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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066570
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】樹脂材と金属材の抵抗溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20240509BHJP
   B29C 65/44 20060101ALI20240509BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20240509BHJP
【FI】
B29C65/02
B29C65/44
B23K26/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175994
(22)【出願日】2022-11-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/土砂等貨物の運搬効率を飛躍的に向上させるフッ素樹脂と金属板の直接接合技術によるダンプカー等荷台設置部材の開発/レーザ以外の熱源を用いるプロセス開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
(72)【発明者】
【氏名】川渕 達巳
(72)【発明者】
【氏名】伊與田 宗慶
(72)【発明者】
【氏名】杉村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】三村 康貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有輝
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168DA26
4E168DA43
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
4E168JA05
4F211AA04
4F211AA11
4F211AA13
4F211AA16
4F211AA24
4F211AA28
4F211AA29
4F211AC03
4F211AD03
4F211AG01
4F211AG03
4F211AH63
4F211AP05
4F211AR02
4F211AR06
4F211AR07
4F211AR08
4F211AR16
4F211TA01
4F211TC01
4F211TC06
4F211TD11
4F211TH24
4F211TN31
4F211TQ03
(57)【要約】
【課題】接着剤やリベット締結等を用いることなく、熱可塑性樹脂材と金属材とを直接接合する簡便かつ安価な方法であって、接合領域の拡大が容易であり、種々の継手形状に対応できる熱可塑性樹脂材と金属材との直接接合方法を提供する。
【解決手段】金属材と熱可塑性樹脂材が直接接合した樹脂金属接合体を製造する方法であって、酸化性雰囲気下において金属材の表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、表面改質領域に熱可塑性樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、シーム溶接を用いて接合部を形成する第三工程と、を有し、第三工程において、正極と負極を金属材に当接させ、金属材への通電によって被接合界面を昇温する片側抵抗溶接を用いること、を特徴とする抵抗溶接方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材と熱可塑性樹脂材が直接接合した樹脂金属接合体を製造する方法であって、
酸化性雰囲気下において前記金属材の表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、
前記表面改質領域に前記熱可塑性樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、
抵抗溶接を用いて接合部を形成する第三工程と、を有し、
前記第三工程において、正極と負極を前記金属材に当接させ、前記金属材への通電によって前記被接合界面を昇温する片側抵抗溶接を用いること、
を特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
前記正極を正極ローラー、前記負極を負極ローラーとし、
前記正極ローラーと前記負極ローラーを移動させることで片側シーム溶接を施すこと、
を特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接方法。
【請求項3】
前記第三工程において、前記正極ローラー及び前記負極ローラーの接合方向後方に後追いローラーを設け、前記後追いローラーによって前記接合部を加圧すること、
を特徴とする請求項2に記載の抵抗溶接方法。
【請求項4】
前記樹脂金属接合体を使用する状況において、前記樹脂金属接合体に最大の応力が印加される最大応力印加方向を決定する予備工程を有し、
前記第一工程において、前記最大応力印加方向に対して垂直方向に前記パルスレーザを走査すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗溶接方法。
【請求項5】
前記正極ローラー及び前記負極ローラーと前記金属材の間に銅板を配置すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の抵抗溶接方法。
【請求項6】
前記樹脂金属接合体がL字継手であり、
前記L字継手の曲率部に前記接合部を形成すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の抵抗溶接方法。
【請求項7】
前記正極ローラー及び前記負極ローラーと前記L字継手の前記曲率部との間に銅板を配置すること、
を特徴とする請求項6に記載の抵抗溶接方法。
【請求項8】
前記L字継手の前記曲率部に前記接合部を形成した後、前記曲率部の両側面に前記接合部を形成すること、
を特徴とする請求項6に記載の抵抗溶接方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂材をフッ素樹脂材とすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂材と金属材とを接合する方法に関し、より具体的には、接着剤やリベット締結等を用いることなく、熱可塑性樹脂材と金属材とを強固に抵抗溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材と樹脂材との接合には、接着剤やリベット締結を用いるのが一般的である。接着剤を用いる場合は物理的吸着力や化学的吸着力により接合が達成され、リベット締結を用いる場合はリベットによる物理的な締結によって接合が達成される。
【0003】
しかしながら、接着剤を用いる場合、接着剤が濡れ広がるために接合領域が限定される精密な接合には不向きであることに加え、接合強度が被接合面の状態(表面粗さ等)に大きく影響されるという問題がある。更に、接着剤の硬化に必要な時間が生産性を律速すると共に、接着剤の状態維持や管理が難しい等の課題が存在する。
【0004】
また、リベット締結を用いる場合、締結部の大きさや重量によって部品が大型化・重量化することに加え、設計の自由度も低下することから、適用できる部品が限定されてしまう。
【0005】
このような状況において、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びABS樹脂(ABS)等の汎用プラスチックや、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックは、種々の分野で大量に使用されており、これらの熱可塑性樹脂材と金属材との直接接合が望まれている。
【0006】
また、熱可塑性樹脂の中でも、フッ素樹脂は耐薬品性、耐摩耗性、難燃性及び撥水撥油性に優れ、比誘電率及び誘電正接が低い等の特徴的な電気的特性を有するため、医療機器、食品及び薬品等の関連産業において非常に多く使用されており、フッ素樹脂材と金属材との直接接合が切望されている。
【0007】
しかしながら、優れた機械的性質や耐薬品性等を示す熱可塑性樹脂(特にフッ素樹脂)は分子構造が安定で不活性であることから、熱可塑性樹脂材と金属材との直接接合は極めて困難であり、良好な接合部を得るためには基本的に表面処理が不可欠である。
【0008】
現在、工業用途で汎用されている金属ナトリウムを用いた表面処理の場合、エポキシ系接着剤との組み合わせによって高い接着強度が期待できるが、環境上の問題からクリーンな代替手法が望まれている。また、接着剤は耐熱性が低いため、熱可塑性樹脂の特徴を活用した高温雰囲気下での連続使用は難しく、比較的低温での使用に限られてしまう。更に、特に医療や食品等の分野では接着剤の使用は極力控えるべきであり、このような観点からも接着剤を用いない直接接合が望まれている。
【0009】
これに対し、本発明者はレーザ溶接を用いた樹脂金属接合方法を提案している。例えば、特許文献1(国際公開第2021/230025号)において、金属材と熱可塑性樹脂材を直接接合する方法であって、酸化性雰囲気下において前記金属材の表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、前記表面改質領域に前記熱可塑性樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、レーザ照射によって前記被接合界面を昇温して接合を達成する第三工程と、を有し、前記第一工程において、前記表面改質領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成し、前記金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすること、を特徴とする金属熱可塑性樹脂直接接合方法、を提案している。
【0010】
前記特許文献1に記載の金属熱可塑性樹脂直接接合方法においては、金属酸化物粒子の触媒作用を活用することで、レーザ照射を用いた接合行程中に効率的にフッ素樹脂材の強固なC-F結合を解離させることで、カルボキシル基等と金属酸化物粒子に含まれる金属元素とを結合させることができる。
【0011】
また、特許文献2(特開2019-123153号公報)においては、一方の被接合材と他方の被接合材を直接接合する方法であって、前記一方の被接合材がフッ素樹脂材であり、前記一方の被接合材の表面にナトリウムを含む混合溶液を塗布した後、前記混合溶液が塗布された前記表面にレーザ照射を施す第一工程と、前記混合溶液を塗布した前記表面に前記他方の被接合材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、レーザ照射によって前記被接合界面を昇温する第三工程と、を有すること、を特徴とするフッ素樹脂の接合方法、を提案している。
【0012】
前記特許文献2に記載のフッ素樹脂の接合方法においては、レーザ照射によってフッ素樹脂のC-F結合を分離し、フッ素との結合性が高いナトリウムとフッ素とを結合させることで、分子構造が安定で不活性なフッ素樹脂の接合性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2021/230025号
【特許文献2】特開2019-123153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、レーザ溶接を用いて樹脂材と金属材を直接接合する場合、照射するレーザの直径は一般的に数mm程度であり、接合領域を拡大することが困難である。また、照射面におけるレーザ径が変化すると接合状態が安定しないことから、レーザ照射面に起伏等が存在する場合、ロボットによる位置制御では対応することが難しい。加えて、レーザ装置やロボット設備が必要となることから、初期コストが大きくなることも問題となる。
【0015】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、接着剤やリベット締結等を用いることなく、熱可塑性樹脂材と金属材とを直接接合する簡便かつ安価な方法であって、接合領域の拡大が容易であり、種々の継手形状に対応できる熱可塑性樹脂材と金属材との直接接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記目的を達成すべく、熱可塑性樹脂材と金属材の接合方法について鋭意研究を重ねた結果、パルスレーザの照射により金属材の表面に適当な表面改質領域を形成すると共に、片側抵抗溶接を用いること等が効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
即ち、本発明は、
金属材と熱可塑性樹脂材が直接接合した樹脂金属接合体を製造する方法であって、
酸化性雰囲気下において前記金属材の表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、
前記表面改質領域に前記熱可塑性樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、
抵抗溶接を用いて接合部を形成する第三工程と、を有し、
前記第三工程において、正極と負極を前記金属材に当接させ、前記金属材への通電によって前記被接合界面を昇温する片側抵抗溶接を用いること、
を特徴とする抵抗溶接方法、を提供する。
【0018】
本発明の抵抗溶接方法においては、被接合材に電極を接触及び加圧させながら通電し、接合界面及びその近傍に発生するジュール熱を利用して樹脂材と金属材を接合する。熟練が不要であることに加えて設備が比較的安価であり、レーザ溶接と比較して広い領域を接合することが可能である。
【0019】
ここで、熱可塑性樹脂材は基本的に絶縁材であり、熱可塑性樹脂材と金属材とを重ね合わせた状態で、熱可塑性樹脂材側及び金属材側から電極で挟み込んだ場合、通電経路を確保することができない。特に、代表的なフッ素樹脂材であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は固体絶縁材の中で最も誘電率が小さく、電気を通すことができない。これに対し、本発明の抵抗溶接方法においては、正極と負極の両電極を金属材側に配置し、金属材側のみに通電することで通電経路を確保している。
【0020】
また、本発明の抵抗溶接方法では、第一工程において、酸化性雰囲気下で金属材の表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する。当該表面改質領域においては、5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターが形成され、当該金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)が50nm~3μmとなっていることが好ましい。
【0021】
第三工程においてフッ素樹脂材のC-F結合やその他の熱可塑性樹脂材のC-H結合、C-C結合、C=C結合およびC-N結合等の解離が金属酸化物粒子クラスターによって促進され、効率的に強固な接合部を得ることができる。加えて、金属材側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、金属酸化物粒子クラスターと熱可塑性樹脂材との密着性を担保することができる。
【0022】
本発明の抵抗溶接方法においては、前記正極を正極ローラー、前記負極を負極ローラーとし、前記正極ローラーと前記負極ローラーを移動させることで片側シーム溶接を施すこと、が好ましい。シーム溶接を用いることで、連続した接合部を簡便かつ効率的に形成させることができる。
【0023】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記第三工程において、前記正極ローラー及び前記負極ローラーの接合方向後方に後追いローラーを設け、前記後追いローラーによって前記接合部を加圧すること、が好ましい。電極ローラー(正極ローラー及び負極ローラー)による昇温及び加圧に引き続いて後追いローラーで接合部を加圧することで、接合界面強度の向上及び均一化を図ることができる。
【0024】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記樹脂金属接合体を使用する状況において、前記樹脂金属接合体に最大の応力が印加される最大応力印加方向を決定する予備工程を有し、前記第一工程において、前記最大応力印加方向に対して垂直方向に前記パルスレーザを走査すること、が好ましい。
【0025】
樹脂金属接合体においては、実際の使用態様で最大応力が印加される方向に対して良好な強度が発現することが好ましい。当該観点において、第一工程のパルスレーザを最大応力方向に対して垂直方向に走査させることで、最大応力印加方向における引張強度を向上させることができる。
【0026】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記正極ローラー及び前記負極ローラーと前記金属材の間に銅板を配置すること、が好ましい。銅板を配置することで当該銅板が加熱される。その後、加熱された銅板からの熱伝導により金属材が昇温することから、銅板を配置しない場合と比較して、金属材のより広い領域を昇温することができる。その結果、接合領域を効率的に拡大することができる。
【0027】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記樹脂金属接合体がL字継手であり、前記L字継手の曲率部に前記接合部を形成すること、が好ましい。本発明の抵抗溶接方法においては比較的広い範囲を昇温できることに加え、任意の領域への接合圧力の印加も容易であることから、L字継手の曲率部であっても樹脂材と金属材とが密着した良好な接合部を形成することができる。
【0028】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記正極ローラー及び前記負極ローラーと前記L字継手の前記曲率部との間に銅板を配置すること、が好ましい。銅板を配置することで当該銅板が加熱される。その後、加熱された銅板からの熱伝導により金属材が昇温することから、銅板を配置しない場合と比較して、金属材のより広い領域を昇温することができる。その結果、接合領域を効率的に拡大することができ、特に樹脂材と金属材との間に隙間が形成されやすいL字継手の曲率部に接合領域を形成する場合には有効である。
【0029】
また、本発明の抵抗溶接方法においては、前記L字継手の前記曲率部に前記接合部を形成した後、前記曲率部の両側面に前記接合部を形成すること、が好ましい。複数個所の接合において、接合順序は継手の変形や残留応力に影響を及ぼす。また、L字継手においては、樹脂材と金属材との間の空隙にも影響を及ぼす。これに対し、曲率部に接合部を形成した後、当該曲率部の両側面に接合部を形成することで、接合部において樹脂材と金属材とが密着した良好な継手を得ることができる。なお、側面への接合の順番は特に限定されず、任意の側面から接合すればよい。
【0030】
更に、本発明の抵抗溶接方法においては、前記熱可塑性樹脂材をフッ素樹脂材とすること、が好ましい。フッ素樹脂材は最も接合が困難な樹脂材の一つであるが、本発明の抵抗溶接方法を用いることで、金属材と強固に接合することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の抵抗溶接方法によれば、接着剤やリベット締結等を用いることなく、熱可塑性樹脂材と金属材とを直接接合する簡便かつ安価な方法であって、接合領域の拡大が容易であり、種々の継手形状に対応できる熱可塑性樹脂材と金属材との直接接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の抵抗溶接方法の工程図である。
図2】シーム溶接工程の模式図である。
図3】銅板を用いてシーム溶接を施す場合の模式図である。
図4】L字継手の曲率部に接合領域を形成する場合の模式図である。
図5】耐熱鋼材表面に形成された表面改質領域のSEM写真である。
図6】耐熱鋼材表面に形成された表面改質領域の断面のTEM写真である。
図7】せん断引張試験片の形状、サイズ及び切出し位置を示す概略図である。
図8】後追いローラーの押圧力とせん断引張強度の関係を示すグラフである。
図9】実施例2で得られた各樹脂金属接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図10】実施例2で得られた樹脂金属接合体のせん断引張試験後の外観写真である。
図11】実施例3で得られた各樹脂金属接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図12】実施例3で得られた樹脂金属接合体のせん断引張試験後の外観写真である。
図13】実施例4において面接合領域形成の有無を判断した樹脂金属接合体の代表的な外観写真である。
図14】実施例5における溝加工位置及びガラス管挿入位置の模式図である。
図15】実施例5で得られた接合速度と測温された値の最大値との関係を示すグラフである。
図16】実施例6における被接合材の概略図である。
図17】実施例6における曲げ加工を施した耐熱鋼板の外観写真である。
図18】実施例6におけるPTFE板と耐熱鋼板の配置状況を示す模式図である。
図19】実施例6で得られたL字継手の外観写真である。
図20】実施例7で得られた各L字継手の外観写真とシーム溶接の順番である。
図21】実施例7における各L字継手の切断位置を示す写真である。
図22】実施例7で得られた各L字継手の断面写真である。
図23】PTFE板/耐熱鋼板界面の拡大写真である。
図24図23において四角で囲った領域の拡大写真である。
図25】実施例8で得られたL字継手の断面写真である。
図26図25において四角で囲った領域の拡大写真である。
図27】実施例9におけるスポット溶接の状況を示す写真及び模式図である。
図28】実施例9で用いたステンレス鋼板の外観写真及び表面改質領域の拡大写真である。
図29】実施例9においてステンレス鋼板の表面改質領域とPTFE板を当接させた状態を示す模式図である。
図30】実施例9において各通電時間で得られた継手のせん断引張強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の抵抗溶接方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0034】
図1は、抵抗溶接にシーム溶接を用いる場合の本発明の抵抗溶接方法の工程図である。以下、シーム溶接を用いる場合を代表例として説明する。本発明の抵抗溶接方法は、金属材に表面改質領域を形成する第一工程(S01)と、被接合界面を形成する第二工程(S02)と、シーム溶接を用いて接合部を形成する第三工程(S03)と、を有している。以下、各工程について詳述する。
【0035】
(1)第一工程(S01:表面改質領域形成工程)
第一工程(S01)は、強固な接合界面の形成に寄与する表面改質領域を得るための工程である。表面改質領域には、5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターであって、最大高さ(Sz)が50nm~3μmの金属酸化物粒子クラスターを形成する。
【0036】
金属材側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、第三工程(S03)における金属酸化物粒子クラスターと樹脂材との密着性を担保することができる。金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることで、樹脂の充填によって接合部の強度を向上させることができ、3μm以下とすることで、樹脂が充填されずに空隙のまま残存することを抑制できる。より好ましい金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)は100nm~2μmであり、最も好ましい最大高さ(Sz)は200nm~1μmである。
【0037】
また、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることが好ましい。金属酸化物粒子の粒径を50nm以上とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることが容易になる。また、金属酸化物粒子の粒径を200nm以下とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を3μm以下とすることが容易になる。加えて、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることで、当該金属酸化物粒子の表面において樹脂材が加熱された際に、当該樹脂材のC-F結合、C-H結合、C-C結合、C=C結合およびC-N結合等の解離を促進することができる。
【0038】
第一工程(S01)において、具体的には、酸化性雰囲気下において金属材の表面にパルスレーザを照射する。第一工程で用いるレーザは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限されず、従来公知の種々のレーザを用いることができ、例えば、金属材を効率的に加熱できる半導体レーザを好適に用いることができる。
【0039】
パルスレーザの1パルスの照射エネルギーは0.2~1.0mjとすることが好ましい。パルスレーザの1パルスの照射エネルギーを0.2~1.0mjとすることで、照射領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成すると共に、当該金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることができる。
【0040】
また、酸化性雰囲気の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、パルスレーザの照射によって金属材の表面に金属酸化物粒子クラスターが形成される雰囲気とすればよく、例えば、大気中で処理を施せばよい。
【0041】
また、表面改質領域は金属材の被接合界面に形成させればよいが、当該表面改質領域を被接合界面の20%以上の面積とすることが好ましい。表面改質領域を被接合界面の20%以上の面積とすることで、接合部全体として高い継手強度と信頼性を担保することができる。また、表面改質領域は面状に形成してもよく、例えば、線状等として適当なパターンを描いてもよい。
【0042】
また、樹脂金属接合体を使用する状況において、当該樹脂金属接合体に最大の応力が印加される最大応力印加方向を決定する予備工程を有し、第一工程において、当該最大応力印加方向に対して垂直方向にパルスレーザを走査することが好ましい。
【0043】
樹脂金属接合体においては、実際の使用態様で最大応力が印加される方向に対して良好な強度が発現することが好ましい。当該観点において、第一工程のパルスレーザを最大応力方向に対して垂直方向に走査させることで、最大応力印加方向における引張強度を向上させることができる。
【0044】
また、パルスレーザ照射は、パルス痕(ドットパターン)を重畳させ、当該パルス痕の有無に起因する被接合界面の凹部と凸部を制御することが好ましい。また、パルス痕同士が過剰に重畳しないようにパルスレーザ照射を施し、凸部を一定の間隔を空けて整列させることが好ましい。当該状態に被接合界面を制御することにより接合界面強度が向上する詳細な機構については必ずしも明らかになっていないが、金属材の被接合界面に一定の間隔を空けて凸部を形成させることで、接合界面強度を向上させることができる。
【0045】
(2)第二工程(S02:被接合界面形成工程)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で表面改質領域を形成させた金属材と樹脂材とを当接させて、被接合界面を形成させるための工程である。
【0046】
ここで、金属材と樹脂材とは、平面同士を当接させて一般的な重ね合わせの状態としてもよく、L字継手としてもよい。
【0047】
被接合材として用いる樹脂材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の熱可塑性樹脂材を用いることができ、フッ素樹脂材やその他の汎用樹脂材を用いることができる。
【0048】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点:220℃)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、融点:151~178℃)、ポリビニルフルオライド(PVF、融点203℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点:250~275℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点:302~310℃)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE、融点:218~270℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE、融点:245℃)などを挙げることができるが、本発明の抵抗溶接方法では接着剤を用いることなく高温強度に優れた接合部を得ることができることから、融点の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)を用いることが好ましい。
【0049】
また、汎用樹脂としては、各種プラスチック、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックを好適に用いることができる。より具体的には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ABS樹脂(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、PET(Polyethylene Terephthalate)、及び種々の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等を用いることができる。
【0050】
被接合材として用いる金属材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材を用いることができ、例えば、耐熱鋼、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等を用いることができるが、比強度の観点からはアルミニウム、アルミニウム合金、チタン及びチタン合金を用いることが好ましく、耐熱性や耐食性等の観点からは、耐熱鋼、ステンレス鋼、チタン及びチタン合金を用いることが好ましい。
【0051】
(3)第三工程(S03:シーム溶接工程)
第三工程(S03)は、シーム溶接によって第二工程(S02)で形成させた被接合界面を昇温及び加圧し、接合を達成する工程である。
【0052】
図2にシーム溶接工程の模式図を示す。樹脂材2の上に金属材4が配置され、金属材4の表面に正極ローラー6及び負極ローラー8を当接させている。樹脂材2は基本的に絶縁材であるが、金属材4側に正極ローラー6と負極ローラー8を共に配置することで、金属材4を任意の温度に昇温することができる。また、正極ローラー6と負極ローラー8で接合界面に接合圧力を印加することができ、所望の接合温度と接合圧力を実現することができる。
【0053】
加えて、接合方向(正極ローラー6及び負極ローラー8の進行方向)の後方に後追いローラー10が配置され、後追いローラー10によって接合部を再加圧することができる。適当なタイミング及び条件で当該再加圧を実施することで、接合界面強度を向上させることができる。後追いローラー10による押圧力は被接合材の種類、サイズ及び形状等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.2~0.5MPaとすることができる。また、後追いローラー10による加圧タイミングは後追いローラー10と電極ローラー(正極ローラー6及び負極ローラー8)の間隔によって制御することができる。
【0054】
シーム溶接工程における接合界面温度(接合温度)は樹脂材2及び金属材4の種類及びその組合せによって異なり、得られる接合界面強度等に応じて適宜最適化すればよい。例えば、樹脂材2をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、金属材4を耐熱鋼とする場合、接合界面の温度を325℃以上とすることで、接合を達成することができる。接合速度にも依存するが、PTFEと耐熱鋼とを接合する場合の好適な接合温度は350~500℃である。
【0055】
電極ローラーの押圧力、電流値、正極ローラー6と負極ローラー8との間隔等のシーム溶接条件は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知のシーム溶接条件とすることができ、樹脂材2及び金属材4の種類及びその組合せ、樹脂材2及び金属材4のサイズ、形状及び継手形状等に応じて最適化すればよい。
【0056】
銅板を用いてシーム溶接を施す場合の模式図を図3に示す。金属材4の表面に銅板20が配置されており、正極ローラー6と負極ローラー8は銅板20に当接している。当該状態で溶接電流を印加することで、銅板20が加熱され、加熱された銅板20によって樹脂材2/金属材4界面の広い領域を昇温することができる。
【0057】
L字継手の曲率部に接合領域を形成する場合の模式図を図4に示す。図4には銅板を用いる場合の状況を示しており、L字継手の曲率部に銅板20が配置され、正極ローラー6と負極ローラー8は銅板20に当接している。当該態様で溶接電流を印加することで、曲率部における樹脂材2/金属材4界面の広い領域を昇温することができ、樹脂材2と金属材4が密着した良好な接合部を得ることができる。
【0058】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0059】
≪実施例1≫ 接合強度に及ぼす後追いローラー押圧力の影響
図2に示す態様で、フッ素樹脂(PTFE)板と耐熱鋼(SUH409L)板の接合を行った。フッ素樹脂の板厚は1.0mm及び耐熱鋼板の板厚は1.5mmである。
【0060】
耐熱鋼板の被接合界面となる領域に対して大気中にてレーザ照射を施し、表面改質領域を形成させた(第一工程)。レーザにはIPG社製のYLPパルスレーザを用い、レーザの照射条件は平均出力:50W(1パルスのエネルギー:1mj)、フォーカス径:59μm、走査速度:15000588.5μm/sとした。また、レーザ照射のピッチ及びオフセットは、ピッチ:30μm、オフセット:70μmとし、被接合界面の全面に表面改質領域を形成させた。ここで、レーザの照射方向は耐熱鋼板の板幅方向に平行とした。
【0061】
耐熱鋼板表面に形成された表面改質領域のSEM写真(低倍及び高倍)を図5に示す。SEM観察には、日本電子株式会社製のJSM-7100Fを用いた。高倍のSEM写真によって、表面改質領域には5~100nm程度の粒径を有する粒子が連続的に接合されてなるクラスターが形成していることが分かる。また、当該クラスターについてSEMに付随するエネルギー分散形X線分析装置(JED-2300 Analysis Station Plus)を用いてSEM-EDS分析を行ったところ、主としてOとFe等の金属元素が検出された。これらの結果は、表面改質領域に微細な金属酸化物粒子が連続的に接合されてなるクラスターが形成していることを示している。
【0062】
表面改質領域の断面について、TEM観察を行った。TEM観察には日本電子株式会社製のJEM-ARM200Fを用いた。得られたTEM観察画像を図6に示す。金属酸化物粒子からなるクラスターの表面は比較的平滑な状態になっており、最大高さ(Sz)は50nm~3μmとなっていることが分かる。
【0063】
第一工程の後、表面改質領域にPTFE板を重ね合わせ(第二工程)、耐熱鋼板側から正極ローラー及び負極ローラーを当接させてシーム溶接を施し、樹脂金属接合体を得た(第三工程)。第三工程におけるシーム溶接条件は、電流値(I):3.5kA、通電時間(T):20ms、冷却時間(T):100ms、溶接速度(V):0.9m/min、電極ローラー押圧力(F):0.1kN、電極間距離(LEE):40mm、後追いローラー押圧力(F):0.1,0.2,0.3,0.4kN、電極後追いローラー間距離(LER):85mm、後追いローラー幅(W):50mm、後追いローラー直径(d):50mmとした。
【0064】
得られた樹脂金属接合体から図7に示すように試験片を切り出し、1mm/minの引張速度でせん断引張試験を行った。この場合、第一工程におけるレーザの照射方向と引張荷重が印加される方向は平行になる。後追いローラーの押圧力とせん断引張強度の関係を図8に示す。押圧力が小さい場合はせん断引張強度の値にバラつきが大きく、押圧力が大き過ぎる場合はせん断引張強度が低下する傾向が認められる。一方で、押圧力が0.2MPa及び0.3MPaの場合は、高いせん断引張強度が安定して得られていることが分かる。当該結果は、後追いローラーを用いて適当な押圧力で接合部を再加圧することで、良好な接合部が得られることを示している。
【0065】
≪実施例2≫ 接合強度に及ぼすレーザ処理方向の影響
第一工程におけるレーザ処理の方向を耐熱鋼板の板幅方向と垂直にし、第三工程における後追いローラー押圧力を0.4kNとしたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂金属接合体を得た。また、接合強度に及ぼすレーザ処理方向の影響を検討するため、第三工程における後追いローラー押圧力を0.4kNとしたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂金属接合体を得た。
【0066】
実施例1と同様にして各樹脂金属接合体のせん断引張強度を測定した。得られた結果を図9に示す。せん断引張試験における応力の印加方向とレーザの照射方向が垂直になる場合において、高いせん断引張強度が安定して得られていることが分かる。
【0067】
せん断引張試験における応力の印加方向とレーザの照射方向が垂直になる継手のせん断引張試験後の外観写真を図10に示す。最終的な破断位置は接合界面であるが、PTFE板においても破壊が進行しており、高い接合界面強度が得られていたことが分かる。
【0068】
≪実施例3≫ 銅板を用いたシーム溶接
厚さ2mm、幅30mm、長さ200mmの銅板を耐熱鋼板の上に配置し、当該銅板に正極ローラーと負極ローラーを当接させたこと以外は図2に示す態様で、フッ素樹脂(PTFE)板と耐熱鋼板の接合を行った。フッ素樹脂の板厚は1.0mm及び耐熱鋼板の板厚は1.5mmである。
【0069】
レーザ処理の方向を耐熱鋼板の板幅方向と水平又は垂直にしたこと以外は実施例1の第一工程と同様にして、耐熱鋼板の表面に表面改質領域を形成させた。
【0070】
第一工程の後、表面改質領域にPTFE板を重ね合わせ(第二工程)、耐熱鋼板側から正極ローラー及び負極ローラーを当接させてシーム溶接を施し、樹脂金属接合体を得た(第三工程)。第三工程におけるシーム溶接条件は、電流値(I):5.0kA、通電時間(T):999ms、冷却時間(T):1ms、溶接速度(V):0.24m/min、電極ローラー押圧力(F):0.3kN、電極間距離(LEE):4.0mm、後追いローラー押圧力(F):0.3kN、電極後追いローラー間距離(LER):85mm、後追いローラー幅(W):50mm、後追いローラー直径(d):50mmとした。
【0071】
実施例1と同様にして各樹脂金属接合体のせん断引張強度を測定した。得られた結果を図11に示す。せん断引張試験における応力の印加方向とレーザの照射方向が垂直になる場合において、高いせん断引張強度が安定して得られていることが分かる。特に、n=3の試験片においては350MPa以上の高い値が得られており、第一工程の最適化に加えて銅板を用いたシーム溶接を用いることで、極めて良好な接合部を形成することができる。
【0072】
せん断引張試験における応力の印加方向とレーザの照射方向が垂直になる継手におけるn=2及びn=3の試験片せん断引張試験後の外観写真を図12に示す。PTFE板の母材破断となっており、理想的な接合部が得られていることが分かる。
【0073】
≪実施例4≫ 面接合可能な電流値と溶接速度の関係
銅板の厚さを3mmとし、第三工程におけるシーム溶接条件を、電流値(I):5.0,6.0,7.0,8.0kA、溶接速度(V):0.24,0.3~0.54,0.6m/min、電極ローラー押圧力(F):0.4kN、後追いローラー押圧力(F):0.4kN、としたこと以外は実施例3と同様にして、樹脂金属接合体を得た。
【0074】
得られた樹脂金属接合体のPTFE板側の圧痕を目視で確認し、面接合領域形成の有無を判断した。面接合領域を形成することができる最大の溶接速度は、5kAの場合は0.24m/min、6kAの場合は0.36m/min、7kAの場合は0.42m/min、8kAの場合は0.54m/minであり、電流値を増加させることで面接合が可能な溶接速度を増加できることが明らかとなった。面接合領域形成の有無を判断した樹脂金属接合体の代表的な外観写真を図13に示す。枠で囲っている領域において変色が認められ、当該領域が面接合領域である。
【0075】
≪実施例5≫ 接合界面温度の測定
光ファイバーを用いて、シーム溶接中の接合界面の温度を測定した。耐熱鋼板にガラス管の先端を配置するため、横フライス盤を用いて電極間の中心に幅0.3mm、深さ0.3mmの溝加工を施した。溝加工位置及びガラス管挿入位置を模式的に図14に示す。温度により変化する赤外線をガラス管の先端から取り込み、当該赤外線の量を変換装置にて電圧値に変換し、連続的に出力することでシーム溶接中の接合界面の温度を測定した。
【0076】
電流値(I):8.0kA、溶接速度(V):0.30,0.36,0.42,0.48,0.54m/min、電極ローラー押圧力(F):0.3kN、後追いローラー押圧力(F):0.3kN、としたこと以外は実施例4と同様にして、シーム溶接を施した。
【0077】
接合速度と測温された値の最大値との関係を図15に示す。実施例4で明らかになっているように、8.0kAでは0.54m/minが面接合を得ることができる最大の接合速度であり、図15より、当該条件における接合界面の温度は約325℃である。当該結果は、良好な接合界面を形成するためには、接合界面の温度を325℃以上にする必要があることを示している。
【0078】
≪実施例6≫ L字継手の製造
板厚1.0mmのフッ素樹脂(PTFE)板と板厚1.5mmの耐熱鋼板を被接合材とし、L字継手の製造を行った。プレスブレーキを用いて図16に示す寸法で耐熱鋼板に90°の曲げ加工を施した。曲げ加工を施した耐熱鋼板の外観写真を図17に示す。PTFE板を耐熱鋼板に密着させることを目的として、曲げ加工領域のRは3.5mmとした。また、L字継手の接合を行う際にPTFE板が耐熱鋼板に収まるように、PTFE板の短手方向の寸法を耐熱鋼板よりも短くした。
【0079】
実施例2と同様にして第一工程を施した後、図18に示すようにPTFE板と耐熱鋼板を配置し(第二工程)、L字継手の曲率部において耐熱鋼板に正極ローラーと負極ローラーを当接せてシーム溶接を行った(第三工程)。
【0080】
第三工程におけるシーム溶接条件は、電流値(I):3.5kA、通電時間(T):20ms、冷却時間(T):100ms、溶接速度(V):0.9m/min、電極ローラー押圧力(F):0.1kN、電極間距離(LEE):4mm、後追いローラー押圧力(F):0.1kN、電極後追いローラー間距離(LER):85mm、後追いローラー幅(W):50mm、後追いローラー直径(d):50mmとした。また、シーム溶接は、曲率部の一方の側面、曲率部、曲率部の他方の側面の順番で行った。
【0081】
得られたL字継手の外観写真を図19に示す。PTFE板と耐熱鋼板は接合されているが、四角で囲った側面部においてPTFE板と耐熱鋼板が完全に密着しているのに対し、丸で囲った曲率部には僅かに空隙が生じている。当該空隙の原因としては、曲率部における入熱不足が考えられる。
【0082】
≪実施例7≫ L字継手の接合界面に及ぼす接合順番の影響
シーム溶接の順番を(a)曲率部を最初に接合、(b)曲率部を最後に接合、(c)曲率部を2回目に接合、としたこと以外は実施例5と同様にして、L字継手を製造した。得られた各L字継手の外観写真とシーム溶接の順番を図20に示す。
【0083】
各L字継手を図21に示す断面で切断し、接合部におけるPTFE板と耐熱鋼板の密着性を観察した。各L字継手の断面写真を図22に示す。最初に側面を接合した場合、曲率部に空隙が観察される。これは、側面を接合した後に曲率部を接合した場合、PTFE板が側面に拘束された状態で曲率部が接合されるため、当該曲率部に空隙が形成されたものと考えられる。これに対し、曲率部を最初に接合した場合においては、PTFE板と耐熱鋼板は良好に密着しており、顕著な空隙は認められない。当該結果は、PTFE板が拘束されていない状態で曲率部を接合することで、空隙の形成が抑制されることを示している。
【0084】
図22における「(a)曲率部を最初に接合」のn=2のPTFE板/耐熱鋼板界面の拡大写真を図23に示す。また、図23において四角で囲った領域の拡大写真を図24に示す。PTFE板/耐熱鋼板界面は密着しているが、高倍率の観察においては、微小な空隙が認められる(図24の四角で囲った領域)。
【0085】
≪実施例8≫ 銅板を用いたL字継手の製造
第一工程及び第二工程は実施例1と同様にし、図4に示す態様で曲率部のみにシーム溶接を施した。
【0086】
第三工程におけるシーム溶接条件は、電流値(I):8.0kA、通電時間(T):999ms、冷却時間(T):1ms、溶接速度(V):0.42m/min、電極ローラー押圧力(F):0.3kN、電極間距離(LEE):4mm、後追いローラー押圧力(F):0.3kN、電極後追いローラー間距離(LER):85mm、後追いローラー幅(W):50mm、後追いローラー直径(d):50mmとした。
【0087】
実施例6と同様にして得られたL字継手を切断し、断面を観察した。得られた断面観察結果を図25に示す。また、図25のn=2及びn=3の四角で囲った領域の拡大写真を図26に示す。実施例6で得られたL字継手においては、高倍率の観察においても空隙は認められず、PTFE板と耐熱鋼板が極めて良好に密着していることが分かる。これは、銅板を用いたシーム溶接によって、広範囲に接合界面及びその近傍が加熱されたことが原因であると考えられる。
【0088】
《実施例9》 スポット接合部の形成
厚さ1.5mmのステンレス鋼板と厚さ1.0mmのPTFE板を被接合材とし、図27に示す態様にて、スポット接合部を形成させた。実施例1と同様にして、ステンレス鋼板の被接合面に対して大気中にてレーザ照射を施し、表面改質領域を形成させた。ステンレス鋼板の外観写真及び表面改質領域の拡大写真を図28に示す。
【0089】
図29に示すようにステンレス鋼板の表面改質領域とPTFE板を当接させた後、ステンレス鋼板の表面から正極と負極を当接させた状態で通電した。溶接装置はDAIHEN社製のSLAI65-610であり、電源特性は直流インバータ式、電源周波数は60Hzである。なお、ステンレス鋼板側のみへの片側通電を実現するため、図27に示す専用電極を使用した。
【0090】
溶接条件は、電流値:3.0 kA、通電時間:10、11、12、14、16、18、20、30、40、50、60、70、80、90 cycles、押圧力:5.5 kN、初期加圧時間:25 cycles、加圧保持時間:90cyclesとした。
【0091】
各通電時間において3本の継手を作製し、1mm/minの引張速度でせん断引張試験を行った。各通電時間で得られた継手のせん断引張強度を図30に示す。通電時間14~20 cyclesにおいてせん断引張強度のピークが確認され、通電時間16 cyclesでは194 Nの最大値が得られている。当該結果より、電流値3.0 kAでは通電時間14~20 cyclesにおいて高い接合界面強度が得られることが分かる。なお、通電時間が短い場合は発熱が不十分であることに起因する接合界面強度不足、通電時間が長い場合は発熱過多に起因するステンレス及びPTFEの変形や変質が強度低下の原因であると考えられる。
【符号の説明】
【0092】
2・・・樹脂材、
4・・・金属材、
6・・・正極ローラー、
8・・・負極ローラー、
10・・・後追いローラー、
20・・・銅板。
図1
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