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特開2024-66895樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性の評価方法
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  • 特開-樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066895
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/04 20060101AFI20240509BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240509BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240509BHJP
   A45D 44/00 20060101ALI20240509BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/92 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
G01N19/04 Z
A61Q1/10
A61Q5/00
A61K8/81
A45D44/00 Z
G01N33/15 Z
A61K8/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176678
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横田 怜
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝行
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AD091
4C083AD092
4C083DD22
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】マスカラ等の化粧料におけるケラチン繊維に対する付着性を評価する簡便な方法を提供する。
【解決手段】樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性を評価する方法であって、前記樹脂を含む組成物と、ケラチン繊維と、の第1の界面せん断強度(T1)と、前記樹脂を含む組成物と、ナイロン繊維と、の第2の界面せん断強度(T2)と、をマイクロドロップレット法によりそれぞれ測定する測定工程と、測定された前記第1の界面せん断強度(T1)と、前記第2の界面せん断強度(T2)と、を比較する比較工程と、を含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性を評価する方法であって、
前記樹脂を含む組成物およびケラチン繊維の第1の界面せん断強度(T1)と、
前記樹脂を含む組成物およびナイロン繊維の第2の界面せん断強度(T2)と、をマイクロドロップレット法によりそれぞれ測定する測定工程;ならびに
前記第1の界面せん断強度(T1)と、前記第2の界面せん断強度(T2)と、を比較する比較工程を含む方法。
【請求項2】
前記比較工程では、前記第2の界面せん断強度(T2)に対する前記第1の界面せん断強度(T1)の比率(T1/T2)を算出することにより比較を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物がワックスをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物における前記ワックスの含有量に対する前記樹脂の含有量の質量比率(樹脂の含有量/ワックスの含有量)が0.5~3である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ワックスの融点が65℃~100℃である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記樹脂は、イソドデカン100gに対して100℃で20g以上溶解する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)が-30℃~100℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記ケラチン繊維が、睫毛、毛髪、および眉毛からなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記測定工程の前に、前記樹脂を含む混合物を加熱し、均一に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた液を冷却して溶液を得る冷却工程と、を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が揮発性油剤をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記測定工程の前に、前記溶液を用いて、前記ケラチン繊維および前記ナイロン繊維上にマイクロドロップレット前駆体を形成し、前記マイクロドロップレット前駆体を乾燥させることで、前記ケラチン繊維および前記ナイロン繊維上にマイクロドロップレットを形成する形成工程と、を有する請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスカラやヘアマスカラは、睫毛や毛髪等のケラチン繊維に塗布して用いる化粧料である。これらの化粧料には、様々な性能の向上がユーザーより求められており、例えば、カール効果、ボリューム効果、耐久・耐水性効果等が性能向上の要望が多いものとして挙げられる。こういった性能を発揮するために、マスカラ等の化粧料には、樹脂が配合されている。上述したユーザーからの種々の要望に答えるため、化粧品メーカーをはじめとした各社から様々な提案がなされ、日々マスカラ等の化粧品の性能向上が図られている。
【0003】
こういったマスカラ、ヘアマスカラなどの化粧料が有する性能を発揮するためには、睫毛や毛髪にこれらの化粧料が適度に付着することを要する。この付着性に対する評価は、主に専門評価者が実際に使用することで評価を行う、いわゆる官能評価により行われてきた。こういった官能評価は、評価者の選定によっては評価者間でばらつきが生じる場合があった。
【0004】
このため、例えば、特許文献1では、撮像装置により撮像された睫毛の画像に基づき、マスカラを塗布する前の睫毛状態を定量的に測定し、また、同様にマスカラを使用した後の睫毛状態を定量的に測定し、前後の状態を比較することでマスカラの使用性を評価する、評価方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-199932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の手法では、睫毛に実際に化粧料を塗布する必要があり、簡便な手法ではなかった。
【0007】
本発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、マスカラ等の化粧料におけるケラチン繊維に対する付着性を評価する簡便な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、マイクロドロップレット法により、樹脂を含む組成物と、ケラチン繊維およびナイロン繊維と、の界面せん断強度をそれぞれ測定し、比較する方法により上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明の一形態は、
1.樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性を評価する方法であって、前記樹脂を含む組成物およびケラチン繊維の第1の界面せん断強度(T1)と、前記樹脂を含む組成物およびナイロン繊維の第2の界面せん断強度(T2)と、をマイクロドロップレット法によりそれぞれ測定する測定工程;ならびに前記第1の界面せん断強度(T1)と、前記第2の界面せん断強度(T2)と、を比較する比較工程を含む方法である。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明に係る方法は、以下の構成を有していてもよい。
【0011】
2.前記比較工程では、前記第2の界面せん断強度(T2)に対する前記第1の界面せん断強度(T1)の比率(T1/T2)を算出することにより比較を行う、1.に記載の方法。
【0012】
3.前記組成物がワックスをさらに含む、1.または2.に記載の方法。
【0013】
4.前記組成物における前記ワックスの含有量に対する前記樹脂の含有量の質量比率(樹脂の含有量/ワックスの含有量)が0.5~3である、3.記載の方法。
【0014】
5.前記ワックスの融点が65℃~100℃である、3.または4.記載の方法。
【0015】
6.前記樹脂は、イソドデカン100gに対して100℃で20g以上溶解する、1.~5.のいずれか一に記載の方法。
【0016】
7.前記樹脂のガラス転移温度(Tg)が-30℃~100℃である、1.~6.のいずれか一に記載の方法。
【0017】
8.前記ケラチン繊維が、睫毛、毛髪、および眉毛からなる群から選択される1種以上である、1.~7.のいずれか一に記載の方法。
【0018】
9.前記測定工程の前に、前記樹脂を含む混合物を加熱し、均一に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得られた液を冷却して溶液を得る冷却工程と、を有する、1.~8.のいずれか一に記載の方法。
【0019】
10.前記混合物が揮発性油剤をさらに含む、9.に記載の方法。
【0020】
11.前記測定工程の前に、前記溶液を用いて、前記ケラチン繊維および前記ナイロン繊維上にマイクロドロップレット前駆体を形成し、前記マイクロドロップレット前駆体を乾燥させることで、前記ケラチン繊維および前記ナイロン繊維上にマイクロドロップレットを形成する形成工程と、を有する9.または10.に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便にマスカラ等の化粧料に配合されうる樹脂を含む組成物のケラチン繊維への接着性を評価することができ、それにより、当該樹脂を用いたマスカラ等の化粧料におけるケラチン繊維に対する付着性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)および図1(b)は、マイクロドロップレット法を説明するための図である。
図2図2は、参考例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0024】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0025】
本発明の一形態は、樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性を評価する方法(以下、単に「評価方法」とも称する)である。当該方法は、樹脂を含む組成物(以下、「樹脂組成物」とも称する)およびケラチン繊維の第1の界面せん断強度(T1)と、樹脂を含む組成物およびナイロン繊維の第2の界面せん断強度(T2)と、をマイクロドロップレット法によりそれぞれ測定する測定工程と、第1の界面せん断強度(T1)と、第2の界面せん断強度(T2)と、を比較する比較工程と、を有する。
【0026】
マスカラ等の化粧料は、ナイロン繊維からなるブラシ等を有する塗布具を用いてケラチン繊維に化粧料を塗布する。すなわち、一旦ブラシ等の繊維に化粧料を付着させた後に、当該化粧料が付着したブラシ等を用いて、化粧対象物である睫毛等のケラチン繊維に化粧料を塗布する、という使用方法上の特性がある。本発明者らは、上記の本願の課題を検討する中で、マスカラ等の使用方法の特性を鑑み、単に化粧対象物への付着性を評価するのみでは、マスカラ等の化粧料の評価方法として不十分である、という新たな課題を見出した。そして、本発明者らは、評価方法として十分なものとするためには、マスカラ等の化粧料について塗布具であるブラシ等から睫毛等のケラチン繊維への塗布のしやすさ(移り性)を評価する必要があると考えた。
【0027】
本発明者らによる鋭意検討の結果、化粧料に用いられる樹脂を含む組成物と、ケラチン繊維およびナイロン繊維と、の界面せん断強度を、マイクロドロップレット法によりそれぞれ測定し比較する、という本発明の一形態に係る方法により、上述した課題が解決されることが見出された。当該方法による測定の結果、例えば、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との界面せん断強度が、ナイロン繊維との界面せん断強度よりも高い場合は、当該樹脂を含む組成物はナイロン繊維よりもケラチン繊維への接着性が高いといえる。一方で、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との界面せん断強度が、ナイロン繊維との界面せん断強度よりも低い場合は、当該樹脂を含む組成物はナイロン繊維よりもケラチン繊維への接着性が低いといえる。
【0028】
そして、界面せん断強度に基づく接着性の比較の結果から、当該組成物に含まれる樹脂を使用したマスカラ等の化粧料において、ナイロン繊維からケラチン繊維への移り性を簡便に評価することも可能となる。例えば、樹脂組成物のケラチン繊維に対する接着性がナイロン繊維に対するものよりも高いという評価結果が得られた場合、当該樹脂組成物に含まれる樹脂を使用したマスカラ等の付着性はブラシ等よりも睫毛等に対して高く、ゆえにブラシ等から睫毛等への移り性がよいという評価が可能となる。一方で、樹脂組成物のケラチン繊維に対する接着性がナイロン繊維に対するものよりも低いという評価結果が得られた場合、当該樹脂組成物に含まれる樹脂を使用したマスカラ等の睫毛等への付着性はブラシ等への付着性よりも低く、ゆえにブラシ等から睫毛等への移り性が悪いとの結果となる。上述したように、本発明の一形態の評価方法によれば、測定した樹脂組成物に含まれる樹脂をマスカラ等に用いた場合の付着性や移り性を簡便に評価することができるため、例えば、マスカラ等に用いる樹脂を選定する際のスクリーニングなどに用いることができる。
【0029】
また、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との界面せん断強度のみを測定して評価した場合、樹脂に固有のタック性(べたつき)の影響を除くことが難しい。樹脂のケラチン繊維への付着性を評価する際に、同一組成を有する組成物を用いて第1の界面せん断強度(T1)と第2の界面せん断強度(T2)とを比較することで、樹脂に固有のタック性(べたつき)の影響を除くことができる。ここで、好適に組成物に含まれうるワックスは基本的にはタック性を有していないまたは、タック性が少ない。これにより、樹脂を含む組成物のケラチン繊維への接着性をより正確に比較し、評価することができる。
【0030】
[接着性の評価方法]
以下、本発明の一形態である、樹脂を含む組成物の繊維に対する接着性を評価する方法の各工程を説明する。一形態である評価方法は、測定工程と、比較工程と、を含む。
【0031】
[溶解工程、冷却工程、および形成工程]
本発明の一実施形態に係る方法は、測定工程の前の準備工程として、溶解工程、冷却工程、および形成工程を有していてもよい。以下に各工程について、工程の順番に沿って説明する。
【0032】
〈溶解工程〉
溶解工程は、樹脂、および場合によりワックスおよび/または揮発性油剤を含む混合物を加熱し、均一に溶解させる工程である。当該工程を有することにより、各成分がマイクロドロップレット法で形成されるマイクロドロップレット中に均一に存在することとなるため、測定の結果がより正確なものとなる。繊維に対する接着性に影響を与えうる他の因子の影響を極力排除するため、混合物は、樹脂、ワックスおよび揮発性油剤からなる混合物であってもよい。
【0033】
溶解工程において溶解する樹脂を含む混合物中の各成分や各成分の質量比は、下記に記載するものを適宜採用することができる。溶解工程における加熱温度は、当該混合物中の各成分が溶解する温度で、かつ揮発性油剤が揮発しない温度であれば特に制限されないが、70℃~100℃であることが好ましい。当該範囲にあることで、加熱による樹脂の焦げ付きや揮発性油剤の過剰な蒸発を防ぎながら、各成分を十分に溶解させることができる。
【0034】
(樹脂)
樹脂はマスカラ等の化粧料において被膜を形成するものである。
【0035】
樹脂は、マスカラ等の化粧料に通常使用されるものであれば特に制限されず、テルペン系樹脂、シリコーン系樹脂、炭化水素系樹脂、ロジン酸系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、キャンデリラ樹脂等の種々の樹脂を用いることができる。
【0036】
中でも、マイクロドロップレット法におけるマイクロドロップレットの形成の容易性という観点から、揮発性油剤等の油剤に可溶なものであることが好ましい。例えば、樹脂は、揮発性油剤であるイソドデカン100gに対して100℃で、20g以上溶解するものであることが好ましく、30g以上溶解するものであることがより好ましく、40g以上溶解するものであることがさらに好ましい。イソドデカン100gに対して100℃で溶解する樹脂の質量の上限は特に制限されないが、300g以下であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の一形態の評価方法に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-30℃以上であることが好ましく、-15℃以上であることがより好ましく、0℃以上であることがさらに好ましい。また、本発明の一形態の評価方法に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の一形態の評価方法に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-30℃~100℃であることが好ましく、-15℃~95℃であることがより好ましく、0℃~90℃であることがさらに好ましい。組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度が上記の範囲内にあることにより、繊維上にマイクロドロップレットが形成しやすく、さらに当該組成物の接着性の評価をより正確に行うことができる。
【0038】
ガラス転移温度(Tg)とは、樹脂のガラス転移温度を意味し、下記式1に示したFoxの式より求め、摂氏換算することができる。
【0039】
【数1】
【0040】
前記式中、Tgは求める樹脂のガラス転移温度(K)を示し、Wiは、各モノマーの質量分率を示し、Tgiは対応するモノマーの単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。単独重合体のTgは、「POLYMER HANDBOOK」(第4版;John Wiley & Sons,Inc.発行)等の刊行物に記載されている数値を採用すればよい。
【0041】
本発明の一形態の評価方法に供される組成物に含まれる樹脂の具体例としては、トリメチルシロキシケイ酸、ポリメチルシルセスキオキサン、アクリル-シリコーングラフト共重合体等のシリコーン系樹脂、水添ロジン酸ペンタエリスリチル、ロジン酸ペンタエリスリチル、ロジン酸グリセリル等のロジン酸系樹脂、(アクリル酸ラウリル/酢酸ビニル)コポリマー、(アクリル酸ステアリル/酢酸ビニル)コポリマー、(アクリル酸ベヘニル/酢酸ビニル)コポリマー、(スチレン/アクリレーツ)コポリマー等の酢酸ビニル系樹脂およびアクリル系樹脂のコポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂、キャンデリラ樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、混合物に含まれる他の成分となじみやすく、均一に溶解することが容易であり、さらにマイクロドロップレットを繊維上に形成しやすいという観点から、ロジン酸系樹脂、シリコーン系樹脂、ならびに酢酸ビニル系樹脂およびアクリル系樹脂のコポリマーからなる群から選択される1以上であることが好ましく、水添ロジン酸ペンタエリスリチル、トリメチルシロキシケイ酸、および(アクリル酸ステアリル/酢酸ビニル)コポリマーからなる群から選択される1以上であることがより好ましい。これらの樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
また、樹脂を含む組成物の全質量(固形分)に対する樹脂の含有量の割合(樹脂の含有量/樹脂を含む組成物の全質量(固形分)×100(質量%))は、繊維への接着性に対する樹脂の影響を正確に評価する観点から、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂を含む組成物の全質量(固形分)に対する樹脂の含有量の割合は、マイクロドロップレットを形成する際の容易性の観点から、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、樹脂を含む組成物の全質量(固形分)に対する樹脂の含有量の割合は、25質量%~80質量%であることが好ましく、30質量%~70質量%であることがより好ましく、40質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
(ワックス)
本実施形態ではマイクロドロップレット法を用いるが、樹脂単体では繊維上にマイクロドロップレットを形成できない場合がある。具体的には、化粧料に用いられる樹脂は柔軟性を有するために、マイクロドロップレットを形成するための硬度が足りない場合がある。このため、マイクロドロップレットを形成するために、樹脂組成物には、樹脂の他、ワックスを含むことが好ましい。樹脂を含む組成物がワックスを含むことにより、組成物の硬さがマイクロドロップレットの形成に適したものとなる。
【0044】
ワックスの種類は、特に制限されず、ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス等の種々のワックスを用いることができる。これらのワックスは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。中でも、ケラチン繊維およびナイロン繊維との化学的な相互作用が少なく、マイクロドロップレット法により測定する界面せん断強度への影響が少ないという観点から、ワックスはカルナウバロウであることが好ましい。
【0045】
ワックスの融点は、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、75℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。また、ワックスの融点は、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。すなわち、ワックスの融点は、65℃~100℃であることが好ましく、70℃~95℃であることがより好ましく、75℃~90℃であることがさらに好ましく、80℃~90℃であることが特に好ましい。ワックスの融点が上記の範囲にあることにより、マイクロドロップレットの硬度が、マイクロドロップレット法による測定により適したものとなる。
【0046】
樹脂を含む組成物の全質量(固形分)に対するワックスの含有量の割合(ワックスの含有量/組成物の全質量(固形分)(質量%))は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。当該割合が上記の範囲にあることにより、樹脂を含む組成物のマイクロドロップレットが、マイクロドロップレット法による測定により適した硬度となる。また、樹脂を含む組成物の全質量(固形分)に対するワックスの含有量の割合は、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。当該割合が上記の範囲にあることにより、組成物の接着性に対する樹脂の影響を正確に評価することができる。すなわち、樹脂を含む組成物の全質量に対するワックスの含有量の割合は、20質量%~75質量%であることが好ましく、30質量%~70質量%であることがより好ましく、40質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
また、樹脂を含む組成物におけるワックスの含有量に対する樹脂の含有量の質量比率(樹脂の含有量/ワックスの含有量)は、0.5以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。当該質量比率が上記の範囲内にあることにより、繊維に対する樹脂の接着性の影響を正確に評価することができる。また、樹脂を含む組成物におけるワックスの含有量に対する樹脂の含有量の質量比率は、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。当該質量比率が上記の範囲内にあることにより、樹脂を含む組成物のマイクロドロップレットが、マイクロドロップレット法による測定により適した硬度となる。すなわち、樹脂を含む組成物におけるワックスの含有量に対する樹脂の含有量の質量比率は、0.5~3であることが好ましく、0.75~2であることがより好ましく、0.75~1.5であることがさらに好ましい。
【0048】
(揮発性油剤)
混合物は、揮発性油剤をさらに含んでもよい。揮発性油剤とは、常圧における沸点が260℃以下の、常温(25℃)で流動性を有する液状の油分を意味する。混合物が揮発性油剤を含むことにより、樹脂を容易に溶解することが可能となり、それによりマイクロドロップレットをより容易に形成することができる。
【0049】
揮発性油剤の種類は、特に制限されないが、例えば炭化水素油、およびシリコーン油(形状はいずれでもよく、例えば、環状、直鎖状、または分岐鎖状)を用いることができる。炭化水素油としては、特に限定されないが、軽質イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカン等を挙げることができる。中でも、揮発性炭化水素油としては、乾燥速度の観点から、イソドデカンが好適に用いられる。また、揮発性シリコーン油としては、特に制限されないが、ジメチルポリシロキサン、メチルトリメチコン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等を挙げることができる。揮発性シリコーン油としては、沸点が200℃未満のものが乾燥速度の点で好ましく、例えばメチルトリメチコン、ジメチコンが好適に用いられる。なお、これらの揮発性油剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
樹脂を含む混合物の全質量に対する揮発性油剤の含有量の割合(揮発性油剤の含有量/混合物の全質量×100(質量%))は、5質量%~60質量%であることが好ましく、10質量%~50質量%であることがより好ましく、25質量%~40質量%であることがさらに好ましい。上記の範囲にあることにより、組成物に含まれる樹脂を容易に溶解することが可能となり、それにより、樹脂を含む組成物のマイクロドロップレットの形成がより容易となる。
【0051】
樹脂を含む混合物における揮発性油剤の含有量に対する樹脂の含有量の質量比率(樹脂の含有量/揮発性油剤の含有量)は、0.5~3であることが好ましく、0.5~2であることがより好ましく、0.75~1.5であることがさらに好ましい。上記の範囲にあることにより、樹脂を含む組成物のマイクロドロップレットの形成がより容易なものとなる。
【0052】
〈冷却工程〉
冷却工程は、上述した溶解工程で作製した液を冷却して溶液を得る工程である。当該工程を有することにより、溶解工程で溶解させた液の粘着性が上がり、繊維に付着しやすくなるため、所望の大きさのマイクロドロップレットを形成しやすくなる。
【0053】
冷却工程においては、溶解工程で作製した液を55~80℃まで冷却することが好ましい。当該温度まで冷却することにより、溶液が固化することを防ぎながらも、溶液の粘着性が上昇し、繊維により付着しやすくなり、所望の大きさのマイクロドロップレットをより容易に形成できる。また、冷却工程では、溶液を攪拌しながら冷却することが好ましい。これにより、溶液が部分的に固化することをより防ぐことができる。
【0054】
〈形成工程〉
形成工程は、測定工程の前に、溶解工程および冷却工程にて作製した溶液を用いて、ケラチン繊維およびナイロン繊維上に各々マイクロドロップレット前駆体を形成し、マイクロドロップレット前駆体を乾燥させることで、ケラチン繊維およびナイロン繊維上にマイクロドロップレットを形成する工程である。当該工程を有することにより、マイクロドロップレット法による界面せん断強度の測定がより正確なものとなり、本発明の評価方法による評価結果の精度もより向上する。
【0055】
繊維にマイクロドロップレット前駆体を形成する方法は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。例えば、溶解工程で作製し、冷却工程を経た溶液に繊維を浸し、浸した直後に当該繊維を溶液から取り出すことにより、マイクロドロップレット前駆体を繊維上に形成することができる。
【0056】
また、ケラチン繊維およびナイロン繊維上にマイクロドロップレットを形成するためにマイクロドロップレット前駆体を乾燥させる方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、マイクロドロップレット前駆体が形成された繊維を、冷凍機付きインキュベーター(MIR-254-PJ、PANASONIC社製)の中に、30℃~40℃の温度で、1時間~24時間放置することで乾燥させることができる。
【0057】
[測定工程]
測定工程は、樹脂を含む組成物およびケラチン繊維の第1の界面せん断強度(T1)と、樹脂を含む組成物およびナイロン繊維の第2の界面せん断強度(T2)と、をマイクロドロップレット法によりそれぞれ測定する工程である。具体的には、例えば、上記形成工程で得られたマイクロドロップレットを用いて各繊維との界面せん断強度を測定することができる。
【0058】
(マイクロドロップレット法)
本発明の一形態である評価方法は、マイクロドロップレット法により、樹脂を含む組成物と、繊維と、の界面せん断強度を測定する。ここで、マイクロドロップレット法により測定される、樹脂を含む組成物と、繊維と、の界面せん断強度は、樹脂を含む組成物と、繊維と、の接着性の指標となる。例えば、界面せん断強度が低いと繊維と樹脂を含む組成物の接着性が低く、逆に界面せん断強度が高いと繊維と樹脂を含む組成物の接着性が高いという評価となる。
【0059】
マイクロドロップレット法による第1の界面せん断強度(T1)および第2の界面せん断強度(T2)の測定は、公知の方法で行うことができるが、当該方法の一例について図1を用いて説明する。
【0060】
図1(a)はマイクロドロップレット法による測定前の状態を模式的に示しており、図1(b)は測定中の状態を模式的に示している。これら図では、矢印が、マイクロドロップレット1の形成された繊維2の移動方向(矢印方向f)を示している。当該繊維2の移動方向の途中には、当該繊維2の移動を許容するが、マイクロドロップレット1の移動を阻止するブレード3が配置され、固定されている。図1(a)に示す測定前の状態から、図1(b)に示すように、繊維2を所定の引き抜き速度で矢印方向fへ引き抜くことで、当該ブレード3によりマイクロドロップレット1を繊維2から剥離させ、この際に作用する荷重(F:最大引き抜き荷重(mN))を測定する。続いて、この値を、図1(a)に示す、測定前におけるマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径L(μm)と、繊維の直径(繊維径)d(μm)と、円周率πとの積(すなわち、繊維とマイクロドロップレットとの接触面積)で除することで、界面せん断強度(τ(Mpa))を得ることができる(下記の式2を参照)。
【0061】
【数2】
【0062】
(式中、τは界面せん断強度 (Mpa)、Fは最大引き抜き荷重(N)、dは繊維径(mm)、Lはマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径(mm)を表す。)
上記の操作を、ケラチン繊維と、ナイロン繊維と、についてそれぞれ実施することにより第1の界面せん断強度(T1)および第2の界面せん断強度(T2)を測定する。なお、第1の界面せん断強度(T1)は、ケラチン繊維上に形成された複数のマイクロドロップレットについて界面せん断強度(τ)を測定し、それら複数のマイクロドロップレットについての界面せん断強度(τ)の平均値とすることができる。同様に、第2の界面せん断強度(T2)も、ナイロン繊維上に形成された複数のマイクロドロップレットについて界面せん断強度(τ)を測定し、それら複数のマイクロドロップレットについての界面せん断強度(τ)の平均値とすることができる。ここで、第1の界面せん断強度(T1)および第2の界面せん断強度(T2)の算出に用いられる複数のマイクロドロップレットは、特に制限されないが、2~10個であることが好ましい。また、マイクロドロップレット法による界面せん断強度の測定は、例えば、東栄産業株式会社製の複合材料界面特性評価装置HM-410型で測定することができる。なお、複数のマイクロドロップレットについて界面せん断強度(τ)を測定する場合、当該複数のマイクロドロップレットは1つの繊維上に形成されたものであってもよいし、複数の繊維上に形成されたものであってもよい。
【0063】
(マイクロドロップレットの粒子径L)
マイクロドロップレット法による測定に用いるマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径Lは、特に制限されないが、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。また、当該粒子径Lは、特に制限されないが、2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましく、1100μm以下であることがさらに好ましい。すなわち、マイクロドロップレット法による測定に用いるマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径Lは、特に制限されないが、100μm~2000μmであることが好ましく、200μm~1500μmであることがより好ましく、300μm~1100μmであることがさらに好ましい。当該粒子径Lが上記の範囲にあることにより、マイクロドロップレット法による界面せん断強度の測定がより正確なものとなる。なお、マイクロドロップレットの粒子径Lは、複合材料界面特性評価装置を用いて界面せん断強度を測定する際に併せて測定することができる。
【0064】
(繊維径d)
マイクロドロップレット法による測定に用いるケラチン繊維およびナイロン繊維の直径(繊維径d)は、特に制限されないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、当該繊維の直径(繊維径d)は、特に制限されないが、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。すなわち、マイクロドロップレット法による測定に用いる繊維の直径(繊維径d)は、特に制限されないが、10μm~300μmであることが好ましく、20μm~200μmであることがより好ましく、50μm~150μmであることがさらに好ましい。繊維径dが上記の範囲にあることにより、マイクロドロップレット法による界面せん断強度の測定がより正確なものとなる。また、繊維径dが上記の範囲にあることにより、睫毛や髪の毛と同等の繊維径について、樹脂を含む組成物の接着性を評価することができる。なお、繊維の直径(繊維径d)は、複合材料界面特性評価装置を用いて界面せん断強度を測定する際に併せて測定することができる。
【0065】
(繊維径dに対するマイクロドロップレットの粒子径Lの比率)
マイクロドロップレット法による測定に用いる繊維の直径(繊維径)d(μm)に対するマイクロドロップレットの粒子径L(μm)の比率(L/d)は、特に制限されないが、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。また、当該比率は、20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、9以下であることがさらに好ましい。すなわち、当該比率は、2~20であることが好ましく、3~12であることがより好ましく、3~9であることがさらに好ましい。当該比率が上記の範囲にあることにより、繊維に対するマイクロドロップレットの大きさが測定に適した大きさとなり、マイクロドロップレット法による界面せん断強度の測定がより正確なものとなる。
【0066】
(引き抜き速度)
マイクロドロップレット法において、繊維を引き抜く際の引き抜き速度は、特に制限されないが、マイクロドロップレット法による評価の効率の観点から、0.05mm/min以上であることが好ましく、0.07mm/min以上であることがより好ましく、0.08mm/min以上であることがさらに好ましく、0.1mm/min以上であることが特に好ましい。また。当該引き抜き速度は、特に制限されないが、マイクロドロップレットがプレードと衝突する際に発生する速度エネルギーが評価結果に与える影響を避けるという観点から、7.0mm/min以下であることが好ましく、6.0mm/min以下であることがより好ましく、2.5mm/min以下であることがさらに好ましく、0.15mm/min以下であることが特に好ましい。
【0067】
すなわち、マイクロドロップレット法において、繊維を引き抜く際の引き抜き速度は、特に制限されないが、0.05mm/min~7.0mm/minであることが好ましく、0.07mm/min~6.0mm/minであることがより好ましく、0.08mm/min~2.5mm/minであることがさらに好ましく、0.1mm/min~0.15mm/minであることが特に好ましい。
【0068】
(繊維)
本発明の一形態の評価方法により、樹脂を含む組成物との接着性が評価される繊維は、ケラチン繊維と、ナイロン繊維と、である。本明細書においては、ケラチン繊維と、ナイロン繊維と、を併せて単に「繊維」と呼ぶ場合もある。
【0069】
(ケラチン繊維)
ケラチン繊維とは、ケラチンを主成分とする繊維を意味する。具体的には、例えば、哺乳動物の体毛を指し、より具体的には睫毛、毛髪、眉毛、髭等を表す。これらの中でも、ケラチン繊維は、睫毛、毛髪、および眉毛からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。本発明において「毛髪」とは、頭髪を意味する。ここで、ケラチン繊維は、繊維全体に占めるケラチンの割合が、50質量%~100質量%であることが好ましく、55質量%~90質量%であることがより好ましく、60質量%~80質量%であることがさらに好ましい。
【0070】
(ナイロン繊維)
ナイロン繊維とは、ナイロンを主成分とする繊維を意味する。ここで、ナイロンを「主成分」とする繊維とは、繊維全体に占めるナイロンの割合が、80質量%~100質量%であり、好ましくは85質量%~100質量%であり、より好ましくは90質量%~100質量%であり、さらに好ましくは95質量%~100質量%であり、特に好ましくは実質的に100質量%であるものを指す。ナイロン繊維は、マスカラ等の化粧料を、化粧対象である睫毛等に塗布するための塗布具(例えば、ブラシ等)に一般的に用いられている繊維である。
【0071】
[比較工程]
比較工程は、測定工程で測定した第2の界面せん断強度(T2)に対する第1の界面せん断強度(T1)の比率(T1/T2)を算出することにより比較を行う工程である。
【0072】
例えば、当該比率が1を超える場合、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との界面せん断強度が、当該組成物とナイロン繊維との界面せん断強度よりも高いという結果になる。この結果は、当該樹脂を含む組成物の接着性が、ナイロン繊維よりもケラチン繊維に対して高いことを意味する。一方で、例えば、当該比率が1以下である場合は、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との界面せん断強度が、当該組成物とナイロン繊維との界面せん断強度と等しい、または当該組成物とナイロン繊維との界面せん断強度よりも低いという結果になる。当該結果は、当該樹脂を含む組成物の接着性が、ナイロン繊維よりもケラチン繊維に対して同等である、または低いことを意味する。
【0073】
これらの結果から、例えば、当該比率が1を超える組成物に含まれる樹脂を用いたマスカラ等の化粧料の付着性はブラシ等よりも睫毛等に対して高く、ゆえにブラシ等の塗布具から睫毛等のケラチン繊維へ塗布した際の移り性に優れるという評価が可能となる。逆に当該比率が1以下である組成物に含まれる樹脂を用いたマスカラ等の化粧料の睫毛等への付着性は、ブラシ等への付着性よりも低く、ゆえにブラシ等から睫毛等への移り性に優れないと評価ができる。よって、本発明の一形態に係る方法は、マスカラ等の化粧料に用いるのに適した樹脂や当該樹脂を含む組成物をスクリーニングする際に好適に用いることができる。
【0074】
また、樹脂を含む組成物とケラチン繊維との接着性と、樹脂を含む組成物とナイロン繊維を比較し評価する際に、第1の界面せん断強度(T1)を第2の界面せん断強度(T2)で除した比率(T1/T2)を用いることで、組成物に含まれる樹脂に固有のタック性(べたつき)の影響を除くことができる。これにより、樹脂を含む組成物と各繊維との接着性をより正確に比較し、評価することができる。
【0075】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0077】
[実施例1]
(マイクロドロップレットの形成)
樹脂としての(アクリル酸ステアリル/酢酸ビニル)コポリマー(ガラス転移温度(Tg)35℃) 5質量部と、ワックスとしてのカルナウバロウ(マチャードケミカル社製、商品名:カルナウバワックス) 5質量部と、揮発性油剤としてのイソドデカン(IMCD社製、商品名:ISODODECANE) 5質量部と、をガラス容器中で90℃にて混合し、樹脂およびワックスを揮発性油剤に十分に溶解させ、実施例1の樹脂を含む組成物(樹脂を含む混合物)の溶液を得た。
【0078】
続いて、攪拌しながら、当該組成物の溶液を65℃まで冷却した。当該溶液にケラチン繊維としての毛髪(カラー/ブリーチ等のない20~50代女性の健常毛、直径70~140μm)、ナイロン繊維(東レ社製、将鱗(登録商標)SUPER 50m、0.3号(標準直径0.09mm))を浸し、浸した直後に取り出すことで、各繊維上にマイクロドロップレット前駆体を形成した。続いて、マイクロドロップレット前駆体が形成された各繊維を、冷凍機付きインキュベーター「MIR-254-PJ」(PANASONIC社製)中に、35℃で、24時間放置することで、マイクロドロップレット前駆体を乾燥させ、当該前駆体をマイクロドロップレットとした。これにより、マイクロドロップレット法による測定に用いるための、実施例1の各サンプル(マイクロドロップレットが形成された繊維)を得た。なお、測定には、粒子径Lが300~1100μmであり、繊維径dに対するマイクロドロップレットの粒子径Lの比率(L/d)が3~12であるマイクロドロップレットを選択した。
【0079】
[実施例2]
樹脂としての水添ロジン酸ペンタエリスリチル(荒川化学工業社製、商品名:エステルガムHP、ガラス転移温度(Tg)80℃)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の各サンプルを得た。
【0080】
[実施例3]
樹脂としてのトリメチルシロキシケイ酸(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名SR1000、ガラス転移温度(Tg)80℃)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の各サンプルを得た。
【0081】
(マイクロドロップレット法による測定)
マイクロドロップレット法により、実施例1~3で作製した各サンプルについて界面せん断強度(τ)を求めた。測定は複合材料界面特性評価装置(MODEL HM410、東栄産業株式会社製)を使用し、0.12mm/分の速度で走行させ、マイクロドロップレットが付着した繊維(各サンプル)から、当該マイクロドロップレットを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。続いて、式2により、各サンプルにおける界面せん断強度τを算出した。結果を表1に示す。ここで、毛髪と各サンプルとの界面せん断強度をT1(第1の界面せん断強度)とし、ナイロン繊維と各サンプルとの界面せん断強度をT2(第2の界面せん断強度)とした。
【0082】
【数3】
【0083】
(式中、τは界面せん断強度 (Mpa)、Fは最大引き抜き荷重(N)、dは繊維径(mm)、Lはマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径(mm)を表す。)
続いて、第1の界面せん断強度(T1)を、第2の界面せん断強度(T2)で除した値(T1/T2)を算出した。結果を表1に示す。なお、実施例1の第1の界面せん断強度(T1)および第2の界面せん断強度(T2)はそれぞれ5つのマイクロドロップレットについて求めた界面せん断強度の平均値とした。同様に、実施例2の場合は、第1の界面せん断強度(T1)については4つ、第2の界面せん断強度(T2)については3つ、実施例3の場合は、第1の界面せん断強度(T1)および第2の界面せん断強度(T2)それぞれ3つのマイクロドロップレットについて求めた界面せん断強度の平均値とした。
【0084】
また、表1には、各マイクロドロップレットについて界面せん断強度を測定した際の、繊維径d(μm)、マイクロドロップレット(MD)の粒子径L(μm)、およびL/dの値も併せて示す。これらの値は、複合材料界面特性評価装置(MODEL HM410、東栄産業株式会社製)によって測定した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、第2の界面せん断強度(T2)に対する第1の界面せん断強度(T1)の比率(T1/T2)は、実施例2の値が最も高く、次いで実施例1が高く、実施例3が最も低いという結果となった。この結果から、ケラチン繊維への接着性について、実施例2の樹脂を含む組成物が最も高く、次いで実施例1が高く、実施例3が最も低いという評価が得られた。
【0087】
また、比率(T1/T2)が1を超える実施例2および1の樹脂を含む組成物は、当該組成物とケラチン繊維との接着性が、ナイロン繊維との接着性よりも高いという評価結果となった。これらの結果から、実施例2および実施例1の組成物に含まれる樹脂をマスカラ等の化粧料に用いた場合、化粧料の睫毛等への付着性は、ブラシ等の塗布具への付着性よりも高く、ゆえにブラシ等から睫毛等へ塗布した際の移り性も優れたものとなると予測できる。また、比率(T1/T2)の値が大きい実施例2の組成物に含まれる樹脂をマスカラ等の化粧料に用いた場合のほうが、実施例1の組成物に含まれる樹脂を用いた場合よりも、移り性が優れたものになると予測できる。
【0088】
一方、比率(T1/T2)が1以下である実施例3の樹脂を含む組成物は、当該組成物とケラチン繊維との接着性が、ナイロン繊維との接着性よりも低いという評価結果となった。これらの結果から、実施例3の組成物に含まれる樹脂をマスカラ等の化粧料に用いた場合、当該化粧料の睫毛等への付着性は、ブラシ等の塗布具への付着性よりも低く、ゆえにブラシ等から睫毛等へ塗布した際の移り性が、優れたものとならないことが予測できる。
【0089】
続いて、以下の参考例で、実施例1~3の組成物に含まれる樹脂を用いたマスカラを作製し、当該マスカラについて、ケラチン繊維への付着性、およびナイロン繊維からケラチン繊維への移り性を測定し、実施例1~3の結果との整合性を検証した。
【0090】
[参考例]
(参考例1)
樹脂としての(アクリル酸ステアリル/酢酸ビニル)コポリマー(ガラス転移温度(Tg)35℃) 20質量部と、ワックスとしてのカルナウバロウ(マチャードケミカル社製、商品名:カルナウバワックス) 20質量部と、揮発性油剤としてのイソドデカン(IMCD社製、商品名:ISODODECANE) 39質量部と、をガラス容器中で95℃にて混合し、溶液を得た。
【0091】
得られた溶液を25℃に冷却した後に、酸化鉄(チタン工業社製、商品名:名TAROX 合成酸化鉄 BL-100P) 5質量部と、タルク(松村産業社製、商品名:ハイフィラー K-5) 10質量部と、ジステアリルジモニウムヘクトライト(エレメンティス社製、商品名:BENTONE 38V) 5質量部と、炭酸プロピレン(BASFジャパン社製、商品名:PROPYLENE CARBONATE S) 1質量部と、を当該溶液に加え、十分に混合し、参考例1のペースト状マスカラ化粧料を得た。
【0092】
(参考例2)
樹脂として水添ロジン酸ペンタエリスリチル(荒川化学工業社製、商品名:エステルガムHP、ガラス転移温度(Tg)80℃)を使用した以外は参考例1と同様の方法で、参考例2のペースト状マスカラ化粧料を得た。
【0093】
(参考例3)
樹脂としてトリメチルシロキシケイ酸(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名:SR1000、ガラス転移温度(Tg)80℃)を使用した以外は参考例1と同様の方法で、参考例3のペースト状マスカラ化粧料を得た。
【0094】
上記で作製した参考例1~3のペースト状マスカラ化粧料を、塗布具付きマスカラ容器に充填した。当該容器の塗布具はナイロン繊維からなるブラシを有する。
【0095】
続いて、参考例1~3のペースト状マスカラ化粧料を充填した塗布具付きマスカラ容器を用いて、長さ(平均値)0.8cmに整えた100%人毛からなる付け睫毛への塗布試験をそれぞれ実施した。塗布試験は以下の手法に従い実施した。
【0096】
まず、人毛付け睫毛を、テクスチャーアナライザー(TA、英弘精機社製、商品名:TA.XT plus)上の治具に固定した。続いて、上記で準備したペースト状マスカラ化粧料を充填した塗布具付きマスカラ容器をTA上に固定し、テクスチャーアナライザーを用いて人毛付け睫毛を上から下に向かって移動させることにより、マスカラ化粧料を、塗布具付きマスカラ容器のブラシから人毛付け睫毛へ塗布した。塗布の速度(下降速度)は2.0mm/秒とした。塗布は計3回実施し、2回目の塗布完了時、および3回目の塗布完了時に、人毛付け睫毛を治具から取り外し、計量を行い、人毛付け睫毛1mgに対するペースト状マスカラ化粧料の付着量を算出した。参考例1~3についてそれぞれ上記の塗布試験を実施した結果を図2に示す。
【0097】
図2に示すように、参考例2のマスカラ化粧料が最も人毛付け睫毛に付着しやすく、次いで参考例1のマスカラ化粧料が付着しやすく、参考例3のマスカラ化粧料が最も付着しにくいという結果になった。この結果は、実施例1~3の樹脂を含む組成物のケラチン繊維への接着性の結果と同様であることから、本願の一実施形態である方法に従えば、組成物に含まれる樹脂をマスカラ等に採用した場合のケラチン繊維に対する付着性を簡便に評価することが可能であることが示された。また上記の参考例1~3の結果は、実施例1~3で予測したナイロン繊維からケラチン繊維への移り性の優劣とも同等の結果であった。よって、本願の一実施形態である方法に従えば、組成物に含まれる樹脂をマスカラ等に採用した場合の塗布のしやすさ(移り性)につても簡便に評価できることが示された。
【符号の説明】
【0098】
1 マイクロドロップレット、
2 繊維、
3 ブレード、
L マイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径、
d 繊維径、
f 矢印(引き抜き方向)。
図1
図2