(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066639
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】火災検知装置
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20240509BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G08B17/06 Z
G01H17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176166
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
【テーマコード(参考)】
2G064
5C085
【Fターム(参考)】
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
5C085AA11
5C085AA16
5C085AB01
5C085AB03
5C085BA19
5C085CA07
5C085DA16
(57)【要約】
【課題】監視エリアで収音される音響データに基づいて、火災の発生を検知するとともに、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことができる火災検知装置を得る。
【解決手段】監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置と、収音装置により収集された音響データに基づいて、監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する炎検知部とを備えた火災検知装置であって、炎検知部は、あらかじめ設定された初期感度レベルを用いて炎検知処理を実行することで炎が発生したことを検知した場合には、初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて炎検知処理を実行し、監視エリア内の状況把握を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置と、
前記収音装置により収集された前記音響データに基づいて、前記監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する炎検知部と
を備えた火災検知装置であって、
前記炎検知部は、
あらかじめ設定された初期感度レベルを用いて前記炎検知処理を実行することで炎が発生したことを検知した場合には、前記初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて前記炎検知処理を実行し、監視エリア内の状況把握を行う
火災検知装置。
【請求項2】
監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置と、
前記収音装置により収集された前記音響データに基づいて、前記監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する炎検知部と
を備えた火災検知装置であって、
前記収音装置は、前記監視エリア内に複数の収音装置として設置されており、
前記炎検知部は、
前記複数の収音装置のそれぞれにより収音された前記音響データに基づいて前記炎検知処理を実行し、
前記複数の収音装置のうちの少なくとも1つの収音装置で炎が発生したことが検知された場合には、前記複数の収音装置に関して、あらかじめ設定された初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて前記炎検知処理を実行し、監視エリア内の状況把握を行う
火災検知装置。
【請求項3】
前記炎検知部は、前記初期感度レベルを用いて炎が発生したことが検知された場合には、人の発生する音声を検知するための人感モードをオン設定に切り換え、前記収音装置により収音された前記音響データに対して、あらかじめ学習した音声認識処理を実行することで、前記監視エリア内に人がいるか否かを判断する
請求項1または2に記載の火災検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響データに基づいて監視エリアで炎が発生したことを検知する火災検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
監視エリアにおいて炎が発生したことを検知するために、種々の火災感知器が用いられている。具体的なタイプとしては、例えば、差動式スポット型感知器、定温式スポット型感知器、光電式スポット型感知器などが挙げられる。
【0003】
また、火災時に物が燃焼する際に発生する音を検知する火災検知装置もある(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1では、燃焼時の音の特徴をとらえるための燃焼実験を実施し、その音の周波数分析に基づいて火災時と平常時を区別し、火災と判断する方法が開示されている。
【0004】
特に、非特許文献1では、特定の周波数およびレベルを追いかけるのではなく、ある周波数範囲を指定して、その全体のパワー(レベル)の積分値の時間変化をもとに燃焼現象の有無を識別する方法が妥当であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「燃焼音の周波数分析について(第2報)」、消防科学研究所報 31号(平成6年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
火災監視を行うに当たっては、単に火災の発生の有無を判断するだけにとどまらず、火災の広がり状態、火災の鎮火状態、逃げ遅れている人の状態など、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことも重要である。
【0007】
非特許文献1では、暗騒音と燃焼音をより確実に分離できる方策として、音のパワースペクトルの積分値の時間変化という考え方を導入し、火災が発生したか否かを、監視エリア内で収音する音に基づいて判断している。しかしながら、非特許文献1は、火災を検知した後の状況把握までは考慮していない。
【0008】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、監視エリアで収音される音響データに基づいて、火災の発生を検知するとともに、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことができる火災検知装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る火災検知装置は、監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置と、収音装置により収集された音響データに基づいて、監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する炎検知部とを備えた火災検知装置であって、炎検知部は、あらかじめ設定された初期感度レベルを用いて炎検知処理を実行することで炎が発生したことを検知した場合には、初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて炎検知処理を実行し、監視エリア内の状況把握を行うものである。
【0010】
また、本開示に係る火災検知装置は、監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置と、収音装置により収集された音響データに基づいて、監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する炎検知部とを備えた火災検知装置であって、収音装置は、監視エリア内に複数の収音装置として設置されており、炎検知部は、複数の収音装置のそれぞれにより収音された音響データに基づいて炎検知処理を実行し、複数の収音装置のうちの少なくとも1つの収音装置で炎が発生したことが検知された場合には、複数の収音装置に関して、あらかじめ設定された初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて炎検知処理を実行し、監視エリア内の状況把握を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、監視エリアで収音される音響データに基づいて、火災の発生を検知するとともに、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことができる火災検知装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施の形態1に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。
【
図2】先行出願1における火災検知の概要を示した説明図である。
【
図3】先行出願2における火災検知の概要を示した説明図である。
【
図4】先行出願3におけるクリブによる火災検知の概要を示した説明図である。
【
図5】本開示の実施の形態1に係る火災検知装置により監視エリアを監視する状態を示した説明図である。
【
図6】本開示の実施の形態1に係る炎検知部において、判定閾値を初期感度レベルから高感度レベルに変更する具体例を示した説明図である。
【
図7】本開示の実施の形態1に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の火災検知装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本開示に係る火災検知装置は、監視エリアで収音された音響データに基づいて火災発生を検出するとともに、火災発生を検知した後には、感度レベルを初期値よりも高い高感度レベルに変更して、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握監視を継続して行う点に技術的特徴を有するものである。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。本実施の形態1における火災検知装置は、マイク10と、コンピュータ20とを備えて構成されている。
【0015】
マイク10は、炎の監視エリアに設置され、監視エリア内で発生する音を音響データとして収音する収音装置である。なお、マイク10は、監視エリア内に1台設置する場合、複数台設置する場合のいずれも考えられる。
【0016】
マイク10を用いて収音した音響データに基づいて炎の有無を判断する場合には、火災によって副次的に発生する煙を監視するのではなく、燃焼そのものに起因して発生する音響データにフォーカスしているため、より迅速に火災検知できる。さらに、マイク10は、煙感知器のように天井に設置する必要がなく、設置場所を決める際の自由度がある。
【0017】
コンピュータ20は、マイク10で収音された音響データに対して演算処理を施すことで、監視エリアで炎が発生したか否かを判断するコントローラであり、音響データ解析処理部21および炎検知部22を備えている。
【0018】
音響データに基づいて炎が発生したか否かを判断する手法は、本願発明者による以下の3つの先願により詳細に説明されている。
(1)先行出願1(特願2022-166968)
(2)先行出願2(特願2022-166969)
(3)先行出願3(特願2022-166970)
【0019】
先行出願1~先行出願3のそれぞれについて、
図2~
図4を用いて火災検知の概要を説明する。
【0020】
(1)先行出願1における火災検知の概要
先行出願1は、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果から、炎特有の特徴量を抽出して炎発生の有無を判定し、誤報要因を抑制して炎検知の高精度化を実現している。特に、先行出願1では、炎特有の特徴として、定在波以下の周波数帯域におけるピーク周波数を通る1/f揺らぎ特性に着目し、火災検知を行っている。
【0021】
図2は、先行出願1における火災検知の概要を示した説明図である。
図2(A)は、暗騒音、炎、換気扇の3種の音響データに関する周波数スペクトルを示した比較図である。具体的には、
図2(A)では、3種の周波数スペクトルとともに、定在波以下の周波数帯域としてf1=2.1Hzからf2=10.0Hzの周波数帯域において、暗騒音、炎、換気扇のそれぞれについてピーク周波数を通る1/f揺らぎ特性を示している。
【0022】
図2(B)は、定在波以下の周波数帯域における暗騒音、炎、換気扇の3種の音響データに関する平均レベル誤差を示している。なお、
図2(B)では、周波数帯域を2.1Hz~20Hzとした場合の炎に関する平均レベル誤差も比較のために示されている。
【0023】
ここで、「平均レベル誤差」とは、周波数スペクトルと1/f揺らぎ特性との近似度を定量的に特定する指標値として導入されたものである。炎検知部22は、
図2(B)に示すように、例えば、判定閾値を4dBとし、平均レベル誤差が判定閾値以下であるか否かを判定することで、誤報要因と区別して、炎を検出することができる。
【0024】
なお、判定閾値として設定された4dBは、炎が発生したことを検出するために用いられる初期値であり、本開示における初期感度レベルに相当する。
【0025】
(2)先行出願2における火災検知の概要
先行出願2は、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果から、炎特有の特徴量を抽出して炎発生の有無を判定し、誤報要因を抑制して炎検知の高精度化を実現している。特に、先行出願2では、炎特有の特徴として、低域におけるピーク周波数に関して時間経過に伴うレベル推移に着目し、火災検知を行っている。
【0026】
図3は、先行出願2における火災検知の概要を示した説明図である。
図3(A)は、燃焼音およびドア開閉音に関する、低域におけるピーク周波数レベルの時間推移を示している。具体的には、
図3(A)では、ピーク周波数の時系列データに対して、1秒ごとの移動平均化処理を行い、120秒間にわたるレベル推移を求めた場合を例示している。
図3(A)に示した両波形を比較すると、ドア開閉音は、燃焼音と比較するとレベル推移の変動ばらつきが大きいことがわかる。
【0027】
図3(B)は、
図3(A)の波形から、ばらつき度合いを示すレベル変動量を算出した結果を示している。ここで、「レベル変動量」とは、レベル推移の波形から標準偏差を算出した値に相当し、レベル推移の変動ばらつきを定量的に示す指標値として導入されたものである。
【0028】
炎検知部22は、
図3(B)に示すように、例えば、判定閾値を8dBとし、レベル変動量が判定閾値以上であるか否かを判定することで、誤報要因であるドア開閉音と区別して、炎を検出することができる。
【0029】
なお、判定閾値として設定された8dBは、炎が発生したことを検出するために用いられる初期値であり、本開示における初期感度レベルに相当する。
【0030】
(3)先行出願3における火災検知の概要
先行出願3は、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果から、クリブが燃焼することに起因する炎特有の特徴量を抽出してクリブによる炎発生の有無を判定し、誤報要因を抑制して炎検知の高精度化を実現している。ここで、「クリブ」とは、燃焼時にパルシブな音を発生する特定の燃焼物の総称を意味している。
【0031】
特に、先行出願3では、クリブによる炎特有の特徴として、高周波領域における音圧のレベル推移に着目し、クリブによる火災検知を行っている。
【0032】
図4は、先行出願3におけるクリブによる火災検知の概要を示した説明図である。
図4(A)は、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音と換気扇の音のそれぞれについて、音圧のレベル推移の違いを示している。具体的には、
図4(A)では、判定レベルを15dBとした場合に、判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に音圧レベルが変化する発生回数を比較することで、クリブによる燃焼音を識別できる状態を例示している。
【0033】
図4(B)は、
図4(A)の波形から、発生回数をカウントした結果を示している。クリブによる燃焼音での発生回数は、ヘプタンによる燃焼音での発生回数および換気扇の音での発生回数と比較して、より多くの発生回数がカウントされることとなる。炎検知部22は、
図4(B)に示すように、例えば、判定閾値を10回とし、発生回数が判定閾値以上であるか否かを判定することで、誤報要因である換気扇の音と区別して、クリブによる炎を検出することができる。
【0034】
なお、判定閾値として設定された10回は、クリブによる炎が発生したことを検出するために用いられる初期値であり、本開示における初期感度レベルに相当する。
【0035】
本開示の
図1の説明に戻ると、
図1に示した音響データ解析処理部21は、マイク10を介して取得した音響データに対して、上述した先行出願1~先行出願3のような種々の手法により、炎を検出するための定量的な値を特徴量として算出する。さらに、
図1に示した炎検知部22は、算出した特徴量と判定閾値との比較結果に基づいて、炎が発生したか否かを判断することとなる。
【0036】
次に、
図5~
図7を用いて、本実施の形態1に係る火災検知装置の機能について詳細に説明する。なお、
図1では、音響データ解析処理部21と炎検知部22とを独立した個別の構成として説明した。ただし、炎検知部22により、音響データ解析処理部21の処理も含めて実行する構成とすることもできる。そこで、以下では、音響データに基づくすべての処理を、炎検知部22で実行する構成を採用することとして、詳細な説明を行うこととする。
【0037】
図5は、本開示の実施の形態1に係る火災検知装置により監視エリアを監視する状態を示した説明図である。
図5に示した火災検知装置は、3つのマイク10(1)~10(3)と、炎検知部22とを備えて構成されている。
【0038】
マイク10(1)~10(3)は、監視エリア内の異なる位置にそれぞれ設置されており、監視エリア内で発生する音を音響データとして収集する収音装置である。なお、マイク10(1)~10(3)は、設置位置に自由度があり、天井に限らず、監視エリアの壁面、監視エリア内の机の上など、適切な場所に配置することができる。
【0039】
従って、後付けで、あるいは一時的に、音響データに基づく火災検知機能を付加したい場合にも、容易に対応することができる。すなわち、比較的簡単な構成で、種々の監視エリアにおける炎検知処理を実現できる。
【0040】
炎検知部22は、複数のマイク10(1)~10(3)のそれぞれと接続されており、複数のマイク10(1)~10(3)のそれぞれによって集音された音響データに基づいて、監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する。この炎検知処理としては、上述した先行出願1~先行出願3のいずれか、あるいはそれらの組合せを適用することができる。
【0041】
炎検知部22は、炎検知処理を実施する初期段階では、あらかじめ設定された初期感度レベルを用いて炎が発生したか否かを判断する。そして、炎検知部22は、初期感度レベルを用いて炎検知処理を実行することで、複数のマイク10のうちの少なくとも1つのマイクによって収音された音響データによって炎が発生したことを検知した場合には、複数のマイク10に関して、あらかじめ設定された初期感度レベルよりも高い感度に設定された高感度レベルを用いて炎検知処理を実行する。
【0042】
例えば、
図5の構成において、炎検知部22は、マイク10(1)よって収音された音響データによって炎が発生したことを検知した場合には、マイク10(1)~マイク10(3)のすべてについて、初期感度レベルよりも高い感度としてあらかじめ設定された高感度レベルに切り換えて、炎検知処理を継続する。
【0043】
図6は、本開示の実施の形態1に係る炎検知部22において、判定閾値を初期感度レベルから高感度レベルに変更する具体例を示した説明図である。
図6(A)では、
図2を用いて説明した先行出願1による火災検知処理を用いる場合に、高感度レベルに設定変更する状態を矢印で示している。先行出願1による火災検知処理を用いる場合には、初期感度レベルが4dBとして設定されていた場合には、高感度レベルとして4dBよりも大きな値に設定変更される。
【0044】
図6(B)では、
図3を用いて説明した先行出願2による火災検知処理を用いる場合に、高感度レベルに設定変更する状態を矢印で示している。先行出願2による火災検知処理を用いる場合には、初期感度レベルが8dBとして設定されていた場合には、高感度レベルとして8dBよりも大きな値に設定変更される。
【0045】
図6(C)では、
図4を用いて説明した先行出願3による火災検知処理を用いる場合に、高感度レベルに設定変更する状態を矢印で示している。先行出願3による火災検知処理を用いる場合には、初期感度レベルが10回として設定されていた場合には、高感度レベルとして10回よりも小さな値に設定変更される。
【0046】
いずれの場合も、高感度レベルに設定変更することで、炎を検出する感度は高くなるものの、誤検出要因に対する余裕度が少なくなり、暗騒音、換気扇の音、ドア開閉音などを、炎として誤検出するおそれが高くなる。しかしながら、すでに初期感度レベルにより炎を検出した後に高感度レベルに設定変更しているため、炎を未検出の状態から検出状態として誤検出することはない。
【0047】
さらに、高感度レベルに設定変更することで、火災の広がり状態、火災の鎮火状態などをより高感度で検出できるメリットが得られる。例えば、
図5の構成において、炎検知部22は、マイク10(1)よって収音された音響データによって炎が発生したことを検知した場合には、マイク10(1)~マイク10(3)のすべてについて、高感度レベルに切り換えて、炎検知処理を継続する。
【0048】
このようにして炎検知処理を継続することで、高感度レベルを用いて、マイク10(2)による音響データ、あるいはマイク10(3)による音響データによって炎が検出できる状態となった場合には、マイク10(1)による音響データによって炎が検出できたときよりも、より小さな炎を検知できる。
【0049】
また、最初に炎を検出することに寄与したマイク10(1)の音響データに関しても、炎が発生したことを検知した後に高感度レベルに切り換えて監視を継続することで、火災が鎮火状態になっていないことをより正確に検知できる。
【0050】
さらに、本実施の形態1に係る炎検知部22は、監視エリアに逃げ遅れた人がいないかを音響データに基づいた判断する逃げ遅れ検知機能をさらに有している。そこで、この逃げ遅れ検知機能について、具体的に説明する。
【0051】
炎検知部22は、初期感度レベルを用いて炎が発生したことが検知された場合には、高感度レベルに設定変更して監視を継続するとともに、人の発声した音声を検知するための人感モードをオン設定に切り換える。
【0052】
そして、炎検知部22は、人感モードがオン設定となることで、複数のマイク10(1)~10(3)のそれぞれにより収音された音響データに対して、あらかじめ学習した音声認識処理を実行し、音声検出を行う。
【0053】
すなわち、炎検知部22は、監視エリア内で人が発声した音声を検出するために、監視エリア内で音声を含む種々の音響データを入力として、音声を識別するための音声認識処理を学習モデルとして事前に作成しておく。
【0054】
そして、炎検知部22は、人感モードがオン設定となった際には、事前に学習した音声認識処理を用いて、監視エリア内で音声が検出された場合には、逃げ遅れた人が監視エリア内に存在すると判断することができる。
【0055】
次に、フローチャートを用いて、本実施の形態1に係る火災検知装置において実行される一連処理について説明する。
図7は、本開示の実施の形態1に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。なお、以下の説明では、監視エリア内に複数のマイク10が設置されている場合を具体例として説明する。
【0056】
まず初めに、ステップS701において、炎検知部22は、監視エリア内に設置された複数のマイク10を介して、監視エリア内で発生する音響データの収音処理を実行する。
【0057】
次に、ステップS702において、炎検知部22は、複数のマイク10のそれぞれによって集音された音響データに基づいて、監視エリアで炎が発生したことを検知する炎検知処理を実行する。
【0058】
次に、ステップS703において、炎検知部22は、炎検知処理を実行した結果、炎発生が検知されたか否かを判定する。そして、炎検知部22は、炎が検知された場合にはステップS704以降の処理を実行し、炎が検知されなかった場合には一連処理を終了する。
【0059】
ステップS704に進んだ場合には、炎検知部22は、複数のマイク10に関する判定閾値を、初期感度レベルから高感度レベルに設定変更し、炎検知処理を継続する。この結果、炎検知部22は、炎発生が一度検出された後に、火災の広がり状態、火災の鎮火状態などをより高感度で検出できることとなる。換言すると、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握監視を継続して行うことができる。
【0060】
次に、ステップS705において、炎検知部22は、人感モードをON設定に切り換えることで、あらかじめ学習した音声認識処理による逃げ遅れ検知処理を実行する。すなわち、炎検知部22は、音響データに対して音声認識処理を施すことで、監視エリア内に取り残されている人の音声が収音できたか否かを判断する。
【0061】
次に、ステップS706において、炎検知部22は、音声認識処理を実行した結果、監視エリア内に逃げ遅れの人を検知できたか否かを判断する。そして、炎検知部22は、逃げ遅れの人が検知された場合にはステップS707の処理を実行し、逃げ遅れの人が検知されなかった場合には一連処理を終了する。
【0062】
なお、ステップS706において、炎検知部22によって音声認識処理を実行した結果、監視エリア内に逃げ遅れの人が検知された場合には、さらに、この結果に連動して動作するカメラを起動することで、逃げ遅れの人がいるか否かも含めた監視エリア内の状況把握をカメラによる撮像画像を用いて行うことが可能となる。
【0063】
ステップS707に進んだ場合には、炎検知部22は、逃げ遅れの人を検知したことに伴う報知処理を実行する。例えば、炎検知部22は、監視エリア内で逃げ遅れている人に対しては、非常口や避難経路に誘導する報知処理を実行することができる。また、炎検知部22は、監視エリア外の人、あるいは上位装置に対しては、監視エリア内で逃げ遅れている人がいることが検知されたことを知らせ、救助を促すための報知処理を実行することができる。
【0064】
なお、
図7のフローチャートでは、複数のマイクを用いてステップS701~ステップS707によるフル機能を実施する場合について説明したが、本開示に係る火災検知装置は、このようなフル機能を実施する場合には限定されず、以下のような処理を行う構成1~構成3を採用することも可能である。
【0065】
構成1:ステップS701~ステップS704の機能を実施し、人感モードによる逃げ遅れ検知処理はオプションとして実施する構成。
構成2:マイクを1台のみとして、ステップS701~ステップS707によるフル機能を実施する構成。
構成3:マイクを1台のみとして、ステップS701~ステップS704の機能を実施し、人感モードによる逃げ遅れ検知処理はオプションとして実施する構成。
【0066】
いずれの構成によっても、監視エリアで収音される音響データに基づいて、火災の発生を検知するとともに、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことができる火災検知装置を実現できる。
【0067】
以上のように、実施の形態1によれば、監視エリアで収音された音響データに基づいて火災発生を検出するとともに、火災発生を検知した後には、感度レベルを初期値よりも高い高感度レベルに変更して、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握監視を継続して行うことができる。
【0068】
特に、本実施の形態1に係る火災検知装置は、以下のような効果が得られる。
効果1:マイクの設置位置に自由度があり、後付けで、あるいは一時的に火災監視機能を付加したい場合にも、容易に対応することができる。すなわち、比較的簡単な構成で、種々の監視エリアにおける火災検知処理、および逃げ遅れ検知処理を実現できる。
【0069】
効果2:火災によって副次的に発生する煙を監視するのではなく、燃焼そのものに起因して発生する音響データにフォーカスして火災検知処理を行っているため、より迅速に火災検知できる。さらに、音響データに対して音声認識処理をさらに実施することで、監視エリア内に人が存在するか否かを的確に判断することができる。
【0070】
効果3:本開示による火災検知方法と、他のセンサによる火災検知方法を組み合わせることで、誤報要因を抑制して、炎が発生したか否かをより高精度に検知することができる。すなわち、音響データを活用する利点を活かして、火災の発生を検知するとともに、火災を検知した後における監視エリア内の状況把握を行うことができる機能を兼ね備えた火災検知手法を構築することができる。
【0071】
効果4:本開示による火災検知方法によって音響データに対して音声認識処理をさらに実施することで、監視エリア内に人が存在すると判断された場合には、さらにカメラを連動させることで、撮像画像を用いて監視エリア内の逃げ遅れた人も含めた状況把握を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
10 マイク(収音装置)、20 コンピュータ、21 音響データ解析処理部、22 炎検知部。