(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066712
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】エンジンのスロットル装置及びバイパスエアスクリュ
(51)【国際特許分類】
F02D 9/02 20060101AFI20240509BHJP
F02M 69/32 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
F02D9/02 305Q
F02M69/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176327
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 将吾
【テーマコード(参考)】
3G065
【Fターム(参考)】
3G065AA11
3G065BA01
3G065CA24
3G065CA27
(57)【要約】
【課題】合成樹脂材料による製造コスト面のメリットを活かした上で、クリープ変形やクラックを防止して良好な耐久性を実現したバイパスエアスクリュ、及びこのバイパスエアスクリュが適用されたエンジンのスロットル装置を提供する。
【解決手段】スロットルボア2a,2b,3a内に開閉可能にスロットル弁5を支持し、スロットル弁5を迂回するバイパス通路20を形成すると共に、バイパス通路20と連通するネジ孔25にバイパスエアスクリュ26を螺合させ、螺合位置に応じてバイパスエアスクリュ26の先端部30をシート部24に対して接離させてバイパス通路20の開度を調整可能としたエンジンのスロットル装置1において、バイパスエアスクリュ26の先端部30は、金属材料により形成され、バイパスエアスクリュ26の先端部30を除いたスクリュ本体31は、合成樹脂材料により形成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの筒内と連通するスロットルボア内に開閉可能にスロットル弁を支持し、前記スロットル弁を迂回するバイパス通路を形成すると共に、前記バイパス通路と連通するネジ孔を形成し、前記ネジ孔に螺合させたバイパスエアスクリュの螺合位置に応じて、前記バイパスエアスクリュの先端部を前記バイパス通路内のシート部に対して接離させて前記バイパス通路の開度を調整可能としたエンジンのスロットル装置において、
前記バイパスエアスクリュの少なくとも前記先端部は、金属材料により形成され、
前記バイパスエアスクリュの少なくとも前記先端部を除いたスクリュ本体は、合成樹脂材料により形成されている
ことを特徴とするエンジンのスロットル装置。
【請求項2】
前記バイパスエアスクリュは、前記先端部の基端側に前記ネジ孔に螺合する雄ネジ部が形成され、
前記雄ネジ部は、前記先端部と共に金属材料により一体形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項3】
前記バイパスエアスクリュの前記金属材料からなる前記先端部の基端側または前記雄ネジ部の基端側に、前記スクリュ本体に埋設されて前記スクリュ本体との分離を防止する規制部が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項4】
前記規制部は、前記スクリュ本体との分離を防止すると共に、前記スクリュ本体との相対回転を規制する
ことを特徴とする請求項3に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項5】
前記スクリュ本体は、前記先端部、または前記先端部及び前記雄ネジ部をインサート品とした射出成型により形成され、
前記先端部は、前記射出成型の金型に形成された位置決め凸部が嵌め込まれる位置決め凹部が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項6】
多気筒エンジンの筒内とそれぞれ連通する複数のスロットルボアを有し、前記エンジンの各気筒への吸気量を個別に調整可能とすべく、前記各スロットルボアに対応して形成されたバイパス通路にそれぞれ前記バイパスエアスクリュが備えられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項7】
単気筒エンジンの筒内と連通する単一のスロットルボアを有し、前記エンジンのアイドル運転時の吸気量を調整可能とすべく、前記スロットルボアに対応して形成されたバイパス通路に前記バイパスエアスクリュが備えられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置。
【請求項8】
前記請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置に適用される
ことを特徴とするバイパスエアスクリュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのスロットル装置及びスロットル装置に適用されるバイパスエアスクリュに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのスロットル装置には、スロットルボア内に配設されたスロットル弁を迂回するバイパス通路が形成され、バイパス通路を流通する吸気(以下、バイパスエアと称する)量をバイパスエアスクリュにより調整可能としたものがある。例えば特許文献1に記載された4気筒エンジン用のスロットル装置では、エンジンを所期のアイドル回転に保つために、各気筒に設けられたバイパス通路の開度をバイパス制御弁により一括して調整している。加えて、スロットルボアの形状的な誤差等に起因する各気筒の吸気量の不均衡を解消するために、各バイパス通路にバイパスエアスクリュを設けて個別にバイパスエア量を調整可能としている。
【0003】
従来からのバイパスエアスクリュは金属製であったが、素材を切削加工して製作するため手間を要し、製造コストが高騰する傾向がある。そこで、より簡単に実施可能な射出成型を用いて、合成樹脂材料により製作されたバイパスエアスクリュが実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合成樹脂製のバイパスエアスクリュは、金属製のものに比較してクリープ変形やクラックが顕著に発生する傾向がある。クリープ変形とは、荷重を長時間に亘って受けたときに時間と共に変形していく現象であり、クラックとは、荷重を受けて亀裂が生じる現象である。
【0006】
バイパスエアスクリュは、以下のようにスロットル装置に組み付けられている。スロットル装置にはバイパス通路と連通するネジ孔が形成され、ネジ孔にバイパスエアスクリュが螺合し、その先端部をバイパス通路内に形成されたシート部に相対向させている。バイパスエアスクリュの螺合位置に応じて先端部がシート部に対して接離し、それに応じてバイパス通路の開度が変化してバイパスエア量が調整される。
【0007】
例えばバイパスエアスクリュによるバイパスエア量の調整作業は、メーカーでのスロットル装置の製造後、或いは市場に販売された後のメンテナンスの際に実施される。例えば特許文献1のスロットル装置では、各気筒のバイパスエア量を調整した結果、何れかの気筒のバイパスエアスクリュが全閉位置に調整される場合がある。近年では、アイドル回転速度の低回転化の要望に応じるべく、バイパス通路を小開度として吸気量を抑制する傾向があるため、バイパスエアスクリュが全閉位置に調整される頻度が高まっている。全閉位置では、バイパスエアスクリュの先端部がアルミニウム等からなるスロットルボディのシート部に押し当てられて荷重を受け続け、これにより先端部がクリープ変形してバイパス通路を全閉保持できなくなる場合がある。従って、本来は遮断されるべきバイパスエアが流れてしまい、気筒間の吸気量の不均衡を解消できなくなる。
【0008】
特にクリープ変形は高温環境で顕在化するため、運転中のエンジンから熱を受け続けるスロットル装置のバイパスエアスクリュでは、クリープ変形の防止が大きな課題となっている。
【0009】
また、バイパスエア量の調整作業の過程では、バイパスエアスクリュが全閉位置まで一時的に締め込まれることがある。調整作業が実施される度に先端部が繰り返しシート部に押し当てられると、先端部にクラックが発生して正常なバイパスエア量の調整機能を失ってしまう場合がある。
【0010】
従って、以上のようなクリープ変形及びクラックが発生すると予測される使用形態では、金属製のバイパスエアスクリュを適用せざるを得ず、合成樹脂製のバイパスエアスクリュによるメリットが得られないという問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、合成樹脂材料による製造コスト面のメリットを活かした上で、クリープ変形やクラックを防止して良好な耐久性を実現したバイパスエアスクリュ、及びこのバイパスエアスクリュが適用されたエンジンのスロットル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明のエンジンのスロットル装置は、エンジンの筒内と連通するスロットルボア内に開閉可能にスロットル弁を支持し、スロットル弁を迂回するバイパス通路を形成すると共に、バイパス通路と連通するネジ孔を形成し、ネジ孔に螺合させたバイパスエアスクリュの螺合位置に応じて、バイパスエアスクリュの先端部をバイパス通路内のシート部に対して接離させてバイパス通路の開度を調整可能としたエンジンのスロットル装置において、バイパスエアスクリュの少なくとも先端部が、金属材料により形成され、バイパスエアスクリュの少なくとも先端部を除いたスクリュ本体が、合成樹脂材料により形成されていることを特徴とする。
【0013】
その他の態様として、バイパスエアスクリュが、先端部の基端側にネジ孔に螺合する雄ネジ部が形成され、雄ネジ部が、先端部と共に金属材料により一体形成されていてもよい。
【0014】
その他の態様として、バイパスエアスクリュの金属材料からなる先端部の基端側または雄ネジ部の基端側に、スクリュ本体に埋設されてスクリュ本体との分離を防止する規制部が形成されていてもよい。
【0015】
その他の態様として、規制部が、スクリュ本体との分離を防止すると共に、スクリュ本体との相対回転を規制してもよい。
【0016】
その他の態様として、スクリュ本体が、先端部、または先端部及び雄ネジ部をインサート品とした射出成型により形成され、先端部に、射出成型の金型に形成された位置決め凸部が嵌め込まれる位置決め凹部が形成されていてもよい。
【0017】
その他の態様として、多気筒エンジンの筒内とそれぞれ連通する複数のスロットルボアを有し、エンジンの各気筒への吸気量を個別に調整可能とすべく、各スロットルボアに対応して形成されたバイパス通路にそれぞれバイパスエアスクリュが備えられていてもよい。
【0018】
その他の態様として、単気筒エンジンの筒内と連通する単一のスロットルボアを有し、エンジンのアイドル運転時の吸気量を調整可能とすべく、スロットルボアに対応して形成されたバイパス通路にバイパスエアスクリュが備えられていてもよい。
【0019】
その他の態様として、請求項1または2に記載のエンジンのスロットル装置に適用されるバイパスエアスクリュとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、合成樹脂材料による製造コスト面のメリットを活かした上で、クリープ変形やクラックを防止して良好な耐久性を実現したバイパスエアスクリュ、及びこのバイパスエアスクリュが適用されたエンジンのスロットル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態のスロットル装置を示す斜視図である。
【
図4】
図2のIV-IV線断面を示す斜視図である。
【
図7】バイパスエアスクリュを示す分解斜視図である。
【
図8】別例1のバイパスエアスクリュを示す
図6に対応する断面図である。
【
図9】別例2のバイパスエアスクリュを示す
図6に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を自動二輪車に搭載される3筒エンジン用のスロットル装置、及びこのスロットル装置に備えられるバイパスエアスクリュに具体化した一実施形態を説明する。
【0023】
図1は、本実施形態のスロットル装置を示す斜視図、
図2は正面図、
図3は平面図であり、以下の説明では、
図1のスロットル装置の姿勢に倣って上下方向を表現する。
【0024】
本実施形態のスロットル装置1は、一対のスロットルボア2a,2bを備えた第1スロットルボディ2と、1つのスロットルボア3aを備えた第2スロットルボディ3とをボルト11により締結してなる。本実施形態のスロットルボディ2,3はアルミダイカスト製であるが、これに限るものではなく任意に変更可能である。図示はしないがスロットル装置1が自動二輪車に搭載された車載状態では、
図1中の右側に相当する各スロットルボア2a,2b,3aの開口端に、エアクリーナからのホースが接続される。また、反対側の開口端には、吸気マニホールドを介してエンジンの各気筒#1,#2,#3が接続される。
【0025】
第1及び第2スロットルボディ2,3には、各スロットルボア2a,2b,3aを貫通するように1本のスロットル軸4が配設され、図示しない軸受により回動可能に支持されている。各スロットルボア2a,2b,3a内においてスロットル軸4にはスロットル弁5がビス6により固定され、スロットル軸4の回動に伴って各スロットル弁5が開閉する。
【0026】
エンジンの運転中には、エアクリーナにより濾過された吸気が各スロットルボア2a,2b,3a内を流通して吸気マニホールドへと案内され、スロットル弁5の開閉に応じて吸気量が調整される。吸気マニホールド内を流通する際に吸気中には図示しない燃料噴射弁から燃料が噴射され、混合気としてエンジンの各気筒#1,#2,#3の筒内に供給される。
【0027】
第1及び第2スロットルボディ2,3には、各スロットルボア2a,2b,3a内と連通するようにホース7の一端がそれぞれ接続され、各ホース7は集合して共通の吸気圧センサ8と接続され、各スロットルボア2a,2b,3a内の圧力が吸気圧として検出される。また、第1及び第2スロットルボディ2,3には、各スロットルボア2a,2b,3a内と連通する排気パージ用ニップル9が設けられている。スロットル装置1の車載状態では、各排気パージ用ニップル9が図示しないEGR通路を介してエンジンの排気通路と接続され、EGR弁の開度に応じて排ガスがEGRガスとして各スロットルボア2a,2b,3a内に還流される。
【0028】
また、第1スロットルボディ2には、スロットルボア2a内と連通する気筒判別用ニップル10が設けられている。スロットル装置1の車載状態では、気筒判別用ニップル10がホースを介して図示しない気筒判別用の吸気圧センサに接続され、エンジンの燃焼サイクルと同期するスロットルボア2a内の吸気圧の変動状態が検出される。
【0029】
第1スロットルボディ2と第2スロットルボディ3との間にはギヤケース12が介装され、ギヤケース12内に収容された図示しないギヤ列を介してモータ13の回転がスロットル軸4に伝達される。第2スロットルボディ3にはスロットルセンサ14が取り付けられ、スロットル軸4の回動角、即ちスロットル開度を検出する。
【0030】
スロットル装置1の車載状態では、上記した吸気圧センサ8、モータ13及びスロットルセンサ14の各コネクタ8a,13a,14aに図示しないコントローラからのハーネスが接続される。コントローラには、上記した気筒判別用の吸気圧センサ或いは運転者によるアクセル操作量を検出するアクセルセンサ等も接続され、これらの検出情報に基づきエンジンの燃料噴射や点火時期を制御する。また、スロットル装置1に関しては、アクセル操作量等に基づきモータ13を駆動制御し、これによりスロットル弁5を開閉してエンジンの吸気量を調整する。
【0031】
各スロットルボア2a,2b,3aの形状的な誤差等に起因して、エンジンの各気筒#1,#2,#3の吸気量には格差が生じる。このような不均衡を解消すべく、スロットル装置1の各スロットルボア2a,2b,3aには、スロットル弁5を迂回するバイパス通路20が付設されている。以下、#1気筒に相当するスロットルボア2aに付設されたバイパス通路20について述べるが、他のバイパス通路20も同一構成である。
【0032】
図4は、
図2のIV-IV線断面を示す斜視図、
図5は、
図4に対応する分解斜視図、
図6は、
図4の詳細を示す拡大断面図である。
【0033】
第1スロットルボディ2におけるスロットルボア2aの上側位置には、断面円形状をなす第1穿孔16及び第2穿孔17がそれぞれ形成されている。第1穿孔16は上下方向に穿設され、その下端は、スロットルボア2a内のスロットル弁5よりもエアクリーナ側、換言すると吸気上流側に開口し、上端は、プラグ18により閉塞されている。第2穿孔17は、エンジン側へと下る斜め方向に穿設されて、第1穿孔16と交差して交差箇所19を形成している。第2穿孔17の下端は、スロットルボア2a内のスロットル弁5よりもエンジン側、換言すると吸気下流側に開口し、上端は、第1スロットルボディ2の外部に開口している。
【0034】
従って、スロットルボア2a内のスロットル弁5よりも吸気上流側は、第1穿孔16、交差箇所19、第2穿孔17を介して吸気下流側と連通し、これによりスロットル弁5を迂回するバイパス通路20が形成されている。
【0035】
第2穿孔17内には、外部への開口部からスロットルボア2a内に向けて、雌ネジ部21、バネ収容部22、環状の段差をなす封止面23が形成され、さらに交差箇所19を経て環状の段差をなすシート部24が形成されている。第2穿孔17内の外部への開口部からシート部24までの領域は、バイパス通路20と連通するネジ孔25として機能し、ネジ孔25内にバイパスエアスクリュ26が配設されている。
【0036】
バイパスエアスクリュ26はネジ孔25の軸線Cに沿った細長い円筒状をなし、エアクリーナ側に相当する基端には雄ネジ部27が形成されてネジ孔25の雌ネジ部21と螺合している。雄ネジ部27の基端面はネジ孔25内から外部に露出し、マイナスドライバを係合可能な操作部28が形成されている。雄ネジ部27からは小径の本体部29が先端に向けて延設され、本体部29の先端に先端部30が形成されている。先端部30は軸線Cを中心とした円錐状をなし、そのテーパ箇所がネジ孔25のシート部24と相対向している。以下の説明では、バイパスエアスクリュ26の先端部30を除いた部位、即ち、本体部29、雄ネジ部27及び操作部28をスクリュ本体31と称する。
【0037】
バイパスエアスクリュ26の本体部29には、エンジン側から順にOリング32、座金33、圧縮バネ34が嵌め込まれ、それぞれネジ孔25のバネ収容部22内に配設されている。圧縮バネ34の一端はバイパスエアスクリュ26の雄ネジ部27に当接し、その付勢力が座金33を介してOリング32に作用し、これによりOリング32がネジ孔25の封止面23及びバイパスエアスクリュ26の本体部29にそれぞれ圧接して気密を保持している。
【0038】
操作部28にマイナスドライバを係合させてバイパスエアスクリュ26を回転操作すると、雄ネジ部27と雌ネジ部21との螺合位置に応じてバイパスエアスクリュ26が軸線Cに沿って移動し、先端部30がシート部24に対して接離してバイパス通路20の開度を変化させる。詳しくは、バイパスエアスクリュ26を締め込むと、先端部30がシート部24に押し当てられてバイパス通路20を全閉に保ち、これによりバイパスエアが遮断される。その状態からバイパスエアスクリュ26を緩めると、先端部30がシート部24から次第に離間してバイパス通路20を開き、それに応じてバイパスエア量が増加する。なお、圧縮バネ34の付勢力により、バイパスエアスクリュ26の回転操作に適度な抵抗が付与されると共に、雄ネジ部27と雌ネジ部21との間のガタツキが防止されている。
【0039】
ところで、既述したようにバイパスエアスクリュ26を合成樹脂製とした場合には、全閉位置への操作に起因して先端部30にクリープ変形やクラックが生じ、正常なバイパスエア量の調整機能が損なわれるという問題がある。その対策として本実施形態では、バイパスエアスクリュ26の部位に応じて材質を相違させており、以下に詳細を述べる。
【0040】
端的に表現すると、本実施形態のバイパスエアスクリュ26は、シート部24に押し当てられる先端部30を金属製とし、それ以外の部位であるスクリュ本体31を合成樹脂製とすることで、クリープ変形及びクラックの防止とコスト低減とを両立させている。
【0041】
図7は、バイパスエアスクリュ26を示す分解斜視図であり、
図6,7に基づき詳細を説明する。なお、以下に述べるようにバイパスエアスクリュ26は、先端部30をインサート品としてスクリュ本体31を射出成型して製作されるため、本来は分解し得るものではないが、
図7では理解を容易にするために分解斜視図として示している。
【0042】
先端部30は、本体部36、接続部37及び規制部38からなる。本体部36は、バイパスエアスクリュ26の軸線Cを中心とした円錐状をなしている。本体部36の基端側には接続部37を介して規制部38が一体形成され、接続部37及び規制部38はそれぞれ軸線Cを中心とした円筒状をなしている。規制部38は、接続部37よりも大径で、且つ外周面にローレット加工によりローレット38aが形成されている。
先端部30の材質としては、例えば真鍮が適用され、切削加工により製作される。但し、その材質及び製法は、これに限るものではなく任意に変更可能である。
【0043】
このような形状をなす先端部30をインサート品として、例えば合成樹脂材料によりスクリュ本体31が射出成型される。スクリュ本体31の材質としては、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)等のエンジニアリングプラスチックが適用されるが、その材質及び製法は、これに限るものではなく任意に変更可能である。
【0044】
図示はしないが、例えば金型は、
図6中の仮想線L1をパーティングラインとして、バイパスエアスクリュ26の先端側へと型開きされる第1の金型、及び軸線Cに沿った仮想線L2をパーティングラインとして、左右に型開きされる第2及び第3の金型から構成される。第1の金型には、先端部30の本体部36に対応するキャビティが形成され、第2及び第3の金型には、スクリュ本体31を左右に分割した形状をなすキャビティが形成されている。
【0045】
第1の金型のキャビティ内に先端部30を配設し、全ての金型を閉じてキャビティ内に溶融樹脂を射出する。スクリュ本体31に対応する形状で溶融樹脂が固化し、バイパスエアスクリュ26の製作が完了する。先端部30の接続部37及び規制部38はスクリュ本体31に埋設され、これによりスクリュ本体31と先端部30とが一体化してバイパスエアスクリュ26を形作る。
【0046】
以上のようにして製作された3本のバイパスエアスクリュ26が、各気筒に対応してスロットル装置1に組み付けられる。メーカーでのスロットル装置1の製造後、或いは市場に販売された後のメンテナンスの際に、バイパスエアスクリュ26によるバイパスエア量の調整作業が実施される。各バイパス通路20を流通するバイパスエア量、ひいてはエンジンの各気筒#1,#2,#3への吸気量が個別に調整されることにより、気筒間に生じた吸気量の不均衡が解消される。
【0047】
調整作業の結果、何れかの気筒のバイパスエアスクリュ26が全閉位置に調整される場合もあり得る。このときのバイパスエアスクリュ26の先端部30は、
図6に示すようにネジ孔内25内のシート部24に押し当てられて荷重を受け続けるが、真鍮製であるためクリープ変形は発生しない。従って、バイパス通路20が全閉状態に保持されてバイパスエアを遮断し続け、調整後の各気筒のバイパスエア量のバランスが維持されて、エンジンの各気筒の吸気量を均等に保つことができる。
【0048】
また、バイパスエア量の調整作業の過程では、バイパスエアスクリュ26が全閉位置まで一時的に締め込まれることもある。調整作業が実施される度に先端部30が繰り返しシート部24に押し当てられると、合成樹脂製のバイパスエアスクリュ26の場合にはクラックの要因になるが、真鍮製の先端部30にクラックは発生しない。
【0049】
このように本実施形態のバイパスエアスクリュ26は良好な耐久性を備えている。このため、合成樹脂製のバイパスエアスクリュ26の場合にはクリープ変形やクラックが発生すると予測される使用形態であっても問題なく適用でき、良好なバイパスエア量の調整機能を達成することができる。
【0050】
以上のバイパスエアスクリュ26の特性を換言すると、調整作業の際に多少手荒く扱ってもクリープ変形やクラックを生じないため、従来からの合成樹脂製のバイパスエアスクリュ26よりも取扱いに関するロバスト性を向上できることを意味する。特に市場に販売された後には、不特定多数の作業者によりスロットル装置1がメンテナンスされるが、無頓着に取り扱われても問題が発生しないことから、スロットル装置1の信頼性の向上に寄与する。
【0051】
また、クリープ変形やクラックの虞がないスクリュ本体31は合成樹脂製であるため、例えば射出成型等の製法を用いて簡単に製作できる。詳しくは、バイパスエアスクリュ26全体を真鍮等の金属製とした場合には、先端部30のみならずスクリュ本体31、即ち本体部29、雄ネジ部27及び操作部28も切削加工する必要があるため多くの手間を要する。これに対して本実施形態では、先端部30だけを切削加工により製作し、製作後の先端部30をインサート成型するだけでスクリュ本体31を形成できるため、製造時の手間を軽減して製造コストを抑制することができる。
【0052】
一方、バイパスエア量の調整のために操作部28が回転操作されたとき、その回転力はスクリュ本体31から先端部30に伝達され、先端部30は、締め込み方向の回転を伴いながらシート部24に押し付けられたり、緩み方向の回転を伴いながらシート部24から離間したりする。何れの場合も先端部30はシート部24との摩擦抵抗に抗しながら回転するため、スクリュ本体31と先端部30とは、軸線C方向への分離の防止だけでなく、軸線Cを中心とした相対回転の規制が要求される。本実施形態のスクリュ本体31及び先端部30は、固化した溶融樹脂による接着力のみならず、規制部38を介して形状的にも結合しているため、互いの分離防止及び回転規制が確実になされる。
【0053】
即ち、規制部38が接続部37よりも大径のため、軸線Cに沿ってスクリュ本体31と先端部30とを分離させるには、規制部38と本体部36との間に介在するスクリュ本体31の部位を変形或いは破壊する必要があり、そのためには大きな引張り力を要する。結果としてスクリュ本体31と先端部30とが軸線Cに沿った方向に強固に結合され、互いの分離が確実に防止されている。
【0054】
また、規制部38の外周面にローレット加工が施され、ローレット38aの微細な凹凸に射出成型時の溶融樹脂が侵入・固化して噛み合っている。このため、軸線Cを中心としてスクリュ本体31と先端部30とを相対回転させるには、ローレット38aの凹凸と噛み合ったスクリュ本体31の部位を変形或いは破壊する必要があり、そのためには大きな回転力を要する。結果としてスクリュ本体31と先端部30とが軸線Cを中心とした回転方向に強固に結合され、相対回転が確実に規制されている。
【0055】
従って、本実施形態のバイパスエアスクリュ26は、金属及び合成樹脂の異種材料を結合して構成されているものの、その結合強度は、金属または合成樹脂の単一材料からなる従来のバイパスエアスクリュ26と遜色がない。このため、バイパスエアスクリュ26の破損等のトラブルを未然に防止して、良好なバイパスエア量の調整機能を長期に亘って保つことができる。
【0056】
ところで、バイパスエアスクリュ26及びその周辺の構成は本実施形態の説明に限るものではなく、以下に別例1,2を説明する。
【0057】
[別例1]
図8は、別例1のバイパスエアスクリュ41を示す
図6に対応する断面図であり、以下、#1気筒に相当するスロットルボア2aのバイパスエアスクリュ41について述べるが、他のバイパスエアスクリュ41も同一構成である。実施形態との主たる相違点はバイパスエアスクリュ41及びネジ孔42の形状にあるため、相違点を重点的に説明し、実施形態と同一構成の箇所は共通する部材番号を付して説明を省略する。
【0058】
第2穿孔17内の交差箇所19を含めた前後の領域には雌ネジ部43が形成され、雌ネジ部43の先端側にシート部44が形成され、雌ネジ部43から外部への開口部までの領域を封止部45としている。バイパスエアスクリュ41の本体部57は、軸線Cに沿って移動可能かつ回転可能に封止部45に嵌め込まれ、その外周のOリング溝46に装着されたOリング47により封止部45との間の気密が保たれている。バイパスエアスクリュ41の本体部57の先端側には雄ネジ部48が形成されてネジ孔42の雌ネジ部43と螺合し、雄ネジ部48の先端に先端部49が形成されている。
【0059】
バイパスエアスクリュ41の本体部57の基端側はネジ孔42内から外部に突出して円盤状の操作部50が形成され、操作部50とスロットルボディ2との間には圧縮バネ51が弾性をもって介装されている。従って、操作部50にマイナスドライバを係合させてバイパスエアスクリュ41を回転操作すると、バイパスエアスクリュ41が軸線Cに沿って移動し、先端部49がシート部44に対して接離してバイパス通路20の開度を変化させる。
【0060】
このバイパスエアスクリュ41においては、先端部49を除いた部位、即ち、雄ネジ部48から操作部50までの領域がスクリュ本体52に相当する。例えば、バイパスエアスクリュ41の先端部49を真鍮等の金属で製作し、これをインサート品として、PPS等の合成樹脂材料によりスクリュ本体52を射出成型する。先端部49とスクリュ本体52との結合強度を保つべく、先端部49の本体部53には、実施形態と同様に接続部54及び規制部55が一体形成されている。また、本体部53は軸線Cを中心とした円錐状をなすと共に、その頂点に相当する箇所が平坦状に形成されて、軸線Cに沿った断面円形状をなす位置決め凹部56が形成されている。
【0061】
この別例1のバイパスエアスクリュ41においても先端部49が金属製のため、全閉位置への操作に起因するクリープ変形及びクラックを未然に防止することができる。また、クリープ変形やクラックの虞がないスクリュ本体52が合成樹脂製のため、例えば射出成型等の製法を用いて簡単に製作でき、これにより製造コストを抑制することができる。
【0062】
加えて、先端部49に形成された位置決め凹部56は、射出成型の際に金型内で先端部49を正規位置に保つ役割を果たす。例えば実施形態と同じく、
図8中の仮想線L1,L2をパーティングラインとする第1~3の金型を用いた場合には、位置決め凹部56と対応する形状の位置決め凸部を第1の金型に形成する。先端部49を第1の金型のキャビティ内に配設すると、その位置決め凹部56が位置決め凸部に嵌め込まれて先端部49が正規位置に位置決めされる。この状態で射出成型が行われるため、先端部49に対してスクリュ本体52が正しい位置関係で成型され、これにより所期の形状のバイパスエアスクリュ41を製作できる。この要因も、良好なバイパスエア量の調整機能のために寄与する。
【0063】
[別例2]
図9は、別例2のバイパスエアスクリュ61を示す
図6に対応する断面図である。基本的なバイパスエアスクリュ61及びネジ孔42の形状は別例1のものと同一であり、相違点は、バイパスエアスクリュ61の先端部62に加えて雄ネジ部63も金属製とした点にある。このため、相違点を重点的に説明し、別例1と同一構成の箇所は共通する部材番号を付して説明を省略する。
【0064】
先端部62の基端側には雄ネジ部63が形成され、雄ネジ部63の基端側には接続部64を介して規制部65が形成されている。先端部62は、別例1の先端部49の本体部53と同一形状をなし、雄ネジ部63、接続部64及び規制部65についても別例1の雄ネジ部48、接続部54及び規制部55とそれぞれ同一形状をなしている。これら全ての部位62,63,64,65が金属材料、例えば真鍮等を切削加工して一体的に形成され、インサート品として本体部57及び操作部50からなるスクリュ本体66の射出成型に適用される。
【0065】
この別例2のバイパスエアスクリュ61においても先端部62が金属製のため、全閉位置への操作に起因するクリープ変形及びクラックを未然に防止することができる。
【0066】
また、バイパスエアスクリュ61の製作の際には、先端部62、接続部64及び規制部65に加えて雄ネジ部63も切削加工する必要があるため、製作時の手間については若干増える。その反面、金属製の雄ネジ部63は、ネジ孔42の雌ネジ部43と摺接しても摩耗し難いことから、バイパスエアスクリュ61の耐久性を向上できるというメリットが得られる。
【0067】
本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、3筒エンジン用のスロットル装置1に具体化したが、これに限るものではなく、例えば、単気筒エンジン用のスロットル装置に具体化してもよい。
【0068】
図示はしないが、スロットル装置のスロットルボディに単一のスロットルボアが形成され、スロットルボア内のスロットル弁を迂回するようにバイパス通路が形成される。バイパス通路に備えられたバイパスエアスクリュは、スロットル弁が全閉保持されたエンジンのアイドル運転時に吸気量を調整する役割りを果たす。即ち、バイパス通路を経てバイパスエアが吸気として供給されることにより、エンジンのアイドル運転が維持される。バイパス通路に設けられたバイパスエアスクリュによりバイパスエア量を調整すると、それに応じてエンジンのアイドル回転速度が変化するため、所望のエンジン回転速度に調整することができる。以上の機能を奏するスロットル装置において、バイパスエアスクリュの先端部を金属製とし、スクリュ本体を合成樹脂製とすれば、重複する説明はしないが上記実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0069】
また上記実施形態では、先端部30の本体部36の基端側に接続部37を介して規制部38を形成すると共に、規制部38の外周にローレット38aを形成し、これにより先端部30とスクリュ本体31との分離防止及び相対回転の規制を図ったが、これに限るものではない。例えば接続部37を廃止し、先端部30の本体部36に、基端側へと拡径する円錐状をなす規制部38を直接的に形成して分離防止を図ってもよい。また、規制部38のローレット38aを廃止し、軸線Cに沿った方向から見て円以外の形状、例えば三角形や四角形等の多角形状をなす規制部38を形成して回転規制を図ってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 スロットル装置
2a,2b,3a スロットルボア
5 スロットル弁
20 バイパス通路
24 シート部
25,42 ネジ孔
26,41,61 バイパスエアスクリュ
30,49,62 先端部
31,52,66 スクリュ本体
38,55,65 規制部
56 位置決め凹部
63 雄ネジ部