IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

<>
  • 特開-運行管理システム 図1
  • 特開-運行管理システム 図2
  • 特開-運行管理システム 図3
  • 特開-運行管理システム 図4
  • 特開-運行管理システム 図5
  • 特開-運行管理システム 図6
  • 特開-運行管理システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066838
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】運行管理システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G08G1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176576
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 優介
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 駿
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】長川 研太
(72)【発明者】
【氏名】平中 貴士
(72)【発明者】
【氏名】小西 翔太
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA02
5H181AA07
5H181BB04
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF10
5H181FF32
5H181MC01
5H181MC16
(57)【要約】

【課題】轍の位置及び形状を含む詳細な路面状態を取得することができる運行管理システムを提供する。
【解決手段】本発明のコントローラ12は、各登録モビリティから位置情報を取得する位置取得処理S1と、位置情報を送信した各登録モビリティと記憶装置11に記憶された諸元情報とを対応付ける対応処理S2と、位置情報に基づいて各登録モビリティの走行ルートを地図情報に対応付けて記憶装置11に記憶する走行記憶処理S3と、各登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に関する情報、地図情報に含まれる路面の種類、諸元情報、及び走行ルートに基づいて、走行ルートに対応した轍の位置及び形状を含む路面状態を演算し、路面状態を地図情報に対応付けて記憶装置11に記憶する路面状態取得処理S4と、を実行するように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置情報を取得可能に構成された複数の登録モビリティの運行を管理するように、各前記登録モビリティと通信可能に構成された運行管理システムであって、
各前記登録モビリティのタイヤの配置位置に関する情報を含む諸元情報、及び路面の種類に関する情報を含む地図情報を記憶する記憶装置と、
1つ以上のプロセッサを含むコントローラと、
を備え、
前記コントローラが、
各前記登録モビリティから前記位置情報を取得する位置取得処理と、
前記位置情報を送信した各前記登録モビリティと前記記憶装置に記憶された前記諸元情報とを対応付ける対応処理と、
前記位置情報に基づいて各前記登録モビリティの走行ルートを前記地図情報に対応付けて前記記憶装置に記憶する走行記憶処理と、
各前記登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に関する情報、前記地図情報に含まれる路面の種類、前記諸元情報、及び前記走行ルートに基づいて、前記走行ルートに対応した轍の位置及び形状を含む路面状態を演算し、前記路面状態を前記地図情報に対応付けて前記記憶装置に記憶する路面状態取得処理と、
を実行するように構成された、
運行管理システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記路面状態取得処理において、
前記走行ルート、前記地図情報に含まれる路面の種類、及び前記諸元情報に含まれるタイヤの配置位置に基づいて、轍の位置を演算し、
前記センサの検出値に関する情報としての横加速度と走行速度、路面の種類、前記走行ルート、及び前記諸元情報に含まれる前記登録モビリティの質量に基づいて、轍の形状を演算する、
請求項1に記載の運行管理システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記路面状態取得処理において、さらに天候情報に基づいて前記路面状態を演算する、
請求項1に記載の運行管理システム。
【請求項4】
前記コントローラが、さらに、
目標ルートの設定対象の前記登録モビリティである対象モビリティの前記位置情報、前記対象モビリティの目的地、及び前記記憶装置に記憶された前記路面状態に基づいて、前記対象モビリティが走行可能な前記目標ルートを演算する目標ルート演算処理を実行するように構成された、
請求項1~3の何れか一項に記載の運行管理システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記目標ルート演算処理において、路面の凹凸とその路面を走行する前記対象モビリティの走行速度により演算される路面周波数が、所定の閾周波数以下となるように、前記目標ルート及び走行条件を演算する、
請求項4に記載の運行管理システム。
【請求項6】
前記閾周波数は、前記対象モビリティのばね下の固有振動数以下の値に設定されている、
請求項5に記載の運行管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
路面情報をサーバに記憶し、路面情報マップを作成するシステムが開発されている。例えば特開2022-069218号公報には、車両に設けられた路面関連情報センサにより検出された検出値を記憶装置に記憶し、路面情報マップを作成する路面情報作成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-069218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置では、路面における轍の位置及び形状まで演算されない。したがって、上記装置では、車両にとって乗り越えることができない轍が形成された路面が目標ルート上に存在しても、目標ルートを修正することができない。また、タイヤが高い振動数で振動するような路面を車両が走行する際、その車両に搭載されたセンサの検出値が路面状態に追従した値にならない可能性がある。路面状態を考慮した適切な目標ルートを設定するには、システムが轍の位置及び形状(例えば凸部の高さや凸部の幅)を把握する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、轍の位置及び形状を含む路面状態を演算することができる運行管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の運行管理システムは、位置情報を取得可能に構成された複数の登録モビリティの運行を管理するように、各前記登録モビリティと通信可能に構成された運行管理システムであって、各前記登録モビリティのタイヤの配置位置に関する情報を含む諸元情報、及び路面の種類に関する情報を含む地図情報を記憶する記憶装置と、1つ以上のプロセッサを含むコントローラと、を備え、前記コントローラは、各前記登録モビリティから前記位置情報を取得する位置取得処理と、前記位置情報を送信した各前記登録モビリティと前記記憶装置に記憶された前記諸元情報とを対応付ける対応処理と、前記位置情報に基づいて各前記登録モビリティの走行ルートを前記地図情報に対応付けて前記記憶装置に記憶する走行記憶処理と、各前記登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に関する情報、前記地図情報に含まれる路面の種類、前記諸元情報、及び前記走行ルートに基づいて、前記走行ルートに対応した轍の位置及び形状を含む路面状態を演算し、前記路面状態を前記地図情報に対応付けて前記記憶装置に記憶する路面状態取得処理と、を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、登録モビリティの走行ルート等に基づいて、轍の位置及び形状が演算され、その演算結果が路面状態として地図情報に対応付けられて記憶される。轍の位置は、例えば、走行ルートとタイヤの配置位置に基づいて演算できる。また、轍の形状は、例えば、路面の種類、諸元情報(例えば質量)、走行ルート、及びセンサ検出値に関する情報(例えば走行速度)に基づいて演算できる。本発明によれば、轍の位置及び形状を含む路面状態を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の運行管理システムの構成図である。
図2】本実施形態の運行管理システムの処理の流れを表すフローチャートである。
図3】本実施形態の路面状態取得処理を説明するための概念図である。
図4】本実施形態の路面状態取得処理を説明するための概念図である。
図5】本実施形態の目標ルート演算処理を説明するための概念図である。
図6】2自由度振動系モデルを表す参考図である。
図7】本実施形態の運行管理システムの処理の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の一実施形態である運行管理システム1を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0010】
本実施形態の運行管理システム1は、位置情報を取得可能に構成された複数の登録モビリティの運行を管理するように、各登録モビリティと通信可能に構成されたシステムである。登録モビリティは、予め運行管理システム1に登録されているモビリティである。モビリティは、タイヤにより路面を走行する移動体である。本実施形態において、登録モビリティとして、例えば、複数のライトビークル(例えばピックアップトラック等の車両)と、複数の大型ダンプトラック(大型重機)とが登録されている。登録モビリティの情報は、後述する記憶装置11に記憶されている。
【0011】
運行管理システム1は、種類又は型が異なるモビリティを含む複数の登録モビリティの運行を管理する。運行管理システム1の機能は、管制システム及び登録モビリティ内のシステムの少なくとも一方に搭載される。本実施形態の運行管理システム1は、管制システムの一部であり、無線通信装置を持つ施設に設置されている。
【0012】
より具体的に、運行管理システム1は、記憶装置11と、コントローラ12と、を備えている。記憶装置11は、1つ以上のメモリで構成されている。記憶装置11には、各登録モビリティのタイヤの配置位置に関する情報を含む諸元情報、及び路面の種類に関する情報を含む地図情報が記憶されている。記憶装置11は、コントローラ12と通信可能に接続され、コントローラ12の内部又は外部に配置されている。諸元情報には、例えば、各登録モビリティについて、種類/型、質量、トレッド、タイヤ幅、及びタイヤの配置位置等が含まれている。トレッドは、左右のタイヤ中心間の距離である。タイヤの配置位置は、例えば、ボディの基準位置に対するタイヤの相対位置であってもよい。地図情報には、例えば、舗装路の位置、及び未舗装路の位置等が含まれている。
【0013】
コントローラ12は、1つ以上のプロセッサ12aと1つ以上のメモリ(図示略)を備える電子制御ユニット(ECU)又はコンピュータにより構成されている。メモリには、各種プログラムや各種データが記憶されている。プロセッサは、メモリからプログラムを読み出して実行し、各種演算・制御を実行する。コントローラ12のメモリは、記憶装置11として機能してもよい。つまり、記憶装置11はコントローラ12内に配置されてもよい。モビリティ内の通信は、例えば、CAN(car area network or controllable area network)によって行われる。
【0014】
コントローラ12は、無線機(図示略)及び通信ネットワークを介して、各登録モビリティと通信可能に構成されている。コントローラ12は、各登録モビリティから各種情報(識別情報、位置情報、及びセンサ検出情報等)を受信する。コントローラ12は、目標ルートの設定対象の登録モビリティである対象モビリティの目標ルートを設定するように構成されている。例えば、運行管理システム1から目標ルートを受信した対象モビリティは、目標ルートに基づいて自動運転を実行する。また、コントローラ12は、対象モビリティに対して、走行速度等の走行条件を指令することもできる。
【0015】
図1に示すように、各登録モビリティには、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の受信機2、及び走行を制御するECU3が設けられている。各登録モビリティは、自身の識別情報、受信機2で演算されたGNSSの測位データに基づく位置情報、及び登録モビリティに搭載された各種センサの検出値に基づくセンサ検出情報を運行管理システム1に送信する。図示しないが、各登録モビリティに搭載されるセンサは、例えば、車輪速度センサ、前後加速度センサ、上下加速度センサ、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、ピッチレートセンサ、ロールレートセンサ、及び車高センサ等である。走行速度は、例えば車輪速度から演算できる。
【0016】
このように、運行管理システム1は、各登録モビリティから、識別情報、位置情報、及びセンサ検出情報を受信する。登録モビリティのECU3は、運行管理システム1から受信した目標ルート及び走行条件(走行速度等)に基づいて、自動運転制御を実行する。各登録モビリティには、運行管理システム1と通信するための無線機(図示略)が設けられている。
【0017】
また、一部又はすべての登録モビリティには、それぞれ周辺監視装置4が設けられている。周辺監視装置4は、自モビリティの周辺を監視(認識)する装置であって、例えばライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging, or Laser Imaging Detection and Ranging)を含んで構成されている。本実施形態の周辺監視装置4は、例えば、1つ以上のライダー、自モビリティの周辺を撮像する1つ以上のカメラ、及び自モビリティと自モビリティ周辺の物体との距離を測定する1つ以上のレーダーを備えている。例えば、周辺監視装置4の検出結果と3次元地図データとに基づいて、精度の良い周辺状況及び自己位置の認識が可能となる。ECU3は、周辺監視装置4の検出結果に基づいて、局所的な目標ルートの修正を実行可能に構成されている。
【0018】
(路面状態演算)
コントローラ12は、各登録モビリティから送信された情報に基づいて、路面状態を演算する。図2に示すように、コントローラ12は、路面状態を演算するために、位置取得処理S1、対応処理S2、走行記憶処理S3、及び路面状態取得処理S4を実行するように構成されている。位置取得処理S1は、コントローラ12が各登録モビリティから位置情報(ここではGNSS測位データ)を取得する処理である。
【0019】
対応処理S2は、コントローラ12が位置情報を送信した各登録モビリティと記憶装置11に記憶された諸元情報とを対応付ける処理である。記憶装置11には、識別情報と諸元情報とが対応付けて記憶されている。コントローラ12は、登録モビリティから送信される識別情報に基づいて、記憶装置11から登録モビリティの諸元情報を取得する。コントローラ12は、登録モビリティから送信される識別情報及び位置情報に基づいて、登録モビリティの位置情報と諸元情報とを対応付ける。つまり、コントローラ12は、対応処理S2において、登録モビリティから送信される情報に基づいて、登録モビリティの位置と諸元を把握する。
【0020】
走行記憶処理S3は、コントローラ12が、位置情報に基づいて各登録モビリティの走行ルートを地図情報に対応付けて記憶装置11に記憶する処理である。走行ルートは、走行履歴ともいえる。コントローラ12は、登録モビリティの位置情報の履歴すなわち位置の時系列データに基づいて、登録モビリティが走行した軌跡すなわち走行ルートを演算する。位置情報と地図情報とが対応しているため、地図情報と走行ルートとが対応付けられて記憶装置11に記憶される。コントローラ12は、例えば、ディスプレイに表示される地図の道路上に各登録モビリティの走行ルートを表示することもできる。また、位置の時系列データに対応する走行ルートによれば、コントローラ12は、登録モビリティがどの位置にどれだけの時間滞在したかも把握することができる。
【0021】
路面状態取得処理S4は、コントローラ12が、各登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に関する情報、諸元情報、及び走行ルートに基づいて、走行ルートに対応した轍の位置及び形状を含む路面状態を演算し、当該路面状態を地図情報に対応付けて記憶装置11に記憶する処理である。
【0022】
コントローラ12は、例えば、走行ルート、当該走行ルートに対応する登録モビリティのトレッド、当該走行ルートに対応する登録モビリティのタイヤ幅、及び地図情報に含まれる路面の種類に関する情報に基づいて、轍の位置を演算する。路面の種類としては、例えば、舗装路や未舗装路が挙げられる。路面の種類は、さらに詳細に設定されてもよく、例えば未舗装路の種類(土や岩等)が分類項目として設定されてもよい。
【0023】
コントローラ12には、登録モビリティのうち位置情報(測位データ)に対応する位置として、基準位置が設定されている。基準位置は、例えば、登録モビリティの中心位置に設定されている。この場合、図3に示すように、コントローラ12は、登録モビリティの基準位置(中心位置)が地図上で線状に表された走行ルートL上に位置すると仮定し、登録モビリティの中心位置に対するタイヤ中心の相対位置及びタイヤ幅に基づいて、タイヤが通った軌跡(路面上の位置の履歴ともいえる)を演算する。タイヤの軌跡は、走行ルートLに沿って形成される。
【0024】
位置情報に対応する登録モビリティの基準位置は、中心位置に限らず、例えば受信機2の設置位置等に合わせて、任意に設定できる。コントローラ12は、位置情報(測位データ)に対応する基準位置が登録モビリティ毎に設定されている場合、走行ルートLに対するタイヤ中心の相対位置を登録モビリティに応じて設定し、タイヤの軌跡を演算する。轍の位置は、タイヤの軌跡に対応する。轍は、タイヤの軌跡に沿って形成される。コントローラ12は、例えば、天候が雨で且つ登録モビリティの走行路が未舗装路である場合に、轍の位置を演算するように構成されてもよい。つまり、コントローラ12は、路面状態の演算において、天候情報を参照してもよい。
【0025】
本実施形態において、走行ルートに対応する路面の種類が舗装路であった場合、コントローラ12は、路面に轍が形成されないと判定し、轍の位置を演算しない。つまり、この場合、舗装路の路面状態は更新されない。本実施形態において、路面の種類が舗装路である場合、路面の変形のしやすさは0に設定される。以下、路面状態の演算について、路面の種類が未舗装路であった場合について説明する。
【0026】
走行ルートに対応する路面の種類が未舗装路であった場合、コントローラ12は、タイヤの軌跡に沿って路面に轍が形成されると判定する。図4に示すように、本実施形態の轍の設定において、轍は、2つの凸部と、それら2つの凸部の間に形成される凹部とで構成される。コントローラ12は、各タイヤの左右両側に凸部が形成され、各タイヤの接地面下に凹部が形成されるとして、轍の位置を演算する。コントローラ12は、路面が未舗装路である場合、タイヤの軌跡に沿うように、地図情報に対応して(地図上に)、轍の位置を設定する。
【0027】
また、コントローラ12は、例えば、走行ルート、登録モビリティの質量、旋回時の旋回半径、走行速度、横加速度、及び路面の種類に基づいて、轍の形状を演算する。旋回半径は、例えば、走行ルートに基づいて演算される。走行速度や横加速度の情報は、登録モビリティに搭載された車輪速度センサや加速度センサの検出値に基づいて取得できる。コントローラ12は、轍の形状(ここでは凸部の高さ、凸部の幅、及び凹部が深さ)を演算するにあたり、路面の変形のしやすさを演算する。
【0028】
路面の変形のしやすさは、路面の種類及び天候(天気、湿度等)の情報に基づいて設定される。本実施形態のコントローラ12は、登録モビリティが路面を走行した際の天候情報を、通信ネットワークを介して、例えばインターネットのウェブサイト等から取得するように構成されている。コントローラ12は、天候情報を、路面状態の演算に利用する。例えば、雨の未舗装路は、晴れの未舗装路よりも路面変形しやすい。
【0029】
路面の変形のしやすさは、数値で設定されてもよいし、複数の段階に分けられたレベル等で設定されてもよい。例えば、路面が土の未舗装路で、天気が雨であった場合、路面の変形のしやすさは最大レベルとなる。一方、路面が岩の未舗装路で、天気が晴れであった場合、路面の変形のしやすさは未舗装路のうちで最小レベルとなる。このように、未舗装路の種類として土と岩との区別がある場合、土のほうが相対的に路面変形しやすい。また、天気は雨のほうが晴れよりも路面変形しやすく、湿度が高いほど路面変形しやすい。路面の変形のしやすさが大きいほど、凸部の高さ、凸部の幅、及び凹部が深さは大きくなりやすい。
【0030】
コントローラ12は、轍の形状として、主に、凸部の高さ、凸部の幅、及び凹部の深さについて演算する。凸部の斜面等の形状は、例えば、凸部の高さと幅に応じて予め設定された形状モデルが適用される。本実施形態の演算上の設定例について説明すると、登録モビリティの質量が大きいほど、凸部の高さ、凸部の幅、及び凹部の深さはそれぞれ大きくなる。また、登録モビリティの滞在時間が長いほど(すなわち走行速度が低いほど)、凸部の高さ、凸部の幅、及び凹部の深さはそれぞれ大きくなる。滞在時間は、走行速度に反比例する。
【0031】
また、登録モビリティが旋回した時の左右の荷重移動が大きいほど、例えば旋回外側において、凸部の高さ及び幅は大きくなる。コントローラ12は、左右の荷重移動の大きさについて、例えば、走行速度、旋回半径(旋回曲率でもよい)、及びロールモーメントに基づいて演算する。ロールモーメントは、例えば、登録モビリティの重心高とロールセンター高との差、登録モビリティのばね上質量、及び旋回時の横加速度に基づいて演算される。コントローラ12は、ロールモーメントの演算において、登録モビリティに設置された横加速度センサの検出値の情報に基づいて旋回時の横加速度を把握し、その他の情報は諸元情報から取得する。
【0032】
このように、コントローラ12は、主に、路面の変形のしやすさ、登録モビリティの質量、ロールによる左右荷重移動、及び登録モビリティの滞在期間(走行速度)に基づいて、轍の形状を演算する。轍の位置及び形状の演算により、コントローラ12は、後述するように、目標ルート設定対象の対象モビリティが走行可能な目標ルート、又は路面状態に追従するセンサ検出値を取得可能な目標ルートを設定することができる。
【0033】
(目標ルートの設定)
コントローラ12は、対象モビリティの位置情報、対象モビリティの目的地、及び記憶装置11に記憶された路面状態に基づいて、対象モビリティが走行可能な目標ルートを演算する目標ルート演算処理S5を実行するように構成されている(図2参照)。コントローラ12は、位置情報に基づく対象モビリティの現在地、ユーザ等により設定された対象モビリティの目的地、及び地図情報に対応付けされた轍の位置と形状に基づいて、対象モビリティの目標ルートを演算する。コントローラ12は、路面状態から轍の位置及び形状を把握し、対象モビリティにとって走行が困難な轍を避けるように目標ルートを設定することができる。
【0034】
例えば、コントローラ12は、対象モビリティの現在地と目的地に基づいて仮目標ルートを演算する。コントローラ12は、路面状態を参照し、仮目標ルート上に対象モビリティが走破できない大きな轍(以下、単に「大きな轍」という)があるか否かを判定する。仮目標ルート上に大きな轍がある場合、コントローラ12は、大きな轍を避けるように仮目標ルートを修正し、修正した仮目標ルートを目標ルートに設定する。仮目標ルート上に大きな轍がない場合、コントローラ12は、仮目標ルートを目標ルートに設定する。各登録モビリティの走破能力は、諸元情報として記憶装置11に記憶されている。
【0035】
例えば、記憶装置11には、各登録モビリティに対して、乗り越え可能な轍の凸部の高さの上限値が設定されていてもよい。登録モビリティは、轍の延伸方向に対して直角に進行することで、轍を乗り越えやすい場合がある。したがって、記憶装置11には、登録モビリティの轍への進入角度が直角である場合の、乗り越え可能な凸部の高さの上限値が設定されてもよい。コントローラ12は、轍への進入角度も考慮して、目標ルートを設定することができる。
【0036】
例えば、コントローラ12は、仮目標ルート上に轍がある場合、対象モビリティが轍を乗り越えられる進入角度で轍に進入する目標ルートか、又は轍を避けた目標ルートを設定することができる。記憶装置11には、登録モビリティの種類又は型毎に、轍への進入角度と乗り越え可能な高さの上限値との関係が記憶されていてもよい。
【0037】
(路面周波数を考慮した目標ルートの設定)
対象モビリティが走行可能なルートを演算するという上記条件に加えて、コントローラ12は、さらに路面周波数を考慮して目標ルートを演算してもよい。路面周波数は、路面の凹凸とその路面を走行するモビリティの走行速度により演算される。路面の凹凸を波形と捉え、その波形に沿って質点が移動すると仮定すると、波形上を移動する質点の移動速度によって、質点が上下に振動する周波数すなわち路面周波数が決まる。路面周波数が高いほど、その路面に沿って移動する質点の振動数は高くなる。
【0038】
例えば、モビリティが走行する路面の路面状態が悪く、モビリティのばね下が高い周波数で振動する場合、ばね下の振動は、路面状態に追従した振動とは異なる可能性がある。ばね下の振動が路面状態に追従していない場合、ばね下に搭載されたセンサの検出値と路面状態とが対応しなくなる。例えば、路面周波数がモビリティのばね下の固有振動数よりも高くなると、ばね下の動きは、路面の凹凸に追従していない動きとなる。つまり、そのモビリティのばね下に搭載された各種センサの検出値は、路面状態に対応していない値となる。モビリティ走行中、モビリティから見た路面凹凸の変化と、ばね下の動きと、ばね上の動きとは、それぞれ独立した要素である。したがって、路面周波数と、センサが搭載された位置(ばね下又はばね上)の動きとは、異なる可能性がある。
【0039】
ばね上とは、モビリティにおいて、ボディを含む部分であって、サスペンション装置で支えられた部分を意味する。ばね上は、ボディ(車体)を含み、サスペンションスプリングよりもボディ側の部分であるともいえる。ばね上は、図6においてm2が記載された部分に相当する。ばね下とは、モビリティにおいて、サスペンション装置のコイルスプリングよりも下にある部分であって、足回り部品類を意味する。ばね下は、車輪及び車輪支持部材を含む、サスペンションスプリングよりも車輪側の部分ともいえる。ばね下は、例えば、ホイール、タイヤ、ブレーキ、サスペンションアーム、ドライブシャフト、及びスタビライザを含んで構成される。
【0040】
本実施形態において、ばね下の固有振動数は、これら足回り部品全体の固有振動数である。例えば、ばね下の固有振動数の演算では、足回り部品全体の質量が用いられる。ばね下の固有振動数は、ばね上の固有振動数よりも高い。なお、ばね上の固有振動数(例えば1~2Hz)は、ばね下の固有振動数(例えば11~13Hz)よりもはるかに低いため、ばね下の振動を考察する上で無視されても問題はないと考えられる。
【0041】
路面周波数がばね下の固有振動数よりも高い場合、ばね下の上下運動が路面の凹凸に対応しないものとなる。ばね下に設置されたセンサの検出値は、路面状態と異なる状態を表すことになる。これによれば、路面状態の演算に対して、センサの検出値の信頼度が低くなる。そこで、対象モビリティに搭載されたセンサの検出値と実際の路面状態とが対応するように、コントローラ12は、目標ルート演算処理S5において、路面周波数が所定の閾周波数以下となるように目標ルートを演算する。
【0042】
路面周波数は、路面の凹凸の幅と、対象モビリティが当該凹凸を走行する際の走行速度とに基づいて演算される。路面の凹凸の幅は、轍の凸部の幅と、対象モビリティの轍への進入角度とに基づいて演算される。図5に示すように、轍の延伸方向と対象モビリティの進行方向との為す角度すなわち進入角度が90度(直角)である場合、路面の凹凸の幅は、記憶装置11に記憶された凸部の幅と同じ値となる。進入角度が90度でない場合、凸部を斜めに横断するため、路面の凹凸の幅は、記憶装置11に記憶された凸部の幅よりも大きくなる。つまり、進入角度が90度でない場合、対象モビリティは凸部を最短距離で横断せず、対象モビリティが凸部上を走行する距離すなわち路面の凹凸の幅は大きくなる。路面の凹凸の幅を走行速度で除算すると、路面の周期が演算される。路面の周期の逆数が路面周波数となる。
【0043】
コントローラ12は、目標ルートの設定にあたり、進入角度の調整により路面の凹凸の幅を調整することができる。コントローラ12は、轍への進入角度と轍横断時の走行速度とを調整することで、路面周波数を調整することができる。コントローラ12は、路面周波数が閾周波数以下となるように、目標ルート及び走行条件(走行速度等)を設定する。
【0044】
本実施形態の閾周波数は、対象モビリティの部品に関する固有振動数に基づいて設定されている。より詳細に、閾周波数は、対象モビリティのうち、路面状態に応じた検出値を取得したいセンサが配置された部分に影響がある部品の固有振動数に基づいて設定されている。本実施形態において、閾周波数は、対象モビリティのばね下の固有振動数に設定されている。路面周波数がばね下の固有振動数よりも低い場合、ばね下に搭載されたセンサの検出値は、路面の凹凸に追従した値となる。ばね上のセンサの検出値は、路面状態に追従したばね下の検出値に基づいて、補正することができる。ばね上の動きは、ばね下の動きと図6の2自由度振動系モデルとに基づいて演算できる。つまり、ばね下のセンサの検出値が路面の凹凸に追従している場合、ばね上のセンサの検出値の補正も精度が高いものとなる。ばね下の動きが路面状態を反映させたものであれば、モビリティに搭載されたセンサの検出値は、演算により路面状態を表すものに補正することができる。このように、閾周波数は、対象モビリティのばね下の固有振動数以下の値に設定されることが好ましい。
【0045】
参考として、図6に示すように、登録モビリティの上下振動は、2自由度振動系モデルを用いて考えることができる。m2はばね上の質量であり、m1はばね下の質量であり、k2はサスペンション装置に対応するばね定数であり、k1はタイヤに対応するばね定数であり、c2はサスペンション装置に含まれるショックアブソーバに対応するダンパ係数である。m2に対応する部分であるばね上とm1に対応する部分であるばね下とのそれぞれの上下方向の運動に関しては、公知の運動方程式により演算することができる。
【0046】
ばね下の固有振動数は、例えば、ばね下を構成する部品全体の質量m1とばね定数k1に基づいて演算可能である。また、ばね下の固有振動数は、モビリティに対して下から振動を加える装置、すなわちタイヤの接地面を加振する装置を用いて計測することもできる。例えば、車両のばね下の固有振動数は、およそ11~13Hzである。対象モビリティのばね下の固有振動数がおよそ11~13Hzであると推定された場合、閾周波数はその範囲の最小値である11Hz以下に設定される。閾周波数は、すべての登録モビリティに対して同一の値で設定されてもよいし、登録モビリティ毎に設定されてもよい。閾周波数は、例えば記憶装置11に記憶されている。コントローラ12が路面周波数及び閾周波数に基づいて目標ルートを設定することで、対象モビリティに搭載されたセンサの検出値を路面状態に追従した値にすることができる。これにより、運行管理システム1は、精度良く路面状態を把握することができる。コントローラ12は、路面状態として、轍に限らず、加速度センサの検出値等に基づいて路面の凹凸状態を演算することができる。
【0047】
また、すべての登録モビリティが対象モビリティに設定され、対象モビリティの目標ルートが、路面周波数が閾周波数以下となるように設定されることで、管制システムの管制下のすべての登録モビリティの挙動が、路面の凹凸に追従するようになる。これにより、各登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に基づいて、精度良く路面情報を生成することができる。登録モビリティに搭載されたセンサは、登録モビリティの挙動を検出する挙動検出センサ、又は路面の情報を検出する路面情報検出センサともいえる。また、例えば、登録モビリティがステレオカメラのような外界センサを備えている場合、その登録モビリティに搭載されたセンサの検出値に基づいて外界センサの画像を補正することも可能となる。路面からの入力が把握できれば、その入力がばね下のセンサ及びばね上のセンサにどのように伝達されるかを演算することができる。したがって、コントローラ12は、例えば、路面に対応した1つのセンサの検出値に基づいて、そのセンサの検出値の補正、ばね下に搭載されたセンサの検出値の補正、及びばね上に搭載されたセンサの検出値の補正を実行することができる。
【0048】
運行管理システム1の処理の一例をまとめると、図7に示すように、コントローラ12は、各登録モビリティから情報を取得し(S901)、取得した情報等に基づいて轍の位置と形状を演算する(S902、S903)。詳細に、コントローラ12は、走行ルート、地図情報に含まれる路面の種類、諸元情報に含まれるタイヤの配置位置に基づいて、轍の位置を演算する(S903)。コントローラ12は、さらに天候情報に基づいて轍の位置を演算してもよい。また、コントローラ12は、センサの検出値に関する情報としての横加速度と走行速度、路面の種類、走行ルート、天候情報、及び諸元情報に含まれる登録モビリティの質量に基づいて、轍の形状を演算する(S903)。
【0049】
コントローラ12は、轍の位置と形状を含む路面状態の情報を地図情報に対応付けて記憶装置11に記憶する(S904)。コントローラ12は、すべての登録モビリティの走行ルートに基づいて、路面状態の情報を更新し、路面状態の情報を地図情報に対応させ、記憶装置11に集約する(S905)。コントローラ12は、集約された路面状態の情報に基づいて、目標ルートを演算する(S906)。なお、未舗装路が整地された場合、当該整地された部分の路面状態の情報はリセットされる。
【0050】
このように、本実施形態の運行管理システム1によれば、轍の位置及び形状を含む路面状態を演算(推定ともいえる)できるとともに、路面状態を考慮した目標ルートを設定することができる。特に鉱山など大型重機とライトビークルとが走行する状況では、大型重機の走行により形成された轍がライトビークルにとって走破困難な大きさになることも少なくない。このような状況でも、運行管理システム1によれば、例えば、対象モビリティにとって走破不可の大きな轍のみを回避する目標ルートを設定することができる。また、登録モビリティが、路面周波数が閾周波数以下となる目標ルートを走行することで、コントローラ12は精度良く路面状態の情報を取得することができる。
【0051】
(その他)
本発明は上記実施形態に限られない。例えば、運行管理システム1の一部の処理が管制システムで行われ、残りの処理が登録モビリティのECU3で行われてもよい。つまり、コントローラ12は、物理的に離間した2つ以上のECU又はコンピュータで構成されてもよい。例えば、位置取得処理S1から路面状態取得処理S4まで管制システムが実行し、目標ルート演算処理S5を登録モビリティのECU3が実行してもよい。ECU3は、路面状態の情報を管制システムから取得できる。また、運行管理システム1は、登録モビリティに搭載されたECU又はコンピュータのみによって構成されてもよい。
【0052】
また、轍の形状の演算条件は、例えば、旋回半径が小さいほど、旋回外側の凸部の高さが大きくなるように設定されてもよい。また、演算条件は、例えば、走行速度が高いほど、旋回時の旋回外側において凸部の高さ及び幅が大きくなるように設定されてもよい。閾周波数は、ばね下の固有振動数にかかわらず、所望のセンサの検出値が路面状態に追従するように、例えばセンサの搭載位置の固有振動数に基づいて設定されてもよい。閾周波数は、例えば、ばね上の固有振動数に設定されてもよい。また、轍の形状の演算において、急ブレーキの有無が考慮されてもよい。また、路面周波数の演算において、凸部と凸部の間隔(凹部の幅)が考慮されてもよい。また、本開示において、「対応付ける」は「関連付ける」ともいえる。また、本開示の運行管理システムは、位置情報取得処理S1を実行する位置情報取得部、対応処理S2を実行する対応処理部、走行記憶処理S3を実行する走行記憶部、路面状態取得処理S4を実行する路面状態取得部、及び目標ルート演算処理S5を実行する目標ルート演算部を備えているともいえる。路面状態の演算に用いられる諸元情報には、タイヤのサイズや、タイヤのトレッドパターン等が含まれてもよい。固有振動数は、共振周波数とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0053】
1…運行管理システム、11…記憶装置、12…コントローラ、12a…プロセッサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7