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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066568
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ワーク保持具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/06 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
B23Q3/06 301K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175984
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】591286982
【氏名又は名称】株式会社MSTコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】溝口 春機
【テーマコード(参考)】
3C016
【Fターム(参考)】
3C016CA08
3C016CB06
3C016CC01
3C016CE01
(57)【要約】
【課題】固定クランプと可動クランプとでワークの蟻部を挟む蟻溝状部が形成されるワーク保持具の汎用性を向上させる。
【解決手段】固定クランプ10は、蟻溝状部を成す底面13cに対してX軸方向一方側の位置から蟻溝状部を成す各斜面11b,21bよりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部11と、底面13cに対してX軸方向他方側の位置から肩部11と同一高さに突き出た他方側の肩部12と、これら肩部11と12とを繋ぎかつ底面13cを含む溝底部13とを有する。溝底部13は、Y軸方向に長さをもちかつX軸方向に幅をもってXY平面に沿った底上ワーク支持面13a,13bを溝底部13のX軸方向両側に有する。各肩部11,12は、前述の同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面11a,12aを有する。一方側の斜面11bの縁におけるZ軸方向の高さは、他方側の斜面21bの縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプと、当該固定クランプに対してX軸方向に移動可能に組み合わされた可動クランプとを備え、
ワークの蟻部をX軸方向に挟む蟻溝状部が前記固定クランプと前記可動クランプとで形成されるようになっており、
前記蟻溝状部を成す底面及び一方側の斜面が前記固定クランプに設けられ、当該蟻溝状部を成す他方側の斜面が前記可動クランプに設けられており、
前記各斜面が、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有し、
前記各斜面と前記ワークの蟻部との各当接部に作用する力によって当該ワークと前記固定クランプとが締結されるワーク保持具において、
前記固定クランプが、前記底面に対してX軸方向一方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部と、前記底面に対してX軸方向他方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部と、これら一方側の肩部と他方側の肩部とを繋ぎかつ前記底面を含む溝底部とを有し、
前記溝底部が、Y軸方向に長さをもちかつX軸方向に幅をもってXY平面に沿った底上ワーク支持面を当該溝底部のうちのX軸方向一方側及び他方側に有し、
前記各肩部が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面を有することを特徴とするワーク保持具。
【請求項2】
前記一方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さが、前記他方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられている請求項1に記載のワーク保持具。
【請求項3】
互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプと、当該固定クランプに対してX軸方向に移動可能に組み合わされた可動クランプとを備え、
ワークの蟻部をX軸方向に挟む蟻溝状部が前記固定クランプと前記可動クランプとで形成されるようになっており、
前記蟻溝状部を成す底面及び一方側の斜面が前記固定クランプに設けられ、当該蟻溝状部を成す他方側の斜面が前記可動クランプに設けられており、
前記各斜面が、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有し、
前記各斜面と前記ワークの蟻部との各当接部に作用する力によって当該ワークと前記固定クランプとが締結されるワーク保持具において、
前記固定クランプが、前記底面に対してX軸方向一方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部と、前記底面に対してX軸方向他方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部とを有し、
前記各肩部が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面を有し、
前記一方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さが、前記他方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられていることを特徴とするワーク保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークを保持するワーク保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、5軸マシニングセンタ等のターンテーブルに対してワークを固定するため、ワーク保持具とワークとを締結し、ワークと締結されたワーク保持具をターンテーブルに接続することが行われている。
【0003】
そのワーク保持具として、固定クランプと、これに組み合わされる可動クランプとを備え、これら両クランプによってワークの蟻部を挟む蟻溝状部が形成されるように構成されたものがある。その蟻溝状部を成す底面及び一方側の斜面は、固定クランプに設けられ、その蟻溝状部を成す他方側の斜面が可動クランプに設けられている。各斜面は、底面に対して傾斜した平面状を有する。各斜面とワークの蟻部との各当接部に作用する力によってワークと固定クランプとが締結される。
【0004】
この種のワーク保持具を使用する場合、一般に、ワークの蟻部の形状として、固定クランプの斜面に当接させる斜面と、可動クランプの斜面に当接させる斜面と、固定クランプの底面に当接させる下端面とを有する形状を採用し、固定クランプに対するワークの当接部を蟻部のみとして、蟻部に強いクランプ力を発生させる蟻継ぎ手構造を採用している(特許文献1、2)。この蟻継ぎ手構造では、ワークの蟻部のサイズを大きくして蟻部の下端面と固定クランプとを広範囲に当接させることが可能なため、強く締結し易い(締結部の高い剛性を得易い)利点があると共に、その蟻部の成形に要するワークのプレカット量を軽減して蟻部の加工コストを軽減し易い利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-115869号公報
【特許文献2】米国特許第9381621号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固定クランプに対するワークの当接部を蟻部のみとする蟻継ぎ手構造では、前述の利点が得られる反面、固定クランプと可動クランプで挟むクランプ力をワークに及ぼす領域が広くなる。ワーク保持具に保持させたワークを工作機で所定に加工後、ワーク保持具から外すと、そのクランプ力が解放されるため、外したワークに歪を生じさせることがある。特に、アルミニウム合金等の軟質素材のワークである場合にそのような傾向が認められる。ワークの蟻部にクランプ力を及ぼす領域が広くなると、外したワークに歪が広い範囲で生じ易くなってしまう。
【0007】
ワーク保持具を様々なワークの保持に使い回しする場合、ワーク保持具に保持させるワークは、大きい物、小さい物、厚い物、薄い物など様々となり、ワークの素材の硬さ(剛性)も、アルミニウム合金、真鍮、銅合金、鋼など様々となる。固定クランプに対するワークの当接部を蟻部のみとする蟻継ぎ手構造では、大きいワーク、厚いワーク、剛性の高いワークである場合、前述の強い締結性及び蟻部の加工コスト軽減の利点を生かせる一方、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークである場合、ワークの蟻部にクランプ力を発生させる領域が広過ぎる場合が起こり得る。
【0008】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、固定クランプと可動クランプとでワークの蟻部を挟む蟻溝状部が形成されるワーク保持具の汎用性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプと、当該固定クランプに対してX軸方向に移動可能に組み合わされた可動クランプとを備え、ワークの蟻部をX軸方向に挟む蟻溝状部が前記固定クランプと前記可動クランプとで形成されるようになっており、前記蟻溝状部を成す底面及び一方側の斜面が前記固定クランプに設けられ、当該蟻溝状部を成す他方側の斜面が前記可動クランプに設けられており、前記各斜面が、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有し、前記各斜面と前記ワークの蟻部との当接部に作用する力によって当該ワークと前記固定クランプとが締結されるワーク保持具において、前記固定クランプが、前記底面に対してX軸方向一方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部と、前記底面に対してX軸方向他方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部と、これら一方側の肩部と他方側の肩部とを繋ぎかつ前記底面を含む溝底部とを有し、前記溝底部が、Y軸方向に長さをもちかつX軸方向に幅をもってXY平面に沿った底上ワーク支持面を当該溝底部のうちのX軸方向一方側及び他方側に有し、前記各肩部が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面を有することを特徴とするワーク保持具、という構成1を採用した。
【0010】
上記構成1によると、ワークにプレカットする蟻部の形状次第で、固定クランプに対するワークの当接部を蟻部のみとする第一の蟻継ぎ手構造と、固定クランプに対するワークの当接部をワークの蟻部の斜面及び両側の肩部とする第二の蟻継ぎ手構造とを選択的に実現することが可能になる。その第一の蟻継ぎ手構造は、蟻部のサイズを大きくしてワークにクランプ力を及ぼす領域をX軸方向に広くすることが可能なため、前述のように強い締結性及び蟻部の加工コスト軽減の利点を生かせる大きいワーク、厚いワーク、剛性の高いワークである場合に適用することができる。一方、その第二の蟻継ぎ手構造は、ワークの両側の肩部と両側の肩上ワーク支持面との当接部が締結部の剛性確保に貢献するため、蟻部のサイズを小さくしてワークにクランプ力を及ぼす領域を狭くし、ひいては、外したワークに歪が生じる範囲を狭くすることが可能なため、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークである場合に適用することができる。このように、ワークのサイズ、素材等に応じて第一又は第二の蟻継ぎ手構造を選択可能とすることにより、ワーク保持具の汎用性を向上させることができる。
【0011】
上記構成1においては、前記一方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さが、前記他方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられている、という構成2を採用することができる。
【0012】
上記構成2によると、前述の第二の蟻継ぎ手構造を採用する場合に、固定クランプの斜面に対して可動クランプの斜面をX軸方向に一方側へ接近させてワークの蟻部を挟み、さらに可動クランプの斜面の縁が蟻部を一方側へ押す際、ワークの傾き挙動を防いでワークの両側の肩部を固定クランプの両側の肩上ワーク支持面に当接させ、ワークとワーク保持具との締結部の剛性を確保することができる。したがって、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークに対するワーク保持具の汎用性をより向上させることができる。
【0013】
また、この発明は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプと、当該固定クランプに対してX軸方向に移動可能に組み合わされた可動クランプとを備え、ワークの蟻部をX軸方向に挟む蟻溝状部が前記固定クランプと前記可動クランプとで形成されるようになっており、前記蟻溝状部を成す底面及び一方側の斜面が前記固定クランプに設けられ、当該蟻溝状部を成す他方側の斜面が前記可動クランプに設けられており、前記各斜面が、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有し、前記各斜面と前記ワークの蟻部との当接部に作用する力によって当該ワークと前記固定クランプとが締結されるワーク保持具において、前記固定クランプが、前記底面に対してX軸方向一方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部と、前記底面に対してX軸方向他方側の位置から前記各斜面よりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部とを有し、前記各肩部が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面を有し、前記一方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さを固定側斜面高さと定義し、前記他方側の斜面の縁におけるZ軸方向の高さを可動側斜面高さと定義したとき、当該固定側斜面高さが当該可動側斜面高さよりも低く設けられていることを特徴とするワーク保持具、という構成3を採用した。
【0014】
上記構成3によれば、前述のように蟻部のサイズを小さくして、外したワークに歪が生じる範囲を狭くすると共に、ワークの両側の肩部を両側の肩上ワーク支持面に当接させて、ワークとワーク保持具との締結部の剛性を確保することが可能なため、特に、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークに対するワーク保持具の汎用性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、上記構成1又は3の少なくとも一方の採用により、固定クランプと可動クランプとでワークの蟻部を挟む蟻溝状部が形成されるワーク保持具の汎用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の第一実施形態に係るワーク保持具の斜視図
図2図1に示すワーク保持具のX軸方向に沿った断面図
図3図1に示すワーク保持具の右側面図
図4】(a)は図1に示すワーク保持具の使用例を示す断面図、(b)は同ワーク保持具の別の使用例を示す断面図
図5】(a)はこの発明の第二実施形態に係るワーク保持具を示す斜視図、(b)は同ワーク保持具を反対側から示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一例としての第一実施形態に係るワーク保持具を添付図面の図1~4に基づいて説明する。
【0018】
図1図3に示すワーク保持具(以下、このワーク保持具という。)は、固定クランプ10と、固定クランプ10と組み合わされる複数の可動クランプ20と、固定クランプ10と結合されるインターフェースブロック30と、を備える。
【0019】
互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプ10は、三次元座標系に対して不動の固定部位である。以下、X軸に沿った方向のことをX軸方向といい、Y軸に沿った方向のことをY軸方向といい、Z軸に沿った方向のことをZ軸方向という。
【0020】
各可動クランプ20は、固定クランプ10に対してX軸方向に移動可能かつY軸方向及びZ軸方向に実質的に移動不可な可動部位である。
【0021】
インターフェースブロック30は、工作機(図示省略)のターンテーブルのヘッドにクランプされる部位である。固定クランプ10は、Z軸方向にねじ込む複数のボルト40でインターフェースブロック30と一体化されている。
【0022】
なお、固定クランプ10には、このワーク保持具に対してワーク(図示省略)をY軸方向に位置決めするために使用されるねじ部材50がZ軸方向にねじ込まれている。
【0023】
固定クランプ10は、固定クランプ10のうちのX軸方向の一方側でZ軸方向に突き出た肩部11と、固定クランプ10のうちのX軸方向の他方側でZ軸方向に突き出た複数の肩部12と、これら肩部11及び12を繋ぐ溝底部13とを一体に有する。
【0024】
各肩部11,12は、互いにZ軸方向に同一高さを有する。各肩部11,12は、互いに同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面11a,12aを有する。肩上ワーク支持面11a,12aは、このワーク保持具のZ軸方向の全長の一端に位置する。
【0025】
一方側の肩部11のうち、X軸方向に他方側の側面には、XY平面に対して傾斜した斜面11bが形成されている。斜面11bは、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有する。斜面11bは、固定クランプ10をY軸方向に横断している。一方側の肩部11の肩上ワーク支持面11aと斜面11bとは直接に交わっておらず、一方側の肩部11は、両面11a,11b間の角部を概ねYZ平面に沿うように落とした形状を有する。このため、斜面11bの縁e1におけるZ軸方向の高さは、肩上ワーク支持面11aよりも低く設けられている。
【0026】
各他方側の肩部12は、斜面11bとX軸方向に対向する位置にあって、Y軸方向の複数箇所に分散して設けられている。具体的には、固定クランプ10のY軸方向の全長の両端部及び中央部にそれぞれ他方側の肩部12が設けられている。各他方側の肩部12のうち、X軸方向に一方側の側面は、他方側の肩上ワーク支持面12aに連続する面取り部を除いて概ねYZ平面に沿った平面状を有する。
【0027】
溝底部13は、X軸方向の中間部でZ軸方向に凹んだ中凹状を有する。溝底部13のうち、一方側の肩部11に連続するX軸方向に一方側の部位には、XY平面に沿った底上ワーク支持面13aが形成されている。また、溝底部13のうち、他方側の肩部12に連続するX軸方向に他方側の部位にも、XY平面に沿った底上ワーク支持面13bが形成されている。各底上ワーク支持面13a,13bは、Y軸方向に長さをもちかつX軸方向に幅をもっている。これら両面13a,13bは、前述の中間部に比して高い平面度を有する仕上げ面になっている。
【0028】
可動クランプ20は、爪部材21と、爪部材21を固定クランプ10に対してX軸方向に移動させるための雄ねじ部材22と、爪部材21のざぐり穴部内周に嵌着された止め輪23とを有する。爪部材21のざぐり穴部は、雄ねじ部材22のねじ軸部をX軸方向に一方側から他方側に向かって通し、固定クランプ10の雌ねじ部にねじ込み、雄ねじ部材22の頭部で爪部材21を固定クランプ10に対してX軸方向に一方側へ押し動かせるようにするための部位である。止め輪23は、雄ねじ部材22が爪部材21のざぐり穴部からX軸方向に他方側へ抜け出ないように雄ねじ部材22の頭部を規制するためのものである。
【0029】
各爪部材21は、Y軸方向に隣り合う他方側の肩部12同士の間においてX軸方向に移動可能に配置されている。各爪部材21は、各肩部11,12よりもZ軸方向に低く設けられている。各爪部材21のZ軸方向の上端面21aは、XY平面に沿った平面状を有する。各爪部材21のうち、X軸方向に一方側の側面には、XY平面に対して傾斜した斜面21bが形成されている。斜面21bの傾斜方向は、固定クランプ10の斜面11bの傾斜方向とは反対であるが、両斜面11b,21bのXY平面に対する傾斜角の大きさは互いに同一であってもよいし、同一でなくてもよい。
【0030】
図2に示すように、固定クランプ10の斜面11bの縁e1におけるZ軸方向の高さは、各爪部材21の斜面21bの縁e2におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられている。両縁e1,e2間のZ軸方向の高低差Δhは、斜面11b,21bがX軸方向に対向する全領域で実質的に一定である。
【0031】
固定クランプ10と可動クランプ20とでワークを挟むための蟻溝状部は、固定クランプ10の斜面11bと、可動クランプ20の斜面21bと、固定クランプ10の溝底部13に含まれた底面13cとによって形成される。底面13cは、一方側の底上ワーク支持面13aの一部(Y軸方向の位置領域でいうと、可動クランプ20の斜面21bの存在する位置領域)を含むが、他方側の底上ワーク支持面13bを含んでいない。これは、爪部材21をX軸方向に移動可能に配置するための切欠き13dが溝底部13に形成されているためである。
【0032】
爪部材21のY軸方向の両側には、図3に示すように、XY平面に沿った爪肩部21cが形成されている。爪部材21の斜面21bにZ軸方向成分の力が作用したとき、両側の爪肩部21cは、固定クランプ10におけるXY平面に沿った嵌め合い部とZ軸方向に当接するため、その当接によって爪部材21のXY平面に対する傾きを確実に阻止することができ、ひいては、斜面21bとワークの蟻部の当接部においてZ軸方向成分の力を強く作用させることができる。
【0033】
このワーク保持具は、ワークにプレカットする蟻部の形状次第で、図4(a)に示すように、固定クランプ10に対するワーク100の当接部を蟻部101のみとする第一の蟻継ぎ手構造と、図4(b)に示すように、固定クランプ10に対するワーク110の当接部をワーク110の蟻部111の斜面及び両側の肩部112とする第二の蟻継ぎ手構造とを選択的に実現することができる。
【0034】
図4(a)に示す第一の蟻継ぎ手構造の場合、ワーク100の肩部102からZ軸方向に突出した蟻部101は、そのX軸方向の両側において固定クランプ10の斜面11bに適合する斜面と、可動クランプ20の各斜面21bに適合する斜面と、底上ワーク支持面13a,13bに当接させる下端面とを有する。
【0035】
ワーク100の蟻部101を固定クランプ10の斜面11bと各底面13c間に入れ込むようにして溝底部13上にワーク100を載置し、可動クランプ20の雄ねじ部材22を固定クランプ10にねじ込んで爪部材21をX軸方向に一方側へ押し動かすと、爪部材21の斜面21bの縁e2が蟻部101の他方側の斜面に当接し、固定クランプ10の斜面11bが蟻部101の一方側の斜面に当接してX軸方向に挟む状態となり、さらに雄ねじ部材22をねじ込むと、各斜面11b,21bと蟻部101の両側の斜面との当接部に作用する力によってワーク100と固定クランプ10とが締結される。このとき、蟻部101と両側の各斜面11b,21bとの当接部に作用するクランプ力により、蟻部101の下端面と固定クランプ10の両側の底上ワーク支持面13a,13bとがZ軸方向に締結されるが、ワーク100の両側の肩部102は、固定クランプ10の各肩部11,12の肩上ワーク支持面11a,12a及び可動クランプ20の爪部材21の上端面21aに当接されない。したがって、ワーク100をXY平面に沿った面で支持する(Z軸方向に真っすぐ受ける)部位は、固定クランプ10の底上ワーク支持面13a,13bのみである。
【0036】
一方、図4(b)に示す第二の蟻継ぎ手構造の場合、ワーク110の肩部112からZ軸方向に突出した蟻部111は、そのX軸方向の両側において固定クランプ10の斜面11bに適合する斜面と、可動クランプ20の各斜面21bに適合する斜面とを有するが、肩部112に対する蟻部111のZ軸方向の突出高さを肩上ワーク支持面11a,12aと底上ワーク支持面13a,13b間のZ軸方向の高低差よりも小さく設け、蟻部111のX軸方向の全長を図4(a)の蟻部101よりも短くしたものである。なお、両斜面11b,21のXY平面に対する傾斜角は、ワーク110の蟻部111の両側の斜面のXY平面に対する傾斜角と同一に設定されている。
【0037】
ワーク110の蟻部111を固定クランプ10の斜面11bと各底面13c間に入れ込むようにしてワーク110の両側の肩部112を固定クランプ10の両側の肩上ワーク支持面11a,12a上に載置すると、蟻部111の下端面は、固定クランプ10とZ軸方向に当接されず、溝底部13との間にZ軸方向の隙間がある。この載置状態から可動クランプ20の雄ねじ部材22を固定クランプ10にねじ込んで爪部材21をX軸方向に一方側へ押し動かすと、爪部材21の斜面21bの縁e2が蟻部111の他方側の斜面に当接し、固定クランプ10の斜面11bが蟻部111の一方側の斜面に当接して蟻部111をX軸方向に挟む状態となり、さらに雄ねじ部材22をねじ込むと、各斜面11b,21bと蟻部111の両側の斜面との当接部に作用する力によってワーク110と固定クランプ10とが締結される。このとき、蟻部111と両側の各斜面11b,21bとの当接部に作用するクランプ力により、ワーク110の両側の肩部112と固定クランプ10の両側の肩上ワーク支持面11a,12aとがZ軸方向に締結されるが、蟻部111の下端面は、固定クランプ10とZ軸方向に当接されず、溝底部13との間にZ軸方向の隙間が残る。したがって、ワーク110をXY平面に沿った面で支持する部位は、固定クランプ10の肩上ワーク支持面11a,21aのみである。
【0038】
また、固定クランプ10の斜面11bに対して可動クランプ20の斜面21bをX軸方向に一方側へ接近させてワーク110の蟻部111を挟んだ状態から、さらに可動クランプ20の斜面21bが蟻部111を一方側へ押す際、可動クランプ20の斜面21bの縁e2が蟻部111の他方側の斜面に食い込んだ力点と、固定クランプ10の斜面11bの縁e1が蟻部111の一方側の斜面に食い込んだ支点とが生じ、力点からX軸方向に押されるワーク110が支点を中心に傾く挙動となる。この際、その支点の方が力点よりも高低差Δh(図2参照)低いため、先ず、ワーク110の一方側の肩部112を固定クランプ10の一方側の肩上ワーク支持面11aに押し付ける方向の傾き挙動となるため、ワーク110の一方側の肩部112が一方側の肩上ワーク支持面11aから浮かず、ワーク110と両側の肩上ワーク支持面11a,12aとの締結部の剛性が確保される。
【0039】
なお、可動クランプ20の斜面21bの縁e2を固定クランプ10の斜面11bの縁e1よりも低く設けた場合、力点が支点よりも低くなるので、先ず、ワークの一方側の肩部が固定クランプ10の一方側の肩上ワーク支持面11aから浮く方向にワークが傾く挙動となり、一旦、この挙動が起こると、その後、雄ねじ部材22をいくらねじ込んでも、ワークの一方側の肩部を一方側の肩上ワーク支持面11aに締結することはできず、ワークとワーク保持具の締結部の剛性が弱くなってしまう。また、可動クランプ20の斜面21bの縁e2と固定クランプ10の斜面11bの縁e1とを同等の高さに設けた場合、ワークをワーク保持具にセットする際の僅かなワーク姿勢の狂いで力点と支点の高低関係が変化するため、ワークの傾き挙動が前述の両方向のどちらに起こるか不安定となり、好ましくない。
【0040】
このワーク保持具は、上述のようなものであって、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三次元座標系を定義したとき、固定クランプ10と、固定クランプ10に対してX軸方向に移動可能に組み合わされた可動クランプ20とを備え、ワーク100,110の蟻部101,111をX軸方向に挟む蟻溝状部が固定クランプ10と各可動クランプ20とで形成されるようになっており、その蟻溝状部を成す各底面13c及び一方側の斜面11bが固定クランプ10に設けられ、当該蟻溝状部を成す他方側の斜面21bが各可動クランプ20に設けられており、各斜面11b,21bが、Y軸方向に沿いかつXY平面に対して傾斜した平面状を有し、各斜面11b,21bとワーク100,110の蟻部101,111との各当接部に作用する力によって当該ワーク100,110と固定クランプ10とが締結されるものである。
【0041】
このワーク保持具は、特に、固定クランプ10が、底面13cに対してX軸方向一方側の位置から各斜面11b,21bよりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部11と、底面13cに対してX軸方向他方側の位置から各斜面11b,21bよりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部12と、これら一方側の肩部11と他方側の肩部12とを繋ぎかつ各底面13cを含む溝底部13とを有し、溝底部13が、Y軸方向に長さをもちかつX軸方向に幅をもってXY平面に沿った底上ワーク支持面13a,13bを当該溝底部13のうちのX軸方向一方側及び他方側に有し、各肩部11,12が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面11a,12aを有することにより、図4に示すように、ワーク100,110にプレカットする蟻部101,111の形状次第で、同図(a)に示すように、固定クランプ10に対するワーク100の当接部を蟻部101のみとする第一の蟻継ぎ手構造と、同図(b)に示すように、固定クランプ10に対するワーク110の当接部をワーク110の蟻部111の斜面及び両側の肩部112とする第二の蟻継ぎ手構造とを選択的に実現することが可能になる。
【0042】
その第一の蟻継ぎ手構造は、蟻部101のサイズをX軸方向に大きくしてワーク100にクランプ力を及ぼす領域をX軸方向に比較的広くすることが可能なため、強い締結性及び蟻部101の加工コスト軽減の利点を生かせる大きいワーク、厚いワーク、剛性の高いワークである場合に適用することができる。一方、その第二の蟻継ぎ手構造は、ワーク110の両側の肩部112と固定クランプ10の両側の肩上ワーク支持面11a,12aとの当接部が締結部の剛性確保に貢献するため、蟻部111のサイズを比較的X軸方向に小さくしてワーク110にクランプ力を及ぼす領域を狭くし、ひいては、外したワーク110に歪が生じる範囲を狭くすることが可能なため、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークである場合に適用することができる。したがって、このワーク保持具は、固定クランプと可動クランプとでワークの蟻部を挟む蟻溝状部が形成されるも第一の蟻継ぎ手構造しか使用できない構造のワーク保持具に比して、第二の蟻継ぎ手構造を選択的に使用できる分、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークへの適用性に優れるので、ワーク保持具の汎用性を向上させることができる。
【0043】
また、このワーク保持具は、特に、一方側の斜面11bの縁e1におけるZ軸方向の高さが他方側の斜面21bの縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられていることにより、第二の蟻継ぎ手構造を採用する場合に、固定クランプ10の斜面11bに対して可動クランプ20の斜面21bをX軸方向に一方側へ接近させてワーク110の蟻部111を挟み、さらに可動クランプ20の斜面21bの縁e2が蟻部111を一方側へ押す際、ワーク110の傾き挙動を防いでワーク110の両側の肩部112を固定クランプ10の両側の肩上ワーク支持面11a,12aに当接させ、ワーク110とワーク保持具との締結部の剛性を確保することができ、ひいては、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークに対するワーク保持具の汎用性をより向上させることができる。
【0044】
また、このワーク保持具は、特に、固定クランプ10が、底面13cに対してX軸方向一方側の位置から各斜面11b,21bよりもZ軸方向に高く突き出た一方側の肩部11と、底面13cに対してX軸方向他方側の位置から各斜面11b,21bよりもZ軸方向に高く突き出た他方側の肩部12とを有し、各肩部11,12が、互いにZ軸方向に同一高さをもってXY平面に沿った肩上ワーク支持面11a,12aを有し、一方側の斜面11bの縁e1におけるZ軸方向の高さが他方側の斜面21bの縁におけるZ軸方向の高さよりも低く設けられていることにより、前述のように蟻部111のサイズを小さくして、外したワーク110に歪が生じる範囲を狭くすると共に、ワーク110の両側の肩部112を両側の肩上ワーク支持面11a,12aに当接させて、ワーク110とワーク保持具との締結部の剛性を確保することが可能なため、特に、小さいワーク、薄いワーク、剛性の弱いワークに対するワーク保持具の汎用性を向上させることができる。
【0045】
なお、図4(b)に示す第二の蟻継ぎ手構造のように、ワーク110の蟻部111をX軸方向に小さくすると、ワーク110を保持させた状態で可動クランプ20と固定クランプ10のX軸方向の総長さが図4(a)に示す第一の蟻継ぎ手構造の場合に比して小さくなり、ワーク110の肩部112が可動クランプ20からX軸方向に他方側へ比較的突き出ることになる。このことは、小さいワーク、薄いワークである場合、ワーク保持具に保持させたワークを工作機で加工するとき、工具とワーク保持具が干渉しにくい点で有利である。
【0046】
なお、第一実施形態では、固定クランプを単一部材で構成した例を示したが、固定クランプを複数の部材の結合体として構成してもよく、また、可動クランプを複数設けた例を示したが、可動クランプを一つだけにしてもよい。そのような一例としての第二実施形態を図5に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0047】
同図に示すワーク保持具は、一方側の斜面61aを有する固定側爪部材61と、両側の肩部62a,62bと底面62cとを一体に有するベース部材62とで構成された固定クランプ60を備える。また、同図に示すワーク保持具は、可動クランプ70は、一つだけ備える。固定側爪部材61は、ベース部材62に着脱可能に設けられている。このため、同図に示すワーク保持具は、固定側爪部材61の交換により、一方側の斜面の傾斜角度を変更することが可能なため、様々なワークの適切な挟持をより柔軟に実現することができる。
【0048】
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
10,60 固定クランプ
11,12,62a,62b 肩部
11a,12a 肩上ワーク支持面
11b,61a 斜面
13 溝底部
13a,13b 底上ワーク支持面
13c,62c 底面
20,70 可動クランプ
21b 斜面
100,110 ワーク
101,111 蟻部
e1,e2 縁
図1
図2
図3
図4
図5