(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066797
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 305
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176506
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】大塚 輝真
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA10
2C056HA29
2C056HA36
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】歯車およびプーリの寸法精度を低減しつつ、印刷物の品質を安定化する。
【解決手段】インクジェットプリンタの製造方法には、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを同軸上に組み付ける方法が含まれる。従動歯車38cと駆動プーリ38dとの組み付け方法は、従動歯車38cの偏心を指標する第1波形を測定する工程S102と、駆動プーリ38dの偏心を指標する第2波形を測定する工程S103と、第1波形と第2波形とを合成して得られる合成波形の振幅が第1波形および第2波形のいずれの振幅よりも小さくなるように従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの相対回転位置を設定する工程S106と、従動歯車38cに対する回転位置が前記相対回転位置となるように駆動プーリ38dを従動歯車38cに組み付ける組み付け工程S107とを包含する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力を受けることにより回転軸周りに回転する第1回転体と、前記第1回転体に対して同軸に組み付けられ、前記第1回転体と一緒に前記回転軸周りに回転する第2回転体と、前記第2回転体の回転に伴って移動する可動体と、を有するインクジェットプリンタの製造方法であって、
前記第1回転体、前記第2回転体に対して、それぞれ第1目印、第2目印を特定する目印特定工程と、
前記第1回転体について、前記第1目印の回転位置から回転角が大きくなるにつれて半径または直径のずれ量がどのように変化するかを表す第1波形を測定する第1波形測定工程と、
前記第2回転体について、前記第2目印の回転位置から回転角が大きくなるにつれて半径または直径のずれ量がどのように変化するかを表す第2波形を測定する第2波形測定工程と、
前記第1波形と前記第2波形とを合成して得られる合成波形の振幅が、前記第1波形お
よび前記第2波形のいずれの振幅よりも小さくなるように、前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の相対回転位置を設定する回転位置設定工程と、
前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の回転位置が前記相対回転位置となるように、前記第1回転体および前記第2回転体を互いに組み付ける組み付け工程と、を有するインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項2】
前記第1回転体は、互いに周方向に離れた複数の第1固定部を有し、
前記第2回転体は、前記第1固定部に固定される複数の第2固定部を有し、
前記複数の第1固定部は、前記第2回転体に対する前記第1回転体の回転角が第1回転角のときの前記複数の第1固定部の配置と、前記第1回転体の回転角が前記第1回転角と異なり、かつ0°より大きく360°より小さい第2回転角のときの前記複数の第1固定部の配置とが一致するように形成され、
前記回転位置設定工程において、前記第1回転体の回転角が前記第1回転角のときの前記合成波形の振幅が前記第2回転角のときの前記合成波形の振幅よりも小さい場合に、前記第1回転角の回転角が前記第1回転角となるように、前記第1回転体および前記第2回転体を互いに組み付ける、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項3】
前記第1固定部は、周方向に等間隔にn個(nは2以上の自然数)配置され、
前記第2固定部は、周方向に等間隔にn個配置され、
前記回転位置設定工程において、前記第1固定部および前記第2固定部の周方向の位置が一致するような前記第1回転体および前記第2回転体のそれぞれの回転位置のうち、前記合成波形の振幅が最も小さくなるときの前記第1回転体および前記第2回転体のそれぞれの回転位置で前記第1回転体および前記第2回転体を互いに組み付ける、請求項2に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項4】
前記第1波形の前記ずれ量が最大となる回転位置を示す第3目印を前記第1回転体に設ける第3目印付与工程と、
前記第2波形の前記ずれ量が最大となる回転位置を示す第4目印を前記第2回転体に設ける第4目印付与工程と、を備え、
前記回転位置設定工程は、前記第3目印の回転位置と前記第4目印の回転位置とが前記回転軸に対して対称な位置にそれぞれ配置されるように、前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の相対回転位置を設定する、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項5】
前記第1波形の前記ずれ量が最小となる回転位置を示す第5目印を前記第1回転体に設ける第5目印付与工程と、
前記第2波形の前記ずれ量が最小となる回転位置を示す第6目印を前記第2回転体に設ける第6目印付与工程と、を備え、
前記回転位置設定工程は、前記第5目印の回転位置と前記第6目印の回転位置とが前記回転軸に対して対称な位置にそれぞれ配置されるように、前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の相対回転位置を設定する、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項6】
前記第1波形の前記ずれ量が最大となる回転位置を示す第3目印を前記第1回転体に設ける第3目印付与工程と、
前記第2波形の前記ずれ量が最小となる回転位置を示す第6目印を前記第2回転体に設ける第6目印付与工程と、を備え、
前記回転位置設定工程は、前記第3目印の回転位置と前記第6目印の回転位置とが一致するように、前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の相対回転位置を設定する、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項7】
前記第1波形の前記ずれ量が最小となる回転位置を示す第5目印を前記第1回転体に設ける第5目印付与工程と、
前記第2波形の前記ずれ量が最大となる回転位置を示す第4目印を前記第2回転体に設ける第4目印付与工程と、を備え、
前記回転位置設定工程は、前記第5目印の回転位置と前記第4目印の回転位置とが一致するように、前記第1目印の回転位置に対する前記第2目印の相対回転位置を設定する、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項8】
前記インクジェットプリンタは、
記録媒体が載置されるテーブルと、
前記テーブルと前記第2回転体とを連結する動力伝達部材と、を備えており、
前記可動体は、
前記テーブルである、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【請求項9】
前記インクジェットプリンタは、
記録媒体に対してインクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを支持するキャリッジと、
前記第2回転体と前記キャリッジとを連結する動力伝達部材と、を備えており、
前記可動体は前記キャリッジである、請求項1に記載のインクジェットプリンタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯車とプーリとが同軸上で回転するように組み付けられ、歯車およびプーリが回転することにより可動体が移動するインクジェットプリンタが知られている。例えば特許文献1には、記録媒体が載置されたテーブル(可動体)と、動力源が回転することにより回転する歯車と、歯車に対し同軸上で回転するように組み付けられ、歯車を通して動力源からの動力を伝えるプーリと、プーリに掛け渡され、テーブルが接続されたベルトと、動力源に指令を与える制御装置と、を備えたインクジェットプリンタが開示されている。かかるインクジェットプリンタは、制御装置からの指令により、動力源から伝達された動力が歯車を回転させ、プーリを介してベルトを走行させる。ベルトの走行に伴って、ベルトに接続されたテーブルが移動し、記録媒体が搬送される。記録媒体が搬送されるときにインクの吐出およびインクの硬化が行われることで、記録媒体に所望の印刷が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯車およびプーリには、製造時の品質のばらつきにより、偏心が生じる。偏心が存在すると、歯車およびプーリを回転軸まわりに回転させたときに、単位回転量当たりの周長が変動する。歯車およびプーリの単位回転量当たりの周長は、テーブルの移動量に影響を与える。したがって、歯車やプーリの単位回転量当たりの周長が一定ではない場合、テーブルの搬送距離にずれが生じることがある。
図1は、偏心が存在する回転体100を中心Oの周りに時計回りに回転させるときの模式図である。
図1の回転体100は、歯車およびプーリを模式的に表したものである。
図1に示すように、回転体100の中心Oよりも左側の部分は、半径r1の半円となっている。回転体100の中心Oよりも右側部分は、短軸の長さがr1かつ長軸の長さがr2(r2>r1)の半楕円となっている。例えば、回転体100を中心Oの周りに時計回りに回転させるとき、位置Aから位置Bまでの時計回りの周長L1と、位置Bから位置Aまでの時計回りの周長L2とを比較すると、L1<L2となる。したがって、回転体100の回転角度が同一であっても、単位回転量当たりの周長は変動する。回転体100の単位回転量当たりの周長の変動を、本明細書では振れと定義する。歯車およびプーリにこのように偏心が存在している場合、歯車およびプーリを一定の量だけ回転させても、歯車およびプーリの振れにより可動体の移動距離は所望の距離に対してずれてしまう。
【0005】
歯車およびプーリのそれぞれに偏心が存在する場合、可動体の移動距離のずれは、歯車の振れとプーリの振れとを合成した振れ(以下、単に合成した振れという)の影響を受ける。ここで、合成した振れは、歯車およびプーリのいずれか一方に対する他方の相対的な回転角によって変動するものである。そのため、合成した振れは、歯車とプーリとを組み付ける作業者によってばらつくものである。合成した振れは、歯車の振れまたはプーリの振れよりも大きくなることもあれば小さくなることもある。よって、合成した振れが最も大きくなるときを考慮して、歯車およびプーリの寸法公差等を決定する必要があり、高精度な公差を要求する必要があった。歯車およびプーリの寸法公差を高精度にした場合、例えば、金型の寸法公差を高精度にする等の必要があり、コストが上昇する。また、高精度な寸法公差等の要求により、製造時に歩留まりが悪化する可能性もあり、さらにコスト上昇を招く。
【0006】
さらに、合成した振れが比較的大きい場合、制御装置からの指令に対して、実際のテーブルの搬送距離のずれが大きくなる。インクが吐出されてから次の吐出がされるまでのテーブルの搬送距離が、所望の距離よりも長くなったり、短くなったりする場合がある。これにより、記録媒体上に、所望のインク吐出量よりもインクが多く吐出される箇所や、所望のインク吐出量よりもインクが少なく吐出される箇所が発生する場合がある。よって、テーブルの搬送距離のずれは、印刷物の品質低下につながる。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、互いに同軸に組み付けられた第1回転体および第2回転体と、第2回転体の回転に伴って移動する可動体とを有するインクジェットプリンタにおいて、第1回転体および第2回転体の必要寸法精度を低減しつつ、印刷物の品質を安定化することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される製造方法は、駆動源が回転することにより回転軸周りに回転する第1回転体と、前記第1回転体に対して同軸上で回転するように組み付けられ前記第1回転体の回転と一緒に回転する第2回転体と、を有するインクジェットプリンタの製造方法である。前記第1回転体の回転角に対する半径または直径の変動の波形である第1波形の所定の回転角を指し示す第1目印を前記第1回転体に設け、かつ前記第2回転体の回転角に対する半径または直径の変動の波形である第2波形の所定の回転角を指し示す第2目印を前記プーリに設ける目印付与工程と、前記第1波形と第2波形とを測定する測定工程と、前記第1波形と前記第2波形とを合成して得られる波形の振幅が、前記第1波形および前記第2波形の振幅よりも小さくなるように、前記第1波形または/および前記第2波形の位相をずらすときの第1回転体および/または第2回転体の回転角を決定する回転角決定工程と、前記回転角決定工程で決定した第1回転体および/または第2回転体の回転角の分だけ、前記第1回転体もしくは前記第2回転体の一方を他方に対して相対的に同軸上で回転、または前記第1回転体および前記第2回転体を互いに周方向に同軸上で回転させて組み付ける組み付け工程と、を有している。
【0009】
本発明の製造方法によると、第1回転体と第2回転体とは、合成波形の振幅が第1波形の振幅よりも小さく、かつ、第2波形の振幅よりも小さくなるように組み付けられる。したがって、第1回転体および第2回転体の寸法公差の精度を従来よりも低減することができる。また、合成した振れが小さくなることにより、可動体の移動距離のずれが比較的小さくなる。したがって、可動体(例えば、インクを吐出するインクヘッド、記録媒体が載置されるテーブル等)を備えるインクジェットプリンタにおいて、印刷物の品質が安定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、互いに同軸に組み付けられた第1回転体および第2回転体と、第2回転体の回転に伴って移動する可動体とを有するインクジェットプリンタにおいて、第1回転体および第2回転体の必要寸法精度を低減しつつ、印刷物の品質を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】本実施形態に係るフロントカバーが空いた状態のプリンタの正面図である。
【
図4】本実施形態に係るプリンタの鉛直断面図である。
【
図8】本実施形態に係る歯車とプーリとを組み付けたときの斜視図である。
【
図9】本実施形態に係る制御装置のブロック図である。
【
図10】本実施形態に係る歯車とプーリとの組み付け方法の手順を示したフローチャートである。
【
図11】本実施形態に係る回転角とずれ量の関係を示すグラフである。
【
図12】別実施形態に係る歯車とプーリとを組み付けたときの斜視図である。
【
図13】別実施形態に係る歯車とプーリとの組み付け方法の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタ(以下、「プリンタ」という。)について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を特に限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0013】
図2は、本実施形態に係るプリンタ10の斜視図である。プリンタ10は、インクジェット式のプリンタである。プリンタ10は、記録媒体5(
図3参照)に印刷を行う。以下の説明では、特に断らない限り、符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前方、後方、左方、右方、上方、下方を表すものとする。図面中の符号Yは主走査方向を示している。ここでは、主走査方向Yは左右方向である。符号Xは副走査方向を示している。ここでは、副走査方向Xは前後方向であり、平面視において主走査方向Yと直交している。符号Zは上下方向を示している。上下方向Zは、正面視において主走査方向Yと直交している。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、プリンタ10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0014】
本実施形態において用いられる記録媒体5は、例えば、記録紙や転写紙などの平面シートであってもよいし、携帯電話ケースなどの各種ケース、小型電子機器、キーホルダやフォトフレームやペンなどの部品小物、日用品、アクセサリなどの立体物であってもよい。記録媒体5を形成する材料は、普通紙やインクジェット用印刷紙などの紙類はもちろんのこと、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体などの樹脂類、アルミニウムやステンレス鋼などの金属類、カーボン、陶器、セラミック、ガラス、ゴム、皮革、木材などであってもよい。
【0015】
図2に示すように、プリンタ10は、箱状に形成された筐体12を備えている。筐体12は、ケース15と、フロントカバー23と、操作パネル25とを備えている。ここでは、フロントカバー23は、後端を軸に回転可能なように、ケース15に支持されている。フロントカバー23を上方に回転させることによって、ケース15の内部空間と外部空間とが連通される。内部空間は、後述するインクヘッド30によって印刷が行われる空間である。このように、印刷が行われる空間がケース15およびフロントカバー23によって囲まれていることによって、印刷中、外部空間の塵および埃がケース15の内部空間に入り込み難い。
【0016】
フロントカバー23の前部および上部には、窓23Aが設けられている。窓23Aは、例えば、透明のアクリル板によって形成されている。窓23Aには、紫外線が内部空間に到達しないような処理が施されている。ユーザは、窓23Aからケース15の内部を視認することが可能である。
【0017】
操作パネル25は、ケース15に設けられている。操作パネル25は、ケース15の上面右側に設けられている。操作パネル25は、ユーザが画像の印刷に関する操作を行うパネルである。図示は省略するが、操作パネル25には、光沢感の有無などの印刷の種類、解像度、印刷の状況などの印刷に関する情報が表示される表示画面、および、印刷、記録媒体5に関する情報を設定するための入力ボタンなどが備えられている。
【0018】
次に、プリンタ10の内部の構成について説明する。
図3に示すように、プリンタ10は、支持壁13と、ガイドレール18と、キャリッジ20と、インクヘッド30と、光照射装置41と、制御装置70とを備えている。ガイドレール18は、ケース15内に配置されている。ガイドレール18は、支持壁13に固定され、主走査方向Yに延びている。ガイドレール18には、キャリッジ20が摺動自在に係合している。キャリッジ20は、キャリッジ移動機構21(
図9参照)により、ガイドレール18に沿って主走査方向Yに往復移動する。キャリッジ移動機構21は、制御装置70によって制御される。キャリッジ20が主走査方向Yに移動することに伴い、キャリッジ20に搭載されたインクヘッド30および光照射装置41は、主走査方向Yに移動する。
【0019】
キャリッジ20には、複数のインクヘッド30が搭載されている。インクヘッド30は、テーブル35より上方に配置されている。インクヘッド30は、テーブル35に載置された記録媒体5に、光硬化性を有するインク(光硬化性インク)を吐出する。インクヘッド30は、それぞれ、可撓性を有するインクチューブ(図示せず)によって、ケース15内に収容されたインクカートリッジ34と連通されている。インクカートリッジ34には、それぞれ光硬化性インクが貯留されている。
【0020】
インクヘッド30は、それぞれ副走査方向Xに並ぶ複数のノズル(図示せず)を備えている。インクヘッド30のそれぞれのノズルから、記録媒体5に光硬化性インクが吐出される。本実施形態では、プリンタ10は、3つのインクヘッド30を備えているが、インクヘッド30の数は3つに限定されない。
【0021】
光硬化性インクは、光(例えば紫外線や赤外線)が照射されると硬化する性質を有する。光硬化性インク(例えば紫外線硬化型インクや赤外線硬化型インク)は、顔料等の着色剤と光重合性モノマーと光重合開始剤とを含み、必要に応じてその他の各種添加剤、例えば、光増感剤、重合禁止剤、捕捉剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、溶剤等を含み得る。光硬化性インクは、有色インクである。光硬化性インクは、例えば、プロセスカラーインクやホワイトインクである。例えば、プロセスカラーインクとしては、例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク等が挙げられる。なお、光硬化性インクは、無色インクであってもよい。光硬化性インクとしては、例えば、紫外線硬化型のインクが挙げられる。
【0022】
光照射装置41は、光硬化性インクが硬化する波長の光を照射する。光照射装置41は、記録媒体5に吐出された光硬化性インク(例えば紫外線硬化インク)に向けて光(例えば紫外線)を照射可能に構成されている。光硬化性インクに光が照射されることによって光硬化性インクが硬化して、記録媒体5上にインク層が形成される。
図3に示すように、光照射装置41は、キャリッジ20に搭載されている。光照射装置41は、後述するテーブル35より上方に配置されている。光照射装置41は、インクヘッド30の右方と左方とに1つずつ配置されている。しかし、光照射装置の数や配置はこれに限定されない。なお、
図4に示す例では、光照射装置41の図示を省略している。
【0023】
図4に示すように、プリンタ10は、所謂、フラットベッドタイプのプリンタである。プリンタ10は、キャリッジ20より下方に配置されたテーブル35と、昇降機構37と、搬送機構38と、を備えている。テーブル35、昇降機構37および搬送機構38は、ケース15に収容されている。テーブル35には、記録媒体5が載置される。テーブル35は、昇降機構37によって上下方向Zに移動可能に構成されている。テーブル35は、搬送機構38によって、副走査方向Xに移動可能に構成されている。テーブル35は、インクヘッド30より下方に配置されている。
【0024】
昇降機構37は、高さ調整部材37aと、昇降モータ37b(
図9参照)とを備えている。高さ調整部材37aは、テーブル35の下面に設けられている。高さ調整部材37aは、昇降モータ37bに接続されている。昇降モータ37bは、制御装置70と電気的に接続されており、制御装置70によって制御される。昇降モータ37bが駆動すると、高さ調整部材37aの高さが変化して、テーブル35の高さが調整される。即ち、昇降機構37は、テーブル35を上下方向Zに移動させる。
【0025】
図5に示すように、搬送機構38は、搬送モータ38aと、固定部材81と、駆動歯車38bと、従動歯車38cと、駆動プーリ38dと、を備えている。
図4に示すように、搬送機構38は、従動プーリ38eと、ベルト38fと、を備えている。駆動プーリ38dは、テーブル35よりも後方に設けられている。従動プーリ38eは、駆動プーリ38dよりも前方に設けられている。ベルト38fは、駆動プーリ38dと従動プーリ38eとに巻きかけられている。ベルト38fには、高さ調整部材37aが接続されている。搬送モータ38aは、駆動歯車38b、従動歯車38c、および駆動プーリ38dを介して、ベルト38fに連結されている。搬送モータ38aが駆動すると、駆動歯車38bと、従動歯車38cと、駆動プーリ38dとが回転する。駆動プーリ38dが回転すると、ベルト38fが走行する。ベルト38fが走行することにより、高さ調整部材37aおよびテーブル35が副走査方向Xに搬送される。
【0026】
搬送モータ38aは、制御装置70と電気的に接続されている。搬送モータ38aは、固定部材81に固定されている。テーブル35を搬送するとき、制御装置70は搬送モータ38aが所望の分だけ回転するように駆動する指令を出す。搬送モータ38aの回転軸38hの先端には、駆動歯車38bが連結されている。駆動歯車38bは、従動歯車38cと噛み合うように組み付けられている。駆動歯車38bの回転により、従動歯車38cが回転する。
【0027】
従動歯車38cは、駆動プーリ38dに対して、駆動プーリ38dと同軸上で回転するように組み付けられている。従動歯車38cは、第1回転体の一例である。
図6に示すように、従動歯車38cの上面には、従動歯車38cの回転軸R1を中心として周方向に等間隔に配置された4つの第1固定部38iが設けられている。本実施形態では、第1固定部38iにはネジ穴が形成されている。従動歯車38cの材料は、特に限定されず、金属材料、樹脂材料等であってもよい。本実施形態では、従動歯車38cは、樹脂材料により形成されている。
【0028】
従動歯車38cの上面には、第1目印61が設けられている。詳細は後述するが、本実施形態では、従動歯車38cと駆動プーリ38dとの組み付けに先立って、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dについて、回転角に対する半径または直径のずれ量の変化を測定する。第1目印61は、作業者が従動歯車38cの回転角に対する半径または直径のずれ量の変化を測定するときに、例えば回転角0°の回転位置を示す目印として利用される。ここで、「半径または直径のずれ量」とは、回転体のある回転位置において、その回転体の径方向の変位量に関する中央値からの差分を表す。作業者は、第1目印61の回転位置から回転角が大きくなるにつれて、従動歯車38cの半径または直径のずれ量がどのように変化するかを測定する。本実施形態では、第1目印61の形状は、平面視で三角形である。第1目印61の回転位置から時計回りに従動歯車38cを回転させる方向を+方向、反時計回りに従動歯車38cを回転させる方向を-方向とする。第1目印61を設ける方法は、例えば樹脂成型である。従動歯車38cを樹脂成型にて製造するときに、金型に第1目印61の形状を設けておくことで、
図6に示すように樹脂を凸状に隆起させることができる。しかし、第1目印61を設ける方法はこれに限定されない。例えば、第1目印61は、樹脂成型により、凹状に形成されてもよい。また、第1目印61は、作業者によりペンで記載されるものでもよい。第1目印61の形状は、三角形に限定されない。例えば、第1目印61は、長手方向が従動歯車38cの半径方向と一致する直線であってもよい。また、第1目印61は、従動歯車38cの特定の形状によってその位置が特定されるものでもよい。例えば、従動歯車38cの一部に切り欠きを有する形状である場合、その切り欠きの箇所を第1目印61と特定してもよい。
【0029】
図5に示すように、駆動プーリ38dは、従動歯車38cと同軸上で回転するように組み付けられている。駆動プーリ38dは、第2回転体の一例である。
図7に示すように、駆動プーリ38dには、4つの第2固定部38jが設けられている。第2固定部38jは、回転軸R2を中心として等間隔に配置されている。第2固定部38jには、上下方向に貫通する穴が形成されている。本実施形態では、第2固定部38jには、ネジ穴が形成されている。駆動プーリ38dの形状は、上方に延びる凸部38daを有する円盤形状である。
図5に示すように、駆動プーリ38dの凸部38daには、ベルト38fが巻きかけられる。駆動プーリ38dの材料は、特に限定されず、金属材料、樹脂材料などであってもよい。本実施形態では、駆動プーリ38dは樹脂材料により形成されている。
【0030】
図7に示すように、駆動プーリ38dの上面には、第2目印62が設けられている。第2目印62は、例えば、作業者が駆動プーリ38dの回転角に対する半径または直径のずれ量の変化を測定するときに、回転角0°に対応する回転位置を示すものである。例えば作業者は、第2目印62の回転位置から回転角が大きくなるにつれて、駆動プーリ38dの半径または直径のずれ量がどのように変化するかを測定する。本実施形態では、第2目印62の形状は、平面視で三角形である。第2目印62の回転位置から時計回りに駆動プーリ38dを回転させる方向を+方向、反時計回りに駆動プーリ38dを回転させる方向を-方向とする。第2目印62を設ける方法は、例えば樹脂成型である。駆動プーリ38dを樹脂成型にて製造するときに、金型に第2目印62の形状を設けておくことで、
図7に示すように樹脂を凸状に隆起させることができる。しかし、第2目印62を設ける方法はこれに限定されない。例えば、第2目印62は、樹脂成型により、凹状に形成されてもよい。また、第2目印62は、作業者によりペンで記載されるものでもよい。第2目印62の形状は、三角形に限定されない。例えば、第2目印62は、長手方向が駆動プーリ38dの半径方向と一致する直線であってもよい。また、第2目印62は、駆動プーリ38dの特定の形状によってその位置が特定されるものでもよい。例えば、駆動プーリ38dの一部に切り欠きを有する形状である場合、その切り欠きの箇所を第2目印62と特定してもよい。
【0031】
図6および
図7に示すように、第1固定部38iおよび第2固定部38jにはネジ穴が形成されている。
図8に示すように、これらのネジ穴には、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを固定するネジ38gが螺合する。4つの第1固定部38iおよび4つの第2固定部38jは、軸方向から見たときにそれぞれ回転軸R1、R2を中心として、周方向に互いに異なる位置に配置されている。本実施形態では、第1固定部38iおよび第2固定部38jは、周方向に等間隔に配置されている。
図8に示すように、本実施形態では、従動歯車38cの回転軸R1と駆動プーリ38dの回転軸R2とを一致させ、かつ、第1固定部38iと第2固定部38jとが対面するようにして、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dが組み付けられる。このとき従動歯車38cおよび駆動プーリ38dのいずれか一方を他方に対して所定の角度だけ回転させても固定可能となるように、第1固定部38iおよび第2固定部38jが配置されている。例えば、本実施形態では、駆動プーリ38dを従動歯車38cに対して相対的に90°回転させても、第1固定部38iおよび第2固定部38jの周方向の位置が一致する。そのため、作業者は、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付けることができる。同様に、駆動プーリ38dを従動歯車38cに対して相対的に180°または270°回転させたときも、作業者は、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付けることができる。
【0032】
なお、第1固定部38iおよび第2固定部38jは、ネジ穴が形成された部分に限定されない。例えば、第1固定部38iが爪を有する突起であり、第2固定部38jは、第1固定部38iの爪と嵌合する凹形状を有していてもよい。このときネジ38gは不要である。第1固定部38iおよび第2固定部38jの個数は4つに限定されない。また、第1固定部38iおよび第2固定部38jの個数はそれぞれ異なっていてもよい。例えば、第1固定部38iが周方向に8か所配置されているのに対し、第2固定部38jが周方向に2か所配置されていてもよい。第1固定部38iおよび第2固定部38jは、その全部が周方向に均等な位置に配置されていることに限定されない。例えば、第1固定部38iおよび第2固定部38jは、平行四辺形の4つの頂点の位置となるように配置されていてもよい。このとき、例えば駆動プーリ38dを従動歯車38cに対して相対的に180°回転させても、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを固定することができる。
【0033】
前述したように、従動プーリ38eは搬送機構38の前方に配置されている(
図4参照)。駆動プーリ38dおよび従動プーリ38eには、ベルト38fが巻きかけられている。駆動プーリ38dが回転すると、ベルト38fが走行し、従動プーリ38eも回転する。
【0034】
図9に示すように、制御装置70は、記録媒体5への印刷を制御する装置である。制御装置70の構成は特に限定されない。制御装置70は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から印刷データなどを受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROMと、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAMと、プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置と、を備えている。
図3に示すように、制御装置70は、ケース15の内部に設けられている。ただし、制御装置70はケース15の内部に設けられていなくてもよい。例えば、制御装置70は、ケース15の外部に設置されたコンピュータなどであってもよい。この場合、制御装置70は、有線または無線を介してプリンタ10と通信可能に接続されている。
【0035】
図9に示すように、制御装置70は、操作パネル25と、キャリッジ移動機構21と、インクヘッド30と、光照射装置41と、昇降機構37の昇降モータ37bと、搬送機構38の搬送モータ38aと、通信可能に接続している。制御装置70は、キャリッジ移動機構21、インクヘッド30、光照射装置41、昇降モータ37b、搬送モータ38a、を制御する。
【0036】
以上、プリンタ10の構成について説明した。次に、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの組み付け方法について説明する。なお、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付ける工程は、プリンタ10の製造工程の一部である。プリンタ10の製造方法には、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの組み付けが含まれる。
【0037】
図5に示すように、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dは、同軸上で回転するように組み付けられている。しかし、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dが製造されるとき、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの中心位置が、それぞれ設計上の中心位置からずれてしまう場合がある。すなわち、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dに偏心が発生する場合がある。なお、偏心が発生する要因として、例えば、樹脂成形機の射出速度、金型の劣化、樹脂の乾燥時間などの影響が考えられる。あるいは、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dが金属加工により製造される場合は、刃具の摩耗、熱処理などの影響が考えられる。従動歯車38cの偏心は、従動歯車38cの振れの原因となる。駆動プーリ38dの偏心は、駆動プーリ38dの振れの原因となる。
【0038】
ところで、搬送モータ38aの駆動力は、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを通じてテーブル35に伝えられる。テーブル35の移動は、従動歯車38cの振れと駆動プーリ38dの振れとを合成した合成振れの影響を受ける。ここで、合成振れの振幅は、従動歯車38cと駆動プーリ38dとの相対的な回転位置関係によって異なる。テーブル35を良好に移動させるためには、合成振れの振幅をできるだけ小さくすることが望ましい。そこで、本実施形態では、合成振れの振幅が小さくなるように、従動歯車38cと駆動プーリ38dとの相対的な回転位置を決定する。そして、互いの回転位置が前記回転位置となるように、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付ける。
【0039】
図10に示すフローチャートは、本実施形態に係る従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの組み付け方法を示すフローチャートである。本実施形態では、作業者は、目印特定工程S101、第1波形測定工程S102、第2波形測定工程S103、第3目印付与工程S104、第4目印付与工程S105、回転位置設定工程S106、組み付け工程S107を順に行うことで、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを組み付ける。以下、各工程について説明する。なお、本実施形態では、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dと同一のものが1ロットずつ複数個作成されて納品されたものとする。
【0040】
まず、目印特定工程S101において、作業者は、従動歯車38cについて第1目印61を特定し、駆動プーリ38dについて第2目印62を特定する。ここで、第1目印61、第2目印62は、それぞれ後述する第1波形、第2波形を測定するに当たって基準となる回転位置を表す目印のことである。本実施形態では、
図6および
図7に示すように、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dがそれぞれ樹脂成型されるときに、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの上面に三角形状の隆起が設けられる。これらの三角形状の隆起を第1目印61、第2目印62とする。
【0041】
第1波形測定工程S102では、作業者は、第1目印61の回転位置を0°とし、回転角が0°から大きくなるにつれて従動歯車38cの半径または直径のずれ量がどのように変化するかを表す第1波形を測定する。なお、前述したように、ずれ量とは半径または直径の中央値からのずれ量のことである。作業者は、第1目印61の回転位置を0°とし、従動歯車38cを時計回りに回転させながら測定を行う。測定は、例えば噛み合い試験機や歯溝測定機を用いて実行される。本実施形態では、時計回りの回転方向を回転角が大きくなる方向(+方向)とし、回転角0°~360°の半径または直径のずれ量を測定する。
図11(a)は第1波形の例である。
図11(a)の横軸は、回転角を表している。
図11(a)の縦軸は、半径または直径のずれ量を表している。縦軸の値が0のとき(言い換えると、ずれ量が0のとき)の半径または直径の値は、従動歯車38cの半径または直径の中央値に対応する。半径または直径が中央値よりも大きい場合、ずれ量は正の値をとる。半径または直径が中央値よりも小さい場合、ずれ量は負の値をとる。本明細書では、半径または直径のずれ量が、中央値よりも大きい方に最もずれている状態のことを「ずれ量が最大」と定義し、ずれ量が中央値よりも小さい方に最もずれている状態のことを「ずれ量が最小」と定義する。
図11(a)に示すように、第1波形は、回転角θ1のときにずれ量が最大となり、そのときのずれ量は+P1である。回転角θ1+180°のときにずれ量が最小となり、そのときのずれ量は-P1である。本実施形態では、抜き取り検査をされなかった従動歯車についても、同一のロットのものについては、第1波形と同一の波形が得られるものとみなす。
【0042】
第2波形測定工程S103は、第1波形測定工程S102と同様にして行われる。すなわち、第2波形測定工程S103では、作業者は、第2目印62の回転位置を0°とし、回転角が大きくなるにつれて駆動プーリ38dの半径または直径のずれ量がどのように変化するかを表す第2波形を測定する。測定は、第1波形測定工程S102と同様に、例えば噛み合い試験機や歯溝測定機を用いて実行される。第1波形測定工程S102と同様、時計回りの方向を回転角が大きくなる方向(+方向)とし、回転角0°~360°における半径または直径のずれ量を測定する。
図11(b)は第2波形の例である。
図11(b)の横軸は回転角を表し、縦軸は半径または直径のずれ量を表している。
図11(b)に示すように、第2波形は、回転角θ2のときにずれ量が最大となり、そのときのずれ量は+P2である。回転角θ2+180°のときにずれ量が最小となり、そのときのずれ量は-P2である。本実施形態では、抜き取り検査をされなかったプーリについても、同一のロットのものについては、第2波形と同一の波形が得られるものとみなす。
【0043】
第3目印付与工程S104では、第1波形においてずれ量が最大となるときの回転位置を特定し、その回転位置を示す目印(第3目印)63を従動歯車38cに付与する。
図11(a)に示すように、第1波形において、ずれ量が最大となるときの回転角はθ1である。したがって、
図6に示すように、第1目印61から時計回りにθ1だけずれた回転位置に第3目印63を付与する。第3目印63は、例えば、作業者によりペンで記載されるものである。
【0044】
第4目印付与工程S105では、第2波形においてずれ量が最大となるときの回転位置を特定し、その回転位置を示す目印(第4目印)64を駆動プーリ38dに付与する。
図11(b)に示すように、第2波形において、ずれ量が最大となるときの回転角はθ2である。したがって、
図11(b)に示すように、第2目印62から時計回りにθ2だけずれた回転位置に第4目印64を付与する。第4目印64は、例えば、作業者によりペンで記載されるものである。
【0045】
前述したように、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dは同軸状に組み付けられる。従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを組み付ける際に、従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの回転位置を任意に設定することができる。本実施形態では、従動歯車38cに4つの第1固定部38iが設けられ、駆動プーリ38dに4つの第2固定部38jが設けられている。特定の第1固定部38iに対して固定可能な第2固定部38jは、4つ存在する。そのため、従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの回転位置を、4通りの中から任意に設定することができる。回転位置設定工程S106では、従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの回転位置を設定する。
【0046】
回転位置設定工程S106では、作業者は、軸方向から見て、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの一方を他方に対して同軸上で回転させるときの回転位置を決定する。本実施形態では、駆動プーリ38dに対し、従動歯車38cを同軸上で回転させる。このとき、第1波形の位相がずれることとなる。本実施形態では、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを、振れが最も小さくなるように組み付ける。そのためには、第1波形と第2波形とを合成した波形(合成波形)の振幅が最も小さくなればよい。本実施形態では、従動歯車38cに第3目印63が設けられ、駆動プーリ38dに第4目印64が設けられている。第3目印63は、第1波形におけるずれ量が最大の位置を示しており、ここでは回転角θ1の回転位置を示す。第4目印64は、第2波形におけるずれ量が最大の位置を示しており、ここでは回転角θ2の回転位置を示す。したがって、第3目印63と第4目印64とが、回転軸R1、R2に対して対称な位置となるように、従動歯車38cを回転させればよい。
【0047】
組み付け工程S107では、作業者は、駆動プーリ38dに対する従動歯車38cの回転位置が、回転位置設定工程106により決定した回転位置となるように、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを組み付ける。本実施形態では、
図8に示すように、第3目印63と第4目印64とが、回転軸R1、R2に対して対称な位置となるように従動歯車38cおよび駆動プーリ38dが組み付けられる。第1固定部38iおよび第2固定部38jを対面させ、第1固定部38iおよび第2固定部38jのネジ穴にネジ38gを締めることにより、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dが組み付けられる。このときの、合成波形を
図11(c)に実線で示す。
図11(c)に破線で示すように、第1波形および第2波形は互いに逆位相の位置となっている。また、合成波形の振幅の絶対値P3は、第1波形の振幅の絶対値P1よりも小さく、かつ、第2波形の振幅の絶対値P2よりも小さい。本実施形態では、納入された1ロット分の従動歯車38cおよび駆動プーリ38dについて、同様の組み付けを実行する。なお、第1固定部38iと第2固定部38jとを対面させることができる位置において、第3目印63と第4目印64とが回転軸R1、R2に対して対称な位置とならない場合が想定される。この場合は、第1固定部38iと第2固定部38jとを対面させることができるような従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの位置関係(本実施形態では、4通りの位置関係)のうち、第3目印63の回転位置と第4目印64の回転位置とが回転軸R1、R2に対して対称な位置に最も近い位置関係を選択すればよい。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを、合成波形の振幅が第1波形および第2波形のいずれの振幅よりも小さくなるように組み付けることができる。前述のように、第1波形と第2波形とが互いに逆位相の波形となるように従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを組み付けることとすれば、合成波形の振幅を最小化することができる。合成波形の振幅の大きさが、搬送機構38のテーブル35の搬送距離のずれに影響する。そのため、本実施形態によれば、テーブル35の搬送距離のずれを最小化することができる。
【0049】
従来技術では、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dを組み付けるときのそれぞれの回転位置は、決まっていなかった。したがって、合成波形の振幅の大きさは、第1波形および第2波形の振幅より大きくなる場合も小さくなる場合も起こり得た。したがって、合成波形の振幅が最も大きくなる場合を想定して、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの寸法公差幅等の精度を指示する必要があった。しかしながら、本実施形態によれば、合成波形の振幅は、第1波形および第2波形の振幅に比べて小さくすることができる。したがって、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの寸法公差幅に要求される精度を、従来に比べて低減することができる。よって、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの製造時の歩留まりの悪化が抑制され、コスト上昇を抑制することができる。
【0050】
本実施形態によると、第1固定部38iと第2固定部38jとがネジ38gにより螺合されることにより、従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付けることができる。従動歯車38cと駆動プーリ38dとを組み付けたときに、回転軸R1と回転軸R2とは一致している必要がある。しかし、本実施形態では、第1固定部38iと第2固定部38jとの位置を合わせ、ネジ38gを締めるだけで、合成波形の振幅を小さくしつつ、回転軸R1と回転軸R2とを一致させることができる。したがって、作業者は、回転軸R1と回転軸R2との位置を合わせる調整作業が不要となり、組み付け作業を容易に行うことができる。
【0051】
従来技術では、歯車とプーリとが一体となった状態で製造されることがあった。例えば、歯車とプーリとが一体化した状態で樹脂成型されることで、1ロット中での偏心のばらつきを同程度とすることができる。したがって、歯車とプーリとを組み付ける場合と異なり、作業者によるばらつきを抑えることができるという利点が存在する。しかし、歯車とプーリとが一体化した状態で製造される場合、歯車およびプーリのいずれか一方の設計変更を実施したい場合にも、歯車およびプーリが一体化した製品全体で設計変更する必要があった。すなわち、樹脂成型に使用する金型は、歯車とプーリとが一体化した形状を有する。しかしながら、本実施形態によれば、回転位置設定工程S106において組み付けの回転位置が決定される。したがって、作業者によるばらつきが発生せず、かつ合成波形の振幅が小さくなっている。このことにより、歯車または/およびプーリを設計変更したい場合に、その一方のみを設計変更すればよい。したがって、樹脂成型に用いる金型は、歯車およびプーリのいずれか設計変更したい方のみの金型を準備すればよい。よって、従来に比べ、金型の小型化が可能となり、発生するコストを低減することができる。
【0052】
本実施形態では、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dは、第1固定部38iおよび第2固定部38jのネジ穴に挿入されるネジ38gによって固定されていた。しかし従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの固定方法は、これに限定されない。例えば、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの組み付け方法は、例えば、接着でもよい。本実施形態では、従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの組み付け位置は、第1固定部38iと第2固定部38iとを対面させることができる回転位置に限られていたが、接着する場合は、組付け位置は限定されない。したがって、合成波形の振幅が最小化する回転位置に必ず組み付けることができる。
【0053】
本実施形態では、第3目印63および第4目印64を用いて、従動歯車38cに対する駆動プーリ38dの回転位置を決定した。本実施形態では、第3目印63は、第1波形のずれ量が最大となる回転位置を示し、第4目印64は、第2波形のずれ量が最大となる回転位置を示している。したがって、第3目印63と第4目印64とを用いれば、従動歯車38cまたは/および駆動プーリ38dを互いに相対的に回転させるときの回転角を算出する必要がない。すなわち、第3目印63と第4目印64とが設けられている場合、回転位置設定工程S106では、第3目印63と第4目印64とが回転軸R1、R2に対して対称な位置となるように、回転位置が常に設定される。従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの生産ロットが変わったときでも、第3目印63と第4目印64とが、回転軸R1、R2に対して対称な位置となることは変わらない。したがって、生産ロットが変わり、第1波形および第2波形が変化しても、第3目印63と第4目印64との互いの相対的な位置を変える必要がなく、作業者の誤組み付けを防止することができる。
【0054】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他にも種々の形態で実施可能である。
【0055】
上述した実施形態では、第3目印63と第4目印64とを用いて、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの回転位置を決定したが、これに限定されない。例えば、従動歯車38cに対し、第1波形のずれ量が最小となる回転位置を示す第5目印65を設けてもよい。駆動プーリ38dに対し、第2波形のずれ量が最小となる回転位置を示す第6目印66を設けてもよい。第5目印65および第6目印66についても、上述した実施形態と同様に、回転軸R1、R2に対して対称な位置となるように配置される(
図8参照)ことにより、合成波形の振幅を最小にすることができる。
【0056】
また、従動歯車38cに第3目印63を設け、駆動プーリ38dに第6目印66を設けてもよい。このとき、
図12に示すように、第3目印63および第6目印66の回転位置が同じとなるように配置されることにより、第1波形と第2波形とが互いに逆位相の位置となる。したがって、合成波形の振幅を最小にすることができる。同様に、従動歯車38cに第5目印65を設け、駆動プーリ38dに第4目印64を設けてもよい。このときも、第5目印65および第4目印64の回転位置が同じ位置となるように配置されることにより、合成波形の振幅を最小にすることができる。
【0057】
上述した実施形態では、第1波形においてずれ量が最大となる回転位置を示す第3目印63と、第2波形においてずれ量が最大となる回転位置を示す第4目印64と、を用いて、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの回転位置を決定したが、これに限定されない。従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの回転位置は、第1目印61と第2目印62と第1波形と第2波形とを用いて決定されるものでもよい。第1目印61と第2目印62と第1波形と第2波形とを用いて従動歯車38cおよび駆動プーリ38dの回転位置を決定する方法を以下に示す。このときの組み付けのフローチャートを
図13に示す。目印特定工程S201、第1波形測定工程S202、第2波形測定工程S203、組み付け工程S205は、それぞれ
図10に示す目印特定工程S101、第1波形測定工程S102、第2波形測定工程S103、組み付け工程S107と同一のため、ここでは説明を省略する。
【0058】
図13に示す回転位置設定工程S204では、まず、第1波形および第2波形について、同一の回転角のときのそれぞれ振幅に着目する。例えば、
図11(a)および(b)に示すように、第1波形において振幅+P1となるときの回転角と、第2波形において振幅+P2となるときの回転角とに着目すると、第1波形と第2波形とは、θ1―θ2(θ1>θ2とする)だけ位相がずれている。第1位相を回転角θ3だけ+方向にずらすとする。このとき、θ1+θ3―θ2=180°となるようにすれば、第1波形と第2波形と、は互いに逆位相となり、合成波形の振幅が最小となる。したがって、従動歯車38cを駆動プーリ38dに対して回転角θ3だけ相対的に回転させればよい。
図11(a)において、回転角θ3だけ位相をずらした第1波形を破線にて示している。なお、位相をずらす方向は、+方向に限定されない。また、第2波形の位相をずらしてもよく、第1波形および第2波形の双方の位相をずらしてもよい。
【0059】
例えば、第1波形においてθ1=180°、第2波形においてθ2=90°であったとする。このときθ1―θ2=90°である。したがって、θ1+θ3―θ2=180°を満たすことで、第1波形と第2波形とは、互いに逆位相となる、したがってθ3は、θ3=90°となればよい。よって、従動歯車38cを駆動プーリ38dに対して90°回転させればよい。
【0060】
ここで開示される技術の適用箇所は、テーブル35の搬送機構38に限られない。例えば、キャリッジ移動機構21に、従動歯車38cおよび駆動プーリ38dと同様の部品が使用されている場合にも同様に適用できる。
【0061】
第1回転体および第2回転体として、任意の回転体を用いることができる。第1回転体または第2回転体は、歯車またはプーリに限らず、スプロケット等であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
38c 歯車(従動歯車)
38d プーリ(駆動プーリ)
38 搬送機構
61 第1目印
62 第2目印
63 第3目印
64 第4目印
70 制御装置
S101 目印特定工程
S102 第1波形工程
S103 第2波形工程
S104 第3目印付与工程
S105 第4目印付与工程
S106 回転位置設定工程
S107 組み付け工程