(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066660
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】熱転写シートおよび中間転写媒体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/382 20060101AFI20240509BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B41M5/382 400
B41M5/382 330
B41M5/382 800
B41M5/52 400
B41M5/52 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176214
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松本 友紀
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA52
2H111AB05
2H111BA03
2H111BA07
2H111BA53
2H111BA54
2H111BB01
2H111CA03
2H111CA04
2H111CA30
(57)【要約】
【課題】保護層が単層であっても耐久性及び箔切れ性が良好な熱転写シートを提供する。
【解決手段】熱転写シート1は、基材10と、基材上に設けられた剥離層20と、剥離層上に設けられた保護層30とを備える。剥離層は、バインダー樹脂と、バインダー樹脂と異なるポリエステル樹脂と、滑性成分とを含む。ポリエステル樹脂の質量はバインダー樹脂の質量の3%以上35%以下であり、滑性成分の質量はバインダー樹脂の質量の2%以上10%以下である。保護層の押し込み弾性率は、3.5ギガパスカル以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた剥離層と、
前記剥離層上に設けられた保護層と、
を備え、
前記剥離層は、
バインダー樹脂と、前記バインダー樹脂と異なるポリエステル樹脂と、滑性成分とを含み、
前記ポリエステル樹脂の質量が前記バインダー樹脂の質量の3%以上35%以下であり、
前記滑性成分の質量が前記バインダー樹脂の質量の2%以上10%以下であり、
前記保護層の押し込み弾性率が3.5ギガパスカル以上である、
熱転写シート。
【請求項2】
前記保護層は、ベース樹脂と、フィラーとを含有し、
前記フィラーの質量が前記ベース樹脂の質量の0.5%以上25%以下である、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記剥離層はフィラーを含有し、
前記フィラーの質量が前記バインダー樹脂の質量の0.5%以上25%以下である、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記滑性成分は、ワックス、高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサンの少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項5】
前記保護層の厚さが0.5μm以上5.0μm以下である、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項6】
基材と、
前記基材上に設けられた剥離層と、
前記剥離層上に設けられた保護層と、
前記保護層上に設けられた受容層と、
を備え、
前記剥離層は、
バインダー樹脂と、前記バインダー樹脂と異なるポリエステル樹脂と、滑性成分とを含み、前記基材上に形成された熱転写顔料層とを含有し、
前記ポリエステル樹脂の質量が前記バインダー樹脂の質量の3%以上35%以下であり、
前記滑性成分の質量が前記バインダー樹脂の質量の2%以上10%以下であり、
前記保護層の押し込み弾性率が3.5ギガパスカル以上である、
中間転写媒体。
【請求項7】
前記保護層は、ベース樹脂と、フィラーとを含有し、
前記フィラーの質量が前記ベース樹脂の質量の0.5%以上25%以下である、
請求項6に記載の中間転写媒体。
【請求項8】
前記剥離層はフィラーを含有し、
前記フィラーの質量が前記バインダー樹脂の質量の0.5%以上25%以下である、
請求項6に記載の中間転写媒体。
【請求項9】
前記滑性成分は、ワックス、高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサンの少なくとも一つを含む、
請求項6に記載の中間転写媒体。
【請求項10】
前記保護層の厚さが0.5μm以上5.0μm以下である、
請求項6に記載の中間転写媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートおよび中間転写媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱転写方式を用いて基材に階調画像、文字、記号等の単調画像等の画像を形成することが行われている。熱転写方式としては、感熱昇華転写方式及び感熱溶融転写方式が広く用いられている。
熱転写方式により被転写体に転写される転写層には、着色層や接着層、保護層などを設けることにより、種々の機能を付与できる。転写層が堅牢なものであれば、保護シートとして使用することもできる。
【0003】
一方で、一般的な熱転写方式による画像形成は、被転写体の表面形状等によっては困難となる場合がある。このような場合には、中間転写媒体を用いた中間転写方式が広く利用されている。
例えば、熱転写シートを加熱し、着色層中の昇華性染料あるいは顔料を、中間転写媒体の受像層に移行して画像を形成した後、中間転写媒体を加熱し、中間転写媒体の転写層を被転写体上に転写する。この場合には中間転写媒体の転写層が印画後の印画物の最表面となる。
【0004】
現在、ICカード等の用途の多様性と普及拡大に伴い、物理的な耐久性(高耐擦過性)に対する要望が高まっている。これらの分野の要望を満足するために、画像形成したICカード等にPET(ポリエチレンテレフタレート)製のパッチを貼り付けることで耐久性を付与する方法がよく知られている。しかし、この方法では別途PETパッチを貼り付ける装置が必要になり、生産工程やコストの観点から好ましくない。
このため、熱転写シートや中間転写媒体の転写層に高い耐久性を付与できることが好ましいが、耐久性能を持たようとすると、塗膜が固くなる傾向があるため、箔切れ性が悪くなり、バリが出やすくなる点に注意が必要である。
【0005】
熱転写シートや中間転写媒体を用いて、印画物を保護する技術がいくつか開示されている。
特許文献1では、基材上に硬化型保護層を設け、この硬化型保護層が所定膜厚の同種類又は異種類の複数の硬化型保護部材を積層した多重構造を有することで、転写体に耐久性能を付与しつつ、箔切れ性も担保している。
【0006】
特許文献2では、基材上に、剥離層、保護層、受容層兼接着層が設けられた中間転写媒体が提案されている。この中間転写媒体によれば、画像形成された時に、被転写体に転写された転写層の表面に保護層が位置することから、転写層に耐久性を付与することができる。
特許文献3では、ガラス転移温度(Tg)が80℃を超え、且つ水酸基価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のアクリル系ポリオール樹脂を硬化せしめた保護層を有する中間転写媒体が提案されている。この中間転写媒体によれば、保護層に耐久性を付与しつつ、箔切れ性を保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-1674号公報
【特許文献2】特開2004-351656号公報
【特許文献3】特開2014-198433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の熱転写シートは、保護層を多重に設けるため、塗工時に少なくとも1層多く積層する必要がある。さらに、積層する保護層どうしの密着性なども考慮するひつようがあり、使用できる樹脂に大きな制約が加わるとともに密着不良等の問題が発生しやすくなる可能性がある。
特許文献2の中間転写媒体は箔切れ性の担保が不十分であり、被転写体への転写時にバリを生じる可能性がある。
特許文献3の中間転写媒体は保護層に用いられる材料が限定的であり、他の層を積層する際には相性の良い材料を選択する必要がある。
【0009】
上記事情を踏まえ、本発明は、保護層が単層であっても耐久性及び箔切れ性が良好な熱転写シートおよび中間転写媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、基材と、基材上に設けられた剥離層と、剥離層上に設けられた保護層とを備える熱転写シートである。
剥離層は、バインダー樹脂と、バインダー樹脂と異なるポリエステル樹脂と、滑性成分とを含む。
ポリエステル樹脂の質量はバインダー樹脂の質量の3%以上35%以下であり、滑性成分の質量はバインダー樹脂の質量の2%以上10%以下である。
保護層の押し込み弾性率は、3.5ギガパスカル以上である。
【0011】
本発明の第二の態様は、基材と、基材上に設けられた剥離層と、剥離層上に設けられた保護層と、保護層上に設けられた受容層とを備える中間転写媒体である。
剥離層は、バインダー樹脂と、バインダー樹脂と異なるポリエステル樹脂と、滑性成分とを含む。
ポリエステル樹脂の質量はバインダー樹脂の質量の3%以上35%以下であり、滑性成分の質量はバインダー樹脂の質量の2%以上10%以下である。
保護層の押し込み弾性率は、3.5ギガパスカル以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱転写シートおよび中間転写媒体は、保護層が単層であっても耐久性及び箔切れ性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱転写シートの模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る中間転写媒体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態の熱転写シート1を示す模式断面図である。
図1に示すように、熱転写シート1は、基材10と、剥離層20と、保護層30とを備えている。剥離層20および保護層30は、基材10の第一面10a上に設けられている。
【0015】
基材10としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が必要とされ、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の各種プラスチックフィルムまたはシートを挙げることができる。
基材10の厚さは、その強度及び耐熱性が適切になるように材料に応じて適宜設定することができ、2.5μm以上100μm以下が一般的である。
【0016】
基材10においては、第一面10aと反対側の第二面10bに滑性や耐熱性を付与するための処理を施してもよい。
基材10においては、剥離層20を形成する第一面10aに、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。
【0017】
剥離層20は、バインダー樹脂、ポリエステル樹脂、および滑性成分を含む層である。
バインダー樹脂としては公知のものを適宜選択でき、好適な例として、アクリル骨格樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸セルロースと熱硬化アクリル樹脂、メラミン樹脂、ニトロセルロース樹脂等を挙げることができる。中でも、アクリル骨格樹脂を主成分とすることが好ましい。
発明者らは、剥離層において、ポリエステル樹脂をバインダー樹脂に対して質量比3%以上35%以下の割合で添加することで、箔切れ性が大きく向上することを見出した。使用するポリエステル樹脂に特に制限はないが、Tg(ガラス転移点)が40℃以上90℃以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の量がバインダー樹脂に対して3%以下の場合は、基材との密着が弱く箔切れ性が悪くなり、バリが発生しやすくなる。一方、35%以上となると基材との密着が強くなりすぎ、剥離しにくくなる。これにより、プリンターから基材が搬出できずに印画できないジャミングや、良好に剥離されない結果、印画方向に対して垂直に細いスジが入るバンディングなどの外観不良が発生しやすくなる。である。
【0018】
さらに発明者らは、滑性成分をバインダー樹脂に対して2%以上10%以下添加することで、滑り性が上がり耐摩耗性が向上すると共に、箔切れ性も改善することを見出した。滑性成分が2%以下の場合には、剥離する際に膜が固く箔切れ性が悪くなり、また滑り性が低くなるため耐久性能がやや劣る。一方、10%以上の場合には加熱時に膜が柔らかくなることで基材密着が弱くなり、箔切れ性が悪くなる。
滑性成分としてはポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス等の各種ワックス類、高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサン、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、有機カルボン酸およびその誘導体、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、タルク、シリカ等の無機化合物の粒子等を例示できる。中でも、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス等の各種ワックス類、高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサンがより好ましい。
【0019】
剥離層20は、フィラーを含有してもよい。公知の種々のフィラーを用いることができるが、シリコーン系粒子、シリカ系粒子、メラミン系粒子、アクリル系粒子などを例示できる。フィラーの粒径は、転写時の脱離や膜形成の観点から、0.01μm以上3μm以下程度がこのましい。
本明細書において、「フィラーの粒径」とは体積平均粒径を意味する。フィラーの粒径は、例えば、BET法、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア解析により測定できる。
なお、フィラーの効果を妨げない範囲であれば、上記の範囲外の粒径を有するフィラーが一部含有されていてもよい。
フィラーの含有量に制限はないが、箔切れ性の観点からはバインダー樹脂に対して0.5%以上25%以下含まれるのが好ましい。
【0020】
保護層30は、硬化した合成樹脂からなる層であり、後述する押し込み弾性率を満足していれば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用いることができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を例示できる。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂等を例示できる。
このほか、紫外線硬化型ウレタンアクリレートやエポキシアクリレート等の光硬化型樹脂で形成することもできる。
保護層30の厚みは、耐久性と箔切れ性に悪影響がない範囲で適宜設定でき、例えば0.5μm以上5μm以下とできる。
【0021】
保護層30は、フィラーを含有してもよい。フィラーの材質や粒径は、剥離層20で説明したものと同様とできる。フィラーの含有量を、保護層を構成するベース樹脂に対して0.5%以上25%以下含まれるのが好ましい。
【0022】
発明者らは、種々検討の結果、保護層の押し込み弾性率を3.5ギガパスカル(GPa)以上とすることで、保護層が単層であっても、上述した剥離層との組み合わせで、耐久性および箔切れ性の両方を良好にできることを見出した。
保護層の押し込み弾性率には保護層のベース樹脂が大きく影響しており、ベース樹脂が互いに架橋構造を有する熱硬化樹脂や光硬化樹脂である場合に、3.5GPa以上となりやすい。また、フィラーの添加量でも僅かに変動し、フィラー量を増やすことで押し込み弾性率の値が上昇する傾向がある。
【0023】
本実施形態では、基材上に剥離層および保護層のみを有する熱転写シートの例を説明した。このような構成の熱転写シートは、既に転写画像が形成された受像シートに保護層を付与することができる。他の構成として、基材上に剥離層および保護層の組と、着色顔料層等の転写画像を形成するための層とを繰り返し設けることで、転写画像の形成と保護層の付与とを連続して行える熱転写シートとすることもできる。
【0024】
図2に、本実施形態に係る中間転写媒体2の模式断面図を示す。中間転写媒体2は、保護層30上に設けられた受容層40を備える点を除き、概ね熱転写シート1と同様の構成を有する。すなわち、基材10、剥離層20、および保護層30としては、熱転写シート1におけるものと同様のものを使用できる。
【0025】
受容層40は、中間転写媒体2の最上層を構成しており、熱転写画像が形成される層でもある。画像が形成された受容層40は、保護層30、さらには剥離層20とともに被転写体上に転写され、保護層30および剥離層20により保護された状態で印画物が形成される。
【0026】
受容層40を形成するための材料としては、昇華性の染料または熱溶融性の転写インク等の熱移行性の色材を受容しやすい、従来公知の樹脂を用いることができる。
受容層40を構成する樹脂としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体もしくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンもしくはプロピレン等のオレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体系樹脂、アイオノマーもしくはセルロースジアスターゼ等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等が挙げられ、特に、昇華型熱転写リボンによる転写には、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂またはポリエステル樹脂が好ましく、溶融型熱転写リボンによる転写には、エポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
受容層40が接着層を介して被転写体に転写される場合には、受容層40自体の接着性は必ずしも要求されない。しかし、受容層40が接着層を介さないで被転写体に転写される場合には、接着性を有する樹脂を用いて受容層40を形成することが好ましい。
【0028】
受容層40は、上述の材料の中から選択された単独または複数の材料、および必要に応じて各種添加剤等を加え、水または有機溶剤等の適当な溶剤に溶解または分散させて受容層用塗工液を調製し、これをバーコート、ブレードコート、エアナイフコート、グラビアコート、ロールコート等のソルベントコート法によって塗布し、乾燥して形成することができる。受容層40の厚さは、0.1μm以上10μm以下であればよく、0.2μm以上8μm以下程度がより好ましい。
【0029】
受容層40が接着性を有しない場合には、受容層40上にさらに接着層を設けてもよい。接着層は、任意の構成であり、被転写体側に接着処理が施されている等の場合は不要である。
接着層を構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、アイオノマー樹脂等を主成分とする従来公知の接着剤を用いることができる。
【0030】
本発明の熱転写シートおよび中間転写媒体について、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明は、実施例および比較例の具体的内容のみを根拠として制限されることはない。
文中における「部」は、とくにことわらない限り質量部を意味する。
【0031】
(実施例1)
基材として厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、一方の面に下記組成の剥離層用塗工液1を乾燥後の膜厚が0.5μmとなるように塗工し、100℃1分間乾燥して剥離層を形成した。
<剥離層用塗工液1>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21 DOW社製) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS 東洋紡社製) 8部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2 岐阜セラツク社製) 13部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
【0032】
次に、剥離層の上に下記組成の保護層用塗工液Aを、乾燥後の膜厚が2.0μmとなるように塗工し、100℃1分間乾燥させた。
<保護層用塗工液A>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(6AN-5000 大成ファインケミカル社製) 81部(固形分40.5%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110 三井化学社製) 12部(固形分70%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm) モメンティブ社製) 3部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400 東洋紡社製) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
以上により、基材上に剥離層および保護層が設けられた実施例1に係る熱転写シートを作製した。なお、剥離層用塗工液および保護層用塗工液は、いずれもグラビアコーティング法により塗工した。
【0033】
(実施例2)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液2を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液2>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 8部(固形分30%)
・滑性成分:パラフィンワックス(HNP-3 日本精蝋社製) 2部
・メチルエチルケトン 350部
【0034】
(実施例3)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液3を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液3>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 83部(固形分30%)
・滑性成分:シリコーンオイル(DOWSIL BY16-846 東レ・ダウコーニング社製) 2部
・メチルエチルケトン 350部
【0035】
(実施例4)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液4を用いた点、および保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Bを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液4>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 8部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 44部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
<保護層用塗工液B>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(6AN-5000) 81部(固形分40.5%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110) 12部(固形分70%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 7.5部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400 東洋紡社製) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0036】
(実施例5)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Cを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例5に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液C>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(URET422 東洋インキ社製) 48部(固形分35%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110) 12部(固形分70%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 3部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0037】
(実施例6)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Dを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液D>
・ベース樹脂:アクリル樹脂(TM-REX 大日精化社製) 120部(固形分25%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 3部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0038】
(実施例7)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Eを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例7に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液E>
・ベース樹脂:ウレタンアクリレート(オリゴマーO27 東洋インキ社製) 52部
・アクリレートモノマー(DPHA ダイセル社製) 13部
・光重合開始剤(イルガキュア184 BASF社製) 6部
・光重合開始剤(イルガキュア907 BASF社製) 1部
・酢酸エチル 28部
【0039】
(実施例8)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Fを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例8に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液F>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(6AN-5000) 81部(固形分40.5%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110) 12部(固形分70%)
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0040】
(実施例9)
保護層の厚さを0.5μmとした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例9に係る熱転写シートを作製した。
(実施例10)
保護層の厚さを6.0μmとした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例10に係る熱転写シートを作製した。
【0041】
(実施例11)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液5を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例11に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液5>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 8部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 13部(固形分15%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 3部
・メチルエチルケトン 350部
【0042】
(実施例12)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Gを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例12に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液G>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(6AN-5000) 81部(固形分40.5%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110) 12部(固形分70%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 1.5部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0043】
実施例13および14は、中間転写媒体の実施例である。
(実施例13)
実施例1に係る熱転写シートの保護層上に、下記組成の受容層用塗工液を、乾燥後の膜厚が3.0μmとなるように塗工し、100℃1分間乾燥させた。
<受容層用塗工液>
・エポキシ樹脂(jER1004 三菱ケミカル社製) 20部
・メチルエチルケトン 80部
以上により、実施例13に係る中間転写媒体を作製した。
(実施例14)
実施例11に係る熱転写シートの保護層上に、上記受容層用塗工液を塗工した点を除き、実施例13と同様の手順で実施例14に係る中間転写媒体を作製した。
【0044】
(比較例1)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液6を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液6>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 5.5部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 13部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
【0045】
(比較例2)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液7を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例2に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液7>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 94.5部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 13部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
【0046】
(比較例3)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液8を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液8>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 8部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 7部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
【0047】
(比較例4)
剥離層用塗工液1に代えて、下記組成の剥離層用塗工液9を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例4に係る熱転写シートを作製した。
<剥離層用塗工液9>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21) 79部
・ポリエステル樹脂(バイロン20SS) 8部(固形分30%)
・滑性成分:ポリエチレンワックス(ハイフラットT-15P-2) 54.6部(固形分15%)
・メチルエチルケトン 350部
【0048】
(比較例5)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Hを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例5に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液H>
・ベース樹脂:エポキシ樹脂(jER1004) 20部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 3部
・酢酸エチル 40部
【0049】
(比較例6)
保護層用塗工液Aに代えて、下記組成の保護層用塗工液Iを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例6に係る熱転写シートを作製した。
<保護層用塗工液I>
・ベース樹脂:アクリルポリオール(6AN-5000) 81部(固形分40.5%)
・ポリイソシアネート(タケネートD-110) 12部(固形分70%)
・シリコーンフィラー(トスパール120(粒径2.0μm)) 10部
・ポリエステル樹脂(バイロンUR-1400) 3部(固形分30%)
・酢酸エチル 40部
【0050】
各例の熱転写シートおよび中間転写媒体を用いて、以下の評価を行った。
【0051】
<保護層の押し込み弾性率測定>
基材に剥離層及び保護層を塗布したフィルムについて、保護層側より試験機としてナノインデンター(Hysitron TI Premier(ブルカー製))、圧子はダイヤモンド製Berkovich圧子を用いて、最大深さ400nm、押込・引抜速度100nm/s、最大深さでの保持時間4秒にて測定を行い、解析は引抜時の荷重95~60%の範囲をOliver-Pharr法で実施した。なお、この測定において、基材及び剥離層が与える影響は極めて小さく、無視できる。
【0052】
<転写物の作成>
各例の熱転写シートを塩化ビニル製のカード(54mm×86mm)と重ね合わせ、サーマルシミュレーターにてカード上に保護層及び剥離層を転写した。
実施例11に係る中間転写媒体については、任意の熱転写シートを重ね合わせ、サーマルシミュレーターにて受容層に画像形成を行った後、塩化ビニル製のカード(54mm×86mm)と重ね合わせ、サーマルシミュレーターにてカード上に受容層、保護層、および剥離層を転写した。
以上により、各例に係る転写物を得た。この転写物を用いて、以下の評価を行った。
<箔切れ性>
キーエンス社製デジタルマイクロスコープ VHX-1000を用いて、各例の転写物10枚の端部におけるバリの最大突出長を測定した。
評価は以下の3段階とし、◎および○を合格とした。
◎(VERY GOOD):バリの最大突出長が100μm未満
〇(GOOD):バリの最大突出長が100μm以上300μm未満
×(BAD):バリの最大突出長が300μm以上
<耐久性(テーバー摩耗試験)>
各例に係る転写物に対し、JIS K 7204に準拠したテーバー試験を実施した。試験環境は以下の通りである。
摩耗輪(CF-10F、東洋精機社製)を試験機(ロータリーアブレージョンテスター 東洋精機社製)に設置
試験条件:500gf、回転速度60rpm
評価は以下の3段階とし、◎および○を合格とした。
◎(VERY GOOD):1000回の回転摩耗で転写物表面に傷が生じない。
〇(GOOD):800回の回転摩耗で転写物表面に傷が生じない。
×(BAD):800回未満の回転摩耗で転写物表面に傷が生じる。
<転写性>
各例に係る熱転写シート及び中間転写媒体をプリンターにて塩化ビニル製のカードに印画し、プリンター動作性と転写外観について確認した。評価基準は以下の2段階とし、○を合格とした。
〇(GOOD):問題なく転写物がプリンターから搬出され(プリンター動作性正常)、転写外観に異常なし
×(BAD):転写物がプリンターから搬出されない(ジャミング)または転写外観に異常あり
実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に、それぞれ示す。
【0053】
【0054】
【0055】
表1に示されるように、剥離層がバインダー樹脂のほかにポリエステルと滑性成分を含み、ポリエステルがバインダー樹脂に対して3%以上35%以下、滑性成分がバインダー樹脂に対して2%以上10%以下である各実施例では、保護層の押し込み弾性率が3.5GPa以上であり、十分な耐久性、箔切れ性を有している。
【0056】
表2に示される比較例1では、剥離層におけるポリエステル樹脂の量が少ないため、剥離層と基材との密着が弱くなっていた。このため、転写時に転写すべき領域の周縁まで余分に剥がれてしまった結果、箔切れ性が低下したと考えられた。
比較例2では、剥離層におけるポリエステル樹脂の量が多く、剥離層と基材との密着が過剰に強くなっていた。その結果、プリンター内での搬送時に基材から剥離できずにジャミングが発生し、転写性が低下した。
比較例3では、剥離層における滑性成分の量が少ないことで、膜が固くなり剥離しづらくなった。その結果、箔切れ性が良好でなかった。
比較例4では、剥離層における滑性成分の量が多すぎることで、加熱時に膜が過剰に軟化し、剥離が軽くなった。その結果、箔切れ性が良好でなかった。
比較例5では、保護層の押し込み弾性率が低く、耐久性が良好でなかった。
比較例6では、保護層におけるフィラーの量が多すぎたため、保護層の形成が困難であった。このため、押し込み弾性率、箔切れ性、耐久性、および転写性については評価できなかった。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 熱転写シート
2 中間転写媒体
10 基材
20 剥離層
30 保護層
40 受容層