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  • 特開-ポリアミド樹脂組成物及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006679
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240110BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240110BHJP
   C08K 9/08 20060101ALI20240110BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20240110BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/14
C08K9/08
C08L77/02
C08L77/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107803
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】小山 晃正
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB276
4J002FD016
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性および耐久性、とりわけ耐振動疲労特性に非常に優れたポリアミド樹脂組成物及びその成形体の提供。
【解決手段】100質量部の(A)ポリアミド樹脂と、5質量部以上200質量部以下の(B)ガラス繊維と、を含むポリアミド樹脂組成物であって、前記(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、熱重量分析(TGA)により得た強熱減量曲線において、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、320℃以上の温度において最大となる、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部の(A)ポリアミド樹脂と、5質量部以上200質量部以下の(B)ガラス繊維と、を含むポリアミド樹脂組成物であって、
前記(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、熱重量分析(TGA)により得た強熱減量曲線において、
強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、320℃以上の温度において最大となる、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
下記条件により得られる強熱減量が0.16質量%以上である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
(条件)
工程(1)~(4)の処理を実施し、(D)残渣を得る。
(1)請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の成形体を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、60℃で1時間加熱して溶解させる。
(2)(1)で得た溶液の上澄み溶液を除去し、得られた残渣を、HFIPとクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、再び60℃で30分加熱し、上澄み溶液を除去する。
(3)前記工程(2)を計3回実施し、溶媒を含んだ残渣を得る。
(4)前記溶媒を含んだ残渣を、真空乾燥により30℃にて5時間乾燥させることで(D)残渣を得る。
得られた(D)残渣を、下記工程(a)~(e)を満たす条件で熱重量分析(TGA)し、強熱減量を算出する。
工程(a)昇温速度30℃/分にて105℃に昇温する。
工程(b)105℃で30分保持する。
工程(c)昇温速度30℃/分にて625℃に昇温する。
工程(d)625℃で30分保持する。
工程(e)前記工程(b)の終了後の質量から前記工程(d)の終了後の質量を差し引いた値を、測定に用いた(D)残渣の質量で除し、100倍した値(質量%)を強熱減量とする。
【請求項3】
下記試験により得られるシャルピー衝撃強度が7MPa以上である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
(試験)
ISO179-1に準拠し、各例に対応する成形片(ノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定する。
【請求項4】
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6I、及びポリアミドMXD6、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物の粘度数は、50mg/mL以上160mg/mL以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維で強化されたポリアミド樹脂は、強度、耐熱性、耐薬品性、比重などに優れるため、近年、金属代替材料として、自動車の機構部品等に使用されている。特に、エンジン周辺の部材には、高温環境下での強度、振動疲労特性などが要求されることから、強化ポリアミド樹脂組成物が適しており、種々のポリアミド樹脂のガラス繊維強化組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、金属代替材料による自動車部品の軽量化が進むにつれ、近年、そのような部品への性能の要求の高度化が進んでいる。とりわけ、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂は自動車の構造部材に適用されるため、長期信頼性が求められている。特にエンジン周辺部品への適用に際し、耐振動疲労特性の向上の要求が高まっている。
【0004】
これらの要求に応えるため、例えば、エチレン系アイオノマー樹脂を含有するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
一方で、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を含む共重合体を、耐衝撃改良剤として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4は、エチレン/エチルアクリレート/無水マレイン酸三元共重合体を含有するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を開示している。
【0006】
また、溶着した際の溶着部の強度向上を目的とした、ポリ無水マレイン酸を含有するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
また、リサイクルナイロンの物性向上を目的として、無水マレイン酸およびオレフィンから重合されるポリマーを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【0008】
さらに、耐久性、とりわけ耐振動疲労特性に優れたポリアミド樹脂組成物を得るために、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を含んだ共重合体を添加するものが開示さている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-319505号公報
【特許文献2】特開2010-269995号公報
【特許文献3】特開2007-112877号公報
【特許文献4】特開平10-67931号公報
【特許文献5】特開平10-204286号公報
【特許文献6】特表2014-503003号公報
【特許文献7】特開2015-3983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~7に記載の技術では、高い水準で要求されている耐振動疲労特性を発揮するポリアミド樹脂組成物を得ることができていない。さらには、耐振動疲労特性とトレードオフである耐衝撃性を同時に達成することはできない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、耐衝撃性および耐久性、とりわけ耐振動疲労特性に非常に優れたポリアミド樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]100質量部の(A)ポリアミド樹脂と、5質量部以上200質量部以下の(B)ガラス繊維と、を含むポリアミド樹脂組成物であって、前記(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、熱重量分析(TGA)により得た強熱減量曲線において、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、320℃以上の温度において最大となる、ポリアミド樹脂組成物。
[2]下記条件により得られる強熱減率が0.16質量%以上である、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
(条件)
工程(1)~(4)の処理を実施し、(D)残渣を得る。
(1)請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の成形体を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、60℃で1時間加熱して溶解させる。
(2)(1)で得た溶液の上澄み溶液を除去し、得られた残渣を、HFIPとクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、再び60℃で30分加熱し、上澄み溶液を除去する。
(3)前記工程(2)を計3回実施し、溶媒を含んだ残渣を得る。
(4)前記溶媒を含んだ残渣を、真空乾燥により30℃にて5時間乾燥させることで(D)残渣を得る。
得られた(D)残渣を、下記工程(a)~(e)を満たす条件で熱重量分析(TGA)し、強熱減量を算出する。
工程(a)昇温速度30℃/分にて105℃に昇温する。
工程(b)105℃で30分保持する。
工程(c)昇温速度30℃/分にて625℃に昇温する。
工程(d)625℃で30分保持する。
工程(e)前記工程(b)の終了後の質量から前記工程(d)の終了後の質量を差し引いた値を、測定に用いた(D)残渣の質量で除し、100倍した値(質量%)を強熱減量とする。
[3]下記試験により得られるシャルピー衝撃強度が9MPa以上である、[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
(試験)
ISO179-1に準拠し、各例に対応する成形片(ノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定する。
[4]前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6I、及びポリアミドMXD6、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]前記ポリアミド樹脂組成物の粘度数は、5mg/mL以上145mg/mL以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械強度の耐衝撃強度や耐久性、とりわけ耐振動疲労特性に非常に優れたポリアミド樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ガラス繊維の集束剤のTGAの強熱減量曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
<ポリアミド樹脂組成物>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と略記する場合がある)は、100質量部の(A)ポリアミド樹脂と、5質量部以上200質量部以下の(B)ガラス繊維と、を含む。
本実施形態において、(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、熱重量分析(TGA)により得た強熱減量曲線において、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、320℃以上の温度において最大となる。
後述する方法により得られる強熱減量曲線上の任意の座標は、温度をx座標とし、強熱減量率をy座標とする。強熱減量率Yは、強熱減量曲線上の任意のy座標の値である。
このように所望の材料で構成されているため、本実施形態の樹脂組成物は、非常に優れた耐衝撃強度や耐久性、とりわけ耐振動疲労特性を発揮することができる。
【0017】
また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、下記条件により得られる強熱減量率が0.16質量%以上である。
(条件)
工程(1)~(4)の処理を実施し、(D)残渣を得る。
(1)ポリアミド樹脂組成物の成形体を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、60℃で1時間加熱して溶解させる。
(2)(1)で得た溶液の上澄み溶液を除去し、得られた残渣を、HFIPとクロロホルムとの1/1(体積比)混合溶媒に入れ、再び60℃で30分加熱し、上澄み溶液を除去する。
(3)前記工程(2)を計3回実施し、溶媒を含んだ残渣を得る。
(4)前記溶媒を含んだ残渣を、真空乾燥により30℃にて5時間乾燥させることで(D)残渣を得る。
得られた(D)残渣を、下記工程(a)~(e)を満たす条件で熱重量分析(TGA)し、強熱減量を算出する。
工程(a)昇温速度30℃/分にて105℃に昇温する。
工程(b)105℃で30分保持する。
工程(c)昇温速度30℃/分にて625℃に昇温する。
工程(d)625℃で30分保持する。
工程(e)前記工程(b)の終了後の質量から前記工程(d)の終了後の質量を差し引いた値を、測定に用いた(D)残渣の質量で除し、100倍した値(質量%)を強熱減量とする。
【0018】
(D)残渣を得る工程を説明する。
具体的には、ポリアミド樹脂組成物の成形体400mgを、HFIP25mLとクロロホルム25mLの混合溶媒に入れ、60℃で1時間加熱する。この上澄み溶液の95%以上を除去し、得られた残渣を、HFIP5mLとクロロホルム5mLの混合溶媒に入れ、再び60℃で30分加熱し、上澄み溶液の95%以上を除去する(洗浄工程)。この洗浄工程を計3回実施し、溶媒を含んだ残渣を得る。これを、真空乾燥により30℃、5時間乾燥させることで(D)残渣を得る。
【0019】
(D)残渣の強熱減量は、熱重量分析(TGA)して算出する。装置としては、例えば、島津製作所(株)社製のGA-50が挙げられる。強熱減量の算出方法は、サンプル30~50mgを用い、条件(a)~(d)に示す、温度プロファイルでの加熱を実施する。
【0020】
強熱減量(質量%)は、前記(b)の後の質量から、前記(d)の後の質量を差し引いたものを、測定に用いた(D)残渣の質量で除したものを100倍したものである。
なお、(D)残渣の強熱減量は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)ガラス繊維の混練押出後のペレットを用いても同等の結果が得られるため、ペレットまたは成形体のいずれかを選ぶことができる。
【0021】
一例として、後述の実施例1の場合を用いて具体的に説明する。
一例として3.87mgの(D)残渣を用い、上述の(a)~(d)を実施する。その際の重量は、(b)の後においては33.84mg、(d)の後においては33.75mgである。このことから、強熱減量(質量%)は、以下の式より、0.27質量%と求めることができる。
【0022】
強熱減量率(質量%)=(33.84-33.75)/33.84×100=0.27
【0023】
100質量部の(A)ポリアミド樹脂に対する、(B)ガラス繊維の含有量は、5質量部以上200質量部以下であり、20質量部以上175質量部以下が好ましく、50質量部以上150質量部以下がより好ましい。
【0024】
100質量部の(A)ポリアミド樹脂に対する、(B)ガラス繊維の含有量は、ポリアミド樹脂組成物のペレットを、650℃の電気炉にて2時間加熱して焼却処理し、その残渣分の質量を焼却前のポリアミド樹脂組成物のペレットの質量で除することによって、測定することができる。
【0025】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、下記試験により得られるシャルピー衝撃強度が7MPa以上であることが好ましく、8MPa以上がより好ましく、9MPa以上がさらに好ましい。
(試験)
ISO179-1に準拠し、各例に対応する成形片(ノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定する。
【0026】
ISO 307に準拠して質量分率が96%の硫酸で測定したポリアミド樹脂組成物の粘度数(VN)は50mg/mL以上160mg/mL以下であり、55mg/mL以上155mg/mL以下が好ましく、60mg/mL以上150mg/mL以下がより好ましい。
粘度数が上記範囲内であることで、射出成形時の流動性、並びに、成形体としたときの機械的強度に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
粘度数は、後述する実施例に示す方法を用いて測定することができる。
【0027】
以下、本実施形態に係るポリアミド樹脂の各構成要素について詳細に説明する。
【0028】
[(A)ポリアミド樹脂]
本明細書において、「ポリアミド樹脂」とは、主鎖に「-CO-NH-」(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物に用いられる(A)ポリアミド樹脂としては、以下特に限定されないが、例えば、(a)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド樹脂;(b)ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド樹脂;(c)ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂;並びにこれらの共重合物等が挙げられる。(A)ポリアミド樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
以下、(A)ポリアミド樹脂の各種原料について説明する。
【0029】
上記(a)ポリアミド樹脂の原料となるラクタムとしては、特に限定されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ドデカラクタム等が挙げられる。
【0030】
上記(b)ポリアミド樹脂の原料となるω-アミノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸等が挙げられる。なお、上記(a)ポリアミド樹脂又は上記(b)ポリアミド樹脂は、それぞれ2種類以上のラクタム又はω-アミノカルボン酸を併用して縮合させたものであってもよい。
【0031】
上記(c)ポリアミド樹脂の原料となるジアミン(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐鎖状の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0032】
上記(c)ポリアミド樹脂の原料となるジカルボン酸(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。上記した単量体としてのジアミン及びジカルボン酸は、それぞれ1種単独又は2種以上組み合わせて縮合させてもよい。
【0033】
(A)ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド1010(ポリデカメチレンセバカミド)、ポリアミド1012(ポリデカメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミド等が挙げられる。
【0034】
また、共重合ポリアミドとしては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド66及びポリアミド6Tの共重合物、ポリアミド66及びポリアミド6Iの共重合物、ポリアミド6T及びポリアミド6Iの共重合物等が挙げられる。
【0035】
上記で列挙したポリアミドの中でも、(A)ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミドMXD6、及びこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。このような(A)ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形体の機械的強度及び熱時剛性がより優れる傾向にある。
【0036】
ポリアミド樹脂の末端基には、一般に、アミノ基又はカルボキシ基が存在する。特に限定されないが、(A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基量とカルボキシ末端基量との総量に対するアミノ末端基量の比[アミノ末端基量/(アミノ末端基量+カルボキシ末端基量)]は、0.3以上1.0未満が好ましく、0.3以上0.8以下がより好ましく、0.3以上0.6以下がさらに好ましい。末端基量の比が上記範囲内であることにより、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の、色調、機械的強度、及び耐振動疲労特性がより優れる傾向にある。
【0037】
(A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基量は、10μmol/g以上100μmol/g以下が好ましく、15μmol/g以上80μmol/g以下がより好ましく、30μmol/g以上80μmol/gμmol/g以下がさらに好ましい。アミノ末端基量が上記範囲内であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度がより優れる傾向にある。
【0038】
ここで、本明細書におけるアミノ末端基量及びカルボキシ末端基量の測定方法としては、例えば、H-NMR法、滴定法等が挙げられる。H-NMR法においては、各末端基に対応した特性シグナルの積分値によって求めることができる。滴定法においては、アミノ末端基については、例えば、ポリアミド樹脂のフェノール溶液を0.1N塩酸で滴定する方法、カルボキシ末端基については、例えば、ポリアミド樹脂のベンジルアルコール溶液を0.1N水酸化ナトリウムで滴定する方法等が挙げられる。
【0039】
ポリアミド樹脂の末端基の濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。調整方法としては、特に限定されないが、例えば、末端調整剤を用いる方法が挙げられる。具体例として、ポリアミドの重合時に所定の末端濃度となる割合で、モノアミン化合物、ジアミン化合物、モノカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物からなる群より選択される1種以上の末端調整剤を添加することが挙げられる。末端調整剤の溶媒への添加時期については、末端調整剤として本来の機能を果たす限り特に限定されず、例えば、上記したポリアミドの原料を溶媒に添加する際があり得る。
【0040】
上記モノアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン、並びにこれらの任意の混合物等が挙げられる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性や価格等の観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン又はアニリンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記ジアミン化合物は、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐鎖状の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記モノカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらのカルボン酸化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記ジカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(A)ポリアミド樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して29.9質量%以上99.9質量%以下が好ましく、29.9質量%以上84質量%以下がより好ましく、34.9質量%以上74質量%以下がさらに好ましく、39.9質量%以上73質量%以下が特に好ましい。
【0045】
[(B)ガラス繊維]
(B)ガラス繊維は、断面が円形状であってもよく、偏平状(楕円状、繭型形状等)であってもよいが、低反り性の観点から、偏平状が好ましい。
【0046】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、100質量部の(A)ポリアミド樹脂に対し、5質量部以上200質量部以下の(B)ガラス繊維を含有する。そのため、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、優れた機械特性、特に耐衝撃性や耐久性を発揮することができる。なお、上記(B)ガラス繊維としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂補強用ガラスロービングや熱可塑性樹脂補強用ガラスチョップドストランド等の形態で使用することができる。
【0047】
本実施形態において、(B)ガラス繊維としては、特に限定されないが、平均繊維径が5μm以上30μm以下であることが好ましい。この場合、強度及び成形性においてさらに優れたポリアミド樹脂組成物を得られる傾向にある。また、ガラス繊維の平均繊維長についても特に限定されるものではないが、チョップドストランドの形態を採用する場合、0.1mm以上6mm以下の範囲で適宜選択することができる。
【0048】
ガラス繊維の具体的な組成としては、以下に限定されるものではないが、例えば、Eガラス(無アルカリガラス)組成、Cガラス(含アルカリガラス)組成、Sガラス(強化ガラス)組成、耐アルカリガラス組成等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易である観点から、Eガラスが好ましい。
【0049】
(B)ガラス繊維は、集束剤を有し、さらに表面処理剤を有していてもよい。
(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、熱重量分析(TGA)により得た強熱減量曲線において、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、320℃以上の温度において最大となる。
【0050】
(B)ガラス繊維に含まれる集束剤の強熱減量曲線は、以下の方法により取得する。
熱重量分析(TGA)装置を使用し、集束剤を含むガラス繊維の熱減量率を求め、ガラス繊維に対する集束剤の付着量を測定する。
TGA装置はTGA-50(島津製作所(株)製)が使用できる。
温度条件は、30℃から550℃まで20℃/minで昇温後、550℃で1時間保持する条件とする。
【0051】
上記の測定により、縦軸が熱減量率、横軸が温度となる強熱減量曲線が得られる。
本実施形態に用いる(B)ガラス繊維に含まれる集束剤は、上記強熱減量曲線において、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差を演算したとき、その絶対値は320℃以上の温度において最大となる。なおnは整数である。強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が最大となる範囲の上限値は、例えば500℃以下である。
【0052】
とYn+0.01とが上記の要件を満たす集束剤を含むガラス繊維は、320℃未満の温度範囲において急激な熱分解が生じにくい。このようなガラス繊維は、押出機の設定温度であるポリアミド樹脂の融点より20℃程度高い温度(約280℃)付近において、ポリアミド樹脂と反応しやすく、界面強度が強くなりやすい。
【0053】
ガラス繊維は、表面に集束剤が塗布されていてもよく、集束剤及び表面処理剤が塗布されていてもよい。表面処理剤や集束剤を有する(B)ガラス繊維は、加工性、特に解繊性により優れる。
【0054】
(B)ガラス繊維の表面処理剤としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤を使用することが好適である。上記シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類が挙げられる。この中でも、アミノシラン類が好ましい。なお、表面処理剤は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(B)ガラス繊維の集束剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、前記ホモポリマー又は前記コポリマーと第1級、第2級又は第3級アミンとの塩、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。この中でも、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、又はこれらの組み合わせが好ましく、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体、ポリウレタン樹脂、又はこれらの組み合わせがより好ましい。このような集束剤を用いることにより、樹脂組成物の機械的強度がより向上する傾向にある。
【0056】
上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。この中でも無水マレイン酸が好ましい。
【0057】
上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とは、上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とは異なる不飽和ビニル単量体を意味する。このような不飽和ビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3-ジクロロブタジエン、1,3-ペンタジエン、シクロオクタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。この中でもスチレン又はブタジエンが好ましい。
【0058】
好ましい、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸とブタジエンとの共重合体、無水マレイン酸とエチレンとの共重合体、無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0059】
また、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、当該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体の重量平均分子量の下限値は、2,000が好ましく、5,000がより好ましい。また、重量平均分子量の上限値は、1,000,000が好ましく、500,000がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0060】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、少なくとも2つ以上のグリシジル基を有するものを用いるのが好ましく、中でもビスフェノールとエピハロヒドリンとを反応させることによって得られるエポキシ樹脂がより好ましい。エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル当量は、180g/モル当量以上が好ましく、450g/モル当量以上1900g/モル当量以下がより好ましい。エポキシ当量が上記範囲内であることにより、(B)ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。
【0061】
ポリウレタン樹脂としては、(B)ガラス繊維の集束剤として一般的に用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、m-キシリレンジイソシアナート(XDI)、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)等のイソシアネートと、ポリエステル系又はポリエーテル系のジオールとから合成されるものが挙げられる。
【0062】
上記アクリル酸のホモポリマーの重量平均分子量は、1,000以上90,000以下が好ましく、1,000以上25,000以下がより好ましく、1,000以上25,000以下がさらに好ましい。なお、重量平均分子量はGPCを用いた定法により測定することができる。
【0063】
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーを構成する上記アクリル酸と共重合体を形成するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、水酸基及びカルボキシ基のうち少なくともいずれかを有するモノマーが挙げられる。このような水酸基及びカルボキシ基のうち少なくともいずれかを有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。上記したモノマーのうちエステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
【0064】
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーのうち少なくともいずれかのポリマーと塩を形成し得る第1級、第2級又は第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、グリシン等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20%以上90%以下が好ましく、30%以上80%以下がより好ましく、40%以上60%以下がさらに好ましい。
【0065】
第1級、第2級又は第3級アミンと塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000以上50,000以下の範囲が好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。また、重量平均分子量が上記上限値以下であることにより、樹脂組成物の機械的特性がより向上する傾向にある。
【0066】
(B)ガラス繊維を、表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを用いて処理する際には潤滑剤を使用することが好ましい。潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば、適宜目的に応じた通常の液体又は固体の任意の滑剤材料が使用可能である。このような潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば、カルナウバワックス、ラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル又は脂肪酸エーテル;芳香族系エステル又は芳香族系エーテル等の界面活性剤が挙げられる。
【0067】
((B)ガラス繊維の製造方法)
(B)ガラス繊維は、上記の表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、ガラス繊維に塗布(付与)して製造した繊維ストランドを乾燥することによって連続的に反応させて得られる。
【0068】
なお、(B)ガラス繊維の状態としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、また、切断工程をさらに経て、チョップドストランドとして使用してもよい。なお、ストランドの乾燥は切断工程後に行っても、切断工程前に行なってもよい。
【0069】
上記表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量は、(B)ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として、0.2質量%以上3質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量が上記下限値以上であることにより、ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。一方、表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量が上記上限値以下であることにより、樹脂組成物の熱安定性がより向上する傾向にある。
【0070】
ガラス繊維は、1種単独で用いてもよく、断面形状や平均断面積、ガラス組成、表面処理剤、集束剤等が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
また、ガラス繊維は、ロービング状で使用してもよく、例えば長さ2mm以上5mm以下程度に切断されたチョップドストランドで使用してもよい。
【0072】
本実施形態において、機械物性、特に、耐衝撃性、耐振動疲労特性をより向上させる観点から、モノマー成分である不純物が無い方がよりガラス界面との密着性が上がる。
【0073】
[(E)その他成分]
本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)ポリアミド樹脂及び上記(B)ガラス繊維に加えて、(E)その他の成分を更に含んでもよい。
【0074】
(E)その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤、紫外線吸収剤、光劣化防止剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤、着色剤、染色剤、顔料、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0075】
ここで、上記した(E)その他の成分はそれぞれ性質が大きく異なるため、各成分についての、好ましい含有率は様々である。そして、当業者であれば、上記した(E)その他の成分ごとの好適な含有率は容易に設定可能である。
【0076】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本実施形態において、ポリアミド樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、(A)ポリアミド樹脂、(B)ガラス繊維と、所望のその他の成分とを混合し、所定の単軸又は多軸押出機を用いて混練する方法を挙げることができる。
【0077】
具体的には、(B)ガラス繊維としてガラスチョップドストランドを用いる場合、上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口から熱可塑性樹脂を供給して溶融させた後、下流側供給口からガラスチョップドストランドを供給して溶融混練する方法を用いることが好ましい。また、ガラスロービングを用いる場合も、公知の方法で複合することができる。
【0078】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上記の実施形態に係るポリアミド樹脂組成物を含むものである。特に限定されないが、例えば、上述した実施形態に係るポリアミド樹脂組成物の射出成形による各種部品の成形体とすることができる。そして、本実施形態における上記成形体は、特に限定されないが、例えば、自動車用、機械工業用、電気・電子用、産業資材用、工業材料用、日用・家庭品用等の各種部品に適用することができる。
【0079】
自動車用部品としては、例えば、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、スロットルボディ、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、デリバリーパイプ等の自動車エンジンルームの部品等が挙げられる。
すなわち、本実施形態における成形体は、上記各種部品に優れた機械強度、特に耐衝撃性、耐振動疲労特性を付与することができる。
【0080】
成形方法としては、例えば、特に限定されないが、例えば、射出成形、ブロー成形、シート成形が挙げられる。
【実施例0081】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例及び比較例のみに制限されるものではない。
まず、実施例及び比較例で用いた原料、測定方法及び評価方法を以下に示す。
【0082】
<原料>
[(A)ポリアミド樹脂]
(A-1)ポリアミド66(以下、「A-1」と略記する場合がある)
粘度数(VN):134ml/kg、アミノ末端基:51mmol/kg、カルボキシ末端基:97mmol/kg
(A-2)ポリアミド6I(以下、「A-2」と略記する場合がある)
粘度数(VN):6ml/kg、アミノ末端基:57mmol/kg、カルボキシ末端基:213mmol/kg
(A-3)ポリアミド66/6I(以下、「A-3」と略記する場合がある)
粘度数(VN):64ml/kg、アミノ末端基:38mmol/kg、カルボキシ末端基:134mmol/kg
【0083】
[(B)ガラス繊維]
(B-1)ガラス繊維(以下、「B-1」と略記する場合がある)
チョップドストランド状、断面の直径:10.5μm、重量平均繊維長:3mm、弾性率:84GPa、表面処理:シランカップリング剤、スチレンなどの不純物なし
(B-2)ガラス繊維(以下、「B-2」と略記する場合がある)
チョップドストランド状、断面の直径:13μm、重量平均繊維長:3mm、弾性率:82GPa、表面処理:シランカップリング剤、スチレンなどの不純物なし
(B-3)ガラス繊維(以下、「B-2」と略記する場合がある)
チョップドストランド状、断面の直径:10.5μm、重量平均繊維長:3mm、弾性率:84GPa、表面処理:シランカップリング剤
【0084】
<測定方法>
(粘度数(VN))
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットを用い、ISO307(JIS-K6933)に準じて、粘度数を測定した。より詳細には、25℃において、96%濃度の硫酸にポリアミド樹脂の濃度が溶液の総質量に対して0.5質量%となる割合で溶解した溶液を用いて測定した。
【0085】
(末端基濃度)
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットのアミノ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド3.0gを90質量%フェノール水溶液100mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.025Nの塩酸で滴定を行い、アミノ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はpH計の指示値から決定した。
【0086】
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットのカルボキシ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド4.0gをベンジルアルコール50mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.1NのNaOHで滴定を行い、カルボキシ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はフェノールフタレイン指示薬の変色から決定した。
【0087】
(ガラス繊維の断面の直径)
ガラス繊維の断面の直径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてガラス繊維の断面を写真撮影し、無作為に選択した50本の繊維について直径を測定し平均化することで算出した。
【0088】
(強熱減量曲線の取得)
前記(B-1)~(B-3)のガラス繊維に含まれる収束剤について、熱重量分析(TGA)により強熱減量曲線を得た。
具体的には、各例において、熱重量分析(TGA)装置でガラス繊維の熱減量率を求め、ガラス繊維に対する集束剤の付着量を測定した。TGA装置はTGA-50(島津製作所(株)製)を用い、温度条件としては30℃から550℃まで20℃/minで昇温後、550℃で1時間保持した。
【0089】
一例として、ガラス繊維(B-1)及び(B-3)の集束剤のTGAの強熱減量曲線を図1に示す。温度を上げることで、熱分解を起こしながら重量が減少していく様子が分かる。
ガラス繊維(B-1)及び(B-2)は、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、388℃において最大となった。
ガラス繊維(B-3)は、強熱減量率Yと、強熱減量率Yn+0.01との差の絶対値が、303℃において最大となった。
【0090】
((D)残渣の強熱減量)
(1)押出後のペレット400mgを、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)25mLとクロロホルム25mLの混合溶媒に入れ、30℃で18時間静置して60℃で1時間加熱した。この上澄み溶液を95%以上除去した。得られた残渣を、HFIP5mLとクロロホルム5mLの混合溶媒に入れ、再び60℃で30分加熱し、上澄み溶液を95%以上除去した(洗浄工程)。該洗浄工程を計3回実施し、溶媒を含んだ残渣を得た。これを、真空乾燥により、30℃、5時間乾燥させることで(D)残渣を得た。
(D)残渣の強熱減量は、熱重量分析(TGA)にて算出した。装置は、上記のTGA-50を用い、条件としては、(D)残渣30~50mgを用い、以下の(a)~(d)の温度プロファイルでの加熱を実施した。
(a)昇温速度30℃/分にて105℃に昇温した。
(b)105℃で30分保持した。
(c)昇温速度30℃/分にて625℃に昇温した。
(d)625℃で30分保持した。
強熱減量は、(b)の質量から、(d)の質量を差し引いたものを、測定に用いた(D)残渣の質量で除したものを100倍したものである。
【0091】
(振動疲労特性)
各例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを成形するべく、射出成形機(PS-40E:日精樹脂株式会社製)において、射出+保圧時間を10秒とし、冷却時間を7秒とし、後述の実施例に記載した金型温度とシリンダー温度にそれぞれ設定した。このようにしてISO 294-1に準拠して作成したJISK7139小型ISO試験片(3mm厚)を対象とし、島津製作所(株)製の島津サーボパルサー(EHF-FV10KN-10LA)を使用して振動疲労試験を行った。その際の条件は、周波数:20Hz、波形:正弦波、温度:120℃、応力比:0.1、チャック間距離:30mmとし、下記の測定条件を設定した。
測定条件:試料にかかる応力を76MPaに設定した場合において、当該試料が破断にいたる振動回数を求めた。
【0092】
(ガラス繊維の弾性率)
ガラス繊維のモノフィラメントを試料として引張試験を行い、該ガラス繊維の弾性率(E)を算出した。
また、前記ガラス繊維を溶融して得られたガラスを所定温度、所定時間徐冷した後、4×4×20mmに加工し、熱機械分析(TMA)装置を用いて測定を行い、50℃以上200℃以下の平均線膨張係数(α)を得た。
前記ガラス繊維の弾性率(E)及び平均線膨張係数(α)を用いて、寸法安定性の指標である弾性率Eを平均線膨張係数(α)で除した値E/αを算出した。
【0093】
(引張強さ)
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機[PS-40E:日精樹脂株式会社製]を用いて、射出+保圧時間25秒、冷却時間15秒、金型温度80℃、溶融樹脂温度300℃(実施例1~12及び比較例1~6)又は290℃(比較例10~12)に設定し、ISO 3167に準拠して多目的試験片A型の成形片を成形した。得られた成形片を用いて、ISO 527に準拠して、23±2℃下、引張速度5mm/minで引張強さ試験を行い、引張強さ(MPa)を測定した。
【0094】
(曲げ強さ)
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットについて、上記と同様の方法を用いて多目的試験片A型の成形片を作製した。次いで、得られた成形片を用いて、切削して、80mm×10mm×4mmの試験片を調製した。次いで、調製した試験片を用いて、ISO 178に準拠して、試験速度2mm/minで曲げ強さ試験を行い、曲げ強さ(MPa)を測定した。
【0095】
(衝撃強度)
ISO179-1に準拠し、各例に対応する成形片(ノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定した。
【0096】
<ポリアミド樹脂組成物の製造>
[実施例1~12及び比較例1~6]
押出機として、二軸押出機(ZSK-26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。この二軸押出機は、上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、かつ、9番目のバレルに下流側供給口を有するものである。そして、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)となっている。この二軸押出機において、上流側供給口からダイまでの温度を290℃に、スクリュー回転数を300rpmに、吐出量を25kg/時間に、それぞれ設定した。かかる条件下で、下記表1の上部に記載された割合となるよう、上流側供給口より(A)ポリアミド樹脂を供給し、下流側供給口より(B)ガラス繊維を供給し、溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物を成形し、その成形片を用いて、機械物性を評価した。これらの評価結果等を下記表1~3に示した。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
表1、表3から、次のことがわかった。表3における、YとYn+0.01との差の絶対値が、303℃において最大となるガラス繊維B-3を用いたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物(比較例1~6)に比べて、表1における、YとYn+0.01との差の絶対値が、308℃において最大となるガラス繊維(B-1又はB-2)を用いたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物(実施例1~6)いずれも高いシャルピー衝撃性および高い耐振動疲労特性を示した。
【0101】
B-1又はB-2は、押出機の設定温度であるポリアミド樹脂の融点より20℃程度高い温度(約280℃)付近において、急激な熱分解が生じにくいことを意味する。このため、約280℃の加工条件でも、ガラス繊維がポリアミド樹脂とより反応し、界面強度が強くなったものと推測する。
【0102】
また、表2から、ガラス繊維径が13μmのB-2を用いたポリアミド樹脂組成物(実施例7~12)においても、いずれも高いシャルピー衝撃性および高い耐振動疲労特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、高レベルでの耐衝撃性と耐久性、特に耐振動疲労特性が要求される自動車部品や電子部品(コネクタ、スイッチ)等の成形体の材料として、産業上の利用可能性がある。
図1