(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066780
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電磁シールドパネルの取付構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/90 20060101AFI20240509BHJP
E04B 1/92 20060101ALI20240509BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
E04B2/90
E04B1/92
H05K9/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176465
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮一
【テーマコード(参考)】
2E001
2E002
5E321
【Fターム(参考)】
2E001DH01
2E001DH31
2E001FA04
2E001GA12
2E001GA42
2E001GA55
2E001HA03
2E001HB02
2E001MA02
2E001MA04
2E001MA15
2E002NA01
2E002NB03
2E002PA04
2E002PA07
2E002RA01
2E002RB02
2E002SA01
2E002WA03
2E002XA03
5E321AA42
5E321AA44
5E321CC16
5E321GG05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地震時に層間水平変形角が1/100に達するような建物階に設置された電磁シールドルームであっても、シールド性能を保持できる電磁シールドパネルの取付構造を提供する。
【解決手段】縦胴縁5、5が矢印方向に傾斜する時、初期状態においてシールドパネル9の縦の縁端と縦ゲージラインLとの間には隙間寸法aがあるので、シールドパネル9の上端角部P
2点が縦ゲージラインLに接触するまでは、シールドパネル9は不動のまま、縦胴縁5、5の傾斜が可能である。更に縦胴縁5、5が傾斜すると、縦ゲージラインL上に並んだ押え縁のビスが、シールドパネル9の縦縁端の上部を押すので、シールドパネル9と一体化している縦補強材7、7、…の下端部O
1点を中心として回転を起こし、シールドパネル9上端角部P
2点が上部の横ゲージラインLに接触するまで、縦胴縁5、5の傾斜が可能である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁シールドルームが設置される建物階の当該電磁シールドルームの電磁シールド壁において、
(1)電磁シールド壁を覆う電磁シールドパネルであって、左右に隣接、または左右および上下に隣接する前記電磁シールドパネルの縁端相互間に一定の隙間が確保され、前記隙間は縦胴縁および横胴縁と押え縁とで、電磁シールドガスケットを介して挟み込まれ覆われている。
(2)前記電磁シールドパネルは、補強面材に接着された金属系の導電体であって、前記縦胴縁および横胴縁で囲まれた枠の中に組み込まれた縦補強材に取付けられ一体化されている。
(3)前記縦胴縁の上下端は前記建物階の躯体に定着されており、前記縦補強材の上下端部は、前記建物階の床および天井の近傍に設置された前記横胴縁に固定された、もしくは前記床または上階床に固定されたU字状溝金物に、前記横胴縁の材軸方向および上下方向には非拘束状態で嵌め込まれており、かつ、前記縦補強材の上端上方には、前記U字状溝金物の底面との間に一定の隙間が確保されている。
以上の構成を含むことを特徴とする、電磁シールドパネルの取付構造。
【請求項2】
請求項1記載の電磁シールドパネルの取付構造において、
(1)前記電磁シールドパネルを補強する前記縦補強材の上下端部が、前記横胴縁に固定された、もしくは前記床または上階床に固定されたU字状溝金物に前記横胴縁の材軸方向および上下方向には非拘束状態で嵌め込まれており、かつ、前記縦補強材の上端上方には、前記U字状溝金物の底面との間に一定の隙間が確保されている。
(2)前記縦補強材が内部に組み込まれた縦胴縁および横胴縁から成る枠組が、少なくとも上下2段で構成されている。
以上の構成をさらに含むことを特徴とする、電磁シールドパネルの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部に設置される電磁シールドルーム(以下、シールドルームと称す。)において、地震により生じる前記建物の層間水平変形に対して、電磁シールド性能保持を可能とする電磁シールドパネル(以下、シールドパネルと称す。)の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄板等の導電体から成るシールドパネルによって室内外を電磁的に区画されるシールドルームの電磁シールド壁(以下、シールド壁と称す。)は、前記シールドルームを内包する建物が地震により層間水平変形を生じると、前記シールド壁を支える間柱(縦胴縁)の上下端が前記建物の躯体に定着されている場合、前記シールド壁を覆う前記シールドパネルも同様に水平方向に変形しようとする。
【0003】
また、シールドルームは地上2階以上の上層階にも設置される場合があり、建物上層階は地震による層間水平変形が地下階や地上1階よりも大きくなるため、前記シールド壁を覆う前記シールドパネルの水平方向変形が、より大きくなることは容易に推測される。
【0004】
地震により発生するシールドルームの大きな層間水平変形による電磁波の漏洩を防止するための技術として、例えば特許文献1記載の発明がある。特許文献1では、電波暗室のシールド壁において、上下左右に相隣接するシールド部材(シールドパネル)の縁端相互間に隙間を確保し、前記隙間を縦胴縁および横胴縁と押え縁とで、シールドガスケットを介して挟み込んで覆う接合部構造が開示されている。
【0005】
上記のように、シールドガスケットを介して縦胴縁および横胴縁と押え縁とで挟まれた前記シールド部材は、設定された前記縁端相互間の隙間の範囲で、シールド部材面内での滑り移動や回転が可能なので、地震時に電波暗室に層間水平変形が生じても、シールド部材に力が作用し難く損傷を免れることができ、かつ、地震後でもシールド壁としての機能を保持できるとしている。
【0006】
特許文献1記載の発明におけるシールド部材(シールドパネル)は、薄い鉄板等に補強板を貼付けたもので、1枚の大きさが比較的小さなパネルである。従って、大きなシールド壁を構築するためには、多数の縦胴縁および横胴縁と押え縁が必要とされるので、シールドパネルの製作および施工において、コストや工期の面で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シールドパネル製作および施工におけるコストや工期の縮減の方法としては、シールドパネル1枚当たりの寸法を大きくすることが考えられるが、1枚当たりの寸法を大きくした場合、重量が重くなるだけでなく、シールドパネル面外への曲げ変形が生じ易いという問題がある。
【0009】
また、大きくした寸法の前記シールドパネルを、シールドルームのシールド壁を支える間柱に直接取付ければ、前記間柱は上下端が建物の躯体に定着されているため建物の層間水平変形に伴って傾斜するので、シールドルーム壁面を覆う前記シールドパネルは歪みを生じることとなり、シールド性能の保持は困難になる。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決し、かつ、建物の大きな層間水平変形(例えば、1/100)が生じた場合でも、電磁シールド性能を保持できるシールドパネルの取付構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の手段は、シールドルームが設置される建物階の当該シールドルームのシールド壁において、
(1)シールド壁を覆うシールドパネルであって、左右に隣接、または左右および上下に隣接する前記シールドパネルの縁端相互間に一定の隙間が確保され、前記隙間は縦胴縁および横胴縁と押え縁とで、シールドガスケットを介して挟み込まれ覆われている。
(2)前記シールドパネルは、石膏ボード等の補強面材に接着された鉄板等金属系の導電体であって、前記縦胴縁および横胴縁で囲まれた枠の中に組み込まれた軽鉄などの縦補強材に、ビス等を用いて取付けられ一体化されている。
(3)前記縦胴縁の上下端は前記建物階の躯体に定着されており、前記縦補強材の上下端部は、前記建物階の床および天井の近傍に設置された前記横胴縁に固定された、もしくは前記床または上階床に固定されたU字状溝金物に、前記横胴縁の材軸方向および上下方向には非拘束状態で嵌め込まれており、かつ、前記縦補強材の上端上方には、前記U字状溝金物の底面との間に一定の隙間が確保されている。
以上の構成を含むことを特徴とする、シールドパネルの取付構造である。
【0012】
以上のように本発明は、シールドパネルが、前記縦胴縁および横胴縁で囲まれた枠の中に組み込まれた軽鉄などの縦補強材に取付けられ一体化されており、しかも、前記縦補強材の上下端部は、前記横胴縁に固定されたU字状溝金物に、前記横胴縁の材軸方向および上下方向には非拘束状態で嵌め込まれ、かつ、前記縦補強材の上端上方には一定の隙間が確保されているので、仕上り高さが概ね床から天井まで届く高さの大きなシールドパネルであっても、前記縦胴縁および横胴縁から成る枠が水平変形を生じた場合、相隣接する前記シールドパネルの縁端相互間に設けられている一定の隙間の範囲で、前記シールドパネルは、剛体的に回転(ロッキング)をすることができる。
【0013】
この時、前記シールドパネル縁端相互間の前記隙間は縦胴縁および横胴縁と押え縁とで、シールドガスケットを介して挟み込まれ覆われているので、シールドパネルが剛体的に回転(ロッキング)を生じても、電磁波の漏洩は前記シールドガスケットにより防止される。
【0014】
また本発明の第2の手段は、前記シールドパネルの取付構造において、
(1)前記シールドパネルを補強する前記縦補強材の上下端部が、前記横胴縁に固定されたU字状溝金物に前記横胴縁の材軸方向および上下方向には非拘束状態で嵌め込まれており、かつ、前記縦補強材の上端上方には、前記U字状溝金物の底面との間に一定の隙間が確保されている。
(2)前記縦補強材が内部に組み込まれた縦胴縁および横胴縁から成る枠組が、少なくとも上下2段で構成されている。
以上の構成をさらに含むことを特徴とする、シールドパネルの取付構造である。
【0015】
通常よりも高い階高の建物階に天井高の高いシールドルームが設置された場合、シールドパネル1枚のみでシールド壁全高を覆うとすれば、シールドパネルが長くかつ重くなるため、運搬や建て込みの面で施工性に問題が生じるが、前記本発明の第2の手段の通り、前記シールドパネルを補強する縦補強材が内部に組み込まれた縦胴縁および横胴縁から成る枠組が、少なくとも上下2段で構成されていれば、前記シールドパネルも同じく2段に分かれて、より小さな寸法となるので、前記施工性は改善される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上のような手段によるので、次のような効果が得られる。
(1)シールドパネルは、寸法が大きくなって重くなっても、シールド壁の縦胴縁および横胴縁で囲まれた枠の中に組み込まれた縦補強材に取付けられて補強されるため、パネル面外への変形は抑制される。
(2)建物の層間水平変形に伴いシールド壁が水平変形して前記縦胴縁が傾斜しても、上下端部がU字状溝金物に非拘束状態で篏合された前記縦補強材の上端上方には、一定の隙間が確保されており、かつ、相隣接する前記シールドパネルの縁端相互間に設けられている一定の隙間の範囲で、前記縦補強材と一体化した前記シールドパネルは剛体的に回転(ロッキング)が可能となっているため、この回転による変形追従効果が大きく、前記シールドパネルが歪んで損傷することは防止される。
(3)前記シールドパネル縁端相互間の前記隙間は、縦胴縁および横胴縁と押え縁とで、シールドガスケットを介して挟み込まれ覆われているので、前記シールドパネルが回転(ロッキング)しても、電磁波の漏洩を防止することができる。
(4)以上のことから、建物の大きな層間水平変形(例えば、1/100)が生じた場合でも、電磁シールド性能を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例におけるシールドルーム1のシールド壁Wを構成する骨組みを示した図であり、(a)は骨組み立面図、(b)は(a)のイ-イ断面視、(c)は(a)のロ-ロ断面視の拡大図である。
【
図2】
図1のシールド壁Wを構成する骨組みにシールドパネル9、9、…を取付けた状態を示す図であり、(a)はシールドルーム1の内側から見たシールド壁Wの立面図、(b)は(a)のイ-イ断面視、(c)は(a)のロ-ロ断面視の拡大図、(d)は(b)のA部の拡大図であって、押え縁11がビス11aにて横胴縁5に止めつけられた状態を示す。
【
図3】本発明の実施例において、層間水平変位δ
Hにより縦胴縁5、5、…に傾斜が生じ、シールドパネル9、9、…が回転して縦補強材7、7、…の下端部に寸法δ
Vの浮上りが生じた状態を示す説明図である。
【
図4】縦胴縁5、5が傾斜した場合の1枚のシールドパネル9について、どのように挙動するかを説明する模式図である。(a)は初期状態であり、(b)は、シールドパネル9は不動(変形なし)のまま、縦胴縁5、5が紙面右(矢印)方向に傾斜し、シールドパネル9の上端角部P
2点に縦のゲージラインLが接触した状態を示す。
【
図5】
図4に続く挙動の模式図であり、(c)は、
図4(b)の状態から更に縦胴縁5、5が傾斜して、シールドパネル9が押されて回転し、P
2点が上部の横ゲージラインLに接触した状態を示す。(d)は、(c)の状態から更に縦胴縁5、5が傾斜してシールドパネル9が押され、寸法aだけ横滑りして、シールドパネル9の下端角部P
1点が縦ゲージラインLに接触した状態を示す。
【
図6】縦胴縁5、5および横胴縁6、6から成り、縦補強材7、7、…が組み込まれた骨組みを2段にして、上下2枚のシールドパネル9、9で覆った場合の、シールド壁Wの部分立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例を
図1~
図3にて説明する。シールドルーム1は、
図1に図示のように、シールドされた床2と、上階床3下面の下方近傍のシールドされた天井4と、四方をシールド壁Wと、で囲まれている。シールド壁Wは、
図1(a)~(c)に図示のように、間柱を兼ねた縦胴縁5、5、…と、床2近傍に水平に配設された横胴縁6、6、…および天井4の下方近傍に水平に配設された上下2列の横胴縁6、6、…とで囲まれた枠の内部、および、縦胴縁5、5、…と、床2近傍の横胴縁6、6、…および床2とで囲まれた枠の内部に、それぞれ縦補強材7、7、…が立てられて組み込まれている。
【0019】
横胴縁6、6、…は、縦胴縁5、5、…に取付け金物5a、5a、…にて取付けられており、また、縦補強材7、7、…の上下端部は、U字状断面をした薄板から成るU字状金物8、8、…に、横胴縁6、6、…の材軸方向および上下方向には非拘束状態で篏合されており、かつ、縦補強材7、7、…の上端上方には、U字状金物8、8、…の底面との間に一定の隙間寸法Cが確保されている。U字状金物8、8、…は、
図1に図示のように、横胴縁6、6、…または床2に固定され、図示しないが、上階床3に固定される場合もありうる。
【0020】
上記のような骨組みに、
図2(a)~(d)に図示のように、シールドルーム1の室内側から、シールドパネル9、9、…を次の手順で取付ける。先ず、シールド鉄板9a、9a、…を補強する補強板(石膏ボード、合板等)9b、9b、…が、所定間隔のビス7a、7a、…にてビス止めされる。
【0021】
次に、
図2(c)、(d)を参照して、シールド鉄板9a、9a、…を補強板9b、9b、…に接着剤にて貼り付ける。この時、シールド鉄板9aは、隣接するシールド鉄板9aとの間に一定の隙間が確保されるように寸法決定され、前記隙間が縦胴縁5、5、…および横胴縁6、6、…の中央付近に位置するように配置される。
【0022】
上記のように配置されたシールド鉄板9a、9a、…の縁端部は、
図2(b)に図示のようにシールドガスケット10、10、…を介して、前記隙間を跨いで一定幅でシールド鉄板9a、9a、…と重なる幅を有する押え縁11、11、…で塞がれ、
図2(d)に図示のように所定間隔のビス11a、11a、…にてビス止めされる。ビス11a、11a、…は、前記隙間の中央線をゲージラインL、L、…(
図4、5参照)とする。
【0023】
以上のような構成から成るシールド壁Wであるので、シールドルーム1が設置されている建物階が、
図3に図示の水平矢印方向に層間水平変位δ
Hを生じた場合、シールドパネル9、9、…は円弧矢印の方向に回転し、各シールドパネル9の縦補強材7の下端部に寸法δ
Vの浮上りが生じる。その時のシールドパネル9の挙動は、以下のように説明できる。
【0024】
図4、5を参照して説明する。
図4、5は、縦胴縁5、5が傾斜した場合の1枚のシールドパネル9について、どのように挙動するかを模式的に表現したものであり、
図4(a)、(b)、
図5(c)、(d)の図中に表示された一点鎖線は、シールドパネル9の周縁を押える押え縁11、11、…を縦胴縁5、5、…および横胴縁6、6に止付けているビス11a、11a、…の、縦もしくは横ゲージラインLを示す。即ち、シールドパネル9の周縁がこれらビス11a、11a、…の縦もしくは横ゲージラインLに接触するまでは、シールドパネル9は横滑りや回転が可能である。
【0025】
図4(a)の初期状態から、
図4(b)に図示のように、縦胴縁5、5が紙面右(矢印)方向に傾斜すると、初期状態においてシールドパネル9の縦縁端と縦ゲージラインLとの間には隙間aがあるので、シールドパネル9と縦胴縁5、5との間の摩擦抵抗を無視すれば、シールドパネル9の上端角部P
2点が縦ゲージラインLに接触するまでは、シールドパネル9は不動(変形なし)のまま、縦胴縁5、5の傾斜が可能である。
【0026】
この時の縦胴縁5、5の傾斜角R(層間水平変形角に相当)=R1は、R1=a/(H-b)で表される。但し、aはシールドパネル9の縦縁端と縦ゲージラインLとの隙間寸法、bはシールドパネル9の上縁端と上部の横ゲージラインLとの隙間寸法であり、Hはシールド床面2から上部の横ゲージラインLまでの高さである。
【0027】
図4(b)の状態から更に縦胴縁5、5が傾斜すると、縦ゲージラインL上に並んだ押え縁11、11のビス11a、11a…が、シールドパネル9の縦縁端の上部を押すので、
図5(c)に図示のように、シールドパネル9と一体化している縦補強材7、7、…の内、最外端に位置する縦補強材7の下端O
1点を中心として回転を起こすが、シールドパネル9上端角部P
2点が上部の横ゲージラインLに接触するまで、縦胴縁5、5の傾斜が可能である。
【0028】
ここで、シールドパネル9の上縁端と上部の横ゲージラインLとの隙間寸法をb、縦補強材7の下端O
1点の対角にある上端O
2点の上部隙間寸法をcとし、縦補強材7、7、…の高さをh、初期状態(
図4(a))における縦補強材7、7、…の下端から床2までの寸法をh
0、両端にある縦補強材7、7の間隔をs
1とすると、シールドパネル9の回転によるO
2点の水平変位Δは、Δ=c・h/s
1となるので、縦胴縁5、5は水平に少なくともΔだけ更に傾斜可能である。よって、
図5(c)の状態における縦胴縁5、5の傾斜角R
2は、R
2=R
1+Δ/(h
0+h)=a/(H-b)+c・h/s
1/(h
0+h)となる。
【0029】
但し、P2点が上部の横ゲージラインLに接触するまでの距離bよりも、縦胴縁5のO2点の上部隙間寸法cがある程度大きくないと、シールドパネル9の回転は、隙間寸法cで限界付けられることに注意を要する。即ち、シールドパネル9の回転によるP2点の上方への変位は、O2点の上方への変位が隙間寸法cと一致した時、概ねc・s2/s1で表せるので、b≦c・s2/s1 がシールドパネル9の回転が隙間寸法cで限界付けられないための条件となる。
【0030】
次に、
図5(c)の状態から更に縦胴縁5、5が傾斜すると、
図5(d)に図示のように、縦ゲージラインL上に並んだ押え縁11、11のビス11a、11a…がシールドパネル9を押すことにより、シールドパネル9の下端角部P
1点が縦ゲージラインLに接触するまでシールドパネル9は概ね隙間寸法aだけ横滑り可能なので、横滑りによる縦胴縁5、5の傾斜を加算すれば、
図5(d)の状態における縦胴縁5、5の傾斜角R
3は、R
3=R
1+R
2+a/H=a/(H-b)+c・h/s
1/(h
0+h)+a/Hとなる。
【0031】
具体例として、a=b=c=1cm、H=350cm、h=300cm、h0=30cm、s1=100cm、s2=115cmの時、条件b≦c・s2/s1=1.15cmを満たすので、R3≒2.865×10-3+9.091×10-3+2.857×10-3=14.813×10-3≒1/68>1/100となる。
【0032】
また、シールドパネル9の横滑りを考慮しない(a/H=0)としても、R2≒2.865×10-3+9.091×10-3=11.956×10-3≒1/84>1/100であることから、シールドパネル9の回転(ロッキング)による効果が大きいことが分かる。
【0033】
即ち、縦胴縁5、5の傾斜角R=R1~R3はそれぞれ層間水平変形角に相当するので、本発明によるシールドパネルの取付構造は、建物の層間水平変形角1/100に対しても、シールドパネルが損傷することなく変形追従が可能であると言える。
【0034】
図4、5による上記の説明では、縦胴縁5、5の可能な傾斜角を分かり易く説明するために、縦胴縁5、5および横胴縁6、6とシールドパネル9との摩擦抵抗は無視した。実際には、シールドパネル9の周縁部は、シールドガスケット10、10、…を介して、縦胴縁5、5および横胴縁6、6と押え縁11、11、…とが複数のビス11a、11a、…にて綴られているので、
図4(b)、
図5(c)~(d)に図示の状態が明確に順番通り生じるものではないが、ここでは、縦胴縁5、5の傾斜とシールドパネル9の挙動との関係を分かり易く説明するために単純化している。
【0035】
以上のことから、本発明のシールドパネルの取付構造は、建物の層間水平変形角が1/100に達しても、シールドパネルが剛体的に回転することを可能とするので、地震時に変形することなく損傷を免れる。また、相隣接するシールドパネルの縁端同士の隙間は、シールドガスケットを介して縦胴縁および横胴縁と押え縁とを複数のビスにて綴られているため、前記ビスの抜けや破断が起きなければ、電磁波の漏洩が防止されるので、地震後にもシールド壁としての性能は保持される。
【0036】
また、通常よりも高い階高の建物階に天井高の高いシールドルーム1が設置された場合、1枚のシールドパネル9、9、…のみでシールド壁W全高を覆うとすれば、1枚のシールドパネル9が長くかつ重くなるため、運搬や建て込みの面で施工性に問題が生じるが、
図6に図示のように、シールドパネル9を補強する縦補強材7、7、…が内部に組み込まれた縦胴縁5および横胴縁6から成る枠組が、少なくとも上下2段で構成されていれば、シールドパネル9も同じく2段に分かれるので小さな寸法となり、前記施工性の問題は改善される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
建物上層階は地震による層間水平変形が地下階や地上1階以上に大きくなるが、そのような地上2階以上の上層階にシールドルームが設置される場合、前記シールドルームの壁面を覆うシールドパネルには、大きな水平変形への追従性能が求められるが、従来技術では不十分であった。本発明は、層間水平変形角が1/100に達するような場合でも、シールド性能を保持できるシールドパネルの取付構造を提供するので、中高層建物内に設置されるシールドルームの性能要求に十分答えることができる。
【符号の説明】
【0038】
1:シールドルーム
2:床
3:上階床
4:天井
5:縦胴縁
5a:取付け金物
6:横胴縁
7:縦補強材(軽鉄)
8:U字状溝金物
9:シールドパネル
9a:シールド鉄板
9b:補強板
10:シールドガスケット
11:押え縁
11a:ビス
a、b:ビスのゲージラインまでの隙間寸法
c:縦補強材(軽鉄)上端上方の隙間寸法
H、h、h0:高さ方向の寸法
L:ビスのゲージライン
O1:縦補強材(軽鉄)の下端点
O2:縦補強材(軽鉄)の上端点
P1、P2:シールドパネルの角部
W:シールド壁
s1、s2:縦補強材(軽鉄)の下端O1点からの水平寸法
R、R1、R2、R3:縦胴縁の傾斜角(層間水平変形角)
δH:層間水平変位
δV:縦補強材(軽鉄)下端部の浮上り寸法
Δ:縦補強材(軽鉄)O2点の水平変位