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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006686
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】拡幅杭の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/44 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E02D5/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107811
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】桐山 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】周 友昊
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041BA12
2D041BA21
2D041CA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】杭形状を合理的に決定できる拡幅杭の設計方法
【解決手段】軸径および拡幅径の初期値を設定する初期値設定工程と、外力条件から要求される拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を式(1)から算定される基準応力(σstd)を用いて算定する引抜き抵抗力算定工程と、初期値が式(2)および(3)のいずれかを満たすかを判定する第1形状判定工程と、第1形状判定工程でいずれも満たさないと判定された場合に、拡幅角度、掘削深度および拡幅径の少なくとも1つを変更する形状変更工程と、形状変更工程の後に式(2)および(3)のいずれかを満たすかを判定する第2形状判定工程と、を有し、第2形状判定工程でいずれも満たさないと判定された場合には、形状変更工程に戻る。

【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部と連続し前記軸部から離れるにしたがって漸次径が大きくなる拡幅部と、を有する拡幅杭の設計方法において、
前記軸部の直径および前記拡幅部の直径の初期値を設定する初期値設定工程と、
外力条件から要求される前記拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を下式(1)から算定される基準応力(σstd)を用いて算定する引抜き抵抗力算定工程と、
前記初期値が下式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第1形状判定工程と、
前記第1形状判定工程において下式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合に、前記拡幅部の角度、掘削深度および前記拡幅部の直径の少なくとも1つを変更する形状変更工程と、
前記形状変更工程の後に下式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第2形状判定工程と、を有し、
前記第2形状判定工程において下式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合には、前記形状変更工程に戻る拡幅杭の設計方法。
【数1】
【請求項2】
前記形状変更工程では、前記拡幅部の角度、前記掘削深度、前記拡幅部の直径の順に優先して数値を変更する請求項1に記載の拡幅杭の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡幅杭の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の基礎として、杭底部が杭頭部よりも径が大きい拡底杭や、高さ方向の中間部に他よりも大径の拡径部を有する拡径杭が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下では、拡底杭および拡径杭を併せて拡幅杭と表記し、拡幅杭における径が大きい部分を拡幅部と表記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-183494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
拡幅部の引抜き抵抗力(Q:鉛直上向きの力に対する地盤の抵抗力)は、拡幅部の直径が3m未満の場合には実杭による引抜き試験に基づき推定されている。しかしながら、近年施工される拡幅部の直径が3mを超える拡幅部の引抜き抵抗力は、推定方法の拡大適用(実測の外挿)をすることとなり、杭形状を合理的に決定できない。
押し込み方向(鉛直下向き)の支持力は地盤材料特性に依存した寸法効果が実務者に認識され、基礎幅が大きくなるにつれて支持力が低減することが設計ガイドライン等にも示されている。拡幅部の引抜き抵抗力においても地盤材料特性に基づく寸法効果を考慮する必要があるが、既存のガイドラインには示されていない。拡幅部の拡幅角度(α)もまた拡幅部の引抜き抵抗力(Q)に寄与するが、拡幅部の抵抗特性のみを計測した定量的な測定結果が示されていない。拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を定量的に推定する方法が無いため、拡幅部の形状を合理的に決定できない。
【0005】
そこで本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、杭形状を合理的に決定できる拡幅杭の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る拡幅杭の設計方法は、軸部と、前記軸部と連続し前記軸部から離れるにしたがって漸次径が大きくなる拡幅部と、を有する拡幅杭の設計方法において、前記軸部の直径および前記拡幅部の直径の初期値を設定する初期値設定工程と、外力条件から要求される前記拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を下式(1)から算定される基準応力(σstd)を用いて算定する引抜き抵抗力算定工程と、前記初期値が下式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第1形状判定工程と、前記第1形状判定工程において下式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合に、前記拡幅部の角度、掘削深度および前記拡幅部の直径の少なくとも1つを変更する形状変更工程と、前記形状変更工程の後に下式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第2形状判定工程と、を有し、前記第2形状判定工程において下式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合には、前記形状変更工程に戻る。
【0007】
【数1】
【0008】
本発明では、従来実施できなかった拡幅径が3mを超える拡幅杭に対しても適用でき、杭形状を合理的に決定できる。また、従来考慮されていない拡幅部の寸法効果を考慮した拡幅部の形状決定が可能となる。
【0009】
また、本発明に係る拡幅杭の設計方法は、前記形状変更工程では、前記拡幅部の角度、前記掘削深度、前記拡幅部の直径の順に優先して数値を変更するようにしてもよい。
【0010】
拡幅角度の変更をはじめに行うのは、鉛直下向きの支持性能を変化させないパラメータであるためである。すなわち、拡幅角度を変更しても鉛直下向きの支持力は変化しない。鉛直下向きの支持力を変化させると、建物全体の荷重分担が変化し、構造全体の力のつり合いを再検討(設計変更)する必要が生じるが、拡幅角度の変更であれば、構造全体の力のつり合いを再検討する必要がない。
拡幅角度の変更の次に掘削深度の変更を行うのは、掘削機械の変更を伴わないためである。なお、拡幅部の直径を拡張する場合は、掘削機械を変更する必要が生じる場合がある。
例えば、支持層が強固で掘削が困難であることなどによって掘削深度の変更(深くする変更)ができない場合には、所定の引抜き抵抗力を確保するまで拡幅部の直径を変更(拡張)する。このように、形状変更工程において、拡幅部の角度、掘削深度、拡幅部の直径の順に優先して数値を変更することにより、拡幅杭の形状を合理的に決定できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、杭形状を合理的に決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】拡幅杭の鉛直断面図である。
図2】拡幅杭の平面図である。
図3】拡幅角度を変化させる実験における拡幅比と拡幅部の形状との関係を示す図である。
図4】拡幅径が一定で拡幅角度を変化させる実験における拡幅杭の模型の寸法を示す表である。
図5】拡幅径が一定で拡幅角度を変化させる実験における拡幅部の引抜き抵抗力と拡幅部の引抜き変位量との関係を示すグラフである。
図6】拡幅径が一定で拡幅角度を変化させる実験における拡幅角度の増分と拡幅部の極限引抜き抵抗力の増分との関係を示すグラフである。
図7】拡幅比の変化を示す図である。
図8】拡幅部の高さが一定で拡幅比を変化させる実験における拡幅杭の模型の寸法を示す表である。
図9】拡幅部の高さが一定で拡幅比を変化させる実験における拡幅部の引抜き抵抗力と拡幅部の引抜き変位量との関係を示すグラフである。
図10】拡幅比と無次元化した拡幅部の引抜き抵抗力との関係を示すグラフである。
図11】拡幅杭の設計方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による拡幅杭の設計方法について、図1図11に基づいて説明する。
本実施形態による拡幅杭の設計方法は、図1図2に示す、軸部2と、軸部2よりも大径の拡幅部3と、を有する拡幅杭1の設計に採用される。
軸部2は、鉛直方向に延びる円柱状である。拡幅部3は、軸線が鉛直方向に延びる円錐台状である。拡幅部3は、軸部2の下方に連続し、軸部2と一体に設けられている。拡幅部3の上端部の径は、軸部2の径と等しい。拡幅部3は、上端部から下端部に向かって漸次径が大きくなる。
以下では、軸部2の径を軸径と表記し、拡幅部3の下端部の径を拡幅径と表記する。拡幅部3の外周面の傾斜角を拡幅角度と表記する。
上述しているが、本実施形態においても拡底杭および拡径杭を併せて拡幅杭と表記し、拡幅杭における径が大きい部分を拡幅部3と表記する。
【0014】
以下に拡幅杭の設計方法で用いる記号と諸元を示す。図1、2に記号に対応する部分を示す。
Q :拡幅部の引抜き抵抗力
D :拡幅部の引抜き変位量
:軸径
:拡幅径
b´ :拡幅長(=b-b
ratio:拡幅比(=b/b
:拡幅部の投影面積
α :拡幅角度
σ :拡幅部鉛直応力
σ :拡幅部の下端深度の上載圧
σint :拡幅部の中間深度の上載圧
σsh :拡幅部の上端深度の上載圧
【0015】
拡幅径(b)が3mを超える場合の拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を測定するために、遠心載荷装置を用いた縮小模型実験を実施し、相似則に基づき最大径4m(3.96m)までの拡幅杭の引抜き模型実験を実施した。
実験では、拡幅径(b)を一定、拡幅角度(α)を変化させている。図3には、拡幅径(b)を一定とし、拡幅角度(α)を変更して実施した実験シリーズで用いた杭形状の相対的な関係を示す。拡幅角度(α)が90°の拡幅杭1は、底板4が設けられている。図4には、拡幅径(b)を一定とし、拡幅角度(α)を変更して実施した実験シリーズで用いた模型杭の寸法を示す。
図5に、図3に示す拡幅杭を用いた引抜き実験結果であり、拡幅部の引抜き抵抗力(Q)と拡幅部の引抜き変位量(D)を無次元化した、拡幅部の引抜き変位量(D)-拡幅部の引抜き抵抗力(Q)関係を示す。無次元化は、下式に基づく。
【0016】
【数2】
【0017】
拡幅部の引抜き抵抗力(Q)は、自重、軸部2の摩擦を除去した拡幅部3のみに作用する正味の引抜き抵抗力である。
【0018】
拡幅部の引抜き抵抗力(Q)の無次元化にあたって基準となる応力(基準応力σstd)は、拡幅部3の下端深度における上載圧(σe)、拡幅部3の中央・上端深度における上載圧(それぞれ、σint,σsh)を任意の値を採用してもよい。
無次元化に用いる基準応力(σstd)は、着目深度における上載圧であることから、参照深度と下式(1)の関係がある。
式(1)において、Hは参照深度(m)、γ´は有効単位体積重量である。
【0019】
【数3】
【0020】
図6では、図5の各曲線の最大値を、横軸に拡幅角度(α)をとって図化している。図6のシンボル(◆)は、図5に示す(↓MAX:極限引抜き抵抗力)の値を抽出したものである。図6のシンボル(◆)に対し直線補間した傾きがβという対応関係である。拡幅部の引抜き抵抗力(Q)は、拡幅角度(α)と線型関係にあり、拡幅角度(α)の増加に伴い拡幅部の引抜き抵抗力(Q)の最大値も増加していることがわかる。
【0021】
図7には、拡幅部3の高さを一定とし、拡幅比(eratio)を変更して実施した実験シリーズで用いた杭形状の相対的な関係を示す。図8には、拡幅部3の高さを一定とし、拡幅比(eratio)を変更して実施した実験シリーズで用いた模型杭の寸法を示す。
図9に、図7に示す拡幅杭1を用いた引抜き実験結果で、拡幅部の引抜き抵抗力(Q)と拡幅部の引抜き変位量(D)を無次元化した引抜き変位量-引抜き抵抗力関係を示す。
図10では、図9の各曲線の最大値を、横軸に拡幅比(eratio)をとって図化している(図中のシンボル(◆)で示す)。拡幅部の引抜き抵抗力(Q)は、拡幅比(eratio)が大きくなるにつれ減少していることがわかる。
図10に記載のシンボル(△,×,□,◇,〇)は、シンボル(◆)が拡幅比(eratio)、拡幅角度(α)がともに変化することから、図6に示す拡幅角度(α)による増幅率(β)を用いて角度補正した値である。
図10に示す曲線(func.10deg-90deg.)は、異なる拡幅比(eratio)で同じ拡幅角度(α)を有する拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を結んだ曲線で、拡幅比(eratio)-拡幅部の引抜き抵抗力(Q)関係として下式(2)、(3)により表される。式(2)、(3)において、C、nは、実験により決まる拡幅角度(α)ごとの定数である。
【0022】
【数4】
【0023】
式(3)より拡幅部の引抜き抵抗力(Q)は、基準応力(σstd)、あるいは、寸法項(eratio ・A)に比例することがわかる。
式(3)の基準応力(σstd)は、式(1)より有効単位体積重量、または、深度と比例関係にあり、それぞれを増加させることで基準応力(σstd)を増加させることができる。つまり、拡幅部3を設置した地盤の単位体積重量を増加させるか、拡幅部3を深く設置することで拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を増加させることができる。
【0024】
式(3)の寸法項(eratio ・A)を拡幅径(b)で整理すると下式(4)を得る。式(4)において、2+nは実験より1より大きい。
【0025】
【数5】
【0026】
式(3)、(4)より、軸径(b)が一定であれば拡幅径(b)を増加させることで、寸法項が増加する。すなわち、拡幅径(b)を増加させることで拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を増加させることができる。
【0027】
上記のことから、拡幅杭の設計方法では、以下のように拡幅部の引抜き抵抗力(Q)から拡幅部3の形状を決定する。図11に拡幅杭の設計方法のフローチャート(所定の引抜き抵抗力を有する拡幅部形状の決定チャート)を示す。
【0028】
軸径(b)および拡幅径(b)の初期値を設定する初期値設定工程(S-1)を行う。
初期値設定工程(S-1)では、設計行為により、軸径(b)および拡幅径(b)の初期値を鉛直下向きの鉛直支持力から算出する。
【0029】
続いて、地震荷重や風荷重などの外力条件から要求される拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を算定する引抜き抵抗力算定工程(S-2)を行う。
引抜き抵抗力算定工程では、上記の式(1)から拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を算定する。
【0030】
続いて、初期値設定工程(S-1)で設定された初期値が上記の式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第1形状判定工程(S-3)を行う。
【0031】
第1形状判定工程において上記の式(2)および(3)のいずれかを満たすと判定された場合には、拡幅杭の形状を決定する形状決定工程(S-4)を行う。
【0032】
第1形状判定工程(S-3)において上記の式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合に、拡幅角度(α)、掘削深度(H)および拡幅径(b)の少なくとも1つを変更する形状変更工程(S-5)を行う。
形状変更工程(S-5)では、上記の式(2)、(3)のいずれか一方を変数とし、他方を初期値として図10(上記の式(2)および式(3)のいずれか)に基づき杭形状を決定する。
必要となる所要の引抜き抵抗力(Qreq.)と算出された引抜き抵抗力(Qest.)との差分(dQ=Qreq.-Qest.)からそれぞれ、角度増分量(dα)、深度増分量(dH)、拡幅径増分量(db)を算出する。
【0033】
拡幅角度(α)の変更が可能な場合は、所要の引抜き抵抗力(Qreq.)を満足するまで拡幅角度(α)を増加する(拡幅角度α→α+dα)。所要の引抜き抵抗力(Qreq.)となるまで拡幅角度(α)を増やすことを考えた場合、必要な角度増分量(dα)は以下となる。
dα=dQ/β
掘削深度(H)の変更が可能な場合は、所要の引抜き抵抗力(Qreq.)を満足するまで掘削深度(H)を増加する(掘削深度H→H+dH)。所要の引抜き抵抗力(Qreq.)となるまで掘削深度(H)増やすことを考えた場合、必要な深度増分量(dH)は以下となる。
dH=dQ/γ‘
拡幅径(b)の変更が可能な場合は、所要の引抜き抵抗力(Qreq.)を満足するまで拡幅径(b)を増加する(拡幅径b→b+db)。所要の引抜き抵抗力(Qreq.)となるまで拡幅径(b)を増やすことを考えた場合、必要な拡幅径増分量(db)は以下となる。
db=dQ/(∂Q/∂b))
なお、拡幅径増分量(db)は、具体的な式で示すと煩雑であるが、定式化としては上記となる。
【0034】
図11に示すように、形状変更工程(S-5)では、拡幅角度(α)、掘削深度(H)、拡幅径(b)の順に優先して数値を変更する。理由については後述する。
【0035】
形状変更工程(S-5)の後に、第1形状判定工程と同様に、上記の式(2)および(3)のいずれかを満たす形状であるかどうかを判定する第2形状判定工程(S-6)を行う。
第2形状判定工程(S-6)において上記の式(2)および(3)のいずれも満たさないと判定された場合には、形状変更工程に戻り、拡幅角度(α)、掘削深度(H)および拡幅部の直径の少なくとも1つを変更する。
第2形状判定工程(S-6)において上記の式(2)および(3)のいずれかを満たすと判定された場合には、拡幅杭の形状を決定する形状決定工程(S-4)を行う。
【0036】
上述しているように、形状変更工程(S-5)では拡幅角度(α)、掘削深度(H)、拡幅径(b)の順に優先して数値を変更する。形状変更工程(S-5)において変更する変数の優先順位は、以下の理由からである。
【0037】
拡幅角度(α)の変更を初めに行うのは、鉛直下向きの支持性能を変化させないパラメータであるためである。すなわち、拡幅角度(α)を変更しても鉛直下向きの支持力は変化しない。鉛直下向きの支持力を変化させると、建物全体の荷重分担が変化し、構造全体の力のつり合いを再検討(設計変更)する必要が生じるが、拡幅角度(α)の変更であれば、構造全体の力のつり合いを再検討する必要がない。
拡幅角度(α)の変更の次に掘削深度(H)の変更を行うのは、掘削機械の変更を伴わないためである。なお、拡幅径(b)を拡張する場合は、掘削機械を変更する必要が生じる場合がある。
例えば、支持層が強固で掘削が困難であることなどによって掘削深度(H)の変更(深くする変更)ができない場合には、所定の拡幅部の引抜き抵抗力(Q)を確保するまで拡幅径(b)を変更(拡張)する。このように、形状変更工程(S-5)において、拡幅角度(α)、掘削深度(H)、拡幅径(b)の順に優先して数値を変更することにより、拡幅杭の形状を合理的に決定できる。
【0038】
次に、本実施形態による拡幅杭の設計方法の作用・効果について説明する。
本実施形態による拡幅杭の設計方法では、従来実施できなかった拡幅径(b)が3mを超える拡幅杭に対しても適用でき、杭形状を合理的に決定できる。また、従来考慮されていない拡幅部の寸法効果を考慮した拡幅部の形状決定が可能となる。
【0039】
以上、本発明による拡幅杭の設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、形状変更工程(S-5)では、拡幅角度(α)、掘削深度(H)、拡幅径(b)の順に優先して数値を変更しているが、上記以外の順に数値を変更してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 拡幅杭
2 軸部
3 拡幅部
拡幅径(拡幅部の直径)
軸径(軸部の直径)
D 拡幅部の引抜き変位量
H 掘削深度
Q 拡幅部の引抜き抵抗力
α 拡幅角度(拡幅部の角度)
σstd 基準応力
S-1 初期値設定工程
S-2 抵抗力算定工程
S-3 第1形状判定工程
S-4 形状決定工程
S-5 形状変更工程
S-6 第2形状判定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11