(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006688
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受及びハブユニット軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60B 35/02 20060101AFI20240110BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240110BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240110BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B60B35/02 L
F16C19/18
F16C33/58
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107813
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 秋津
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701DA09
3J701FA31
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上可能なハブユニット軸受及びハブユニット軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪部材と、外周面に複列の内輪軌道面を有する内輪部材と、各外輪軌道面と各内輪軌道面との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、を備える。内輪部材は、ハブ輪と、ハブ輪のインボード側端部に形成された小径段部に外嵌固定された内輪と、を有する。ハブ輪のアウトボード側端面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって開口する有底形状の凹部が設けられる。凹部のインボード側の底面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって突出する肉盛りが設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪部材と、
外周面に複列の内輪軌道面を有する内輪部材と、
前記各外輪軌道面と前記各内輪軌道面との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記内輪部材は、ハブ輪と、前記ハブ輪のインボード側端部に形成された小径段部に固定された内輪と、を有し、
前記ハブ輪のアウトボード側端面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって開口する有底形状の凹部が設けられ、
前記凹部のインボード側の底面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって突出する肉盛りが設けられる、
ことを特徴とするハブユニット軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブ輪となる素材を、アウトボード側の第一型とインボード側の第二型との間に挿入し鍛造を行うことにより、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される
ことを特徴とするハブユニット軸受の製造方法。
【請求項3】
前記第一型のインボード側面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって凹む凹部が設けられ、
前記凹部によって、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される、
請求項2に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項4】
前記第一型の径方向中央部には、軸方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記貫通孔によって、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される、
請求項2に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受及びハブユニット軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するハブユニット軸受が知られている。ハブユニット軸受を構成するハブ輪のパイロット部には、軽量化とハブフランジを径方向外方へ張り出させることを目的として、凹部(キャビティ)が鍛造加工によって形成されている。近年、バネ下荷重であるハブユニット軸受の軽量化要求が強まり、ハブフランジのインボード側まで達する深い大きい軸方向寸法を有する凹部を持つハブユニット軸受が増えてきている。
【0003】
図7は、特許文献1に記載のハブユニット軸受の断面図である。特許文献1には、こうした問題を解決したものとして、
図7に示すようなハブユニット軸受が開示されている。このハブユニット軸受は、内方部材151と外方部材152、および両部材151、152間に転動自在に収容された複列のボール153、153とを備えている。内方部材151は、ハブ輪154と、このハブ輪154に所定の締め代を介して圧入された内輪155と、からなる。
【0004】
ハブ輪154は、一端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ156を一体に有する。ハブ輪154の外周面には、複列のうち一方の内側転走面154aと、この内側転走面154aから軸方向に延びる軸状部157を介して形成された小径段部154bと、が設けられている。一方、内輪155は、外周面に複列のうち他方の内側転走面155aが形成され、ハブ輪154の小径段部154bに圧入されると共に、この小径段部154bの端部を塑性変形させて形成したかしめ部158によって軸方向に固定されている。
【0005】
外方部材152は、外周にナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ152bを一体に有し、内周にハブ輪154の内側転走面154aに対向する一方の外側転走面152aと、内輪155の内側転走面155aに対向する他方の外側転走面152aと、が一体に形成されている。これら両転走面間に複列のボール153、153が収容され、保持器159、159によって転動自在に保持されている。また、外方部材152とハブ輪154との間の環状空間を密封するためにシール160が装着されると共に、外方部材152の端部内周面には、鋼鈑からプレス成形により形成された有底短円筒形状のカバー161が装着されている。
【0006】
ここで、ハブ輪154は、小径段部154bの内輪155の嵌合面Aのみに対応する部分に中実構造部162が形成され、当該部分以外は中空構造部(凹部、キャビティ)163とされている。すなわち、嵌合面Aの両端部を通る軸方向に直交する平面上に中実構造部162の両端面162a、162bが設けられ、中実構造部162の内端側にも新たに中空構造部163が設けられている。そして、当該中空構造部163は、ハブ輪154の剛性を確保できる範囲で最大限の容積を有しており、ハブ輪154の強度・剛性を確保しつつ、軽量化を達成することを図っている。
【0007】
図7のハブユニット軸受では、ハブ輪154の中空構造部(凹部)163の容積が大きくなるにつれ軽量化することができるが、ハブ輪154の輪郭を高周波焼入れした時に生じる熱処理歪みが中空構造部163へ引張残留応力として作用するため、回転曲げ負荷による応力振幅がこの中空構造部163に作用した場合に、ハブ輪の中空構造部163に亀裂が生じる恐れがある。また、鍛造加工による素材の肉の流れが悪くなって鍛造性が低下するだけでなく、鍛造の金型寿命の低下や鍛造加工時に鍛造傷が発生する恐れがあった。
【0008】
図8は、特許文献2に記載のハブユニット軸受の断面図である。
図9は、特許文献2に記載のハブユニット軸受において、応力緩和穴114,115が設けられない場合のハブ輪104の断面概略を示す図である。
【0009】
図9には、金属材料を鍛造した際に見られる繊維状の金属組織の流れである、ファイバーフロー(鍛流線)Fが示されている。鍛造は図中左右方向に延びる棒状の部材に対し、左右方向から押圧力を加える態様で実施されるので、
図9に示すように、ハブ輪104の凹所(凹部、キャビティ)113の底面中央部Bの付近は、ファイバーフローFが形成され難いため、強度的に弱くなる。さらに、底面中央部Bの付近は、引張残留応力が発生しやすい。したがって、回転曲げ負荷による応力振幅が作用すると、底面中央部B付近にクラックが発生する可能性がある。
【0010】
そこで、上述の問題に対応するため、特許文献2に記載のハブユニット軸受においては、
図8に示すようにハブ輪104の凹所113の底面に、第一及び第二応力緩和穴114,115が形成されている。より詳細には、特許文献2のハブユニット軸受は、内方部材101と外方部材102、および両部材101、102間において保持器109に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)103、103とを備えている。内方部材101は、ハブ輪104と、このハブ輪104に圧入され、かしめ部108によって固定された内輪105とからなる。
【0011】
ハブ輪104の車輪取付フランジ106の基部106aは円弧面に形成される。ハブ輪104には、基部106aから小径段部104bに亙って高周波焼入れによって表面硬さが58~64HRCの範囲である所定の硬化層110が形成される。ハブ輪104の端部には、すり鉢状の凹所(凹部、キャビティ)113が鍛造加工によって形成され、この凹所113の深さが基部106aの位置に対応する付近までとされる。ハブ輪104の高周波焼入れ後、切削加工により、凹所113からインナーボード側に漸次縮径するテーパ状で、深さが複列の転動体103列の間に設定された第一応力緩和穴114と、この第一応力緩和穴114よりも小径の第二応力緩和穴115と、が形成される。この第二応力緩和穴115の先端部が、内輪105の小端面が当接する肩部104cの位置に対応する付近に止められている。このような応力緩和穴114、115を形成することにより、この種の応力緩和穴がないものに比べ、繰返し応力を低減させることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007-269066号公報
【特許文献2】特開2011-189771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の特許文献2に記載された応力緩和穴114,115は、凹所(凹部、キャビティ)113の底面中央部に旋盤やドリル等の切削加工によって設けられるが、この方法は旋削加工等に比べ切削効率が悪くコスト高になりがちな穴開け工程が必要となってしまう。また、この穴開け工程はドリル等の長尺物で行う必要があることから、さらに切削効率が低下することとなり、加工コスト増が避けられない。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上可能なハブユニット軸受及びハブユニット軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪部材と、
外周面に複列の内輪軌道面を有する内輪部材と、
前記各外輪軌道面と前記各内輪軌道面との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記内輪部材は、ハブ輪と、前記ハブ輪のインボード側端部に形成された小径段部に固定された内輪と、を有し、
前記ハブ輪のアウトボード側端面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって開口する有底形状の凹部が設けられ、
前記凹部のインボード側の底面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって突出する肉盛りが設けられる、
ことを特徴とするハブユニット軸受。
(2) (1)に記載のハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブ輪となる素材を、アウトボード側の第一型 とインボード側の第二型との間に挿入し鍛造を行うことにより、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される
ことを特徴とするハブユニット軸受の製造方法。
(3) 前記第一型のインボード側面の径方向中央部には、アウトボード側に向かって凹む凹部が設けられ、
前記凹部によって、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される、
(2)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
(4) 前記第一型の径方向中央部には、軸方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記貫通孔によって、前記ハブ輪の前記肉盛りが成形される、
(2)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上可能なハブユニット軸受及びハブユニット軸受の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第一実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
【
図2】第一実施形態のハブユニット軸受の製造方法を説明するための図である。
【
図4】第二実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
【
図5】第二実施形態のハブユニット軸受の製造方法を説明するための図である。
【
図7】特許文献1に記載のハブユニット軸受の断面図である。
【
図8】特許文献2に記載のハブユニット軸受の断面図である。
【
図9】特許文献2に記載のハブユニット軸受において、応力緩和穴が設けられない場合のハブ輪の断面概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るハブユニット軸受10の断面図である。
【0019】
なお、本明細書において、「インボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受10の車体側を表し、
図1の右側であり、図中の「IN」で表される側である。「アウトボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受10の車輪側を表し、
図1の左側であり、図中の「OUT」で表される側である。「軸方向」とは、ハブユニット軸受10の回転軸Oが延びる方向を表し、
図1の左右方向である。「径方向外側」とは、回転軸Oから遠ざかる方向を表す。「径方向内側」とは、回転軸Oに近づく方向を表す。「周方向」とは、回転軸Oを中心に旋回する方向を表す。
【0020】
図1に示すように、ハブユニット軸受10は、従動輪用であり、内周面11bに複列の外輪軌道面11a,11aが形成された外輪部材11と、外周面12b,13bに複列の内輪軌道面12a,13aが形成された内輪部材(ハブ輪12及び内輪13)と、複列の外輪軌道面11a,11aと複列の内輪軌道面12a,13aとの間に各列毎に複数個ずつ配置される複数の転動体14と、を備える。
【0021】
外輪部材11の内周面11bに形成された複列の外輪軌道面11a,11aは、互いに軸方向に離間している。外輪部材11の外周面には、懸架装置を構成する図示しないナックルに結合固定されるフランジ11cが形成される。
【0022】
内輪部材は、ハブ輪12と、ハブ輪12とは別体である内輪13と、を有する。ハブ輪12の外周面12b及び内輪13の外周面13bには、それぞれ内輪軌道面12a,13aが形成されている。ハブ輪12及び内輪13の内輪軌道面12a,13aはそれぞれ、外輪部材11の外輪軌道面11a,11aと径方向に対向している。
【0023】
外輪軌道面11a,11a及び内輪軌道面12a,13aで構成される複列の軌道には、複数の転動体14が周方向に等間隔で配置されている。
【0024】
複数の転動体14は、互いに所定の接触角をなして外輪軌道面11a,11a及び内輪軌道面12a,13aに接触して、背面組み合わせ型(DB)軸受が構成される。これにより、ハブ輪12及び内輪13は、外輪部材11に対して回転可能となる。
【0025】
ハブ輪12のインボード側端部には、小径段部12cが形成されている。小径段部12cには、内輪13が外嵌される。内輪13がハブ輪12の小径段部12cに外嵌された後、小径段部12cの端部が径方向外側にかしめ加工されることにより、内輪13がハブ輪12に固定される。かしめ加工によって内輪13が押圧されることで、適正な予圧が付与される。
【0026】
なお、本実施形態のハブユニット軸受10は従動輪用であるため、ハブ輪12は軸方向に貫通する貫通孔を有さない中実である。
【0027】
ハブ輪12は、当該ハブ輪12のアウトボード側端部に設けられた、筒状のパイロット部20と、パイロット部20のインボード側に隣り合うように配置され、車輪を支持するためのフランジ部18が形成される。フランジ部18は、ハブ輪12の外周面12bから径方向外側に延出する円盤状、あるいは星形状である。フランジ部18には、軸方向に貫通する複数の貫通孔18aが周方向に等間隔で設けられる。それぞれの貫通孔18aには、不図示のホイール及びブレーキロータなどを締結するための複数のハブボルト19が固定される。
【0028】
外輪部材11のインボード側には、アウトボード側シール24とともに、軸受内部空間10aを塞ぐセンサ付キャップ25が設けられる。センサ付キャップ25は、合成樹脂製で有底円筒状に構成され、センサエレメントがモールド固定されたキャップ本体25aと、キャップ本体25aにモールド固定された金属環25bと、を含む。キャップ本体25aには、センサケーブルのプラグを挿入するための穴25cが設けられている。金属環25bのアウトボード側が外輪部材11の内周面11bのインボード側端部に内嵌されることで、キャップ25は外輪部材11に固定される。
【0029】
内輪13の外周面13bのインボード側端部には、エンコーダ26が固定されている。エンコーダ26は、芯金27と、エンコーダ本体28と、を備える。
【0030】
芯金27は、冷間圧延鋼板などの磁性金属板にプレス加工を施してなるもので、全体が円環状に構成されている。芯金27は、嵌合筒部27aと、外向鍔部27bと、支持板部27cと、を有する。
【0031】
嵌合筒部27aは、円筒状に構成されており、アウトボード側部が、内輪13の外周面13bのインボード側端部に締り嵌めで外嵌されている。外向鍔部27bは、嵌合筒部27aのアウトボード側端部から径方向外側に向けて直角に折れ曲がる。支持板部27cは、嵌合筒部27aのインボード側端部から径方向内側に向けて直角に折れ曲がる。
【0032】
エンコーダ本体28は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)やアクリルゴム(ACM)などのゴム中に、フェライトなどの磁性粉末を分散させてなる磁性ゴム(ゴム磁石)により、円環状に構成されており、支持板部27cのインボード側に全周にわたり支持固定されている。エンコーダ本体28は、インボード側面に、N極とS極とを円周方向に関して交互に、かつ、等ピッチに配置してなる被検出部を有する。
【0033】
車輪とともにエンコーダ26が回転すると、センサ付キャップ25の検出部の近傍を、エンコーダ本体28の被検出部に配置されたS極とN極とが交互に通過する。この結果、被検出部から出入りして検出部を通過する磁束の密度変化が検出され、ひいては車輪の回転速度が検出される。
【0034】
ハブ輪12のアウトボード側端面12dの径方向中央部には、アウトボード側に向かって開口する有底形状の凹部15が設けられる。凹部15は、インボード側に向かうにしたがって、その内径が小さくなるように形成される。
【0035】
本実施形態では、凹部15のインボード側端部15bは、複列の内輪軌道面12a,13aのうちアウトボード側の内輪軌道面12aと、フランジ部18と、の軸方向における間の位置C上にある。すなわち、後述の第二実施形態に比べ、インボード側端部15bはアウトボード側に位置し、凹部15の軸方向寸法(深さ)は小さい。
【0036】
凹部15のインボード側の底面15aの径方向中央部には、すなわち、底面15aのうち回転軸Oと重なる部分には、アウトボード側に向かって突出する肉盛り16が設けられる。肉盛り16は、アウトボード側に向かうにしたがって、その外径が小さくなる曲面から構成される。そして、肉盛り16のアウトボード側端部(先端部)は、回転軸O上に位置する。
【0037】
なお、肉盛り16の形状は、底面15aの径方向中央部(回転軸O上)からアウトボード側に向かって突出する形状であればよく、図示の例に限定されず任意に変更して構わない。
【0038】
図2は、第一実施形態のハブユニット軸受の製造方法を説明するための図である。
図2に示すように、上述のハブ輪12の肉盛り16は、ハブ輪12となる素材を、アウトボード側の下型31(第一型)とインボード側の上型33(第二型)との間に挿入して型鍛造を行うことにより成形される。
【0039】
上型33のアウトボード側面33a(
図2の下側面)は、ハブ輪12のインボード側(
図2の上側)の表面形状に対応する形状を有する。なお、
図2に示すハブ輪12は、小径段部12cの端部が径方向外側にかしめ加工される前の状態であるので、小径段部12cの端部は平坦な形状である。この小径段部12cの端部と、上型33のアウトボード側面33aとの間には、軸方向隙間Sが介在する。
【0040】
下型31のインボード側面31a(
図2の上側面)は、ハブ輪12のアウトボード側(
図2の下側)の表面形状に対応する形状を有する。下型31の径方向中央部(
図2の左右方向中央部)は、インボード側に突出する凸部31bを備える。この凸部31bの形状は、ハブ輪12の凹部15の形状に一致する。特に、下型31の凸部31bのインボード側面31aの径方向中央部には、アウトボード側(
図2の下側)に向かって凹む凹部32が設けられる。この凹部32の溝形状は、ハブ輪12の凹部15の底面15aに設けられる肉盛り16の形状に一致する。
【0041】
このような、下型31と上型33とを用いて熱間鍛造を行うことにより、ハブ輪12に凹部15を成形することができる。凹部15が設けられることに伴い、フランジ部18が径方向外側に張り出して成形される。ここで、
図2に示された鍛造方式では、下型31の凸部31bの先端に設けられた凹部32に掛かる応力を低減するため、半密閉鍛造が採用されている。したがって、フランジ部18及び凹部15の成形後、フランジ部18の周囲にはフラッシュ(ばり)17が形成される。したがって、後工程であるトリミングによりフラッシュ17が除去されることで、ハブ輪12の鍛造材が完成する。なお、鍛造は、熱間鍛造に限られず、加工が可能であれば冷間鍛造でもよく、その場合でも上述と同様の効果が得られる。
【0042】
図3は、ハブ輪12のファイバーフローFを示す図である。
図3に示すように、上述の方法によって得られたハブ輪12は、肉盛り16により、ファイバーフローFの変曲点がアウターボード側に移動して(肉盛り16が無い場合の)凹部15の底面15aの径方向中央付近に近付くとともに、ファイバーフローFの向きも回転軸Oの直交面方向に近付くので、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性をより向上することができる。さらに、凹部15の底面15aの径方向中央部は、肉盛り16によって引張強度が向上し、引張残留応力が緩和されることで、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上できる。
【0043】
以上の通り、本実施形態によれば、従来技術のように応力緩和穴を切削加工で設ける等の工程が不要であり、凹部15を設ける際の鍛造加工によって肉盛り16を同時に設けるという簡易な構成にて、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上できる。
【0044】
なお、本実施形態において下型31及び上型33とは、一対の型のそれぞれを便宜上分けた表現であり、鍛造時の成形品の鉛直方向の向きを示すものではない。
【0045】
[第二実施形態]
図4は、本発明の第二実施形態に係るハブユニット軸受10の断面図である。本実施形態のハブユニット軸受10は、ハブ輪12の構成が第一実施形態と異なる。本実施形態のハブユニット軸受10のうち、第一実施形態と同様の構成に関しては同様の符号を付すことでその説明を省略又は簡略化する。
【0046】
第一実施形態のハブ輪12においては、凹部15のインボード側端部15bは、複列の内輪軌道面12a,13aのうちアウトボード側の内輪軌道面12aと、フランジ部18と、の軸方向における間の位置C上にあった(
図1参照)。これに対して、本実施形態のハブ輪12においては、凹部15のインボード側端部15bは、複列の内輪軌道面12a,13aのうちアウトボード側の内輪軌道面12aと軸方向において重なる、又はアウトボード側の内輪軌道面12aよりもインボード側に位置する。すなわち、凹部15は、複列の内輪軌道面12a,13aのうちアウトボード側の内輪軌道面12aの径方向内側に達するように形成される。したがって、本実施形態の凹部15の軸方向寸法(深さ)は第一実施形態よりも深い。本実施形態のように深い凹部15を形成する場合は、ハブ輪12の軽量化効果が高い一方で、成形時に凹部15の底面15aに圧縮した空気が残留することによる成形品の形状不良が発生しやすい。
【0047】
図5は、第二実施形態のハブユニット軸受の製造方法を説明するための図である。上述したような成形品の形状不良の発生を防止するため、
図5に示すように、下型31の径方向中央部には、下型31を軸方向に貫通する貫通孔34が設けられる。貫通孔34は、回転軸O上を軸方向に延び、下型31の凸部31bの先端部にまで連通する。
【0048】
そして、上述したような鍛造加工を行うことにより、貫通孔34によってハブ輪12の凹部15の底面15aに肉盛り16が成形されると共に、成形時にハブ輪12の凹部15の底面15aに残留した空気が貫通孔34によって抜気される。したがって、成形品の形状不良を抑制できる。
【0049】
なお、貫通孔34は、第一実施形態の下型31(
図2参照)の凹部15の径方向中央部に設けることもできる。この場合、貫通孔は、下型31の凹部32と連通する。
【0050】
本実施形態の熱間鍛造に使用される鍛造型においては、第一実施形態の下型31(
図2参照)のように凸部31bの先端部に凹部32が設けられず、ハブ輪12の凹部15の底部(インボード側端部15b)とフランジ部18の軸方向距離が長い。したがって、本実施形態では半密閉タイプとした場合でも、下型31の凸部31bの先端部の応力低減効果は少ない為、密閉タイプの鍛造型が採用可能である。
【0051】
図5の例は、半密閉タイプであるためフランジ部18の周囲にフラッシュ17が形成されているが、密閉タイプの鍛造型を使用すれば、フラッシュ17が形成されないので、トリミングによるフラッシュ除去工程が不要となり好ましい。
【0052】
図6は、ハブ輪12のファイバーフローFを示す図である。
図6に示すように、上述の方法によって得られたハブ輪12は、肉盛り16により、ファイバーフローFの変曲点がアウトボード側に移動して(肉盛り16が無い場合の)凹部15の底面15aの径方向中央付近に近付くとともに、ファイバーフローFの向きも回転軸Oの直交面方向に近付くので、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性をより向上することができる。さらに、凹部15の底面15aの径方向中央部は、肉盛り16によって引張強度が向上し、引張残留応力が緩和されることで、回転曲げ負荷による応力振幅に対する耐久性を向上できる。
【符号の説明】
【0053】
10 ハブユニット軸受
10a 軸受内部空間
11 外輪部材
11a 外輪軌道面
11b 内周面
11c フランジ
12 ハブ輪(内輪部材)
12a 内輪軌道面
12b 外周面
12c 小径段部
12d アウトボード側端面
13 内輪(内輪部材)
13a 内輪軌道面
13b 外周面
14 転動体
15 凹部
15a 底面
15b インボード側端部
16 肉盛り
17 フラッシュ
18 フランジ部
18a 貫通孔
19 ハブボルト
20 パイロット部
24 アウトボード側シール
25 センサ付キャップ
25a キャップ本体
25b 金属環
25c 穴
26 エンコーダ
27 芯金
27a 嵌合筒部
27b 外向鍔部
27c 支持板部
28 エンコーダ本体
31 下型(第一型)
31a インボード側面
31b 凸部
32 凹部
33 上型(第二型)
33aアウトボード側面
34 貫通孔
F ファイバーフロー
O 回転軸
S 軸方向隙間