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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066833
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20240509BHJP
   F24F 1/0047 20190101ALI20240509BHJP
   F24F 1/0053 20190101ALI20240509BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20240509BHJP
   F24F 7/08 20060101ALI20240509BHJP
   F24F 7/10 20060101ALI20240509BHJP
   F24F 140/50 20180101ALN20240509BHJP
【FI】
F24F5/00 K
F24F1/0047
F24F1/0053
F24F5/00 101B
F24F11/74
F24F7/08 A
F24F7/10 A
F24F140:50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176569
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】堀 哲也
(72)【発明者】
【氏名】盛川 岳穂
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 満博
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩司
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AA04
3L260AB06
3L260BA07
3L260BA08
3L260BA15
3L260BA61
3L260CA11
3L260EA12
3L260FC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い応答性及び遮音性を実現し、間仕切り壁の変更等の対応時の工事作業量を抑え、室内の滞在者が天井から下降する気流の方向や強さを調節可能な空調システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る空調システム101は、天井空間に配置されたチルドビーム170と、前記チルドビームに熱媒を供給し、前記チルドビームで熱交換された前記熱媒を回収して循環させる循環装置122と、前記チルドビームの下方の天井材に設けられ、遮音性を有する金属パネル160と、を有する放射式空調装置103と、床下空間から前記室内に給気し、室内で上昇した空気の一部を前記天井材に形成された通気口124を通して前記天井空間に供給する対流式空調装置105と、前記天井材に設けられ、前記天井空間から前記室内に向かって吹き出す気流の方向及び量を調節可能に構成された天井ファン151と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井空間に配置されたチルドビームと、前記チルドビームに熱媒を供給し、前記チルドビームで熱交換された前記熱媒を回収して循環させる循環装置と、前記チルドビームの下方の天井材に設けられ、遮音性を有する金属パネルと、を有する放射式空調装置と、
床下空間から室内に給気し、室内で上昇した空気の一部を前記天井材に形成された通気口を通して前記天井空間に供給する対流式空調装置と、
前記天井材に設けられ、前記天井空間から前記室内に向かって吹き出す気流の方向及び量を調節可能に構成された天井ファンと、
を備える、
空調システム。
【請求項2】
前記室内の発熱量が所定値を超えたときに前記天井ファンが作動する、
請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記金属パネルは鉄を含む合金で形成され、
前記金属パネルの厚みは1mm以上である、
請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記通気口は照明に形成されたスリットである、
請求項1又は2に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーと室内の快適性とを両立する技術として、放射式空調が注目されている。放射式空調では、例えば金属パネル等のように高い熱伝導率を有するパネル素材(天井パネル)を天井に設置し、パネル素材を冷却又は加熱し、室内側の板面の温度を調節することによって、放射によるパネル素材と室内の滞在者との熱交換を促し、空調を行う。
【0003】
放射式空調は、気流が少なく、静穏な環境が形成されるため、ドラフトが少なく、室内の滞在者にとって快適な空間を形成できる。また、冷却時に送水する冷水温度を対流式空調と比べて室温に近い温度帯に設定できることに加え、搬送動力の大きい空気を熱媒体とする熱搬送を要しないため、放射式空調には熱源及び熱搬送の消費エネルギーを低減できるという利点がある。一方で、放射式空調は、室内負荷が大きくなった場合に空調能力が追従しきれず、応答性が低下するという課題があった。また、放射式空調は、温冷水を通す配管を広い範囲に敷設し、配管をパネル素材に密着させて施工するため、間仕切り壁やレイアウトの変更等を行う場合、配管やパネルの工事を要し、工事範囲が広くなることによって高い工事コストを要するという欠点があった。
【0004】
対流式空調は、優れた応答性を発揮し、温調された空気の給排気によって室内に発生した熱を効率良く除去できる。一方で、対流式空調は、速い気流が制気口の近傍等で生じるため、制気口の近傍等の場所にいる滞在者に不快な気流感を与えることがあった。
【0005】
放射式空調及び対流式空調の各々の利点を活かし、各々の欠点を補い合う放射・対流併用空調は、間仕切り壁やレイアウトの変更等を要するテナントオフィスに適している。例えば、特許文献1には、パッシブチルドビームと照明を一体化した設備ユニットが開示されている。特許文献1の設備ユニットでは、設備機器をまとめたことによって、メンテナンスポイントが少なく、チルドビームによる放射と対流とを併用した空調システムが実現されている。また、例えば、特許文献2には、天井パネルの板面を放射式空調に用いて対流と放射とを併用した空調システムが開示されている。特許文献2の空調システムでは、天井空間内にチルドビームが設置され、チルドビームと多数の孔が形成された天井パネルとが併用されることによって、天井内で生成された冷気が室内に滲み出る構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-200419号公報
【特許文献2】特開2016-166687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された設備ユニットを備えた空調システムは、パッシブチルドビームから室内に下降する気流が常時生じるため、室内において気流が常時降下してくる場所では、滞在者に対して不快な気流感を与えることがあった。特許文献2に開示された空調システムは、天井に設けられた天井パネルに多数の孔が形成されているため、室内の間仕切り壁の変更やレイアウト変更等の対応時に発生する騒音の遮音性を確保することが難しい場合があった。また、特許文献2に開示された空調システムは、チルドビームの直下に下降する気流が天井パネルによって軽減されるものの、室内の滞在者がチルドビームの直下に下降する気流の方向や強さを調節するのは難しく、所望の強さの気流を得られないことがあった。すなわち、高い応答性、遮音性を実現し、間仕切り壁の変更等の対応時の工事作業量が抑えられ、室内の滞在者が天井から下降する気流の方向や強さを調節可能な空調システムが求められていた。
【0008】
本発明は、高い応答性及び遮音性を実現し、間仕切り壁の変更等の対応時の工事作業量を抑え、室内の滞在者が天井から下降する気流の方向や強さを調節可能な空調システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空調システムは、天井空間に配置されたチルドビームと、前記チルドビームに熱媒を供給し、前記チルドビームで熱交換された前記熱媒を回収して循環させる循環装置と、前記チルドビームの下方の天井材に設けられ、遮音性を有する金属パネルと、を有する放射式空調装置と、床下空間から室内に給気し、室内で上昇した空気の一部を前記天井材に形成された通気口を通して前記天井空間に供給する対流式空調装置と、前記天井材に設けられ、前記天井空間から前記室内に向かって吹き出す気流の方向及び量を調節可能に構成された天井ファンと、を備える。
【0010】
本発明に係る空調システムでは、天井空間に配置されたチルドビームによって天井空間内の空気が冷却されるため、金属パネルの室内側の板面の温度が低下し、放射式空調が行われる。また、必要に応じてチルドビームで冷却された空気が天井ファンから室内に向きや量が調節可能な状態で押し出される。これらのことによって、放射式空調における「放射現象によって静穏な室内環境を形成できる」という利点と対流式空調における高い応答性という利点とを両立可能な空調システムを実現できる。また、天井に金属パネルが用いられるため、室内のレイアウトや間仕切り壁の変更に伴う工事時やその他に天井空間で発生する騒音に対する遮音性能が確保される。また、チルドビームが用いられるため、従来のように天井パネルの天井空間側の板面に配管を当接させて設置する場合に比べて、メンテナンス時の確認ポイントが少なく、間仕切り壁の変更時のコイル等の移設が容易である。その結果、室内の間仕切り壁の変更等の工事作業量が抑えられる。さらに、室内の滞在者が天井ファンの気流方向や気流量を調節可能であるため、結果として天井から下降する気流の方向や強さも調節できる。
【0011】
本発明に係る空調システムでは、前記室内の発熱量が所定値を超えたときに前記天井ファンが作動してもよい。本発明に係る空調システムによれば、室内の発熱が大きくなった際に、天井ファンを稼働させることができるため、室内への空調の応答性を高めることができる。
【0012】
本発明に係る空調システムでは、前記金属パネルは鉄を含む合金で形成され、前記金属パネルの厚みは1mm以上であってもよい。本発明に係る空調システムによれば、優れた遮音性が発揮される。
【0013】
本発明に係る空調システムにおいて、前記通気口は照明に形成されたスリットであってもよい。本発明に係る空調システムによれば、天井空間に室内の空気を送るための通気口としてスリットを用いることができるため、天井材に照明とは別に通気口を形成する必要がなく、天井空間内の空気を効率良く循環させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い応答性及び遮音性を実現し、間仕切り壁の変更等の対応時の工事作業量を抑え、室内の滞在者が天井から下降する気流の方向や強さを調節可能な空調システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る一実施形態の空調システムの側面図である。
図2図1に示す空調システムの各構成要素の配置例を示す概略図である。
図3】実施例の試験室の床割付図である。
図4】実施例の試験室の天井割付図である。
図5図3及び図4に示すA-A´線で矢視した試験室の断面図である。
図6図3及び図4に示すB-B´線で矢視した試験室の断面図である。
図7】実施例におけるチルドビームの冷却性能を示すグラフである。
図8】実施例における金属パネルの特性を示すグラフである。
図9】実施例における室内の温度の測定位置を示す平面図である。
図10】実施例における天井空間の温度の測定位置を示す平面図である。
図11】実施例における条件1での天井空間及び室内の各々の温度分布の測定結果を示すグラフである。
図12】実施例における条件2での天井空間及び室内の各々の温度分布の測定結果を示すグラフである。
図13】実施例における条件3での天井空間及び室内の各々の温度分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の空調システムについて、図面を参照して説明する。
【0017】
先ず、本発明に係る一実施形態の空調システム101について説明する。図1は、空調システム101の側面図である。
【0018】
図1に示すように、空調システム101は、空調対象である建築物Bの室内110を放射と対流とを併用して行うハイブリッド型の空調システムである。空調システム101は、放射式空調装置103と、対流式空調装置105と、天井ファン151と、を備える。
【0019】
放射式空調装置103は、チルドビーム170と、循環装置122と、配管128と、金属パネル160と、を備える。チルドビームとは、ファンを持たず、一連のパイプを含むビームとも呼ばれる熱交換器を備える空調機器である。チルドビームのパイプを流れる水(熱媒)の温度は、空調対象の室内110が加熱されているか冷却されているかに応じて決まる。図1には、1つ以上のチルドビーム170のうち、チルドビーム170Aが例示されている。チルドビーム170は、建築物Bの天井を構成する天井材116よりも上方の天井空間200に設けられている。
【0020】
循環装置122は、室内110及び天井空間200を有する建築物Bの外部又は建築物Bにおける室内110の不図示の側方空間に設置されている。循環装置122としては、例えばチラーが用いられる。チラーとは、水等の熱媒の温度をコントロールして循環させる機器である。循環装置122としては、チラーの中でも、熱媒として室温に近い温度の水を用いる中温の水冷チラーが好ましい。室温に近い温度とは、例えば15℃~25℃の範囲内の温度を意味する。中温の水冷チラーが用いられることによって、室温よりも低温の水を用いる水冷チラーと比べて放射式空調装置103の高効率化が図られる。なお、循環装置122は、多段的に利用可能な熱源や地中熱等の自然エネルギーを活用する熱源であってもよく、室内110の露点温度よりも高く且つ室内110の設定温度よりも低い水を送水できる装置であればよい。前述の多段的に利用可能であるとは、例えばバイオマス等の熱源を発電に用い、発電に活用後の熱源を動力、さらに冷暖房等の空調に用い、最後に給湯に用いるというように、使用時の熱源の質に応じて複数の目的で順次有効活用できることを意味する。
【0021】
金属パネル160は、チルドビーム170の直下(下方)に配置されている。金属パネル160は、チルドビーム170の直下の天井材116となる。金属パネル160は、鉄を主成分とするスチールや、アルミニウム、ステンレス、鋼板等のように高い熱伝導性を有する金属で構成された平板である。金属パネル160には、空気や音が通過可能な孔が形成されていない。金属パネル160がスチール製であれば、金属パネル160の厚みは1mm以上であることが好ましい。スチール製の金属パネル160が1mm以上の厚みを有することによって、岩綿吸音板と同等の遮音性能が発揮される。
【0022】
チルドビーム170と循環装置122とは、配管128によって連結されている。配管128は、1つの循環路であり、チルドビーム170及び循環装置122の各々の内部を通っている。配管128の内部では、不図示の水(熱媒)が循環している。図中では、チルドビーム170の内部に配置されている配管128が簡略化して示されている。チルドビーム170の内部の配管128は、チルドビーム170の下側の板状部材172において内部に面する板面に接している。配管128は、例えば平面視で板面の略全体範囲に亘って蛇行している。
【0023】
放射式空調装置103では、循環装置122から配管128を通ってチルドビーム170に供給された熱媒は、チルドビーム170で天井空間200の空気と熱交換を行う。具体的には、チルドビーム170に供給された水は、天井空間200の空気の熱を吸収し、温められ、チルドビーム170から排出される。チルドビーム170から配管128を通って循環装置122に供給された熱媒は、循環装置122で外気と熱交換を行う。具体的には、循環装置122に供給された熱媒は、外気に熱を放出し、冷却され、循環装置122から排出され、再びチルドビーム170に供給される。熱媒は、前述の熱交換を繰り返す。
【0024】
チルドビーム170の板状部材172は、配管128の内部を循環する熱媒との熱交換によって、冷却される。板状部材172とチルドビーム170の下方の天井空間200の空気との熱交換によって、チルドビーム170の下方の天井空間200の空気は冷却される。その結果、チルドビーム170の下方、すなわちチルドビーム170と金属パネル160との間の天井空間200の空気(すなわち、破線で囲まれた空気)と熱伝導性の高い金属パネル160との熱交換によって、金属パネル160が冷却され、金属パネル160の室内110に面する板面の温度が低下する。金属パネル160は、金属パネル160の下方の室内110の滞在者Uや不図示の機器、壁、及び床の熱を吸収する。
【0025】
対流式空調装置105は、空調機121と、配管133,134と、通気口131,132と、吹出装置125と、吸込装置124と、を備える。図には、1つ以上の吹出装置125及び吸込装置(通気口)124の各々のうち、吹出装置125A及び2つの吸込装置124A,124Bが例示されている。
【0026】
吹出装置125は、床を構成するフロアパネル等の床材112の所定の位置に設けられ、例えばチルドビーム170の下方且つ金属パネル160の直下(下方)に配置されている。吹出装置125には、床材112より下方の床下空間210の空気を室内110に吹き出すための不図示の通気口が設けられ、風量や風向を調節可能に構成されている。
【0027】
吸込装置124は、天井材116において金属パネル160及び天井ファン151とは異なる所定の位置に設けられ、チルドビーム170とは重ならないように配置されている。吸込装置124は、床材112及び天井材116の各々の板面に平行な面で吹出装置125とも重ならないように配置されている。吸込装置124には、室内110の空気を天井空間200に吸い込むための不図示の通気口が設けられ、風量や風向を調節可能に構成されている。
【0028】
空調機121は、建築物Bの外部又は建築物Bにおける室内110の不図示の側方空間に設置され、例えばエアハンドリングユニット(Air Handling Unit)である。
【0029】
対流式空調装置105では、所謂床吹出空調方式が用いられ、空調機121から外気が配管133、不図示のダクト等及び通気口131を介して取り込まれ、床下空間210に送風される。床下空間210に送風された空気は、吹出装置125を通って所定の風量及び風向に調節され、緩やかな冷風として室内110に吹き出される。室内110の滞在者Uや不図示の機器との熱交換によって温められた空気は、温度差によって浮力で上昇する。室内110は、例えば執務室内や居室内を表す。室内110で上昇した空気の一部は、吸込装置124から天井空間200に吸い込まれる。通気口131,132の各々は、通過する空気に含まれる塵やごみ等を除去するための不図示のフィルタを備える。
【0030】
室内110で上昇した空気の残りの少なくとも一部は、通気口132、不図示のダクト等及び配管134を介して空調機121に送風される。対流式空調装置105では、空調機121から吐き出された空気と外気が混合された給気(SOA)が配管133及び通気口131を介して床下空間210に供給され、還気(RA)が天井空間200から通気口132及び配管134を介して空調機121に戻る。
【0031】
天井ファン151は、天井材116に設けられ、天井材116においてチルドビーム170の下方でチルドビーム170によって熱交換される空気を妨げない所定の位置に設けられ、図には、1つ以上の天井ファン151のうち、2つの天井ファン151A,151Bが例示されている。
【0032】
例えば、天井ファン151は、平面視でチルドビーム170の周囲の天井材116に配置されている。チルドビーム170の下方の天井空間200で冷却された空気の一部は、天井ファン151から室内110に吹き出される。天井ファン151は、天井材116において金属パネル160及び吸込装置124とは異なる任意の位置に配置されていればよい。天井ファン151は、金属パネル160の周囲且つチルドビーム170によって冷却される空気が拡がる範囲内に配置されている。このことによって、チルドビーム170で冷却された空気を天井ファン151に取り込み、室内110に押し出すことができる。また、室内110への空調の応答性を高めるとともに消費エネルギーの削減を図ることができる。
【0033】
天井ファン151は、例えば室内110の滞在者Uが作業等を行うための机202と椅子204の直上近傍に配置されている。天井ファン151に設けられている不図示の制気口では、例えば滞在者Uの遠隔操作等によって気流方向及び気流量を調節することができる。天井ファン151の制気口の種類は、例えば開口中心から径方向の外側に向かって複数枚の丸形や角形の羽根が間隔をあけて配置されているアネモ型でもよく、アネモ型よりも指向性が高く、開口に単体又は多重のノズルが配置されているノズル型でもよく、特に限定されない。
【0034】
図2は、天井材116がグリッド天井の天井パネル(天井材)で構成されている場合の空調システム101の各構成要素の配置例を示す概略図である。図2に示すように、2つのチルドビーム170A,170Bが設置される場合、金属パネル160は、チルドビーム170A,170Bの各々の直下、或いは天井材116の板面に平行な面内でチルドビーム170A,170Bの各々の下方及びその近傍に配置されていることが好ましい。本配置例では、チルドビーム170A,170Bの各々は平面視で略正方形状を有し、チルドビーム170A,170Bの各々の一辺の大きさは金属パネル160の一辺の大きさの約2倍である。そのため、チルドビーム170A,170Bの各々の直下に、4枚の金属パネル160が図の紙面上の横方向(すなわち、天井材116の板面に平行な一方向)2枚×縦方向(すなわち、天井材116の板面に平行であって、前記一方向に直交する方向)2枚で配置されている。照明144及び天井ファン151は、システム天井を構成する一定(本配置例では、金属パネル160の四辺の大きさと同じ)の大きさの天井パネルに設置されている。
【0035】
図2に示す配置例では、放射式空調装置103について上述説明した原理によって4枚一組の金属パネル160の室内側の板面の温度が低下し、放射式空調が行われる。一方で、通気可能な孔が形成されていない金属パネル160によって、チルドビーム170A,170Bの各々の直下に生じて早く下降する気流が室内の滞在者Uに直接当たり難く、静穏な室内110の環境が形成される。
【0036】
照明144は、例えば所謂スリット照明である。具体的には、照明144の位置の天井パネルの一部にスリット148が形成され、図1に示した吸込装置124の通気口になっている。照明144の光源は、スリット148よりも上方に配置され、スリットを挟んで室内110に露出していてもよく、スリットの周囲の天井パネルの天井空間200側に光源から発せられた光がスリット148を通過可能であるように配置されてもよい。光源は、例えば発光ダイオード(Light-emitting Diode:LED)や蛍光灯である。照明144は、光源等を保護するために不図示の外装体を備えてもよい。
【0037】
本配置例では、平面視でチルドビーム170A,170Bの各々の下方の4枚1組の金属パネル160の一方の対角線上に、金属パネル160を挟んで2つの照明144が配置されている。つまり、一方の対角線上に、照明144、チルドビーム170及び4枚一組の金属パネル160、照明144が順次配置されている。4枚1組の金属パネル160の他方の対角線上に、天井ファン151、チルドビーム170及び4枚一組の金属パネル160、天井ファン151が順次配置されている。
【0038】
破線で図示されている配管128は、チルドビーム170に中温水等の熱媒を供給するための部分の配管128を表す。実線で図示されている配管128は、チルドビーム170から熱媒が排出される部分の配管128を表す。チルドビーム170と接続される部分の各々の配管128に、例えばサーモスタット等の温度調節器が設けられている。温度調節器は、チルドビーム170を適切な温度の範囲内で維持するために、熱媒の流入や排出を制御する。
【0039】
以上説明した本実施形態の空調システム101は、放射式空調装置103と、対流式空調装置105と、天井ファン151と、を備える。放射式空調装置103は、チルドビーム170と、循環装置122と、金属パネル160と、を備える。チルドビーム170は、天井空間200に配置されている。循環装置122は、チルドビーム170に熱媒を供給し、チルドビーム170で熱交換された熱媒を回収し、熱交換を行い、チルドビーム170との間で熱媒を循環させる。金属パネル160は、チルドビーム170の下方の天井材116に設けられ、遮音性を有する。具体的には、金属パネル160には、空気や音が通過可能な孔が形成されていない。対流式空調装置105は、床下空間210から室内110に給気し、室内110で上昇した空気の一部を天井材116に形成された吸込装置(通気口)124を通して天井空間200に供給する。天井ファン151は、天井材116に設けられ、天井空間200から室内110に向かって吹き出す気流の方向及び量を調節可能に構成されている。
【0040】
本実施形態の空調システム101では、天井空間200に配置されたチルドビーム170によって天井空間200内の空気が冷却され、チルドビーム170の下方の空気も冷却されるため、金属パネル160の室内側の板面の温度が低下し、放射式空調が行われる。また、対流式空調装置105によって、対流式空調が行われ、室内で熱交換によって温められた空気が天井空間200に供給される。さらに、室内110の状況に対応し、必要に応じてチルドビーム170で冷却された天井空間200の空気が天井ファン151から所望の向きや量に調節されて室内110に押し出される。これらのことによって、放射式空調における「放射現象によって静穏な室内環境を形成できる」という利点と対流式空調における高い応答性という利点とを両立可能な空調システム101を実現できる。また、天井材116に遮音性を有する金属パネル160が用いられるため、室内110のレイアウトや間仕切り壁の変更に伴う工事時やその他に天井空間200で発生する騒音に対する遮音性能を確保できる。さらに、チルドビーム170が用いられるため、従来のように天井パネルの天井空間側の板面に配管を当接させて設置する場合に比べて、メンテナンス時の確認ポイントを減らし、間仕切り壁の変更時のコイル等を容易に移設できる。その結果、室内110の間仕切り壁の変更等の工事作業量を抑えることができる。室内110の滞在者が天井ファン151の気流方向や気流量を調節可能であるため、結果として、天井材116から下降する気流の方向や強さを調節し、所望の室内環境を形成するとともに快適度を高めることができる。
【0041】
本実施形態の空調システム101によれば、放射と対流とを併用することによって、室内110の負荷に対する応答性、天井ファン151の制気口の近傍で生じるドラフト、室内110の間仕切りの変更等に対する対応と施工範囲の削減、保守点検が必要なメンテナンスのポイント数の削減、及び室内110の間仕切りの変更等の対応時の遮音性について、従来の放射式空調又は対流式空調の課題を解決できる。
【0042】
本実施形態の空調システム101では、室内の発熱量は所定値を超えたときに天井ファン151が作動する。例えば、室内110に面する壁や天井材116の室内110に向く面に室内110の発熱量を感知する不図示のセンサが配置されてもよい。当該センサによって室内の発熱量が所定値を超えたことが検知された時点で、天井ファン151が作動してもよい。本実施形態の空調システム101によれば、室内110の発熱量が所定値未満である状態では金属パネル160からの放射空調を行い、室内110の発熱量が所定値を超えたときに放射空調に加えて天井ファン151からの対流式空調を併用し、放射式空調のみを行う場合に比べて室内110への空調の応答性を高めることができる。
【0043】
本実施形態の空調システム101では、金属パネル160は、例えばスチール製であり、鉄を含む合金で形成されている。金属パネル160の厚みは、1mm以上である。本実施形態の空調システム101によれば、金属パネル160において優れた遮音性が発揮される。また、天井材116の一部、すなわち天井材116のうちチルドビーム170の直下の領域に金属パネル160が配置されるため、天井材116の全体に遮音性の低い天井パネルが敷き詰められている場合に比べて遮音性を高めることができる。
【0044】
本実施形態の空調システム101では、吸込装置124の通気口は照明144に形成されたスリット148であってもよい。本実施形態の空調システム101によれば、天井空間200に室内110の空気を送るための吸込装置(通気口)124としてスリット148を用いることができるため、照明144が吸込装置124として機能し、天井材116に照明144とは別に通気口を形成せずに済む。すなわち、照明144にスリット148が形成されることによって、天井空間200内の空気を効率良く循環させることができる。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0046】
例えば、上述の実施形態では、空調機121と、配管133,134と、通気口131,132と、吹出装置125と、吸込装置124とを備える対流式空調装置105を例示して説明した。しかしながら、本発明に係る空調システムの対流式空調装置は床下空間から室内に給気し、室内で上昇した空気の一部を天井材に形成された通気口を通して天井空間に供給できればよく、対流式空調装置の構成は特定の構成に限定されない。
【実施例0047】
次いで、本発明に係る実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0048】
環境試験室内に、実物大の空調システム101を構築し、空調システム101の空調能力、及び室内110と天井空間200の温熱環境について確認した。図3は、実物大の空調システム101を設置した本実施例の試験室Tの床割付図である。図4は、実物大の空調システム101を設置した試験室Tの天井割付図である。図5は、図3及び図4に示すA-A´線で矢視した試験室Tの断面図である。図6は、図3及び図4に示すB-B´線で矢視した試験室Tの断面図である。
【0049】
図3から図6に示すように、本実施例の試験室Tの室内110の第1の方向D1の側方に室外空間220を設け、室内110に対して床材112及び天井材116の板面に平行であって方向D1に直交する第2の方向D2の側方(例えば、室内110及び室外空間220よりも右側の側方、図9及び図10参照)に室外空間250を設けた。但し、図3及び図4では、室外空間250は省略されている。図3に示すように、試験室Tの床材112として、各々が天井パネルと略同様の大きさを有する複数の床パネルを敷き詰めて配置した。床材112に、2つの吹出装置125A,125Bを設けた。
【0050】
図4に示すように、天井空間200に、2つのチルドビーム170A,170Bを設けた。チルドビーム170A,170Bを、方向D1で互いに同じ位置に配置し、床材112及び天井材116の板面に平行であって方向D1に直交する第2の方向D2で互いに間隔をあけて配置した。試験室Tの天井材116として、複数の天井パネルを敷き詰めて配置した。チルドビーム170A,170Bの直下の天井材116に、2つの金属パネル160を設けた。各々の金属パネル160の周囲の天井材116には、図2で例示した相対配置と同様に、天井ファン151及び照明144を設けた。
【0051】
本実施例で用いた環境試験室には、不図示の循環装置122から天井空間200の側方の室外空間222に延出された複数の配管129が既設されている。一部の配管129の室外空間222側の端部に、弁が設けられている。弁の開閉によって、配管129の内部を流通する熱媒の量を調節可能である。試験室Tでは、複数の配管129のうち、チルドビーム170A,170Bの各々に熱媒を循環させるための配管の流入側の1つの端部と流出用の1つの端部に配管129の室外空間222側の端部を連結し、配管128を構成した。
【0052】
図5及び図6に示すように、試験室Tの室外空間220を、室内110の側方及び天井空間200の側方で連通した室外空間221と、床下空間210の側方の室外空間222に区画した。室外空間221に、空調機121を配置した。室内110と室外空間221との間の側壁材118に通気口132を形成した。室内110の空気を還気(RA)する空調機121を通気口132に直結するように配置した。室外空間222に、還気を引く吸気部236を配置した。空調機121と吸気部236との間をフレキダクト234によって接続した。図5及び図6では示していないが、室外空間222と床下空間210との間の側壁に通気口131を形成し、室外空間220から床下空間210に空気を供給した。
【0053】
なお、方向D2において、室内110の大きさを4235[mm]とし、室外空間220の大きさを1800[mm]とし、側壁材118の大きさ(すなわち、厚み)を140[mm]とした。また、天井空間200の上端から天井材116の下端までの高さを1250[mm]とし、室内110の高さを2750[mm]とし、床材112の上端から床下空間210の下方の底壁の下端までの高さを150[mm]とした。
【0054】
上述の試験室Tの室内110の温熱環境及び空調能力について確認するために、表1に示す条件1~条件3を設定した。条件1~条件3の各々におけるチルドビーム170の冷却能力の測定結果を図7に示す。また、条件1~条件3の各々における金属パネル160の冷却能力の測定結果を図8に示す。図7及び図8に示すように、天井ファン151の風量の増大に伴い、チルドビーム170の冷却能力が上昇した。すなわち、天井ファン151によって空調システム101の空調性能を調整できること、及び良好な応答性を実現できることを確認した。
【0055】
【表1】
【0056】
金属パネル160の冷却能力は、天井ファン151を停止しているときは30W/mであった。本実施例では、1つのチルドビーム170当り1.44mの目標値で敷設したため、金属パネル160によって室内110の約40Wの発熱負荷を処理できていることがわかった。約40Wの発熱負荷は、天井ファン151の停止時におけるチルドビーム170の処理熱量の約15%に相当する。金属パネル160はチルドビーム170から生じて室内110に急下降する気流を防ぎ、天井ファン151の停止時には金属パネル160の板面の温度は室内110の空気の温度よりも3~4℃程度低くなった。この結果から、金属パネル160が放射空調としての機能を果たしていることがわかった。
【0057】
次に、条件1~条件3の各々での室内110及び天井空間200の上下温度分布を測定した。室内110での温度の測定位置A1~A4及び測定位置B1~B4と吹出装置125A,125Bとの相対位置関係を図9に示す。天井空間200での温度の測定位置R1~R5及び測定位置G1,G2とチルドビーム170A,170Bとの相対位置関係を図10に示す。条件1における全測定位置での温度分布の測定結果を図11に示す。条件2における全測定位置での温度分布の測定結果を図12に示す。条件3における全測定位置での温度分布の測定結果を図13に示す。
【0058】
図11から図13の各々の上側のグラフの横軸は測定位置R1~R5及び測定位置G1,G2の各々で高さを変えて測定した天井空間200の温度を表し、同グラフの縦軸は天井空間200で温度を測定した測定位置R1~R5及び測定位置G1,G2の天井材116の天井空間200側の板面からの高さを表す。各グラフに示されているように、複数の測定位置のうち、チルドビーム170Aの直下の測定位置G1、及びチルドビーム170Bの直下の測定位置G2での天井空間200の温度は、他の測定位置R1~R5よりも低かった。また、測定位置R5は他の測定位置R1~R4よりもチルドビーム170(具体的には、チルドビーム170B)に近いため、測定位置R5での天井空間200の下側の温度は、他の測定位置R1~R4よりも低かった。これらの結果から、チルドビーム170によって天井空間200の空気が良好に冷却され、チルドビーム170の配置に応じて天井空間200の温度分布が生じることを確認した。
【0059】
図11から図13の各々の下側のグラフの横軸は測定位置A1~A4及び測定位置B1~B4の各々で高さを変えて測定した室内110の温度を表す。同グラフの縦軸は室内110で温度を測定した測定位置A1~A4及び測定位置B1~B4の床材112の室内110側の板面からの高さを表す。各グラフに示されているように、複数の測定位置A1~A4及び測定位置B1~B4同士での室内110の温度分布に大きな違いは見られず、室内110の上下方向での温度変化を3℃以内に抑えられた。これらの結果から、チルドビーム170及び金属パネル160による放射式空調が良好に行われ、その結果、温度差の少ない快適な室内110の環境を形成できることを確認した。
【0060】
上述説明した実施例の結果から、本発明を適用した空調システム101によれば、チルドビーム170とその下方に配置した金属パネル160によって放射式空調を行い、室内110に静穏且つ温度差の小さい環境を形成するとともに、天井ファン151を稼働させることによって応答性を高めることができることを確認した。
【符号の説明】
【0061】
101…空調システム、103…放射式空調装置、105…対流式空調装置、116…天井材、122…循環装置、124…吸込装置(通気口)、151…天井ファン、160…金属パネル、170…チルドビーム、148…スリット、200…天井空間
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10
図11
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図13