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特開2024-66710ar-ターメロン誘導体、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066710
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ar-ターメロン誘導体、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/248 20060101AFI20240509BHJP
   C07C 45/65 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C07C49/248 CSP
C07C45/65
A61K31/12
A61P25/28
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176318
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】506388130
【氏名又は名称】宮澤 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 三雄
(72)【発明者】
【氏名】丸本 真輔
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206AA04
4C206CB05
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZC20
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB20
4H006AC41
4H006BN10
4H006BR10
(57)【要約】
【課題】β-セクレターゼ阻害活性が高い化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、式(2):
で表される、13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを提供する。13-ヒドロキシ-ar-ターメロンは、優れたβ-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2):
【化1】
で表される、13-ヒドロキシ-ar-ターメロン。
【請求項2】
ar-ターメロンのヒト代謝産物である、請求項1に記載の13-ヒドロキシ-ar-ターメロン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを含有する、β-セクレターゼ阻害剤。
【請求項4】
式(2):
【化2】
で表される、13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを製造する方法であって、
式(9):
【化3】
(式中、Acはアセチル基を示す)
で表される化合物を加水分解して、前記式(2)で表される13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを得る工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ar-ターメロン誘導体、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ar-ターメロン(ar-turmerone)は、下記式(1):
【化1】
で表されるセスキテルペンである。
【0003】
ar-ターメロンは、ターメリックオイル(ウコン油)等に含まれている化合物であり、香粧品用香料又は食品香料として広く使用されている(例えば、特許文献1等)。ar-ターメロンは、S体である(S)-ar-ターメロン及びR体である(R)-ar-ターメロンの2つの立体異性体を有する。
【0004】
ar-ターメロンのS体であり、且つ、旋光度が(+)である(+)-(S)-ar-ターメロンは、下記式(1a):
【化2】
で表される(以下、「化合物(1a)」とも表記する)。
【0005】
特許文献1には、ar-ターメロンがβ-セクレターゼ阻害剤の有効成分として使用できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、ar-ターメロンはβ-セクレターゼ阻害活性が十分ではなく、実用に供されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/085844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、β-セクレターゼ阻害活性が高い化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、文献未記載のar-ターメロン誘導体(ar-ターメロン化合物)を合成することに成功し、上記課題を達成できることを見出した。本発明は、さらに研究を重ね、完成させたものである。
【0010】
本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.式(2):
【化3】
で表される、13-ヒドロキシ-ar-ターメロン。
項2.ar-ターメロンのヒト代謝産物である、項1に記載の13-ヒドロキシ-ar-ターメロン。
項3.項1又は2に記載の13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを含有する、β-セクレターゼ阻害剤。
項4.式(2):
【化4】
で表される、13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを製造する方法であって、
式(9):
【化5】
(式中、Acはアセチル基を示す)
で表される化合物を加水分解して、前記式(2)で表される13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを得る工程、
を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の式(2)で表される13-ヒドロキシ-ar-ターメロンは本発明者らが初めて合成することに成功した新規化合物であり、β-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。本発明の式(2)で表される13-ヒドロキシ-ar-ターメロンは、式(1)で表されるar-ターメロンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって製造することができる。また、本発明の製造方法を用いれば、式(1)で表されるar-ターメロンからar-ターメロン誘導体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた化合物のうち、(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンの各種解析結果を示す図である。
図2】実施例2の製造方法[原料である(+)-(S)-ar-ターメロンから、各工程を経て(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンを製造する方法]を説明するスキームである。
図3】(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン及び(+)-(S)-14-ヒドロキシ-ar-ターメロンのβ-セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下に記載する本発明の構成要件の説明は、代表的な実施形態及び具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0015】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0016】
本明細書において、「A及び/又はB」とは、「A及びBの一方」又は「A及びBの両方」を意味し、具体的には、「A」、「B」、又は「A及びB」を意味する。
【0017】
本明細書において、「Ac」とは、「アセチル基[CH-C(=O)-]」を、「TBS」とは、「tert-ブチルジメチルシリル基[(CH-C-Si(CH-]」を意味する。
【0018】
本発明は、下記式(2):
【化6】
で表される13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[以下、「化合物(2)」とも表記する]とも表記する)である。化合物(2)は、ar-ターメロンの誘導体であり、文献未記載の新規化合物である。化合物(2)は、β-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。また、本発明のar-ターメロン誘導体は、香料基材として用いることができる。具体的には、本発明のar-ターメロン誘導体は、化粧品、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、消臭剤、香水、整髪料等の香粧品に加えて用いることができる。さらに、本発明のar-ターメロン誘導体は、食品添加剤として、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。
【0019】
化合物(2)は、ラセミ体であってもよいし、立体異性体であってもよい。化合物(2)の立体異性体には、S体である(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン及びR体である(R)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンが含まれる。本発明において、化合物(2)のS体である(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンが好ましく、化合物(2)のS体であり、且つ、旋光度が(+)である(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンがより好ましい。
【0020】
(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[以下、「化合物(2a)」とも表記する]は、下記式(2a):
【化7】
で表される。
【0021】
化合物(2)は、ar-ターメロンのヒト代謝産物であることが好ましい。すなわち、化合物(2)は、ar-ターメロンを、薬物代謝能力を有する酵素(例えば、ヒト肝ミクロソーム、P-450等)による酵素反応によって得られる化合物であることが好ましい。
【0022】
化合物(2)は、ar-ターメロンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって製造することが好ましい。該ヒト肝ミクロソームとしては、市販の製品を用いてもよいし、公知の方法(例えば、「実験生物学講座6 細胞分画法」、編集:毛利秀雄、香川靖雄、発行所:丸善株式会社、ISBN:4-621-02950-9 C3345、発行日:1984年12月25日、「Method in Enzymolozy, Volume 206, Cytochrome P450」、EDITED BY Michael R. Waterman、Eric F. Johnson、ACADEMIC PRESS, INC. 1991等の文献参照)に従って調製してもよい。具体的には、ヒト肝ミクロソームは、由来の明らかなヒトの肝臓をホモジナイズして得られる組織破砕物を遠心分離(例えば、4℃、10000×g、30分間)した後、その上清をさらに遠心分離(例えば、4℃、100000×g、90分間)し、得られた沈殿を、100mMピロリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に再度懸濁し、遠心分離(例えば、4℃、100000×g、60分間)して得られる沈殿を、適切な緩衝液に懸濁して得られる画分を試料として用いればよい。
【0023】
ar-ターメロンの代謝は、ar-ターメロンをヒト肝ミクロソームで処理し、産生された代謝産物を採取することにより行われる。ここで、「処理」とは、ar-ターメロンとヒト肝ミクロソームとの接触、ar-ターメロンをヒト肝ミクロソームの培養培地に含有させて行う培養等の該技術分野で通常行われる代謝手段を含む意味で用いられている。「採取」とは、該技術分野で通常行われる分離、抽出及び精製手段を含む工程を意味している。
【0024】
本発明において、好ましくは、ar-ターメロンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって、化合物(2)と共に、下記式(3):
【化8】
で表される14-ヒドロキシ-ar-ターメロン[以下、「化合物(3)」とも表記する]を製造することができる。
【0025】
本発明において、より好ましくは、ar-ターメロンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって、化合物(2)及び化合物(3)の混合物を製造することができる。本発明において、化合物(2)及び化合物(3)の混合物をβ-セクレターゼ阻害剤として使用することができる。また、本発明において、化合物(2)及び化合物(3)の混合物から、化合物(2)と化合物(3)とを単離して、それぞれの化合物をβ-セクレターゼ阻害剤として使用することができる。
【0026】
本発明は、化合物(2)を製造する方法であって、
下記式(9):
【化9】
(式中、Acはアセチル基を示す)
で表される化合物(以下、「化合物(9)」とも表記する)を加水分解して、該化合物(2)を得る工程(以下、「加水分解工程」とも表記する)を含む。
【0027】
本発明は、好ましくは、化合物(2a)を製造する方法であって、
下記式(9a):
【化10】
で表される化合物(以下、「化合物(9a)」とも表記する)を加水分解して、該化合物(2a)を得る工程(以下、「加水分解工程a」とも表記する)を含む。
【0028】
加水分解工程及び加水分解工程aは、化合物(9)又は化合物(9a)を加水分解して、化合物(2)又は化合物(2a)を製造することができる。この加水分解の条件は、公知の加水分解の条件を広く適用することができる。例えば、相間移動触媒の存在下で、塩基を用いて、化合物(9)又は化合物(9a)の加水分解反応を行うことができる。
【0029】
加水分解工程及び加水分解工程aで用いる相間移動触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの第4級アンモニウム塩は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの第4級アンモニウム塩の中でも、加水分解反応をより一層良好に進行させる点から、テトラブチルアンモニウムブロマイドが好ましい。
【0030】
相間移動触媒の使用量は、化合物(9)1モル又は化合物(9a)1モルに対し、0.05モル~0.2モルが好ましい。
【0031】
加水分解工程及び加水分解工程aで用いる塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらの塩基は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの塩基の中でも、加水分解反応をより一層良好に進行させる点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0032】
塩基は、水溶液の形態で反応系に添加することが好ましい。塩基の水溶液の濃度は、加水分解反応をより一層良好に進行させる点から、5質量%以上であることが好ましい。塩基の使用量は、化合物(9)1モル又は化合物(9a)1モルに対し、0.1モル~0.5モルが好ましい。
【0033】
加水分解工程及び加水分解工程aは、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、加水分解反応をより一層良好に進行させる点から、ジエチルエーテル(EtO)が好ましい。
【0034】
有機溶媒の使用量は、化合物(9)1質量部又は化合物(9a)1質量部に対し、5質量部~30質量部が好ましい。
【0035】
加水分解工程及び加水分解工程aにおける反応温度は、好ましくは0℃~40℃である。加水分解工程及び加水分解工程aにおける反応時間は、好ましくは1~5時間である。
【0036】
化合物(9)は、原料であるar-ターメロンから、下記に示す各工程(第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、第5工程及び第6工程)を経て製造することが好ましい。以下、該各工程について詳細に説明する。
【0037】
化合物(9a)は、原料である(+)-(S)-ar-ターメロンから、下記に示す各工程(第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、第5工程及び第6工程)を経て製造することが好ましい。
【0038】
(第1工程)
第1工程は、ar-ターメロンのカルボニル基を還元して、
下記式(4):
【化11】
で表されるar-ターメロール(以下、「化合物(4)」とも表記する)を得る工程である。
【0039】
第1工程は、ar-ターメロンのカルボニル基を還元して、化合物(4)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0040】
第1工程において、還元反応は、例えば、金属水素化物を還元剤として用いる方法等が挙げられる。当該還元剤としては、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)等が挙げられる。これらの還元剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの還元剤の中でも、還元反応をより一層良好に進行させる点から、DIBAL-Hが好ましい。第1工程において、還元剤としてNaBHを使用する場合は、塩化セリウム(III)七水和物(CeCl・7HO)を共存させて反応を行うことが好ましい。
【0041】
還元剤の使用量は、1モルのar-ターメロンに対し、1モル~1.5モルが好ましい。
【0042】
第1工程は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、還元反応をより一層良好に進行させる点から、ジクロロメタン(CHCl)が好ましい。
【0043】
第1工程における反応温度は、好ましくは0℃~25℃である。第1工程における反応時間は、好ましくは1分間~1時間である。
【0044】
第1工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第1工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0045】
(第2工程)
第2工程は、化合物(4)の第2級アルコールのヒドロキシ基を保護して、
下記式(5):
【化12】
で表される化合物(以下、「化合物(5)」とも表記する)を得る工程である。
【0046】
第2工程は、化合物(4)の第2級アルコールのヒドロキシ基を保護して、化合物(5)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0047】
第2工程において、ヒドロキシ基の保護基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS)、tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)等のシリル系保護基;アセチル基、プロパノイル基、ベンゾイル基等のアシル系保護基等が挙げられる。これらの保護基の中でも、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS)又はtert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)が好ましく、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS)がより好ましい。
【0048】
第2工程において、化合物(4)へのヒドロキシ基の保護基の導入は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基が、(i)tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)の場合には、tert-ブチルジメチルシリルクロリド(TBSCl)を、(ii)tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)の場合には、tert-ブチルジフェニルクロロシラン(TBDPSCl)を使用することできる。TBSCl又はTBDPSClの使用量は、化合物(4)1モルに対し、1モル~2モルが好ましい。
【0049】
第2工程において、塩基存在下に反応を行うことにより、有機溶媒中で保護基の導入を行うことが好ましい。当該反応により、化合物(4)の第2級アルコールのヒドロキシ基のみを保護することができ、化合物(5)を得ることができる。
【0050】
反応に用いられる塩基としては、例えば、イミダゾール、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等のアミンが挙げられる。これらの塩基の中でも、保護基の導入をより一層良好に進行させる点から、イミダゾールが好ましい。塩基の使用量は、化合物(4)1モルに対し、2モル~6モルが好ましい。
【0051】
第2工程は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、保護基の導入をより一層良好に進行させる点から、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい。
【0052】
第2工程における反応温度は、好ましくは0℃~40℃である。第2工程における反応時間は、好ましくは0.15時間~1.5時間である。
【0053】
第2工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第2工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0054】
(第3工程)
第3工程は、化合物(5)を酸化反応させて、選択的にアリル位の炭素に水酸基(-OH)を導入した下記式(6):
【化13】
で表される化合物(以下、「化合物(6)」とも表記する)を得る工程である。
【0055】
第3工程における酸化反応は、酸化剤を用いて、化合物(5)のアリル位の炭素に選択的に水酸基を導入し、化合物(6)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0056】
酸化反応に用いられる酸化剤としては、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、二酸化セレン(SeO)、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、酸素、四酸化オスミウム、クロロクロム酸ピリジニウム等が挙げられる。これらの酸化剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。第3工程において、酸化反応をより一層良好に進行させる点から、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)及び二酸化セレン(SeO)を併用することが好ましい。
【0057】
酸化剤の使用量は、化合物(5)1モルに対し、1モル~5モルが好ましい。
【0058】
第3工程は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、酸化反応をより一層良好に進行させる点から、ジクロロメタン(CHCl)が好ましい。
【0059】
第3工程における反応温度は、好ましくは0℃~40℃である。第2工程における反応時間は、好ましくは0.5時間~10時間である。
【0060】
第3工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第3工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0061】
(第4工程)
第4工程は、化合物(6)の水酸基をアセチル化して、下記式(7):
【化14】
で表される化合物(以下、「化合物(7)」とも表記する)を得る工程である。
【0062】
第4工程は、化合物(6)の水酸基をアセチル化して、化合物(7)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0063】
第4工程において、アセチル化反応は、例えば、塩基の存在下で、アセチル化剤を用いる方法等が挙げられる。当該塩基としては、例えば、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン等が挙げられる。これらの塩基は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの塩基は、順次又はアセチル化剤と同時に加えて反応させる。これらの塩基の中でも、アセチル化反応をより一層良好に進行させる点から、ピリジン及びDMAPを併用することが好ましい。
【0064】
塩基の使用量は、化合物(6)1モルに対し、1モル~10モルが好ましい。
【0065】
アセチル化反応におけるアセチル化剤としては、例えば、無水酢酸、酢酸クロリド、酢酸ブロミド等が挙げられる。これらのアセチル化剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの塩基の中でも、アセチル化反応をより一層良好に進行させる点から、無水酢酸が好ましい。
【0066】
アセチル化剤の使用量は、化合物(6)1モルに対し、1モル~3モルが好ましい。
【0067】
第4工程は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、アセチル化反応をより一層良好に進行させる点から、ジクロロメタン(CHCl)が好ましい。
【0068】
第4工程における反応温度は、好ましくは25℃~60℃である。第1工程における反応時間は、好ましくは0.5時間~5時間である。
【0069】
第4工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第4工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0070】
(第5工程)
第5工程は、化合物(7)のヒドロキシ基の保護基を除去して、下記式(8):
【化15】
で表される化合物(以下、「化合物(8)」とも表記する)を得る工程である。
【0071】
第5工程は、化合物(7)のヒドロキシ基の保護基を除去して、化合物(8)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0072】
第5工程において、例えば、ヒドロキシ基の保護基が、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS)又はtert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)の場合には、有機溶媒中で、脱シリル化剤を作用させることが好ましい。
【0073】
脱シリル化剤の使用量は、化合物(7)1モルに対し、1モル~2モルが好ましい。
【0074】
上記脱シリル化剤としては、例えば、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、テトラエチルアンモニウムフルオライド,テトラメチルアンモニウムフルオライド等のフッ素含有試薬;トリフルオロ酢酸、酢酸、塩酸等が挙げられる。これらの脱シリル化剤の中でも、ヒドロキシ基の保護基の除去をより一層良好に進行させる点から、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)が好ましい。
【0075】
第5工程は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、ヒドロキシ基の保護基の除去をより一層良好に進行させる点から、テトラヒドロフラン(THF)が好ましい。
【0076】
第5工程における反応温度は、好ましくは0℃~25℃である。第1工程における反応時間は、好ましくは0.1時間~2時間である。
【0077】
第5工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第5工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0078】
(第6工程)
第6工程は、化合物(8)のヒドロキシ基を酸化して、化合物(9)を得る工程である。
【0079】
第6工程は、化合物(8)のヒドロキシ基をカルボニル基に酸化して、化合物(9)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0080】
第6工程において、例えば、酸化剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて酸化反応を行うスワーン(Swern)酸化;酸化剤として2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いて酸化反応を行うTEMPO酸化;酸化剤として超原子価ヨウ素化合物(デス・マーチン試薬)を用いて酸化反応を行うデス・マーチン(Dess-Martin)酸化等の公知の反応条件を広く適用することができる。
【0081】
Swern酸化は、一般的に、ジメチルスルホキシドがアリル位又はベンジル位のアルコールを還流条件下で酸化してカルボニル化合物へと変換する反応である。該酸化には、活性化剤として塩化オキサリル[(COCl)]を使用することが好ましい。Swern酸化における活性化剤の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは1モル~1.5モルである。
【0082】
Swern酸化は、酸化剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を使用することが好ましい。Swern酸化における酸化剤の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは1モル~1.5モルである。
【0083】
Swern酸化は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル(EtO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン(CHCl)、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機溶媒の中でも、酸化反応をより一層良好に進行させる点から、ジクロロメタン(CHCl)が好ましい。
【0084】
Swern酸化の反応温度は、好ましくは-90℃~-20℃である。Swern酸化の反応時間は、好ましくは0.1時間~1.5時間である。
【0085】
Swern酸化を行う場合、反応の完了前に、トリエチルアミン(EtN)等の塩基を加えることが好ましい。塩基を加えることにより、式(8)で表されるカルボニル化合物と、ジメチルスルフィドとが生成する。Swern酸化における塩基の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは10モル~20モルである。
【0086】
TEMPO酸化とは、一般的に、酸化剤であるTEMPOと再酸化剤とを組み合わせて、アルコール等の基質を酸化する反応である。TEMPO酸化におけるTEMPOの使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは0.005モル~0.5モルである。
【0087】
TEMPO酸化における再酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、ヨードベンゼンジアセテート等が挙げられる。該再酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。TEMPO酸化における次亜塩素酸ナトリウムの使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは1モル~5モルある。
【0088】
TEMPO酸化は、塩基の存在下で行うことができ、例えば、塩基としての炭酸水素ナトリウム(NaHCO)の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは0.1モル~2モルである。TEMPO酸化における臭化カリウム(KBr)の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは0.0001モル~1モルである。
【0089】
TEMPO酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、水等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタン、水、又はジクロロメタンと水との混合溶媒が好ましい。
【0090】
TEMPO酸化の反応温度は、好ましくは-10℃~10℃である。TEMPO酸化の反応時間は、好ましくは0.1時間~2時間である。
【0091】
TEMPO酸化反応後に、TEMPOを除去する為に、次亜硫酸ナトリウム(Na)水溶液等の還元剤を用いることができる。
【0092】
デス・マーチン酸化は、一般的に、超原子価ヨウ素化合物(デス・マーチン試薬)を用いてアルコールをカルボニル化合物へと変換する酸化反応である。酸化剤としては、例えば、デス・マーチン試薬である1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン等が用いられる。デス・マーチン酸化における酸化剤の使用量は、化合物(8)1モルに対して、好ましくは1モル~5モルである。
【0093】
デス・マーチン酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0094】
デス・マーチン酸化の反応温度は、好ましくは0℃~25℃である。デス・マーチン酸化の反応応時間は、好ましくは0.1時間~2時間である。
【0095】
第6工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第6工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0096】
以上のように、化合物(2)を原料であるar-ターメロンから化学的に合成することができる。
【0097】
化合物(2)及び化合物(2a)は、それぞれβ-セクレターゼ阻害作用等の活性を有している。
【0098】
β-セクレターゼ阻害作用に関して、化合物(2a)は、下記式(3a):
【化16】
で表される(+)-(S)-14-ヒドロキシ-ar-ターメロン(以下、「化合物(3a)」とも表記する)よりも高いβ-セクレターゼ阻害活性を有している(試験例1参照)。化合物(3)及び化合物(3a)についても、それぞれβ-セクレターゼ阻害作用等の活性を有している。
【0099】
本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2)]を含有する。β-セクレターゼ阻害剤中の化合物(2)の含有割合は、通常0.001質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%である。
【0100】
本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、好ましくは(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2a)]を含有する。β-セクレターゼ阻害剤中の化合物(2a)の含有割合は、通常0.001質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%である。
【0101】
また、本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、各種用途に用いることができる。例えば、本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、哺乳動物(特に、ヒト)における脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤、特に認知症の予防剤又は認知機能賦活剤として用いることができる。さらに、本発明のβ―セクレターゼ阻害剤は、医薬としても有用である。本発明のβ-セクレターゼ阻害剤を医薬として用いる場合、哺乳動物(特に、ヒト)における脳疾患(例えば、認知症等)の予防薬又は治療薬、特に認知症の予防薬又は治療薬として用いることができる。
【0102】
化合物(2)又は化合物(2a)をヒト又は動物用の医薬組成物として用いる場合、化合物(2)又は化合物(2a)を、そのままの状態で又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野における公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の形態にして用いることができる。
【0103】
これらの形態においては、適当な媒体を添加してもよい。適当な媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント、ポリビニルピロリドン等)、充填剤(例えば、乳糖、砂糖、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、錠剤用滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(例えば、馬鈴薯デンプン)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0104】
錠剤とする場合は、通常の製薬における周知の方法でコートしてもよい。液体製剤とする場合は、例えば、水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、又はエリキシルの形態であってもよい。また、使用前に水等の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0105】
液体製剤は、通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂等の懸濁化剤;レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴム等の乳化剤(食用脂を含んでもよい);アーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等の油性エステル等の非水性賦形剤;p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸等の保存剤を含んでもよく、さらに所望により着色剤、香料等を含んでもよい。
【0106】
医薬組成物における化合物(2)又は化合物(2a)の使用量は、使用目的、対象疾患、自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等により、適宜調整される。
【0107】
製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明に係る投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選ぶことができる。
【0108】
本発明のar-ターメロン誘導体は、強いβ-セクレターゼ阻害活性を有するだけでなく、重量感のある甘い香りを有することから、例えば、化粧品、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、消臭剤、香水、整髪料等の香粧品に加えて用いることができる。
【0109】
上記香粧品における本発明のar-ターメロン誘導体の含有割合は、通常0.001質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%である。
【0110】
本発明のar-ターメロン誘導体を含む上記香粧品を用いた場合には、精油の香りによるリラクゼーション効果、リフレッシュ効果が発揮され、またストレスの多い現代社会において心身の癒し効果が発揮される。上記香粧品を、高齢者、病人等が生活する環境で用いることにより、脳疾患(例えば、認知症等)の予防効果(例えば、認知症予防効果)及び/又は脳疾患(例えば、認知症等)の改善効果(例えば、認知機能賦活効果)を発揮することが期待できる。それ故、本発明のar-ターメロン誘導体は、健康長寿のためのケア商品に応用できると考えられる。
【0111】
本発明のar-ターメロン誘導体は、アロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いることがより好ましい。該アロマテラピー用エッセンシャルオイルを所定の場所に撒布して、吸入し得る形態で使用することもできる。撒布場所としては、例えば、家庭の部屋内、ホテルの部屋、会議室、病室の他、人の集まる催し物会場、休憩広場、各種リラクゼーション施設等に撒布することができる。これらの中でも、認知症の患者が生活する病院、施設等で用いることにより、認知症の予防効果及び/又は認知機能賦活効果が期待される。
【0112】
また、本発明のar-ターメロン誘導体は、重量感のある甘い香りを有することから、食品添加剤として、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。本発明のar-ターメロン誘導体は、このような人間用の飲食品に食品添加剤として配合されるだけでなく、イヌ、ネコ等のペットフードに食品添加剤として配合することも可能である。
【0113】
上記各種飲食品における本発明のar-ターメロン誘導体の含有割合は、通常0.001質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%である。
【実施例0114】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0115】
まず、実施例の項における測定方法及び評価方法について説明する。
【0116】
実施例で使用した機器は、以下の通りである。
【0117】
<NMRスペクトル>
NMRスペクトルの測定には、JEOL RESONANCE株式会社製のECA800(800MHz、H;200MHz、13C)分光器を使用した。CDCl中のテトラメチルシラン(TMS)を標準物質として使用した。多重度は、DEPT135°により決定した。
【0118】
<比旋光度>
比旋光度の測定は、日本分光株式会社製のP-2200を使用した。
【0119】
<ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)>
GC-MSの測定は、株式会社島津製作所製のQP-2010plusを使用した。
【0120】
(実施例1)
<ヒト肝ミクロソームを用いた(+)-(S)-ar-ターメロンの代謝による(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンの製造>
試験管にヒト肝ミクロソーム(HLM)、(+)-(S)-ar-ターメロン[化合物(1a)]、リン酸緩衝液(pH7.4)、NADPH-generatingsystemを加え、37℃で60分間培養を行った。その後、反応停止剤及び抽出溶媒としてジクロロメタン(CHCl)(0.2mL)を加えて攪拌し、遠心分離を行い、得られた有機層をGC-MS測定により変換生成物の確認を行った。GC-MS測定にて解析を行った結果、ヒト肝ミクロソームによる化合物(1a)の代謝により、(+)-(S)-14-ヒドロキシ-ar-ターメロン[以下、「化合物(3a)」とも表記する]及び新規化合物である(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2a)]が生成したことが確認された。化合物(2a)の各種解析結果を、図1に示す。
【0121】
(実施例2)
<(+)-(S)-ar-ターメロンから(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロンの製造>
(+)-(S)-ar-ターメロン[化合物(1a)]から(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2a)]を合成する操作の一例を、図2に示す。以下の工程において、減圧濃縮は、ロータリーエバポレーターを用いて行った。なお、以下の「a:第1工程」乃至「g:第7工程」は、それぞれ図2に記載の「a」乃至「g」の工程に対応している。
【0122】
a:第1工程
ジクロロメタン(CHCl)(50mL)中において、(+)-(S)-ar-ターメロン(3.0g、13.9ミリモル)と水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)(1.99g、14.0ミリモル)とを、0℃で15分間反応させ、(+)-(S)-ar-ターメロンのカルボニル基の還元を行うことにより、(+)-(S)-ar-ターメロールを2.6g得た(収率87%)。
【0123】
b:第2工程
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)中において、第1工程で得られた(+)-(S)-ar-ターメロール(2.5g、11.5ミリモル)とtert-ブチルジメチルシリルクロリド(TBSCl)(1.8g、12.0ミリモル)とイミダゾール(1.0g、15.0ミリモル)とを、25℃で30分間反応させることにより、(+)-(S)-ar-ターメロールの第2級アルコールをtert-ブチルジメチルシリル(TBS)基により選択的に保護した化合物を3.3g得た(収率86%)。
【0124】
c:第3工程
ジクロロメタン(CHCl)(50mL)中において、酸化剤としてのtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)(1.2g、13.5ミリモル)及び二酸化セレン(SeO)(0.3g、3.0ミリモル)の存在下で、第2工程で得られた化合物(3.0g、9.0ミリモル)を25℃で6時間酸化反応させて、選択的にアリル位の炭素に水酸基(-OH)を導入した化合物を2.0g得た(収率63%)。
【0125】
d:第4工程
ジクロロメタン(CHCl)(50mL)中において、第3工程で得られた化合物(2.0g、5.7ミリモル)と無水酢酸[(CHCO)O](1.0g、10ミリモル)とピリ(1.2g、15ミリモル)とDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)(0.04g、0.3ミリモル)とを、25℃で1時間反応させることにより、第3工程で得られた化合物の水酸基をアセチル化した化合物を2.1g得た(収率92%)。
【0126】
e:第5工程
テトラヒドロフラン(THF)(30mL)中において、第4工程で得られた化合物(2.0g、5.1ミリモル)と、脱シリル化剤としてのテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)(1.7g、6.3ミリモル)とを、0℃で30分間反応させることにより、第4工程で得られた化合物の9位のヒドロキシ基の保護基(TBS)を除去した化合物を1.2g得た(収率84%)。
【0127】
f:第6工程
ジクロロメタン(CHCl)(30mL)中において、第5工程で得られた化合物(1.0g、3.6ミリモル)と塩化オキサリル[(COCl)](0.5g、4.0ミリモル)とジメチルスルホキシド(DMSO)(0.3g、4.0ミリモル)とトリエチルアミン(EtN)(5.0g、50ミリモル)とを、-78℃で15分間反応させ、第5工程で得られた化合物のケトン体である化合物を0.8g得た(収率81%)。
【0128】
g:第7工程
ジエチルエーテル(EtO)(10mL)中において、第6工程で得られた化合物(0.5g、1.8ミリモル)と5質量%水酸化ナトリウム水溶液(5mL)と相間移動触媒としてのテトラブチルアンモニウムブロマイド(0.06g、0.18ミリモル)とを、25℃で3時間反応させ、第6工程で得られた化合物のアセチル基を加水分解することにより、目的化合物である(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2a)]を0.34g得た(収率82%)。
【0129】
<試験例1(β-セクレターゼ阻害試験)>
β-セクレターゼ阻害活性を、PanVera社から購入したBACE1(組換えヒトBACE1)アッセイキットを用いて評価した。評価試験は、メーカーが作製したキットの取扱説明書の記載を改変した方法[Jeon S.Y., et. al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 13: 3905-3908 (2003)]に従って行った。以下、評価方法について簡単に説明する。
【0130】
10μLのBACE1(1.0U/ml)、10μLの基質(50mM重炭酸アンモニウム中の750nM Rh-EVNLDAEFK-Quencher)、及び10μLの試料溶液(試料を30%DMSOに溶かした溶液)を混合して試験試料とした。また、上記試料溶液の替わりに10μLのアッセイバッファー(30%DMSO含有、50mM酢酸ナトリウム、pH4.5)を加えたものをコントロールとした。これらを暗所において室温で60分間インキュベーションした後に、550nmの波長の光を照射して励起させ、590nmの波長における発光強度を測定した。
【0131】
β-セクレターゼ活性の阻害パーセントを以下の式:
セクレターゼ活性(%)=[1-{(S-S)/(C-C)}]×100
[式中、Cは60分間のインキュベーション後のコントロール(酵素、バッファー及び基質)の発光強度を示し、Cは0時におけるコントロールの発光強度を示し、Sはインキュベーション後の試験試料(酵素、試料溶液及び基質)の発光強度を示し、Sは0時における試料の発光強度を示す。]に従って計算した。なお、全データは、3回の試験結果の平均である。
【0132】
上記試験結果を図3に示す。この試験結果から、(+)-(S)-13-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(2a)]は、(+)-(S)-14-ヒドロキシ-ar-ターメロン[化合物(3a)]よりも高いβ-セクレターゼ阻害活性を有していることが示された。
図1
図2
図3