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特開2024-66803ウイルス感染阻止剤、ウイルス感染阻止部材及びウイルス感染阻止部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066803
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止剤、ウイルス感染阻止部材及びウイルス感染阻止部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20240509BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240509BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01P1/00
A01N25/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176515
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松木 信緒
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA05
4H011BB19
4H011BC16
4H011DA13
4H011DD05
4H011DD07
4H011DH02
4H011DH08
(57)【要約】
【課題】 本発明は、基材の表面に対する付着性に優れ、基材の表面に良好に付着し、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができるウイルス感染阻止剤を提供する。
【解決手段】 本発明のウイルス感染阻止剤は、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はその塩を有し且つ主鎖は窒素原子を含有しない高分子化合物と、バインダー樹脂と、表面調整剤と、水とを含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はその塩を有し且つ主鎖は窒素原子を含有しない高分子化合物と、バインダー樹脂と、表面調整剤と、水とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止剤。
【請求項2】
表面調整剤の接触角が10~30°であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項3】
表面調整剤は、シリコーン系表面調整剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項4】
高分子化合物の重量平均分子量が1000~1000000であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項5】
アミノ官能基が第2級アミノ基を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項6】
高分子化合物はカルボキシ基又はその塩を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項7】
高分子化合物の5%質量%水溶液の25℃におけるpHが4以下又は9以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項8】
高分子化合物のpKa1が8以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項9】
アミノ官能基が環状骨格を形成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項10】
基材と、上記基材に含まれた請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤の乾燥物とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止部材。
【請求項11】
基材の表面に請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤を付着させる工程と、
上記基材の表面に付着させたウイルス感染阻止剤を乾燥させる工程とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止剤、ウイルス感染阻止部材及びウイルス感染阻止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
特許文献1には、合成樹脂100質量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5質量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-128395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、基材の表面に対する付着性が低く、基材に対して優れたウイルス感染阻止効果を付与することができないという問題点を有している。
【0007】
本発明は、基材の表面に対する付着性に優れ、基材の表面に良好に付着し、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができるウイルス感染阻止剤、並びに、このウイルス感染阻止剤を用いたウイルス感染阻止部材及びウイルス感染阻止部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はその塩を有し且つ主鎖は窒素原子を含有しない高分子化合物と、バインダー樹脂と、表面調整剤と、水とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止剤。
[2] 表面調整剤の接触角が10~30°であることを特徴とする[1]のウイルス感染阻止剤。
[3] 表面調整剤は、シリコーン系表面調整剤を含むことを特徴とする[1]又は[2]のウイルス感染阻止剤。
[4] 高分子化合物の重量平均分子量が1000~1000000であることを特徴とする[1]~[3]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[5] アミノ官能基が第2級アミノ基を含むことを特徴とする[1]~[4]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[6] 高分子化合物はカルボキシ基又はその塩を含有していることを特徴とする[1]~[5]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[7] 高分子化合物の5%質量%水溶液の25℃におけるpHが4以下又は9以上であることを特徴とする[1]~[6]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[8] 高分子化合物のpKa1が8以上であることを特徴とする[1]~[7]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[9] アミノ官能基が環状骨格を形成していることを特徴とする[1]~[8]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[10] 基材と、上記基材に含まれた[1]~[9]の何れかのウイルス感染阻止剤の乾燥物とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止部材。
[11] 基材の表面に[1]~[9]の何れかのウイルス感染阻止剤を付着させる工程と、 上記基材の表面に付着させたウイルス感染阻止剤を乾燥させる工程とを含むことを特徴とするウイルス感染阻止部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウイルス感染阻止剤は、上述の構成を有しているので、基材の表面に対して優れた濡れ性を有し、基材の表面に良好に付着させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ウイルス感染阻止剤は、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はその塩を有し且つ主鎖は窒素原子を含有しない高分子化合物と、バインダー樹脂と、表面調整剤と、水とを含む。
【0011】
[高分子化合物]
ウイルス感染阻止剤は、有効成分として高分子化合物を含有している。高分子化合物は、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はアミノ官能基の塩を有している。高分子化合物は、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はアミノ官能基の塩に由来して優れたウイルス感染阻止効果を奏し、特に、エンベロープを有さないウイルスに対して優れたウイルス感染阻止効果を有する。
【0012】
アミノ官能基は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上するので、第2級アミノ基を含むことが好ましい。又、アミノ官能基は、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの両方に対してウイルス感染阻止効果を有するので、第2級アミノ基を含むことが好ましい。
【0013】
アミノ官能基は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上するので、環状骨格を形成していることが好ましく、脂環式環状骨格を形成していることが好ましい。
【0014】
なお、第1級アミノ基は、-NH2で表される一価の置換基を意味する。第2級アミノ基は、-NH2から1個の水素原子を除いて(引き抜いて)生じる二価の置換基(-NH-)を意味する。第3級アミノ基は、-NH2から2個の水素原子を除いて(引き抜いて)生じる三価の置換基[≡N、式(a)]を意味する。但し、アミノ官能基は、アミノ官能基を構成している窒素原子にケト基(>CO)が直接結合している場合を除く。
【0015】
【化1】
【0016】
アミノ官能基の塩としては、特に限定されないが、酸付加塩が好ましい。酸付加塩の酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリル硫酸、リノレン酸、フマル酸が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
【0017】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。抗菌製品技術協議会(SIAA)は、抗ウイルス加工剤の安全性と一定の抗ウイルス効果の基準を満たす製品に抗ウイルス加工マークを認証している。ウイルス感染阻止剤は抗ウイルス加工剤の成分として使用され、上記の評価方法で評価される。
【0018】
ウイルス感染阻止剤は、例えば、下記条件で抗ウイルス試験を行なった場合、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上であることが好ましい。その際、評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上であればよい。
【0019】
アミノ官能基又はその塩を有する高分子化合物としては、側鎖にアミノ官能基又はその塩を有している一方、主鎖は窒素原子を含有していない。高分子化合物の主鎖とは、高分子化合物において最も長い鎖をいい、鎖の長さは、鎖に含有されている原子の数によって判断することができ、鎖に含有されている原子の数が多いほど鎖が長いと判断される。主鎖に含有されている原子とは、主鎖を直接構成している原子をいう。従って、例えば、ビニルポリマーが主鎖を構成している場合、主鎖は、炭素原子を含有しているが、炭素原子に結合している水素は、主鎖を直接構成している原子には含まれず、主鎖には含有されない。
【0020】
高分子化合物は、主鎖に窒素原子を含有していないことによって、高分子化合物のアミノ官能基又はその塩におけるウイルスに対する相互作用を向上させて、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を向上させている。高分子化合物は、主鎖に窒素原子を含んでいなければよい。主鎖を構成している原子としては、窒素原子以外であればよく、例えば、炭素原子、硫黄原子、酸素原子などが挙げられ、炭素原子、硫黄原子が好ましく、炭素原子のみ、又は、炭素原子及び硫黄原子が好ましい。
【0021】
高分子化合物は、分子中にアミノ官能基又はその塩を有している。高分子化合物としては、例えば、線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーなどが挙げられる。
【0022】
線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステルが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0023】
線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーとしては、例えば、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。
【0024】
アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル、N-(アミノアルキル)アクリルアミド、N-(アミノアルキル)メタクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジルにアンモニアやジメチルアミンなどを反応させて得られるモノマー、アリルアミン、ジアリルアミン、メチルジアリルアミン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート又はこれらのアミノ官能基の塩などが挙げられる。なお、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0025】
又、高分子化合物は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が優れているので、下記式(1)~(6)で表される繰り返し単位の少なくとも一つを含む高分子化合物が好ましい。なお、本発明において、nは、繰り返し単位を示し、2以上の自然数である。
【0026】
【化2】
【0027】
アミノ官能基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーは、アミノ官能基含有モノマーのホモポリマーであってもよいし、アミノ官能基含有モノマーとこれと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0028】
アミノ官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されず、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエンなどが挙げられる。なお、アミノ官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0029】
高分子化合物は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上するので、分子中にカルボキシ基又はその塩を有していることが好ましい。
【0030】
カルボキシ基の塩としては、特に限定されず、例えば、カリウム塩(-COOK)、ナトリウム塩(-COONa)、カルシウム塩[(-COO-)2Ca2+]、アンモニウム塩(-COO-NH4 +)、マグネシウム塩[(-COO-)2Mg2+]、バリウム塩[(-COO-)2Ba2+]などが挙げられる。
【0031】
カルボキシ基を含有する高分子化合物としては、例えば、線状高分子の側鎖に、アミノ官能基又はその塩と、カルボキシ基又はその塩とを含むポリマーなどが挙げられる。
【0032】
線状高分子の側鎖に、アミノ官能基又はその塩と、カルボキシ基又はその塩とを含むポリマーとしては、例えば、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーと、カルボキシ基又はその塩を含有するカルボキシ基含有モノマーとをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。なお、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーは、上記と同様であるので説明を省略する。
【0033】
カルボキシ基又その塩を含有するカルボキシ基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、5-カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、カルボキシベタイン型モノマー又はこれらの塩などが挙げられ、シュウ酸が好ましい。なお、カルボキシ基含有モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
又、アミノ官能基又はその塩と、カルボキシ基とを含む高分子化合物は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が優れているので、下記式(7)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0035】
【化3】
【0036】
高分子化合物は、汎用の重合方法を用いて重合すればよい。例えば、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーと、必要に応じて含まれるカルボキシ基又はその塩を含有するカルボキシ基含有モノマー及びその他のモノマーとを含むモノマー組成物を汎用のラジカル重合開始剤の存在下にて重合させることによって高分子化合物を得ることができる。又、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーと、水酸基を含有するモノマーとを含むモノマー組成物を汎用のラジカル重合開始剤の存在下にて重合させることによって高分子化合物を得てもよい。なお、ラジカル重合開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの熱開裂型ラジカル重合開始剤などが挙げられる。又、水酸基を有するポリマーとアミノ官能基含有モノマーとの縮合反応やエステル交換反応により、アミノ官能基を含有する高分子を合成してもよい。
【0037】
高分子化合物の窒素原子含有率は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。高分子化合物の窒素原子含有率は、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下がより好ましい。高分子化合物の窒素原子含有率が上記範囲内であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0038】
高分子化合物の窒素原子含有率(%)は、高分子化合物を構成している繰り返し単位の総原子量に対する窒素原子量の百分率をいう。
【0039】
例えば、下記式(8)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物において、窒素原子含有率は下記式で算出される。但し、M1及びM1は、モノマー単位を意味する。本発明において、n、m及びpは、繰り返し単位を示し、2以上の自然数である。
【0040】
【化4】
【0041】
高分子化合物の窒素原子含有率(%)
=100×{(M1に含まれる総窒素原子量)×m+(M2に含まれる総窒素原子量)×n}
/{(M1の総原子量)×m+(M2の総原子量)×n}
【0042】
本発明において、式(8)に示した構造式は、モノマー単位M1とモノマー単位M2とのランダムコポリマー、交互コポリマー又はブロックコポリマーを意味している。ウイルス感染阻止剤に含まれている高分子化合物の重合形態としては、高分子鎖中の電荷状態が平均的に配置され、高分子化合物の表面が適切な電荷状態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上するので、ランダムコポリマーが好ましい。
【0043】
高分子化合物の重量平均分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上がより好ましい。高分子化合物の重量平均分子量が1000以上であると、高分子化合物がウイルスに対して多点的に相互作用を奏することができ、ウイルス感染阻止部材のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0044】
高分子化合物の重量平均分子量は、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下がより好ましく、600000以下がより好ましい。高分子化合物の重量平均分子量が1000000以下であると、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、結果としてウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0045】
高分子化合物が複数種類のポリマーの混合物である場合、高分子化合物の重量平均分子量は、高分子化合物全体の重量平均分子量とする。
【0046】
なお、本発明において、高分子化合物の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。
【0047】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:Waters社製 商品名「2690SeparationsModel」
カラム:昭和電工社製 商品名「GPCKF-806L」
検出器:示差屈折計
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
溶出液:THF
【0048】
高分子化合物の0.5質量%水溶液の25℃におけるpHは、4以下が好ましい。高分子化合物の0.5質量%水溶液の25℃におけるpHは、9以上が好ましい。高分子化合物の0.5質量%水溶液の25℃におけるpHが4以下であると、高分子化合物の表面が適切な電荷状態となり、又は、ウイルス表面のプロトンが増えることで、ウイルス感染阻止剤との静電相互作用が大きくなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。高分子化合物の0.5質量%水溶液の25℃におけるpHが4以下又は9以上であると、高分子化合物の表面が適切な電荷状態となり、又は、ウイルスの表面をアニオン化することで、ウイルス感染阻止剤との静電相互作用が大きくなり、ウイルス感染阻止剤の感染阻止効果が向上する。なお、高分子化合物の0.5質量%水溶液の25℃におけるpHとは、高分子化合物0.5gを精製水99.5gに加えて均一に混合した液における25℃でのpHの値をいう。なお、高分子化合物が混合物である場合、高分子化合物のpHは、高分子化合物全体のpHとする。
【0049】
高分子化合物の25℃におけるpKa1は、8以上が好ましく、8.5以上がより好ましい。高分子化合物の25℃におけるpKa1が8以上であると、高分子化合物とウイルスとの相互作用において、高分子化合物の表面が適切な電荷状態となり、ウイルスを効果的に捕捉し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。高分子化合物の25℃におけるpKa1は12以下が好ましく、11以下がより好ましいく、10以下がより好ましい。ここで、電解質B-Hが、BとHとに電離して電離平衡 式(b)をとるとき、酸解離定数Kaは、式(c)で定義され、pKaは、酸解離定数Kaの逆数の常用対数(d)で定義される。
【0050】
本明細書における高分子化合物は、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーを重合するか、水酸基を有するポリマーとアミノ官能基含有モノマーとの縮合反応やエステル交換により合成される。
【0051】
本発明におけるpKa1は、高分子化合物の構成要素となるアミノ官能基又はその塩を含有するモノマーにおける、アミンの共役酸の酸解離定数と定義される。なお、本発明においては「高分子化合物の構成要素となるアミノ官能基又はその塩を含有するモノマーのpKa1」を「高分子化合物のpKa1」とする。高分子化合物の構成要素となるアミノ官能基又はその塩を含有するモノマーが多価アミンである場合、多価アミンの共役酸は多段階に電離が進むが、pKa1は、一段階目の電離定数に基づいて算出されたpKaをいう。
【0052】
【数1】
【0053】
高分子化合物の25℃におけるpKa1は、滴定によって測定された値をいう。具体的には、高分子化合物の構成要素となるアミノ官能基含有モノマーの塩酸塩と水酸化ナトリウムを使用して25℃にて滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)での25℃におけるpHを測定することで、pKa1を求めることができる。アミノ官能基含有モノマーがフリーのアミンの場合は、塩酸塩に変換した後、上述の方法でpKa1を求めることができる。フリーのアミンを塩酸塩に変換する方法としては、例えば、アミノ官能基含有モノマーを1mol%塩酸水溶液に混合し、アミノ官能基含有モノマーに含まれるアミノ基の全てを塩酸塩に変換した後、凍結乾燥などの汎用の要領により塩酸と水を取り除く方法が挙げられる。
【0054】
高分子化合物は、分子中に芳香族環を含有していないことが好ましい。高分子化合物が芳香族環を含有していないと、高分子化合物のかさ高さが低減されることから、アミノ官能基を含む分子構造部分が効率よくウイルスと相互作用でき、優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0055】
芳香族環は、単環状の芳香族環の他に、単環状の芳香族環が複合して縮合してなる縮合芳香族環も含まれる。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が除かれ(引き抜かれ)、他の原子と共有結合により結合している。
【0056】
高分子化合物は、基材表面に均一に分散させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができるので、粒子状に形成されていることが好ましい。高分子化合物のD90粒子径は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、2.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、3.5μm以上がより好ましい。高分子化合物のD90粒子径は、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、22μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、18μm以下がより好ましく、16μm以下がより好ましく、14μm以下がより好ましく、12μm以下がより好ましい。D90粒子径が1μm以上であると、高分子化合物全体の表面積が小さくなり、ウイルス感染阻止剤の凝集性が低減され、高分子化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止部材のウイルス感染阻止効果が向上する。D90粒子径が50μm以下であると、ウイルス感染阻止剤の凝集を防止し且つ表面積を増加させてウイルスとの接触を容易にして、ウイルス感染阻止部材のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0057】
高分子化合物のD90粒子径は、後述するように、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%となる粒子径(90%累積粒子径)である。高分子化合物が複数種類の高分子化合物を含む場合、高分子化合物のD90粒子径は、高分子化合物全体を基準として測定された値とする。
【0058】
ウイルス感染阻止剤は、ベース粒子の表面に付着(担持)させて用いてもよい。ウイルス感染阻止剤をベース粒子の表面に付着させておくことによって、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0059】
ウイルス感染阻止剤を表面に付着させるベース粒子としては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。ベース粒子は、樹脂粒子及び無機粒子を含む。ベース粒子は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0060】
樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられ、スチレン系樹脂及びアクリル系樹脂が好ましい。
【0061】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。
【0062】
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0063】
アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、アクリル系モノマーと、このアクリル系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0064】
アクリル系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0065】
無機粒子を構成している無機材料としては、特に限定されず、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0066】
樹脂粒子を構成している合成樹脂は、芳香族環を含有していることが好ましい。芳香族環が、樹脂粒子の表面に付着している高分子化合物の疎水性部分を引き付け、アミノ官能基及びカルボキシ基を外方に配向させる作用を奏し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0067】
芳香族環は、単環状の芳香族環であっても、単環状の芳香族環が複合して縮合(縮合芳香族環)していてもよい。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が除かれ(引き抜かれ)、他の原子と共有結合により結合している。
【0068】
樹脂粒子に対する高分子化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。高分子化合物の付着量が1質量部以上であると、樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を均一に付着させることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0069】
樹脂粒子に対する高分子化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1000質量部以下が好ましく、800質量部以下がより好ましく、600質量部以下がより好ましく、400質量部以下がより好ましい。高分子化合物の付着量が1000質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤同士の結合が行われず、効率的に樹脂粒子表面にウイルス感染阻止剤が配置されウイルス感染阻止効果が向上する。
【0070】
樹脂粒子表面へのウイルス感染阻止剤の付着要領は、特に限定されず、例えば、ウイルス感染阻止剤の接着力によってもよいし、バインダー樹脂を用いて樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を接着してもよいが、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができるので、高分子化合物自体の接着力によって、高分子化合物が樹脂粒子の表面に付着していることが好ましい。
【0071】
[バインダー樹脂]
ウイルス感染阻止剤は、バインダー樹脂を含有している。バインダー樹脂は、高分子化合物を基材の表面に付着一体化させるために含有されている。
【0072】
バインダー樹脂は、高分子化合物を基材の表面に付着させることができれば、特に限定されず、例えば、紫外線硬化性樹脂及び電子線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂の何れであってもよい。電離放射線硬化性樹脂は、放射線の照射によって重合してバインダー成分を生成する。なお、バインダー樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0073】
本明細書において、「バインダー樹脂」とは、特に言及しない限り、バインダー樹脂の原料となるモノマー及びこのモノマーが重合してなるオリゴマーなども包含する概念である。
【0074】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など)、ポリスチレン系樹脂などが挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0075】
熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0076】
電離放射線硬化性樹脂としては、多価アルコール多官能(メタ)アクリレートなどのような多官能(メタ)アクリレート樹脂;ジイソシアネート、多価アルコール、及びヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどから合成されるような多官能ウレタンアクリレート樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリエステル樹脂、アクリレート系の官能基を有するエポキシ樹脂、アクリレート系の官能基を有するアルキッド樹脂、アクリレート系の官能基を有するスピロアセタール樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリブタジエン樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリチオールポリエン樹脂などが挙げられる。
【0077】
電離放射線硬化性樹脂としては、多官能(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多価アルコール多官能(メタ)アクリレート樹脂がより好ましい。
【0078】
1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多価アルコール多官能(メタ)アクリレート樹脂としては、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリアクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。なお、電離放射線硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0079】
電離放射線硬化性樹脂のうち紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、紫外線硬化性樹脂に光重合開始剤を加えてバインダー樹脂とされる。光重合開始剤は、特に限定されない。
【0080】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、α-アミノアルキルフェノン、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001-139663号公報等に記載)、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、オニウム塩類、ボレート塩、活性ハロゲン化合物、α-アシルオキシムエステルなどが挙げられる。
【0081】
アセトフェノン類としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、1-ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-4-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノンなどが挙げられる。ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインベンゾエート、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4-ジクロロベンゾフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。ケタール類としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどのベンジルメチルケタール類などが挙げられる。α-ヒドロキシアルキルフェノン類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられる。α-アミノアルキルフェノン類としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノンなどが挙げられる。
【0082】
ウイルス感染阻止剤中におけるバインダー樹脂の含有量は、高分子化合物100質量部に対して100質量部以上が好ましく、200質量部以上がより好ましく、300質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤中におけるバインダー樹脂の含有量は、高分子化合物100質量部に対して1500質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましく、600質量部以下がより好ましい。バインダー樹脂の含有量が100質量部以上であると、ウイルス感染阻止剤の乾燥物を基材表面に強固に付着させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。バインダー樹脂の含有量が1500質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの相互作用を向上させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0083】
[表面調整剤]
ウイルス感染阻止剤は、表面調整剤を含有している。ウイルス感染阻止剤は、表面調整剤を含有していることによって、基材の表面に対するウイルス感染阻止剤の濡れ性を向上させ、ウイルス感染阻止剤を基材の表面に良好に付着させて、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0084】
表面調整剤としては、基材の表面に対するウイルス感染阻止剤の濡れ性を向上させる(ウイルス感染阻止剤の表面張力を低下させる)ことができれば、特に限定されず、例えば、シリコーン系表面調整剤、アクリル系表面調整剤、ポリオキシエチレン系表面調整剤、多価アルコール系表面調整剤、アルカノールアミド系表面調整剤などが挙げられる。表面調整剤は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害することなく、基材に対するウイルス感染阻止剤の濡れ性を向上させて、基材に対する付着性を向上させることができるので、シリコーン系表面調整剤、アクリル系表面調整剤が好ましく、シリコーン系表面調整剤がより好ましい。なお、表面調整剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0085】
シリコーン系表面調整剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン、ポリオキシエチレンヘプタメチルトリシロキサン、ポリオキシアルキレンオキシプロピルヘプタメチルトリシロキサン、ポリオキシエチレンプロピルヘプタメチルトリシロキサン、ポリアルキレンオキサイド変性ヘプタメチルトリシロキサン、ポリオキシエチレン変性ポリジメチルシロキサン、ポリアルキレンオキサイド変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルシロキサン、ポリエーテルトリシロキサン、ポリエーテルポリメチルシロキサンコポリマー、ポリエーテルポリジメチルシロキサンコポリマー、ポリオキシエチレンジメチルシロキサン、ポリアルキレンオキサイド変性ポリメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ヒドロキシプロピルヘプタメチルトリシロキサン、シロキサンポリアルキレンオキサイドコポリマーなどが挙げられる。
【0086】
アクリル系表面調整剤としては、少なくともアクリル系モノマーを重合させて得られるポリマーであれば、特に限定されるものではないが、少なくともアクリル酸アルキルエステルを重合させて得られる重合体が好ましく、少なくともアルキル基の炭素数が2~9であるアクリル酸アルキルエステルを重合させて得られるポリマーがより好ましい。
【0087】
アルキル基の炭素数が2~9であるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニルなどが挙げられる。
【0088】
ポリオキシエチレン系表面調整剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)フェニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)ベンジルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン(モノ、ジ又はトリ)ベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アルキルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル、ポリオキシエチレンビスフェニルエーテル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリオキシエチレンノニルフェノキシエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンまたはポリオキシエチレンロジンエステルなどが挙げられる。
【0089】
多価アルコール系表面調整剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンへキシタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0090】
アルカノールアミド系表面調整剤としては、特に限定されず、例えば、エタノールアミン、トリエタノールアミン、アルキルアルカノールアミドなどが挙げられる。
【0091】
表面調整剤の接触角は、10°以上が好ましく、12°以上がより好ましく、14°以上がより好ましい。表面調整剤の接触角は、30°以下が好ましく、29°以下がより好ましい。表面調整剤の接触角が10°以上であると、ウイルス感染阻止剤中におけるウイルス感染阻止剤の分散性が向上し、ウイルス感染阻止剤を基材表面に付着、乾燥させて生成される乾燥物を基材表面に均一に付着させることができると共に、ウイルス感染阻止剤の凝集を低減して、高分子化合物のアミノ官能基又はその塩とウイルスとの相互作用を向上させ、ウイルス感染阻止剤の乾燥物のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。表面調整剤の接触角が30°以下であると、ウイルス感染阻止剤の基材表面に対する濡れ性を向上させて、ウイルス感染阻止剤を基材の表面に良好に付着させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0092】
表面調整剤の接触角は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に表面調整剤2.0μLの液滴を滴下し、滴下直後の接触角を接触角計を用いて、θ/2法によって測定された値をいう。なお、接触装置としては、例えば、協和界面科学社から商品名「DMe-201」にて市販されている測定装置を用いることができる。
【0093】
ウイルス感染阻止剤中における表面調整剤の含有量は、高分子化合物100質量部に対して3質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤中における表面調整剤の含有量は、高分子化合物100質量部に対して300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましい。表面調整剤の含有量が3質量部以上であると、ウイルス感染阻止剤の基材表面に対する濡れ性を向上させて、ウイルス感染阻止剤を基材の表面に良好に付着させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。表面調整剤の含有量が300質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤の基材表面に対する濡れ性が適切な範囲に保持され、ウイルス感染阻止剤を基材の表面に良好に付着させることができ、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0094】
[水]
ウイルス感染阻止剤は、水を含有している。ウイルス感染阻止剤が水を含有して水系に構成されているので、ウイルス感染阻止剤の使用環境を良好に保持しながら、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0095】
ウイルス感染阻止剤は、水以外に、水と相溶性を有するアルコール性溶媒が含有されていてもよい。アルコール性溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、メタノール及びエタノールが好ましく、エタノールがより好ましい。なお、アルコール性溶媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0096】
ウイルス感染阻止剤中における水の含有量は、高分子化合物100質量部に対して700質量部以上が好ましく、1000質量部以上がより好ましく、2000質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤中における水の含有量は、高分子化合物100質量部に対して9000質量部以下が好ましく、7000質量部以下がより好ましく、5000質量部以下がより好ましい。水の含有量が700質量部以上であると、ウイルス感染阻止剤中におけるウイルス感染阻止剤の分散性が向上し、ウイルス感染阻止剤を基材表面に付着、乾燥させて生成される乾燥物を基材表面に均一に付着させることができると共に、ウイルス感染阻止剤の凝集を低減して、高分子化合物のアミノ官能基又はその塩とウイルスとの相互作用を向上させ、ウイルス感染阻止剤の乾燥物のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。水の含有量が9000質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤を基材表面に付着、乾燥させて生成される乾燥物が良好な抗ウイルス性を発揮するのに十分な量を確保でき、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0097】
[ウイルス感染阻止剤]
ウイルス感染阻止剤は、高分子化合物の作用によって、各種ウイルスに対してウイルス感染阻止効果を有し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0098】
エンベロープウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス[例えば、SARSウイルス、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)]、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルスなどが挙げられる。
【0099】
ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、ネコカリシウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【0100】
ウイルス感染阻止剤は、後述する基材の表面に塗工して乾燥させて乾燥物とし、この乾燥物を基材表面に付着させることによってウイルス感染阻止部材を製造することができる。このウイルス感染阻止部材は、ウイルス感染阻止剤の乾燥物によって優れたウイルス感染阻止効果が付与されている。
【0101】
ウイルス感染阻止剤は、表面調整剤を含有しており、基材に対する濡れ性が改善されている。従って、ウイルス感染阻止剤を基材表面に均一に付着させて、ウイルス感染阻止剤の乾燥物を凝集させることなく基材表面に付着させ、高分子化合物とウイルスとの相互作用を促進させて、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0102】
ウイルス感染阻止剤を含有させる基材としては、ウイルス感染阻止効果を付与したいものであれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0103】
合成樹脂成形体を構成する合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなど)などが挙げられる。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0104】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0105】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【0106】
基材中の高分子化合物の含有量は、基材100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がより好ましい。基材中の高分子化合物の含有量は、基材100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下がより好ましい。基材中の高分子化合物の含有量が0.1質量部以上であると、ウイルス感染阻止部材のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。基材中の高分子化合物の含有量が30質量部以下であると、基材の物性に影響を与えることなく、高分子化合物が凝集せず均一に分散しやすくなることで、ウイルス感染阻止効果が向上する。
【0107】
ウイルス感染阻止剤には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着などの添加剤が含有されていてもよい。
【実施例0108】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0109】
高分子化合物1~6を用意した。
【0110】
[高分子化合物]
・高分子化合物1[式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAA-15C」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物1の粉末を得た。
【0111】
【化5】
【0112】
・高分子化合物2[式(9)で示される繰り返し単位を有する]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAS-92」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物2の粉末を得た。
【0113】
【化6】
【0114】
・高分子化合物3[式(10)で示される繰り返し単位を有する]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAS-21」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物3の粉末を得た。
【0115】
【化7】
【0116】
・高分子化合物4[式(11)で示される繰り返し単位を有する]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAA-D19-HCL」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物4の粉末を得た。m:n=1:9であった。
【0117】
【化8】
【0118】
・高分子化合物5[式(12)で示される繰り返し単位を有する]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAS-411C」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物5の粉末を得た。m:n=3:1であった。
【0119】
【化9】
【0120】
・高分子化合物6[式(13)で示される繰り返し単位を有する]
ニットーボーメディカル社から商品名「PAS-M-1」にて市販されている高分子化合物を凍結乾燥し、高分子化合物6の粉末を得た。
【0121】
【化10】
【0122】
上記に示した構造式のうち、式(8)の如く表した構造式は、モノマー単位M1とモノマー単位M2とのランダムコポリマー、交互コポリマー又はブロックコポリマーを意味している。
【0123】
【化11】
【0124】
[高分子化合物の粒子の作製]
高分子化合物をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、高分子化合物の供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕して高分子化合物の粒子を得た。高分子化合物の粒子のD90粒子径を表1に示した。
【0125】
実施例及び比較例で用いた高分子化合物について、窒素原子含有率、重量平均分子量Mw、5%質量%水溶液の25℃におけるpH、及び、25℃におけるpKa1を表1に示した。なお、表1において、「5%質量%水溶液の25℃におけるpH」及び「25℃におけるpKa1」はそれぞれ、単に「pH」及び「pKa1」と表記した。
【0126】
[バインダー樹脂]
・バインダー樹脂1(アクリル系樹脂のエマルジョン(固形分:40質量%)、昭和電工社製 商品名「ポリゾールAM-200」)
【0127】
[表面調整剤]
・シリコーン系表面調整剤1(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-3450」)
・シリコーン系表面調整剤2(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-347」)
・シリコーン系表面調整剤3(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-3451」)
・シリコーン系表面調整剤4(ポリエーテル変性ポリシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-345」)
・シリコーン系表面調整剤5(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-3456」)
・シリコーン系表面調整剤6(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-349」)
・シリコーン系表面調整剤7(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-3455」)
・アクリル系表面調整剤1(アクリル系共重合物、ビックケミー・ジャパン社製 商品名「BYK-381」)
【0128】
(実施例1~13及び比較例1)
上述の要領で作製された表1に示した高分子化合物の粒子3質量部、表1に示した表面調整剤1質量部、表1に示したバインダー樹脂13質量部(固形分)、及び、水83質量部を均一に混合してウイルス感染阻止剤を得た。なお、水の質量は、バインダー樹脂の分散媒である水の質量を含めた質量である。
【0129】
ウイルス感染阻止剤をポリエチレンテレフタレートフィルム上にワイヤーバーコーター♯4を用いて厚み8μmに塗工した後、室温(25℃)で1時間乾燥させ、更に、120℃にて1時間乾燥させて塗膜を得た。
【0130】
ウイルス感染阻止剤について、撥水性及び抗ウイルス性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0131】
[撥水性]
上述の要領で塗膜を作製した時に、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にウイルス感染阻止剤を塗工した塗工面積S1と、ポリエチレンテレフタレートフィルム上においてウイルス感染阻止剤がはじかれた(塗膜が形成されなかった)面積S1とを測定し、下記式に基づいて撥水率(%)を算出し、下記基準に基づいて評価した。
撥水率(%)=100×S1/S1
A・・・撥水率が1%未満であった。
B・・・撥水率が1%以上で且つ5%未満であった。
C・・・撥水率が5%以上であった。
【0132】
[抗ウイルス性]
上述で得られた塗膜を用いて、ネコカリシウイルス(ノンエンベロープウイルス)及びインフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)を用いて下記の要領で抗ウイルス試験を行った。
【0133】
(抗ウイルス試験)
塗膜が形成されたポリエチレンテレフタレートを一辺が5.0cmの平面正方形状に切り出すことによって試験片を作製した。試験片の表面に形成された塗膜を試験塗膜とした。
【0134】
得られた試験塗膜について、ネコカリシウイルス及びインフルエンザウイルスの抗ウイルス試験(試験時間:24時間)をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出した。
【0135】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。ブランク塗膜のウイルス感染価(常用対数値)は、6.5PFU/cm2であった。
【0136】
ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0137】
【表1】