IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-溶接継手 図1
  • 特開-溶接継手 図2
  • 特開-溶接継手 図3A
  • 特開-溶接継手 図3B
  • 特開-溶接継手 図3C
  • 特開-溶接継手 図4
  • 特開-溶接継手 図5
  • 特開-溶接継手 図6
  • 特開-溶接継手 図7
  • 特開-溶接継手 図8
  • 特開-溶接継手 図9
  • 特開-溶接継手 図10
  • 特開-溶接継手 図11
  • 特開-溶接継手 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066684
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】溶接継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 33/00 20060101AFI20240509BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240509BHJP
   B23K 9/02 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
B23K33/00 Z
B23K31/00 G
B23K9/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176254
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松葉 正寛
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081BA02
4E081BB04
4E081CA09
4E081DA01
4E081DA05
4E081DA10
4E081DA12
(57)【要約】
【課題】電着塗膜を良好に形成することができる溶接継手を提供する。
【解決手段】溶接継手(101,102,103,104)は、第1金属板(10)と、第2金属板(20)と、溶接金属部(30)とを備える。溶接金属部(30)は、第1金属板(10)の端面(13)の少なくとも一部が露出するように第1金属板(10)の端部を第2金属板(20)に接合する。第1金属板(10)の板厚方向に沿った断面で見て、端面(13)のうち溶接金属部(30)から露出する部分は、凸曲面(131)又は傾斜面(133)を含む。凸曲面(131)は、第1金属板(10)の両表面の少なくとも一方に連続する。傾斜面(133)は、第1金属板(10)の一方の表面に連続するとともに他方の表面から板厚方向に離隔する。傾斜面(133)は、第1金属板(10)の一方の表面と鈍角をなすように当該表面に対して傾斜する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手であって、
第1金属板と、
第2金属板と、
前記第1金属板の端面の少なくとも一部が露出するように前記第1金属板の端部を前記第2金属板に接合する溶接金属部と、
を備え、
前記第1金属板の板厚方向に沿った断面で見て、前記端面のうち前記溶接金属部から露出する部分は、前記第1金属板の両表面の少なくとも一方に連続する凸曲面、又は、前記第1金属板の一方の表面に連続するとともに他方の表面から前記板厚方向に離隔し、前記一方の表面と鈍角をなすように前記一方の表面に対して傾斜する第1傾斜面を含む、溶接継手。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記端面のうち前記溶接金属部から露出する部分は、前記第1傾斜面と、前記第1傾斜面に連続し、前記第1傾斜面と鈍角をなすように前記第1傾斜面に対して傾斜する第2傾斜面と、を含む、溶接継手。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記端面のうち前記溶接金属部から露出する部分は、前記凸曲面を含み、
前記凸曲面のアスペクト比は、6.0以下である、溶接継手。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記端面のうち前記溶接金属部から露出する部分は、前記第1傾斜面を含み、
前記一方の表面と前記第1傾斜面との外角をθ1としたとき、θ1は85°以下である、溶接継手。
【請求項5】
請求項1に記載の溶接継手であって、さらに、
前記第1金属板、前記第2金属板、及び前記溶接金属部上に設けられた電着塗膜、
を備える、溶接継手。
【請求項6】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記第1金属板の前記端部は、前記第2金属板の端部と重ね合わせられる、溶接継手。
【請求項7】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記第1金属板の前記端面は、前記第2金属板の端面に対向する、溶接継手。
【請求項8】
請求項1に記載の溶接継手であって、
前記第1金属板の前記端面は、前記第2金属板の表面に対向する、溶接継手。
【請求項9】
溶接継手の製造方法であって、
板厚方向に垂直な両表面と、前記両表面を接続する端面とを含み、前記端面は、前記両表面の少なくとも一方に連続する凸曲面、又は前記両表面のうち一方の表面に連続するとともに他方の表面から前記板厚方向に離隔し、前記一方の表面と鈍角をなすように前記一方の表面に対して傾斜する傾斜面を含む第1金属板と、第2金属板と、を準備する工程と、
前記端面を含む前記第1金属板の端部を前記第2金属板に対して溶接する工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車体や、建築物等の機械構造物に用いられる部材には、溶接継手を含むものがある。溶接継手としては、金属板の端部同士を重ね合わせて溶接する重ね継手、金属板の端面同士を突き合わせて溶接する突合せ継手、金属板の端面を他の金属板の表面に対向させて溶接するT字継手等が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1は、重ね継手に関する技術を開示する。特許文献1では、第1の板状部材の端部が第2の板状部材の端部に重ね合わされ、すみ肉溶接で接合されている。特許文献1において、少なくとも溶接側の第1の板状部材の端面は、単一の傾斜面となっている。特許文献1によれば、第1の板状部材の端面を広角側に倒した傾斜面とし、溶接トーチの先端から第1の板状部材の端面までの距離、第2の板状部材の表面までの距離、及び第1の板状部材の端面と第2の板状部材の表面とがなすコーナ部までの距離をほぼ同じにすることで、コーナ部の溶け込み不足が発生しにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5829425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接継手を含む部材には、耐食性を確保するために防錆能が高い電着塗膜が付与されることがある。しかしながら、溶接継手の溶接部では、様々な要因によって電着塗膜の形成不良が生じ得る。溶接部又はその近傍において電着塗膜が良好に形成されない部分がある場合、当該部分が起点となって赤錆が発生しやすくなるため、部材の塗装後耐食性を損なうという問題がある。
【0006】
本開示は、電着塗膜を良好に形成することができる溶接継手を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る溶接継手は、第1金属板と、第2金属板と、溶接金属部とを備える。溶接金属部は、第1金属板の端面の少なくとも一部が露出するように第1金属板の端部を第2金属板に接合する。第1金属板の板厚方向に沿った断面で見て、第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分は、凸曲面又は第1傾斜面を含む。凸曲面は、第1金属板の両表面の少なくとも一方に連続する。第1傾斜面は、第1金属板の一方の表面に連続するとともに他方の表面から板厚方向に離隔する。第1傾斜面は、一方の表面と鈍角をなすように一方の表面に対して傾斜する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る溶接継手によれば、電着塗膜を良好に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図2図2は、図1に示す溶接継手の部分拡大図である。
図3A図3Aは、第1実施形態に係る溶接継手の製造方法を説明するための模式図である。
図3B図3Bは、第1実施形態に係る溶接継手の製造方法を説明するための模式図である。
図3C図3Cは、第1実施形態に係る溶接継手の製造方法を説明するための模式図である。
図4図4は、第1実施形態の変形例に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図5図5は、第2実施形態に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図6図6は、図5に示す溶接継手の部分拡大図である。
図7図7は、第2実施形態に係る溶接継手について、電着塗膜が付与された状態の横断面を模式的に示す図である。
図8図8は、第2実施形態の変形例に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図9図9は、第3実施形態に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図10図10は、第3実施形態に係る溶接継手について、電着塗膜が付与された状態の横断面を模式的に示す図である。
図11図11は、第4実施形態に係る溶接継手の横断面を模式的に示す図である。
図12図12は、第4実施形態に係る溶接継手について、電着塗膜が付与された状態の横断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
例えば自動車のシャシー部材の場合、塩害地域での長期間使用時等において強度信頼性を確保する観点から、部材の腐食を考慮して設計上の板厚の下限値が設定される。部材の板厚を設定された下限値未満に薄くすることはできないため、下限値が大きい場合は部材の軽量化が制限される。板厚の下限値を小さくして部材を軽量化するためには、溶接継手の溶接部における電着塗膜の形成不良を抑制し、塗装後耐食性を向上させることが有効である。
【0011】
溶接継手の溶接部において塗装後耐食性が低下する主要因は、溶接部の表側と裏側とで異なる。例えばアーク溶接によって金属板同士が溶接される場合、溶接部の表側(溶接金属部側)では、シールドガス中の酸化性ガスと溶融金属中の易酸化元素とが反応することで非導電性の溶接スラグが形成され、この溶接スラグによって電着塗膜の形成不良が生じやすくなる。ただし、溶接部の表側は、一般に溶接継手を含む部材の最表面に配置されるため、溶接後のアプローチが容易である。そのため、溶接部の表側の溶接スラグをショットブラスト等の後処理によって除去し、あるいは、溶接スラグに導電性を発現させて電着塗膜の形成不良を低減することができる。
【0012】
一方、溶接部の裏側(溶接金属部の反対側)では、溶接時の入熱によって金属板の表層が大気中の酸素と反応し、熱影響部にスケールが生成される。これにより、溶接継手の溶接部における電着塗膜の密着性が悪化し、耐食性が低下する。溶接部の裏側は、通常、溶接継手を含む部材の内側に配置されるため、溶接後のアプローチが困難である。そのため、溶接部の裏側における電着塗膜の密着性を後処理によって向上させることは難しい。ただし、例えば、密着性の向上に有効な酸化物を母材とスケールとの界面に生成することにより、電着塗膜の密着性を改善し、溶接部に良好な塗装後耐食性を発揮させることは可能である。
【0013】
このように、溶接継手の溶接部における塗装後耐食性の底上げについて、従来から種々の取り組みがなされている。しかしながら、耐食性のさらなる向上には、特に金属板の端面から生じやすい腐食を抑制することが必要である。端面の腐食を抑制するために、例えば、めっき鋼板が使用される。この場合、めっき層が母材に優先して腐食する犠牲防食により、端面の腐食を抑制することができる。ただし、めっき鋼板の溶接時にはめっきの蒸発が生じることにより、溶接金属部内の気孔欠陥や溶接ヒュームの付着が発生して溶接継手の品質が低下する可能性がある。また、めっき鋼板の使用によって部材のコストが上昇するという問題もある。そのため、溶接継手には、表面がめっき層で被覆されていない金属板が用いられることが好ましい。
【0014】
本発明者等は、金属板の表面と端面との間の角部には金属板の切断時のバリが鋭利な状態で残存することが多く、この角部において電着塗膜の厚みが比較的薄くなる傾向があることを見出した。当該角部において電着塗膜が良好に形成されないことにより、角部が起点となって赤錆が発生しやすくなり、溶接継手の耐食性が低下する。本発明者等は、この問題に関して鋭意検討を重ね、実施形態に係る溶接継手を完成させた。
【0015】
実施形態に係る溶接継手は、第1金属板と、第2金属板と、溶接金属部とを備える。溶接金属部は、第1金属板の端面の少なくとも一部が露出するように第1金属板の端部を第2金属板に接合する。第1金属板の板厚方向に沿った断面で見て、第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分は、凸曲面又は第1傾斜面を含む。凸曲面は、第1金属板の両表面の少なくとも一方に連続する。第1傾斜面は、第1金属板の一方の表面に連続するとともに他方の表面から板厚方向に離隔する。第1傾斜面は、一方の表面と鈍角をなすように一方の表面に対して傾斜する(第1の構成)。
【0016】
第1の構成に係る溶接継手では、第1金属板の端面の少なくとも一部が溶接金属部から露出した状態で第1金属板が第2金属板に溶接されている。第1金属板の端面の露出部には、凸曲面が設けられる。凸曲面は、第1金属板の両表面の少なくとも一方に連続する。この凸曲面により、第1金属板の表面と端面との間の角部が丸められる。そのため、溶接継手に電着塗装を付与した際、第1金属板の表面と端面との間に鋭利な角部が存在する場合と比較して、第1金属板の表面と端面との境界で電着塗膜の厚みが薄くなりにくい。したがって、第1金属板の端面及びその近傍において電着塗膜を均一に形成することができる。
【0017】
第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分には、凸曲面に代えて第1傾斜面が設けられていてもよい。第1傾斜面は第1金属板の表面に対して鈍角で緩やかに連続する。この場合、溶接継手に電着塗装を付与した際、第1金属板の表面と端面との境界で電着塗膜の厚みが薄くなりにくい。したがって、第1金属板の端面及びその近傍において電着塗膜を均一に形成することができる。
【0018】
このように、第1の構成に係る溶接継手によれば、電着塗膜を良好に形成することができる。当該溶接継手では、特に、溶接金属部から露出する第1金属板の端面及びその近傍で電着塗膜が均一に形成されやすいため、第1金属板の端面を起点として発生する赤錆が低減される。したがって、第1の構成に係る溶接継手は、優れた塗装後耐食性を発揮することができる。
【0019】
第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分が第1傾斜面を含む場合、当該部分は、さらに第2傾斜面を含むことができる。第2傾斜面は、第1傾斜面に連続し、第1傾斜面と鈍角をなすように第1傾斜面に対して傾斜する(第2の構成)。
【0020】
第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分が凸曲面を含む場合、凸曲面のアスペクト比は、6.0以下であってもよい(第3の構成)。これにより、溶接継手の電着塗装性がより良好となり、塗装後耐食性が向上しやすくなる。
【0021】
第1金属板の端面のうち溶接金属部から露出する部分が第1傾斜面を含む場合において、第1金属板の一方の表面と第1傾斜面との外角をθ1としたとき、θ1は85°以下であってもよい(第4の構成)。これにより、溶接継手の電着塗装性がより良好となり、塗装後耐食性が向上しやすくなる。
【0022】
第1から第4のいずれかの構成に係る溶接継手は、さらに、電着塗膜を備えることができる。電着塗膜は、第1金属板、第2金属板、及び溶接金属部上に設けられる(第5の構成)。
【0023】
第1から第5のいずれかの構成に係る溶接継手において、第1金属板の端部は、第2金属板の端部と重ね合わせられていてもよい(第6の構成)。
【0024】
第1から第5のいずれかの構成に係る溶接継手において、第1金属板の端面は、第2金属板の端面に対向していてもよい(第7の構成)。
【0025】
第1から第5のいずれかの構成に係る溶接継手において、第1金属板の端面は、第2金属板の表面に対向していてもよい(第8の構成)。
【0026】
実施形態に係る溶接継手の製造方法は、板厚方向に垂直な両表面と、当該両表面を接続する端面とを含む第1金属板と、第2金属板とを準備する工程と、上記端面を含む第1金属板の端部を第2金属板に対して溶接する工程とを備える。第1金属板の端面は、凸曲面又は傾斜面を含む。凸曲面は、第1金属板の両表面の少なくとも一方に連続する。傾斜面は、第1金属板の両表面のうち一方の表面に連続するとともに他方の表面から板厚方向に離隔する。傾斜面は、上記一方の表面と鈍角をなすように当該一方の表面に対して傾斜する(第9の構成)。
【0027】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0028】
<第1実施形態>
[溶接継手の構成]
図1は、第1実施形態に係る溶接継手101の構成を示す模式図である。溶接継手101は、例えば、自動車の構造又は骨格部材や、建築部材の一部である。溶接継手101は、自動車のシャシー部材の一部であってもよい。
【0029】
図1を参照して、溶接継手101は、金属板10,20と、溶接金属部30とを備える。図1では、金属板10,20の板厚方向に沿い、且つ溶接金属部30を横断する溶接継手101の断面(横断面)が示されている。
【0030】
金属板10は、典型的には鋼板である。金属板10は、好ましくは、母材の表面にめっき層が形成されていない非めっき鋼板である。金属板10の板厚は、5.0mm以下であってもよい。金属板10は、表面11,12と、端面13とを含んでいる。表面11,12は、金属板10の板厚方向に対して実質的に垂直な面である。表面12は、表面11の反対側に配置されている。端面13は、表面11と表面12とを接続する。
【0031】
端面13は、凸曲面131を含んでいる。本実施形態では、端面13の全体が凸曲面131である。凸曲面131は、溶接継手101の横断面で見て、金属板10の表面11,12の双方に連続している。凸曲面131は、金属板10の表面11,12と端面13との間に鋭利な角部が形成されないように、表面11,12に対して連続している。凸曲面131は、溶接継手101の横断面で見て、金属板10の外側に凸に湾曲している。凸曲面131は、板厚方向に交差する方向において金属板10の外側に向かい凸状となるように湾曲している。凸曲面131は、溶接継手101の横断面視で実質的又はほぼ円弧状を有していてもよい。
【0032】
図2は、図1に示す溶接継手101のうち、金属板10の端面13及びその近傍を拡大した図である。図2を参照して、端面13の凸曲面131は、6.0以下のアスペクト比を有することができる。
【0033】
凸曲面131のアスペクト比は、以下のようにして求めることができる。すなわち、溶接継手101を横断面で見たとき、凸曲面131のうち、金属板10の板厚方向において最も外側に位置する点をA、板厚方向に対して垂直な方向において最も外側に位置する点をB、点Aから板厚方向に引いた直線と点Bから板厚方向に対して垂直な方向に引いた直線との交点を原点Oとする。原点Oと点Aとを結ぶ線分、及び原点Oと点Bとを結ぶ線分のうち、長い方の線分を長辺L、短い方の線分を短辺Sとする。長辺Lを短辺Sで除した値が凸曲面131のアスペクト比である。
【0034】
図2の例では、金属板10において、溶接金属部30から遠い方の表面12側に点Aを設定している。しかしながら、金属板10において、溶接金属部30に近い方の表面11側に点Aを設定し、凸曲面131のアスペクト比を求めることもできる。本実施形態のように凸曲面131が金属板10の両表面11,12に連続している場合、表面11側及び表面12側の双方に関して凸曲面131のアスペクト比が6.0以下であることが好ましい。
【0035】
図2の例では、金属板10の板厚方向において、点Aの位置が表面12の位置と一致している。しかしながら、点Aは、板厚方向において表面12よりも外側に位置してもよい。表面11側でアスペクト比を求める場合も同様に、点Aは、板厚方向において表面11と同一の位置に配置されていてもよいし、表面11よりも外側に位置することもできる。
【0036】
図1に戻り、金属板20は、金属板10と同様、典型的には鋼板である。金属板20は、母材の表面にめっき層が形成されていない非めっき鋼板であることが好ましい。金属板20の板厚は、5.0mm以下であってもよい。金属板20の板厚は、金属板10の板厚と同一であってもよいし、異なっていてもよい。金属板20は、金属板10に対して重ね合わされている。より詳細には、金属板10の端部と金属板20の端部とが重ね合わされている。
【0037】
金属板20は、表面21,22を含んでいる。表面21,22は、金属板10の板厚方向に対して実質的に垂直な面である。表面22は、金属板10の表面11に対向している。図1の例において、表面22は、金属板10の表面11に対し、金属板10,20の板厚方向に隙間を空けて対向している。ただし、表面22は、金属板10の表面11に接触していてもよい。表面21は、表面22の反対側に配置されている。
【0038】
金属板10は、金属板20と別体の金属板であってもよいが、金属板20と一体であってもよい。例えば、単一の金属板の両端部が金属板10,20であり、単一の金属板が曲げられ又は丸められることで金属板10,20が重ね合わされていてもよい。
【0039】
金属板10,20は、溶接によって接合されている。そのため、溶接継手101には、溶接金属部30が形成されている。また、金属板10,20には、それぞれ熱影響部40が形成されている。
【0040】
本実施形態では、金属板10の端部と金属板20の端部とが溶接されている。溶接金属部30は、金属板10のうち端面13を含む端部を金属板20の端部に接合する。溶接金属部30は、金属板20側で金属板10,20を接合している。すなわち、溶接金属部30の裏側に金属板10が位置している。そのため、金属板10の表面12及び端面13は、全体として溶接金属部30から露出している。図1の例では、金属板10の端面13に熱影響部40が及んでいる。しかしながら、熱影響部40は、必ずしも金属板10の端面13にまで及んでいる必要はない。
【0041】
溶接金属部30は、例えば、金属板10,20のアーク溶接によって形成される溶接ビードである。溶接継手101のうち横断面視で金属板10の端面13に凸曲面131が設けられている部分は、溶接金属部30の延在方向に沿って延びている。溶接金属部30の延在方向において、溶接継手101のうち横断面視で凸曲面131を含む部分の長さは、例えば、溶接金属部30の長さの30%以上とすることができる。溶接継手101のうち横断面視で凸曲面131を含む部分の長さは、溶接金属部30の長さ以下であってもよいし、溶接金属部30の長さを超えていてもよい。
【0042】
[溶接継手の製造方法]
以下、溶接継手101の製造方法の一例について、図3A図3Cを参照しながら説明する。溶接継手101の製造方法は、金属板10,20を準備する工程と、金属板10を金属板20に溶接する工程とを備えている。溶接継手101の製造方法は、さらに、電着塗装を実施する工程を備えていてもよい。
【0043】
(準備工程)
図3Aを参照して、準備工程では、端面13に凸曲面131を含む金属板10と、金属板20とを準備する。上述したように、金属板10,20は、別体の金属板であってもよいし、一体の金属板であってもよい。
【0044】
金属帯(コイル)から切断されたままの状態では、金属板10の表面11,12と端面13との間の角部、及び金属板20の表面21,22と端面23との角部に切断時の鋭利なバリ等が残存している。本実施形態では、少なくとも金属板10において、角部のバリ等が除去される。すなわち、金属板10の端面13が加工され、上述した凸曲面131が端面13に形成される。凸曲面131は、例えば、溶融加工、旋盤加工やフライス加工等といった切削加工、研削加工、研磨加工、放電加工、及びプレス加工や鍛造等といった塑性加工のうち、1つ以上の加工方法によって形成することができる。
【0045】
(溶接工程)
溶接工程では、準備した金属板10,20を溶接する。より具体的には、加工された端面13を含む金属板10の端部を金属板20に対して溶接する。本実施形態では、金属板10の端部に金属板20の端部を重ね合わせ、金属板10の表面11と金属板20の端面23とをすみ肉溶接する。金属板10,20は、例えば、アーク溶接によって接合することができる。これにより、図3Bに示すように、溶接金属部30及び熱影響部40が形成される。
【0046】
本実施形態において、金属板10の端面13は、その全体が溶接金属部30から露出している。金属板10の端面13は、熱影響部40に含まれている。
【0047】
(電着塗装工程)
溶接工程の後、溶接継手101に対して電着塗装を施すことができる。すなわち、タンク内の電着塗料に陽極又は陰極としての溶接継手101と、対極となる電極とを浸漬して両者の間に電気を流すことにより、溶接継手101の表面に塗膜を析出させる。これにより、図3Cに示すように、金属板10,20及び溶接金属部30上に電着塗膜50が形成される。電着塗膜50は、金属板10,20及び溶接金属部30を被覆する。電着塗膜50は、溶接金属部30の表面に付着している導電性の溶接スラグ(図示略)や、熱影響部40に付着したスケール(図示略)も被覆している。
【0048】
[効果]
本実施形態に係る溶接継手101は、いわゆる重ねすみ肉溶接継手である。溶接継手101では、金属板10の端面13が全体的に溶接金属部30から露出した状態で金属板10,20の端部同士が溶接されている。金属板10の端面13には、表面11,12に連続する凸曲面131が設けられている。そのため、溶接継手101に電着塗装を施したとき、金属板10の表面11,12から端面13へと移行する箇所で電着塗膜50が薄くなりにくい。したがって、金属板10の端面13及びその近傍において電着塗膜50を均一に形成することができ、溶接継手101に良好な電着塗装性を持たせることができる。金属板10の端面13及びその近傍で電着塗膜50の厚みが確保されることにより、金属板10の端面13を起点として発生する赤錆が低減される。よって、電着塗装後の溶接継手101、及び溶接継手101を含む部材が優れた耐食性を発揮することができる。
【0049】
金属板10の端面13を起点として発生した赤錆が拡大し、溶接金属部30のルート部に腐食の影響が及んだ場合、溶接金属部30のルート部における応力集中が顕著になる。しかしながら、本実施形態では、金属板10の端面13に凸曲面131を設けたことにより、端面13から赤錆が発生しにくくなるため、溶接金属部30のルート部に対する腐食の影響が抑制される。そのため、溶接継手101を含む部材の使用時において、溶接金属部30のルート部で生じる応力集中が低減される。
【0050】
本実施形態において、金属板10の端面13に形成された凸曲面131のアスペクト比は、6.0以下であることが好ましい。この場合、凸曲面131が丸みを帯びた形状となりやすいため、金属板10の端面13及びその近傍における電着塗膜50の局所的な薄膜化がより生じにくい。したがって、溶接継手101の電着塗装性がより良好となり、溶接継手101、及び溶接継手101を含む部材の塗装後耐食性が向上しやすくなる。
【0051】
本実施形態では、金属板10の端面13の全体が凸曲面131となっている。しかしながら、金属板10の端面13の一部が凸曲面131となっていてもよい。例えば、図4に示すように、端面13は、溶接継手101の横断面視で、溶接金属部30から遠い方の表面12に連続する凸曲面131と、凸曲面131から溶接金属部30側の表面11に向かって延在する平面132とを含んでいてもよい。図示を省略するが、凸曲面131が溶接金属部30側の表面11に連続し、平面132が凸曲面131から逆側の表面12に向かって延在していてもよい。ただし、金属板10の端面13の一部が凸曲面131である場合、凸曲面131は、他の金属板20からより離れた表面12に対して連続するように設けられることが好ましい。
【0052】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る溶接継手102の横断面を模式的に示す図である。本実施形態に係る溶接継手102は、第1実施形態に係る溶接継手101とほとんど同様の構成を有する。ただし、溶接継手102は、金属板10の端面13の形状において第1実施形態に係る溶接継手101と異なる。
【0053】
図5に示すように、金属板10の端面13は、傾斜面133,134を含んでいる。
【0054】
傾斜面133は、溶接金属部30から遠い方の表面12に隣接して設けられている。傾斜面133は、金属板10の一方の表面12に連続するとともに、他方の表面11から板厚方向に離隔している。溶接継手102の横断面視で、傾斜面133は、表面12に対して傾斜している。すなわち、傾斜面133は、溶接継手102の横断面視で表面12と面一ではなく、また、表面12に対して直交していない。傾斜面133は、表面12と鈍角をなすように表面12に対して傾斜している。
【0055】
傾斜面134は、傾斜面133に連続している。傾斜面134は、傾斜面133と、溶接金属部30に近い方の表面11との間に配置されている。傾斜面134は、溶接金属部30から遠い方の表面12からは金属板10の板厚方向に離隔している。言い換えると、傾斜面134は、表面12に対して不連続である。
【0056】
溶接継手102の横断面視で、傾斜面134は、傾斜面133に対して傾斜している。すなわち、傾斜面134は、溶接継手101の横断面視で傾斜面133と面一ではなく、また、傾斜面133に対して直交していない。傾斜面134は、傾斜面133と鈍角をなすように傾斜面133に対して傾斜している。本実施形態の例では、溶接継手102の横断面視で、傾斜面134は、金属板10の板厚方向に対して実質的に平行となっている。
【0057】
溶接継手102のうち横断面視で金属板10の端面13に傾斜面133,134が設けられている部分は、溶接金属部30の延在方向に沿って延びている。溶接金属部30の延在方向において、溶接継手102のうち横断面視で傾斜面133,134を含む部分の長さは、例えば、溶接金属部30の長さの30%以上とすることができる。溶接継手102のうち横断面視で傾斜面133,134を含む部分の長さは、溶接金属部30の長さ以下であってもよいし、溶接金属部30の長さを超えていてもよい。
【0058】
図6は、図5に示す溶接継手102のうち、金属板10の端面13及びその近傍を拡大した図である。図6を参照して、金属板10の表面12と端面13の傾斜面133との外角、言い換えると、溶接継手102の横断面視で表面12を延長した線が傾斜面133となす角をθ1としたとき、θ1は鋭角となる。θ1は、85°以下であることが好ましい。θ1は、0°よりも大きければよいが、例えば5°以上とすることができる。
【0059】
同様に、傾斜面133,134の外角、言い換えると、溶接継手102の横断面視で傾斜面133を延長した線が傾斜面134となす角をθ2としたとき、θ2は鋭角となる。θ2は、85°以下であることが好ましい。θ2は、0°よりも大きければよい。θ1+θ2は、90°以下となっていることが好ましい。
【0060】
本実施形態に係る溶接継手102も、第1実施形態に係る溶接継手101と同様の製造方法で製造することができる。すなわち、溶接継手102の製造方法は、傾斜面133,134が形成された端面13を含む金属板10を準備する工程と、金属板10の端面13を含む金属板10の端部を金属板20に対して溶接する工程とを備える。傾斜面133,134は、例えば、溶融加工、旋盤加工やフライス加工等といった切削加工、研削加工、研磨加工、放電加工、及びプレス加工や鍛造等といった塑性加工のうち、1つ以上の加工方法によって金属板10の端面13に形成することができる。
【0061】
溶接継手102の製造方法は、さらに、電着塗装を実施する工程を備えていてもよい。電着塗装工程後の溶接継手102は、図7に示すように電着塗膜50を備える。
【0062】
本実施形態に係る溶接継手102において、溶接金属部30から露出する金属板10の端面13には、傾斜面133,134が存在する。傾斜面133は金属板10の表面12に対して鈍角で緩やかに連続し、傾斜面134は傾斜面133に対して鈍角で緩やかに連続している。この場合、溶接継手102に電着塗装を施したとき、金属板10の表面12から傾斜面133へと移行する箇所、及び傾斜面133から傾斜面133へと移行する箇所において電着塗膜50が薄くなりにくい。したがって、金属板10の端面13及び近傍において電着塗膜50を均一に形成することができ、溶接継手102に良好な電着塗膜性を持たせることができる。金属板10の端面13及び近傍で電着塗膜50の厚みが確保されることにより、金属板10の端面13を起点として発生する赤錆が低減される。よって、第1実施形態と同様に、電着塗装後の溶接継手102、及び溶接継手102を含む部材が優れた耐食性を発揮することができる。
【0063】
本実施形態において、溶接継手102の横断面視で金属板10の表面12を延長した線と傾斜面133とがなす角θ1は、85°以下であることが好ましい。この場合、金属板10の端面13及びその近傍において電着塗膜50が特に薄くなりにくく、溶接継手102の電着塗装性をより向上させることができる。そのため、溶接継手102、及び溶接継手102を含む部材の塗装後耐食性が向上しやすくなる。
【0064】
本実施形態のように、傾斜面133は、他の金属板20から離れた表面12と端面13との間の角部を面取りするように、表面12側に設けられることが好ましい。ただし、図8に示すように、傾斜面133が他の金属板20側の表面11に連続して設けられていてもよい。あるいは、表面11,12のそれぞれに連続して傾斜面133が設けられ、2つの傾斜面133の間に傾斜面134が配置されていてもよい。すなわち、溶接金属部30から露出する金属板10の端面13は、3以上の傾斜面を含むことができる。この場合、溶接継手102の横断面視で隣り合う傾斜面が鈍角をなすように、端面13が加工される。
【0065】
本実施形態において、金属板10の端面13には、傾斜面133に隣接して傾斜面134が設けられている。しかしながら、端面13には、例えば傾斜面134に代えて曲面が設けられていてもよい。
【0066】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態に係る溶接継手103の横断面を模式的に示す図である。第1及び第2実施形態に係る溶接継手101,102が重ねすみ肉溶接継手であったのに対し、本実施形態に係る溶接継手103は、突合せ溶接継手である。すなわち、溶接継手103では、金属板10の端面13が金属板20の端面23に対向している。図9の例において、金属板10の端面13は、金属板20の端面23と隙間を空けて対向している。ただし、金属板10の端面13は、金属板20の端面23に接触していてもよい。
【0067】
端面13,23を含む金属板10,20の端部同士は、溶接金属部30によって接合されている。溶接金属部30は、金属板10,20の板厚方向において一方の表面11,21寄りに配置されている。そのため、金属板10,20の他方の表面12,22側では、金属板10の端面13の一部、及び金属板20の端面23の一部が溶接金属部30から露出している。
【0068】
金属板10の端面13のうち溶接金属部30から露出する部分は、凸曲面131を含んでいる。金属板20の端面23のうち溶接金属部30から露出する部分も、凸曲面231を含んでいる。凸曲面231は、金属板10の凸曲面131と同様の構成を有する。溶接継手103の横断面視で、凸曲面131及び凸曲面231は、それぞれ、金属板10の表面12及び金属板20の表面22に対して連続している。
【0069】
図10に示すように、他の実施形態と同様、溶接継手103も電着塗膜50を備えることができる。
【0070】
本実施形態に係る溶接継手103においても、溶接金属部30から露出した金属板10,20の端面13,23に凸曲面131,231が存在する。そのため、他の実施形態と同様に、金属板10,20の端面13,23及びその近傍で電着塗膜50が局所的に薄くなりにくい。したがって、金属板10,20の端面13,23を起点とした赤錆の発生が抑制され、溶接継手103、及び溶接継手103を含む部材の耐食性が向上する。
【0071】
図示を省略するが、金属板10の端面13のうち溶接金属部30から露出する部分は、第2実施形態のように、凸曲面131に代えて複数の傾斜面133,134(図5及び図6)を含むこともできる。同様に、金属板20の端面23のうち溶接金属部30から露出する部分は、凸曲面231に代えて複数の傾斜面を含むこともできる。
【0072】
本実施形態に係る溶接継手103も、他の実施形態と同様の工程を経て製造することができる。金属板20の端面23は、金属板10の端面13と同様の加工方法で加工することができる。
【0073】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態に係る溶接継手104の横断面を模式的に示す図である。本実施形態に係る溶接継手104は、T字すみ肉溶接継手である。すなわち、溶接継手104では、金属板10の端面13が金属板20の表面21に対向している。図11の例において、金属板10の端面13は、金属板20の表面21と隙間を空けて対向している。ただし、金属板10の端面13は、金属板20の表面21に接触していてもよい。
【0074】
金属板10は、一方の表面11側で金属板20に対してすみ肉溶接されている。すなわち、溶接金属部30は、金属板10の板厚方向において表面11側に配置されている。そのため、金属板10の他方の表面12側では、金属板10の端面13の一部が溶接金属部30から露出している。金属板10の端面13のうち溶接金属部30から露出する部分は、凸曲面131を含んでいる。
【0075】
図12に示すように、他の実施形態と同様、溶接継手104も電着塗膜50を備えることができる。
【0076】
本実施形態に係る溶接継手104においても、溶接金属部30から露出した金属板10の端面13に凸曲面131が存在する。そのため、他の実施形態と同様に、金属板10の端面13及びその近傍で電着塗膜50が局所的に薄くなりにくい。したがって、金属板10の端面13を起点とした赤錆の発生が抑制され、溶接継手104、及び溶接継手104を含む部材の耐食性が向上する。
【0077】
図示を省略するが、金属板10の端面13のうち溶接金属部30から露出する部分は、第2実施形態のように、凸曲面131に代えて複数の傾斜面133,134(図5及び図6)を含むこともできる。
【0078】
本実施形態に係る溶接継手104も、他の実施形態と同様の工程を経て製造することができる。
【0079】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例0080】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
本開示による効果を確認するため、上記実施形態に係る溶接継手101~104のいずれかと同様の構成を有する溶接試験片を複数作製し、各溶接試験片の耐食性を評価するための試験を実施した。
【0082】
溶接試験片は、熱延鋼板を用い、表1に示す溶接条件でMAG溶接によって作製した。試験片を作製する際は、溶接の裏面が中空となる治具を使用し、治具による試験片からの抜熱を最小限に抑えた。溶接ワイヤとして、ワイヤ径が1.2mmのYGW11を使用した。そして、平常部の塗膜厚さが20μmになるように、作製された溶接試験片に化成処理及び電着塗装を施した。
【0083】
【表1】
【0084】
各溶接試験片についてJASO M609-91に規定される複合サイクル腐食試験を行い、赤錆の発生状況を調査した。各溶接試験片の条件及び試験結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2において、端面加工の欄に「曲面加工」と記載されている実施例は、少なくとも金属板10について、端面13のうち溶接金属部30から露出している部分に凸曲面131が形成された溶接試験片である。本試験では、溶接時に金属板10の端面13を溶融させて曲面加工した。
【0087】
表2において、端面加工の欄に「傾斜加工」と記載されている実施例は、少なくとも金属板10について、端面13のうち溶接金属部30から露出している部分に傾斜面133,134が形成された溶接試験片である。端面加工の欄に「傾斜加工」と記載され、且つθ2の数値の記載がある比較例は、金属板10の端面13に傾斜面133,134が形成されているが、金属板10の表面12と傾斜面133との外角θ1が90°以上である溶接試験片である。端面加工の欄に「傾斜加工」と記載され、且つθ2の数値の記載がない比較例は、金属板10の端面13に傾斜加工が施されているが、端面13の全体が単一の傾斜面とされた溶接試験片である。本試験では、研削加工によって金属板10の端面13に傾斜面を形成した。
【0088】
表2において、端面加工の欄に「未加工」と記載されている比較例は、金属板10の端面13に曲面加工及び傾斜加工のいずれも施されなかった溶接試験片である。
【0089】
表2中の赤錆面積率は、溶接試験片の耐食性の評価指標である。赤錆面積率は、金属板10,20に設定した評価面の投影面積に対する赤錆の投影面積の割合であり、210cycle時点で発生していた赤錆の面積の割合である。重ねすみ肉溶接継手101,102については、金属板10,20の溶接金属部30の裏側の表面12,22のうち、金属板10の端面13から表面12側に50mm、表面22側に40mmの幅(計90mm)を有する領域を評価面とし、投影方向を金属板10,20の板厚方向とした。突合せ溶接継手103については、金属板10,20の溶接金属部30の裏側の表面12,22のうち、端面13,23のそれぞれから50mmの幅(計100mm)を有する領域を評価面とし、投影方向を金属板10,20の板厚方向とした。T字すみ肉溶接継手104については、金属板10の溶接金属部30の裏側の表面12のうち端面13から50mm、及び、金属板20の表面21であって溶接金属部30の裏側に位置する部分のうち、相手金属板10の端面13から25mmの領域を評価面とした。この評価面の幅は、T字すみ肉溶接継手104の横断面視で、金属板10の表面12のうち端面13から50mmの点と、金属板20の表面21のうち金属板10の端面13から25mmの点とを結ぶ直線の長さ(約60mm)であり、投影方向は、T字すみ肉溶接継手104の横断面視で当該直線に垂直な方向である。各溶接継手の評価面の長さ(幅方向と直交する方向の長さ)は、150mmとした。
【0090】
表2からわかるように、各実施例では、金属板10の端面13が未加工であったNo.25及び26の比較例、並びに金属板10の端面13が単一の傾斜面であったNo.30の比較例よりも赤錆面積率が低減された。また、各実施例では、金属板10の端面13の傾斜面133と表面12との外角(傾斜角)θ1が鈍角であったNo.29の比較例よりも赤錆面積率が低減された。したがって、端面13に凸曲面131を設けるか、傾斜角θ1,θ2が鋭角となるように傾斜面133,134を設けることにより、溶接継手が良好な電着塗装性を発揮し、耐食性が向上することが確認された。
【0091】
金属板10の端面13に凸曲面131を形成する曲面加工が施された実施例のうち、No.27の実施例では凸曲面131のアスペクト比が6.0を超えており、No.1~13の実施例では凸曲面131のアスペクト比が6.0以下である。No.1~13の実施例では、No.27の実施例と比較して赤錆面積率が有意に低減された。したがって、金属板10の端面13が凸曲面131を含む場合、凸曲面131のアスペクト比を6.0以下とすることで、溶接継手の電着塗装性がより良好となり、耐食性が向上するといえる。
【0092】
金属板10の端面13に複数の傾斜面133,134を形成する傾斜加工が施された実施例のうち、No.28の実施例では傾斜面133に関する角度θ1が85°を超えており、No.14~24の実施例では角度θ1が85°以下であった。No.14~24の実施例では、No.28の実施例と比較して赤錆面積率が有意に低減された。したがって、金属板10の端面13が傾斜面133を含む場合、傾斜角θ1を85°以下とすることで、溶接継手の電着塗装性がより良好となり、耐食性が向上するといえる。
【0093】
また、No.28の実施例では、傾斜面133に関する傾斜角θ1と傾斜面134に関する傾斜角θ2との和が90°超であるが、No.14~24の実施例では、傾斜角θ1,θ2の和が90°以下である。上述したように、No.14~24の実施例では、No.28の実施例と比較すると赤錆の発生が低減されていた。この結果より、θ1+θ2は、90°以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0094】
101,102,103,104:溶接継手
10:第1金属板
11,12:表面
13:端面
131:凸曲面
133,134:傾斜面
20:第2金属板
30:溶接金属部
50:電着塗膜
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12