(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066857
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20240509BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176613
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 修二
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔哉
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA25
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD54
3J062CD60
(57)【要約】
【課題】ボールの振動が抑制されるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】本開示のボールねじ装置は、回転自在に支持されたねじ軸と、ねじ軸に貫通され、ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、複数のボールと、を備える。ナットは、筒状のナット本体と、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を有する。軸方向に直交する一方向を第1直交方向とする。軸方向と第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とする。ナットは、第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能に支持される。ナット本体の一端にある端面は、押圧面である。押圧面は、第1直交方向から視て第2直交方向の他方に向かって軸方向の他方に位置するように傾斜している。複数の循環部は、最もナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部を有する。他端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の一方以外に配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されたねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記ナットは、前記第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能に支持され、
前記ナット本体の一端に設けられた端面は、押圧対象物を押圧する押圧面であり、
前記押圧面は、前記第1直交方向から視て前記第2直交方向の他方に向かって前記軸方向の他方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
【請求項2】
自己の中心線を中心に筒状を成し、前記中心線と平行な中心線方向に移動自在なナットと、
前記ナットを貫通し、かつ自己の軸心を中心に回転自在なねじ軸と、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記中心線方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記中心線方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記軸心は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の一方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
【請求項3】
回転自在に支持されたねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記ナット本体は、
前記ねじ軸の軸心を中心とする外周面と、
仮想線を中心とする内周面と、
前記内周面に設けられた内周軌道面と、
を有し、
前記仮想線は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の他方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
【請求項4】
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方に配置されている
請求項1又は請求項3に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方に配置されている
請求項1又は請求項3に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記一端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の一方に配置されている
請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記他端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の他方に配置されている
請求項2に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、回転運動から直線運動に、又は直線運動から回転運動に効率良く変換する装置であり、アクチュエータなどに搭載されている。ボールねじ装置は、下記特許文献1に示すように、ねじ軸と、ねじ軸に貫通されるナットと、複数のボールと、を備えている。ねじ軸の外周面には、螺旋状の外周軌道面が設けられている。ナットの内周面には、外周軌道面に対向する螺旋状の内周軌道面が設けられている。外周軌道面と内周軌道面との間は、螺旋状の軌道となっている。軌道には、複数のボールが配置されている。ボールねじ装置の作動時、ボールは、軌道の一端から他端の方に移動する。軌道の他端に移動したボールは、循環部により軌道の一端に循環する。
【0003】
1リードを移動したボールを1リード分戻す循環部として、ナットの内周面に成形されたS字溝や、ナットに組み付けられたコマが挙げられる。このような1リード分戻す循環部を用いた場合、ラジアル荷重であってねじ軸から視て循環部が配置されている方向の荷重をナットは支持することができない。よって、複数の循環部は、周方向に分散して配置されている。これにより、ナットは、全ての角度からねじ軸を支持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボールねじ装置をアクチュエータなどに組み付けた場合、公差、自重、部品精度、芯ずれなどの様々の要素により、ねじ軸又はナットが傾く可能性がある。つまり、意図せずモーメント荷重が作用する場合がある。そのほか、組み付け以外であっても、外部荷重や外部振動によってねじ軸又はナットが傾く(モーメント荷重が作用する)可能性がある。以下、ボールねじ装置の組み付け等により発生する意図しないモーメント荷重を組み付けモーメント荷重と称する。また、ナットの端部寄りに配置された循環部を端部側循環部と称する。
【0006】
ここで、組み付けモーメント荷重によって、循環部の近傍を転動するボールに作用する荷重が大きくなる可能性がある。特に、複数の循環部のうち端部側循環部の近傍を転動するボールに対し、過大な負荷がかかる可能性がある。このような状態でボールねじ装置が作動すると、端部側循環部の近傍を転動するボールが振動する可能性があり、好ましくない。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、組み付けモーメント荷重が作用した場合であっても、端部側循環部の近傍を転動するボールの振動が抑制されるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の第1態様に係るボールねじ装置は、回転自在に支持されたねじ軸と、前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、を備えている。前記ナットは、筒状のナット本体と、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を有している。前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とする。前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とする。前記ナットは、前記第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能に支持されている。前記ナット本体の一端に設けられた端面は、押圧対象物を押圧する押圧面である。前記押圧面は、前記第1直交方向から視て前記第2直交方向の他方に向かって前記軸方向の他方に位置するように傾斜している。複数の前記循環部は、最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、を有している。前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置されている。前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている。
【0009】
本開示のナットは傾倒自在に支持されている。また、ナットの押圧面は傾斜している。よって、ナットが押圧対象物を押圧すると、押圧対象物から反力を受け、ナットが傾く。つまり、軸方向の他方に向かう反力がモーメント荷重に変換される。以上から、本開示のボールねじ装置は、所定方向のモーメント荷重(以下、予圧モーメント荷重と称する)が作用する。また、本開示のナットは、ナットの一端が第2直交方向の他方に移動し、ナットの他端が第2直交方向の一方に移動するように傾く。このため、ナットの一端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の他方を転動するボールの負荷が増加する。一方で、ナットの他端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の一方を転動するボールの負荷が増加する。ここで、本開示の一端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の他方以外に配置されている。また、他端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の一方以外に配置されている。よって、予圧モーメント荷重が作用しても、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が増加しない。そして、本開示のボールねじ装置によれば、予圧モーメント荷重が作用しているため、意図しない組み付けモーメント荷重が作用しても、組み付けモーメント荷重の方向にナットが傾き難い。つまり、ナットに組み付けモーメントが作用しても、ナットが組み付けモーメントの方向に傾く量が小さく抑えられる。つまり、端部側循環部がねじ軸に近接する量が小さく抑えられる。この結果、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が過大とならず、ボールの振動が回避される。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本開示の第2態様に係るボールねじ装置は、自己の中心線を中心に筒状を成し、前記中心線と平行な中心線方向に移動自在なナットと、前記ナットを貫通し、かつ自己の軸心を中心に回転自在なねじ軸と、前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、を備えている。前記ナットは、筒状のナット本体と、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を有している。前記中心線方向に直交する一方向を第1直交方向とする。前記中心線方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とする。前記軸心は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の一方に位置するように傾斜している。複数の前記循環部は、最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、を有している。前記一端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の他方以外に配置されている。前記他端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている。
【0011】
本開示によれば、ねじ軸はナットの中心線に対し傾斜している。つまり、ねじ軸を基準とすると、ナットがねじ軸に対し傾いた状態となっており、第1態様のボールねじ装置と同様に、ナットに予圧モーメント荷重が作用した状態となっている。また、ナットの傾きにより、ナットの一端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の他方を転動するボールの負荷が増加する。一方で、ナットの他端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の一方を転動するボールの負荷が増加する。ここで、本開示の一端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の他方以外に配置されている。また、他端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の一方以外に配置されている。よって、予圧モーメント荷重が作用しても、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が増加しない。そして、本開示のボールねじ装置によれば、意図しない組み付けモーメント荷重が作用しても、ナットが組み付けモーメントの方向に傾く量が小さく抑えられる。よって、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が過大とならず、ボールの振動が回避される。
【0012】
また、上記の目的を達成するため、本開示の第3態様に係るボールねじ装置は、回転自在に支持されたねじ軸と、前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、を備えている。前記ナットは、筒状のナット本体と、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を有している。前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とする。前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とする。前記ナット本体は、前記ねじ軸の軸心を中心とする外周面と、仮想線を中心とする内周面と、前記内周面に設けられた内周軌道面と、を有している。前記仮想線は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の他方に位置するように傾斜している。複数の前記循環部は、最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、を有している。前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置されている。前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている。
【0013】
本開示によれば、内周軌道面がねじ軸に対し傾斜している。つまり、ねじ軸を基準とすると、ナットがねじ軸に対し傾いた状態となっており、第1態様のボールねじ装置と同様に、ナットに予圧モーメント荷重が作用した状態となっている。また、ナットの傾きにより、ナットの一端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の他方を転動するボールの負荷が増加する。一方で、ナットの他端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の一方を転動するボールの負荷が増加する。ここで、本開示の一端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の他方以外に配置されている。また、他端側循環部は、ねじ軸から視て第2直交方向の一方以外に配置されている。よって、予圧モーメント荷重が作用しても、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が増加しない。そして、本開示のボールねじ装置によれば、意図しない組み付けモーメント荷重が作用しても、ナットが組み付けモーメントの方向に傾く量が小さく抑えられる。よって、端部側循環部(一端側循環部及び他端側循環部)の近傍を転動するボールの負荷が過大とならず、ボールの振動が回避される。
【0014】
また、前記するボールねじ装置において、前記一端側循環部は、前記ねじ軸(前記中心線)から視て前記第2直交方向の一方に配置されている。
【0015】
前記するボールねじ装置によれば、予圧モーメント荷重により、ナットの一端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の一方を転動するボールの負荷が最も小さい。よって、前記構成によれば、一端側循環部の近傍を転動するボールに作用する負荷が大きく低減し、ボールの振動が確実に抑制される。
【0016】
また、前記するボールねじ装置において、前記他端側循環部は、前記ねじ軸(前記中心線)から視て前記第2直交方向の他方に配置されている。
【0017】
前記するボールねじ装置によれば、予圧モーメント荷重により、ナットの他端寄りを転動する複数のボールのうち、ねじ軸から視て第2直交方向の他方を転動するボールの負荷が最も小さい。よって、前記構成によれば、他端側循環部の近傍を転動するボールに作用する負荷が大きく低減し、ボールの振動が確実に抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本開示のボールねじ装置によれば、組み付けモーメント荷重が作用した場合であっても、端部側循環部の近傍を転動するボールに作用する負荷が過大とならず、ボールの振動が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のナットをピストンの方から視た図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のナットであって軸方向に切った状態を拡大した断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1のブレーキキャリパーの作動時のナットの拡大図である。
【
図5】
図5は、実施形態2のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
【
図6】
図6は、変形例に係る電動アクチュエータを軸方向に切った断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態3のブレーキキャリパーのナット及びピストンを軸方向に切った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
図1に示すように、実施形態1のブレーキ装置は、ブレーキキャリパー100である。ブレーキキャリパー100は、図示しない車輪と供回りするブレーキディスク101を2つのブレーキパッド102、103で挟み、車輪に制動力を与える装置である。なお、実施形態では、本開示のボールねじ装置をブレーキキャリパー100に適用した例を挙げているが、ブレーキブースタなど、その他の装置に適用してもよい。
【0022】
ブレーキキャリパー100は、ブレーキディスク101と、2つのブレーキパッド102、103と、ハウジング120と、ピストン40と、ピストン40を作動させる電動アクチュエータ104と、を備えている。
【0023】
ハウジング120には、ブレーキパッド102に向かって開口する収容穴121が設けられている。この収容穴121には、ピストン40及び電動アクチュエータ104が収容されている。収容穴121は、仮想線K1を中心に円柱状に形成されている。この仮想線K1は、ブレーキパッド102に対して直交する方向に延在している。収容穴121の内周面は、小径の第1壁面122と、大径の第2壁面123と、を有している。第1壁面122は、収容穴121のうちブレーキパッド102寄りに設けられている。第2壁面123は、第1壁面122を挟んでブレーキパッド102の反対側に設けられている。
【0024】
ピストン40は、第1壁面122の内側に配置されている。ピストン40は、ブレーキパッド102に当接する押圧部41と、押圧部41からブレーキパッド102に対し反対の方向に延出する円筒部42と、を有している。押圧部41は、仮想線K1を中心に円盤状に形成されている。円筒部42は、仮想線K1を中心に円筒状に形成されている。円筒部42の外周面は、第1壁面122と対向している。円筒部42の外周面と第1壁面122の間には、微小な隙間が設けられている。よって、ピストン40は、仮想線K1と平行な方向に摺動自在にハウジング120に支持されている。
【0025】
電動アクチュエータ104は、回転運動を生成するモータ(不図示)と、回転運動を減速させる減速装置110と、回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置1と、を備えている。
【0026】
減速装置110は、遊星歯車機構であり、第2壁面123の内側に配置されている。減速装置110は、入力軸111と、サンギヤ112と、リングギヤ113と、複数のプラネタリギヤ114と、複数の伝達軸115と、キャリア116と、を備えている。
【0027】
入力軸111には、モータの回転運動が入力される。入力軸111は、仮想線K1と同軸上に配置されている。サンギヤ112は、入力軸111に貫通され、入力軸111に回転不能に固定している。リングギヤ113は、入力軸111を中心とする内歯車である。リングギヤ113の外周面がハウジング120の第2壁面123に嵌合している。
【0028】
プラネタリギヤ114は、サンギヤ112とリングギヤ113の間に配置されている。また、プラネタリギヤ114は、サンギヤ112及びリングギヤ113に歯合している。プラネタリギヤ114は、伝達軸115に貫通されている。また、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転自在に支持されている。
【0029】
キャリア116は、仮想線K1を中心とする環状部品である。キャリア116の外周面が軸受117の内輪に嵌合し、キャリア116は軸受117の内輪から脱落しないように固定されている。また、キャリア116は、軸受117の内輪に当接するフランジを有している。よって、キャリア116がサンギヤ112の方に位置ずれしないように固定されている。また、軸受117の外輪は、ハウジング120の段差面と止め輪により挟持されている。これにより、軸受117は、仮想線K1と平行な方向に移動不能に固定されている。伝達軸115は、キャリア116の中央部から径方向外側に偏心した位置を貫通している。
【0030】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、ボール4と、を備えている。ねじ軸2の軸心O1は、仮想線K1と同軸上に配置されている。以下、ねじ軸2の軸心O1と平行な方向を軸方向と称する。また、軸方向のうち、ボールねじ装置1から視てブレーキディスク101が配置される方を第1方向X1と称し、第1方向X1と反対方向を第2方向X2と称する。
【0031】
ねじ軸2は、第2壁面123の内側に配置される動力伝達部10と、第1壁面122の内側に配置されるねじ軸本体11と、を備えている。動力伝達部10は、キャリア116の中央部を貫通している。動力伝達部10とキャリア116は、スプライン嵌合している。よって、キャリア116とねじ軸2は、相対回転しないように連結している。
【0032】
ねじ軸本体11の外周面には、螺旋方向に延在する外周軌道面12が設けられている。また、ねじ軸本体11は、動力伝達部10よりも大径となっている。よって、動力伝達部10とねじ軸本体11との間には、第2方向X2を向く段差面が設けられている。この段差面は、キャリア116の側面に当接している。よって、ねじ軸2は、第2方向X2に位置ずれしないように固定されている。
【0033】
以上の構成によれば、回転運動が入力軸111に入力されると、サンギヤ112は軸心O1を中心に回転する。そして、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転(自転)しながら、軸心O1を中心に回転(公転)する。これにより、キャリア116及びねじ軸2が軸心O1を中心に回転する。また、ねじ軸2の回転速度は、入力軸111の回転速度よりも減速している。
【0034】
ナット3は、第1壁面122の内側に配置されている。ナット3は、ナット本体20と、循環部であるS字溝21と、を有している。なお、本実施形態では、循環部としてS字溝21を挙げているが、本開示の循環部はコマであってもよく、特に限定されない。
【0035】
図2は、実施形態1のナットをピストンの方から視た図である。
図2に示すように、ハウジング120の第1壁面122には、軸方向に延在するガイド溝124が2つ設けられている。2つのガイド溝124は、軸心O1を中心に点対称に配置されている。つまり、2つのガイド溝124は、軸心O1を中心に180°間隔で配置されている。以下、ねじ軸2から視て2つのガイド溝124が配置される方向を第1直交方向と称する。また、軸方向と第1直交方向との両方に直交する方向を第2直交方向と称する。
【0036】
ナット本体20は、軸心O1を中心に円筒状に形成されている。ナット本体20の外周面22には、径方向外側に突出する突起部23が2つ設けられている。2つの突起部23は、外周面22に対し、軸心O1を中心に点対称に配置されている。つまり、2つの突起部23は、軸心O1を中心に180°間隔で配置され、互いに反対方向に突出している。また、2つの突起部23が突出している方向は、第1直交方向である。よって、突起部23は、ガイド溝124に入り込んでいる。これにより、ナット3は、軸方向に移動自在(摺動自在)、かつ軸心O1回りに回転不能にハウジング120に支持されている。
【0037】
図3は、実施形態1のナットであって軸方向に切った状態を拡大した断面図である。
図3に示すように、突起部23は、第1直交方向から視て円形状となっている。つまり、突起部23は、円柱状に形成されている。これにより、ナット3は、突起部23を中心に、言い換えると、第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能となっている。また、ナット本体20の外径は、第1壁面122の内径よりも小さい。よって、ナット本体20の外周面22と第1壁面122との間には、ナット本体20が傾倒可能な空間Sが設けられている。
【0038】
ナット本体20の内周面24には、内周軌道面25が設けられている。内周軌道面25は、ねじ軸2の外周軌道面12(
図1参照)と対向し、螺旋方向に延在している。また、内周軌道面25は、螺旋方向に一回り(1リード)分、延在している。各内周軌道面25と外周軌道面12との間は、軌道を成している。そして、各軌道に複数のボール4(
図1参照)が配置されている。
【0039】
本実施形態のS字溝21は、鍛造によりナット本体20の内周面24に成形されたS字状の溝面である。S字溝21は、内周軌道面25の螺旋方向の一端と他端とを接続している。これにより、軌道の一端から他端へ移動したボール4は、S字溝21により軌道の一端に循環する。
【0040】
本実施形態の内周軌道面25及びS字溝21は、4つずつ設けられている。よって、軌道も4つとなっている。以下、4つの内周軌道面25に関し、第1方向X1から順に、第1内周軌道面25a、第2内周軌道面25b、第3内周軌道面25c、第4内周軌道面25dと称する。また、4つのS字溝21に関し、第1方向X1から順に、第1S字溝21a、第2S字溝21b、第3S字溝21c(
図2参照)、第4S字溝21dと称する。
【0041】
なお、4つのS字溝21のうち最も押圧対象物(ピストン)寄りに、言い換えるとナット本体20の一端寄りに配置された第1S字溝21aを一端側循環部と称することがある。また、4つのS字溝21のうち最もナット本体20の他端寄りに配置された第4S字溝21dを他端側循環部又は端部側循環部と称することがある。
【0042】
図2に示すように、4つのS字溝21を第1方向X1から視た場合、右回り方向に90度間隔で、第1S字溝21a、第2S字溝21b、第3S字溝21c、第4S字溝21dの順で配置されている。つまり、第1S字溝21aは、軸心O1から視て第1直交方向の他方Y2に配置されている。第2S字溝21bは、軸心O1から視て第2直交方向の一方Z1に配置されている。第3S字溝21cは、軸心O1から視て第1直交方向の一方Y1に配置されている。第4S字溝21dは、軸心O1から視て第2直交方向の他方Z2に配置されている。
【0043】
ここで、ナット3の第1内周軌道面25aは、ボール4を介して、径方向外側からねじ軸2を支持している。一方、第1内周軌道面25aを接続する第1S字溝21aは、ボール4を介して、ねじ軸2を支持することができない。よって、第1内周軌道面25aは、軸心O1から第1直交方向の他方Y2に向かう荷重(
図2の矢印A1を参照)を支持できない。同様に、第2内周軌道面25bは、軸心O1から第2直交方向の一方Z1に向かう荷重(
図2の矢印A2を参照)を支持できない。第3内周軌道面25cは、軸心O1から第1直交方向の一方Y1に向かう荷重(
図2の矢印A3を参照)を支持できない。第4内周軌道面25dは、軸心O1から第2直交方向の他方Z2に向かう荷重(
図2の矢印A4を参照)を支持できない。本実施形態では、4つのS字溝21が周方向に分散し、径方向外側から支持できない範囲が重なっていない。よって、ナット3は、全ての角度からねじ軸2を支持している。この結果、各軌道に配置されたボール4の負荷が均等となり、ボールねじ装置1の長寿命化を図ることができる。
【0044】
図3に示すように、ナット本体20の第1方向X1の端面は、ピストン40を押圧する押圧面27となっている。押圧面27は、第1直交方向から視て、第2直交方向の他方Z2に向かって第2方向X2に位置するように傾斜している。よって、ボールねじ装置1が作動していない状態で、押圧面27のうち軸心O1から視て第2直交方向の一方Z1に位置する部分27aのみがピストン40に当接している。なお、
図3では、実施形態1の押圧面27の傾斜を分かり易くするため、押圧面27の傾斜度合いを誇張して図示している。また、押圧面27は、
図4においても図示されているが、同様に押圧面27の傾斜度合いを誇張して図示している。
【0045】
図4は、実施形態1のブレーキキャリパーの作動時のナットの拡大図である。つぎに、実施形態1のボールねじ装置1の作動時について説明する。ブレーキキャリパー100の作動時、ナット3が第1方向X1に移動し、ピストン40を第1方向X1に押圧する。よって、ナット3の押圧面27は、ピストン40から第2方向X2への反力を受ける。押圧面27のうち軸心O1から視て第2直交方向の一方Z1に位置する部分27aのみがピストン40に当接している(
図3参照)。よって、押圧面27の部分27aが第2方向X2に押圧される。これにより、
図4に示すように、ナット3は、突起部23を中心に傾倒する。よって、ボールねじ装置1の作動時、ピストン40からの反力がモーメント荷重(以下、「予圧モーメント荷重」と称する。)に変換される。
【0046】
また、予圧モーメント荷重によれば、ナット3は、押圧面27が第2直交方向の一方Z1に移動するように傾倒する(
図3の矢印B1参照)。この結果、ナット3の第1方向X1の端部寄りを転動する複数のボール4、言い換えると、第1内周軌道面25aを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2を転動するボール4の負荷が大きくなる。ここで、本実施形態の第1S字溝21aは、軸心O1から第2直交方向の他方Y2に配置され、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2以外に配置されている。よって、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4に作用する負荷は増加していない。
【0047】
また、予圧モーメント荷重によれば、ナット3の第2方向X2の端部寄りを転動する複数のボール4、言い換えると、第4内周軌道面25dを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2から視て第2直交方向の一方Z1を転動するボール4の負荷が大きくなる。ここで、本実施形態の第4S字溝21dは、軸心O1から第2直交方向の一方Y1以外に配置されている。よって、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する負荷は増加していない。
【0048】
また、予圧モーメント荷重によれば、第4内周軌道面25dを転動する複数のボール4に関し、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2を転動するボール4の負荷が最も小さくなる。ここで、本実施形態の第4S字溝21dは、軸心O1から第2直交方向の他方Z2に配置されている。よって、第4内周軌道面25dの近傍を転動するボール4に作用する負荷が大きく低減している。
【0049】
つぎに、実施形態1のボールねじ装置1の効果について説明する。実施形態1のボールねじ装置1をハウジング120に組み付けた場合、公差や外力等により、組み付けモーメント荷重がナット3に作用する可能性がある。以下、ナット3に作用する組み付けモーメント荷重が、押圧面27が第2直交方向の他方Z2に移動するようなモーメント荷重の場合(
図3の矢印B2参照。以下、「負荷増加方向の組み付けモーメント荷重」と称する)を例に挙げて説明する。
【0050】
負荷増加方向の組み付けモーメント荷重(
図3の矢印B2参照)がナット3に作用すると、第4S字溝21dは、ねじ軸2の外周軌道面12に近接する。この結果、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する荷重が増加する。また、この状態でブレーキキャリパー100が駆動すると、各ボール4に作用する荷重がさらに増加する。つまり、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する荷重が過大となり、ボール4が振動する可能性がある。
【0051】
一方で、本実施形態のボールねじ装置1によれば、ボールねじ装置1の作動時、ナット3に予圧モーメント荷重(
図3の矢印B1参照)が作用する。よって、ナット3は、組み付けモーメント荷重の方向に傾き難くなっている。言い換えると、ナット3は、予圧モーメント荷重によって、組み付けモーメント荷重の方向に傾く量が小さく抑えられる。特に、負荷増加方向の組み付けモーメント荷重(
図3の矢印B2参照)は、予圧モーメント荷重(
図3の矢印B1参照)と反対方向の荷重である。よって、ナット3が組み付けモーメント荷重の方向に傾く量が極めて小さい。このため、第4S字溝21dがねじ軸2に近接する量が極めて小さく抑えられる。これにより、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4の負荷が過大とならず、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4の振動は抑制される。
【0052】
なお、予圧モーメント荷重が組み付けモーメント荷重よりも大きい場合には、組み付けモーメント荷重は予圧モーメント荷重により相殺される。よって、ナット3は、組み付けモーメント荷重の方向に傾かない。つまり、第4S字溝21dはねじ軸2の方に近接せず、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4の負荷が増加しない。この結果、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4の振動は確実に抑制される。よって、本開示においては、予圧モーメント荷重は、組み付けモーメント荷重よりも大きくなるようにすることが好ましい。
【0053】
また、第1S字溝21aに関し、ナット3に予圧モーメント荷重が作用しているため、組み付けモーメント荷重の方向への移動が小さく抑えられる。なお、負荷増加方向の組み付けモーメント荷重(
図3の矢印B2参照)は、第1S字溝21aをねじ軸2に近接させる方向の荷重でない。よって、負荷増加方向の組み付けモーメント荷重によって、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4の負荷は増加しない。
【0054】
以上、組み付けモーメント荷重が負荷増加方向の場合を例に挙げて説明したが、組み付けモーメント荷重が負荷増加方向以外の場合であっても、本実施形態の効果は有効である。つまり、第1S字溝21aがねじ軸2に近接するような組み付けモーメント荷重がナット3に作用した場合であっても、予圧モーメント荷重によってナット3が組み付けモーメント荷重の方向に傾く量が小さく抑制される。つまり、第1S字溝21aがねじ軸2に近接する量が小さく抑えられる。よって、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4の負荷が過大とならず、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4の振動は抑制される。
【0055】
以上、実施形態1のボールねじ装置1は、回転自在に支持されたねじ軸2と、ねじ軸2に貫通され、ねじ軸2と平行な軸方向に移動自在なナット3と、ねじ軸2とナット3の間に配置された複数のボール4と、を備えている。ナット3は、筒状のナット本体20と、1リードを移動したボール4を1リード分戻す複数の循環部(S字溝21)と、を有している。軸方向に直交する一方向を第1直交方向とする。軸方向と第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とする。ナット3は、第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能に支持されている。ナット本体20の一端に設けられた端面は、押圧対象物(ピストン40)を押圧する押圧面27である。押圧面27は、第1直交方向から視て第2直交方向の他方Z2に向かって軸方向の他方(第2方向X2)に位置するように傾斜している。複数の循環部は、最もナット本体20の一端寄りに配置された一端側循環部(第1S字溝21a)と、最もナット本体20の他端寄りに配置された他端側循環部(第4S字溝21d)と、を有している。一端側循環部は、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2以外に配置されている。他端側循環部は、ねじ軸2から視て第2直交方向の一方Z1以外に配置されている。また、実施形態1において、他端側循環部(第4S字溝21d)は、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2に配置されている。
【0056】
実施形態1によれば、組み付けモーメント荷重が作用しても、第1S字溝21a及び第4S字溝21dの近傍を転動するボール4にかかる負荷が過大とならず、ボール4の振動が抑制される。特に、予圧モーメント荷重により、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する負荷が大きく低減し、ボール4の振動が確実に抑制される。
【0057】
以上、実施形態1について説明したが、本開示はこれに限定されない。実施形態1のボールねじ装置1は、突起部23及びガイド溝124が軸心O1に対し第1水平方向に配置されているが、本開示は、突起部23及びガイド溝124が軸心O1に対し第1水平方向に配置されていなくてもよい。つまり、軸心O1から第1水平方向に延在する仮想線に対し、突起部23及びガイド溝124が第2直交方向にずらして配置されてもよい。
【0058】
また、実施形態1のナット3は、突起部23により傾倒自在にとなっているが、本開示は、例えば、ナット3が突起部23を備えていなくてもよい。また、実施形態1のナット3は、突起部23及びガイド溝124により軸方向に摺動自在かつ回転不能に支持されているが、本開示は、突起部23及びガイド溝124以外の方法で、ナット3を軸方向に摺動自在かつ回転不能に支持してもよい。つまり、本開示において、突起部23やガイド溝124は必須の構成ではない。なお、突起部23やガイド溝124を備えていないボールねじ装置において、ナット3が傾倒する中心線と平行な方向が第1直交方向となる。次に、他の実施形態のボールねじ装置について説明する。以下の説明においては、実施形態1との相違点に絞って説明する。
【0059】
(実施形態2)
図5は、実施形態2のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。実施形態2のハウジング120において、第1壁面122と第2壁面123は、同軸上に配置されていない点で、実施形態1と相違する。詳細に説明すると、第1壁面122は、仮想線K11を中心に円筒状を成している。一方で、第2壁面123は、仮想線K11に対し第2直交方向に偏心する仮想線K12を中心に円筒状を成している。仮想線K12は、仮想線K11に対し、第2直交方向の一方Z1に偏心している。この結果、軸受117及びキャリア116の回転中心も第2直交方向の一方Z1に偏心している。
【0060】
また、実施形態2のブレーキキャリパー100Aは、ナット3Aの外径がハウジング120の第1壁面122の内径と同一となっている点で、実施形態1と相違する。つまり、実施形態2のナット3Aは、突起部23(
図2、
図3参照)を中心に傾倒しない。また、ナット3Aの中心線C1は、第1壁面122の仮想線K11と同軸上に配置されている。ナット3Aの外周面22と第1壁面122との間に微小な隙間が設けられている。よって、ナット3Aは、仮想線K11と平行な方向に摺動自在に支持されている。
【0061】
以上から、ねじ軸2Aは、同軸上に配置されていないナット3Aとキャリア116に支持されている。このため、ねじ軸2Aは、仮想線K11及び仮想線K12に傾斜した状態となっている。つまり、ねじ軸2Aを基準とすると、ねじ軸2Aに対し、ナット3Aが傾いた状態となっている。このため、実施形態2のボールねじ装置1Aは、実施形態1のボールねじ装置1と同様に、ナット3Aに予圧モーメント荷重が作用している。なお、実施形態2において、軸方向とは、仮想線K11と平行な方向である。また、第1方向X1とは、仮想線K11と平行な方向のうち、ボールねじ装置1から視てブレーキディスク101が配置される方向であり、第2方向X2は第1方向X1と逆方向である。
【0062】
また、ねじ軸2Aの軸心O1は、第1直交方向から視て、ナット本体20の一端(第1方向X1の端部)からナット本体20の他端(第2方向X2の端部)に向かって、第2直交方向の一方Z1に位置するように傾斜している。このため、第1内周軌道面25aを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2Aから視て第2直交方向の他方Z2を転動するボール4の負荷が大きくなる。また、第4内周軌道面25dを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2から視て第2直交方向の一方Z1を転動するボール4の負荷が大きくなる。本実施形態において、第4S字溝21dは、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2に配置されている。よって、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する荷重が低減している。一方で、第1S字溝21aは、中心線C1から第1直交方向の他方Y2に配置されている(
図2参照)。つまり、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4に作用する負荷は増加していない。
【0063】
以上、実施形態2のボールねじ装置1Aによれば、ナット3Aに組み付けモーメント荷重が作用しても、予圧モーメント荷重によって組み付けモーメント荷重の方向に傾く量が小さく抑えられる。つまり、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)がねじ軸2Aに近接する量が小さく抑えられる。よって、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)の近傍を転動するボール4の負荷が過大とならない。この結果、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)の近傍を転動するボール4の振動は抑制される。
【0064】
図6は、変形例に係る電動アクチュエータを軸方向に切った断面図である。以上、実施形態2について説明したが、実施形態2のねじ軸2Aは傾斜している。このようなねじ軸2Aにおいて、実施形態2では、いわゆる片持ちとなっており、ねじ軸2Aの一端(動力伝達部10のみ)が支持されているが、本開示はこれに限定されない。例えば、
図6に示すように、変形例の電動アクチュエータ104Bでは、ねじ軸2Bは、動力伝達部10と、ねじ軸本体11と、ねじ軸本体11の第1方向X1の端部から第1方向X1に突出する円柱状の軸部15と、を備えている。そして、軸部15は、ハウジング120に設けられた軸受130に支持されている。この変形例によれば、ねじ軸2Bはいわゆる両持ちとなり、ねじ軸2Bの傾斜状態が安定する。よって、ねじ軸2Aに作用する予圧モーメント荷重も安定する。
【0065】
(実施形態3)
図7は、実施形態3のブレーキキャリパーのナット及びピストンを軸方向に切った断面図である。
図7に示すように、実施形態3のブレーキキャリパー100Cは、ねじ軸2Cの軸心O1が仮想線K1と同軸上に配置されている点で、実施形態1と共通している。なお、仮想線K1は、第1壁面122及び第2壁面123の中心線である。一方、実施形態3のブレーキキャリパー100Cは、ナット3Cの外径がハウジング120の第1壁面122の内径と同一となっている点で、実施形態1と相違する。よって、ナット3Aは、突起部23(
図2、
図3参照)と中心に傾倒しないようにハウジング120に支持されている。また、ナット3Cの外周面22と第1壁面122との間に微小な隙間が設けられている。よって、ナット3Cは、軸方向に摺動自在に支持されている。
【0066】
ナット3Cの内周面24は、仮想線D1を中心に円筒状となっている。この仮想線D1は、第1直交方向から視て、ナット本体20の一端(第1方向X1の端部)からナット本体20の他端(第2方向X2の端部)に向かって、第2直交方向の他方Z2に位置するように傾斜している。よって、実施形態3のナット3Cの内周面24は、第1直交方向から視て、軸心O1(仮想線K1)に対し傾斜している点で、実施形態1と相違する。そして、実施形態3によれば、ねじ軸2Cを基準とすると、ねじ軸2Cに対し、ナット3Cが傾いた状態と同じ状態となっている。つまり、実施形態3のボールねじ装置1Cは、実施形態1のボールねじ装置1と同様に、ナット3Aに予圧モーメント荷重が作用している。
【0067】
また、内周面24の中心線である仮想線D1は、第1直交方向から視て、ナット本体20の一端(第1方向X1の端部)からナット本体20の他端(第2方向X2の端部)に向かって、第2直交方向の他方Z2に位置するように傾斜している。このため、第1内周軌道面25aを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2を転動するボール4の負荷が大きくなる。また、第4内周軌道面25dを転動する複数のボール4のうち、ねじ軸2から視て第2直交方向の一方Z1を転動するボール4の負荷が大きくなる。本実施形態において、第1S字溝21aは、中心線C1から第1直交方向の他方Y2に配置されている。つまり、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4に作用する負荷は増加していない。一方で、第4S字溝21dは、ねじ軸2から視て第2直交方向の他方Z2に配置されている。よって、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する荷重が低減している。
【0068】
以上、実施形態3のボールねじ装置1Cによれば、ナット3Cに組み付けモーメント荷重が作用しても、予圧モーメント荷重によって組み付けモーメント荷重の方向に傾く量が小さく抑えられる。つまり、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)がねじ軸2Aに近接する量が小さく抑えられる。よって、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)の近傍を転動するボール4の負荷が過大とならない。この結果、端部側循環部(第1S字溝21a、第4S字溝21d)の近傍を転動するボール4の振動は抑制される。
【0069】
なお、実施形態3のナット3Cの端面に関し、押圧面27は、軸心O1に直交する平面であり、ナット3Cの第2方向X2の端面は、仮想線D1に直交する平面となっており、互いに平行となっていない。ただし、本開示においては、押圧面27と、ナット3Cの第2方向X2の端面は、平行となっていてもよく、特に限定されない。
【0070】
以上、各実施形態について説明したが、本開示は、各実施形態で示した例に限定されない。例えば、実施形態において、内周軌道面25及びS字溝21が4つの場合を挙げて説明しているが、本開示は、内周軌道面25及びS字溝21が2つ以上あればよく、これに限定されない。
【0071】
また、各実施形態の第1S字溝21aは、軸心O1(中心線C1)から視て第1直交方向の他方Y2に配置されているが、本開示は、第1S字溝21aが第2直交方向の他方Z2以外に配置されていればよい。仮に第1S字溝21aが第2直交方向の他方Z2に配置されると、予圧モーメント荷重により、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4に作用する荷重が増加し、ボール4が振動する可能性がある。よって、本開示は、第1S字溝21aが軸心O1(中心線C1)から視て第1直交方向の一方Y1に配置されてもよい。好ましくは、第1S字溝21aが軸心O1(中心線C1)から第2直交方向の一方Z1に配置されるのがよい。これによれば、負荷軽減方向のモーメント荷重により、第1S字溝21aがねじ軸2の外周軌道面12に離隔する。よって、第1S字溝21aの近傍を転動するボール4に作用する荷重が低減し、ボール4の振動を確実に抑制することができる。
【0072】
また、第4S字溝21dは、軸心O1(中心線C1)から視て第2直交方向の他方Z2に配置されているが、本開示は、第4S字溝21dが第2直交方向の一方Z1以外に配置されていればよい。なお、第4S字溝21dが第2直交方向の一方Z1に配置されると、予圧モーメント荷重により、第4S字溝21dの近傍を転動するボール4に作用する荷重が増加し、ボール4が振動する可能性があるからである。
【0073】
以上、本実施形態について説明したが、上記の記述において「同一」、「同じ」、「一致」等の記載は、完全に「同一」、「同じ」、「一致」する場合のほか、例えば製造誤差の範囲などの実質的な「同一」、「同じ」、「一致」する場合も含まれる。つまり、本開示において、「同一」、「同じ」、「一致」等は限定的に解釈されるものではない。
【0074】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)
回転自在に支持されたねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記ナットは、前記第1直交方向に延在する仮想線を中心に傾倒可能に支持され、
前記ナット本体の一端に設けられた端面は、押圧対象物を押圧する押圧面であり、
前記押圧面は、前記第1直交方向から視て前記第2直交方向の他方に向かって前記軸方向の他方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
(2)
自己の中心線を中心に筒状を成し、前記中心線と平行な中心線方向に移動自在なナットと、
前記ナットを貫通し、かつ自己の軸心を中心に回転自在なねじ軸と、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記中心線方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記中心線方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記軸心は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の一方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
(3)
回転自在に支持されたねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通され、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動自在なナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状のナット本体と、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を有し、
前記軸方向に直交する一方向を第1直交方向とし、
前記軸方向と前記第1直交方向の両方に直交する方向を第2直交方向とし、
前記ナット本体は、
前記ねじ軸の軸心を中心とする外周面と、
仮想線を中心とする内周面と、
前記内周面に設けられた内周軌道面と、
を有し、
前記仮想線は、前記第1直交方向から視て前記ナット本体の一端から前記ナット本体の他端に向かって、前記第2直交方向の他方に位置するように傾斜し、
複数の前記循環部は、
最も前記ナット本体の一端寄りに配置された一端側循環部と、
最も前記ナット本体の他端寄りに配置された他端側循環部と、
を有し、
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方以外に配置され、
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方以外に配置されている
ボールねじ装置。
(4)
前記一端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の一方に配置されている
(1)又は(3)に記載のボールねじ装置。
(5)
前記他端側循環部は、前記ねじ軸から視て前記第2直交方向の他方に配置されている
(1)、(3)、及び(4)のうちいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(6)
前記一端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の一方に配置されている
(2)に記載のボールねじ装置。
(7)
前記他端側循環部は、前記中心線から視て前記第2直交方向の他方に配置されている
(2)又は(6)に記載のボールねじ装置。
【符号の説明】
【0075】
1 ボールねじ装置
2、2B、2C ねじ軸
3、3A、3C ナット
4 ボール
10 動力伝達部
11 ねじ軸本体
12 外周軌道面
21 S字溝(循環部)
21a 第1S字溝(一端側循環部)
21d 第4S字溝(他端側循環部)
23 突起部
24 内周面
25 内周軌道面
27 押圧面
40 ピストン
100、100A、100C ブレーキキャリパー
101 ブレーキディスク
102、103 ブレーキパッド
104、104B 電動アクチュエータ
110 減速装置
120 ハウジング
121 収容穴
122 第1壁面
123 第2壁面
124 ガイド溝
C1 中心線
D1 仮想線
K1、K11、K12 仮想線
O1 軸心