質の酸化カルシウムの含有率は、以下の通り算出される。ダイカルシウムシリケートに含まれるカルシウムが酸化カルシウムとして存在していた場合の含有率は、カルシウムの1モルあたりの質量が40.1g、酸化カルシウムの1モルあたりの質量が56.1gであることから、7質量%(=5質量%×56.1g/40.1g)となる。この含有率を、純粋な酸化カルシウムの含有率(10質量%)に加えることで、酸化カルシウムの含有率は17質量%(0.17)と算出される。後述する表1~表3及び表5には、酸化カルシウムの含有率として、このように算出された値が示される。
【0017】
引き続き、本発明者らは、粉粒状物質の金属鉄の含有率及び酸化カルシウムの含有率と、塊成化状高炉用原料の強度との関係について検討した。金属鉄の含有率及び酸化カルシウムの含有率が異なるサンプルA~Eの粉粒状物質を準備し、これらの粉粒状物質を冷間で塊成化(タブレッティング)した後、水浸・静置処理を行い、塊成化状高炉用原料を製造した。そして、各サンプルA~Eを用いて得られた塊成化状高炉用原料の圧壊強度を測定した。各サンプルA~Eの成分が表1に示される。なお、表1では、鉄分の総含有率(質量%)はT.Fe、金属鉄の含有率(質量%)はm.Feと表される。後述する表2~7でも、これと同様の表記が適用される場合がある。サンプルA~Cの粉粒状物質は、鉄鉱石を還元して製造された。サンプルD~Eの粉粒状物質は、鉄系廃材に還元焙焼処理を施すことによって製造された。酸化カルシウムの含有率は、サンプルA~Cで0.1質量%未満であり、サンプルDとサンプルEの平均で15.5質量%であった。つまり、サンプルA~Cの酸化カルシウムの含有率は実質的に0(ゼロ)であり、サンプルD及びEの酸化カルシウムの含有率は実質的に0.155であった。
【0018】
【表1】
【0019】
サンプルA~Eを用いて製造した各塊成化状高炉用原料の圧壊強度が表2に示される。図1は、サンプルA~Eを用いて製造した各塊成化状高炉用原料の圧壊強度を示す図である。図1では、縦軸は圧壊強度を示し、横軸は粉粒状物質中の金属鉄の含有率を示す。本明細書において、特に断りがない限り、含有率は、単位のない比率を意味する。
【0020】
【表2】
【0021】
表2及び図1を参照して、サンプルA~Cと、サンプルD及びEとでは、金属鉄の含有率に対する圧壊強度の傾向が明らかに異なる。サンプルA~Cの場合、すなわち酸化カルシウムの含有率が0の場合、塊成化状高炉用原料の圧壊強度Y1は、金属鉄の含有率をaとして「Y1=2340×a-400」の近似式で表される。同様に、サンプルD及びEの場合、すなわち酸化カルシウムの含有率が0.155の場合、塊成化状高炉用原料の圧壊強度Y2は、「Y2=2340×a+130」の近似式で表される。
【0022】
Y1の式とY2の式は、1次関数の式であり、比例係数はY1の式とY2の式で一致している。Y1の式とY2の式を比較すれば、粉粒状物質中の金属鉄の含有率が同じ値で、酸化カルシウムの含有率が0から0.155に増加することにより、圧壊強度は、530N/個(=(130-(-400)))増加すると言える。金属鉄の含有率が一定のとき、圧壊強度を酸化カルシウムの含有率に対する1次関数の式で表すと、その式の比例係数は3400N/個(≒530/0.155)となる。つまり、酸化カルシウムの含有率が0からbに増加するとき、圧壊強度の増加量ΔYは、「3400×b」で表される。上記Y1の式は、酸化カルシウムの含有率が0の場合の圧壊強度を表すため、Y1の式にΔYを加算することにより、金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bの粉粒状物質から製造した塊成化状高炉用原料の圧壊強度Yが導かれる。以上のことから、塊成化状高炉用原料の圧壊強度Yは、金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bを用いて、「Y=2340×a+3400×b-400」と表せると推定される。
【0023】
高炉に装入される原料は、炉内通気性を確保するため、高強度であることが要求される。塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、400N/個以上である必要がある。したがって、上記式から算出される圧壊強度Yが400N/個以上となるように、粉粒状物質中の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bを調整すれば、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料が製造できる。
【0024】
上記式はタブレッティングで製造された塊成化物を用いた試験(以下、タブレッティング試験とも言う。)で算出されたものである。今回の検討において、タブレッティング試験を採用した理由は以下の通りである。粉粒状物質を塊成化する方法としては、タブレッティングの他にブリケッティングがある。タブレッティングでは、密閉された型の中に粉粒状の物質を充填し、充填された粉粒状の物質をピストンで圧縮して所定の形に成型する。一方、ブリケッティングでは、後述する図4に示すように2つの回転可能なロールの間に供給される粉粒状物質を、ロール表面との摩擦によって、スリップさせながら圧縮していく。これにより、原料粒子同士は接近し、空隙の少ない、密度の大きい塊成化物が得られる。さらにロール間隔が徐々に縮小していくことにともない粉粒状物質は圧縮され、タブレッティングよりも密度が大きく、強度の大きい塊成化物が得られやすい。したがって、タブレッティングで製造された塊成化物が必要な圧壊強度を確保できるのであれば、同じ原料条件下でブリケッティングで製造された塊成化物でも必要な圧壊強度は確保できると考えられる。そこで、上記式を算出するための試験として、圧壊強度が出にくいタブレッティング試験を採用した。
【0025】
本開示の実施形態に係る塊成化状高炉用原料の製造方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0026】
実施形態に係る塊成化状高炉用原料の製造方法は、準備工程と、水分調整工程と、塊成工程と、水浸工程と、静置工程と、を備える。準備工程では、金属鉄及び酸化カルシウム含有化合物を含む粉粒状物質を準備する。粉粒状物質は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。さらに、粉粒状物質の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bが、下記の式(1)を満足する。水分調整工程では、粉粒状物質に含まれる水分を0.5質量%以上6.0質量%以下に調整する。塊成工程では、水分調整工程の後、粉粒状物質を冷間で圧縮塊成化して塊成化物を形成する。水浸工程では、塊成化物に水浸処理を施す。静置工程では、水浸工程の後、塊成化物に静置処理を施す(第1の構成)。
400≦2340×a+3400×b-400 (1)
【0027】
第1の構成の製造方法では、まず、金属鉄の含有率が低い粉粒状物質を準備する。具体的には、粉粒状物質は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。第1の構成の製造方法では、この粉粒状物質に含まれる水分を調整した後、粉粒状物質を圧縮塊成化して塊成化物を製造する。さらに、塊成化物に水浸処理及び静置処理を施す。準備工程において、粉粒状物質の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bは、上記の式(1)を満足するように調整されている。式(1)の右辺は、粉粒状物質を圧縮塊成化し、さらに塊成化物に水浸処理及び静置処理を施して塊成化状高炉用原料を製造した場合の、塊成化状高炉用原料の圧壊強度に相当する。つまり、上記の式(1)を満たす粉粒状物質を原料として用いた場合、得られる塊成化状高炉用原料の圧壊強度は400N/個以上である。したがって、第1の構成の製造方法によれば、金属鉄の含有率aが低い原料を用いた場合でも、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料を製造することができる。
【0028】
第1の構成の準備工程において、好ましくは、粉粒状物質は、カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートの少なくとも一方を含む(第2の構成)。カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートは、セメントに含まれる強度発現成分でもあり、炭酸化することで硬化する。第2の構成の製造方法では、粉粒状物質は、酸化カルシウム含有化合物として、カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートの少なくとも一方を含む。そのため、この粉粒状物質から製造される塊成化状高炉用原料は、より強度が高くなる。
【0029】
第1又は第2の構成の準備工程において、好ましくは、粉粒状物質の金属鉄の含有率aは10質量%以上である(第3の構成)。第3の構成の製造方法では、金属鉄は粉粒状物質に十分含まれている。そのため、金属鉄の酸化結合が促進され、塊成化状高炉用原料の強度をより確実に確保することができる。また、塊成化物を水浸処理した際、塊成化物は水を吸収して膨張する。塊成化物の膨張量が大きくなると、塊成化物は崩壊する。粉粒状物質に金属鉄が含まれると、塊成化する際に金属鉄はその可塑性により、互いに噛み合い、圧着されて結合する。水浸処理の際に塊成化物が膨張しても、金属鉄同士の噛み合いや圧着により、塊成化物の過剰な膨張及び崩壊が抑制され、塊成化物の形状が維持される。このため、粉粒状物質に含まれる金属鉄の含有率は10質量%以上とすることが好ましい。
【0030】
第1~第3の構成の準備工程において、好ましくは、粉粒状物質の酸化カルシウムの含有率bは10質量%以上40質量%以下である(第4の構成)。第4の構成の製造方法では、酸化カルシウム含有化合物は粉粒状物質に十分含まれている。そのため、粉粒状物質中の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化が促進され、塊成化状高炉用原料の強度をより確実に確保することができる。
【0031】
第1~第4の構成の準備工程において、好ましくは、鉄系廃材を含む原料に還元焙焼処理を施すことにより、粉粒状物質を製造する(第5の構成)。第5の構成の製造方法では、鉄系廃材を含む原料に還元焙焼処理を施す。これにより、鉄系廃材に酸化鉄及び亜鉛が含まれている場合であっても、亜鉛を分離除去した還元鉄を生成することができる。すなわち、亜鉛が除去された粉粒状物質(粉粒状還元鉄)が製造される。
【0032】
第5の構成の準備工程において、原料は、鉄系廃材、炭材及びカルシウム含有物質を含んでいてもよい。鉄系廃材又は炭材は、珪素含有物質を含む。この場合、原料に含まれるカルシウムと、珪素との比が質量比で2.9以上6.1以下である(第6の構成)。ダイカルシウムシリケートは、カルシウム(Ca)の総量と珪素(Si)の総量との比が質量比で2.9の化合物である。また、トリカルシウムシリケートは、カルシウムの総量と珪素の総量との比が質量比で4.3の化合物である。第6の構成の製造方法では、原料に含まれるカルシウムの総量と珪素の総量との比を質量比で2.9以上とすることで、ダイカルシウムシリケート等のカルシウムシリケートが生成しやすくなる。ただし、原料に過剰なカルシウム含有物質が含まれる場合、還元焙焼処理や塊成工程で行われる塊成化処理等において、処理対象物の量が増大し、生産効率が低下する。したがって、カルシウムと珪素の総量の比は、質量比で6.1以下とする。
【0033】
第6の構成の準備工程において、還元炉によって還元焙焼処理を実施し、還元炉としてロータリキルンを用いてもよい(第7の構成)。還元焙焼処理は、還元炉によって適切に実施できる。還元炉としてロータリキルンが適する。ロータリキルンにおいては、投入する原料の粒度を小さくすることが可能である。粒度を小さくすることにより、脱亜鉛処理や酸化鉄の還元が促進される。ただし、還元炉は回転炉床炉であってもよい。
【0034】
第7の構成の準備工程において、原料に含まれるカルシウム含有物質は、石灰粉が水に懸濁したスラリー状であってもよい(第8の構成)。第8の構成の製造方法では、原料に含まれるカルシウム含有物質が極微細な石灰粉を水に懸濁させたスラリー状であるため、原料に含まれるカルシウム含有物質と珪素含有物質との接触効率が高くなる。すると、カルシウム含有物質と珪素含有物質との反応性が向上し、還元焙焼処理の際に、セメントに含まれる成分であり強度発現効果の大きいダイカルシウムシリケートが生成しやすくなる。
【0035】
第8の構成の準備工程において、還元焙焼処理を1300℃未満で実施してもよい(第9の構成)。還元焙焼処理を1300℃以上で行うと、ロータリキルンの内壁への付着物が生成及び成長しやすくなる。第9の構成の製造方法では、還元焙焼処理を1300℃未満で行うため、低融点物質が生成するのを抑制することができ、ロータリキルンの内壁への付着物が成長するのを抑制することができる。
【0036】
第1~第9の構成の静置工程において、好ましくは、炭酸ガスを含む雰囲気で静置処理を行う(第10の構成)。第10の構成の製造方法では、静置工程において、炭酸ガスを含む雰囲気で静置処理を行うことにより、塊成化物中の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化が促進される。これにより、塊成化状高炉用原料の強度発現が促進される。
【0037】
第1~第10の構成の静置工程において、好ましくは、5℃以上50℃未満の雰囲気で静置処理を行う(第11の構成)。第11の構成の製造方法では、静置工程において、5℃以上50℃未満の雰囲気で静置処理を行うことにより、塊成化物中の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化、及び金属鉄の酸化が促進される。これにより、塊成化状高炉用原料の強度が向上する。
【0038】
第1~第11の構成の塊成工程において、好ましくは、ダブルロール型ブリケット成型機を用いて粉粒状物質を圧縮塊成化する(第12の構成)。第12の構成の製造方法では、粉粒状物質の圧縮塊成化に、ダブルロール型ブリケット成型機が用いられる。ダブルロール型ブリケット成型機を用いた圧縮塊成化では、回転する2つのロール間に粉粒状物質を供給し、粉粒状物質を圧縮して成型する。ダブルロール型ブリケット成型機を用いた圧縮塊成化によれば、密度が大きく、強度の高い塊成化物が製造される。また、ダブルロール型ブリケット成型機の操作は連続的で、生産性が高い。
【0039】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態の塊成化状高炉用原料の製造方法についてその具体例を説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0040】
[第1実施形態]
[塊成化状高炉用原料の製造方法]
図2及び図3を用いて、本実施形態に係る塊成化状高炉用原料の製造方法を説明する。図2は、本実施形態に係る製造方法のフロー図である。図3は、製造プロセスフローの一例を示す模式図である。図2を参照して、本実施形態の製造方法は、準備工程(#5)と、水分調整工程(#10)と、塊成工程(#15)と、水浸工程(#20)と、静置工程(#25)と、を備える。本実施形態の製造方法では、準備工程(#5)で準備した粉粒状物質12の水分を、水分調整工程(#10)で調整した後、塊成工程(#15)で圧縮塊成化して塊成化物14を形成する。その塊成化物14に水浸工程(#20)及び静置工程(#25)で水浸処理及び静置処理を施す。静置工程(#25)において、粉粒状物質12中の金属鉄の一部が酸化結合し、粉粒状物質12中の酸化カルシウム含有化合物の一部又は全てが炭酸化すること等により、得られる塊成化状高炉用原料19の強度が高まる。以下、各工程について図3を参照しながら具体的に説明する。
【0041】
[準備工程(#5)]
準備工程(#5)では、塊成化状高炉用原料19の原料となる粉粒状物質12を準備する。粉粒状物質12は、金属鉄及び酸化カルシウム含有化合物を含む。本実施形態の例では、粉粒状物質12は、以下の手順で製造される。図3を参照して、まず、鉄系廃材1に炭材2(例:コークス及び無煙炭)及びカルシウム含有物質3(例:石灰)を添加する。鉄系廃材1、炭材2及びカルシウム含有物質3を、ベルトコンベア4で混合装置5まで搬送し、これらを混合装置5内で混合して混合原料6を得る。
【0042】
鉄系廃材1は、亜鉛を含んでおり、典型的には高炉ダスト、製鋼ダスト、及び電気炉ダスト等である。鉄系廃材1又は炭材2は、二酸化珪素等の珪素含有物質及び酸化アルミニウム等のアルミニウム含有物質を含む。本実施形態の例では、カルシウム含有物質3は石灰乳であるが、石灰乳は、-0.2mm比率が80%の石灰粉が、水に懸濁したものであり、スラリー状である。石灰乳は極微細であるため、反応性が高い。カルシウム含有物質3には、酸化カルシウムも含まれる。また、カルシウム含有物質3として、石灰粉が用いられてもよい。石灰粉とは、篩装置によって塊状の石灰石を得る際の篩下品である。石灰粉は、そのままカルシウム含有物質3として用いられてもよいし、破砕処理によって微細粒化された後にカルシウム含有物質3として用いられてもよい。カルシウム含有物質3は、微細粒化されることによって、鉄系廃材1や炭材2に含まれる珪素含有物質やアルミニウム含有物質との接触が促進され、後述する還元炉内でのカルシウムシリケートやカルシウムアルミネートの生成が進行しやすくなる。
【0043】
銑鋼一貫製鉄所の内部では、高炉ダストや製鋼ダストが発生し、銑鋼一貫製鉄所の外部では、銑鋼一貫製鉄所内に運搬されてくるダスト(例えば電気炉ダスト)が発生する。以下、銑鋼一貫製鉄所の内部で発生するダストを鉄系廃材1a、外部で発生するダストを鉄系廃材1bと言う場合がある。銑鋼一貫製鉄所内において鉄系廃材1(鉄系廃材1a及び鉄系廃材1b)の処理を行う場合、混合装置5内に投入する前に鉄系廃材1a及びカルシウム含有物質3を混合してもよい。この場合、鉄系廃材1a及びカルシウム含有物質3(石灰乳)は、図示しない調整槽(シックナー)に投入され、調整槽で混合される。その後、鉄系廃材1a及びカルシウム含有物質3の混合物は、図示しないフィルタープレスで脱水され、混合装置5に供給される。このとき、鉄系廃材1b及び炭材2も混合装置5に供給される。鉄系廃材1a及びカルシウム含有物質3の混合物は、混合装置5内で鉄系廃材1b及び炭材2と混合されるとともに、ペレット状に造粒されて混合原料6が生成される。また、設備的な問題がなければ鉄系廃材1bも鉄系廃材1aやカルシウム含有物質3(石灰乳)とともに調整槽(シックナー)に投入して混合することも可能である。
【0044】
次に、準備工程(#5)では、混合原料6を還元炉に投入し、混合原料6に還元焙焼処理を実施する。本実施形態の例では、還元炉としてロータリキルン7が用いられる。ロータリキルン7は、回転円筒型であり、わずかに傾斜勾配を有する。混合原料6は、ロータリキルン7の入側端7aから投入され、ロータリキルン7内で転動運動を行いながら、ロータリキルン7の出側端7bまで移動する。
【0045】
ロータリキルン7の出側端7bからは、空気及び熱的補償等のための燃料ガス(例:コークス炉ガス)が適宜供給される。ロータリキルン7内では、炭材2の一部が燃料ガスによって部分燃焼し、一酸化炭素ガスが発生する。この一酸化炭素ガスを発生させる部分燃焼により、ロータリキルン7内が還元に必要な温度と雰囲気に保たれる。出側端7bから供給された空気及び燃料ガスは、混合原料6とは逆方向に流れ、入側端7aから排ガスとして排出される。
【0046】
還元焙焼処理の際、ロータリキルン7内では、鉄系廃材1に含まれる亜鉛が還元揮発し、排ガスとともに排出される。混合原料6(鉄系廃材1)に含まれる酸化鉄の一部は、ロータリキルン7内に含まれる一酸化炭素ガスによって還元され、金属鉄となる。これにより、混合原料6は、金属鉄を含む還元鉄8となる。
【0047】
準備工程(#5)では、還元焙焼処理後、還元鉄8を冷却装置9で冷却する。還元鉄8を冷却する方法は、特に限定されるものではないが、例えば空冷や水冷である。還元鉄8が空冷によって冷却されると、冷却後の還元鉄8はほとんど水分を含まない。
【0048】
ここで、粉粒状の高炉用原料が高炉に装入されると、トラブルが発生しやすい。そのため、粉粒状の原料は、高炉に投入される前に塊成化される必要がある。そのため、準備工程(#5)では、まず、還元鉄8を分級する。具体的には、冷却された還元鉄8を可動式篩分級装置10にかける。本実施形態の例では、可動式篩分級装置10は振動篩装置である。可動式篩分級装置10は、メッシュ網を有する。これにより、還元鉄8は、篩上品である塊状物質11と、篩下品である粉粒状物質12とに分級される。可動式篩分級装置10のメッシュの大きさは、例えば5~8mmである。塊状物質11は、十分な大きさを有しているため、そのまま高炉用原料として用いられる。粉粒状物質12は、十分な大きさを有していないため、後述する塊成工程(#15)で圧縮塊成化される。
【0049】
準備工程(#5)で分級のために用いられる篩分級装置は、還元鉄8に振動や転動を与えることが可能な装置(例えば振動篩装置)である必要がある。塊状物質11の粒度と、粉粒状物質12の粒度との差は、そこまで顕著でないからである。還元鉄8を振動や転動させずに分級すると、篩分級装置のメッシュの大きさよりも僅かに小さい粒度の粉粒状物質12が、篩上品として塊状物質11に混入してしまう恐れがある。準備工程(#5)では、篩分級装置として可動式篩分級装置10が用いられるため、塊状物質11に粉粒状物質12が混入するのを抑制することができる。したがって、本実施形態に係る製造方法で得られる塊成化状高炉用原料19が高炉に装入されれば、トラブルが発生しにくく、高炉の操業が安定する。
【0050】
本実施形態の例では、粉粒状物質12(及び塊状物質11)はカルシウムシリケート(例:ダイカルシウムシリケート)を含む。ダイカルシウムシリケートは、カルシウム含有物質3(例:炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び酸化カルシウム等)と珪素含有物質(ケイ石微粉末、粘土、シリカヒューム、フライアッシュ及び非晶質シリカ等)とが混合され、焼成されることによって生成される。ダイカルシウムシリケートは、α型、α´型、β型及びγ型が存在する。本実施形態の例では、混合原料6に含まれる二酸化珪素等の珪素含有物質がカルシウム含有物質3と反応して、カルシウムシリケートが生成される。ただし、粉粒状物質12はカルシウムシリケートの代わりにカルシウムアルミネートを含んでいてもよいし、カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートの両方を含んでいてもよい。酸化アルミニウム等のアルミニウム含有物質がカルシウム含有物質3と反応して、カルシウムアルミネートが生成される。アルミニウム含有物質は、例えば鉄系廃材1に含まれる。カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートは、例えば還元焙焼処理の際に生成される。カルシウムシリケート及びカルシウムアルミネートは、セメントに含まれる成分であり、いずれも炭酸化することで硬化する。
【0051】
本実施形態の製造方法では、粉粒状物質12に含まれるカルシウムシリケートは、後述する水浸工程(#20)及び静置工程(#25)において炭酸化される。カルシウムシリケートはセメントに含まれる強度発現成分でもあり、この粉粒状物質12を用いて製造した塊成化状高炉用原料19の強度は、カルシウムシリケートを含まない粉粒状物質12を用いて製造した塊成化状高炉用原料19の強度よりも大きい。
【0052】
カルシウムシリケートは、例えばバインダー(例:ポルトランドセメント)にも含まれる。したがって、塊成化状高炉用原料19の強度を向上させるために、粉粒状物質12にバインダーが添加されてもよい。ただし、バインダーは、二酸化珪素等の珪素含有物質及び酸化アルミニウム等のアルミニウム含有物質を含む。珪素含有物質は製鉄プロセスにおいては不要な成分である。また、アルミニウム含有物質は、高炉の操業を不安定化させる成分である。粉粒状物質12にバインダーを添加すると、粉粒状物質12の珪素含有物質及びアルミニウム含有物質の含有量が増加してしまう。バインダーが添加された粉粒状物質12を高炉の原料として用いると、製鉄プロセスにおいて不要な成分である珪素含有物質やアルミニウム含有物質の高炉投入量を増やしてしまうことになる。さらに、バインダーが粉粒状物質12に添加される場合、粉粒状物質12及びバインダーは極力均一に混合される必要がある。粉粒状物質12及びバインダーが均一に混合されるためには、高性能な混合装置が必要となる。バインダーが粉粒状物質12に添加される場合、バインダーが添加されない場合と比較して、バインダーを準備及び混合するためのコストが増加する。以上のことから、粉粒状物質12には、バインダーが極力添加されないことが好ましい。粉粒状物質12の由来となる鉄系廃材1や炭材2にも珪素含有物質及びアルミニウム含有物質が含まれるが、これらの分離除去は容易でなく、高炉への投入は避けられない。ただし、鉄系廃材1や炭材2に含まれる珪素含有物質及びアルミニウム含有物質がカルシウム含有物質3と反応して得られるカルシウムシリケートやカルシウムアルミネートは、圧壊強度を確保する観点から有効な成分である。製鉄プロセスにおいて不要な成分である珪素含有物質やアルミニウム含有物質の高炉投入量を敢えて増やすこともない。そこで、本実施形態の製造方法では、ロータリキルン7での原料となる鉄系廃材1や炭材2に含まれ、製鉄プロセスにおいて不純物となっている珪素含有物質やアルミニウム含有物質をカルシウムシリケートやカルシウムアルミネートに変化させ、強度発現に寄与させることが考慮されている。本実施形態の製造方法によれば、還元焙焼処理の過程で、鉄系廃材等の原料に含まれ、製鉄プロセスにおいては不純物である珪素含有物質やアルミニウム含有物質から、カルシウムシリケートやカルシウムアルミネートを副次的に製造し、粉粒状物質12に含ませることで、粉粒状物質12へのバインダーの添加を省略することができる。また、還元焙焼処理において生成される金属鉄も、バインダーと同様の機能を有する。
【0053】
還元焙焼処理の際、還元炉内の温度条件は特に限定されない。通常、原料を焼成してダイカルシウムシリケートを生成する際の温度は、1300℃以上が好ましく、1400℃以上がより好ましいことが知られている。1300℃未満の温度条件下では、焼成された原料が生焼けになる恐れもある。
【0054】
しかしながら、本実施形態において、カルシウム含有物質3はスラリー状の石灰乳である。これにより、混合原料6に含まれるカルシウム含有物質3及び珪素含有物質の接触効率が高められる。したがって、このような混合原料6を用いれば、カルシウム含有物質3と珪素含有物質との反応性が向上し、1300℃未満の温度条件下でもダイカルシウムシリケートが生成される。還元焙焼処理温度を1300℃未満とすることができれば、ロータリキルン7の内壁に付着する低融点物質の生成が抑制され、また、ロータリキルン7の内壁への付着物の成長が抑制される。さらに、還元焙焼処理温度を低くすることは、ロータリキルン操業における燃料使用量の削減、ロータリキルン内耐火物の寿命向上、及び設備負荷の軽減にもつながる。
【0055】
粉粒状物質12において、鉄分、酸化カルシウム含有化合物及び珪素含有物質等の含有量は、混合原料6を製造する際の各原料(鉄系廃材1、炭材2、及びカルシウム含有物質3)の配合量によって調整される。具体的には、混合原料6を製造する前に、各原料における鉄分、カルシウム及び珪素の含有率を予め調査しておき、この調査結果により、それぞれの配合量が決定される。
【0056】
粉粒状物質12は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。乾ベースとは、粉粒状物質12が水分を含んでいない状態である。粉粒状物質12は、この2つの条件のうち少なくとも一方を満たす程度に、金属鉄の含有率が低い。さらに、粉粒状物質12の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bは、上記の式(1)を満足する。準備工程(#5)では、これらの規定を満たすように、用いる各原料の添加量及びロータリキルン7での還元条件等が決定されるとも言える。
【0057】
式(1)の右辺は、本実施形態の製造方法で得られる塊成化状高炉用原料19の圧壊強度に相当する。したがって、式(1)は、塊成化状高炉用原料19の圧壊強度が400N/個以上であることを意味する。高炉に装入される原料は、炉内通気性を確保するため、高強度であることが要求される。塊成化状高炉用原料19の圧壊強度は、400N/個以上である必要がある。好ましくは、その圧壊強度は980N/個以上である。
【0058】
以下、粉粒状物質12の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率b、並びに混合原料6に含まれるカルシウム含有物質3と珪素含有物質との質量比の好適な範囲について述べる。
【0059】
金属鉄は粉粒状物質12に十分含まれていることが好ましい。静置工程(#25)において、粉粒状物質12中の金属鉄の酸化結合が促進され、得られる塊成化状高炉用原料19の強度をより確実に確保することができるからである。粉粒状物質12の金属鉄の含有率aは、好ましくは10質量%以上である。
【0060】
同様に、酸化カルシウム含有化合物は粉粒状物質12に十分含まれていることが好ましい。静置工程(#25)において、粉粒状物質12中の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化が促進され、得られる塊成化状高炉用原料19の強度をより確実に確保することができるからである。さらに、酸化カルシウム含有化合物は、製鉄プロセスにおいて溶融スラグの塩基度調整に用いられる成分でもある。そのため、粉粒状物質12には、ある程度の量の酸化カルシウムが含まれている必要がある。ただし、粉粒状物質12に過剰な酸化カルシウム含有化合物が含まれる場合、還元焙焼処理や後述する塊成工程(#15)での塊成化処理等において、処理対象物の量が増大し、生産効率が低下する。当然ながら、粉粒状物質12に含まれる酸化カルシウム含有化合物の量が多いほど、粉粒状物質12の酸化カルシウムの含有率bは大きくなる。粉粒状物質12の酸化カルシウムの含有率bは、好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0061】
ダイカルシウムシリケートは、カルシウムと珪素との質量比が2.9の化合物である。カルシウムと珪素との質量比は、珪素の含有率(質量%)に対するカルシウムの含有率(質量%)を意味する。そのため、混合原料6に含まれるカルシウムと珪素との質量比が2.9以上であれば、ダイカルシウムシリケートが生成しやすくなる。また、この場合、ロータリキルン7を用いて混合原料6に還元焙焼処理を施す際、ロータリキルン7の内壁に付着する低融点物質の生成が抑制され、また、ロータリキルン7の内壁への付着物の成長が抑制される。ただし、カルシウムと珪素との質量比が大きすぎる場合、還元焙焼処理や後述する塊成工程(#15)での塊成化処理等において、処理対象物の量が増大し、生産効率が低下する。したがって、混合原料6に含まれるカルシウムと珪素との質量比は、好ましくは2.9以上6.1以下である。
【0062】
[水分調整工程(#10)]
水分調整工程(#10)では、粉粒状物質12に水を添加し、粉粒状物質12に含まれる水分を調整する。本実施形態の例では、粉粒状物質12は混合装置13に投入された後、水が添加される。粉粒状物質12が適度な水分を含んでいると、後述する塊成工程(#15)において粉粒状物質12を塊成化する際に、強度の高い塊成化物14が得られやすい。粉粒状物質12の粒子間での摩擦抵抗が小さくなって圧縮力が伝播しやすくなり、粉粒状物質12の圧密が促進されるからである。また、粉粒状物質12を塊成化するための塊成化装置15としてダブルロール型ブリケット成型機を用いる場合、粉粒状物質12が適度な水分を含んでいると、粉粒状物質12とロール面との摩擦抵抗が小さくなり、ロールの寿命が向上する。
【0063】
粉粒状物質12は、金属鉄及びダイカルシウムシリケートを含む。粉粒状物質12に添加された水は、金属鉄の酸化及びダイカルシウムシリケートの炭酸化にも寄与する。金属鉄の酸化及びダイカルシウムシリケートの炭酸化が促進されれば、最終的に得られる塊成化状高炉用原料19の強度が高められる。以上より、粉粒状物質12に含まれる水分は、ある程度、多いことが好ましい。そこで、水分調整工程(#10)では、粉粒状物質12に含まれる水分を0.5質量%以上に調整する。
【0064】
一方、粉粒状物質12に多量の水分が含まれると、塊成工程(#15)において、粉粒状物質12を塊成化するのが困難となる場合もある。粉粒状物質12に過剰な水分が含まれる場合、粉粒状物質12が塊成化装置15(ダブルロール型ブリケット成型機)のロールに付着する恐れがあるからである。また、この場合、塊成化装置15に粉粒状物質12を供給するためのホッパで棚吊りが発生し、塊成化装置15への原料供給が不安定化する恐れもある。そのため、水分調整工程(#10)では、粉粒状物質12に含まれる水分を6.0質量%以下に調整する。これにより、塊成工程(#15)において、粉粒状物質12の塊成化が安定的に行われる。
【0065】
水分調整工程(#10)では、粉粒状物質12に油及び潤滑剤をさらに添加することも考えられる。ただし、この場合、後述する水浸工程(#20)及び静置工程(#25)において塊成化物14に水浸処理及び静置処理が施される際に、油及び潤滑剤に含まれる油分が排水や土壌に混入し、環境上の問題が発生する恐れがある。そのため、油及び潤滑剤が粉粒状物質12に添加されないことが好ましい。
【0066】
本実施形態の例では、水分調整工程(#10)で粉粒状物質12に水を添加する前に、準備工程(#5)において還元鉄8が振動篩装置等の可動式篩分級装置10によって分級される。つまり、還元鉄8の分級は、還元鉄8が乾いた状態で行われる。この場合、還元鉄8が可動式篩分級装置のメッシュ網に付着しにくい。
【0067】
[塊成工程(#15)]
塊成工程(#15)では、水分調整工程(#10)の後、粉粒状物質12を冷間で圧縮塊成化して塊成化物14を形成する。圧縮塊成化には、塊成化装置15が用いられる。一般に、粉粒状の物質を圧縮塊成化するための方法は、タブレッティングとロールプレスに大別される。タブレッティングでは、密閉された型の中に粉粒状の物質を充填し、充填された粉粒状の物質をピストンで圧縮して所定の形に成型する。ロールプレスは、ブリケッティングを含む。ブリケッティングでは、2つの回転可能なロールを有する塊成化装置が用いられる。本実施形態の製造方法で用いられる塊成化装置15は、ダブルロール型ブリケット成型機である。要するに、本実施形態の例では、ブリケッティングによって粉粒状物質12を圧縮塊成化する。
【0068】
図4は、本実施形態の製造方法で用いられる塊成化装置15の断面図である。図4を参照して、塊成化装置15は、2つの円筒形のロール151,152を含む。ロール151とロール152は、水平方向に隙間を空けて隣接する。2つのロール151,152の上方には、図示しないホッパが設けられる。このホッパから2つのロール151,152間の隙間に向かって、水分調整工程(#10)後の粉粒状物質12が供給される。2つのロール151,152は、上方から互いに近づく向きに回転する。ロール151,152の外表面には、周方向に沿って複数のポケット151a,152aが設けられている。ロール151,152の各々は、複数の窪みを有するとも言える。ポケット151a,152aは、粉粒状物質12を塊成化物14に成形する型となる。つまり、得られる塊成化物14の形状の一部は、ポケット151a,152aの形状と実質的に一致する。
【0069】
塊成工程(#15)では、回転する2つのロール151,152間に粉粒状物質12を供給して、ロール151,152表面と粉粒状物質12との間の摩擦によって、粉粒状物質12をスリップさせながら圧縮する。その際、粉粒状物質12は2つのロール151,152で圧縮され、粉粒状物質12の粒子同士は接近する。そのため、空隙が少なく、密度の大きい塊成化物14が得られる。さらに、ロール151,152の回転により粉粒状物質12が圧縮されるため、得られる塊成化物14の強度はタブレッティングで得られる塊成化物の強度よりも大きくなる。また、ダブルロール型ブリケット成型機の操作は連続的で、生産性が高い。以上より、粉粒状物質12を圧縮塊成化して塊成化物14に形成する方法は、好ましくはブリケッティングであり、ダブルロール型ブリケット成型機が用いられることが好ましい。
【0070】
塊成化装置15は、粉粒状物質12をロール151,152で圧縮する際の成型加圧力を自動で制御可能な構成であることがより好ましい。成型加圧力は、塊成化物14の成型性や圧壊強度を管理する観点から重要である。粉粒状物質12の性状及びホッパ内の粉粒状物質12の貯留量によって必要な成型加圧力は変動する。塊成化装置15が成型加圧力を自動で制御可能なダブルロール型ブリケット成型機であれば、成型加圧力を目標値付近に制御でき、得られる塊成化物14の圧壊強度等の品質が安定化する。
【0071】
ただし、塊成化装置15で粉粒状物質12を圧縮塊成化したとしても、粉粒状物質12の一部は塊成化されず、粉粒状物質12として残存する場合がある。塊成工程(#15)では、圧縮塊成化された塊成化物14及び残存する粉粒状物質12を篩分級装置16にかける。篩分級装置16は、メッシュ網を有する。これにより、塊成化物14及び粉粒状物質12の混合物は、篩上品である塊成化物14と、篩下品である粉粒状物質12とに分級される。図3に示す通り、粉粒状物質12は、混合装置13よりも前段に戻され、塊成化装置15によって再度圧縮塊成化される。
【0072】
塊成化物14の粒度と、粉粒状物質12の粒度との差は顕著である。そのため、篩分級装置16は、振動篩装置等の可動式篩分級装置であってもよいし、そうでなくてもよい。可動式篩分級装置を用いない場合、所定の大きさのメッシュでメッシュ網を斜めに設置し、その上で塊成化物14及び粉粒状物質12の混合物を転動させる。塊成化物14が通過しない程度に篩分級装置16のメッシュを大きくすれば、塊成化物14及び粉粒状物質12の混合物に振動を与えなくても、粉粒状物質12は確実にメッシュを通過すると考えられる。篩分級装置16のメッシュは、可動式篩分級装置10のメッシュより大きくてもよい。篩分級装置16のメッシュの大きさは、例えば10~15mmである。
【0073】
篩分級装置16のメッシュが可動式篩分級装置10のメッシュより大きい場合には、篩分級装置16で分級された後の篩下品(粉粒状物質12)に、可動式篩分級装置10のメッシュよりも大きい粒子が含まれている可能性がある。このような大きい粒子を塊成化装置15で圧縮塊成化すると、塊成化装置15に過大な負荷がかかる。そのため、篩分級装置16のメッシュが可動式篩分級装置10のメッシュより大きい場合、篩分級装置16で分級された後の粉粒状物質12は、可動式篩分級装置10よりも前段に戻される。篩分級装置16で分級された後の粉粒状物質12を可動式篩分級装置10でさらに分級すると、可動式篩分級装置10のメッシュより大きい粒子は、塊状物質11として粉粒状物質12から取り除かれる。
【0074】
[水浸工程(#20)]
水浸工程(#20)では、篩分級装置16で分級された後の塊成化物14に水浸処理を施す。本実施形態の例では、水浸工程(#20)では、塊成化物14は水18が張られた水浸処理装置17に投入される。水浸処理とは、塊成化物14の表面全体が水18と接触した状態が所定の時間保たれることを意味する。ただし、複数の塊成化物14が水浸処理装置17に投入される場合は、塊成化物14同士が接触している部分を除いた塊成化物14の表面と水18とが接触していればよい。
【0075】
水浸処理は、塊成化物14を製造した直後に行われてもよいし、塊成化物14を製造してから数時間以上が経過した後に行われてもよい。ただし、塊成化物14は、製造された後に静置されることにより、強度が上昇する。強度が上昇した塊成化物14は、この塊成化物14の搬送過程で落下衝撃等が与えられたとしても損壊しにくい。したがって、水浸工程(#20)では、好ましくは、塊成化物14が製造された後、15~20分以上静置されてから水浸処理を施す。
【0076】
塊成化物14に水浸処理を施す時間は、特に限定されるものではなく、塊成化物14の材質や大きさ等によって適宜設定してよい。ただし、水18を塊成化物14に十分に浸透させる観点から、水浸処理を施す時間は3秒以上とすることが好ましい。また、水浸処理を施す時間が長すぎると、生産性が悪化する。したがって、塊成化物14に水浸処理を施す時間は、好ましくは3秒以上600秒以下である。
【0077】
篩分級装置16で分級された後の塊成化物14は、水18が張られた保管容器に投入され、この保管容器内で水浸処理を施されてもよい。要するに、塊成化物14の保管と、水浸処理を同時に行ってもよい。この場合、塊成化物14に水浸処理を施す時間は、600秒より長くてもよい。塊成化物14の強度を確保する観点からは、実質的に問題にならないからである。
【0078】
水浸処理に用いる水18は、例えば水道水、工業用水、海水、及び工業廃水等である。塊成化物14に含まれる金属鉄の酸化が促進され、塊成化物14の強度が向上することから、水18のpHは7よりも低くすることも可能である。日本鉄鋼協会 材料とプロセス(CAMP-ISIJ) vol.25(2012).p.279には、塩化ナトリウム水溶液を用いた水浸処理は、純水を用いた水浸処理と比較して、得られる塊成化状高炉用原料19の圧壊強度が高くなることが記載されている。水浸処理に塩化ナトリウム水溶液を用いた場合、水浸処理の後に行われる静置処理の処理時間を短縮できることも期待される。その場合、塩化ナトリウム水溶液を使用することによる設備腐食を考慮する必要がある。ただし、高炉用原料として必要な強度を確保する観点からは、pHが7より高い水18が水浸処理で用いられても実質的に問題ない。静置処理時間を長くすることで、必要な圧壊強度は得られる。そのため、pHが7より高い、安価な工業廃水等を水18として使用することもある。
【0079】
[静置工程(#25)]
静置工程(#25)では、水浸工程(#20)の後、塊成化物14に静置処理を施す。具体的には、静置工程(#25)では、水浸処理後の塊成化物14は、酸素及び二酸化炭素が存在する雰囲気で静置される。静置処理が施された後の塊成化物14は、塊成化状高炉用原料19となる。
【0080】
塊成化物14は、粉粒状物質12を塊成化したものであるため、粉粒状物質12と同様に金属鉄、カルシウムシリケート等の酸化カルシウム含有化合物を含む。水浸工程(#20)において、塊成化物14は水浸処理を施され、塊成化物14の開気孔に水18が入り込む。その後、静置工程(#25)において、静置処理することにより、開気孔に入り込んだ水18に開気孔近傍にある金属鉄、酸化カルシウム含有化合物が溶け込む。雰囲気中の酸素及び二酸化炭素も、水18に溶け込む。この状態で塊成化物14を静置することにより、塊成化物14が脱水されながら、一部の金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物(カルシウムシリケート等)の炭酸化が進行する。具体的には、雰囲気中の酸素によって水18に溶け込んだ金属鉄の酸化が進行する。雰囲気中の二酸化炭素によって水18に溶け込んだ酸化カルシウム含有化合物(カルシウムシリケート等)の炭酸化(説明の便宜上、以下では、これらの炭酸化をまとめて「酸化カルシウム含有化合物の炭酸化」と言う。)が進行する。これにより、塊成化物14のうち開気孔が存在していた位置に酸化鉄及び炭酸カルシウムが生成する。炭酸カルシウムは、酸化カルシウム含有化合物の一種である。水浸処理を行う前から粉粒状物質12に含まれている炭酸カルシウムは、既に炭酸化している化合物ではあるが、塊成化物14の開気孔に入り込み、充填物として強度発現に寄与する。例えば、開気孔に入り込んだ水18に大気中の炭酸ガスが吸収されると、開気孔近傍にある炭酸カルシウムが水18に溶けやすくなる。水18に溶けた炭酸カルシウムは、その後の静置処理で水18が蒸発した後も開気孔に残り、他の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化によって発生した炭酸カルシウムとともに、開気孔に充填され、開気孔近傍にある物質同士の結合力を高め、塊成化物14の強度発現に寄与する。このように、炭酸カルシウム及び酸化鉄は、塊成化物14の開気孔周辺の粒子同士を接着して結合を強化する。これにより、得られる塊成化状高炉用原料19の強度が向上する。
【0081】
二酸化炭素濃度が1%未満の雰囲気中でも、静置された塊成化物14に含まれる酸化カルシウム含有化合物の炭酸化は進行する。そのため、塊成化物14は、屋外ヤードにて大気中に静置されてもよい。塊成化物14を静置する期間は、特に限定されるものではないが、例えば7~10日である。
【0082】
静置処理中、水浸処理で塊成化物14内に吸収された水18が無くなると、その時点で金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物の炭酸化は停止する。そのため、屋外ヤードで静置処理した場合、雨が降ることにより、塊成化物14に水が供給され、その後の静置処理において、金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物の炭酸化が促進され、塊成化物14の圧壊強度が増加する。また、静置工程(#25)では、静置処理中の塊成化物14に散水を行ってもよい。
【0083】
静置処理する際の雰囲気温度は、特に限定されない。ただし、雰囲気温度が5℃未満となると、金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物の炭酸化反応が進行しにくくなる。その場合、静置処理時間を長くする等の対応が必要となり、生産性が悪化する。逆に、静置処理中の雰囲気温度を5℃以上、好ましくは15℃以上とすれば、金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物の炭酸化反応を促進することができ、生産性が向上する。一方、雰囲気温度が50℃を超えると、水浸処理で塊成化物14に吸水された水18の蒸発が速くなり、十分な強度発現が得られる前に塊成化物内から水がなくなることも懸念される。静置処理中の雰囲気温度を50℃以下とすれば、塊成化物14から水18が即座に蒸発するのを抑制することができるとも言える。以上より、静置処理する際の雰囲気温度は、5℃以上50℃以下、好ましくは15℃以上50℃以上とする。
【0084】
静置工程(#25)では、図示しない静置処理装置を用いて静置処理を行ってもよい。この場合、塊成化物14は静置処理装置内で静置される。静置処理装置内は、雰囲気の温度、湿度、酸素濃度及び炭酸ガス濃度が管理される。静置処理は、炭酸ガス濃度が大気中よりも高く管理された雰囲気で行われてもよい。静置処理が炭酸ガスを含む雰囲気で行われれば、塊成化物14中の酸化カルシウム含有化合物の炭酸化が促進される。これにより、得られる塊成化状高炉用原料19の強度が向上する。また、強度発現速度が速くなり、静置処理時間が短縮される。
【0085】
[効果]
本実施形態に係る製造方法では、まず、金属鉄の含有率aが低い粉粒状物質12を準備する。具体的には、粉粒状物質12は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。本実施形態に係る製造方法では、この粉粒状物質12に含まれる水分を調整した後、粉粒状物質12を圧縮塊成化して塊成化物14を製造する。さらに、塊成化物14に水浸処理及び静置処理を施す。準備工程(#5)において、粉粒状物質12の金属鉄の含有率a及び酸化カルシウムの含有率bは、上記の式(1)を満足するように調整されている。これは、上述したとおり、得られる塊成化状高炉用原料19の圧壊強度が400N/個以上であることを意味する。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、金属鉄の含有率aが低い原料を用いた場合でも、高炉で使用可能な強度を有する塊成化状高炉用原料19を製造することができる。
【0086】
塊成化物14は、水浸処理で水18を吸収して膨張する。一般に、塊成化物が過剰に膨張すると、塊成化物が崩壊する。しかしながら、塊成化物14は多少膨張するものの、金属鉄同士の圧着や噛み込みによる結合によって崩壊には至らない。また、一般に、高炉内の高温部に投入された塊成化物は、熱膨張して崩壊する場合がある。しかしながら、この場合でも、塊成化物14に含まれる金属鉄同士の圧着や噛み込みにより金属鉄が結合されていれば、塊成化物14の崩壊が抑制される。したがって、本実施形態に係る製造方法では、塊成化物14に含まれる金属鉄の酸化結合及び上述した酸化カルシウム含有化合物の炭酸化等の複数の要因が塊成化物14の強度や形状に作用する。これらの要因の相乗効果によって、塊成化物14の強度や形状が維持される。つまり、塊成化物14の強度や形状を維持するために、塊成化物14はある程度の金属鉄を含んでいる必要がある。本実施形態の例では、塊成化物14の原料である粉粒状物質12の金属鉄の含有率aが10質量%以上であるため、塊成化物14の強度や形状を維持することができる。
【0087】
[変形例]
上述した本実施形態の例では、還元焙焼処理で用いる還元炉は、ロータリキルン7である。しかしながら、還元炉は回転炉床炉、流動床炉及びシャフト炉等であってもよい。還元炉として回転炉床炉が用いられる場合、混合された鉄系廃材1、炭材2及びカルシウム含有物質3(混合原料6)は、塊成化されてから回転炉床炉に投入される。還元焙焼処理の際、回転炉床炉内では、酸化鉄の一部が還元され、金属鉄となる。これにより、混合原料6は、金属鉄を含む還元鉄8となる。回転炉床炉から得られる還元鉄8の大半は塊成化されている。塊成化された還元鉄8の強度が不十分な場合、塊成工程(#15)において、この還元鉄8を塊成化装置15で再度塊成化してもよい。この場合、還元鉄8を塊成化装置15に通すために、塊成化された還元鉄8を一旦破砕してもよい。
【0088】
本実施形態の例では、準備工程(#5)において、可動式篩分級装置10によって還元鉄8が分級される。しかしながら、可動式篩分級装置10による還元鉄8の分級は、水分調整工程(#10)の後に行われてもよい。この場合、還元鉄8は、水分調整工程(#10)において水を添加された後、可動式篩分級装置10によって分級される。この場合の塊成化状高炉用原料19の製造プロセスフローを図5に示す。図5は、製造プロセスフローの一例を示す模式図である。
【0089】
乾いた還元鉄8に対して可動式篩分級装置10による分級を行うと、還元鉄8が振動する等して発塵する恐れがある。そこで、水を添加された後の還元鉄8に対して可動式篩分級装置10による分級を行えば、還元鉄8の発塵が抑制される。水分調整工程(#10)では、発塵を抑制する観点から、粉粒状物質12に含まれる水分は0.5質量%以上に調整されることが好ましい。
【0090】
水を添加された後の還元鉄8に対して可動式篩分級装置10による分級を行う場合、還元鉄8に過剰な水分が添加されていると、還元鉄8が可動式篩分級装置10のメッシュ網に付着しやすくなる。そのため、分級の効率が低下する。そこで、水分調整工程(#10)では、還元鉄8に含まれる水分が6.0質量%以下となるように調整される。還元鉄8に含まれる水分が6.0質量%以下であれば、還元鉄8は可動式篩分級装置10のメッシュ網に付着しにくい。
【0091】
本実施形態の例では、ロータリキルン7で製造された還元鉄8は、可動式篩分級装置10で粉粒状物質12に分級され、混合装置13で水を添加された後、塊成化装置15で圧縮塊成化される。このプロセスは、連続した設備の中で行われる。しかしながら、プロセスの最中に還元鉄8及び粉粒状物質12を一旦保管し、時間をおいてからプロセスを再開してもよい。例えば、塊成化装置15が保全やトラブル等により停止したとしても、ロータリキルン7の運転を継続してもよい。この場合、ロータリキルン7で製造された還元鉄8は一時的に保管され、塊成化装置15の運転が再開してから還元鉄8(粉粒状物質12)の圧縮塊成化が行われてもよい。逆に、還元鉄8及び粉粒状物質12が一時的に保管されていれば、仮にロータリキルン7が停止したとしても、塊成化装置15による圧縮塊成化が継続される。
【0092】
還元鉄8及び粉粒状物質12の一時的な保管が可能なのは、本実施形態の塊成工程(#15)では、冷間で圧縮塊成化を行うからである。圧縮塊成化を熱間で行う場合、ロータリキルン7で製造された還元鉄8の温度は、約700℃に維持される必要がある。そのため、圧縮塊成化を熱間で行う場合には、還元鉄8及び粉粒状物質12を一時的に保管するのは困難である。
【0093】
本実施形態の水分調整工程(#10)では、粉粒状物質12に水を添加することにより、粉粒状物質12に含まれる水分を調整する。また、上述した通り、図5に示す製造プロセスフローでは、還元鉄8に水を添加することにより、還元鉄8に含まれる水分を調整する場合がある。しかしながら、粉粒状物質12や還元鉄8に含まれる水分を調整する方法は、これに限定されない。以下、粉粒状物質12の水分を調整する方法について説明するが、同様の方法を用いて還元鉄8の水分を調整することもできる。したがって、以下の水分調整に関する説明において、「粉粒状物質12」を「還元鉄8」と読み替えてもよい。
【0094】
例えば、水分を含む粉粒状物質12と、乾いた粉粒状物質12とを混合することにより、粉粒状物質12に含まれる水分を調整してもよい。要するに、水分調整工程(#10)において、水の代わりに水分を含む粉粒状物質12を水分源として用いてもよい。水分を含む粉粒状物質12とは、例えば、屋外ヤードに一時保管されている間に雨が降り、水分を吸収した粉粒状物質12や、ロータリキルン7で製造された後に水冷によって冷却された粉粒状物質12である。乾いた粉粒状物質12とは、例えば、ロータリキルン7で製造された後に空冷によって冷却された粉粒状物質12である。
【0095】
水分調整工程(#10)において、水分を含む粉粒状物質12を水分源として用いる場合に、水分を含む粉粒状物質12と乾いた粉粒状物質12とを別々に分級すると、2つの可動式篩分級装置10が必要となり、コストが増加する。また、この場合に、水分を含む粉粒状物質12に過剰な水分が含まれると、水分を含む粉粒状物質12が可動式篩分級装置10のメッシュ網に付着し、分級効率が低下する。一方、乾いた粉粒状物質12を可動式篩分級装置10で分級すると、乾いた粉粒状物質12が発塵する恐れがある。以上のことから、水分を含む粉粒状物質12を水分源として用いる場合、好ましくは、水分を含む粉粒状物質12及び乾いた粉粒状物質12を混合してから、可動式篩分級装置10による分級を行う。
【0096】
ただし、水分を含む粉粒状物質12は、10~20mm程度以上の大きさの粗粒を含む場合がある。この場合、水分を含む粉粒状物質12と乾いた粉粒状物質12とを混合する前に、水分を含む粉粒状物質12を分級して粗粒を分離除去してもよい。粗粒を分離除去する場合には、篩装置のメッシュを大きくすることができるため、水分を含む粉粒状物質12が篩装置のメッシュ網に付着しにくい。粗粒は設備に悪影響を及ぼす懸念がある。例えば、粗粒は混合装置内で回転物に噛み込む等して、過負荷を与え、設備故障の原因となることが考えられる。分離除去された粗粒は、高炉等に投入してもよい。
【0097】
本実施形態の例では、亜鉛を含む鉄系廃材1を原料の1つとして、粉粒状物質12が生成された。しかしながら、鉄系廃材1の代わりに亜鉛を含まない鉄系ダストを原料としてもよい。粉粒状物質12の原料が亜鉛を含まない場合、脱亜鉛処理は考慮しなくてもよい(酸化鉄の還元処理は必須)。また、製鉄過程で発生する金属鉄や酸化カルシウム含有化合物を含有する粉粒状のダストやスラグ(例:製鋼スラグ)等を、還元焙焼処理せずに、そのまま粉粒状物質12として用いてもよい。この場合、粉粒状物質12を生成するための工程を全て省略することができる。
【0098】
製鋼スラグは、製鉄プロセスの副生品であり、例えば脱硫スラグである。製鋼スラグは、金属鉄及びカルシウムシリケート等の酸化カルシウム含有化合物を含む。製鋼スラグから製造される塊成化状高炉用原料19は、カルシウムの含有率が高くなるため、高炉におけるカルシウム源として使用することができる。例えば、高炉に酸性の原料が多く投入された場合、製鋼スラグから製造される塊成化状高炉用原料19を投入することで、高炉内で生成されるスラグの塩基度が適正化され、溶融スラグの排出が安定化する。このように、製鉄プロセスの副生品である製鋼スラグは、石灰石等のカルシウム源の代用品として活用することができる。また、製鋼スラグには鉄分も含まれることから、製鋼スラグは鉄源としての利用も期待されている。
【0099】
一般に、金属鉄の含有率の高い原料を用いれば、高強度の塊成化状高炉用原料を製造しやすい。本実施形態における原料である粉粒状物質12は、乾ベースでの鉄分の総含有率が10質量%以上50質量%未満であるか、又は含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35未満である。本実施形態の製造方法では、このような金属鉄の含有率aの低い原料を用いた場合であっても、高強度の塊成化状高炉用原料19を製造することができる。したがって、本実施形態の製造方法では、粉粒状物質12よりも金属鉄の含有率の高い原料、すなわち、乾ベースでの鉄分の総含有率が50質量%以上、かつ含有する鉄分に対する金属鉄の質量比が0.35以上の原料を用いた場合でも、当然に高強度の塊成化状高炉用原料を製造することができる。
【実施例0100】
[第1実施例]
本実施形態の製造方法の効果を確認するため、製鋼スラグ(脱硫スラグ)を原料として塊成化状高炉用原料を製造し、製造された塊成化状高炉用原料の圧壊強度を調べた。本実施例で塊成化状高炉用原料の原料とした製鋼スラグの組成を表3に示す。表3に示す通り、本実施例で用いた製鋼スラグは、鉄分の総含有率が23.5質量%、金属鉄の含有率が16.8質量%(0.168)、含有する鉄分に対する金属鉄の質量比(金属化率)が0.71であった。また、本実施例で用いた製鋼スラグの酸化カルシウムの含有率は、35.3質量%(0.353)であった。製鋼スラグの金属鉄の含有率a=0.168及び酸化カルシウムの含有率b=0.353を用いると、上記の式(1)の右辺から、得られる塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、1193N/個(≒2340×0.168+3400×0.353-400)と推定される。
【0101】
【表3】
【0102】
本実施例では、上述した製鋼スラグから、2つの塊成化状高炉用原料(実施例1及び比較例1)を製造した。実施例1の塊成化状高炉用原料は、以下の手順で製造し、その圧壊強度を測定した。製鋼スラグをメッシュの大きさが5mmの篩装置で分級し、篩下品をタブレッティングした。図6は、タブレッティングの様子を示す模式図である。図6を参照して、タブレッティングでは、篩下品20の水分が4.0質量%となるように調整した後、篩下品を室温条件下で円筒型のダイス21に投入し、篩下品20に5tfの成型荷重をかけて圧縮した。これにより、直径28mm、高さ約12mmの円柱形のタブレット22を製造した。このタブレット22を、pHが7.2の水23を張った水槽24に600秒間沈める水浸処理を行った。水浸処理後、タブレット22を大気中で10日間静置する静置処理を行った。静置処理後、タブレット22を横置き(円柱の側面が接地面と接触した状態)して、タブレット22の上方から鉛直方向に圧壊荷重を加えて圧壊強度を測定した。
【0103】
比較例1の塊成化状高炉用原料は、実施例1の塊成化状高炉用原料と概ね同じ手順で製造した。ただし、比較例1の塊成化状高炉用原料には、水浸処理を行わなかった。比較例1の塊成化状高炉用原料の製造条件は、水浸処理を行わなかった点を除き、実施例1の塊成化状高炉用原料の製造条件と同一であった。
【0104】
本実施例の結果が表4に示される。測定の結果、実施例1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、1186N/個であった。実施例1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、高炉用原料として必要とされる圧壊強度(400N/個)よりも大きい。また、実際に測定した塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、上記の式(1)の右辺から推定した圧壊強度とほとんど一致し、式(1)を用いた圧壊強度の推定方法の妥当性が確認された。
【0105】
【表4】
【0106】
一方、比較例1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、314N/個であった。比較例1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、高炉用原料として必要とされる圧壊強度よりも小さい。このことから、高強度の塊成化状高炉用原料を得るためには、水浸処理が必要であることが分かる。
【0107】
[第2実施例]
本実施例では、上記実施形態に係る製造方法の準備工程(#5)と同様の手順により、粉粒状物質12を製造した。その際、混合原料6に含まれるカルシウムと珪素との質量比が3.8となるように、カルシウム含有物質3(石灰乳)の添加量を調整した。カルシウム含有物質3は図3図5には図示しない調整槽(シックナー)に投入され、調整槽内にて高炉ダスト、製鋼ダスト等の鉄系廃材1aと混合された。調整槽から回収された鉄系廃材1aとカルシウム含有物質3の混合物は図示しないフィルタープレスで脱水された後、混合装置5に供給され、電気炉ダスト等の鉄系廃材1bや炭材2等と混合されるとともにペレット状に造粒され、混合原料6としてロータリキルン7に投入された。ロータリキルン7を用いた還元焙焼処理における焼点温度(ロータリキルン内最高温度)は、1180~1260℃であった。還元焙焼処理後の還元鉄8を冷却し、メッシュの大きさが5mmの可動式篩分級装置10で分級した。このときの篩下品を粉粒状物質12として用いた。この粉粒状物質12から、塊成化状高炉用原料19を製造した。
【0108】
本実施例で塊成化状高炉用原料19の原料とした粉粒状物質12の組成を表5に示す。表5に示す通り、本実施例で用いた粉粒状物質12は、鉄分の総含有率が51.3質量%、金属鉄の含有率が13.5質量%(0.135)、含有する鉄分に対する金属鉄の質量比(金属化率)が0.26であった。また、本実施例で用いた粉粒状物質12の酸化カルシウムの含有率は、15.8質量%(0.158)であった。粉粒状物質12の金属鉄の含有率a=0.135及び酸化カルシウムの含有率b=0.158を用いると、上記の式(1)の右辺から、得られる塊成化状高炉用原料19の圧壊強度は、453N/個(≒2340×0.135+3400×0.158-400)と推定される。
【0109】
【表5】
【0110】
まず、本実施例では、ロータリキルン7に投入する前の混合原料6及びロータリキルン7内で還元焙焼処理を施された後の粉粒状物質12にX線を照射した。このX線回折にて、混合原料6及び粉粒状物質12に含まれる各化合物のピークが検出されるか否かを調べた。X線回折の結果を表6に示す。表6に示す通り、混合原料6において、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)のピークは検出されなかった。一方、粉粒状物質12において、酸化カルシウムと二酸化珪素の化合物であり、塊成化状高炉用原料19の強度を高めることのできるダイカルシウムシリケート(α´型及びβ型)のピークが検出された。このことから、ダイカルシウムシリケートは、還元焙焼処理中、すなわちロータリキルン7内で生成することが分かる。また、カルシウムは混合原料6においては、炭酸カルシウムとしてのピークが検出された。一方、粉粒状物質12では、炭酸カルシウムのピークが検出されず、ダイカルシウムシリケートが検出されたことから、本実施例では、還元焙焼処理において、ダイカルシウムシリケート生成の化学反応が非常に高い効率で進行したことが分かる。また、炭酸カルシウムは約900℃で加熱されることにより、酸化カルシウム(CaO)と炭酸ガスに熱分解される。還元焙焼処理は1000℃以上の高温で行われる。そのため、混合原料6に含まれていた炭酸カルシウムは、還元焙焼処理によって熱分解され、粉粒状物質12には残存していないと考えられる。
【0111】
【表6】
【0112】
通常、ダイカルシウムシリケートを生成するためには、還元焙焼処理の焼成温度は、1300℃以上が好ましく、1400℃以上がより好ましいことが知られている。一方、本実施例では、1300℃未満(1180~1260℃)で還元焙焼処理を行ったにもかかわらず、ダイカルシウムシリケートが生成された。これは、カルシウム含有物質3として極微細な石灰粉が水に懸濁したスラリー状の石灰乳を用いたことにより、カルシウム含有物質3と珪素含有物質を含む鉄系廃材1及び炭材2との接触効率が高められ、反応が進行しやすかったことが要因と考えられる。
【0113】
次に、本実施例では、上述した粉粒状物質12から、3つの塊成化状高炉用原料(実施例2-1、実施例2-2及び比較例2)を製造した。実施例2-1の塊成化状高炉用原料は、以下の手順で製造し、その圧壊強度を測定した。粉粒状物質12の水分が4.0質量%となるように調整した後、ダブルロール型ブリケット成型機を用いて粉粒状物質12を圧縮塊成化してブリケットを製造した。ブリケットに60秒間の水浸処理を行った後、大気中で7日間の静置処理を行った。静置処理中の雰囲気温度は、2~12℃であった。
【0114】
実施例2-2の塊成化状高炉用原料は、実施例2-1の塊成化状高炉用原料と概ね同じ手順で製造した。ただし、実施例2-2の塊成化状高炉用原料を製造する際、大気中での静置処理中の雰囲気温度は15~25℃であった。実施例2-2の塊成化状高炉用原料の製造条件は、静置処理中の温度条件を除き、実施例2-1の塊成化状高炉用原料の製造条件と同一であった。
【0115】
比較例2の塊成化状高炉用原料は、実施例2-1の塊成化状高炉用原料と概ね同じ手順で製造した。ただし、比較例2の塊成化状高炉用原料には、水浸処理を行わなかった。比較例2の塊成化状高炉用原料の製造条件は、水浸処理を行わなかった点を除き、実施例2-1の塊成化状高炉用原料の製造条件と同一であった。
【0116】
本実施例の結果が表7に示される。測定の結果、実施例2-1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、715N/個であり、実施例2-2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、1313N/個であった。実施例2-1及び実施例2-2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、高炉用原料として必要とされる圧壊強度(400N/個)よりも大きい。また、実施例2-1及び実施例2-2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、上記の式(1)の右辺から推定した圧壊強度(453N/個)よりも大きい。上述した通り、式(1)の導出には、タブレッティングした塊成化状高炉用原料を用いた。一方、本実施例では、ダブルロール型ブリケット成型機でブリケッティングした塊成化状高炉用原料を用いた。このことから、塊成化装置としてダブルロール型ブリケット成型機が使用されると、得られる塊成化状高炉用原料の強度が向上することが分かる。
【0117】
【表7】
【0118】
さらに、静置処理中の雰囲気温度を15~25℃とした実施例2-2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、静置処理中の雰囲気温度を2~12℃とした実施例2-1の塊成化状高炉用原料の圧壊強度と比較して大幅に大きい。このことから、静置処理中、雰囲気温度を金属鉄の酸化及び酸化カルシウム含有化合物の炭酸化反応を促進するための温度(5℃以上、好ましくは15℃以上)に保つことにより、塊成化状高炉用原料の圧壊強度が向上することが分かる。
【0119】
一方、比較例2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、227N/個であった。比較例2の塊成化状高炉用原料の圧壊強度は、高炉用原料として必要とされる圧壊強度よりも小さい。このことから、高強度の塊成化状高炉用原料を得るためには、水浸処理が必要であることが分かる。
【0120】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0121】
1、1a、1b:鉄系廃材
2:炭材
3:カルシウム含有物質
4:ベルトコンベア
5:混合装置
6:混合原料(原料)
7:ロータリキルン
8:還元鉄
9:冷却装置
10:可動式篩分級装置
11:塊状物質
12:粉粒状物質
13:混合装置
14:塊成化物
15:塊成化装置
151、152:ロール
151a、152a:ポケット
16:篩分級装置
17:水浸処理装置
18:水
19:塊成化状高炉用原料
20:篩下品
21:ダイス
22:タブレット
23:水
24:水槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6