(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066804
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電動機駆動制御装置および該方法ならびに電動機駆動制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/00 20160101AFI20240509BHJP
【FI】
H02P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176516
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏明
(72)【発明者】
【氏名】野木 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】林 俊平
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505BB03
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG03
5H505GG04
5H505GG07
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL38
5H505LL42
(57)【要約】
【課題】本発明は、構成を簡素化できる電動機駆動制御装置、電動機駆動制御方法および電動機駆動制御システムを提供する。
【解決手段】本発明の電動機駆動制御装置は、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する装置であって、複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択する選択部12と、選択部12で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部13とを備え、前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数であり、選択部12は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御装置であって、
複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択する選択部と、
前記選択部で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部とを備え、
前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数であり、
前記選択部は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する、
電動機駆動制御装置。
【請求項2】
前記選択部は、
前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成する電圧パターン生成部と、
前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合での、前記電動機における前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、
前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で前記評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択部とを備える、
請求項1に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項3】
前記電動機を動力源として移動する所定のツールと、
前記ツールにおける所定の箇所の位置を測定する位置測定部とをさらに備え、
前記複数の制御方式は、前記ツールの位置偏差または前記位置偏差に基づく前記電動機の速度偏差に基づき制御する第1制御方式と、前記電動機のトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機の電流偏差に基づき制御する第2制御方式とであり、
前記選択部は、前記位置偏差と目標位置に対する所定の第1偏差閾値との第1比較結果および前記トルク偏差または前記電流偏差と所定の第2偏差閾値との第2比較結果に基づき第1制御方式と第2制御方式とを切り換える、
請求項1に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項4】
前記選択部は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させることによって、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する、
請求項1に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項5】
インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御方法であって、
複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御工程とを備え、
前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数であり、
前記選択工程は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する、
電動機駆動制御方法。
【請求項6】
前記選択工程は、
前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成する電圧パターン生成工程と、
前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合での、前記電動機における前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、
前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測工程で予測された前記電動機の各予測値の中で前記評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択工程とを備える、
請求項5に記載の電動機駆動制御方法。
【請求項7】
前記電動機を動力源として移動する所定のツールと、
前記ツールにおける所定の箇所の位置を測定する位置測定部とをさらに備え、
前記複数の制御方式は、前記ツールの位置偏差または前記位置偏差に基づく前記電動機の速度偏差に基づき制御する第1制御方式と、前記電動機のトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機の電流偏差に基づき制御する第2制御方式とであり、
前記選択工程は、前記位置偏差と目標位置に対する所定の第1偏差閾値との第1比較結果および前記トルク偏差または前記電流偏差と所定の第2偏差閾値との第2比較結果に基づき第1制御方式と第2制御方式とを切り換える、
請求項5に記載の電動機駆動制御方法。
【請求項8】
前記選択工程は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させることによって、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する、
請求項5に記載の電動機駆動制御方法。
【請求項9】
電動機と、
前記電動機を駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御することで前記電動機を制御する電動機駆動制御部とを備え、
前記電動機駆動制御部は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動機駆動制御装置である、
電動機駆動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の駆動を制御する電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法に関する。そして、本発明は、前記電動機駆動制御装置を備える電動機駆動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、動力源として様々なシステムに用いられており、前記システムの用途に応じて適宜にその駆動が制御される。例えば、電動機の速度を制御する速度制御や、電動機の推力(出力トルク)を制御する推力制御(トルク制御)等がある。これら各制御方式間の相互移行では、制御方式自体を切り換えることが一般的であり、例えば、特許文献1に開示された技術がある。
【0003】
この特許文献1に開示されたモータ制御装置は、エンコーダを備えたモータを制御するモータ制御装置であって、前記モータによって駆動される機械負荷が加圧対象物に接近し、かつ、前記機械負荷の最終位置が前記加圧対象物の一定距離手前となるべき指令値である位置指令を生成する位置指令生成部と、前記エンコーダで検出された前記モータの位置が前記位置指令に追従するように第1の速度指令を出力する位置制御部と、前記加圧対象物に加えるべき圧力または力の指令値である圧力指令を生成する圧力指令生成部と、前記機械負荷が前記加圧対象物に押し当てられたときに、前記機械負荷で検出された圧力または力が前記圧力指令に追従するように第2の速度指令を出力する圧力制御部と、前記機械負荷が前記加圧対象物に接触する際の前記モータの速度の上限を規定するクリープ速度と、前記第1の速度指令と、前記第2の速度指令との何れか1つを選択し、前記モータが動作すべき速度指令として出力する速度指令選択部と、前記速度指令選択部が出力する速度指令に前記モータの速度が追従するように前記モータに電流を供給する電流指令を出力する速度制御部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示されたモータ制御装置は、異なる複数の制御方式ごとに複数の制御部を備えるため、その構成が複雑になってしまっている。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、構成を簡素化できる電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法ならびに前記電動機駆動制御装置を備える電動機駆動制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる電動機駆動制御装置は、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する装置であって、複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択する選択部と、前記選択部で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部とを備え、前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数であり、前記選択部は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【0008】
このような電動機駆動制御装置は、評価関数の制御方式対応重み係数を変えることによって制御方式を切り換えるので、電動機を駆動するインバータ回路を制御するインバータ制御部の構成を簡素化でき、したがって、上記電動機駆動制御装置の構成が簡素化できる。
【0009】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御装置において、前記選択部は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成する電圧パターン生成部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合での、前記電動機における前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で前記評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択部とを備える。好ましくは、前記選択部は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成する電圧パターン生成処理を実施する電圧パターン生成部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合での、前記電動機における前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測処理を実施する予測部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で前記評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択処理を実施する電圧パターン選択部とを備え、前記インバータ制御部は、前記選択部で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御処理を実施し、前記電動機駆動制御装置は、前記電圧パターン生成処理、前記予測処理、前記電圧パターン選択処理および前記インバータ制御処理を、前記電圧パターン生成部、前記予測部、前記電圧パターン選択部および前記インバータ制御部に、所定の制御周期で繰り返し実施させる繰返し制御部をさらに備える。
【0010】
このような電動機駆動制御装置は、有限時間における最適化を繰り返す、いわゆるモデル予測制御を用いるので、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機に生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0011】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御装置において、前記電動機を動力源として移動する所定のツールと、前記ツールにおける所定の箇所の位置を測定する位置測定部とをさらに備え、前記複数の制御方式は、前記ツールの位置偏差または前記位置偏差に基づく前記電動機の速度偏差に基づき制御する第1制御方式と、前記電動機のトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機の電流偏差に基づき制御する第2制御方式とであり、前記選択部は、前記位置偏差と目標位置に対する所定の第1偏差閾値との第1比較結果および前記トルク偏差または前記電流偏差と所定の第2偏差閾値との第2比較結果に基づき第1制御方式と第2制御方式とを切り換える。
【0012】
このような電動機駆動制御装置は、電動機を動力源とするツールに、第1制御方式で例えば張り付け動作をさせることができ、第2制御方式で例えば押し込み動作をさせることができ、これら張り付け動作と押し込み動作とを切り換える際に、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機に生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0013】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御装置において、前記選択部は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させることによって、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【0014】
このような電動機駆動制御装置は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させるので、円滑な制御方式の移行を実現できる。
【0015】
本発明の他の一態様にかかる電動機駆動制御方法は、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する方法であって、複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択する選択工程と、前記選択工程で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路を制御するインバータ制御工程とを備え、前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数であり、前記選択工程は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【0016】
このような電動機駆動制御方法は、評価関数の制御方式対応重み係数を変えることによって制御方式を切り換えるので、電動機を駆動するインバータ回路を制御するインバータ制御部の構成を簡素化でき、したがって、前記インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御装置の構成が簡素化できる。
【0017】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御方法において、前記選択工程は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成する電圧パターン生成工程と、前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合での、前記電動機における前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測工程で予測された前記電動機の各予測値の中で前記評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択工程とを備える。
【0018】
このような電動機駆動制御方法は、有限時間における最適化を繰り返す、いわゆるモデル予測制御を用いるので、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機に生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0019】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御方法において、前記電動機を動力源として移動する所定のツールと、前記ツールにおける所定の箇所の位置を測定する位置測定部とをさらに備え、前記複数の制御方式は、前記ツールの位置偏差または前記位置偏差に基づく前記電動機の速度偏差に基づき制御する第1制御方式と、前記電動機のトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機の電流偏差に基づき制御する第2制御方式とであり、前記選択部は、前記位置偏差と目標位置に対する所定の第1偏差閾値との第1比較結果および前記トルク偏差または前記電流偏差と所定の第2偏差閾値との第2比較結果に基づき第1制御方式と第2制御方式とを切り換える。
【0020】
このような電動機駆動制御方法は、電動機を動力源とするツールに、第1制御方式で例えば張り付け動作をさせることができ、第2制御方式で例えば押し込み動作をさせることができ、これら張り付け動作と押し込み動作とを切り換える際に、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機に生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0021】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御方法において、前記選択工程は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させることによって、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【0022】
このような電動機駆動制御方法は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させるので、円滑な制御方式の移行を実現できる。
【0023】
本発明の他の一態様にかかる電動機駆動制御システムは、電動機と、前記電動機を駆動するインバータ回路と、前記インバータ回路を制御することで前記電動機を制御する電動機駆動制御部とを備え、前記電動機駆動制御部は、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置である。
【0024】
これによれば、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置を備えた電動機駆動制御システムが提供できる。このような電動機駆動制御システムは、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置を備えるので、その構成が簡素化できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、構成を簡素化できる。本発明によれば、この電動機駆動制御装置を備えた電動機駆動制御システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態における電動機駆動制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】前記電動機駆動制御システムにおけるMPC制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】前記電動機駆動制御システムにおけるインバータ回路の構成を示す回路図である。
【
図4】前記インバータ回路で出力可能な電圧を示すベクトル図である。
【
図5】前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンの一例を説明するための図である。
【
図6】前記電動機駆動制御システムの一適用例を説明するための図である。
【
図7】前記電動機駆動制御システムにおける動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図7に示すフローチャートにおいて、前記一適用例での制御方式対応重み係数に関する処理を示すフローチャートである。
【
図9】第2変形形態として、
図7に示すフローチャートにおいて、制御方式対応重み係数に関する処理(第2変形形態の処理)を示すフローチャートである。
【
図10】第2変形形態において、制御方式対応重み係数の変化を示すグラフである。
【
図11】一例として、シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0028】
図1は、実施形態における電動機駆動制御システムの構成を示すブロック図である。
図2は、前記電動機駆動制御システムにおけるMPC制御部の構成を示すブロック図である。
図3は、前記電動機駆動制御システムにおけるインバータ回路の構成を示す回路図である。
図4は、前記インバータ回路で出力可能な電圧を示すベクトル図である。
図5は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンの一例を説明するための図である。
図6は、前記電動機駆動制御システムの一適用例を説明するための図である。
図6Aは、前記電動機駆動制御システムが適用される押当て装置の構成を示し、
図6Bは、各制御方式のタイムチャートを示す。
【0029】
実施形態における電動機駆動制御システムは、電動機を、制御しつつ、駆動するシステムであり、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御装置を備える。本実施形態では、電動機駆動制御システムSは、モデル予測制御を用いたベクトル制御によって、電動機を、制御しつつ、駆動する。このような電動機駆動制御システムSは、例えば、
図1に示すように、電動機Mと、インバータ回路IVと、PWM変調器PWと、2相3相変換部CV1と、モデル予測制御部MCと、3相2相変換部CV2と、電流測定部CSと、速度測定部VSとを備える。このような電動機駆動制御システムSは、例えば、
図6に示す押当て装置Dに適用され、比例制御部PCと、減算部SUと、位置測定部PSとをさらに備える。
【0030】
電動機Mは、インバータ回路IVに接続され、インバータ回路IVの交流出力で駆動される電動機である。例えば、電動機Mは、インバータ回路IVから出力されるU相、V相およびW相の三相交流電流で駆動される同期電動機、より具体的には、本実施形態では永久磁石式同期電動機(permanent magnet synchronous motor、PMSM)である。より詳しくは、本実施形態では、電動機Mは、リニア式のPMSMであるが、回転式のPMSMであってもよい。なお、電動機Mは、これに限定されるものではなく、例えば、誘導電動機(induction motor、IM)やSRモータ(Switched Reluctance motor、SRM)等の他の種類であってもよい。
【0031】
図6に示す一適用例では、電動機駆動制御システムSは、押当て装置Dの電動機(ここではリニア式のPMSM)Mを前記電動機Mの一例として制御する。この押当て装置Dは、電動機Mと、この電動機Mを動力源として稼働する押当てツールTLと、前記押当てツールTLにおける所定の箇所(例えば先端)の位置を測定する位置測定部PSとを備える。電動機Mは、固定子STと、電磁的な相互作用により前記固定子STに対し出没方向にリニアに移動する可動子RTとを備える。押当てツールTLは、例えば円柱状の部材であり、押当てツールTLを電動機Mの可動子RTに連結し支持する板状の連結支持部材HSによって前記可動子RTに連結される。押当てツールTLは、連結支持部材HSを介して可動子RTの移動により、ワークWKに対しその先端が離接する。可動子RTがワークWKに向かう方向に移動すると、押当てツールTLの先端は、ワークWKに近接し、当接し、そして、押し込められる。位置測定部PSは、例えば、固定子STに対する可動子RTの位置(出没量)を検出するリニア式エンコーダであり、前記検出した可動子RTの位置と可動子RTの出没方向の寸法(長さ)とから前記先端の位置を測定する。位置測定部PSは、その測定した前記先端の位置を減算部SUに出力する。なお、位置測定部PSは、このようなリニア式エンコーダに限らず、押当てツールTLにおける先端の位置を測定できれば、他の装置であってよい。
【0032】
図1に戻って、PWM変調器PWは、変更可能なパルス幅で矩形波を出力する回路であり、インバータ回路IVは、直流電力を交流電力に変換する回路であり、本実施形態では、PWM変調器PWおよびインバータ回路IVにより、三相交流電力で電動機を駆動する、いわゆる3相PWMインバータモータドライバが構成される。これらPWM変調器PWおよびインバータ回路IVは、2相3相変換部CV1を介してモデル予測制御部MCに接続され、モデル予測制御部MCの制御に従って、所定の直流電源Vdcからの直流電力を、所定の周波数の交流電力へ変換する。より具体的には、PWM変調器PWは、モデル予測制御部MCの制御に従った周波数およびパルス幅の矩形波を後述の制御信号(IV制御信号)としてインバータ回路IVへ出力する回路である。インバータ回路IVは、PWM変調器PWに接続され、PWM変調器PWからのIV制御信号に従って、直流電源Vdcの直流電力を、所定の周波数の交流電力へ変換する回路である。インバータ回路IVは、例えば、
図3に示すように、直列に接続された2個のスイッチング素子Trを1組として、互いに並列に接続された3組Tr1、Tr4;Tr2、Tr5;Tr3、Tr6を備える。より具体的には、インバータ回路IVは、6個の第1ないし第6スイッチングTr1~Tr6を備える。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の、オンオフするスイッチ機能を持つ電力用半導体素子である。第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3の各一方端子(例えば各コレクタ端子)は、それぞれ、直流電源Vdcの一方端子に接続される。第1スイッチング素子Tr1の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第4スイッチング素子Tr4の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。第2スイッチング素子Tr2の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第5スイッチング素子Tr5の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。第3スイッチング素子Tr3の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第6スイッチング素子Tr6の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。これら第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6の各他方端子(例えば各エミッタ端子)は、それぞれ、直流電源Vdcの他方端子に接続される。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6における、スイッチング素子TrをオンオフするためのIV制御信号が入力される各制御端子(例えばゲート端子)は、PWM変調器PWに接続される。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6それぞれにおいて、その一方端子と他方端子との各間それぞれには、他方端子にアノード端子を接続した各ダイオードD1~D6が接続される。そして、第1スイッチング素子Tr1と第4スイッチング素子Tr4とを接続する第1接続点は、例えばU相の交流電流を出力し、電動機MのU相を接続する入力端子に接続される。第2スイッチング素子Tr2と第5スイッチング素子Tr5とを接続する第2接続点は、例えばV相の交流電流を出力し、電動機MのV相を接続する入力端子に接続される。第3スイッチング素子Tr3と第6スイッチング素子Tr6とを接続する第3接続点は、例えばW相の交流電流を出力し、電動機MのW相を接続する入力端子に接続される。このような構成では、インバータ回路IVは、いわゆる2レベル3相インバータ回路であり、各組の一方のスイッチング素子Tr1、Tr2、Tr3と他方のスイッチング素子Tr4、Tr5、Tr6とは、互いに逆のスイッチング態様(一方がオンの場合には他方がオフで、一方がオフの場合には他方がオンである態様)となるように、PWM変調器PWからのIV制御信号に従って制御され、直流電源Vdcの直流電力を変換してU相、V相およびW相の3相の交流電流を電動機Mへ出力する。
【0033】
電流測定部CSは、3相2相変換部CV2に接続され、インバータ回路IVから電動機Mへ流れる電流、本実施形態では、U相電流、V相電流およびW相電流それぞれを測定し、その各測定結果を3相2相変換部CV2へ出力する装置である。電流測定部CSは、例えば交流電流計を備えて構成される。
【0034】
速度測定部VSは、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2およびモデル予測制御部MCそれぞれに接続され、電動機Mにおける可動子RTの速度を測定し、その測定結果の速度を2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2およびモデル予測制御部MCそれぞれに出力する装置である。速度測定部VSは、位置測定部PSの測定結果を時間微分することによって速度を求める。速度測定部VSは、これに限らず他の構成であってもよく、例えばレーザドップラ式の速度センサ等を備えて構成されてもよい。
【0035】
なお、電動機Mが回転式のPMSMである場合、速度測定部VSに代え、回転角度測定部(不図示)が用いられ、モデル予測制御部MCには回転速度処理部(不図示)を介して出力される。前記回転角度測定部は、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および前記回転速度処理部それぞれに接続され、電動機Mにおける磁極位置を角度で測定し、その測定結果(回転角度、電気角(=機械角/電動機Mの極対数))を2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および前記回転速度処理部それぞれに出力する装置である。前記回転角度測定部は、例えば、ロータリエンコーダ(パルスジェネレータ)や、ホールIC等を備えて構成される。なお、センサレスの場合には、前記回転角度測定部は、電動機Mのモデルを用いて電流および電圧から電動機Mの回転角度を求めてもよい。前記回転速度処理部は、モデル予測制御部MCに接続され、前記回転角度測定部から入力された測定結果(回転角度)から、電動機Mの回転速度を求め、この求めた回転速度をモデル予測制御部MCへ出力するものである。例えば、前記回転角度測定部で測定された回転角度を時間微分して電動機Mの極対数pの逆数を乗じることによって回転速度が求められる。
【0036】
2相3相変換部CV1は、モデル予測制御部MCおよびPWM変調器PWMそれぞれに接続され、速度測定部VSから入力された測定結果(速度)およびモデル予測制御部MCで後述のように求められた電圧パターンに基づく目標電圧vd
*、vq
*から、この目標電圧vd
*、vq
*に対応する目標のU相電流、V相電流およびW相電流をインバータ回路IVから出力するようにPWM変調器PWを制御するための制御信号(PWM制御信号)を求め、このPWM制御信号をPWM変調器PWへ出力するものである。
【0037】
3相2相変換部CV2は、モデル予測制御部MCに接続され、電流測定部CSから入力された測定結果(U相電流、V相電流およびW相電流)および速度測定部VSから入力された測定結果(速度)から、いわゆるクラーク(Clarke)変換およびパーク(Park)変換によって、励磁電流(d軸電流)idおよびトルク分電流(q軸電流)iqを求め、この求めたd軸電流idおよびq軸電流iqをモデル予測制御部MCへ出力するものである。
【0038】
モデル予測制御部MCは、モデル予測制御を用いたベクトル制御によって、電動機MをPWM変調器PWおよびインバータ回路IVを介して駆動制御するものである。モデル予測制御部MCは、より具体的には、例えば、
図2に示すように、制御部11と、選択部12と、インバータ制御部13とを備える。
【0039】
制御部11は、電動機駆動制御システムSの各部を当該各部の機能に応じて制御し、電動機駆動制御システムS全体の制御を司るものである。
【0040】
選択部12は、複数の出力候補の中から所定の評価関数によって1つの出力候補を選択するものである。インバータ制御部13は、前記選択部12で選択した出力候補を出力するように、前記インバータ回路IVを制御するものである。前記評価関数は、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数である。例えば、前記評価関数は、複数の制御方式それぞれについて、当該制御方式に対応する制御方式対応項に制御方式対応重み係数を乗算し、各乗算結果を線形結合した多項式である。選択部12は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
【0041】
より具体的には、選択部12は、電圧パターン生成部121と、予測部122と、電圧パターン選択部123とを機能的に備える。
【0042】
電圧パターン生成部121は、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、前記複数の出力候補として生成するものである。すなわち、電圧パターン生成部121は、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成処理を実施する。インバータ回路IVは、本実施形態では、上述のように、2レベル3相インバータであるので、第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6のスイッチング態様に応じて、
図4に示すように、2
3=8通りの電圧を出力できる。なお、電圧ベクトルV
0は、第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3がオフであって第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6がオンであり、電動機Mに給電されない場合(V
0=(0、0、0))である。電圧ベクトルV
7は、第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3がオンであって第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6がオフであり、電動機Mに給電されない場合(V
7=(0、0、0))である。時系列な電圧パターンは、予測する制御周期数である予測ホライズン、および、制御入力である電圧を可変とする制御周期数である制御ホライズンによって決定される。このため、モデル予測制御部MCには、予め予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値が、モデル予測制御の仕様等に応じて適宜に予め設定され、電圧パターン生成部121は、インバータ回路IVで出力可能な電圧(上述では8通り)、予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値に応じて互いに異なる複数の時系列な電圧パターンを生成する。
図5には、一例として、予測ホライズンN
pが2であり、制御ホライズンN
cが1である場合のインバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンが樹形図で図示されている。
図5では、現在のN番目の制御における電圧に対し、予測ホライズンN
pが2であるので、次の(N+1)番目の制御における電圧と、さらに次の(N+2)番目の制御における電圧とが予測され、制御ホライズンN
cが1であるので、インバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンは、現在のN番目の制御における電圧から、次の(N+1)番目の制御では、8通りの電圧V
0~V
8に分岐し、さらに次の(N+2)番目の制御では、各電圧V
0~V
8から、それぞれ当該電圧V
0~V
8に維持された8組の時系列な電圧パターンである。なお、他の一例として、予測ホライズンが2であり、制御ホライズンが2である場合、現在のN番目の制御における電圧に対し、予測ホライズンが2であるので、次の(N+1)番目の制御における電圧と、さらに次の(N+2)番目の制御における電圧とが予測され、制御ホライズンが2であるので、インバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンは、(N+1)番目の制御および(N+2)番目の制御それぞれで8通りの電圧V
0~V
8に分岐し、64組の時系列な電圧パターンである。
【0043】
予測部122は、電圧パターン生成部121で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合での、前記電動機Mにおける前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測するものである。すなわち、予測部122は、電圧パターン生成部121で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合での、前記電動機Mにおける前記制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測処理を実施する。本実施形態では、制御方式は、
図1および
図6に示す場合、押当てツールTLの位置偏差または前記位置偏差に基づく電動機Mの速度偏差に基づき制御する第1制御方式(位置制御、速度制御)と、前記電動機Mのトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機Mの電流偏差に基づき制御する第2制御方式(トルク制御、電流制御)とであり、第1制御方式と第2制御方式との切り換えでは、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数が、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定される。これにより、制御方式(制御モード)の移行(一方の制御方式から他方の制御方式への移行)が実現される。
【0044】
より具体的には、本実施形態では、位置制御およびトルク制御が実施されるので、電動機Mにおける制御方式に応じた制御目的に関する所定の物理量は、速度および電流である。このため、予測部122は、k番目の制御におけるd軸電流id(k)、q軸電流iq(k)、速度vm(k)およびd軸電圧vd(k)から、次式1を用いることによって、(k+1)番目の制御におけるd軸電流id
P(k+1)を予測し、k番目の制御におけるd軸電流id(k)、q軸電流iq(k)、速度vm(k)およびq軸電圧vq(k)から、次式2を用いることによって、(k+1)番目の制御におけるq軸電流iq
P(k+1)を予測する。これら予測した、(k+1)番目の制御におけるd軸電流id
P(k+1)およびq軸電流iq
P(k+1)から、予測部122は、次式3を用いることによって、(k+1)番目の制御におけるトルクFe
P(k+1)を予測し、次式4を用いることによって、(k+1)番目の制御における速度vm
P(k+1)を予測する。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
ここで、id
P(k)は、k番目の制御におけるd軸電流の予測値であり、iq
P(k)は、k番目の制御におけるq軸電流の予測値であり、Fe
P(k)は、k番目の制御におけるトルクの予測値であり、vm
P(k)は、k番目の制御における速度の予測値である。Tsは、制御周期(サンプリング間隔)である。Rは、電動機Mの巻線抵抗であり、pは、電動機Mにおける極対数であり、Ψは、電動機Mにおける永久磁石の鎖交磁束であり、Mは、電動機Mにおける可動子RTの質量であり、Dは、電動機Mにおける可動子RTの動摩擦抵抗であり、τは、電動機Mにおける磁極ピッチ(磁極間の距離)である。Ldは、d軸インダクタンスであり、Lqは、q軸インダクタンスである。本実施形態では、電動機Mが永久磁石式同期電動機であるので、次式5となる。なお、現在、k番目の制御の場合、(k)は、測定値であることを表し、(k+1)、(k+2)、(k+3)、・・・は、予測値であることを表している。
【0050】
【0051】
式4のF^l(k)は、k番目の制御における負荷トルクである。式4では、Fの上に^が記載されているが、表記の都合上、ここでは、Fの後に、^が記載されている。負荷トルクF^l(k)には、電動機駆動制御システムSがトルクを検出するトルクセンサをさらに備え、現在、k番目の制御の場合、前記トルクセンサによって測定された測定値が用いられてもよいが、前記トルクセンサの配置が難しい場合には、例えば、次式6によって負荷トルクF^l(k)が推定される。
【0052】
【0053】
上述の例では、現在のk番目の制御において、2制御周期先までのdq軸電流[idq(k+1)、idq(k+2)]および速度[vm(k+1)、vm(k+2)]が予測され、8通りの各電圧パターンが求められる。
【0054】
電圧パターン選択部123は、電圧パターン生成部121で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、予測部122で予測された電動機Mの各予測値の中で評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択するものである。すなわち、電圧パターン選択部123は、電圧パターン生成部121で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、予測部122で予測された電動機Mの各予測値の中で評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを前記1つの出力候補として選択する電圧パターン選択処理を実施する。
【0055】
前記評価関数は、上述したように、互いに異なる複数の制御方式それぞれに対応した複数の制御方式対応項および複数の制御方式対応重み係数を含む関数である。複数の制御方式は、上述したように、本実施形態では、位置制御およびトルク制御である。このため、複数の制御方式対応項は、位置偏差、ここでは位置偏差に基づく速度偏差の第1項gs(k)、および、前記電動機Mのトルク偏差、つまり電流偏差の第2項gc(k)である。第2項gc(k)は、q軸電流の電流偏差の第2q項gcq(k)およびd軸電流の電流偏差の第2d項gcd(k)で構成される。本実施形態では、第1項gs(k)、第2q項gcq(k)および第2d項gcd(k)それぞれの制御方式対応重み係数をa、b、cとした場合、評価関数は、次式7-1に示すように、これらの線形結合によって表され、第1項g、(k)、第2q項gcq(k)および第2d項gcd(k)は、それぞれ、次の式7-2、式7-3および式7-4によって表される。
【0056】
【0057】
ここで、永久磁石式同期電動機の場合、無駄な給電を防止するために、トルクの発生に寄与しないd軸電流idを0に保持することが重要であることから、第2d項gcd(k)は、上記式7-4のように規定されている。
【0058】
vm
*(k)は、k番目の制御における目標速度であり、外部からモデル予測制御部MCに入力されてよいが、本実施形態では、比例制御部PCからモデル予測制御部MCに入力される。
【0059】
より具体的には、減算部SUは、位置測定部PSおよび比例制御部PCそれぞれに接続され、外部から入力される、k番目の制御における押当てツールTLの先端の目標位置Xm
*(k)から、位置測定部PSから入力された、k番目の制御における押当てツールTLの先端の位置Xm(k)を減算し、その減算結果(=Xm
*(k)-Xm(k)、前記押当てツールTLの位置偏差)を比例制御部PCへ出力する。比例制御部PCは、減算部SUから入力された前記減算結果に所定のゲインを乗算することによって比例制御してk番目の制御における目標速度vm
*(k)を生成し、モデル予測制御部MCへ出力する。そして、電圧パターン選択部123は、比例制御部PCから入力された目標速度vm
*(k)、および、速度測定部VSから入力された速度vm(k)を用いることによって、上記式7-2で第1項gs(k)を求める。なお、可動子RTの速度Vmと押当てツールTLにおける先端の速度とが比例する場合、速度測定部VSが省略され、位置測定部PSで測定した、押当てツールTLにおける先端の位置Xmを時間微分することによって、可動子RTの速度Vmが求められて用いられてもよい。
【0060】
iq
*(k)は、k番目の制御における目標q軸電流であり、外部からモデル予測制御部MCに入力されてよいが、本実施形態では、モデル予測制御部MCの電圧パターン選択部123は、次式8によって、k番目の制御における目標トルクFe
*(k)から、k番目の制御における目標q軸電流iq
*(k)を求める。すなわち、モデル予測制御部MCには、本実施形態では、外部から、k番目の制御における目標トルクFe
*(k)が入力される。そして、電圧パターン選択部123は、この求めた目標q軸電流iq
*(k)、および、3相2相変換部CV2から入力されたq軸電流iq(k)を用いることによって、上記式7-3で第2q項gcq(k)を求める。
【0061】
【0062】
電圧パターン選択部123は、3相2相変換部CV2から入力された、k番目の制御におけるd軸電流id(k)を用いることによって、上記式7-4で第2d項gcd(k)を求める。
【0063】
電圧パターン選択部123は、制御方式を切り換える場合に、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。
図1および
図6に示す例では、前記押当てツールTLの位置偏差または前記位置偏差に基づくリニア永久磁石式電動機RMの速度偏差に基づき制御する第1制御方式の場合には、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数aを、第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数b、cより優位に設定し、前記リニア永久磁石式電動機RMのトルク偏差または前記トルク偏差基づく前記電動機の電流偏差に基づき制御する第2制御方式の場合には、第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数b、cを、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数aより優位に設定する。より具体的には、電圧パターン選択部123は、前記位置偏差と目標位置に対して予め適宜に設定された所定の第1偏差閾値との第1比較結果および前記トルク偏差または前記電流偏差と予め適宜に設定された所定の第2偏差閾値との第2比較結果に基づき第1制御方式と第2制御方式とを切り換える。より詳しくは、例えば
図6Bに示すように、第1制御方式に関し第2制御方式を有効可能にする有効可能位置X
m_swが、前記第1偏差閾値として、目標位置X
m
*に対し予め適宜に設定され、位置X
mが有効可能位置X
m_swを超え、かつ、q軸電流偏差の絶対値|i
q
*-i
q|が第2偏差閾値△i
qを下回る場合(X
m_sw<X
mおよび|i
q
*-i
q|<△i
qが共に成立する場合)に、電圧パターン選択部123は、第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数b、cをb
0、c
0に設定すると共に、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数aを0に設定する(a=0、b=b
0、c=c
0、b
0、c
0>0)。これにより第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係b
0、c
0が、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数0より優位に設定され、電動機Mは、第2制御方式(トルク制御)で制御される。一方、残余の場合(X
m_sw<X
mおよび|i
q
*-i
q|<△i
qの少なくとも一方が成立しない場合)に、電圧パターン選択部123は、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数aをa
0に設定すると共に、第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数b、cを0、c
0に設定する(a=a
0、b=0、c=c
0、a
0、c
0>0)。これにより第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数a
0が、第2q項g
cq(k)および第2d項g
cd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数0、c
0より優位に設定され、電動機Mは、第1制御方式(位置制御)で制御される。
【0064】
このようなモデル予測制御部MC、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2、減算部SUおよび比例制御部PCは、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよびその周辺回路を備えて構成されるマイクロプロセッサで構成可能であり、モデル予測制御部MCにおける制御部11、選択部12およびインバータ制御部13、2相3相変換部CV1、ならびに、3相2相変換部CV2は、所定のプログラムの実行により、前記CPUに機能的に構成される。選択部12には、電圧パターン生成部121、予測部122および電圧パターン選択部123が所定のプログラムの実行により、前記CPUに機能的に構成される。
【0065】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図7は、前記電動機駆動制御システムにおける動作を示すフローチャートである。
図8は、
図7に示すフローチャートにおいて、前記一適用例での制御方式対応重み係数に関する処理を示すフローチャートである。
【0066】
このような電動機駆動制御システムSでは、電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。そして、例えば、プログラムの実行によって、前記CPUには、モデル予測制御部MC、2相3相変換部CV1および3相2相変換部CV2が機能的に構成され、モデル予測制御部MCには、制御部11、選択部12およびインバータ制御部13が機能的に構成され、選択部12には、電圧パターン生成部121、予測部122および電圧パターン選択部123が機能的に構成される。
図6に示す例では、前記CPUには、さらに、減算部SUおよび比例制御部PCが機能的に構成される。
【0067】
そして、
図7に示す処理S11ないし処理S16の各処理が、電動機Mの駆動が停止されるまで、制御部11によって所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
【0068】
図7において、まず、今回(k番目)において、電流測定部CSによって測定された各相の電流値が取得され、速度測定部VSによって測定された速度の値が取得される(S11)。電流測定部CSは、この取得した各相の電流値を、3相2相変換部CV2へ出力し、速度測定部VSは、この取得した速度を、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2およびモデル予測制御部MCそれぞれへ出力する。そして、
図6に示す例では、この処理S11において、位置測定部PSによって測定された位置が取得され、位置測定部PSは、この取得した位置を減算部SUへ出力する。
【0069】
続いて、3相2相変換部CV2は、処理S11で取得された各相の電流値および速度から、d軸電流idおよびq軸電流iqを求め、この求めたd軸電流idおよびq軸電流iqをモデル予測制御部MCへ出力する(S12)。
【0070】
続いて、モデル予測制御部MCは、選択部12の電圧パターン生成部121によって、予め設定された予測ホライズンの値および制御ホライズンの値に応じて、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する(S13、電圧パターン生成処理)。
【0071】
続いて、モデル予測制御部MCは、選択部12の予測部122によって、処理S13で電圧パターン生成部121によって生成された複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合における前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する(S14、予測処理)。より具体的には、本実施形態では、予測部122は、次式1によって予測値のd軸電流id
Pを求め、次式2によって予測値のq軸電流iq
Pを求め、次式3によって予測値のトルクFe
Pを求め、次式4によって予測値の速度vm
Pを求める。
【0072】
続いて、モデル予測制御部MCは、選択部12の電圧パターン選択部123によって、処理S13で電圧パターン生成部121によって生成された複数の時系列な平滑電圧パターンの中から、処理S14で予測部1122によって予測された電動機Mの各予測値の中で評価関数に基づく最も高い評価の予測値に対応する時系列な平滑電圧パターンを選択する(S15、電圧パターン選択処理)。
【0073】
この処理S15において、まず、減算部SUは、外部から入力された目標位置Xm
*から、処理S11で位置測定部PSによって取得された位置Xmを減算し、その減算結果を比例制御部PCへ出力する。比例制御部PCは、この減算結果に基づく比例制御によって目標速度vm
*を生成し、モデル予測制御部MCへ出力する。
【0074】
そして、
図8において、電圧パターン選択部123は、まず、処理S11で位置測定部PSによって取得された位置X
mが有効可能位置X
m_SWを越えたか否かを判定する(S151a)。この判定の結果、越えていない場合(NO)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S154aを実行し、この制御方式対応重み係数を決定する重み係数決定処理S151a~S154aを終了する。一方、前記判定の結果、越えている場合(YES)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S152aを実行する。
【0075】
この処理S162aでは、電圧パターン選択部123は、q軸電流偏差の絶対値|iq
*-iq|が第2偏差閾値△iqを下回るか否かを判定する。この判定の結果、下回らない場合(NO)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S154aを実行し、前記重み係数決定処理S151a~S154aを終了する。一方、前記判定の結果、下回る場合(YES)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S153aを実行し、前記重み係数決定処理S151a~S154aを終了する。
【0076】
この処理S153aでは、電圧パターン選択部123は、第2q項gcqおよび第2d項gcdそれぞれの各制御方式対応重み係数b、cをb0、c0に設定すると共に、第1項gsの制御方式対応重み係数aを0に設定する(a=0、b=b0、c=c0、b0、c0>0)。
【0077】
前記S154aでは、電圧パターン選択部123は、第1項gs(k)の制御方式対応重み係数aをa0に設定すると共に、第2q項gcq(k)および第2d項gcd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数b、cを0、c0に設定する(a=a0、b=0、c=c0、a0、c0>0)。
【0078】
そして、電圧パターン選択部123は、上記式7-2で第1項gsを求め、上記式7-3で第2q項gcqを求め、上記式7-4で第2d項gcdを求め、これら第1項gs、第2q項gcqおよび第2d項gcdそれぞれにa、bおよびcそれぞれを乗算し、これら各乗算結果の線形結合によって評価関数を生成する。
【0079】
そして、電圧パターン選択部123は、この生成した評価関数を用いることによって、前記電圧パターン選択処理を実行する。
【0080】
図7に戻って、続いて、モデル予測制御部MCは、インバータ制御部13によって、処理S15で電圧パターン選択部123によって選択された時系列な電圧パターンに基づいて、PWM変調器PWおよびインバータ回路IVを制御して電動機Mを駆動する(S16、インバータ制御処理)。
【0081】
このように電動機Mが、モデル予測制御で制御され、駆動される。
図6に示す例では、位置X
mが有効可能位置X
m_SWを越え、かつ、q軸電流偏差の絶対値|i
q
*-i
q|が第2偏差閾値△i
qを下回るまで、速度制御(位置制御)が実施され(位置制御領域)、これによって、押当てツールTLをワークWKに張り付ける張り付け動作が行われる。位置X
mが有効可能位置X
m_SWを越え、かつ、q軸電流偏差の絶対値|i
q
*-i
q|が第2偏差閾値△i
qを下回ると、トルク制御(電流制御)が実施され(推力制御領域)、これによって、押当てツールTLをワークWKに押し込む押し込み動作が行われる。なお、速度制御中にワークWKに当接した際、速度を維持しようするため出力推力が上昇、つまりq軸電流i
qが上昇し、いずれは、目標q軸電流i
q
*との偏差が小さくなると考えられる。このため、速度制御中、位置X
mが有効可能位置X
m_SWを越えると、いずれは、q軸電流偏差の絶対値|i
q
*-i
q|が第2偏差閾値△i
qを下回ることになる。
【0082】
なお、有効可能位置Xm_SWは、ワークWKへ接触する変位よりも小さい値に設定し、目標位置Xm
*は、ワークWKへ接触する変位よりも大きい値に設定することが好ましい。これによりワークWKに至るまで確実に押当てツールTLが移動され、かつ、ワーク接触後に目標トルク付近に至ると共にトルク制御へ移行することができる。
【0083】
なお、上述では電動機Mがリニア式のPMSMである場合について主に説明したが、電動機Mが回転式のPMSMである場合も同様に説明できる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態における電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置およびこれに実装された電動機駆動制御方法は、評価関数の制御方式対応重み係数を変えることによって制御方式を切り換えるので、電動機Mを駆動するインバータ回路IVを制御するインバータ制御部13の構成を簡素化でき、したがって、上記電動機駆動制御システムSの構成および電動機駆動制御装置の構成が簡素化できる。
【0085】
上記電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、有限時間における最適化を繰り返す、いわゆるモデル予測制御を用いるので、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機Mに生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0086】
上記電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、電動機Mを動力源とする押当てツールTLに、第1制御方式で例えば張り付け動作をさせることができ、第2制御方式で例えば押し込み動作をさせることができ、これら張り付け動作と押し込み動作とを切り換える際に、制御方式対応重み係数の切り換えにより電動機Mに生じる不連続な挙動の変化を回避または低減できる。
【0087】
本実施形態によれば、構成を簡素化できる電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法が提供できる。
【0088】
なお、上述の実施形態では、負荷トルクFl(k)は、前記式6によって推定されたが、トルクを測定するトルクセンサ(力センサ)が電動機駆動制御システムSに用いられてもよい(第1変形形態)。この場合では、目標q軸電流iq
*(k)は、前記式8に代え、例えば、次式9が用いられる。この式9では、トルク制御において、目標トルクFe
*と前記トルクセンサの測定値Fe
Mとのトルク偏差に、所定のゲインKFが乗算され、この乗算結果が目標q軸電流に加算される。前記トルクセンサを電動機駆動制御システムSに備えることにより、前記トルクセンサの測定値Fe
Mをフィードバックすることができる。
【0089】
【0090】
また、上述の実施形態では、制御方式対応重み係数は、制御方式を切り換える場合に、離散的に変更されたが、制御方式を切り換える場合に、連続的に(徐々に変化するように)変更されてもよい(第2変形形態)。この場合では、選択部12(選択工程)は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させることによって、切り換え後の制御方式に対応する制御方式対応重み係数を、残余の制御方式に対応する制御方式対応重み係数より優位に設定する。このような電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、制御方式を切り換える場合に、前記複数の制御方式対応重み係数を時間変化に伴い連続的に変化させるので、円滑な制御方式の移行を実現できる。
【0091】
図9は、第2変形形態として、
図7に示すフローチャートにおいて、制御方式対応重み係数に関する処理(第2変形形態の処理)を示すフローチャートである。
図10は、第2変形形態において、一例として、制御方式対応重み係数の変化を示すグラフである。
図10Aは、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数a(k)のグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数a(k)の大きさを示す。
図10Bは、第2q項g
cq(k)の制御方式対応重み係数b(k)のグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、第2q項g
cq(k)の制御方式対応重み係数b(k)の大きさを示す。符号●および符号○は、各制御タイミングでの各値を示す。符号●は、第1パラメータr=0.8の場合を示し、符号○は、第1パラメータr=0.2の場合を示す。
図11は、一例として、リニア永久磁石式同期電動機の場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
図11Aは、位置X
mのグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、位置X
mである。
図11Bは、速度v
mのグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、速度v
mである。
図11Cは、d軸電流i
dのグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、d軸電流i
dである。
図11Dは、q軸電流i
qのグラフを示し、その横軸は、経過時間であり、その縦軸は、
図11Eは、制御方式のタイムチャートを示し、その横軸は、経過時間であり、その制御方式である。
図11Eにおいて、0が位置制御を表し、1がトルク制御(q軸電流制御)を表す。
【0092】
例えば、k番目の制御における第1項gs(k)の制御方式対応重み係数a(k)は、式10-1で与えられ、k番目の制御における第2q項gcq(k)の制御方式対応重み係数bは、次式10-2で与えられる。k番目の制御における第2d項gcd(k)の制御方式対応重み係数cは、上述の実施形態と同様である。
【0093】
【0094】
ここで、第1パラメータrは、0<r<1の予め設定された定数である。この第1パラメータrが大きいほど、制御方式対応重み係数の変化は、緩やかになる。第2aパラメータa
setおよび第2bパラメータb
setは、上述の
図8に示す重み係数決定処理S151a~S154aに代え、
図9に示す重み係数決定処理S151b~S154bによって決定される。
【0095】
図9において、電圧パターン選択部123は、まず、処理S11で位置測定部PSによって取得された位置X
mが有効可能位置X
m_SWを越えたか否かを判定する(S151b)。この判定の結果、越えていない場合(NO)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S154bを実行し、この制御方式対応重み係数を決定する重み係数決定処理S151b~S154bを終了する。一方、前記判定の結果、越えている場合(YES)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S152bを実行する。
【0096】
この処理S152bでは、電圧パターン選択部123は、q軸電流偏差の絶対値|iq
*-iq|が第2偏差閾値△iqを下回るか否かを判定する。この判定の結果、下回らない場合(NO)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S154bを実行し、前記重み係数決定処理S151b~S154bを終了する。一方、前記判定の結果、下回る場合(YES)には、電圧パターン選択部123は、次に、処理S153bを実行し、前記重み係数決定処理S151b~S154bを終了する。
【0097】
この処理S153bでは、電圧パターン選択部123は、第2q項gcqおよび第2d項gcdそれぞれの各制御方式対応重み係数bset、cをb0、c0に設定すると共に、第1項gsの制御方式対応重み係数asetを0に設定する(aset=0、bset=b0、c=c0、b0、c0>0)。
【0098】
前記S154bでは、電圧パターン選択部123は、第1項gs(k)の制御方式対応重み係数asetをa0に設定すると共に、第2q項gcq(k)および第2d項gcd(k)それぞれの各制御方式対応重み係数bset、cを0、c0に設定する(aset=a0、bset=0、c=c0、a0、c0>0)。
【0099】
第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数a(k)のグラフの一例が
図10Aに示され、第2q項g
cq(k)の制御方式対応重み係数b(k)のグラフの一例が
図10Bに示されている。この
図10に示す例では、5番目の制御タイミングで位置制御からトルク制御への移行が開始されるが、第1項g
s(k)の制御方式対応重み係数a(k)および第2q項g
cq(k)の制御方式対応重み係数b(k)は、その後の各制御タイミングごとに、徐々に連続的に変化し、前記移行は、徐々に進行している。第1パラメータrが0.2の場合(○)と0.8の場合(●)と比較すると分かるように、この第1パラメータrが大きいほど、制御方式対応重み係数の変化は、この第1パラメータrが0.2の場合(○)より0.8の場合(●)の方が緩やかになっている。
【0100】
また、シミュレーションの一例が
図11に示されている。
図11では、時点t
1で制御方式が位置制御からトルク制御(q軸電流制御)に切り換えられている。
図11から分かるように、切り換えにより、制御が不安定になることがなく、大きな波形の乱れもなく、前記切り換えが実施できている。
【0101】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0102】
S 電動機駆動制御システム
M 電動機
IV インバータ回路
PM PWM変調器
MC モデル予測制御部
CS 電流測定部
VS 速度測定部
CV1 2相3相変換部
CV2 3相2相変換部
PS 位置測定部
SU 減算部
PC 比例制御部
11 制御部
12 選択部
13 インバータ制御部
121 電圧パターン生成部
122 予測部
123 電圧パターン選択部