(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066802
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ヒートシール紙及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 29/00 20060101AFI20240509BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240509BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B32B29/00
B65D65/40 D
D21H27/30 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176513
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】神永 純一
(72)【発明者】
【氏名】越山 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 里佳
(72)【発明者】
【氏名】若林 寛之
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA23
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4F100AB10B
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4L055AG03
4L055AG58
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4L055GA05
(57)【要約】
【課題】紙の特徴である折り目保持性を有し且つ折り曲げられた後であっても十分なガスバリア性を有するとともに、プラスチック材料の使用量削減に寄与するヒートシール紙及びこれを含む包装袋を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面に係るヒートシール紙は、紙基材と、ガスバリア層と、ガスバリア層の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、をこの順序で備える積層構造を有し、ヒートシール層の0.27mm
2あたりの欠陥数が、20個以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
ガスバリア層と、
前記ガスバリア層の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、
をこの順序で備える積層構造を有し、
前記ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である、ヒートシール紙。
【請求項2】
前記ガスバリア層が、蒸着層であり、
前記紙基材が、前記ガスバリア層側の表面上に設けられたアンカーコート層を有する、請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
紙基材と、
前記紙基材の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、
を備え、
前記ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である、ヒートシール紙。
【請求項4】
前記ヒートシール層が、カルボキシ基、カルボキシ基の塩及びカルボキシ基の無水物からなる群より選択される少なくとも一種の基を有するポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
前記ヒートシール層の破断点伸びが、360%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙を含む、包装袋。
【請求項7】
折り曲げ部を有する、請求項6に記載の包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒートシール紙及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品及び化学品等の多くの分野では、それぞれの内容物に応じた包装材が使用されている。包装材は、内容物の変質の原因となる水蒸気等の透過防止性(ガスバリア性)が求められる。
【0003】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、脱プラスチックの機運が高まっている。プラスチック材料の使用量削減の観点から、種々の分野において、プラスチック材料の代わりに、紙を使用することが検討されている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-16714号公報
【特許文献2】国際公開第2020/152753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙は、折り目保持性(デッドホールド性とも称される)を有することから、加工がしやすいという特徴を有する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、より鋭角な折り目がある包装袋(ピロー包装、三方シール包装及びガゼット包装)をヒートシール紙により構成する場合、ガスバリア性が低下する点において、未だ改善の余地があることが判明した。
【0006】
また、資源有効利用促進法の観点から、ヒートシール紙においてもプラスチック材料の使用量を削減することが求められている。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、紙の特徴である折り目保持性を有し且つ折り曲げられた後であっても十分なガスバリア性を有するとともに、プラスチック材料の使用量削減に寄与するヒートシール紙及びこれを含む包装袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係るヒートシール紙は、紙基材と、ガスバリア層と、ガスバリア層の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、をこの順序で備える積層構造を有し、ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である。
【0009】
本発明者らの検討により、ヒートシール紙を紙基材側からみて谷折りにすると、紙の厚さに起因してヒートシール層に引張力が加わり、ヒートシール層に欠陥があるとそれを起点としてガスバリア層まで亀裂が生じることが明らかとなった。そして、ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下であれば、ヒートシール紙を紙基材側からみて谷折りにしても、十分なガスバリア性を有することが明らかとなった。
【0010】
本開示の一側面に係るヒートシール紙は、ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が20個以下であるため、折り曲げられた後であっても十分なガスバリア性を有する。
【0011】
一態様において、ガスバリア層は、蒸着層であってよく、紙基材は、ガスバリア層側の表面上に設けられたアンカーコート層を有していてよい。
【0012】
本開示の他の一側面に係るヒートシール紙は、紙基材と、紙基材の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、を備え、ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である。
【0013】
本発明者らの検討により、ヒートシール紙を紙基材側からみて谷折りにすると、紙の厚さに起因してヒートシール層に引張力が加わるが、ヒートシール層の欠陥数が0.27mm2あたり20個以下であれば、ヒートシール紙は折り曲げられた後であっても十分なガスバリア性を有することが明らかとなった。
【0014】
一態様において、ヒートシール層は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩及びカルボキシ基の無水物からなる群より選択される少なくとも一種の基を有するポリオレフィン系樹脂を含んでいてよい。
【0015】
一態様において、ヒートシール層の破断点伸びは、360%以上であってよい。
【0016】
本開示の更に他の一側面に係る包装袋は、上記ヒートシール紙を含む。一態様において、包装袋は、折り曲げ部を有していてよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、紙の特徴である折り目保持性を有し且つ折り曲げられた後であっても十分なガスバリア性を有するとともに、プラスチック材料の使用量削減に寄与するヒートシール紙及びこれを含む包装袋が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一実施形態に係るヒートシール紙を示す模式断面図である。
【
図2】本開示の他の一実施形態に係るヒートシール紙を示す模式断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る包装袋を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<ヒートシール紙>
図1は、一実施形態に係るヒートシール紙を示す模式断面図である。一実施形態に係るヒートシール紙10は、紙基材1と、ガスバリア層2と、ヒートシール層3とをこの順序で備える積層構造を有する。
【0021】
[紙基材]
紙基材1としては、特に限定されるものではなく、ヒートシール紙10が適用される包装袋の用途に応じて適宜選択すればよい。植物由来のパルプを主成分としている紙であれば特に制限はない。紙基材1の具体例として、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙及びクラフト紙、グラシン紙が挙げられる。紙基材1の厚さは、例えば、20~500g/m2、30~100g/m2であってよい。
【0022】
紙の重量は、ヒートシール紙全体を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。紙の重量がヒートシール紙全体を基準として、50質量%以上であれば、プラスチック材料の使用量を十分に削減することができ、ヒートシール紙全体として紙製であるということができるとともに、リサイクル性に優れる。
【0023】
[ガスバリア層]
ガスバリア層2は、金属蒸着層、無機蒸着層、ガスバリア性樹脂組成物、金属アルコキシド及びその加水分解物、並びに、無機層状鉱物の少なくとも一つを有する。以下、ガスバリア層2を形成する各層について説明する。
【0024】
(蒸着層)
蒸着層としては、例えば、金属蒸着層及び無機蒸着層が挙げられる。金属蒸着層は、例えば後述する成膜方法で金属が蒸着されることによって形成される層である。金属蒸着層としては、例えば、アルミニウム層が挙げられる。金属蒸着層は、合金層でもよい。無機蒸着層は、例えば後述する成膜方法によって形成される膜状の無機物、無機化合物などである。無機蒸着層は、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ケイ素(SiOx)等を含んでもよい。無機蒸着層は、透明でもよい(すなわち、透明無機蒸着層でもよい)。
【0025】
蒸着層の厚さは、使用用途によって適宜設定される。当該厚さは、30nm以上、50nm以上であってよく、100nm以下、80nm以下であってもよい。蒸着層の厚さが30nm以上である場合、蒸着層の連続性が十分なものになる傾向がある。当該厚さが100nm以下である場合、蒸着層内のクラックの発生を十分に抑制でき、当該蒸着層による十分なガスバリア性能を達成しやすい。
【0026】
蒸着層の成膜手段としては、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法がある。成膜速度、生産性の観点から、真空蒸着法が用いられてもよい。酸素ガスバリア性能、膜の均一性などの観点から、蒸着層は、真空成膜手段によって成膜されてもよい。真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱を利用する場合、電子ビームの照射面積、電子ビーム電流などの調整によって成膜速度を制御しやすいこと、蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有用である。
【0027】
(ガスバリア性樹脂組成物)
ガスバリア性樹脂組成物としては、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール-co-エチレン)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルピロリドン、デンプン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸などが挙げられる。ガスバリア性の観点から、ガスバリア性樹脂組成物は、ポリビニルアルコール(PVA)でもよい。PVAは、一般にポリ酢酸ビニルを鹸化して得られるものである。PVAとして、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分鹸化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全鹸化PVAまでを用いることができる。ガスバリア性の観点から、鹸化度90%以上のPVAが用いられてもよい。この場合、ガスバリア性樹脂組成物は水酸基を多数有するので、良好なガスバリア性を発揮できる。また、ガスバリア層を形成した際の皮膜の靭性、ガスバリア性などの観点から、PVAの重合度は、500以上でもよい。ガスバリア性樹脂組成物は、例えば、蒸着層とは異なる層に含まれる。当該層は、ガスバリア性樹脂組成物のみから形成されてもよいし、ガスバリア性樹脂組成物に加えて、別の物質(例えば、金属アルコキシドなど)を含んでもよい。
【0028】
(金属アルコキシド及びその加水分解物)
ガスバリア層2は、一般式M(OR1)n(M:金属元素、R1:CH3、C2H5などのアルキル基、n:金属元素の酸化数)で表される金属アルコキシド及びその加水分解物を含んでいてもよい。金属アルコキシドの役割としては、金属アルコキシドの加水分解物同士が架橋することで、水溶性のガスバリア層2の耐水性能を高めることが出来る。性能向上の観点から、金属アルコキシドは反応点(OH基)が多数あってもよい。ガスバリア性・塗工適正などの観点から、金属アルコキシドは、テトラエトキシシラン(TEOS)でもよい。金属アルコキシド及びその加水分解物は、例えば、蒸着層とは異なる層に含まれる。当該層は金属アルコキシド及びその加水分解物のみから形成されてもよいし、金属アルコキシド及びその加水分解物に加えて、別の物質(ガスバリア性樹脂組成物など)を含んでもよい。
【0029】
(無機層状鉱物)
ガスバリア層2は、無機層状鉱物を含んでもよい。無機層状鉱物は、高いアスペクト比を有する。このため、ガスバリア層2が無機層状鉱物を含む場合、ガスバリア層2内における迷路効果がより効果的に働き、ガスバリア層2のガスバリア性が高く発現する傾向がある。また、無機層状鉱物は、高い耐水性を有するため、ガスバリア層2の耐水性能を高めることができる。迷路効果発揮の観点から、無機層状鉱物の粒径は、例えば0.2μm以上であり、無機層状鉱物のアスペクト比は、例えば50以上である。塗工上の観点から、無機層状鉱物の粒径は、例えば10μm以下である。無機層状鉱物の種類は特に限定されない。バリア性及び耐水性の観点から、無機層状鉱物の表面にシラノール基を有するシリカ粒子が用いられてもよい。無機層状鉱物としては、例えばカオリン、タルク、マイカ、雲母、モンモリロナイト、ヘクトライト、などが挙げられる。無機層状鉱物は、例えば、蒸着層とは異なる層に含まれる。当該層は無機層状鉱物のみから形成されてもよいし、無機層状鉱物に加えて、別の物質(ガスバリア性樹脂組成物など)を含んでもよい。
【0030】
[ヒートシール層]
ヒートシール層3は、ガスバリア層2の表面上に形成された塗膜の乾燥物である。塗膜は、樹脂及び溶媒を含む塗工液をガスバリア層2の表面上に塗工して形成される。
【0031】
ヒートシール層3は、臭気及び環境面から水系塗液の塗膜の乾燥物であることが好ましい。ヒートシール層3は、樹脂として極性基を有するポリオレフィン系樹脂を含んでいてよい。ポリオレフィン系樹脂は、極性基として、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、カルボキシ基の無水物及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などの水系エマルジョン、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂が挙げられる。
【0032】
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等カルボキシ基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂として、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂の融点は、70~160℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の融点が低ければヒートシール時の立ち上がり温度を低くできるメリットがある。ポリオレフィン系樹脂の融点が低いと高温環境下においてブロッキングする恐れが高まる。なお、ブロッキングを防止する観点から、接触面積が小さくなるよう、粒径は大きい方がよい。特に限定されるものではないが、粒径は具体的には1nm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、1μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下であってよい。
【0035】
ヒートシール層3には、上記のポリオレフィン系樹脂のほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系樹脂系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0036】
ヒートシール層3におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0037】
ヒートシール層3の厚さは、例えば、0.05μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。ヒートシール層3の厚さが0.05μm以上であれば、ヒートシール層としての役割を十分に発揮することができる。また、ヒートシール層3の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつガスバリア層2との密着性やバリア性を十分に発揮することができる。
【0038】
ヒートシール層3の塗工液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン及び水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール及び水が好ましい。
【0039】
塗工液に含まれる溶媒における水の含有量は、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0040】
塗工液を塗工する速度は、塗工液への泡かみを抑制し、形成されるヒートシール層3の欠陥数を抑制し、ガスバリア性を一層向上させる観点から、10m/分以上であってよく、80m/分以下であることが好ましく、50m/分以下であることがより好ましく、40m/分以下であることが更に好ましい。
【0041】
塗工液を乾燥させる際の乾燥時の最高到達温度(ヒートラベルが示す温度)は、高温による紙基材の熱収縮、性能や外観の低下が起こらない限りにおいては、高いことが好ましい。塗工液を乾燥させる際の乾燥時の最高到達温度は、ヒートシール層3の欠陥数を抑制し、ガスバリア性を一層向上させる観点から、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、200℃以下であってよい。
【0042】
塗工液の塗工には、例えば、グラビアダイレクトコーター、グラビアリバースコーター、キスリバースコーター及びダイコーターなどを用いてよい。
【0043】
ヒートシール層3の0.27mm2あたりの欠陥数は、20個以下であり、15個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましく、5個以下であることが更に好ましく、3個以下であることが特に好ましい。ヒートシール層3の0.27mm2あたりの欠陥数は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
ヒートシール層3の破断点伸びは、360%以上であることが好ましく、380%以上であることがより好ましく、390%以上であることが更に好ましい。ヒートシール層3の破断点伸びがこのような範囲にあると、塗工液の塗膜から溶媒を乾燥させる際に塗膜が伸びることで、溶媒の揮発に伴う大きな欠陥の発生を抑制できる傾向がある。その結果、ヒートシール紙はガスバリア層に一層優れる傾向がある。
【0045】
以上、一実施形態に係るヒートシール紙について説明したが、本開示のヒートシール紙は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本開示のヒートシール紙は、紙基材がガスバリア層側の表面上に設けられたアンカーコート層を有していてもよい。
【0046】
[アンカーコート層]
アンカーコート層は、紙基材とガスバリア層との間の密着性向上や、ヒートシール紙のガスバリア性の向上のために設けられるものである。アンカーコート層は、例えば、極性基を有するポリオレフィン系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂のうち少なくとも一方を含んでいてよい。このようなアンカーコート層は柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に後述する蒸着層の割れを抑制することができるとともに、アンカーコート層と蒸着層との密着性を向上させることができる。
【0047】
極性基を有するポリオレフィン系樹脂は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0048】
極性基を有するポリオレフィン系樹脂として、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等カルボキシ基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0049】
極性基を有するポリオレフィン系樹脂として、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0050】
塗工液中におけるポリオレフィン系樹脂は、ブロッキングを防止する観点から、接触面積が小さくなるよう、粒径は大きい方がよい。特に限定されるものではないが、粒径は具体的には1nm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、1μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下であってよい。
【0051】
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)とは、例えば、完全けん化のポリビニルアルコール樹脂、部分けん化のポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂等である。またポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、300以上、1700以下が好ましい。重合度が300以上であれば、包装材のガスバリア性及び屈曲耐性が良好になり、重合度が1700以下であれば、後述するポリビニルアルコール系樹脂の塗工液の粘度が低くなり、塗布性が良好になる。
【0052】
アンカーコート層には、ポリオレフィン系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂のほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、メラミン及びフェノールが挙げられる。
【0053】
アンカーコート層におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0054】
アンカーコート層におけるポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0055】
アンカーコート層の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。アンカーコート層の厚さが1μm以上であれば、上述した紙基材の凹凸を効率的に埋めることができ、後述する蒸着層を均一に積層させることができる。また、アンカーコート層の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ蒸着層を均一に積層させることができる。
【0056】
アンカーコート層の塗工液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0057】
アンカーコート層を設ける方法としては、紙基材上にポリオレフィン系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂のうち少なくとも一方と、溶媒とを含む塗工液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。塗工液中におけるポリオレフィン系樹脂は、ブロッキングを防止する観点から、接触面積が小さくなるよう、粒径は大きい方がよい。特に限定されるものではないが、粒径は具体的には1nm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、1μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下であってよい。
【0058】
本開示のヒートシール紙は、紙基材が紙とアンカーコート層との間にコート層を更に有していてもよい。コート層を有することで、紙にアンカーコート層が染み込むことを防ぐことができるほか、紙の凹凸を埋める目止めの役割を果たすこともでき、アンカーコート層を欠陥なく均一に製膜することができる。
【0059】
[コート層]
コート層には、例えば、バインダー樹脂として、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、などの各種共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、パラフィン(WAX)等を用い、填料としてクレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が含まれていてもよい。
【0060】
コート層の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、1~10μm、又は3~8μmであってよい。
【0061】
本開示のヒートシール紙は、ガスバリア層を備えていなくてもよい。
図2は、本開示の他の実施形態に係るヒートシール紙を示す模式断面図である。
図2に示すヒートシール紙15は、紙基材1と、紙基材1の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層3と、を備え、ヒートシール層3の0.27mm
2あたりの欠陥数が、20個以下である。
【0062】
<包装袋>
図3は、ヒートシール紙10からなるガゼット袋(包装袋)20を示す斜視図である。ガゼット袋20の上部の開口部をシールすることで包装袋が製造される。ガゼット袋20はヒートシール紙10が折り曲げられている箇所(折り曲げ部B1,B2)を有する。折り曲げ部B1は、最内層側からみてヒートシール紙10が山折りされている箇所であり、他方、折り曲げ部B2は、最内層側からみてヒートシール紙10が谷折りされている箇所である。
【0063】
包装袋は、1枚のヒートシール紙をヒートシール層3が対向するように二つ折りにした後、所望の形状になるように適宜折り曲げてヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚のヒートシール紙をヒートシール層3が対向するように重ねた後、ヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。
【0064】
本実施形態に係る包装袋において、ヒートシール強度は、2N以上であってよく、4N以上であってよい。なお、ヒートシール強度の上限値は特に制限されるものではないが、例えば10N以下であってよい。
【0065】
包装袋は、内容物として、食品、医薬品等の内容物を収容することができる。特に食品として、お菓子等を収容するのに適している。本実施形態に係る包装袋は、折り曲げ部を有する形状であっても高いガスバリア性を維持することができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、包装袋の一例としてガゼット袋を挙げたが、上記実施形態に係るヒートシール紙を使用して、例えば、ピロー袋、三方シール袋又はスタンディングパウチを作製してもよい。
【実施例0067】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0068】
<ヒートシール紙の製造>
(実施例1)
紙(厚さ:52μm)の表面上に、カルボキシ基の塩を有するポリオレフィン系樹脂を含む塗液(商品名:ザイクセンAC、住友精化製)をグラビアコーターで塗工(塗工速度:200m/分)して塗膜(乾燥後重量:3g/m2)を形成した。塗膜を乾燥してアンカーコート層を形成した。乾燥時の温度の測定にはヒートラベルを用いた。ヒートラベルの温度は99℃であった。アンカーコート層上に蒸着層(材料:AL、厚さ:50nm)を形成した。蒸着層の表面上にカルボキシ基の塩を有するポリオレフィン系樹脂を含む塗液(商品名:ケミパールS300、三井化学製)をグラビアコーターで塗工して塗膜(乾燥後重量:3g/m2)を形成した。塗工速度は表1に示す値とした。塗膜を乾燥してヒートシール層を形成し、ヒートシール紙を得た。乾燥時の温度の測定にはヒートラベルを用いた。ヒートラベルの温度は表1に示す値であった。
【0069】
(実施例2及び3)
ヒートシール層を形成するためにケミパールS300に代えて表1に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。表1に示す材料の詳細は以下のとおりである。
【0070】
・ザイクセンAC:カルボキシ基の塩を有するポリオレフィン系樹脂を含む塗液、住友精化製
・ケミパールS100:カルボキシ基の塩を有するポリオレフィン系樹脂を含む塗液、三井化学製
【0071】
(実施例4)
ヒートシール層を形成する際に塗液を塗工する速度を30m/分としたこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0072】
(実施例5)
カルボキシ基の塩を有するポリオレフィン系樹脂を含む塗液(商品名:ザイクセンAC、住友精化製)に代えてポリビニルアルコールを含む塗液(商品名:5-98、クラレ製)を用いてアンカーコート層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0073】
(比較例1)
ヒートラベルが示す温度が54℃となるように乾燥温度を設定してヒートシール層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0074】
(比較例2)
ヒートラベルが示す温度が49℃となるように乾燥温度を設定してヒートシール層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0075】
(比較例3)
ヒートシール層を形成する際に塗液を塗工する速度を100m/分としたこと以外は、実施例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0076】
<欠陥数の測定>
(実施例1~5及び比較例1~3)
各実施例及び比較例で得られたヒートシール紙についてヒートシール層の欠陥数を測定した。具体的には、ヒートシール層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して画像を撮影し、画像中の欠陥(直径:1μm以上)の数を目視で数えた。観察の倍率は200倍とした。倍率が200倍であるときの観察対象となる表面の面積は0.27mm2となる。観察はヒートシール層の10箇所で行い、10箇所それぞれで確認された欠陥数の平均値を算出した。結果を表1に示した。
【0077】
<水蒸気透過度の測定>
(実施例1~5及び比較例1~3)
各実施例及び比較例で得られたヒートシール紙について折り曲げ前(初期)と折り曲げ後の水蒸気透過度を測定した。測定装置はPERMATRAN 3/34G(商品名、MOCON製)を用いて、温度40℃、相対湿度90%とした。折り曲げ後の水蒸気透過度は、ヒートシール紙に折り目を付け、その後、折り目を開いた状態で測定した。折り目は、ヒートシール紙をヒートシール層が外側となるように湾曲させ、ヒートシール紙の上にローラー(重量:2kg)を1回転がすことで付けた。表1に結果を単位[g/m2・day]で表記した。
【0078】
<破断点伸びの測定>
(実施例1~5及び比較例1~3)
各実施例及び比較例のヒートシール紙のヒートシール層について破断点伸びを測定した。具体的には、各実施例及び比較例でヒートシール層を形成するために用いた塗工液を基材上に乾燥後の厚さが10μmとなるように塗工して塗膜を形成した。塗膜を乾燥(乾燥温度:120℃、乾燥時間:5分間)して乾燥膜を得た。乾燥膜を基材上から剥離し、乾燥膜から幅15mm、長さ10cmの短冊状の試験片を切り出した。温度23℃にて、引張試験機を用いて試験片を速度200mm/分で引張った。試験前の試料長さ(L0)と破断時の試料長さ(L1)を記録した。L0及びL1を下記(式1)に代入してヒートシール層の破断点伸びを算出した。結果を表1に示した。
破断点伸び(%)=100×(L1-L0)/L0…(式1)
【0079】
【0080】
本開示の要旨は以下の[1]~[7]に存する。
[1]紙基材と、
ガスバリア層と、
ガスバリア層の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、
をこの順序で備える積層構造を有し、
ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である、ヒートシール紙。
[2]ガスバリア層が、蒸着層であり、
紙基材が、ガスバリア層側の表面上に設けられたアンカーコート層を有する、[1]に記載のヒートシール紙。
[3]紙基材と、
紙基材の表面上に形成された塗膜の乾燥物であるヒートシール層と、
を備え、
ヒートシール層の0.27mm2あたりの欠陥数が、20個以下である、ヒートシール紙。
[4]ヒートシール層が、カルボキシ基、カルボキシ基の塩及びカルボキシ基の無水物からなる群より選択される少なくとも一種の基を有するポリオレフィン系樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のヒートシール紙。
[5]ヒートシール層の破断点伸びが、360%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のヒートシール紙。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のヒートシール紙を含む、包装袋。
[7]折り曲げ部を有する、[6]に記載の包装袋。