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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066640
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】トンネル監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20240509BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240509BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176167
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA11
2G064AB01
2G064AB13
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】監視エリアであるトンネル内で収音される音響データに基づいて、トンネル内の状態を高精度に表示することができるトンネル監視システムを得る。
【解決手段】監視エリアであるトンネル内において、トンネルの両端方向に一列に配置され、トンネル内で発生する音響データをそれぞれ収音する複数の収音装置と、複数の収音装置のそれぞれで収音された音響データについて周波数分析を行うことで帯域毎の音圧レベルを算出し、複数の収音装置のそれぞれの位置における帯域毎の音圧レベルを識別可能な表示データを作成し、表示部に表示データを表示させる音響データ処理部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視エリアであるトンネル内において、トンネルの両端方向に一列に配置され、前記トンネル内で発生する音響データをそれぞれ収音する複数の収音装置と、
前記複数の収音装置のそれぞれで収音された前記音響データについて周波数分析を行うことで帯域毎の音圧レベルを算出し、前記複数の収音装置のそれぞれの位置における前記帯域毎の音圧レベルを識別可能な表示データを作成し、表示部に前記表示データを表示させる音響データ処理部と
を備えるトンネル監視システム。
【請求項2】
前記音響データ処理部は、前記複数の収音装置のそれぞれで収音された前記音響データについて算出した前記帯域毎の音圧レベルに関して、縦軸を帯域とし、横軸を前記トンネル内に設置された前記複数の収音装置の位置とし、前記音圧レベルを大きさに応じた色識別表示を行うようにして前記表示データを作成する
請求項1に記載のトンネル監視システム。
【請求項3】
前記音響データ処理部は、前記複数の収音装置のそれぞれで収音された前記音響データについて算出した前記帯域毎の音圧レベルに関して、縦軸を音圧レベルとし、横軸を前記トンネル内に設置された前記複数の収音装置の位置とし、前記複数の収音装置のそれぞれで収音された前記音響データについて算出した前記帯域毎の音圧レベルに基づいて前記複数の収音装置の位置ごとに周波数重心を算出し、前記周波数重心における音圧レベルについて前記周波数重心を大きさに応じた色識別表示を行うようにして前記表示データを作成する
請求項1に記載のトンネル監視システム。
【請求項4】
前記音響データ処理部は、前記複数の収音装置のそれぞれにより収音された前記音響データに対して、あらかじめ学習した音声認識処理を実行することで、人による発声音が含まれている音響データがあるか否かを判定し、前記発声音が含まれている音響データがあると判定した場合には、前記発声音が含まれている音響データを収音した収音装置の位置から前記トンネル内にいる人の位置を特定し、特定結果を前記表示部に表示させる
請求項1から3のいずれか1項に記載のトンネル監視システム。
【請求項5】
前記複数の収音装置は、前記トンネル内において前記発声音を収音するために適した高さに設置されている
請求項4に記載のトンネル監視システム。
【請求項6】
前記音響データ処理部は、
前記複数の収音装置のそれぞれにおける発声音の周波数帯域における平均音圧レベルを算出し、
前記平均音圧レベルの中で最大値を有する音響データが収音された収音装置を第1の収音装置として特定し、
前記最大値からあらかじめ設定された減衰音圧量以内の平均音圧レベルを有する音響データが収音された収音装置を第2の収音装置として特定し、
前記第1の収音装置の位置から前記第2の収音装置の位置までの範囲をさらに識別表示するようにして前記表示データを作成する
請求項1から3のいずれか1項に記載のトンネル監視システム。
【請求項7】
前記音響データ処理部は、10Hz以下の低周波帯域において前記音圧レベルがピークとなる位置を放水位置として特定し、特定結果を前記表示部に表示させる
請求項1から3のいずれかに1項に記載のトンネル監視システム。
【請求項8】
前記音響データ処理部は、あらかじめ決められた間隔ごとに算出した平均音圧レベルを前記音圧レベルとし、前記間隔ごとに前記表示データを作成することで更新する
請求項1から3のいずれか1項に記載のトンネル監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視エリアであるトンネル内で収音した音響データに基づいて、トンネル内の状況を把握するための表示データの作成および表示を行うトンネル監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物内で発声する音の収音結果に基づいて、建物内の異常状態を精度良く簡易に検出できる異常音監視システムがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された異常音監視システムは、建物内で収音された音情報から異常音を抽出するとともに、音情報の音源位置を推定し、推定結果に基づいて異常音の危険度合を示す危険値を算出している。
【0003】
この結果、特許文献1に開示された異常音監視システムは、異常音の種類、音源位置などの情報に基づいて、多様な要因を考慮して異常音の危険値を高精度に算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-159966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1は、異常音を精度よく抽出する必要があるが、監視エリアによって、反射などの影響で異常音の抽出精度が悪化する。特に、監視エリアをトンネル内とした場合には、トンネル内での音の反射の影響により、異常音の判別、および正確な音源位置の検知が困難になる。
【0006】
また、特許文献1では、異常音の発生位置および移動遷移を表示することも行っている。しかしながら、トンネルを監視エリアとした場合には、音源位置の検出精度自体が劣化してしまうため、表示内容も信頼性が劣化してしまう。
【0007】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、監視エリアであるトンネル内で収音される音響データに基づいて、トンネル内の状態を高精度に表示することができるトンネル監視システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るトンネル監視システムは、監視エリアであるトンネル内において、トンネルの両端方向に一列に配置され、トンネル内で発生する音響データをそれぞれ収音する複数の収音装置と、複数の収音装置のそれぞれで収音された音響データについて周波数分析を行うことで帯域毎の音圧レベルを算出し、複数の収音装置のそれぞれの位置における帯域毎の音圧レベルを識別可能な表示データを作成し、表示部に表示データを表示させる音響データ処理部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、監視エリアであるトンネル内で収音される音響データに基づいて、トンネル内の状態を高精度に表示することができるトンネル監視システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1に係るトンネル監視システムの全体構成を示した説明図である。
図2】本開示の実施の形態1において、人の発声音に関する音響データの周波数分析結果であるスペクトログラムを示した説明図である。
図3】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを表示させた第1の表示例である。
図4】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを表示させた第2の表示例である。
図5】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と放水音とを識別する具体例を示した説明図である。
図6】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と警告音とを識別する具体例を示した説明図である。
図7】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と車両音とを識別する具体例を示した説明図である。
図8】本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部において、複数のマイクで収音された音響データから、発声音の減衰方向を特定する場合の説明図である。
図9】本開示の実施の形態1に係るトンネル監視システム内の音響データ処理部において実行される表示データの作成に関する一連処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示のトンネル監視システムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本開示に係るトンネル監視システムは、監視エリアであるトンネル内において複数の収音装置から集音された音響データに基づいて帯域毎の音圧レベルを算出し、複数の収音装置のそれぞれの位置における帯域毎の音圧レベルを識別表示する点に技術的特徴を有し、識別表示結果を視認したオペレータは、トンネル内の状態を高精度に把握することができるものである。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係るトンネル監視システムの全体構成を示した説明図である。本実施の形態1におけるトンネル監視システムは、複数のマイク10と、音響データ処理部20とを備えて構成されている。
【0013】
複数のマイク10は、監視エリアであるトンネル内において、トンネルの入口と出口との間の異なる位置にそれぞれ配置された収音装置に相当する。図1においては、複数のマイク10が、N台のマイク10(1)~10(N)として構成され、トンネルの両端方向に一列に配置されている場合を例示している。
【0014】
マイク10は、煙感知器のようにトンネル内の天井に設置する必要がなく、設置場所を決める際の自由度がある。特に、トンネル内において発声音に基づいてトンネル内に人がいるか否かを判断するための音響データを収音する目的では、発声音を収音することに適した高さに設置することができる。適した高さの具体例としては、トンネル内で人が歩行する底面から1.2m~1.7mの範囲が挙げられる。
【0015】
音響データ処理部20は、複数のマイク10のそれぞれで収音された音響データについて周波数分析を行うことで帯域毎の音圧レベルを算出する。さらに、音響データ処理部20は、複数のマイク10のそれぞれの位置における、帯域毎の音圧レベルを識別可能とする表示データを作成し、表示部に表示データを表示させる。ここで、音響データ処理部20は、例えば、トンネルを集中監視する中央管制室内に設置することができる。
【0016】
なお、音響データ処理部20は、あらかじめ決められた間隔ごとに算出した平均音圧レベルを音圧レベルとし、間隔ごとに表示データを作成することで、順次表示データを更新することができる。例えば、音響データ処理部20は、あらかじめ設定した間隔として1sを採用し、1秒間にわたる平均値として音圧レベルを算出して表示データの更新処理を行うことで、ノイズの影響を抑制することができる。
【0017】
本実施の形態1に係るトンネル監視システムは、音響データに基づいて表示データを生成することで、表示データを視認したオペレータにとって、トンネル内における人の発声音、警告音、車のアイドリング音、放水音など、トンネル内の状況を推測する一助となる点に特徴がある。
【0018】
特に、トンネル内で火災等の緊急事態が発生した際に、トンネル内で逃げ遅れた人がいないかを視覚的に判断するための情報を提供することにも活用できる。そこで、トンネル内で発生する種々の音を識別表示する具体的な手法について、図を用いて以下に説明する。
【0019】
図2は、本開示の実施の形態1において、人の発声音に関する音響データの周波数分析結果であるスペクトログラムを示した説明図である。図2において、縦軸は周波数、横軸は時間であり、音響データのスペクトログラムに関する時系列データが表示されているとともに、音圧レベルが色識別表示されている。
【0020】
人の声の帯域は、100~2000Hzが大きい。一方、放水音は、放水量にもよるが、消火活動などの放水は、低域が大きくなり、高域になるほど減衰していく。従って、周波数分析結果に伴うこのような差異を可視化することによって、発声音と放水音との区別が可能となる。
【0021】
図3は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを表示させた第1の表示例である。第1の表示例において、縦軸は周波数、横軸は複数のマイク10の設置位置に対応した場所であり、それぞれの設置場所において収音された音響データの周波数分析結果が、帯域毎の音圧レベルとして示されている。
【0022】
ここで、図3に示した第1の表示例では、音圧レベルが、大きさに応じて色識別表示されている。すなわち、図3に示した第1の表示例では、周波数、位置、音圧レベルの3つの要素からなる3次元の情報が、周波数を縦軸とし、位置を横軸とし、音圧レベルを色識別表示とすることで、表現されている。
【0023】
さらに、図3では、場所4に相当する位置で人による発声音を発生させ、場所9に相当する位置で放水音を発生させ、その際に、複数のマイク10で収音された音響データを周波数分析した結果として得られた表示データを示している。
【0024】
図3から明らかなように、発声音に関しては場所4において、100~2000Hzの帯域で最も高い音圧レベルが得られ、放水音に関しては場所9において、0~10Hzの低周波帯域で最も高い音圧レベルが得られた。
【0025】
なお、音響データ処理部20は、100~2000Hzの帯域で最も高い音圧レベルが得られた場所を人検知位置として特定することができ、図3に示した第1の表示例では、場所4に丸印とともに「人検知位置」という文字が表示されている。
【0026】
従って、図3に示した第1の表示データを視認することで、中央管制室内にいるオペレータは、トンネル内の場所4の位置に人がいる可能性が高いと判断することができる。
【0027】
図4は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを表示させた第2の表示例である。第2の表示例において、縦軸は音圧レベル、横軸は複数のマイク10の設置位置に対応した場所であり、それぞれの設置場所において収音された音響データの周波数分析結果が、場所毎の最も高い音圧レベルとして示されている。
【0028】
ここで、図4に示した第2の表示例では、最も高い音圧レベルのそれぞれに関する周波数重心が、大きさに応じて色識別表示されている。すなわち、図4に示した第2の表示例では、音圧レベル、位置、周波数の3つの要素からなる3次元の情報が、音圧レベルを縦軸とし、位置を横軸とし、周波数重心を色識別表示とすることで、表現されている。
【0029】
さらに、図4では、先の図3と同様に、場所4に相当する位置で人による発声音を発生させ、場所9に相当する位置で放水音を発生させ、その際に複数のマイク10で収音された音響データを周波数分析した結果として得られた表示データを示している。
【0030】
音源に、より近いマイク10で収音された音響データほど、音圧レベルがより高くなる。従って、図4から明らかなように、発声音に関してはマイク10(5)の近傍において、100~2000Hzの帯域に周波数重心を有する最も高い音圧レベルが得られ、放水音に関してはマイク10(10)の近傍において、0~10Hzの帯域に周波数重心を有する最も高い音圧レベルが得られた。
【0031】
従って、図4に示された第2の表示データを視認することで、中央管制室内にいるオペレータは、トンネル内のマイク10(5)の設置位置の近傍に人がいる可能性が高いと判断することができる。
【0032】
第1の表示例、第2の表示例のいずれを採用した場合にも、複数のマイク10のそれぞれの位置における帯域毎の音圧レベルを識別可能となり、トンネル内の人検知に効果を発揮できる。
【0033】
次に、図5図7を用いて、放水音、警告音、アイドリング状態における車両音のそれぞれの状態が発生した場合と、人の発声音が発生した場合とを、周波数分析結果の比較から識別できる点について、個別に説明する。なお、図5図7では、図3に示したような第1の表示例を用いた場合として説明する。
【0034】
図5は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と放水音とを識別する具体例を示した説明図である。
【0035】
なお、図5では、場所4に相当する位置で人による発声音を発生させ、場所9に相当する位置で放水音を発生させ、その際に複数のマイク10で収音された音響データを周波数分析した結果として得られた表示データを示している。また、図5の上段では、トンネル内の人の位置および放水位置が模式的に示されている。
【0036】
消火用の放水のような勢いの強い水流は、10Hz以下の低域にピークを有する音圧レベルになる。一方、発声音は、100~2000Hzの帯域にピークを有する音圧レベルになる。従って、図5を視認したオペレータは、放水音と区別して、トンネル内の場所4の位置に人がいる可能性が高いと判断することができる。
【0037】
図6は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と警告音とを識別する具体例を示した説明図である。
【0038】
なお、図6では、場所4に相当する位置で人による発声音を発生させ、場所9に相当する位置で警告音を発生させ、その際に複数のマイク10で収音された音響データを周波数分析した結果として得られた表示データを示している。また、図6の上段では、トンネル内の人の位置および警告音の再生位置が模式的に示されている。
【0039】
火災発生時に鳴動するサイレンのような警告音は、300Hz~4kHzの帯域にわたり、低い周波数から高い周波数まで連続的に変化し、時間的に周波数が変化するスィープ音となる。一方、発声音は、100~2000Hzの帯域にピークを有する音圧レベルになる。従って、図6を視認したオペレータは、警告音と区別して、トンネル内の場所4の位置に人がいる可能性が高いと判断することができる。
【0040】
図7は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20により、周波数分析結果に基づいて生成された表示データを用いて、人の発声音と車両音とを識別する具体例を示した説明図である。
【0041】
なお、図7では、場所4に相当する位置で人による発声音を発生させ、場所9に相当する位置でアイドリング状態の車両音を発生させ、その際に複数のマイク10で収音された音響データを周波数分析した結果として得られた表示データを示している。また、図7の上段では、トンネル内の人の位置および車停止位置が模式的に示されている。
【0042】
アイドリング状態の車両音は、25Hz付近でピークとなる。一方、発声音は、100~2000Hzの帯域にピークを有する音圧レベルになる。従って、図7を視認したオペレータは、車両音と区別して、トンネル内の場所4の位置に人がいる可能性が高いと判断することができる。
【0043】
なお、図5図7では、トンネル内の人の位置を特定する場合について説明した。ただし、本開示に係るトンネル監視システムでは、複数のマイク10がトンネルの両端方向に一列に配置され、それぞれ異なる場所で音響データを収音できる。従って、各場所における音圧レベルの違いから、どの方向に向けて発声音が徐々に減衰しているかを推測することができる。
【0044】
図8は、本開示の実施の形態1に係る音響データ処理部20において、複数のマイクで収音された音響データから、発声音の減衰方向を特定する場合の説明図である。図8では、トンネル内に12台のマイク10(1)~10(12)がトンネルの両端方向に配列されている。
【0045】
音響データ処理部20は、それぞれのマイク10(1)~10(12)により得られた音響データを周波数分析することで、発声音の周波数帯域における平均音圧レベルを算出する。図8の例では、発声音の周波数帯域を100Hz~2000Hzの帯域として、それぞれのマイク10(1)~10(12)に対応する平均音圧レベルが、0dB、6dB、10dB、15dB、17dB、20dB、10dB、5dB、3dB、0dB、0dB、0dBとして算出された場合を示している。
【0046】
次に、音響データ処理部20は、それぞれのマイク10(1)~10(12)に対応して算出した12個の平均音圧レベルの中で最大値を有する音響データが収音されたマイク10を第1の収音装置として特定する。図8の例では、発声音の周波数帯域における平均音圧レベルの最大値が20dBであり、最大値20dBが収音されたマイク10(6)が第1の収音装置として特定される。
【0047】
次に、音響データ処理部20は、最大値からあらかじめ設定された減衰音圧量以内の平均音圧レベルを有する音響データが収音されたマイク10を第2の収音装置として特定する。図8の例では、最大値が20dBであり、あらかじめ設定された減衰音圧量を6dBとした場合に、14dB以上の平均音圧レベルを有する音響データが収音されたマイク10(4)およびマイク10(5)が第2の収音装置として特定される。
【0048】
次に、音響データ処理部20は、第1の収音装置として特定されたマイク10(6)の位置から、第2の収音装置として特定されたマイク10(4)およびマイク10(5)の位置までの範囲を、さらに識別表示するようにして表示データを作成する。図8の例では、マイク10(6)を始点とし、マイク10(4)を終点として、マイク10(4)~マイク10(6)の範囲を識別表示するための矢印が、表示データの一部として示されている。
【0049】
従って、図8に示したような矢印による識別表示をさらに視認したオペレータは、マイク10(6)の位置に人が存在し、かつ、マイク10(4)の方向に発声していることを推測できる。さらに、オペレータは、このような矢印による識別表示を含んで逐次更新される表示データを、時系列的に視認していくことで、どの方向に人が移動しているかを推測することができる。
【0050】
なお、上述した具体例では、表示データを視認したオペレータが、発声音の特徴があるか否かを判断していたが、必要に応じて、音響データに対して音声認識処理を実行することで、発声音が含まれているか否かを音響データ処理部20によって定量的に特定することも考えられる。
【0051】
この場合、音響データ処理部20は、複数のマイク10のそれぞれにより収音された音響データに対して、あらかじめ学習した音声認識処理を実行することで、人による発声音が含まれている音響データがあるか否かを判定する。そして、音響データ処理部20は、発声音が含まれている音響データがあると判定した場合には、発声音が含まれている音響データを収音したマイク10の位置を、トンネル内にいる人の位置として特定し、特定結果を表示部に表示させることができる。
【0052】
音声認識処理を実行することで特定された位置は、「人検知位置」として、先の図3で示した場合と同様にして識別表示させることができる。
【0053】
次に、フローチャートを用いて、本実施の形態1に係る音響データ処理部20において実行される一連処理について説明する。図9は、本開示の実施の形態1に係るトンネル監視システム内の音響データ処理部20において実行される表示データの作成に関する一連処理を示したフローチャートである。
【0054】
まず初めに、ステップS901において、音響データ処理部20は、監視エリアであるトンネル内に設置された複数のマイク10を介して、トンネル内のそれぞれの場所で発生する音響データの収音処理を実行する。
【0055】
次に、ステップS902において、音響データ処理部20は、複数のマイク10のそれぞれによって集音された音響データを周波数分析することによって、各マイク10の設置位置における帯域毎の音圧レベルを算出する。
【0056】
次に、ステップS903において、音響データ処理部20は、帯域毎の音圧レベルに関する算出結果に基づいて、表示データを作成する。具体的には、音響データ処理部20は、図3図5図7に示した第1の表示例、あるいは図4に示した第2の表示例を表示データとして作成することができ、さらに、図8に示した発声音の範囲を示す識別表示を表示データに含めることもできる。
【0057】
次に、ステップS904において、音響データ処理部20は、オプション機能として、音声認識処理に基づいて人の位置を特定する処理を行う設定であるか否かを判断する。そして、音響データ処理部20は、音声認識処理を実施する設定である場合には、ステップS905以降の処理を実行し、音声認識処理を実施しない設定である場合には、ステップS907の処理を実行する。
【0058】
ステップS905に進んだ場合には、音響データ処理部20は、複数のマイク10のそれぞれにより収音された音響データに対して、あらかじめ学習した音声認識処理を実行することで、トンネル内における発声音の存在から人位置を特定する処理を行う。
【0059】
次に、ステップS906において、音響データ処理部20は、音声認識処理を実行することで、トンネル内における発声音の存在から人位置を特定できた場合には、ステップS903で作成済みの表示データに対して、「人検知位置」を識別するための情報をさらに付加する修正処理を実施し、ステップS907の処理に進む。
【0060】
ステップS907に進んだ場合には、音響データ処理部20は、作成した表示データの表示処理を実行し、一連処理を終了する。
【0061】
なお、上述した実施の形態1では、監視エリアをトンネル内として説明した。ただし、トンネルには避難通路が設けられている。従って、トンネルの避難通路を監視エリアとして、避難通路に複数のマイク10を設置しておくことで、避難通路内での人検知を行うことも可能である。
【0062】
また、上述した実施の形態1では、トンネルの両端方向に複数のマイク10を設置する場合について説明した。しかしながら、複数のマイクの設置場所は、このようなレイアウトには限定されず、高さ方向に複数のマイクを配置することも可能であり、異なる高さでの周波数分析結果に基づく表示データを表示させることが可能となる。
【0063】
以上のように、実施の形態1によれば、トンネル内において複数のマイクで収音された音響データの周波数分析結果に基づいて、人の発声音の有無をオペレータが判断するための表示データを作成し、表示させることができる。
【0064】
特に、本実施の形態1に係るトンネル監視システムは、以下のような効果が得られる。
効果1:マイクの設置位置に自由度があり、後付けで、あるいは一時的にトンネル内の人検知機能を付加したい場合にも、容易に対応することができる。すなわち、比較的簡単な構成で、監視エリアであるトンネル内あるいは避難通路における逃げ遅れ検知を実現できる。
【0065】
効果2:表示データを視認したオペレータは、トンネル内で収音した音響データに関して、放水音、警告音、アイドリング状態における車両音と区別して、人の発声音の有無を識別可能となる。すなわち、音の反射の影響が多いトンネル内においても状態把握が容易となり、トンネル内の複数の場所で収音された音響データから発声音固有の特徴の有無を表示データから容易に判断することができる。
【0066】
効果3:音響データに対して音声認識処理をさらに実施することで、監視エリア内に人が存在するか否かを的確に判断することができる。
【0067】
効果4:複数のマイクで収音された音響データに対する周波数分析結果から、人の位置の特定ができ、さらに発声音の範囲を特定することもできる。従って、オペレータは、時系列的に順次更新される表示データを視認することで、人の移動方向を推定することができる。
【0068】
効果5:本開示による人検知方法と、他のセンサによる火災検知方法を組み合わせることで、火災発生時においてトンネル内に取り残されている人を迅速に検知するシステムを構築することができる。
【符号の説明】
【0069】
10、10(1)~10(12) マイク(収音装置)、20 音響データ処理部。
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