(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066564
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】末端ビニル基含有プロピレン系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 10/06 20060101AFI20240509BHJP
C08F 4/6592 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08F10/06
C08F4/6592
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175975
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】福田 敬治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正顕
(72)【発明者】
【氏名】中野 正人
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02Q
4J100AA03P
4J100AA04Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA41
4J100FA10
4J100FA19
4J100JA01
4J128AA01
4J128AC01
4J128AD07
4J128AD16
4J128AD17
4J128BA01A
4J128BA01B
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC12B
4J128BC13B
4J128BC14A
4J128BC14B
4J128BC15A
4J128BC15B
4J128BC16B
4J128BC25B
4J128BC27B
4J128CA30A
4J128DA02
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB03
4J128EB04
4J128EB05
4J128EB07
4J128EB08
4J128EB09
4J128EB10
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA01
4J128FA02
4J128FA04
4J128FA09
4J128GA01
4J128GA15
4J128GA16
4J128GA19
4J128GA21
4J128GA26
4J128GB01
(57)【要約】
【課題】末端ビニル率が高く、分子量が小さく、規則性が良好で、他の材料との親和性が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を提供する。
【解決手段】末端ビニル率が0.7以上であり、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が90%以上であり、異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多く、数平均分子量(Mn)が5.0万より小さい、末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性(I)、(II)、(III)及び(IV)を有する、末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
特性(I):末端ビニル率が0.7以上である。
特性(II):アイソタクチックトライアッド分率(mm)が90%以上である。
特性(III):異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多い。
特性(IV):数平均分子量(Mn)が5.0万より小さい。
【請求項2】
更に下記特性(IV-i)及び(V-i)の少なくとも一方を有する、請求項1に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
特性(IV-i):数平均分子量(Mn)が1.0万以上5.0万未満である。
特性(V-i):融点(Tm)が150℃以上である。
【請求項3】
更に下記特性(VI-i)を有する、請求項2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
特性(VI-i):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、90℃以下の温度で溶出する成分の量が5質量%以上20質量%未満である。
【請求項4】
更に下記特性(IV-ii)及び(V-ii)の少なくとも一方を有する、請求項1に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
特性(IV-ii):数平均分子量(Mn)が0.6万以上1.0万未満である。
特性(V-ii):融点(Tm)が150℃未満である。
【請求項5】
更に下記特性(VI-ii)を有する、請求項4に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体。
特性(VI-ii):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、90℃以下の温度で溶出する成分の量が20質量%以上50質量%以下である。
【請求項6】
請求項1に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を製造する方法であって、
下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとを重合する、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【化1】
[一般式(1)中、R
11及びR
12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を置換基として少なくとも1つ有する5員環を構成する複素環基を表す。但し、当該複素環基のヘテロ原子は、インデン環と直接結合しない。
R
13及びR
14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。
但し、R
11及びR
12における複素環基の置換基と、R
13及びR
14におけるアリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。
X
11及びY
11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、炭素数1以上20以下のケイ素含有炭化水素基、炭素数1以上20以下のハロゲン化炭化水素基、炭素数1以上20以下の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1以上20以下の窒素含有炭化水素基を表す。
Q
11は、炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。]
成分(B):前記成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【請求項7】
前記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、R
11及びR
12が、独立して、下記一般式(2)で表される構造を有する、請求項6に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法。
【化2】
[一般式(2)中、Tは、S又はNR
20を表し、R
20は、水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、水酸基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基を表し、R
21及びR
22は、独立して、水素原子、又は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を表し、R
21及びR
22の少なくとも一方が当該炭化水素基である。但し、R
21及びR
22における当該炭化水素基のヘテロ原子は、5員環を構成する複素環基と直接結合しない。また、R
21とR
22とは結合して環を形成しない。]
【請求項8】
前記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、R11及びR12が、独立して、5位にのみ置換基を有する5員環を構成する複素環基である、請求項6に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項2又は3に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を製造する方法であって、
下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとを、液状の不活性炭化水素で希釈せずに液状のモノマーを重合する方法で、重合温度を60℃以上90℃以下として重合する、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【化3】
[一般式(1)中、R
11及びR
12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を置換基として少なくとも1つ有する5員環を構成する複素環基を表す。但し、当該複素環基のヘテロ原子は、インデン環と直接結合しない)
R
13及びR
14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。
但し、R
11及びR
12における複素環基の置換基と、R
13及びR
14におけるアリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。
X
11及びY
11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、炭素数1以上20以下のケイ素含有炭化水素基、炭素数1以上20以下のハロゲン化炭化水素基、炭素数1以上20以下の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1以上20以下の窒素含有炭化水素基を表す。
Q
11は、炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。]
成分(B):前記成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【請求項10】
請求項4又は5に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を製造する方法であって、
下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとを、液状の不活性炭化水素で希釈して液状のモノマーを重合する方法で、重合温度を70℃以上90℃以下として重合する、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【化4】
[一般式(1)中、R
11及びR
12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を置換基として少なくとも1つ有する5員環を構成する複素環基を表す。但し、当該複素環基のヘテロ原子は、インデン環と直接結合しない。
R
13及びR
14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。
但し、R
11及びR
12における複素環基の置換基と、R
13及びR
14におけるアリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。
X
11及びY
11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、炭素数1以上20以下のケイ素含有炭化水素基、炭素数1以上20以下のハロゲン化炭化水素基、炭素数1以上20以下の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1以上20以下の窒素含有炭化水素基を表す。
Q
11は、炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。]
成分(B):前記成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端ビニル基含有プロピレン系重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは化学的安定性が高く、力学物性に優れ、安価なことから生活部材、工業部材などとして幅広く用いられている。一方、不飽和結合を有するポリプロピレンは、不飽和結合に起因する反応性を利用して、高機能化の試みが検討されている。
末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、マクロマーとしての利用が期待されており、例えば、プロピレン等のモノマーと重合させてポリマーを製造するために用いられる。マクロマーとして用いられるプロピレン系重合体は、末端ビニル基の反応性が高いことが好まれる。末端ビニル基の反応性は、例えば、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の溶媒への可溶性を高めることにより向上させることができる。末端ビニル基が溶媒で希釈されることにより、反応点である末端ビニル基がポリマー鎖内部で拘束されず動きやすくなることで、目的の反応基剤や触媒に近づきやすくなるためである。
また、末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、官能化の原料としての利用が期待されている。末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は、塗料、プライマー、コーティング剤等の用途に適合すると考えられる。かかる用途においては、末端ビニル基含有プロピレン系重合体及び末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は、溶媒に可溶であること、及び、他基材との親和性が高いことが好まれる。溶媒への可溶性、及び、他基材との親和性を良好にするためには、末端ビニル基含有プロピレン系重合体及び末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は分子量が小さいことが望ましい。
【0003】
末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレンの重合反応において、ポリマー成長停止反応が、通常のβ水素脱離ではなくβメチル脱離を起こすことにより生じると考えられている(非特許文献1参照)。しかし、非特許文献1に開示されたβメチル脱離を起こすような重合条件(触媒成分等)では、立体規則性がないアタクチックなポリプロピレンしか得ることができず、ポリプロピレン本来の力学物性が犠牲になっていた。
【0004】
一方、特許文献1には、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン又はそれらの混合物である立体特異性ポリプロピレンマクロマーが開示されている。しかし、特許文献1に開示される立体特異性ポリプロピレンマクロマーは、規則性が十分に高いものではなく、ポリプロピレン本来の力学物性を発現するに至っていない。
【0005】
特許文献2に開示される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、特許文献1に開示される立体特異性ポリプロピレンマクロマーよりも規則性に優れる。しかし、特許文献2には、数平均分子量(Mn)が5万以下のポリプロピレンは開示されていない。
特許文献3~6に開示される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、特許文献1に開示される立体特異性ポリプロピレンマクロマーよりも規則性に優れ、数平均分子量(Mn)が5万以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001-525461号公報
【特許文献2】特開2009-299045号公報
【特許文献3】特開2019-26740号公報
【特許文献4】特開2018-76482号公報
【特許文献5】特開2021-73355号公報
【特許文献6】特開2021-73356号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Resconi, J. Am. Chem. Soc.1992, 114, 1025-1032
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3~6に開示される末端ビニル基含有プロピレン系重合体においても依然として改良の余地があり、例えば、他の材料との親和性の向上等が求められている。
【0009】
そこで本発明は、末端ビニル率が高く、分子量が小さく、規則性が良好で、他の材料との親和性が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を提供することを課題とする。また本発明は、そのような末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により提供される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、下記特性(I)、(II)、(III)及び(IV)を有することを特徴とする。
特性(I):末端ビニル率が0.7以上である。
特性(II):アイソタクチックトライアッド分率(mm)が90%以上である。
特性(III):異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多い。
特性(IV):数平均分子量(Mn)が5.0万より小さい。
【0011】
本発明により提供される末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとを重合することを特徴とする。
成分(A):後述する一般式(1)で表されるメタロセン化合物
成分(B):前記成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、末端ビニル率が高く、分子量が小さく、規則性が良好で、他の材料との親和性が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を提供することができる。また、本発明によれば、そのような末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
1.末端ビニル基含有プロピレン系重合体
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、下記特性(I)、(II)、(III)及び(IV)を有する、プロピレン系重合体である。
特性(I):末端ビニル率が0.7以上である。
特性(II):アイソタクチックトライアッド分率(mm)が90%以上である。
特性(III):異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多い。
特性(IV):数平均分子量(Mn)が5.0万より小さい。
【0016】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、末端ビニル率が高く、分子量が小さく、規則性が良好で、他の材料との親和性が良好である。なお、本発明において、プロピレン系重合体の規則性が良好であるとは、立体規則性及び位置規則性の両方が良好であることを意味する。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体との親和性が良好な他の材料としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の不活性炭化水素溶媒、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系のポリマー及び当該ポリマーを含む樹脂基材を挙げることができる。本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、このような材料のうち少なくとも一部と親和性が良好である。
末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、溶媒又はポリマーとの親和性が良好であると、これらと混合した場合に混合効率が良好になり、すなわち、短時間で高濃度に、また均一に、混合させることができる。
また、末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、樹脂基材との親和性が良好であると、末端ビニル基含有プロピレン系重合体又は当該プロピレン系重合体を官能化させた化合物を含む塗料を樹脂基材に塗布した場合に、コーティング効率が良好になり、すなわち、短時間で均一に樹脂基材上に塗布することができる。また、当該塗料を用いて形成された塗膜が樹脂基材から剥がれにくくなる。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、mmが90%以上と高く、立体規則性に優れ、異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下と少なく、位置規則性にも優れる。本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、立体規則性及び位置規則性に優れながら、異種結合(1,3結合)が異種結合(2,1結合)よりも特定量多いという特定の構造を有することにより、上記他の材料との親和性がより良好になりやすい。1,3結合の構造はエチレン鎖に近い構造であることから、エチレン鎖に近い特性を有する。そのため、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、1,3結合を特定量多く含むことによって、ポリエチレン樹脂等との親和性が良好になると推定される。また、2,1結合のメチル側鎖は、通常の(1,2結合)のプロピレン単位が有するメチル基とは異なる位置に存在することにより、アイソタクチックポリプロピレン樹脂との相溶性を阻害する。そのため、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、2,1結合が特定量以下であることによって、アイソタクチックポリプロピレン樹脂等との親和性が良好になると推定される。
更に、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、数平均分子量(Mn)が5.0万未満で十分に小さいことにより、上記他の材料との親和性がさらに良好になりやすい。
また、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、上記特定の構造を有することにより溶媒への可溶性が高く、更に末端ビニル率が高いため、末端ビニル基の反応性に優れる。
【0017】
特性(I):末端ビニル率
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、末端ビニル率(Rv)が0.7以上であり、好ましくは0.75以上で、さらに好ましくは0.8以上であり、理想的には1.0(すべてのポリマー鎖が末端にビニル基を有する)である。末端ビニル率が上記値以上であると、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の反応性が向上する。
本発明において末端ビニル率とは、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の全ポリマー鎖のうち末端にビニル基を持つ鎖の割合を意味し、下式により計算される。
末端ビニル率(Rv)={[Vi]/(総末端数-LCB数)}×2
ただし、[Vi]は、1H-NMRにより算出される1000モノマーユニット当たりの末端ビニル基の数である。総末端数は、13C-NMRにより算出される1000モノマーユニット当たりの末端の総数である。LCB数(長鎖分岐数)は、13C-NMRにより算出される1000モノマーユニット当りの炭素数7以上の分岐鎖の根元のメチン炭素の数である。
【0018】
プロピレン単独重合の反応機構と末端構造の関係について以下に説明する。
プロピレンの重合においては、停止反応として、βメチル脱離と呼ばれる連鎖移動反応が起こると、構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造(ビニル構造)を停止末端にもつポリマーが生成する。
停止反応として、β水素脱離と呼ばれる連鎖移動反応が起こると、構造式(1-b)に示すビニリデン構造(プロピル-ビニリデン構造)を停止末端にもつポリマーが生成する。水素を用いた場合、β水素脱離後に、水素へ連鎖移動反応が起こると、構造式(1-c)に示すi-ブチル構造を停止末端にもつポリマーが生成する。
また、プロピレンは不規則な2,1挿入を起こすことがある。プロピレンが不規則挿入をした後に、水素へ連鎖移動反応が起こると、構造式(1-e)に示すn-ブチル構造の停止末端が生成する。プロピレンが不規則挿入をした後に、β水素脱離が生じることで、構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造の停止末端、又は構造式(1-g)に示す末端ビニレン構造(2-ブテニル構造)の停止末端が極少量生成することもある。
プロピレンの重合において、一般的にはβ水素脱離が起こりやすいが、後述するオレフィン重合用触媒を用いることにより、βメチル脱離を促進することができる。
【0019】
開始末端はすべて飽和末端となる。そのため、1つのポリマー鎖が同時に2つの不飽和末端を持つことはない。
プロピレンによる開始反応では、水素へ連鎖移動した後またはβ水素脱離した後に、メタロセン化合物の中心金属へ最初のプロピレンが挿入すると、構造式(1-h)に示すn-プロピル構造が生成し、βメチル脱離した後、当該脱離部分に最初のプロピレンが挿入すると、構造式(1-c)に示すi-ブチル構造の開始末端が生成する。
また、水素へ連鎖移動した後またはβ水素脱離した後に、メタロセン化合物の中心金属へ最初のプロピレンが不規則挿入すると、構造式(1-i)に示す2,3-ジメチルブチル構造が生成し、βメチル脱離した後、当該脱離部分に最初のプロピレンが不規則挿入することにより、構造式(1-j)に示す3,4-ジメチルペンチル構造の開始末端が生成する。
【0020】
異性化により、構造式(1-d)に示すi-ブテニル構造を末端に持つポリマーが生成することもある。
構造式(1-k)に示す内部ビニリデン構造は、不飽和末端から水素が脱離することで生成した中間体に、さらにプロピレンが挿入することにより、ポリマー鎖内部に生成するオレフィン構造である。
【0021】
上記のうち主反応による主要な飽和末端となるのは、構造式(1-c)及び構造式(1-h)であり、主要な不飽和末端となるのは構造式(1-a)及び構造式(1-b)であり、その他の末端構造の数は、上記の主要な末端構造の数に比べて微小となる。
これらの末端構造のうち、構造式(1-a)又は構造式(1-f)に示す構造を末端にもつポリマーは、マクロマーになり得る。構造式(1-a)と構造式(1-f)は最末端の二つの炭素がビニル構造をとるという点で同じであり共重合可能という機能において差はない。
一方で、構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造は、プロピレンの規則的挿入後にβメチル脱離した結果生成する末端であるのに対し、構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造は、プロピレンが極稀に不規則挿入した後にβ水素脱離するという副反応の結果生成する構造であり、その生成量は1-プロペニル構造に対して極微量と推定できる。1-プロペニル構造に対し、1-ブテニル構造が生成する比率は、異種結合の生成確率と同程度かそれ以下と考えられる。すなわち、上記末端ビニル基の数[Vi]のほとんどが構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造であると推定できる。
【0022】
【0023】
【0024】
[末端ビニル率(Rv)及び末端ビニリデン率(Rvd)の評価方法]
末端ビニル率(Rv)と末端ビニリデン率(Rvd)は、それぞれ総ポリマー鎖数に対する末端ビニル基と、末端ビニリデン基の数の割合を示す指標である。
その算出方法としては、1H-NMRと13C-NMRを用いて不飽和末端数と飽和末端数を1000モノマーあたりの数として求め、それらを合計したものを総末端数とする。同じく13C-NMRを用いてLCB数を1000モノマーあたりの数として求める。総末端数からLCB数を引いた数の半分(1/2)を総ポリマー数とする。
末端ビニル率(Rv)は、末端ビニル基の数[Vi]を総ポリマー数で除することで算出し、末端ビニリデン率(Rvd)は、末端ビニリデン基の数[Vd]を総ポリマー数で除することで算出する。
【0025】
1H-NMR測定および13C-NMR測定は、以下の方法により実施することができる。
[試料調製と測定条件]
試料200mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(C6D5Br)=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れ、150℃のブロックヒーターで均一に溶解する。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のAV400型NMR装置を用いて行う。
不飽和末端の定量には、1H-NMRを用いる。1H-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回として測定をする。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmに設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
飽和末端の定量には、13C-NMRを用いる。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を15秒、積算回数を1024回、ブロードバンドデカップリング法で測定を実施する。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
なお、本発明においては、13C-NMRスペクトルのシグナルを「13Cシグナル」と称する場合があり、1H-NMRスペクトルのシグナルを「1Hシグナル」と称する場合がある。
【0026】
<飽和末端数の算出方法>
下記の飽和末端数は、1000モノマーあたりの数として、13Cシグナルの積分強度を用い、以下の式から求める。
構造式(1-c): [i-ブチル]=Ii-butyl×1000/Itotal-C構造式(1-e): [n-ブチル]=Inbu×1000/Itotal-C
構造式(1-h): [n-プロピル]=Inpr×1000/Itotal-C
構造式(1-i): [2,3-ジメチルブチル]=I2,3-dime×1000/Itotal-C
構造式(1-j): [3,4-ジメチルペンチル]=I3,4-dime×1000/Itotal-C
これらの飽和末端以外にも文献既知の他の飽和末端が検出される場合には、既知の文献値を利用して、同様に1000モノマーあたりの数として算出する。
ここで、Ii-butyl、Inbu、Inpr、I2,3-dime、I3,4-dimeはそれぞれ、構造式(1-c)、構造式(1-e)、構造式(1-h)、構造式(1-i)、構造式(1-j)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。なお、以下においては、化学シフトが23.80~23.65ppmの範囲の13Cシグナルの積分強度をI23.80~23.65のように記載する。
Ii-butyl=I23.80~23.65
Inbu=I36.99~36.88
Inpr=I39.71~39.61
I2,3-dime=(I16.30~16.20+I43.05~43.00)/2
I3,4-dime=I12.0~11.60
また、Itotal-Cは、以下の式で示される量である。
Itotal-C=Ii-butyl+Inbu+Inpr+I2,3-dime+I3,4-dime+I1,2―P+I2,1―P+I1,3―P+IE+I1,2―B+I1,4―B
これらの飽和構造以外にも文献既知の他の飽和構造が存在する場合には、検出されるすべての構造数を上式に加える。
I1,2―Pは、1,2挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I2,1―Pは、2,1挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,3―Pは、1,3挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
I1,2-P=I48.80~44.50
I2,1-P=(I34.68~34.63+I35.47~35.40+I35.94~35.70)/2
I1,3-P=I37.50~37.20/2
IEはエチレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,2-Bは、1,2挿入した1-ブテンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,4-Bは、1,4挿入した1-ブテンの結合に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
IE=I30.20-29.80/2+I30.40-30.20/4-I25.20-23.80+I38.20-37.30+I34.15-33.80
I1,2-B=I41.00~39.00+I43.90~42.80/2
I1,4-B=I34.45~34.15/2
【0027】
<不飽和末端の数の算出方法>
不飽和末端の数は、1000モノマーあたりの数として、1Hシグナルの積分強度を用い、以下のように求める。
1H-NMRでは、構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造と、構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造の不飽和結合のプロトンシグナルは、1H-NMRスペクトルの5.08~4.85ppmと5.86~5.69ppmのシグナルに重なって検出される。そこで、末端ビニル基の数[Vi]は、1-プロペニル構造と1-ブテニル構造を合わせた数とする。末端ビニリデン基の数[Vd]は、構造式(1-b)に示すビニリデン構造の数である。
構造式(1-a)+構造式(1-f):[Vi]=Ivi×1000/Itotal
構造式(1-b):[Vd]=Ivd×1000/Itotal
同様にして、i-ブテニル基の数[i-ブテニル]、ビニレン末端の数[末端ビニレン]、内部ビニリデンの数[内部ビニリデン]は以下の式から求められる。
構造式(1-d): [i-ブテニル]=Iibu×1000/Itotal
構造式(1-g): [末端ビニレン]=Ivnl×1000/Itotal
構造式(1-k): [内部ビニリデン]=Iivd×1000/Itotal
これらの不飽和末端以外にも文献既知の他の不飽和末端が検出される場合には、既知の文献値を利用して、同様に1000モノマーあたりの数として算出する。
ここで、Ivi、Ivd、Iibu、Ivnl、Iivdは、それぞれ、構造式(1-a)+構造式(1-f)、構造式(1-b)、構造式(1-d)、構造式(1-g)、構造式(1-k)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
Ivi=(I5.08~4.85+I5.86~5.69)/3
Ivd=(I4.78~4.65)/2
Iibu=I5.26~5.08
Ivnl=(I5.58~5.26)/2
Iivd=(I4.85~4.78)/2
また、Itotalは、以下の式で示される量である。
Itotal=Imain/6+Ivi+Ivd+Iibu+Ivnl+Iivd
また、これらの不飽和構造以外にも文献既知の他の不飽和構造が存在する場合には、検出されるすべての末端数を上式に加える。
Imainとは1H-NMRスペクトルの4.00~0.00ppmに検出される、末端を含むポリマー鎖の飽和炭素に結合するプロトンシグナルの積分強度の総和である。
【0028】
<LCB数の算出方法>
長鎖分岐数(LCB数)は、13C-NMRにより、49.00~44.33ppmのプロピレン主鎖のメチレン炭素の強度を1000に規格化したときの、31.72~31.66ppmの分岐点の炭素(メチン炭素)及び44.09~44.03ppm、44.78~44.72ppm及び44.90~44.84ppmの分岐点の炭素(メチン炭素)に結合する3つのメチレン炭素のシグナル積分強度を用いて下式により算出し、1000プロピレンモノマーユニット当たりの数とする。
LCB数=[(I44.09~43.03+I44.78~44.72+I44.90~44.84+I31.72~31.66)/4]/I49.00~44.33
LCB数は、特に限定はされないが、0.5以下であることが好ましい。
【0029】
<総末端数の算出方法>
総末端数は、13C-NMRで算出される1000モノマーユニット当りの飽和末端数、及び1H-NMRで算出される1000モノマーユニット当りの不飽和末端数の総和である。
【0030】
特性(II):アイソタクチックトライアッド分率(mm)
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、13Cシグナルの積分強度から算出されるアイソタクチックトライアッド分率(本発明において、単に「mm」と称する場合がある)が90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上である。
mmが高いほど、立体規則性が高度に制御されていることを意味する。また、mmが上記値以上であると、他の材料との親和性が向上する。
一方、mmは、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下である。mmが高くなりすぎないように制御することにより、溶媒への可溶性を高めることができる。また、mmが高くなりすぎないように制御することで、低立体規則性のポリプロピレン又は低立体規則性部位をもつポリプロピレンとの親和性が向上すると考えられる。
【0031】
mmは、13C-NMR測定により測定された13Cシグナルの積分強度を、次式に代入することにより求められる。
mm(%)=Imm×100/(Imm+3×Imrrm)
ここで、Imm=I23.6~21.1、Imrrm=I19.8~19.7で示される量である。
mmを求めるための13C-NMR測定は、上記測定と同じ方法で行うことができる。
スペクトルの帰属は、Polymer Jounral、16巻、717頁(1984年)や、Macromolecules、8巻、687頁(1975年)や、Polymer、30巻、1350頁(1989年)を参考に行うことができる。
【0032】
特性(III):異種結合量
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、13Cシグナルの積分強度から算出される異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多い、すなわち次式を満たす。
[1,3]-[2,1]≧0.06mol%
なお、[1,3]は、異種結合(1,3結合)の量(mol%)を表し、[2,1]は異種結合(2,1結合)の量(mol%)を表す。
【0033】
異種結合(2,1結合)の量は、好ましくは0.02mol%以下、より好ましくは0.01mol%以下である。
異種結合(1,3結合)の量と異種結合(2,1結合)の量との差([1,3]-[2,1])は、0.06mol%以上であればよいが、好ましくは0.20mol%以下、より好ましくは0.10mol%以下である。
異種結合(1,3結合)の量は、好ましくは0.20mol%以下、より好ましくは0.10mol%以下である。
なお、異種結合(1,3結合)は、プロピレンが不規則挿入(2,1挿入)した後に、次のプロピレンが挿入する前に異性化することにより生成すると考えられている。(参照文献:Macromol.Chem.Phys.204巻、1323頁(2003年))。そのため、異種結合(1,3結合)の量は、異種結合(2,1結合)の量に対する相対的な量として記述される。
多くの場合、プロピレンが不規則挿入(2,1挿入)した後に異性化が起こる前に次のプロピレンが挿入して異種結合(2,1結合)が生成するので、1,3結合は2,1結合に比べて相対的に少なくなる。これに対し、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体では、1.3結合が2,1結合よりも多く、その差([1.3]-[2,1])が0.06mol%以上であるという特徴を持つ。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、異種結合(2,1結合)の量が0.03mol%以下であり、[1.3]-[2,1]が0.06mol%以上であることにより、他の材料との親和性が向上する。
【0034】
各異種結合量(モル濃度)は、13Cシグナルの積分強度を用い、以下の式から求める。
プロピレン2,1結合(mol%)
=I2,1-P×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+IE+I1,2-B+I1,4-B)
プロピレン1,3結合(mol%)
=I1,3-P×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+IE+I1,2-B+I1,4-B)
ブテン1,4結合(mol%)
=I1,4-B×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+IE+I1,2-B+I1,4-B)
ここで、I1,2-P、I2,1-P、I1,3-P、IE、I1,2-B、I1,4-Bは、上記特性(I)の「飽和末端数の算出方法」で説明した通りである。
【0035】
特性(IV):数平均分子量
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、数平均分子量(Mn)が、5.0万未満であり、好ましくは4万以下であり、より好ましくは3万以下である。数平均分子量(Mn)が上記値以下であると、単位質量あたりの末端ビニル基の量が増えるため、末端ビニル率が高くなり、変性によって十分な量の官能基を導入でき、また、他の材料との親和性が良好になる。
一方、数平均分子量(Mn)は、他の材料との親和性が向上する点から、好ましくは0.5万以上であり、より好ましくは0.6万以上である。
また、数平均分子量(Mn)が1万以上である末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、他の材料との混合効率が良好になりやすい。
一方、数平均分子量(Mn)が1万未満である末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、溶媒への可溶性が高まり、末端ビニル基の反応性が向上し、官能化させたプロピレン系重合体のコーティング効率が良好になりやすい。
【0036】
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものであり、その測定法、測定機器の詳細は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0mL/分
注入量:0.2mL
【0037】
試料の調製は、測定するポリマーと、ODCB(0.5mg/mLのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して、ポリマーを溶解させて行う。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、
図1のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
銘柄:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式:[η]=K×M
αは、以下の数値を用いる。
PS(ポリスチレン):K=1.38×10
-4、α=0.7
PP(ポリプロピレン):K=1.03×10
-4、α=0.78
【0038】
後述の製造方法で示す通り、重合用触媒成分として、ビスインデニルハフニウム錯体の構造を有し、配位子であるインデン環の2位に特定の置換基を有する5員複素環、及び、同インデン環の4位に特定の置換基を有するアリール基が置換したメタロセン化合物を用いる場合、停止反応であるβメチル脱離反応速度が速いため、比較的低温で、分子量の低い末端ビニル基含有プロピレン系重合体が得られやすい。また、この脱離反応速度は、重合温度、プロピレンの濃度、又は圧力等を変えることによっても制御することができる。例えば、実施例に示すメタロセン化合物を用いる場合は、重合温度を高くする程、得られるプロピレン系重合体の数平均分子量(Mn)は小さくなる傾向がある。
【0039】
特性(V):融点(Tm)(℃)
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、融点(Tm)が、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。一方、融点(Tm)は、好ましくは170℃以下、より好ましくは、166℃以下である。
融点が上記範囲内であることにより、他の材料との親和性を良好にすることができる。
また、融点(Tm)が150℃以上である本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、他の材料との混合効率が良好になりやすい。融点(Tm)が150℃以上である本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、融点(Tm)が153℃以上であることがより好ましい。
一方、融点(Tm)が150℃未満である本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、溶媒への可溶性が高まり、末端ビニル基の反応性が向上し、官能化させたプロピレン系重合体のコーティング効率が良好になりやすい。
【0040】
融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)により測定される。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として、結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として、融点(Tm)を求めることができる。
なお、シート状のサンプルは、末端ビニル基含有プロピレン系重合体のパウダーをプレス板で挟み、190℃で2分間予熱した後に5MPaで2分間プレスし、その後、0℃、10MPaで2分間冷却することにより、得ることができる。
【0041】
上記特性(I)、(II)、(III)及び(IV)を有する本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のうち、更に下記特性(IV-i)及び(V-i)の少なくとも一方を有するものを末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)とする。
特性(IV-i):数平均分子量(Mn)が1.0万以上5.0万未満である。
特性(V-i):融点(Tm)が150℃以上である。
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)は、他の材料との混合効率に優れる傾向がある。
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)は、上記特性(I-i)及び(V-i)の両方を有することが好ましい。
【0042】
また、上記特性(I)、(II)、(III)及び(IV)を有する本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のうち、更に下記特性(IV-ii)及び(V-ii)の少なくとも一方を有するものを末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)とする。
特性(IV-ii):数平均分子量(Mn)が0.6万以上1.0万未満である。
特性(V-ii):融点(Tm)が150℃未満である。
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)は、特に溶媒等に溶解しやすくなり、末端ビニル基の反応性が向上し、官能化させたプロピレン系重合体のコーティング効率に優れる傾向がある。
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)は、上記特性(IV-ii)及び(V-ii)の両方を有することが好ましい。
【0043】
特性(VI):90℃以下の可溶分量
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、更に下記特性(VI)を有することが好ましい。
特性(VI):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、90℃以下の温度で溶出する成分の量が5質量%以上50質量%以下である。
90℃以下で溶出する成分は、低結晶性成分である。末端ビニル基含有プロピレン系重合体において、この成分量が多いと、他の樹脂(ポリマー)と混合した場合に、低分子量で低結晶性な成分が表面に露出しやすいため、べたつきが生じるなど触感を悪くする恐れがある。そこで、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体において、90℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
一方、90℃以下で溶出する成分が少なすぎると、溶媒中で目的の反応基剤と反応させる場合に反応効率が低下したり、官能化したプロピレン系重合体を溶剤とともにコーティング剤として用いる場合のコーティング効率が低下したりする恐れがある。そこで、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体において、90℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。
【0044】
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)は、下記特性(VI-i)を有することが好ましい。
特性(VI-i):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、90℃以下の温度で溶出する成分の量が5質量%以上20質量%未満である。
。
上記特性(VI-i)を有すると、特に、他の樹脂と混合した場合に、低分子量で低結晶性な成分が表面に露出しにくいため、べたつきが生じるなどの触感の悪化を抑制することができる。そこで、上記特性(VI-i)において、90℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。
【0045】
上記末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)は、下記特性(VI-ii)を有することが好ましい。
特性(VI-ii):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、90℃以下の温度で溶出する成分の量が20質量%以上50質量%以下である。
上記特性(VI-ii)を有すると、特に、溶媒中で目的の反応基剤と反応させる場合に反応効率がよくなる。また、官能化したプロピレン系重合体を溶剤とともにコーティング剤として用いる場合のコーティング効率が向上する。そこで、上記特性(VI-ii)において、90℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは23質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは28質量%以上である。
【0046】
o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線における、90℃以下での溶出成分の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料を140℃でODCBに溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、10分間保持する。その後、カラムを40℃に維持して10分間、引き続き昇温速度100℃/60分にてカラムを40℃から140℃までリニアに昇温しながら60分間、溶媒であるODCBを1mL/分の流速でカラムに流して、試料を溶出させて溶出曲線を得る。90℃迄で溶出する成分の溶出量の溶出量全量に対する割合を、90℃以下の温度で溶出する成分の量(質量%)とする。
<TREF測定条件>
カラムサイズ:4.3mmφ×150mm
カラム充填剤:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
【0047】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体において、o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)における90℃以下の可溶分量は、一般的に、重合触媒成分としてメタロセン化合物を用いることにより低く抑えることが可能である。触媒中の錯体の異性体混入量を低く保つことに加え、触媒の製造時にメタロセン触媒と有機アルミとの接触を穏やかにすることや、重合時の反応条件を極端に高温にしないことが好ましい。
【0048】
<プロピレン以外のコモノマー単位の含有量>
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレンと、エチレン及びα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの共重合体である場合には、当該コモノマーに由来する構造単位の含有量が、1.5mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
コモノマーは、プロピレン連鎖の中に入ってプロピレン系重合体の1次構造を変える。その1つの結果として、プロピレン系重合体の融点を下げるという効果を持つ。したがって、コモノマーの含有量を増やすことにより、結晶性が高くなりすぎず、溶媒への可溶性を高め、末端ビニル基の反応性を高めることができる。本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体が共重合体である場合、コモノマーの含有量は、好ましくは1.5mol%以上、より好ましくは1.8mol%以上、さらに好ましくは2.0mol%以上である。
一方、プロピレン連鎖が短くなり過ぎず、結晶性のバランスが良好になり、他の材料との親和性を向上させる観点から、コモノマーの含有量は、好ましくは10mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは5mol%以下、よりさらに好ましくは3mol%以下である。
【0049】
コモノマー単位の含有量(モル濃度)は、13C-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
エチレン含有量[C2](mol%)
=IE×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+IE+I1,2-B+I1,4-B)
プロピレン含有量[C3](mol%)
=(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P)×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+IE+I1,2-B+I1,4-B)
1-ブテン含有量[C4](mol%)
=(I1,2-B+I1,4-B)×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+I1,2-B+IE+I1,4-B)
ここで、I1,2-P、I2,1-P、I1,3-P、IE、I1,2-B、I1,4-Bは、前記の通りである。
【0050】
2.末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法
上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法として、例えば、記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとを重合する方法を挙げることができる。
成分(A):下記一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【0051】
【0052】
[一般式(1)中、R11及びR12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を置換基として少なくとも1つ有する5員環を構成する複素環基を表す。但し、当該複素環基のヘテロ原子は、インデン環と直接結合しない。
R13及びR14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。
但し、R11及びR12における複素環基の置換基と、R13及びR14におけるアリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。
X11及びY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、炭素数1以上20以下のケイ素含有炭化水素基、炭素数1以上20以下のハロゲン化炭化水素基、炭素数1以上20以下の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1以上20以下の窒素含有炭化水素基を表す。
Q11は、炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。]
成分(B):前記成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【0053】
上記方法により、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造することができる。
本発明は、上記一般式(1)で表される特定のメタロセン化合物を含む触媒を用いてプロピレンを単独重合または共重合することにより反応速度が大きくなると考えられ、分子量が小さいプロピレン系重合体を比較的低温、低圧の条件下で合成できる。
また、本発明は、上記一般式(1)で表される特定のメタロセン化合物を含む触媒を用いることにより、末端ビニル率が高く、分子量が小さく、規則性が良好で、異種結合(2,1結合)の量及び異種結合(1,3結合)の量が制御されたプロピレン系重合体を容易に製造することができる。
【0054】
2-1.オレフィン重合用触媒
(1)成分(A)
成分(A)は、上記一般式(1)で表されるメタロセン化合物である。
一般式(1)においてR11及びR12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以上の炭化水素基を置換基として少なくとも1つ有する5員環を構成する複素環基である。但し、当該複素環基のヘテロ原子は、インデン環と直接結合しない。
R11及びR12が複素環基上に適当な大きさの置換基を有することにより、プロピレンの重合反応の際に、挿入されるプロピレンの向きが規則的に制御される。更に、R11及びR12が有する置換基により、成長ポリマー鎖のβ位のメチル基が遷移金属上の空配位場へ向きやすくなるため、βメチル脱離反応が進行しやすくなり、末端ビニル基が高選択的に導入されたポリプロピレンを得ることができる。
R11及びR12は、互いに同一であることが好ましい。
また、R11及びR12は、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子の隣の炭素が、一般式(1)中のインデン環と結合することが好ましい。R11及びR12は、置換基を少なくとも1つ有する2-チエニル基又は2-ピロリル基であることがより好ましく、置換基を少なくとも1つ有する2-チエニル基であることが更に好ましい。
R11及びR12が置換基として有する炭化水素基の炭素数は1以上3以下であればよく、好ましくは1または2、より好ましくは1である。
また、R11及びR12が置換基として有する炭化水素基が含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リンなどが挙げられる。これらは炭素鎖内に存在して炭素-炭素結合の間に介在していてもよい。
また、R11及びR12は、独立して、5位にのみ置換基を有する5員環を構成する複素環基であることが好ましい。この場合、当該複素環の5位に位置する置換基が、上述したヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基である。
R11及びR12が置換基として有する炭素数1以上3以下の炭化水素基は、1級または2級のアルキル基であることが好ましい。
【0055】
R11及びR12の好ましい構造として、下記一般式(2)で表される複素5員環の構造が挙げられる。
【0056】
【化4】
[一般式(2)中、Tは、S又はNR
20を表し、R
20は、水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、水酸基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基を表し、R
21及びR
22は、独立して、水素原子、又は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1以上3以下の炭化水素基を表し、R
21及びR
22の少なくとも一方が当該炭化水素基である。但し、R
21及びR
22における当該炭化水素基のヘテロ原子は、5員環を構成する複素環基と直接結合しない。また、R
21とR
22とは結合して環を形成しない。]
【0057】
一般式(2)において、Tは、S(硫黄原子)又はNR20を表し、中でも、S(硫黄原子)であることが好ましい。R20は、水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基であることがより好ましい。R20における炭素数1以上6以下の炭化水素基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってよいが、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。R20における炭素数1以上6以下のアルコキシ基は、炭素数1以上3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基及びエトキシ基がより好ましい。R20は、メチル基又はメトキシ基であることが特に好ましい。
また、一般式(2)においては、R21がメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はi-プロピル基であり、且つR22が水素原子であることが好ましく、R21がメチル基であり、且つR22が水素原子であることがより好ましい。
【0058】
一般式(1)においてR13及びR14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。
R13及びR14は、互いに同一であることが好ましい。
アリール基としては、フェニル基が好ましい。
R13及びR14が置換基として有する炭化水素基が含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リンなどが挙げられる。
また、R13及びR14が置換基として有する炭化水素基がヘテロ原子を含有する場合、当該ヘテロ原子は炭素鎖内に存在して炭素-炭素結合の間に介在していてもよい。
R13及びR14が置換基として有する炭化水素基が含んでいてもよいハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
R13及びR14が置換基として有する炭化水素基の炭素数は、3以上6以下であればよく、好ましくは3以上5以下、より好ましくは3または4、更に好ましくは4である。
アリール基の置換基として有する炭素数3以上6以下の炭化水素基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、3級炭化水素基であることが好ましく、3級アルキル基であることがより好ましい。
【0059】
R13及びR14の好ましい構造としては、例えば、下記一般式(3)で表されるフェニル基(Ph)の4位に置換基を有する構造が挙げられる。
4-R31-Ph- ・・・一般式(3)
[一般式(3)中、R31は、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3以上6以下の炭化水素基である。但し、R31は、一般式(1)中のR11及びR12が有する置換基とは異なる構造を有する。]
【0060】
R31の好ましい例としては、例えば、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、トリメチルシリル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、及びフリル基が挙げられ、特に好ましくはt-ブチル基である。
【0061】
上記一般式(1)で表されるメタロセン化合物は、R11及びR12における5員環を構成する複素環基が有する置換基と、R13及びR14におけるアリール基が有する置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。
すなわち、R11及びR12における複素環基上に同一でない複数の置換基が存在する場合、例えば、複素環基上の4位及び5位に互いに構造の異なる置換基を有する場合、、各置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基(「最大置換基」と称する場合がある)の当該合計数を、アリール基上の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数とを比較する。このときに、複素環基上の最大置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数の方が、アリール基上の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも小さい。複素環基上の最大置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数と、アリール基上の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数との差は、特に限定はされないが、好ましくは1以上10以下、より好ましくは2以上8以下、更に好ましくは3以上6以下である。
【0062】
なお、複素環基上に置換基が1つのみ存在する場合は、当該置換基が最大置換基である。また、複素環基の置換基及びアリール基の置換基がヘテロ原子を有しない場合があってもよい。置換基がヘテロ原子を有しない場合は、当該ヘテロ原子数は0個とする。
好ましい具体例としては、R11及びR12における複素環基の置換基がメチル基(炭素原子1個とヘテロ原子0個で合計数が1)であり、R13及びR14におけるフェニル基の4位の置換基が、t-ブチル基(炭素原子4個とヘテロ原子0個で合計数が4)、またはトリメチルシリル基(炭素原子3個とヘテロ原子1個で合計数が4)である。
【0063】
本発明の製造方法によって、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造することができる。その理由は必ずしも明確ではないが、一般式(1)で表されるメタロセン化合物が、アリール基であるR13及びR14上に、炭素数3以上の置換基を有することにより、メタロセン化合物が有する遷移金属(Hf)の電子密度が変化することで、プロピレンの重合反応の際に、プロピレン連鎖へのプロピレンモノマーの挿入反応速度が大きくなり、ポリマーの成長速度が増大するためと考えられる。
【0064】
また、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造することができる他の作用として以下も考えられる。
一般式(1)で表されるメタロセン化合物は、R13及びR14におけるアリール基上の置換基が嵩高い。そのため、当該嵩高い置換基が、重合反応の際の成長ポリマー鎖の向きを、一般式(1)中の遷移金属(Hf)上のインデン環配位子が有する6員環部分を避けるように仕向ける。その結果、成長ポリマー鎖に次に挿入されるプロピレンの向きは、この6員環部分を避けるように向いた成長ポリマー鎖と、更に複素環基であるR11及びR12の両方で制御され、位置規則的及び立体規則的にプロピレン挿入が行われる。さらに、複素環基であるR11及びR12は、プロピレン挿入を位置規則的及び立体規則的に行わせると同時に、成長ポリマー鎖のβ位のメチル基の向きを制御する効果を有する。R11及びR12により、β位のメチル基脱離反応が増大することで、末端ビニル基を効率的に生成させることができ、また、効率的に末端ビニル化反応を起こさせることで、生成するポリプロピレンの分子量を低下させることができる。このように、本発明の製造方法では、メタロセン化合物が有する特定の置換基を有する複素環基と特定の置換基を有するアリール基との組み合わせの効果により、位置規則的かつ立体規則的にプロピレン挿入が行われ、更に、成長反応速度とβメチル脱離反応速度の両方が制御されることで、特定の長さのポリマー鎖、すなわち特定の分子量(数平均分子量で5.0万未満)を有し、末端ビニル率が高く、位置規則性及び立体規則性に優れたプロピレン系重合体を、高活性に製造することができると考えられる。
また、本発明の製造方法では、メタロセン化合物が有する特定の置換基を有する複素環基と特定の置換基を有するアリール基との組み合わせの効果によって、プロピレンが不規則(2,1)挿入した場合に、当該挿入したプロピレンのメチル基の向きによって、次のプロピレンのメチルの向きが制御される。具体的には、不規則(2,1)挿入したプロピレンのメチル基が、次のプロピレンの挿入を遅らせ、その間に異性化反応が起こりやすくなることで、分子鎖内に異種結合を2,1結合から進行した1,3結合として残すことができる。そのため、本発明の製造方法では、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多い末端ビニル基含有プロピレン系重合体を得ることができると考えられる。
したがって本発明では、オレフィン重合用触媒に用いる上記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、複素5員環基であるR11およびR12上の置換基と、アリール基であるR13およびR14上の置換基を、特定の置換基の組み合わせとすることで、成長反応とβメチル脱離による停止反応のバランスが取れる結果、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性で得ることができると考えられる。
【0065】
上記X11及びY11は、それぞれ独立して、Hfとσ結合を形成する配位子である。一般式(1)で表されるメタロセン化合物は、上記X11及びY11が脱落してカチオン化すると、オレフィン重合能を有する活性なメタロセンとなる。後述する成分(B)及び成分(C)が、上記一般式(1)で表されるメタロセン化合物に作用することにより、当該メタロセン化合物に含まれるX11及びY11が脱落してカチオン化する。
X11及びY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、炭素数1以上20以下のケイ素含有炭化水素基、炭素数1以上20以下のハロゲン化炭化水素基、炭素数1以上20以下の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1以上20以下の窒素含有炭化水素基である。X11及びY11は、後述する成分(B)及び成分(C)との作用により脱落可能な配位子であればよく、特に限定はされない。
メタロセン化合物の安定性の点からは、X11及びY11は、ハロゲン原子、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基であることが好ましく、塩素、臭素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はフェニル基であることが特に好ましい。
【0066】
上記Q11は、炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基である。
上述のシリレン基、またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
炭素数1以上20以下の二価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、1,2-エチレン基等のアルキレン基;ジフェニルメチレン基等のアリールアルキレン基;などが挙げられる。
炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいシリレン基としては、例えば、シリレン基;メチルシリレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジ(n-プロピル)シリレン基、ジ(i-プロピル)シリレン基、ジ(シクロヘキシル)シリレン基等のアルキルシリレン基;メチル(フェニル)シリレン基等の(アルキル)(アリール)シリレン基;ジフェニルシリレン基等のアリールシリレン基;テトラメチルジシリレン基等のアルキルオリゴシリレン基;などが挙げられる。
炭素数1以上20以下の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基としては、例えば、ゲルミレン基;上述したアルキルシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;上述した(アルキル)(アリール)シリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換した(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;上述したアリールシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアリールゲルミレン基;などが挙げられる。
これらの中では、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有するシリレン基、または、炭素数1以上20以下の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、または、アルキルゲルミレン基が特に好ましい。
【0067】
上記一般式(1)で表される化合物のうち好ましいものとしては、以下の化合物を例示できる。
(1)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル]ハフニウム
(2)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-トリメチルシリルフェニル)インデニル]ハフニウム
(3)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-エチル-4-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル]ハフニウム
【0068】
(2)成分(B)
成分(B)は、成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩である。
成分(B)は単独でもよいし、二種以上を用いてもよい。好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
【0069】
(2-1)成分(A)とイオン対を形成する化合物
成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物としては、アルミニウムオキシ化合物、及びホウ素化合物などを挙げることができる。
アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には下記の一般式(I)~(III)で表される化合物が挙げられる。
【0070】
【0071】
上記の一般式(I)、(II)において、Raは、水素原子又は炭化水素基を表す。Raは、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基である。また、複数のRaは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは0~40を表し、好ましくは2~30の整数である。
上記一般式(I)、(II)で表される化合物は、アルミノキサンとも称される化合物である。これらの中では、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。
一般式(III)中、Rbは、炭素数1~10の炭化水素基を表し、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基である。
【0072】
ホウ素化合物としては、例えば、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物、又は種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などを挙げることができる。
【0073】
(2-2)イオン交換性層状珪酸塩
イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に珪酸塩と略記することもある)とは、イオン結合などによって構成される層が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、層間にイオンを有し、且つ、含有される層間イオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。
大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出される。水中に分散及び膨潤させ、沈降速度等の違いにより精製することが一般的であるが、夾雑物が完全に除去されていることは要せず、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライト等)を含んでもよい。それら夾雑物の種類、量、粒子径、結晶性、分散状態によっては純粋な珪酸塩以上に好ましいことがあり、そのような複合体も、成分(B)のイオン交換性層状珪酸塩に含まれる。
また、本発明で使用する珪酸塩は、天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0074】
イオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、例えば、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1988年)等に記載される1:1型構造や2:1型構造をもつ層状珪酸塩が挙げられる。
1:1型構造とは、前記「粘土鉱物学」等に記載されているような1層の四面体シートと1層の八面体シートが組み合わさった積み重なりを基本とする構造を示す。
2:1型構造とは、2層の四面体シートが1層の八面体シートを挟み込んだ積み重なりを基本とする構造を示す。
1:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族珪酸塩、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族珪酸塩等が挙げられる。
2:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族珪酸塩、バーミキュライト等のバーミキュライト族珪酸塩、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族珪酸塩、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
これらの中では、主成分が2:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩であるものが好ましい。より好ましくは、主成分がスメクタイト族珪酸塩であり、さらに好ましくは、主成分がモンモリロナイトである。
層間カチオン(イオン交換性層状珪酸塩の層間に含有される陽イオン)の種類としては、特に限定されないが、主成分として、リチウム、ナトリウム等の周期表第1族のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等の周期表第2族のアルカリ土類金属、あるいは鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金等の遷移金属などが、比較的容易に入手可能である点で好ましい。
【0075】
前記イオン交換性層状珪酸塩は、乾燥状態で用いてもよく、液体にスラリー化した状態で用いてもよい。
また、イオン交換性層状珪酸塩の形状については、特に制限はなく、天然に産出する形状、人工的に合成した時点の形状でもよいし、また、粉砕、造粒、分級などの操作によって形状を加工したイオン交換性層状珪酸塩を用いてもよい。
このうち造粒されたイオン交換性層状珪酸塩を用いると、該イオン交換性層状珪酸塩を成分(B)として用いた場合に、良好なポリマー粒子性状を与えるため特に好ましい。
【0076】
イオン交換性層状珪酸塩は、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を行うことが好ましい。イオン交換性層状珪酸塩の化学処理とは、酸類、塩類、アルカリ類、又は有機物等とイオン交換性層状珪酸塩とを接触させることをいう。
化学処理による共通の影響として、層間陽イオンの交換を行うことが挙げられるが、それ以外に各種化学処理は、次のような種々の効果がある。例えば、酸類による酸処理によれば、珪酸塩表面の不純物が取り除かれる他、結晶構造中のAl、Fe、Mg等の陽イオンを溶出させることによって、表面積を増大させることができる。これは、珪酸塩の酸強度を増大させ、また、単位重量当たりの酸点量を増大させることに寄与する。アルカリ類によるアルカリ処理では、粘土鉱物の結晶構造が破壊され、粘土鉱物の構造の変化をもたらす。
【0077】
以下に、具体的な処理剤(酸類、塩類、その他)及び化学処理条件について詳細に説明する。なお、本発明では、これら酸類、塩類を組み合わせたものを処理剤として用いてもよい。
(i)酸類
酸処理は、表面の不純物を除く、あるいは層間に存在する陽イオンの交換を行うほか、結晶構造の中に取り込まれているAl、Fe、Mg等の陽イオンの一部又は全部を溶出させることができる。酸処理で用いられる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、ステアリン酸、プロピオン酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などが挙げられる。中でも無機酸が好ましく、硫酸、塩酸、硝酸がより好ましく、さらに好ましくは硫酸である。
【0078】
(ii)塩類
塩類としては、有機陽イオン、無機陽イオン、金属イオンからなる群から選ばれる陽イオンと、有機陰イオン、無機陰イオン、ハロゲン化物イオンからなる群から選ばれる陰イオンとから構成される塩類が例示される。例えば、周期律表第1~14族から選択される少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲンの陰イオン、無機ブレンステッド酸及び有機ブレンステッド酸の陰イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の陰イオンとから構成される化合物が好ましい例として挙げられる。
【0079】
(iii)その他の処理剤
酸、塩処理の他に、必要に応じてアルカリ処理や有機物処理を行ってもよい。
アルカリ処理の処理剤としては、例えば、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2などが挙げられる。
有機物処理の処理剤としては、例えば、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、N,N-ジメチルアニリニウム、N,N-ジエチルアニリニウム、N,N-ジメチルオクタデシルアンモニウム等が挙げられる。
これらの処理剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの組み合わせは、処理開始時に添加する処理剤について組み合わせて用いてもよいし、処理の途中で添加する処理剤について、組み合わせて用いてもよい。また化学処理は、同一または異なる処理剤を用いて複数回行うことも可能である。
【0080】
(iv)化学処理条件
上述した各種処理剤は、適当な溶媒に溶解させて処理剤溶液として用いてもよいし、処理剤自身を溶媒として用いてもよい。使用できる溶媒としては、特に制限はないが、水、アルコール類が一般的であり、特に水が好ましい。例えば、化学処理として酸処理を行う場合、酸処理剤濃度、イオン交換性層状珪酸塩と処理剤との比率、処理時間、処理温度等の酸処理条件を制御することによって、イオン層状珪酸塩化合物を所定の組成、構造へと変化させ制御することが可能である。
なお、イオン交換性層状珪酸塩の処理方法は、特開2009-299046号公報の段落0042~0071の記載を参照することができる。
【0081】
本発明に用いられるイオン交換性層状珪酸塩は、通常、粘土成分を含む。イオン交換性層状珪酸塩に含まれるアルミニウム原子(Al)とケイ素原子(Si)のモル比(Al/Siモル比)は、粘土成分に対する酸処理強度の指標となる。
イオン交換性層状珪酸塩におけるAl/Siモル比は、好ましくは0.01~0.25、より好ましくは0.03~0.24、さらに好ましくは0.05~0.23である。
イオン交換性層状珪酸塩中のアルミニウム及びケイ素は、JIS法による化学分析による方法で検量線を作成し、蛍光X線で定量するという方法で測定される。
【0082】
(3)成分(C)
本発明に用いられる成分(C)は、有機アルミニウム化合物であり、好ましくは、下記一般式(4)で表される有機アルミニウム化合物が使用される。
(AlRnX3-n)m ・・・一般式(4)
[一般式(4)中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基又はアミノ基を表し、nは1~3の整数を表し、mは1~2の整数を表す。]
【0083】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、n=3、m=1のトリアルキルアルミニウム及びアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、Rが炭素数1~8であるトリアルキルアルミニウムである。
有機アルミニウム化合物は、単独であるいは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0084】
(4)触媒の調製
本発明に好ましく用いられるオレフィン重合用触媒は、上記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む。これらは、重合槽内または重合槽外で接触させて得ることができる。
成分(A)、成分(B)及び成分(C)の使用量は任意である。例えば、成分(B)に対する成分(A)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくは0.1μmol~1000μmol、より好ましくは0.5μmol~500μmolの範囲である。
また、成分(A)に対する成分(C)の使用量は、成分(A)の遷移金属に対する成分(C)のアルミニウムのモル比で、好ましくは0.01~5×106、より好ましくは0.1~1×104の範囲である。
上記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を接触させる順番は、任意であり、これらのうち2つの成分を接触させた後に残りの1成分を接触させてもよいし、3つの成分を同時に接触させてもよい。これらの接触において、接触を充分に行うため、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素やこれらのハロゲン化物、また液化モノマーなどが例示される。脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素の例として、具体的にはヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられる。また、液化モノマーとしては、液化プロピレンなどを用いることができる。
【0085】
(5)予備重合
オレフィン重合用触媒は、オレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合に付されることが好ましい。予備重合により触媒活性を向上させることができ、製造コストを抑えることができる。
使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができ、好ましくはプロピレンである。
オレフィンのフィード方法は、オレフィンを予備重合槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。
予備重合温度は、特に限定されないが、-20℃~100℃の範囲であることが好ましい。
予備重合時間は、特に限定されないが、5分~24時間の範囲であることが好ましい。
また、予備重合量は、成分(B)に対する予備重合ポリマーの質量比が好ましくは0.01~100、さらに好ましくは0.1~50である。
また、予備重合時に成分(C)を追加することもできる。
上記各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
予備重合後に触媒を乾燥してもよい。乾燥方法には、特に制限は無いが、減圧乾燥や加熱乾燥、乾燥ガスを流通させることによる乾燥などが例示され、これらの方法を単独で用いても良いし、2つ以上の方法を組み合わせて用いてもよい。乾燥工程において触媒を攪拌、振動、流動させてもよいし静置させてもよい。
【0086】
2-2.モノマー
使用するモノマーは、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレン及びα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの組み合わせである。
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数4以上10以下のα-オレフィンを用いることができる。より具体的には、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロヘキサン、スチレン等を例示することができる。プロピレンと共重合するコモノマーは、エチレン及びα-オレフィンよりなる群から選ばれる一種類でも二種類以上の組み合わせでもよい。好ましくはエチレン及び1-ブテンから選ばれる一種又は二種である。
エチレン及びα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーの共重合割合は特に制約されないが、コモノマー単位の含有量が上述した好ましい範囲となるように調整される。
【0087】
2-3.重合方法
本発明において、上記モノマーの重合方法は、上記オレフィン重合用触媒と上記モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。
重合方法としては、例えば、
上記モノマーが凝縮する温度及び圧力環境下で、上記モノマーを液状のモノマーとし、
A.液状の不活性炭化水素で希釈せずに液状のモノマーを重合する方法(バルク重合)、
B.液状の不活性炭化水素で希釈して液状のモノマーを重合する方法(希釈重合)、並びに、
上記モノマーが凝縮しない温度及び圧力環境下で、上記モノマーを非凝縮のモノマーとし、
C.気相で非凝縮のモノマーを重合する方法(気相重合)
D.液状の不活性炭化水素に溶解させた中で非凝縮のモノマーを重合する方法(スラリー重合)等が挙げられる。
なお、上記A及びCの方法では、不活性炭化水素を実質的に用いない。ここで、不活性炭化水素を実質的に用いないとは、反応系において、不活性炭化水素が全く存在しなくてもよいし、重合反応に影響しない程度の微量の不活性炭化水素が存在していてもよいことを意味する。
上記Aの方法では、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)が得られやすく、上記B又はDの方法では、上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)が得られやすい。
液状の不活性炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素が好ましく用いられる。
また、重合方式は、連続重合又は回分式重合のいずれであってもよい。連続重合又は回分式重合を行う前に、予備重合を行ってもよい。
また、重合段数は、1段でもよく、多段でもよい。例えば、バルク重合2段、バルク重合後気相重合、気相重合2段といった様式も可能であり、さらにはそれ以上の重合段数で製造することが可能である。
【0088】
上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)は、例えば、上記オレフィン重合用触媒を用い、上記Aの方法で、重合温度を60℃以上90℃以下として、上記モノマーを重合することによって得ることができる。
上記Aの方法では、液状の不活性炭化水素は実質的に用いられないが、反応系に微量の不活性溶媒が含まれていてもよい。例えば、プロピレンのモル数(M1)の、プロピレンのモル数と不活性炭化水素のモル数の和(M2)に対する比(M1/M2)が0.99以上1.0以下であってもよい。
上記X1を得るための重合において、重合温度は、下限としては、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上であり、上限としては、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
上記X1を得るための重合において、重合圧力は、好ましくは0~5MPa(G)、より好ましくは0~4MPa(G)である。
【0089】
上述した本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)は、例えば、上記オレフィン重合用触媒を用い、上記B又はDの方法で、重合温度を70℃以上90℃以下として、上記モノマーを重合することによって得ることができる。上記X2を得るための重合は、中でも、上記Bの方法を用いることが好ましい。
上記B及びDの方法において、プロピレンのモル数(M1)の、プロピレンのモル数と不活性炭化水素のモル数の和(M2)に対する比(M1/M2)は、下限としては、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.40以上、更に好ましくは0.50以上であり、上限としては、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下である。
上記X2を得るための重合において、重合温度は、下限としては、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、上限としては、好ましくは90℃以下、より好ましくは88℃以下、更に好ましくは85℃以下である。
上記X2を得るための重合において、重合圧力は、好ましくは0~5MPa(G)、より好ましくは0~4MPa(G)である。
【0090】
本発明は、ビスインデニルハフニウム錯体の構造を有し、配位子であるインデン環の2位に、特定のヘテロ原子と特定の置換基を有する5員複素環、及び、同インデン環の4位に特定の置換基を有するアリール基が置換したメタロセン化合物を含む触媒系を用いて、重合方式に適した温度範囲で重合することにより、特定の分子量(数平均分子量で5.0万未満)を有し、末端ビニル率が高く、位置規則性及び立体規則性に優れ、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06mol%以上多いプロピレン系重合体を、高活性に製造することができる。
【0091】
さらに、本発明の製造方法では、活性を向上させるために、重合工程中に補助的に水素を用いることができる。休眠状態となった活性点、例えば副反応の結果生成したπアリル-遷移金属錯体や、プロピレンが2,1挿入した直後のもの等が、水素により再活性化されるため、活性が向上すると考えられる。
多くの遷移金属錯体触媒では、水素への連鎖移動速度は速く、水素が効果的な連鎖移動剤として機能して飽和末端を生成するため、水素の導入は末端ビニル構造を生じにくくする。しかしながら、本発明の製造方法では、驚くべきことに水素を加えても、水素への連鎖移動速度は遅いが、水素が再活性化剤として作用するため、依然ビニル末端割合が高いまま保たれる。従って本発明の製造方法では、重合工程中に補助的に水素を用いることにより、活性が向上し、且つ、ビニル末端割合が高いまま保たれる。
【0092】
重合に使用する水素の量としては、水素をプロピレンのフィード質量比として、好ましくは0~2.0×10-4、より好ましくは0を超え2.0×10-4以下、更に好ましくは2.0×10-5~1.5×10-4、より更に好ましくは3.0×10-5~1.0×10-4の範囲である。
上記Aの方法で重合を行う場合には、気相部に存在する気体物質の濃度が平均的に0~10000ppm、好ましくは100~8000ppm、より好ましくは200~1000ppmの範囲で行うことにより、活性を向上させつつ目的の重合体を得ることができる。
【0093】
3.末端ビニル基含有プロピレン系重合体の用途
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、ビニル末端構造を高い割合で含有するように末端構造を高度に制御したプロピレン単独重合体又はプロピレン共重合体であるので、その特性により、マクロマー、塗料、プライマー、表面改質剤、コーティング剤の原料等として用いることができる。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、必要に応じて、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、造核剤、滑剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、着色剤、無機質または有機質の充填剤等の各種添加剤、さらには種々の合成樹脂を配合した後、溶融混練機を用いて加熱溶融混練後、さらに粒状に切断されたペレットとして利用できる。
【実施例0094】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における物性測定、分析等は、下記の方法に従ったものである。
【0095】
(1)触媒活性(CE)(g/ghr)
触媒活性は、ポリマーの収量(g)を、導入した触媒量(g)(予備重合ポリマーを除いた値)で割った単位時間あたりの値である。
【0096】
(2)数平均分子量(Mn):
特性(IV)の説明において上記した方法で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、上記本明細書記載の方法で測定した。
【0097】
(3)アイソタクチックトライアッド分率(mm)
特性(II)の説明において上記した方法で、mmを算出した。単位は%である。
【0098】
(4)異種結合量
特性(III)の説明において上記した方法で、異種結合(2,1結合)の量([2,1])、及び異種結合(1,3結合)の量([1,3])を算出し、[1,3]-[2,1]を算出した。単位はmol%である。
【0099】
(5)LCB数
特性(I)の説明において上記した方法で、1000モノマーユニット当たりの炭素数7以上の長鎖分岐(LCB)の数を測定した。
【0100】
(6)末端ビニル率
特性(I)の説明において上記した方法で、末端ビニル率を測定した。
【0101】
(7)融点(Tm):
特性(V)の説明において上記した方法で、DSCにより融点(Tm)を測定した。
【0102】
(8)90℃以下の可溶分量
特性(VI)の説明において上記した方法で、o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定での90℃以下の温度で溶出する成分の量を測定した。
【0103】
[実施例1]
(1)成分(A)の合成
rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成:
(1-a)ジメチルビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}シランの合成:
1000mlのガラス製反応容器に、2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデン(8.4g、24.4mmol)、THF(150ml)を加え、-70℃まで冷却した。ここにn-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(15.5ml、24.3mmol、1.57mol/L)を滴下した。滴下後、徐々に室温まで戻しながら2時間攪拌した。再び-70℃まで冷却し、1-メチルイミダゾール(0.02ml)を加え、ジメチルジクロロシラン(1.47ml、12.1mmol)を滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら1時間攪拌した。
反応液に蒸留水を加え、分液ロートに移し食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え反応液を乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去しジメチルビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}シランの淡黄色固体(9g)を得た。
【0104】
(1-b)rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成:
500mlのガラス製反応容器に、ジメチルビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}シラン9g(12.2mmol)、ジエチルエーテル30ml、トルエン90mlを加え、氷浴上n-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(15.5ml、24.3mmol、1.57mol/L)を滴下した。滴下後、室温に戻し1時間攪拌した。続けて、トルエン110mlを加え、ドライアイス-メタノール浴で-70℃まで冷却した。そこに、四塩化ハフニウム3.9g(12.2mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
溶媒を減圧留去し、トルエンで抽出後、トルエン-ヘキサン混合液で洗浄し、ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウムのラセミ体(純度99%以上)を黄橙色結晶として1g(収率8%)得た。
得られたラセミ体についてのプロトン核磁気共鳴法(1H-NMR)による同定値を以下に記す。
1H-NMR(CDCl3)同定結果
ラセミ体:δ1.07(s,6H)、δ1.31(s,18H)、δ2.48(s,6H)、δ6.62(s,2H)、δ6.7-7.1(m,4H)、δ7.2-7.6(m,10H)、δ7.41(d,2H)、δ7.55(d,2H)
【0105】
(2)成分(B)の合成(イオン交換性層状珪酸塩の化学処理)
撹拌翼と還流装置を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、蒸留水645.1gと98%硫酸82.6gを加え、95℃まで昇温した。
そこへ市販のモンモリロナイト(水澤化学工業社製、ベンクレイKK、Al=9.78質量%、Si=31.79質量%、Mg=3.18質量%、Al/Si(モル比)=0.320、平均粒径14μm)100gを添加し、95℃で320分反応させた。320分後、蒸留水0.5Lを加えて反応を停止し、濾過することでケーキ状固体物255gを得た。
このケーキ1gには、0.31gの化学処理モンモリロナイト(中間物)が含まれていた。化学処理モンモリロナイト(中間物)の化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量% Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222であった。
上記ケーキに蒸留水1545gを加えスラリー化し、40℃まで昇温した。水酸化リチウム・水和物5.734gを固体のまま加え、40℃で1時間反応させた。1時間後、反応スラリーを濾過し、1Lの蒸留水で3回洗浄し、再びケーキ状固体物を得た。
回収したケーキを乾燥したところ、化学処理モンモリロナイト80gを得た。この化学処理モンモリロナイトの化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量%、Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222、Li=0.53質量%であった。
【0106】
(3)オレフィン重合用触媒の調製
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記(2)で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(65mL)を加えてスラリーとし、これにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を35mL)を加えて1時間攪拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、上記(1)で得られたrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-(4-t-ブチルフェニル)-インデニル}]ハフニウム(成分(A))(0.15mmol)をトルエン(30mL)に溶解し、溶液1を調製した。
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコに、トリ-n-オクチルアルミニウム(2.1mmol:濃度144mg/mLのヘプタン溶液を5.3mL)を加えた後、上記溶液1を加えて1時間室温で攪拌した。
その後、ヘプタンを215mL追加し、得られたスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にした後、プロピレンを10g/時の速度でフィードし、2時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1.5時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(10mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.3mL)を加えて5分撹拌した。
この固体を40分間減圧乾燥することにより乾燥予備重合触媒13.6gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は0.33であった。この予備重合触媒を触媒1とした。
【0107】
(4)重合
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。槽内にトリイソブチルアルミニウムを400mg加えた。
次いで、槽内に液体プロピレン750gを導入した後、70℃まで昇温した。その後、予備重合ポリマーを除いた質量で500mgの触媒1を重合槽に導入し、重合を開始した。70℃で1時間保持した後、重合を停止した。そうしたところ、75gのプロピレン系重合体が得られた。
【0108】
[実施例2]
実施例1の重合において、触媒1を300mgに変更し、液体プロピレンを導入する前に、槽内に水素を70N(normal)ml導入する以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ270gのプロピレン系重合体が得られた。
【0109】
[実施例3]
実施例1の重合において、触媒1を200mgに変更し、液体プロピレンを導入する前に、槽内に水素を120Nml導入する以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ240gのプロピレン系重合体が得られた。
【0110】
[実施例4]
実施例1の重合において、75℃まで昇温して、触媒1を300mgに変更し、75℃で重合した以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ45gのプロピレン系重合体が得られた。
【0111】
[実施例5]
実施例1の重合において、80℃まで昇温して、80℃で重合した以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ75gのプロピレン系重合体が得られた。
【0112】
[実施例6]
実施例1の重合において、85℃まで昇温して、85℃で重合した以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ72gのプロピレン系重合体が得られた。
【0113】
[実施例7]
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。槽内に脱水ヘプタン510gとトリイソブチルアルミニウム400mgを加えた。
次いで、槽内に液体プロピレンを375g導入した後、80℃まで昇温した。その後、予備重合ポリマーを除いた質量で370mgの触媒1を導入し、重合を開始した。80℃で3時間保持した後、重合を停止した。そうしたところ、255gのプロピレン系重合体が得られた。
なお、槽内のプロピレンのモル数とヘプタンのモル数の和(M2)に対するプロピレンのモル数(M1)の比(M1/M2)は0.636であった。
【0114】
[実施例8]
実施例7において、85℃まで昇温し、触媒1を170mgに変更し、85℃で重合した以外は同様の重合をおこなった。そうしたところ104gのプロピレン系重合体を得た。
【0115】
【0116】
[実施例の考察]
各実施例で得られたプロピレン系重合体は、数平均分子量(Mn)が27000以下と小さく、末端ビニル率が0.91以上と高く、mmが96.0%以上と高く、立体規則性に優れ、異種結合(2,1結合)の量が0mol%且つ異種結合(1,3結合)の量が0.06~0.09mol%であり、異種結合量が少なく、位置規則性にも優れていた。更に、異種結合(1,3結合)の量が異種結合(2,1結合)の量よりも0.06~0.09mol%多いものであった。これらの特徴を有するプロピレン系重合体は、上述したように他の材料との親和性が良好であり、末端ビニル基の反応性に優れる。
また、実施例1~6では、上記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、液状の不活性炭化水素で希釈せずに液状のモノマーを重合する方法で、重合温度を60℃以上90℃以下として重合を行ったことにより、数平均分子量(Mn)が1.0万以上5.0万未満であり、融点(Tm)が150℃以上である、末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X1)が得られた。
実施例7~8では、上記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、液状の不活性炭化水素で希釈して液状のモノマーを重合する方法で、重合温度70℃以上90℃以下として重合を行ったことにより、数平均分子量(Mn)が0.6万以上1.0万未満であり、融点(Tm)が150℃未満である、末端ビニル基含有プロピレン系重合体(X2)が得られた。