(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066772
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20240509BHJP
G01B 13/12 20060101ALI20240509BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20240509BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01L5/00 K
G01B13/12
F16C19/16
F16C41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176455
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】剱持 健太
【テーマコード(参考)】
2F051
2F066
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F051AA11
2F051AB02
2F051BA07
2F066AA02
2F066BB07
2F066CC40
2F066DD13
2F066FF10
2F066FF23
2F066HH02
2F066HH16
3J217JA02
3J217JA12
3J217JB68
3J701AA03
3J701BA77
3J701FA25
3J701FA26
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA31
(57)【要約】
【課題】回転部材を転がり軸受で支持する場合に、回転部材の近傍に測定部を配置せず、且つ、回転部材のラジアル方向の変位またはアキシャル方向の変位を、より正確に測定することができる軸受装置を提供すること。
【解決手段】軸受装置は、回転部材を転がり軸受を介して固定部材に支持し、前記回転部材のラジアル方向変位またはアキシャル方向変位を前記転がり軸受の周囲で前記回転部材と前記固定部材の間の被測定隙間に圧縮気体を供給して測定する変位測定部を備えている。前記変位測定部は、前記被測定隙間に圧縮気体を吐出する圧縮気体吐出ノズルを有する変位検出部と、前記変位検出部に供給する圧縮気体の圧力損失を測定する圧力損失測定部と、前記回転部材の近傍で且つ圧力損失測定部と前記変位検出部の間に設けられた絞り部材(差圧調整部)と、を備える。前記圧縮気体の供給源は、前記圧力損失測定部の高圧側と前記絞り部材とを繋ぐ管路に接続され、前記圧力損失測定部の低圧側は、前記変位検出部と前記絞り部材を繋ぐ管路に接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材を転がり軸受を介して固定部材に支持し、前記回転部材のラジアル方向変位またはアキシャル方向変位を前記転がり軸受の周囲で前記回転部材と前記固定部材の間の被測定隙間に圧縮気体を供給して測定する変位測定部を備えた軸受装置であって、
前記変位測定部は、
前記被測定隙間に圧縮気体を吐出する圧縮気体吐出ノズルを有する変位検出部と、
前記変位検出部に供給する圧縮気体の圧力損失を測定する圧力損失測定部と、
前記回転部材の近傍で且つ圧力損失測定部と前記変位検出部の間に設けられた絞り部材と、を備え、
前記圧縮気体の供給源は、前記圧力損失測定部の高圧側と前記絞り部材とを繋ぐ管路に接続され、前記圧力損失測定部の低圧側は、前記変位検出部と前記絞り部材を繋ぐ管路に接続されている軸受装置。
【請求項2】
前記圧縮気体の圧力損失は、前記変位検出部と前記絞り部材の間の圧縮気体の圧力と、前記圧縮気体の供給源から出力される圧縮気体の圧力との差圧である請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記絞り部材の設置位置は固定され、前記圧力損失測定部の設置位置は可動である請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記圧縮気体の供給源が前記圧力損失測定部の高圧側と前記絞り部材とを繋ぐ管路に接続される箇所から、前記圧力損失測定部の高圧側までは、前記圧縮気体の流速がゼロであり、
前記圧力損失測定部の低圧側が前記変位検出部と前記絞り部材を繋ぐ管路に接続される箇所から、前記圧力損失測定部の低圧側までは、前記圧縮気体の流速がゼロである請求項3に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記変位検出部は、前記圧縮気体吐出ノズルの軸方向の片側又は両側に、前記圧縮気体吐出ノズルから前記被測定隙間に吐出された圧縮気体を回収する気体回収溝をさらに備えている請求項4に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記変位検出部は、前記気体回収溝で回収された圧縮気体を外部に排出する圧縮気体排出部を更に備えている請求項5に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記圧力損失測定部で検出した前記差圧に基づいて前記回転部材に負荷される荷重量を演算する演算処理装置をさらに備えている請求項6に記載の軸受装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の軸受装置を備え、当該軸受装置によって主軸を前記回転部材として回転自在に支持し、前記主軸に負荷された荷重を測定する工作機械の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置に関し、より詳細には、転がり軸受で支持する回転軸の変位を検出して軸荷重を測定することができる軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のスピンドルにおいて、切削荷重をコントロールし、加工の高速化、高精度化及び軸受の長寿命化に繋げようとする動きが高まっており、その方策の一つとして、工作機械の運転中の軸荷重を測定することに対するニーズが高まっている。
例えば、特許文献1には、軸荷重を直接測定するのではなく、非接触式センサで軸変位量を計測し、軸受等の剛性値を乗算することで軸荷重を算出する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2にも、工作機械から離れた位置に配置した差圧センサを利用して、工作機械の軸の変位及び軸荷重を測定・算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-217167号公報
【特許文献2】特許6662499号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、非接触式センサを使用して回転軸の変位を測定する場合には、非接触式センサを計測部近傍へ配置し、それに付属する回路、配線も計測部の近傍へ配置する必要がある。また、工作機械の内部構造の複雑さや加工中の切り屑や切削水の付着による損傷等により適切な計測ができない場合がある。
【0006】
特許文献2に記載された技術では、差圧センサの設置位置によっては差圧及び軸荷重を正確に算出できない場合がある。
本発明は、上記した課題を解決するために、回転部材を転がり軸受で支持する場合に、回転部材の近傍に測定部を配置せず、且つ、回転部材のラジアル方向の変位(またはアキシャル方向の変位)を、より正確に測定することができる軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る軸受装置は、回転部材を転がり軸受を介して固定部材に支持し、前記回転部材のラジアル方向変位またはアキシャル方向変位を前記転がり軸受の周囲で前記回転部材と前記固定部材の間の被測定隙間に圧縮気体を供給して測定する変位測定部を備えた軸受装置であって、前記変位測定部は、前記被測定隙間に圧縮気体を吐出する圧縮気体吐出ノズルを有する変位検出部と、前記変位検出部に供給する圧縮気体の圧力損失を測定する圧力損失測定部と、前記回転部材の近傍で且つ圧力損失測定部と前記変位検出部の間に設けられた絞り部材(差圧調整部)と、を備える。前記圧縮気体の供給源は、前記圧力損失測定部の高圧側と前記絞り部材とを繋ぐ管路に接続され、前記圧力損失測定部の低圧側は、前記変位検出部と前記絞り部材を繋ぐ管路に接続されている。
【0008】
好ましくは、前記圧縮気体の圧力損失は、前記変位検出部と前記絞り部材の間の圧縮気体の圧力と、前記圧縮気体の供給源から出力される圧縮気体の圧力との差圧である。
好ましくは、前記絞り部材の設置位置(前記変位検出部との相対位置)は固定され、前記圧力損失測定部の設置位置(前記変位検出部との相対位置)は可動である。
好ましくは、前記圧縮気体の供給源が前記圧力損失測定部の高圧側と前記絞り部材とを繋ぐ管路に接続される箇所から、前記圧力損失測定部の高圧側までは、前記圧縮気体の流速がゼロである。また、好ましくは、前記圧力損失測定部の低圧側が前記変位検出部と前記絞り部材を繋ぐ管路に接続される箇所から、前記圧力損失測定部の低圧側までは、前記圧縮気体の流速がゼロである。
【0009】
前記変位検出部は、前記圧縮気体吐出ノズルの軸方向の片側又は両側に、前記圧縮気体吐出ノズルから前記被測定隙間に吐出された圧縮気体を回収する気体回収溝をさらに備えてよい。
前記変位検出部は、前記気体回収溝で回収された圧縮気体を外部に排出する圧縮気体排出部を更に備えてよい。
前記軸受装置は、前記圧力損失測定部で検出した前記差圧に基づいて前記回転部材に負荷される荷重量を演算する演算処理装置をさらに備えてよい。
本発明の他の態様によれば、前記軸受装置を備え、前記軸受装置によって主軸を前記回転部材として回転自在に支持し、前記主軸に負荷された荷重を測定する工作機械の主軸装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る軸受装置によれば、転がり軸受で回転部材を支持する場合に、圧縮気体を利用して回転部材のラジアル方向変位またはアキシャル方向変位を測定することができ、且つ、差圧センサの設置位置に関わらず、回転部材のラジアル方向変位またはアキシャル方向変位を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る工作機械の軸受装置の第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】(a)は
図1の軸受装置の軸方向の拡大断面図であり、(b)は
図1の軸受装置の軸直角方向の拡大断面図である。
【
図3】第1実施形態における回転軸と絞りと差圧センサの位置関係を示す図である。
【
図4】第1実施形態において回転軸と差圧センサの間の距離が大きい場合を説明する図である。
【
図5】比較例における回転軸と絞りと差圧センサの位置関係を示す図である。
【
図6】比較例において回転軸と差圧センサとの間の距離が大きい場合を説明する図である。
【
図7】第1実施形態の構成を用いた実験で得られた差圧と供給エア圧との関係を示すグラフである。
【
図8】比較例の構成を用いた実験で得られた差圧と供給エア圧との関係を示すグラフである。
【
図9】
図1の軸受装置でスピンドルを支持した場合を示す概略図である。
【
図10】本発明の第2実施形態の軸受装置を示す図であって、(a)は軸方向の拡大断面図であり、(b)は軸直角方向の拡大断面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態の軸受装置を示す軸方向の拡大断面図である。
【
図12】本発明に係る軸受装置を適用した工作機械の回転テーブルを示す断面図である。
【
図13】本発明の第4実施形態の軸受装置を示す断面図である。
【
図14】(a)は
図13の軸受装置の軸方向の拡大断面図であり、(b)は
図13の軸受装置の軸直角方向の拡大断面図である。
【
図15】第4実施形態の変形例を示す図であり、(a)は圧縮気体吐出ノズルを上向き状態にした場合の拡大断面であり、(b)は圧縮気体吐出ノズルを下向き状態にした場合の拡大断面であり、(c)は圧縮気体吐出ノズルを半径方向線上で右旋回状態にした場合の拡大断面である。
【
図16】本発明の第5実施形態の軸受装置を示す断面図であり、(a)は軸方向の拡大断面図であり、(b)は軸直角方向の拡大断面図である。
【
図17】本発明の第6実施形態の軸受装置を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる場合がある。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の装置の構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の修正、変更及び置換を加えることができる。
【0013】
第1実施形態
本発明に係る工作機械の軸受装置(主軸装置)の第1実施形態について
図1及び
図2を参照して説明する。
工作機械の軸受装置(主軸装置)10は、モータビルトイン方式であり、固定部材(静止部材)であるハウジング11に回転部材である中空状の回転軸(例えば、スピンドル)21が前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41によって回転自在に支持されている。回転軸21は、前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41間に配置された駆動モータ51によって回転駆動される。
【0014】
ハウジング11は、前側転がり軸受31と駆動モータ51との間で2分割された前側円筒部12と後側円筒部13とで構成されている。
前側円筒部12は、外径が小さい前側の小外径部12aと外径が小外径部12aに比較して大きい後側の大外径部12bとで構成されている。これら小外径部12a及び大外径部12bの内周面は、等しい内径に形成されているが、小外径部12aの前端側から後端側にかけて前側転がり軸受31を収納する軸受収納段差部12cが形成されている。
後側円筒部13は、逆に、内径が大きい大内径部13aと内径が大内径部13aより小さい小内径部13bとで形成されている。
【0015】
前側転がり軸受31は、背面組合せとなるように配置された略同一寸法の一対のアンギュラ玉軸受31a及び31bで構成されている。これらアンギュラ玉軸受31a及び31bは、静止側軌道輪である外輪33と、回転側軌道輪である内輪34と、静止側軌道である外輪軌道溝と回転側軌道である内輪軌道溝との間に、接触角を持って配置された転動体としての複数の玉35とを備えている。つまり、各軸受31a、31bは、内輪34と、外輪33と、内輪34と外輪33との間に回転可能に配置された玉(転動体)35を有している。尚、各軸受31a、31bは、転動体を保持する保持器を備えていてもよい。
各アンギュラ玉軸受31a及び31bは、ハウジング11の前側円筒部12に形成された軸受収納段差部12cに外輪側間座36を介して外輪33が内嵌され、ハウジング11の前側円筒部12にボルト締めされた前側軸受外輪押え37によって固定されている。
また、各アンギュラ玉軸受31a及び31bの内輪34は、回転軸21に内輪側間座38を介して外嵌され、回転軸21に締結されたナット39によって回転軸21に固定されている。アンギュラ玉軸受31a及び31bには、ナット39によって定位置予圧が作用している。したがって、前側転がり軸受31によって回転軸21の軸方向位置が位置決めされている。
【0016】
後側転がり軸受41は、円筒ころ軸受であり、外輪42と、内輪43と、転動体としての複数の円筒ころ44とを有する。後側転がり軸受41の外輪42は、ハウジング11の後側円筒部13の小内径部13bに内嵌され、小内径部13bにボルト締結された後側軸受押え45によって外輪側間座46を介して小内径部13bに固定されている。後側転がり軸受41の内輪43は、回転軸21に締結されたナット47によって内輪側間座48を介して回転軸21に固定されている。
駆動モータ51は、ハウジング11の後側円筒部13の大内径部13aに内嵌されさたステータ52と、ステータ52の内周側に間隙を介して対向する回転軸21に外嵌されたロータ53とで構成されている。
【0017】
上記構成を有する工作機械の軸受装置10には、回転軸21に掛かる荷重量を測定する変位測定部(荷重測定部)60が設けられている。変位測定部60は、圧縮気体を利用して回転軸21のラジアル方向変位を検出する変位検出部61と、外輪側間座36と内輪側間座38の間の隙間に応じた圧縮気体の圧力損失を測定する圧力損失測定部71と、圧縮気体供給部80に接続され且つ変位検出部61と圧力損失測定部71の間に設けられた差圧調整部70と、を1組としている。本実施形態では、変位検出部61、差圧調整部70及び圧力損失測定部71の組を円周方向に複数組(
図1では2組)設けている。また、変位測定部60は、各圧力損失測定部71の測定結果に基づいて回転軸21に作用する荷重量を演算する演算処理部PUを備えている。変位測定部60は、回転軸21の軸方向の何れの位置にも配置可能である。より好ましくは、荷重に対する軸変位量が大きく、かつ変位測定部の設置による軸長延長の影響が少ない、最前列軸受の後方近傍に配置されることが望ましい。圧縮気体は1つの圧縮気体供給部80から差圧調整部70及び圧力損失測定部71の各組に供給される。また、圧縮気体は差圧調整部70を経由して変位検出部61に供給される。圧縮気体供給部80は圧縮気体の供給源である。
【0018】
変位検出部61は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、少なくともハウジング11の前側円筒部12の小外径部12aにおける中心軸を介して互いに対向しないように円周方向に例えば120°の間隔を保つ2個所に形成されている。
図2(b)は
図2(a)のB-B矢視断面図である。
変位検出部61のそれぞれは、前側転がり軸受31の外輪側間座36及び内輪側間座38を含んで構成されている。すなわち、外輪側間座36は、アンギュラ玉軸受31a及び31bの外輪33の互いに対向する軸方向端面に接触する外周側リング部36aと、外周側リング部36aより幅狭の内周側リング部36bとを備えている。
【0019】
外周側リング部36aには軸方向の中央部に外側から内側に窪む凹部36cが形成されている。内周側リング部36bは、内周面が内輪側間座38の外周面に所定の被測定隙間gを形成するように対向している。
そして、外周側リング部36aの凹部36cの底部から内周面に半径方向に延長する漏斗状の圧縮気体吐出ノズル62が形成され、圧縮気体吐出ノズル62から圧縮気体が外輪側間座36と内輪側間座38の間の被測定隙間gに吐出される。
工作機械の回転軸(例えば、スピンドル)は、多くの場合において、工具を把持するための機構として軸内径部にドローバを設けるため、中空軸となっており、また、加工効率向上のため、高速回転させることを想定している。このため、特に、高速回転使用時において、回転軸21、内輪側間座38等の回転部材は、遠心力により数~数10μm程度膨張する。さらに、スピンドル回転中は、ハウジング11と回転軸21の間で温度差が生じ、多くの場合回転軸21の方が高温になるため、ハウジング11と回転軸21の間の隙間量は数~数10μm程度小さくなる。
【0020】
また、工作機械スピンドルにおいて、外輪側間座36と内輪側間座38の間等の、ハウジング11と回転軸21の間に形成される隙間は、スピンドル内部や転がり軸受31への異物の侵入を防ぐため、大きくてもコンマ数mm程度で設定される。
そこで、外輪側間座36と内輪側間座38の間の被測定隙間gは、回転軸21の静止時において0.05mm~0.5mmに設定されるが、回転軸21のラジアル方向変位に対する圧力損失の変化量は、隙間量が小さいほど大きくなるため、被測定隙間gは、0.05mm~0.2mmに設定することが好ましい。
【0021】
運転中の外輪側間座36と内輪側間座38の間の被測定隙間gを精度良く測定するため、変位検出部61に設けられる内輪側間座38は、可能な限り回転軸21と同軸となることが望ましい。そのため、内輪側間座38は、軸に対して、中間ばめ若しくは締まりばめで嵌合されることが望ましい。
ハウジング11の小外径部12aには、圧縮気体吐出ノズル62と同軸的に外周面から外輪側間座36の凹部36cに達して2段階に内径が縮小する円形の開口部63が形成されている。開口部63には、
図1に示すように、後側側壁に前側円筒部12に形成された圧縮気体供給通路64の一端が開口されている。圧縮気体供給通路64の他端は、
図1に示すように、後側円筒部13に形成された後端に開口して軸方向に前方に延長して形成された圧縮気体供給通路65に連通している。
【0022】
開口部63内には、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、圧縮気体供給通路64から供給される圧縮気体の方向を軸方向から半径方向に方向変換して圧縮気体吐出ノズル62に供給する気体方向変換部としての気体接続部66が装着されている。気体接続部66は、開口部63に内嵌可能な形状、例えば開口部63の内周形状と同一形状の外周形状を有し、内部に開口部63に連通する気体通路66aと、気体通路66aに一端が連通し、他端が圧縮気体吐出ノズル62に連通する気体通路66bとが形成されている。気体接続部66の側壁と開口部63の内壁との間にはOリング67、67が配置され、気体接続部66の底面と凹部36cの底面との間にもOリング68が配置され、Oリング67、67及び68によって圧縮空気の漏れを防止している。
【0023】
気体接続部66は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、外周面の段部が開口部63の内周面の段部と接触することにより、半径方向に位置決めされている。また、気体接続部66は、半径方向外側の端面が小外径部12aの外周面にねじ止めされた押え片69に接触して、開口部63からの抜け出しが防止されている。尚、気体接続部66は、押え片69で抜け出しを防止する場合に限らず、気体接続部66の外周面側にフランジ部を形成し、このフランジ部をねじ止めすることもでき、気体接続部66のハウジング11に対する固定方法(固定構造)は押さえ片69を使用する固定方法に限定されない。
尚、変位検出部61は、ハウジング11の円周方向の2個所に設置する場合に限らず、円周方向に中心軸を挟んで互いに対向しないように3個所以上設けるようにしてもよい。また、変位検出部61は、圧縮気体を圧縮気体吐出ノズル62から外輪側間座36と内輪側間座38との隙間に吐出させることから、圧縮気体により発生する回転軸21への負荷をキャンセルするため、3個所以上で等角間隔で配置することが好ましい。
【0024】
図1に示すように、前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に潤滑油を供給する図示しないオイルエア潤滑やオイルミスト潤滑による潤滑系統には、圧縮気体供給部80から圧縮気体が供給される。圧縮気体供給部80は、圧縮気体を吐出するコンプレッサ81と、コンプレッサ81から吐出される圧縮気体を調圧する潤滑系統用のレギュレータ82と、レギュレータ82と並列に接続された圧力損失測定用のレギュレータ83とを備えている。符号80aは、コンプレッサ81とレギュレータ83を繋ぐ配管がレギュレータ82からの配管に接続される接続点を示している。尚、前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41への潤滑油供給は、オイルエア潤滑やオイルミスト潤滑に限定されない。例えば、グリース潤滑などを採用してもよい。潤滑油やグリースは潤滑剤の例である。潤滑系統は、軸受31及び軸受41に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部である。
【0025】
差圧調整部70は、圧縮気体の供給経路(配管)74により、ハウジング11の圧縮気体供給路65に繋がっている。差圧調整部70は、圧縮気体の供給経路74に介挿された絞り(絞り部材)72と、供給経路74の第1分岐点74aから分岐した第1分岐管路76aと、供給経路74の第2分岐点74bから分岐した第2分岐管路76bとを有する。
第1分岐点74aから延びる第1分岐管路76aは、差圧センサ73の低圧側に接続され、第2分岐点74bから延びる第2分岐管路76bは、差圧センサ73の高圧側に接続される。第1分岐点74aは絞り72の下流側の分岐点であり、第2分岐点74bは絞り72の上流側の分岐点である。
【0026】
圧力損失測定部71は、第1分岐管路76aと第2分岐管路76bにより、差圧調整部70に繋がっている。圧力損失測定部71に含まれている差圧センサ73は、絞り72の上流側の圧力と下流側の圧力との差分(差圧)を検出する。つまり、差圧センサ73は、圧縮気体の圧力損失として、変位検出部61と絞り72の間の圧縮気体の圧力と、圧縮気体供給部80から出力される圧縮気体の圧力との差圧を検出する。
圧縮気体の供給経路74は、第2分岐点74bから下方に延びて、経路合流点74cを通って圧縮気体供給部80に繋がっている。よって、絞り72の上流側には、圧縮気体供給部80の元圧が入力される。
このような圧縮気体経路(配管と分岐)では、第1分岐点74aから差圧センサ73の低圧側までの間(つまり、第1分岐管路76a内)で、圧縮気体の流速は生じない。また、第2分岐点74bから差圧センサ73の高圧側までの間(つまり、第2分岐管路76b内)で、圧縮気体の流速は生じない。
【0027】
図1に示すように、絞り72は、レギュレータ83とハウジング11に形成された圧縮気体供給通路65の開口とを連結する配管74に介挿されている。絞り72の絞り量は、回転軸21の回転中で回転軸21のラジアル方向変位が“0”であるときに差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定した設定値となるように設定する。これにより、絞り72の下流側の圧力が絞り72から変位検出部61までの配管長さ及び配管径による流路抵抗を考慮した回転軸21のラジアル方向変位のみに応じた圧力損失を表すようになる。
【0028】
差圧センサ73の低圧側は、第1分岐管路76aにより絞り72の下流側の配管74に接続され(第1分岐点74aに接続され)、差圧センサ73の高圧側は第2分岐管路76bにより絞り72の上流側の配管74に接続されている。また、第2分岐管路76bと配管(圧縮気体の供給経路)74の合流点である第2分岐点74bは、配管74によりレギュレータ83に接続されている。差圧センサ73は、レギュレータ83から供給される圧縮空気圧(第2分岐点74bの圧力)と変位検出部61に接続された絞り72の下流側圧力(第1分岐点74aの圧力)すなわち変位検出部61での回転軸21の変位に応じた圧力損失との差圧を検出し、検出した差圧検出値をアナログ値又はデジタル値として出力する。
演算処理部PUは、例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成され、各圧力損失測定部71の差圧センサ73から出力される差圧検出値が入力され、この差圧検出値に基づいて回転軸21のラジアル方向の換算変位量を算出する。また、演算処理部PUは、算出した回転軸21のラジアル方向の換算変位量に予め算出した圧縮気体吐出ノズル62の軸方向位置における軸剛性値を乗算することにより、回転軸21に与えられる荷重量を演算し、演算結果を表示器DPに出力して表示する。軸剛性値は、荷重点、前側転がり軸受31の軸受位置、軸受剛性、軸剛性及び変位検出部61の圧縮気体吐出ノズル62の軸方向位置等に基づいて算出する。
【0029】
尚、回転軸21に与えられる荷重量は、上述した演算によって算出しなくてもよい。例えば、既知の荷重を回転軸21に与えて、そのときの圧力損失測定部71の差圧センサ73から出力される差圧検出値を測定することを繰り返すことにより、荷重と差圧検出値との関係を表す荷重算出用マップを作成し、これを演算処理部PUの記憶部に記憶しておく。この場合には、切削時の差圧センサ73で検出した差圧検出値を基に荷重算出用マップを参照することにより、差圧検出値から直接荷重量を算出(取得)できる。このようにすると、差圧センサ73の差圧検出値を変位量に換算する必要がなく、荷重量を容易に算出できる。このとき、荷重算出用マップを使用する代わりに荷重算出用マップの特性線の方程式を求め、求めた方程式に差圧センサ73の差圧検出値を代入することにより荷重量を算出することもできる。
尚、変位検出部61、差圧調整部70及び圧力損失測定部71の組は、前述したように2組以上設けるので、差圧調整部70と圧力損失測定部71の組み合わせは、
図1に示すように、レギュレータ83に並列に接続されている。
【0030】
次に、第1実施形態の軸受装置10の動作を説明する。
先ず、圧縮気体供給部80から差圧調整部70及び圧力損失測定部71に圧縮気体を供給し、工作機械の軸受装置10の回転軸21を回転させた状態で、回転軸21のラジアル方向変位が“0”である状態で、差圧調整部70の絞り72の絞り量を、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定された設定値となるように調整しておく。
そして、軸受装置10の回転軸21が停止している状態で、コンプレッサ81を始動することにより、圧縮気体をレギュレータ82で調圧して、図示しない前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に対する潤滑油供給系統に設定圧の圧縮気体を供給して、前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に対する潤滑剤の供給を開始する。
【0031】
これと同時に、又は前後してコンプレッサ81から吐出される圧縮気体をレギュレータ83で調圧して差圧調整部70及び圧力損失測定部71に供給する。
差圧調整部70に供給された圧縮気体は絞り72を介してハウジング11の圧縮気体供給通路65に入力(導入)される。圧縮気体供給通路65に入力された圧縮気体は、圧縮気体供給通路64から気体接続部66で軸方向から半径方向に90度方向転換されて圧縮気体吐出ノズル62に供給される。
圧縮気体吐出ノズル62に供給された圧縮気体は、外輪側間座36と内輪側間座38の間の被測定隙間gに供給される。被測定隙間gすなわち回転軸21のラジアル方向変位が“0”の状態から大きくなると被測定隙間gが小さくなり、これに応じて圧力損失が小さくなり、逆にラジアル方向変位が小さくなると被測定隙間gが大きくなり、これに応じて圧力損失が大きくなる。被測定隙間gは、上述したように、中空軸の回転軸21が高速回転すると、回転軸21や内輪側間座38などの回転部材が遠心力により大きくなり、また、ハウジング11に対して回転軸21が高温化すると小さくなる。
【0032】
したがって、回転軸21のラジアル方向変位が“0”である無負荷状態では、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定した設定値となり、回転軸21のラジアル変位が“0”であることを表す差圧検出値が演算処理部PUに出力される。
このため、演算処理部PUでは、差圧センサ73から入力される差圧検出値を回転軸21のラジアル方向変位に換算し、換算したラジアル方向変位に予め設定した軸剛性値を乗算することにより、回転軸21に負荷された荷重量を算出する。算出された荷重量は表示器DPに出力されて表示される。この場合、ラジアル方向変位が“0”であるので、表示器DPに表示される荷重量は“0”となる。
【0033】
この状態から、例えば切削を開始すると、回転軸21に切削荷重が加わることになり、当該切削荷重に応じたラジアル方向変位が回転軸21に生じる。ラジアル方向変位は、回転軸21に加わる切削荷重の方向に依存する。
このため、回転軸21のラジアル方向変位に応じて複数の変位検出部61の圧縮気体吐出ノズル62から吐出される圧縮気体にラジアル方向変位に応じた圧力損失が生じる。この圧力損失が圧力損失測定部71の差圧センサ73で差圧検出値として検出される。
検出された差圧検出値が演算処理部PUに供給されることにより、演算処理部PUで差圧検出値を回転軸21のラジアル方向変位に換算し、換算したラジアル方向変位に予め設定した軸剛性値を乗算することにより、回転軸21に負荷された荷重量を算出する。算出された荷重量は表示器DPに出力されて表示される。
【0034】
このように、第1実施形態の軸受装置10によると、前側転がり軸受31の外輪側間座36及び内輪側間座38を含んで構成される変位検出部61に圧縮気体を供給することにより、圧縮気体吐出ノズル62から圧縮気体が外輪側間座36と内輪側間座38の間の被測定隙間gに吐出される。このため、被測定隙間gすなわち回転軸21のラジアル方向変位に応じた圧縮気体の圧力損失が生じる。圧力損失をハウジング11の外側に設けた圧力損失測定部71の差圧センサ73で検出し、検出した差圧検出値を演算処理部PUに供給することにより、回転軸21に負荷される荷重量を算出することができる。
【0035】
したがって、変位検出部61では所定の被測定隙間gを介して対向する外輪側間座36及び内輪側間座38、圧縮気体供給通路64、気体接続部66及び圧縮気体吐出ノズル62を設けるだけの簡易な構成で回転軸21のラジアル方向変位に応じた圧力損失を生じさせることができる。このため、変位検出部61に電気的に動作する部品を必要としないので、配線の引き回しや電気的絶縁を考慮する必要がない。
また、差圧調整部70は、圧縮気体を絞り72を介して変位検出部61に供給し、絞り72の下流側すなわち変位検出部61側の圧力と圧力損失測定部71(差圧調整部70)に供給される圧縮気体の元圧との差圧を圧力損失測定部71が検出することで変位検出部61での圧力損失を測定することができる。そして、検出した差圧検出値を回転軸21のラジアル方向変位に変換してから回転軸21に負荷される荷重量を算出したり、或いは差圧から直接回転軸21に負荷される荷重量を算出したりすることができる。
【0036】
このため、回転軸21を転がり軸受で回転自在に支持する場合に、簡単な構成で、圧縮気体を利用して回転軸21のラジアル方向変位を算出したり、回転軸21に負荷される荷重量を算出したりすることができる。
図3は
図1の構成を簡略化して示した図である。
図3では、変位検出部61、差圧調整部70及び圧力損失測定部71の組は一組しか示していない。また、圧縮気体供給部80も省略した。本実施形態では、回転軸21から圧力損失測定部71までの距離の影響(差圧測定における影響)を抑制するために、差圧調整部70(絞り72)と圧力損失測定部71(差圧センサ73)とを分離し、差圧調整部70を回転軸21と圧力損失測定部71の間に配置し且つ差圧調整部70を回転軸21から所定距離内に設け、差圧調整部70に圧縮気体を供給している。また、差圧調整部70と圧力損失測定部71は分岐管路76a、76bで接続している。
図9は
図3の回転軸21がスピンドルの場合を示している。
図9の構成(主軸装置)では、回転軸部材(主軸)であるスピンドルを軸受で支持して、スピンドルに作用する負荷(荷重)を計測することができる。
【0037】
図3に示すように、回転軸21から距離L1だけ離れた位置に差圧調整部70が設けられているとする。距離L1は差圧センサ73に要求される測定精度を確保できる距離である。また、差圧調整部70から距離L2だけ離れた位置に圧力損失測定部71が設けられているとする。圧縮気体供給部80(
図1)から供給される圧縮気体は、配管74を矢印A1で示したように第2分岐点74bに向かって流れ、第2分岐点74bから左に流れ(矢印A2)、その後、絞り72を通って第1分岐点74aを通過して、矢印A3のように回転軸21(変位検出部61)に供給される。そして、圧縮気体は被測定隙間g(
図1)に供給され、回転軸21の回転の有無にかかわらず、被測定隙間gにおいて圧力変化が発生する(圧力が下がる)。低下した圧力の値は、第1分岐管路76aを介して差圧センサ73の低圧側に入力される。上記したように、第1分岐点74aから差圧センサ73までの第1分岐管路76aでは圧縮気体の流速が生じないので、第1分岐点74aの圧力が差圧センサ73の低圧側の値となる。また、第2分岐点74bから差圧センサ73までの第2分岐管路76bでも圧縮気体の流速が生じないので、第2分岐点74bの圧力が差圧センサ73の高圧側の値となる。
【0038】
ここで、管路74の管路抵抗による圧力測定値への影響について説明する。管路74では圧縮気体の流速がゼロではないので、圧縮気体が管路74を流れると圧縮気体は管路74から抵抗を受ける。本実施形態では、この抵抗を管路抵抗と称する。管路抵抗が大きくなるのに伴い、管路74内の圧縮気体の圧力値が低下する。従って、管路74の長さが長すぎると、被測定隙間gにおける圧縮気体の圧力値と、差圧センサ73で計測する圧縮気体の圧力値が乖離してしまう。そうなると、差圧センサ73は、被測定隙間gでの圧力値を高精度に測定することができない。そこで、本実施形態では、差圧調整部70を回転軸21の近傍に設置し(距離L1の所に設置し)、差圧センサ73の低圧側に入力される圧力値が第1分岐点74aの圧力値となるようにし、且つ、差圧センサ73の高圧側に入力される圧力値が第2分岐点74bの圧力値となるようにした。第1分岐点74aから差圧センサ73の低圧側に延びる管路76aでは圧縮気体の流速がゼロなので、第1分岐点74aにおける圧力値はそのまま差圧センサ73の低圧側に入力される。回転軸21から第1分岐点74aまでの管路74において圧縮気体は管路抵抗を受けるが、差圧調整部70は回転軸21の近傍に設けられており、本実施形態では、管路抵抗を受ける管路長(距離L1)は、被測定隙間gにおける圧力損失を高精度で差圧センサ73に入力できる距離に設定されている。差圧センサ73の高圧側に入力される圧力値は、第2分岐点74bでの圧力値であり、管路76bでは圧縮気体の流速がゼロなので、圧縮気体供給部80から供給され圧縮気体の圧力値が高精度に差圧センサ73の高圧側に入力されることになる。
【0039】
本実施形態の軸受装置10は、隙間gの変化を、当該変化による圧力損失の変化に変換し、供給圧との差圧として計測する装置である。つまり、軸受装置10は、計測した差圧から、隙間gの変化を知るための装置である。
測定の基準となる隙間gは、無負荷・無回転時の隙間gであり、測定の基準となる差圧は、無負荷・無回転時の差圧である。
隙間gの変動は、3つの変位を含む。具体的には、(a)負荷による軸の変位と、(b)回転による遠心膨張収縮と、(c)熱変位と、を含む。つまり、隙間gの変動は(a)+(b)+(c)の合算値である。
(a)は外部負荷変動に依存し、(b)は回転数変化に依存し、(c)は温度変化に依存する。各変位を計測するためには、他2項目を一定値にすることが好ましい。
隙間gで圧力損失を発生させるためには、管路74の流れを十分に確保する必要があるが、管路74を長くすると管路抵抗により流れが妨げられ、隙間gによる圧力損失が小さくなる。管路74が長すぎると最終的には管路74の流速がゼロとなり、差圧計測が不能となる。
流速が発生している管路(主にL1)は管路抵抗が存在するが、その抵抗が大きすぎると流れが妨げられるため、隙間gの変化による圧力損失の変化が小さくなってしまい、最終的には差圧が発生しなくなる(管路74内で気体が流れなくなる)。本実施形態では、距離L1で発生する管路抵抗が圧力測定の精度に影響を及ぼさないように、距離L1を決定している。
尚、隙間gの変化による圧力損失の変化が大きいほど、隙間gの変化の測定精度が上がる。従って、距離L1は短いほど好ましい。但し、実際に圧力調整部70(絞り72)を設置する場合、ある程度管路(主にL1)が必要となることもある。管路74が変わると、隙間の校正値(差圧の校正値)が変わるので、管路(L1)は固定することが好ましい。
【0040】
図4は差圧調整部70と圧力損失測定部71の間の距離が大きくなった場合を示している。具体的には、
図3と比べて、差圧調整部70と圧力損失測定部71の間の距離が延長距離L3だけ大きくなった場合を示している。工作機械の種類・用途・大きさや工場内における工作機械の設置位置によっては、圧力損失測定部71の設置位置は、回転軸21からかなり遠い位置になることがある(例えば、数十メートル)。また、回転軸21がスピンドルの場合、スピンドル自体が移動するものもあるので、回転軸21と圧力損失測定部71の間の管路(経路)も適宜変化させる必要がある。
図4のように圧力損失測定部71が回転軸21から遠い所に設置された場合であっても、本実施形態では、延長されるのは第1分岐管路76aと第2分岐管路76bだけである。第1分岐管路76aと第2分岐管路76bの圧縮気体の流速はゼロであるので、差圧センサ73に入力される圧力値は第1分岐管路76aの長さや第2分岐管路76bの長さに影響されない。よって、圧力損失測定部71の設置位置(変位検出部61との相対位置)により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。つまり、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
【0041】
図5及び
図6は本実施形態の効果を説明するための比較例を示している。
図5は
図3に対応する図であり、
図6は
図4に対応する図である。
比較例では絞り72と差圧センサ73が同一のハウジングに収容されており(絞り72が圧力損失測定部71の内部に設けられている)、実質的に、絞り72の配置位置と差圧センサ73の配置位置は同じである。符号74eは、絞り72の下流側の配管が差圧センサ73の低圧側の配管に接続される接続点を示している。符号74fは、絞り72の上流側と差圧センサ73の高圧側を繋ぐ配管が、圧縮気体供給源(図示せず)からの配管に接続される接続点を示している。
比較例の場合、回転軸21から圧力損失測定部71までの距離が短い場合(例えば、距離L1だけ離れている場合)には、管路74の管路抵抗による圧力測定値への影響は殆ど無い。つまり、
図5のように管路抵抗が小さい場合は、比較例と本発明の実施形態(
図3)とで、圧力測定値の精度はほぼ変わらない。しかしながら、
図6に示すように、回転軸21から圧力損失測定部71までの距離が長くなると(例えば、L1+L2+L3になると)、管路長が長くなるので管路抵抗が増大して、差圧センサ73での圧力計測値の精度が低下する。
図6の場合、圧縮気体の流速は絞り72と回転軸21の間で発生しているので、圧縮気体が流速抵抗を受ける距離が長い。その結果、差圧センサ73の低圧側での圧力測定値が低下してしまう。圧力損失測定部71の設置位置によっては、管路抵抗が過大になり管路74に流れるべき圧縮気体が流れなくなり、差圧センサ73で差圧を測定できなくなる場合も想定できる。
【0042】
次に、本発明の実施形態の構成(
図3及び
図4)と比較例の構成(
図5及び
図6)の効果に関する実験結果を、
図7及び
図8を用いて説明する。この実験では、隙間gは固定し、供給する圧縮気体の圧力を変動させて、差圧を計測した。尚、供給する圧縮気体の圧力を固定し、隙間gを変動させて差圧を計測してもよいが、距離L3による管路抵抗の影響が把握できればよいので、隙間gを固定し圧縮気体の圧力を変動して差圧を計測した。
図7のグラフは本実施形態の構成を使用した場合の実験結果を示し、
図8のグラフは比較例の構成を使用した場合の実験結果を示している。
図7及び
図8のグラフの横軸は、圧縮気体供給部80が供給する圧縮気体の圧力(供給エア圧)を示し、縦軸は差圧センサ73で計測した差圧を示している。
図7のグラフにおいて、□は回転軸21から差圧センサ73までの距離が短い場合(
図3の配置)の差圧値を示し、△は回転軸21から差圧センサ73までの距離が長い場合(
図4の配置)の差圧値を示している。同様に、
図8のグラフにおいて、□は回転軸21から差圧センサ73までの距離が短い場合(
図5の配置)の圧力値を示し、△は回転軸21から差圧センサ73までの距離が長い場合(
図6の配置)の圧力値を示している。
【0043】
図7から分かるように、本実施形態の構成では、□と△が重なっている。つまり、回転軸21から差圧センサ73までの距離が長くなっても差圧センサ73での差圧測定値は変わらない。一方、
図8から分かるように、比較例の構成では、□と△が重なっていない(△が□の下になっている)。つまり、回転軸21から差圧センサ73までの距離が長くなると、管路抵抗の影響により、差圧センサ73での差圧測定値が□から△に変わってしまう。よって、比較例の構成では、回転軸21から差圧センサ73までの距離が長くなると、差圧センサ73の出力値の精度が低下することになる。このように、比較例の構成(
図6)では、距離L3の追加により管路抵抗が増大したため、管路74内の圧縮気体の流れが妨げられ、隙間gによる圧力損失量が低下してしまう。その結果、差圧が小さくなってしまう(差圧センサ73の出力値の精度が低下する)。本実施形態の構成では、差圧センサ73の出力値の精度は低下しない。
本実施形態では、回転軸21から見た差圧調整部70(絞り72)の位置は、距離L1までの範囲に固定される。つまり絞り72の設置位置(変位検出部61との相対位置)は距離L1までの範囲内で固定される。距離L1を超える位置に差圧調整部70(絞り72)が設置されると、圧力測定の精度が確保できないからである。一方、回転軸21から見た圧力損失測定部71の位置は可動である。圧力損失測定部71の位置は、圧力測定の精度に影響を与えないからである。
上述の通り、この試験結果により、管路74の管路抵抗により、隙間gによる圧力損失が発生しにくくなってしまうことが理解できる。隙間gによる圧力損失が発生しにくいと、隙間gの変化による差圧変化が少なくなるので、隙間gの変化量の測定精度が下がってしまう。本実施形態では、このような測定精度の低下を防止・抑制している。
【0044】
また、比較例の構成と比較して、本実施形態の構成は次のような利点を有する。すなわち、比較例(
図5)のように絞り72が差圧センサ73と共に圧力損失測定部71に内蔵されている(同一ハウジングに設けられている)構造で、圧力損失測定部71を回転軸21に取り付けると管路抵抗を小さくすることはできるが、圧力損失測定部71内に設けられた差圧センサ73が回転軸21と一緒に回転してしまう。差圧センサ73が回転しながら差圧を計測すると、測定誤差が発生したり、差圧センサ73の故障が発生するおそれがある。これに対し、本実施形態の構成では、差圧調整部70(絞り72)を回転軸21に取り付けて、差圧センサ73(圧力損失測定部71)を回転軸21から離れた位置に設けることができる。絞り72は機構部であり、回転軸21と共に回転しても、当該回転の影響を受けにくい。このように、本実施形態の構成によれば、回転の影響を受け易い差圧センサ73のみを回転軸21から離して設置することができる。その結果、工作機械の用途等に応じて、必要な長さの配管を使用することができる。
【0045】
尚、上記した第1実施形態(
図1)では、ハウジング11内に軸方向に延長する圧縮気体供給通路64及び65を形成した場合について説明したが、第1実施形態はこのような構成に限定されるものではなく、気体接続部66の気体通路66bを外周側に延長して開口させ、この開口部に差圧調整部70を接続するようにしてもよい。あるいは、圧縮気体供給通路65を省略して、圧縮気体供給通路64を小外径部12aの外周面に開口させ、この開口部に差圧調整部70を接続するようにしてもよい。
【0046】
また、上記した第1実施形態(
図1)では、工作機械の軸受装置10の回転軸21を回転させた状態で、回転軸21のラジアル方向変位が“0”である状態で、差圧調整部70の絞り72の絞り量を、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定された設定値となるように調整しておく場合について説明した。しかしながら、第1実施形態は、この調整に限定されるものではない。例えば、外部負荷なしで軸受装置10の回転軸21が停止している状態(0回転の状態)で差圧調整部70の絞り72により各圧力損失測定部71の差圧をある値に調整し、この状態を変位0として設定しておく。そして、回転軸21の回転数を変化させると、各圧力損失測定部71の差圧が回転軸21の回転数に応じて変化し、それにより変位0と設定した差圧も同量オフセットされる。そして、回転数が安定した後、上記同様の無負荷の状態で外部よりトリガ信号を与え、その時の値を改めて“0”とする。これにより、回転軸21の回転が一定であれば、違う回転数でも第1実施形態と同じように測定が可能となる。
図1では差圧調整部70は回転軸21から距離L1だけ離れた位置に設置されているとしたが、上記したように、差圧調整部70は回転軸21に取り付けられて回転軸21とともに回転してもよい。つまり、距離L1はゼロでもよい。本明細書において「近傍」とは接触している状態も含む(距離L1がゼロより大きい値の場合と、ゼロである場合を含む)。
【0047】
第2実施形態
次に、本発明に係る軸受装置(主軸装置)の第2実施形態について
図10を参照して説明する。第1実施形態と同様な構成(例えば、差圧調整部70、圧力損失測定部71、圧縮気体供給部80、配管74等)については、図示及び説明を省略し、第1実施形態との相違点を説明する。
【0048】
第2実施形態は、前側転がり軸受への圧縮気体の影響を抑制する構成を採用している。より詳しくは、第2実施形態では、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、変位検出部61が円周方向に等間隔に3個設けられ、各変位検出部61では、内輪側間座38の外周面に被測定隙間gを介して対向する外輪側間座36の内周面に、圧縮気体吐出ノズル62を挟む前側及び後側に夫々圧縮気体を回収する気体回収溝81a及び81bが円周方向に形成されている。そして、
図10(a)の下側及び
図10(b)に示すように、外輪側間座36の各変位検出部61に中心軸を挟んで対向する位置に気体回収溝81a及び81bに連通する空洞部86が形成されている。一方、小外径部12aの空洞部86に対向する位置には、空洞部86に連通して半径方向に延長する気体排出通路87aが形成され、気体排出通路87aに一端が連通し、他端が前端に開口する気体排出通路87bが形成されている。気体回収溝81a,81b、空洞部86、気体排出通路87a及び87bが圧縮気体排出路(圧縮気体排出部)となっている。気体排出通路87a及び87bは、圧縮気体を軸受装置の外部に排出するドレン部と称することができる。
【0049】
第2実施形態によると、変位検出部61の圧縮気体吐出ノズル62から外輪側間座36の内周面と内輪側間座38の外周面との間の被測定隙間gに吐出された圧縮空気は、前後方向及び円周方向に拡がって被測定隙間gを流れることになるが、前後方向に拡がった圧縮気体は気体回収溝81a及び81bに流れ込み、気体回収溝81a及び81bを
図10(b)の円周方向に時計方向及び反時計方向に流れて空洞部86に達し、空洞部86から小外径部12aの気体排出通路87a及び87bを通じて小外径部12aの前端面から外部に排出される。
【0050】
したがって、圧縮気体吐出ノズル62から噴射された圧縮気体が外輪側間座36及び内輪側間座38の前後位置に配置されたアンギュラ玉軸受31a及び31bの外輪33及び内輪34間へ流れ込むことを防止できる。このため、アンギュラ玉軸受31a及び31bに圧縮気体が流れ込むことによる影響、すなわちアンギュラ玉軸受のオイルエア潤滑やオイルミスト潤滑への影響を低減または防止できる。
尚、本実施形態でも、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。すなわち、差圧センサ73に入力される圧力値は回転軸21から差圧センサ73までの距離に影響されない。その結果、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。よって、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
【0051】
第3実施形態
次に、本発明に係る軸受装置の第4実施形態について
図11を参照して説明する。第1実施形態と同様な構成(例えば、差圧調整部70、圧力損失測定部71、圧縮気体供給部80、配管74等)については、図示及び説明を省略し、第1実施形態との相違点を説明する。
第3実施形態では、変位検出部61を前側転がり軸受31間の間座ではなく、前側転がり軸受31に対して軸方向に隣接する位置に形成したものである。
すなわち、第3実施形態では、
図11に示すように、変位検出部61が前側転がり軸受31を構成する後側のアンギュラ玉軸受31bの後側に隣接させて配置されている。
このため、ハウジング11の前側円筒部12の内周面に形成した軸受収納段差部12cが前側転がり軸受31を構成するアンギュラ玉軸受31bより後方側に延長されている。
【0052】
変位検出部61は、軸受収納段差部12cの延長部に、第1実施形態及び第2実施形態における外輪側間座36と同一形状の外輪側間座96を配置し、外輪側間座96の内周面は回転軸21の外周面に所定の被測定隙間gを形成するように対向されている。
外輪側間座96は、外輪側間座36と同一に外周側リング部96a、内周側リング部96b、凹部96c、圧縮気体吐出ノズル97を備えている。
また、ハウジング11の小外径部12aの外輪側間座96に対向する位置に開口部63と同様の開口部98が形成され、開口部98内に気体接続部66と同様の気体通路99a及び99bを形成した気体接続部99が装着されている。
尚、図示していないが、第3実施形態においても、第2実施形態で説明したような圧縮気体を回収する気体回収溝及び圧縮気体を外部に排出する気体排出通路が設けられている。
【0053】
第3実施形態によると、変位検出部61自体は第1実施形態と同様の動作を行うので、第1実施形態と同様の作用効果を発揮することができる。すなわち、差圧センサ73に入力される圧力値は回転軸21から差圧センサ73までの距離に影響されない。その結果、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。よって、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
また、第3実施形態では、第1及び第2実施形態のように外輪側間座96から圧縮気体が内側間座ではなく直接回転軸21との間に形成される被測定隙間gに吐出される。このため、第1実施形態及び第2実施形態のように、回転軸21と一体に回転する内輪側間座の使用時に問題となる回転軸21と内輪側間座の芯ずれの影響がなく、被測定隙間gの形状精度を高めることが可能となる。尚、第1実施形態~第3実施形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0054】
尚、第1実施形態~第3実施形態では、工作機械の主軸装置に本発明に係る軸受装置10を適用した場合について説明したが、本発明の適用はこれに限定されるものではない。例えば、
図12に示す回転軸21の上端に回転テーブル130を配置した工作機械の回転テーブル装置131にも本発明を適用できる。
図12において、
図1との対応部分には同一符号を付け、詳細な説明は省略する。
【0055】
第4実施形態
次に、本発明に係る工作機械の軸受装置の第4実施形態について、
図13、
図14及び
図15を参照して説明する。第4実施形態では、アキシャル方向の変位を計測する。尚、第1実施形態と同様な構成や部品には同じ参照符号を付けている。
工作機械の軸受装置(主軸装置)10Aは、モータビルトイン方式であり、固定部材(静止部材)であるハウジング11に回転部材である中空状の回転軸(スピンドル)21が軸受装置を構成する前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41によって回転自在に支持されている。回転軸21は、前側転がり軸受31と後側転がり軸受41との間に配置された駆動モータ51によって回転駆動される。
【0056】
ハウジング11は、前側転がり軸受31と駆動モータ51との間で2分割された前側円筒部12と後側円筒部13とで構成されている。
前側円筒部12は、外径が小さい前側の小外径部12aと外径が小外径部12aに比較して大きい後側の大外径部12bとで構成されている。小外径部12a及び大外径部12bの内周面は、等しい内径に形成されているが、小外径部12aの前端側から後端側にかけて前側転がり軸受31を収納する軸受収納段差部12cが形成されている。
後側円筒部13は、内径が大きい大内径部13aと、内径が大内径部13aより小さい小内径部13bとで形成されている。
【0057】
前側転がり軸受31は、背面組合せとなるように配置された略同一寸法の一対のアンギュラ玉軸受31a及び31bで構成されている。これらアンギュラ玉軸受31a及び31bは、静止側軌道輪である外輪33と、回転側軌道輪である内輪34と、静止側軌道である外輪軌道溝と回転側軌道である内輪軌道溝との間に、接触角を持って配置された転動体としての複数の玉35とを備えている。つまり、各軸受31a、31bは、内輪34と、外輪33と、内輪34と外輪33との間に回転可能に配置された玉(転動体)35を有している。尚、各軸受31a、31bは、転動体を保持する保持器を備えていてもよい。
各アンギュラ玉軸受31a及び31bは、ハウジング11の前側円筒部12に形成された軸受収納段差部12cに外輪側間座36を介して外輪33が内嵌され、ハウジング11の前側円筒部12にボルト締めされた前側軸受外輪押え37によって固定されている。
また、各アンギュラ玉軸受31a及び31bの内輪34は、回転軸21に内輪側間座38を介して外嵌され、回転軸21に締結されたナット39によって回転軸21に固定されている。アンギュラ玉軸受31a及び31bは、ナット39によって定位置予圧が負荷されている。したがって、前側転がり軸受31によって回転軸21の軸方向位置が位置決めされている。
【0058】
後側転がり軸受41は、円筒ころ軸受であり、外輪42と、内輪43と、転動体としての複数の円筒ころ44とを有する。後側転がり軸受41の外輪42は、ハウジング11の後側円筒部13の小内径部13bに内嵌され、小内径部13bにボルト締結された後側軸受押え45によって外輪側間座46を介して小内径部13bに固定されている。後側転がり軸受41の内輪43は、回転軸21に締結された他のナット47によって内輪側間座48を介して回転軸21に固定されている。
駆動モータ51は、ハウジング11の後側円筒部13の大内径部13aに内嵌されさたステータ52と、ステータ52の内周側に間隙を介して対向する回転軸21に外嵌されたロータ53とで構成されている。
【0059】
そして、上記構成を有する工作機械の軸受装置10Aには、回転軸21に掛かるアキシャル荷重を測定する変位測定部60Aが設けられている。変位測定部60Aは、圧縮気体を利用して回転軸21のアキシャル方向変位を検出する変位検出部61Aと、外輪側間座36と内輪側間座38との間の隙間に応じた圧縮気体の圧力損失を測定する圧力損失測定部71と、圧縮気体供給部80に接続され且つ変位検出部61Aと圧力損失測定部71との間に設けられた差圧調整部70とを1組としている。変位検出部61A、差圧調整部70及び圧力損失測定部71の組はハウジング11の円周方向に少なくとも1組設けられている。変位測定部60Aは、圧力損失測定部71の測定結果に基づいて回転軸21に作用するアキシャル荷重を演算する演算処理部PUを備えている。圧縮気体は1つの圧縮気体供給部80から変位検出部61A、差圧調整部70及び圧力損失測定部71の各組に供給される。
【0060】
変位検出部61Aは、
図14(a)及び
図14(b)に示すように、少なくともハウジング11の前側円筒部12の小外径部12aにおける円周方向の1個所に形成されている。
図14(b)は
図13のC-C矢視断面図である。
変位検出部61Aは、前側転がり軸受31の外輪側間座36及び内輪側間座38を含んで構成されている。すなわち、外輪側間座36は、アンギュラ玉軸受31a及び31bの外輪33の互いに対向する軸方向端面に接触する外周側リング部36aと、外周側リング部36aより幅狭の内周側リング部36bとを備えている。
外周側リング部36aには軸方向の中央部に外側から内側に窪む凹部36cが形成されている。内周側リング部36bには、アンギュラ玉軸受31aの外輪33及び内輪34間に対向する円周溝36dが形成されている。
【0061】
内輪側間座38は、回転軸21に嵌合された円筒部38aと、円筒部38aの前端側において外周側に突出して外輪側間座36の円周溝36d内に延長する断面方形の環状突条38bとで構成されている。
そして、
図14(a)に示すように、外輪側間座36の円周溝36dを形成する左側面と内輪側間座38の環状突条38bの右側面との軸方向の対向面に被測定隙間gが形成されている。
また、円周溝36dの底面と環状突条38bの外周面との間隔も被測定隙間gと同じ隙間に設定され、同様に、外輪側間座36の内周面と、内輪側間座38の円筒部38aの外周面との間隔も被測定隙間gと同じ隙間に形成されている。しかしながら、本実施形態では、外輪側間座36と内輪側間座38との間の被測定隙間g以外の隙間については被測定隙間gに合わせる必要はなく、被測定隙間gより大きい隙間とすることができる。
【0062】
外輪側間座36には、凹部36cの底面から内周面側に半径方向に延長する気体通路36eが形成され、気体通路36eの先端側から軸方向に被測定隙間gに向かって円周溝36dの右側面に開口する圧縮気体吐出ノズル62Aが形成されている。圧縮気体吐出ノズル62Aから圧縮気体が外輪側間座36の円周溝36dと内輪側間座38の環状突条38bとの間の被測定隙間gに吐出される。
工作機械のスピンドルは、加工効率向上のため、高速回転させる場合がある。このため、特に、スピンドル回転中は、ハウジング11と回転軸21の間で温度差が生じ、多くの場合回転軸21の方が高温になるため、ハウジング11と回転軸21の間の軸方向の隙間量は数~数10μm程度小さくなる。温度差による軸方向の相対伸びの中心は、軸受などの固定方法により異なるため、大小の方向は都度変わる。また、遠心力の影響により、回転軸21の軸方向の収縮や、軸受(31a,31b)の予圧方式によっては接触角変化によって、回転軸21がハウジング11に対し、軸方向に数~数10μm程度相対変位する場合もある。
【0063】
また、工作機械のスピンドルにおいて、外輪側間座36と内輪側間座38の間等の、ハウジング11と回転軸21間に形成される隙間は、スピンドル内部や転がり軸受31への異物の侵入を防ぐため、大きくてもコンマ数mm程度で設定される。
工作機械のスピンドルにおいて、ハウジングと回転体との間に、スピンドル内部や軸受への異物などの侵入を防ぐ目的で軸方向の隙間(絞り)が形成されることがあるが、その場合、その大きさは大きくてもコンマ数mm程度で設定される。
そこで、外輪側間座36と内輪側間座38との間の被測定隙間gは、回転軸21の静止時において0.05mm~0.5mmに設定されるが、回転軸21のアキシャル方向変位に対する圧力損失の変化量は、隙間量が小さいほど大きくなるため、被測定隙間gは、0.05mm~0.2mmに設定することが好ましい。
【0064】
運転中の外輪側間座36と内輪側間座38との間の被測定隙間gを精度良く測定するため、変位検出部61Aに設けられる内輪側間座38は、可能な限り回転軸21と同軸となることが望ましい。
ハウジング11の小外径部12aには、気体通路36eと同軸的に外周面から外輪側間座36の凹部36cに達して2段階に内径が縮小する円形の開口部63が形成されている。開口部63には、
図13に示すように、後側側壁に前側円筒部12に形成された圧縮気体供給通路64の一端が開口されている。圧縮気体供給通路64の他端は、後側円筒部13に形成された後端に開口して軸方向に前方に延長して形成された圧縮気体供給通路65に連通している。
【0065】
また、開口部63内には、
図14(a)及び
図14(b)に示すように、圧縮気体供給通路64から供給される圧縮気体の方向を軸方向から半径方向に方向変換して外輪側間座36の気体通路36eを介して圧縮気体吐出ノズル62Aに供給する気体方向変換部としての気体接続部66が装着されている。
気体接続部66は、開口部63に内嵌可能な形状、例えば開口部63の内周形状と同一形状の外周形状を有し、内部に開口部63に連通する気体通路66a及び気体通路66aに一端が連通し、他端が圧縮気体吐出ノズル62Aに連通する気体通路66bが形成されている。気体接続部66の側壁と開口部63の内壁との間にはOリング67が配置され、気体接続部66の底面と凹部36cの底面との間にも同様にOリング68が配置され、これらOリング67及び68によって圧縮空気の漏れを防止している。
【0066】
また、気体接続部66は、
図14(a)及び
図14(b)に示すように、外周面の段部が開口部63の内周面の段部と接触することにより、半径方向に位置決めされている。また、気体接続部66は、半径方向外側の端面が小外径部12aの外周面にねじ止めされた押え片69に接触して開口部63からの抜け出しが防止されている。尚、気体接続部66は、押え片69で抜け出しを防止する場合に限らず、気体接続部66の外周面側にフランジ部を形成し、このフランジ部をねじ止めすることもでき、気体接続部66のハウジング11に対する固定方法は任意の固定方法をとることができる。
【0067】
前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に潤滑油を供給する図示しないオイルエア潤滑やオイルミスト潤滑による潤滑系統には、圧縮気体供給部80から例えば4気圧程度の圧縮気体が供給される。圧縮気体供給部80は、圧縮気体を吐出するコンプレッサ81と、コンプレッサ81から吐出される圧縮気体を調圧する潤滑系統用のレギュレータ82と、レギュレータ82と並列に接続された圧力損失測定用のレギュレータ83とを備えている。尚、軸受31、41の潤滑は、オイルエア潤滑やオイルミスト潤滑に限定されない。例えば、グリース潤滑などでもよい。
【0068】
差圧調整部70は、圧縮気体の供給経路(配管)74により、ハウジング11の圧縮気体供給路65に繋がっている。差圧調整部70は、圧縮気体の配管74に介挿された絞り72と、配管74の第1分岐点74aから分岐した第1分岐管路76aと、配管74の第2分岐点74bから分岐した第2分岐管路76bとを有する。
第1分岐管路76aは差圧センサ73の低圧側に接続され、第2分岐管路76bは差圧センサ73の高圧側に接続される。第1分岐点74aは絞り72の下流側の分岐点であり、第2分岐点74bは絞り72の上流側の分岐点である。
【0069】
圧力損失測定部71は、第1分岐管路76aと第2分岐管路76bにより、差圧調整部70に繋がっている。圧力損失測定部71に含まれている差圧センサ73は、絞り72の上流側の圧力と下流側の圧力の差分(差圧)を検出する。
圧縮気体の供給経路74は、第2分岐点74bから下方に延びて圧縮気体供給部80に繋がっている。
このような経路配置では、第1分岐点74aから差圧センサ73の低圧側までの間(つまり、第1分岐管路76a内)で、圧縮気体の流速は生じない。また、第2分岐点74bから差圧センサ73の高圧側までの間(つまり、第2分岐管路76b内)で、圧縮気体の流速は生じない。
【0070】
絞り72は、レギュレータ83とハウジング11に形成された圧縮気体供給通路65の開口とを連結する配管74に介挿されている。絞り72の絞り量は、回転軸21の回転中で回転軸21のアキシャル方向変位が“0”であるときに差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定した設定値となるように設定する。これにより、絞り72の下流側の圧力が絞り72から変位検出部61Aまでの配管長さ及び配管径による流路抵抗を考慮した回転軸21のアキシャル方向変位のみに応じた圧力損失を表すようになる。
差圧センサ73の低圧側は、第1分岐管路76aにより絞り72の下流側の配管74に接続され(第1分岐点74aに接続され)、差圧センサ73の高圧側は第2分岐管路76bにより絞り72の上流側の配管74に接続されている(第2分岐点74bに接続されている)。また、第2分岐管路76bと配管74の合流点である第2分岐点74bは、配管74によりレギュレータ83に接続されている。差圧センサ73は、レギュレータ83から供給される圧縮空気圧(第2分岐点74bの圧力)と変位検出部61Aに接続された絞り72の下流側圧力(第1分岐点74aの圧力)すなわち変位検出部61Aでの回転軸21のアキシャル方向変位に応じた圧力損失との差圧を検出し、検出した差圧検出値をアナログ値又はデジタル値として出力する。
【0071】
演算処理部PUは、例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成され、各圧力損失測定部71の差圧センサ73から出力される差圧検出値が入力される。この差圧検出値は、回転軸21に作用するアキシャル荷重に比例する。したがって、定位置予圧が負荷されている前側転がり軸受31を構成するアンギュラ玉軸受31a及び31bの軸受剛性(ばね定数)を予め測定あるいは計算して、アキシャル荷重の大きさと回転軸21の変位量に基づく差圧検出値との関係を求めて荷重算出用マップを形成し、これを演算処理部PUの記憶部に記憶しておくことにより、差圧検出値に基づいて荷重算出用マップを参照することにより、回転軸21に作用するアキシャル荷重の方向及び大きさを求めることができる。算出したアキシャル荷重の方向及び大きさは、表示器DPに出力されて表示される。
尚、荷重算出用マップを使用する代わりに荷重算出用マップの特性線の方程式を求め、求めた方程式に差圧センサ73の差圧検出値を代入することによりアキシャル荷重量を算出することもできる。
【0072】
次に、第4実施形態の軸受装置10Aの動作を説明する。
先ず、圧縮気体供給部80から差圧調整部70及び圧力損失測定部71に圧縮気体を供給し、前述したように、工作機械の軸受装置10Aの回転軸21を回転させた状態、且つ回転軸21に負荷されるアキシャル荷重が“0”である状態で、差圧調整部70の絞り72の絞り量を、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定された設定値となるように調整しておく。
そして、軸受装置10Aの回転軸21が停止している状態で、コンプレッサ81を始動することにより、圧縮気体をレギュレータ82で調圧して、図示しない前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に対する潤滑油供給系統に設定圧の圧縮気体を供給して、前側転がり軸受31及び後側転がり軸受41に対する潤滑剤の供給を開始する。
【0073】
これと同時に、又は前後してコンプレッサ81から吐出される圧縮気体をレギュレータ83で調圧して差圧調整部70及び圧力損失測定部71に供給する。
差圧調整部70に供給された圧縮気体は絞り72を介してハウジング11の圧縮気体供給通路65に入力される。圧縮気体供給通路65に入力された圧縮気体は、圧縮気体供給通路65に連結された圧縮気体供給通路64から気体接続部66で軸方向から半径方向に90度方向転換され、気体通路36eを介して圧縮気体吐出ノズル62Aに供給される。
【0074】
圧縮気体吐出ノズル62Aに供給された圧縮気体は、外輪側間座36の円周溝36dを形成する右側面と内輪側間座38の環状突条38bの右側面との間の被測定隙間gに供給される。このとき、被測定隙間gすなわち回転軸21のアキシャル方向変位が“0”の状態から大きくなると被測定隙間gが小さくなり、これに応じて圧力損失が小さくなり、逆にアキシャル方向変位が小さくなると被測定隙間gが大きくなり、これに応じて圧力損失が大きくなる。被測定隙間gは、上述したように、スピンドル回転中のハウジング11と回転軸21との温度差や遠心力の影響により、回転軸21がハウジング11に対して軸方向に相対変位することに起因して小さくなる。
【0075】
したがって、回転軸21のアキシャル方向変位が“0”である無負荷状態では、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定した設定値となり、回転軸21のアキシャル方向変位が“0”であることを表す差圧検出値が演算処理部PUに出力される。
このため、演算処理部PUでは、差圧センサ73から入力される差圧検出値に基づいて荷重算出用マップを参照することにより、アキシャル荷重量を算出する。算出された荷重量は表示器DPに出力されて表示される。この場合、アキシャル方向変位が“0”であるので、表示器DPに表示されるアキシャル荷重量は“0”となる。
【0076】
この状態から、例えば、回転軸21にドリルを装着して穴開け加工を開始すると、回転軸21にアキシャル荷重が加わることになり、このアキシャル荷重に応じたアキシャル方向変位が回転軸21に生じる。
このため、回転軸21のアキシャル方向変位に応じて変位検出部61Aの圧縮気体吐出ノズル62Aから吐出される圧縮気体にアキシャル方向変位に応じた圧力損失が生じる。この圧力損失が圧力損失測定部71の差圧センサ73で差圧検出値として検出される。
検出された差圧検出値が演算処理部PUに供給されることにより、演算処理部PUで荷重算出用マップを参照して回転軸21に負荷されたアキシャル荷重を算出する。算出されたアキシャル荷重は表示器DPに出力されて表示される。
【0077】
このように、第4実施形態によると、前側転がり軸受31の外輪側間座36及び内輪側間座38を含んで構成される軸方向の変位を検出する変位検出部61Aに圧縮気体を供給することにより、圧縮気体吐出ノズル62Aから圧縮気体が外輪側間座36の円周溝36dと内輪側間座38の環状突条38bとの間の被測定隙間gに吐出される。このため、被測定隙間gすなわち回転軸21のアキシャル方向変位に応じた圧縮気体の圧力損失が生じる。この圧力損失をハウジング11の外側に設けた圧力損失測定部71の差圧センサ73で検出し、検出した差圧検出値を演算処理部PUに供給することにより、回転軸21に負荷されるアキシャル荷重を算出することができる。
【0078】
したがって、変位検出部61Aでは所定の被測定隙間gを介して対向する外輪側間座36の円周溝36d及び内輪側間座38の環状突条38b、気体通路36e、圧縮気体供給通路64、気体接続部66及び圧縮気体吐出ノズル62Aを設けるだけの簡易な構成で回転軸21のアキシャル方向変位に応じた圧力損失を生じさせることができる。このため、変位検出部61Aに電気的に動作する部品を必要としないので、配線の引き回しや電気的絶縁を考慮する必要がない。
【0079】
また、差圧調整部70は、圧縮気体を絞り72を介して変位検出部61Aに供給し、絞り72の下流側すなわち変位検出部61A側の圧力と差圧調整部70に供給される圧縮気体の元圧との差圧を検出することで変位検出部61Aでの圧力損失を測定することができる。そして、検出した差圧検出値を演算処理部PUに入力することにより、荷重算出用マップを参照して回転軸21のアキシャル荷重を算出することができる。
このため、回転軸21を転がり軸受で回転自在に支持する場合に、簡単な構成で、圧縮気体を利用して回転軸21のアキシャル方向変位を算出したり、回転軸21に負荷されるアキシャル荷重を算出したりすることができる。
【0080】
第1実施形態の
図3~
図6で説明したように、第4実施形態でも、回転軸21から圧力損失測定部71までの距離の影響(差圧測定における影響)を抑制するために、差圧調整部70(絞り72)と圧力損失測定部71(差圧センサ73)とを分離し、差圧調整部70を回転軸21と圧力損失測定部71の間に配置し且つ差圧調整部70を回転軸21から所定距離内に設け、差圧調整部70に圧縮気体を供給している。また、差圧調整部70と圧力損失測定部71は分岐管路76a、76bで接続している。
よって、圧縮気体供給部80から供給される圧縮気体は、配管74を矢印A1で示したように第2分岐点74bに向かって流れ、第2分岐点74bから左に流れ(矢印A2)、その後、絞り72を通って第1分岐点74aを通過して、矢印A3のように回転軸21に供給される。そして、圧縮気体は被測定隙間gに供給され、回転軸21が回転していれば、被測定隙間gにおいて圧力変化が発生する(圧力が下がる)。低下した圧力の値は、第1分岐管路76aを介して差圧センサ73の低圧側に入力される。上記したように、第1分岐点74aから差圧センサ73までの第1分岐管路76aでは圧縮気体の流速が生じないので、第1分岐点74aの圧力が差圧センサ73の低圧側の値となる。また、第1分岐点74bから差圧センサ73までの第2分岐管路76bでも圧縮気体の流速が生じないので、第2分岐点74bの圧力が差圧センサ73の高圧側の値となる。
【0081】
第1実施形態と同様に、本実施形態でも、差圧調整部70を回転軸21の近傍に設置し(距離L1の所に設置し)、差圧センサ73の低圧側に入力される圧力値が第1分岐点74aの圧力値となるようにし、且つ、差圧センサ73の高圧側に入力される圧力値が第2分岐点74bの圧力値となるようにした。第1分岐点74aから差圧センサ73の低圧側に延びる第1分岐管路76aでは圧縮気体の流速がゼロなので、第1分岐点74aにおける圧力値はそのまま差圧センサ73の低圧側に入力される。回転軸21から第1分岐点74aまでの管路74において圧縮気体は管路抵抗を受けるが、差圧調整部70は回転軸21の近傍に設けられており、本実施形態では、管路抵抗を受ける管路長(距離L1)は、被測定隙間gにおける圧力損失を高精度で差圧センサ73に入力できる距離に設定されている。差圧センサ73の高圧側に入力される圧力値は、第2分岐点74bでの圧力値であり、管路76bでは圧縮気体の流速がゼロなので、圧縮気体供給部80から供給され圧縮気体の圧力値が高精度に差圧センサ73の高圧側に入力されることになる。
本実施形態において差圧調整部70と圧力損失測定部71の間の距離が大きくなった場合も、第1実施形態の
図4と同じになる。よって、圧力損失測定部71が回転軸21から遠い所に設置された場合であっても、第1分岐管路76aと第2分岐管路76bの圧縮気体の流速はゼロであるので、差圧センサ73に入力される圧力値は第1分岐管路76aの長さや第2分岐管路76bの長さに影響されない。よって、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。
【0082】
尚、第4実施形態(
図13)では、ハウジング11内に軸方向に延長する圧縮気体供給通路64及び65を形成した場合について説明したが、第4実施形態はこのような構成に限定されるものではなく、気体接続部66の気体通路66bを外周側に延長して開口させ、この開口部に差圧調整部70を接続するようにしてもよい。或いは、圧縮気体供給通路65を省略して、圧縮気体供給通路64を小外径部12aの外周面に開口させ、この開口部に差圧調整部70を接続するようにしてもよい。
また、第4実施形態では、圧縮気体吐出ノズル62Aが軸方向に延びている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、
図15(a)に示すように、圧縮気体吐出ノズル62Aを上向きに傾斜させたり、
図15(b)に示すように、圧縮気体吐出ノズル62Aを下向きに傾斜させたり、さらには、
図15(c)に示すように、圧縮気体吐出ノズル62Aを気体通路36eの中心軸回りに旋回させたりすることができる。
【0083】
また、第4実施形態では、工作機械の軸受装置10Aの回転軸21を回転させた状態、且つ回転軸21に負荷されるアキシャル荷重が“0”である状態で、差圧調整部70の絞り72の絞り量を、差圧センサ73で検出される差圧検出値が予め設定された設定値となるように調整しておく場合について説明した。しかしながら、本実施形態は、この調整に限定されるものではない。例えば、外部負荷なしで軸受装置10Aの回転軸21が停止している状態(0回転の状態)で差圧調整部70の絞り72により各圧力損失測定部71の差圧をある値に調整し、この状態を変位0として設定しておく。そして、回転軸21の回転数を変化させると、各圧力損失測定部71の差圧が回転軸21の回転数に応じて変化し、それにより変位0と設定した差圧も同量オフセットされる。そして、回転数が安定した後、上記同様の無負荷の状態で外部よりトリガ信号を与え、その時の値を改めて“0”とする。これにより、回転軸21の回転が一定であれば、違う回転数でも第4実施形態と同じように測定が可能となる。
上記したように、第1実施形態と同じように、第4実施形態においても、差圧センサ73に入力される圧力値は回転軸21から差圧センサ73までの距離に影響されない。その結果、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。よって、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
【0084】
第5実施形態
次に、本発明に係る軸受装置の第5実施形態について
図16を参照して説明する。
図16(a)は
図16(b)のE-E矢視断面図である。第5実施形態も、アキシャル方向の変位を計測する軸受装置であり、基本的な構造は第4実施形態と同じである。
第5実施形態では、前側転がり軸受への圧縮気体の影響を低減または除去する構成を採用している。第4実施形態と同様な構成(例えば、差圧調整部70、圧力損失測定部71、圧縮気体供給部80、配管74等)については、図示及び説明を省略し、第4実施形態との相違点を説明する。
【0085】
第5実施形態では、
図16(a)及び
図16(b)に示すように、外輪側間座36の円周溝36dの底面に圧縮気体を回収する気体回収溝85aが円周方向に形成されている。また、内輪側間座38の外周面と対向する外輪側間座36の内周面におけるアンギュラ玉軸受31b側の端部に圧縮気体を回収する気体回収溝85bが円周方向に形成されている。そして、
図16(a)の下側及び
図16(b)に示すように、外輪側間座36の変位検出部61Aを挟む両側位置に気体回収溝85a及び85bに連通する空洞部86が形成されている。また、小外径部12aの空洞部86に対向する位置には、空洞部86に連通して半径方向に延長する気体排出通路87aが形成され、気体排出通路87aに一端が連通し、他端が前端に開口する気体排出通路87bが形成されている。気体回収溝85a,85b、空洞部86、気体排出通路87a及び87bが圧縮気体排出路(圧縮気体排出部)となっている。気体排出通路87a及び87bは、圧縮気体を軸受装置の外部に排出するドレン部と称することができる。
【0086】
第5実施形態によると、変位検出部61Aの圧縮気体吐出ノズル62Aから外輪側間座36の円周溝36dの左側面と内輪側間座38の環状突条38bの右側面との間に形成された被測定隙間gに吐出された圧縮空気は、前後方向及び円周方向に拡がって被測定隙間gを流れることになるが、前後方向に拡がった圧縮気体は気体回収溝85a及び85bに流れ込み、気体回収溝85a及び85bを
図16(b)の円周方向に時計方向及び反時計方向に流れて空洞部86に達し、空洞部86から小外径部12aの気体排出通路87a及び87bを通じて小外径部12aの前端面から外部に排出される。
したがって、圧縮気体吐出ノズル62Aから噴射された圧縮気体が外輪側間座36及び内輪側間座38の前後位置に配置されたアンギュラ玉軸受31a及び31bの外輪33と内輪34との間に流れ込むことを防止できる。このため、アンギュラ玉軸受31a及び31bに圧縮気体が流れ込むことによる、アンギュラ玉軸受のオイルエア潤滑やオイルミスト潤滑への影響を防止できる。
【0087】
尚、第5実施形態では、変位検出部61Aの設置数を1個とした場合について説明したが、第5実施形態はこの構成に限定されず、変位検出部61Aを2個以上設置してもよい。また、外輪側間座36に形成する空洞部86及び小外径部12aに形成する気体通路87a及び87bは、隣接する変位検出部61A間の中間部に設けるようにしてもよい。この場合、空洞部86を、隣接する変位検出部61A間の中間部に形成することにより、隣接する変位検出部61Aの一方が吐出した圧縮気体が他方の変位検出部61Aに影響することを防止することができる。また、隣り合う変位検出部61Aの間に空洞部86を複数設けてもよい。
第5実施形態においても、差圧センサ73に入力される圧力値は回転軸21から差圧センサ73までの距離に影響されない。その結果、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。よって、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
【0088】
第6実施形態
次に、本発明に係る軸受装置の第6実施形態について
図17を参照して説明する。第6実施形態も、アキシャル方向の変位を計測する軸受装置であり、基本的な構造は第4実施形態と同じである。第4実施形態と同様な構成(例えば、差圧調整部70、圧力損失測定部71、圧縮気体供給部80、配管74等)については、図示及び説明を省略し、第4実施形態との相違点を説明する。
第6実施形態では、外輪側間座36の内周面と内輪側間座38の外周面との間に形成する被測定隙間gの軸方向の長さを必要最小限に設定している。より詳しくは、第6実施形態では、変位検出部61Aを、前側転がり軸受31間の間座ではなく、前側転がり軸受31に対して軸方向に隣接する位置に形成している。
すなわち、第6実施形態では、
図17に示すように、変位検出部61Aが前側転がり軸受31を構成する後側のアンギュラ玉軸受31bの後側に隣接させて配置されている。
【0089】
このため、ハウジング11の前側円筒部12の内周面に形成した軸受収納段差部12cが前側転がり軸受31を構成するアンギュラ玉軸受31bより後方側に延長されている。
変位検出部61Aは、軸受収納段差部12cの延長部に、第4実施形態及び第5実施形態における外輪側間座36と同一形状の外輪側間座96を配置し、外輪側間座96の内周面は回転軸21の外周面に設けられた内輪側間座101に対向されている。
外輪側間座96は、外輪側間座36と同様に外周側リング部96a、内周側リング部96b、凹部96c、円周溝96d、気体通路96e、圧縮気体吐出ノズル97を備えている。
【0090】
また、ハウジング11の小外径部12aの外輪側間座96に対向する位置に開口部63と同様の開口部98が形成され、開口部98内に気体接続部66と同様の気体通路99a及び99bを形成した気体接続部99が装着されている。
内輪側間座101は、円筒部101aと外輪側間座96の円周溝96d内に突出する環状突条101bとで構成される。環状突条101bの右側面と、これに対向する外輪側間座96の円周溝96dを形成する左側面との間に、被測定隙間gが形成されている。外輪側間座96に形成された圧縮気体吐出ノズル97から被測定隙間gに圧縮気体が吐出される。
【0091】
第6実施形態によると、変位検出部61A自体は第4実施形態と同様の動作を行うので、第4実施形態と同様の作用効果を発揮してアキシャル荷重を算出することができる。
また、第6実施形態においても、差圧センサ73に入力される圧力値は回転軸21から差圧センサ73までの距離に影響されない。その結果、圧力損失測定部71の設置位置により差圧センサ73の測定精度が低下することはない。よって、回転軸21と圧力損失測定部71の間の距離を自由に変化させることが可能となる。
【0092】
尚、図示していないが、第6実施形態においても、第5実施形態で説明したような圧縮気体を回収する気体回収溝及び圧縮気体を外部に排出する気体排出通路が設けられている。また、第4実施形態~第6実施形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0093】
上記した第4実施形態~第6実施形態では、工作機械の主軸装置に本発明に掛かる軸受装置10Aを適用した場合について説明したが、本発明の適用はこれに限定されるものではない。例えば、
図12に示す回転軸21の上端に回転テーブル130を配置した工作機械の回転テーブル装置131や他の工作機械にも本発明を適用できる。
尚、上記において特定の実施形態が説明されているが、当該実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定する意図はない。本明細書に記載された装置及び方法は上記した以外の形態において具現化することができる。また、本発明の範囲から離れることなく、上記した実施形態に対して適宜、省略、置換及び変更をなすこともできる。かかる省略、置換及び変更をなした形態は、請求の範囲に記載されたもの及びこれらの均等物の範疇に含まれ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0094】
10…工作機械の軸受装置(主軸装置)、11…ハウジング、21…回転軸(回転部材)、31…前側転がり軸受、31a,31b…アンギュラ玉軸受、33…外輪、34…内輪、35…玉、36…外輪側間座、38…内輪側間座、41…後側転がり軸受、51…駆動モータ、52…ステータ、53…ロータ、61…変位検出部、PU…演算処理部、62…圧縮気体吐出ノズル、g…被測定隙間、64,65…圧縮気体供給通路、66…気体接続部、70…差圧調整部、71…圧力損失測定部、72…絞り、73…差圧センサ、74,75…配管、76a…第1分岐管路、76b…第2分岐管路、77…絞り、80…圧縮気体供給部、81…コンプレッサ、82,83…レギュレータ、81a,81b…気体回収溝、86…空洞部、87a,87b…気体排出通路、96…外輪側間座、97…圧縮気体吐出ノズル、99…気体接続部、101…圧縮気体吐出ノズル、130…回転テーブル、131…工作機械の回転テーブル装置