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特開2024-66882電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066882
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/291 20210101AFI20240509BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240509BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240509BHJP
   H01M 50/209 20210101ALN20240509BHJP
【FI】
H01M50/291
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M50/209
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176659
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【テーマコード(参考)】
5H029
5H040
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM11
5H029BJ02
5H029BJ06
5H029BJ23
5H040AA36
5H040AS07
5H040AT02
5H040AY05
5H040AY10
5H040CC25
5H040CC30
5H040NN00
5H040NN01
5H040NN03
(57)【要約】
【課題】組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときに電池セルに与える面圧の急激な増大を防止する。
【解決手段】二つの電池セル11A、11Bの間に配置されるスペーサ51は、山と谷とが連続する波形の断面形状を有する基体52を備えている。基体52は、波形形状53の頂部に位置し、二つの電池セル11A、11Bにそれぞれ面接触する受圧面54と、山側と谷側との受圧面54M、54Vを互い違いに連結して波形形状53を形成する緩衝部55とを備えている。緩衝部55は、座屈可能な屈曲部56を最大幅とする樽形形状を波形形状53に互い違いに与え、同一面側で隣接する屈曲部56同士の間に、座屈した屈曲部56の配置空間を確保する配置間隔を提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対面する二つの電池セルの間に配置される電池用スペーサであって、
山と谷とが連続する波形の断面形状を有し、前記二つの電池セルの一方に対面する面を山側面とし、別の一方に対面する面を谷側面とする基体と、
前記山側面と前記谷側面とのそれぞれに現れる前記基体の波形形状の頂部に位置し、前記二つの電池セルにそれぞれ面接触する受圧面と、
前記山側面と前記谷側面とに位置する前記受圧面を互い違いに連結して前記波形形状を形成する緩衝部と、
を備え、
前記緩衝部は、
前記受圧面の両端から幅を拡大して座屈可能な屈曲部を最大幅として幅を縮小する樽形形状を前記波形形状に互い違いに与え、
同一面側で隣接する前記屈曲部同士の間に、座屈した前記屈曲部の配置空間を確保する配置間隔を提供する、
電池用スペーサ。
【請求項2】
前記緩衝部が前記受圧面の両端から幅を拡大する方向に傾斜する角度は、15~25度である、
請求項1に記載の電池用スペーサ。
【請求項3】
前記緩衝部が前記受圧面の両端から幅を拡大する方向に傾斜する角度は、20度である、
請求項1に記載の電池用スペーサ。
【請求項4】
前記緩衝部が前記受圧面の両端から幅を拡大する方向に傾斜する角度は、前記二つの電池セルの間の間隔が狭まったとき、前記屈曲部が座屈する角度に設定されている、
請求項1に記載の電池用スペーサ。
【請求項5】
前記受圧面の幅と、前記受圧面から前記屈曲部までの長さとの比は、1対0.9~1対1.1の範囲に定められている、
請求項1ないし4のいずれか一に記載の電池用スペーサ。
【請求項6】
前記受圧面の幅と、前記受圧面から前記屈曲部までの長さとの比は、1対1に定められている、
請求項1ないし4のいずれか一に記載の電池用スペーサ。
【請求項7】
同一面側で隣接する前記屈曲部同士の間の配置間隔と、前記受圧面から前記屈曲部までの長さとの比は、1対1.5~1対2.5の範囲に定められている、
請求項1ないし4のいずれか一に記載の電池用スペーサ。
【請求項8】
同一面側で隣接する前記屈曲部同士の間の配置間隔と、前記受圧面から前記屈曲部までの長さとの比は、1対2に定められている、
請求項1ないし4のいずれか一に記載の電池用スペーサ。
【請求項9】
筐体形状のホルダに積層状態で収納された複数個の電池セルと、
互いに対面する二つの電池セルの間に配置された電池用スペーサと、
を備え、
前記電池用スペーサは、
山と谷とが連続する波形の断面形状を有し、前記二つの電池セルの一方に対面する面を山側面とし、別の一方に対面する面を谷側面とする基体と、
前記山側面と前記谷側面とのそれぞれに現れる前記基体の波形形状の頂部に位置し、前記二つの電池セルにそれぞれ面接触する受圧面と、
前記山側面と前記谷側面とに位置する前記受圧面を互い違いに連結して前記波形形状を形成する緩衝部と、
を備え、
前記緩衝部は、
前記受圧面の両端から幅を拡大して座屈可能な屈曲部を最大幅として幅を縮小する樽形形状を前記波形形状に互い違いに与え、
同一面側で隣接する前記屈曲部同士の間に、座屈した前記屈曲部の配置空間を確保する配置間隔を提供する、
組電池。
【請求項10】
前記電池セルは、全固体電池である、
請求項9に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料で動作する内燃機関を使わない電動車両(EV)のうち、ハイブリッド自動車(HV)、バッテリー電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)は、リチウムイオン電池などの二次電池をモータの電力源として利用している。リチウムイオン電池は、他の二次電池と比較して高いエネルギー密度を有することから、電動車両のモータを駆動する電力源に適している。
【0003】
特許文献1に示すように、電動車両に搭載される二次電池は、電池としての一単位をなす電池セルを積層したいわば組電池の形態をとるのが一般的である。特許文献1では、電池セル(セル3)を積層してケーシングC内に保持している(段落[0035]参照)。
【0004】
リチウムイオン電池は、積層された個々の電池セルを加圧することによって充電率を高めることができる。また電池セルは、充放電や温度変化によって膨張したり収縮したりするので、二つの電池セルの間のクリアランス管理が必要になる。そこで特許文献1に記載されているように、積層された個々の電池セル(セル3)の間に弾性変形可能なスペーサ5を介在させ、積層方向に圧縮力を与えた状態で個々のセル3をケーシングC内に保持するということが行なわれている(段落[0012][0035]-[0037][0040]参照)。
【0005】
特許文献1が開示するスペーサ5は、ジクザグ状に屈曲した可撓性をもつ金属材料からなり、加圧板6を介してセル3に取り付けられている(段落[0036][0038]、図4(a)-(d)、図5(a)参照)。特許文献1には、「スペーサ5が加圧板6から加圧され弾性変形する際に発生する個々の弾性力がセル3に個々に加えられ、それらの個々の弾性力が集合することで、セル3に押圧力を加える」と述べられている(段落[0036]参照)。
【0006】
特許文献2には、別の形態のスペーサ41が開示されている。このスペーサ41は、絶縁性材料である樹脂によって形成されたもので、波形の断面形状を有している(段落[0021][0023]、図2参照)。スペーサ41は、積層される電池セル21A、21Bに向けて突出して接触する突部(第1突部51と第3突部53、第2突部52と第4突部54)を有している。
【0007】
また第3突部53と第4突部54との間には、電池セル21A、21Bに向けて突出はするものの、通常時には非接触状態を保つ突部(第5突部55、第6突部56)が設けられている(段落[0028]-[0038]、図3参照)。これらの第5突部55及び第6突部56は、電池セル21の膨張時、電池セル21A、21B同士の間隔が狭まることに追従してスペーサ41が変形すると、電池セル21A、21Bにそれぞれ接触する(段落[0047]、図4参照)。
【0008】
特許文献1、2に記載されているようなリチウムイオン電池は、正負の電極間に電解液を満たしている。これに対して電解液の代わりに個体電解質を用いるようにした全固体電池(バルク型)の開発が進められている。全固体電池は、電解質が液体であるリチウムイオン電池よりも取り扱い性が良好で、電池としての性能にも優れている。電動車両に用いた場合には航続距離を延ばすことができるし、充電時間も短縮することができる。
【0009】
全固体電池を用いた組電池は、例えば特許文献3に記載されている。
【0010】
特許文献3に記載された組電池は、スペーサ(放熱部材20)を介して複数個の電池セル(電池ユニット10)を積層し、これらの電池ユニット10及び放熱部材20からなる積層物をケース40内に収納している(段落[0025]参照)。スペーサ(放熱部材20)は、ゴムやエラストマーなどの弾性材料を母材とする一対の弾性体層22で基層21を挟み込んでいる(段落[0030][0033]参照)。基層21の一例として、一対の平板状の金属薄板21a1の間に、波状の金属薄板21a2を設けた構造のものが示されている(段落[0048]、図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-124033号公報
【特許文献2】特開2017-183071号公報
【特許文献3】特開2015-053261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リチウムイオン電池や全固体電池を電池セルとする組電池に用いるスペーサには、
(1)電池セル同士の間の隙間を適度に調整する機能
(2)電池セルに一定の面圧を付与する機能
が求められる。つまり電池セルの間の隙間の変化を吸収しながら、電池セルに対する一定の面圧を確保し得る機能である。これらの(1)(2)の要求を満足するためには、スペーサがある程度まで撓んだとしても、電池セルに対する面圧を急激に増大させないようにすることが求められる。
【0013】
特許文献1に記載された発明では、スペーサ(スペーサ5)がある程度まで撓んだときに、電池セルに対する面圧が急激に増大するという現象が発生する。
【0014】
特許文献1の図4(b)を参照すると、スペーサ5は、この状態からさらに撓むことができそうである。ところが屈曲部分同士が接触するまでスペーサ5が撓んだとすると、その後は急激に面圧を増大させるはずである。そうするとセル3に過大な力が及んでしまうため、実際にはそこまでスペーサ5を撓ませて使用することはできない。
【0015】
このため特許文献1のスペーサ5はストロークが小さく、上記(1)(2)の要求を満足しがたい。改善が求められる。
【0016】
特許文献3に開示されているスペーサ(放熱部材20)も、ストロークが小さい点で上記(1)の要求を満足しがたく(特許文献3の段落[0049]参照)、面圧付与機能をもっぱら弾性体層22に依存するため、上記(2)の要求も満たしがたい。改善が求められる。
【0017】
この点特許文献2に記載された発明では、当初は電池セルに対して一群の突部(第1突部51と第3突部53、第2突部52と第4突部54)のみが接触している(特許文献2の段落[0029]-[0038]、図2-3参照)。この状態から電池セル21A、21Bが膨張すると、第1突部51に連なる第1傾斜部61及び第2突部52に連なる第2傾斜部62が座屈し、通常時には非接触状態を保っていた突部(第5突部55、第6突部56)が電池セル21A、21Bに接触する(特許文献2の段落[0047]-[0055]、図4-5参照)。
【0018】
上記構成を採用したことについて、特許文献2は、「……スペーサから電池セルに対して一定以上の荷重を作用させるとともに、電池セルの膨張時にあっても、適正な電池性能が得られ、かつ、電池セルの冷却効率が高く維持される……」、と主張している(特許文献2の段落[0012]等参照)。
【0019】
その一方で、特許文献2に記載された発明によれば、複数の突部(第1突部51と第3突部53、第2突部52と第4突部54、第5突部55と第6突部56)を設け、これらの突部にそれぞれ異なる役割を担わせている。このため個々の突部やそれらに連なる傾斜部に対して、固有の剛性などの特有の特性を与えなければならない(例えば特許文献2の段落[0053]等参照)。またスペーサ単独では成り立たず、第1剛体部71及び第2剛体部72などの付加物も必要とする(特許文献2の段落[0042]-[0046]参照)。
【0020】
したがって特許文献2に記載された発明には、構造の複雑化、設計の困難性、製造及び組み立ての煩雑さなどがつきまとい、改善が求められる。
【0021】
本開示の課題は、組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときに電池セルに与える面圧の急激な増大を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
互いに対面する二つの電池セルの間に配置される電池用スペーサの一態様は、山と谷とが連続する波形の断面形状を有し、前記二つの電池セルの一方に対面する面を山側面とし、別の一方に対面する面を谷側面とする基体と、前記山側面と前記谷側面とのそれぞれに現れる前記基体の波形形状の頂部に位置し、前記二つの電池セルにそれぞれ面接触する受圧面と、前記山側面と前記谷側面とに位置する前記受圧面を互い違いに連結して前記波形形状を形成する緩衝部と、を備え、前記緩衝部は、前記受圧面の両端から幅を拡大して座屈可能な屈曲部を最大幅として幅を縮小する樽形形状を前記波形形状に互い違いに与え、同一面側で隣接する前記屈曲部同士の間に、座屈した前記屈曲部の配置空間を確保する配置間隔を提供する。
【0023】
組電池の一態様は、筐体形状のホルダに積層状態で収納された複数個の電池セルと、上記電池用スペーサとを備える。
【発明の効果】
【0024】
組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときに電池セルに与える面圧の急激な増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施の形態の全固体電池の概略構成を平面視した模式図。
図2】全固体電池の組み立て工程を示す分解斜視図。
図3】スペーサの斜視図。
図4】スペーサの一部を拡大して示す正面図。
図5】二つの電池セルの間に組み込まれたスペーサの一部を拡大して示す正面図。
図6】スペーサが加圧されたときの緩衝部の変形状態を示す正面図。
図7】緩衝部の変位量とスペーサが電池セルに与える面圧との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、全固体電池による電池セルを採用した組電池への適用例である。つぎの項目に沿って説明する。
【0027】
1.構成
(1)全体の概要
(2)スペーサ
2.作用効果
3.変形例
【0028】
1.構成
(1)全体の概要
図1及び図2に示すように、組電池1は、複数個の電池セル11を筐体形状のホルダ31に収納している。電池セル11は、隣接する二つの電池セル11の間の隙間Cにスペーサ51(電池用スペーサ)を介在させて積層され、積層状態のままホルダ31に収納されている。このときスペーサ51は、その厚み方向に弾性変形可能であることから、積層された電池セル11はホルダ31内で積層方向に加圧された状態になっている。
【0029】
電池セル11は、正電極層と負電極層とによって固体電解質層を挟み込んだ構造の電池本体(すべて図示せず)を平べったい矩形形状をした収納容器12に収納した全固体電池である。収納容器12からは、正電極層及び負電極層に接続された電線13が引き出されている。
【0030】
(2)スペーサ
図3は、同一パターンを繰り返す形態のスペーサ51(図2参照)の斜視図である。説明の便宜上、図3中の矢印D1の方向から見た面をスペーサ51の正面、矢印D2の方向から見た面をスペーサ51の側面とする。したがって図4ないし図6は、スペーサ51を正面側から見た正面図である。図4ないし図6は、スペーサ51の全体を示しているわけではなく、一部を拡大して示している。このうち図5及び図6は、互いに対面する二つの電池セル11(11A、11B)の間にスペーサ51が介在している状態を示している。
【0031】
図3ないし図6に示すように、スペーサ51は、正面側から見たとき、山と谷とが連続する波形の断面形状を有する基体52を主体に構成されている。基体52は、例えばゴムを材料として形成されており、電池セル11(11A、11B)と同じ大きさ及び形状の矩形形状を有している。基体52の一面は、電池セル11Aに対面する山側面51Mであり、一面と反対側の面は、電池セル11Bに対面する谷側面51Vである。
【0032】
もっとも山側面51M及び谷側面51Vという呼び方は、スペーサ51の両面を区別して指し示すための便宜上の呼び方であるにすぎない。山側面51M及び谷側面51Vは、山や谷という言葉の意味内容に含まれている属性を備えていなければならないわけではない。
【0033】
波形の断面形状を有する基体52は、正面側から見たとき、全体的に波形形状53を呈している。本実施の形態では、説明の便宜上、波形形状という概念に符号53を付して説明する。波形形状53は、具体的な構造物やその要素などではなく、基体52の概念的な形状そのものを意味している。
【0034】
山側面51Mからみたとき、波形形状53は、最大振幅位置である波形のピークをなす頂部を有し、この部分を山側の受圧面54としている。谷側面51Vからみたとき、波形形状53は、最大振幅位置である波形のピークをなす頂部を有し、この部分を谷側の受圧面54としている。説明の便宜上、山側の受圧面54を受圧面54M、谷側の受圧面54を受圧面54Vと呼ぶ。
【0035】
二種類の受圧面54M、54Vは、それぞれ一定の面積をもった平坦面であり、二つの電池セル11A、11Bに面接触するように設けられている。
【0036】
基体52は、山側と谷側との二種類の受圧面54M、54Vを連結し、基体52に緩衝作用を生じさせる緩衝部55を備えている。緩衝部55は、山側と谷側との二種類の受圧面54M、54Vを互い違いに連結し、波形形状53を形成している。
【0037】
より詳細には、緩衝部55は、受圧面54の両端から幅を拡大し、屈曲部56を最大幅として縮小方向に屈曲する樽形形状を波形形状53に与えている。樽形形状は、山側面51Mと谷側面51Vとに互い違いに与えられている。
【0038】
本実施の形態において重要なことは、隣接する二つの電池セル11A、11Bの間の隙間Cが狭まり、スペーサ51が圧縮された際、屈曲部56が座屈可能なことである。屈曲部56は、山側の受圧面54と谷側の受圧面54Vとが受ける圧力がある一定の範囲を超えたときに座屈し、緩衝部55の樽形形状をより扁平な形状に変形させる。このような屈曲部56の座屈は、屈曲部56の形状及び緩衝部55の樽形形状によって実現される。
【0039】
屈曲部56が座屈したとき、緩衝部55は最大幅を拡大する。このため互いに隣接する緩衝部55において、屈曲部56同士の間に空間が空いていないと、屈曲部56を座屈させることができない。そこで緩衝部55は、同一面側で隣接する屈曲部56同士の間に、座屈した屈曲部56の配置空間を確保するように、配置間隔I(図4参照)を提供している。
【0040】
図4は、非圧縮状態にあるスペーサ51が有する各部の寸法及び角度を示している。一点鎖線は、スペーサ51の両面に設けられた受圧面54M、54Vがそれぞれ面接触する電池セル11A、11Bの仮想面VSである。
【0041】
図4中には角度θ、長さL、幅W、及び配置間隔Iが示されている。角度θは、受圧面54の両側から幅を拡大する方向に傾斜する緩衝部55の角度、つまり仮想面VSと直交する線に対する角度である。長さLは、受圧面54の端部から屈曲部56までの長さを示している。幅Wは、スペーサ51を正面から見たときの受圧面54の幅である。配置間隔Iは、前述したように、同一面側で隣接する屈曲部56同士の間の間隔である。
【0042】
角度θは、15~25度、例えば20度である。この角度は、間隔を狭めた二つの電池セル11A、11Bによってスペーサ51が圧縮されたとき、適正なタイミングで屈曲部56に座屈が生ずる角度として設定されている。角度θが大きすぎると、スペーサ51の圧縮時、屈曲部56は比較的早期に座屈してしまい、受圧面54を介してスペーサ51が電池セル11A、11Bに与える面圧が不足してしまう。反対に角度θが小さすぎると、屈曲部56は座屈することができず、緩衝部55に通常の圧縮変形が生ずるにとどまってしまう。このような観点から、角度θは15~25度、例えば20度に定められている。
【0043】
受圧面54の幅Wと、受圧面54の端部から屈曲部56までの長さLとの比は、1対0.9~1対1.1の範囲、例えば1対1に定められている。電池セル11A、11Bに与える面圧を単純に大きくするなら、受圧面54の幅Wを狭くすればよい。ところが受圧面54の幅Wを狭くすると、隣接する屈曲部56同士の間の配置間隔Iが狭まり、屈曲部56同士が早期に接触して座屈動作が妨げられてしまう。このような観点から、幅Wと長さLとの比は、1対0.9~1対1.1の範囲、例えば1対1に定められている。
【0044】
互いに隣接する屈曲部56同士の間の配置間隔Iと、受圧面54の端部から屈曲部56までの長さLとの比は、1対1.5~1対2.5の範囲、例えば1対2に定められている。
【0045】
2.作用効果
図5に示すように、スペーサ51は、二つの電池セル11(11A、11B)の間に介在し、電池セル11A、11Bの間の隙間Cの変化を吸収しながら、電池セル11A、11Bに対して一定の面圧を与えている。したがって本実施の形態によれば、隙間調整機能を実現することができ、また電池セル11の充電率を高めてその効率を向上させることができる。
【0046】
図7は、緩衝部55の変位量を横軸にとり、スペーサ51が電池セル11A、11Bに与える面圧を縦軸にとった変位量と面圧との関係を示すグラフである。このグラフは、本実施の形態のスペーサ51の範囲に含まれる二種類のサンプルの値を示している。いずれのサンプルの場合も、緩衝部55の変位量が零の状態からX1に達するまでの第1段階の区間A1では、スペーサ51が電池セル11A、11Bに与える面圧が徐々に上昇していく様子がわかる。
【0047】
図6に示すように、発熱などによって電池セル11が膨張すると、隣接する二つの電池セル11A、11Bの間の隙間Cが狭まる。するとスペーサ51では、山側面51M及び谷側面51Vにそれぞれ配置された受圧面54M、54Vが加圧され、緩衝部55が押し潰されるように変形し、その樽形形状をより扁平な形状に変形させる。
【0048】
このとき緩衝部55では、受圧面54M、54Vに対する加圧力がある一定値を超えたとき、屈曲部56が座屈する。図7のグラフでは、このときの緩衝部55の変位量をX1で表わしている。図7のグラフにも示されているように、緩衝部55の変位量がX1を超えて屈曲部56が座屈すると、スペーサ51が電池セル11A、11Bに与える面圧の上昇が緩やかになる。屈曲部56が座屈しているため、緩衝部55が外部に加える力が弱まるからである。
【0049】
面圧の上昇が緩やかになる第2段階の区間A2は、緩衝部55の変位量がX2になるまで続く。この区間A2は、屈曲部56が座屈した状態で緩衝部55が押し潰され、樽形形状をより扁平な形状に変形させる区間である。
【0050】
図6は、互いに隣接する屈曲部56同士が接触する直前の状態を示している。この状態からさらに緩衝部55が押し潰されると、互いに隣接する屈曲部56同士は接触し、緩衝部55を圧し潰そうとする力に抵抗を与える。図7のグラフ中の変位量X2は、互いに隣接する屈曲部56同士が接触した時点での緩衝部55の変位量を示している。変位量がX2を超えると、第3段階の区間A3に入り、この区間A3では、スペーサ51が電池セル11A、11Bに与える面圧が急上昇する。
【0051】
本実施の形態によれば、組電池1に用いるスペーサ51において、電池セル11A、11Bに与える面圧を、区間A1では徐々に上昇させ、区間A2では緩やかに上昇させることができる。したがってスペーサ51がある程度まで撓んだときに電池セル11A、11Bに与える面圧の急激な増大を防止することができる。
【0052】
3.変形例
実施に際しては、各種の変更や変形が可能である。
【0053】
例えばスペーサ51を構成する基体52の形状や大きさ、縦横比などは一例を示したにすぎず、実施に際しては各種の変形や変更が可能である。受圧面54や緩衝部55などの形状や大きさ、高さと幅との比率、曲率など、図4中に示した角度θ、長さL、幅W、及び配置間隔Iについても同様である。
【0054】
本実施の形態では、スペーサ51の材料としてゴムを例示したが、実施に際してはゴムに限らず、例えば鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、及びこれらを含む合金などの金属を材料として用いるようにしてもよく、また樹脂を材料として用いるようにしてもよい。
【0055】
本実施の形態では、電池セル11Aに山側面51Mが対面し、電池セル11Bに谷側面51Vが対面している例を示したが、反対に、電池セル11Aに谷側面51Vが対面し、電池セル11Bに山側面51Mが対面するように構成していてもよい。
【0056】
本実施の形態は、電池セル用のスペーサ51を介在させる電池セルとして全固体電池への適用例を示したが、実施に際してはこれに限定する必要はなく、電解液を封入するリチウムイオン電池へ適用するようにしてもよい。
【0057】
その他実施に際しては、あらゆる変形や変更が許容される。
【符号の説明】
【0058】
1 組電池
11、11A、11B 電池セル
12 収納容器
13 電線
31 ホルダ
51 スペーサ(電池用スペーサ)
51M 山側面
51V 谷側面
52 基体
53 波形形状
54、54M、54V 受圧面
55 緩衝部
56 屈曲部
C 隙間
A1 第1段階の区間
A2 第2段階の区間
A3 第3段階の区間
VS 仮想面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7